(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142447
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】血液処理フィルター
(51)【国際特許分類】
A61M 1/02 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
A61M1/02 103
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054587
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】中矢 千春
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA11
4C077BB02
4C077CC04
4C077KK15
4C077LL02
4C077LL13
4C077LL22
4C077NN02
4C077PP07
(57)【要約】
【課題】濾材による有効濾過面積を増やし、もって白血球除去性能の向上と濾過時間の短縮を可能とする。
【解決手段】血液製剤BPの処理に用いられる血液処理フィルター1であって、血液製剤BPから白血球を除去する濾材30と、該濾材30を挟む入口側可撓性容器10および出口側可撓性容器40と、入口側可撓性容器10に設けられた、処理前の血液製剤BPを流入させる入口ポート11と、出口側可撓性容器40に設けられた、濾材で処理された血液製剤BPを排出する出口ポート41と、入口側可撓性容器10と濾材30との間に配置されて入口ポート11から濾材30に流れる血液製剤BPの流れを調整する液流調整部材20と、を備える。液流調整部材20は、上側開口部21Hの開口率が45~100%、下側開口部21Lの開口率が20~43%あり、上側開口部21Hの開口率が下側開口部21Lの開口率よりも15%以上大きい形状に形成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液製剤の処理に用いられる血液処理フィルターであって、
前記血液製剤から白血球を除去する濾材と、
該濾材を挟む入口側可撓性容器および出口側可撓性容器と、
前記入口側可撓性容器に設けられた、処理前の前記血液製剤を流入させる入口ポートと、
前記出口側可撓性容器に設けられた、前記濾材で処理された前記血液製剤を排出する出口ポートと、
前記入口側可撓性容器と前記濾材との間に配置されて前記入口ポートから前記濾材に流れる前記血液製剤の流れを調整する液流調整部材と、
と、
を備え、
前記液流調整部材は、前記血液製剤が流通する開口部を備えたシート状の部材により、前記開口部のうち血液処理時の使用姿勢における上半分の領域中にある上側開口部の開口面積が、前記開口部のうち血液処理時の使用姿勢における下半分の領域中にある下側開口部の開口面積よりも広い形状に形成され、かつ、前記上側開口部の開口率が45~100%、前記下側開口部の開口率が20~43%であり、前記上側開口部の開口率は前記下側開口部の開口率よりも15%以上大きい形状に形成されている、血液処理フィルター。
【請求項2】
前記液流調整部材は、前記入口ポートから流入する前記血液製剤を拡散させる血液拡散部を備える、請求項1に記載の血液処理フィルター。
【請求項3】
前記血液拡散部は、少なくともその一部が前記入口ポートと前記濾材との間に位置するように形成されている、請求項2に記載の血液処理フィルター。
【請求項4】
前記血液拡散部は、前記開口部と開口部との間に形成されたリブ部に設けられている、請求項3に記載の血液処理フィルター。
【請求項5】
前記リブ部の幅は、前記入口ポートの孔径以上の幅である、請求項4に記載の血液処理フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液処理フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤等の血液成分製剤の原料としては、ドナーから採血された全血が使用されるところ、全血には、種々の輸血副作用の原因となる微小凝集物や白血球等の好ましくない成分が含まれる。そのため、一般に、採血後や血液成分製剤の使用の前に、好ましくない成分を除去するべく血液処理が行われる。
