IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日油株式会社の特許一覧

特開2024-142457防曇剤組成物、該組成物から形成される防曇塗膜を有する防曇性物品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142457
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】防曇剤組成物、該組成物から形成される防曇塗膜を有する防曇性物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/24 20060101AFI20241003BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20241003BHJP
   C08L 33/24 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 5/19 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C09D133/24
C09K3/00 R
C08L33/24
C08K5/42
C08K5/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054599
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 一輝
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4J002BG131
4J002CH052
4J002EG027
4J002EN138
4J002EV187
4J002EV236
4J002EV257
4J002EW047
4J002FD141
4J002FD156
4J002FD312
4J002FD317
4J002FD318
4J002GH00
4J038CG171
4J038GA09
4J038KA04
4J038KA06
4J038KA09
4J038MA09
4J038NA06
4J038PB07
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】過酷な高温高湿環境下において防曇性が低下せず、かつ、発生した水垂れ跡が目立ち難い防曇塗膜を形成することができる防曇剤組成物、及び当該防曇塗膜を有する防曇性物品を提供すること。
【解決手段】共重合体(A)と酸触媒(B)と界面活性剤(C)を含む防曇剤組成物であって、前記共重合体(A)は、単量体混合物から得られる(メタ)アクリレート共重合体であり、前記単量体混合物は、一般式(1)で表される単量体(A-1)を含み、前記酸触媒(B)は、スルホン酸化合物を含み、前記界面活性剤(C)は、アニオン系界面活性剤(C-1)と芳香環を有するカチオン系界面活性剤(C-2)を含む防曇剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合体(A)と酸触媒(B)と界面活性剤(C)を含む防曇剤組成物であって、
前記共重合体(A)は、単量体混合物から得られる(メタ)アクリレート共重合体であり、
前記単量体混合物は、一般式(1):
【化1】
(一般式(1)中、Rは、水素原子、またはメチル基であり、Rは、水素原子、または炭素数1~4のアルキル基である。)で表される単量体(A-1)を含み、
前記酸触媒(B)は、スルホン酸化合物を含み、
前記界面活性剤(C)は、アニオン系界面活性剤(C-1)と芳香環を有するカチオン系界面活性剤(C-2)を含むことを特徴とする防曇剤組成物。
【請求項2】
前記共重合体(A)を構成する単量体混合物が、芳香環を有する単量体(A-2)を含むことを特徴とする請求項1に記載の防曇剤組成物。
【請求項3】
前記芳香環を有するカチオン系界面活性剤(C-2)が、一般式(2):
【化2】
(一般式(2)中、Rは、フェニル基またはベンジル基であり、Rは、炭素数1~18のアルキル基、または炭素数2~18のアルケニル基であり、Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。)で表される化合物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の防曇剤組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の防曇剤組成物から形成される防曇塗膜を有することを特徴とする防曇性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇剤組成物、該組成物から形成される防曇塗膜を有する防曇性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のヘッドランプなどの車両灯具において、灯室内に高湿度の空気が入り込み、外気や降雨などによってレンズが冷やされ、内面に水分が結露することによって曇りが生じることがある。その結果、車両灯の輝度が低下し、またレンズ面の美観が損なわれることにより、ユーザーの不快感を引き起こす場合がある。このようなレンズの曇りを防ぐために、曇りが発生する部位(レンズ内側)に防曇剤を塗布して、防曇塗膜(乾燥塗膜、あるいは硬化塗膜)を形成する方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1では、特定の共重合体(A)と、酸触媒(B)、界面活性剤(C)を含有する防曇剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-006881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
