(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142524
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
H01R 13/46 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
H01R13/46 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054682
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】大井 勇人
(72)【発明者】
【氏名】古川 豊貴
【テーマコード(参考)】
5E087
【Fターム(参考)】
5E087FF06
5E087FF13
5E087QQ04
5E087RR02
5E087RR04
(57)【要約】
【課題】絶縁電線の特性への影響を小さく抑えながら、小型の電気接続部材を絶縁電線に取り付けることができるワイヤーハーネスを提供する。
【解決手段】導体21と、前記導体21の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線2と、電線収容部42を有する付加部材3と、を備え、前記絶縁電線2は、軸線方向に沿って、大径部2aと、前記大径部2aよりも外径が小さくなった小径部2bとを有し、前記付加部材3の前記電線収容部42は、前記大径部2aを収容不能である一方、前記小径部2bを収容可能であり、前記付加部材3は、前記電線収容部42に前記絶縁電線2の前記小径部2bを収容した状態で、前記絶縁電線2に取り付けられている、ワイヤーハーネス1とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線と、
電線収容部を有する付加部材と、を備え、
前記絶縁電線は、軸線方向に沿って、大径部と、前記大径部よりも外径が小さくなった小径部とを有し、
前記付加部材の前記電線収容部は、前記大径部を収容不能である一方、前記小径部を収容可能であり、
前記付加部材は、前記電線収容部に前記絶縁電線の前記小径部を収容した状態で、前記絶縁電線に取り付けられている、ワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記付加部材において、前記電線収容部は、前記絶縁電線の前記小径部の外径よりも大きく、前記大径部の外径よりも小さい内径を有する貫通孔として形成されており、
前記絶縁電線は、前記小径部において、前記電線収容部に挿入されている、請求項1に記載のワイヤーハーネス。
【請求項3】
前記絶縁電線は、軸線方向の端末部に前記小径部を備え、
前記付加部材は、コネクタである、請求項1または請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項4】
前記小径部においては、前記導体の外径および前記絶縁被覆の厚さの少なくとも一方が、前記大径部よりも小さくなっている、請求項1または請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項5】
前記小径部においては、前記導体の外径および前記絶縁被覆の厚さの両方が、前記大径部よりも小さくなっている、請求項4に記載のワイヤーハーネス。
【請求項6】
前記小径部の外径が、前記大径部の外径に対して、3%以上小さくなっている、請求項1または請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項7】
前記小径部における前記絶縁被覆の厚さが、前記大径部における前記絶縁被覆の厚さに対して、10%以上小さくなっている、請求項1または請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項8】
前記絶縁被覆の厚さのばらつきが、前記小径部において、前記大径部よりも小さくなっている、請求項1または請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の内部や機器間の電気接続に絶縁電線が用いられるが、それらの絶縁電線は、コネクタ等の電気接続部材を取り付けられた状態で用いられることが多い。自動車に搭載される機器等において、コネクタ等の電気接続部材の小型化が進んでいるが、電気接続部材を小型化するためには、電気接続部材において絶縁電線を収容する箇所の寸法も、縮小する必要が生じる場合が多い。この場合に、絶縁電線に無理な負荷を印加することなく、その寸法が縮小された収容箇所に絶縁電線を収容するためには、絶縁電線の外径を小さくする必要がある。例えば、絶縁電線の端末部にコネクタを取り付けたワイヤーハーネスにおいて、コネクタを構成するコネクタハウジングの端面に電線挿入孔を設けておき、絶縁電線をその電線挿入孔に挿入した状態で、絶縁電線にコネクタハウジングを固定する形態がとられる場合がある。この形態において、コネクタハウジングを小型化するために、電線挿入孔の径も小さくした場合に、絶縁電線に無理な負荷を印加することなく、その電線挿入孔に絶縁電線を挿入するためには、絶縁電線の外径を、挿入孔の内径以下とする必要がある。