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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142442
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/14 613
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054581
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 博明
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF68
2C057AG44
2C057AG55
2C057AG60
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】液体噴射ヘッドにおいて、振動板にクラックが生じる可能性を低減できる技術を提供する。
【解決手段】液体噴射ヘッドは、積層方向において、圧電素子と振動板と補強膜と圧力室基板とが積層される。振動板は、圧電素子によって圧力室の液体に圧力を付与する。補強膜は、積層方向に垂直な方向に沿って形成され、積層方向にみたときに、隔壁と圧力室との境界に重なり、積層方向と境界から圧力室の中心に向かう方向とに平行な断面において、境界の位置としての第1位置における積層方向の補強膜の第1厚さをY1とし、第1位置よりも圧力室の中心に近い第2位置における積層方向の補強膜の第2厚さをY2とし、補強膜のうち振動板に接しない面である傾斜面の接線の傾きの絶対値であって、第1位置における第1接線の傾きの絶対値をa1とし、第2位置における第2接線の傾きの絶対値をa2としたとき、Y1>Y2および0<a1<a2を満たす。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層方向において、
電圧を印加されて変形し、第1電極と圧電体層と第2電極とを含む圧電素子と、
前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、
補強膜と、
ノズルに連通する圧力室を前記振動板とともに画定する隔壁を構成する圧力室基板と、
が積層された液体噴射ヘッドであって、
前記振動板は、前記圧電素子によって前記積層方向に前記振動されることにより、前記圧力室の液体に圧力を付与し、
前記補強膜は、前記積層方向に垂直な方向である第1方向に沿って形成され、前記積層方向にみたときに、前記隔壁と前記圧力室との境界に重なり、
前記積層方向と、前記境界から前記圧力室の中心に向かう方向と、に平行な断面において、
前記境界の位置としての第1位置における前記積層方向の前記補強膜の第1厚さをY1とし、
前記第1位置よりも前記圧力室の中心に近い第2位置における前記積層方向の前記補強膜の第2厚さをY2とし、
前記補強膜のうち前記振動板に接しない面である傾斜面の接線の傾きの絶対値であって、
前記第1位置における第1接線の傾きの絶対値をa1とし、
前記接線であって、前記第2位置における第2接線の傾きの絶対値をa2としたとき、
Y1>Y2 …(1)
および
0<a1<a2 …(2)
上記(1)式と(2)式を満たす、液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記振動板のうち、前記積層方向にみて前記第1電極と前記圧電体層と前記第2電極と前記圧力室が重なる領域を能動部とし、
前記振動板のうち、前記能動部とは異なる部分であって、前記積層方向にみて前記圧力室が重なる領域を非能動部としたとき、
前記補強膜は、前記能動部に形成されておらず、前記非能動部の一部に形成されている、液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項2に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記振動板において、
前記積層方向における、前記圧電素子が設けられている面を第1面とし、前記圧力室基板が設けられている面を第2面としたときに、
前記補強膜は、前記第1面に形成される、液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項2に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記振動板において、
前記積層方向における、前記圧電素子が設けられた面を第1面とし、前記圧力室基板が設けられた面を第2面としたときに、
前記補強膜は、前記第2面に形成される、液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記補強膜は、
前記境界と前記圧力室の中心に最も近い前記補強膜の端部との、前記境界から前記圧力室の中心に向かう方向における第1距離をLとし、前記第1位置からの前記第2位置までの第2距離をX2としたときに、
【数1】
上記(3)式を満たす、液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記補強膜は、
前記圧電素子に近いほど前記厚さが小さくなり、
前記傾斜面上において、前記厚さの段差による凹部を備え、
前記断面において、
前記凹部は、前記第2位置よりも前記圧力室の中心に近い位置に配され、
前記補強膜は、さらに、
前記凹部の位置としての第3位置における前記積層方向の前記補強膜の第3厚さをY3とし、
前記凹部よりも前記圧力室の中心に近い第4位置における前記積層方向の前記補強膜の第4厚さをY4とし、
前記接線であって、
前記第3位置における第3接線の傾きの絶対値をa3とし、
前記第4位置における第4接線の傾きの絶対値をa4としたとき、
Y1>Y2>Y3>Y4 …(4)
a3<a2 …(5)
0<a3<a4 …(6)
上記(4)式と(5)式と(6)式を満たす、液体噴射ヘッド。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記補強膜は、前記振動板と共通の材料で構成されている、液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記補強膜は、前記圧電体層と共通の材料で構成されている、液体噴射ヘッド。
【請求項9】
積層方向において、
電圧を印加されて変形し、第1電極と圧電体層と第2電極とを含む圧電素子と、
前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、
補強膜と、
ノズルに連通する圧力室を前記振動板とともに画定する隔壁を構成する圧力室基板と、
が積層された液体噴射ヘッドであって、
前記振動板は、前記圧電素子によって前記積層方向に前記振動されることにより、前記圧力室の液体に圧力を付与し、
前記補強膜は、前記積層方向に垂直な方向である第1方向に沿って形成され、前記積層方向にみたときに、前記隔壁と前記圧力室との境界に重なり、
前記積層方向と、前記境界から前記圧力室の中心に向かう方向と、に平行な断面において、
前記境界の位置としての第1位置における前記積層方向の前記補強膜の第1厚さをY1とし、
前記第1位置よりも前記圧力室の中心に近い第2位置における前記積層方向の前記補強膜の第2厚さをY2とし、かつ、
前記境界と前記圧力室の中心に最も近い前記補強膜の端部との前記第1方向における第1距離をLとし、前記第1位置からの前記第2位置までの第2距離をX2としたときに、
【数1】
上記(3)式を満たす、液体噴射ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体噴射ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のように、液体噴射ヘッドにおいて、振動板に補強膜を設けて、振動板におけるクラックの発生を抑制することが知られている。振動板には、隣接する圧力室を隔てる隔壁上に位置する部分と、圧力室上に位置する部分と、の境界部分が存在する。振動板は、隔壁と接続されていることで、境界部分を支点に振動する。すなわち、このクラックの発生は、振動板において、境界部分に応力集中が生じることに起因する。よって、補強膜は、境界部分に沿って形成される。補強膜は、圧力室の存在する振動板の面に対して反対側の面に形成される。補強膜は、この反対側の面から境界部分を覆うように形成される。このため、補強膜は、境界部分を支点とした振動板の変形を抑制することで、振動板の境界部分の応力集中を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-5924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、補強膜を設けた場合も、振動板は、境界部分以外を支点に振動する。具体的には、補強膜の設けられた部分と設けられていない部分との境界、すなわち、補強膜の端部を支点として、振動板は振動する。このため、応力集中は、補強膜の端部に生じる虞がある。したがって、依然としてクラックが生じるリスクが残る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
