(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142448
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】顔画像記録媒体
(51)【国際特許分類】
B41M 5/34 20060101AFI20241003BHJP
B41M 5/46 20060101ALI20241003BHJP
B42D 25/309 20140101ALI20241003BHJP
B42D 25/455 20140101ALI20241003BHJP
B42D 25/41 20140101ALN20241003BHJP
【FI】
B41M5/34
B41M5/46 210
B42D25/309
B42D25/455
B42D25/41
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054588
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000186566
【氏名又は名称】小林クリエイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 まり
(72)【発明者】
【氏名】垣ヶ原 円美
(72)【発明者】
【氏名】小川 純生
【テーマコード(参考)】
2C005
2H026
【Fターム(参考)】
2C005HA03
2C005HA19
2C005HB01
2C005HB02
2C005HB03
2C005JB02
2C005JB04
2C005JB17
2C005JB22
2C005KA02
2C005KA26
2C005KA28
2C005KA29
2C005LB07
2H026AA07
2H026AA24
2H026BB02
2H026BB21
2H026FF07
(57)【要約】
【課題】色再現性の高い顔画像を、レーザー光によって低廉かつ容易に記録可能な顔画像記録媒体を提供する。
【解決手段】顔画像記録部を、レーザー光の照射により個別に発色制御可能な第一レーザー発色層と第二レーザー発色層を積層してなる構成とする。そして、第一レーザー発色層と第二レーザー発色層の一方を、CIE Lch色空間の色相角が340°~360°、又は0°~50°の色で発色するよう構成し、第一レーザー発色層と第二レーザー発色層の他方を、CIE Lch色空間における色相角が125°~270°の色で発色するよう構成する。かかる構成によれば、高い色再現性で、カラーの顔画像を違和感なく顔画像記録部に記録でき、また、三層のレーザー発色層を備えた従来構成よりもレーザー発色層の層数が少ない分だけ、レーザー光によって低廉かつ容易に顔画像を記録可能となる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を照射して顔画像を記録するための顔画像記録部を備える顔画像記録媒体であって、
前記顔画像記録部には、レーザー光の照射により個別に発色制御可能な第一レーザー発色層と第二レーザー発色層が積層されており、
前記第一レーザー発色層と前記第二レーザー発色層の一方は、CIE Lch色空間における色相角が340°~360°、又は0°~50°の色で発色可能であり、
前記第一レーザー発色層と前記第二レーザー発色層の他方は、CIE Lch色空間における色相角が125°~270°の色で発色可能であることを特徴とする顔画像記録媒体。
【請求項2】
前記顔画像記録部には、一様な薄黄色の印刷層が積層されていることを特徴とする請求項1に記載の顔画像記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔画像付きの身分証明書の発行に用いられる顔画像記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
身分証明書に表示する顔画像を、レーザー光で記録することが提案されている(例えば、特許文献1)。この類の従来の記録媒体は、顔画像を記録する部分に、レーザー光の照射によって相異なる三原色で発色可能な三層のレーザー発色層を備え、三層のレーザー発色層の発色を個別に制御して、混色させることにより、顔画像をフルカラー画像で記録するよう構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-061200号公報(
