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特開2024-142470ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、およびそれからなる成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142470
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、およびそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20241003BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L63/00 Z
C08K5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054615
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小路 弘晃
(72)【発明者】
【氏名】串田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】杉澤 幸志郎
(72)【発明者】
【氏名】森岡 信博
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CD023
4J002CD043
4J002CF05W
4J002CF05X
4J002EH036
4J002EH046
4J002FD166
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐加水分解性および滞留安定性に優れるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、およびそれからなる成形品を得ること。
【解決手段】(A-1)カルボキシル基濃度が5eq/t以上25eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂15~85重量部と(A-2)カルボキシル基濃度が25eq/tを超え45eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂15~85重量部からなる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂0.5~4.0重量部、および(C)脂肪族アルコールと炭素数5~24の脂肪酸からなるエステル化合物0.05~1.5重量部を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A-1)カルボキシル基濃度が5eq/t以上25eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂15~85重量部と(A-2)カルボキシル基濃度が25eq/tを超え45eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂15~85重量部からなる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂0.5~4.0重量部、および(C)脂肪族アルコールと炭素数5~24の脂肪酸からなるエステル化合物0.05~1.5重量部を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂が、(A-1)カルボキシル基濃度が5eq/t以上25eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂25~75重量部と(A-2)カルボキシル基濃度が25eq/tを超え45eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂25~75重量部からなる請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A-2)カルボキシル基濃度が25eq/tを超え45eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂がリサイクルポリブチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、前記(C)脂肪族アルコールと炭素数5~24の脂肪酸からなるエステル化合物0.1~1.0重量部を配合してなる請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C)脂肪族アルコールと炭素数5~24の脂肪酸からなるエステル化合物がペンタエリスリトールテトラステアレートである、請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子機器部品、自動車部品、機械部品などの用途に対し有用な、耐加水分解性および加熱溶融時の滞留安定性に優れるポリブチレンテレフタレート樹脂およびそれからなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、PBT樹脂と略記することがある。)は、耐熱性、耐薬品性、電気特性、寸法安定性などに優れているため、各種の電気・電子機器部材、自動車、電車などの車両用部材、その他の一般工業製品製造用材料として、広く使用されている。
【0003】
しかしながら、PBT樹脂は、加水分解により劣化しやすいため、各種の電気・電子機器部材、自動車、電車などの車両用部材、その他の一般工業製品製造用材料として使用するためには、一般の化学的および物理的諸特性のバランスに加えて、長期における耐加水分解性を有することが求められている。
【0004】
特に近年、車載用途に使用されるPBT樹脂においては、エンジンルームの省スペース化に伴う使用環境温度の上昇や、次世代車載(EV・HEV)向け先進運転支援システムに用いられる情報通信機器部品の信頼性確保の観点から、このような用途の構成部品に使用されるPBT樹脂は耐加水分解性の向上が強く望まれている。
【0005】
また、工業用成形品の小型化・軽量化に対する要求も高まっており、特に車載コネクターなどの薄肉成形品用途においては、溶融滞留時の粘度変化が大きい場合、成形時にバリやショートショットなどの成形不具合が発生するため、溶融滞留時の粘度変化の少ない、滞留安定性に優れた材料が求められている。
【0006】
さらに、近年は脱炭素化社会に向けたポリエステル樹脂のリサイクルの要望も高まってきている。生産工程での規格外品や所定の製品として使用された後に廃棄された製品から回収したリサイクルポリエステル樹脂を、再度ポリエステル樹脂製品に再生することで、廃棄物を削減していくことも求められている。
【0007】
