(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142415
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】排熱構造体、及び宇宙飛行体
(51)【国際特許分類】
B64G 1/50 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B64G1/50 300
B64G1/50 600
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054550
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】仲鉢 貴臣
(72)【発明者】
【氏名】梓澤 直人
(57)【要約】
【課題】さらに向上した排熱性能を有し、かつさらに軽量化された排熱構造体、及び宇宙飛行体を提供する。
【解決手段】排熱構造体は、主壁を有する宇宙飛行体の排熱構造体であって、主壁の外側で、軸線に沿って延びる複数の伝熱管と、主壁に対向するとともに、伝熱管よりも外側に位置する排熱板と、伝熱管を外周側から囲う円周壁部と、を備え、排熱板には、伝熱管に対応する位置に設けられ、軸線方向から見て、円周壁部の径方向外側に位置することで外側を向く底面部、及び底面部から外側に向かって延びる一対の側面部によって画成される凹部が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主壁を有する宇宙飛行体の排熱構造体であって、
前記主壁の外側で、軸線に沿って延びる複数の伝熱管と、
前記主壁に対向するとともに、前記伝熱管よりも前記外側に位置する排熱板と、
前記伝熱管を外周側から囲う円周壁部と、
を備え、
前記排熱板には、前記伝熱管に対応する位置に設けられ、前記軸線方向から見て、前記円周壁部の径方向外側に位置することで前記外側を向く底面部、及び該底面部から前記外側に向かって延びる一対の側面部によって画成される凹部が形成されている排熱構造体。
【請求項2】
前記一対の側面部の一方から他方に向かって突出する一対のリブをさらに備える請求項1に記載の排熱構造体。
【請求項3】
前記一対のリブは、前記軸線方向から見て、前記主壁から前記外側に向かう方向における位置が互いに異なっているとともに、前記外側から見て前記一対のリブ同士の少なくとも一部が互いに重なっている請求項2に記載の排熱構造体。
【請求項4】
前記一対の側面部の前記外側の端縁は、前記排熱板よりも前記外側に突出している請求項1から3のいずれか一項に記載の排熱構造体。
【請求項5】
前記一対の側面部は、前記軸線方向から見て、一方から他方に向かうように湾曲している請求項4に記載の排熱構造体。
【請求項6】
前記一対の側面部の前記外側の端縁は、前記主壁から前記外側に向かう方向から見て互いに重複し、かつ互いに異なる曲率を有することで間に隙間を形成している請求項5に記載の排熱構造体。
【請求項7】
前記軸線方向から見て、前記排熱板の内面と前記円周壁部との間の空間を接続する傾斜面を有する充填部をさらに備える請求項1に記載の排熱構造体。
【請求項8】
前記主壁を有する機体と、
前記主壁に設けられた請求項1に記載の排熱構造体と、
を備える宇宙飛行体。
【請求項9】
前記主壁を有するパネル本体と、
該パネル本体の外側に設けられた請求項1に記載の排熱構造体と、
を備える宇宙飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、排熱構造体、及び宇宙飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙を航行する宇宙機や人工衛星(以下では、これらを宇宙飛行体と総称する。)には、宇宙空間の温度変化から機器を保護するために、主壁の外側に設けられた伝熱管を通じて宇宙空間と内部との間で熱交換(吸熱と排熱)を行っている。この種の排熱構造体として、下記特許文献1に記載されたものが知られている。下記特許文献1に係る構造では、伝熱管の外側に排熱板と、バンパーとが層状に設けられている。排熱板とバンパーとの間には伝熱促進剤が介在している。これにより、宇宙空間から飛来するスペースデブリやメテオロイドの衝突から伝熱管を保護することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように伝熱管の外側に排熱板とバンパーに加えて伝熱促進剤を層状に設けた場合、伝熱経路が長くなることから、伝熱管から宇宙空間への熱の放射が阻害されてしまう。また、部材の点数が多くなることから、構造体の重量が増加してしまうという課題もある。