灯室内は高温高湿となることから、過酷な高温高湿環境下でも防曇性を維持でき、かつ発生した水垂れ跡が目立ち難い防曇塗膜であることが求められている。
【0006】
特許文献1では、車両灯具に求められる性能を有し、特に、防曇持続性に優れた防曇塗膜を形成することができる防曇剤組成物について開示されている。
【0007】
しかし、上記の特許文献1で開示された防曇剤組成物は、過酷な高温高湿環境下において防曇性を維持できず、発生した水垂れ跡が目立つことが懸念された。
【0008】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、過酷な高温高湿環境下において防曇性が低下せず、かつ、発生した水垂れ跡が目立ち難い防曇塗膜を形成することができる防曇剤組成物、及び当該防曇塗膜を有する防曇性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、共重合体(A)と酸触媒(B)と界面活性剤(C)を含む防曇剤組成物であって、前記共重合体(A)は、単量体混合物から得られる(メタ)アクリレート共重合体であり、前記単量体混合物は、一般式(1):
【化1】
(一般式(1)中、Rは、水素原子、またはメチル基であり、Rは、水素原子、または炭素数1~4のアルキル基である。)で表される単量体(A-1)を含み、前記酸触媒(B)は、スルホン酸化合物を含み、前記界面活性剤(C)は、アニオン系界面活性剤(C-1)と芳香環を有するカチオン系界面活性剤(C-2)を含む防曇剤組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、前記防曇剤組成物から形成される防曇塗膜を有する防曇性物品に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の防曇剤組成物、防曇塗膜及び防曇性物品における効果の作用メカニズムの詳細は以下のように推測される。ただし、本発明は、この作用メカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0012】
前記単量体(A-1)を含む共重合体(A)と前記芳香族系カチオン系界面活性剤(C-2)は相溶性が良好で、塗膜中の保持能が高い。また、前記アニオン系界面活性剤(C-1)と芳香環を有するカチオン系界面活性剤(C-2)は、塗膜中でイオンペアを形成する。以上より、共重合体(A)が、アニオン系界面活性剤(C-1)と芳香環を有するカチオン系界面活性剤(C-2)のイオンペアを塗膜中に保持して、塗膜から界面活性剤の流出を防ぐことができるため、過酷な高温高湿環境下において防曇性が低下せず、かつ、発生した水垂れ跡が目立ち難くなる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の防曇剤組成物は、共重合体(A)と、酸触媒(B)と、界面活性剤(C)を含む。
【0014】
<共重合体(A)>
本発明の共重合体(A)は、単量体混合物から得られる(メタ)アクリレート共重合体であり、前記単量体混合物は、少なくとも、以下の単量体(A-1)を含む。
【0015】
<単量体(A-1)>
本発明の単量体(A-1)は、一般式(1):
【化2】
(一般式(1)中、Rは、水素原子、またはメチル基であり、Rは、水素原子、または炭素数1~4のアルキル基である。)で表される単量体である。
【0016】
前記単量体(A-1)は、主に、N-メチロール基やN-メチロールエーテル基同士の脱水縮合反応、及びN-メチロール基やN-メチロールエーテル基と、ヒドロキシル基の脱アルコール縮合反応により分子間を架橋させて共重合体に架橋構造を形成する機能を有する。また、この縮合反応は酸触媒によって促進される。
【0017】
前記単量体(A-1)としては、例えば、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。前記単量体(A-3)は、塗膜の耐水性に優れ、加熱硬化性に優れるという観点から、N-メチロール(メタ)アクリルアミドが好ましい。前記単量体(A-1)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
前記単量体(A-1)に、芳香環を有する単量体(A-2)を併用することで、密着性に優れ、界面活性剤の溶出をより抑制することができる。
【0019】
前記単量体(A-2)としては、例えば、スチレン、フェニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノフェニルエーテル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノフェニルフェニルエーテル(メタ)アクリレート、フェノキシベンジル(メタ)アクリレートなどの炭化水素芳香環を有するビニル系単量体;2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-ビニルピロールなどの含窒素芳香環を有するビニル系単量体;2-ビニルフランなどの含酸素芳香環を有するビニル系単量体;3-ビニルチオフェンなどの含硫黄芳香環を有するビニル系単量体などが挙げられる。前記単量体(A-2)は、塗膜の耐水性に優れ、密着性に優れるという観点から、炭化水素芳香環を有するビニル系単量体が好ましい。前記単量体(A-2)は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
