(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142472
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】生物処理槽の製造方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20241003BHJP
C02F 3/00 20230101ALI20241003BHJP
C12N 1/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C02F3/12 A
C02F3/00 G
C12N1/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054619
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 祐二
(72)【発明者】
【氏名】小川 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】山森 卓
【テーマコード(参考)】
4B065
4D028
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AC20
4B065BA16
4B065BB40
4B065CA56
4D028AB00
4D028BC17
4D028BC24
4D028BD06
4D028BD17
4D028CC06
(57)【要約】
【課題】従来の生物処理槽に比して生物処理速度を大幅に向上させた生物処理槽を製造する。
【解決手段】重イオンビームを照射した活性汚泥を、生物処理槽内で、生物処理する排水に浸漬する工程s4を含む、生物処理槽の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重イオンビームを照射した活性汚泥を、生物処理槽内で、生物処理する排水に浸漬する工程を含む、生物処理槽の製造方法。
【請求項2】
前記重イオンビームの照射に先立って、馴致に用いる排水である馴致用排水により活性汚泥を馴致する工程を含む、請求項1に記載の生物処理槽の製造方法。
【請求項3】
生物処理する前記排水に浸漬する工程に先立って、前記重イオンビームを照射した活性汚泥を、馴致に用いる排水である馴致用排水で馴致する工程を含む、請求項1に記載の生物処理槽の製造方法。
【請求項4】
活性汚泥を、馴致に用いる排水である馴致用排水で馴致する工程と、
馴致した活性汚泥に重イオンビームを照射する工程と、
前記重イオンビームを照射した活性汚泥を馴致用排水で馴致する工程と、
前記重イオンビームを照射し、その後に馴致用排水で馴致した活性汚泥を、生物処理槽内で、生物処理する排水に浸漬する工程を含む、生物処理槽の製造方法。
【請求項5】
生物処理する前記排水が、洗濯排水である、請求項1から4のいずれか1項に記載の生物処理槽の製造方法。
【請求項6】
生物処理する前記排水が、食品工場から排出された有機性排液である、請求項1から4のいずれか1項に記載の生物処理槽の製造方法。
【請求項7】
活性汚泥に照射される重イオンが、ヘリウム、炭素、窒素、ネオンおよびアルゴンの中から選択されるいずれか1つである、請求項4に記載の生物処理槽の製造方法。
【請求項8】
前記重イオンビームを照射する工程が、前記活性汚泥を水中に入れた状態で行われる、請求項4に記載の生物処理槽の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排液処理やメタン発酵等に用いる生物処理槽の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発電施設などから排出される排水や、下水、工場から排出される有機性排液など(以下、これらをまとめて「排水」という。)を処理するため、生物処理槽内で排水と活性汚泥を混合して、排水のCOD(化学的酸素要求量)を下げたりメタン発酵させる生物処理が行われている。
【0003】
