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特開2024-142453オルガノイドを用いた凝集性タンパク質に対する凝集抑制活性又は凝集促進活性を評価する方法
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  • 特開-オルガノイドを用いた凝集性タンパク質に対する凝集抑制活性又は凝集促進活性を評価する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142453
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】オルガノイドを用いた凝集性タンパク質に対する凝集抑制活性又は凝集促進活性を評価する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20241003BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20241003BHJP
   G01N 33/532 20060101ALI20241003BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N33/532 Z
C07K14/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054595
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(71)【出願人】
【識別番号】504193837
【氏名又は名称】国立大学法人室蘭工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西下 直希
(72)【発明者】
【氏名】徳樂 清孝
(72)【発明者】
【氏名】上井 幸司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 真也
(72)【発明者】
【氏名】倉賀野 正弘
【テーマコード(参考)】
2G045
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045CB01
2G045DA36
2G045FB03
4H045AA10
4H045AA30
4H045CA40
4H045EA50
(57)【要約】
【課題】凝集性タンパク質に対する凝集抑制活性物質又は凝集促進活性物質のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【解決手段】被験物質の、凝集性タンパク質に対する凝集抑制活性又は凝集促進活性を評価する方法であって、水溶液中に標識された凝集性タンパク質、被験物質及びオルガノイドを共存させる工程と、前記オルガノイドの表面上及び/又は前記オルガノイド内部の凝集した及び/又は沈着した前記凝集性タンパク質を、前記標識を指標として定量する工程とを含む、前記方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物質の、凝集性タンパク質に対する凝集抑制活性又は凝集促進活性を評価する方法であって、
水溶液中に標識された凝集性タンパク質、被験物質及びオルガノイドを共存させる工程と、
前記オルガノイドの表面上及び/又は前記オルガノイド内部の凝集した及び/又は沈着した前記凝集性タンパク質を、前記標識を指標として定量する工程と、
を含む、前記方法。
【請求項2】
オルガノイドが、脳オルガノイド、小脳オルガノイド、内耳オルガノイド、甲状腺オルガノイド、胸腺オルガノイド、T細胞成熟リンパ官オルガノイド、心筋オルガノイド、肺オルガノイド、肝臓オルガノイド、膵臓オルガノイド、腎臓オルガノイド、胃腺オルガノイド、腸オルガノイド、上皮オルガノイド、卵巣オルガノイド、精巣オルガノイド及びこれらのオルガノイドを含む融合オルガノイドから成る群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
凝集性タンパク質が、アミロイドβタンパク質、タウタンパク質、α-シヌクレインタンパク質、プリオンタンパク質、ハンチンチンタンパク質、アミリンタンパク質、アポリポタンパク質A1、血清アミロイドAタンパク質、免疫グロブリン軽鎖、MAP4タンパク質、β2ミクログロブリン、TDP-43タンパク質及びシスタチンCタンパク質から成る群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
標識が光学的標識である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
光学的標識が量子ドットである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記定量工程が、
前記オルガノイドの画像を撮影する工程と、
前記撮影工程によって得られた画像における、前記オルガノイド表面積に対する前記標識からの蛍光領域の面積の割合を、前記オルガノイドの表面上及び/又は前記オルガノイド内部の凝集した及び/又は沈着した前記凝集性タンパク質として算出する工程と、
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記定量をオルガノイドが生存した状態で経時的に行う、請求項1記載の方法。
【請求項8】
遺伝子改変細胞を使用することなく、前記定量を少なくとも7日間行う、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばオルガノイドを用いて、凝集性タンパク質に対する凝集抑制活性又は凝集促進活性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(Alzheimer's disease:本明細書では、しばしば「AD」と略称する)は、不可逆的な進行性中枢神経疾患の一種であり、認知機能障害(認知症)、行動障害、又は人格変化等の症状を伴う。全世界における認知症の患者数は、2019年時点で5,000万人以上と推定されているが、約70%がAD患者と考えられており、その発症率は増加傾向にある。AD患者の増加に伴う医療費の増大や介護問題は、国や患者関係者達にとって経済的又は精神的負担になる等、近年大きな社会的問題となっている。
【0003】
ADは、患者脳内で疎水性のペプチドであるアミロイドβタンパク質(本明細書では、しばしば「Aβ」と表記する)の凝集及び蓄積に始まり、その後、微小管結合タンパク質であるタウタンパク質が過リン酸化されて線維化した後に、神経細胞が破壊され、脳が萎縮することによって発症する(非特許文献1~3)。
【0004】
このADの発症機序に基づき、in vitroで添加した被験物質のAβ凝集阻害効果を評価し、AD治療の候補化合物をスクリーニングする技術が開発されている。例えば、量子ドットナノプローブを用いたアミロイドβタンパク質凝集阻害物質の微量ハイスループットスクリーニング(Microliter-scale High-throughput Screening:本明細書では、「MSHTS」と表記する)法は、PBS溶媒中でアミロイドβタンパク質の凝集阻害効果を有する候補化合物を探索できるCell-free Assays (無細胞試験)系を基盤技術としたスクリーニング技術である(非特許文献4)。
【0005】
MSHTSの例として、例えば、特許文献1には、アミロイド形成を評価する方法、装置及びプログラムが開示されており、具体的には、PBS中で、被験物質の存在下又は非存在下で、アミロイドβタンパク質等のアミロイド形成性タンパク質と、当該アミロイド形成性タンパク質の重合により形成されるアミロイドへの結合能を有する蛍光プローブ(量子ドットを蛍光色素として含む、又は量子ドット等)とを反応させる凝集反応ステップと、凝集反応ステップにおいて得た凝集反応生成物の蛍光を撮像する撮像ステップと、撮像ステップにおいて撮像した蛍光画像内の関心領域に含まれる各画素の輝度値から標準偏差を算出する標準偏差算出ステップと、標準偏差算出ステップにおいて算出した被験物質存在下での輝度値標準偏差の値と被験物質非存在下での輝度値標準偏差の値との比較から、被験物質存在下での輝度値標準偏差の値が被験物質非存在下での輝度値標準偏差の値より小さい場合に、被験物質がアミロイド形成阻害活性を有すると判定する活性判定ステップとを含む、被験物質のアミロイド形成阻害活性を判定する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、タンパク質やペプチドのアミロイド凝集性を評価するための汎用性量子ドットナノプローブ、及び当該量子ドットナノプローブを用いたアミロイド形成阻害剤の評価方法が開示され、具体的には、アミロイド形成ペプチドのN末端又はC末端にシステインを介して量子ドットが結合した量子ドットナノプローブが開示されている。