本開示の第1の形態によれば、液体噴射ヘッドが提供される。この液体噴射ヘッドは、積層方向において、電圧を印加されて変形し、第1電極と圧電体層と第2電極とを含む圧電素子と、前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、補強膜と、ノズルに連通する圧力室を前記振動板とともに画定する隔壁を構成する圧力室基板と、が積層された液体噴射ヘッドである。前記振動板は、前記圧電素子によって前記積層方向に前記振動されることにより、前記圧力室の液体に圧力を付与する。前記補強膜は、前記積層方向に垂直な方向である第1方向に沿って形成され、前記積層方向にみたときに、前記隔壁と前記圧力室との境界に重なり、前記積層方向と、前記境界から前記圧力室の中心に向かう方向と、に平行な断面において、前記境界の位置としての第1位置における前記積層方向の前記補強膜の第1厚さをY1とし、前記第1位置よりも前記圧力室の中心に近い第2位置における前記積層方向の前記補強膜の第2厚さをY2とし、前記補強膜のうち前記振動板に接しない面である傾斜面の接線の傾きの絶対値であって、前記第1位置における第1接線の傾きの絶対値をa1とし、前記接線であって、前記第2位置における第2接線の傾きの絶対値をa2としたとき、
Y1>Y2 …(1)
および
0<a1<a2 …(2)
上記(1)式と(2)式を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】液体吐出装置500の概略構成を示すブロック図である。
図2】液体噴射ヘッド510の構成を示す分解斜視図である。
図3】液体噴射ヘッド510の構成を平面視で示す説明図である。
図4図3のIV-IV位置を示す断面図である。
図5】圧電素子300近傍を拡大して示す断面図である。
図6図3のVI-VI断面図である。
図7図3における溝部71近傍を拡大して示す平面図である。
図8図6における補強膜51の近傍を拡大して示す断面図である。
図9】補強膜51の断面形状を示す断面図である。
図10】補強膜51の端部51sの厚さYを規定する曲線を示す説明図である。
図11】変位前の振動板50の断面を示す説明図である。
図12】変位前の補強膜Obと振動板50の断面を示す説明図である。
図13】変位前の補強膜51と振動板50の断面を示す説明図である。
図14】変位後の振動板50の断面を示す説明図である。
図15】変位後の補強膜Obと振動板50の断面を示す説明図である。
図16】変位後の補強膜51と振動板50の断面を示す説明図である。
図17】変位後の振動板50の斜視図である。
図18】変位後の補強膜Obと振動板50の斜視図である。
図19】変位後の補強膜51と振動板50の斜視図である。
図20】補強膜51bの断面形状を示す断面図である。
図21】第3実施形態の圧力室12cの断面を示す断面図である。
図22】第3実施形態の変位後の振動板50を示す説明図である。
図23】第4実施形態の補強膜51dを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
A1.液体吐出装置の全体構成:
図1は、本開示の第1実施形態としての液体噴射ヘッド510を備える液体吐出装置500の概略構成を示すブロック図である。本実施形態において、液体吐出装置500は、インクジェット式プリンターとして構成され、印刷用紙Pにインクを吐出して画像を形成する。図1には、相互に直交する3つの軸であるX軸、Y軸およびZ軸が表されている。他の図面に記載のX軸、Y軸およびZ軸は、いずれも図1のX軸、Y軸およびZ軸に対応する。向きを特定する場合には、正の方向を「+」、負の方向を「-」として、方向表記に正負の符合を併用する。
【0009】
液体吐出装置500は、液体噴射ヘッド510と、インクタンク550と、搬送機構560と、移動機構570と、制御ユニット540とを備える。
【0010】
液体噴射ヘッド510は、多数のノズル21を有し、-Y方向にインクを吐出して印刷用紙P上に画像を形成する。液体噴射ヘッド510の構成は、後に詳細に説明する。吐出するインクとしては、例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの合計4色のインクが挙げられる。なお、液体噴射ヘッド510は、移動機構570が有する後述のキャリッジ572に搭載され、キャリッジ572の移動とともに主走査方向に往復移動する。本実施形態において、主走査方向は、+Z方向および-Z方向である。+Z方向および-Z方向を「Z軸方向」とも呼ぶ。
【0011】
インクタンク550は、液体噴射ヘッド510から吐出するインクを収容する。インクタンク550は、キャリッジ572には搭載されていない。インクタンク550と液体噴射ヘッド510とは、樹脂製のチューブ552によって接続されており、かかるチューブ552を介してインクタンク550から液体噴射ヘッド510へとインクが供給される。
【0012】
搬送機構560は、印刷用紙Pを副走査方向に搬送する。副走査方向は、主走査方向であるZ軸方向と直交する方向であり、本実施形態では、+X方向および-X方向である。+X方向および-X方向を「X軸方向」とも呼ぶ。搬送機構560は、3つの搬送ローラー562が装着された搬送ロッド564と、搬送ロッド564を回転駆動する搬送用モーター566とを備える。搬送用モーター566が搬送ロッド564を回転駆動することにより、複数の搬送ローラー562が回転して印刷用紙Pが副走査方向である+X方向に搬送される。
【0013】
移動機構570は、前述のキャリッジ572に加えて、搬送ベルト574と、移動用モーター576と、プーリー577とを備える。キャリッジ572は、インクを吐出可能な状態で液体噴射ヘッド510を搭載する。キャリッジ572は、搬送ベルト574に取り付けられている。搬送ベルト574は、移動用モーター576とプーリー577との間に架け渡されている。移動用モーター576が回転モーターことにより、搬送ベルト574は、主走査方向に往復移動する。これにより、搬送ベルト574に取り付けられているキャリッジ572も、主走査方向に往復移動する。
【0014】
制御ユニット540は、液体吐出装置500の全体を制御する。例えば、制御ユニット540は、キャリッジ572の主走査方向に沿った往復動作や、印刷用紙Pの副走査方向に沿った搬送動作を制御する。本実施形態において、制御ユニット540は、後述の圧電アクチュエーターの駆動制御部としても機能する。すなわち、制御ユニット540は、液体噴射ヘッド510に駆動信号を出力して圧電アクチュエーターを駆動させることにより、印刷用紙Pへのインク吐出を制御する。制御ユニット540は、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路と半導体メモリー等の記憶回路により構成されている。
【0015】
A2.液体噴射ヘッドの詳細構成:
図2は、液体噴射ヘッド510の構成を示す分解斜視図である。図3は、液体噴射ヘッド510の構成を平面視で示す説明図である。図3では、液体噴射ヘッド510における圧力室基板10周辺の構成が示されている。図3では、技術の理解を容易にするために、保護基板30、ケース部材40が省略されている。図4は、図3のIV-IV位置を示す断面図である。
【0016】
液体噴射ヘッド510は、図2に示すように、圧力室基板10と、連通板15と、ノズルプレート20と、コンプライアンス基板45と、保護基板30と、ケース部材40と、配線基板120と、を有し、さらに、図3に示す圧電素子300と、図4に示す振動板50と、を有している。圧力室基板10、連通板15、ノズルプレート20、コンプライアンス基板45、振動板50、圧電素子300、保護基板30、およびケース部材40は、積層部材であり、積層されることで液体噴射ヘッド510を形成する。本開示において、液体噴射ヘッド510を形成する積層部材が積層される方向を、積層方向Am10とも呼ぶ。+Y方向および-Y方向を「Y軸方向」とも呼ぶ。積層方向Am10は+Y軸方向に沿った方向でもある。
【0017】
圧力室基板10は、例えば、シリコン基板を用いて形成されている。図3に示すように、圧力室基板10には、複数の圧力室12が、圧力室基板10において予め定められた方向に沿って配列されている。複数の圧力室12が配列される方向を、配列方向Am21とも呼ぶ。+X方向および-X方向を「X軸方向」とも呼ぶ。配列方向Am21は、X軸方向に沿った方向でもある。圧力室12は、平面視においてZ軸方向の長さがX軸方向の長さよりも長い長方形状で形成されている。
【0018】
本実施形態では、複数の圧力室12は、それぞれX軸方向を配列方向Am21とする2つの列で配列されている。図3の例では、圧力室基板10には、X軸方向を配列方向Am21とする第1圧力室列Laと、X軸方向を配列方向Am21とする第2圧力室列Lbとの2つの圧力室列が形成されている。第2圧力室列Lbは、第1圧力室列Laの配列方向Am21に交差する方向において、第1圧力室列Laと隣接して配置されている。配列方向Am21に交差する方向を交差方向Am30とも呼ぶ。図3の例では、交差方向Am30は、Z軸方向であり、第2圧力室列Lbは、第1圧力室列Laの-Z方向に隣接している。
【0019】