このような生物処理槽を備えた施設では、たとえば特許文献1に記載のように、予め活性汚泥を排水の希釈液等で馴致することで活性汚泥の生物処理能力(分解速度)を高めた後に、かかる活性汚泥を用いて、目的の排水を生物処理するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再公表WO2016-103949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、馴致によって活性汚泥の処理能力を向上させるには限界がある。このため、排液中のCOD値が活性汚泥の処理能力に対して高過ぎる場合には、排水を多量の水等で希釈してから生物処理槽に供給する必要がある。活性汚泥の処理能力が低い場合、生物処理する排水の体積が嵩み、生物処理槽を含む処理施設全体を大きくせざるを得ないなどの不都合が生じる。
【0006】
微生物の処理速度(分解速度)を大幅に向上させるには、微生物の遺伝子配列そのものを変化させる必要がある。しかし、遺伝子組み換えを行った微生物を活性汚泥に混合することは環境への影響という面で懸念が生じる。
【0007】
また、微生物に遺伝子変異を導入すべく、活性汚泥から微生物を単離し純粋培養した上で、紫外線などの変異原処理を行い、生き残った微生物を純粋培養し、活性汚泥中に戻すことも考えられる。
【0008】
生物処理槽の排水処理速度を大幅に向上させるには、活性汚泥中の1種類でなく複数種類の微生物に遺伝子変異を生じさせ、菌叢を最適な状態に変化させる必要がある。
【0009】
しかしながら、上記の純粋培養を用いた方法では莫大な時間と手間がかかるため、現実的でない。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、従来の生物処理槽に比して生物処理速度を大幅に向上させた生物処理槽の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、以下の態様を包含する。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る生物処理槽の製造方法は、重イオンビームを照射した活性汚泥を、生物処理槽内で、生物処理する排水に浸漬する工程を含んでいる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の生物処理槽の製造方法によれば、従来の生物処理槽に比して生物処理速度を大幅に向上させた生物処理槽を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の好ましい実施形態にかかる生物処理槽の製造工程を示すフローである。
【
図3】第1馴致工程に用いる模擬排水の洗剤濃度と、処理槽本体内に収容された処理水のCODを示すグラフである。
【
図4】第2馴致工程に用いる模擬排水の洗剤濃度と、処理槽本体内に収容された処理水のCODを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の好ましい実施形態にかかる生物処理槽の製造工程を示すフローであり、
図2は、生物処理槽の模式図である。
【0017】
本実施形態において、生物処理槽の製造方法は、活性汚泥を排水で馴致する工程(第1馴致工程s1)と、馴致した活性汚泥に重イオンビームを照射する工程(照射工程s2)と、重イオンビームを照射した活性汚泥を排水で馴致する工程(第2馴致工程s3)と、馴致した活性汚泥を、生物処理槽内で、生物処理する(目的の)排水に浸漬する工程(浸漬工程s4)を含んでいる。
【0018】
本明細書において、馴致とは、活性汚泥を収容した槽に供給する排水の負荷(詳細にはCOD値)を徐々に引き上げていくことで、活性汚泥の菌叢を、目的の排水に適した菌叢に変えていくことを指す。
【0019】
馴致に用いる排水には、(実際に生物処理する)目的の排水を希釈した希釈液や、当該希釈液に成分が類似する模擬排水を好適に用いることができる。なお、ここにいう「成分が類似する」とは、処理すべき成分(たとえば洗濯排水でいうところの界面活性剤)が同一又は類似していることを指す。
【0020】
以下において、本発明にかかる製造方法により製造される生物処理槽内で処理される排水(目的の排水)を「生物処理する排水」ともいい、馴致に用いる排水を「馴致用排水」ともいう。
【0021】
本実施形態の製造方法により製造される生物処理槽1は、原子力発電施設の洗濯排水を生物処理する処理槽本体2と、処理槽本体2に収容された活性汚泥を備えている。活性汚泥は、洗濯排水に含まれる界面活性剤、布繊維、脂肪分、炭水化物のような有機物質を分解する。
【0022】
処理槽本体2には、本実施形態の製造方法による生物処理槽1の製造後に、活性汚泥により生物処理する洗濯排水が供給される。
【0023】
