IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 田淵電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-点火装置 図1
  • 特開-点火装置 図2
  • 特開-点火装置 図3
  • 特開-点火装置 図4
  • 特開-点火装置 図5
  • 特開-点火装置 図6
  • 特開-点火装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142506
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】点火装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 3/055 20060101AFI20241003BHJP
   F02P 3/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F02P3/055 Z
F02P3/055 C
F02P3/04 301G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054664
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000217491
【氏名又は名称】ダイヤゼブラ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】奥村 文雄
(72)【発明者】
【氏名】泉 光宏
【テーマコード(参考)】
3G019
【Fターム(参考)】
3G019AB01
3G019BA01
3G019BA05
3G019CA14
3G019FA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】点火コイルの1次電流の遮断時に、点火コイルに残存する磁気エネルギーにより生じる誘導電流がIGBTの側へ流れる場合でも、IGBTに不具合が生じることを抑制できる技術を提供する。
【解決手段】点火装置1は、点火コイル103、IGBT70、外部ツェナーダイオード72、および点火プラグ113を有する。IGBT70は、点火コイル103の1次コイルL1と接地点とを接続する1次側接地線123に介挿され、1次電流の通電または遮断を切り替える。外部ツェナーダイオード72は、1次側接地線123において、IGBT70に対して並列に接続されたバイパス線125に介挿され、接地点から1次コイルL1へ向かう方向が順方向となる。IGBT70は、接地点から1次コイルL1へ向かう方向が順方向となる、内部ツェナーダイオードを有する。外部ツェナーダイオード72の降伏電圧は、内部ツェナーダイオードの降伏電圧よりも低い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関用の点火装置であって、
1次コイルと2次コイルとが互いに電磁結合されることによって形成された点火コイルと、
前記1次コイルの一端へ直流電圧を印加する電源装置と、
前記1次コイルの他端と接地点とを接続する1次側接地線に介挿され、前記電源装置から前記1次コイルへ流れる1次電流の通電または遮断を切り替え可能なIGBTと、
前記1次側接地線において、前記IGBTに対して並列に接続されたバイパス線に介挿され、前記接地点から前記1次コイルへ向かう方向が順方向となるように配置された、外部ツェナーダイオードと、
前記2次コイルの一端に誘起される高電圧に基づいて放電する点火プラグと、
を有し、
前記IGBTは、
前記接地点から前記1次コイルへ向かう方向が順方向となるように配置された、内部ツェナーダイオード
を有し、
前記外部ツェナーダイオードの降伏電圧は、前記内部ツェナーダイオードの降伏電圧よりも低い、点火装置。
【請求項2】
請求項1に記載の点火装置であって、
前記バイパス線において、前記外部ツェナーダイオードと直列に介挿される抵抗
をさらに有する、点火装置。
【請求項3】
内燃機関用の点火装置であって、
1次コイルと2次コイルとが互いに電磁結合されることによって形成された点火コイルと、
前記1次コイルの一端へ直流電圧を印加する電源装置と、
前記1次コイルの他端と接地点とを接続する1次側接地線に介挿され、前記電源装置から前記1次コイルへ流れる1次電流の通電または遮断を切り替え可能なIGBTと、
前記1次側接地線における、前記IGBTに対して並列に接続されたバイパス線において、互いに直列に介挿され、前記接地点から前記1次コイルへ向かう方向が順方向となるように配置された、複数の外部ツェナーダイオードと、
前記2次コイルの一端に誘起される高電圧に基づいて放電する点火プラグと、
を有し、
前記IGBTは、
前記接地点から前記1次コイルへ向かう方向が順方向となるように配置された、内部ツェナーダイオード
を有し、
前記複数の外部ツェナーダイオードの降伏電圧の合計は、前記内部ツェナーダイオードの降伏電圧よりも低い、点火装置。
【請求項4】
内燃機関用の点火装置であって、
1次コイルと2次コイルとが互いに電磁結合されることによって形成された点火コイルと、
前記1次コイルの一端へ直流電圧を印加する電源装置と、
前記1次コイルの他端と接地点とを接続する1次側接地線に介挿され、前記電源装置から前記1次コイルへ流れる1次電流の通電または遮断を切り替え可能なIGBTと、
前記1次側接地線において、前記IGBTに対して並列に接続された複数のバイパス線に介挿され、前記接地点から前記1次コイルへ向かう方向が順方向となるように配置された、複数の外部ツェナーダイオードと、
前記2次コイルの一端に誘起される高電圧に基づいて放電する点火プラグと、
を有し、
前記IGBTは、
前記接地点から前記1次コイルへ向かう方向が順方向となるように配置された、内部ツェナーダイオード
を有し、
前記複数の外部ツェナーダイオードのそれぞれの降伏電圧は、前記内部ツェナーダイオードの降伏電圧よりも低い、点火装置。
【請求項5】
請求項4に記載の点火装置であって、
前記複数のバイパス線のそれぞれにおいて、前記外部ツェナーダイオードと直列に介挿される複数の抵抗
をさらに有する、点火装置。
【請求項6】
内燃機関用の点火装置であって、
1次コイルと2次コイルとが互いに電磁結合されることによって形成された点火コイルと、