第1圧力室列Laに属する複数の圧力室12と、第2圧力室列Lbに属する複数の圧力室12とは、それぞれ配列方向Am21での位置が互いに一致し、交差方向Am30では互いに隣接するように配置されている。各圧力室列において、X軸方向で互いに隣接する圧力室12は、後述するように、図6に示す隔壁11によって区画されている。
【0020】
図2に示すように、圧力室基板10の-Y方向側には、連通板15と、ノズルプレート20およびコンプライアンス基板45とが順に積層されている。連通板15は、例えば、シリコン基板を用いた平板状の部材である。図4に示すように、連通板15には、ノズル連通路16と、第1マニホールド部17と、第2マニホールド部18と、供給連通路19とが設けられている。
【0021】
図4に示すように、ノズル連通路16は、圧力室12と、ノズル21とを連通する流路である。第1マニホールド部17および第2マニホールド部18は、複数の圧力室12が連通する共通液室となるマニホールド100の一部として機能する。第1マニホールド部17は、連通板15をY軸方向に貫通して設けられている。また、第2マニホールド部18は、図4に示すように、連通板15をY軸方向に貫通することなく、連通板15の-Y方向側の面に設けられている。
【0022】
供給連通路19は、圧力室12のZ軸方向の一方の端部に連通する流路である。供給連通路19は、複数であり、X軸方向、すなわち配列方向Am21に沿って配列され、圧力室12の各々に個別に設けられている。供給連通路19は、第2マニホールド部18と各圧力室12とを連通して、マニホールド100内のインクを各圧力室12に供給する。
【0023】
ノズルプレート20は、連通板15を挟んで圧力室基板10とは反対側、すなわち、連通板15の+Y方向側の面に設けられている。ノズルプレート20の材料としては、例えば、シリコン基板である。
【0024】
ノズルプレート20には、複数のノズル21が形成されている。各ノズル21は、ノズル連通路16を介して各圧力室12と連通している。図2に示すように、複数のノズル21は、圧力室12の配列方向Am21、すなわちX軸方向に沿って配列されている。ノズルプレート20には、これら複数のノズル21が列設されたノズル列が2列設けられている。2つのノズル列は、第1圧力室列La、第2圧力室列Lbにそれぞれ対応する。
【0025】
図4に示すように、コンプライアンス基板45は、ノズルプレート20とともに、連通板15を挟んで圧力室基板10とは反対側、すなわち、連通板15の+Y方向側の面に設けられている。コンプライアンス基板45は、ノズルプレート20の周囲に設けられ、連通板15に設けられた第1マニホールド部17および第2マニホールド部18の開口を覆う。本実施形態では、コンプライアンス基板45は、可撓性を有する薄膜からなる封止膜46と、金属等の硬質の材料からなる固定基板47と、を備えている。図4に示すように、固定基板47のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部48となっている。このため、マニホールド100の一方面は、封止膜46のみで封止されたコンプライアンス部49となっている。
【0026】
図4に示すように、圧力室基板10を挟んでノズルプレート20等とは反対側、すなわち圧力室基板10の-Y方向側の面には、振動板50と、圧電素子300とが積層されている。圧電素子300は、振動板50を撓み変形させて圧力室12内のインクに圧力変化を生じさせる。図4では、技術の理解を容易にするために、圧電素子300の構成については簡略化して示している。圧電素子300については、後に詳細に説明する。振動板50は、圧電素子300の-Y方向側に設けられ、圧力室基板10は、振動板50の+Y方向側に設けられている。
【0027】
図4に示すように、圧力室基板10の+Y方向側の面には、さらに、圧力室基板10と略同じ大きさを有する保護基板30が接着剤等によって接合されている。保護基板30は、圧電素子300を保護する空間である保持部31を有する。保持部31は、配列方向Am21に沿って配列された圧電素子300の列毎に設けられたものであり、本実施形態では、Z軸方向に2列で並んで形成されている。また、保護基板30において、2列の保持部31の間に、X軸方向に沿って延伸しY軸方向に沿って貫通する貫通孔32が設けられている。
【0028】
図4に示すように、保護基板30上には、ケース部材40が固定されている。ケース部材40は、複数の圧力室12に連通するマニホールド100を、連通板15とともに形成している。ケース部材40は、平面視において連通板15と略同一の外形形状を有し、保護基板30と、連通板15とに亘って接合されている。
【0029】
ケース部材40は、収容部41と、供給口44と、第3マニホールド部42と、接続口43と、を有している。収容部41は、圧力室基板10および保護基板30を収容可能な深さを有する空間である。第3マニホールド部42は、ケース部材40において、収容部41のZ軸方向における両外側に形成されている空間である。第3マニホールド部42と、連通板15に設けられた第1マニホールド部17および第2マニホールド部18とが接続されることによって、マニホールド100が形成されている。マニホールド100は、X軸方向に亘って連続する長尺な形状を有している。供給口44は、マニホールド100に連通して各マニホールド100にインクを供給する。接続口43は、保護基板30の貫通孔32に連通する貫通孔であり、配線基板120が挿通される。
【0030】
本実施形態の液体噴射ヘッド510では、図1に示すインクタンク550から供給されるインクが、図4に示す供給口44から取り込まれる。マニホールド100からノズル21に至るまで内部の流路をインクで満たした後、複数の圧力室12に対応するそれぞれの圧電素子300に、駆動信号に基づく電圧が印加される。これにより、後述する圧電素子300とともに振動板50がたわみ変形して各圧力室12内の圧力が高まり、各ノズル21からインク滴が吐出される。
【0031】
図3から図6を用いて、圧力室基板10の-Y方向側の構成について説明する。図5は、圧電素子300近傍を拡大して示す断面図である。図6は、図3のVI-VI断面図である。液体噴射ヘッド510は、圧力室基板10の-Y方向側に、振動板50と、圧電素子300と、に加え、さらに、補強膜51と、個別リード電極91と、共通リード電極92と、を有している。
【0032】
図5に示すように、さらに、振動板50は、圧電素子300の駆動によって積層方向Am10に振動されることにより、圧力室12の液体に圧力を付与する。
【0033】
図6に示すように、振動板50のうち、積層方向Am10にみて第1電極60と圧電体層70と第2電極80と圧力室12が重なる領域を、能動部50r1とよぶ。振動板50のうち、能動部50r1は異なる部分であって、積層方向Am10にみて圧力室12が重なる領域を、非能動部50r2とよぶ。さらに、後に説明する振動板50において、積層方向Am10における、圧電素子300が設けられている面を第1面50a1とよび、圧力室基板10が設けられている面を第2面50a2と、よぶ(図6の上段左部参照)。なお、境界B1から圧力室12の中心12oに向かう方向を、第2方向Am40とよぶ。第2方向Am40は、X軸方向に平行な方向でもある。
【0034】
振動板50は、図5に示すように、圧力室基板10側に設けられた酸化シリコンからなる弾性膜55と、酸化ジルコニウム膜からなる絶縁体膜56と、に構成されている。圧力室12等の流路の-Y方向側の面は、弾性膜55で構成されている。圧力室12は、圧力室基板10を-Y方向側から+Y方向に向かって、異方性エッチングされることにより形成されている。弾性膜55は、異方性エッチングに対してストップ層として機能する。技術の理解を容易にするため、図5以外の図面では、弾性膜55と絶縁体膜56の図示を省略する。
【0035】
圧電素子300は、振動板50を介して圧力室12に圧力を付与する。図5および図6に示すように、圧電素子300は、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とを有する。第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とは、図5および図6に示すように、+Y方向側から-Y方向側に向かって順に積層されている。圧電体層70は、第1電極60、第2電極80、および圧電体層70が積層される積層方向Am10、すなわちY軸方向において、第1電極60と第2電極80との間に設けられている。
【0036】
補強膜51は、図6に示すように、振動板50は、積層方向Am10に垂直な方向に沿って形成され、積層方向Am10にみたときに、隔壁11と圧力室12との境界B1に重なるように形成されている。第1方向Am20は、Z軸方向およびX軸方向を含む方向である。補強膜51については、後に詳細に説明する。
【0037】
第1電極60および第2電極80は、いずれも図4に示す配線基板120と電気的に接続されている。第1電極60および第2電極80は、駆動信号に応じた電圧を、圧電体層70に印加する。第1電極60には、インクの吐出量に応じて異なる駆動電圧が供給され、第2電極80には、インクの吐出量に関わらず、一定の基準電圧信号が供給される。インクの吐出量は、圧力室12に必要な容積変化量である。圧電素子300が駆動されることにより、第1電極60と第2電極80との間に電位差が生じると、圧電体層70が変形する。圧電体層70の変形により、振動板50は、変形または振動して圧力室12の容積が変化する。圧力室12の容積が変化することにより、圧力室12に収容されているインクに圧力が付与され、ノズル連通路16を介してノズル21からインクが吐出される。
