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特開2024-142481テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板、テーラードブランクの製造方法、及び自動車部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142481
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板、テーラードブランクの製造方法、及び自動車部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/12 20060101AFI20241003BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20241003BHJP
   B23C 3/12 20060101ALI20241003BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20241003BHJP
   B21D 22/26 20060101ALI20241003BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20241003BHJP
   B23K 9/23 20060101ALI20241003BHJP
   B23K 10/02 20060101ALI20241003BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20241003BHJP
   B23K 26/322 20140101ALI20241003BHJP
   C22C 21/00 20060101ALN20241003BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20241003BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20241003BHJP
   C22C 38/54 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C23C2/12
C23C2/26
B23C3/12 Z
B21D22/20 H
B21D22/20 E
B21D22/26 D
B23K9/00 501C
B23K9/23 K
B23K10/02 A
B23K26/21 F
B23K26/322
C22C21/00 M
C22C21/02
C22C38/00 301T
C22C38/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054631
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】巽 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 徹
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
【テーマコード(参考)】
3C022
4E001
4E081
4E137
4E168
4K027
【Fターム(参考)】
3C022DD07
3C022DD11
4E001AA03
4E001CA01
4E001CC02
4E001DC01
4E081YC01
4E081YX02
4E081YX08
4E081YY16
4E137AA02
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC02
4E137BC07
4E137DA02
4E137DA03
4E137GB01
4E168BA13
4E168BA31
4E168BA83
4E168BA88
4K027AA05
4K027AA23
4K027AB13
4K027AB48
4K027AC86
4K027AE02
4K027AE03
(57)【要約】
【課題】溶接線に沿った機械特性のばらつきが抑制された溶接金属を製造可能なテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板、テーラードブランクの製造方法、及び自動車部品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の第一実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法は、中間アルミ系めっき鋼板の一部または全部の端部においてアルミ系めっき層の一部または全部をアルミ系めっき層の厚み方向に除去する工程と、中間アルミ系めっき鋼板の縁を切削又は研削する工程と、を備え、除去によって、第一めっき部と、めっき厚減少部と、第二めっき部とを形成し、切削又は研削によって、第一めっき部の幅を減少させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板及びアルミ系めっき層を有する中間アルミ系めっき鋼板の、一部または全部の端部において、前記中間アルミ系めっき鋼板の縁に沿って延在し且つ前記縁から離隔された領域の前記アルミ系めっき層の一部または全部を前記アルミ系めっき層の厚み方向に除去する工程と、
前記中間アルミ系めっき鋼板の前記縁を切削又は研削する工程と、
を備え、
前記除去によって、前記中間アルミ系めっき鋼板の前記縁に沿って延在し且つ前記縁に接する前記アルミ系めっき層である第一めっき部と、前記中間アルミ系めっき鋼板の前記縁に沿って延在し且つ前記縁から離隔されている、前記アルミ系めっき層の一部または全部が前記アルミ系めっき層の厚み方向に除去された前記領域であるめっき厚減少部と、前記中間アルミ系めっき鋼板の前記縁から離隔された前記アルミ系めっき層である第二めっき部とを形成し、
前記切削又は前記研削によって、前記第一めっき部の幅を減少させる
テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記除去、及び前記切削又は前記研削の前に、原材料アルミ系めっき鋼板を打ち抜き加工して前記中間アルミ系めっき鋼板を得る工程をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載のテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記切削又は前記研削を、前記除去の後で実施し、
前記除去の後、且つ前記切削又は前記研削の前に、
前記中間アルミ系めっき鋼板の前記第一めっき部の前記幅の指標値を測定する工程と、
前記測定によって得られた、前記中間アルミ系めっき鋼板の前記第一めっき部の前記幅の前記指標値に基づいて、前記第一めっき部の前記幅を、前記第一めっき部の延在方向に沿って所定範囲内にするための目標加工量を算出する工程と
をさらに備え、
前記目標加工量に基づいて、前記切削又は前記研削を実施する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記切削又は前記研削を、前記除去の前、又は前記除去の後に実施し、
前記切削又は前記研削の前に、
前記除去を模擬することにより、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板のサンプルを予備製造する工程と、
前記サンプルの第一めっき部の幅の指標値を測定する工程と、
前記測定によって得られた、前記サンプルの前記第一めっき部の前記幅の前記指標値に基づいて、前記第一めっき部の前記幅を、前記第一めっき部の延在方向に沿って所定範囲内にするための目標加工量を算出する工程と
をさらに備え、
前記目標加工量に基づいて、前記切削又は前記研削を実施する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
素地鋼板と、
前記素地鋼板の一方又は両方の表面に設けられた、第一めっき部及び第二めっき部を有するアルミ系めっき層と、
前記第一めっき部及び前記第二めっき部の間に設けられた、前記アルミ系めっき層の一部または全部が前記アルミ系めっき層の厚み方向に除去されているめっき厚減少部と、
を備えるテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板であって、
前記第一めっき部は、前記テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の縁に沿って延在し且つ前記縁に接する前記アルミ系めっき層であり、
前記めっき厚減少部は、前記縁に沿って延在し且つ前記縁から離隔されている、前記アルミ系めっき層の一部または全部が前記アルミ系めっき層の厚み方向に除去された領域であり、
前記第二めっき部は、前記縁から離隔された前記アルミ系めっき層であり、
前記テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の端面に、切削加工痕又は研削加工痕が設けられている
テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法によって、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板を製造する工程と、
前記テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板における、前記第一めっき部及び前記めっき厚減少部が設けられた端部と、他の鋼板の端部とを突合せ溶接する工程と、
を備えるテーラードブランクの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のテーラードブランクの製造方法によって、テーラードブランクを製造する工程と、
前記テーラードブランクをホットスタンプする工程と、
を備える自動車部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板、テーラードブランクの製造方法、及び自動車部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品の製造技術の一例として、ホットスタンプが挙げられる。ホットスタンプでは、鋼板を高温に加熱した状態でプレス成形し、次いで、プレス成形用金型を用いて成形品を急速に冷却する。成形品は、プレス圧が加えられた状態で冷却される。従って、ホットスタンプによれば、高強度かつ形状凍結性に優れた成形品が得られる。
【0003】
ホットスタンプに供される材料の一例として、アルミ系めっき鋼板が挙げられる。アルミ系めっき層は、鋼板の耐食性を高め、さらにホットスタンプの際の鋼板の表面酸化を防止する。従って、アルミ系めっき鋼板はホットスタンプ用鋼板として好適に使用可能である。
【0004】
また、ホットスタンプに供される材料の別の例として、テーラードブランクが挙げられる。テーラードブランクは、2枚以上の鋼板の端部を突合せ溶接することによって得られる、プレス用板状素材である。複数の鋼板の厚さ、成分、及び強度などの諸特性は相違していてもよい。従ってテーラードブランクによれば、一つのプレス成形品において、部位ごとに異なる板厚、成分、及び強度等を採用することができる。これにより、部品の機能性の向上、及び部品点数の削減などが実現する。
【0005】
ただし、アルミ系めっき鋼板を溶接してテーラードブランクを製造すると、溶接金属のAl濃度が高まり、溶接金属の機械特性が損なわれる場合がある。そこで、良好なテーラードブランク、又は良好なテーラードブランクを製造するための溶接方法に関し、様々な検討が行われている。
【0006】
例えば特許文献1には、シート金属ピースに溶接ノッチを形成する方法であって、(a)複数の材料層を有するシート金属ピースを提供すること、(b)アブレーショントレンチがシート金属ピースのエッジから間隔を置いて配置されるように、アブレーション経路に沿って少なくとも複数の材料層の一部を取り除くことによって、シート金属ピースに沿ってアブレーショントレンチを形成すること、(c)アブレーショントレンチに沿ってシート金属ピースを切断して溶接ノッチを形成することを含む方法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、2つのプレコートシートから溶接鋼ブランクを生産するための方法であって、熱間プレス成形及び冷却後に、溶接継手中の比較的高いアルミニウム含有量であっても、満足できるクラッシュ性能特性を有する部品を得ることを可能にする、方法が開示されている。
【0008】
特許文献3には、固定治具に保持された一対の被溶接部材の突合せ溶接に先行して、上記溶接ヘッド等に備える研削手段により上記一対の被溶接部材の対面する両端面を研削加工し、この後、上記固定治具は被溶接部材の少なくとも片側を可動して突合せ両端面の隙間を所定隙間に調節・固定した後、少なくとも一対の被溶接部材の溶接線を検出手段で検出しながら溶接ヘッドの位置制御とレーザ光線の出力制御を行って突合せ溶接を実行させるレーザ溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017-209733号公報
【特許文献2】特表2022-515425号公報
【特許文献3】特開2004-249305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、アルミ系めっき鋼板から製造されたテーラードブランクの溶接金属の機械特性が、その溶接線に沿って一様とならない場合があることを知見した。テーラードブランクの接合強度等を一層高める観点から、溶接金属の機械特性は、溶接線に沿って一様であることが好ましいと考えられた。
【0011】
特許文献1の技術では、コーティング材料層を溶接ノッチから取り除くことにより、コーティング材料層による溶接接合部の汚染を防止している。特許文献2の技術では、プレコーティングを溶接縁部から取り除くことにより、クラッシュ性能特性を高めている。しかしながら、溶接金属の機械特性がその溶接線に沿ってばらつく現象に関し、これら文献では何ら検討されていない。
【0012】
特許文献3の技術では、突合せ溶接される端面を平滑化することにより、溶接不良を回避している。しかし、特許文献3の技術では、鋼板のめっき層が溶接金属に及ぼす影響に関し、何ら検討されていない。
【0013】
そこで本発明は、溶接線に沿った機械特性のばらつきが抑制された溶接金属を製造可能なテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板、テーラードブランクの製造方法、及び自動車部品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0015】
(1)本発明の第一実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法は、素地鋼板及びアルミ系めっき層を有する中間アルミ系めっき鋼板の、一部または全部の端部において、前記中間アルミ系めっき鋼板の縁に沿って延在し且つ前記縁から離隔された領域の前記アルミ系めっき層の一部または全部を前記アルミ系めっき層の厚み方向に除去する工程と、前記中間アルミ系めっき鋼板の前記縁を切削又は研削する工程と、を備え、前記除去によって、前記中間アルミ系めっき鋼板の前記縁に沿って延在し且つ前記縁に接する前記アルミ系めっき層である第一めっき部と、前記中間アルミ系めっき鋼板の前記縁に沿って延在し且つ前記縁から離隔されている、前記アルミ系めっき層の一部または全部が前記アルミ系めっき層の厚み方向に除去された領域であるめっき厚減少部と、前記中間アルミ系めっき鋼板の前記縁から離隔された前記アルミ系めっき層である第二めっき部とを形成し、前記切削又は前記研削によって、前記第一めっき部の幅を減少させる。
(2)上記(1)に記載のテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法は、好ましくは、前記除去、及び前記切削又は前記研削の前に、原材料アルミ系めっき鋼板を打ち抜き加工して前記中間アルミ系めっき鋼板を得る工程をさらに備える。
(3)上記(1)又は(2)に記載のテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法は、好ましくは、前記切削又は前記研削を、前記除去の後で実施し、前記除去の後、且つ前記切削又は前記研削の前に、前記中間アルミ系めっき鋼板の前記第一めっき部の前記幅の指標値を測定する工程と、前記測定によって得られた、前記中間アルミ系めっき鋼板の前記第一めっき部の前記幅の前記指標値に基づいて、前記第一めっき部の前記幅を、前記第一めっき部の延在方向に沿って所定範囲内にするための目標加工量を算出する工程とをさらに備え、前記目標加工量に基づいて、前記切削又は前記研削を実施することを特徴とする。
(4)上記(1)~(3)の何れか一項に記載のテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法は、好ましくは、前記切削又は前記研削を、前記除去の前、又は前記除去の後に実施し、前記切削又は前記研削の前に、前記除去を模擬することにより、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板のサンプルを予備製造する工程と、前記サンプルの第一めっき部の幅の指標値を測定する工程と、前記測定によって得られた、前記サンプルの前記第一めっき部の前記幅の前記指標値に基づいて、前記第一めっき部の前記幅を、前記第一めっき部の延在方向に沿って所定範囲内にするための目標加工量を算出する工程とをさらに備え、前記目標加工量に基づいて、前記切削又は前記研削を実施する。
【0016】