以下に、本発明の共重合体(A)を形成する単量体混合物中の各単量体成分の割合について説明する。
【0021】
前記単量体混合物中、前記単量体(A-1)の割合は1~30重量%であることが好ましい。前記単量体(A-1)の割合は、耐水性を向上させる、及び水垂れ跡を抑制させる観点から、前記単量体混合物中、3重量%以上であることがより好ましく、5重量%以上であることがさらに好ましく、そして、密着性を向上させる観点から、20重量%以下であることがより好ましく、15重量%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
前記単量体(A-2)を使用する場合、前記単量体混合物中、前記単量体(A-2)の割合は0.1~15重量%であることが好ましい。前記単量体(A-2)の割合は、密着性を向上させる、及び水垂れ跡を抑制させる観点から、前記単量体混合物中、1重量%以上であることがより好ましく、3重量%以上であることがさらに好ましく、そして、防曇性を向上させる観点から、10重量%以下であることがより好ましく、8重量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
なお、前記単量体混合物には、前記単量体(A-1)及び前記単量体(A-2)以外のその他の単量体(A-3)として、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレートなどの炭化水素基含有ビニル系単量体;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドなどのN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド系単量体;(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなどの4級アンモニウム塩を含有するビニル系単量体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸などのカルボキシ基含有ビニル系単量体、及びこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩;ビニルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-スルホプロピル(メタ)アクリレートなどのスルホン酸基含有ビニル系単量体、及びこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェートなどのリン酸基含有ビニル系単量体、及びこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩;1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオール(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、N,N’-メチレンビス〔(メタ)アクリルアミド〕などの2官能性(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの多官能ビニル系単量体;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのアルコキシシリル基を有するビニル系単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有ビニル系単量体などが使用できる。前記単量体(A-3)は、塗膜の防曇性に優れるという観点から、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド系単量体が好ましく、塗膜の耐水性に優れるという観点から、炭化水素基含有ビニル系単量体が好ましい。前記単量体(A-3)は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
前記単量体(A-3)として、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド系単量体を使用する場合、前記単量体混合物中、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド系単量体の割合は、10重量%以上60重量%以下であることが好ましく、20重量%以上50重量%以下であることがより好ましい。また、前記単量体(A-3)として、炭化水素基含有ビニル系単量体を使用する場合、前記単量体混合物中、炭化水素基含有ビニル系単量体の割合は、20重量%以上70重量%以下であることが好ましく、30重量%以上60重量%以下であることがより好ましい。
【0025】
前記単量体混合物中、前記単量体(A-1)~(A-3)の合計の割合は、85重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましく、95重量%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
<共重合体(A)の製造方法>
