(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142440
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】建物仕様抽出システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/08 20120101AFI20241003BHJP
【FI】
G06Q50/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054579
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 翔平
(72)【発明者】
【氏名】伊東 亜矢子
(72)【発明者】
【氏名】久野 悠太
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC07
5L050CC07
(57)【要約】
【課題】複数の建物仕様のそれぞれに対して、評価された複数の環境指標に応じて、最適な建物仕様を、簡単に抽出することができる建物仕様抽出システムを提供する。
【解決手段】建物仕様抽出システム1の処理装置10は、複数の建物仕様a、b、…と、建物仕様ごとに紐付けられた複数の環境指標A~Eの評価スコアとが、登録された登録部11と、登録部11に記憶された複数の環境指標A~Eから、入力装置20を介して、複数の環境指標を選択する選択部12と、評価スコアが設定された建物仕様ごとに、選択された複数の環境指標の評価スコアから、複数の環境指標が複合した複合指標Sとなる複合スコアを算出する算出部13と、建物仕様ごとの複合スコアに基づいて、建物仕様a、b、…から、少なくとも1つの建物仕様を抽出する抽出部14と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の建物仕様のそれぞれに対して、複数の環境指標に応じて評価された評価スコアに基づいて、前記評価スコアが設定された前記複数の建物仕様から、少なくとも1つの建物仕様を抽出する処理装置を備えた建物仕様抽出システムであって、
前記処理装置は、
前記複数の建物仕様と、前記建物仕様ごとに紐付けられた前記複数の環境指標の前記評価スコアとが、登録された登録部と、
前記登録部に記憶された前記複数の環境指標から、入力装置を介して、複数の環境指標を選択する選択部と、
前記評価スコアが設定された建物仕様ごとに、選択された複数の前記環境指標の評価スコアから、前記複数の環境指標が複合した複合指標となる複合スコアを算出する算出部と、
前記建物仕様ごとの前記複合スコアに基づいて、前記建物仕様から、少なくとも1つの建物仕様を抽出する抽出部と、
を備えることを特徴とする建物仕様抽出システム。
【請求項2】
前記複数の環境指標は、自然採光に関する指標、暑さ・寒さ対策に関する指標、まぶしさ対策に関する指標、眺望・開放感に関する指標、および、省エネルギに関する指標を、少なくとも含むことを特徴とする請求項1に記載の建物仕様抽出システム。
【請求項3】
前記算出部は、前記複数の環境指標のうち、前記暑さ・寒さ対策に関する指標の評価スコアが、所定の値以下となる建物仕様を、前記複合スコアを算出する前記複数の建物仕様から除外することを特徴とする請求項2に記載の建物仕様抽出システム。
【請求項4】
前記算出部は、
前記選択部で選択された前記複数の環境指標を直交座標系の軸として設定し、
前記直交座標系に、前記建物仕様ごとの前記評価スコアで特定される評価点と、前記各環境指標の最大値となる基準点をプロットし、
前記評価点と前記基準点との距離を、前記複合指標とし、前記建物仕様ごとの前記複合スコアを算出し、
前記抽出部は、前記複合スコアが、予め設定された数値以下となる前記建物仕様を抽出することを特徴とする請求項1に記載の建物仕様抽出システム。
【請求項5】
前記複数の環境指標ごとの前記評価スコアは、前記各環境指標の最大値を同じ値となるように正規化されたものであり、
前記抽出部は、前記複合スコアが、前記複数の建物仕様を抽出した際には、
抽出された前記建物仕様の評価スコアのうち、前記選択部で選択された前記複数の環境指標の前記評価スコアを変量とした分散を、前記建物仕様ごとに算出し、