【0007】
しかしながら、Cell-free Assays系で得られた候補化合物はCell-Based Assays(細胞を使用した試験)系では、その阻害効果が認められない場合が多い。これはCell-free Assays系が生体環境を必ずしも反映していないことが原因と考えられる。また、Cell-Based Assays(細胞を使用した試験)系においても2次元環境の培養細胞では、細胞とECM(人細胞外マトリックス)の間の複雑のシグナルのやりとりが再現できない問題なども挙げられている(非特許文献5)。そのため、3次元環境の培養細胞であるオルガノイド(3次元組織細胞)は、細胞とECMの間の複雑のシグナルのやりとりが再現でき、in vivoの生理学的環境により近い組織細胞であると期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2020/138265号
【特許文献2】特開2017-007990号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hardy J. and Selkoe D.J., 2002, Science, 297(5580): 353-356
【非特許文献2】Jack C.R.Jr., et al., 2010, Lancet Neurol. 9(1): 119-128
【非特許文献3】玉岡晃, 2017, 老年期認知症研究会誌, Vol.22, No.3, p.19-23
【非特許文献4】Ishigaki et al., 2013, PLOS ONE,8(8): e72992
【非特許文献5】Antoni, Burckel, Josset and Noel, Int J Mol Sci., 2015, 16(3): 5517-5527
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の実情に鑑み、オルガノイドを用いてin vivoにより近い環境下において、Aβ等の凝集性タンパク質に対する凝集抑制効果又は凝集促進効果を有する候補化合物を探索できるスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、オルガノイドを使用した試験系として、標識された凝集性タンパク質、被験物質及びオルガノイドを共存させ、オルガノイドの表面上やオルガノイド内部の凝集した及び/又は沈着した凝集性タンパク質を、標識を指標として定量することで、被験物質が、凝集性タンパク質に対する凝集抑制活性物質又は凝集促進活性物質であるか否かを評価できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
[1]被験物質の、凝集性タンパク質に対する凝集抑制活性又は凝集促進活性を評価する方法であって、水溶液中に標識された凝集性タンパク質、被験物質及びオルガノイドを共存させる工程と、前記オルガノイドの表面上及び/又は前記オルガノイド内部の凝集した及び/又は沈着した前記凝集性タンパク質を、前記標識を指標として定量する工程とを含む、前記方法。
[2]オルガノイドが、脳オルガノイド、小脳オルガノイド、内耳オルガノイド、甲状腺オルガノイド、胸腺オルガノイド、T細胞成熟リンパ官オルガノイド、心筋オルガノイド、肺オルガノイド、肝臓オルガノイド、膵臓オルガノイド、腎臓オルガノイド、胃腺オルガノイド、腸オルガノイド、上皮オルガノイド、卵巣オルガノイド、精巣オルガノイド及びこれらのオルガノイドを含む融合オルガノイドから成る群より選択される、[1]記載の方法。
[3]凝集性タンパク質が、アミロイドβタンパク質、タウタンパク質、α-シヌクレインタンパク質、プリオンタンパク質、ハンチンチンタンパク質、アミリンタンパク質、アポリポタンパク質A1、血清アミロイドAタンパク質、免疫グロブリン軽鎖、MAP4タンパク質、β2ミクログロブリン、TDP-43タンパク質及びシスタチンCタンパク質から成る群より選択される、[1]又は[2]記載の方法。
[4]標識が光学的標識である、[1]~[3]のいずれか1記載の方法。
[5]光学的標識が量子ドットである、[4]記載の方法。
[6]前記定量工程が、前記オルガノイドの画像を撮影する工程と、前記撮影工程によって得られた画像における、前記オルガノイド表面積に対する前記標識からの蛍光領域の面積の割合を、前記オルガノイドの表面上及び/又は前記オルガノイド内部の凝集した及び/又は沈着した前記凝集性タンパク質として算出する工程とを含む、[1]~[5]のいずれか1記載の方法。
[7]前記定量をオルガノイドが生存した状態で経時的に行う、[1]~[6]のいずれか1記載の方法。
[8]遺伝子改変細胞を使用することなく、前記定量を少なくとも7日間行う、[1]~[7]のいずれか1記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、オルガノイドにおいて、凝集した及び/又は沈着した凝集性タンパク質を定量することで、オルガノイドに添加した候補物質の中から、実際に凝集性タンパク質に対して凝集抑制活性又は凝集促進活性を示す候補物質を選択することができる。特に、本発明によれば、AD治療の候補化合物をスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1における、胚様体(EB)調製時間のオルガノイド様組織体形成への影響を示す写真である。
図2A】実施例1における、細胞がゲル内に浸潤・充填されていく様子を示す写真である。
図2B】実施例1における、ゲル内培養時の培養上清中CCL2濃度の変化を示すグラフである。
図3】実施例2における、オルガノイドにおける経時的なAβの凝集・沈着の様子を示す写真である。
図4】実施例3における、オルガノイドにおいて評価した各試験検体のAβ沈着抑制効果の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
1.被験物質の、凝集性タンパク質に対する凝集抑制活性又は凝集促進活性を評価する方法
1-1.概要
本発明の態様は、被験物質の、凝集性タンパク質に対する凝集抑制活性又は凝集促進活性を評価する方法である。本態様の方法は、水溶液中に標識された凝集性タンパク質、被験物質及びオルガノイドを共存させる工程と、オルガノイドの表面上及び/又はオルガノイド内部の凝集した及び/又は沈着した凝集性タンパク質を、標識を指標として定量する工程とを含むことを特徴とする。本態様の方法によれば、凝集性タンパク質に対して凝集抑制活性又は凝集促進活性を示す候補物質を選択(スクリーニング)することができる。
【0017】
1-2.用語の定義
本明細書で使用する以下の用語について定義する。
【0018】
(1)オルガノイド
オルガノイドとは、細胞を自己組織化させることで、各組織又は臓器に類似した機能を有する3次元的な組織様構造体をいう。
【0019】
オルガノイドとしては、脳オルガノイド(Cerebral organoid)、小脳オルガノイド(Cerebellar organoid)、内耳オルガノイド、甲状腺オルガノイド、胸腺オルガノイド、T細胞成熟リンパ官オルガノイド、心筋オルガノイド、肺オルガノイド、肝臓オルガノイド、膵臓オルガノイド、腎臓オルガノイド、胃腺オルガノイド(Gastruloids)、Foregutオルガノイド(口腔及び胃を構成するオルガノイド)、Midgutオルガノイド(小腸及び上行結腸を構成するオルガノイド)、Hindgutオルガノイド(直腸と上行結腸の以外を構成するオルガノイド)等の腸オルガノイド(Gut Organoid)、上皮オルガノイド、卵巣オルガノイド、精巣オルガノイド等が挙げられる。更に、これらのオルガノイド同士を融合することで新たな分化細胞を生み出す融合オルガノイドも挙げられる。
