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特開2024-142437炭化ケイ素単結晶インゴットの製造方法
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  • 特開-炭化ケイ素単結晶インゴットの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142437
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】炭化ケイ素単結晶インゴットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20241003BHJP
   C30B 19/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B19/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054574
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】723004082
【氏名又は名称】村川 紀博
(72)【発明者】
【氏名】村川 紀博
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AA03
4G077BE08
4G077CG02
4G077CG07
4G077EA02
4G077EB01
4G077EC03
4G077EC04
4G077EC08
4G077ED06
4G077EG05
4G077HA06
4G077HA12
4G077QA04
4G077QA27
4G077QA38
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来の溶液法のような金属ケイ素に意図的に異種元素を混入させる必要のない、プロセス温度が低い溶液法による高純度なSiC単結晶インゴットの製造方法を提供する。
【解決手段】金属ケイ素及び一酸化ケイ素を含み1400℃以上の温度を有する溶融組成物10を、撹拌下で炭素源に接触させて前記溶融組成物中に炭化ケイ素を生成させる工程、及び前記溶融組成物に浸漬した炭化ケイ素種晶14上に前記炭化ケイ素を析出させる工程、を備えることを特徴とする炭化ケイ素単結晶インゴットの製造方法である。金属ケイ素及び一酸化ケイ素を含み1400℃以上の温度を有する前記溶融組成物は、溶融金属ケイ素と粉粒体一酸化ケイ素を混合して調製され、溶融金属ケイ素と粉粒体二酸化ケイ素を混合して調製され、又はSi-O結合を含むケイ素化合物を気相で溶融金属ケイ素の上部空間12に供給して調製される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ケイ素及び一酸化ケイ素を含み1400℃以上の温度を有する溶融組成物を、撹拌下で炭素源に接触させて前記溶融組成物中に炭化ケイ素を生成させる工程、及び前記溶融組成物に浸漬した炭化ケイ素種晶上に前記炭化ケイ素を析出させる工程、を備えることを特徴とする炭化ケイ素単結晶インゴットの製造方法。
【請求項2】
金属ケイ素及び一酸化ケイ素を含み1400℃以上の温度を有する前記溶融組成物が、溶融金属ケイ素と粉粒体一酸化ケイ素を混合して調製された、請求項1に記載の炭化ケイ素単結晶インゴットの製造方法。
【請求項3】
金属ケイ素及び一酸化ケイ素を含み1400℃以上の温度を有する前記溶融組成物が、溶融金属ケイ素と粉粒体二酸化ケイ素を混合して調製された、請求項1に記載の炭化ケイ素単結晶インゴットの製造方法。
【請求項4】
金属ケイ素及び一酸化ケイ素を含み1400℃以上の温度を有する前記溶融組成物が、Si-O結合を含むケイ素化合物を気相で溶融金属ケイ素の上部空間に供給して調製された、請求項1に記載の炭化ケイ素単結晶インゴットの製造方法。
【請求項5】
前記炭素源が、前記溶融組成物に添加された粉粒体炭素、前記溶融組成物を収納する炭素製容器、及び前記溶融組成物の上部空間に供給された炭素含有化合物の少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の炭化ケイ素単結晶インゴットの製造方法。