前記1次コイルの一端へ直流電圧を印加する電源装置と、
前記1次コイルの他端と接地点とを接続する1次側接地線に介挿され、前記電源装置から前記1次コイルへ流れる1次電流の通電または遮断を切り替え可能なIGBTと、
前記1次側接地線における、前記IGBTに対して並列に接続された複数のバイパス線のそれぞれにおいて、互いに直列に介挿され、前記接地点から前記1次コイルへ向かう方向が順方向となるように配置された、複数の外部ツェナーダイオードと、
前記2次コイルの一端に誘起される高電圧に基づいて放電する点火プラグと、
を有し、
前記IGBTは、
前記接地点から前記1次コイルへ向かう方向が順方向となるように配置された、内部ツェナーダイオード
を有し、
前記複数のバイパス線のそれぞれにおいて、介挿された前記複数の外部ツェナーダイオードの降伏電圧の合計は、前記内部ツェナーダイオードの降伏電圧よりも低い、点火装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の点火装置であって、
前記2次コイルの他端と前記電源装置とを接続する2次側接続線に介挿され、前記2次コイルの一端から他端へ向かう方向が順方向となるように配置された、ダイオード
をさらに有する、点火装置。
【請求項8】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の点火装置であって、
前記IGBTの切り替えを制御する制御部
をさらに有し、
前記制御部は、
前記IGBTを閉状態にすることによって、前記1次コイルに1次電流を流して充電する充電制御と、
前記充電制御を行った後、前記IGBTを開状態に切り替えて、前記2次コイルの一端に高電圧を誘起させることによって、前記点火プラグを放電させる放電制御と、
を行う、点火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用の点火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等に用いられるSI(火花点火)レシプロエンジンを含む内燃機関には、点火装置が搭載される。点火装置は、電源装置からの低電圧を数千V~数万Vに昇圧する点火コイルと、電源装置から点火コイルの1次コイルへ流れる1次電流の通電または遮断を切り替え可能なスイッチング素子と、点火コイルの2次コイルの一端に誘起される高電圧に基づいて電気火花を発生させる点火プラグと、を備える。従来の点火装置の例については、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6517088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、以下の構成を有する内燃機関用点火装置(1)が開示されている。まず、点火コイル(2)の一次コイル(21)は、車載バッテリー等の直流電源(VB+)に接続され、メインスイッチング素子(4)のオン・オフの制御によって、一次電流(I1)の通電・遮断が切り替えられる(段落0015,図1)。また、一次コイル(21)と鉄心を介して磁気的に結合している二次コイル(22)の一方端は、点火プラグ(3)に接続される。これにより、一次電流(I1)の遮断時に二次側に高電圧が発生し、点火プラグ(3)の放電ギャップに絶縁破壊が生じる。なお、メインスイッチング素子(4)としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)が用いられる。
【0005】
ここで、点火コイルの1次電流の遮断時に、何らかの理由により点火プラグにて正常に放電が生じなかった場合、点火コイルに残存する磁気エネルギーにより生じる誘導電流が、スイッチング素子の側へ流れることがある。特に、近年普及している高効率のレシプロエンジンに用いられるような、放電エネルギーの大きな点火コイルにおいては、この時、点火コイルに大きなエネルギーが残存するため、スイッチング素子へ大きな誘導電流が流れる。このため、スイッチング素子の電力耐量が小さい場合、不具合に繋がる虞がある。
【0006】
本発明の目的は、点火コイルの1次電流の遮断時に、点火コイルに残存する磁気エネルギーにより生じる誘導電流がスイッチング素子の側へ流れる場合でも、スイッチング素子に不具合が生じることを抑制できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、内燃機関用の点火装置であって、点火コイルと、電源装置と、IGBTと、外部ツェナーダイオードと、点火プラグと、を有する。点火コイルは、1次コイルと2次コイルとが互いに電磁結合されることによって形成される。電源装置は、前記1次コイルの一端へ直流電圧を印加する。IGBTは、前記1次コイルの他端と接地点とを接続する1次側接地線に介挿され、前記電源装置から前記1次コイルへ流れる1次電流の通電または遮断を切り替え可能である。外部ツェナーダイオードは、前記1次側接地線において、前記IGBTに対して並列に接続されたバイパス線に介挿され、前記接地点から前記1次コイルへ向かう方向が順方向となるように配置される。点火プラグは、前記2次コイルの一端に誘起される高電圧に基づいて放電する。前記IGBTは、前記接地点から前記1次コイルへ向かう方向が順方向となるように配置された、内部ツェナーダイオードを有する。前記外部ツェナーダイオードの降伏電圧は、前記内部ツェナーダイオードの降伏電圧よりも低い。
【0008】
本願の第2発明は、第1発明の点火装置であって、前記バイパス線において、前記外部ツェナーダイオードと直列に介挿される抵抗をさらに有する。
【0009】
本願の第3発明は、内燃機関用の点火装置であって、点火コイルと、電源装置と、IGBTと、複数の外部ツェナーダイオードと、点火プラグと、を有する。点火コイルは、1次コイルと2次コイルとが互いに電磁結合されることによって形成される。電源装置は、前記1次コイルの一端へ直流電圧を印加する。IGBTは、前記1次コイルの他端と接地点とを接続する1次側接地線に介挿され、前記電源装置から前記1次コイルへ流れる1次電流の通電または遮断を切り替え可能である。複数の外部ツェナーダイオードは、前記1次側接地線における、前記IGBTに対して並列に接続されたバイパス線において、互いに直列に介挿され、前記接地点から前記1次コイルへ向かう方向が順方向となるように配置される。点火プラグは、前記2次コイルの一端に誘起される高電圧に基づいて放電する。前記IGBTは、前記接地点から前記1次コイルへ向かう方向が順方向となるように配置された、内部ツェナーダイオードを有する。前記複数の外部ツェナーダイオードの降伏電圧の合計は、前記内部ツェナーダイオードの降伏電圧よりも低い。
