(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142471
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】アクリル系ゴム質重合体、アクリル系ゴム質重合体の製造方法、熱可塑性樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
C08F 220/18 20060101AFI20241003BHJP
C08F 265/06 20060101ALI20241003BHJP
C08L 57/00 20060101ALI20241003BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20241003BHJP
C08F 2/26 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08F220/18
C08F265/06
C08L57/00
C08L51/06
C08F2/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054617
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】太田 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】内藤 祉康
【テーマコード(参考)】
4J002
4J011
4J026
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BC06W
4J002BN12X
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4J100AB16Q
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4J100AL03P
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4J100FA20
4J100JA11
4J100JA28
4J100JA43
4J100JA67
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐衝撃性、表面平滑性および発色性を兼ね備えた熱可塑性樹脂組成物成形品を提供し得る熱可塑性樹脂組成物のためのアクリル系ゴム質重合体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】アクリル酸エステル系単量体(a)と多官能性単量体(b)を共重合して得られるアクリル系ゴム質重合体(A)であって、18時間以上浸漬したときに安息香酸ブチルに溶解しない成分である安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(安息香酸ブチルで膨潤した(A)の重量/乾燥後の(A)の重量)を(d1)とし、アクリル系ゴム質重合体(A)を100質量%としたときのアセトンに溶解する成分(II)の含有割合を(d2(質量%))、とすると、(d1)、(d2)が下記式(2)ならびに(3)を満たすことを特徴とするアクリル系ゴム質重合体(A)。
15≦(d1)≦25(2)
3.0≦(d2(質量%))≦8.0(3)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸エステル系単量体(a)と多官能性単量体(b)を共重合して得られるアクリル系ゴム質重合体(A)であって、安息香酸ブチルに18時間浸漬したときに安息香酸ブチルに溶解しない成分(I)を含み、下記式(1)で定義される該安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度を(d1)とし、さらにアセトンに18時間浸漬したときにアセトンに溶解する成分(II)を含み、アクリル系ゴム質重合体(A)を100質量%としたときの該アセトン可溶分(II)の含有割合を(d2(質量%))、とすると、(d1)、(d2)が下記式(2)ならびに(3)を満たすことを特徴とするアクリル系ゴム質重合体(A)。
(d1)=(x)/(y) (1)
((x):安息香酸ブチルで膨潤した(A)の重量、(y):乾燥後の(A)の重量)
15≦(d1)≦25 (2)
3.0≦(d2(質量%))≦8.0 (3)
【請求項2】
前記アクリル系ゴム質重合体(A)は、アセトンに18時間浸漬したときにアセトンに溶解しない成分(III)を含み、下記式(4)で定義される前記アクリル系ゴム質重合体(A)中のアセトン不溶分(III)の膨潤度を(d3)とすると、前記安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(d1)ならびに(d3)が下記式(5)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のアクリル系ゴム質重合体(A)。
(d3)=(z)/(w) (4)
((z):アセトンで膨潤した(A)の重量、(w):乾燥後の(A)の重量)
1.6≦(d1/d3)≦2.5 (5)
【請求項3】
前記アクリル系ゴム質重合体(A)は、安息香酸ブチルに18時間浸漬したときに安息香酸ブチルに溶解する成分(IV)を含み、前記アクリル系ゴム質重合体(A)を100質量%としたときの該安息香酸ブチルの可溶分(IV)の含有割合を(d4(質量%))とすると、その含有割合(d4)が前記アクリル系ゴム質重合体(A)100質量%に対し4~12質量%であり、かつ、前記アクリル系ゴム質重合体(A)を100質量%としたときの前記アセトン可溶分(II)の含有割合(d2)との差(d4-d2)が、5質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のアクリル系ゴム質重合体(A)。
【請求項4】
前記アクリル系ゴム質重合体(A)中のアセトン可溶分(II)のスチレン換算での重量平均分子量(M1(g/mol))が30,000≦(M1)≦60,000であることを特徴とする、請求項1に記載のアクリル系ゴム質重合体(A)。
【請求項5】
アクリル酸エステル系単量体(a)97~99.5質量%と多官能性単量体(b)0.5~3質量%を、分子構造中にエチレンオキサイドが付加した構造を有しアニオン性官能基を1つのみ有する硫酸エステル系乳化剤および分子構造中にエチレンオキサイドが付加した構造を有しアニオン性官能基を2つ有するスルホコハク酸系乳化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の乳化剤(d)、ならびにアニオン性官能基を1つのみ有するカルボン酸系乳化剤(e)の存在下で乳化重合することを特徴とするアクリル系ゴム質重合体(A)の製造方法。
【請求項6】
前記乳化剤(d)が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩またはポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸塩を含むことを特徴とする請求項5に記載のアクリル系ゴム質重合体(A)の製造方法。
【請求項7】
前記カルボン酸系乳化剤(e)が、不均化ロジン酸塩を含むことを特徴とする請求項56に記載のアクリル系ゴム質重合体(A)の製造方法。
【請求項8】
前記乳化剤(d)と前記カルボン酸系乳化剤(e)の使用重量比((d)の使用重量/(e)の使用重量)が0.1~0.4であることを特徴とする請求項5に記載のアクリル系ゴム質重合体(A)の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれかに記載のアクリル系ゴム質重合体(A)の存在下、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物(c)をグラフト重合するグラフト共重合体(B)の製造方法。
【請求項10】
請求項1~4のいずれかに記載のアクリル系ゴム質重合体(A)の存在下、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物(c)をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(B)、ならびにビニル系共重合体(C)を含む熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系ゴム質重合体、およびそれを用いたグラフト共重合体ならびにビニル系共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジエン系ゴム質重合体、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、メタクリル酸エステル系単量体などを重合してなるABS樹脂は、耐衝撃性、成形性、外観などに優れ、OA機器、家電製品、一般雑貨などの種々の用途に幅広く利用されている。しかし、ABS樹脂は重合体の主鎖中に化学的に不安定な二重結合を多く有するため、紫外線などによって劣化しやすく、耐候性に劣るため屋外での使用に難点があった。そのため、主鎖中に二重結合を有しない飽和ゴム重合体を使用する方法が提案されており、その代表的なものにアクリル系ゴムを使用したASA樹脂が多く知られ、車両用途を中心に広く使用されている。
【0003】
特許文献1では、耐衝撃性、発色性、耐候性、剛性、耐熱性および加工性を向上させる手法として、特定のアクリル系ゴムおよび(または)シリコーン系ゴムを用いた組成物に有機系シリコーンオイルを添加した樹脂組成物が提案されている。
【0004】
特許文献2では、振動溶着、熱板溶着性および蒸着後のランプの輝度を向上させる手法として、アルキルスルホン酸塩及びロジン酸塩を含む乳化剤を用いた乳化重合により得られたアクリル系ゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られるアクリル系ゴム強化共重合樹脂が提案されている。
【0005】
特許文献3では、耐衝撃性、耐熱性、表面平滑性、耐候性、発色性のバランスを向上させる手法として、特定構造を有する2種類のグラフト共重合体、および特定構造を有する2種類の共重合体の合計4種類の共重合体を用いた熱可塑性樹脂組成物が提案されている。
【0006】