【0003】
全血や血液成分製剤から白血球等の好ましくない成分を除去する方法としては、操作が簡便であること、コストが安いこと等から、不織布等の繊維集合体や連続気孔を有する多孔構造体等からなる濾材を含む血液処理フィルターを用いるフィルター法が普及している(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2-203909号公報
【特許文献2】特開2007-50013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の血液処理フィルターで血液の濾過を行う際、血液処理フィルター内の上部にエアが残ってしまっていて、濾材を有効的に活用することができてないことが多いというのが現状である。濾材を有効的に活用することができていないということは、濾材の有効濾過面積が十分ではなく、ひいては白血球除去性能や濾過時間といった点で十分でない点があるということがいえる。
【0006】
そこで、本発明は、濾材による有効濾過面積を増やし、もって白血球除去性能の向上と濾過時間の短縮を可能とする血液処理フィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、血液製剤の処理に用いられる血液処理フィルターであって、
血液製剤から白血球を除去する濾材と、
該濾材を挟む入口側可撓性容器および出口側可撓性容器と、
入口側可撓性容器に設けられた、処理前の血液製剤を流入させる入口ポートと、
出口側可撓性容器に設けられた、濾材で処理された血液製剤を排出する出口ポートと、
入口側可撓性容器と濾材との間に配置されて入口ポートから濾材に流れる血液製剤の流れを調整する液流調整部材と、
を備え、
液流調整部材は、血液製剤が流通する開口部を備えたシート状の部材により、開口部のうち血液処理時の使用姿勢における上半分の領域中にある上側開口部の開口面積が、開口部のうち血液処理時の使用姿勢における下半分の領域中にある下側開口部の開口面積よりも広い形状に形成され、かつ、上側開口部の開口率が45~100%、下側開口部の開口率が20~43%であり、上側開口部の開口率は下側開口部の開口率よりも15%以上大きい形状に形成されている、血液処理フィルターである。
【0008】
上記のごとき血液処理フィルターでは、入口側可撓性容器と濾材との間に配置された液流調整部材が、入口ポートから濾材に流れる血液製剤の流れを調整し、濾材のうちこれまで有効的に活用されていなかった部分にまで血液製剤を行き渡らせる。これによれば、血液処理の際、濾材をより有効的に活用することができるようになり、濾材の有効濾過面積が増える結果、白血球除去性能を向上させたり、濾過時間を短縮させたりすることが可能となる。
【0009】
上記のごとき血液処理フィルターにおいて、液流調整部材は、入口ポートから流入する血液製剤を拡散させる血液拡散部を備えていてもよい。
【0010】
上記のごとき血液処理フィルターにおいて、血液拡散部は、少なくともその一部が入口ポートと濾材との間に位置するように形成されていてもよい。
【0011】
上記のごとき血液処理フィルターにおいて、血液拡散部は、開口部と開口部との間に形成されたリブ部に設けられていてもよい。
【0012】
上記のごとき血液処理フィルターにおいて、リブ部の幅は、入口ポートの孔径以上の幅であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、濾材による有効濾過面積を増やし、もって白血球除去性能の向上と濾過時間の短縮を可能とする血液処理フィルターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態における血液処理フィルターの構成を示す分解斜視図である。
【
図2】血液処理フィルターの血液押上げシート(液流調整部材)の上側開口部および下側開口部の開口率について説明する図である。
【
図3】血液処理フィルターと血液押上げシートの具体的な構成の一例を示す、(A)血液処理フィルターの正面図、(B)血液押上げシートの正面図、(C)血液押上げシートの形状の具体例を示す図である。