(5)本発明の第二実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板は、素地鋼板と、前記素地鋼板の一方又は両方の表面に設けられた、第一めっき部及び第二めっき部を有するアルミ系めっき層と、前記第一めっき部及び前記第二めっき部の間に設けられた、前記アルミ系めっき層の一部または全部が前記アルミ系めっき層の厚み方向に除去されているめっき厚減少部と、を備えるテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板であって、前記第一めっき部は、前記テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の縁に沿って延在し且つ前記縁に接する前記アルミ系めっき層であり、前記めっき厚減少部は、前記縁に沿って延在し且つ前記縁から離隔されている、前記アルミ系めっき層の一部または全部が前記アルミ系めっき層の厚み方向に除去された領域であり、前記第二めっき部は、前記縁から離隔された前記アルミ系めっき層であり、前記テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の端面に、切削加工痕又は研削加工痕が設けられている。
【0017】
(6)本発明の第三実施形態に係るテーラードブランクの製造方法は、上記(1)~(4)の何れか一項に記載のテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法によって、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板を製造する工程と、前記テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板における、前記第一めっき部及び前記めっき厚減少部が設けられた端部と、他の鋼板の端部とを突合せ溶接する工程と、を備える。
【0018】
(7)本発明の第四実施形態に係る自動車部品の製造方法は、上記(6)に記載のテーラードブランクの製造方法によって、テーラードブランクを製造する工程と、前記テーラードブランクをホットスタンプする工程と、を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、溶接線に沿った機械特性のばらつきが抑制された溶接金属を製造可能なテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板、テーラードブランクの製造方法、及び自動車部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】中間アルミ系めっき鋼板の縁を切削する工程の一例の、概略的な斜視図である。
図2】打ち抜きによって製造された中間アルミ系めっき鋼板の縁の一例の、アルミ系めっき層の除去が実施される前の段階における断面概略図である。
図3】打ち抜きによって製造された中間アルミ系めっき鋼板の縁の一例の、アルミ系めっき層の除去が実施された後の段階における断面概略図である。
図4】中間アルミ系めっき鋼板の縁を切削する工程の一例の、概略的な平面図である。
図5】中間アルミ系めっき鋼板の縁を切削する工程の一例の、概略的な平面図である。
図6】測定工程及び算出工程を備える製造方法の一例のフローチャートである。
図7】予備製造工程、測定工程及び算出工程を備える製造方法の一例のフローチャートである。
図8】切削加工痕の一例である。
図9】切削加工痕の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(1.テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの製造方法)
本発明の第一実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの製造方法は、図1等に示されるように、素地鋼板11及びアルミ系めっき層12を有する中間アルミ系めっき鋼板1Bの、一部または全部の端部14において、中間アルミ系めっき鋼板1Bの縁141に沿って延在し且つ縁141から離隔された領域のアルミ系めっき層12の一部または全部をアルミ系めっき層12の厚み方向に除去する工程と、中間アルミ系めっき鋼板1Bの縁141を切削又は研削する工程と、を備え、除去によって、中間アルミ系めっき鋼板1Bの縁141に沿って延在し且つ縁141に接するアルミ系めっき層12である第一めっき部121と、中間アルミ系めっき鋼板1Bの縁141に沿って延在し且つ縁141から離隔されている、アルミ系めっき層12の一部または全部がアルミ系めっき層12の厚み方向に除去された領域であるめっき厚減少部13と、中間アルミ系めっき鋼板1Bの縁141から離隔されたアルミ系めっき層12である第二めっき部122とを形成し、切削又は研削によって、第一めっき部121の幅を減少させる。以下、第一実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの製造方法について詳細に説明する。
【0022】
以下、図6等のフローチャートに示されるように、説明の便宜のために、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aを「最終アルミ系めっき鋼板1A」と称する場合がある。また、アルミ系めっき層12の除去、及び縁141の切削又は研削が完了する前のアルミ系めっき鋼板を、「中間アルミ系めっき鋼板1B」と称する場合がある。
【0023】
中間アルミ系めっき鋼板1B、及び最終アルミ系めっき鋼板1Aのいずれも、素地鋼板11とアルミ系めっき層12とを有する。アルミ系めっき層12は、素地鋼板11の一方又は両方の表面に設けられる。素地鋼板11は、例えばホットスタンプ用の薄鋼板である。アルミ系めっき層12とは、アルミニウムを50質量%以上含むめっき層である。アルミ系めっき層12が、Si等の合金元素を含んでいてもよい。また、アルミ系めっき層12の一部または全部が、素地鋼板11から拡散したFeによって合金化された金属間化合物層を有していてもよい。
【0024】
(アルミ系めっき層12を除去する工程)
第一実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの製造方法は、アルミ系めっき層12の一部または全部をアルミ系めっき層12の厚み方向に除去する工程を有する。「アルミ系めっき層12の一部をアルミ系めっき層12の厚み方向に除去する」とは、アルミ系めっき層12を浅く除去し、これによりアルミ系めっき層12の一部を残存させることを意味する。「アルミ系めっき層12の全部をアルミ系めっき層12の厚み方向に除去する」とは、アルミ系めっき層12を深く除去し、これによりアルミ系めっき層12を完全に除去して、素地鋼板11を露出させることを意味する。除去手段の例は、切削、研削、及びレーザ照射等である。アルミ系めっき層12が中間アルミ系めっき鋼板1Bの両方の表面に設けられている場合、一方又は両方の表面におけるアルミ系めっき層12を除去する。
【0025】
アルミ系めっき層12は、中間アルミ系めっき鋼板1Bの一部又は全部の端部14において除去される。突合せ溶接される予定の端部14において、アルミ系めっき層12が除去されていれば、最終アルミ系めっき鋼板1Aを素材として用いたテーラードブランクの溶接金属のAl濃度を低減させることができる。従って、最終アルミ系めっき鋼板1Aの用途に応じて、アルミ系めっき層12が除去される端部14を選択することが好ましい。なお、「鋼板の端部14」とは、鋼板の縁141、及びその近傍を含む領域を意味する。鋼板の縁141とは、鋼板を厚さ方向に沿って平面視したときの縁のことである。「鋼板の全部の端部」とは、鋼板を厚さ方向に沿って平面視したときの全周にわたる縁の近傍領域のことである。「鋼板の一部の端部」とは、鋼板を厚さ方向に沿って平面視したときの縁の一部の近傍領域のことである。
【0026】
最終アルミ系めっき鋼板1Aの端部14に設けられたアルミ系めっき層12は、突合せ溶接の際に溶融池に混入する。溶融池が凝固して形成される溶接金属のAl濃度が過剰に高くなると、溶接金属の靭性が損なわれるおそれがある。従って第一実施形態に係る製造方法では、突合せ溶接される予定の端部14において、一部のアルミ系めっき層12を除去する。一方、本発明者らの知見によれば、溶接金属に混入した微量のAlは、溶接金属の耐食性を向上させる。従って第一実施形態に係る製造方法では、突合せ溶接される予定の端部14において、若干のアルミ系めっき層12を残存させる。具体的には、縁141に沿って延在し、且つ縁141から離隔された領域において、アルミ系めっき層12の一部または全部をアルミ系めっき層12の厚み方向に除去する。アルミ系めっき層12の除去により、中間アルミ系めっき鋼板1Bの表面には、縁に近い順に、第一めっき部121、めっき厚減少部13、及び第二めっき部122が形成される。
【0027】
(第一めっき部121)
第一めっき部121は、中間アルミ系めっき鋼板1B(又は最終アルミ系めっき鋼板1A)の縁141に沿って延在し、且つ縁141に接するアルミ系めっき層12である。第一めっき部121は、テーラードブランクの溶接金属に取り込まれ、溶接金属のAl含有量を増大させる。第一めっき部121の幅(即ち、平面視において縁141に垂直な方向で測定される第一めっき部121のサイズ)が大きいほど、溶接金属のAl含有量は高くなる。溶接金属に求められる成分等に応じて、第一めっき部121の幅を適宜選択することができる。