前記分散が最小となる前記建物仕様をさらに抽出することを特徴とする請求項4に記載の建物仕様抽出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の建物仕様のそれぞれに対して、複数の環境指標に応じて評価された評価スコアに基づいて、評価スコアが設定された複数の建物仕様から、少なくとも1つの建物仕様を抽出する建物仕様抽出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建物の仕様(建物仕様)を決定するために、様々なシステムが利用されている。たとえば、特許文献1には、開口部を有する外装の設計を支援するシステムが提案されている。このシステムでは、建物内の空間に射し込む直達光に関する指標と、建物内の空間に射し込む間接光に関する指標と、前記外装を作製するためのコストに関する指標と、を含む評価関数の各変数を最適化して、外装の設計候補を取得している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のシステムでは、特定の指標に対して定式化をした上で、最適な外装を選択しているが、たとえば、建物によっては、様々な環境指標があり、これらの環境指標を選択するようなことはできず、建物仕様の要求に応じた建物仕様を特定することは難しい。
【0005】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数の建物仕様のそれぞれに対して、評価された複数の環境指標に応じて、最適な建物仕様を、簡単に抽出することができる建物仕様抽出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を鑑みて、本発明に係る建物仕様抽出システムは、複数の建物仕様のそれぞれに対して、複数の環境指標に応じて評価された評価スコアに基づいて、前記評価スコアが設定された前記複数の建物仕様から、少なくとも1つの建物仕様を抽出する処理装置を備えた建物仕様抽出システムであって、前記処理装置は、前記複数の建物仕様と、前記建物仕様ごとに紐付けられた前記複数の環境指標の前記評価スコアとが、登録された登録部と、前記登録部に記憶された前記複数の環境指標から、入力装置を介して、複数の環境指標を選択する選択部と、前記評価スコアが設定された建物仕様ごとに、選択された複数の前記環境指標の評価スコアから、前記複数の環境指標が複合した複合指標となる複合スコアを算出する算出部と、前記建物仕様ごとの前記複合スコアに基づいて、前記建物仕様から、少なくとも1つの建物の建物仕様を抽出する抽出部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、選択部により、まず、登録部に記憶された複数の環境指標から、入力装置を介して、複数の環境指標を選択することができる。次に、算出部により、評価スコアが設定された建物仕様ごとに、選択された複数の環境指標の評価スコアから、複数の環境指標が複合した複合指標となる複合スコアを算出することができる。最後に、抽出部では、建物仕様ごとの複合スコアに基づいて、複数の建物仕様から、少なくとも1つの建物仕様を抽出することができる。このようにして、複数の建物仕様のそれぞれに対して、評価された複数の環境指標に応じて、最適な建物仕様を、簡単に抽出することができる。
【0008】
このようにして、本発明によれば、評価スコアが登録された複数の環境指標のうち、所望の環境指標を選択すれば、選択した複数の環境指標を複合した複合指標となる複合スコアを算出することができる。この複合スコアを用いれば、複数の環境指標を反映した建物仕様を簡単に抽出することができる。
【0009】
より好ましい態様としては、前記複数の環境指標は、自然採光に関する指標、暑さ・寒さ対策に関する指標、まぶしさ対策に関する指標、眺望・開放感に関する指標、および、省エネルギに関する指標を、少なくとも含む。
【0010】
これらの環境指標は、他の環境指標の評価スコアに影響を与える。そこで、この態様では、これらの複数の環境指標に、上述した指標を含むことにより、選択した複数の環境指標に最適な建物仕様を簡単に抽出することができる。
【0011】
より好ましい態様としては、前記算出部は、前記複数の環境指標のうち、前記暑さ・寒さ対策に関する指標の評価スコアが、所定の値以下となる建物仕様を、前記複合スコアを算出する前記複数の建物仕様から除外する。
【0012】
この態様によれば、暑さ・寒さ対策に関する指標は、建物の外壁(外皮)に依存した省エネの適合性に依存する指標である。したがって、暑さ・寒さ対策に関する指標の評価スコアが相対的に低い建物仕様を、登録した複数の建物仕様の中から除外すれば、建物の外皮による省エネ効率が低い建物仕様を予め除外することができる。