【
図4】実施例1における(A)血液押上げシートの正面図、(B)血液処理前の血液処理フィルターの内部の状態を示す断面図、(C)血液処理中の血液処理フィルターの内部の状態を示す断面図である。
【
図5】実施例2における(A)血液押上げシートの正面図、(B)血液処理前の血液処理フィルターの内部の状態を示す断面図、(C)血液処理中の血液処理フィルターの内部の状態を示す断面図である。
【
図6】実施例4における(A)血液押上げシートの正面図、(B)血液処理前の血液処理フィルターの内部の状態を示す断面図、(C)血液処理中の血液処理フィルターの内部の状態を示す断面図である。
【
図7】比較例1における(A)血液押上げシートの正面図、(B)血液処理前の血液処理フィルターの内部の状態を示す断面図、(C)血液処理中の血液処理フィルターの内部の状態を示す断面図である。
【
図8】参考例における(A)血液処理フィルターの内部を示す図、(B)血液処理前の血液処理フィルターの内部の状態を示す断面図、(C)血液処理中の血液処理フィルターの内部の状態を示す断面図である。
【
図9】各実施例、比較例、参考例における血液押上げシートの開口率と性能評価を示す表である。
【
図10】性能評価における項目について説明する表である。
【
図11】血液押上げシートの上側開口部および下側開口部の各開口率と性能評価の関連を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0016】
本発明にかかる血液処理フィルターは、血液を濾過して白血球を除去するという処理を行う際に用いられるフィルターである。血液処理フィルターの処理の対象となるものには、輸血用の全血製剤、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤などの血液製剤が含まれるが、本明細書では単に血液あるいは血液製剤と表現する場合がある。本実施形態の血液処理フィルター1は、入口側可撓性容器10、血液押上げシート(液流調整部材)20、濾材30、出口側可撓性容器40を含む構成となっている(
図1等参照)。
【0017】
入口側可撓性容器10は、可撓性を有するシート状の部材からなり、同様の形状である出口側可撓性容器40と組み合わされ、その周囲の外側シール部10s,40sを溶着等でシールすることにより一体化されて血液処理フィルター1の外装となる容器状の袋を構成する(
図1、
図3、
図4等参照)。入口側可撓性容器10およびこれと対をなす出口側可撓性容器40の形状は特に限定されるものではない。一例として、本実施形態では略矩形状の入口側可撓性容器10および出口側可撓性容器40を採用している。入口側可撓性容器10には、処理前の血液製剤を流入させる入口ポート11が設けられている。入口ポート11は、血液処理フィルター1を略垂直方向に起こした処理時の姿勢(使用姿勢)において、幅方向(
図2において符号Hで示す)において略中央であって、かつ垂直方向または高さ方向(
図2において符号Vで示す)において中央よりも上方となる位置に設けられている(
図4等参照)。入口ポート11に、使用姿勢において上向きとなる血液導入部11aが併設されていてもよい。入口側可撓性容器10および出口側可撓性容器40の間には血液押上げシート20と濾材30とが挟み込まれる(
図1参照)。
【0018】
濾材30は、血液製剤から白血球を除去するためのフィルター要素として機能する部材である。特に図示していないが、濾材30としては、入口側可撓性容器10に近い方から、プレフィルター層、メインフィルター層、ポストフィルター層の順番で積層された3層構造のフィルター等が用いられる。
【0019】
血液押上げシート20は、入口ポート11から濾材30に流れる血液製剤の流れを調整する液流調整部材として機能するもので、入口側可撓性容器10と濾材30との間に配置され、周囲の内側シール部20sを溶着等によりシールされて固定される(
図1、
図3、
図4等参照)。かかる血液押上げシート20は、濾材30のうちこれまで有効的に活用されていなかった部分にまで血液製剤を押し上げるようにして行き渡らせるために設けられるものであり、そのような機能を奏するものである限りは大きさや形状などが特に限定されることはない。一例として、本実施形態では、開口部21と血液拡散部22とを備える血液押上げシート20を採用している(