図1~3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来構成の顔画像記録媒体は、製造工程において、顔画像を記録する部分に三層のレーザー発色層を形成する手間が掛かる。また、顔画像を記録する際は、レーザー光で画像をレーザー発色層毎に記録する手間が掛かる。また、従来の顔画像記録媒体では、三層のレーザー発色層の発色を個別に制御するために、画像を記録するレーザー光の波長をレーザー発色層毎に相違させたり、レーザー光の熱により発色する発色閾値温度をレーザー発色層毎に相違させたりしているが、記録するレーザー光の波長をレーザー発色層毎に相違させる構成では、三種類の波長のレーザー光を照射可能な記録装置が必要であり、また、三種類の波長のレーザー光を選択的に透過・吸収する材料も必要となるため、コスト高である。レーザー発色層毎に発色閾値温度を相違させる構成は、カラー発色層の温度を個別に制御するのが難しく、カラー発色層の発色制御の手間が大きいという問題がある。また、発色する色と温度の相違する三種類の感熱発色成分が必要となるため、材料コストが掛かっている。
【0005】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、色再現性の高い顔画像を、レーザー光によって低廉かつ容易に記録可能な顔画像記録媒体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は、ヒトの肌や髪の色は様々であるが、全ての色は主要色素であるメラニンとヘモグロビンの多寡によって決定される点に着目し、試行錯誤を重ねた末に、特定条件を充足する二層のレーザー発色層によって、カラーの顔画像を違和感なく顔画像記録部に記録できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、レーザー光を照射して顔画像を記録するための顔画像記録部を備える顔画像記録媒体であって、前記顔画像記録部には、レーザー光の照射により個別に発色制御可能な第一レーザー発色層と第二レーザー発色層が積層されており、前記第一レーザー発色層と前記第二レーザー発色層の一方は、CIE Lch色空間における色相角が340°~360°、又は0°~50°の色で発色可能であり、前記第一レーザー発色層と前記第二レーザー発色層の他方は、CIE Lch色空間における色相角が125°~270°の色で発色可能であることを特徴とする顔画像記録媒体である。
【0008】
かかる構成によれば、高い色再現性で、カラーの顔画像を違和感なく顔画像記録部に記録できる。また、かかる構成では、従来構成よりもレーザー発色層の層数が少ない分だけ、レーザー発色層を形成する手間や、レーザー発色層の材料費が低減されるため、従来構成よりも製造コストを削減できる。また、かかる構成では、従来構成よりもレーザー発色層の層数が少ない分だけ、顔画像の記録時に使用するレーザー光の種類や、レーザー発色層の温度管理の手間が低減されるため、従来構成よりも顔画像を容易に記録できる。
【0009】
上記本発明にあって、前記顔画像記録部には、一様な薄黄色の印刷層が積層されていること構成が提案される。発明者の研究によれば、第一レーザー発色層と第二レーザー発色層に加えて、薄黄色の印刷層が積層されていれば、二層のレーザー発色層の色のみで顔画像を表示する場合よりも、顔画像の色再現性を一層向上させることができる。かかる印刷層は、薄黄色のインキでベタ印刷したものであってもよいし、黄色のインキを一定の濃度で網点印刷したものであってもよい。ベタ印刷の場合は、黄系のインキを、OD値0.44以下となるよう印刷することが望ましい。網点印刷の場合は、黄色のプロセスインキを濃度5~30%で印刷することが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、色再現性の高い顔画像を、レーザー光によって低廉かつ容易に記録可能な顔画像記録媒体を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例の顔画像記録媒体1の表面図であり、(A)は顔画像F等を記録する前の状態を示し、(B)は顔画像F等を記録した後の状態を示す。
【
図2】実施例の顔画像記録媒体1の層構造を示す説明図であり、(A)は顔画像記録部2の層構造を示し、(B)は文字情報記録部3の層構造を示す。
【
図4】顔画像記録部2の層構造の変形例を示す説明図である。
【
