(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142514
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】嗜好性飲料及びインスタント嗜好性飲料用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20241003BHJP
A23F 5/24 20060101ALI20241003BHJP
A23F 3/16 20060101ALI20241003BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20241003BHJP
A23G 1/56 20060101ALI20241003BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20241003BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23F5/24
A23F3/16
A23L2/52
A23G1/56
A23L2/38 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054672
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】中室 賢一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 葉奈子
(72)【発明者】
【氏名】田口 萌恵
(72)【発明者】
【氏名】中村 厳海
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 優美
【テーマコード(参考)】
4B014
4B027
4B117
【Fターム(参考)】
4B014GB05
4B014GK12
4B014GL09
4B014GL11
4B014GP02
4B027FB06
4B027FB13
4B027FB24
4B027FC02
4B027FK04
4B027FK05
4B027FP85
4B027FQ19
4B117LC02
4B117LG17
4B117LK12
4B117LK13
4B117LK15
4B117LK18
4B117LL02
(57)【要約】
【課題】風味が改善された嗜好性飲料、及び当該嗜好性飲料を調製するためのインスタント嗜好性飲料用組成物の提供。
【解決手段】嗜好性飲料に、Cyclo-(Gly-Pro)を添加することを特徴とする、嗜好性飲料の風味改善方法;前記嗜好性飲料が、コーヒー飲料、ココア飲料、又は抹茶飲料である、前記の嗜好性飲料の風味改善方法;Cyclo-(Gly-Pro)を含有することを特徴とする、嗜好性飲料;液体と混合して、嗜好性飲料を調製するためのインスタント嗜好性飲料用組成物であって、Cyclo-(Gly-Pro)を含有している、インスタント嗜好性飲料用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
嗜好性飲料に、Cyclo-(Gly-Pro)を添加することを特徴とする、嗜好性飲料の風味改善方法。
【請求項2】
前記嗜好性飲料が、コーヒー飲料、ココア飲料、又は抹茶飲料である、請求項1に記載の嗜好性飲料の風味改善方法。
【請求項3】
Cyclo-(Gly-Pro)を含有することを特徴とする、嗜好性飲料。
【請求項4】
可溶性コーヒー固形分を含有しており、
乳、クリーミングパウダー、及び植物性ミルクのいずれも含有しておらず、
Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が2.0~80.0ppmである、請求項3に記載の嗜好性飲料。
【請求項5】
可溶性コーヒー固形分と、乳、クリーミングパウダー、及び植物性ミルクからなる群より選択される1種以上とを含有しており、
Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が2.0ppm以上である、請求項3に記載の嗜好性飲料。
【請求項6】
ココアパウダーを含有しており、
Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が0.03~6.0ppmである、請求項3に記載の嗜好性飲料。
【請求項7】
抹茶粉末を含有しており、
乳、クリーミングパウダー、及び植物性ミルクのいずれも含有しておらず、
Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が0.06~5.0ppmである、請求項3に記載の嗜好性飲料。
【請求項8】
抹茶粉末と、乳、クリーミングパウダー、及び植物性ミルクからなる群より選択される1種以上とを含有しており、
Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が0.09~4.0ppmである、請求項3に記載の嗜好性飲料。
【請求項9】
液体と混合して、嗜好性飲料を調製するためのインスタント嗜好性飲料用組成物であって、
Cyclo-(Gly-Pro)を含有している、インスタント嗜好性飲料用組成物。
【請求項10】
さらに、可溶性コーヒー固形分を含有しており、
乳、クリーミングパウダー、及び植物性ミルクのいずれも含有しておらず、
前記Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が、前記インスタント嗜好性飲料用組成物を液体と混合して得られる嗜好性飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が2.0~80.0ppmとなる量である、請求項9に記載のインスタント嗜好性飲料用組成物。
【請求項11】
さらに、可溶性コーヒー固形分と、乳、クリーミングパウダー、及び植物性ミルクからなる群より選択される1種以上とを含有しており、
前記Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が、前記インスタント嗜好性飲料用組成物を液体と混合して得られる嗜好性飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が2.0ppm以上となる量である、請求項9に記載のインスタント嗜好性飲料用組成物。
【請求項12】
さらに、ココアパウダーを含有しており、
前記Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が、前記インスタント嗜好性飲料用組成物を液体と混合して得られる嗜好性飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が0.03~6.0ppmとなる量である、請求項9に記載のインスタント嗜好性飲料用組成物。
【請求項13】
さらに、抹茶粉末を含有しており、
乳、クリーミングパウダー、及び植物性ミルクのいずれも含有しておらず、
前記Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が、前記インスタント嗜好性飲料用組成物を液体と混合して得られる嗜好性飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が0.06~5.0ppmとなる量である、請求項9に記載のインスタント嗜好性飲料用組成物。
【請求項14】
さらに、抹茶粉末と、粉乳、クリーミングパウダーからなる群より選択される1種以上とを含有しており、
前記Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が、前記インスタント嗜好性飲料用組成物を液体と混合して得られる嗜好性飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が0.09~4.0ppmとなる量である、請求項9に記載のインスタント嗜好性飲料用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー等の嗜好性飲料の風味を改善する方法、及び当該方法により風味が改善された嗜好性飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒーや紅茶は、日常的に広く親しまれている嗜好性飲料であり、容器詰飲料や、水等の液体に溶解させることにより喫飲可能となるインスタント飲料用組成物が多数上市されている。コーヒー豆は天然物であり、コーヒー抽出液中には、コーヒーらしい味や香気を担う成分以外にも、コーヒーの風味を損なうような雑味成分も含まれている。コーヒー抽出液から雑味成分を除くことにより、より香味に優れた容器詰コーヒー飲料やインスタントコーヒーを製造することができると期待できる。
【0003】
例えば、コーヒーの苦味物質(呈味)としては、カフェインやジケトピペラジン(DKP)、CQL(クロロゲン酸ラクトン)等が知られている。DKPは、ペプチドのN末端アミノ基が環化することで生成される環状ジペプチドであり(特許文献1参照。)、コーヒーでは焙煎により生成し、プロリン(pro)を含んだジペプチドから生じやすいことが知られている(非特許文献1参照。)。焙煎前にコーヒー生豆にペプチドを吸収又は表面に付着させておくことにより、苦味成分であるDKPの含有量が多い焙煎コーヒー豆を製造し、当該焙煎コーヒー豆から、DKP含有量が多く、苦味が強いコーヒー飲料を製造できることも知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5456876号公報