このように、コネクタ等の電気接続部材における電線収容箇所の寸法に合わせて、絶縁電線を小径化する手段として、特許文献1には、導体における素線の撚り構造を工夫することに加えて、導体断面積や絶縁被覆の厚さを所定の上限以下に制限する方法が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、コネクタ等の電気接続部材の小型化に対応して、絶縁電線を細径化するために、導体断面積や絶縁被覆の厚さを小さく抑えるとすれば、絶縁電線の特性に影響が生じる可能性がある。例えば、絶縁被覆を薄くすると、絶縁電線において絶縁被覆が果たす保護性能が低くなってしまう可能性がある。すると、絶縁被覆の保護性能を補うために、絶縁電線の外周に保護性能の高い外装材を配置する等の対策を講じる必要が生じる。できるだけ絶縁電線の特性への影響を小さくしながら、小型化した電気接続部材を絶縁電線に取り付けられるようにすることが望まれる。
【0005】
以上に鑑み、絶縁電線の特性への影響を小さく抑えながら、小型の電気接続部材を絶縁電線に取り付けることができるワイヤーハーネスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のワイヤーハーネスは、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線と、電線収容部を有する付加部材と、を備え、前記絶縁電線は、軸線方向に沿って、大径部と、前記大径部よりも外径が小さくなった小径部とを有し、前記付加部材の前記電線収容部は、前記大径部を収容不能である一方、前記小径部を収容可能であり、前記付加部材は、前記電線収容部に前記絶縁電線の前記小径部を収容した状態で、前記絶縁電線に取り付けられている。
【発明の効果】
【0007】
本開示のワイヤーハーネスは、絶縁電線の特性への影響を小さく抑えながら、小型の電気接続部材を絶縁電線に取り付けることができるワイヤーハーネスとなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネスを示す部分断面図である。
【
図2】
図2Aおよび
図2Bはそれぞれ、上記ワイヤーハーネスを構成する絶縁電線を示す斜視図および側面図である。
図2Bには、ワイヤーハーネスの電線挿入孔との寸法の関係も合わせて示している。
【
図3】
図3は、ワイヤーハーネスを模したモデル試料の縦断面写真である。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。本開示のワイヤーハーネスは、以下の構成を有している。
【0010】
[1]本開示のワイヤーハーネスは、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線と、電線収容部を有する付加部材と、を備え、前記絶縁電線は、軸線方向に沿って、大径部と、前記大径部よりも外径が小さくなった小径部とを有し、前記付加部材の前記電線収容部は、前記大径部を収容不能である一方、前記小径部を収容可能であり、前記付加部材は、前記電線収容部に前記絶縁電線の前記小径部を収容した状態で、前記絶縁電線に取り付けられている。
【0011】
上記ワイヤーハーネスを構成する絶縁電線は、小径部と大径部を有している。そして、絶縁電線に取り付けられる付加部材において、電線収容部が、絶縁電線の大径部を収容することはできないものの、小径部は収容することができる。このように、付加部材が、大径部を電線収容部に収容できない小型のものであっても、小径部にて絶縁電線を電線収容部に収容することで、絶縁電線に絶縁被覆の圧縮のような大きな負荷を与えなくても、付加部材を絶縁電線に取り付けることができる。この際、絶縁電線においては、付加部材の電線収容部に収容する箇所にのみ、小径部を形成し、それ以外の箇所は大径部としておけばよい。大径部においては、付加部材の小型化に合わせて電線外径を小さくする必要はないので、導体断面積や絶縁被覆の厚さを十分に確保することができ、絶縁電線全体の中で、小径部を除く箇所においては、小径化による特性への影響が生じない。軸線方向の一部の領域に小径部を設けた絶縁電線は、一様な外径を有する絶縁電線において、小径部とすべき箇所のみを、適宜加熱して、プレス成形法等によって圧縮することで、簡便に形成することができる。この場合に、小径部においては、外径が小さくなるだけでなく、外径のばらつきも小さくなるため、付加部材の電線収容部において、電線外径のばらつきを考慮して設ける寸法の余裕を、小さく抑えることができる。そのことも、電線収容部を小さく構成するのに寄与する。
【0012】
[2]上記[1]の態様において、前記付加部材において、前記電線収容部は、前記絶縁電線の前記小径部の外径よりも大きく、前記大径部の外径よりも小さい内径を有する貫通孔として形成されており、前記絶縁電線は、前記小径部において、前記電線収容部に挿入されているとよい。この場合には、付加部材において、絶縁電線を小径部側から、貫通孔として設けられた電線収容部に挿入すれば、大径部はその貫通孔を通過することができないが、小径部は無理な負荷を印加されることなく、その貫通孔を通過することができる。このように小径部を貫通孔に通過させた状態で付加部材を絶縁電線に取り付けるようにすれば、付加部材が小型化されていても、絶縁電線の所定の位置に、無理なく付加部材を取り付けることができる。
【0013】