【0010】
本願の第4発明は、内燃機関用の点火装置であって、点火コイルと、電源装置と、IGBTと、複数の外部ツェナーダイオードと、点火プラグと、を有する。点火コイルは、1次コイルと2次コイルとが互いに電磁結合されることによって形成される。電源装置は、前記1次コイルの一端へ直流電圧を印加する。IGBTは、前記1次コイルの他端と接地点とを接続する1次側接地線に介挿され、前記電源装置から前記1次コイルへ流れる1次電流の通電または遮断を切り替え可能である。複数の外部ツェナーダイオードは、前記1次側接地線において、前記IGBTに対して並列に接続された複数のバイパス線に介挿され、前記接地点から前記1次コイルへ向かう方向が順方向となるように配置される。点火プラグは、前記2次コイルの一端に誘起される高電圧に基づいて放電する。前記IGBTは、前記接地点から前記1次コイルへ向かう方向が順方向となるように配置された、内部ツェナーダイオードを有する。前記複数の外部ツェナーダイオードのそれぞれの降伏電圧は、前記内部ツェナーダイオードの降伏電圧よりも低い。
【0011】
本願の第5発明は、第4発明の点火装置であって、前記複数のバイパス線のそれぞれにおいて、前記外部ツェナーダイオードと直列に介挿される複数の抵抗をさらに有する。
【0012】
本願の第6発明は、内燃機関用の点火装置であって、点火コイルと、電源装置と、IGBTと、複数の外部ツェナーダイオードと、点火プラグと、を有する。点火コイルは、1次コイルと2次コイルとが互いに電磁結合されることによって形成される。電源装置は、前記1次コイルの一端へ直流電圧を印加する。IGBTは、前記1次コイルの他端と接地点とを接続する1次側接地線に介挿され、前記電源装置から前記1次コイルへ流れる1次電流の通電または遮断を切り替え可能である。複数の外部ツェナーダイオードは、前記1次側接地線における、前記IGBTに対して並列に接続された複数のバイパス線のそれぞれにおいて、互いに直列に介挿され、前記接地点から前記1次コイルへ向かう方向が順方向となるように配置される。点火プラグは、前記2次コイルの一端に誘起される高電圧に基づいて放電する。前記IGBTは、前記接地点から前記1次コイルへ向かう方向が順方向となるように配置された、内部ツェナーダイオードを有する。前記複数のバイパス線のそれぞれにおいて、介挿された前記複数の外部ツェナーダイオードの降伏電圧の合計は、前記内部ツェナーダイオードの降伏電圧よりも低い。
【0013】
本願の第7発明は、第1発明から第6発明までのいずれか1発明の点火装置であって、前記2次コイルの他端と前記電源装置とを接続する2次側接続線に介挿され、前記2次コイルの一端から他端へ向かう方向が順方向となるように配置された、ダイオードをさらに有する。
【0014】
本願の第8発明は、第1発明から第7発明までのいずれか1発明の点火装置であって、前記IGBTの切り替えを制御する制御部をさらに有し、前記制御部は、前記IGBTを閉状態にすることによって、前記1次コイルに1次電流を流して充電する充電制御と、前記充電制御を行った後、前記IGBTを開状態に切り替えて、前記2次コイルの一端に高電圧を誘起させることによって、前記点火プラグを放電させる放電制御と、を行う。
【発明の効果】
【0015】
本願の第1発明~第8発明によれば、点火コイルの1次電流の遮断時に、点火プラグにて正常に放電が生じなかったことによって、点火コイルに残存する磁気エネルギーにより生じる誘導電流が、1次コイルの側からIGBTの側へ流れる場合でも、IGBTと並列に接続された外部ツェナーダイオードを介して接地点へ流すことができる。これにより、IGBTへ流れる誘導電流を低減できるため、IGBTに不具合が生じることを抑制できる。
【0016】
特に、本願の第2発明および第5発明によれば、バイパス線上のインピーダンスと、IGBTの内部インピーダンスとの、バランス調整を容易に行うことができる。また、抵抗にて誘導電流が流れる時に電力を消費することによって電圧降下が生じるため、降伏電圧(ツェナー電圧)のより小さな外部ツェナーダイオードを用いることができる。
【0017】
特に、本願の第3発明および第6発明によれば、バイパス線上の各外部ツェナーダイオードに掛かる電圧を低減できる。これにより、降伏電圧(ツェナー電圧)のさらに小さな外部ツェナーダイオードを組み合わせて用いることができる。
【0018】
特に、本願の第4発明および第6発明によれば、複数の外部ツェナーダイオードが介挿された複数のバイパス線を介して誘導電流を接地点へ流すことによって、点火コイルに残存する磁気エネルギーをさらに低減できる。これにより、IGBTへ流れる誘導電流をさらに低減できる。この結果、電力耐量の小さいIGBTを適用することができ、点火装置の製造コストをさらに削減できる。
【0019】
特に、本願の第7発明によれば、1次コイルに1次電流を流して充電する時に、点火プラグにおいて放電が起こることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態に係る内燃機関用の点火装置の動作環境を模式的に示すブロック図である。
図2】第1実施形態に係る点火コイルの縦断面図である。
図3】第1変形例に係る内燃機関用の点火装置の動作環境の一部を模式的に示すブロック図である。
図4】第2変形例に係る内燃機関用の点火装置の動作環境の一部を模式的に示すブロック図である。
図5】第2実施形態に係る内燃機関用の点火装置の動作環境の一部を模式的に示すブロック図である。
図6】第3変形例に係る内燃機関用の点火装置の動作環境の一部を模式的に示すブロック図である。
図7】第3実施形態に係る内燃機関用の点火装置の動作環境の一部を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
<1.第1実施形態>
<1-1.点火装置の構成>
まず、本発明の第1実施形態となる内燃機関用の点火装置1の構成について、図面を参照しつつ説明する。図1は、第1実施形態に係る点火装置1の動作環境を模式的に示すブロック図である。なお、後述のとおり、点火装置1に含まれる点火コイル103の1次コイルL1と2次コイルL2とは、互いに積層される方向に配置されるが、図1では、理解容易のため、これらを隣接させて図示している。