【0020】
(2)凝集性タンパク質
凝集性タンパク質とは、集合して、凝集体を形成するタンパク質をいう。凝集体を形成するタンパク質の性状は、液体状であっても固体状でも良く、凝集性タンパク質の種類は限定しない。例えば、ポリグルタミン酸、疾患に関連するタンパク質、又はオートファジー関連タンパク質が挙げられる。
【0021】
疾患に関連する凝集性タンパク質には、例えば、アルツハイマー病の原因タンパク質であるアミロイドβタンパク質及びタウタンパク質(リン酸化タウタンパク質を含む)、パーキンソン病の原因タンパク質であるα-シヌクレインタンパク質、伝達性海綿脳症(クロイツフェルトヤコブ病、狂牛病、又はプリオン病を含む)の原因タンパク質であるプリオンタンパク質、ハンチントン病の原因タンパク質であるハンチンチンタンパク質、II型糖尿病の原因タンパク質であるアミリンタンパク質、動脈硬化症(脳梗塞、肺梗塞、心筋梗塞を含む)の原因タンパク質であるアポリポタンパク質A1(APOA1タンパク質)、間接リウマチの原因タンパク質である血清アミロイドAタンパク質、全身性ALアミロイドーシスの原因タンパク質である免疫グロブリン軽鎖、心筋梗塞の原因タンパク質であるMAP4タンパク質、透析アミロイドーシスの原因タンパク質であるβ2ミクログロブリン、又は筋萎縮性側索硬化症の原因タンパク質とされるTDP-43タンパク質が挙げられる。特に、アミロイドβ40タンパク質、アミロイドβ42タンパク質、アミロイドβ43タンパク質、アミロイドβ38タンパク質等のアミロイドβタンパク質は好適である。
【0022】
凝集性タンパク質(Main Protein misfolding/aggregating diseases)、及びその凝集性タンパク質に関連した疾病(プロテオパチー)を下記表1に示す。
【0023】
例えば、α-シヌクレンやTDP-43、プリオン、シスタチンC、アミロイドβ等が凝集性タンパク質として知られており、それぞれパーキンソン病や前頭側頭葉変性症、プリオン病、慢性腎臓病(CKD)、アルツハイマー型認知症又は糖尿病性認知症などが知られている。
【0024】
【表1】
【0025】
オートファジー関連タンパク質には、例えば、ユビキチン様タンパク質であるAtg-8、Atg-12が挙げられる。
【0026】
凝集性タンパク質は、自然界に存在する天然タンパク質であってもよいし、天然タンパク質に人工的に変異や修飾を導入した改変タンパク質であってもよいし、又は人工的に設計されたアミノ酸配列に基づく人工タンパク質であってもよい。
【0027】
(3)凝集体
本明細書において「凝集体」とは、二以上の凝集性タンパク質の集合体をいう。本明細書では、いわゆるタンパク質複合体も凝集体に包含される。
凝集体は、同一種類のタンパク質から成るホモ凝集体であってもよいし、異なる種類のタンパク質から成るヘテロ凝集体であってもよい。
【0028】
(4)沈着
本明細書において、オルガノイドの表面上及び/又はオルガノイド内部の凝集性タンパク質の「沈着」とは、オルガノイド表面上に及び/又はオルガノイド内部に凝集性タンパク質が固着することをいう。沈着部位は、オルガノイドを形成する細胞の場合もあるし、細胞とECMの間に沈着することもある。
【0029】
(5)細胞
本発明において、対象となる「細胞」は、オルガノイドを形成する細胞である。
細胞は、多細胞生物に由来する細胞であればよい。好ましくは動物由来細胞、より好ましくは哺乳動物由来細胞である。例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の家畜又は愛玩動物、そしてヒト、アカゲザル、ゴリラ、チンパンジー等の霊長類が挙げられる。特に好ましくは、ヒト由来細胞である。
【0030】
細胞の種類は、限定はしない。例えば、生体組織に由来する細胞、生体組織に由来する細胞から派生した細胞、幹細胞、又は幹細胞から分化した細胞やその前駆細胞等が挙げられる。
【0031】
「生体組織」とは、生物の生体を構成する各種組織をいう。例えば、上皮組織、結合組織、筋組織、及び神経組織等が挙げられる。
【0032】
「幹細胞」とは、様々な細胞への分化能、及び自己複製能を持つ細胞をいう。例えば、成体幹細胞、及び多能性幹細胞等が挙げられる。
【0033】
「成体幹細胞」とは、成体の各組織中に存在し、最終分化が未完了で、ある程度の多分化能を有する幹細胞であって、体性幹細胞又は組織性幹細胞とも呼ばれる。例えば、間葉系幹細胞、神経幹細胞、腸管上皮幹細胞、造血幹細胞、毛包幹細胞、色素幹細胞、ガン幹細胞等が挙げられる。
【0034】
「多能性幹細胞」とは、生体を構成する全ての種類の細胞に分化することができる多分化能(多能性)を有し、適切な条件下のインビトロ(in vitro)での培養において多能性を維持したまま無限に増殖を続けることができる細胞をいう。例えば、胚性幹細胞(ES細胞:embryonic stem cell)、胚性生殖幹細胞、生殖系幹細胞、そして人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cells)等が挙げられる。
【0035】
また、アルツハイマー病(AD)患者由来iPS細胞から分化誘導した神経前駆細胞からさらに分化誘導した神経細胞を、アミロイドβ42タンパク質等のアミロイドβタンパク質を産生及び分泌する細胞としてオルガノイドの形成に使用することができる。
【0036】
(6)細胞外マトリックス
本明細書において、細胞を包埋する細胞外マトリックスという。細胞外マトリックスは、細胞を包埋できるゲル状態の基質であればよく、マトリゲルに代表される動物由来の混合タンパク質であってもよいし、より好ましくはコラーゲン、フィブロネクチン、エンタクチン、ラミニン、ビトロネクチン、人工タンパク質等の高分子由来基質であってもよい。
【0037】
(7)培地
本発明において「培地」とは、細胞を培養するために調製された液状又は固形状の物質をいう。原則として、細胞の増殖及び/又は維持に不可欠の成分を必要最小限以上含有する。培地は、基礎培地又は特殊細胞培養用培地のいずれであってもよい。
【0038】
「基礎培地」とは、様々な動物細胞用培地の基礎となる培地をいう。単体でも培養は可能であり、また様々な培養添加物を加えて、目的に応じた各種細胞に特異的な培地(特殊細胞培養用培地)に調製することもできる。基礎培地としては、Neurobasal(登録商標)培地、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地(Iscove's Modified Dulbecco's Medium)、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、及びこれらの混合培地(例えば、DMEM/F12培地)等の培地を使用することができるが、特に限定されない。その他、ヒトiPS細胞やヒトES細胞の培養に使用されている培地も好適に使用することができる。
【0039】
「特殊細胞培養用培地」とは、前述のように基礎培地に各種補助剤を添加することによって、特定の細胞の培養に最適となるように調製された培地、又は特定の細胞に分化誘導できるように調製された培地をいう。例えば、各メーカーで市販されている神経系細胞培養用培地が挙げられる。具体的には、例えば、DMEM/F12(5:5)に、インシュリンとトランスフェリンを添加した培地を基礎培地として、栄養培地で培養した初代アストログリア細胞の培養上清と血清アルブミンを加えて調製された住友ベークライト(Sumitomo bakelite)の神経細胞培養用培地にさらにNGF2.5S及びBDNFを補助剤として加えた「M培地」が該当する。ヒトiPS細胞やヒトES細胞等の多能性幹細胞培養用培地も該当する。
【0040】
培地は、血清を含む培地、血清を含まない培地(すなわち、無血清培地)のいずれであってもよい。
【0041】
(8)標識
本明細書において「標識する」とは、目的物質を識別するため、その目的物質を修飾することをいう。標識によって目的物質の検出又は選別等が容易、かつ確実となる。
【0042】