これまで、ポリブチレンフタレート樹脂に耐加水分解性を付与する方法としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂にエポキシ樹脂、カルボジイミド系化合物を配合する方法や、ヒンダードアミン化合物を配合する方法が知られている。かかる樹脂組成物として、これまでに、PBT樹脂に特定のヒンダードアミン化合物を配合してなるPBT樹脂組成物(特許文献1)、PBT樹脂にカルボジイミド系化合物、核剤および板状形状の断面を有する無機充填材を配合してなるポリエステル樹脂組成物(特許文献2)、PBT樹脂にポリカーボネート樹脂、無機充填材およびペンタエリスリトール系離型剤および特定のエポキシ樹脂を配合してなるPBT樹脂組成物(特許文献3)などが提案されている。
【0008】
また、リサイクルポリエステル樹脂製品を得る方法としては、PBT樹脂にポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエステルフィルムに由来する架橋樹脂を配合してなる熱可塑性樹脂組成物(特許文献4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-147934号公報
【特許文献2】特開2019-26842号公報
【特許文献3】特開2021-25032号公報
【特許文献4】国際公開第2013/108758号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1においては、低分子量であるヒンダードアミン系化合物を含有していることにより、成形時のガス発生量が多く成形性が不十分であった。特許文献2では、カルボジイミド化合物の配合では高度な耐加水分解性能を発現することが困難である課題があった。特許文献3では、より高度な耐加水分解性能を発現するために、末端封鎖剤の配合量を増加すると、成形の溶融滞留時に増粘するために、成形性が著しく低下する課題があった。
【0011】
また、特許文献4では、リサイクルポリエステル樹脂の加工時の熱履歴などによるポリエステル樹脂の分解によって、カルボキシル基濃度が大きくなり、耐加水分解性能が著しく低下する課題があった。
【0012】
PBT樹脂の耐加水分解性能を向上させ、長時間の使用に耐えるように維持するためには、エポキシ樹脂やヒンダードアミン化合物を配合する手法の他に、カルボキシル基濃度が小さいポリエステル樹脂を使用することが一般的であるが、リサイクルポリエステル樹脂はリサイクル工程における熱履歴により得られるポリエステル樹脂のカルボキシル基濃度が大きくなることから、良好な耐加水分解性能を有さない。
【0013】
本発明は、電気・電子機器部品、自動車部品、機械部品などの用途に対し有用な、耐加水分解性および加熱溶融時の滞留安定性に優れるポリブチレンテレフタレート樹脂およびそれからなる成形品を提供すること、さらにリサイクルポリブチレンテレフタレート樹脂を再生し、その品質を向上させるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記した課題を解決するために検討を重ねた結果、(A-1)カルボキシル基濃度が5eq/t以上25eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂と(A-2)カルボキシル基濃度が25eq/tを超え45eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂からなる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂と(C)脂肪族アルコールと炭素数5~24の脂肪酸からなるエステル化合物を特定量配合することにより、上記した課題を解決できることを見出し、本発明に達した。すなわち、本発明は以下に示す構成を有する。
1.(A-1)カルボキシル基濃度が5eq/t以上25eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂15~85重量部と(A-2)カルボキシル基濃度が25eq/tを超え45eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂15~85重量部からなる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂0.5~4.0重量部、および(C)脂肪族アルコールと炭素数5~24の脂肪酸からなるエステル化合物0.05~1.5重量部を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
2.前記(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂が、(A-1)カルボキシル基濃度が5eq/t以上25eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂25~75重量部と(A-2)カルボキシル基濃度が25eq/tを超え45eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂25~75重量部からなる1項に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
3.前記(A-2)カルボキシル基濃度が25eq/tを超え45eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂がリサイクルポリブチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする、1項または2項に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
4.前記(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、前記(C)脂肪族アルコールと炭素数5~24の脂肪酸からなるエステル化合物0.1~1.0重量部を配合してなる1項~3項のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
5.前記(C)脂肪族アルコールと炭素数5~24の脂肪酸からなるエステル化合物がペンタエリスリトールテトラステアレートである、1項~4項のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
6.1項~5項のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物によれば、耐加水分解性および加熱溶融時の滞留安定性に優れる成形品を得ることができ、さらに、リサイクルポリブチレンテレフタレート樹脂を用いることによって生産原料にかかるエネルギー消費量を少なくすることができ、二酸化炭素排出量を削減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物について、詳細に説明する。