【0028】
(めっき厚減少部13)
めっき厚減少部13は、中間アルミ系めっき鋼板1B(又は最終アルミ系めっき鋼板1A)の縁141に沿って延在し且つ縁141から離隔されている、アルミ系めっき層12の一部または全部がアルミ系めっき層12の厚み方向に除去された領域である。
【0029】
なお、めっき厚減少部13において、アルミ系めっき層12がその厚さ方向全体にわたって除去されていてもよい。この場合、めっき厚減少部13では素地鋼板11が露出する。素地鋼板11が露出しためっき厚減少部13は、溶接金属のAl含有量を増大させる働きを有しない。一方、めっき厚減少部13において、アルミ系めっき層12がその厚さ方向の一部のみにおいて除去されていてもよい。即ち、めっき厚減少部13において、アルミ系めっき層12における表面に近い領域のみが除去され、素地金属に近い部分が残されていてもよい。例えば、金属間化合物層がめっき厚減少部13に残存していてもよい。この場合、めっき厚減少部13では素地鋼板11が露出せず、めっき厚減少部13は、溶接金属のAl含有量を若干増大させる。しかしながら、第一めっき部121及び第二めっき部122と比較すると、めっき厚減少部13が溶接金属のAl含有量に及ぼす影響は小さい。溶接金属に求められる成分等に応じて、めっき厚減少部13においてAl系めっき層を除去する深さを適宜選択することができる。
【0030】
溶接金属のAl量の大きな上昇が許容される場合は、めっき厚減少部13の全部が溶接金属に取り込まれるように、めっき厚減少部13の幅(即ち、平面視において縁141に垂直な方向で測定されるめっき厚減少部13のサイズ)を小さくしてもよい。この場合、めっき厚減少部13に隣接する第二めっき部122の一部も、溶接金属に取り込まれる。これにより、溶接金属の止端付近の耐食性が高められる。一方、溶接金属のAl量を低い水準に保つことが求められる場合は、めっき厚減少部13の一部のみが溶接金属に取り込まれるように、めっき厚減少部13の幅を大きくしてもよい。この場合、第二めっき部122がめっき厚減少部13によって溶接金属から離隔される。溶接金属に求められる成分及び幅、並びに溶接金属の止端の周辺に求められる耐食性等に応じて、めっき厚減少部13の幅を適宜選択することができる。
【0031】
(第二めっき部122)
第二めっき部122は、中間アルミ系めっき鋼板1B(又は最終アルミ系めっき鋼板1A)における、めっき厚減少部13が設けられた縁141から離隔されたアルミ系めっき層12である。第二めっき部122は、テーラードブランクの溶接金属にほとんど取り込まれないか、又は全く取り込まれない。なお、めっき厚減少部13が設けられていない縁141、即ち溶接されない縁141に第二めっき部122が接することは許容される。第二めっき部122は、中間アルミ系めっき鋼板1B(又は最終アルミ系めっき鋼板1A)の表面の大半を占めて、耐食性の向上及びスケール発生の抑制等の、様々な作用効果を発揮することができる。一方、最終アルミ系めっき鋼板1Aの用途に応じて、第二めっき部122が別のめっき厚減少部を有していてもよい。
【0032】
(縁141を切削又は研削する工程)
第一実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの製造方法は、図1に例示されるように、中間アルミ系めっき鋼板1Bの縁141を切削又は研削する工程を有する。後述するように、切削又は研削は、アルミ系めっき層12の除去の前に行われても、後に行われてもよい。
【0033】
切削又は研削は、少なくとも、アルミ系めっき層12が除去される端部14における縁141に対して行われればよい。切削又は研削は、第一めっき部121の幅を制御して、溶融池に取り込まれるAl量を制御するために行われる。従って、切削又は研削によって、第一めっき部121の幅を減少させる必要がある。切削及び研削を併用してもよい。生産効率を一層向上させる観点からは、縁141は切削されることが好ましい。
【0034】
第一めっき部121の幅を減少させることができる限り、最終アルミ系めっき鋼板1Aの開先形状を自由に選択することができる。一般に、薄鋼板であるホットスタンプ用鋼板の縁141には開先加工が行われないことが通常であるが、溶接作業性等を改善する観点から、種々の開先を形成してもよい。例えば切削又は研削を、縁141の厚さ方向の全体にわたって行って、I形開先を形成してもよい。一方、Al系めっき層が鋼板の上側の表面にのみ設けられている場合、中間アルミ系めっき鋼板1Bの厚さ方向に沿って上側のみを切削してもよい。これにより、中間アルミ系めっき鋼板1Bの縁141(即ち開先面)は階段状となる。また、エンドミルE等のツールを鋼板の縁141に対して斜めに接触させることにより、切削又は研削の後の縁141(開先面)を、鋼板の表面に対して斜めにしてもよい。これにより、V形開先及びレ形開先等を形成することができる。なお、図1においてはエンドミルEの回転軸を板厚方向と一致させて、エンドミルEの側面の刃を用いて切削をしている。しかしながら、エンドミルEの回転軸を板厚方向と垂直な方向に一致させて、エンドミルEの縁の刃を用いて切削をしてもよい。
【0035】
(作用効果)
第一実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法によれば、第一めっき部121及びめっき厚減少部13が形成される。めっき厚減少部13は、テーラードブランクの溶接金属が、過剰な量のAlによって脆化することを防止する効果を有する。ただし、溶接金属に若干のAlを含有させることにより、溶接金属の耐食性が向上する効果が得られる。第一めっき部121は、溶接金属を脆化させない範囲内で溶接金属のAl含有量を高め、これにより、溶接金属の耐食性を向上させる効果を有する。
【0036】
しかし、第一めっき部121の幅が一様ではない場合、溶接金属に混入するAl量が、溶接線に沿って不均一となる。これにより、溶接金属の機械特性が溶接線に沿って不均一となるおそれがある。第一めっき部121の幅は様々な要因で変動する。しかしながら、本発明者らが検討した結果、第一めっき部121の幅の寸法公差(幅の最大値と最小値との差)を小さくする必要があることがわかった。第一めっき部121の幅の寸法公差は、例えば、第一めっき部121の平均幅に対して、90%以下、60%以下、又は30%以下とされることが好ましい。例えば、第一めっき部121の平均幅が100μmであり、第一めっき部121の幅の寸法公差が第一めっき部121の平均幅に対して30%以下の場合、第一めっき部121の幅の寸法公差は、-30~+30μmであり、70~130μmの範囲で第一めっき部121の幅が制御されている。
【0037】
そこで、第一実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法では、縁141を切削又は研削して、第一めっき部121の幅を減少させる。特に好ましくは、第一めっき部121の幅が平均より広い箇所において、縁141を切削又は研削する。これにより、第一めっき部121の幅を精密に制御することが可能となる。第一実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の製造方法によれば、第一めっき部121の幅が所定範囲内に制御されたテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板を製造可能である。このようなテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板からは、溶接金属の機械特性が溶接線に沿って均一化されたテーラードブランクを容易に製造可能である。
【0038】
以上、第一実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの製造方法の、最も基本的な態様について説明した。以下、一層好ましい態様について説明する。
【0039】
(中間アルミ系めっき鋼板1Bの製造方法)
第一実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの製造方法が、上述した除去、及び切削又は研削の前に、中間アルミ系めっき鋼板1Bを製造する工程を備えてもよい。中間アルミ系めっき鋼板1Bの製造方法は特に限定されない。例えば、アルミ系めっき鋼帯等の十分な大きさを有するアルミ系めっき鋼板から中間アルミ系めっき鋼板1Bを切り出すことにより、中間アルミ系めっき鋼板1Bを製造可能である。以下、説明の便宜のために、中間アルミ系めっき鋼板1Bの材料となるアルミ系めっき鋼板を「原材料アルミ系めっき鋼板」と称する場合がある。
【0040】
原材料アルミ系めっき鋼板から中間アルミ系めっき鋼板1Bを切り出すための好適な手段の一例は、レーザ加工である。これにより、中間アルミ系めっき鋼板1Bの縁141の寸法精度を高めることができる。