標識は、目的物質の種類に応じて行われる。本明細書では、凝集性タンパク質が検出すべき目的物質であることから、その種類はタンパク質である。従って、標識は、タンパク質を直接的又は間接的に標識することのできるあらゆる標識手段が対象となる。直接的な標識には、凝集性タンパク質に標識物質を結合させる標識方法、又は凝集性タンパク質を標識ペプチドとの融合タンパク質として発現させる標識方法が挙げられる。間接的な標識には、凝集性タンパク質を特異的に認識し、結合する抗体又はその活性断片に直接的に、又は二次抗体を介して間接的に標識する方法が挙げられる。好ましくは標識物質を結合させる方法である。
【0043】
タンパク質の標識に用いられる標識物質には、限定はしないが、例えば、光学的標識が挙げられる。
【0044】
本明細書において「光学的標識」とは、蛍光物質又は発光物質等のように可視光や近赤外線又は近紫外線の光を発する物質による標識をいう。
【0045】
「蛍光物質」とは、特定波長の励起光を吸収することで励起状態となり、元の基底状態に戻る際に蛍光を発する性質を有する物質である。蛍光物質は、蛍光色素、及び蛍光タンパク質のいずれも包含する。
【0046】
「蛍光色素」には、例えば、量子ドット、FITC、Texas、Texas Red(登録商標)、Alexa Fluor 405、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 700、Pacific Blue、DyLight 405、DyLight 550、DyLight 650、PE-Cy5(phycoerythrin-cyanin5)、PE-Cy7 (phycoerythrin -cyanin 7)、PE(phycoerythrin)、PerCP(peridinin chlorophyll protein)、PerCP-Cy5.5(peridinin chlorophyll protein-cyanin5.5)、cy3、cy5、cy7、FAM、HEX、VIC(登録商標)、JOE、ROX、TET、Bodipy493、NBD、TAMRA、Quasar(登録商標)670、Quasar(登録商標)705、APC(Allophycocyanin)、コンゴーレッド、チオフラビンT、チオフラビンS、フルオレサミン若しくはその誘導体、フルオレセイン若しくはその誘導体、アゾ類、又はローダミン若しくはその誘導体、クマリン若しくはその誘導体、ピレン若しくはその誘導体、シアニン若しくはその誘導体等が挙げられる。好ましくは量子ドットである。
【0047】
「量子ドット」(Quantum Dot:本明細書では、しばしば「QD」と表記する)とは、量子力学に従う光学特性を有し、可視光及び近赤外領域において蛍光を発するナノスケールの半導体結晶をいう。通常、直径2nm~10nmで、10~50個ほどの原子で構成され、粒径に依存した多数の蛍光色が得られる他、蛍光退色が起こりにくい等の優れた特徴を有していることからバイオセンシング材料、及び細胞若しくは動物のイメージング材料として応用が進んでいる。量子ドットとしては、例えば半導体量子ドット、特にコア・シェル型CdSe/ZnS量子ドットであるQdot(登録商標)525、Qdot545、Qdot565、Qdot585、Qdot605、Qdot655、Qdot705及びQdot800(いずれもThermo Fisher Scientific)等が挙げられる。
【0048】
「蛍光タンパク質」には、例えば、GFPが挙げられる。
【0049】
(9)被験物質
被験物質としては、例えば、核酸、ペプチド、タンパク質、合成化合物、細胞抽出物、細胞培養上清、植物抽出物、海藻抽出物等が挙げられる。
【0050】
1-3.オルガノイドの製造
本態様の方法で用いるオルガノイドの製造の一例を以下に示す。
オルガノイドの製造方法としては、細胞を培養し、スフェロイドを形成する工程と、該スフェロイド形成工程において得られたスフェロイドをゲルに包埋する工程と、該ゲル包埋工程で包埋したスフェロイドをゲル内で培養する工程とを含む方法が挙げられる。当該方法によれば、凝集性タンパク質に対して凝集抑制活性又は凝集促進活性を示す候補物質の選択(スクリーニング)に利用することができるオルガノイドを得ることができる。
当該オルガノイドの製造方法について、以下、それぞれの工程について説明をする。
【0051】
1-3-1.スフェロイド形成工程
「スフェロイド形成工程」は、細胞を培養し、胚様体等のスフェロイドを形成する工程である。
【0052】
本工程で使用する培養容器の形状は、特に限定されないが、例えば、ディッシュ状、フラスコ状、ウェル状、バッグ状、スピナーフラスコ状等の形状の培養容器が挙げられる。
【0053】
培養容器における、培地中での細胞の播種密度(培養開始時の細胞密度)は適宜調整することができるが、例えば0.01×105個細胞/mL以上、より好ましくは0.1×105個細胞/mL以上、より好ましくは1×105個細胞/mL以上、20×105個細胞/mL以下、より好ましくは10×105個細胞/mL以下が挙げられる。
【0054】
培養の温度条件は、例えば、25~40℃、30~39℃、又は34~38℃である。
【0055】
一方、培養時間は、例えば10時間以上、好ましくは12時間以上、特に好ましくは20時間以上、300時間以下、好ましくは200時間以下、特に好ましくは100時間以下である。培養時間が、100時間を超えて長すぎると、細胞間の結合が強くなりすぎ、後続のゲルに包埋したスフェロイドのゲル内培養工程で、細胞がゲル内にうまく充填されない。
【0056】
培養は、静置培養であってもよいし、培地が流動する条件での培養(流動培養)であってもよいが、好ましくは静置培養である。
【0057】
本工程では、例えばiPS細胞を神経細胞に誘導する過程で胚様体を形成させてもよく、又はiPS細胞から胚様体を形成させた後、神経細胞の胚様体を形成させてもよい。
【0058】
iPS細胞を神経細胞に誘導する過程で胚様体を形成させる場合には、先ず、iPS細胞を神経前駆細胞誘導培地(例えば、STEMdiffTM Neural Induction MediumにSTEMdiffTM SMADi Neural Induction Supplementを添加した培地(以下、「NIMS培地」と示す))で培養し、神経前駆細胞へ分化誘導する。この際、ROCK阻害剤を培地に添加してもよい。
【0059】
ROCK阻害剤は、Rho-キナーゼ(ROCK:Rho-associated protein kinase)のキナーゼ活性を阻害する物質として定義され、例えば、Y-27632(4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-ピリジン-4-イルシクロヘキサン-1-カルボキサミド又はその塩(例えば2塩酸塩))、H-1152((S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]-ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピン又はその塩(例えば2塩酸塩))、Fasudil/HA1077(1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン又はその塩(例えば2塩酸塩))、Wf-536((+)-(R)-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)ベンズアミド1塩酸塩)、Y39983(4-[(1R)-1-Aminoethyl]-N-1H-pyrrolo[2,3-b]pyridin-4-ylbenzamide dihydrochloride)、SLx-2119(2-[3-[4-(1H-indazol-5-ylamino)-2-quinazolinyl]phenoxy]-N-(1-methylethyl)-acetamide)、Azabenzimidazole-aminofurazans、DE-104、XD-4000、HMN-1152、4-(1-aminoalkyl)-N-(4-pyridyl)cyclohexane-carboxamides、Rhostatin、BA-210、BA-207、BA-215、BA-285、BA-1037、Ki-23095、VAS-012等が挙げられる。
【0060】
培地中のROCK阻害剤の最終濃度としては、例えば5μM以上、好ましくは20μM以上、100μM以下、好ましくは50μM以下が挙げられる。