本発明の共重合体(A)は、前記単量体混合物を共重合することにより得られる。共重合体の構造としては、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体及びグラフト共重合体のいずれの構造であってもよいが、防曇性をはじめとする防曇剤組成物の効果を向上させることができると共に、防曇剤組成物を容易に調製することができるという観点からランダム共重合体が好ましい。共重合体を得るための重合方法としては、ラジカル重合法、カチオン重合法、リビングアニオン重合法、リビングカチオン重合法などの公知の各種重合方法が採用されるが、特に工業的な生産性の容易さ、多義にわたる性能面より、ラジカル重合法が好ましい。ラジカル重合法としては、通常の塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法、乳化重合法などが採用されるが、重合後にそのまま防曇剤組成物として使用することができる点で溶液重合法が好ましい。
【0027】
前記溶液重合法に用いる重合溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールなどのアルコールエーテル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t-ブチル、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、ホルムアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶剤;水などが使用される。前記重合溶剤は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
なお、前記重合溶剤は、著しく高沸点を有する溶剤は、塗膜の乾燥、加熱硬化時において、溶剤の残留によって基材に対する塗膜の密着性を損なう場合がある観点から、1気圧下、180℃未満の沸点を有する溶剤を使用することが好ましい。
【0029】
前記ラジカル重合開始剤は、一般的に使用される有機過酸化物、アゾ化合物などを使用することができる。前記有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-ヘキサノエートレート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ヘキシルパーオキシピバレートなどが挙げられる。前記アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリルなどが挙げられる。前記ラジカル重合開始剤は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
前記ラジカル重合開始剤の添加量は、前記単量体混合物100重量部に対して0.01~5重量部であることが好ましい。前記ラジカル重合開始剤は、反応容器中に滴下しながら重合を行うことが重合発熱を制御しやすくなる点で好ましい。重合反応を行う温度は、使用するラジカル重合開始剤の種類によって適宜変更されるが、工業的に製造を行う上で好ましくは30~150℃、より好ましくは40~100℃である。
【0031】
前記共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、防曇塗膜に耐水性を付与する観点から、20,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましく、防曇剤組成物の塗装性及びハンドリング性を高める観点から、120,000以下が好ましく、110,000以下がより好ましい。
【0032】
前記共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、GPC法にて求めることができる。サンプルは、試料をジメチルホルムアミドに溶解して0.2重量%の溶液とし、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したものを用い、以下の条件にて測定することができる。
<重量平均分子量(Mw)の測定>
分析装置:HLC‐8320GPC(東ソー社製)
カラム:KD-802.5(昭和電工社製)、KD-803(昭和電工社製)、KD-80M(昭和電工社製)の直列接続
カラムサイズ:8.0×300mm
溶離液:ジメチルホルムアミド
流量:1.0mL/min
検出器:示差屈折計
カラム温度:40℃
標準試料:ポリスチレン
【0033】
<酸触媒(B)>
本発明の酸触媒(B)は、スルホン酸化合物であり、前記単量体(A-1)による架橋反応を促進させるための触媒としての機能を有する。
【0034】
前記酸触媒(B)としては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1-プロパンスルホン酸、などのアルキルスルホン酸化合物;ベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、4-エチルベンゼンスルホン酸、p-クロロベンゼンスルホン酸、m-キシレン-4-スルホン酸、3-ピリジンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、1-ピレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸などの芳香環を有するスルホン酸化合物などが挙げられる。
【0035】