【0023】
本実施形態の点火装置1は、例えば、自動車等の車体100に用いられるSI(火花点火)レシプロエンジン等の内燃機関に搭載され、点火プラグ113に火花放電を発生させるための高電圧を印加する装置である。また、図1に示すように、車体100には、当該点火装置1に加え、当該点火プラグ113と、電源装置102(バッテリ)と、ECU105(Engine Control Unit)とが、備えられている。なお、広義の意味において、点火プラグ113と、電源装置102と、ECU105とは、点火装置1に含まれると見ることもできる。
【0024】
点火プラグ113は、内燃機関の燃焼室で着火動作を実現するための装置である。点火プラグ113は、点火コイル103の後述する2次コイルL2の一端822に、導線121を介して電気的に接続される。点火プラグ113は、点火コイル103の2次コイルL2の一端822と接地点151との間に介挿される。点火プラグ113は、中心電極141と接地電極142とを有する。点火コイル103の2次コイルL2に高電圧が誘起され、この高電圧が点火プラグ113の中心電極141と接地電極142との間のギャップdにおける絶縁破壊電圧を超えると、ギャップdにおいて放電が起こり、火花が発生する。これにより、内燃機関に充填された燃料に点火される。すなわち、点火プラグ113は、2次コイルL2の一端822に誘起される高電圧に基づいて、ギャップdにおいて放電することによって、燃料に点火する。
【0025】
電源装置102は、直流電力を充放電可能な蓄電池である。本実施形態では、電源装置102は、点火コイル103の後述する1次コイルL1の一端811に、導線を介して電気的に接続される。以下では、電源装置102と1次コイルL1の一端811とを接続する当該導線を「電源線150」と称する。電源装置102は、点火コイル103の1次コイルL1の一端811へ、電源線150を介して直流電圧を印加する。
【0026】
ECU105は、車体100のトランスミッションやエアバックの作動等を総合的に制御するコンピュータである。
【0027】
点火装置1は、点火コイル103、イグナイタ104、およびダイオード114を有する。
【0028】
図2は、点火コイル103の縦断面図である。図2に示すように、点火コイル103は、ボビン40と、1次コイルL1と、2次コイルL2と、鉄心60とを有する。なお、図2では、1次コイルL1および2次コイルL2を、一部簡略化して図示している。また、以下の点火コイル103の説明においては、ボビン40の中心軸Bcと平行な方向を「軸方向」、ボビン40の中心軸Bcに直交する方向を「径方向」、ボビン40の中心軸Bcを中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。また、当該「平行な方向」とは、略平行な方向も含むものとし、当該「直交する方向」とは、略直交する方向も含むものとする。
【0029】
ボビン40は、互いに連結可能な1次ボビン41および2次ボビン42を含む。1次ボビン41および2次ボビン42はそれぞれ、中心軸Bcに沿って筒状に延びる。また、1次ボビン41の径方向の外側に、2次ボビン42が配置される。1次ボビン41および2次ボビン42の材料には、例えば、樹脂が用いられる。
【0030】
1次コイルL1は、1次ボビン41の外周面に、導線が中心軸Bcを中心とする周方向に巻回されつつ、径方向に積層されることによって、形成される。以下では、1次ボビン41に巻回される当該導線を、「1次導線81」と称する。1次コイルL1の形成が完了した後、1次コイルL1の外周面を覆うように、2次ボビン42が配置され、1次ボビン41に連結される。そして、2次ボビン42の外周面に、1次導線81とは別の導線が、中心軸Bcを中心とする周方向に巻回されつつ、径方向に積層されることによって、2次コイルL2が形成される。以下では、2次ボビン42に巻回される当該別の導線を、「2次導線82」と称する。
【0031】
このように、1次コイルL1と2次コイルL2とを互いに積層するように配置することによって、これらを含む点火コイル103全体を小型化できる。ただし、1次コイルL1と2次コイルL2は、このように互いに積層されつつ巻回される場合のみでなく、図1のように互いに隣接しつつ配置されてもよい。
【0032】
鉄心60は、中心鉄心601と外周鉄心602とが組み合わさった構造を有する。鉄心60の中心鉄心601および外周鉄心602はそれぞれ、例えば、珪素鋼板が積層された積層鋼板により形成される。中心鉄心601は、ボビン40の中心軸Bcに沿って延びる。また、中心鉄心601は、1次ボビン41の径方向の内側の空間410に挿通される。外周鉄心602は、2次ボビン42および2次導線82よりも径方向の外側を通り、中心鉄心601の軸方向の両端部を繋ぐ。これにより、鉄心60は、1次コイルL1と2次コイルL2とを電磁結合させる閉磁路構造を形成する。すなわち、点火コイル103は、1次コイルL1と2次コイルL2とが互いに電磁結合されることによって形成される。
【0033】
図1に示すように、1次コイルL1の一端811には、上記の電源装置102から延びる導線である電源線150が接続される。1次コイルL1の他端812は、後述するイグナイタ104に接続される。イグナイタ104に制御されることによって、1次コイルL1の一端811に、電源装置102からの直流の低電圧が印加され、1次コイルL1に、次第に増加する1次電流が流れ始める。
【0034】
2次コイルL2の一端822は、点火プラグ113に接続される。2次導線82の線径は、1次導線81の線径よりも小さい。また、2次コイルL2における2次導線82の巻き数は、1次コイルL1における1次導線81の巻き数よりも多い。例えば、2次コイルL2における2次導線82の巻き数は、1次コイルL1における1次導線81の巻き数の、100倍程度である。これにより、点火コイル103は、1次電流の遮断時に、電源装置102から供給される直流の低電圧の電力を、数千V~数万Vにまで昇圧する。すなわち、2次コイルL2には高電圧が誘起される。そして、2次コイルL2は、誘起された高電圧の電力を、点火プラグ113ヘと供給する。これにより、点火プラグ113において電気火花を発生させて燃料を点火させる。
