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特開2024-142412熱硬化性樹脂組成物及びカラーフィルター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142412
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物及びカラーフィルター
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/42 20060101AFI20241003BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08G59/42
G02B5/20 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054547
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】権田 淳二
【テーマコード(参考)】
2H148
4J036
【Fターム(参考)】
2H148BE38
2H148BF16
2H148BG02
2H148BH17
2H148BH21
4J036AK08
4J036DB17
4J036GA22
4J036HA12
4J036JA15
(57)【要約】
【課題】NMP耐性及び残留金属イオン性に優れた硬化膜を形成可能であり、且つ保存安定性が良好な熱硬化性樹脂組成物と、その硬化物からなる保護膜を用いたカラーフィルターを提供すること。
【解決手段】(A)成分:一分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能エポキシ樹脂と、(B)成分:式(1)又は式(2)で表される多価カルボン酸ヘミアセタールエステルと、(C)成分:熱酸発生剤を含み、前記(A)成分、及び前記(B)成分の合計100質量部に対して、前記(C)成分は0.05~10質量部であり、前記(A)成分のエポキシ基に対する前記(B)成分のカルボキシル基の官能基当量比が0.25~0.95の範囲である熱硬化性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:一分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能エポキシ樹脂と、
(B)成分:下記式(1)又は下記式(2)で表される多価カルボン酸ヘミアセタールエステルと、
(C)成分:熱酸発生剤を含み、
前記(A)成分、及び前記(B)成分の合計100質量部に対して、前記(C)成分は0.05~10質量部であり、
前記(A)成分のエポキシ基に対する前記(B)成分のカルボキシル基の官能基当量比が0.25~0.95の範囲であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【化1】
(式中、Rは、独立して、炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【化2】
(式中、Rは、独立して、炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる保護膜を有することを特徴とするカラーフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、及びこれを硬化させてなる保護膜を有するカラーフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
最近では液晶ディスプレイの表示性能に対する要求が厳しくなってきており、カラーフィルターに対しては輝度、色純度およびコントラストといった表示性能に加え、表示素子の画像が固定化する焼き付きと呼ばれる現象や表示ムラなどの信頼性に対する要求が益々高まってきている。特許文献1によれば、前記の焼き付きの発生にはフォトスペーサー形成工程において水酸化カリウムや炭酸ナトリウムなどの現像液中に含まれるNaイオンやKイオンが保護膜表面に残留してしまうことが影響しているとされている。このため、前記の保護膜には水酸化カリウムや炭酸ナトリウムなどの現像液に接触した場合でもNaイオンやKイオンの残留を抑制できる性能(以下、残留金属イオン性)が必要とされている。特許文献1においては、残留金属イオン性に優れるカラーフィルター保護膜用樹脂組成物として、エポキシ基又はオキセタニル基含有重合体、多価カルボン酸ヘミアセタールエステル、特定のエポキシ化合物、2官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂を組み合わせた組成が提案されている。
【0003】
さらに、前記の保護膜を形成するための塗工液に粘度変化(特に粘度上昇)が生じると、当該塗工膜を均一な膜厚で塗工することが困難となるため、保護膜用塗工液には、充分な保存安定性が求められる。通常、保護膜用塗工液は冷蔵保管(5℃程度)であり、自社での在庫保管や顧客での生産調整などを考慮すると、冷蔵保管(5℃程度)において180日以上は保存安定性に優れることが好ましい。特許文献2においては、保存安定性に優れるカラーフィルター保護膜用樹脂組成物として、エポキシ含有ポリマー、及び多価カルボン酸ヘミアセタールエステルを組み合わせた組成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-112451号公報