【0061】
次いで、得られた神経前駆細胞を神経前駆細胞培養用培地(例えば、STEMdiffTM Neural Progenitor Medium)で拡大培養する。この神経前駆細胞を神経細胞培養用培地(例えば、Neuro basal Medium minus phenol red(Thermo Fisher Scientific社)にB-27 supplement(Thermo Fisher Scientific社)及びPenicillin-Streptomycin Mixed Solution(ナカライテスク社)の混合培地(以下、「NbM培地」という))で上述の所定の培養時間で培養し、神経細胞に分化誘導しつつ、胚様体を形成させる。培地には、さらにヘッジホッグタンパク質(例えばヒト組み換えソニックヘッジホッグ(SHH、ベリタス社製))が、必須の成分として添加される。培地中のヘッジホッグタンパク質の最終濃度としては、例えば1ng/mL以上、好ましくは10ng/mL以上、200ng/mL以下、好ましくは100ng/mL以下が挙げられる。
【0062】
一方、iPS細胞から胚様体を形成させた後、神経細胞の胚様体を形成させる場合には、iPS細胞を胚様体形成培地(例えば、STEMdiffTM Cerebral Organoid Kit内のEB Formation培地)で上述の所定の培養時間で培養し、iPS細胞の胚様体を形成させる。その後、iPS細胞の胚様体を、神経細胞分化誘導培地(例えば、GMEM(Thermo Fisher Scientific社)に5% KSR (Thermo Fisher Scientific社)とAGN193109(シグマアルドリッチジャパン社)含有培地)で培養し、神経細胞に分化誘導し、神経細胞の胚様体を得ることができる。
【0063】
神経細胞が分化誘導された否かの判断は、神経前駆細胞マーカー及び/又は神経細胞マーカーを指標に行うことができる。神経前駆細胞マーカーとしては、例えばNestinが挙げられる。また、神経細胞マーカーとしては、例えばMAP2が挙げられる。
【0064】
神経前駆細胞マーカー及び/又は神経細胞マーカーは、当該技術分野において任意の検出方法により検出することができる。発現マーカーを検出する方法としては、例えばフローサイトメトリーが挙げられるが、これらに限定されない。蛍光標識抗体を用いるフローサイトメトリーにおいて、ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)と比較してより強い蛍光を発する細胞が検出された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。フローサイトメトリーによって解析した蛍光標識抗体について陽性を呈する細胞の比率は、陽性率と記載されることがある。また、蛍光標識抗体は、当該技術分野において公知の任意の抗体を使用することができ、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)等により標識された抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
また、神経前駆細胞マーカー及び/又は神経細胞マーカーは、免疫染色反応により検出することができる。例えば、培養容器中の細胞又は胚様体を、一次抗体と反応させ、次いで、蛍光標識二次抗体と反応させ、蛍光顕微鏡観察により、視覚的に蛍光を発する細胞又は胚様体を検出する。例えば、DAPI(細胞核マーカー)によって染色された細胞又は胚様体に対する、蛍光標識二次抗体で染色された細胞又は胚様体の比率を、陽性率とすることができる。蛍光標識二次抗体は、当該技術分野において公知の任意の抗体を使用することができ、例えば、Alexa Fluor488等により標識された抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
例えば、神経前駆細胞マーカーが陽性を呈する細胞又は胚様体の割合(比率)は、例えば10%以下、好ましくは5%以下、及び/又は神経細胞マーカーが陽性を呈する細胞又は胚様体の割合(比率)は、70%以上、好ましくは80%以上の場合に、神経細胞が有意に分化誘導されたと判断することができる。
【0067】
1-3-2.ゲル包埋工程
本工程では、スフェロイド形成工程において得られたスフェロイドをゲルに包埋する。例えば、スフェロイドをマトリゲル等のゲルに包埋する。包埋方法としては、例えば培養プレートにパラフィルムを張り、チップの取付部等で窪みを作製し、窪みの中にスフェロイドを入れ、ゲルを滴下し、例えば10分間~720分間(好ましくは30~180分間)静置した後、新たな培養プレートにスフェロイドを包埋したゲルを回収する方法が挙げられる。
【0068】
1-3-3.ゲル内培養工程
本工程では、ゲル包埋工程で包埋したスフェロイドをゲル内で培養する。
【0069】
ゲルに包埋したスフェロイドを、培地を含む培養容器で振盪培養に供する。例えば、バイオシェイカーで10~200rpm(好ましくは30~150rpm)で旋回させつつ、振盪培養を行う。
【0070】
培養の温度条件は、例えば、25~40℃、30~39℃、又は34~38℃である。
【0071】
一方、培養時間は、ゲル内に細胞が十分に浸潤且つ充填され、オルガノイドが形成されるように、例えば14日間以上、好ましくは21日間以上、364日間以下、好ましくは280日間以下である。
【0072】
また、オルガノイド製造において、ゲルに包埋したスフェロイドからの細胞がゲル内に浸潤し、充填されていることを把握することは、オルガノイドの成熟性や製造工程を把握する上で重要である。この点、当該ゲル内培養工程において、細胞から細胞遊走性タンパク質が分泌され、培養上清中の細胞遊走性タンパク質の濃度がゲル内における細胞浸潤状況と相関することを見出した。
【0073】
そこで、好ましくは、当該ゲル内培養工程は、培養上清中の細胞遊走性タンパク質の濃度を測定することを含む。
【0074】
細胞遊走性タンパク質としては、例えばCCL2(単球走化性タンパク質)等が挙げられる。
【0075】
培養上清中の細胞遊走性タンパク質の濃度は、例えばELISA等の免疫学的測定方法により測定することができる。
【0076】
例えば、培養上清中のCCL2の濃度が、500pg/ml以下、好ましくは200pg/ml以下の場合に、ゲル内における細胞の充填が完了し、オルガノイドが形成されたと判断することができる。
【0077】
1-4.方法
本態様の方法について、以下、それぞれの工程について説明をする。
【0078】
1-4-1.「共存工程」
「共存工程」は、水溶液中に標識された凝集性タンパク質、被験物質及びオルガノイドを共存させ、オルガノイドを培養(インキュベート)する工程である。本工程は、培養(インキュベーション)により、標識された凝集性タンパク質を、オルガノイドの表面上及び/又はオルガノイド内部に凝集させるか、且つ/又は沈着させる。
ここで、使用する水溶液としては、培地、生理食塩水、リンゲル液等が挙げられる。
【0079】
例えば、培養容器(例えば96ウェルマイクロプレート等のプレート)において、オルガノイドに対して、培地等で希釈した標識された凝集性タンパク質含有溶液、及び培地等で希釈した被験物質含有溶液を添加する。さらに、培地等で希釈した未標識凝集性タンパク質含有溶液を添加してもよい。これらの溶液の添加は、同時に、又は連続的に行うことができる。添加の順番は、いずれの順番であってもよい。
【0080】
あるいは、オルガノイドを、標識された凝集性タンパク質の存在下で培養(インキュベート)し、当該培養により、標識された凝集性タンパク質を、オルガノイドの表面上及び/又はオルガノイド内部に凝集させるか、且つ/又は沈着させる。このようにして、予め標識された凝集性タンパク質が凝集した及び/又は沈着したオルガノイドに、被験物質含有溶液を添加し、標識された凝集性タンパク質、被験物質及びオルガノイドを共存させることができる。
【0081】
培養容器において、例えば直径1mm以上のオルガノイドに対して、水溶液(培地)中の凝集性タンパク質及び被験物質のそれぞれの濃度としては、例えば標識された凝集性タンパク質:最終濃度5~100nM(好ましくは10~50nM)、被験物質:最終濃度1~100ng/μL(好ましくは10~50ng/μL)、未標識凝集性タンパク質:最終濃度5~100μM(好ましくは10~50μM)が挙げられる。