【請求項6】
前記溶融組成物中に炭化ケイ素を生成させる前記工程と、前記炭化ケイ素種晶上に炭化ケイ素を析出させる前記工程を同時に行う、請求項1~5のいずれか1項に記載の炭化ケイ素単結晶インゴットの製造方法。
【請求項7】
前記溶融組成物中に炭化ケイ素を生成させる前記工程と、前記炭化ケイ素種晶上に炭化ケイ素を析出させる前記工程を交互に行う、請求項1~5のいずれか1項に記載の炭化ケイ素単結晶インゴットの製造方法。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素単結晶ウエハを調製するための炭化ケイ素単結晶インゴットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、半導体材料として優れた固有の特性を有し、電力の制御や変換に用いられる現状のパワーデバイス半導体材料であるシリコン(Si)に置き換えると、エネルギー損失の大幅な削減が可能となり、温室効果ガスである二酸化炭素の削減にも大きく貢献するものと期待される。
【0003】
SiC単結晶ウエハは、SiC単結晶インゴットを出発材料とし、これを切断・研磨・洗浄・検査といった一連の工程を経由して製造される。
ここで、SiC単結晶インゴットは、商業的には、改良レーリー法と称される昇華法によって製造されている。この昇華法は、SiC粉末を約2300℃で昇華させて約2200℃の種結晶の上にSiC単結晶を析出させる方法である。
【0004】
このような昇華法においては、加熱に要するエネルギーコストが過大であるのみならず、得られるSiC単結晶の長尺化が困難という欠点も重なり、製造コストが極めて高いという問題がある。さらに、析出するSiC単結晶中にマイクロパイプと称される微細径の連続孔が不可避的に存在するという問題もある。
【0005】
かかる問題に鑑み、いわゆる溶液法によるSiC単結晶インゴットの製造方法も検討されている。この溶液法の例として、溶融ケイ素の極薄層を介在させて種晶のSiC単結晶基板と多結晶SiC基板とを向い合わせて配置し、溶融ケイ素中にSiCを溶解・移動させてSiC種晶上にSiCをエピタキシャル成長させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
こうした溶液法は、熱力学的な平衡状態に近い成長法であるため、結晶欠陥密度が著しく低い結晶の育成が期待できる。また、昇華法に比較してプロセス温度が大幅に低いという長所もあり、さらに結晶の長尺化が可能な利点もある。しかしながら、溶融ケイ素中のSiC濃度が極めて低いため、SiC単結晶の成長速度が極めて遅いという問題がある。
【0007】
かかる遅い成長速度という溶液法の問題を解決すべく、溶融ケイ素中に炭素を溶解させるプロセス、あるいは炭素及びSiを溶解させるプロセスを導入し、Ti、Cr、Laなどの異種元素を溶融ケイ素に加えてさらに炭素の溶解度を高め、SiC種晶上のSiC成長速度を高める溶液法も提案されている(例えば、特許文献2、3、4参照)。しかしながら、得られるSiCインゴット中に残留する異種元素は、微量であってもSiC半導体の性能に許容できない悪影響を及ぼすという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2002/099169
【特許文献2】特開2015-212215号公報
【特許文献3】特開2022-89311号公報
【特許文献4】特開2023-24315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の改良レーリー法に比較してプロセス温度が格段に低く、従来の溶液法のような金属ケイ素に意図的に異種元素を混入させる必要のない、新規な溶液法による高純度なSiC単結晶インゴットの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、金属ケイ素及びSiOを含み1400℃以上の温度を有する溶融組成物を、撹拌下で炭素源に接触させて前記溶融組成物中にSiCを生成させる工程、及び前記溶融組成物に浸漬したSiC種晶上に前記SiCを析出させる工程、を備えることを特徴とするSiC単結晶インゴットの製造方法によって達成される。