【0038】
図3に示すように、第1電極60は、複数の圧力室12に対して個別に設けられる個別電極である。第1電極60は、例えば、白金(Pt)で構成されている。図6に示すように、第1電極60のX軸方向の幅は、圧力室12の幅よりも狭い。すなわち、第1電極60のX方向の両端は、圧力室12のX軸方向の両端よりも圧力室12の内側に位置している。図5に示すように、第1電極60の+Z方向の端部60aおよびZ方向の端部60bは、それぞれ圧力室12の外側に配置されている。例えば、第1圧力室列Laでは、第1電極60の端部60aは、圧力室12の+Z方向の端部12aよりも+Z方向側となる位置に配置されている。第1電極60の端部60bは、圧力室12の-Z方向の端部12bよりも-Z方向側となる位置に配置されている。
【0039】
圧電体層70において、図5に示すように、Z軸方向の幅は、圧力室12の長手方向であるZ軸方向の幅よりも長い。圧電体層70は、図6に示すように、圧力室12の配列方向Am21、すなわちX軸方向に沿って延在して設けられている。このため、圧力室12のZ軸方向の両側では、圧電体層70は、圧力室12の外側まで延在している。圧電体層70としては、第1電極60上に形成される電気機械変換作用を示す強誘電性セラミックス材料からなるペロブスカイト構造の結晶膜、いわゆるペロブスカイト型結晶が挙げられる。本実施形態では、圧電体層70として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた。
【0040】
図5に示すように、圧電体層70の+Z方向の端部70aは、第1圧力室列Laにおいて、第1電極60の端部60aよりも外側となる+Z方向側に位置している。すなわち、第1電極60の端部60aは圧電体層70によって覆われている。一方、圧電体層70の-Z方向の端部70bは、第1電極60の端部60bよりも内側となる+Z方向側に位置しており、第1電極60の端部60bは、圧電体層70では覆われていない。
【0041】
圧電体層70には、図6に示すように、隣り合う第2電極80の角部80cの間において、圧電体層70の存在しない領域として溝部71が形成されている。溝部71は、各隔壁11に対応する位置に設けられる。溝部71は、圧電体層70をY軸方向に完全に除去することで、形成されている。
【0042】
図7は、図3における溝部71近傍を拡大して示す平面図である。図7では、図3における第2圧力室列Lbに属する溝部71が示されている。溝部71は、平面視で略矩形状の外観形状を有している。溝部71のX軸方向の幅は、隔壁11のX軸方向の幅よりも広く形成されている。溝部71のZ軸方向の幅は、圧力室12のZ軸方向の幅よりも狭く形成されている。圧電体層70に溝部71を設けることにより、振動板50の圧力室12のX軸方向の端部に対向する部分、いわゆる振動板50の腕部の剛性が抑えられる。振動板50の腕部とは、非能動部50r2に相当する。よって、溝部71は、圧電素子300をより良好に変位させることができる。
【0043】
第2電極80は、図5および図6に示すように、第1電極60とは圧電体層70を挟んだ反対側、すなわち圧電体層70の+Y方向側に設けられている。第2電極80は、図3に示すように、複数の圧力室12に対して共通に設けられ、複数の能動部50r1に共通する共通電極である。本実施形態では、第2電極80の素材としてイリジウム(Ir)を用いている。
【0044】
第2電極80は、図3に示すように、Z軸方向に所定の幅を有するとともに、圧力室12の配列方向Am21、すなわちX軸方向に沿って延在して設けられている。図6に示すように、第2電極80は、圧電体層70の溝部71の側面上および溝部71の底面である振動板50上にも設けられている。
【0045】
図5に示すように、第2電極80の+Z方向の端部80aは、圧電体層70で覆われている第1電極60の端部60aよりも外側、すなわち+Z方向側に配置されている。第2電極80の端部80aは、圧力室12の端部12aよりも外側であり、かつ第1電極60の端部60aよりも外側に位置している。本実施形態では、第2電極80の端部80aは、Z軸方向において、圧電体層70の端部70aと略一致している。
【0046】
図5に示すように、第2電極80の-Z方向の端部80bは、圧力室12の-Z方向の端部12bよりも外側となる-Z方向側に配置され、圧電体層70の端部70bよりも内側となる+Z方向側に配置されている。圧電体層70の端部70bは、第1電極60の端部60bよりも+Z方向側となる内側に位置している。したがって、第2電極80の端部80bは、第1電極60の端部60bよりも+Z方向側となる圧電体層70上に位置している。第2電極80の端部80bの-Z方向側には、圧電体層70の表面が露出された部分が存在する。このように、第2電極80の端部80bは、圧電体層70の端部70bおよび第1電極60の端部60bよりも+Z方向側に配置されている。
【0047】
第2電極80の端部80bの側には、第2電極80と同一層となるが、第2電極80とは電気的に不連続となる配線部85が設けられている(図5の上段左部参照)。配線部85は、第2電極80の端部80bから間隔を空けた状態で、圧電体層70の端部70b近傍から第1電極60の端部60bに亘って形成されている。配線部85は、能動部50r1毎に設けられている。すなわち、配線部85は、X軸方向に沿って所定の間隔で複数配置されている。
【0048】
図3および図5に示すように、個別電極である第1電極60には個別リード電極91が接続され、共通電極である第2電極80には駆動用共通電極である共通リード電極92がそれぞれ電気的に接続されている。個別リード電極91および共通リード電極92は、圧電体層70を駆動する電圧を圧電体層70に印加するための駆動配線として機能する。
【0049】
図3および図4に示すように、個別リード電極91および共通リード電極92は、保護基板30に形成された貫通孔32内に露出するように延設されており、貫通孔32内で配線基板120と電気的に接続されている。配線基板120には、制御部540および図示しない電源回路と接続するための複数の配線が形成されている。本実施形態において、配線基板120は、例えば、フレキシブル基板(FPC:Flexible Printed Circuit)により構成されている。
【0050】
配線基板120には、スイッチング素子を有する集積回路121が実装されている。集積回路121には、配線基板120で伝搬する圧電素子300を駆動するための信号が入力される。集積回路121は、入力される信号に基づいて、圧電素子300を駆動するための信号が第1電極60に供給されるタイミングを制御する。これにより、圧電素子300が駆動するタイミング、および圧電素子300の駆動量が制御される。
【0051】
個別リード電極91および共通リード電極92の材料は、金(Au)を用いている。個別リード電極91は、能動部50r1毎、すなわち、第1電極60毎に設けられている。図5に示すように、例えば、個別リード電極91は、第1圧力室列Laでは、配線部85を介して、第1電極60の端部60b付近に接続され、振動板50上まで-Z方向に引き出されている。
【0052】
図3に示すように、例えば、第1圧力室列Laでは、共通リード電極92は、X軸方向の両端部において屈曲し、第2電極80上から振動板50上にまで-Z方向に引き出されている。共通リード電極92は、延設部92a、および延設部92bを有する。図5に示すように、例えば、第1圧力室列Laでは、延設部92aは、圧力室12の端部12aに対応する領域にX軸方向に沿って延設され、延設部92bは、圧力室12の端部12bに対応する領域にX軸方向に沿って延設される。延設部92aおよび延設部92bは、複数の能動部50r1に対してX軸方向に亘って連続して設けられている。延設部92a、および延設部92bは、Z軸方向において、圧力室12の内側から圧力室12の外側まで延設されている。
【0053】
したがって、液体噴射ヘッド510は、図4に示すように、積層方向Am10において、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とを含む圧電素子300と、圧電素子300の駆動により振動する振動板50と、補強膜51と、ノズル21に連通する圧力室12を振動板50とともに画定する隔壁11を構成する圧力室基板10と、が積層されている。
【0054】
A2:補強膜51の詳細説明
補強膜51は、振動板50に生じる応力を分散させることで、応力集中を低減する。図6に示すように、補強膜51は、積層方向Am10に垂直な方向に沿って形成され、積層方向Am10にみたときに、隔壁11と圧力室12との境界B1に重なるように形成されている。隔壁11と圧力室12との境界B1に重なるとは、隔壁11の圧力室12に面した壁面11sのX軸方向の位置から圧力室12と重なる場合も含む意味である。さらに、補強膜51は、能動部50r1に形成されておらず、非能動部50r2の一部に形成されている。補強膜51は、振動板50の第1面50a1側に形成される。補強膜51は、振動板50上の第2電極80に接するように形成されている。補強膜51は、X軸方向において、隔壁11の位置から圧力室12の位置まで、両者の境界B1を跨いで形成されている。