【0041】
原材料アルミ系めっき鋼板から中間アルミ系めっき鋼板1Bを切り出すための好適な手段の別の例は、打ち抜き加工である。打ち抜き加工の例としては、シャーリング加工やブランキング加工が挙げられる。打ち抜き加工は、短時間で実施可能であるので、中間アルミ系めっき鋼板1Bの製造効率を高めることができる。また、打ち抜き加工によれば、第一めっき部121の形成が一層容易となる。なぜなら、打ち抜き加工によって、中間アルミ系めっき鋼板1Bの端部14にダレを形成することができるからである。ダレとは、工具などを押し込むことによって生じた材料の引けのことである。
【0042】
ダレを用いた第一めっき部121の形成方法の一例を、図2及び図3に示す。図2は、シャーを用いて原材料アルミ系めっき鋼板を打ち抜いて得られた中間アルミ系めっき鋼板1Bの端部14の断面図である。図2の断面図において、中間アルミ系めっき鋼板1Bの端部14の一方の表面には、他方の表面に向けて押し込まれて凹んだ部位が形成される。この凹部がダレである。なお、ダレが形成された表面と反対側の表面には、カエリ、又はバリと称される凸部が形成される。
【0043】
図2に示される中間アルミ系めっき鋼板1Bの端部14の表面を、エンドミルE等を用いて切削すると、図3に示されるような断面構造が得られる。図3に示される端部14においては、ダレに付着していたアルミ系めっき層12が残存する一方で、ダレがない部分のアルミ系めっき層12は除去されている。このように、打ち抜き加工によってダレが形成された中間アルミ系めっき鋼板1Bの端部14においては、第一めっき部121及びめっき厚減少部13を、極めて容易に形成可能である。
【0044】
ただし、打ち抜き加工によって形成された縁141は、図4に示されるように、平面視において正確な直線形状とはならない場合がある。この場合、図4に示されるように、第一めっき部121の幅が一様にならない。また、打ち抜き加工によって形成されたダレの深さもまた、縁141に沿って一様にはならない場合がある。この場合も、図5に示されるように、第一めっき部121の幅が一様にならない。しかし、いずれの場合においても、縁141を切削又は研削することにより、第一めっき部121の幅を所定範囲内にすることができる。
【0045】
(測定工程及び算出工程)
テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの製造方法が、図6のフローチャートに例示されるように、アルミ系めっき層12の除去の後、且つ縁141の切削又は研削の前に、第一めっき部121の幅の指標値を測定する工程と、切削又は研削における目標加工量を算出する工程とを備えてもよい。この場合、縁141の切削又は研削は、アルミ系めっき層12の除去の後に行われる。
【0046】
測定工程においては、第一めっき部121の幅の指標値を測定する。幅の指標値、及び幅の指標値の測定方法は、適宜選択することができる。例えば、めっき厚減少部13において素地鋼板11が露出している場合、めっき厚減少部13と第一めっき部121との境界は、肉眼によって容易に視認することが可能である。従って、市販されているカメラを用いて第一めっき部121を撮影し、撮像画像を市販のソフトウェアによって解析することにより、第一めっき部121の幅の指標値を測定可能である。また、端部14のX線画像を撮影することにより、第一めっき部121の幅の指標値を一層高精度に測定することもできる。めっき厚減少部13において素地鋼板11が露出していない場合は、めっき厚減少部13と第一めっき部121との境界の段差を、光学顕微鏡を用いて撮像することにより、第一めっき部121の幅の指標値を測定することができる。一層好ましくは、測定工程において、第一めっき部121の幅の指標値のみならず位置情報も取得される。
【0047】
算出工程においては、測定によって得られた幅の指標値に基づいて、第一めっき部121の幅を、第一めっき部121の延在方向に沿って所定範囲内にするための目標加工量を算出する。目標加工量の算出方法は特に限定されない。切削又は研削を行うための装置において利用可能なデータを作成するための、種々の方法を採用することができる。一層好ましくは、算出工程において、第一めっき部121の幅のみならず位置情報も考慮して、目標加工量を算出する。
【0048】
目標加工量を算出した場合、切削又は研削を、目標加工量に基づいて実施する。例えば、エンドミルEを用いて縁141を切削する場合、目標加工量が達成されるようにエンドミルEを移動させる。これにより、第一めっき部121の幅を、きわめて精密に制御することができる。測定工程及び算出工程は、打ち抜き加工によって製造された、ダレを有する中間アルミ系めっき鋼板1Bが用いられる場合に、特に有効である。
【0049】
(予備製造工程)
図6に例示される製造方法では、除去工程で形成された第一めっき部121の幅の指標値を測定し、この測定値に基づいて切削又は研削が行われる。一方、予備製造においてテストサンプルを作製して、良好な第一めっき部121を製造可能な目標加工量を算出しておくこともできる。これにより、実製造において測定工程を省略し、予備製造によって得られた目標加工量を利用して切削又は研削をすることができる。
【0050】
例えば図7のフローチャートに示されるように、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの製造方法が、切削又は研削の前に、除去を模擬することによりテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板のサンプルを予備製造する工程と、サンプルの第一めっき部121の幅の指標値を測定する工程と、測定によって得られた、サンプルの第一めっき部121の幅の指標値に基づいて、第一めっき部121の幅を、第一めっき部121の延在方向に沿って所定範囲内にするための目標加工量を算出する工程とをさらに備えてもよい。この場合、目標加工量に基づいて、切削又は研削を実施してもよい。また、この場合、アルミ系めっき層12の除去を切削又は研削の後で行ってもよい。
【0051】
まず、切削又は研削の前に、目標加工量の算出のために用いられるサンプルを作製する。サンプルは、実際に製造しようとする最終アルミ系めっき鋼板1Aを模擬したものとされる。そのため、実際に製造しようとする最終アルミ系めっき鋼板1Aと同じ中間アルミ系めっき鋼板1Bに対して、実際に製造しようとする最終アルミ系めっき鋼板1Aに対して適用予定の除去方法と同じ条件で、アルミ系めっき層12を除去する。中間アルミ系めっき鋼板1Bが、原材料アルミ系めっき鋼板を打ち抜いて製造されたものである場合は、サンプル及び中間アルミ系めっき鋼板1Bの両方に対して、同じ打ち抜き工具を使用することが望ましい。当然のことながら、サンプルには、縁141に沿って延在し且つ縁141に接するアルミ系めっき層12である第一めっき部121と、縁141に沿って延在し且つ縁141から離隔されている、アルミ系めっき層12が除去された領域であるめっき厚減少部13と、縁141から離隔されたアルミ系めっき層12である第二めっき部122とが形成される。
【0052】
次に、測定工程において、サンプルの第一めっき部121の幅の指標値を測定する。図5を挙げて説明した製造方法の測定工程に関する諸態様を、サンプルに関する測定工程にも適用することができる。
【0053】
算出工程においては、測定によって得られたサンプルの第一めっき部121の幅の指標値に基づいて、第一めっき部121の幅を、第一めっき部121の延在方向に沿って所定範囲内にするための目標加工量を算出する。図5を挙げて説明した製造方法の算出工程に関する諸態様を、サンプルを用いた算出工程にも適用することができる。
【0054】
上述の手順により得られた目標加工量に従って、サンプルの縁141を切削又は研削することにより、最終アルミ系めっき鋼板1Aが得られる。また、当該目標加工量は、当該サンプルのみならず、当該サンプルに対応する中間アルミ系めっき鋼板1Bの切削又は研削のために用いることもできる。
【0055】
中間アルミ系めっき鋼板1Bの縁141の形状は、正確度(即ち、設計形状との一致の程度)が低い場合がある。一方、中間アルミ系めっき鋼板1Bの縁141の形状の精度(即ち、複数個の鋼板の縁141の間でのばらつきの小ささの尺度)は比較的高い。即ち、縁141形状の再現度は比較的高い。同様に、アルミ系めっき層12の除去に関しても、正確度が低い場合がある一方で、精度は比較的高い。即ち、めっき除去部の形状の再現度は比較的高い。
【0056】
上述の通り、第一めっき部121の幅は、延在方向に沿って一様にはならないことがある。これは、縁141の形状の正確度、及び/又はアルミ系めっき層12の除去の正確度が低くなりやすいことに起因する。特に、打ち抜きによって中間アルミ系めっき鋼板1Bを製造した場合、縁141の形状と設計形状との差は大きくなりやすい。一方、同一の設備によって製造された複数個の第一めっき部121の形状は、互いに一致することが多い。従って、サンプルに関して得られた目標加工量を、他の中間アルミ系めっき鋼板1Bの切削又は研削に適用することができる。また、当該目標加工量を、向きを揃えて重ねた複数枚の中間アルミ系めっき鋼板1Bの切削又は研削に適用することもできる。