処理槽本体2には、散気管3、分離膜4、処理槽本体2に供給される排水のCODと処理槽本体2で生物処理された処理水のCODを計測する図示しない計測装置等を設けてもよい。しかしながら、処理槽本体2にこれらの装置を設けることは必ずしも必要でない。
【0024】
散気管3は、処理槽本体2に収容された排水に酸素または空気を曝気混合する。
【0025】
分離膜4は、活性汚泥により生物処理した処理水中の活性汚泥や微細粒子を受け止め、処理水を通過させる。
【0026】
また、分離膜4に代えて、処理水とともに活性汚泥が排出されてしまうことを防止する沈殿槽を設けてもよい。しかしながら、処理槽本体2をコンパクト化する面で、分離膜4を設けることがより好ましい。
【0027】
なお、生物処理槽1を含む排水処理施設として、洗濯排水を貯留するバッファタンクを別途設け、バッファタンクから生物処理槽1に洗濯排水を供給するよう構成することも可能である。
【0028】
(第1馴致工程s1)
図3は、第1馴致工程s1に用いる模擬排水の洗剤濃度、処理槽本体2内に収容された処理水のCOD、および馴致時間を示すグラフである。
図3においては、縦軸に洗剤の濃度と処理水のCOD値が、横軸に馴致時間がそれぞれ示されている。
【0029】
第1馴致工程s1においては、生物処理に用いる活性汚泥を、馴致用排水に浸し、馴致する。
【0030】
馴致用排水には、製造後の生物処理槽1の処理槽本体2に供給予定の洗濯排水またはその希釈液でもよいが、本実施形態においては界面活性剤を含む市販の洗濯洗剤を水で希釈した模擬排水を用いている。
【0031】
なお、活性汚泥を馴致用排水と混合するのに先立って、予め、活性汚泥を含む水が収容された処理槽本体2に、散気管3を通じて酸素または空気を供給し曝気しておくことが好ましい。
【0032】
第1馴致工程s1に供する活性汚泥の由来はとくに限定されるものではない。たとえば、既存の排水処理施設から種汚泥を処理槽本体2に持ち込んでもよく、下水処理場や家畜を扱う施設など種汚泥を処理槽本体2に持ち込んでもよい。
【0033】
第1馴致工程s1および後に詳述する第2馴致工程s2においては、模擬排水を処理槽本体2に供給し続ける。模擬排水の供給量は1日につき約2.2Lとしているが、これに限定されるものではない。
【0034】
なお、第1馴致工程s1および第2馴致工程s3において活性汚泥を馴致する槽は、馴致用排水と活性汚泥を収容可能な槽であればよく、最終的に生物処理を行う生物処理槽1の処理槽本体2を馴致に用いることは必ずしも必要でない。
【0035】
第1馴致工程s1における模擬排水のCOD(換言すれば、界面活性剤の濃度)は徐々に上昇させていくことが好ましい。これにより、排水処理に有用な微生物のウォッシュアウトを防止しつつ、COD値の高い排水中でも界面活性剤等の有機物質を分解し増殖することが可能な菌のみを選抜でき、活性汚泥による排水処理能力を高めることができる。
【0036】
活性汚泥の馴致に用いる模擬排水のCODの数値や、CODの上昇回数はとくに限定されるものではない。過度な泡立ちや、微生物が処理槽本体2から過剰に流出してしまうウォッシュアウト等の問題が生じない範囲で適宜設定することができる。
【0037】
また、CODの上昇率は1.1倍~2倍の範囲で設定することが好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0038】
本実施形態においては、ステップ1からステップ3までの3段階の異なるCOD数値の模擬排水を用いた馴致を行う。CODの上昇率は1.3倍に設定されており、ステップ2の模擬排水はステップ1で用いる模擬排水の1.3倍のCOD値であり、ステップ3の模擬排水はステップ2で用いる模擬排水の1.3倍のCOD値である。
【0039】
馴致の間、処理槽本体2に収容された排水中には散気管3を通じて酸素または空気が供給される。これにより、活性汚泥中の微生物の活性を向上できる。
【0040】
ステップ1では、1日当たり0.20(kg-COD/m3)の負荷の模擬排水を、活性汚泥が収容された処理槽本体2に供給する。
【0041】
この模擬排水に含まれる洗剤の濃度は、
図3に示されるように、612mg/Lであり、模擬排水1L当たりのCOD-Mnと窒素成分、カリウム成分の濃度は以下の通りである。
【0042】
COD-Mn:181.8(mg/L=ppm)
NH4Cl:34.5(mg/L)
KH2PO4:8.0(mg/L)