特許文献4では、衝撃性、低温耐衝撃性、発色性、光沢、成形外観、耐候性および成形外観の成形速度依存性を向上させる手法として、特定の架橋度、粒子径を有する(メタ)アクリル酸エステル、架橋剤、および特定の疎水性物質を含むゴム質重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)と、特定の粒子径を有するゴム質重合体(C)を用いたグラフト共重合体(E)と、他の熱可塑性樹脂(E)とを用いた熱可塑性樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-031830号公報
【特許文献2】特開2006-131677号公報
【特許文献3】特開2016-003284号公報
【特許文献4】特開2019-137751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、いずれの手法でも熱可塑性樹脂組成物における耐衝撃性、表面平滑性、発色性のバランスが不十分であった。
【0009】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題とするものであり、すなわち、良好な耐衝撃性、表面平滑性および発色性を兼ね備えた熱可塑性樹脂組成物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の条件を満たすアクリル系ゴム質重合体を用いてグラフト共重合体を調製することで、ビニル系共重合体にアクリル系ゴム質重合体を含むグラフト共重合体が分散した熱可塑性樹脂組成物において良好な耐衝撃性、表面平滑性および発色性を兼ね備えた熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明の一態様は以下のとおりである。
[1]アクリル酸エステル系単量体(a)と多官能性単量体(b)を共重合して得られるアクリル系ゴム質重合体(A)であって、
安息香酸ブチルに18時間浸漬したときに安息香酸ブチルに溶解しない成分(I)を含み、下記式(1)で定義される該安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度を(d1)とし、さらにアセトンに18時間浸漬したときにアセトンに溶解する成分(II)を含み、アクリル系ゴム質重合体(A)を100質量%としたときの該アセトン可溶分(II)の含有割合を(d2(質量%))、とすると、(d1)、(d2)が下記式(2)ならびに(3)を満たすことを特徴とするアクリル系ゴム質重合体(A)。
(d1)=(x)/(y) (1)
((x):安息香酸ブチルで膨潤した(A)の重量、(y):乾燥後の(A)の重量)
15<(d1)<25 (2)
3.0≦(d2(質量%))≦8.0 (3)
[2]前記アクリル系ゴム質重合体(A)は、アセトンに18時間浸漬したときにアセトンに溶解しない成分(III)を含み、下記式(4)で定義される前記アクリル系ゴム質重合体(A)中のアセトン不溶分(III)の膨潤度を(d3)とすると、前記安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(d1)ならびに(d3)が下記式(5)を満たすことを特徴とする[1]に記載のアクリル系ゴム質重合体(A)。
(d3)=(z)/(w) (4)
((z):アセトンで膨潤した(A)の重量、(w):乾燥後の(A)の重量)
1.6≦(d1/d3)≦2.5 (5)
[3]前記アクリル系ゴム質重合体(A)は、安息香酸ブチルに18時間浸漬したときに安息香酸ブチルに溶解する成分(IV)を含み、前記アクリル系ゴム質重合体(A)を100質量%としたときの該安息香酸ブチルの可溶分(IV)の含有割合を(d4(質量%))とすると、その含有割合(d4)が前記アクリル系ゴム質重合体(A)100質量%に対し4~12質量%であり、かつ、前記アクリル系ゴム質重合体(A)を100質量%としたときの前記アセトン可溶分(II)の含有割合(d2)との差(d4-d2)が、5質量%以下であることを特徴とする[1]または[2]に記載のアクリル系ゴム質重合体(A)。
[4]前記アクリル系ゴム質重合体(A)中のアセトン可溶分(II)のスチレン換算での重量平均分子量(M1(g/mol))が30,000≦(M1)≦60,000であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[5]アクリル酸エステル系単量体(a)97~99.5質量%と多官能性単量体(b)0.5~3質量%を、分子構造中にエチレンオキサイドが付加した構造を有しアニオン性官能基を1つのみ有する硫酸エステル系乳化剤および分子構造中にエチレンオキサイドが付加した構造を有しアニオン性官能基を2つ有するスルホコハク酸系乳化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の乳化剤(d)、ならびにアニオン性官能基を1つのみ有するカルボン酸系乳化剤(e)の存在下で乳化重合することを特徴とするアクリル系ゴム質重合体(A)の製造方法。
[6]前記乳化剤(d)が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩またはポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸塩を含むことを特徴とする[5]に記載のアクリル系ゴム質重合体(A)の製造方法。
[7]前記カルボン酸系乳化剤(e)が、不均化ロジン酸塩を含むことを特徴とする[5]または[6]に記載のアクリル系ゴム質重合体(A)の製造方法。
[8]前記乳化剤(d)と前記カルボン酸系乳化剤(e)の使用量比((d)の使用量/(e)の使用量)が0.1~0.4であることを特徴とする[5]~[7]のいずれかに記載のアクリル系ゴム質重合体(A)の製造方法。
[9][1]~[4]のいずれかに記載のアクリル系ゴム質重合体(A)の存在下、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物(c)をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(B)の製造方法。
[10][1]~[4]のいずれかに記載のアクリル系ゴム質重合体(A)の存在下、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物(c)をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(B)、ならびにビニル系共重合体(C)を含む熱可塑性樹脂組成物。
[11][10]に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアクリル系ゴム質重合体を用いたグラフト共重合体と、ビニル系共重合体とを含む熱可塑性樹脂組成物は、成形した際に良好な耐衝撃性、表面平滑性および発色性を兼ね備えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のアクリル系ゴム質重合体は、後述するアクリル酸エステル系単量体(a)と多官能性単量体(b)を共重合して得られる。
【0014】
アクリル系ゴム質重合体(A)を構成するアクリル酸エステル系単量体(a)としては、炭素数1~10のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸オクチルなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、アクリル酸n-ブチルが好ましい。
【0015】
アクリル系ゴム質重合体(A)を構成する多官能性単量体(b)は、官能基を2以上有するものであれば特に限定されず、官能基としては、例えば、アリル基、(メタ)アクリロイル基などの炭素-炭素二重結合を有する基などが挙げられる。多官能性単量体(b)としては、例えば、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどのアリル系化合物、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレートなどのジ(メタ)アクリル酸エステル系化合物などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、メタクリル酸アリルが好ましい。
【0016】
本発明におけるアクリル系ゴム質重合体(A)は、アクリル酸エステル系単量体(a)および多官能性単量体(b)の合計100質量%に対して、アクリル酸エステル系単量体(a)97~99.5質量%、多官能性単量体(b)0.5~3質量%を共重合して得られる。アクリル酸エステル系単量体(a)が97質量%未満であり、多官能性単量体(b)が3質量%を超える場合、後述するアクリル系ゴム質重合体(A)の架橋度が増大し、安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度が低下する。その結果、アクリル系ゴム質重合体(A)が硬化し、応力がかかった場合に架橋点間分子量の小さい部分に応力が集中し、分子鎖が破断するために成形品の耐衝撃性が低下する。アクリル酸エステル系単量体(a)が98質量%以上、多官能性単量体(b)が2質量%以下であることが好ましく、アクリル酸エステル系単量体(a)が98.5質量%を超え、多官能性単量体(b)が1.5質量%未満であることがより好ましい。
【0017】
アクリル酸エステル系単量体(a)が99.5質量%を超え、多官能性単量体(b)が0.5質量%未満である場合、後述する安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度が増大し、アセトン可溶分(II)が増大する。その結果、グラフト共重合体(B)の粒子が凝集構造を取りやすくなり、架橋されていない分子鎖が熱可塑性樹脂組成物中に溶出し表面平滑性が低下する。アクリル酸エステル系単量体(a)は、99.6質量%以下であることが好ましく、より好ましくは99.2質量%以下である。また、多官能性単量体(b)は、0.6質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.8質量%以上である。
【0018】
本発明において、アクリル系ゴム質重合体(A)の体積平均粒子径に特に制限はないが、アクリル系ゴム質重合体(A)を用いたグラフト共重合体とビニル系共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物を成形した際の耐衝撃性および表面平滑性の観点から0.05~1μmの範囲であることが好ましい。