図5】顔画像記録部2の層構造の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を、以下の実施例によって説明する。
【0013】
本実施例は、カードタイプの身分証明書の発行に用いられる身分証明書用紙に本発明を適用した例である。本発明の顔画像記録媒体の好適な用途としては、このような顔画像付きの身分証明書が挙げられる。本発明を適用可能な身分証明書の形態はカードタイプに限られず、パスポートのような冊子タイプも含まれる。
【0014】
図1(A)に示すように、本実施例の顔画像記録媒体1には、表側の左寄りの矩形状領域に顔画像記録部2が設けられる。顔画像記録部2は白色無地の領域であり、身分証明書の発行時に、
図1(B)に示すように、レーザー光によって被証明者の顔画像Fがカラー画像で記録される。また、顔画像記録媒体1の表側の右寄りの矩形状領域には、被証明者の属性情報を記録・表示する文字情報記録部3が設けられる。
図1(A)に示すように、文字情報記録部3には、白色無地の領域に属性情報の項目名だけが予め印刷されており、
図1(B)に示すように身分証明書の発行時にレーザー光によって属性情報が黒色の文字で記録される。
【0015】
図2は、顔画像記録媒体1の層構造を示したものである。顔画像記録媒体1は、基材層と、基材層の表側(
図2中の上側)を覆う保護層とを備えている。そして、
図2(A)に示すように、顔画像記録部2には、保護層と基材層の間に、二層のレーザー発色層と、一層の断熱層を備えている。二層のレーザー発色層は、レーザー光によって顔画像Fをカラーで記録するための層である。後述するように、二層のレーザー発色層は、レーザー光の照射によって相異なる有彩色で発色可能に構成される。断熱層は、二層のレーザー発色層間の熱伝導を抑制するための層であり、二層のレーザー発色層の間に配設される。一方、
図2(B)に示すように、文字情報記録部3には、保護層と基材層の間に、レーザー光によって文字を黒色で記録可能な炭化発色層が配設される。また、図示は省略するが、顔画像記録部2と文字情報記録部3以外の層構造は、基材層と保護層のみからなる。
【0016】
基材層は、顔画像記録媒体1の用途に応じた強度を有するものであればよく、材料や厚みは自由に設定可能である。基材層は、一枚のシートであってもよいし、複数枚のシートを貼り合わせたものであってもよい。基材層の具体的な材料としては、紙や樹脂シート、又はこれらの組合せが挙げられる。基材層は、顔画像記録部2に記録する顔画像Fの色に影響しない色であることが望ましい。具体的な色としては、白色や淡色、無色が挙げられる。
【0017】
保護層は、レーザー発色層や炭化発色層の破損や劣化、記録情報の改ざんを防止する目的で設けられる。保護層は、顔画像等の記録に使用する赤外領域のレーザー光を透過し、かつ、記録した顔画像等を視認可能とする略透明な材料で構成される。また、保護層は、水や空気を透過しない材料によって好適に構成され得る。保護層を構成する望ましいフィルムの材料としては、ポリ塩化ビニル(PVC)やグリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)などが挙げられる。保護層の厚みは特に限定されないが、10μm~100μm程度が好ましい。保護層は、一枚又は複数枚のフィルムによって構成され得る。保護層がフィルムである場合には、基材層やレーザー発色層等と粘着剤等により接合することが提案される。
【0018】
炭化発色層は、樹脂を含有し、所定波長のレーザー光を吸収して樹脂の炭化により黒く発色するものである。炭化発色層としては、所定波長のレーザー光を吸収して発熱する光熱変換剤と、光熱変換剤の発する熱によって炭化する樹脂とからなる組成物が挙げられる。炭化発色層の組成は、公知の組成を広く採用できる。炭化発色層の厚みは特に限定されず、文字等を黒色で明瞭に印字可能な厚さであれば足りる。炭化発色層は、基材層の表面に塗工されるものであってもよいし、基材層の表面に接合されるフィルムであってもよい。
【0019】
第一レーザー発色層と第二レーザー発色層は、顔画像Fの記録前は略透明であり、レーザー光の照射によって相異なる色相の有彩色で発色するよう構成される。各レーザー発色層は、所定波長のレーザー光を吸収して発熱する光熱変換剤と、所定の発色閾値温度以上になると発色する感熱発色成分と、バインダー樹脂を含んでいる。すなわち、各レーザー発色層は、光熱変換剤が吸収可能な波長のレーザー光の照射により発熱し、当該照射部位が発色閾値温度まで上昇すると発色する。