【特許文献2】特開2001-350010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、液晶表示装置で表示可能な色域の拡大を目的として、着色層に含まれる顔料の微細化や顔料濃度の増加が進んでいる。しかしながら、この影響により顔料が保護膜を通り抜けて液晶層に溶出し、表示不良を引き起こすことが問題となっている。この顔料成分の溶出は、保護膜の後工程である配向膜形成工程において、保護膜に浸透した配向膜の溶剤(N-メチル-2-ピロリドン、以下、NMP)を介して生じると考えられている。この工程では、保護膜とNMPが接触した状態で180℃程度の高温に曝されることがあるため、保護膜には高温下でもNMPの浸透を抑制できる性能(以下、NMP耐性)が求められている。尚、従来のカラーフィルター保護膜は25~40℃程度において溶剤の浸透を抑制できれば充分とされていたが、上述の顔料成分の溶出を抑制するためには従来よりも著しく高い温度での溶剤の浸透抑制が必要となる。本発明者らの検討によると、特許文献1~2に記載の組成物はNMP耐性と残留金属イオン性の両立が十分ではなかった。
【0006】
本発明は前記の従来技術に鑑みてなされたものであり、NMP耐性及び残留金属イオン性に優れた硬化膜を形成可能であり、且つ保存安定性が良好な熱硬化性樹脂組成物と、その硬化物からなる保護膜を用いたカラーフィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく種々の検討を行った結果、特定の多官能エポキシ樹脂、特定の多価カルボン酸ヘミアセタールエステル、及び熱酸発生剤を特定の比率範囲で組み合わせることにより、前記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は次の〔1〕及び〔2〕である。
【0008】
〔1〕
(A)成分:一分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能エポキシ樹脂と、
(B)成分:下記式(1)又は下記式(2)で表される多価カルボン酸ヘミアセタールエステルと、
(C)成分:熱酸発生剤を含み、
前記(A)成分、及び前記(B)成分の合計100質量部に対して、前記(C)成分は0.05~10質量部であり、
前記(A)成分のエポキシ基に対する前記(B)成分のカルボキシル基の官能基当量比が0.25~0.95の範囲であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【化1】
(式中、Rは、独立して、炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【化2】
(式中、Rは、独立して、炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【0009】
〔2〕
前記の〔1〕に記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる保護膜を有するカラーフィルター。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱硬化性樹脂組成物によれば、NMP耐性及び残留金属イオン性に優れたカラーフィルター保護膜を形成できる。また、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、保存安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、下記(A)成分、(B)成分、(C)成分を含む。
【0012】
<(A)成分>
(A)成分は、一分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能エポキシ樹脂であり、1分子中にエポキシ基を2個以上有する化合物であれば特に限定されず、公知の材料を用いることができる。このような化合物としては、エポキシ基含有重合体、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式型エポキシ樹脂及び複素環型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの多官能エポキシ樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、エポキシ基含有重合体を用いることが好ましい。多官能エポキシ樹脂として、エポキシ基含有重合体を用いると、充分な架橋構造が得られ、NMP耐性が向上する。また、(C)成分と併用した場合の保存安定性の観点から、グリシジルエーテル構造のエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0013】
(エポキシ基含有重合体)
エポキシ基含有重合体は、重合体主鎖を構成する炭化水素鎖に対し、エポキシ基が直接または他の基を介して間接的に結合した構造を有する重合体である。エポキシ基含有重合体は、(a1)炭素-炭素不飽和結合とエポキシ基を有するモノマーと、(a2)(a1)以外の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーとの両成分から誘導された構造からなる共重合体であることが好ましい。
【0014】
(a1)炭素-炭素不飽和結合とエポキシ基を有するモノマーは、炭素-炭素不飽和結合と、エポキシ基とを有していればよく、公知のいかなるモノマーも利用することができる。
【0015】
(a1)炭素-炭素不飽和結合とエポキシ基を有するモノマーとして、例えば下記式(3)~(5)で表されるモノマーがより好ましい例として挙げられる。
【化3】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、kは1~3の整数を示す。)
【0016】
【化4】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは-CHO-基又は-CH-基、Rは水素原子又は炭素数1~2のアルキル基、mは1~3の整数を示す。)