【0017】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(A-1)カルボキシル基濃度が5eq/t以上25eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂15~85重量部と(A-2)カルボキシル基濃度が25eq/tを超え45eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂15~85重量部からなる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂0.5~4.0重量部、および(C)脂肪族アルコールと炭素数5~24の脂肪酸からなるエステル化合物0.05~1.5重量部を配合してなる。(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、射出成形や機械特性に優れるものの、加水分解によりエステル結合が分解しやすく、その結果、カルボキシル基濃度が増加する。カルボキシル基濃度の増加に伴い、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の分子量低下が促進され、機械特性が低下し、成形加工時においては、粘度が低下することによって、成形品のバリによる不良も発生する。本発明においては、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂とともに、(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を配合することにより、加水分解により生じる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂のカルボキシル末端基と(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂のエポキシ基とが反応してカルボキシル基の増加を抑制する。また、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得る際の溶融混練時にも(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂のカルボキシル末端基と(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂のエポキシ基との反応が進行し、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の初期カルボキシル基濃度が低下する。その結果、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の有する高い機械物性を維持することができる。しかしながら、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂のカルボキシル末端基と(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂のエポキシ基が反応すると、同時に分子鎖同士の架橋反応が引き起こされてしまう。ここでいう架橋とは、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂のカルボキシル末端基と(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂のエポキシ基との反応で生じた化合物と、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂のエポキシ基が反応して生じる、化合物が絡み合う網目構造のことである。このような架橋構造が形成されると、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の粘度が上昇するので、射出成形時において、ショートショットが発生し、連続成形できなくなるため好ましくない。そこで、(A-1)カルボキシル基濃度が5eq/t以上25eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂と(A-2)カルボキシル基濃度が25eq/tを超え45eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂からなる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂および(C)脂肪族アルコールと炭素数5~24の脂肪酸からなるエステル化合物を配合することによって、溶融滞留時の粘度上昇に繋がるエポキシ基同士の反応を抑制し、架橋構造を形成しにくくするとともに、選択的に(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂のカルボキシル基と(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂のエポキシ基との反応を促進させることができ、耐加水分解性を向上させながら、溶融滞留時の粘度安定性を維持することができる。
【0018】
ここで、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂が反応した反応物を含むが、当該反応物は複雑な反応による生成されたものであり、その構造を特定することは実際的でない事情が存在する。したがって、本発明は配合する成分により発明を特定するものである。
【0019】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
本発明を構成する(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体と1,4-ブタンジオールあるいはそのエステル形成性誘導体とを主成分とし、重縮合反応させる等の通常の重合方法によって得られる重合体であって、特性を損なわない範囲、例えば20重量部程度以下、他の共重合成分を含んでもよい。なお、ここでいう主成分とは、ジカルボン酸成分とジオール成分のそれぞれについて、独立して、テレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体または1,4-ブタンジオールあるいはそのエステル形成性誘導体が、それぞれの成分中の50重量部を超えて占めていることをいう。これら重合体および共重合体の好ましい例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)、ポリ(ブチレン/エチレン)テレフタレート等が挙げられ、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0020】
本発明で用いられる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、溶融混練が可能であれば特に限定されないが、流動性の観点から、250℃、1000gfで測定したときのメルトフローレート(MFR)が1~100g/10分であることが好ましく、機械特性の観点から1~75g/10分であることがより好ましい。
【0021】