【0011】
本発明者らは、高温の金属ケイ素及びSiOを含んで溶融状態にある組成物、即ち、金属ケイ素及びSiOを含み1400℃以上の温度を有する溶融組成物を、撹拌下で炭素源に接触させることにより、従来知られているレベルよりもはるかに高い濃度でSiCを分散又は溶解した金属ケイ素含有溶融組成物が得られることを見出した。
【0012】
具体的には、SiOを含まずに溶融状態にある金属ケイ素を一定時間で炭素源に接触させたときの溶融組成物中のSiC濃度と、SiOを含んで溶融状態にある金属ケイ素を一定時間で炭素源に接触させたときの溶融組成物中のSiC濃度を比較すると、後者の方が前者の少なくとも10倍のような格段に高濃度のSiCを含む溶融組成物が得られることを本発明者らは見出した。
【0013】
この理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、SiOを含んでいれば、溶融金属ケイ素の中に存在するSiOとSiとの相互作用によって活性SiOが生成し、SiCを生成する炭素源との反応が促進されるためであり、さらに、SiOは1400℃以上の溶融ケイ素中で気相状態の単分子になって炭素源と接触し、SiOと炭素源の反応によって生成するSiCも単分子の状態で生成するためと推測する。
【0014】
そして、溶融金属ケイ素の中に生成した単分子の状態のSiCは高易動度を有することから、SiC相互の結合性が極めて低くなる結果、溶融金属ケイ素の中で固体SiCが呈する溶解度よりも格段に高濃度のSiCを分散又は溶解した金属ケイ素含有溶融組成物がもたらされると推測される。
【0015】
さらに、本発明者らは、かかる高濃度でSiCを分散又は溶解した溶融組成物にSiC種晶を浸漬しておくと、その種晶上にSiC単結晶が析出すること、また、この種晶を連続的に徐々に引き上げることで、SiC単結晶が連続的に成長可能であることを見出した。ここで、この高濃度でSiCを分散又は溶解した濃度とは、溶融組成物の全重量あたり少なくとも1重量%、好ましくは5~20重量%、さらに好ましくは、10~40重量%である。
【0016】
なお、溶融組成物の温度は、1400℃以上であって溶融状態であれば特に限定されるものではないが、1700℃以上もの高温は、溶融組成物中の金属ケイ素の蒸気圧が高くなるため適切ではない。
【0017】
上記の金属ケイ素及びSiOを含み1400℃以上の温度を有する溶融組成物は、好ましい態様として、溶融金属ケイ素と粉粒体SiOより調製され、例えば、粒状又は塊状の金属ケイ素と粉状又は粒状のSiOの混合物を、不活性雰囲気中で金属ケイ素の溶融温度以上に加熱して撹拌などにより混合することによって調製することができる。
【0018】
別の好ましい態様として、上記の金属ケイ素及びSiOを含み1400℃以上の温度を有する溶融組成物は、溶融金属ケイ素と粉粒体二酸化ケイ素より調製され、例えば、粒状又は塊状の金属ケイ素と粉状又は粒状の二酸化ケイ素の混合物を所定割合で不活性雰囲気中にて金属ケイ素の溶融温度以上に加熱して撹拌などによって混合しながら、金属ケイ素と二酸化ケイ素の反応によってSiOを生成させることによって、所定含有率の金属ケイ素とSiOを含む溶融組成物を調製することもできる。
【0019】
別の好ましい態様として、上記の金属ケイ素及びSiOを含み1400℃以上の温度を有する溶融組成物は、Si-O結合を含むケイ素化合物を気相で溶融金属ケイ素の上部空間に供給して調製され、例えば、SiO、シリコンテトラエトキシドなどのシリコンアルコキシド、及びジシロキサンなどのシロキサン化合物からなる群より選択された化合物をそれぞれ適切な温度で気相にして、撹拌下の溶融金属ケイ素の上部空間に適切な時間にわたって供給することで、所定含有率の金属ケイ素とSiOを含む溶融組成物を調製することもできる。
【0020】
このようにして調製される金属ケイ素及びSiOを含む溶融組成物の中に存在する金属ケイ素とSiOの割合は、特に限定されるものではないが、100重量部の金属ケイ素に対して、1~30重量部、より好ましくは3~20重量部のSiOが一応の目安である。