【0005】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、さらに向上した排熱性能を有し、かつさらに軽量化された排熱構造体、及び宇宙飛行体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係る排熱構造体は、主壁を有する宇宙飛行体の排熱構造体であって、前記主壁の外側で、軸線に沿って延びる複数の伝熱管と、前記主壁に対向するとともに、前記伝熱管よりも前記外側に位置する排熱板と、前記伝熱管を外周側から囲う円周壁部と、を備え、前記排熱板には、前記伝熱管に対応する位置に設けられ、前記軸線方向から見て、前記円周壁部の径方向外側に位置することで前記外側を向く底面部、及び該底面部から前記外側に向かって延びる一対の側面部によって画成される凹部が形成されている。
【0007】
本開示に係る宇宙飛行体は、前記主壁を有する機体と、前記主壁に設けられた上記の排熱構造体と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、さらに向上した排熱性能を有し、かつさらに軽量化された排熱構造体、及び宇宙飛行体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の第一実施形態に係る宇宙飛行体の構成を示す模式図である。
【
図2】本開示の第一実施形態に係る排熱構造体の構成を示す断面図である。
【
図3】本開示の第二実施形態に係る排熱構造体の構成を示す断面図である。
【
図4】本開示の第三実施形態に係る排熱構造体の構成を示す断面図である。
【
図5】本開示の第三実施形態に係る排熱構造体の変形例を示す断面図である。
【
図6】本開示の第四実施形態に係る排熱構造体の構成を示す断面図である。
【
図7】本開示の各実施形態に共通する排熱構造体の変形例を示す断面図である。
【
図8】本開示の各実施形態に共通する宇宙飛行体の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第一実施形態>
以下、本開示の第一実施形態に係る宇宙飛行体1、及び排熱構造体2について、
図1と
図2を参照して説明する。
【0011】
(宇宙飛行体1の構成)
宇宙飛行体1は、地上から打ち上げられた後、宇宙空間を航行する輸送機械、又は人工衛星である。
図1では、宇宙飛行体1として、宇宙を航行する宇宙機10の例を示している。
図1に示すように、宇宙機10は、宇宙機本体11(機体)と、推進装置12と、排熱構造体2と、を備える
【0012】
宇宙機本体11は、人員や貨物を搭載するための与圧空間を内部に有する容器状をなしている。与圧空間は、主壁13によって密封された空間である。宇宙機本体11の内部には、操縦装置や航法装置、生命維持装置等の各種機器も搭載されている。宇宙機本体11には、推進装置12が取り付けられている。推進装置12としては、固体燃料又は液体燃料をエネルギー源とするロケットエンジンが一例として挙げられる。その他、推進装置12としてイオンエンジンを用いることも可能である。推進装置12を駆動することによって、宇宙機本体11の推進方向、水深速度が適宜調節される。
【0013】
(排熱構造体2の構成)
排熱構造体2は、宇宙機本体11の外表面を覆うようにして設けられている。排熱構造体2は、主として、宇宙機本体11の内部で生じた熱を宇宙空間に向けて放射によって排熱するための装置である。
図2に示すように、排熱構造体2は、伝熱管21と、排熱板22と、円周壁部23と、を有する。
【0014】
伝熱管21は、上記した主壁13の外側で、つまり宇宙空間に面する側に複数設けられている。
図2中では、伝熱管21が円管状をなしている例について示している。伝熱管21は、軸線Xに沿って延びている。伝熱管21の内部には熱媒体が流通する流路が形成されている。この伝熱管21が、軸線Xと交差する方向に間隔をあけて複数設けられている。詳しくは図示しないが、伝熱管21は、宇宙機10内部の熱交換器に接続されている。一例として、熱交換器を通る熱媒体と内部空間の空気とが熱交換することで、当該熱媒体は昇温され、内部空間の温度は下がる。
【0015】
排熱板22は、伝熱管21のさらに外側に設けられ、主壁13との間に空間を形成している。当該空間には、断熱材等が充填されていてもよいし、空洞であってもよい。また、図示しない支持部材が設けられていてもよい。排熱板22の外側の面は宇宙空間に面している。排熱板22の内側の面は上記の空間を介して主壁13に対向している。(軽量化のため、排熱版22そのものが主壁13であっても良い)