【0055】
補強膜51は、図7に示すように、Z軸方向に長尺な長方形状に、隣り合う圧力室12に跨るように溝部71の範囲内に形成されている。なお、図7において、斜線部分は、溝部71の非能動部50r2を示している。すなわち、補強膜51は、Z軸方向において、少なくとも能動部50r1の中央に形成されている。さらに、補強膜51は、複数の溝部71のそれぞれの溝部71に、同様に形成されている。このうえ、補強膜51のZ軸方向の長さS1は、共通リード電極92に連続しない、もしくは、圧電素子300の範囲内に形成される。なお、補強膜51は、Z軸方向において能動部50r1の全体に対応するように配置してもよい。
【0056】
図8は、図6における補強膜51の近傍を拡大して示す断面図である。図9は、補強膜51の断面形状を示す断面図である。図8および図9では、積層方向Am10と、積層方向Am10に垂直な方向のうち、境界B1から圧力室12の中心12oに向かう第2方向Am40と、に平行な断面が示されている。振動板50上において、能動部50r1のX軸方向の端部を位置Xmとよぶ。振動板50上において、補強膜51のX軸方向の端部を先端51scとよぶ。ここで、先端51scは、非能動部50r2に重なる。図9では、振動板50の第1面50a1と、境界B1と、の交点を原点0としている。さらに、図9では、非能動部50r2における第2電極80は実質的に振動板50の一部とみなすことができるため、図示が省略されている。補強膜51において、原点0から+X方向の圧力室12上の部位を端部51sと、よぶ。
【0057】
図10は、補強膜51の端部51sの厚さYを規定する曲線を示す説明図である。図10では、(3)式により算出される厚さYの軌跡T1が図示されている。図10におけるXY座標は、図9におけるXY座標と対応している。すなわち、図9における軌跡T1は、(3)式に基づいて図示されている。端部51sは、図9に示すように、軌跡T1沿うように、厚さYを規定されている。(3)式は、原点0としての境界B1と圧力室12の中心12oに最も近い補強膜51の端部51sとの、境界B1から圧力室12の中心12oに向かう方向における第1距離Lとし、原点0における補強膜51の厚さHとした場合、任意の距離Xにおける補強膜51の厚さYは、以下のように求められる。なお、図9において、界B1と圧力室12の中心12oに最も近い補強膜51の端部51sは、先端51scである。
【数2】
【0058】
(3)式は、端部51sを-Y方向の境界B1を固定端とし、先端51scを自由端とした片持ち梁と仮定することで求められる。(3)式により規定される端部51sの厚さYは、図7におけるZ軸方向の幅S1を一定とした場合、補強膜51の先端51scから境界B1までの曲げモーメントを一様にする。すなわち、先端51scから境界B1までの断面係数が、大きくなるように厚さYが計算される。このような片持ち梁を、平等強さの片持ち梁とも呼ぶ。
【0059】
よって、補強膜51は、境界B1から圧力室12の中心12oに向かう第2方向Am40に向かって、積層方向Am10の厚さYが小さくなる。
【0060】
補強膜51の端部51sは、軌跡T1に基づいて、さらに、以下の(1)式と(2)式の条件を満たすように形成されている。振動板50上において、境界B1の位置としての第1位置X1における積層方向Am10の補強膜51の第1厚さをY1と、第1位置X1よりも圧力室12の中心12oに近い第2位置X2における積層方向Am10の補強膜51の第2厚さをY2と、定義する。なお、圧力室12の中心12oとは、境界B1に位置する両側面の最も長い直線部分における圧力室12の幅の中心である。このため、圧力室12において、境界B1に位置する向かい合う両側面は、平行しない部分があってもよい。第2位置X2は、軌跡T1に達する第2厚さY2における位置である。このうえ、補強膜51のうち振動板50に接しない面である傾斜面51saに接する接線aの傾きの絶対値を定義する。すなわち、第1位置X1における第1接線の傾きの絶対値をa1とし、第2位置X2における第2接線の傾きの絶対値をa2としたとき、補強膜51の端部51sは、(1)式と(2)式の条件を満たす。
Y1>Y2 …(1)
0<a1<a2 …(2)
【0061】
なお、傾斜面51saについて、補強膜51のうち振動板50に接しない面とは、より詳細には、実質的に振動板50とみなされる部分に接しない面である。前述のように、非能動部50r2における第2電極80は、実質的に振動板50とみなされる。よって、第1実施形態において、補強膜51のうち振動板50に接しない面は、補強膜51が非能動部50r2における第2電極80に接しない面である。
【0062】
補強膜51は、振動板50に比べヤング率の低い素材を用いている。例えば、振動板50の酸化ジルコニウムがヤング率200GPaの場合、補強膜51は、2.7GPaの有機材料により構成されている。この構成の場合では、本実施形態において、補強膜51の厚さHは、振動板50の厚さYに対して、2.5倍の厚さYに設定している。
【0063】
補強膜51は、振動板50に有機材料を積層することで形成される。酸化シリコンによる層は、例えば、図9に示すように、層La1~層La4のように積層することで形成される。さらに、酸化シリコンによる層は、高い階層ほどX軸方向の長さが短い。すなわち、層La1~層La4の各層の両端部の位置は、X軸方向の位置が異なる。よって、補強膜51の端部51sにおいて、層La1~層La4の各層の間には、凹部51r1~凹部51r3が形成されている。凹部51r1~凹部51r3を、まとめて凹部51rともよぶ。凹部51rのそれぞれは、+Y方向に離れるほど、境界B1側に深く形成されている。すなわち、補強膜51における各層のX軸方向の幅は、高い層ほど小さく形成されている。よって、補強膜51の端部51sは、圧電素子300に近いほど厚さYが小さくなっている。
【0064】
このうえ、層La1~層La4の各層において、補強膜51の端部51sに位置する角は、面取りをされている。図9では、層La1の角51r4を図示する。すなわち、補強膜51の端部51sに位置する角は、境界B1である原点0から補強膜51の先端51scまでに補強膜51から突出した凸部である。補強膜51の端部51sの角は、例えば、異方性エッチングにより、各層ごとの角を除去されることで、形成されている。よって、補強膜51の端部51sは、面取りをされない場合に比べて、軌跡T1に近似して形成されている。
【0065】
実際の製造において、前述のように補強膜51は、材料を積層して形成される。このため、補強膜51の端部51sに、凹部51rが生じる。すなわち、凹凸の有する補強膜51は、(1)式と(2)式の条件を設定することで、軌跡T1に合わせて形成する場合に比べて、実際の製造能力に対応するため、容易に形成される。
【0066】
A3:補強膜51による応力の分散
本開示の補強膜51による振動板50に発生する応力について説明する。振動板50に発生する応力は、相対的に評価するため、第1比較例と第2比較例と本開示の実施形態との3種類の解析対象を用いている。振動板50に発生する応力の算出には、有限要素法による構造解析が用いられる。有限要素法による構造解析では、解析対象の形状に加えて、材料の物性値、支持条件、荷重条件やメッシュサイズなどの設定が必要である。材料の物性値としてのヤング率は、前述のとおり、振動板50についてヤング率200Gpaであり、補強膜51についてヤング率2.7GPaである。支持条件は、隔壁11を固定としている。荷重条件は、位置Xmに+Y方向の集中荷重Fが加わるとしている。ただし、集中荷重Fは、以下の説明に挙げる3種類の解析対象において同じ値ではない。集中荷重Fは、位置Xmにおける変位量Uを一定の値になるように設定されている。変位量Uについては、後に説明する。メッシュサイズは、解析対象のサイズや応力分布に応じて、実験的に設定されている。以下において、3種類の解析対象としての振動板50について説明する。
【0067】
図11は、第1比較例として変位前の振動板50の断面を示す説明図である。図11の第1比較例では、図8における補強膜51を除いた状態として、振動板50と隔壁11と圧力室12とのみが示されている。図11の第1比較例では、技術の理解を容易にするため、XY座標や軌跡T1などの表記を省略している。後述する図面においても、同様に図示を省略している。
【0068】
図11の第1比較例では、振動板50は+Y方向の圧力による集中荷重Fを受ける前の状態である。この圧力は、具体的には、液体噴射ヘッド510がインクを吐出する際に、複数の圧力室12の圧力変動により、圧力室12のインクが流動することで+Y方向に圧力が生じた状態である。後述する図面においても、集中荷重Fの位置と向きは、同様である。
【0069】