その後、1日に1回以上、上述の計測装置により計測された、処理槽本体2から排出された処理水のCOD(COD-Mn)が所定の基準値である20ppmを下回る日が2日間連続で続いたとき、次のステップ2に移行する。
【0043】
ステップ2では、ステップ1でのCOD数値の1.3倍にあたる1日当たり0.26(kg-COD/m3)の負荷の模擬排水を処理槽本体2に供給する。
【0044】
この模擬排水に含まれる洗剤の濃度は、
図3に示されるように、796mg/Lであり、模擬排水1L当たりのCOD-Mnと窒素成分、カリウム成分の濃度は以下の通りである。
【0045】
COD-Mn:236.4(ppm)
NH4Cl:44.9(mg/L)
KH2PO4:10.4(mg/L)
その後、1日に1回以上、処理槽本体2内の排水のCODが所定の基準値20ppmを下回る日が2日間連続で続いたとき、次のステップ3に移行する。
【0046】
ステップ3では、ステップ2でのCOD数値の1.3倍にあたる1日当たり0.33(kg-COD/m3)の負荷の模擬排水を処理槽本体2に供給する。
【0047】
この模擬排水に含まれる洗剤の濃度は、
図3に示されるように、1,035mg/Lであり、模擬排水1L当たりのCOD-Mnと窒素成分、カリウム成分の濃度は以下の通りである。
【0048】
COD-Mn:300.0(ppm)
NH4Cl:57.0(mg/L)
KH2PO4:13.2(mg/L)
その後、1日に1回以上、処理槽本体2内の排水のCODが所定の基準値20ppmを下回る日が2日間連続で続いたとき、活性汚泥が模擬排水の分解に適した菌叢になったことが認められるため、第1馴致工程s1を終了する。なお、第1馴致工程s1は、従来の生物処理槽における活性汚泥の馴致方法と同様である。
【0049】
(照射工程s2)
照射工程s2では、第1馴致工程s1で馴致した活性汚泥に重イオンビームを照射する。
【0050】
重イオンビームの照射は、既存の加速器施設に活性汚泥を運んで行うことができる。しかしながら、生物処理槽の近傍に重イオンビームの照射装置を配置し、生物処理槽から取り出した活性汚泥を照射装置に持ち込んでもよく、照射装置から生物処理槽内部に直接照射してもよい。
【0051】
活性汚泥には性質が不明な微生物も含まれることから、活性汚泥は水中に入れた状態で重イオンビームを照射されることが好ましいが、重イオンビームを照射する活性汚泥の状態はとくに限定されるものではない。したがって、たとえば、濃縮した活性汚泥に重イオンビームを照射してもよく、フリーズドライ化した活性汚泥に重イオンビームを照射してもよい。
【0052】
照射する重イオンの種類は、遺伝子変異効果の高さの面から、水素よりも大きいものであればとくに限定されるものではないが、ヘリウム、炭素、窒素、ネオン、アルゴンおよび鉄の中から選択されるいずれか1つであることが好ましい。中でも、炭素、窒素、ネオン、アルゴンおよび鉄の中から選択されるいずれか1つであることが好ましい。
【0053】
また、水中において重イオンを活性汚泥中の微生物まで確実に到達させるため、炭素、窒素、ネオンおよびアルゴンの中から選択されるいずれか1つであることがとくに好ましい。
【0054】
重イオンビーム照射における線エネルギー付与(LET)は、20~290keV/μmの範囲が好ましく、50~70keV/μmの範囲が最も好ましい。しかしながら、これらの範囲に限定されるものではない。
【0055】
こうして重イオンビームを照射した活性汚泥は、第2馴致工程s3に供される。
【0056】
(第2馴致工程s3)
図4は、第2馴致工程s3に用いる模擬排水の洗剤濃度と、処理槽本体2内に収容された処理水のCODを示すグラフである。
【0057】
第2馴致工程s3においては、重イオンビームを照射した活性汚泥を、馴致用排水に浸して馴致する。なお、第1馴致工程s1と第2馴致工程s3に同一の槽を用いることは必ずしも必要でない。
【0058】
第2馴致工程s3では、第1馴致工程s1と同様のステップ1から3に加え、さらに3段階の濃度上昇(ステップ4から6)を行う。なお、ステップ1から3を行うことは必ずしも必要でない。
【0059】
重イオンビームを照射した活性汚泥を処理槽本体2に供給することで、処理槽本体2内での生物処理の速度を大幅に向上できる。したがって、ステップ4~6のように、従来の活性汚泥では分解し切れずに過度に泡立ってしまうほど高い洗剤濃度でも問題なく馴致することができる。