【0016】
伝熱管21の周囲には、円周壁部23が設けられている。円周壁部23は、伝熱管21に沿って軸線X方向に延びるとともに、当該軸線Xを中心とする円管状の断面形状を有している。円周壁部23と伝熱管21との間には隙間が形成されていない。つまり、円周壁部23の内周側の孔に伝熱管21が隙間なく挿通されている。
【0017】
円周壁部23の径方向外側であって排熱板22側の面には、底面部31が形成されている。底面部31は、円周壁部23と一体に形成され、その外側を向く面は宇宙空間に面する底面32とされている。底面32は、排熱板22と平行に広がる平面状をなしている。さらに、この底面部31には、底面32側から外側に向かって延びる一対の側面部33が形成されている。これら側面部33は、軸線Xを挟んで互いに間隔をあけて対向している。また、それぞれの側面部33は、伝熱管21の延在長さ全域にわたって軸線X方向に延びるとともに、主壁13側から排熱板22側に向けて直線状に突出している。側面部33の外側の端縁は、排熱板22に接続されている。一対の側面部33における互いに対向する面は、側面34とされている。これら一対の側面34と上記の底面32とによって形成される空間は、凹部35とされている。つまり、この凹部35の表面を介して、伝熱管21内の熱媒体の熱が宇宙空間に放射されるように構成されている。なお、側面部33における側面34とは反対側の面(裏面36)は、円周壁部23の外周面と面一になっている。
【0018】
(作用効果)
ここで、宇宙を航行する宇宙機10や人工衛星には、宇宙空間の温度変化から機器を保護するために、主壁13の外側に設けられた伝熱管21を通じた宇宙空間と内部との間で熱交換(吸熱と排熱)を行っている。この種の排熱構造として、伝熱管21の外側に排熱板22とバンパーとを層状に設ける構成等が従来採用されていた。排熱板22とバンパーとの間には伝熱促進剤が介在している。これにより、宇宙空間から飛来するスペースデブリやメテオロイドの衝突から伝熱管21を保護することができるとされている。しかしながら、上記のように伝熱管21の外側に排熱板22とバンパーに加えて伝熱促進剤を層状に設けた場合、伝熱経路が長くなることから、伝熱管21から宇宙空間への熱の放射が阻害されてしまう。また、部材の点数が多くなることから、構造体の重量が増加してしまうという課題もある。そこで、本実施形態に係る排熱構造体2は、上述の各構成を採用している。
【0019】
上記構成によれば、伝熱管21が底面部31を介して短い距離で宇宙空間側(外側)に対向している。また、凹部35が形成されていることによって、宇宙空間に接する表面積が増大する。具体的には、凹部35の底面32、及び一対の側面34が形成されている分だけ、排熱板22の表面積が増大する。このため、これら底面32、及び側面34を通じて、排熱板22からの熱の放射量をさらに大きく確保することができる。これにより、伝熱管21からの熱の放射が促進されて、排熱性能を向上させることができる。その結果、宇宙機10の内部の居住性が高まるとともに、各種装置を安定的に動作させることが可能となる。
【0020】
さらに、上記構成では、底面部31を囲むようにして一対の側面部33によって凹部35が形成されている。これにより、スペースデブリ等の飛翔体が伝熱管21に直接的に衝突してしまう可能性を低減することができる。特に、凹部35に対する斜め方向からの飛翔体の衝突を有効に回避することができる。また、凹部35の幅寸法よりも大きい飛翔体であれば、当該凹部35を通過しないことから、伝熱管21に対して飛翔体の衝撃が直接的に及んでしまう可能性を低減することができる。このように少ない部材で飛翔体に対する保護性能が向上できることから、排熱構造体2の軽量化をも実現することができる。したがって、宇宙機10の打ち上げコストや建造コストをさらに削減することが可能となる。
【0021】
以上、本開示の第一実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0022】
<第二実施形態>
次に、本開示の第二実施形態について、
図3を参照して説明する。なお、上記の第一実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
図3に示すように、本実施形態に係る排熱構造体102は、第一実施形態で説明した構成に加えて、側面34から延びる複数のリブ37をさらに備えている。
【0023】
リブ37は、互いに対向する一対の側面34のうちの一方から他方に向かって突出する板状をなしている。