前記酸触媒(B)は、硬化性に優れ、水垂れ跡が目立ちにくいという観点から、芳香環を有するスルホン酸化合物が好ましい。前記酸触媒(B)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
前記酸触媒(B)は、前記共重合体(A)100重量部に対して、0.1~10重量部であることが好ましい。前記酸触媒(B)は、耐水性と防曇性能を向上させる、及び水垂れ跡を抑制させる観点から、前記共重合体(A)100重量部に対して、0.5重量部以上であることがより好ましく、1重量部以上であることがさらに好ましく、そして、8重量部以下であることがより好ましく、7重量部以下であることがさらに好ましい。
【0037】
<界面活性剤(C)>
本発明の界面活性剤(C)は、少なくとも、アニオン系界面活性剤(C-1)と芳香環を有するカチオン系界面活性剤(C-2)を含む。
【0038】
前記アニオン系界面活性剤(C-1)としては、従来公知のものを全て使用することができるが、例えば、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウムなどの脂肪酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウムなどの高級アルコール硫酸エステル類;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩及びアルキルナフタレンスルホン酸塩;ナフタレンスルホン酸ジアルキルホスフェート塩、マリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ジアルキルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンサルフェート塩が挙げられる。また、前記アニオン系界面活性剤(C-1)としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステルなどのフッ素含有アニオン系界面活性剤などが挙げられる。前記アニオン系界面活性剤(C-1)は、防曇性能、防曇持続性に優れるという観点から、ジアルキルスルホコハク酸塩が好ましく、パーフルオロアルキルスルホン酸塩がより好ましい。前記アニオン系界面活性剤(C-1)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
前記芳香環を有するカチオン系界面活性剤(C-2)としては、従来公知のものを全て使用することができるが、例えば、一般式(2):
【化3】
(一般式(2)中、Rは、フェニル基またはベンジル基であり、Rは、炭素数1~18のアルキル基、または炭素数2~18のアルケニル基であり、Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。)で表される化合物である。前記芳香環を有するカチオン系界面活性剤(C-2)は、防曇持続性が優れ、水垂れ跡が目立ちにくいという観点から、Rがベンジル基、Rが炭素数8~18の直鎖のアルキル基であるベンザルコニウム塩化合物が好ましい。前記アニオン系界面活性剤(C-2)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
前記アニオン系界面活性剤(C-1)は、前記共重合体(A)100重量部に対して、0.5~15重量部であることが好ましい。前記アニオン系界面活性剤(C-1)は、防曇性を向上させる観点から、前記共重合体(A)100重量部に対して、1重量部以上であることがより好ましく、2重量部以上であることがさらに好ましく、そして、水垂れ跡を抑制させる観点から、12重量部以下であることがより好ましく、10重量部以下であることがさらに好ましい。
【0041】
前記芳香環を有するカチオン系界面活性剤(C-2)は、前記共重合体(A)100重量部に対して、0.05~3重量部であることが好ましい。前記カチオン系界面活性剤(C-2)は、防曇持続性及び耐湿試験後の防曇性を向上させる観点から、前記共重合体(A)100重量部に対して、0.1重量部以上であることがより好ましく、0.2重量部以上であることがさらに好ましく、そして、耐水性を向上させる、及び水垂れ跡を抑制させる観点から、2重量部以下であることがより好ましく、1.5重量部以下であることがさらに好ましい。
【0042】
前記アニオン系界面活性剤(C-1)に対する前記芳香環を有するカチオン系界面活性剤(C-2)の重量比((C-2)/(C-1))が、界面活性剤の流出を抑制して発生した水垂れ跡を目立ち難くする観点から、0.01~2.0であることが好ましく、0.02~1.5であることがより好ましい。
【0043】
本発明の防曇剤組成物は、さらに、希釈溶剤を含むことができる。
【0044】
前記希釈溶剤は、防曇剤組成物の塗装に適した固形分及び粘度調整を目的として使用する。希釈溶剤としては、前記共重合体(A)の重合溶剤を用いることが好ましい。塗装方法により、塗装に適した固形分及び粘度は異なるが、スプレーコート法の場合、前記共重合体(A)は、防曇剤組成物中、3重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがさらに好ましく、30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明の防曇剤組成物には、その他の成分として、必要に応じ、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの慣用の各種添加剤を配合することができる。前記その他の成分の添加量は、それぞれの添加剤につき慣用的な添加量で配合することができるが、通常、前記共重合体(C)100重量部に対して、10重量部以下である。