【0017】
【化5】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、nは1~3の整数を示す。)
【0018】
前記式(3)~(5)の中でも特に好ましくは、式(3)としてはRがメチル基、kが1のモノマーであり、式(4)としてはRが水素原子、Rが-CHO-基、Rが水素原子、mが1のモノマーであり、式(5)としてはRがメチル基、nが1のモノマーである。
【0019】
(a2)(a1)以外の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーは、炭素-炭素不飽和結合を有し、(a1)に該当しない化合物であればよく、公知のいかなるモノマーも利用することができる。(a2)成分のモノマーとして、好ましくは、下記式(6)~(9)で表されるモノマーが挙げられる。
【0020】
【化6】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数1~8のアルキル基、アリール基、又は主環構成炭素数3~12の脂環式炭化水素基を示す。)
【0021】
【化7】
(式中、R10は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基、R11は炭素数1~12のアルキル基、アルコキシ基、シロキシアルキル基、又は芳香族炭化水素基を示す。)
【0022】
【化8】
(式中、R12は水素原子又は炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~12の脂環式炭化水素基、又は芳香族炭化水素基を示す。)
【0023】
【化9】
(式中、R13は水素原子又はメチル基、R14は、独立して、メチル基又はエチル基、pは1~5の整数を示す。)
【0024】
前記式(6)~(9)の中でも特に好ましくは、式(6)としてはRが水素原子もしくはメチル基、Rが炭素数4のアルキル基もしくは主環構成炭素数6の脂環式炭化水素基のモノマーであり、式(7)としてはR10が水素原子、R11が6員環の芳香族炭化水素基のモノマーであり、式(8)としてはR12が6員環の脂環式炭化水素基のモノマーであり、式(9)としてはR13及びR14がメチル基、pが3のモノマーである。
【0025】
エポキシ基含有重合体は、(a1)成分と(a2)成分とを共重合することによって得ることができる。その重合態様としては直鎖状であっても分岐していてもよく、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれであってもよい。なお、(a1)成分又は(a2)成分の各成分として、モノマーを1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
(a1)成分と(a2)成分との重合方法は特に限定されず、ラジカル重合及びアニオン重合などのイオン重合等の種々の重合法を用いることができる。また、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法及び乳化重合法等の重合法を用いることができる。さらに、必要に応じて触媒や溶媒などの添加物を重合反応系に添加してもよい。
【0027】
(A)成分のエポキシ当量は好ましくは100~1000g/mol、より好ましくは100~600g/mol、さらに好ましくは100~300g/molである。エポキシ当量を前記の範囲内とすることで、充分な架橋構造が得られ、NMP耐性が向上する。
【0028】
(A)成分の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、例えば、3,000~100,000であり、好ましくは4,000~80,000であり、より好ましくは5,000~50,000であり、さらに好ましくは10,000~30,000である。
【0029】
<(B)成分>
(B)成分は、下記式(1)又は(2)で表される多価カルボン酸のカルボキシル基がビニルエーテル化合物によりヘミアセタールエステルとして潜在化、すなわちブロック化されたビニルエーテルブロック多価カルボン酸であり、以下の一般式(10)で表される反応によって得ることができる。
【化10】
(式中、Rは、独立して、炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【化11】
(式中、Rは、独立して、炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【化12】
(式中、R15は6員環の芳香族炭化水素基であり、R、Rは炭素数1~6のアルキル基、nは3~4の整数を示す。)
【0030】
多価カルボン酸としては、好ましくはトリメリット酸、ピロメリット酸が挙げられる。その中でも、保存安定性の観点からトリメリット酸が特に好ましい。多価カルボン酸は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
ビニルエーテル化合物のビニルの炭素を除いた炭素数(一般式(10)におけるR、Rにおける炭素数)は、1~6であり、好ましくは2~6である。ビニルエーテル化合物の具体例としては、例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、及びシクロヘキシルビニルエーテル等の脂肪族ビニルエーテル化合物が挙げられる。それらの中でも、入手が容易であり、硬化温度が保護膜のプロセスに適合する点から、n-プロピルビニルエーテル及びi-プロピルビニルエーテルが好ましい。なお、ビニルエーテル化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