【0021】
また、上記の溶融組成物と接触してSiCを生成するための炭素源は、各種形態の炭素でよく、例えば、粉末、顆粒、又は塊状の炭素物質が挙げられ、これらの炭素源は撹拌などの手段を用いて溶融組成物と混合して接触させることができる。また、溶融組成物を収納する炭素製の容器自体を炭素源にし、その容器中で溶融組成物を撹拌して炭素源に接触させることでもよく、さらには、炭素含有化合物を気相で溶融組成物の上部空間に供給して炭素含有化合物を撹拌下の溶融組成物の表面に接触させることでもよい。
【0022】
ここで、前記炭素化合物には、1つの分子の中に1~16個の炭素原子を有する化合物、即ち、C1~C16化合物が好ましく、具体的には、CO、CH、C、C、C、C、C、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0023】
本発明では、こうした炭素源を1400℃以上の温度を有して撹拌下にある溶融組成物と接触させる。かかる撹拌は、撹拌翼を溶融組成物中で回転させる、超音波振動子又は機械的振動子によって溶融組成物に振動を与える、溶融組成物の容器を回転させる、又はこれらの組み合わせなどによって行うことができる。
【0024】
上記のようにして、金属ケイ素及びSiOを含み1400℃以上の溶融組成物を炭素源に接触させることによって溶融組成物中にSiCを生成させ、生成したSiCをSiC種晶上に析出させるが、かかる溶融組成物中にSiCを生成させる工程と生成したSiCをSiC種晶上に析出させる工程とは、同時に行っても交互に行ってもよい。
【0025】
なお、本発明における一酸化ケイ素(SiO)は、SiOxで表わしたときに必ずしもx=1である必要はなく、SiOxで表わしたときに0.7<x<1.5であるものもまた本発明における一酸化ケイ素に含まれる。
【発明の効果】
【0026】
溶液法のSiC単結晶インゴットの製造方法において、SiCの溶解度を高めるために意図的に金属ケイ素中に異種元素を混入させる必要がなく、かつ連続的にSiC単結晶を引き上げる方法であることから、製造コストを抑えた高純度で高品質のSiC単結晶インゴットの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係る炭化ケイ素単結晶の製造方法に使用する製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のSiC単結晶インゴットの製造方法は、金属ケイ素及びSiOを含み1400℃以上の温度を有する溶融組成物を、撹拌下で炭素源に接触させて前記溶融組成物中に炭化ケイ素を生成させる工程、及び前記溶融組成物に浸漬した炭化ケイ素種晶上に前記炭化ケイ素を析出させる工程を備える。
【0029】
図1は、かかる方法に使用する装置の一態様を模式的に示す。溶融組成物10は耐熱容器11に収容され、溶融組成物10の表面上に上部空間12が存在し、溶融組成物10は、ヒーター13によって耐熱容器11の側壁を介して加熱され、ヒーター13の加熱温度を制御することで1400℃以上の適切な温度に調節される。
【0030】
耐熱容器11の体積や形状などは、析出させるSiC単結晶のサイズなどに応じて適宜設計される。ここで、限定されるものではないが、一応の目安として、直径6インチのSiC単結晶を製造する場合、耐熱容器11は、内径が20~50cmの円筒形で、内側高さは10~60cmであり、また、SiC種晶のサイズは、直径3~5インチである。
【0031】
本発明における金属ケイ素及びSiOを含み1400℃以上の温度を有する溶融組成物は、一つの態様として、耐熱容器11を利用して調製することができる。例えば、粒状又は塊状の金属ケイ素と粉状又は粒状のSiOの混合物を耐熱容器11に装填し、上部空間12をアルゴンなどの不活性雰囲気にし、ヒーター13を用いた加熱によって金属ケイ素とSiOの混合物を1400℃以上の温度に加熱しながら撹拌翼14を回転させて撹拌することによって溶融組成物10を調製することができる。
【0032】