【0035】
なお、図1に示すように、2次コイルL2のうち、点火プラグ113が接続される一端822とは反対側の他端821は、導線(以下、「2次側接続線122」と称する)を介して電源装置102と直接的または間接的かつ電気的に接続される。本実施形態では、2次コイルL2の他端821は、電源線150と電気的に接続される。すなわち、2次側接続線122および電源線150が、2次コイルL2の他端821と電源装置102とを電気的に接続する。本実施形態では、2次側接続線122に、ダイオード114が介挿される。ダイオード114は、2次コイルL2と直列に接続される。また、ダイオード114は、2次コイルL2の一端822から他端821へ向かう方向が順方向となるように配置される。
【0036】
これにより、後述する充電制御において、1次コイルL1に1次電流を流して充電する時(ON時)に、次第に増加する1次電流により2次コイルL2に誘起される電圧による誘導電流が、ダイオード114における逆方向に流れることが防止される。これにより、当該誘導電流が点火プラグ113へ流れることを防止できるため、点火プラグ113において、ON時、すなわち、異常タイミングにて、放電が起こることを抑制できる。
【0037】
イグナイタ104は、1次コイルL1に接続され、1次コイルL1に流れる電流を制御する半導体デバイスである。また、イグナイタ104は、ECU105と電気的に接続され、ECU105から信号(以下「EST信号」と称する)を受信する。イグナイタ104は、スイッチング素子としてのIGBT70(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)と、駆動IC71と、外部ツェナーダイオード72とを有する。なお、イグナイタ104は、ECU105の電子回路と一体化されていてもよい。
【0038】
IGBT70は、1次コイルL1の他端812と、接地点152と、を接続する導線(以下、「1次側接地線123」に介挿される。IGBT70のC(コレクタ)は、1次コイルL1の他端812に接続される。IGBT70のE(エミッタ)は、接地点152に、抵抗73を介して接続される。IGBT70のG(ゲート)は、駆動IC71に接続される。
【0039】
これにより、IGBT70は、電源装置102から1次コイルL1へ流れる1次電流の通電または遮断の切り替えが可能となる。IGBT70が閉状態になると、電源装置102から1次コイルL1に1次電流が流れる。IGBT70が開状態となると、1次コイルL1に流れる1次電流が遮断される。ただし、このような、電源装置102から1次コイルL1へ流れる1次電流の通電または遮断を切り替えるためのスイッチング素子として、IGBT70の代わりに、MOSFET等の他の種類のトランジスタが用いられてもよい。
【0040】
また、IGBT70は、図示を省略したツェナーダイオード(以下「内部ツェナーダイオード」と称する)を有する。内部ツェナーダイオードは、IGBT70の内部において、C(コレクタ)とE(エミッタ)とを繋ぐ配線上に介挿される。内部ツェナーダイオードは、カソードが1次コイルL1の他端812に接続され、アノードが接地点152に接続される。すなわち、内部ツェナーダイオードは、接地点152から1次コイルL1へ向かう方向が順方向となるように配置される。
【0041】
駆動IC71は、ECU105から受信するEST信号に基づき、IGBT70の切り替えを制御する制御部である。駆動IC71は、IGBT70に接続された論理デバイスを有する。論理デバイスには、例えば、論理回路、プロセッサ、CPLD(complex programmablelogic device)、FPGA(field-programmable gate array)、またはASIC(application-specific integrated circuit)等が含まれる。論理デバイスは、点火装置1を動作させて点火プラグ113に点火するための演算処理を行う。
【0042】
また、本実施形態では、1次側接地線123において、IGBT70に対して並列に接続されたバイパス線125が設けられている。バイパス線125の一端は、1次側接地線123における、IGBT70のC(コレクタ)と1次コイルL1の他端812との間の位置P1に接続される。バイパス線125の他端は、1次側接地線123における、IGBT70のE(エミッタ)と接地点152との間の位置P2に接続される。
【0043】
また、バイパス線125には、ツェナーダイオード(以下「外部ツェナーダイオード72」と称する)が介挿される。外部ツェナーダイオード72は、カソードが1次コイルL1の他端812に接続され、アノードが接地点152に接続される。すなわち、外部ツェナーダイオード72は、接地点152から1次コイルL1へ向かう方向が順方向となるように配置される。外部ツェナーダイオード72の降伏電圧(すなわち、ツェナー電圧)は、IGBT70の内部ツェナーダイオードの降伏電圧(すなわち、ツェナー電圧)よりも低い。例えば、IGBT70の内部ツェナーダイオードの降伏電圧が56Vである場合、外部ツェナーダイオード72の降伏電圧は、56Vよりも低い50Vとされる。
【0044】
<1-2.点火装置の動作>
続いて、点火装置1の動作について説明する。上記のとおり、1次コイルL1の一端811には、電源装置102から直流電圧(例えば、12V)が、電源線150を介して印加される。また、1次コイルL1の他端812は、IGBT70に接続される。また、駆動IC71は、ECU105から受信するEST信号に基づき、IGBT70の切り替えを制御する。
【0045】
点火装置1を動作させる時は、まず、ECU105から駆動IC71へ送信されるEST信号の信号レベルをLからHにする。すると、駆動IC71は、EST信号に基づき、IGBT70を開状態から閉状態に切り替える。これにより、1次コイルL1を形成する1次導線81に1次電流が流れ、1次コイルL1に電荷が充電される。なお、このような、1次コイルL1に1次電流を流して充電する工程を「充電制御」と称する。また、1次コイルL1に通電磁束が生じ、通電磁束に応じた磁界が鉄心60へ作用する。
【0046】