【0082】
共存又は培養(インキュベーション)の条件は、標識された凝集性タンパク質がオルガノイドの表面上及び/又はオルガノイド内部に凝集且つ/又は沈着可能であれば特に限定はしない。温度は、例えば、25~40℃、30~39℃、又は34~38℃である。また、時間は、例えば30分~1200時間(50日間)、12時間~96時間(4日間)、24時間(1日間)~72時間(3日間)、36時間~48時間(2日間)が挙げられる。
【0083】
培養(インキュベーション)は、静置培養であってもよいし、培地が流動する条件での培養(流動培養)であってもよいが、好ましくは静置培養である。
【0084】
1-4-2.定量工程
「定量工程」は、培養(インキュベーション)後、又はオルガノイドが生存した状態で(培養を継続したまま)経時的に(例えば、1~50日間毎に、好ましくは3~40日間毎に)、共存工程で得られるオルガノイドにおいて、オルガノイドの表面上及び/又はオルガノイド内部の凝集した及び/又は沈着した凝集性タンパク質を、添加した凝集性タンパク質に標識した標識を指標として定量する工程である。特に、遺伝子改変細胞を使用することなく、定量を少なくとも7日間行うことができる。本工程では、オルガノイドの表面上及び/又はオルガノイド内部の凝集性タンパク質の凝集体/沈着を定量的に検出する。
【0085】
凝集体/沈着の検出は、例えば、凝集性タンパク質が量子ドットのような光学的標識物質で標識されている場合、蛍光顕微鏡を用いた蛍光観察により検出すればよい。オルガノイドの表面上及び/又はオルガノイド内部に蛍光が観察された場合には、凝集体/沈着が形成されていると認定することができる。次いで、蛍光強度を定量化し、例えば、陰性対照との蛍光強度の値の比較によって、凝集体/沈着の有無を定量的に検出する。
【0086】
具体的には、定量工程は、オルガノイドの画像を撮影する工程と、撮影工程によって得られた画像における、量子ドットのような標識からの蛍光を指標として、オルガノイド表面積に対する標識からの蛍光領域の面積の割合を、オルガノイドの表面上及び/又はオルガノイド内部の凝集した及び/又は沈着した凝集性タンパク質として算出する工程とを含むことができる。
【0087】
例えば、脳オルガノイドに、量子ドット修飾アミロイドβタンパク質(例えば、アミロイドβ40タンパク質)及び未標識アミロイドβタンパク質(例えばアミロイドβ42タンパク質)を添加した場合には、脳オルガノイドに光照射し、該量子ドットにより、脳オルガノイドの表面上及び/又は脳オルガノイド内部の、未標識アミロイドβタンパク質及び該量子ドット修飾アミロイドβタンパク質を含む凝集体/沈着を可視化する。
【0088】
次いで、脳オルガノイドの画像取得、次いで量子ドットによる蛍光についての画像解析から蛍光領域の面積を算出する。蛍光領域の面積は、凝集性タンパク質の凝集/沈着量と正に相関することから、例えば、陰性対照(例えば、被験物質非存在下)及び/又は陽性対照(例えば、既知の凝集抑制活性物質又は凝集促進活性物質の存在下)との脳オルガノイド表面積に対する蛍光領域の面積の割合の比較から、添加した被験物質が、凝集性タンパク質に対する凝集抑制活性又は凝集促進活性を有するか否か評価する。
【0089】
例えば、オルガノイドの画像を撮影し、撮影によって得られた画像における、オルガノイド面積を算出する(オルガノイド表面積)。
【0090】
次いで、画像における凝集性タンパク質の蛍光領域の面積を算出する(凝集性タンパク質の沈着面積)。
【0091】
オルガノイドに対する凝集性タンパク質の沈着率(%)は、下記(1)式で算出することができる:
(凝集性タンパク質の沈着面積/オルガノイド表面積)×100・・・・(1)
さらに、例えば、被験物質が有する凝集性タンパク質の沈着抑制機能を、沈着抑制率(%)として定量化でき、下記式(2)で算出することができる:
凝集性タンパク質の沈着抑制率(%)=(陰性対照の凝集性タンパク質の沈着率(%))―(被験物質添加時の凝集性タンパク質の沈着率(%))・・・(2)
式(2)で算出した沈着抑制率(%)が大きいほど、被験物質が有する沈着抑制効果が大きいことが分かる。
【0092】
このように、陰性対照と比較して、オルガノイド表面積に対する蛍光領域の面積の割合が低い場合には、添加した被験物質は、凝集抑制活性を有すると判定することができる。陰性対照と比較して、オルガノイド表面積に対する蛍光領域の面積の割合が高い場合には、添加した被験物質は、凝集促進活性を有すると判定することができる。陽性対照(例えば、既知の凝集抑制活性物質の存在下)と比較して、オルガノイド表面積に対する蛍光領域の面積の割合が同等以下である場合には、添加した被験物質は、凝集抑制活性を有すると判定することができる。陽性対照(例えば、既知の凝集促進活性物質の存在下)と比較して、オルガノイド表面積に対する蛍光領域の面積の割合が同等以上である場合には、添加した被験物質は、凝集促進活性を有すると判定することができる。
【0093】
1-5.効果
本態様の方法は、生体環境により近い状態において、ADやパーキンソン病等のアミロイドーシスをはじめとした凝集性タンパク質に起因する様々な疾病の治療や予防に有用な薬の探索ツールとしての有効性が期待できる。
【実施例0094】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0095】
なお、本実施例で使用する試薬類は、以下の通りであった:
<試薬類>
・STEMdiffTM Neural Progenitor Medium(NPM) (STEMCELL/5833)
・Neuro basal medium minus phenol red (Gibco/12348017)
・hESC-Qualified Matrigel (hES-matrigel) (Corning/354277)
・Accutase (STEMCELL/7920)
・DMEM/F-12 (Gibco/21041025)
・Y-27632 (nacalao/08945-84)
・PBS (Gibco/10010-031)
・B-27 (Gibco/17504044)
・Penicillin-Streptomycin (Nacalai/26253-84)
・Amyloid β-Protein human 1-42 (ペプチド研究所/4349-v)
・1,1,1,3,3,3-Hexafluoro-2-2propanol(HFIP) (東京化成工業/H0424)
・ジメチルスルホキシド(DMSO) (富士フィルム和光純薬/046-21981)
・QD試薬 (下記に記載)
・植物素材溶液(100 mg/mL溶液:下記に記載)
・生理食塩水(生食)(大塚製薬)
・1mLシリンジ
・0.2μmフィルター
・NbM培地の調製
50mL Neuro basal medium minus phenol red(Gibco/12348017)に1mL B-27(Gibco/17504044)と500μL Penicillin-Streptomycin(Nacalai/26253-84)を添加し、NbM培地を調製した。
【0096】
〔実施例1〕脳オルガノイドの調製
(1)iPS細胞の培養及び継代
ヒトiPS細胞は、HPS08554(RIKEN BRC)を使用し、Matrigel(Corning社)、Vitronectin(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、iMatirx((株)タカラ, T303)又はフィブロネクチン(Recombinant HUMAN Fibronectin GMP Protein, CF Summary)をコートした細胞培養用ディッシュ上にヒトiPS細胞を播種した。培地は、mTeSR1(STEMCELL Technologies社)、TeSR2(STEMCELL Technologies社)、Essential 8TM(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)又はStemFitを使用し、維持培養した。
【0097】