別の態様として、溶融組成物10は、金属ケイ素と粉粒体二酸化ケイ素より調製することもできる。例えば、上記と同様に、粒状又は塊状の金属ケイ素と粉状又は粒状の二酸化ケイ素の混合物を耐熱容器11に装填し、上部空間12をアルゴンなどの不活性雰囲気にし、ヒーター13を用いた加熱によって金属ケイ素と二酸化ケイ素の混合物を1400℃以上の温度に加熱しながら撹拌翼14を回転させて撹拌することによって、少なくとも一部の二酸化ケイ素を金属ケイ素と反応させてSiOを生成させることにより、溶融組成物10を調製することもできる。
【0033】
別の態様として、溶融組成物は、Si-O結合を含むケイ素化合物を気相で溶融金属ケイ素の上部空間に供給して調製することもできる。例えば、図1の耐熱容器11に金属ケイ素を装填し、ヒーター13を用いた加熱によって金属ケイ素を溶融温度以上に加熱し、導入流路15から、例えば、SiO、シリコンテトラエトキシドなどのシリコンアルコキシド、及びジシロキサンなどのシロキサン化合物からなる群より選択された化合物をそれぞれ適切な温度で気相にして供給することで、金属ケイ素とSiOを含む溶融組成物10を調製することもできる。なお、ケイ素化合物から分解ガスが発生する場合、排気ガス流路17より排出することができる。
【0034】
このようにして得られた金属ケイ素及びSiOを含み1400℃以上の温度を有する溶融組成物10を、次いで、撹拌下で炭素源と接触させる。この溶融組成物に適用する撹拌手段は、撹拌棒16に取り付けた撹拌翼14を溶融組成物中で回転させる、超音波振動子又は機械的振動子を溶融組成物に浸漬して振動を与える、溶融組成物を入れた耐熱容器を回転させるなどが挙げられ、また、これらの撹拌手段を組み合わせてもよい。
【0035】
こうした撹拌下の溶融組成物を炭素源に接触させるには、炭素源が粉末、顆粒、又は塊状の固体の炭素物質の場合、これらの炭素源を溶融組成物に添加して混合物にし、この混合物に上記の撹拌翼14などの撹拌手段を適用すればよい。
【0036】
また、炭素源が、溶融組成物を収納する炭素製の耐熱容器自体の場合、その容器中で溶融組成物に上記の撹拌手段を適用すればよく、炭素源が気相の炭素化合物の場合、例えば、炭素含有化合物を気相で溶融組成物の上部空間に供給して溶融組成物の表面に接触させながら、溶融組成物に上記の撹拌翼14などの撹拌手段を適用すればよい。なお、ケイ素化合物から分解ガスが発生する場合、排気ガス流路17より排出することができる。
【0037】
このようにして、金属ケイ素及びSiOを含み1400℃以上の温度を有する溶融組成物10を撹拌下で炭素源と接触させることにより、溶融組成物10の中にSiCを反応生成させることができる。このSiCを生成させる反応は、上述したように、溶融金属ケイ素によって活性化されたSiOと炭素源との反応に由来し、それゆえに、SiCが単分子の状態で生成するためと推測される。
【0038】
目的とするSiC単結晶インゴットは、上記の工程によって得られたSiCを含む溶融組成物10の中にSiC種晶14を浸漬することによって、種晶上に析出させることができ、引上棒16を用いてこのSiC種晶14を連続的に引上げることによって、長尺のSiC単結晶インゴットを製造することができる。なお、図1において、SiC種晶と撹拌翼を同じ位置に14と記し、引上棒と撹拌棒を同じ位置に16と記したが、これは図面の作成上の都合に過ぎなく、両者は別なものであって別な機能を有するものと理解されたい。
【実施例0039】
図1に示す内容積50mLで二層構造の耐熱容器(内側:石英、外側:等方性黒鉛)の中に金属ケイ素の顆粒50gを入れ、ヒーターによる通電加熱によって金属ケイ素を1550℃に加熱して溶融させた。次いで、耐熱容器に機械的振動子から振動を付加しながら、導入流路よりSiO粉末20gを10分間にわたって溶融金属ケイ素の表面上に落下させた後、1時間にわたって振動を付加することで溶融金属ケイ素とSiO粉末の混合物を撹拌し、SiOと金属ケイ素を含む溶融組成物を得た。
【0040】