本発明で用いる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の重縮合法や開環重合法などを用いることができる。バッチ重合法および連続重合法のいずれでもよく、また、エステル交換反応および重縮合反応を経る方法、ならびに直接重合による重縮合反応による方法(直接重合法)のいずれも適用することができる。カルボキシル末端基量の制御が容易であり、かつ、経済性の点で、直接重合法が好ましい。なお、エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に触媒を添加することが好ましい。触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステル、あるいはこれらの混合エステルなどの有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキシド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸などのスズ化合物、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシドなどのジルコニア化合物、三酸化アンチモン、酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。これらの触媒を2種以上併用することもできる。(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂のカルボキシル基濃度の観点から、これらの重合反応触媒の中でも、有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、チタン酸のテトラ-n-ブチルエステルがさらに好ましく用いられる。重合反応触媒の添加量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、0.01~0.2重量部の範囲が好ましい。
【0022】
本発明で用いられる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、耐加水分解性および溶融滞留時の粘度安定性の点で、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部のうち、(A-1)カルボキシル基濃度が5eq/t以上25eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂を15~85重量部、(A-2)カルボキシル基濃度が25eq/tを超え45eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂を15~85重量部配合する。前述のとおり、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、加水分解により劣化しやすい傾向にあり、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を配合することにより耐加水分解性の向上が見込めるが、溶融時の架橋構造形成による粘度上昇および熱分解による粘度低下が発生し、溶融滞留時の粘度を安定させることは困難である。そこで、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部のうち、(A-1)カルボキシル基濃度が5eq/t以上25eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂を15~85重量部、(A-2)カルボキシル基濃度が25eq/tを超え45eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂を15~85重量部配合する。(A-1)カルボキシル基濃度が5eq/t以上25eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂の配合量が15重量部未満であると、ポリブチレンテレフタレート樹脂の分解による粘度低下および物性低下が顕著となる。(A-1)カルボキシル基濃度が5eq/t以上25eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂の配合量が85重量部を超えると、エポキシ樹脂との架橋構造の形成によって、粘度上昇が顕著となる。(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部のうち、(A-1)カルボキシル基濃度が5eq/t以上25eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂を25~75重量部、(A-2)カルボキシル基濃度が25eq/tを超え45eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂を25~75重量部配合することがより好ましい。
【0023】
(A-2)カルボキシル基濃度が25eq/tを超え45eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂はバージン樹脂であってもよいが、経済性および環境性能の観点からリサイクルポリブチレンテレフタレート樹脂であることがより好ましい。なお、バージン樹脂とは、樹脂原料から重合反応によって得られた樹脂であって、一度もリサイクルされていない樹脂を指す。
【0024】
本発明で言うリサイクルポリブチレンテレフタレート樹脂は、製造工程での規格外品から得られるプレコンシューマーリサイクル品や、市中に流通するポリブチレンテレフタレート樹脂を使用した樹脂製品を回収することで得られるポストコンシューマーリサイクル品に由来する樹脂を指す。廃棄物量や二酸化炭素排出量を削減しつつ、高品質のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得られることから、リサイクルポリブチレンテレフタレート樹脂は本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得る際に好適に用いることができる。
【0025】
リサイクルポリブチレンテレフタレート樹脂は、例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造時に発生する規格外のペレットや、ボトル、フィルム、繊維、射出成形品などの樹脂製品製造時の規格外品および成形加工時に発生するスプルーやランナー、ダンゴ屑などのプレコンシューマー品、ならびにポリブチレンテレフタレート樹脂を含む製品を市場から回収して得たポストコンシューマー品などに由来する。リサイクルポリブチレンテレフタレート樹脂は、例えば、市場から回収したポリブチレンテレフタレート樹脂を含む樹脂製品を用いて解重合反応を行い、ポリブチレンテレフタレート樹脂を分解し、再重合反応をすることで得られるケミカルリサイクル品、ならびに回収したポリブチレンテレフタレート樹脂を粉砕して得られるフレーク状再生品、およびポリブチレンテレフタレート樹脂を含む樹脂組成物の製造時において加熱溶融した後に口金から吐出される溶融樹脂を切断したペレット状再生品などのマテリアルリサイクル品などが挙げられる。