【0060】
なお、重イオンビームを照射することにより、高活性の微生物が得られること自体は、特開2009-095279号公報、特開2009-095280号公報等に記載の通り周知である。
【0061】
たとえば上記の公報においては、単一の種類の微生物に対して重イオンビームを照射後に、生き残った株の中から、高プロテアーゼ活性を有する変異株のスクリーニングが行われている。
【0062】
しかしながら、排水の生物処理においては、分解能力の高い多数の種類の微生物が必要であり、上記のようにスクリーニングにより高活性の変異株を得る方法では多大な手間と時間がかかってしまう。
【0063】
これに対し、本実施形態においては、多様な種類の微生物を含む活性汚泥に対して重イオンビームを照射した後に、スクリーニングを行うことなく排水による馴致を行うことで、高いCOD値の排水を素早く分解することが可能な菌叢を容易に構築することができる。
【0064】
ステップ4では、ステップ3でのCOD数値の1.3倍にあたる1日当たり0.43(kg-COD/m3)の負荷の模擬排水を処理槽本体2に供給する。
【0065】
この模擬排水に含まれる洗剤の濃度は、
図3に示されるように、1,345mg/Lである。この模擬排水1L当たりのCOD-Mnと窒素成分、カリウム成分の濃度は以下の通りである。
【0066】
COD-Mn:390.0(ppm)
NH4Cl:74.1(mg/L)
KH2PO4:17.2(mg/L)
その後、1日に1回以上、処理槽本体2内の排水のCODが所定の基準値20ppmを下回る日が2日間連続で続いたとき、次のステップ5に移行する。
【0067】
ステップ5では、ステップ4でのCOD数値の1.3倍にあたる1日当たり0.56(kg-COD/m3)の負荷の模擬排水を処理槽本体2に供給する。
【0068】
この模擬排水に含まれる洗剤の濃度は、
図3に示されるように、1,749mg/Lである。この模擬排水1L当たりのCOD-Mnと窒素成分、カリウム成分の濃度は以下の通りである。
【0069】
COD-Mn:507.0(ppm)
NH4Cl:96.33(mg/L)
KH2PO4:22.3(mg/L)
その後、1日に1回以上、処理槽本体2内の排水のCODが所定の基準値20ppmを下回る日が2日間連続で続いたとき、次のステップ6に移行する。
【0070】
ステップ6では、ステップ5でのCOD数値の1.3倍にあたる1日当たり0.73(kg-COD/m3)の負荷の模擬排水を処理槽本体2に供給する。
【0071】
この模擬排水に含まれる洗剤の濃度は、
図3に示されるように、2,273mg/Lである。この模擬排水1L当たりのCOD-Mnと窒素成分、カリウム成分の濃度は以下の通りである。
【0072】
COD-Mn:659.1(ppm)
NH4Cl:125.2(mg/L)
KH2PO4:29.0(mg/L)
その後、1日に1回以上、処理槽本体2内の排水のCODが所定の基準値20ppmを下回る日が2日間連続で続いたとき、第2馴致工程s3を終了する。
【0073】
(浸漬工程s4)
浸漬工程s4においては、第2馴致工程s3を経た活性汚泥を、生物処理槽内(より詳細には処理槽本体2内)で、生物処理する排水に浸漬する。
【0074】
第2馴致工程s3において、最終的に生物処理を行う処理槽本体2を用いた場合には、浸漬工程s4において馴致用排水を生物処理する排水に徐々に置き換えるか、または馴致用排水から生物処理する排水に入れ換える。
【0075】
一方で、第2馴致工程s3において処理槽本体2以外の槽を用いた場合には、第2馴致工程s3の終了後に、第2馴致工程s3で使用した槽内の活性汚泥を取り出して、最終的に生物処理を行う処理槽本体2に移し、生物処理を行う排水に浸漬する。
【0076】
なお、第2馴致工程s3で使用した槽内から取り出した活性汚泥は、最終的に、処理槽本体2内において、生物処理する排水に浸漬されればよい。処理槽本体2の外部で、活性汚泥を生物処理する排水に浸漬した場合でも、その後に当該活性汚泥を処理槽本体2内で、生物処理する排水に浸漬するのであれば、重イオンビームを照射した活性汚泥を、生物処理する排水に浸漬したこととなる。
【0077】
以上のようにして製造された生物処理槽1によれば、CODが2200ppm前後の、分解するのに非常に酸素要求量の多い排水でも素早く処理することができるから、かかる排水を多量の水で希釈する必要がない。したがって、処理槽本体2、および処理槽本体2を含む生物処理槽1をコンパクト化できる。