図6参照)。
【0020】
開口部21は、種々の大きさや形状であってよい。一例として、本実施形態では、上側開口部21Hと下側開口部21Lとを含む開口部21を血液押上げシート20に設けている(
図1等参照)。上側開口部21Hは、使用姿勢において血液押上げシート20の上半分の領域中に設けられている開口部であり、下側開口部21Lは、使用姿勢において血液押上げシート20の下半分の領域中に設けられている開口部である。ここで、本明細書では、有効濾過部(本願では、濾材30と血液押上げシート20の周縁部分とを溶着した場合の、溶着部の内側の濾材部分を「有効濾過部」と呼ぶこととする)の上半分のうち何%が開口しているかを「上側開口率」といい、有効濾過部の下半分のうち何%が開口しているかを「下側開口率」という(
図2参照)。これらのような上側開口部21Hや下側開口部21Lは、上側開口部21Hの開口面積(あるいは上側開口率)が下側開口部21Lの開口面積(あるいは下側開口率)よりも広くなるように形成されていてもよい。こうした場合(上側開口率>下側開口率)には、濾材30のうちこれまで有効的に活用されていなかった部分にまで血液製剤を行き渡らせる機能をさらに向上させることが可能となる。
【0021】
血液拡散部22は、入口ポート11から流入する血液製剤を拡散させるように構成されている。かかる血液拡散部22は、濾材30のうちこれまで有効的に活用されていなかった部分、特に使用姿勢において上方となる部分に血液製剤を行き渡らせるように機能するものであればその具体的な形状や構成が特に限定されることはない。一例を示すと、血液拡散部22は、少なくともその一部が入口ポート11と濾材30との間に位置するように形成されていてもよい。このような血液拡散部22の具体的な態様例は、幅方向Hの中央の中心軸Cに沿って鉛直方向Vに延びるリブ部23の一部である(
図6参照)。リブ部23は、幅方向Hの両側に設けられた左右の開口部21の間に位置するものであってもよい。かかるリブ部23の一部は、入口ポート11と濾材30との間に位置し、入口ポート11から流入する血液製剤を幅方向Hおよび鉛直方向Vへと拡散させる(
図6等参照)。なお、リブ部23の幅Wもまた特に限定されるものではないが、例えば、入口ポート11の孔径以上の幅であってもよい。上記のごとく、血液拡散部22は入口ポート11から流入する血液製剤を拡散させるように構成されており、別言すれば、血液拡散部22は、入口ポート11から入ってきた血液製剤が従来であれば多く浸み込んでいた濾材30の部分に浸み込みにくくすることで、濾材30のうちこれまで有効的に活用されていなかった部分に血液製剤を行き渡らせるように機能するものである。この点に照らすと、血液拡散部22として機能するリブ部23の幅Wが入口ポート11の開口部に対して細すぎると効果が十分に発揮されない場合があり得ることから、当該リブ部23の幅Wはある程度の幅を有するもの、例えば入口ポート11の孔径以上であることが好適である。
【0022】
なお、本実施形態では上述のごとくリブ部23について説明したがこれは血液拡散部22を構成する部材の一例として説明したものにすぎない。要は、血液処理フィルター1の使用姿勢における濾材30の上方となる部分に血液製剤を行き渡らせるように機能するものであれば血液拡散部22の具体的な形状はこのようなものに限られることはなく、これ以外の形態、たとえば近接する3つの円形の開口部21の間に形成される略三角状の領域で構成されていてもよい(
図5参照)。
【0023】
出口側可撓性容器40は、可撓性を有するシート状の部材からなり、同様の形状である入口側可撓性容器10と組み合わされ、その周囲を溶着する等により一体化されて血液処理フィルター1の外装となる容器状の袋を構成する(
図1等参照)。出口側可撓性容器40には、濾材30で処理された後の血液製剤を排出させる出口ポート41が設けられている。出口ポート41は、使用姿勢時、幅方向Hにおいて略中央であって、かつ垂直方向Vにおいて中央よりも下方となる位置に設けられている(