(B)成分は、カルボン酸とビニルエーテル化合物とを室温ないし150℃の範囲の温度で反応させることによって得ることができる。ブロック化反応は平衡反応であるため、カルボン酸に対してビニルエーテル化合物を一定過剰量加えると反応が促進され、収率を向上させることができる。また、カルボン酸とビニルエーテル化合物との反応には、目的に応じて触媒や溶媒を添加することもできる。ブロック化反応の進行により反応溶液の酸価が2.0mgKOH/g以下まで低下したら、充分に反応が進行したと判断し、反応を終了する。
【0033】
触媒としては、3級アミン類、イミダゾール類、有機リン系化合物、4級ホスホニウム塩類、ジアザビシクロアルケン類、有機金属化合物類、4級アンモニウム塩類、ホウ素化合物及び金属ハロゲン化物等が挙げられる。触媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
溶媒としては、芳香族炭化水素、エーテル類、エステル類、エーテルエステル類、ケトン類、リン酸エステル類、ニトリル類、非プロトン性極性溶媒及びプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類等が挙げられる。溶媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
(A)成分のエポキシ基に対する(B)成分のカルボキシル基の官能基当量比は0.25~0.95であり、好ましくは0.30~0.80であり、より好ましくは0.40~0.65である。(A)、(B)成分の配合比を前記の範囲とすることで、(C)成分と組み合わせた際にNMP耐性と残留金属イオン性を両立することが可能となる。(A)成分中のエポキシ基に対する(B)成分のカルボキシル基の官能基当量比が0.25未満であると、十分なNMP耐性が得られず、0.95を超えると残留金属イオン性が不十分となる。
【0036】
<(C)成分>
(C)成分は、熱酸発生剤であり、熱によって酸を発生する化合物であれば特に限定されず、スルホニウム塩型、アンモニウム塩型、ヨードニウム塩型などの公知の材料を用いることができる。また、アニオン成分に関しては、リン系、ボレート系、アンチモン系などの公知の材料を用いることができるが、危険有害性の観点からリン系やボレート系などの非アンチモン系であることが好ましい。(C)成分の市販品としては、例えばサンエイドSI-80(三信化学工業(株))、同SI-100(同)、同SI-110(同)、同SI-150(同)、同SI―B3(同)、同SI-B4(同)、同SI-B5(同)、TA-100(サンアプロ(株))、TA-100FG(同)、IK-1(同)、IK-1FG(同)を挙げることができる。
【0037】
(C)成分は、(A)、(B)成分の合計100質量部に対して、0.05~10質量部であり、好ましくは0.1~7.0質量部であり、より好ましくは0.15~5.0質量部である。(C)成分が0.05質量部未満であると、十分なNMP耐性が得られず、10質量部を超えると保存安定性が低下する。
【0038】
(C)成分は、保存安定性の観点から、熱酸発生剤とビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製、商品名「jER-828」)の混合物を示差走査熱量測定(昇温速度:10℃/分)した際の発熱ピークトップが150℃以上であることが好ましい。
【0039】
<その他の添加剤>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、発明の効果を阻害しない範囲で、シランカップリング剤、レベリング剤、酸化防止剤、安定剤及び有機溶剤等の添加剤を加えることができる。
【0040】
<シランカップリング剤>
シランカップリング剤は、一分子中にアルコキシシリル基(Si-O-R)と反応性基を有する化合物である。反応性基としては、エポキシ基を有するものが好ましい。エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、及び2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらシランカップリング剤は、1種単独で又は2種以上を併用することができる。
【0041】
<レベリング剤>
レベリング剤は、得られる塗膜の外観を向上させる目的で配合されるものであって、この種のカラーフィルター用保護膜において従来から一般的に使用されている、シリコーン系、フッ素系、アクリル系等を特に制限無く使用することができる。レベリング剤の市販品としては、例えばメガファックF-410(DIC(株))、同F-477(同)、同F-552(同)、同F-553(同)、同F-554(同)、同F-555(同)、同F-556(同)、同F-558(同)、同F-559(同)、同F-561(同)、ノベックFC-4430(住友スリーエム(株))、FC-4432(同)、サーフロンS-611(AGCセイミケミカル(株))、同S-651(同)、S-386(同)、フタージェント208G(ネオス(株))、同602A(同)、同650A(同)、同610FM(同)、同710FM(同)、FTX-218(同)、BYK―302(ビックケミー・ジャパン(株))、BYK-307(同)、BYK-337(同)、ポリフローKL-400HF(共栄社化学(株))、KL-700(同)、LE-604(同)等を使用できる。
【0042】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、IRGANOX1010(BASF)、IRGANOX1035(同)、IRGANOX1076(同)、IRGANOX1135(同)、IRGANOX1726(同)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤等を使用できる。
【0043】
<安定剤>