【0026】
(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂
本発明に用いる(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)で表される構造を有し、分子中にエポキシ基を含有する。
【0027】
【化1】
【0028】
上記一般式(1)中のnは、(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の繰り返し単位数を示す。nは、0~10の範囲を表す。本発明に用いられる(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は褐色のペレット形状を成しており、繰り返し単位数nが少ないとペレット同士が溶融しブロッキングを起こし、供給できなくなるため望ましくない。繰り返し単位数nが多いと、(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ同士の反応が進みやすく架橋構造を形成しやすくなり、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の滞留安定性が悪化する傾向にある。ブロッキング性及び滞留安定性の観点から、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の繰り返し単位数nは、好ましくは1~4、さらに好ましくは1~3である。
【0029】
特に好ましい(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂としては、DIC(株)からHP-7200H、日本化薬(株)からXD-1000Lという名称で販売されているものを入手できる。
【0030】
(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して0.5重量部以上4.0重量部以下配合することが必要である。0.5重量部未満であると、耐加水分解性の発現が不十分となる。また、4.0重量部を超えると溶融滞留時に粘度が上昇する。成形性の観点から、より好ましくは1.0重量部以上3.5重量部、さらに好ましくは1.0重量部以上3.0重量部である。
【0031】
(C)脂肪族アルコールと炭素数5~24の脂肪酸からなるエステル化合物
本発明には、(C)脂肪族アルコールと炭素数5~24の脂肪酸からなるエステル化合物(以下、(C)脂肪酸エステル化合物と略記することがある。)が用いられる。
【0032】
脂肪族アルコールとしては、炭素数が2以上20以下であって、水酸基数が1以上10以下の脂肪族アルコールが好ましく、例えば、ラウリルアルコールやステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセロール、ジグリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、トリグリセロール、ジペンタエリスリトール、テトラグリセロール等が挙げられる。これらの脂肪族アルコールは、単独又は2種以上組み合わせて使用できる。好ましい脂肪族アルコールはペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールである。特にペンタエリスリトールが好ましい。
【0033】
脂肪酸としては、炭素数5以上24以下の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪酸が好ましく、例えば、ペンタン酸、ヘキサン酸、へプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられ、ステアリン酸が特に好ましい。
【0034】
なお、前記(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂とのエステル交換反応を回避する観点から、(C)脂肪酸エステル化合物は、遊離のヒドロキシル基およびカルボキシル基を実質的に含まないフルエステルであることが好ましい。具体的には、ベヘン酸ベヘニル、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレートが好ましく、ペンタエリスリトールテトラステアレートがより好ましい。
【0035】
前記(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の加水分解を抑制する観点からは、脂肪酸エステル化合物の酸価は0.1~15mgKOH/gが好ましく、0.1~10mgKOH/gがより好ましい。
【0036】
(C)脂肪酸エステル化合物は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0037】
(C)脂肪酸エステル化合物は、例えば、エメリーオレオケミカルズジャパン株式会社から“ロキシオール”、株式会社ADEKAから、“アデカサイザー”(登録商標)、理研ビタミン株式会社から、“リケスター”(登録商標)、という商品名で入手できる。
【0038】
本発明において、(C)脂肪酸エステル化合物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して0.05~1.5重量部配合する。0.05重量部未満であると離型性が低下する。また、1.5重量部を超えると成形時ガス発生および金型汚れが顕著となる。成形性の観点から、好ましくは0.1~1.0重量部である。
【0039】
[その他成分]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂成分、難燃剤、充填材、安定剤、結晶核剤、着色剤、滑剤などの通常の添加剤を配合することができる。これらを二種以上配合してもよい。
【0040】
他の樹脂成分としては、溶融成形可能な樹脂であればよく、例えば、AS樹脂(アクリロニトリル/スチレン共重合体)、水添または未水添SBS樹脂(スチレン/ブタジエン/スチレントリブロック共重合体)、水添または未水添SIS樹脂(スチレン/イソプレン/スチレントリブロック共重合体)、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、環状オレフィン系樹脂、酢酸セルロースなどのセルロース系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などが挙げられる。
【0041】
特にAS樹脂(アクリロニトリル/スチレン共重合体)等の非晶性樹脂はポリブチレンテレフタレート樹脂との溶融混練が簡便であり、配合することで寸法安定性に優れる成形品を製造することができる。
【0042】