【特許文献2】国際公開第2019/189580号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】佐野茂樹ら、化学、2012年、第67巻、第2号、第23~27ページ。
【非特許文献2】Otsuka et al.,ANALYTICAL SCIENCE,2020,vol.36,p.977-980.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、風味が改善された嗜好性飲料、及び当該嗜好性飲料を調製するためのインスタント嗜好性飲料用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ジケトピペラジンの一種であるCyclo-(Gly-Pro)を適当量含有させることにより、コーヒー飲料等の嗜好性飲料の風味を改善できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
[1] 嗜好性飲料に、Cyclo-(Gly-Pro)を添加することを特徴とする、嗜好性飲料の風味改善方法。
[2] 前記嗜好性飲料が、コーヒー飲料、ココア飲料、又は抹茶飲料である、前記[1]の嗜好性飲料の風味改善方法。
[3] Cyclo-(Gly-Pro)を含有することを特徴とする、嗜好性飲料。
[4] 可溶性コーヒー固形分を含有しており、
乳、クリーミングパウダー、及び植物性ミルクのいずれも含有しておらず、
Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が2.0~80.0ppmである、前記[3]の嗜好性飲料。
[5] 可溶性コーヒー固形分と、乳、クリーミングパウダー、及び植物性ミルクからなる群より選択される1種以上とを含有しており、
Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が2.0ppm以上である、前記[3]の嗜好性飲料。
[6] ココアパウダーを含有しており、
Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が0.03~6.0ppmである、前記[3]の嗜好性飲料。
[7] 抹茶粉末を含有しており、
乳、クリーミングパウダー、及び植物性ミルクのいずれも含有しておらず、
Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が0.06~5.0ppmである、前記[3]の嗜好性飲料。
[8] 抹茶粉末と、乳、クリーミングパウダー、及び植物性ミルクからなる群より選択される1種以上とを含有しており、
Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が0.09~4.0ppmである、前記[3]の嗜好性飲料。
[9] 液体と混合して、嗜好性飲料を調製するためのインスタント嗜好性飲料用組成物であって、
Cyclo-(Gly-Pro)を含有している、インスタント嗜好性飲料用組成物。
[10] さらに、可溶性コーヒー固形分を含有しており、
乳、クリーミングパウダー、及び植物性ミルクのいずれも含有しておらず、
前記Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が、前記インスタント嗜好性飲料用組成物を液体と混合して得られる嗜好性飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が2.0~80.0ppmとなる量である、前記[9]のインスタント嗜好性飲料用組成物。
[11] さらに、可溶性コーヒー固形分と、乳、クリーミングパウダー、及び植物性ミルクからなる群より選択される1種以上とを含有しており、
前記Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が、前記インスタント嗜好性飲料用組成物を液体と混合して得られる嗜好性飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が2.0ppm以上となる量である、前記[9]のインスタント嗜好性飲料用組成物。
[12] さらに、ココアパウダーを含有しており、
前記Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が、前記インスタント嗜好性飲料用組成物を液体と混合して得られる嗜好性飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が0.03~6.0ppmとなる量である、前記[9]のインスタント嗜好性飲料用組成物。
[13] さらに、抹茶粉末を含有しており、
乳、クリーミングパウダー、及び植物性ミルクのいずれも含有しておらず、
前記Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が、前記インスタント嗜好性飲料用組成物を液体と混合して得られる嗜好性飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が0.06~5.0ppmとなる量である、前記[9]のインスタント嗜好性飲料用組成物。
[14] さらに、抹茶粉末と、粉乳、クリーミングパウダーからなる群より選択される1種以上とを含有しており、
前記Cyclo-(Gly-Pro)の含有量が、前記インスタント嗜好性飲料用組成物を液体と混合して得られる嗜好性飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が0.09~4.0ppmとなる量である、前記[9]のインスタント嗜好性飲料用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る嗜好性飲料の風味改善方法により、Cyclo-(Gly-Pro)を含有させる前の嗜好性飲料よりも風味が改善された嗜好性飲料及び当該嗜好性飲料を調製するためのインスタント嗜好性飲料用組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明及び本願明細書において、「ppm」及び「ppb」は、それぞれ、「質量ppm(0.0001質量%)」及び「質量ppb(0.0000001質量%)」を意味する。
【0011】
本発明及び本願明細書において、「X1~X2(X1及びX2は、X1<X2を充たす実数)」は、「X1以上X2以下」の数値範囲を意味する。
【0012】
本発明及び本願明細書において、「インスタント嗜好性飲料用組成物」とは、水や牛乳等の可食性液体に溶解、希釈、又は分散させることによって嗜好性飲料を調製し得る組成物を意味する。インスタント嗜好性飲料用組成物は、粉末であってもよく、液体であってもよい。また、本発明及び本願明細書において、インスタント嗜好性飲料用組成物を水等の可食性液体に溶解、希釈、又は分散させることによって調製された飲料を、「インスタント飲料」という。インスタント飲料用組成物は、製造する対象の飲料の可溶性固形分を含む各種原料から常法により製造できる。
【0013】
本発明及び本願明細書において、「粉末」とは粉粒体(異なる大きさの分布をもつ多くの固体粒子からなり,個々の粒子間に,何らかの相互作用が働いているもの)を意味する。また、「顆粒」は粉末から造粒された粒子(顆粒状造粒物)の集合体である。粉末には、顆粒も含まれる。
【0014】
本発明及び本願明細書において、「嗜好性飲料」とは、嗜好性飲料の可溶性固形分又は嗜好性飲料原料の粉末を含有する飲料である。具体的には、コーヒー飲料;紅茶、緑茶、抹茶、烏龍茶等の茶飲料;ハーブティー、ココア飲料、又はこれらの混合飲料を意味する。ハーブティーの原料としては、ハイビスカス、ローズヒップ、ペパーミント、カモミール、レモングラス、レモンバーム、ラベンダー等が挙げられる。
【0015】
嗜好性飲料の可溶性固形分は、焙煎されたコーヒー豆や茶葉等の嗜好性原料から抽出された可溶性の固形分である。嗜好性飲料やインスタント嗜好性飲料用組成物の原料となる嗜好性飲料の可溶性固形分は、液体であってもよく、粉末化したものであってもよい。粉末の可溶性固形分としては、具体的には、可溶性コーヒー固形分粉末(インスタントコーヒー粉末)、可溶性紅茶固形分粉末(インスタント紅茶粉末、以下同様)、インスタント緑茶粉末、インスタントウーロン茶粉末、インスタントハーブティー粉末、及びこれらのうちの2種類以上の混合粉末等が挙げられる。
【0016】
嗜好性飲料の粉末の可溶性固形分は、常法により製造することができ、また、市販されているものを用いてもよい。例えば、インスタントコーヒー粉末は、焙煎したコーヒー豆から熱水を用いて可溶性の固形分を抽出し、得られた抽出物を乾燥することにより得られる。また、茶飲料の粉末状の可溶性固形分は、紅茶葉、緑茶葉(生茶葉)、ウーロン茶葉等の茶葉から熱水を用いて可溶性の固形分を抽出し、得られた抽出物を乾燥することにより得られる。インスタントハーブティー粉末は、ハーブの原料から熱水を用いて可溶性の固形分を抽出し、得られた抽出物を乾燥することにより得られる。コーヒー豆や茶葉等の嗜好性飲料の原料としては、一般的に嗜好性飲料に使用されているものを用いることができる。得られた抽出物の乾燥方法としては、凍結乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥等が挙げられる。また、茶葉やコーヒー豆からの抽出物は、乾燥前に、必要に応じて濃縮してもよい。