図3の例では、軸線X方向から見たリブ37の断面形状は矩形である。また、リブ37は排熱板22と平行になるようにして延びるとともに、伝熱管21の延在長さの全域にかけて軸線X方向に延びている。
【0024】
これら一対のリブ37は、軸線Xに対する径方向、つまり主壁13側から外側(宇宙空間側)に向かう方向における位置が互いに異なっている。また、外側から見た場合、これらリブ37の少なくとも一部は互いに重なり合っている。具体的には、リブ37の先端同士が互いに重複している。したがって、外側から見た場合、リブ37に遮られているために凹部35の底面32は外側に露呈していない状態となっている。他方で、リブ37同士の間には、径方向の隙間が形成されている。また、各リブ37と底面32との間にもそれぞれ隙間が形成されている。これにより、軸線X方向から見ると、一対のリブ37によって、外側から底面32に至るまでのジグザグの間隙が形成されている。この間隙は、底面32から外側に向けての熱の放射経路となっている。
【0025】
(作用効果)
上記構成によれば、一対のリブ37が凹部35内に設けられていることで、これらリブ37によって凹部35内への飛翔体の侵入を防ぐことができる。したがって、伝熱管21を当該飛翔体からさらに安定的に保護することができる。これにより、飛翔体の衝突による伝熱管21の損壊が回避され、宇宙機10の航行安全性をさらに向上させることが可能となる。
【0026】
また、上記構成によれば、一対のリブ37では、主壁13から外側に向かう方向における位置が互いに異なっている。さらに、外側から見てリブ37同士の少なくとも一部が互いに重なっている。これにより、リブ37同士の間には間隙が形成されつつも、外側から見た場合に凹部35内の底面部31がリブ37によって遮られており、外側に露呈していない状態となる。したがって、ジグザグ状の間隙によって伝熱管21からの熱の放射経路を確保しつつも、飛翔体に対する保護性能をさらに向上させることが可能となる。これにより、飛翔体の衝突による伝熱管21の損壊が回避され、宇宙機10の航行安全性をより一層向上させることが可能となる。
【0027】
加えて、リブ37が設けられている分だけ、排熱板22の表面積が増大することから、熱の放射量をさらに大きく確保することもできる。これにより、排熱構造体102としての排熱性能が向上する。したがって、例えば伝熱管21の総延長距離を従来よりも短く抑えることも可能となる。その結果、排熱構造体102の製造に要するコストが削減される。また、排熱構造体102のさらなる軽量化も実現することができる。
【0028】
以上、本開示の第二実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0029】
<第三実施形態>
続いて、本開示の第三実施形態について、
図4と参照して説明する。なお、上記の各実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
図4に示すように、本実施形態に係る排熱構造体202では、上述した一対の側面部33の外側の端縁が、排熱板22よりもさらに外側に突出している。この突出している部分は、事後的に取り付けられてもよいし、排熱板22とともに一体に成形されていてもよい。これら側面部33同士の間には、上述したものと同様の凹部35が形成されている。軸線Xに対する径方向において、凹部35の底面32と排熱板22の位置は一致している。
【0030】
さらに、一対の側面部33では、その先端部が一方から他方に向かって互いに近接する方向に湾曲している。なお、本実施形態では、これら先端部同士の間には隙間が形成されている。つまり、一対の側面部33の断面形状は、軸線Xを通る対称面を基準として面対称となっている。さらに言い換えれば、一対の側面部33同士では、湾曲形状、又は曲率が同一である。
【0031】
(作用効果)
上記構成によれば、排熱板22の表面から側面部33の外側の端縁が突出した状態となっている。これにより、当該一対の側面部33によって飛翔体から伝熱管21を保護することができる。特に、側面部33に対する斜め方向から飛来する飛翔体から伝熱管21を有効に保護することができる。また、これら側面部33が突出している分だけ、排熱板22と宇宙空間が接する表面積が拡大するため、熱の放射量をさらに拡大することが可能となる。したがって、例えば伝熱管21の総延長距離を従来よりも短く抑えることも可能となる。その結果、排熱構造体202の製造に要するコストが削減される。また、排熱構造体202のさらなる軽量化も実現することができる。
【0032】