【0057】
予めサンプルを用いて得られた目標加工量を切削又は研削において用いる場合、アルミ系めっき層12の除去は、切削又は研削の前に行われてもよいし、後に行われてもよい。上述のように、アルミ系めっき層12の除去の精度は高く、したがって、めっき除去部の形状の再現度は高いことが多い。従って、除去に先立って切削又は研削を行い、縁141の形状を調整してからアルミ系めっき層12を除去することによっても、第一めっき部121の幅を減少させて、好ましい効果を得ることができる。
【0058】
(2.テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1A)
本発明の第二実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aは、素地鋼板11と、素地鋼板11の一方又は両方の表面に設けられた、第一めっき部121及び第二めっき部122を有するアルミ系めっき層12と、第一めっき部121及び第二めっき部122の間に設けられた、アルミ系めっき層12の一部または全部がアルミ系めっき層12の厚み方向に除去されているめっき厚減少部13と、を備え、第一めっき部121は、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの縁141に沿って延在し且つ縁141に接するアルミ系めっき層12であり、めっき厚減少部13は、縁141に沿って延在し且つ縁141から離隔されている、アルミ系めっき層12の一部または全部がアルミ系めっき層12の厚み方向に除去された領域であり、第二めっき部122は、縁141から離隔されたアルミ系めっき層12であり、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板の端面1411に、切削加工痕15又は研削加工痕が設けられている。
【0059】
以下、第二実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aについて詳細に説明する。なお、第二実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの作用効果は、第一実施形態に係る製造方法において説明された作用効果と同一であるので、その説明を省略する。また、第一実施形態に係る製造方法において説明された好適な態様を、第二実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aに適用することができる。
【0060】
(素地鋼板11及びアルミ系めっき層12)
第二実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1A(最終アルミ系めっき鋼板1A)は、素地鋼板11と、素地鋼板11の一方又は両方の表面に設けられたアルミ系めっき層12とを有する。素地鋼板11は、例えばホットスタンプ用の薄鋼板である。アルミ系めっき層12とは、アルミニウムを50質量%以上含むめっき層である。アルミ系めっき層12が、Si等の合金元素を含んでいてもよい。また、アルミ系めっき層12の一部または全部が、素地鋼板11から拡散したFeによって合金化された金属間化合物層を有していてもよい。
【0061】
(第一めっき部121、第二めっき部122、及びめっき厚減少部13)
アルミ系めっき層12は、第一めっき部121及び第二めっき部122を有する。また、第一めっき部121及び第二めっき部122の間には、アルミ系めっき層12の一部または全部がアルミ系めっき層12の厚み方向に除去されているめっき厚減少部13が設けられている。
【0062】
第一めっき部121は、最終アルミ系めっき鋼板1Aの縁141に沿って延在し、且つ縁141に接するアルミ系めっき層12である。第二めっき部122は、最終アルミ系めっき鋼板1Aにおける、めっき厚減少部13が設けられた縁141から離隔されたアルミ系めっき層12である。めっき厚減少部13が設けられていない縁141、即ち溶接されない縁141に第二めっき部122が接することは許容される。
【0063】
めっき厚減少部13は、最終アルミ系めっき鋼板1Aの縁141に沿って延在し且つ縁141から離隔されている、アルミ系めっき層12の一部または全部がアルミ系めっき層12の厚み方向に除去された領域である。めっき厚減少部13において、アルミ系めっき層12がその厚さ方向全体にわたって除去されていてもよい。この場合、めっき厚減少部13では素地鋼板11が露出する。一方、めっき厚減少部13において、アルミ系めっき層12がその厚さ方向の一部のみにおいて除去されていてもよい。即ち、アルミ系めっき層12のうち表面に近い領域のみが除去され、素地金属に近い部分が残されていてもよい。例えば、金属間化合物層がめっき厚減少部13に残存していてもよい。
【0064】
(切削加工痕15又は研削加工痕)
テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの端面1411には、切削加工痕15又は研削加工痕が設けられている。鋼板の端面1411とは、鋼板の縁141に位置する鋼板の側面のことである。切削加工痕15の例は、図8及び図9に示されるような、規則的に配された線状痕151である。研削加工痕の例は、一方向に向かって延在する摩耗痕である。テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの端面1411を肉眼、又は顕微鏡で観察することにより、切削加工痕15又は研削加工痕の有無を容易に判別することができる。切削加工痕15又は研削加工痕は、中間アルミ系めっき鋼板1Bの縁141の切削加工又は研削加工によって、形成される。切削加工又は研削加工の例は、上述された、第一実施形態に係る製造方法が備える切削又は研削工程である。なお、第一実施形態に係る製造方法において説明されたように、切削加工痕15又は研削加工痕が、端面1411の厚さ方向の全域にわたって設けられていてもよい。一方、切削加工痕15又は研削加工痕が、端面1411の厚さ方向の一部のみに設けられていてもよい。
【0065】
(作用効果)
第二実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aは、第一めっき部121及びめっき厚減少部13を有する。めっき厚減少部13は、テーラードブランクの溶接金属が、過剰な量のAlによって脆化することを防止する効果を有する。ただし、溶接金属に若干のAlを含有させることにより、溶接金属の耐食性が向上する効果が得られる。第一めっき部121は、溶接金属を脆化させない範囲内で溶接金属のAl含有量を高め、これにより、溶接金属の耐食性を向上させる効果を有する。
【0066】
しかし、第一めっき部121の幅が一様ではない場合、溶接金属に混入するAl量が、溶接線に沿って不均一となる。これにより、溶接金属の機械特性が溶接線に沿って不均一となるおそれがある。
【0067】
そこで、第二実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aは、縁141に切削加工痕15又は研削加工痕を有する。即ち、第二実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの縁141に沿って設けられた第一めっき部121の幅は、切削加工又は研削加工によって減少されている。これにより、第一めっき部121の幅を精密に制御することが可能となる。第二実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aによれば、溶接金属の機械特性が溶接線に沿って均一化されたテーラードブランクを容易に製造可能である。
【0068】
(3.テーラードブランクの製造方法)
本発明の第三実施形態に係るテーラードブランクの製造方法は、第一実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの製造方法によって、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aを製造する工程と、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aにおける、第一めっき部121及びめっき厚減少部13が設けられた端部14と、他の鋼板の端部14とを突合せ溶接する工程と、を備える。
【0069】