当該濃縮方法としては、熱濃縮方法、冷凍濃縮方法、逆浸透膜や限外濾過膜等を用いた膜濃縮方法等の汎用されている濃縮方法により行うことができる。
【0017】
嗜好性飲料に含まれる嗜好性飲料原料の粉末としては、例えば、ココアパウダーや抹茶粉末が挙げられる。ココアパウダーや抹茶粉末としては、一般的に飲食品に使用されているものを用いることができる。
【0018】
本発明及び本願明細書において、「コーヒー飲料」とは、焙煎コーヒー豆の熱水抽出物の可溶性固形分(可溶性コーヒー固形分)を原料として含有する飲料を意味する。「紅茶飲料」、「緑茶飲料」、「烏龍茶飲料」とは、それぞれ、紅茶、緑茶、及び烏龍茶の茶葉の熱水抽出物の可溶性固形分を原料として含有する飲料を意味する。「ハーブティー(ハーブ茶飲料)」とは、原料となるハーブの熱水抽出物の可溶性固形分を原料として含有する飲料を意味する。「抹茶飲料」とは、抹茶粉末を原料として含有する飲料を意味する。「ココア飲料」とは、ココアパウダーを原料として含有する飲料を意味する。
【0019】
<嗜好性飲料の風味改善方法>
本発明に係る嗜好性飲料の風味改善方法は、嗜好性飲料に、Cyclo-(Gly-Pro)を添加することを特徴とする。すなわち、Cyclo-(Gly-Pro)を風味改善剤として用いており、Cyclo-(Gly-Pro)を嗜好性飲料に適量含有させることにより、それぞれの嗜好性飲料に特有の風味を改善することができる。
【0020】
Cyclo-(Gly-Pro)は、ジペプチドGly-ProのN末端アミノ基が環化することで生成される環状ジペプチドであり、DKPの一種である。Cyclo-(Gly-Pro)は、他のDKPと同様に苦味を有する呈味成分である。Cyclo-(Gly-Pro)により、嗜好性飲料が有する風味のうち、苦味とは直接関係がない風味を改善できることは、本願発明者らによって初めて見いだされた知見である。
【0021】
嗜好性飲料に風味改善剤として含有させるCyclo-(Gly-Pro)は、合成品や精製品であってもよく、天然物や他の食品素材から抽出された組成物であってもよい。Cyclo-(Gly-Pro)は、例えば、特許文献1に記載の方法のように、直鎖ジペプチドGly-Proを加熱処理して環化させることにより合成できる。その他、Cyclo-(Gly-Pro)としては、市販されているものをそのまま用いることもできる。
【0022】
ペプチドを内部に吸収させる又は表面に付着させたコーヒー生豆を焙煎した焙煎コーヒー豆からの熱水抽出物には、Cyclo-(Gly-Pro)をはじめとするDKPが多く含まれている(特許文献2)。そこで、このようなペプチドをコーヒー生豆に吸収又は表面に付着させた後に焙煎して得られた焙煎コーヒー豆からの熱水抽出物に含まれているCyclo-(Gly-Pro)を、風味改善剤として使用することもできる。コーヒー生豆に吸収又は表面に付着させるペプチドの種類や焙煎時を適宜調整することにより、DKPのうち特にCyclo-(Gly-Pro)を多く含む焙煎コーヒー豆熱水抽出物を調製することもできる。Cyclo-(Gly-Pro)を多く含む焙煎コーヒー豆熱水抽出物を調製する際に、コーヒー生豆に吸収又は表面に付着させるペプチドとしては、コラーゲンペプチドが好ましく、魚、豚、小麦、若しくはトウモロコシ由来のコラーゲンペプチドがより好ましく、これらのコラーゲンペプチドを加水分解処理等により重量平均分子量が500~5000となるように分解したタンパク質分解物がさらに好ましい。また、合成した直鎖ジペプチドGly-Proを、コーヒー生豆に吸収又は表面に付着させるペプチドとして用いることもできる。こうして得られた焙煎コーヒー豆熱水抽出物は、そのまま風味改善剤として嗜好性飲料に含有させてもよく、当該焙煎コーヒー豆熱水抽出物を分画等してCyclo-(Gly-Pro)を多く含む画分を分取し、この画分を風味改善剤として嗜好性飲料に含有させてもよい。コーヒー生豆へのペプチドの吸収又は表面への付着、焙煎方法、熱水抽出方法等は、常法により行うことができる(特許文献2参照。)。
【0023】
Cyclo-(Gly-Pro)による風味改善効果は、主に、濃度感の増強効果、風味増強効果、オフフレーバー(収斂味、雑味、不快な酸味、穀物臭等)の低減効果、の3種に分けられ、適用される嗜好性飲料の種類によって、表れやすい効果が異なる。例えば、嗜好性飲料がコーヒー飲料の場合、Cyclo-(Gly-Pro)を含有させることにより、コーヒー風味(コーヒー特有の香りや呈味)が増強されたり、収斂味、雑味、不快な酸味、穀物臭等のオフフレーバーが低減される。嗜好性飲料がミルク入りコーヒー飲料やミルク入り紅茶等のミルク風味を有する飲料である場合、濃度感が増強され、ミルク風味も増強される。嗜好性飲料がココア飲料である場合、濃度感が増強され、ココア風味も増強されたり、ココア飲料の嗜好性に重要な特性である甘味も増強される。嗜好性飲料が抹茶飲料の場合、濃度感が増強され、抹茶飲料としての嗜好性が高まる。
【0024】
嗜好性飲料に含有させるCyclo-(Gly-Pro)の量は、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)濃度が、Cyclo-(Gly-Pro)による風味改善効果が得られる濃度となる量であれば、特に限定されるものではなく、嗜好性飲料の種類や要求される製品品質等を考慮して適宜決定される。Cyclo-(Gly-Pro)による嗜好性飲料の風味改善効果、特に、濃度感増強効果、風味増強効果、オフフレーバー低減効果は、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)の含有量に依存する。嗜好性飲料の飲料全体に対するCyclo-(Gly-Pro)濃度が高くなるほど、高い風味改善効果が得られやすい。このため、本発明においては、嗜好性飲料のCyclo-(Gly-Pro)含有量は、0.01ppm以上に調整されることが好ましく、0.05ppm以上に調整されることがより好ましい。一方で、Cyclo-(Gly-Pro)濃度が高くなりすぎると、Cyclo-(Gly-Pro)が本来有する苦味により嗜好性飲料の呈味が影響を受け、嗜好性飲料らしい風味がかえって損なわれるおそれがある。この点から、本発明においては、嗜好性飲料のCyclo-(Gly-Pro)含有量は、120ppm以下に調整されることが好ましく、100ppm以下に調整されることがより好ましい。
【0025】
なお、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)の検出及び定量は、Otsukaらの方法(非特許文献2参照。)の方法に準じて行うことができる。
【0026】
Cyclo-(Gly-Pro)による風味改善に供される嗜好性飲料は、嗜好性飲料の原料から常法により調製された飲料であってもよく、インスタント嗜好性飲料用組成物から調製されたインスタント飲料であってもよい。例えば、常法により調製した嗜好性飲料に、Cyclo-(Gly-Pro)又はこれを含む組成物を、飲料のCyclo-(Gly-Pro)濃度が所望の範囲内となるように添加することで、Cyclo-(Gly-Pro)の添加前よりも風味が改善された嗜好性飲料が得られる。常法により製造されたインスタント嗜好性飲料用組成物を水等と混合して調製されたインスタント嗜好性飲料に、飲料のCyclo-(Gly-Pro)濃度が所望の範囲内となるように添加することによっても、Cyclo-(Gly-Pro)の添加前よりも風味が改善された嗜好性飲料が得られる。また、嗜好性飲料の製造工程のいずれかの段階で、Cyclo-(Gly-Pro)又はこれを含む組成物を原料として配合することによっても、所望の濃度のCyclo-(Gly-Pro)を含有しており、風味が改善された嗜好性飲料が得られる。インスタント嗜好性飲料用組成物の製造工程のいずれかの段階で、Cyclo-(Gly-Pro)又はこれを含む組成物を原料として配合することによって、Cyclo-(Gly-Pro)を含有するインスタント嗜好性飲料用組成物が製造され、これを水等と混合することで、所望の濃度のCyclo-(Gly-Pro)を含有しており、風味が改善されたインスタント嗜好性飲料が得られる。
【0027】
Cyclo-(Gly-Pro)による風味改善に供される嗜好性飲料がコーヒー飲料である場合、当該コーヒー飲料としては、特に限定されるものではない。例えば、原料のコーヒー豆の種類や産地は特に限定されず、アラビカ種であってもよく、ロバスタ種であってもよく、リベリカ種であってもよく、2種以上の品種のコーヒー豆をブレンドしたものであってもよい。また、コーヒー生豆の焙煎方法や焙煎度も特に限定されるものではなく、直火焙煎法、熱風焙煎法、遠赤外線焙煎法、炭火式焙煎法、マイクロ波焙煎法等の一般的にコーヒー豆の焙煎に使用されるいずれの方法で行ってもよく、浅煎り、中煎り、深煎り等のいずれの焙煎度であってもよい。可溶性固形分の抽出効率が高くなるため、焙煎コーヒー豆は、可溶性固形分が抽出される前に粉砕されていることが好ましい。焙煎コーヒー豆の粉砕は、ロールミル等の一般的な粉砕機を用いて行うことができる。粉砕度は特に限定されるものではなく、粗挽き、中粗挽き、中挽き、中細挽き、細挽きなどの種々の形状の焙煎コーヒー豆を用いることができる。焙煎されたコーヒー豆又はその粉砕物からの熱水抽出は、ペーパやネル等を用いたドリップ法、サイフォン式やパーコレータ式等の蒸気圧を利用した方法、エスプレッソマシン等を用いた高圧抽出法、フレンチプレス法、エアロプレス法、多段抽出式や向流式連続抽出式等の高温高圧抽出法等、各種の公知の抽出方法の中から適宜選択して用いることができる。