難燃剤としては、ポリエステル樹脂組成物の難燃剤に用いられるものをいずれも使用することができる。例えば、有機ハロゲン系難燃剤、具体的には、ハロゲン化ポリカーボネート(例えばテトラブロモビスフェノールAのカーボネートオリゴマー)、ハロゲン化アクリル樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノキシ樹脂、ハロゲン化ポリスチレン、テトラブロモビスフェノールA・エチルエーテルオリゴマー、ハロゲン化ポリフェニレンエーテル(例えば、ポリジブロモフェニレンオキサイド)などの高分子量有機ハロゲン化合物;デカブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモフェノール、テトラブロモビスフェノールA・ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA・ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA・2-ヒドロキシエチルエーテル等の臭素化ビスフェノールA、ヘキサブロモベンゼン、テトラブロモ無水フタル酸、トリブロモフェノール、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、ビス(ペンタブロモフェノキシ)エタン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、臭素化スチレン、テトラブロモビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールSのビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)などの低分子量有機ハロゲン化合物などを挙げることができる。これらの有機ハロゲン系難燃剤は単独系で使用しても、二種以上を併用してもよい。また、リン系、無機系などの難燃剤を使用することもできる。
【0043】
充填材としては、繊維状、板状、粉末状、粒状などのいずれの充填材も使用することができる。繊維状充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維および有機繊維(ナイロン、ポリエステル、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、アクリル等)等を使用することが可能であり、単独又は二種以上を併用することも可能である。繊維状充填材としては、成形品の成形収縮率および線膨張係数を低下させ、入手容易性などの観点から、ガラス繊維が好ましい。ガラス繊維は、例えば、日本電気硝子(株)からT-187という商品名で入手できる。また、繊維状充填材は、直径4~25μmであることが好ましく、6~20μmであることがより好ましい。繊維状充填材はポリブチレンテレフタレート樹脂との界面の密着性を向上させるために、表面を収束剤などの表面処理剤によって処理することが好ましい。表面処理剤として、アミノシラン化合物やエポキシシラン化合物などのシランカップリング剤、ウレタン、アクリル酸/スチレン共重合体などのアクリル酸からなる共重合体、アクリル酸メチル/メタクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体などの無水マレイン酸からなる共重合体、酢酸ビニル、ビスフェノール型エポキシやノボラック型エポキシなどの一種以上のエポキシ化合物などを含有した収束剤で処理されたガラス繊維が好ましく、ビスフェノール型エポキシ化合物および/またはノボラック型エポキシ化合物で表面処理された繊維状充填材を用いることが、耐加水分解性および機械的特性の点から好ましい。板状、粉末状、粒状の充填材として、具体的には、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカ―、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどのウィスカー状充填材、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、モンモリロナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、硫酸バリウムなどの粉状、粒状または板状充填材などが挙げられ、これらを単独又は二種以上配合してもよい。
【0044】
安定剤としては、ポリエステル樹脂組成物の安定剤に用いられるものをいずれも使用することができる。例えば、酸化防止剤、光安定剤、触媒失活剤などを挙げることができる。これらを二種以上配合してもよい。
【0045】
結晶核剤は、無機系結晶核剤および有機系結晶核剤のいずれも使用することができ、これらを単独又は二種以上配合してもよい。
【0046】
着色剤としては、例えば、有機染料、有機顔料、無機顔料などが挙げられる。これらを二種以上配合してもよい。
【0047】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は前記(A)~(C)および必要によりその他成分が均一に分散されていることが好ましい。本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法としては、例えば、単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーあるいはミキシングロールなどの公知の溶融混練機を用いて、各成分を溶融混錬する方法を挙げることができる。各成分は予め一括して混合しておき、それから溶融混錬してもよい。なお、各成分に含まれる水分は少ない方がよく、必要により予め乾燥しておくことが望ましい。
【0048】
また、溶融混練機に各成分を投入する方法としては、例えば、単軸あるいはニ軸の押出機を用い、スクリュー根元側に設置した主投入口から前記(A)~(C)およびその他成分を供給し、主投入口と押出機先端の間に設置した副投入口から無機充填材を供給し、溶融混合する方法が挙げられる。
【0049】
溶融混練温度は、流動性および機械特性に優れるという点で、190~340℃が好ましく、210~310℃がより好ましく、240~290℃がさらに好ましい。
【0050】
本発明の樹脂組成物は、通常公知の射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することができ、各種成形品に加工し利用することができる。成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フィルム、シート、繊維などとして利用でき、フィルムとしては、未延伸、一軸延伸、ニ軸延伸などの各種フィルムとして、繊維としては、未延伸糸、延伸糸、超延伸糸など各種繊維として利用することができる。
【0051】
本発明において、上記各種成形品は、自動車部品、電機・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。特に本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、加熱溶融した際の滞留安定性に優れることから、良好な小型の薄肉成形品を得ることができるため、電気・電子機器部品のコネクター部品として特に好適である。また、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は成形品として使用された後でも耐加水分解性と滞留安定性に優れていることから、各種用途へ用いた成形品をさらにリサイクルして循環させて、各種成形品として利用することができる。