【0020】
光熱変換剤は、公知の材料を好適に用いることができる。例えば、赤外領域のレーザー光を吸収して発熱する好適な光熱変換剤としては、シアニン系色素が挙げられる。感熱発色成分は、ロイコ色素と顕色剤の組合せを使用可能である。ロイコ色素と顕色剤は、夫々公知の材料から選択可能である。バインダー樹脂としては、ポリビニルアルコール等の無色の樹脂材料を使用可能である。
【0021】
第一レーザー発色層と第二レーザー発色層が含有する光熱変換剤は、吸収するレーザー光の波長域が相違しており、本実施例では、二種類の波長のレーザー光を表側から照射することにより、第一レーザー発色層と第二レーザー発色層の発色を個別に制御し得るよう構成される。具体的には、表側(上層)の第一レーザー発色層は、第一の波長のレーザー光を吸収して発熱し、第二の波長のレーザー光を透過するよう構成される。そして、裏側(下層)の第二レーザー発色層は、第二の波長のレーザー光を吸収して発熱するよう構成される。第一の波長と第二の波長のレーザー光は特に限定されないが、いずれも、赤外領域のレーザー光とすることが望ましい。具体的なレーザー光としては、YAGレーザー光や、CO2レーザー光、YVO4レーザー光、ファイバレーザー光などが挙げられ、具体的な波長としては、785nmと1064nmの二波長が挙げられる。
【0022】
断熱層は、二層のレーザー発色層の間に配設されて、レーザー発色層間の熱伝導を抑制する。すなわち、かかる断熱層は、一方のレーザー発色層をレーザー光で加熱、発色させる際に、当該レーザー発色層の熱が他方のレーザー発色層に伝わって、他方のレーザー発色層が発色してしまうのを防止する。断熱層は、第二レーザー発色層の発色に使用する第二の波長のレーザー光を透過し、また、第二レーザー発色層に記録される画像を表側から視認可能とするために略透明な材料で構成される。断熱層の好適な材料としては、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルなどが挙げられる。断熱層の厚みは特に限定されず、各レーザー発色層の発色制御に支障が生じない程度に、レーザー発色層間の熱伝導を抑制できる厚みであればよい。
【0023】
顔画像記録部2のレーザー発色層や断熱層は、各層の材料を含有する塗料を、基材層の表側、又は保護層の裏側に、塗布、乾燥して積層することにより形成され得る。
【0024】
以下に、本発明の要部に係る構成について説明する。
【0025】
上述のように、第一レーザー発色層と第二レーザー発色層は、レーザー光の照射によって相異なる有彩色で発色するよう構成される。そして、本実施例では、第一レーザー発色層には第一の色相の色の濃淡で画像を記録し、第二レーザー発色層には第二の色相の色の濃淡で画像を記録し、夫々の画像を重ね合わせて混色させることにより、顔画像記録部2にカラーの顔画像Fを記録・表示する。
【0026】
ここで、本実施例では、第一レーザー発色層の発色する色は、赤紫~赤~橙の色相から選ばれる。具体的には、第一レーザー発色層の発色する色の色相は、CIE Lch色空間における色相角が340°~360°、又は0°~50°から選択される。一方、第二レーザー発色層の発色する色は、緑~青緑~青の色相から選ばれる。具体的には、第二レーザー発色層の発色する色の色相は、CIE Lch色空間における色相角が125°~270°から選択される。後述するように、第一レーザー発色層と第二レーザー発色層を、かかる色相の組合せで発色可能とすれば、二層のレーザー発色層であっても、カラーの顔画像Fを高い色再現性で違和感なく記録できる。なお、第一レーザー発色層と第二レーザー発色層の発色する色相を逆にした場合でも、同様の色再現性を実現できる。なお、各レーザー発色層の発色する色の色相は、各レーザー発色層が含有する感熱発色成分(主に、ロイコ色素)の種類によって決定される。
【0027】
顔画像記録媒体1を用いて身分証明書を発行する際は、
図1(A)→1(B)に示すように、公知のレーザー記録装置を用いて、上述の二種類の波長のレーザー光によって、顔画像記録部2に顔画像Fを記録する。また、レーザー光を使用して文字情報記録部3に属性情報を示す文字を記録する。文字情報記録部3への記録は、既存の方法で記録可能であるため、詳細な説明は省略する。なお、文字情報記録部3の記録に使用するレーザー光は、顔画像記録部2の記録に用いる二種類のレーザー光のいずれかを用いることが望ましい。レーザー記録装置を簡略化できるためである。