【0028】
コーヒー飲料の製造においては、原料とするコーヒー抽出液は、予め濃縮処理や希釈処理、不要物除去処理等の各種処理を施しておいてもよい。コーヒー抽出液の濃縮処理は、熱濃縮方法、冷凍濃縮方法、逆浸透膜や限外濾過膜等を用いた膜濃縮方法等の汎用されている濃縮方法により行うことができる。不要物除去処理は、濾過処理、遠心分離処理等の一般的に飲料から不溶物を除去するために行われている処理で行うことができる。また、これらの処理は、その他の原料を添加して混合した後のコーヒー抽出液に対して行ってもよい。
【0029】
Cyclo-(Gly-Pro)による風味改善に供されるコーヒー飲料としては、可溶性コーヒー固形分以外の他の成分を含有していてもよい。当該他の成分としては、Cyclo-(Gly-Pro)による風味改善効果を損なわない限り、特に限定されるものではなく、ミルク原料、甘味料、香料、酸化防止剤、pH調整剤、増粘剤、乳化剤等の、嗜好性飲料に一般的に配合される各種の成分が挙げられる。
【0030】
ミルク原料は、ミルク風味を付与する原料であり、具体的には、乳、クリーミングパウダー(クリームの代用として、コーヒー等の嗜好性飲料に添加される粉末)、植物性ミルク等が挙げられる。これらのミルク原料は、1種類のみを含有していてもよく、2種類以上を組み合わせて含有させてもよい。なお、ミルク原料を含むコーヒー飲料をミルクコーヒー飲料といい、ミルク原料を含まないコーヒー飲料をブラックコーヒー飲料という。
【0031】
乳としては、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、牛乳、低脂肪乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、加糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖脱脂練乳、乳糖、生クリーム、バター等が挙げられる。なお、全脂粉乳及び脱脂粉乳は、それぞれ、牛乳(全脂乳)又は脱脂乳を、スプレードライ等により水分を除去して乾燥し粉末化したものである。
【0032】
クリーミングパウダーは、例えば、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、水添パーム油、パーム核油、水添パーム核油、大豆油、コーン油、綿実油、ナタネ油、こめ油、サフラワー油(ベニバナ油)、ひまわり油、中鎖脂肪酸トリグリセライド、乳脂、牛脂、豚脂等の食用油脂;シヨ糖、グルコース、澱粉加水分解物等の糖質;カゼインナトリウム、第二リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、脱脂粉乳、乳化剤等のその他の原料等を、望まれる品質特性に応じて選択し、これらの原料を水中で混合し、次いで乳化機等で水中油型乳化液(O/Wエマルション)とした後、水分を除去することによって製造することができる。水分を除去する方法としては、噴霧乾燥、噴霧凍結、凍結乾燥、凍結粉砕、押し出し造粒法等、任意の方法を選択して行うことができる。得られたクリーミングパウダーは、必要に応じて、分級、造粒及び粉砕等を行ってもよい。
【0033】
植物性ミルクとしては、豆類のミルク、ナッツのミルク、穀類のミルクが挙げられる。豆類のミルクとしては、豆乳等が挙げられる。ナッツミルクとしては、ピーナッツミルク、アーモンドミルク、クルミ(ウォールナッツ)ミルク、ピスタチオミルク、ヘーゼルナッツミルク、カシューナッツミルク、ピーカンナッツミルク等が挙げられる。穀類のミルクとしては、ライスミルク、オーツミルク等が挙げられる。これらの乳や植物性ミルクは、常法により製造することができる。
【0034】
甘味料としては、ショ糖、オリゴ糖、ブドウ糖、果糖、果糖ブドウ糖液糖等の糖類、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、キシリトール、還元水あめ等の糖アルコール、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテーム、アドバンテーム、サッカリン等の高甘味度甘味料、ステビア等が挙げられる。ショ糖としては、グラニュー糖であってもよく、粉糖であってもよく、ショ糖型液糖であってもよい。甘味料は、1種類のみを含有していてもよく、2種類以上を組み合わせて含有させてもよい。
【0035】
酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンE(トコフェロール)、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、クロロゲン酸、カテキン等が挙げられる。
【0036】
pH調整剤としては、例えば、クエン酸、コハク酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸等の有機酸や、リン酸等の無機酸、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)、二酸化炭素等が挙げられる。
【0037】
増粘剤としては、デキストリン等の澱粉分解物、麦芽糖、トレハロース等の糖類、難消化性デキストリン、ペクチン、グアーガム、カラギーナン等の食物繊維、カゼイン等のタンパク質等が挙げられる。
【0038】
乳化剤としては、例えば、モノグリセライド、ジグリセライド、有機酸モノグリセライド、ポリグリセリンエステル等のグリセリン脂肪酸エステル系乳化剤;ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル系乳化剤;プロピレングリコールモノステアレート、プロピレングリコールモノパルミテート、プロピレングリコールオレエート等のプロピレングリコール脂肪酸エステル系乳化剤;ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル等のシュガーエステル系乳化剤;レシチン、レシチン酵素分解物等のレシチン系乳化剤等が挙げられる。
【0039】
嗜好性飲料がコーヒー飲料である場合、コーヒー風味増強効果や、収斂味、雑味、不快な酸味、穀物臭等のオフフレーバーの低減効果がより充分に得られる点から、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)含有量を、2.0ppm以上に調整することが好ましく、3.0ppm以上に調整することがより好ましく、4.0ppm以上に調整することがさらに好ましく、5.0ppm以上に調整することがよりさらに好ましい。また、過剰量のCyclo-(Gly-Pro)による苦味の影響を抑えられる点から、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)含有量は、ブラックコーヒー飲料の場合には、80.0ppm以下に調整することが好ましく、75.0ppm以下に調整することがより好ましく、70.0ppm以下に調整することがさらに好ましい。ミルクコーヒー飲料の場合には、150ppm以下に調整することが好ましく、125.0ppm以下に調整することがより好ましく、100.0ppm以下に調整することがさらに好ましい。
【0040】
Cyclo-(Gly-Pro)による風味改善に供される嗜好性飲料がインスタントコーヒー飲料である場合、可溶性コーヒー固形分を含有しているインスタントコーヒー飲料用組成物から調製されたインスタントコーヒー飲料に、Cyclo-(Gly-Pro)又はこれを含む組成物を、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)含有量が2.0ppm以上になる量を添加してもよい。また、可溶性コーヒー固形分を含有しているインスタントコーヒー飲料用組成物自体に、当該インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が2.0ppm以上となる量のCyclo-(Gly-Pro)を含有させてもよい。
【0041】