【0019】
また、アクリル系ゴム質重合体(A)の体積平均粒子径は、例えば、重合に用いる水、乳化剤、重合開始剤の量などによって所望の範囲に調整することができる。また、酢酸、リン酸、硫酸等の酸水溶液や酸基含有ラテックスの添加による肥大化によって所望の範囲に調整してもよい。ここで、酸基含有ラテックスとは、不飽和酸単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が用いられてなるラテックスである。
【0020】
なお、アクリル系ゴム質重合体(A)の体積平均粒子径は、アクリル系ゴム質重合体(A)ラテックスを水に分散させ、レーザ散乱回折法粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0021】
本発明のアクリル系ゴム質重合体(A)は、これを用いたグラフト共重合体とビニル系共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物を成形した際の、耐衝撃性、表面平滑性および発色性に優れるものにするため、適切な架橋を有している必要がある。本発明においては、このアクリル系ゴム質重合体(A)の架橋の程度を表現するために、アクリル系ゴム質重合体(A)の溶解度が異なる2種類の溶媒における膨潤度と、それぞれの溶媒に対する可溶分の含有割合を用いて表すものである。本発明では、ゴム質重合体の適切な架橋の程度を表現するために、溶媒として安息香酸ブチルおよびアセトンを用いる。
【0022】
本発明のアクリル系ゴム質重合体(A)は、安息香酸ブチルに18時間浸漬したときに安息香酸ブチルに溶解しない成分(I)を含み、該安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(d1)が15~25倍である。安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(d1)が、15倍以上であれば熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性を維持しつつ、表面平滑性をより向上させることができ、25倍以下であれば、熱可塑性樹脂組成物の発色性および表面平滑性を維持しつつ、耐衝撃性をより向上させることができる。
【0023】
なお、アクリル系ゴム質重合体(A)の安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(d1)は、以下の方法により求めることができる。まず、アクリル系ゴム質重合体(A)ラテックスの場合にはメタノール中にラテックスおよび質量パーセント濃度10%の塩化カルシウム水溶液を添加した後、脱水・洗浄によりアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を得る。得られたアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を80℃で3時間真空乾燥した後、所定量を安息香酸ブチルに18時間含浸させ、安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤したサンプルの重量(x)を測定する。安息香酸ブチルの沸点が約250℃と高いため、膨潤したサンプルをアセトンに1時間以上含侵させる操作を、アセトンを交換しながら3回繰り返すことで安息香酸ブチルをアセトンに置換する。次いで、80℃で3時間真空乾燥を行った後、安息香酸ブチル不溶分(I)の乾燥後のサンプルの重量(y)を測定する。膨潤度(d1)は、膨潤したサンプルの重量(x)および乾燥後のサンプルの重量(y)から、下記式(1)より算出する。
安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(d1)=(x)/(y)・・・(1)。
【0024】
溶媒と高分子との親和性は、溶媒および高分子におけるハンセン溶解度パラメータ(HSP値)の三次元ベクトル間の距離(HSP距離)が近いほど高いことが一般的に知られており、親和性が高いほど高分子を溶解させる。ゴムのように架橋による束縛によって溶解しない場合には、膨潤しやすくなるほか、極めて親和性が高い溶媒を用いれば架橋が少ない部分に関しては溶解する可能性がある。本発明では、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、表面平滑性および発色性を兼ね備えるに都合の良いアクリル系ゴム質重合体(A)の評価を目的として種々の溶媒における膨潤度を試験し、適する溶媒として安息香酸ブチルを見出した。
【0025】
安息香酸ブチルは、本発明のアクリル系ゴム質重合体(A)に対して非常に親和性が高く、安息香酸ブチルはアクリル系ゴム質重合体(A)の架橋度の高い部分にも入り込むことが可能であるため、アクリル系ゴム質重合体(A)中の安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(d1)は、架橋度に対して非常に敏感である。
【0026】
一方で、汎く用いられるトルエンや2-ブタノン(メチルエチルケトン)といった溶媒では、アクリル系ゴム質重合体(A)の該溶媒での膨潤度に多少の数値差はあったものの、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、表面平滑性および発色性といった物性値に対する系統立った序列は認められなかった。したがって、アクリル系ゴム質重合体(A)の安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(d1)は、アクリル系ゴム質重合体(A)を含む熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、表面平滑性および発色性を兼ね備えるに都合の良いアクリル系ゴム質重合体(A)の評価に対して非常に有用であると言える。
【0027】
本発明のアクリル系ゴム質重合体(A)は、アセトンに18時間浸漬したときにアセトンに溶解する成分(II)を含み、該アクリル系ゴム質重合体(A)を100質量%としたときの該アセトン可溶分(II)の含有割合(d2(質量%))が3.0~8.0質量%である。アクリル系ゴム質重合体(A)中のアセトン可溶分(II)は主に架橋されていないアクリル酸エステル系単量体の直鎖高分子を含み、この直鎖高分子は熱可塑性樹脂組成物としてコンパウンドする際に溶出し、熱可塑性樹脂組成物の表面平滑性を損なう要因となることから、該アセトン可溶分(II)の含有割合(d2)が、アクリル系ゴム質重合体(A)100質量%に対し8.0質量%以下であれば熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性を維持しつつ、表面平滑性をより向上させることができ、3.0質量%以上であれば、熱可塑性樹脂組成物を成形した際の発色性および表面平滑性を維持しつつ、耐衝撃性をより向上させることができる。
【0028】
なお、アクリル系ゴム質重合体(A)のアセトン可溶分(II)の含有割合(d2)は、以下の方法により求めることができる。まず、アクリル系ゴム質重合体(A)ラテックスの場合にはメタノール中にラテックスおよび質量パーセント濃度10%の塩化カルシウム水溶液を添加した後、脱水・洗浄によりアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を得る。得られたアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を80℃で3時間真空乾燥した後、所定量をアセトンに18時間含浸させる。続いて、アセトン不溶分を80℃で3時間真空乾燥を行った後、乾燥後のサンプルの重量(n1)を測定する。アセトン可溶分(II)の含有割合(d2)は、サンプルの重量(m1)および乾燥後のサンプルの重量(n1)から、下記式より算出する。
アセトン可溶分(II)の含有割合(d2。%)=(([m1]-[n1])/[m1])×100。
【0029】
本発明のアクリル系ゴム質重合体(A)は、アセトンに18時間浸漬したときにアセトンに溶解しない成分(III)を含み、アクリル系ゴム質重合体(A)中の安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(d1)と該アクリル系ゴム質重合体(A)中のアセトン不溶分(III)の膨潤度(d3)との比(d1/d3)が1.6~2.5であることが好ましい。この比(d1/d3)が1.6以上であれば、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性を維持しつつ、熱可塑性樹脂組成物を成形したときの表面平滑性および発色性をより向上させることができる。一方、この比(d1/d3)が2.5以下であれば、熱可塑性樹脂組成物の表面平滑性および発色性を維持しつつ、耐衝撃性をより向上させることができる。
【0030】
アクリル系ゴム質重合体(A)中の安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(d1)は、前述の通り架橋度の大小に応じてその数値は大きく変化する。一方で、アセトンはアクリル系ゴム質重合体(A)に対してHSP距離が大きいため、アセトンではアクリル系ゴム質重合体(A)の架橋の少ない部分にのみ入り込む。したがって、アクリル系ゴム質重合体(A)中のアセトン不溶分(III)の膨潤度(d3)は、架橋度の低い部分の存在割合を示している。架橋度の低い部分は、軟らかいため耐衝撃性に対して有利である一方で、後述するグラフト共重合体(B)が熱可塑性樹脂組成物中で凝集した構造を取りやすく、こうした粗大な粒子の存在により表面平滑性および発色性が損なわれる。
【0031】
このことから、アクリル系ゴム質重合体(A)中の安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(d1)とアクリル系ゴム質重合体(A)中のアセトン不溶分(III)の膨潤度(d3)との比(d1/d3)は、アクリル系ゴム質重合体(A)の架橋が多い部分と少ない部分とのバランスを示すパラメータであり、該パラメータを、一定範囲に制御することで熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、表面平滑性および発色性を高いレベルで兼ね備えることができる。
【0032】