図12は、第2比較例として変位前の補強膜Obと振動板50の断面を示す説明図である。図12の第2比較例では、本開示の補強膜51との比較対象として、補強膜Obを備えた振動板50が示されている。補強膜Obは、補強膜51における端部51sとしての、端部Obsを有する。端部Obsは、図12の第2比較例に示すように、一層の長方形の断面形状により形成されている。端部Obsの厚さYは、境界B1である原点0から補強膜51の先端Obscまで一定の厚さHobである。すなわち、端部Obsの厚さYは、(3)式による軌跡T1に沿って形成されたものではない。
【0070】
図13は、本開示の実施形態として変位前の補強膜51と振動板50の断面を示す説明図である。図13の本開示の実施形態では、図8におけるXY座標や一部の表記を除いた補強膜51が示されている。
【0071】
図14は、第1比較例として変位後の振動板50の断面を示す説明図である。図14の第1比較例では、図11における位置Xmが、+Y方向に変位量Uの変位をした状態である。図14の第1比較例では、各部の変位量Uを、実際の解析結果に基づいて、変位量Uを4段階に分割した彩色により、模式的に示している。すなわち、図14の第1比較例では、濃い色ほど変位量が大きい状態が示されている。ただし、同様の図面である図14図16では、変位量のスケールが異なるため、同じ色であっても変位量は異なる場合がある。図14に示すように、境界B1を支点として、振動板50は、位置Xmにおいて最大の変位量Uに達するように湾曲した状態である。
【0072】
図15は、第2比較例として変位後の補強膜Obと振動板50の断面を示す説明図である。図16は、本開示の実施形態として変位後の補強膜51と振動板50の断面を示す説明図である。図15の第2比較例と図16の本開示の実施形態とにおいても、図14の第1比較例と同様に、位置Xmが、Y方向に変位量Uの変位をした状態である。図14図16の状態における振動板50の応力について、以下説明する。
【0073】
図17は、第1比較例として変位後の振動板50の斜視図である。図17の第1比較例では、振動板50と隔壁11との境界B1の応力を示すため、圧力室12の内部から境界B1を見た場合の斜視図が示されている。図17の第1比較例では、各部の応力を、実際の解析結果に基づいて、最大の応力度を4段階に分割した彩色により、模式的に示している。各部の応力は、後に説明する図18の第2比較例と図19の本開示の実施形態も同様である。よって、各部の色の広がりから、相対的に応力の分散を比較できる。図17の第1比較例では、濃い色ほど変位量が大きい状態が示されている。境界B11と境界B12は、図17における境界B1上のZ軸方向の端部を示す。境界B11は、境界B12よりも+Z方向における端部である。
【0074】
図18は、第2比較例として変位後の補強膜Obと振動板50の斜視図である。図19は、本開示の実施形態として変位後の補強膜51と振動板50の斜視図である。図17図19に示すように、4段階の応力うち、最も大きい応力の分布は、振動板50において、境界B11と境界B12の間の隔壁11の近傍に生じる。すなわち、振動板50において、境界B1を固定端として集中荷重Fを受けるため、変位しない境界B1に応力集中が生じる。しかし、図18の第2比較例では、補強膜Obを備えた振動板50は、図17の第1比較例における振動板50に比べ、最も大きい応力の分布が広い。さらに、図19の本開示の実施形態では、補強膜51を備えた振動板50は、補強膜Obを備えた振動板50に比べ、さらに最も大きい応力の分布が広い。補強膜Obは、境界B1から先端Obscにおいて一定の厚さYであるため、断面係数も一定である。一方で、補強膜51は、境界B1から先端51scにおいて、曲げモーメントを一様にするように断面係数を有している。したがって、補強膜51は、補強膜Obのような厚さYの一定な形状に比べ、さらに境界B1近傍の応力集中を分散できる。
【0075】
より具体的には、集中荷重Fにより曲がっている第2面50a2の形状は、図14の第1比較例における補強膜51では直線的であり、梁の根本に応力が集中している。一方で、図16の本開示の実施形態における補強膜51では、集中荷重Fにより曲がっている第2面50a2の形状が円弧に近く、応力がより均等に分布している。
【0076】
このような態様とすることで、本開示の補強膜51は、振動板50上に隔壁11と圧力室12の境界B1である第1位置X1に、積層方向Am10にみたときに、重なるように形成される。さらに、補強膜51の厚さYは、境界B1から圧力室12の中心12oに近い第2位置X2において、薄くなるように形成される。さらに、第1位置X1よりも第2位置X2において、急激に薄くなるように形成される。その結果、境界B1から圧力室12の中心12oに向かう方向について、一点に応力が集中する可能性を低減できる。すなわち、振動板50にクラックが生じる可能性を低減できる。
【0077】
さらに、補強膜51は、非能動部50r2に設けられることで、能動部50r1の振動を大きく阻害することなく、能動部50r1の振動により応力の生じる非能動部50r2を補強できる。
【0078】
このうえ、補強膜51は、流路の一部である圧力室12の外である第1面50a1に形成される。圧力室基板10が設けられた第2面50a2は、圧力室12の空間を画定する面であるため、流路内部に位置する。よって、補強膜51は、第2面50a2に形成される場合に比べて、形成時に周囲に障害の少ない第1面50a1に容易に形成される。
【0079】
B.第2実施形態:
図20は、補強膜51bの断面形状を示す断面図である。第2実施形態における補強膜51bは、第1実施形態における補強膜51に相当する。補強膜51bは、圧電素子300に近いほど厚さYが小さくなり、傾斜面51bsa上において、厚さYの段差による凹部51rを備えている。補強膜51bは、1以上の箇所に凹部51rを備えている。さらに、補強膜51bは、境界Bから補強膜51bの先端51bscの間において、それぞれの凹部51rごとに、接線aと厚さYを規定されている。以下の説明では、技術の理解を容易にするため、図20のように、凹部51rが1箇所の場合について説明する。補強膜51b以外の液体噴射ヘッド510における他の点は、第1実施形態と同じである。
【0080】
図20の断面において、凹部51brは、第2位置X2よりも圧力室12の中心12oの近くに位置している。補強膜51bは、境界B1から凹部51brまでの区間において、第1実施形態の(1)式と(2)式の関係により規定されている。補強膜51bは、さらに、凹部51brの位置としての第3位置X3における積層方向Am10の補強膜51bの第3厚さをY3とし、凹部51brよりも圧力室12の中心12oに近い第4位置X4における積層方向Am10の補強膜51bの第4厚さをY4としている。前述の接線aと同様に、第3位置X3における第3接線の傾きの絶対値をa3とし、第4位置X4における第4接線の傾きの絶対値をa4としたとき、補強膜51bは、以下の(4)式と(5)式と(6)式を満たす。
Y1>Y2>Y3>Y4 …(4)
a3<a2 …(5)
0<a3<a4 …(6)
【0081】
なお、補強膜51bの凹部51brの数が2以上の場合、それぞれの凹部51brごとに、第3位置X3と第4位置X4に相当する位置について接線aと厚さYを、新たに定義する。すなわち、第1実施形態の補強膜51のように、複数箇所の凹部51brが設けられた場合も、補強膜51bは、新たに定義された接線aと厚さYにおいて、接線a1~接線a4と厚さY1~厚さY4と同様の関係を満たすよう形成される。
【0082】
このような態様とすることで、補強膜51bの厚さYは、凹部51brの位置を境界として2層に分けることができる。よって、補強膜51bは、1層で表面の傾斜を形成される場合に比べて、2層で表面の傾斜を形成されることで、形成が容易になる場合がある。
【0083】
さらに、補強膜51bの凹部51brは、振動板50の変位と共に、補強膜51bが+Y方向に変位する場合に、変形を容易にする。そのため、凹部51brは、補強膜51bに加わる圧縮応力を緩和できる。この効果は、第1実施形態のように、複数の凹部51rの場合も同様である。
【0084】
C.第3実施形態:
図21は、第3実施形態の圧力室12cの断面を示す断面図である。図21では、第1実施形態の図6に相当する断面が示されている。第3実施形態の圧力室12cは、溝部71を跨ぐように、X軸方向に隣り合う圧電素子300cまで広がる空間を有する。このため、隔壁11cと圧力室12cの境界B2は、X軸方向において、圧電素子300cと同じ位置に存在する。すなわち、圧電素子300cは、積層方向Am10に沿ってみたときに、隔壁11cと圧力室12cとの境界B2に重なるように形成されている。
【0085】
圧電素子300cにおいて、境界B2よりも圧力室12cの中心12co側のY軸方向の厚さは、境界B2から溝部71にかけて、図10に示す補強膜51の厚さYと同様に(3)式に基づいて規定されている。よって、圧電素子300cは、境界B1から圧力室12の中心12coに向かって、圧電素子300cの厚さYが小さくなるように形成されている。すなわち、第3実施形態では、補強膜51が設けられない代わりに、圧電素子300cの断面形状を、図10に基づく断面形状とすることで、振動板50に生ずる応力が分散される。
【0086】
図22は、第3実施形態の変位後の振動板50を示す説明図である。図22では、振動板50に+Y方向の圧力を受けることで、変位量Uの変位をした振動板50の状態が示されている。図22に示すように、振動板50の変位は、隣り合う圧電素子300cの間に位置するため、溝部71の位置に生じる。よって、応力集中は、振動板50の境界B2に生じる。