また、鉄心60を介して1次コイルL1と電磁結合された2次コイルL2の両端821,822において、相互誘導作用により、電位差(以下「ON時電圧」と称する)が生じる。本実施形態では、この時、2次コイルL2の一端822に掛かる電圧の最大値は正の値(例えば、数百V程度)となり、2次コイルL2の他端821に掛かる電圧の最小値は負の値(例えば、マイナス数百V程度)となる。なお、当該ON時電圧の最大値は、電源装置102から電源線150を介して1次コイルL1の一端811へ印加される直流電圧の電圧値に、1次コイルL1の巻き数に対する2次コイルL2の巻き数の比率を掛けることによって、算出される。
【0047】
ここで、上記のとおり、2次コイルL2の他端821と電源装置102とを接続する2次側接続線122において、ダイオード114が、2次コイルL2と直列に接続されている。ダイオード114は、2次コイルL2の一端822から他端821へ向かう方向が順方向となるように、配置されている。このため、1次コイルL1に1次電流を流した時に、2次コイルL2の他端821に掛かる電圧に対して、2次コイルL2の一端822に掛かる電圧が、大きな値になる場合でも、次第に増加する1次電流により2次コイルL2に誘起される電圧による誘導電流(2次電流)が、ダイオード114における逆方向に流れることを抑制できる。すなわち、誘導電流(2次電流)が、電源装置102の側から2次コイルL2の他端821を介して一端822の側へ流れてしまうことを抑制できる。これにより、ON時電圧の発生時に、点火プラグ113において、異常タイミングにて、放電が起こることを抑制できる。
【0048】
充電制御を行った後、続いて、ECU105から駆動IC71へ送信されるEST信号の信号レベルをHからLにする。すると、駆動IC71は、IGBT70を閉状態から開状態に切り替えて、電源装置102から1次コイルL1へ流れる1次電流を遮断する。これにより、鉄心60を介して1次コイルL1と電磁結合された2次コイルL2において、相互誘導作用により、誘導起電力が誘起される。本実施形態では、2次コイルL2の一端822に、負の高電圧が誘起される。この時、2次コイルL2の一端822に掛かる電圧値(2次電圧の値)は、接地点151に対して、マイナス数千V~数万Vに及ぶ。
【0049】
また、2次コイルL2の一端822に誘起される負の高電圧の絶対値は、点火プラグ113のギャップdにおける絶縁破壊電圧を超える。これにより、点火プラグ113のギャップdにおいて絶縁破壊が生じる。そして、接地点151から、点火プラグ113の接地電極142を介して点火プラグ113の中心電極141へ向かい、さらに2次コイルL2を流れ、かつ、ダイオード114を順方向に流れる誘導電流(2次電流)が生じる。
【0050】
この結果、点火プラグ113のギャップdにおいて放電が起こることによって、火花が発生し、内燃機関に充填された燃料に点火される。すなわち、点火プラグ113は、2次コイルL2の一端822に誘起される負の高電圧に基づいて、ギャップdにおいて放電することによって、燃料に点火する。なお、このようにIGBT70を開状態に切り替えて、1次コイルL1へ流れる1次電流を遮断し、2次コイルL2の一端822に高電圧を誘起させることによって、点火プラグ113を放電させる工程を「放電制御」と称する。その後、2次コイルL2の一端822に誘起される負の高電圧の絶対値が、点火プラグ113のギャップdにおける絶縁破壊電圧を下回ると、点火プラグ113のギャップdにおける放電が終了する。
【0051】
ここで、放電制御において、1次電流の遮断時に、何らかの理由により点火プラグ113にて正常に放電が生じなかった場合、点火コイル103に磁気エネルギーが残存することとなる。この場合、1次コイルL1の他端812が、接地点152よりも高電圧となり、これにより生じる誘導電流が、1次側接地線123を通って、IGBT70の側へ流れることがある。そこで、本実施形態では、上記のとおり、IGBT70に対して並列に接続されたバイパス線125に、外部ツェナーダイオード72が介挿されている。また、IGBT70の内部ツェナーダイオードおよび外部ツェナーダイオード72はそれぞれ、接地点152から1次コイルL1へ向かう方向が順方向となるように配置されている。また、外部ツェナーダイオード72の降伏電圧(例えば、50V)は、IGBT70の内部ツェナーダイオードの降伏電圧(例えば、56V)よりも低い。
【0052】
このため、点火コイル103に残存する磁気エネルギーにより、1次コイルL1の他端812の、接地点152に対する電位が、先ず、外部ツェナーダイオード72の降伏電圧に達した時に、外部ツェナーダイオード72の逆方向に誘導電流が流れる。すなわち、1次コイルL1の他端812から、外部ツェナーダイオード72を介して接地点152へ、誘導電流を流すことができる。これにより、点火コイル103に残存する磁気エネルギーが低減される。この結果、続いて、1次コイルL1の他端812の、接地点152に対する電位が、IGBT70の内部ツェナーダイオードの降伏電圧に達し、IGBT70の内部ツェナーダイオードの逆方向に誘導電流が流れる時に、当該誘導電流を低減することができる。これにより、IGBT70に不具合が生じることを抑制できる。
【0053】
すなわち、本実施形態では、点火コイル103に残存する磁気エネルギーにより生じる誘導電流を、IGBT70の内部ツェナーダイオードを介する経路と、外部ツェナーダイオード72を介する経路とに分流しつつ、接地点152へ流すことができる。これにより、これらのうちの一方のみを通って誘導電流を流す場合よりも、各ツェナーダイオードに流れる誘導電流を低減できる。また、このような構成を用いることにより、高効率のレシプロエンジンに用いられるような、放電エネルギーの大きな点火コイル103において、点火コイル103に残存する磁気エネルギー量が大きくなる場合でも、電力耐量の小さいIGBT70を適用することができる。この結果、点火装置1の製造コストを削減できる。
【0054】
図3は、第1変形例に係る点火装置1の動作環境の一部を模式的に示すブロック図である。図3の変形例に示すように、IGBT70に対して並列に接続されたバイパス線125において、複数(本変形例では、2つ)の外部ツェナーダイオード172a,172bを、互いに直列に介挿してもよい。そして、これらの外部ツェナーダイオード172a,172bを、それぞれ、接地点152から1次コイルL1へ向かう方向が順方向となるように配置してもよい。この場合、これらの外部ツェナーダイオード172a,172bの降伏電圧の合計(例えば、50V)が、IGBT70の内部ツェナーダイオードの降伏電圧(例えば、56V)よりも低くなるようにすればよい。