継代時の細胞剥離剤としては、Matrigel又はVitronectin上で培養した場合は、Accutase(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)若しくはGCDR(STEMCELL Technologies社)を使用し、フィブロネクチン上で培養した場合は、0.05% EDTA(エチレンジアミン四酢酸)溶液を使用し、また、iMatirx上で培養した場合は、TrypLE Select(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)又はTrypLE Expressを用いた。
【0098】
また、細胞播種時のみ、Y-27632(和光純薬工業株式会社)を10μMの濃度になるように培地に添加した。培地交換は、1日毎又は毎日実施した。実験には、継代数50回までのヒトiPS細胞を使用した。
【0099】
(2)神経誘導性胚様体(EB)の調製
解凍後、少なくとも2継代したヒトiPS細胞を剥離剤で5~15分間処理して、培養基材から剥離させ、ピペットマンを用いてピペッティングで単一細胞まで分散させた。この単一細胞を最終濃度10μMのY-27632(和光純薬工業株式会社)を含むSTEMdiffTM Neural Induction MediumにSTEMdiffTM SMADi Neural Induction Supplement(以下、「NIMS培地」と示す)を添加した培地で懸濁し、PLO/Lamininコート又はMatrigel(登録商標)(Corning(登録商標))上に細胞を播種し、5%CO2、37℃の環境下で培養した。
【0100】
細胞接着を確認後、毎日NIMS培地を全量交換した。7日目にAccutaseで接着細胞を剥離し、PLO/lamininコート又はMatrigel上で、剥離した細胞をSTEMdiffTM Neural Progenitor Mediumで拡大培養し、3継代した。この細胞をNeuro basal Medium minus phenol red(Thermo Fisher Scientific社)50mLにB-27 supplement(Thermo Fisher Scientific社)1mL及びPenicillin-Streptomycin Mixed Solution(ナカライテスク社)の混合培地(以下、「NbM培地」という)にSHH(ヒト組み換えソニックヘッジホッグ(ベリタス社))を最終濃度1ng/mLに調製したNbM plus Shh培地に懸濁し、4×105個/mLの細胞懸濁液を調製し、0.1mLずつU底96穴プレ-トに懸濁液を播種後、24時間、5%CO2、37℃の環境下で培養し、神経誘導性EBを調製した。
【0101】
又は、mTeSR1(STEMCELL Technologies社)で培養したヒトiPS細胞をGCDRで単一細胞に処理し、9×104個/mLの細胞懸濁液を調製し、0.1mLずつU底96穴プレ-トに懸濁液を播種し、STEMdiffTM Cerebral Organoid Kit内のEB Formation培地で2日おきに培地交換を行い、5%CO2、37℃の環境下で5日間培養した。その後、Induced Mediumに交換し、追加で2日間培養することでiPS細胞から形成したEBを神経誘導し、神経誘導性EBを調製した。
【0102】
(3)神経誘導性EBのゲル包埋培養
ヘッジホッグシグナル添加2日後(Day2)のEBとヘッジホッグシグナル添加5日後(Day5)のEBをそれぞれ崩さないよう慎重に広口チップで回収し、12個のEBをマトリゲルに包埋した。包埋方法は、複数あるが、本実施例においては48 well plateにパラフィルムを張り、チップの取付部を使用し、必要数の窪みを作製し、窪みの中に12個のEBを入れ、余分な培地を除去した。その後、マトリゲルを15μL滴下し、インキュベーター内で0.5~2時間ほど静置し、浮遊用6穴プレートに新鮮NbM培地を滴下し、先端をハサミで切断したチップでマトリゲルを崩さないように回収した。
【0103】
マトリゲルに包埋したそれぞれのEBを、バイオシェイカーで90rpmで旋回させつつ、5%CO2、37℃の環境下で培養した。なお、ゲル包埋培養を行う期間、3日毎にNbM培地を半量ずつ交換した。
【0104】
図1に示すように、オルガノイド様の組織体が形成される様子を確認した結果、Day2のEBでは良好な組織体が形成されたのに対し、Day5のEBの場合は、細胞がゲル内に十分に浸潤・充填されなかった。
【0105】
(4)ゲル包埋培養及び培養上清中のCCL2の定量
マトリゲルに包埋したそれぞれのEBを、バイオシェイカーを使用し90rpmで旋回させつつ、5%CO2、37℃の環境下で培養した。ゲル内の細胞は活発に浸潤・増殖することでゲル空間を充填する。そこで、ゲル内培養初期(未充填期:D0)とゲル内培養増殖期(未充填期:D7)、ゲル内細胞充填期(充填期:D14)、ゲル内細胞充填期(充填期:D21)の培地を回収し、培養上清中のサイトカイン分泌量(CCL2)をELISAにて定量した。
【0106】
結果を図2に示す。ゲル内における細胞浸潤状況(図2A)と、CCL2(単球走化性タンパク質)の分泌量(図2B)に相関があることが見出された。細胞がゲル内に浸潤し充填される間はCCL2分泌量が高く維持され、充填が進むにつれ分泌量は低下し、やがて一定の分泌量に落ち着くことが分かった。
【0107】
このように、オルガノイド様組織体形成工程の培養上清中のCCL2量を測定することで、ゲル内に細胞充填したかどうかを確認できる。
【0108】
〔実施例2〕凝集性タンパク質の沈着可視化オルガノイドの調製、及び当該オルガノイドを用いた凝集性タンパク質の沈着抑制剤の探索方法
1000μL用チップ先端を滅菌済みハサミで切断し、実施例1で作製した直径1mm以上にまで増殖したオルガノイドを崩れない様に吸引し、U底96ウェルプレートに移した。その後、U底96ウェルプレートから培地を取り除き、(i)量子ドット修飾化アミロイドβタンパク質(QD-Aβ)溶液25μL、(ii)アミロイドβ42タンパク質(Aβ42)溶液25μL、(iii)試験検体溶液50μL((i)液:(ii)液:(iii)液の比が1:1:2)を1ウェルに滴下し、5%CO2、37℃で24時間培養した(終濃度:QD-Aβ 30nM、人工Aβ溶液10μM、試験検体(ロスマリン酸:50μM、トモエソウ:0.01mg/well、エゾフウロ:0.01mg/well))。
【0109】
各溶液の調製は、以下の通りであった。
(i)溶液(120nM QD-Aβ溶液)の調製
以下の手順によりAβを量子ドット(QD)で修飾し、量子ドット修飾化アミロイドβタンパク質(QD-Aβ)を調製した。
【0110】
125μLの8μM Qdot(QD)TM 605 ITKTM amino(PEG) Quantum Dotsを2本の1.5 mLチューブに入れ、10000×gで4℃にて1分間遠心した。それぞれの上清を遠心濃縮チューブに移し、4500μLのPBSを加えた。2本の合計量がおよそ50μL以下になるまで、4℃、3800×gで遠心し、濾液は廃棄した。PBSを補充した後、再度50μLになるまで遠心した。得られたQD溶液を全量が約180μLになるように1本にまとめた。10mM sulfo-EMCSを20μL追加し、1時間常温で静置してQD-EMCSを調製した。QD-EMCS調製後に、液中に含まれる未反応N-ヒドロキシスクシンイシド基を不活性化させるために100mM K-グルタミン酸を20μL加えて、常温で10分間静置した。
【0111】
脱塩カラムを2本用意し、それぞれに樹脂を約800μL入れて、1000×gで4℃にて1分間遠心した。各カラムに300μLのPBSEを積載し、1000×gで4℃にて1分間遠心を行う工程を2セット行い、脱塩カラムを調製した。
【0112】
110μLの前記QD-EMCSを2本の脱塩カラムの中心に染み込ませた後、スタッカーとしてPBSEを15μL加えた。1000×gで4℃にて2分間遠心した後、2本の脱塩カラムの濾液(脱塩QD-EMCS)をまとめた。得られた脱塩QD-EMCSに1.0 mM Cys-Aβを20μL/DMSOを加え、混合後、1時間常温で静置した。その後、液中に含まれる未反応マレイミド基を不活性化させるために20μLの100mMの2-メルカプトエタノールを加えて、常温で10分間静置した。