【0087】
圧電素子300cは、境界B2から圧力室12の中心12coに向かって、薄くなるように形成されることで、曲げモーメントを一様にするように断面係数を有している。よって、圧電素子300cは、境界B2から圧力室12cの中心12coに向かう方向について、一点に応力が集中する可能性を低減できる。すなわち、振動板50にクラックが生じる可能性を低減できる。
【0088】
D.第4実施形態:
図23は、第4実施形態の補強膜51dを示す説明図である。上記実施形態において、補強膜51は、第1面50a1に形成されている。しかし、補強膜51は、第2面50a2に形成されていてもよい。例えば、図23の補強膜51dのように、補強膜51dは、隔壁11と振動板50に渡って形成させることもできる。前述のように隔壁11と圧力室12との境界B1に重なるとは、隔壁11の圧力室12に面した壁面11sのX軸方向の位置から圧力室12かけて重なる場合も含む意味である。すなわち、補強膜51dは、第2面50a2から境界B1を覆うように補強している。
【0089】
このような態様とすることで、補強膜51bは、応力集中の生ずる隔壁11と圧力室12の境界B1を、直接補強できる。したがって、補強膜51bは、隔壁11の存在しない第1面50a1から補強する場合に比べ、正確に境界B1を補強できる。
【0090】
E1.変形例1:
第1実施形態において、補強膜51は、端部51sに凹部51rを備える。しかし、補強膜51は、軌跡T1に沿って形成されることで、端部51sに凹部51rを備えない状態でもよい。凹部51rは、補強膜51の材料を積層することで生じる。よって、例えば、積層の層数を増加させることで、凹部51rのサイズを小さくすることが可能である。すなわち、実用上、軌跡T1に沿って形成された端部51sの形状と、同等の断面係数を有する端部51sの形成が可能である。
【0091】
E2.変形例2:
第1実施形態において、補強膜51の端部51sの厚さYは、(1)式と(2)式の条件を満たすように規定された。しかし、第1位置X1と第2位置X2の中間の位置としての第3位置X3において、端部51sの厚さY3と接線aの傾きの絶対値をa3としたときに、端部51sの厚さYは、(7)式と(8)式と(9)式を満たすように規定されてもよい。
Y1>Y3>Y2 …(7)
0>a1>a3>a2 …(8)
|Y1-Y3|<|Y1-Y3| …(9)
【0092】
このような態様とすることで、補強膜51は、(1)式と(2)式により規定される場合に比べ、軌跡T1に近似して形成される。すなわち、補強膜51は、振動板50に生じる応力の集中を、第1実施形態に比べて低減できる場合がある。
【0093】
E3.変形例3:
第1実施形態において、補強膜51は、(1)式と(2)式により規定されている。しかし、補強膜51は、さらに、実際の製造誤差を考慮した(10)式により規定されてもよい。補強膜51は、境界B1と圧力室12の中心12oに最も近い補強膜51の端部51sとの、境界B1から圧力室12の中心12oに向かう方向における第1距離Lとしたとき、(10)式を満たす。なお、第2距離X2は、第1位置X1から第2位置X2までの距離でもある。
【数3】
【0094】
このような態様とすることで、補強膜51は、(1)式と(2)式により規定される場合に比べて、応力分布がより均等になる。
【0095】
(10)式は、製造誤差を±20%の裕度としたが、実際の製造能力に合わせて±30%や、+20%と-10%などの範囲でもよい。
【0096】
さらに、補強膜51は、(1)式と(2)式により規定されていなくてもよい。すなわち、補強膜51は、(10)式のみに規定されていてもよい。
【0097】
E4.変形例4:
上記実施形態において、補強膜51は、材料を積層することで形成されるとしている。しかし、補強膜51は、接着剤やUVインクのような流体から固化する材料により形成されてもよい。例えば、補強膜51の先端51scを設けるべき位置を境に振動板50表面の濡れ性を変化させることで、固化する前の補強膜51の材料が流れ込む材料の量が変わる。すなわち、振動板50表面の濡れ性を変えることおよび、固化する前の補強膜51の材料の表面張力によって、補強膜51の傾斜面51saの曲面形状が調整できる。
【0098】
F.変形例:
(1)上記実施形態において、補強膜51は、図7に示すように、隣り合う圧力室12に跨るように溝部71の範囲内に形成されている。しかし、補強膜51は、必ずしも隣り合う圧力室12に跨るように形成されていなくてもよい。補強膜51は、積層方向Am10に沿ってみたときに、境界B1を覆うように形成されていればよい。すなわち、補強膜51は、2つの補強膜51により、溝部71の範囲内の2つの境界B1のそれぞれの境界B1ごとに形成されていてもよい。複数の補強膜51が、形成されていてもよい。
【0099】
(2)上記実施形態において、補強膜51は、図7に示すように、Z軸方向に長尺な長方形状に形成されている。しかし、補強膜51は、長方形状に限られない。補強膜51は、前述のように、積層方向Am10にみたときに、隔壁11と圧力室12との境界B1に重なることができれば、四角形状や楕円形状でもよい。
【0100】
さらに、補強膜51は、図7に示すように、Z軸方向において、能動部50r1の中央に形成されている。しかし、補強膜51は、能動部50r1の中央に限られない。例えば、補強膜51は、図7において、能動部50r1の中央よりも、+Z方向のノズル21側に形成されていてもよい。もしくは、補強膜51は、溝部71の範囲の全体に形成されていてもよい。
【0101】
このうえ、補強膜51は、図7に示すように、X軸方向に隣り合う溝部71と、同様に形成されていなくてもよい。例えば、図3の第2圧力室列Lbにおいて、補強膜51は、列の端部に位置する溝部71ほど小さく、列の中央部に位置する溝部71ほど大きく、形成されていてもよい。もしくは、複数の溝部71のそれぞれの溝部71において、補強膜51の位置や形状が異なっていてもよい。
【0102】
(3)上記実施形態において、補強膜51は、振動板50上の第2電極80に接するように形成されている。しかし、補強膜51は、前述のように、第2電極80が溝部71に存在しない場合、振動板50に接して形成されていてもよい。もしくは、補強膜51は、圧電体層70が溝部71に存在する場合、圧電体層70に接して形成されていてもよい。
【0103】
(4)上記実施形態において、振動板50は、酸化ジルコニウムにより構成されている。補強膜51は、有機材料により構成されている。しかし、補強膜51は、振動板50と共通の材料で構成されていてもよい。すなわち、補強膜51は、酸化ジルコニウムや後述する振動板50の材料により構成されていてもよい。
【0104】
(5)上記実施形態において、圧電体層70は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)により構成されている。補強膜51は、有機材料により構成されている。しかし、補強膜51は、圧電体層70と共通の材料で構成されていてもよい。すなわち、補強膜51は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)や後述する圧電体層70の材料により構成されていてもよい。
【0105】
(6)上記実施形態において、凹部51rは、傾斜面51sa上において、厚さYの段差である。すなわち、凹部51rは、補強膜51の厚さ方向に形成された凹みである。しかし、凹部51rは、厚さ方向に凹んでいなくてもよい。例えば、凹部51rは、傾斜面51sa上において、変曲点や微分不可能な点を有する形状でもよい。
【0106】
(7)上記実施形態において、接線aの傾きは、例えば、X軸方向に沿って±L/10移動した2点間の傾きを測定点における接線aの傾きとしてもよい。他にも、X軸方向に沿って±L/10の範囲内で任意の数の測定点における接線の傾きの平均値を接線aの傾きとしてもよい。
【0107】
G.変形例:
(1)上記実施形態において、圧力室12の形状は、長方形状には限定されず、平行四辺形状、多角形状、円形状、オーバル形状等であってもよい。ここでいうオーバル形状とは、長方形状を基本として長手方向の両端部を半円状とした形状をいい、角丸長方形状、楕円形状などが含まれる。
【0108】
(2)上記実施形態において、配列方向Am21は、複数の圧力室12の巨視的な配列方向Am21を意味する。例えば、1つおきに交差方向Am30に互い違いに、複数の圧力室12がX軸方向に沿って複数配列される場合、X軸方向は、配列方向Am21に含まれる。
【0109】
(3)上記実施形態において、溝部71は、圧電体層70をY軸方向に完全に除去することで、形成されている。しかし、溝部71は+Y軸方向に除去された圧電体層70が残った状態でもよい。すなわち、溝部71は、圧電体層70の他の部分よりも薄く形成されていてもよい。
【0110】
H.他の形態:
本開示は、上述した実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実現することができる。例えば、本開示は、以下の形態によっても実現可能である。以下に記載した各形態中の技術的特徴に対応する上記実施形態中の技術的特徴は、本開示の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0111】