【0013】
より好ましい態様としては、前記算出部は、前記選択部で選択された前記複数の環境指標を直交座標系の軸として設定し、前記直交座標系に、前記建物仕様ごとの前記評価スコアで特定される評価点と、前記各環境指標の最大値となる基準点をプロットし、前記評価点と前記基準点との距離を、前記複合指標とし、前記建物仕様ごとの前記複合スコアを算出し、前記抽出部は、前記複合スコアが、予め設定された数値以下となる前記建物仕様を抽出する。
【0014】
この態様によれば、選択された複数の環境指標の評価スコアを、直交座標系の評価点としてプロットし、このプロットした基準点と評価点とを距離を算出する。この距離が短い建物仕様ほど(すなわち、複合スコアが小さい建物仕様ほど)、選択された複数の環境指標の評価スコアのバランスが良く高い建物仕様となる。したがって、この距離を複合スコアとし、複合スコアが、予め設定された数値以下となる条件を満たす建物仕様は、選択した環境指標のバランスが取れた建物である。したがって、この条件を満たす建物仕様を抽出すれば、より好適な環境指標の建物仕様を把握することができる。
【0015】
より好ましい態様としては、前記複数の環境指標ごとの前記評価スコアは、前記各環境指標の最大値を同じ値となるように正規化されたものであり、前記抽出部は、前記複合スコアが、前記複数の建物仕様を抽出した際には、抽出された前記建物仕様の評価スコアのうち、前記選択部で選択された前記複数の環境指標の前記評価スコアを変量とした分散を、前記建物仕様ごとに算出し、前記分散が最小となる前記建物仕様をさらに抽出する。
【0016】
この態様によれば、1つの建物仕様に対して、正規化した複数の評価スコアの分散を算出する。この算出した分散が低いものは、選択した複数の環境指標の評価スコアのバランスがとれた建物仕様である。したがって、複数の環境指標の評価スコアを変量とした分散を、建物仕様ごとに算出し、分散が最小となる建物仕様を抽出すれば、複数の環境指標の評価スコアのバランスがとれた建物仕様を抽出することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数の建物仕様のそれぞれに対して、評価された複数の環境指標に応じて、最適な建物仕様を、簡単に抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る建物仕様抽出システムの概略図である。
【
図2】
図1に示す登録部による登録状態を示すイメージ図である。
【
図3】
図1に示す登録部に記載の環境指標の説明するための表図である。
【
図4】
図1に示す選択部に入力される選択画面を示した図である。
【
図5】
図1に示す算出部の算出イメージを示した図である。
【
図6】
図5に示す算出部の別の算出イメージを示した図である。
【
図7】
図1に示す抽出部により、建物仕様f~hに対して、分散の算出結果を示した表である。
【
図8】
図1に示す建物仕様抽出システムのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1~
図8を参照しながら、以下に、本発明の実施形態に係る建物仕様抽出システムを説明する。
【0020】
1.建物仕様抽出システム1について
図1に示すように、建物仕様抽出システム1は、複数の建物仕様から、少なくとも1つの建物仕様を抽出する処理装置10を備えている。建物仕様抽出システム1は、複数の建物仕様ごとのデータを処理装置10に入力する入力装置20と、処理装置10で抽出された建物仕様のデータ等を出力する出力装置30とをさらに備えている。入力装置20と出力装置30とは、一体型のタッチパネル方式であってもよい。この他にも、処理装置10に対して、入力装置20と出力装置30が、ネットワークを介して接続されていてもよい。
【0021】
2.処理装置10について
処理装置10は、図示しないが、演算装置と記憶装置とを有している。演算装置は、以下に示す一連の処理を実行する装置であり、記憶装置は、これらの処理を実行するプログラム等のデータが記憶された装置である。
【0022】
本実施形態では、処理装置10は、複数の建物仕様のそれぞれに対して、複数の環境指標に応じて評価された評価スコアに基づいて、評価スコアが設定された複数の建物仕様から、少なくとも1つの建物仕様を抽出する処理を行う装置である。処理装置10は、ソフトウエアとして、登録部11と、選択部12と、算出部13と、抽出部14と、を備えている。