インスタントコーヒー飲料用組成物のCyclo-(Gly-Pro)の含有量としては、当該インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるコーヒー飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が2.0ppm以上となる量であることが好ましく、3.0ppm以上となる量であることがより好ましく、4.0ppm以上となる量であることがさらに好ましく、5.0ppm以上となる量であることがよりさらに好ましい。また、ブラックコーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物の場合には、当該インスタントコーヒー飲料用組成物のCyclo-(Gly-Pro)の含有量としては、当該インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるブラックコーヒー飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が、80.0ppm以下となる量であることが好ましく、75.0ppm以下となる量であることがより好ましく、70.0ppm以下となる量であることがさらに好ましい。ミルクコーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物の場合には、当該インスタントコーヒー飲料用組成物のCyclo-(Gly-Pro)の含有量としては、当該インスタントコーヒー飲料用組成物を液体と混合して得られるミルクコーヒー飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が、150ppm以下となる量であることが好ましく、125.0ppm以下となる量であることがより好ましく、100.0ppm以下となる量であることがさらに好ましい。
【0042】
インスタントコーヒー飲料用組成物に含有させる可溶性コーヒー固形分としては、焙煎されたコーヒー豆から抽出されたコーヒー抽出液、すなわち、可溶性コーヒー固形分が溶解している抽出液をそのまま原料としてもよく、当該抽出液から可溶性コーヒー固形分のみを粉末化して得られたインスタントコーヒー粉末を原料としてもよい。インスタントコーヒー粉末を原料とする場合、粉末をそのまま原料としてもよく、予め水等の液体に溶かして調製された水溶液を原料としてもよい。
【0043】
インスタントコーヒー飲料用組成物は、Cyclo-(Gly-Pro)による風味改善効果を過度に損なわない限り、可溶性コーヒー固形分と、Cyclo-(Gly-Pro)又はこれを含む組成物との他に、各種の成分を含有していてもよい。当該各種の成分としては、インスタント嗜好性飲料用組成物に一般的に含まれている成分を含有していてもよい。具体的には、当該成分としては、ミルク原料、甘味料、香料、酸化防止剤、pH調整剤、増粘剤、乳化剤、賦形剤、結合剤、流動性改良剤(固結防止剤)等の、インスタント嗜好性飲料に一般的に配合される各種の成分が挙げられる。これらの添加剤は、粉末状であってもよく、液状であってもよい。製造されるインスタントコーヒー飲料用組成物が粉末組成物の場合、使用する各種添加剤は、粉末であることが好ましい。
【0044】
ブラックコーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物の場合には、当該インスタントコーヒー飲料用組成物には、ミルク原料は含まれない。一方で、ミルクコーヒー飲料を調製するためのインスタントコーヒー飲料用組成物の場合には、当該インスタントコーヒー飲料用組成物にミルク原料を含有させてもよく、当該インスタントコーヒー飲料用組成物にはミルク原料を含有させず、当該インスタントコーヒー飲料用組成物を溶解させる可食性液体を、牛乳等のミルク原料を含む可食性液体としてもよい。
【0045】
甘味料、香料、酸化防止剤、pH調整剤、増粘剤、乳化剤としては、コーヒー飲料で原料として挙げられたものを用いることができる。
賦形剤や結合剤としては、麦芽糖、トレハロース、デキストリン等の糖類、難消化性デキストリン等の食物繊維、カゼイン等のタンパク質等が挙げられる。なお、賦形剤や結合剤は、造粒時の担体としても用いられる。
流動性改良剤としては、微粒酸化ケイ素、第三リン酸カルシウム等の加工用製剤が用いられてもよい。
【0046】
インスタントコーヒー飲料用組成物は、可溶性コーヒー固形分と、Cyclo-(Gly-Pro)又はこれを含む組成物とを、その他の原料と混合することによって製造される。混合の順番は特に限定されるものではなく、全ての原料を同時に混合してもよく、順次混合させてもよい。
【0047】
全ての原料が粉末の場合には、全ての原料をそのまま混合することによって、粉末のインスタントコーヒー飲料用組成物が製造される。一方で、全ての原料が液状の場合には、全ての原料をそのまま混合することによって、液状のインスタントコーヒー飲料用組成物が製造される。粉末原料と液状の原料を用いる場合、粉末原料混合物と、液状原料の混合乾燥物をブレンドすることによって、粉末のインスタントコーヒー飲料用組成物が製造される。また、液状の原料の混合液に、粉末の原料を溶解又は分散させることによって、液状のインスタントコーヒー飲料用組成物が製造される。
【0048】
Cyclo-(Gly-Pro)による風味改善に供される嗜好性飲料がココア飲料である場合、当該ココア飲料としては、特に限定されるものではない。例えば、原料のココアパウダーのココアパウダー全量に対するココアバターの含有量は、特に限定されるものではなく、いわゆるローファットココアパウダー(ココアパウダー全量に対するココアバターの含有量が12質量%以下のもの)であってもよく、いわゆるハイファットココアパウダー(ココアパウダー全量に対するココアバターの含有量が22質量%以上のもの)であってもよい。
【0049】
Cyclo-(Gly-Pro)による風味改善に供されるココア飲料としては、ココアパウダー以外の他の成分を含有していてもよい。当該他の成分としては、Cyclo-(Gly-Pro)による風味改善効果を損なわない限り、特に限定されるものではなく、ミルク原料、甘味料、香料、酸化防止剤、pH調整剤、増粘剤、乳化剤等の、嗜好性飲料に一般的に配合される各種の成分が挙げられる。ミルク原料等としては、前記のコーヒー飲料に配合される成分と同様のものが使用できる。
【0050】
嗜好性飲料がココア飲料である場合、濃度感増強効果、ココア風味増強効果、甘味増強効果がより充分に得られる点から、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)含有量を、0.03ppm以上に調整することが好ましく、0.05ppm以上に調整することがより好ましく、0.10ppm以上に調整することがさらに好ましく、0.15ppm以上に調整することがよりさらに好ましく、0.80ppm以上に調整することが特に好ましい。また、過剰量のCyclo-(Gly-Pro)による苦味の影響を抑えられる点から、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)含有量は、6.0ppm以下に調整することが好ましく、5.0ppm以下に調整することがより好ましく、3.5ppm以下に調整することがさらに好ましい。
【0051】
Cyclo-(Gly-Pro)による風味改善に供される嗜好性飲料がインスタントココア飲料である場合、ココアパウダーを含有しているインスタントココア飲料用組成物から調製されたインスタントココア飲料に、Cyclo-(Gly-Pro)又はこれを含む組成物を、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)含有量が0.03ppm以上になる量を添加してもよい。また、ココアパウダーを含有しているインスタントココア飲料用組成物自体に、当該インスタントココア飲料用組成物を液体と混合して得られるココア飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が0.03ppm以上となる量のCyclo-(Gly-Pro)を含有させてもよい。
【0052】
インスタントココア飲料用組成物のCyclo-(Gly-Pro)の含有量としては、当該インスタントココア飲料用組成物を液体と混合して得られるココア飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が0.03ppm以上となる量であることが好ましく、0.05ppm以上となる量であることがより好ましく、0.10ppm以上となる量であることがさらに好ましく、0.15ppm以上となる量であることがよりさらに好ましく、0.80ppm以上となる量であることが特に好ましい。また、インスタントココア飲料用組成物のCyclo-(Gly-Pro)の含有量としては、当該インスタントココア飲料用組成物を液体と混合して得られるココア飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が、6.0ppm以下となる量であることが好ましく、5.0ppm以下となる量であることがより好ましく、3.5ppm以下となる量であることがさらに好ましい。
【0053】
インスタントココア飲料用組成物としては、可溶性コーヒー固形分に代えてココアパウダーを用いる以外は、インスタントコーヒー飲料用組成物と同様にして製造することができる。
【0054】
Cyclo-(Gly-Pro)による風味改善に供される嗜好性飲料が抹茶飲料である場合、当該抹茶飲料としては、特に限定されるものではない。例えば、抹茶粉末の原料となる茶葉は、碾茶の葉であって、発酵させずに生のままの葉であればよく、一番茶であってもよく、二番茶であってもよく、三番茶であってもよく、秋冬番茶(四番茶)であってもよい。
【0055】
Cyclo-(Gly-Pro)による風味改善に供される抹茶飲料としては、抹茶粉末以外の他の成分を含有していてもよい。当該他の成分としては、Cyclo-(Gly-Pro)による風味改善効果を損なわない限り、特に限定されるものではなく、ミルク原料、甘味料、香料、酸化防止剤、pH調整剤、増粘剤、乳化剤等の、嗜好性飲料に一般的に配合される各種の成分が挙げられる。ミルク原料等としては、前記のコーヒー飲料に配合される成分と同様のものが使用できる。