【実施例0052】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。各実施例および比較例で使用する原料について以下に示す。
(A)ポリブチレンテレフタレート
A-1:ポリブチレンテレフタレート(MFR:28g/10分(250℃、1kgf)、カルボキシル基濃度:15eq/t)
A-2:リサイクルポリブチレンテレフタレート(MFR:32g/10分(250℃、1kgf)、カルボキシル基濃度:35eq/t)
(B)エポキシ樹脂
B-1:一般式(1)で表されるエポキシ当量290g/eqのジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC(株)社製、“HP-7200H”)。なお、一般式(1)中のnは1~3の値を示す。
B’-1:エポキシ当量925g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)社製“jER1004”)
(C)脂肪酸エステル化合物
C-1:ペンタエリスリトール(炭素数5、水酸基数4)とステアリン酸(酸素数18)から得られるペンタエリスリトールテトラステアレート(エメリーオレオケミカルズジャパン(株)社製、“ロキシオール”VPG861(商品名)、酸価1mgKOH/g)
C-2:ペンタエリスリトール(炭素数5、水酸基数4)とステアリン酸(酸素数18)から得られるペンタエリスリトールテトラステアレート(理研ビタミン(株)社製、“リケスター”EW-400(商品名)、酸価9mgKOH/g)
C’-1:脂肪族アルコールとモンタン酸(炭素数28)から得られるモンタン酸エステル(クラリアントジャパン(株)社製、“Licowax OP”(商品名))
D-1:チョップドストランド(日本電気硝子(株)社製、T-187(商品名)、3mm長、平均繊維経:13.0μm)。
【0053】
以下に、実施例および比較例における評価方法をまとめて示す。
【0054】
(1)引張特性
各実施例および比較例により得られたペレットを130℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した後、住友重機械工業(株)社製SE50DUZ型射出成形機を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の成形条件で、ISO3167:2002で規定された多目的試験片A型(全長150mm、試験部の幅10mm、厚さ4mm)を射出成形により作成した。得られた試験片を用いて、ISO527-1、-2:2012に従い、引張特性を測定した。
【0055】
(2)耐加水分解性
各実施例および比較例により得られたペレットを用いて、上記(1)に記載の方法と同様の方法で成形した試験片を(株)TABAI ESPEC製HAST CHAMBER EHS-221Mを用いて、121℃、100%RHの加水分解処理(PCT処理)を50時間行った後、試験片の引張特性を(1)と同様の手法により測定し、以下の算出式より引張強度保持率を求め、耐加水分解性の評価を行った。
引張強度保持率(%)=(引張強度(加水分解処理後)(MPa)/引張強度(加水分解処理前)(MPa)×100
【0056】
(3)滞留安定性
東洋精機(株)製G-02を用いて、温度270℃、荷重2160gfの条件で、ISO1133に準拠し、各実施例および比較例により得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)を測定した。
【0057】
さらに、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物をシリンダー内で30分間滞留させた後、同条件で再びメルトフローレートを測定し、滞留前のメルトフローレートに対する滞留後のメルトフローレートの割合(変化率(%)を以下の算出式より求めた。
メルトフローレート保持率(%)=(滞留後のMFR(g/10分)/滞留前のMFR(g/10分))×100
【0058】
成形時の滞留安定性の観点から、メルトフローレート保持率が50~150%の範囲内であれば良好であり、さらに75~125%の範囲内がより好ましい。
【0059】
(4)低ガス性
各実施例および比較例により得られたペレットを、(株)TABAI ESPEC製パーフェクトオーブンを用いて、260℃で2時間加熱処理し、以下の算出式より、加熱による重量減少率を求め、低ガス性の評価を行った。
重量減少率(%)={1-(加熱処理後の重量(g)/加熱処理前の重量(g)}×100
【0060】
重量減少率が0.5%未満であれば樹脂組成物の低ガス性は良好であり、0.3%未満であればより好ましい。重量減少率0.3%未満を○、重量減少率0.3%以上0.5%未満を△、0.5%以上を×と判定した。
【0061】
[実施例1~7、比較例1~7]
表1に示す配合組成に従い、(A)、(B)、および(C)成分,ならびにその他添加剤全てをニ軸押出機の元込め部から供給し、(D)成分を主投入口と押出機先端の間に設置した副投入口から供給して、シリンダー温度260℃に設定したスクリュー径37mmφのニ軸押出機(東芝機械(株)社製 TEM37SS(商品名))で溶融混練を行った。ダイスから吐出したストランドを冷却バスで冷却した後、ストランドカッターにてペレット化し、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、上記方法で評価した結果を表1に記した。
【0062】
【表1】
【0063】
表1より以下のことが明らかである。
【0064】
実施例1~7と比較例1~7の比較から、(A-1)カルボキシル基濃度が5eq/t以上25eq/t以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂15~85重量部と(A-2)カルボキシル基濃度が25eq/tを超え45eq/t以下である(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂15~85重量部からなるポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂0.5~4.0重量部、および(C)脂肪族アルコールと炭素数5~24の脂肪酸からなるエステル化合物0.05~1.5重量部を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、耐加水分解性、機械特性、滞留安定性、低ガス性のバランスに優れることがわかる。さらに、(A-2)としてリサイクルポリブチレンテレフタレート樹脂を用いることによって、経済性および環境性能に優れるといえる。