なお、アクリル系ゴム質重合体(A)のアセトン不溶分(III)の膨潤度(d3)は、以下の方法により求めることができる。まず、アクリル系ゴム質重合体(A)ラテックスの場合にはメタノール中にラテックスおよび質量パーセント濃度10%の塩化カルシウム水溶液を添加した後、脱水・洗浄によりアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を得る。得られたアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を80℃で3時間真空乾燥した後、所定量をアセトンに18時間含浸させ、アセトン不溶分(III)が膨潤したサンプルの重量(z)を測定する。続いて、80℃で3時間真空乾燥を行った後、アセトン不溶分(III)の乾燥後のサンプルの重量(w)を測定する。膨潤度(d3)は、膨潤したサンプルの重量(z)および乾燥後のサンプルの重量(w)から、下記式より算出する。
アセトン不溶分(III)の膨潤度((d3)/倍)=(z)/(w)。
【0033】
本発明のアクリル系ゴム質重合体(A)は安息香酸ブチルに18時間浸漬したときに安息香酸ブチルに溶解する成分(IV)を含み、アクリル系ゴム質重合体(A)を100質量%としたときの該安息香酸ブチルの可溶分(IV)の含有割合を(d4(質量%))とすると、その含有割合(d4)がアクリル系ゴム質重合体(A)100質量%に対し4~12質量%であり、かつ、アクリル系ゴム質重合体(A)を100質量%としたときのアクリル系ゴム質重合体(A)中のアセトン可溶分(II)の含有割合(d2)との差(d4-d2)が、アクリル系ゴム質重合体(A)100質量%に対して5質量%以下であることが好ましい。
【0034】
安息香酸ブチルは、前述の通り本発明のアクリル系ゴム質重合体(A)に対して非常に親和性が高いため、該安息香酸ブチルの可溶分(IV)の含有割合(d4)は、架橋されていないアクリル酸エステル系単量体の直鎖高分子に加えて、架橋度の低いアクリル系ゴム質重合体(A)の一部を含む。アクリル系ゴム質重合体(A)中のアセトン可溶分(II)が、架橋されていないアクリル酸エステル系単量体の直鎖高分子が主であることから、(d4-d2)は架橋度の低いアクリル系ゴム質重合体(A)の一部の含有割合を示す。
【0035】
架橋度の低いアクリル系ゴム質重合体(A)の一部は、軟らかいゴムであるため耐衝撃性に対して有利である一方で、後述するグラフト共重合体(B)が熱可塑性樹脂組成物中で凝集した構造を取りやすく、こうした粗大な粒子の存在により表面平滑性および発色性が損なわれる。該安息香酸ブチルの可溶分(IV)の含有割合(d4)が、アクリル系ゴム質重合体(A)100質量%に対し4質量%以上であれば、熱可塑性樹脂組成物の表面平滑性を維持しつつ、耐衝撃性をより向上させることができ、12質量%以下であれば熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性を維持しつつ、表面平滑性をより向上させることができる。
【0036】
なお、アクリル系ゴム質重合体(A)の安息香酸ブチル可溶分(IV)の含有割合(d4)は、以下の方法により求めることができる。まず、アクリル系ゴム質重合体(A)ラテックスの場合にはメタノール中にラテックスおよび質量パーセント濃度10%の塩化カルシウム水溶液を添加した後、脱水・洗浄によりアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を得る。得られたアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を80℃で3時間真空乾燥した後、所定量(m2)を安息香酸ブチルに18時間含浸させる。安息香酸ブチルの沸点が約250℃と高いため、安息香酸ブチル不溶分が膨潤したサンプルをアセトンに1時間以上含侵させる操作を、アセトンを交換しながら3回繰り返すことで安息香酸ブチルをアセトンに置換する。次いで、80℃で3時間真空乾燥を行った後、安息香酸ブチル不溶分の乾燥後のサンプルの重量(n2)を測定する。安息香酸ブチル可溶分(IV)の含有割合(d4)は、サンプルの重量(m2)および乾燥後のサンプルの重量(n2)から、下記式より算出する。
安息香酸ブチル可溶分(IV)の含有割合((d2)/%)=(([m2]-[n2])/[m2])×100。
【0037】
アクリル系ゴム質重合体(A)中のアセトン可溶分(II)のスチレン換算での重量平均分子量(M1(g/mol))が30,000~60,000であることが好ましい。アクリル系ゴム質重合体(A)中のアセトン可溶分(II)は主に架橋されていないアクリル酸エステル系単量体の直鎖高分子を含み、アクリル系ゴム質重合体(A)を構成する分子鎖長を間接的に表していることから、アクリル系ゴム質重合体(A)中のアセトン可溶分(II)のスチレン換算での重量平均分子量(M1)が30,000以上であれば、熱可塑性樹脂組成物の表面平滑性を維持しつつ、耐衝撃性をより向上させることができる。また、この直鎖高分子は、前述の通り熱可塑性樹脂組成物の表面平滑性を損なう要因となるが、この直鎖高分子が長鎖である場合に顕著であることから、アクリル系ゴム質重合体(A)中のアセトン可溶分(II)のスチレン換算での重量平均分子量(M1)が60,000以下であれば、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性を維持しつつ、表面平滑性をより向上させることができる。
【0038】
ここで、アクリル系ゴム質重合体(A)中のアセトン可溶分(II)のスチレン換算での重量平均分子量(M1)は、前記の方法で得られたアクリル系ゴム質重合体(A)中のアセトン可溶分(II)について、約0.02gをテトラヒドロフラン約8gに溶解した約0.2質量%の溶液を作製し、この溶液を用いて測定したGPCクロマトグラムから、ポリスチレンを標準物質として換算することにより求めることができる。なお、GPC測定は、下記条件により測定することができる。
測定装置:Waters2695
カラム温度:40℃
検出器:RI2414(示差屈折率計)
キャリア溶離液流量:0.3ml/分(溶媒:テトラヒドロフラン)
カラム:TSKgel SuperHZM-M(6.0mmI.D.×15cm)、TSKgel SuperHZM-N(6.0mmI.D.×15cm)直列(いずれも東ソー(株)製)。
【0039】
アクリル系ゴム質重合体(A)の重合方法としては、モノマ油滴、水相、重合体粒子間の平衡によりアクリル系ゴム質重合体(A)の架橋度、ひいては安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(d1)を所望の範囲に調整する観点から、乳化重合法が好ましい。
【0040】
重合に用いる開始剤は特に制限はなく、過酸化物、アゾ系化合物または過硫酸塩などが使用される。
【0041】
過酸化物の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルイソプロピルカルボネート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオクテート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートなどが挙げられる。
【0042】
アゾ系化合物の具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル、2-フェニルアゾ-2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル、2-シアノ-2-プロピルアゾホルムアミド、1,1’-アゾビスシクロヘキサン-1-カーボニトリル、アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート、1-t-ブチルアゾ-2-シアノブタン、2-t-ブチルアゾ-2-シアノ-4-メトキシ-4-メチルペンタンなどが挙げられる。
【0043】
過硫酸塩の具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0044】
の開始剤を2種以上用いてもよい。乳化重合法には、過硫酸カリウム、クメンハイドロパーオキサイドなどが好ましく用いられる。また、開始剤はレドックス系でも用いることができる。
【0045】
アクリル系ゴム質重合体(A)の乳化重合法で使用する乳化剤は、アニオン性官能基を1つのみ有する硫酸エステル系乳化剤およびアニオン性官能基を2つ有するスルホコハク酸系乳化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の乳化剤(d)、およびアニオン性官能基を1つのみ有するカルボン酸系乳化剤(e)を併用することで、前述した適切な架橋の程度を有するアクリル系ゴム質重合体(A)が得られるため好ましい。
【0046】
乳化重合に用いる乳化剤を2種以上併用した場合、それらの乳化剤が互いに混ざり合ってミセルまたは重合体粒子の乳化に関与する。そのため、重合速度(重合制御の容易さ)、体積平均粒子径および架橋度が1種のみ単独で用いた場合と比較して大きく異なる。例えば、乳化剤(d)単独では重合速度が速く重合制御が難しいうえ、架橋度が高くゴムが硬化するため、熱可塑性樹脂組成物として耐衝撃性を発揮できないのに対して、カルボン酸系乳化剤(e)単独では重合速度が遅く、架橋度が低くゴムが軟らかいため後述するグラフト共重合体(B)が熱可塑性樹脂組成物中で凝集した構造を取りやすく、こうした粗大な粒子の存在により表面平滑性および発色性が損なわれる。乳化剤を2種以上併用することで、アクリル系ゴム質重合体(A)の安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(d1)およびアセトン可溶分(II)の含有割合(d2)を所望の範囲に調整でき、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性と表面平滑性および発色性を高レベルで兼ね備えることが可能となる。
【0047】
本発明において、乳化剤(d)はアニオン性官能基を1つのみ有する硫酸エステル系乳化剤およびアニオン性官能基を2つ有するスルホコハク酸系乳化剤からなる群より選ばれる1種以上からなる。ここでアニオン性官能基は、電離してアニオンとなる構造のことを指し、硫酸エステル系またはスルホコハク酸系乳化剤では、サルフェート、カルボキシレート、スルホネートの酸金属塩構造がこれに該当する。乳化剤の乳化能の強さは、アニオン性官能基の種類と数によって変化し、酸性度はカルボキシ基<スルホ基<硫酸基であり、乳化状態を制御してアクリル系ゴム質重合体(A)の安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(d1)およびアセトン可溶分(II)の含有割合(d2)を所望の範囲に調整するという観点から、硫酸エステル系乳化剤の場合では1つ、スルホコハク酸系乳化剤の場合では2つアニオン性官能基を有することが好ましい。