【0046】
<防曇性物品>
本発明の防曇性物品は、前記防曇剤組成物を、通常の塗料において行われる塗装方法により被塗装物に塗装し、加熱硬化することによって、被塗装物表面に防曇塗膜が形成されたものである。
【0047】
前記被塗装物としては、その種類は問わず、公知の樹脂基材が使用可能であるが、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アセテート樹脂、ABS樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。
【0048】
前記被塗装物への塗装の際には、被塗装物に対する防曇剤組成物の濡れ性を高め、はじきを防止する目的で、塗装前における被塗装物表面の付着異物除去を行うことが好ましい。高圧エアやイオン化エアによる除塵、洗剤水溶液またはアルコール溶剤による超音波洗浄、アルコール溶剤などを使用したワイピング、紫外線とオゾンによる洗浄などが挙げられる。塗装方法としては、例えば、浸漬法、フローコート法、ロールコート法、バーコート法、スプレーコート法などが挙げられる。
【0049】
防曇塗膜の膜厚は、良好な防曇性と塗膜外観を得る観点から、0.5~10μm程度であることが好ましく、1~5μm程度であることがより好ましい。
【0050】
前記防曇性物品は、その用途は何ら限定されるものではないが、例えば、自動車の車両灯具に用いることができる。前記車両灯具としては、例えば、前照灯、補助前照灯、車幅灯、番号灯、尾灯、駐車灯、後退灯、方向指示灯、補助方向指示灯、非常点滅表示などが挙げられる。
【実施例0051】
以下に本発明を実施例などによって説明するが、本発明はこれらのみに限定されない。
【0052】
<実施例1>
<共重合体(A)の製造>
温度計、攪拌装置、窒素導入管及び冷却管を備えた反応容器に、重合溶剤としてn-プロピルアルコールを30重量部、酢酸n-ブチルを100重量部仕込み、窒素ガスを吹き込みながら70℃に加熱した。次いで、単量体(A-1)として、N-メチロールアクリルアミドを15重量部、単量体(A-2)としてスチレンを5重量部、単量体(A-3)としてN,N-ジメチルアクリルアミドを30重量部、メチルメタクリレートを50重量部、ラジカル重合開始剤としてt-ヘキシルペルオキシピバレート(日油株式会社製、商品名「パーヘキシルND」(有効成分70重量%))1.5重量部相当を、n-プロピルアルコール20重量部に溶解した溶液とを3時間かけて滴下した。滴下終了後にそのまま1時間攪拌した後、冷却して共重合体(A)の溶液を製造した。ガスクロマトグラフィーにて共重合体(A)の仕込み単量体の重合転化率を測定したところ、100%であった。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて共重合体(A)の重量平均分子量を測定したところ、70,000であった。この共重合体(A)の溶液の固形分は40.1重量%であった。
【0053】
<防曇剤組成物の製造>
上記で得られた共重合体(A)100重量部の溶液250重量部に、プロピレングリコールモノメチルエーテル450重量部、エチレングリコールモノブチルエーテル300重量部、酸触媒(B)としてメタンスルホン酸を5重量部、アニオン系界面活性剤(C-1)としてジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(日油社製、商品名「ラピゾールA80」(有効成分80重量%))を4重量部相当、カチオン系界面活性剤(C-2)としてアルキル(C12-C16)ベンジルジメチルアンモニウムクロリド(花王社製、商品名「サニゾールC」(有効成分50重量%))を0.5重量部相当、レベリング剤としてポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー社製、商品名「BYK333」)を0.05重量部混合し、防曇剤組成物を製造した。
【0054】
<防曇性物品の作製>
25℃、30%RHの相対湿度に設定した環境下で、上記で得られた防曇剤組成物をポリカーボネート(PC)樹脂板に、硬化後の塗膜の膜厚が2~3μm程度になるように、スプレー塗装法にて塗装を行い、120℃で15分間の加熱硬化を行い、防曇塗膜を有する防曇性物品(試験片)を作製した。
【0055】
上記で得られた試験片を用いて、下記の(1)~(6)の評価方法で得られた結果を表1に示す。
【0056】
<(1)スチーム防曇性>
80℃に保った温水浴の水面から5cmの高さの所に、試験片を塗膜面が下になるように設置し、温水浴からのスチームを塗膜に連続照射し、照射から10秒後の曇りの有無を目視によって次の3段階で評価した。なお、評価がB以上であれば実用上問題なく、Aでればより好ましい。
A:スチーム照射直後に水膜が形成され、曇らない。
B:スチーム照射直後に曇りが認められるが、水膜が形成され曇らない。
C:スチーム照射直後に曇りが認められ、水膜が形成されない。
【0057】
<(2)密着性>
JIS K 5400 8.5.1に準拠して、塗膜にテープを付着させて剥がす工程を30回繰り返した後の塗膜の剥離の有無を目視によって次の4段階で評価した。なお、評価がC以上であれば実用上問題なく、Bであれば好ましく、Aであればより好ましい。