図4等参照)。出口ポート41に、使用姿勢において下向きとなる血液導出部41aが併設されていてもよい。
【0024】
上記のごとき血液処理フィルター1によれば、血液処理の際、濾材30のうち従来は有効的に活用されていなかった部分、特に使用姿勢において上方となる部分に血液製剤を行き渡らせることが可能となる。これにより、濾材30をより有効的に活用することができるようになり、濾材30の有効濾過面積が増える結果、白血球除去性能を向上させたり、濾過時間を短縮させたりすることが可能となる。
【実施例0025】
本発明者は、上記のごとき血液処理フィルター1の上側開口部21Hおよび下側開口部21Lのそれぞれの開口率や位置、形状などを変えた場合の定量的な性能評価を実施した。血液押上げシート20の開口率は、上側開口部21Hの開口率Xおよび下側開口部21Lの開口率Yで表し、併せて、開口率Xと開口率Yの差分(X-Y)を併記した(
図9参照)。また、性能評価は、「総処理時間」(所定量(300.0[g])の血液製剤をすべて処理するのに要した時間)、「残存白血球数」(処理後の血液製剤中に残存した白血球の数)、「回収量」(血液処理の後で回収された血液製剤の量)、「ロス量」(血液処理の後で回収されなかった血液製剤の量)の各項目について、それぞれに比較の基準となる所定の数値ないしは範囲を設定して行った(
図10参照)。また、各例(実施例1~6、比較例1~7、参考例)の結果については、各例を示す記号(
図9参照)をグラフ(
図11参照)中にプロットして示した。
【0026】
なお、各例においては、下記のように作成した血液処理フィルター1を用いた。まず、フィルター要素の厚みが0.42[mm]、フィルター要素の嵩密度が0.21[g/cm
3]、フィルター要素の目付が88.2[g/m
2])の不織布を用いて23枚積層し、レーザーカッターを用いて91[mm]×74[mm]のサイズに切断して濾材30を作製した。入口側可撓性容器10、血液押上げシート20、出口側可撓性容器40には、いずれも厚さが0.4[mm]の可撓性ポリ塩化ビニル樹脂シートを用いた。入口側可撓性容器10、血液押上げシート20、濾材30、出口側可撓性容器40の順となるように、入口側可撓性容器10と出口側可撓性容器40の間に血液押上げシート20と濾材30を挟み、高周波溶着機を用いて入口側可撓性容器10および出口側可撓性容器40と血液押上げシート20の周縁部分とを溶着して内側シール部20sを形成した(
図3、
図4参照)。さらに入口側可撓性容器10と出口側可撓性容器40の周縁部分を溶着して外側シール部10s,40sを形成し、血液処理フィルター1とした。なお、内側シール部20sの内側は、縦の寸法が74[mm]、横の寸法が57[mm]であって、角部分が曲線である長方形の有効濾過部分であり、有効濾過面積は42[cm
2]であった。有効濾過部の、濾材30の厚みは8.00[mm]であった。
【0027】
[実施例1]
開口率X、開口率Y、これらの差分(X-Y)を所定の値とした血液処理フィルター1を使って血液処理を実施し、「総処理時間」「残存白血球数」「回収量」「ロス量」の各値を測定して定量的な評価を行った(
図9参照)。本例では、上側開口部21Hを1つの大きな矩形の開口(開口率Xは100%)、下側開口部21Lを鉛直方向Vに沿って上下に配置した2つの横長矩形の開口(開口率Yは42.9%)とし(
図2~
図4参照)、差分X-Yを57.1[%]とした。なお、本例における各開口の大きさと間隔は図中に示すとおりである(
図3参照)。定量的な評価の結果、本実施例1では、(i)総処理時間(血液処理に要する時間)が22.5[分]、(ii) 残存白血球数が4.9[log]、(iii)回収量が271,8[g]、(iv)ロス量が28.2{g}であった(
図9参照)。
【0028】
[実施例2]
開口率X、開口率Y、これらの差分(X-Y)を所定の値とした血液処理フィルター1を使って血液処理を実施し、「総処理時間」「残存白血球数」「回収量」「ロス量」の各値を測定して定量的な評価を行った(
図9参照)。本例では、上側開口部21Hを中心軸Cを中心に左右対称に配置した複数の円形の開口(開口率Xは53.5%)、下側開口部21Lを中心軸Cを中心に左右対称に配置した2つの円形の開口および1つの横長矩形の開口(開口率Yは33.7%)とし(