【0048】
アニオン性官能基を1つのみ有する硫酸エステル系乳化剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩などが挙げられる。ここで言う塩としては、アンモニウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩などが挙げられる。
【0049】
アニオン性官能基を2つ有するスルホコハク酸系化剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸塩が挙げられる。ここで言う塩としては、アンモニウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩などが挙げられる。
【0050】
本発明の乳化剤(d)は、分子構造中にエチレンオキサイドが付加した構造を有する。該構造は親水性が高いため、該構造を有するアニオン性乳化剤は、カルシウムやマグネシウムといったアルカリ土類金属イオンによって非水溶性の沈殿物を生じない。該乳化剤(d)が、カルシウムやマグネシウムといったアルカリ土類金属イオンによって非水溶性の沈殿物を生じないことで、後述のグラフト共重合体(B)ラテックスを、カルシウムまたはマグネシウムの塩を用いて凝固した場合であっても、回収したグラフト共重合体(B)中に該乳化剤(d)が残存せず、耐衝撃性を維持しつつ表面平滑性および発色性をより向上させることができる。
【0051】
本発明において、カルボン酸系乳化剤(e)はアニオン性官能基を1つのみ有する。すなわち、カルボン酸系乳化剤(e)はカルボン酸金属塩構造を1つのみ有する。
【0052】
アニオン性官能基を1つのみ有するカルボン酸系乳化剤の具体例としては、カプリル酸塩、カプリン酸塩、ラウリン酸塩、ミスチリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、不均化ロジン酸塩、ベヘン酸塩が挙げられる。疎水性基と親水性基のバランスに基づいて乳化状態を制御し、アクリル系ゴム質重合体(A)中の安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(d1)および、アセトン不溶分(III)の膨潤度(d3)との比(d1/d3)や、該アクリル系ゴム質重合体(A)中のアセトン可溶分(II)のスチレン換算での重量平均分子量(M1)などの各パラメータを所望の範囲に調整する観点から、不均化ロジン酸塩が最も好ましい。ここで言う塩としては、アンモニウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩などが挙げられる。
【0053】
本発明において、乳化剤(d)とカルボン酸系乳化剤(e)のアクリル系ゴム質重合体(A)の重合全体における固形分換算での使用重量比((d)の使用重量/(e)の使用重量)は0.1~0.4であることが好ましく、0.11~0.35であることがさらに好ましく、0.12~0.30であることが最も好ましい。
【0054】
乳化剤(d)の使用重量/カルボン酸系乳化剤(e)の使用重量の数値が大きい、すなわち乳化剤(d)の使用重量がカルボン酸系乳化剤(e)の使用重量に対して相対的に多い場合、乳化剤(d)単独の性質に近づくため、重合速度が速く、架橋度が高くゴムが硬化しるため、耐衝撃性に劣る。乳化剤(d)とカルボン酸系乳化剤(e)のアクリル系ゴム質重合体(A)の重合全体における使用重量比((d)の使用重量/(e)の使用重量)が0.4以下であれば、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性を維持しつつ、表面平滑性をより向上させることができる。
【0055】
対して、乳化剤(d)の使用重量/カルボン酸系乳化剤(e)の使用重量の数値が小さい、すなわちカルボン酸系乳化剤(e)の使用重量が乳化剤(d)の使用重量に対して相対的に多い場合、カルボン酸系乳化剤(e)単独の性質に近づくため、重合速度が遅く、架橋度が低くゴムが軟らかくなるため、表面平滑性および発色性に劣る。乳化剤(d)とカルボン酸系乳化剤(e)のアクリル系ゴム質重合体(A)の重合全体における使用重量比((d)の使用重量/(e)の使用重量)が0.1以上であれば、熱可塑性樹脂組成物の表面平滑性を維持しつつ、耐衝撃性をより向上させることができる。
【0056】
本発明のアクリル系ゴム質重合体(A)は、アクリル系ゴム質重合体(A)の存在下、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物(c)をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(B)と後述するビニル系共重合体(C)を含有する熱可塑性樹脂組成物としたときに、優れた特性を発現する。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明のアクリル系ゴム質重合体を用いたグラフト共重合体(B)を含有することにより、熱可塑性樹脂組成物を成形した際の耐衝撃性を向上させることができる。また、ビニル系共重合体(C)を含有することにより、可塑性樹脂組成物を成形した際の表面平滑性、発色性を向上させることができる。
【0057】
ここで、グラフト共重合体(B)はグラフト共重合体(B)を得る工程において産生する重合体の総称をいい、アクリル系ゴム質重合体にグラフト重合されて産生した重合体のほかに、アクリル系ゴム質重合体にグラフト重合されずに産生した重合体成分を含む。単量体混合物(c)は、後述するように共重合可能な他の単量体をさらに含有してもよい。
【0058】
グラフト共重合体(B)に用いられるアクリル系ゴム質重合体(A)の量は、アクリル系ゴム質重合体(A)および単量体混合物(c)の総量に対して、20質量%以上80質量%以下とすることが好ましい。用いられるアクリル系ゴム質重合体(A)の量が20質量%以上であれば、耐衝撃性をより向上させることができる。該アクリル系ゴム質重合体(A)の量は、35質量%以上とすることがより好ましい。一方、用いられるアクリル系ゴム質重合体(A)の量が80質量%以下であれば、熱可塑性樹脂組成物を成形した際の耐衝撃性、表面平滑性および発色性をより向上させることができ、60質量%以下がより好ましい。
【0059】
単量体混合物(c)に含まれる芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、o-メチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレンなどが挙げられる。単量体混合物(c)は芳香族ビニル系単量体を2種以上含有してもよい。これらの中でも、スチレンが好ましい。
【0060】
単量体混合物(c)に含まれるシアン化ビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、 エタクリロニトリルなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも 、アクリロニトリルが好ましい。
【0061】
単量体混合物(c)に含まれる共重合可能な他の単量体としては、本発明の効果を損なわないものであれば特に制限はなく、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、不飽和脂肪酸、アクリルアミド系単量体、マレイミド系単量体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0062】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル 酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチルなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0063】
不飽和脂肪酸としては、例えば、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテン酸、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0064】
アクリルアミド系単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミドなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0065】
マレイミド系単量体としては、例えば、N-メチルマレイミド、N-イソプロピルマレ イミド、N-ブチルマレイミド、N-ヘキシルマレイミド、N-オクチルマレイミド、N-ドデシルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミドなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0066】
単量体混合物(c)の混合比率は、単量体混合物(c)の総量100質量%中、芳香族ビニル系単量体が60~80質量%、シアン化ビニル系単量体が20~40質量%、その他共重合可能な単量体が0~20質量%の範囲が好ましい。
【0067】
グラフト共重合体(B)の重合方法としては、乳化重合法、懸濁重合法、連続塊状重合法、溶液連続重合法などの任意の方法を用いることができ、これらを2種以上組みあわせてもよい。これらの中でも、乳化重合法または塊状重合法が好ましい。重合時の温度制御が容易であることから、乳化重合法が最も好ましい。
【0068】
グラフト共重合体(B)の乳化重合法で使用する乳化剤としては、特に制限はなく、各種界面活性剤を使用できる。界面活性剤としては、カルボン酸塩型、硫酸エステル塩型、スルホン酸塩型、スルホコハク酸塩型などのアニオン系界面活性剤が好ましく使用される。これらを2種以上用いてもよい。
【0069】