次いで、機械的振動子による撹拌下の溶融組成物の温度を1550℃に維持して、1気圧の上部空間に流量0.5モル/hのプロパンガスを流量2モル/hのアルゴンガスと一緒に導入流路を通して供給した。プロパンガスの熱分解ガスを含む排ガスは、大気に通じる排気ガス流路より排出した。この状態を5時間にわたって維持して溶融組成物中にSiCを生成させ、SiCを9.5重量%含む溶融組成物を調製した。
【0041】
次いで、溶融組成物の温度を1550℃に維持したまま撹拌を停止し、図1に示すように溶融組成物の中に4H-SiC種晶を浸漬し、溶融組成物の中に深さ5mmまで浸漬した種晶の10×10mmの下面を1mm/hの速度で引上げて観察した。この結果、4H-SiC種晶の下面に4H-SiC単結晶が生成していることが確認され、この単結晶の成長速度は、190μm/hであった。
【比較例1】
【0042】
SiO粉末を使用しない以外は実施例1と同様に、図1に示す耐熱容器を用い、金属ケイ素を1550℃に加熱して溶融させ、撹拌下の溶融金属ケイ素をプロパンガスに暴露し、溶融金属ケイ素中にSiCを生成させ、SiCを0.25重量%含む溶融組成物を調製した。
【0043】
次いで、この溶融組成物の温度を1550℃に維持したまま撹拌を停止し、4H-SiC種晶の下面を溶融組成物の中に深さ5mmまで浸漬し、1mm/hの速度で引上げた結果、4H-SiC種晶の下面に4H-SiC単結晶が生成していることが確認され、この単結晶の成長速度は、10μm/h未満であった。
【実施例0044】
実施例1と同様に図1に示す耐熱容器を用い、金属ケイ素の顆粒50gを1550℃に加熱して溶融させた。次いで、20gのSiO粉末を1400℃に加熱して徐々に昇華させ、アルゴンを0.3モル/hの流量でキャリアガスとしてSiO昇華ガスに同伴させ、導入流路を通して1時間かけて上部空間に導入し、SiOを撹拌下の溶融金属ケイ素に接触させ、溶融組成物を得た。
【0045】
次いで、機械的振動子により撹拌下にある溶融組成物の温度を1550℃に維持して、炭素微粉末15gを導入流路から供給し、この状態を5時間にわたって維持して溶融組成物中にSiCを生成させ、SiCを15.3重量%含む溶融組成物を調製した。
【0046】
次いで、溶融組成物の温度を1550℃に維持したまま撹拌を停止し、図1に示すように10×10mmの4H-SiC種晶の下面を溶融組成物の中に深さ5mmまで浸漬し、1mm/hの速度で引上げた結果、4H-SiC種晶の下面に4H-SiC単結晶が生成していることが確認され、この単結晶の成長速度は、230μm/hであった。
【実施例0047】
実施例1と同様に図1に示す耐熱容器を用い、金属ケイ素の顆粒50gを1550℃に加熱して溶融させた。次いで、10gのSiO2微粉末を導入流路から1時間かけて上部空間に導入し、SiO2微粉末と溶融金属ケイ素を5時間にわたって撹拌し、SiOと金属ケイ素を含む溶融組成物を得た。
【0048】
次いで、機械的振動子により撹拌下にある溶融組成物の温度を1550℃に維持して、圧力0.1MPaの上部空間に流量1.5モル/hのメタンガスを流量2モル/hのアルゴンガスと一緒に導入流路を通して供給した。メタンガスの熱分解ガスを含む排ガスは、大気に通じる排気ガス流路より排出した。この状態を5時間にわたって維持して溶融組成物中にSiCを生成させ、SiCを7.3重量%含む溶融組成物を調製した。
【0049】
次いで、溶融組成物の温度を1550℃に維持したまま撹拌を停止し、図1に示すように10×10mmの4H-SiC種晶の下面を溶融組成物の中に深さ5mmまで浸漬し、1mm/hの速度で引上げた結果、4H-SiC種晶の下面に4H-SiC単結晶が生成していることが確認され、この単結晶の成長速度は、150μm/hであった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
従来の改良レーリー法に比較してプロセス温度が格段に低く、従来の溶液法のような金属ケイ素に意図的に異種元素を混入させる必要のない、新規な溶液法による高純度なSiC単結晶インゴットの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
10‥溶融組成物
11‥耐熱容器
12‥上部空間
13‥ヒーター
14‥SiC種晶又は撹拌翼
15‥導入流路
16‥引上棒又は撹拌棒
17‥排気ガス流路



図1