【0113】
上記操作で濾液を2本の遠心濃縮チューブへ145μLずつ移し、水を4500μL加えた後、3800×gで4℃にて17分間遠心した。濾液は廃棄し、得られた溶液の全量が約140μLになるようにして1本にまとめた。
【0114】
脱塩カラムに水を300μL入れて1000×gで4℃にて1分間遠心を行い、この工程を2回繰り返した。濾液を70μLずつ脱塩カラムに染み込ませて、スタッカーの水を15μL加えた。1000×gで4℃にて2分間遠心し、目的のQD-Aβを得た。
【0115】
合成したQD-Aβ溶液(80μM)をNbM培地で120nMになるまで希釈し、超音波洗浄機で25℃で43kHz、5分間にかけた。
【0116】
(ii)溶液(40μM 人工Aβ42溶液)の調製
1-42 0.5mg(ペプチド研究所製:Cat No. 4394v)の試薬瓶に500μL の1,1,1,3,3,3-Hexafluoro-2-propanol(HFIP)溶液を添加し、ピペッティング後、試薬瓶をパラフィルムで密閉し、1時間、室温のままクリーンベンチ内で静置し、クリーンベンチ内で試薬瓶の蓋を開け、HFIPを揮発させた。HFIPが全て揮発したことを確認後、107μL のDMSOを添加し、15minかけて溶解させ、チューブに10μLずつ分注し、-80℃で凍結保存した。この凍結保存した1mM Aβ42溶液を解凍後、20回以上ピペッティング操作し、NbM培地で25倍希釈し、40μM Aβ溶液を調製した。
【0117】
(iii)試験検体含有溶液の調製
a. 低分子化合物溶液の調製(100μM)
ロスマリン酸(以下、「RA」という)をDMSOで溶解し、1mM RA溶液を作製し、NbM培地で100μMに希釈し、100μM RA溶液を調製した。
b. 植物エキスの調製 (0.02 mg/well)
植物(トモエソウ、及びエゾフウロ)エキスの調製(試験時の最終エキス濃度:0.01mg/well)
北海道白糠町で無農薬で3ヶ月間以上栽培したトモエソウ、及びエゾフウロの葉茎を採取し、洗浄後25℃で定温乾燥した。その後、乾燥トモエソウと乾燥エゾフウロを各1gずつ、30 mL の90% EtOHに浸漬させ、28℃、暗条件、20 時間、150 rpmで振とう抽出した。抽出液を3,000 rpmで20分遠心処理後、綿栓濾過し、更に遠心濃縮後、凍結乾燥した。この乾燥物をDMSOに溶解させ、100 mg/mLのトモエソウエキス(以下、トモエソウ)、及びエゾフウロエキスを調製し、使用まで-20℃で保管した。
【0118】
本素材エキスをNbM培地で25倍に希釈し、その希釈液40μLを960μLのNbM培地で希釈後、0.2μmフィルターで濾過滅菌し、0.02mgの素材含有溶液を調製した。
【0119】
なお、DMSO溶液及び/又は150mM生理食塩水1μLを19μLのNbMで希釈し、その希釈液をさらに3μL抜き取り、72μLのNbMで希釈した液を調製した。
【0120】
翌日、オルガノイドを吸引しない様に培養上清を全て除去し、新鮮NbM培地を150μL添加後に蛍光顕微鏡で培養オルガノイドを観察・撮影した。
【0121】
撮影後は、再度インキュベーター内へ戻して培養し、翌日以降も同様に蛍光顕微鏡での観察・撮影を行った。
【0122】
観察・撮影による経時的なAβの凝集・沈着の様子を図3に示す。
図3に示すように、凝集性タンパク質の沈着可視化オルガノイドは、オルガノイドを生存させたまま、培養日数を増やすと共に徐々に凝集性タンパク質の沈着量も増大させることができ、少なくとも8日間は観察することが確認できた。以上の結果より、ヒト脳内の加齢に伴う凝集性タンパク質の蓄積速度を模倣した、凝集性タンパク質の沈着可視化オルガノイドも作製できることが分かった。
【0123】
〔実施例3〕オルガノイドに対する凝集性タンパク質の沈着定量化法
蛍光顕微鏡(キーエンス社製BZ-X800)を使用し、明視野で実施例2における培養オルガノイドを高解像度、露光時間1/500s~1/2000s、又は高感度で露光時間1/2000s~1/5000sでZスタックを20μmピッチで撮影した。x2対物レンズを使用した場合、オルガノイドの全体が映る1枚を撮影し、x4対物レンズを使用した場合は、培養オルガノイド中心部を中央位置とする画像を1枚、培養オルガノイドの輪郭を含む画像を3枚撮影し、計4枚の画像を取得した。その後、量子ドット修飾アミロイドβの培養オルガノイドへの沈着の様子を観察するため、TRITCレンズを用いて高感度で露光時間1/4s~1/8.5sで赤色蛍光を観察し、上記手順に従い画像を取得した。
【0124】
上記で取得したそれぞれの画像を下記の通りに解析した。具体的には、ハイブリッドセルカウント機能で各種試験に使用したオルガノイド画像を読み込み、明視野を選択後、抽出選択をOFFに設定した。読み込んだ明視野画像の閾値を200に設定し、オルガノイド面積を算出した(オルガノイド表面積)。
【0125】
続いて、
QD-Aβ/人工Aβをオルガノイド培養下に添加し、試験検体が未添加のオルガノイド画像;
QD-Aβ/人工Aβに試験検体としてDMSO及び/又は生理食塩水を添加した陰性コントロールのオルガノイド画像;及び
試験検体としてロスマリン酸(RA)又は2種類の植物エキス(トモエソウ、エゾフウロ)を添加したオルガノイド画像
を読み込んだ。
【0126】
各種試験の蛍光画像を画像処理のブラックバランスのレベルを調整した。最初に陰性コントロールとなる画像を読み出し、x2の対物レンズで撮影した画像は[50]、x4の対物レンズで撮影した画像は[70]を初期で、バックグラウンドとオルガノイドに沈着した凝集性タンパク質の蛍光領域が分離できるかを確認した。上記ブラックバランスのレベルでもバックグラウンドとオルガノイドに沈着した凝集性タンパク質の蛍光領域が分離できない場合、ブラックバランスのレベルを5単位で可変し、最適なブラックバランスのレベルを設定した。
【0127】
前記ブラックバランス適用後の蛍光画像と明視野オルガノイド画像を結合後、ハイブリッドセルカウント機能で蛍光を選択後、1抽出を設定した。輝度の詳細モードを選択し、抽出設定範囲を0-299し、さらにオルガノイドを選択後、ボカシフィルターのチェックを外し、閾値を25に設定し、凝集性タンパク質の蛍光範囲の面積を算出した(凝集性タンパク質の沈着面積)。
【0128】
オルガノイドに対する凝集性タンパク質の沈着率(%)は、下記(1)式で算出した:
(凝集性タンパク質の沈着面積/オルガノイド表面積)×100・・・・(1)
また、前記の試験系が成立しているかを確認するには、QD-Aβ/人工Aβをオルガノイド培養下に添加し試験検体を未添加のオルガノイド画像、及び/又はQD-Aβ/人工Aβに試験検体としてDMSO及び/又は生理食塩水を添加した陰性コントロールのオルガノイドに対する凝集性タンパク質の沈着率(%)が90~100%の範囲であることとした。
【0129】
さらに、本試験系が成立している場合において、試験検体も同時に添加する群を設けることで、検体がオルガノイドに対して凝集性タンパク質の沈着抑制効果を定量解析することもできた。具体的には、試験検体が有する凝集性タンパク質の沈着抑制機能を、沈着抑制率(%)として定量化でき、下記式(2)で算出できた:
凝集性タンパク質(本実施例ではAβ)の沈着抑制率(%)=(陰性コントロール添加時の凝集性タンパク質の沈着率(%))―(試験検体添加時の凝集性タンパク質の沈着率(%))・・・(2)
式(2)で算出した沈着抑制率(%)が大きいほど、試験検体が有する沈着抑制効果が大きいことが分かる。本評価技術は、凝集性タンパク質が細胞、又は組織に対して沈着することを防ぐ又は遅延させることができる薬剤、化合物、食品、物質を選択する技術に利用できる。
【0130】
本実施例における各試験検体のAβ沈着抑制効果の結果を図4に示す。
図4に示すように、DMSO、生理食塩水やロスマリン酸とは比較にならないほど、エゾフウロエキスは、凝集性タンパク質のオルガノイドへの沈着抑制効果を有することが確認できた。DMSO、生理食塩水、ロスマリン酸のAβ沈着抑制率は、いずれも5.0%未満であったが、エゾフウロのAβ沈着抑制率は92.8%、トモエソウのAβ沈着抑制率は42.3%であることが確認できた。以上より、エゾフウロは凝集性タンパク質に起因する疾病予防に利用できる。
図1
図2A
図2B
図3
図4