【0028】
顔画像Fを記録する際は、まず、顔画像Fのフルカラーのデジタルデータを、第一レーザー発色層に記録する第一の色相の色(以下、「第一色」という。)の画像と、第二レーザー発色層に記録する第二の色相の色(以下、「第二色」という。)の画像に色分解する。そして、色分解によって得られた第一の色相の版の画像と第二の色相の版の画像を、二種類のレーザー光を使用して、二層のレーザー発色層に夫々記録する。なお、二種類の色相の色の混色では、表示可能な色に制限があるため、色分解は、所定のアルゴリズムに従って近似的に行う。例えば、顔画像Fのフルカラー画像をCMYの三原色に色分解し、主にシアンの成分を第二色の画像に割り当て、主にマゼンタの成分を第一色に割り当てて調整する。色分解のアルゴリズムは、第一色と第二色の組合せによって相違するが、二種類の色相の組合せが定まれば、顔画像Fを高い色再現性で表示可能なアルゴリズムは容易に決定できる。
【0029】
色分解によって得られた第一色の画像は、第一レーザー発色層に吸収される第一の波長のレーザー光の照射によって、第一レーザー発色層に記録する。具体的には、表側から顔画像記録部2に照射した第一の波長のレーザー光が、保護層を透過して第一レーザー発色層に吸収されて、第一レーザー発色層が発熱する。そして、第一レーザー発色層が発色閾値温度以上に上昇することにより、レーザー光の照射部位が第一色で発色する。かかる工程では、レーザー光の強度や照射時間によって、照射箇所の感熱発色成分の反応量を調節したり、レーザー光で発色させる網点の数や大きさを調節したりすることにより、所要の濃度で発色させることができる。
【0030】
色分解によって得られた第二色の画像は、第一レーザー発色層を透過し、第二レーザー発色層に吸収される第二の波長のレーザー光の照射によって、第二レーザー発色層に記録する。具体的には、表側から顔画像記録部2に照射した第二の波長のレーザー光が、保護層と第一レーザー発色層を透過して第二レーザー発色層に吸収されて、第二レーザー発色層が発熱する。そして、第二レーザー発色層が発色閾値温度以上に上昇することにより、レーザー光の照射部位が第二色で発色する。かかる工程では、レーザー光の強度や照射時間によって、照射箇所の感熱発色成分の反応量を調節したり、レーザー光で発色させる網点の数や大きさを調節したりすることにより、所要の濃度で発色させることができる。
【0031】
以上のように、本実施例の顔画像記録媒体1は、二種類の波長のレーザー光を用いて、第一レーザー発色層と第二レーザー発色層に異なる色相で画像を記録して、両画像を重ね合わせて混色させることにより、顔画像記録部2にカラーの顔画像Fを、高い色再現性で違和感なく記録できる。本実施例の顔画像記録媒体1は、レーザー発色層が二層であるため、従来構成に比べて、レーザー発色層を形成する手間や、レーザー発色層の材料費が低減され、製造コストを削減できるという利点がある。また、本実施例は、従来構成よりもレーザー発色層の層数が少ない分だけ、顔画像の記録時に使用するレーザー光の種類や、レーザー発色層の温度管理の手間が低減されるため、従来構成よりも顔画像Fを容易に記録できるという利点もある。
【0032】
<評価試験>
本実施例の顔画像記録媒体1について、フルカラーの顔画像(元画像)を、第一色と第二色の色相の組合せを種々変更して記録・表示し、夫々の色相の組合せの顔画像Fにおいて、元の顔画像の唇や髪、肌の色が違和感なく記録・表示されているかを、目視によって評価した。結果を
図3に示す。なお、
図3の図表に示す第一色と第二色の色相角は、CIE Lch色空間における色相(H)の角度である。
【0033】
図3に示すように、第一色の色相角が340°~360°又は0°~50°の範囲内で、かつ、第二色の色相角が125°~270°の範囲内である場合には、顔画像Fの唇や髪、肌の色を違和感なく記録・表示された。これに対して、第一色の色相角が330°以下や60°以上の場合は、元画像の血色感のある唇の色が、血色感のない不自然な色で表示された。具体的には、第一色の色相角が330°以下の場合は、唇が紫色で表示され、第一色の色相角が60°以上の場合は、唇がオレンジ色や黄色で表示された。また、第二色に関しては、色相角が110°以下や300°以上の場合に、髪の色が元画像と大きく異なる色で表示された。具体的には、第二色が110°以下の場合は髪等が元画像の色よりも黄色寄りで表示され、第二色が300°以上の場合は髪等が元画像の色よりも赤色寄りで表示された。この結果は、第一色の色相角を340°~360°又は0°~50°とし、かつ、第二色の色相角を125°~270°とすることで、カラーの顔画像Fを顔画像記録部2に違和感なく記録・表示できることを示唆している。