アニオン系界面活性剤の具体例としては、カプリル酸塩、カプリン酸塩、ラウリン酸塩、ミスチリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、不均化ロジン酸塩、ベヘン酸塩、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸塩などが挙げられる。ここで言う塩としては、アンモニウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩などが挙げられる。
【0070】
また、グラフト共重合体(B)の重合に用いる重合開始剤としては、アクリル系ゴム質重合体(A)の重合に用いる開始剤として例示したものを挙げることができる。
【0071】
グラフト共重合体(B)の重合度およびグラフト率調整を目的として、連鎖移動剤を使用することもできる。連鎖移動剤の具体例としては、n-オクチルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、n-オクタデシルメルカプタンなどのメルカプタン、テルピノレンなどのテルペンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらのなかでも、n-オクチルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0072】
グラフト共重合体(B)のグラフト率を前述の好ましい範囲に調整する観点から、グラフト共重合体(B)の重合において、アクリル系ゴム質重合体(A)および単量体混合物(c)の合計100質量部に対して、連鎖移動剤を0.05~0.5質量部、乳化剤を0.5~5質量部、開始剤を0.1~0.5質量部用いることが好ましい。
【0073】
乳化重合で製造されたグラフト共重合体(B)ラテックスに凝固剤を添加することにより、グラフト共重合体(B)を回収することができる。凝固剤としては、酸または水溶性の塩が用いられる。凝固剤の具体例としては、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸などの酸、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム、塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムナトリウムなどの水溶性の塩などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。なお、酸で凝固した場合には、酸をアルカリにより中和した後にグラフト共重合体(B)を回収する方法も用いることができる。
【0074】
本発明で使用されるビニル系共重合体(C)は、少なくとも芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を共重合して得られる。必要によりこれらと共重合可能な単量体をさらに共重合したものであってもよい。
【0075】
芳香族ビニル系単量体の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、o-メチルスチレン、t-ブチルスチレンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、スチレンが好ましい。
【0076】
ビニル系共重合体(C)を構成する単量体の総量100質量%中、芳香族ビニル系単量体の含有量は、好ましくは60~80質量%である。芳香族ビニル系単量体が60質量%以上であれば、熱可塑性樹脂組成物の流動性をより向上させることができる。一方、芳香族ビニル系単量体の含有量が80質量%以下であれば、成形品の耐衝撃性をより向上させることができる。
【0077】
シアン化ビニル系単量体の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、アクリロニトリルが好ましい。
【0078】
ビニル系共重合体(C)を構成する単量体の総量100質量%中、シアン化ビニル系単量体の含有量は、好ましくは20~40質量%である。シアン化ビニル単量体が20質量%以上であれば、成形品の耐衝撃性をより向上させることができる。一方、シアン化ビニル単量体の含有量が40質量%以下であれば、熱可塑性樹脂組成物の発色性および色調をより向上させることができる。
【0079】
共重合可能な他の単量体としては、本発明の効果を損なわないものであれば特に制限はなく、具体的には、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、不飽和脂肪酸、アクリルアミド系単量体、マレイミド系単量体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。他の単量体の具体例としては、グラフト共重合体(B)に用いられる単量体混合物(c)を構成する他の単量体として例示したものを挙げることができる。
【0080】
ビニル系共重合体(C)を構成する単量体の総量100質量%中、共重合可能な他の単量体の含有量は、好ましくは0~20質量%である。共重合可能な他の単量体の含有量が20質量%以下であれば、熱可塑性樹脂組成物の流動性と成形品の耐衝撃性のバランスをより向上させることができる。
【0081】
ビニル系共重合体(C)の重合方法としては、懸濁重合法、乳化重合法、連続塊状重合法の任意の方法を用いることができ、これらを2種以上組みあわせてもよい。これらの中でも、重合制御の容易さ、後処理の容易さを考慮すると懸濁重合が最も好ましい。
【0082】
懸濁重合に用いられる懸濁安定剤としては、硫酸バリウムおよび水酸化マグネシウムなどの無機系懸濁安定剤や、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリルアミド、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体などの有機系懸濁安定剤などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらのなかでも、色調安定性の面で有機系懸濁安定剤が好ましい。
【0083】
ビニル系共重合体(C)の懸濁重合に使用される開始剤としては、グラフト共重合体(B)の開始剤として例示したものを挙げることができる。また、ビニル系共重合体(C)の重合度の調整を目的として、グラフト共重合体(B)に用いられる連鎖移動剤として例示したメルカプタン、テルペンなどの連鎖移動剤を使用することも可能である。懸濁重合ではビニル系共重合体(C)のスラリーが得られ、次いで脱水、乾燥を経て、ビーズ状のビニル系共重合体(C)が得られる。
【0084】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(B)とビニル系共重合体(C)の合計100質量部に対して、グラフト共重合体(B)を20~60質量部、ビニル系共重合体(B)を80~40質量部配合してなる。グラフト共重合体(B)の配合量が20質量部未満で、ビニル系共重合体(C)の配合量が80質量部を超えると、成形品の耐衝撃性が低下する。成形品の耐衝撃性をより向上させる観点から、グラフト共重合体(B)を30質量部以上、ビニル系共重合体(C)を70質量部以下配合することが好ましく、グラフト共重合体(B)を35質量部以上、ビニル系共重合体(C)を65質量部以下配合することがより好ましい。一方、グラフト共重合体(B)の配合量が60質量部を超え、ビニル系共重合体(C)の配合量が40質量部未満であると、熱可塑性樹脂組成物の流動性および成形性が低下する。グラフト共重合体(B)を60質量部以下、ビニル系共重合体(C)を40質量部以上配合することが好ましい。
【0085】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体およびマレイミド系単量体を共重合してなる耐熱ビニル系共重合体(D)、および/または、ポリカーボネート樹脂(E)をさらに含んでもよく、耐熱性を向上させることができる。ポリカーボネート樹脂(E)がより好ましく、さらに面衝撃性を向上させることができる。
【0086】
耐熱ビニル系共重合体を構成する芳香族ビニル系単量体としては、グラフト共重合体(B)に用いられる芳香族ビニル系単量体として例示したものを挙げることができ、スチレンが好ましく用いられる。耐熱ビニル系共重合体を構成するシアン化ビニル系単量体としては、グラフト共重合体(B)に用いられるシアン化ビニル系単量体として例示したものを挙げることができアクリロニトリルが好ましく用いられる。耐熱ビニル系共重合体を構成する耐熱ビニル系単量体としては、グラフト共重合体(B)に任意で用いられるマレイミド系単量体として例示したものを挙げることができ、N-フェニルマレイミドが好ましく用いられる。
【0087】
耐熱ビニル系共重合体を構成する単量体組成比率は、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体およびマレイミド系単量体の合計100質量%中、芳香族ビニル系単量体36~65質量%、シアン化ビニル系単量体0~12質量%、マレイミド系単量体35~52質量%の範囲が好ましい。
【0088】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、耐熱ビニル系共重合体の配合量は、前記グラフト共重合体(B)およびビニル系共重合体(C)の合計100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。一方、耐熱ビニル系共重合体の配合量は、100質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましく、85質量部以下がさらに好ましい。
【0089】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、2価以上のフェノール系化合物と、ホスゲンまたはジフェニルカーボネートなどの炭酸ジエステル化合物とを反応させて得られる熱可塑性樹脂である。ポリカーボネート樹脂としては、例えば、ビスフェノールAとホスゲンとを反応させる界面重縮合法により得られるポリカーボネート樹脂、ビスフェノールAとジフェニルカーボネートとを反応させる溶融重合法により得られるポリカーボネート樹脂などが好ましい。
【0090】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、ポリカーボネート樹脂の配合量は、前記グラフト共重合体(B)およびビニル系共重合体(C)の合計100質量部に対して、10質量部以上が好ましい。ポリカーボネート樹脂の配合量を10質量部以上とすることにより、耐熱性および面衝撃性が向上する。ポリカーボネート樹脂の配合量は40質量部以上がより好ましく、50質量部以上がさらに好ましい。一方、ポリカーボネート樹脂の配合量は、流動性や成形性の観点から、400質量部以下が好ましい。