【0023】
2-1.登録部11について
図2に示すように、登録部11は、複数の建物仕様a、b、c、…と、建物ごとの建物仕様a、b、cに紐付けられた複数の環境指標A~Eの評価スコアとが、登録されている。ここで、建物仕様は、環境指標が評価された建物の仕様であり、たとえば、建物の設計図面で示される仕様であり、建物の方位、建物の位置を、その仕様に含んでもよい。たとえば、環境指標に関連する建物仕様のみが、その指標として登録されていてもよく、建物仕様a、b、c、…が直接登録されていなくても、建物仕様a、b、c、…に関するIDが、評価スコアと紐付けられていてもよい。また、環境指標は、建物が日光、外気などの建物の周りの環境により影響を受ける際に、その建物性能を、評価するための指標である。本実施形態では、以下に示す環境指標A~Eを設定したが、それ以外の環境指標がさらに設けられていてもよい。
【0024】
図3に示すように、本実施形態では、環境指標Aは、自然採光に関する指標である。環境指標Bは、暑さ・寒さ対策に関する指標である。環境指標Cは、まぶしさ対策に関する指標である。環境指標Dは、眺望・開放感に関する指標である。環境指標Eは、省エネルギに関する指標である。さらに、これらの環境指標以外の指標が設けられていてもよい。
【0025】
環境指標A(自然採光に関する指標)は、たとえば、昼光自立率(sDA)である。昼光自立率(sDA)は、北米照明学会(IES)で提唱された「IES LM-83-12 Approved Method:IES Spatial Daylight Autonomy(sDA)and Annual Sunlight Exposure(ASE)」により、開示された一般的なパラメータである。昼光自立率(sDA)は、空間における昼光利用に対する年間指標で、その値(%)が大きいほど昼光を有効活用できているといえる。
【0026】
たとえば、昼光自立率(sDA)を、sDA300/50%と表記すると、これは室内の机上面照度が300lx以上となる年間の時間が、年間の日中時間に対して50%以上の時間となる室内領域の面積率(%)を示す。なお、これらの机上面照度および比率等は、同じ条件のものを用いて、環境指標Aに応じた値が算出される。なお、建物仕様ごとに算出した昼光自立率(sDA)の値を、評価スコアとしてもよいが、本実施形態では、後述する手法で、これらの値を、1~10の値となるように、正規化したものを評価スコアとする。したがって、自然採光に関する指標の評価スコアが高いものほど、自然採光の利用率が高い建物仕様であるといえる。
【0027】
環境指標B(暑さ・寒さ対策に関する指標)は、たとえば、空調省エネ削減率である。空調省エネ削減率は、ある建物仕様において冷暖房負荷計算で算出された値が、BPI算定時の地域ごとの基準仕様に基づく値に対してどれだけ削減できているかを示す。ここで、BPI(Building Palstar Index)とは、省エネ法改正に伴い設けられたPAL(外皮基準の指標)により算出される年間熱負荷の基準のこととをいう。BPI=設計PAL/基準PALで表すことができ、PAL(パルスター)は、建物の屋内周囲空間の床面積当たりの年間熱負荷のことをいう。したがって、空調省エネ削減率は、建物仕様に算出されるBPIに対して、その建物が、たとえば外壁などの構造、材料、窓の大きさなどの建物の固有仕様により、建物の断熱性、保冷性の仕様が決まり、この仕様によりどの程度削減できるかを、その割合を算出すればよい。なお、建物仕様a、b、c…ごとに算出した環境指標Bの値を、評価スコアとしてもよいが、本実施形態では、後述する手法で、これらの値を、1~10の値となるように、正規化したものを評価スコアとする。暑さ・寒さ対策に関する指標の評価スコアが高いものほど、空調による消費エネルギの削減率が高い、省エネの建物仕様であるといえる。
【0028】
環境指標C(まぶしさ対策に関する指標)は、たとえば、昼光暴露率(ASE)に基づく指標である。昼光暴露率(ASE)は、「IES LM-83-12 Approved Method:IES Spatial Daylight Autonomy(sDA)and Annual Sunlight Exposure(ASE)」により、開示された一般的なパラメータである。昼光暴露率(ASE)は、空間において直射日光による不快感が生じる可能性を示す年間指標で、その値(%)が小さいほど不快感が生じる可能性が低いといえる。