第三実施形態に係るテーラードブランクの製造方法では、まず、第一実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの製造方法によって、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aを製造する。テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの一例は、第二実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aである。テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aは、素地鋼板11と、素地鋼板11の一方又は両方の表面に設けられた、第一めっき部121及び第二めっき部122を有するアルミ系めっき層12と、第一めっき部121及び第二めっき部122の間に設けられた、アルミ系めっき層12の一部または全部がアルミ系めっき層12の厚み方向に除去されているめっき厚減少部13と、を備える。また、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの縁141は、第一めっき部121の幅を減少させるように、切削又は研削されている。
【0070】
次に、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの端部14と、他の鋼板の端部14とを突合せ溶接する。他の鋼板も、第一実施形態に係る製造方法によって得られたテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aとすることができる。突合せ溶接においては、第一めっき部121及びめっき厚減少部13が設けられた端部14を、溶接対象とする。突合せ溶接の方法は特に限定されず、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの板厚に応じた種々の溶接手段を採用することができる。突合せ溶接は、例えば突合せレーザ溶接、及び突合せアーク溶接などである。フィラーワイヤなどの溶加材を用いて、溶接金属の成分を一層好適に制御してもよい。
【0071】
(作用効果)
第三実施形態に係るテーラードブランクの製造方法によれば、テーラードブランクの溶接金属が、過剰な量のAlによって脆化することを防止することができる。一方、第一めっき部121は、溶接金属を脆化させない範囲内で溶接金属のAl含有量を高める。従って、これにより、テーラードブランクの溶接金属は、高い耐食性を有する。
【0072】
なお、第一めっき部121の幅が一様ではない場合、溶接金属に混入するAl量が、溶接線に沿って不均一となる。これにより、溶接金属の機械特性が溶接線に沿って不均一となるおそれがある。しかし、第三実施形態に係るテーラードブランクの製造方法によれば、縁141を切削又は研削して、第一めっき部121の幅を減少させた鋼板に対して溶接が行われる。これにより、溶接金属の機械特性が溶接線に沿って均一化されたテーラードブランクを容易に製造可能である。
【0073】
(4.自動車部品の製造方法)
本発明の第四実施形態に係る自動車部品の製造方法は、第三実施形態に係るテーラードブランクの製造方法によって、テーラードブランクを製造する工程と、テーラードブランクをホットスタンプする工程と、を備える。ホットスタンプの条件は特に限定されず、テーラードブランクの板厚等に応じた条件を適宜採用することができる。第三実施形態に係るテーラードブランクの製造方法によって得られたテーラードブランクの溶接金属は、過剰な量のAlによる脆化が抑制されており、かつ、適切な量のAlによって耐食性が向上されている。加えて、溶接金属の溶接線方向に沿った機械特性は均一化されている。従って、第四実施形態に係る製造方法によって得られた自動車部品は、優れた耐食性及び機械特性を有する。
【0074】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。以下に、本実施形態に係るテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの製造方法、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1A、テーラードブランクの製造方法、及び自動車部品の製造方法の一層好適な例について説明する。なお、特に断りが無い限り、以下に挙げる態様はいずれの実施形態にも適用可能である。
【0075】
(素地鋼板11)
素地鋼板11は、熱間圧延工程、冷間圧延工程、めっき工程等を含む通常の方法により得られたものであればよく、特に限定されるものではない。素地鋼板11は熱延鋼板または冷延鋼板のいずれでもよい。また、素地鋼板11の厚みは目的に応じた厚みとすればよく、特に限定されるものではない。例えば、素地鋼板11の厚みは、アルミニウム系めっき層を設けた後且つめっき厚減少部13が形成される前の中間アルミ系めっき鋼板1B全体の厚みとして、0.8mm以上となるような厚みでもよく、さらに、1mm以上となるような厚みでもよい。また、素地鋼板11の厚みは、4mm以下となるような厚みでもよく、さらに3mm以下となるような厚みでもよい。当該厚さが、最終アルミ系めっき鋼板1A、及びテーラードブランクに適用されてもよい。
【0076】
素地鋼板11の化学成分は特に限定されないが、例えば質量%で、C:0.02%~0.58%、Mn:0.20%~3.00%、Al:0.005%~0.20%、Ti:0%~0.20%、Nb:0%~0.20%、V:0%~1.0%、W:0%~1.0%、Cr:0%~1.0%、Mo:0%~1.0%、Cu:0%~1.0%、Ni:0%~1.0%、B:0%~0.0100%、Mg:0%~0.05%、Ca:0%~0.05%、REM:0%~0.05%、Bi:0%~0.05%、Si:0%~2.00%、P:0.03%以下、S:0.010%以下、N:0.010%以下、並びに残部:Feおよび不純物からなる化学組成を有することが好ましい。
【0077】
(アルミ系めっき層12)
アルミ系めっき層12は、素地鋼板11の片面又は両面に形成される。アルミ系めっき層12を形成する方法は、特に限定されるものではない。例えば、アルミ系めっき層12は、溶融めっき法(アルミニウムを主体として含む溶融金属浴中に素地鋼板11を浸漬させ、アルミ系めっき層12を形成させる方法)により、素地鋼板11の両面に形成してもよい。
【0078】
ここで、アルミ系めっき層12とは、アルミニウムを主体として含むめっき層であり、アルミニウムを50質量%以上含有していればよい。目的に応じて、アルミ系めっき層12はアルミニウム以外の元素(例えば、Siなど)を含んでいてもよく、製造の過程などで混入してしまう不純物を含んでいてもよい。アルミ系めっき層12は、具体的には、例えば、質量%で、Si(シリコン)を5%~12%含み、残部はアルミニウムおよび不純物からなる化学組成を有していてもよい。また、アルミ系めっき層12は質量%で、Si(シリコン)を5%~12%、Fe(鉄)を2%~4%を含み、残部はアルミニウムおよび不純物からなる化学組成を有していてもよい。上記範囲でアルミ系めっき層12にSiを含有させると、加工性および耐食性の低下が抑制され得る。また、金属間化合物層の厚みを低減し得る。
【0079】
第一めっき部121でのアルミ系めっき層12の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、平均厚みで8μm(マイクロメートル)以上であることがよく、15μm以上であることが好ましい。また、第一めっき部121でのアルミ系めっき層12の厚みは、例えば、平均厚みで40μm以下であることがよく、35μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。なお、アルミ系めっき層12の厚みは、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの第二めっき部122における平均厚みを表す。
【0080】
アルミ系めっき層12は、素地鋼板11の腐食を防止する。また、アルミ系めっき層12は、素地鋼板11を熱間プレス成形により加工する場合に、素地鋼板11が高温に加熱されても、素地鋼板11の表面が酸化することによるスケール(鉄の化合物)の発生を防止する。また、アルミ系めっき層12では、有機系材料によるめっき被覆や他の金属系材料(例えば、亜鉛系材料)によるめっき被覆よりも沸点および融点が高い。従って、熱間プレス成形により熱間プレス成形品を成形する際に、被覆が蒸発することがないため、表面の保護効果が高い。
【0081】
溶融めっき時および熱間プレス成形時における加熱により、アルミ系めっき層12は、素地鋼板11中の鉄(Fe)と合金化し得る。よって、アルミ系めっき層12は、必ずしも成分組成が一定な単一の層で形成されるとは限らない。例えば、アルミ系めっき層12が、部分的に合金化した層(金属間化合物層)を含んでもよい。
【0082】
(金属間化合物層)
金属間化合物層は、素地鋼板11上にアルミ系めっき層12を設ける際に、素地鋼板11とアルミ系めっき層12との間の境界部に形成される層である。具体的には、金属間化合物層は、アルミニウムを主体として含む溶融金属浴中での素地鋼板11の鉄(Fe)とアルミニウム(Al)を含む金属との反応によって形成される。金属間化合物層は、主にFexAly(x、yは1以上を表す)で表される化合物の複数種で形成されている。アルミ系めっき層12がSi(シリコン)を含む場合は、金属間化合物層はFexAlyおよびFexAlySiz(x、y、zは1以上を表す)で表される化合物の複数種で形成されている。