【0091】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系、含リン有機化合物系などの酸化防止剤、フェノール系、アクリレート系などの熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系などの紫外線吸収剤、有機ニッケル系、ヒンダードアミン系などの光安定剤などの各種安定剤、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類などの滑剤、フタル酸エステル類、リン酸エステル類などの可塑剤、ポリテトラフルオロエチレンなどのドリップ防止剤、帯電防止剤、カーボンブラック、酸化チタン、顔料および染料、水やシリコーンオイル、流動パラフィンなどの液体を配合することもできる。また、充填材を配合することもできる。
【0092】
充填材としては、繊維状、板状、粉末状、粒状などの形状のものが挙げられ、本発明においてはいずれを用いてもよい。具体的には、ポリアクリロニトリル(PAN)系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ガラス繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの繊維状またはウィスカー状充填材、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、モンモリロナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、ポリリン酸カルシウム、グラファイトなどの粉状、粒状または板状の充填材などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、ガラス繊維が好ましく用いられる。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば、長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどを挙げることができる。なお、前記充填材はその表面が任意のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤により処理されていてもよい。また、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束処理されていてもよく、アミノシランやエポキシシランなどのカップリング剤などで処理されていてもよい。
【0093】
充填材の配合量は、前記グラフト共重合体(B)およびビニル系共重合体(C)の合計100質量部に対して、0.01~100質量部が好ましい。充填材の配合量をこの範囲とすることにより、成形品の剛性および耐熱性が向上する。充填材の配合量は0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましい。一方、充填材の配合量は50質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。
【0094】
熱可塑性樹脂組成物の製造方法に特に制限はないが、生産性の点から、グラフト共重合体(B)とビニル系共重合体(C)および必要に応じてその他の成分を溶融混練する方法が一般的である。前述の添加剤などを配合する場合、その配合方法についても特に制限はなく、種々の方法を用いることができる。
【0095】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形、ガスアシスト成形などの公知の方法によって成形することができる。特に制限されるものではないが、好ましくは、射出成形により成形される。射出成形は、好ましくは210~320℃の温度範囲で実施することができる。また、射出成形時の金型温度は、好ましくは30~80℃である。
【0096】
本発明の透明スチレン系熱可塑性樹脂組成物は、任意の形状の成形品として広く用いることができる。成形品としては、例えば、フィルム、シート、繊維、布、不織布、射出成形品、押出成形品、真空圧空成形品、ブロー成形品、他の材料との複合体などが挙げられる。
【実施例0097】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。まず、評価方法について説明する。
【0098】
(1)体積平均粒子径
得られたゴム質重合体ラテックスを水媒体で希釈、分散させ、粒度分布を測定した。
体積平均粒子径の測定条件を以下に示す。
装置: ベックマン・コールター社製 LS 13 320
測定法:レーザ散乱回折法
測定時間:90s
【0099】
(2)アクリル系ゴム質重合体(A)の安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(d1)
メタノール中にアクリル系ゴム質重合体(A)ラテックスおよび質量パーセント濃度10%の塩化カルシウム水溶液を添加した後、脱水・洗浄によりアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を得た。得られたアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を80℃で3時間真空乾燥した後、所定量を安息香酸ブチルに18時間含浸させ、安息香酸ブチル不溶分(I)が膨潤したサンプルの重量(x)を測定した。安息香酸ブチルの沸点が約250℃と高いため、安息香酸ブチル不溶分(I)が膨潤したサンプルをアセトンに1時間以上含侵させる操作を、アセトンを交換しながら3回繰り返すことで安息香酸ブチルをアセトンに置換した。次いで、80℃で3時間真空乾燥を行った後、安息香酸ブチル不溶分(I)の乾燥後のサンプルの重量(y)を測定した。膨潤度(d1)は、膨潤したサンプルの重量(x)および乾燥後のサンプルの重量(y)から、下記式より算出した。
安息香酸ブチル不溶分(I)の膨潤度(d1)=(x)/(y)。
【0100】
(3)アクリル系ゴム質重合体(A)のアセトン可溶分(II)の含有割合(d2。質量%)
メタノール中にアクリル系ゴム質重合体(A)ラテックスおよび質量パーセント濃度10%の塩化カルシウム水溶液を添加した後、脱水・洗浄によりアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を得た。得られたアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を80℃で3時間真空乾燥した後、所定量をアセトンに18時間溶解させ、た。続いて、アセトン不溶分を80℃で3時間真空乾燥を行った後、アセトン不溶分の乾燥後のサンプルの重量(n1)を測定した。アセトン可溶分(II)の含有割合(d2)は、サンプルの重量(m1)およびアセトン不溶分の乾燥後のサンプルの重量(n1)から、下記式より算出した。
アセトン可溶分(II)の含有割合(d2。質量%)=(([m1]―[n1])/[m1])×100。
【0101】
(4)アクリル系ゴム質重合体(A)のアセトン不溶分(III)の膨潤度(d3)
メタノール中にアクリル系ゴム質重合体(A)ラテックスおよび質量パーセント濃度10%の塩化カルシウム水溶液を添加した後、脱水・洗浄によりアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を得た。得られたアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を80℃で3時間真空乾燥した後、所定量をアセトンに18時間含浸させ、アセトン不溶分(III)が膨潤したサンプルの重量(z)を測定した。続いて、アセトン不溶分(III)を80℃で3時間真空乾燥を行った後、乾燥後のサンプルの重量(w)を測定した。膨潤度(d3)は、アセトン不溶分(III)の膨潤したサンプルの重量(z)およびアセトン不溶分(III)の乾燥後のサンプルの重量(w)から、下記式より算出した。
アセトン不溶分(III)の膨潤度(d3)=(z)/(w)。
【0102】
(5)アクリル系ゴム質重合体(A)の安息香酸ブチル可溶分(IV)の含有割合(d2。質量%)
メタノール中にアクリル系ゴム質重合体(A)ラテックスおよび質量パーセント濃度10%の塩化カルシウム水溶液を添加した後、脱水・洗浄によりアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を得た。得られたアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を80℃で3時間真空乾燥した後、所定量(m2)を安息香酸ブチルに18時間溶解させた。安息香酸ブチルの沸点が約250℃と高いため、安息香酸ブチル不溶分が膨潤したサンプルをアセトンに1時間以上含侵させる操作を、アセトンを交換しながら3回繰り返すことで安息香酸ブチルをアセトンに置換した。次いで、80℃で3時間真空乾燥を行った後、乾燥後のサンプルの重量(n2)を測定した。安息香酸ブチル可溶分(IV)の含有割合(d4)は、サンプルの重量(m2)および乾燥後のサンプルの重量(n2)から、下記式より算出した。
安息香酸ブチル可溶分(IV)の含有割合(d4。質量%)=(([m2]-[n2])/[m2])×100。
【0103】
(6)アクリル系ゴム質重合体(A)のトルエン不溶分のトルエン膨潤度
メタノール中にアクリル系ゴム質重合体(A)ラテックスおよび質量パーセント濃度10%の塩化カルシウム水溶液を添加した後、脱水・洗浄によりアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を得た。得られたアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を80℃で3時間真空乾燥した後、所定量をトルエンに18時間含浸させ、トルエン不溶分が膨潤したサンプルの重量(x1)を測定した。続いて、80℃で3時間真空乾燥を行った後、トルエン不溶分の乾燥後のサンプルの重量(y1)を測定した。膨潤度は、トルエン不溶分が膨潤したサンプルの重量(x1)および乾燥後のサンプルの重量(y1)から、下記式より算出した。
トルエン膨潤度=(x1)/(y1)。
【0104】