【0029】
たとえば、昼光暴露率(ASE)を、ASE1000/250と表記すると、室内の机上面照度が1000lx以上となる年間の時間が、250時間以上となる室内領域の面積率(%)を示す。なお、これらの机上面照度および時間等は、同じ条件のものを用いて、環境指標Cに応じた値が算出される。環境指標Cの評価スコアは、その値が大きいものほど、まぶしさ対策をされているといえることから、環境指標Cの評価スコアは、100-昼光暴露率(ASE)(%)または、昼光暴露率(ASE)(%)の逆数を用いてもよい。なお、建物仕様a、b、c…ごとに算出した環境指標Cの値を、評価スコアとしてもよいが、本実施形態では、後述する手法で、これらの値が1~10の値となるように、正規化している。まぶしさ対策に関する指標の評価スコアが高いものほど、直射日光による不快感が低い建物仕様であるといえる。
【0030】
環境指標D(眺望・開放感に関する指標)は、室内の窓などの開口部から見える視界率である。室内から屋外が見える度合いで、数値が高いほど視野性に優れていることを示す。視界率は、たとえば、室内を形成する外壁面の面積に対する窓の面積の割合である。たとえば、窓のルーバが設けられている場合には、その窓の面積から、窓に投影したルーバの面積を減算した値を用いる。その他に、視界率は、ガラスの透過率、人間の目の特性を加味して、算出されてもよい。なお、建物仕様a、b、c…ごとに算出した環境指標Dの値を、評価スコアとしてもよいが、本実施形態では、後述する手法で、これらの値を、1~10の値となるように、正規化したものを評価スコアとする。眺望・開放感に関する指標の評価スコアが高いものほど、室内から室外を見た時の視野性に優れた建物仕様であるといえる。
【0031】
環境指標E(省エネルギに関する指標)は、一次エネルギ削減率である。一次エネルギ削減率は、その建物の室内空間において、建物の消費エネルギのうち、空調の消費エネルギの割合と、照明の消費エネルギの割合を所定の比率で按分した上で、建物の総合的なエネルギ削減率を算出したものである。環境指標Bでは、BPIを基準に建物の外壁(外皮)の構造に基づいて算出したが、この環境指標Eでは、空調消費エネルギは、室内を形成の内壁を構成する構造、材料等をさらに加味した値であってもよい。なお、建物仕様a、b、c…ごとに算出した環境指標Eの値を、評価スコアとしてもよいが、本実施形態では、後述する手法で、これらの値を、1~10の値となるように、正規化したものを評価スコアとする。省エネルギに関する指標の評価スコアが高いものほど、建物全体としての消費エネルギの削減率が高い建物仕様であるといえる。
【0032】
環境指標A~Eの0~10に正規化された評価スコアは、以下のようにして算出してもよい。建物仕様の環境指標Aで演算した評価対象となる建物仕様の昼光自立率(sDA)の値を、すべての建物仕様の環境指標Aの昼光自立率(sDA)の中の最大値で除算することにより、評価対象となる建物仕様の評価スコアを算出してもよい。その他にも、建物仕様の環境指標Aで演算した評価対象となる建物仕様の昼光自立率(sDA)の値を、すべての建物仕様の環境指標Aの昼光自立率(sDA)の中の最小値で減算した第1の減算値を、すべての建物仕様の環境指標Aの昼光自立率(sDA)の中の最大値を最小値で減算した第2の減算値で除算することにより、評価対象となる建物仕様の評価スコアを算出してもよい。同様の方法で、環境指標B~Eの正規化された評価スコアを算出してもよい。
【0033】
これらの環境指標A~Eは、他の環境指標の評価スコアに影響を与える。たとえば、自然採光に関する指標の評価スコアが高くなると、まぶしさ対策に関する指標の評価スコアが低くなる傾向にある。同様に、眺望・開放感に関する指標の評価スコアが高くなると、暑さ・寒さ対策に関する評価スコアが低くなる傾向にある。そこで、この態様では、これらの複数の環境指標に、上述した指標を含ませることにより、選択した複数の環境指標に適した建物仕様を簡単に抽出することができる。
【0034】
2-2.選択部12について
選択部12は、登録部11に記憶された複数の環境指標から、入力装置20を介して、複数の環境指標を選択する。具体的には、出力装置30には、処理装置10からの出力情報として、
図4に示す選択画面が表示され、入力装置20を操作することにより、操作者は、いくつかの複数の環境指標を選択する。これにより、選択部12は、登録部11に登録された複数の環境指標A~Eから、複数の環境指標を選択する。ここでは、選択部12は、2または3の環境指標を選択されるように設定されている。