【0083】
第一めっき部121での金属間化合物層の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば平均厚みで3μm以上であることがよく、4μm以上であることが好ましい。また、第一めっき部121での金属間化合物層の厚みは、例えば平均厚みで10μm以下であることがよく、8μm以下であることが好ましい。なお、金属間化合物層の厚みは、第二めっき部122における平均厚みを表す。なお、金属間化合物層の厚みは、アルミニウムを主体として含む溶融金属浴の温度と浸漬時間によって制御し得る。
【0084】
(第一めっき部121の幅)
第一めっき部121の幅は特に限定されないが、好ましくは0.05mm以上であり、好ましくは0.60mm以下である。より詳細には、溶接方法に応じて溶接金属部の幅が変化することを鑑みて、例えば、突合せ溶接がレーザ溶接である場合、第一めっき部121の幅は、好ましくは0.05mm以上であり、第一めっき部121の幅は、好ましくは0.40mm以下である。プラズマ溶接に用いる場合、第一めっき部121の幅は、好ましくは0.10mm以上であり、第一めっき部121の幅は、好ましくは0.60mm以下である。溶接方法に応じて第一めっき部121の幅を調整してもよいし、第一めっき部121の幅に応じて、溶接方法を調整してもよい。
【0085】
あるいは、第一めっき部121は、溶接金属のAl量を適正化するために設けられるため、第一めっき部121の幅を、例えば溶接金属の幅に応じて決定してもよい。具体的には、溶接金属の幅をX(mm)としたとき、第一めっき部121の幅の下限は、単位mmで0.05X+0.02とすることが好ましく、第一めっき部121の幅の上限は、単位mmで0.13exp(0.9X)および0.9mmのいずれかの小さい値とすることが好ましい。また、第一めっき部121の幅とめっき厚減少部の幅との合計は、単位mmで(0.5X+0.3)以上とすることが好ましい。
【0086】
第一めっき部121の幅の測定方法は、適宜選択することができる。例えば、めっき厚減少部13において素地鋼板11が露出している場合、めっき厚減少部13と第一めっき部121との境界は、肉眼によって容易に視認することが可能である。従って、市販されているカメラを用いて第一めっき部121を撮影し、撮像画像を市販のソフトウェアによって解析することにより、第一めっき部121の幅を測定可能である。また、端部14のX線画像を撮影することにより、第一めっき部121の幅を一層高精度に測定することもできる。一層好ましくは、測定工程において、第一めっき部121の幅のみならず位置情報も取得される。
【0087】
(第一めっき部121の幅の寸法公差)
第一めっき部121の幅の寸法公差(幅の最大値と最小値との差)は特に限定されないが、溶接金属の機械特性のばらつきを抑制する観点からは小さいほうが好ましい。例えば、第一めっき部121の平均幅に対して、90%以下、60%以下、又は30%以下としてもよい。例えば、第一めっき部121の平均幅が100μmであり、第一めっき部121の幅の寸法公差が第一めっき部121の平均幅に対して30%以下の場合、第一めっき部121の幅の寸法公差は、-30~+30μmであり、70~130μmの範囲で第一めっき部121の幅が制御されている。なお、第一めっき部121の平均幅の測定方法は、適宜選択することができる。例えば、市販のカメラ、光学顕微鏡、X線顕微鏡などを用いて第一めっき部121を撮影し、撮像画像を市販のソフトウェアによって解析することにより、第一めっき部121の平均幅を測定することが可能である。
【0088】
(めっき厚減少部におけるめっき除去率)
めっき厚減少部におけるめっき除去率は、0超の任意の値とすることができる。めっき除去率とは、アルミ系めっき層12の厚さに対する、除去されためっき層の厚さである。具体的には、めっき除去率は、以下の式によって算出される値である。
(めっき除去率)={(第二めっき部における平均めっき厚さ)-(めっき厚減少部における平均めっき厚さ)}/(第二めっき部における平均めっき厚さ)
【0089】
めっき厚減少部13においてアルミ系めっき層12が完全に除去されており、素地鋼板11が露出していてもよい。この場合、めっき除去率は1.0である。一方、めっき厚減少部13において、アルミ系めっき層12を部分的に除去して、めっき除去率を0超1.0未満の範囲内としてもよい。めっき除去率の好適な下限は、0.3であり、より好適な下限は、0.5であり、さらに好適な下限は、0.7である。めっき除去率が大きいほど、最終アルミ系めっき鋼板1Aを素材として用いたテーラードブランクの溶接金属のAl濃度を低減させることができる。一方、めっき除去率の好適な上限は、1.0、0.9、又は0.8である。なお、めっき除去率は、1.0が最も好ましい。めっき除去率が1.0であると、めっき厚減少部においてアルミ系めっき層が完全に除去されており、素地鋼板が露出している。従って、溶接金属のAl濃度を低減させるだけでなく、めっき厚減少部から溶接金属に混入するAl系めっき由来のAl成分は実質的にゼロであり、溶接金属のAl濃度を制御しやすい利点がある。
【0090】
めっき除去率の測定は、以下の方法で行う。まず、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの断面が露出するように切断を行う。次いで、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの断面を研磨する。なお、露出したテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの断面の向きは特に限定されない。しかし、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの断面は、めっき厚減少部13の長手方向に直交する断面であることが好ましい。
【0091】
研磨したテーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの断面を、電子線マイクロアナライザ(Electron Probe MicroAnalyser:FE-EPMA)を用いて分析する。具体的には、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの表面から素地鋼板11までを、EPMAを用いて線分析する。これにより、アルミ系めっき層12のアルミニウム濃度および鉄濃度を測定する。アルミニウム濃度および鉄濃度は、3回測定した平均値であることが好ましい。測定条件は、加速電圧15kV、ビーム径100nm程度、1点あたりの照射時間1000ms、測定ピッチ60nmである。測定距離は、アルミ系めっき層12の厚みが測定できるようにすればよい。例えば測定距離は、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの表面から素地鋼板11までを厚み方向に30μm~80μm程度とする。素地鋼板11の厚みは、光学顕微鏡でスケールを用いて測定するほうが好ましい。
【0092】
<素地鋼板、金属間化合物層、およびアルミニウム系めっき層の範囲の規定>
テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの断面のアルミニウム濃度の測定値として、アルミニウム(Al)濃度が0.06質量%未満である領域を素地鋼板11と判断し、アルミニウム濃度が0.06質量%以上である領域をアルミ系めっき層12と判断する。また、アルミ系めっき層12のうち、鉄(Fe)濃度が4質量%超である領域を金属間化合物層と判断する。なお、素地鋼板11とアルミ系めっき層12との境界からアルミ系めっき層12の表面までの距離を、アルミ系めっき層12の厚みとする。
【0093】
アルミ系めっき層12の厚みは、テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板1Aの表面から素地鋼板の表面までを線分析し、次のようにして測定する。例えば、第一めっき部121の厚みを測定する場合、めっき厚減少部13の長手方向について、第一めっき部121の全長を5等分した5箇所の位置のアルミ系めっき層12の厚みを求め、求めた値を平均した値をアルミ系めっき層12の厚みとする。
【符号の説明】
【0094】
1A テーラードブランク用アルミ系めっき鋼板
1B 中間アルミ系めっき鋼板
11 素地鋼板
12 アルミ系めっき層
121 第一めっき部
122 第二めっき部
13 めっき厚減少部
14 端部
141 縁
1411 端面
15 切削加工痕
151 線状痕
E エンドミル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9