安定剤は、前記の過剰のビニルエーテルのことを指し、カルボン酸ヘミアセタールエステルの収率向上の目的で添加される。具体的には、前記「<(B)成分>」に記載のビニルエーテルが挙げられる。
【0044】
<有機溶剤>
有機溶剤は、熱硬化性樹脂組成物の粘度等を調整する目的で添加される。具体的には、酢酸アミル等のエステル類、エチルエトキシプロピオネート及び3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート等のエーテルエステル類;メチルエチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びプロピレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル等のグリコール誘導体が挙げられる。
【0045】
(カラーフィルター保護膜の形成)
本発明のカラーフィルターは、上記熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物の層を、保護膜として備える。当該熱硬化性樹脂組成物は、基板上に配置された着色層やブラックマトリックスを覆うように塗布される。その塗布方法は特に限定されることは無く、インクジェット法、スピンコート法及びダイコート法等の公知の塗工方法を採用することができる。
【0046】
得られた塗膜を乾燥し、さらに必要に応じて予備加熱(以下、「プリベーク」という。)を行った後、本硬化加熱(以下、「ポストベーク」という。)を経て樹脂硬化物の層を形成する。この際には、プリベーク条件として40~140℃、0~1時間、ポストベーク条件として150~280℃、0.2~2時間が好ましい条件として挙げられる。また、この際の加熱手法は特に限定されるものではなく、例えば、密閉式硬化炉や連続硬化が可能なトンネル炉等の硬化装置を採用することができる。加熱源は特に制約されることなく、熱風循環、赤外線加熱及び高周波加熱等の方法で行うことができる。
【実施例0047】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
<重合例1:エポキシ基含有重合体(A-1)の合成>
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を76.0質量部仕込み、攪拌しながら加熱して88℃に昇温した。次いで、88℃の温度で、(a1)成分としてグリシジルメタクリレート(GMA)56.9質量部、(a2)成分としてシクロヘキシルメタクリレート(CHMA)43.1質量部、重合開始剤として日油(株)製の過酸化物系重合開始剤「パーヘキシルO(PHO)」8.0質量部、及びPGMEA16.0質量部を予め均一混合したもの(滴下成分)を、2時間かけて滴下ロートより等速滴下した。その後、88℃の温度を5時間維持し、重量平均分子量(Mw)12,700、エポキシ当量250g/mol(有効成分換算)のエポキシ基含有重合体(A-1)の50%PGMEA溶液を得た。
【0048】
<重量平均分子量(Mw)>
重量平均分子量(Mw)は、東ソー(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC-8320GPCを用いて、カラムとして東ソー(株)製TSKgel HZM-Mを用い、THFを溶離液とし、RI検出器により測定してポリスチレン換算により求めた。
【0049】
<重合例2~5:エポキシ基含有重合体(A-2~A-5)の合成>
表1に示す原料を表1に示す条件で混合し、重合例1と同様の方法でA-2~A-5の重合体を得た。各原料の仕込み量、重量平均分子量及びエポキシ当量を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1中の略号は次の通りである。
(a1)成分
GMA:グリシジルメタクリレート
(a2)成分
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
MPS:メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
CHMI:シクロヘキシルマレイミド
BMA:ブチルメタクリレート
(重合開始剤)
PHO:t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日油(株)製の過酸化物系重合開始剤「製品名:パーヘキシルO」)
(溶剤)
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0052】
<合成例1:(B)成分(B-1)の合成>
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えた4つ口フラスコに、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)26.8質量部、多価カルボン酸としてトリメリット酸(TMA)26.9質量部、ビニルエーテルとしてn-プロピルビニルエーテル(NPVE)46.3質量部を仕込み、攪拌しながら加熱し80℃に昇温した。次いで、温度を保ちながら攪拌し続け、混合物の酸価が2.0mgKOH/g以下に到達したことを確認後、反応を終了し、溶液の酸価0.6mgKOH/g、カルボキシル基当量156g/mol(有効成分換算)の多価カルボン酸ヘミアセタールエステル(B-1)の60%PGMEA溶液を得た。
【0053】
<酸価>
酸価はJIS K0070-1992「化学製品の酸価,けん化価,エステル価,よう素価,水酸基価及び不けん化物の試験方法」に準拠した方法で測定した。
【0054】
<合成例2~3:多価カルボン酸ヘミアセタールエステル(B-2~B-3)の合成>