図5参照)、差分X-Yを19.8[%]とした。定量的な評価の結果、本実施例2では、(i)総処理時間(血液処理に要する時間)が23.5[分]、(ii) 残存白血球数が4.9[log]、(iii)回収量が271.4[g]、(iv)ロス量が28.6{g}であった(
図9参照)。
【0029】
[実施例3]
開口率X、開口率Y、これらの差分(X-Y)を所定の値とした血液処理フィルター1を使って血液処理を実施し、「総処理時間」「残存白血球数」「回収量」「ロス量」の各値を測定して定量的な評価を行った(
図9参照)。本例では、上側開口部21Hの開口率Xを49.1%、下側開口部21Lの開口率Yを29.1%とし、差分X-Yを20.0[%]とした。定量的な評価の結果、本実施例3では、(i)総処理時間(血液処理に要する時間)が23.5[分]、(ii) 残存白血球数が4.9[log]、(iii)回収量が271.3[g]、(iv)ロス量が28.7{g}であった(
図9参照)。
【0030】
[実施例4]
開口率X、開口率Y、これらの差分(X-Y)を所定の値とした血液処理フィルター1を使って血液処理を実施し、「総処理時間」「残存白血球数」「回収量」「ロス量」の各値を測定して定量的な評価を行った(
図9参照)。本例では、下側に向かうにつれ漸次幅狭となる直角三角形の開口を中心軸Cを中心に左右対称に配置した形状(開口率Xは68.1%、開口率Yは21.4%)の開口部21とし、差分X-Yを46.7[%]とした(
図6参照)。定量的な評価の結果、本実施例4では、(i)総処理時間(血液処理に要する時間)22.4[分]、(ii) 残存白血球数が4.8[log]、(iii)回収量が269.6[g]、(iv)ロス量が30.4{g}であった(
図9参照)。
【0031】
[実施例5]
開口率X、開口率Y、これらの差分(X-Y)を所定の値とした血液処理フィルター1を使って血液処理を実施し、「総処理時間」「残存白血球数」「回収量」「ロス量」の各値を測定して定量的な評価を行った(
図9参照)。本例では、上側開口部21Hの開口率Xを80.2%、下側開口部21Lの開口率Yを40.5%とした。定量的な評価の結果、本実施例5では、(i)総処理時間(血液処理に要する時間)が22.2[分]、(ii) 残存白血球数が4.8[log]、(iii)回収量が271.5[g]、(iv)ロス量が28.5{g}であった(
図9参照)。
【0032】
[実施例6]
開口率X、開口率Y、これらの差分(X-Y)を所定の値とした血液処理フィルター1を使って血液処理を実施し、「総処理時間」「残存白血球数」「回収量」「ロス量」の各値を測定して定量的な評価を行った(
図9参照)。本例では、上側開口部21Hの開口率Xを89.2%、下側開口部21Lの開口率Yを23.4%とした。定量的な評価の結果、本実施例6では、(i)総処理時間(血液処理に要する時間)が22.3[分]、(ii) 残存白血球数が4.8[log]、(iii)回収量が271.1[g]、(iv)ロス量が28.9{g}であった(
図9参照)。
【0033】
[比較例1]
開口率X、開口率Y、これらの差分(X-Y)を所定の値とした血液処理フィルター1を使って血液処理を実施し、「総処理時間」「残存白血球数」「回収量」「ロス量」の各値を測定して定量的な評価を行った(
図9参照)。本例では、中心軸Cに沿って延びる3つの縦長矩形の開口(ただし中央の開口は最も幅狭)を中心軸Cを中心に左右対称に配置した形状(開口率Xは81.8%、開口率Yは81.8%)の開口部21とし(
図7参照)、差分X-Yを0[%]、別言すればここでは上側開口部21Hと下側開口部21Lとを同形状かつ同じ大きさとした。定量的な評価の結果、本比較例1では、(i)総処理時間(血液処理に要する時間)が23.0[分]、(ii) 残存白血球数が5.5[log]、(iii)回収量が273.2[g]、(iv)ロス量が26.8{g}であった(
図9参照)。濾材30の上方部分にエア残り(血液製剤が十分に行き渡らずエアが残ったままの部分ないしはその状態のことをいい、符号ARで示す)があることが確認された(
図7参照)。
【0034】
[比較例2]