【0055】
これにより、1次電流の遮断時に、点火コイル103に残存する磁気エネルギーにより生じる誘導電流が、1次側接地線123を通って流れる場合に、IGBT70の内部ツェナーダイオードを介する経路と、外部ツェナーダイオード172a,172bを介する経路とに分流しつつ、接地点152へ流すことができる。また、バイパス線125に1つの外部ツェナーダイオード72のみを介挿する場合よりも、2つの外部ツェナーダイオード172a,172bのそれぞれに掛かる電圧を低減できる。この結果、降伏電圧のさらに小さな外部ツェナーダイオード172a,172bを用いることができる。
【0056】
図4は、第2変形例に係る点火装置1の動作環境の一部を模式的に示すブロック図である。図4の変形例に示すように、IGBT70に対して並列に接続されたバイパス線125において、外部ツェナーダイオード72とともに、抵抗174を、外部ツェナーダイオード72と直列に介挿してもよい。これにより、バイパス線125上の外部ツェナーダイオード72および抵抗174のインピーダンスの合計と、IGBT70の内部インピーダンスとの、バランス調整を容易に行うことができる。また、抵抗174にて誘導電流が流れる時に電力を消費することによって電圧降下が生じるため、降伏電圧のさらに小さな外部ツェナーダイオード72を用いることができる。
【0057】
<2.第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同等の部分については、重複説明を省略する。
【0058】
図5は、第2実施形態に係る点火装置1の動作環境の一部を模式的に示すブロック図である。図5に示すように、第2実施形態では、1次側接地線123において、IGBT70に対して並列に接続された複数(本実施形態では、2本)のバイパス線225a,225bが設けられている。2本のバイパス線225a,225bのそれぞれの一端は、1次側接地線123における、IGBT70のC(コレクタ)と1次コイルL1の他端812との間の位置P1に接続される。2本のバイパス線225a,225bのそれぞれの他端は、1次側接地線123における、IGBT70のE(エミッタ)と接地点152との間の位置P2に接続される。
【0059】
また、2本のバイパス線225a,225bのそれぞれには、外部ツェナーダイオードが介挿されている。より具体的には、バイパス線225aには、外部ツェナーダイオード272aが介挿されている。また、バイパス線225bには、外部ツェナーダイオード272bが介挿されている。また、2つの外部ツェナーダイオード272a,272bはそれぞれ、接地点152から1次コイルL1へ向かう方向が順方向となるように配置されている。また、2つの外部ツェナーダイオード272a,272bのそれぞれの降伏電圧(例えば、50V)は、IGBT70の内部ツェナーダイオードの降伏電圧(例えば、56V)よりも低い。
【0060】
第1実施形態と同様に、放電制御において、1次電流の遮断時に、何らかの理由により点火プラグ113にて正常に放電が生じなかった場合、点火コイル103に磁気エネルギーが残存することとなる。この場合、1次コイルL1の他端812が、接地点152よりも高電圧となり、これにより生じる誘導電流が、1次側接地線123を通って、IGBT70の側へ流れることがある。この時、1次コイルL1の他端812の、接地点152に対する電位が、先ず、外部ツェナーダイオード272a,272bのそれぞれの降伏電圧に達した時に、バイパス線225a,225bのそれぞれにおいて、外部ツェナーダイオード272a,272bの逆方向に誘導電流が流れる。すなわち、1次コイルL1の他端812から、外部ツェナーダイオード272a,272bを介して接地点152へ、誘導電流を流すことができる。
【0061】
このように、点火コイル103に残存する磁気エネルギーにより生じる誘導電流を、外部ツェナーダイオード272aが介挿されたバイパス線225aを介する経路と、外部ツェナーダイオード272bが介挿されたバイパス線225bを介する経路とに分流しつつ、接地点152へ流すことができる。これにより、点火コイル103に残存する磁気エネルギーをさらに低減できる。
【0062】
この結果、続いて、1次コイルL1の他端812の、接地点152に対する電位が、IGBT70の内部ツェナーダイオードの降伏電圧に達し、IGBT70の内部ツェナーダイオードの逆方向に誘導電流が流れる時に、当該誘導電流をさらに低減することができる。これにより、IGBT70に不具合が生じることをさらに抑制できる。また、このような構成を用いることにより、高効率のレシプロエンジンに用いられるような、放電エネルギーの大きな点火コイル103において、点火コイル103に残存する磁気エネルギー量が大きくなる場合でも、さらに電力耐量の小さいIGBT70を適用することができる。この結果、点火装置1の製造コストをさらに削減できる。
【0063】
図6は、第3変形例に係る点火装置1の動作環境の一部を模式的に示すブロック図である。図6の変形例に示すように、IGBT70に対して並列に接続された2本のバイパス線225a,225bのそれぞれにおいて、外部ツェナーダイオードとともに、複数の抵抗を、外部ツェナーダイオードと直列に介挿してもよい。より具体的には、バイパス線225aにおいて、抵抗274aを、外部ツェナーダイオード272aと直列に介挿してもよい。また、バイパス線225bにおいて、抵抗274bを、外部ツェナーダイオード272bと直列に介挿してもよい。
【0064】
これにより、バイパス線225a上の外部ツェナーダイオード272aおよび抵抗274aのインピーダンスの合計と、バイパス線225b上の外部ツェナーダイオード272bおよび抵抗274bのインピーダンスの合計と、IGBT70の内部インピーダンスとの、バランス調整を容易に行うことができる。また、抵抗274a,274bにて誘導電流が流れる時に、電力を消費することによって、電圧降下が生じるため、降伏電圧のさらに小さな外部ツェナーダイオード272a,272bを用いることができる。
【0065】
<3.第3実施形態>
続いて、本発明の第3実施形態について説明する。なお、以下では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同等の部分については、重複説明を省略する。