【0078】
さらに、重イオンビームを照射した活性汚泥を排水に混合し馴致することで、高いCOD値の排水の分解処理が可能な生物処理槽を製造することができる。
【0079】
加えて、重イオンビームを照射した活性汚泥を馴致することで、従来の生物処理槽におおける馴致に比して、短期間で馴致を終えることができる。
【0080】
なお、生物処理槽の製造方法が、第1馴致工程s1を備えることは必ずしも必要でなく、排水処理施設や下水処理場等から入手した種汚泥に対して、重イオンビームを照射する照射工程s2を行ってもよい。また、生物処理槽の製造方法が、第2馴致工程s3を備えることは必ずしも必要でなく、重イオンビームを照射した活性汚泥(種汚泥の場合を含む)を生物処理する排水と混合し、馴致を行うことなく生物処理槽1による生物処理を開始してもよい。
【0081】
また、第2馴致工程s3までを終えた活性汚泥を凍結乾燥して凍結乾燥化汚泥を製造してもよく、重イオンビームを照射した活性汚泥を凍結乾燥し、凍結乾燥化汚泥を製造してもよい。
【0082】
このようにして製造された凍結乾燥活性汚泥を、処理槽本体内で、生物処理する排水に浸漬することで、従来の生物処理槽に比して生物処理速度を大幅に向上させた生物処理槽を手早く製造することができる。
【0083】
[その他の実施形態]
他の一実施形態において、本発明は、重イオンビームを照射した活性汚泥を、生物処理槽1内、より詳細には処理槽本体2内で、生物処理する排水に浸漬する工程を含む、生物処理槽の製造方法を提供する。この活性汚泥は、重イオンビームの照射に先立って、馴致用排水により馴致したものでもよい。また、重イオンビーム照射した活性汚泥を、生物処理する排水に浸漬する工程に先立って、馴致用排水により馴致してもよい。
【0084】
この実施形態において、馴致用排水には、
図1から
図4に示された実施形態と同様に、生物処理する排水を希釈した希釈液や、当該希釈液に成分が類似する模擬排水を好適に用いることができる。
【0085】
この実施形態において、生物処理する排水は、洗濯排水であってもよく、食品工場から排出された有機性排液であってもよく、食品工場以外の他の工場からの排水であってもよく、下水であってもよい。
【0086】
本発明は、以上の実施態様に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【0087】
たとえば、
図1から
図4に示された実施形態においては、洗濯排水を生物処理する生物処理槽1の製造方法について詳述したが、排水の他の例として、食品工場から排出される有機性排液(排水)を、メタン発酵により処理する生物処理槽を製造することも可能である。この場合の生物処理する排水は、食品残渣等の有機物を可溶化したり加水分解したもの、すなわち一般にメタン発酵に供する排水である。
【0088】
この場合、第1馴致工程には、生物処理する排水を希釈した希釈液か、または当該希釈液に成分が類似する模擬排水を馴致用排水として、活性汚泥と混合して馴致する。
【0089】
そして、前記実施形態と同様に、排水の濃度を段階的に高めていくことで、処理槽本体内の活性汚泥の菌叢を、食品に由来する排水の処理に適したものに変えていくことができる。メタン発酵の場合には排水を撹拌する撹拌装置を設けることが好ましい。
【0090】
第1馴致工程の後、排水で馴致した活性汚泥を、重イオンビームを照射する(照射工程)。この場合の重イオンビーム照射は、前記実施形態におけるものと同様である。その後、食品由来の排水の希釈液または排水の原液を馴致用排水として用いて、段階的に排水の濃度を上昇させる第2馴致工程を行うことで、従来の生物処理槽に比して食品由来の排水の生物処理速度を大幅に向上させた生物処理槽を製造することができる。
【0091】
加えて、このようにメタン発酵に用いる活性汚泥に重イオンビームを照射し、さらに食品由来の排水で活性汚泥を馴致することで、製造後の生物処理槽1によるメタン発酵中に、酢酸菌による酢酸の生成量を抑えられるとともに、酢酸菌が増え過ぎ、pHが低下した場合でも、メタン発酵を維持し続けることが可能な菌叢を構築することができる。
【0092】
食品由来の排水を生物処理する生物処理槽を製造する場合にも、第1馴致工程と第2馴致工程を行うことは必ずしも必要でなく、何らかの施設から入手した、メタン発酵菌を含む種汚泥に対して重イオンビームを照射し、生物処理槽で食品由来の排水と混合してもよい。