開口率X、開口率Y、これらの差分(X-Y)を所定の値とした血液処理フィルター1を使って血液処理を実施し、「総処理時間」「残存白血球数」「回収量」「ロス量」の各値を測定して定量的な評価を行った(
図9参照)。本例では、上側開口部21Hの開口率Xを42%、下側開口部21Lの開口率Yを25%とし、差分X-Yを17.0[%]とした。定量的な評価の結果、本比較例2では、(i)総処理時間(血液処理に要する時間)が31.0[分]、(ii) 残存白血球数が5.0[log]、(iii)回収量が270.4[g]、(iv)ロス量が29.6{g}であった(
図9参照)。本比較例2の結果から、開口率Xが45[%]未満の時、血液押上げシート20の全体における抵抗が大きくなり総処理時間(血液処理に要する時間)が基準と比較して長くなる(悪化する)との知見が得られた(
図9、
図10参照)。
【0035】
[比較例3]
開口率X、開口率Y、これらの差分(X-Y)を所定の値とした血液処理フィルター1を使って血液処理を実施し、「総処理時間」「残存白血球数」「回収量」「ロス量」の各値を測定して定量的な評価を行った(
図9参照)。本例では、上側開口部21Hの開口率Xを45%、下側開口部21Lの開口率Yを17%とし、差分X-Yを28.0[%]とした。定量的な評価の結果、本比較例3では、(i)総処理時間(血液処理に要する時間)が33.5[分]、(ii) 残存白血球数が4.8[log]、(iii)回収量が271.2[g]、(iv)ロス量が28.8{g}であった(
図9参照)。本比較例3の結果から、開口率Yが20[%]未満の時、血液押上げシート20の全体における抵抗が大きくなり総処理時間(血液処理に要する時間)が基準と比較して長くなる(悪化する)との知見が得られた(
図9、
図10参照)。
【0036】
[比較例4]
開口率X、開口率Y、これらの差分(X-Y)を所定の値とした血液処理フィルター1を使って血液処理を実施し、「総処理時間」「残存白血球数」「回収量」「ロス量」の各値を測定して定量的な評価を行った(
図9参照)。本例では、上側開口部21Hの開口率Xを65%、下側開口部21Lの開口率Yを46%とし、差分X-Yを19.0[%]とした。定量的な評価の結果、本比較例4では、(i)総処理時間(血液処理に要する時間)が24.0[分]、(ii) 残存白血球数が5.5[log]、(iii)回収量が271.5[g]、(iv)ロス量が28.5{g}であった(
図9参照)。本比較例4の結果から、開口率Yが43[%]以上の時、血液押上げシート20の下側を流れる血液製剤の量が多くなり、血液押上げシート20の効果(血液製剤を押し上げて流れを調整する効果)がなくなるとの知見が得られた(
図9、
図10参照)。
【0037】
[比較例5]
開口率X、開口率Y、これらの差分(X-Y)を所定の値とした血液処理フィルター1を使って血液処理を実施し、「総処理時間」「残存白血球数」「回収量」「ロス量」の各値を測定して定量的な評価を行った(
図9参照)。本例では、上側開口部21Hの開口率Xを47%、下側開口部21Lの開口率Yを36%とし、差分X-Yを11.0[%とした。定量的な評価の結果、本比較例5では、(i)総処理時間(血液処理に要する時間)が29.4[分]、(ii) 残存白血球数が5.3[log]、(iii)回収量が271.2[g]、(iv)ロス量が28.8{g}であった(
図9参照)。本比較例5の結果から、差分X-Yが15[%]未満の時、血液押上げシート20の下側を流れる血液製剤の量が多くなり、血液押上げシート20の効果(血液製剤を押し上げて流れを調整する効果)がなくなるとの知見が得られた(
図9、
図10参照)。
【0038】
[比較例6]
開口率X、開口率Y、これらの差分(X-Y)を所定の値とした血液処理フィルター1を使って血液処理を実施し、「総処理時間」「残存白血球数」「回収量」「ロス量」の各値を測定して定量的な評価を行った(
図9参照)。本例では、上側開口部21Hの開口率Xを95%、下側開口部21Lの開口率Yを18%とし、差分X-Yを77.0[%]とした。定量的な評価の結果、本比較例6では、(i)総処理時間(血液処理に要する時間)が28.0[分]、(ii) 残存白血球数が4.9[log]、(iii)回収量が269.5[g]、(iv)ロス量が30.5{g}であった(