さらに、上記構成によれば、側面部33が一方から他方に向かうように湾曲していることから、外側から見た場合のこれら側面部33同士の間の隙間が狭くなる。したがって、側面部33同士の間の凹部35に飛翔体が侵入してしまう可能性をさらに低減することができる。言い換えると、側面部33同士の間の隙間よりも大きな寸法体格を有する飛翔体は、この隙間を通過することがない。このため、飛翔体に対する保護性能をより一層向上させることが可能となる。
【0033】
以上、本開示の第三実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0034】
例えば、第三実施形態の変形例として
図5に示すように、一対の側面部33の湾曲形状、又は曲率が互いに異なっていてもよい。この場合、湾曲形状、又は曲率が異なっていることによって、側面部33の先端部同士が外側から見て互いに重なり合っている。また、軸線Xに対する径方向においては、側面部33の先端部同士の間に隙間が形成されている。この構成によれば、外側から見た場合に、一対の側面部33同士が互いに重複していることから、凹部35の底面32が外側に露呈してしまうことがない。これにより、飛翔体が凹部35内に侵入してしまう可能性をさらに低減することができる。加えて、これら側面部33同士の曲率が互いに異なることで間に隙間が形成されていることから、伝熱管21からの熱の放射経路が側面部33によって遮られることがない。これにより、伝熱管21からの熱の放射をさらに促進することが可能となる。したがって、例えば伝熱管21の総延長距離を従来よりも短く抑えることも可能となる。その結果、排熱構造体202の製造に要するコストが削減される。また、排熱構造体2のさらなる軽量化も実現することができる。
【0035】
<第四実施形態>
次に、本開示の第四実施形態について、
図6を参照して説明する。なお、上記の各実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
図6に示すように、本実施形態に係る排熱構造体302では、第三実施形態と同様に側面部33の先端部が外側に突出している。さらに、軸線Xに対する径方向において、排熱板22と底面32との位置が互いに異なっている。具体的には、底面32は排熱板22よりも径方向内側(軸線Xに近接する側)に位置している。また、側面部33は、それぞれ軸線Xに対する径方向に平行な方向に直線状に延びている。
【0036】
(作用効果)
上記構成によれば、排熱板22の表面から側面部33が突出した状態となっている。これにより、当該一対の側面部33によって飛翔体から伝熱管21を保護することができる。また、これら側面部33が突出している分だけ、排熱板22と宇宙空間が接する表面積が拡大するため、熱の放射量をさらに拡大することが可能となる。したがって、例えば伝熱管21の総延長距離を従来よりも短く抑えることも可能となる。その結果、排熱構造体302の製造に要するコストが削減される。また、排熱構造体302のさらなる軽量化も実現することができる。
【0037】
また、上記構成によれば、排熱板22よりも底面32が径方向内側に位置していることから、伝熱管21と側面部33の先端部との間の距離を大きく確保することができる。言い換えると、見かけ上の凹部35の深さを大きくすることができる。これにより、伝熱管21に飛翔体の衝撃が伝わってしまう可能性をより一層低減することができる。したがって、排熱構造体302の保護性能をさらに向上させることができる。
【0038】
以上、本開示の第四実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0039】
<その他の実施形態>
以上、本開示の各実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0040】
例えば、
図7に変形例として示す構成を採ることも可能である。この構成では、第四実施形態で説明した構成に加えて、充填部38がさらに設けられている。充填部38は、軸線X方向から見て、排熱板22の内面と円周壁部23との間の空間を接続する傾斜面39を有する。傾斜面39と排熱板22、及び円周壁部23で囲まれた空間は当該充填部38によって占められている。排熱構造体302の組み立ての際には、円周壁部23と一対の充填部38、及び排熱板22に分けて部品構成される。つまり、円周壁部23と一対の充填部38を排熱板22の表面に溶接等によって結合することで排熱構造体302が形成される。また、充填部38が設けられていることによって、排熱板22と円周壁部23の剛性が向上する。これにより、飛翔体の衝突による衝撃から排熱構造体2をさらに堅固に保護することができる。なお、充填部38の傾斜面39の形状は一例であって、強度を増すために表面にさらなる凹凸等が形成されていてもよい。