【0093】
なお、第1馴致工程または第2馴致工程は、生物処理槽(詳細には処理槽本体)内に貯留された排水のpHの低下を抑制する工程を含んでもよい。これにより、酢酸菌が増え過ぎた場合に生物処理槽内の排水のpHが下がり過ぎてメタン菌によるメタン発酵が阻害されてしまう事態を防止できる。なお、排水のpHの低下を抑制する工程において、pHが上昇してもよいが、メタン発酵を阻害しない範囲で上昇させる必要がある。
【0094】
排水のpH低下を抑制する方法はとくに限定されるものではないが、たとえば、NaOHなどのアルカリ性のpH調整剤を排水に混合してもよく、微好気性状態の範囲で排水の曝気を行ってもよい。なお、メタン発酵の場合、排水の曝気および散気管は必ずしも必要でない。
【0095】
排水のpHを上げる工程は、処理槽本体内に排水のpHを検出するpHセンサを設け、検出されたpHが所定の基準値以下であることを条件として自動的に行うよう構成してもく、所定のタイミングで自動的に行ってもよく、手動により、所定の、または任意のタイミングで行ってもよい。
【0096】
以上、生物処理槽の製造方法の好ましい実施形態およびその変更例について詳細に説明を加えたが、上述の各実施形態にかかる製造方法は、従来の生物処理槽の活性汚泥に比して、生物処理速度を大幅に向上させた活性汚泥の製造方法としても有用である。この場合には、浸漬工程s4は不要である。
【0097】
また、本発明にかかる生物処理槽の製造方法は、洗濯排水を処理する生物処理槽や有機性排液排水をメタン発酵により処理する生物処理槽に限定されるものではない。たとえば食品工場以外の工場から排出される排水を処理する生物処理槽や、下水を処理する生物処理槽等についても、本発明にかかる製造方法により製造することができる。
【0098】
<付記>
各実施形態に記載の生物処理槽の製造方法は、たとえば以下のように把握される。
【0099】
(1)第1の態様に係る生物処理槽1の製造方法は、重イオンビームを照射した活性汚泥を、生物処理槽1内、より詳細には処理槽本体2内で、生物処理する排水に浸漬する浸漬工程s4を含んでいる。本態様および以下の各態様によれば、活性汚泥中の多様な微生物に遺伝子変異を起こすことができる。したがって、活性汚泥による生物処理の速度を大幅に向上することができる。
【0100】
(2)第2の態様に係る生物処理槽1の製造方法は、(1)の生物処理槽1の製造方法であって、重イオンビームの照射に先立って、馴致に用いる排水である馴致用排水により活性汚泥を馴致する第1馴致工程s1を含んでいる。
【0101】
(3)第3の態様に係る生物処理槽1の製造方法は、(1)または(2)の生物処理槽1の製造方法であって、活性汚泥を、生物処理する排水に浸漬する浸漬工程s4に先立って、重イオンビームを照射した活性汚泥を馴致に用いる排水である馴致用排水で馴致する第2馴致工程s3を含んでいる。
【0102】
(4)第4の態様に係る生物処理槽1の製造方法は、活性汚泥を、馴致に用いる排水である馴致用排水で馴致する第1馴致工程s1と、馴致した活性汚泥に重イオンビームを照射する照射工程s2と、重イオンビームを照射した活性汚泥を馴致用排水で馴致する工程s3と、重イオンビームを照射し、その後に馴致用排水で馴致した活性汚泥(換言すれば、工程s1~s3を経た活性汚泥)を、生物処理槽1内、より詳細には処理槽本体2内で、生物処理する排水に浸漬する浸漬工程s4を含んでいる。
【0103】
(5)第5の態様に係る生物処理槽1の製造方法は、(1)~(4)の生物処理槽1の製造方法であって、生物処理する排水が、洗濯排水である。
【0104】
(6)第6の態様に係る生物処理槽の製造方法は、(1)~(4)の生物処理槽の製造方法であって、生物処理する排水が、食品工場から排出された有機性排液である。
【0105】
(7)第7の態様に係る生物処理槽1の製造方法は、(4)の生物処理槽1の製造方法であって、照射工程s2において活性汚泥に照射される重イオンが、ヘリウム、炭素、窒素、ネオンおよびアルゴンの中から選択されるいずれか1つである。
【0106】
(8)第8の態様に係る生物処理槽1の製造方法は、(4)の生物処理槽1の製造方法であって、重イオンビームを照射する照射工程s2が、活性汚泥を水中に入れた状態で行われる。
【符号の説明】
【0107】
1 生物処理槽
2 処理槽本体
3 散気管
4 分離膜
s1 第1馴致工程
s2 照射工程
s3 第2馴致工程
s4 浸漬工程