【0056】
嗜好性飲料が抹茶飲料である場合、濃度感増強効果がより充分に得られる点から、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)含有量を、0.06ppm以上に調整することが好ましく、0.09ppm以上に調整することがより好ましく、0.20ppm以上に調整することがさらに好ましく、0.50ppm以上に調整することがよりさらに好ましい。また、過剰量のCyclo-(Gly-Pro)による苦味の影響を抑えられる点から、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)含有量は、5.0ppm以下に調整することが好ましく、4.6ppm以下に調整することがより好ましく、3.0ppm以下に調整することがさらに好ましい。ミルク原料を含む抹茶飲料(抹茶ミルク飲料)を調製するためのインスタント抹茶飲料用組成物の場合には、当該インスタント抹茶飲料用組成物のCyclo-(Gly-Pro)の含有量としては、当該インスタント抹茶飲料用組成物を液体と混合して得られる抹茶ミルク飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が0.09~4.0ppmとなる量であることが好ましい。ミルク原料を含有していない抹茶飲料を調製するためのインスタント抹茶飲料用組成物の場合には、当該インスタント抹茶飲料用組成物のCyclo-(Gly-Pro)の含有量としては、当該インスタント抹茶飲料用組成物を液体と混合して得られる抹茶ミルク飲料のCyclo-(Gly-Pro)の含有量が0.06~5.0ppmとなる量であることが好ましい。
【0057】
インスタント抹茶飲料用組成物としては、可溶性コーヒー固形分に代えて抹茶粉末を用いる以外は、インスタントコーヒー飲料用組成物と同様にして製造することができる。
【0058】
ミルク原料によって強い苦味は抑えられることから、嗜好性飲料がミルク原料を含有している場合、ミルク原料を有していない嗜好性飲料よりも、より多量のCyclo-(Gly-Pro)を含有させた場合でも、Cyclo-(Gly-Pro)による苦味の影響を抑えてより高い風味改善効果が得られることが期待できる。また、Cyclo-(Gly-Pro)により、ミルク原料を含有していない同種の嗜好性飲料で得られる風味改善効果に加えて、ミルク原料に由来するミルク風味増強効果やオフフレーバーの低減効果も得られる。例えば、ミルク原料を含むコーヒー飲料の場合、コーヒー風味増強効果や、収斂味、雑味、不快な酸味、穀物臭等のオフフレーバーの低減効果に加えて、濃度感増強効果、ミルク風味増強効果、ミルク原料由来オフフレーバー低減効果も得られる。
【0059】
Cyclo-(Gly-Pro)を含有させることにより、Cyclo-(Gly-Pro)を含有させていない嗜好性飲料よりも風味が改善された嗜好性飲料は、他の嗜好性飲料と同様に、殺菌処理を施すことが好ましい。殺菌処理としては、例えば、加熱殺菌処理、レトルト殺菌処理、紫外線照射殺菌処理等の嗜好性飲料の製造工程において通常行われている殺菌処理の中から適宜選択して行うことができる。例えば、加熱殺菌処理としては、100℃以下の低温殺菌であってもよく、100℃以上の高温殺菌であってもよい。
【0060】
通常、嗜好性飲料は容器に密封充填された容器詰飲料として市場を流通する。嗜好性飲料を充填する容器や充填方法は、容器詰嗜好性飲料の製造工程において通常使用されている容器や充填方法の中から適宜選択して行うことができる。当該容器としては、例えば、缶、プラスチック容器、紙製容器、ガラス瓶等が挙げられる。また、容器への充填は、大気中で行ってもよく、窒素ガス雰囲気下で行うこともできる。
【0061】
容器詰嗜好性飲料を製造する場合、予め殺菌処理した嗜好性飲料を殺菌処理済の容器に無菌充填して密封してもよく、嗜好性飲料を充填し密封した容器に対して殺菌処理を施してもよく、加熱した嗜好性飲料を高温のまま容器に充填して密封するホットパック充填を行ってもよい。
【0062】
Cyclo-(Gly-Pro)を含有させたインスタント嗜好性飲料用組成物は、他のインスタント嗜好性飲料用組成物と同様に、飲用1杯分を小パウチなどに個包装したり、使用時に容器から振り出したりスプーンで取り出したりして使用するように瓶などの容器に数杯分をまとめて包装して商品として供給することもできる。
【0063】
個包装タイプとは、スティック状アルミパウチ、ワンポーションカップなどにコーヒー飲料1杯分の中身を充填包装するものであり、容器を開けて指で押し出すなどの方法で中身を取り出すことができる。個包装タイプは、1杯分が密閉包装されているので取り扱いも簡単で、衛生的であるという利点を有する。
【実施例0064】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下、特に記載のない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0065】
<官能評価>
以降の実験において、特に記載のない限り、飲料の官能評価は、評価対象の特性について、コントロールと比較した5段階評価で評価した。具体的な評価基準を表1に示す。各官能評価は、評価に習熟した専門パネル5名で実施し、専門パネル全員による協議によって当該飲料の評価を決定した。
【0066】
【0067】
[実施例1]
Cyclo-(Gly-Pro)を多く含有するインスタントコーヒー粉末を調製し、これをCyclo-(Gly-Pro)を含有する組成物として用いてコーヒー飲料を製造し、風味に対する影響を調べた。
【0068】
<インスタントコーヒー(IC)粉末>
Cyclo-(Gly-Pro)を多く含有するインスタントコーヒー粉末(Cyclo-(Gly-Pro)-IC粉末)を、以下の通りにして調製した。
ロバスタ種のコーヒー生豆を、コラーゲンペプチドに浸漬させた後、深煎りに焙煎して、焙煎コーヒー豆を得た。この焙煎コーヒー豆を粉砕した後、お湯と混合して、コーヒー抽出液を得た。得られたコーヒー抽出液を噴霧乾燥させてIC粉末を得た。このIC粉末を、Cyclo-(Gly-Pro)-IC粉末として用いた。
対照として、コラーゲンペプチドへの浸漬をしていない以外は同様にして調製したIC粉末(コントロールIC粉末)を用いた。
【0069】
<Cyclo-(Gly-Pro)の定量>
各IC粉末中のCyclo-(Gly-Pro)の検出及び定量は、Otsukaらの方法(非特許文献2参照。)の方法に準じて行った。分析条件の詳細は下記の通りである。
【0070】
分析用サンプルは、まず、各IC粉末約0.1gを水100mLに溶解させIC溶液を調製し、さらに当該IC溶液を水で10倍又は100倍に希釈した希釈液を、0.2μmフィルターを通過させて調製した。
この分析サンプルをバイアル瓶に入れ、分析を行った。HPLC(高速液体クロマトグラフィ)条件を以下に示す。また、MS条件は表3に示す通りに設定した。
【0071】
(HPLC条件)
HPLC装置:アジレント1260インフィニティ(アジレント・テクノロジー社製)
カラム:Atrantis T3 3μm 2.1×150mm(日本ウォーターズ社製)
溶離液A:0.1質量%ギ酸
溶離液B:アセトニトリル
グラジエント条件:表2参照
カラム流量:200μL/分
カラム温度:40℃
インジェクション量:10μL
サンプル温度:20℃
【0072】
【0073】
【0074】
この結果、Cyclo-(Gly-Pro)の含有量は、Cyclo-(Gly-Pro)IC粉末で2843.99μg/g、コントロールIC粉末で154.89μg/gであった。
【0075】
(1)ブラックコーヒー飲料における効果
アラビカ種コーヒー豆及びロバスタ種コーヒー豆を、それぞれ中煎りに焙煎し、得られた焙煎コーヒー豆をそれぞれ中挽きで粉砕し、熱水抽出することによって、固形分1.0%のコーヒー抽出液を得た。熱水抽出には、ドリッパー(製品名「アロマフィルターAF―M1×4」、メリタ社製)とフィルター(製品名「コーヒーフィルターペーパー1×4用」、メリタ社製)を用いた。
調製されたコーヒー抽出液のCyclo-(Gly-Pro)の含有量を測定したところ、アラビカ抽出液では16μg/固形分1gであり、ロバスタ抽出液では125/固形分1gであった。
アラビカ種コーヒー豆から調製されたコーヒー抽出液(アラビカ抽出液)とロバスタ種コーヒー豆から調製されたコーヒー抽出液(ロバスタ抽出液)に対して、それぞれ、Cyclo-(Gly-Pro)IC粉末又はコントロールIC粉末を添加し、ブラックコーヒー飲料を調製した。
【0076】
得られたブラックコーヒー飲料について、コーヒー風味(香り、呈味)とオフフレーバー(収斂味、雑味、酸味、穀物臭)について、官能評価を行った。IC粉末無添加のブラックコーヒー飲料をコントロールとした。すなわち、試験区1-1~1-18の評価は試験区1-0をコントロールとし、試験区2-1~2-18の評価は試験区2-0をコントロールとした。各飲料中のCyclo-(Gly-Pro)濃度と評価結果を表4~9に示す。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