図4では、暑さ・寒さ対策に関する指標と、眺望・開放感に関する指標とが選択されている。
【0035】
2-3.算出部13について
算出部13は、評価スコアが設定された建物仕様ごとに、選択された複数の環境指標の評価スコアから、選択された複数の環境指標が複合した複合指標となる複合スコアを算出する。ここで、算出部13は、たとえば、暑さ・寒さ対策に関する指標の評価スコアが、所定の値以下となる建物仕様を、複合スコアを算出する複数の建物仕様から除外してもよい。選択部12で、暑さ・寒さ対策に関する指標(環境指標B)が選択されていない場合に、このような除外を行うことが有効である。
【0036】
暑さ・寒さ対策に関する指標は、建物の外壁(外皮)に依存した空調の省エネの適合性に依存する指標である。したがって、暑さ・寒さ対策に関する指標の評価スコアが相対的に低い建物仕様を、登録した複数の建物仕様の中から除外すれば、建物の外皮によるエネルギ削減効率が低い建物仕様を予め除外することができる。特に、暑さ・寒さ対策に関する指標(環境指標B)が選択されている場合には、以下の抽出部14で、評価スコアの低い建物仕様は、除外される可能性が高いが、この環境指標Bを選択していない場合には、建物の外皮によるエネルギ削減効率が低い建物仕様を予め除外することができる。
【0037】
図5または
図6に示すように、算出部13は、以下のようにして、複合スコアを算出する。まず、算出部13は、選択部12で選択された複数の環境指標が2つまたは3つの場合、これらの環境指標を直交座標系の軸として設定する。
図5では、2つの環境指標を選択した場合の一例を示しており、たとえば環境指標A、Bを選択した場合、2次元の平面座標系に、建物仕様ごとに評価される評価点Pa、Pb、…がプロットされる。
図6では、3つの環境指標を選択した場合の一例を示しており、たとえば環境指標C~Eを選択した場合、3次元の空間座標系に、建物仕様ごとの評価スコアで特定される評価点Pa、Pb、…がプロットされる。
【0038】
上述した如く、環境指標A~Eの最大値を10として、正規化しており、
図5では、環境指標A、Bの最大値は、いずれも10であるので、算出部13は、これらの最大値の値を基準点Rとしてプロットする。
図6では、環境指標C~Eの最大値は、いずれも10であるので、算出部13は、これらの最大値の値を基準点Rとしてプロットする。算出部13は、建物仕様a、b、…の評価点Pa、Pb、…と基準点Rとの距離を、複合指標Sとし、建物仕様ごとの複合スコアを算出する。なお、
図2~7では、建物仕様a、bの評価スコアの値は、説明のための例示であり、同じ建物仕様であっても、異なる値で示していることがある。
【0039】
たとえば、
図5に示すような例の場合には、環境指標A、Bの評価スコアをそれぞれX、Y(ただし0≦X、Y≦10)とし、環境指標A、Bの指標を複合した複合指標Sの複合スコアをTとする。上述した距離(複合スコアT)は、三平方定理を用いて、以下の式1で算出することができる。
【0040】
【0041】
たとえば、
図5に示すような例の場合には、環境指標C~Eの評価スコアをそれぞれX~Z(ただし0≦X、Y、Z≦10)とし、環境指標C~Eの指標を複合した複合指標Sの複合スコアをTとする。上述した距離(複合スコアT)は、三平方定理を用いて、以下の式2で算出することができる。
【0042】
【0043】
このように、算出部13は、選択された複数の環境指標の評価スコアを、直交座標系の評価点Pa、Pb、…としてプロットし、このプロットした基準点Rと評価点Pa、Pb、…との距離を算出する。この距離が短い建物仕様ほど(すなわち、複合スコアが小さい建物仕様ほど)、選択された複数の環境指標の評価スコアのバランスが良く高い建物仕様となる。したがって、この距離を複合スコアとし、複合スコアが、予め設定された数値以下となる条件を満たす建物仕様は、選択した環境指標のバランスが取れた建物仕様である。したがって、この条件を満たす建物仕様を抽出すれば、より好適な環境指標の建物仕様を抽出することができる。
【0044】
2-4.抽出部14について
抽出部14は、建物仕様ごとの複合スコアに基づいて、複数の建物仕様から、少なくとも1つの建物仕様を抽出する。たとえば、抽出部14は、複合スコアが最小となる建物仕様を抽出してもよい。また、複合スコアが、予め設定された数値以下となる建物仕様を抽出してもよい。
【0045】