図9参照)。本比較例6の結果から、開口率Yが20[%]未満の時、血液押上げシート20の効果(血液製剤を押し上げて流れを調整する効果)はあるが、濾過が進みにくくなり、総処理時間(血液処理に要する時間)が基準と比較して長くなる(悪化する)との知見が得られた(
図9、
図10参照)。
【0039】
[比較例7]
開口率X、開口率Y、これらの差分(X-Y)を所定の値とした血液処理フィルター1を使って血液処理を実施し、「総処理時間」「残存白血球数」「回収量」「ロス量」の各値を測定して定量的な評価を行った(
図9参照)。本例では、上側開口部21Hの開口率Xを95%、下側開口部21Lの開口率Yを45%とし、差分X-Yを50.0[%]とした。定量的な評価の結果、本比較例7では、(i)総処理時間(血液処理に要する時間)が23.5[分]、(ii) 残存白血球数が5.3[log]、(iii)回収量が271.1[g]、(iv)ロス量が28.9{g}であった(
図9参照)。本比較例7の結果から、開口率Yが43[%]以上の時、血液押上げシート20の下側を流れる血液製剤の量が多くなり、血液押上げシート20の効果(血液製剤を押し上げて流れを調整する効果)がなくなるとの知見が得られた(
図9、
図10参照)。
【0040】
[参考例]
入口側可撓性容器10と濾材30との間に血液押上げシート20を挟み込まない状態で血液処理を実施し、「総処理時間」「残存白血球数」「回収量」「ロス量」の各値を測定して定量的な評価を行った(
図8参照)。本例における開口率Xは100%、開口率Yは100%、差分X-Yを0[%]であるとみなした(
図9参照)。定量的な評価の結果、本参考例では、(i)総処理時間(血液処理に要する時間)が26.6[分]、(ii) 残存白血球数が5.4[log]、(iii)回収量が273.6[g]、(iv)ロス量が26.4{g}であった(
図9参照)。濾材30の上方部分にエア残りARがあることが確認された(
図8参照)。
【0041】
定量的な評価の結果、実施例1~6の各実施例では、(i)総処理時間(血液処理に要する時間)が所定値以下であり、(ii) 残存白血球数が所定値以下であることから所期の濾過処理能力を発揮しうるものであり、(iii)回収量は所定の範囲内であり、(iv)ロス量もまた所定の範囲内であったことから、濾材30のうちこれまで有効的に活用されていなかった部分(特に使用姿勢において上方となる部分)に血液製剤を行き渡らせることができ、尚かつ所期の濾過処理能力を発揮しうるものであることが確認された(
図9~
図11参照)。これら実施例1~6の評価結果、比較例1~7の評価結果、さらには参考例の評価結果から、血液押上げシート20の開口部21の好適な開口率に関するひとつの知見が得られた。すなわち、ここまで説明したごとき血液処理フィルター1において、血液押上げシート20の開口部21は、上側開口部21Hの開口率Xが45~100%、下側開口部21Lの開口率Yが20~43%であり、上側開口部21Hの開口率Xは下側開口部21Lの開口率Yよりも15%以上大きくなるような形状に形成されていると好適である(
図11参照)。
【0042】
なお、上述の各実施形態は本発明の好適な実施の例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上記の実施形態のごとく略矩形の血液押上げシート20を採用している場合には、上側開口部21Hの開口面積と下側開口部21Lの開口面積の大小関係と、上側開口率と下側開口率の大小関係とは原則として同じであるが、血液押上げシート20の上半分と下半分の大きさ・形状が同じではない非対称形状の血液押上げシート20を採用する場合には、上側開口部の開口面積と下側開口部の開口面積の大小関係と、上側開口率と下側開口率の大小関係とが一致しない場合がありえる。ただし、これは、本明細書に開示した技術的な特徴を適用するにあたっての問題とはならない。すなわち、開口面積あるいは開口率は、上側開口部と下側開口部の好適な大きさや形状を定める際の指標にすぎないから、非対称形状の血液押上げシート20を採用する場合には、本明細書に開示した技術的な特徴をふまえつつ、いずれかの指標あるいはそれ以外の指標を参照しながら定量的な評価をすればよい。