表4及び7に示すように、アラビカ抽出液とロバスタ抽出液のいずれにおいても、Cyclo-(Gly-Pro)を極少量しか含んでいないコントロールIC粉末を含有させたコーヒー飲料では、IC粉末の含有量依存的にコーヒー風味が若干改善される傾向は観察されるものの、IC粉末の含有量が、コーヒー抽出液100g当たり0.5gを超えると、コーヒー風味もオフフレーバーもコントロール(試験区1-0や試験区2-0)よりも悪化した。これは、もともと乾燥粉末化処理を行うIC粉末が有している加熱臭や雑味が影響したためと推察された。特に、ロバスタ抽出液に添加したIC粉末が0.5%以上の試験区2-6及び2-7では、IC粉末に由来する加熱臭やざらつきがオフフレーバーとして強く感じられた。これに対して、多量のCyclo-(Gly-Pro)を含有しているCyclo-(Gly-Pro)IC粉末を添加した試験区1-8~1-17、試験区2-1~2-17は、Cyclo-(Gly-Pro)IC粉末の添加量依存的に、すなわち、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)濃度が高くなるほど、コーヒー風味、特にコーヒーらしい焙煎香や香ばしさ、苦味が増強され、オフフレーバーは明らかに低減されていた。なかでも、アラビカ抽出液を用いた試験区1-9~1-17では、Cyclo-(Gly-Pro)濃度依存的に、不快な酸味や、後味に残るいがいがした苦味が大きく低減した。また、ロバスタ抽出液を用いた試験区2-11~2-17では、Cyclo-(Gly-Pro)濃度依存的に、ロバスタ抽出液の特徴である穀物臭や雑味が顕著に低減していた。これらの結果から、コーヒー飲料に十分量のCyclo-(Gly-Pro)を含有させることにより、コーヒーらしい香りや呈味が増強され、オフフレーバーが低減されることで風味が改善されることが確認された。ただし、IC粉末の添加量が多い試験区1-18及び試験区2-18のコーヒー飲料では、高濃度のCyclo-(Gly-Pro)による強い苦味と後味の渋味により、嗜好性は悪化した。
【0084】
(2)市販の容器詰ブラックコーヒー飲料における効果
市販の容器詰ブラックコーヒー飲料100gに対して、それぞれ、Cyclo-(Gly-Pro)IC粉末又はコントロールIC粉末を添加し、前記と同様にコーヒー風味(香り、呈味)とオフフレーバー(収斂味、雑味、酸味、穀物臭)について官能評価を行った。IC粉末無添加の市販のブラックコーヒー飲料をコントロールとした。すなわち、試験区3-1~3-2の評価は試験区3-0をコントロールとした。評価結果を表10に示す。
なお、当該市販の容器詰ブラックコーヒー飲料中の固形分は0.77%であり、Cyclo-(Gly-Pro)含有量は、56μg/固形分1gであった(分析値)。
【0085】
【0086】
表10に示すように、コントロールIC粉末を添加した試験区3-1のコーヒー飲料は、無添加の試験区3-0と差はなかったのに対して、Cyclo-(Gly-Pro)IC粉末を添加して5ppm以上ものCyclo-(Gly-Pro)を含有させた試験区3-2のコーヒー飲料では、コーヒーの焙煎香が強くなり、味わい深く、コクが増強され、コーヒーの輪郭がはっきりした。また、試験区3-0のコーヒー飲料は、殺菌により生じたと思われるオフフレーバー(中和臭、雑味など)があったが、試験区3-2のコーヒー飲料では、これらのオフフレーバーが低減されており、不快な酸味も低減されていた。これらの結果から、Cyclo-(Gly-Pro)による風味改善効果は、様々な製法や組成のコーヒー飲料に対して発揮されることが確認された。
【0087】
(3)ミルクコーヒー飲料における効果
様々な市販のミルク原料に、コントロールIC粉末又はCyclo-(Gly-Pro)IC粉末を溶解させてミルクコーヒー飲料(ミルク原料を含有させたコーヒー飲料)を調製し、これらの官能評価を行った。ミルク原料としては、2種類のクリーミングパウダー(クリーミングパウダー(ICP)A及びB、いずれも脂肪分45%)、全粉乳(乳脂肪分25%)、牛乳(無脂乳固形分8.3%、乳脂肪分3.5%)、無調整豆乳(大豆固形分8%)、アーモンドミルク(アーモンド2.5g/100mL、砂糖不使用)、オーツミルク(125mLあたりの含有量:たんぱく質2.8g、脂質1.6g、炭水化物15.2g)を用いた。クリーミングパウダーと全粉乳は、飲用時の固形分濃度が牛乳とおおよそ同等の12g/100gになるように、温水で溶解して使用した。
【0088】
各ミルクコーヒーについて、ミルク風味、コーヒー風味、及びオフフレーバーについて、前記と同様にして官能評価を行った。各ミルクコーヒーの官能評価は、IC粉末添加前のミルク原料自体をコントロールとして評価した。評価結果を表11~14に示す。
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
表11に示すように、少量のコントロールIC粉末を添加した試験区4-1~4-7のミルクコーヒー飲料は、IC粉末添加によりコーヒー風味が付与されるものの、ミルク風味やオフフレーバーに対する影響は観察されなかった。コントロールIC粉末の添加量を増大させた試験区4-8~4-12のミルクコーヒー飲料は、コーヒー風味の増強と共にミルク風味の増強も観察されたが、オフフレーバーに対してはほとんど影響がなかった(表12)。植物性ミルクをいれた試験区4-13及び4-14では、コントロールIC粉末由来の加熱臭等により、植物性ミルク特有の好ましい香りが損なわれるだけでなく、コーヒー風味すら損なわれてしまっていた(表12)。これに対して、表13及び14に示すように、Cyclo-(Gly-Pro)IC粉末を添加させた試験区5-1~5-14のミルクコーヒー飲料は、ミルク原料の種類に関わらず、コーヒー風味とミルク風味がともに増強され、オフフレーバーが低減されて、風味が改善されており、このCyclo-(Gly-Pro)による風味改善効果は、飲料のCyclo-(Gly-Pro)濃度が高くなるほど、強く発揮されていた。
【0094】
(4)様々な濃度にCyclo-(Gly-Pro)を調製したコーヒー飲料における効果
コントロールIC粉末とCyclo-(Gly-Pro)IC粉末を様々な量で組み合わせた混合物をお湯に溶かして、様々なCyclo-(Gly-Pro)濃度のコーヒー飲料を調製した。IC粉末のみを溶解させたブラックコーヒー飲料と、試験区4-1で使用したクリーミングパウダーAを入れたミルクコーヒー飲料と、試験区4-4で使用した牛乳を入れたミルクコーヒー飲料の3種類を調製した。
【0095】
調製したコーヒー飲料の官能評価を行った。官能評価は、オフフレーバーのうち収斂味以外をまとめて「オフフレーバーA」として評価し、収斂味は独立して評価し、コーヒー飲料としての嗜好性について総合評価を行った以外は、前記と同様にして行った。各コーヒー飲料の官能評価では、IC粉末の総含有量が同じであり、かつコントロールIC粉末のみを含有させたコーヒー飲料を、コントロールとした。結果を表15~23に示す。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
表15~23に示すように、ブラックコーヒー飲料とミルクコーヒー飲料のいずれにおいても、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)濃度依存的に、コーヒー風味やミルク風味が増強され、オフフレーバーが低減されていた。特に収斂味が低減されており、コーヒー飲料としての嗜好性も向上した。また、Cyclo-(Gly-Pro)による風味改善効果は、クリーミングパウダーAを添加したミルクコーヒー飲料(試験区12-0~14-6)で最も顕著であり、牛乳を添加したミルクコーヒー飲料(試験区9-0~11-6)では、ブラックコーヒー飲料(試験区6-0~8-7)よりも強くCyclo-(Gly-Pro)の添加効果が確認された。ただし、ブラックコーヒー飲料では、試験区8-7に示すように、Cyclo-(Gly-Pro)濃度が高すぎると、後味の苦渋味が強くなり、嗜好性が大幅に低下した。牛乳やクリーミングパウダーを含有させたミルクコーヒー飲料では、Cyclo-(Gly-Pro)濃度が高くてもさほど問題にはならなかった。これらの結果から、Cyclo-(Gly-Pro)の濃度依存的に、コーヒー飲料の風味改善効果が確認された。
【0106】
[実施例2]
実施例1で用いたコントロールIC粉末とCyclo-(Gly-Pro)IC粉末をCyclo-(Gly-Pro)を含有する組成物として用いてココア飲料を製造し、風味に対する影響を調べた。
【0107】
(1)Cyclo-(Gly-Pro)濃度と風味改善効果
ココアパウダー、クリーミングパウダー、及び砂糖を含有するミルクココア飲料に、コントロールIC粉末とCyclo-(Gly-Pro)IC粉末をそれぞれ添加し、ミルクココア飲料を調製した。クリーミングパウダーは、実施例1で用いたクリーミングパウダーA(ICP A)を用いた。ココアパウダーは、市販のローファットココアパウダー(ココアパウダーA、ココアバター10~12%)を用いた。
【0108】
得られたミルクココア飲料の濃度感について官能評価を行った。IC粉末無添加のミルクココア飲料をコントロールとした。すなわち、試験区1-1~1-24の評価は、試験区1-0をコントロールとした。評価結果を表24~28に示す。