【0066】
図7は、第3実施形態に係る点火装置1の動作環境の一部を模式的に示すブロック図である。図7に示すように、第3実施形態では、1次側接地線123において、IGBT70に対して並列に接続された複数(本実施形態では、2本)のバイパス線325a,325bが設けられている。2本のバイパス線325a,325bのそれぞれの一端は、1次側接地線123における、IGBT70のC(コレクタ)と1次コイルL1の他端812との間の位置P1に接続される。2本のバイパス線325a,325bのそれぞれの他端は、1次側接地線123における、IGBT70のE(エミッタ)と接地点152との間の位置P2に接続される。
【0067】
また、2本のバイパス線325a,325bのそれぞれには、複数の外部ツェナーダイオードが介挿されている。より具体的には、バイパス線325aには、複数(本実施形態では、2つ)の外部ツェナーダイオード372a,372bが、互いに直列に介挿されている。また、バイパス線325bには、複数(本実施形態では、2つ)の外部ツェナーダイオード372c,372dが、互いに直列に介挿されている。また、合計4つの外部ツェナーダイオード372a~372dはそれぞれ、接地点152から1次コイルL1へ向かう方向が順方向となるように配置されている。
【0068】
また、2本のバイパス線325a,325bのそれぞれにおいて、介挿された複数の外部ツェナーダイオードの降伏電圧の合計は、IGBT70の内部ツェナーダイオードの降伏電圧よりも低い。より具体的には、バイパス線325aに介挿された2つの外部ツェナーダイオード372a,372bの降伏電圧の合計(例えば、50V)は、IGBT70の内部ツェナーダイオードの降伏電圧(例えば、56V)よりも低い。また、バイパス線325bに介挿された2つの外部ツェナーダイオード372c,372dの降伏電圧の合計(例えば、50V)は、IGBT70の内部ツェナーダイオードの降伏電圧(例えば、56V)よりも低い。
【0069】
第2実施形態と同様に、放電制御において、1次電流の遮断時に、何らかの理由により点火プラグ113にて正常に放電が生じなかった場合、点火コイル103に磁気エネルギーが残存することとなる。この場合、1次コイルL1の他端812が、接地点152よりも高電圧となり、これにより生じる誘導電流が、1次側接地線123を通って、IGBT70の側へ流れることがある。この時、1次コイルL1の他端812の、接地点152に対する電位が、先ず、バイパス線325a,325bのそれぞれに介挿された複数の外部ツェナーダイオードの降伏電圧の合計に達した時に、バイパス線325a,325bのそれぞれにおいて、複数の外部ツェナーダイオードの逆方向に誘導電流が流れる。
【0070】
より具体的には、1次コイルL1の他端812の電位が、バイパス線325aに介挿された2つの外部ツェナーダイオード372a,372bの降伏電圧の合計に達した時に、バイパス線325aにおいて、外部ツェナーダイオード372a,372bの逆方向に誘導電流が流れる。また、1次コイルL1の他端812の電位が、バイパス線325bに介挿された2つの外部ツェナーダイオード372c,372dの降伏電圧の合計に達した時に、バイパス線325bにおいて、外部ツェナーダイオード372c,372dの逆方向に誘導電流が流れる。すなわち、点火コイル103に残存する磁気エネルギーにより生じる誘導電流を、バイパス線325aを介する経路と、バイパス線325bを介する経路とに分流しつつ、接地点152へ流すことができる。これにより、点火コイル103に残存する磁気エネルギーをさらに低減できる。
【0071】
この結果、続いて、IGBT70の内部ツェナーダイオードの逆方向に誘導電流が流れる時に、当該誘導電流をさらに低減することができるため、IGBT70に不具合が生じることをさらに抑制できる。また、このような構成を用いることにより、高効率のレシプロエンジンに用いられるような、放電エネルギーの大きな点火コイル103において、点火コイル103に残存する磁気エネルギー量が大きくなる場合でも、さらに電力耐量の小さいIGBT70を適用することができる。この結果、点火装置1の製造コストをさらに削減できる。
【0072】
また、バイパス線325aに、1つの外部ツェナーダイオードのみを介挿する場合よりも、2つの外部ツェナーダイオード372a,372bのそれぞれに掛かる電圧を低減できる。また、バイパス線325bに、1つの外部ツェナーダイオードのみを介挿する場合よりも、2つの外部ツェナーダイオード372c,372dのそれぞれに掛かる電圧を低減できる。この結果、降伏電圧のさらに小さな外部ツェナーダイオード372a~372dを用いることができる。
【0073】
<4.その他の変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態および変形例について説明したが、本発明は、上記の実施形態および変形例には限定されない。
【0074】
本発明の点火装置は、自動車等の車両のみならず、発電機等の様々な装置や産業機械に搭載されて、内燃機関の点火プラグに電気火花を発生させて燃料を点火させるために使用されるものであればよい。
【0075】
上記の点火装置の細部の形状や構造は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜に変更してもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 点火装置
40 ボビン
60 鉄心
70 IGBT
71 駆動IC(制御部)
72,172a,172b,272a,272b 外部ツェナーダイオード
81 1次導線
82 2次導線
102 電源装置
103 点火コイル
104 イグナイタ
105 ECU
113 点火プラグ
114 ダイオード
122 2次側接続線
123 1次側接地線
125,225a,225b,325a,325b バイパス線
151,152 接地点
173,273a,273b 抵抗
372a,372b,372c,372d 外部ツェナーダイオード
811 1次コイルの一端
812 1次コイルの他端
821 2次コイルの他端
822 2次コイルの一端
L1 1次コイル
L2 2次コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7