(1)本開示の一形態によれば、液体噴射ヘッドが提供される。この液体噴射ヘッドは、積層方向において、電圧を印加されて変形し、第1電極と圧電体層と第2電極とを含む圧電素子と、前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、補強膜と、ノズルに連通する圧力室を前記振動板とともに画定する隔壁を構成する圧力室基板と、が積層された液体噴射ヘッドであって、前記振動板は、前記圧電素子によって前記積層方向に前記振動されることにより、前記圧力室の液体に圧力を付与し、前記補強膜は、前記積層方向に垂直な方向である第1方向に沿って形成され、前記積層方向にみたときに、前記隔壁と前記圧力室との境界に重なり、前記積層方向と、前記境界から前記圧力室の中心に向かう方向と、に平行な断面において、前記境界の位置としての第1位置における前記積層方向の前記補強膜の第1厚さをY1とし、前記第1位置よりも前記圧力室の中心に近い第2位置における前記積層方向の前記補強膜の第2厚さをY2とし、前記補強膜のうち前記振動板に接しない面である傾斜面の接線の傾きの絶対値であって、前記第1位置における第1接線の傾きの絶対値をa1とし、前記接線であって、前記第2位置における第2接線の傾きの絶対値をa2としたとき、
Y1>Y2 …(1)
および
0<a1<a2 …(2)
上記(1)式と(2)式を満たす。このような態様とすることで、本開示の補強膜は、振動板上に隔壁と圧力室の境界である第1位置を覆うように形成される。さらに、補強膜の厚さは、境界から圧力室側の第2位置において、薄くなるように形成される。さらに、第1位置よりも第2位置において、急激に薄くなるように形成される。その結果、境界から圧力室に向かう方向について、一点に応力が集中する可能性を低減できる。すなわち、補強膜は、振動板にクラックが生じる可能性を低減できる。
【0112】
(2)上記形態では、前記液体噴射ヘッドは、前記振動板のうち、前記積層方向にみて前記第1電極と前記圧電体層と前記第2電極と前記圧力室が重なる領域を能動部とし、前記振動板のうち、前記能動部とは異なる部分であって、前記積層方向にみて前記圧力室が重なる領域を非能動部としたとき、前記補強膜は、前記能動部に形成されておらず、前記非能動部の一部に形成されていてもよい。このような態様とすることで、補強膜は、能動領域の振動を大きく阻害することなく、能動領域の振動により応力の生じる非能動部を補強できる。
【0113】
(3)上記形態では、前記液体噴射ヘッドは、前記振動板において、前記積層方向における、前記圧電素子が設けられている面を第1面とし、前記圧力室基板が設けられている面を第2面としたときに、前記補強膜は、前記第1面に形成されていてもよい。このような態様とすることで、圧力室基板が設けられた第2面は、圧力室の空間を画定する面であるため、流路内部に位置する。よって、補強膜は、第2面に形成される場合に比べて、形成時に周囲に障害の少ない第1面に容易に形成される。
【0114】
(4)上記形態では、前記液体噴射ヘッドは、前記振動板において、前記積層方向における、前記圧電素子が設けられた面を第1面とし、前記圧力室基板が設けられた面を第2面としたときに、前記補強膜は、前記第2面に形成されていてもよい。このような態様とすることで、補強膜は、応力集中の生ずる隔壁と圧力室の境界を、直接補強できる。したがって、補強膜は、隔壁の存在しない第1面から補強する場合に比べ、正確に境界を補強できる。
【0115】
(5)上記形態では、前記液体噴射ヘッドであって、前記補強膜は、前記境界と前記圧力室の中心に最も近い前記補強膜の端部との、前記境界から前記圧力室の中心に向かう方向における第1距離をLとし、前記第1位置からの前記第2位置までの第2距離をX2としたときに、上記(10)式を満たす形態でもよい。このような態様とすることで、上記形態に比べて、応力分布がより均等になる。
【0116】
(6)上記形態では、前記液体噴射ヘッドであって、前記補強膜は、前記圧電素子に近いほど前記厚さが小さくなり、前記傾斜面上において、前記厚さの段差による凹部を備え、前記断面において、前記凹部は、前記第2位置よりも前記圧力室の中心に近い位置に配され、前記補強膜は、さらに、前記凹部の位置としての第3位置における前記積層方向の前記補強膜の第3厚さをY3とし、前記凹部よりも前記圧力室の中心に近い第4位置における前記積層方向の前記補強膜の第4厚さをY4とし、前記接線であって、前記第3位置における第3接線の傾きの絶対値をa3とし、前記第4位置における第4接線の傾きの絶対値をa4としたとき、
Y1>Y2>Y3>Y4 …(4)
a3<a2 …(5)
0<a3<a4 …(6)
上記(4)式と(5)式と(6)式を満たす形態でもよい。このような態様とすることで、補強膜の厚さは、凹部の位置を境界として2層に分けることができる。よって、補強膜は、1層で表面の傾斜を形成される場合に比べて、2層で表面の傾斜を形成されることで、形成が容易になる場合がある。
【0117】
(7)上記形態では、前記液体噴射ヘッドであって、前記補強膜は、前記振動板と共通の材料で構成されていてもよい。このような態様とすることで、補強膜は、振動板と異なる材料を用意する必要がないため、異なる材料を用意する場合に比べて、容易に製造される場合がある。
【0118】
(8)上記形態では、前記液体噴射ヘッドであって、前記補強膜は、前記圧電体層と共通の材料で構成されていてもよい。このような態様とすることで、補強膜は、圧電体層と異なる材料を用意する必要がないため、異なる材料を用意する場合に比べて、容易に製造される場合がある。
【0119】
(9)本開示の第2の形態によれば、液体噴射ヘッドが提供される。液体噴射ヘッドは、積層方向において、電圧を印加されて変形し、第1電極と圧電体層と第2電極とを含む圧電素子と、前記圧電素子の駆動により振動する振動板と、補強膜と、ノズルに連通する圧力室を前記振動板とともに画定する隔壁を構成する圧力室基板と、が積層された液体噴射ヘッドであって、前記振動板は、前記圧電素子によって前記積層方向に前記振動されることにより、前記圧力室の液体に圧力を付与し、前記補強膜は、前記積層方向に垂直な方向である第1方向に沿って形成され、前記積層方向にみたときに、前記隔壁と前記圧力室との境界に重なり、前記積層方向と、前記境界から前記圧力室の中心に向かう方向と、に平行な断面において、前記境界の位置としての第1位置における前記積層方向の前記補強膜の第1厚さをY1とし、前記第1位置よりも前記圧力室の中心に近い第2位置における前記積層方向の前記補強膜の第2厚さをY2とし、かつ、前記境界と前記圧力室の中心に最も近い前記補強膜の端部との前記第1方向における第1距離をLとし、前記第1位置からの前記第2位置までの第2距離をX2としたときに、上記(10)式を満たす。このような態様とすることで、第1形態に比べて、応力分布がより均等になる。
【符号の説明】
【0120】
P…印刷用紙、X…距離、X2…第2距離、Xm…位置、10…圧力室基板、11…隔壁、11c…隔壁、11s…壁面、12,12c…圧力室、12a,12b…端部、12o,12co…中心、15…連通板、16…ノズル連通路、17…第1マニホールド部、18…第2マニホールド部、19…供給連通路、20…ノズルプレート、21…ノズル、30…保護基板、31…保持部、32…貫通孔、40…ケース部材、41…収容部、42…第3マニホールド部、43…接続口、44…供給口、45…コンプライアンス基板、46…封止膜、47…固定基板、48…開口部、49…コンプライアンス部、50…振動板、50a1…第1面、50a2…第2面、50r1…能動部、50r2…非能動部、51…補強膜、51b…補強膜、51r,51r1,51r3,51br…凹部、51bs…端部、51d…補強膜、51r4…角、51s…端部、51sa…傾斜面、51sc…先端、55…弾性膜、56…絶縁体膜、60…第1電極、60a,60b…端部、70…圧電体層、70a,70b…端部、71…溝部、80…第2電極、80a,80b,80c…端部、85…配線部、91…個別リード電極、92…共通リード電極、92a、92b…延設部、100…マニホールド、120…配線基板、121…集積回路、300,300c…圧電素子、310…圧電素子、500…液体吐出装置、510…液体噴射ヘッド、540…制御ユニット、550…インクタンク、552…チューブ、560…搬送機構、562…搬送ローラー、564…搬送ロッド、566…搬送用モーター、570…移動機構、572…キャリッジ、574…搬送ベルト、576…移動用モーター、577…プーリー、Am10…方向、Am20…第1方向、Am21…配列方向、Am30…交差方向、Am40…第2方向、B1,B11,B12,B2…境界、F…集中荷重、L…第1距離、La…第1圧力室列、La1,La2,La3,La4…層、Lb…第2圧力室列、Ob…補強膜、Obs…端部、Obsc…先端、S1…幅、T1…軌跡、U…変位量、X1…第1位置、X2…第2位置、X3…第3位置、X4…第4位置、a…接線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23