【0041】
上記構成によれば、充填部38を有することで、排熱板22の内面と、当該充填部38を含む円周壁部23との間の接合面積を増やすことができる。これにより、単位面積当たりに求められる結合強度が小さくなる。その結果、排熱構造体302を製造する際の加工コストを大幅に削減することが可能となる。
【0042】
さらに、
図8に宇宙飛行体1の変形例として示すように、人工衛星40に排熱構造体2を用いることも可能である。人工衛星40は、直方体又は立方体状の衛星本体41と、この衛星本体41に対して収納・展開可能な状態で接続された板状の排熱パネル42と、を有する。排熱パネル42は、上記の主壁13を有するパネル本体43と、このパネル本体43の外側両面、又は片面に取り付けられた排熱構造体2を有する。このような構成であっても、上述したものと同様の作用効果を得ることができる。
また、この他、月面を走行する探査車両に排熱構造体2を設けてもよい。
【0043】
なお、
図1や
図8で示した宇宙飛行体1の構成はあくまで一例であって、設計や仕様に応じて種々の形状、態様を採り得る。また、排熱構造体2が設けられる位置や面積も設計や仕様に応じて適宜決定されてよい。
【0044】
さらに、第二実施形態で説明したリブ37は、外側から見て互いに重なり合っていなくてもよい。また、軸線Xに対する径方向において、これら一対のリブ37が同一の位置に設けられていてもよい。さらには、リブ37の設けられる数も一対に限定されず、凹部35の容積によっては3つ以上のリブ37が設けられていてもよい。
【0045】
また、第三実施形態と第四実施形態の構成を互いに組み合わせることも可能である。つまり、側面部33の先端部が湾曲しつつ、排熱板22と底面部31との径方向位置が互いに異なっていてもよい。この構成によっても上述したものと同様の作用効果を得ることができる。
【0046】
加えて、排熱板22と主壁13の間の空間には、重量制限が許す限りにおいて、断熱材等が充填されていてもよい。しかし、上記実施形態のように何も充填しない構成の方が軽量化に資する上で有利である。また、主壁13が排熱板22と同様に排熱のための機能を有していてもよい。つまり、主壁13が排熱板22に熱的に接続されている構成を採ることが可能である。
【0047】
また、上記の各実施形態では、円周壁部23の内周側に伝熱管21が挿通されている例について説明した。しかしながら、円周壁部23と伝熱管21とを一体に形成することも可能である。つまり、円周壁部23に形成された軸線方向に延びる孔が伝熱管として機能し、その内部には熱媒体が流通する。このような構成によっても上述したものと同様の作用効果を得ることができる。
【0048】
<付記>
各実施形態に記載の排熱構造体2、及び宇宙飛行体1は、例えば以下のように把握される。
【0049】
(1)第1の態様に係る排熱構造体2は、主壁13を有する宇宙飛行体1の排熱構造体2であって、前記主壁13の外側で、軸線Xに沿って延びる複数の伝熱管21と、前記主壁13に対向するとともに、前記伝熱管21よりも前記外側に位置する排熱板22と、前記伝熱管21を外周側から囲う円周壁部23と、を備え、前記排熱板22には、前記伝熱管21に対応する位置に設けられ、前記軸線X方向から見て、前記円周壁部23の径方向外側に位置することで前記外側を向く底面部31、及び該底面部31から前記外側に向かって延びる一対の側面部33によって画成される凹部35が形成されている。
【0050】
上記構成によれば、伝熱管21が底面部31を介して短い距離で宇宙空間側(外側)に対向している。また、凹部35が形成されていることによって、宇宙空間に接する表面積が増大するため、熱の放射量をさらに大きく確保することができる。これにより、当該伝熱管21からの熱の放射が促進されて、排熱性能を向上させることができる。さらに、底面部31を囲むようにして一対の側面部33によって凹部35が形成されている。これにより、スペースデブリ等の飛翔体が伝熱管21に直接的に衝突してしまう可能性を低減することができる。特に、凹部35に対する斜め方向からの飛翔体の衝突を有効に回避することができる。少ない部材で飛翔体に対する保護性能が向上できることから、排熱構造体2の軽量化をも実現することができる。
【0051】
(2)第2の態様に係る排熱構造体2は、(1)の排熱構造体2であって、前記一対の側面部33の一方から他方に向かって突出する一対のリブ37をさらに備える。
【0052】
上記構成によれば、一対のリブ37が凹部35内に設けられていることで、これらリブ37によって凹部35内への飛翔体の侵入を防ぐことができる。したがって、伝熱管21を当該飛翔体から保護することができる。