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
表24の試験区1-0、1-0-1、及び1-0-2に示すように、ココアパウダーの含有量は、濃度感の強度と相関がみられた。表25~28に示すように、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)濃度が0.03pm以上であるミルクココア飲料では、濃度感やココアらしい香ばしい香りが、コントロールよりも増強されており、風味が改善されていた。特に、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)濃度が0.9~2.0ppmである試験区1-17及び1-18のミルクココア飲料では、ココアパウダー濃度が1.5倍量である試験区1-0-2のミルクココア飲料と同程度の濃度感にまで増強されており、さらに、甘味もやや強く感じられた。ただし、試験区1-12、1-23、及び1-24のミルクココア飲料のように、IC粉末の含有量が多くなりすぎると、コーヒー風味が異味として感知され、ココア風味が悪化した。これらの結果から、ココア飲料に十分量のCyclo-(Gly-Pro)を含有させることにより、濃度感増強効果や甘味増強効果が得られ、ココア風味が改善されることが確認された。
【0115】
(2)ココア飲料の脂肪量とCyclo-(Gly-Pro)による効果の関係
ココアパウダーとして、前記で用いた市販のローファットのココアパウダーAと、市販のハイファットココアパウダー(ココアパウダーB、ココアバター22~24%)を用いて、前記と同様にしてミルクココア飲料を調製し、これにコントロールIC粉末とCyclo-(Gly-Pro)IC粉末をそれぞれ添加した。得られたミルクココア飲料の濃度感について官能評価を行った。IC粉末無添加のミルクココア飲料をコントロールとした。すなわち、試験区2-1~2-4の評価は、試験区2-0をコントロールとし、試験区3-1~3-4の評価は、試験区3-0をコントロールとした。評価結果を表29~30に示す。
【0116】
【0117】
【0118】
表29及び30に示すように、ローファットココアパウダーを用いた試験区2-1~2-4のミルクココア飲料も、ハイファットココアパウダーを用いた試験区3-1~3-4のミルクココア飲料のどちらも、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)濃度依存的に、濃度感が増強された。Cyclo-(Gly-Pro)による濃度感増強効果は、ローファットココアパウダーを用いたココア飲料のほうが、ハイファットココアパウダーを用いたココア飲料よりもより強く発揮されていた。
【0119】
[実施例3]
実施例1で用いたコントロールIC粉末とCyclo-(Gly-Pro)IC粉末をCyclo-(Gly-Pro)を含有する組成物として用いて抹茶飲料を製造し、風味に対する影響を調べた。
【0120】
(1)Cyclo-(Gly-Pro)濃度と風味改善効果
四番茶の抹茶粉末(抹茶粉末A)、クリーミングパウダー、及び砂糖を含有するミルク抹茶飲料に、コントロールIC粉末とCyclo-(Gly-Pro)IC粉末をそれぞれ添加し、ミルク抹茶飲料を調製した。クリーミングパウダーは、実施例1で用いたクリーミングパウダーA(ICP A)を用いた。
【0121】
得られたミルク抹茶飲料について、濃度感について官能評価を行った。IC粉末無添加のミルク抹茶飲料をコントロールとした。すなわち、試験区1-1~1-22の評価は、試験区1-0をコントロールとした。評価結果を表31~35に示す。
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
表31の試験区1-0、1-0-1、及び1-0-2に示すように、抹茶粉末の含有量は、濃度感の強度と相関がみられた。表32~35に示すように、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)濃度が0.09pm以上であるミルク抹茶飲料では、濃度感がコントロールよりも増強されており、風味が改善されていた。特に、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)濃度が0.9~2.0ppmである試験区1-15及び1-16のミルク抹茶飲料では、抹茶粉末濃度が1.35倍量である試験区1-0-2のミルク抹茶飲料と同程度の濃度感にまで増強されていた。ただし、試験区1-8~1-11、及び1-19~1-22のミルク抹茶飲料のように、IC粉末の含有量が多くなりすぎると、コーヒー風味が異味として感知され、苦味も過剰に強くなり、抹茶風味が悪化した。これらの結果から、抹茶飲料に十分量のCyclo-(Gly-Pro)を含有させることにより、濃度感増強効果が得られ、抹茶風味が改善されることが確認された。
【0128】
(2)抹茶粉末の品質とCyclo-(Gly-Pro)による効果の関係
抹茶粉末として、前記で用いた市販の四番茶の抹茶粉末Aと、市販の一番茶の抹茶粉末(抹茶粉末B)を用いて、前記と同様にしてミルク抹茶飲料を調製し、これにコントロールIC粉末とCyclo-(Gly-Pro)IC粉末をそれぞれ添加した。得られたミルク抹茶飲料について、濃度感について官能評価を行った。IC粉末無添加のミルク抹茶飲料をコントロールとした。すなわち、試験区2-1~2-4の評価は、試験区2-0をコントロールとし、試験区3-1~3-4の評価は、試験区3-0をコントロールとした。評価結果を表36~37に示す。
【0129】
【0130】
【0131】
表36及び37に示すように、四番茶の抹茶粉末を用いた試験区2-1~2-4のミルク抹茶飲料も、一番茶の抹茶粉末を用いた試験区3-1~3-4のミルク抹茶飲料のどちらも、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)濃度依存的に、濃度感が増強された。Cyclo-(Gly-Pro)による濃度感増強効果は、抹茶粉末の等級(品質)にかかわらず発揮されることが確認された。
【0132】
(3)ミルク原料不含抹茶飲料に対するCyclo-(Gly-Pro)の効果
四番茶の抹茶粉末(抹茶粉末A)及びデキストリン(製品名「マックス1000」、DE 9.0、松谷化学社製)を含有する抹茶飲料に、コントロールIC粉末とCyclo-(Gly-Pro)IC粉末をそれぞれ添加し、ミルク原料と甘味料の両方を含有していない抹茶飲料を調製した。
【0133】
得られた抹茶飲料について、濃度感について官能評価を行った。IC粉末無添加の抹茶飲料をコントロールとした。すなわち、試験区4-1~4-18の評価は、試験区4-0をコントロールとした。評価結果を表38~42に示す。
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
表38の試験区4-0、4-0-1、及び4-0-2に示すように、ミルク不含の抹茶飲料においても、抹茶粉末の含有量は、濃度感の強度と相関がみられた。ただし、試験区4-0-1及び4-0-2の抹茶飲料では、抹茶粉末量依存的に、苦味や後味の収斂味もやや強くなる傾向が観察された。
【0140】
表39~42に示すように、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)濃度が0.06pm以上である抹茶飲料では、濃度感がコントロールよりも増強されており、風味が改善されていた。特に、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)濃度が0.5~2.0ppmである試験区4-13及び4-14の抹茶飲料では、抹茶粉末濃度が1.35倍量である試験区4-0-2の抹茶飲料と同程度の濃度感にまで増強されていたが、過剰な苦味や収斂味はなく、嗜好性に優れていた。ただし、試験区4-9及び4-18の抹茶飲料のように、IC粉末の含有量が多くなりすぎると、コーヒー風味が異味として感知され、苦味も過剰に強くなり、抹茶風味が悪化した。これらの結果から、抹茶飲料に十分量のCyclo-(Gly-Pro)を含有させることにより、濃度感増強効果が得られ、抹茶風味が改善されることが確認された。
【0141】
(4)抹茶粉末の品質とCyclo-(Gly-Pro)による効果の関係
抹茶粉末として、前記で用いた市販の四番茶の抹茶粉末Aと、前記で用いた市販の一番茶の抹茶粉末(抹茶粉末B)を用いて、前記と同様にして抹茶飲料を調製し、これにコントロールIC粉末とCyclo-(Gly-Pro)IC粉末をそれぞれ添加した。得られた抹茶飲料について、濃度感について官能評価を行った。IC粉末無添加の抹茶飲料をコントロールとした。すなわち、試験区5-1~5-4の評価は、試験区5-0をコントロールとし、試験区6-1~6-4の評価は、試験区6-0をコントロールとした。評価結果を表43~44に示す。
【0142】
【0143】
【0144】
表43及び44に示すように、四番茶の抹茶粉末を用いた試験区5-1~5-4の抹茶飲料も、一番茶の抹茶粉末を用いた試験区6-1~6-4の抹茶飲料のどちらも、飲料中のCyclo-(Gly-Pro)濃度依存的に、濃度感が増強された。Cyclo-(Gly-Pro)による濃度感増強効果は、抹茶粉末の等級(品質)やミルク原料の有無にかかわらず発揮されることが確認された。