ここで、抽出部14により、複数の建物仕様を抽出した際には、以下の処理をさらに行う。具体的には、抽出部14は、抽出された建物仕様の環境指標のうち、選択部12で選択された複数の環境指標の評価スコアを変量とした分散を、建物仕様ごとに算出し、分散が最小となる建物仕様を抽出する。
【0046】
図7に示すように、建物仕様f~hは、環境指標C~Eの評価スコアは異なるが、複合指標Sの複合スコアは、略同じである。このような場合には、建物仕様f~hのそれぞれに対して、環境指標C~Eの評価スコアを変量とした分散を算出する。
図7では、建物仕様hの分散の値が最も小さいので、抽出部14は、建物仕様hを抽出する。
【0047】
このようにして、1つの建物仕様に対して、複合指標で抽出した建物仕様が複数ある場合、これらに対して正規化した複数の評価スコアの分散を算出する。この算出した分散が低いものは、選択した複数の環境指標の評価スコアのバランスがとれた建物仕様である。したがって、複数の環境指標の評価スコアを変量とした分散を、建物仕様ごとに算出し、分散が最小となる建物仕様を抽出すれば、複数の環境指標の評価スコアのバランスがとれた建物仕様を抽出することができる。
【0048】
図8を参照し、建物仕様抽出システムのフローを説明する。まず、ステップS81では、入力装置20を介して、登録部11は、複数の建物仕様a、b、c、…と、建物仕様a、b、cに紐付けられた複数の環境指標A~Eの評価スコアとを、登録する(
図2参照)。次に、ステップS82では、登録部11に記憶された複数の環境指標から、入力装置20を介して、複数の環境指標を選択する(
図4参照)。これにより、選択部12は、登録部11に登録された複数の環境指標A~Eから、複数の環境指標を選択する。
【0049】
ステップS83では、算出部13により、たとえば、暑さ・寒さ対策に関する指標の評価スコアが、所定の値(たとえば6)以下となる建物仕様を、複合スコアを算出する複数の建物仕様から除外する。たとえば、入力装置20を用いて、この除外を行うか否かを、選択できるようにしてもよい。
【0050】
ステップS84では、算出部13により、評価スコアが設定された建物仕様ごとに、選択された複数の環境指標の評価スコアから、複数の環境指標が複合した複合指標となる複合スコアを算出する。具体的には、直交座標系を用いて、複合スコアを算出する(
図5および
図6参照)。ステップS85では、抽出部14で、複合スコアが所定値以下の建物仕様を抽出する。
【0051】
なお、たとえば、ステップS82で、選択部12により、環境指標を4以上選択した場合には、ステップS84で、算出部13により、3つの環境指標のすべての組み合わせのそれぞれに対して、
図5又は
図6に示す距離を算出し、ステップS85で、抽出部14により、これらの中のすべての距離が、所定値以下を満たす建物仕様を抽出してもよい。
【0052】
さらに、ステップS86において、抽出部14により、抽出された建物仕様が、複数存在する場合には、ステップS87に進み、そうでない場合には、ステップS89に進む。ステップS87では、抽出部14は、建物仕様ごとの評価スコアを変量とした分散を算出する(
図8)。ステップS88では、抽出部14は、算出した建物仕様ごとの分散のうち、最小値となる建物仕様を抽出する。ステップS89では、抽出した建物仕様を、出力装置30に出力する。
【0053】
本実施形態によれば、まず、登録部11に登録された複数の環境指標から、入力装置20を介して、選択部12により複数の環境指標を選択することができる。次に、算出部13により、評価スコアが設定された建物仕様ごとに、選択された複数の環境指標の評価スコアから、複数の環境指標が複合した複合指標となる複合スコアを算出することができる。最後に、抽出部14では、建物仕様ごとの複合スコアに基づいて、複数の建物仕様から、少なくとも1つの建物仕様を抽出することができる。このようにして、建物仕様に対する複数の環境指標に応じて、最適な建物仕様を、簡単に抽出することができる。
【0054】
このようにして、本実施形態によれば、評価スコアが登録された複数の環境指標のうち、所望の環境指標を選択すれば、選択した複数の環境指標を複合した複合指標となる複合スコアを算出することができる。この複合スコアを用いれば、選択した複数の環境指標を反映した建物仕様を簡単に抽出することができる。
【符号の説明】
【0055】
1:建物仕様抽出システム、10:処理装置、11:登録部、12:選択部、13:算出部、14:抽出部、20:入力装置、30:出力装置