表2に示す原料を表2に示す条件で混合し、合成例1と同様の方法でB-2~B-3の反応物を得た。各原料の仕込み量、酸価及びカルボキシル基当量を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2中の略号は次の通りである。
(多価カルボン酸)
TMA:トリメリット酸
PMA:ピロメリット酸
(ビニルエーテル)
NPVE:n-プロピルビニルエーテル
IPVE:i-プロピルビニルエーテル
(溶剤)
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0057】
<比較合成例1:熱潜在性触媒(CAT-1)の合成>
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、2-エチルヘキシル酸亜鉛100.0質量部を仕込み、室温で撹拌した。その後、トリエタノールアミン41.1質量部を30分かけて滴下ロートより等速滴下した。滴下後1時間反応させ、熱潜在性触媒(CAT-1)を得た。
【0058】
<実施例1~23、比較例1~7>
表3~表5に示す各成分を表3~表5に示す配合量で溶解混合し、実施例1~23及び比較例1~7のカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物の塗工液を調製した。なお、表3~表5において、各成分の含有量を示す数値は質量部である。また、表3~表5中の略号は次の通りである。
【0059】
<(A)成分>
EP157:ビスフェノールAノボラック型エポキシ化合物(三菱化学(株)製、商品名:「jER157S70」、エポキシ当量210g/eq、グリシジルエーテル型
VG3101L:グリシジルエーテル型エポキシ化合物((株)プリンテック製、商品名:「テクモアVG3101L」、エポキシ当量210g/eq)、グリシジルエーテル型
CEL2021P:3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート((株)ダイセル製、商品名:「セロキサイド2021P」、エポキシ当量130g/eq)、脂環式エポキシ型
EP828:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製、商品名「jER-828」、エポキシ当量190g/eq、グリシジルエーテル型
<(C)成分>
C-1:サンエイドSI-110(三信化学工業(株)製、発熱ピークトップ160℃)
C-2:サンエイドSI-B5(三信化学工業(株)製、発熱ピークトップ210℃)
C-3:サンエイドSI-B3(三信化学工業(株)製、発熱ピークトップ140℃)
<レベリング剤>
F-477:フッ素系レベリング剤(DIC(株)製、商品名:「メガファックF-477」)
<安定剤>
NPVE:n-プロピルビニルエーテル
IPVE:i-プロピルビニルエーテル
<触媒>
ZrOct:オクチル酸ジルコニウム
<溶剤>
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0060】
実施例1~23及び比較例1~7の熱硬化性樹脂組成物の塗工液は、それぞれメンブレンフィルター(材質:PE、孔径:0.2μm)で濾過した後、更に中空系フィルター(材質:PP、孔径:0.02μm)で濾過した。得られたカラーフィルター保護膜用の熱硬化性樹脂組成物の塗工液を、スピンコーター(型式1H-DX-2、ミカサ(株)製)により基板上に回転塗布した。塗布後、基板を90℃のクリーンオーブン中で2分間プリベークし、その後、230℃のクリーンオーブン中で30分間ポストベークすることにより、所定の膜厚の硬化膜を得た。熱硬化性樹脂組成物或いは得られた硬化膜について、次に示す「NMP耐性」、「残留金属イオン性」、「保存安定性」の評価を行った。評価の結果を表3~表5に示す。
【0061】
<NMP耐性>
1.5μm厚の硬化膜を形成した10cm角の無アルカリガラス基板(EAGLEXG、コーニング社製)上に100μLのNMPを滴下し、8cm角のカバーガラスで蓋をした後、180℃で15分間加熱した。加熱終了後、カバーガラスを取り外し、硬化膜表面のNMPをエアブローで除去した。試験前後の硬化膜の膜厚を測定し、膜厚変化率を算出した。試験前後の膜厚変化率が30%以下を合格とした。
【0062】
<残留金属イオン性>
1.5μm厚の硬化膜を形成した無アルカリガラス基板(EAGLEXG、コーニング社製)に対し、UV洗浄装置(型式アイUV-オゾン洗浄装置、岩崎電気(株)製)を用いて照射量3,000mJ/cmにてUV-オゾン照射を行った後、0.05wt%水酸化カリウム現像液に60秒間浸漬した。その後、基板を純水で10秒間洗浄し、エアブローで基板を十分に乾燥した。本基板の蛍光X線装置(型式ZSX100e、リガク(株)製)を行い、硬化膜表面の残存カリウム分を測定した。残存カリウム分が0.6%以下を合格とした。
【0063】
<保存安定性>
熱硬化性樹脂組成物の塗工液を密閉容器中に5℃で放置し、測定温度25℃での粘度が塗工液調製直後の粘度の2倍になるまでの期間(日)を計測した。塗工液の粘度が2倍になるまでの期間が180日以上の場合を◎、90日以上180日未満の場合を〇、90日未満の場合を×と判定した。
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
表3、表4の結果から、実施例1~23では、硬化膜のNMP耐性及び残留金属イオン性が良好であり、且つ熱硬化性樹脂組成物の冷蔵(5℃)における保存安定性も良好であった。一方、表5の結果から、比較例1~5では(C)成分を使用していない、又は(C)成分の配合量が過少であるため、NMP耐性が不充分であった。さらに、比較例6、7では、(A)成分中のエポキシ基に対する(B)成分のカルボキシル基の官能基当量比が過大或いは過小であるため、残留金属イオン性或いはNMP耐性が不充分であった。