【0034】
特に、
図3に示すように、第一色と第二色が以下の(1)又は(2)の組合せの場合には、唇、髪、肌のいずれの色も、元画像と遜色のない色で再現された。
(1)第一色の色相角が350°~360°又は0°~10°の範囲内で、かつ、第二色の色相角が125°~220°の範囲内の場合
(2)第一色の色相角が10°~20°の範囲内で、かつ、第二色の色相角が170°~250°の範囲内の場合
この結果は、第一色と第二色を上記(1)又は(2)の組合せとすることで、顔画像記録部2にフルカラー画像と遜色のない顔画像を記録できることを示唆している。
【0035】
以上に、本発明の実施例について説明したが、本発明の実施形態は、上記実施例の構成に限定されるものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能である。例えば、本発明の実施形態として、以下のような変形例が挙げられる。
【0036】
上記実施例のレーザー発色層は、記録用のレーザー光を吸収して発熱するよう構成されるが、
図4(A)に示すように、光熱変換剤を含有する光熱変換層をレーザー発色層に隣設して、レーザー光によって光熱変換層を発熱させることで、隣接するレーザー発色層を間接的に加熱する構成としてもよい。かかる構成とした場合、レーザー発色層に光熱変換剤は不要となる。
【0037】
また、上記実施例では、二種類の波長のレーザー光を使用して、第一レーザー発色層と第二レーザー発色層の発色を個別に制御するよう構成されるが、
図4(B)に示すように、第一レーザー発色層と第二レーザー発色層の発色閾値温度が相違する構成とすれば、一種類の波長のレーザー光で二層のレーザー発色層の発色を個別に制御することもできる。具体的には、
図4(B)に示す構成では、発色閾値温度の低い第一レーザー発色層を先に発色させる。そして、紫外線の照射等によって第一レーザー発色層の発色能を消失させた後に、発色閾値温度の高い第二レーザー発色層を発色させることで、二層のレーザー発色層の発色を個別に制御できる。
【0038】
また、上記実施例の顔画像記録媒体1では、顔画像記録部2にのみレーザー発色層が配設され、文字情報記録部3に炭化発色層が配設されるが、レーザー発色層や炭化発色層を顔画像記録媒体1の全域に配設してもよい。レーザー発色層を顔画像記録媒体1の全域に配設する場合は、文字情報記録部3に炭化発色層を配設せず、レーザー発色層に属性情報を記録するようにしてもよい。また、炭化発色層を顔画像記録媒体1の全域に配設する場合は、
図5(A)に示すように、顔画像Fの記録に使用するレーザー光を妨げないように、顔画像記録部2において炭化発色層をレーザー発色層の下層に配置することが望ましい。
【0039】
また、
図5(B)に示すように、上記実施例の顔画像記録部2に、さらに、一様な薄黄色の印刷層を積層することが提案される。すなわち、かかる構成では、二層のレーザー発色層に記録される顔画像Fが、薄黄色の印刷層との混色によってわずかに黄味を帯びることとなる。このように、顔画像Fにわずかな黄味を加えれば、二層のレーザー発色層によって、二種類の色相で顔画像Fを表現するよりも、顔画像Fの色をより正確に再現可能となる。
【0040】
なお、上記印刷層は、
図5(B)に示すように、第二レーザー発色層と基材層の間に配置してもよいが、二層のレーザー発色層の間や、第一レーザー発色層と保護層の間に配置してもよい。印刷層は、薄黄色のインキでベタ印刷したものであってもよいし、一様な薄黄色と視認されるように、黄色のインキを一定の濃度で網点印刷したものであってもよい。ベタ印刷で形成する場合は、黄系のインキを、OD値0.44以下となるよう印刷することが望ましい。網点印刷で形成する場合は、黄色のプロセスインキを濃度5~30%で印刷することが望ましい。
【0041】
なお、上記実施例の顔画像記録媒体1では、基材層の表側にのみ顔画像記録部2や文字情報記録部3が配設されるが、表側の顔画像記録部2や文字情報記録部3に加えて、顔画像記録媒体1の裏側にも、顔画像記録部や文字情報記録部を配設するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 顔画像記録媒体
2 顔画像記録部
3 文字情報記録部
F 顔画像