A:全く剥離が認められない。
B:ごくわずかに剥離が認められる。
C:一部剥離している。
D:全て剥離している。
【0058】
<(3)水垂れ跡>
80℃に保った温水浴の水面から5cmの高さの所に、試験片を塗膜面が下になるように設置し、温水浴からのスチームを塗膜に連続10秒間照射した後、試験片を垂直に立てた状態で室温にて1時間乾燥させた。乾燥後に水垂れ跡の有無を目視によって次の3段階で評価した。なお、評価がB以上であれば実用上問題なく、Aであればより好ましい。
A:水垂れ跡が目立たない。
B:水垂れ跡がほとんど目立たない。
C:水垂れ跡が目立つ。
【0059】
<(4)高温高湿試験後スチーム試験後防曇性>
試験片を80℃、85%RHの条件で500時間静置した後、室温にて24時間静置した。その後、80℃に保った温水浴の水面から5cmの高さの所に、試験片を塗膜面が下になるように設置し、温水浴からのスチームを塗膜に連続照射し、照射から10秒後の曇りの有無を目視によって次の4段階で評価した。なお、評価がB以上であれば実用上問題なく、Aであればより好ましい。
A:スチーム照射直後に水膜が形成され、曇らない。
B:スチーム照射直後に曇りが認められるが、水膜が形成され曇らない。
C:スチーム照射直後に曇りが認められ、水膜が形成されない。
【0060】
<(5)高温高湿試験後密着性>
試験片を80℃、85%RHの条件で500時間静置した後、室温にて24時間静置した。その後、JIS K 5400 8.5.1に準拠して、塗膜にテープを付着させて剥がす工程を30回繰り返した後の塗膜の剥離の有無を目視によって次の4段階で評価した。なお、評価がC以上であれば実用上問題なく、Bであれば好ましく、Aであればより好ましい。
A:全く剥離が認められない。
B:ごくわずかに剥離が認められる。
C:一部剥離している。
D:全て剥離している。
【0061】
<(6)高温高湿試験後水垂れ跡>
試験片を80℃、85%RHの条件で500時間静置した後、室温にて24時間静置した。その後、80℃に保った温水浴の水面から5cmの高さの所に、試験片を塗膜面が下になるように設置し、温水浴からのスチームを塗膜に連続10秒間照射した後、試験片を垂直に立てた状態で室温にて1時間乾燥させた。乾燥後に水垂れ跡の有無を目視によって次の3段階で評価した。なお、評価がB以上であれば実用上問題なく、Aであればより好ましい。
A:水垂れ跡が目立たない。
B:水垂れ跡がほとんど目立たない。
C:水垂れ跡が目立つ。
【0062】
<実施例2~20、比較例1~2>
<共重合体(A)の製造>
実施例1の単量体を、表1~2に記載の原料及びその割合に変更したこと以外は、実施例1と同様な操作にて、実施例2~20の共重合体(A)の溶液を製造した。
【0063】
<防曇剤組成物の製造及び防曇性物品の作製>
実施例1の原料を、表1~2に記載の原料及びその割合に変更したこと以外は、実施例1と同様な操作にて、実施例2~20、及び比較例1~2の防曇剤組成物を製造した。さらに、実施例1と同様な操作にて、実施例2~20、比較例1~2の防曇塗膜を有する防曇性物品(試験片)を作製した。
【0064】
上記で得られた試験片を用いて、上記の(1)~(6)の評価方法で得られた結果を表1~2に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
表1~2中、単量体(A-1)~(A-3)として、
N-MAAは、N-メチロールアクリルアミド;
N-MMAは、N-メトキシメチルアクリルアミド;
Stは、スチレン;
BzAは、ベンジルアクリレート;
2VPは、2-ビニルピリジン;
DMAAは、N,N-ジメチルアクリルアミド;
DEAAは、N,N-ジエチルアクリルアミド;
MMAは、メチルメタクリレート;
BAは、ブチルアクリレートを示す。
【0068】
表1~2中、酸触媒(B)として、
MSAは、メタンスルホン酸;
pTSは、p-トルエンスルホン酸;
DBSは、ドデシルベンゼンスルホン酸;
PSSは、ポリスチレンスルホン酸(ヌーリオン社製、商品名「VERSA-TL72」、有効成分18重量%)を示す。
【0069】
表1~2中、界面活性剤(C)として、
ラピゾールA80は、スルホコハク酸ジアルキル塩(日油社製、有効成分80重量%);
フタージェント100は、フッ素含有スルホン酸塩(ネオス社製、有効成分100重量%);
サニゾールCは、アルキル(C12-C16)ベンジルジメチルアンモニウムクロリド(花王社製、有効成分50重量%);
BTMAC100は、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製、有効成分100重量%);
リポカードPH100は、フェニルトリメチルアンモニウムクロリド(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製、有効成分100重量%);
BDABは、ベンジルドデシルジメチルアンモニウムブロミド(東京化成社製、有効成分100重量%);
DTACは、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(東京化成社製、有効成分100重量%)を示す。
【0070】
表1~2中、レベリング剤として、
BYK-333は、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー社製、有効成分100重量%)を示す。
【0071】
なお、各表の値は、有効成分の量を示す。