(7)アクリル系ゴム質重合体(A)の2-ブタノン(MEK)不溶分のMEK膨潤度
メタノール中にアクリル系ゴム質重合体(A)ラテックスおよび質量パーセント濃度10%の塩化カルシウム水溶液を添加した後、脱水・洗浄によりアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を得た。得られたアクリル系ゴム質重合体(A)の固形物を80℃で3時間真空乾燥した後、所定量をMEKに18時間含浸させ、MEK不溶分が膨潤したサンプルの重量(x2)を測定した。続いて、80℃で3時間真空乾燥を行った後、MEK不溶分の乾燥後のサンプルの重量(y2)を測定した。膨潤度は、MEK不溶分が膨潤したサンプルの重量(x2)および乾燥後のサンプルの重量(y2)から、下記式より算出した。
MEK膨潤度=(x2)/(y2)。
【0105】
(8)重量平均分子量
サンプル約0.02gをテトラヒドロフラン約8gに溶解し、約0.2質量%の溶液を用いて測定したGPCクロマトグラムから、ポリスチレンを標準物質として換算することにより求めた。なお、GPC測定は、下記条件により測定した。
機器:Waters2695
カラム温度:40℃
検出器:RI2414(示差屈折率計)
キャリア溶離液流量:0.3ml/分(溶媒:テトラヒドロフラン)
カラム:TSKgel SuperHZM-M(6.0mmI.D.×15cm)、TSKgel SuperHZM-N(6.0mmI.D.×15cm)直列(いずれも東ソー(株)製)。
【0106】
(9)表面平滑性(光沢度)
樹脂組成物ペレットを80℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した後、シリンダー温度230℃に設定した住友重機械工業(株)製SE-50DU成形機内に充填し、即時に厚さ3mmの角板成形品を成形した。スガ試験機(株)製デジタル変角光沢計UGV-5Dを使用し、得られた角板成形品各5枚について60°における光沢度を測定し、その数平均値を算出した。
【0107】
(10)発色性(全光線透過率)
樹脂組成物ペレットを80℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した後、シリンダー温度を230℃に設定した住友重機械工業(株)製SE-50DU成形機内に充填し、即時に厚さ3mmの角板成形品を成形した。東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを使用して、得られた角板成形品各5枚について、全光線透過率を測定し、その数平均値を算出した。
【0108】
(11)耐衝撃性(シャルピー衝撃強度)
樹脂組成物ペレットを80℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した後、シリンダー温度を230℃に設定した住友重機械工業(株)製SE-50DU成形機内に充填し、即時に厚さ4mmのダンベル試験片を成形した。得られたダンベル試験片各7個について、ISO179に準拠した方法でシャルピー衝撃強度を測定し、その数平均値を算出した。
【0109】
(12)流動性(メルトフローレート)
樹脂組成物ペレットを80℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した後、ISO1133に準拠し、220℃、98Nの条件でメルトフローレートを測定した。(13)重合率
アクリル系ゴム質重合体(A)ラテックスをアセトンで30倍に希釈した溶液を用いて測定したガスクロマトグラフィーの結果より、アクリル系ゴム質重合体(A)ラテックス中に残存するモノマ濃度(Mac)を算出した。アクリル系ゴム質重合体(A)ラテックスの残存モノマ濃度とアクリル系ゴム質重合体(A)ラテックスの重合で使用した全仕込み重量より、残存モノマ重量(Ma)を得た。アクリル系ゴム質重合体(A)ラテックスの重合で仕込んだ総モノマ重量(Mi)と残留モノマ重量(Ma)より、以下の式より重合率を算出した。なお、ガスクロマトグラフィー測定は、以下条件より測定した。
重合率=1-((Ma)/(Mi))×100
機器:Shimadzu社製GC-2014S
カラム:PorapakQ
検出温度:250℃
【0110】
(製造例1)
アクリル系ゴム質重合体(A-1)
撹拌翼を備えた反応槽に、純水150質量部、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム水溶液0.3質量部(固形分換算)と不均化ロジン酸カリウム水溶液1質量部(固形分換算)を仕込み、60℃まで昇温し、撹拌下、アクリル酸n-ブチル14.9質量部とメタクリル酸アリル0.1質量部の混合物を30分間で連続添加した。次いで、75℃まで昇温しながら、2質量%過硫酸カリウム水溶液13質量部と、不均化ロジン酸カリウム水溶液1.0質量部(固形分換算)をそれぞれ5時間かけて連続添加した。また、過硫酸カリウム水溶液および不均化ロジン酸カリウム水溶液の添加開始から2時間後にアクリル酸n-ブチル84.1質量部とメタクリル酸アリル0.9質量部の混合物を2.5時間かけて添加し、添加終了後さらに1時間保持することでアクリル系ゴム質重合体(A-1)ラテックスを重合率97%で得た。
【0111】
グラフト共重合体(B-1)
撹拌翼を備えた反応槽に、純水13.2質量部、無水ブドウ糖0.48質量部、ピロリン酸ナトリウム0.26質量部および硫酸第一鉄0.01質量部の混合物、オレイン酸カリウム0.7質量部および純水6質量部の混合物、アクリル系ゴム質重合体(A-1)50質量部(固形分換算)および純水100質量部を反応容器に仕込み、58℃まで昇温し、撹拌下、スチレン36.5質量部、アクリロニトリル13.5質量部およびt-ドデシルメルカプタン0.24質量部の混合物(i)を4時間かけて連続添加した。連続添加開始0.5時間後に、容器内温度を62℃に昇温し、クメンハイドロパーオキサイド0.3質量部、オレイン酸カリウム2.0質量部および純水12.5質量部の混合物を並行して5時間かけて連続添加した。続いて、(i)の添加終了時にさらに65℃まで昇温し、グラフト共重合体(B-1)ラテックスを重合率98%で得た。得られたラテックス100質量部(固形分換算)を、塩化カルシウム3質量部を加えた75℃の水900質量部中に、撹拌しながら注いで凝固し、次いで脱水、乾燥を行いパウダー状のグラフト共重合体(B-1)を得た。
【0112】
(製造例2~製造例12)
製造例1において、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸アリル、乳化剤および乳化剤の使用量を表1~2に示す通り変更したこと以外は、製造例1と同様にしてアクリル系ゴム質重合体(A-2~A-12)ラテックスを得た。アクリル系ゴム質重合体(A-1)にかえてアクリル系ゴム質重合体(A-2~A-12)を用いたこと以外は製造例1と同様にしてグラフト共重合体(B-2~B-12)を製造した。
【0113】
(製造例13)
製造例1において、グラフト共重合時にスチレン33.0質量部、アクリロニトリル17.0質量部を用いたこと以外は製造例1と同様にしてグラフト共重合体(B-13)を製造した。
【0114】
(製造例14)
製造例1において、グラフト共重合時にアクリル系ゴム質重合体(A-1)を40質量部(固形分換算)用いたことに加えて、スチレン43.8質量部、アクリロニトリル16.2質量部を用いたこと以外は製造例1と同様にしてグラフト共重合体(B-14)を製造した。
【0115】
(製造例15~製造例30)
製造例1において、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸アリル、乳化剤および乳化剤の使用量を表3~4に示す通り変更したこと以外は、製造例1と同様にしてアクリル系ゴム質重合体(A-13~A-27)ラテックスを得た。アクリル系ゴム質重合体(A-1)にかえてアクリル系ゴム質重合体(A-13~A-27)を用いたこと以外は製造例1と同様にしてグラフト共重合体(B-15~B-30)を製造した。
【0116】
(製造例31)
ビニル系共重合体(C-1)
アクリルアミド80質量部、メタクリル酸メチル20質量部、過硫酸カリウム0.3質量部、純水1800質量部を反応容器中に仕込み、反応容器中の気相を窒素ガスで置換し、撹拌下、70℃に保った。単量体が完全に重合体に転化するまで反応を続けた後、水酸化ナトリウム20質量部と純水2000質量部を加え、70℃で2時間撹拌した後、室温にまで冷却することで懸濁重合用媒体となるメタクリル酸メチル-アクリルアミド二元共重合体水溶液を得た。
【0117】
撹拌翼を備えた反応槽に、前記メタクリル酸メチル-アクリルアミド二元共重合体水溶液6質量部を純水165質量部に溶解した溶液を入れて90r.p.m.で撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、アクリロニトリル28.9質量部、スチレン11.1質量部、アゾビスイソブチロニトリル0.32質量部およびt-ドデシルメルカプタン0.32質量部の単量体混合物を、反応系を撹拌しながら30分間かけて初期添加し、70℃にて共重合反応を開始した。単量体混合物を添加後、1時間経過したところで、供給ポンプを使用してスチレンを15質量部添加した。その後、30分間隔で各15質量部×3回スチレンを反応系に添加した。全モノマの添加終了後60分間かけて100℃に昇温した。到達後30分間100℃に保温した後、冷却し、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行って、ビーズ状ビニル系共重合体(C-1)を得た。
【0118】
(実施例1~16、比較例1~16)
上記製造例1~30で調製したグラフト共重合体(B-1~30)と製造例31で調製したビニル系重合体(C-1)をそれぞれ表1~4で示した配合比で配合し、さらにエチレンビスステアリン酸アミド0.8質量部を加えた。得られた混合物を、40mmφ押出機により押出温度230℃で溶融混練し、ガット状に押出してペレット化した。得られたペレットを、成形温度230℃、金型温度60℃で射出成形し、評価用の各種試験片を作製した。これら試験片について前述の方法により評価した結果を1~4に示す。
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、表面平滑性および発色性に優れた成形品を得ることができる。かかる特性を活かして、耐衝撃性、表面平滑性および発色性を必要とする屋外設備や自動車用途などに好適に利用することができる。