【0053】
(3)第3の態様に係る排熱構造体2は、(2)の排熱構造体2であって、前記一対のリブ37は、前記軸線X方向から見て、前記主壁13から前記外側に向かう方向における位置が互いに異なっているとともに、前記外側から見て前記一対のリブ37同士の少なくとも一部が互いに重なっている。
【0054】
上記構成によれば、一対のリブ37では、主壁13から外側に向かう方向における位置が互いに異なっている。さらに、外側から見てリブ37同士の少なくとも一部が互いに重なっている。これにより、リブ37同士の間には隙間が形成されつつも、外側から見た場合に凹部35内の底面部31がリブ37によって遮られており、外側に露呈していない状態となる。したがって、伝熱管21からの熱の放射経路を確保しつつ、飛翔体に対する保護性能をさらに向上させることが可能となる。
【0055】
(4)第4の態様に係る排熱構造体2は、(1)から(3)のいずれか一態様に係る排熱構造体2であって、前記一対の側面部33の前記外側の端縁は、前記排熱板22よりも前記外側に突出している。
【0056】
上記構成によれば、排熱板22の表面から側面部33が突出した状態となっている。これにより、当該一対の側面部33によって飛翔体から伝熱管21を保護することができる。また、これら側面部33が突出している分だけ、排熱板22と宇宙空間が接する表面積が拡大するため、熱の放射量をさらに拡大することが可能となる。
【0057】
(5)第5の態様に係る排熱構造体2は、(4)の排熱構造体2であって、前記一対の側面部33は、前記軸線X方向から見て、一方から他方に向かうように湾曲している。
【0058】
上記構成によれば、側面部33が一方から他方に向かうように湾曲していることから、外側から見た場合のこれら側面部33同士の間の隙間が狭くなる。したがって、側面34同士の間の凹部35に飛翔体が侵入してしまう可能性をさらに低減することができる。
【0059】
(6)第6の態様に係る排熱構造体2は、(5)の排熱構造体2であって、前記一対の側面部33の前記外側の端縁は、前記主壁13から前記外側に向かう方向から見て互いに重複し、かつ互いに異なる曲率を有することで間に隙間を形成している。
【0060】
上記構成によれば、外側から見た場合に、一対の側面部33同士が互いに重複していることから、凹部35の底面32が外側に露呈してしまうことがない。これにより、飛翔体が凹部35内に侵入してしまう可能性をさらに低減することができる。加えて、これら側面部33同士の曲率が互いに異なることで間に隙間が形成されていることから、伝熱管21からの熱の放射経路が側面部33によって遮られることがない。したがって、伝熱管21からの熱の放射をさらに促進することが可能となる。
【0061】
(7)第7の態様に係る排熱構造体2は、(1)から(6)のいずれか一態様に係る排熱構造体2であって、前記軸線X方向から見て、前記排熱板22の内面と前記円周壁部23との間の空間を接続する傾斜面39を有する充填部38をさらに備える。
【0062】
上記構成によれば、充填部38を有することで、排熱板22の内面と、当該充填部38を含む円周壁部23との間の接合面積を増やすことができる。これにより、単位面積当たりに求められる結合強度が小さくなる。その結果、排熱構造体2を製造する際の加工コストを大幅に削減することが可能となる。
【0063】
(8)第8の態様に係る宇宙飛行体1は、前記主壁13を有する機体と、前記主壁13に設けられた(1)から(7)のいずれか一態様に係る排熱構造体2と、を備える。
【0064】
上記構成によれば、放熱性能が向上し、かつ軽量化された排熱構造体2を有する宇宙飛行体1を提供することができる。
【0065】
(9)第9の態様に係る宇宙飛行体1は、前記主壁13を有するパネル本体43と、該パネル本体43の外側に設けられた(1)から(7)のいずれか一態様に係る排熱構造体2と、を備える。
【0066】
上記構成によれば、放熱性能が向上し、かつ軽量化された排熱構造体2を有する宇宙飛行体1を提供することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…宇宙飛行体 2…排熱構造体 10…宇宙機 11…宇宙機本体 12…推進装置 13…主壁 21…伝熱管 22…排熱板 23…円周壁部 31…底面部 32…底面 33…側面部 34…側面 35…凹部 36…裏面 37…リブ 38…充填部 39…傾斜面 40…人工衛星 41…衛星本体 42…排熱パネル 43…パネル本体 102…排熱構造体 202…排熱構造体 302…排熱構造体 X…軸線