[3]上記[1]または[2]の態様において、前記絶縁電線は、軸線方向の端末部に前記小径部を備え、前記付加部材は、コネクタであるとよい。コネクタを構成するコネクタハウジングには、所定の位置関係で絶縁電線と結合するために、上記[2]の態様における貫通孔をはじめとして、電線収容部が設けられる。その電線収容部を、大径部は収容できないが、小径部は収容できる寸法に構成しておけば、大径部と同じ外径を有する絶縁電線には取り付けることができない小型のコネクタであっても、小径部を利用して絶縁電線に取り付けることができる。
【0014】
[4]上記[1]から[3]のいずれか1つの態様において、前記小径部においては、前記導体の外径および前記絶縁被覆の厚さの少なくとも一方が、前記大径部よりも小さくなっているとよい。小径部において、導体の外径および絶縁被覆の厚さの少なくとも一方を小さくすることで、絶縁電線全体としての外径を、効率的に縮小することができる。
【0015】
[5]上記[4]の態様において、前記小径部においては、前記導体の外径および前記絶縁被覆の厚さの両方が、前記大径部よりも小さくなっているとよい。この場合には、小径部の外径の縮小に特に高い効果が得られる。上記のように、プレス成形法によって小径部を形成する場合に、導体の外径および絶縁被覆の厚さの両方の減少が起こりやすい。特に、絶縁被覆の厚さの減少が効果的に起こる。
【0016】
[6]上記[1]から[5]のいずれか1つの態様において、前記小径部の外径が、前記大径部の外径に対して、3%以上小さくなっているとよい。この場合には、小径部の外径の縮小に伴う電線収容部および付加部材の小型化の効果が、十分に得られる。3%以上の外径の縮小は、例えばプレス成形による方法で、達成することができる。
【0017】
[7]上記[1]から[6]のいずれか1つの態様において、前記小径部における前記絶縁被覆の厚さが、前記大径部における前記絶縁被覆の厚さに対して、10%以上小さくなっているとよい。この場合には、絶縁被覆の厚さの減少により、絶縁電線全体の外径の縮小、またそれに伴う電線収容部および付加部材の小型化の効果が、十分に得られる。絶縁被覆の厚さの10%以上の減少は、例えばプレス成形による方法で、達成することができる。
【0018】
[8]上記[1]から[7]のいずれか1つの態様において、前記絶縁被覆の厚さのばらつきが、前記小径部において、前記大径部よりも小さくなっているとよい。小径部において、絶縁被覆の厚さのばらつきが小さくなっていることで、絶縁電線の外径のばらつきも小さくなる。すると、絶縁電線の外径のばらつきを考慮して、付加部材の電線収容部の寸法に設けるべき余裕が小さくて済み、付加部材の小型化に高い効果が得られる。プレス成形法によって小径部を形成する場合に、絶縁被覆の厚さのばらつきを低減しやすい。
【0019】
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスについて、図面を用いて詳細に説明する。本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスは、絶縁電線と、その絶縁電線に取り付けられたコネクタ等の付加部材を含んでいる。本明細書において、ワイヤーハーネスの各部の形状構造に関して、直線、円形等、部材の形状や配置を示す概念には、長さにして概ね±15%程度、また角度にして概ね±15°程度のずれ等、この種のワイヤーハーネスにおいて許容される範囲で、幾何的な概念からの誤差を含むものとする。
【0020】
<ワイヤーハーネスの構成>
まず、本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネスの構成について説明する。
図1に、本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネス1の構成を、部分断面図にて示す。ワイヤーハーネス1は、絶縁電線2と、付加部材としてのコネクタ3とを有している。
【0021】
ワイヤーハーネス1を構成する絶縁電線2について、斜視図および側面図を、それぞれ
図2Aおよび
図2Bに示す。絶縁電線2は、導体21と、導体21の外周を被覆する絶縁被覆23とを有している。
図2A,2Bでは、端部の絶縁被覆23を一部除去して表示している。
【0022】
絶縁電線2は、軸線方向(長手方向)に沿って、大径部2aと、小径部2bとを有している。大径部2aよりも小径部2bの方が、外径が小さくなっている。本実施形態においては、絶縁電線2の端末部に小径部2bが形成されている。絶縁電線2の構成については、後に詳しく説明する。
【0023】
コネクタ3は、コネクタ端子5と、コネクタハウジング4とを有している。コネクタ端子5は、相手方導電部材との間に電気接続を形成可能な電気接続部材であり、絶縁電線2の端末に接続固定されている。コネクタ端子5の種類や形状は特に限定されるものではないが、図示した形態では、嵌合型のメス型端子となっている。ここでは、コネクタ端子5は、先端側に接続部51を有する。また、接続部51の後端側に一体に延設形成されて、第一のかしめ部52と第二のかしめ部53とからなるかしめ部を有する。接続部51は、雌型嵌合端子の箱型の嵌合接続部として構成されており、雄型端子(不図示)と嵌合して電気接続を形成可能となっている。
【0024】
ワイヤーハーネス1において、絶縁電線2は、端末部に設けられた小径部2bのうち、先端側の一部の領域において、絶縁被覆23が除去され、導体21が露出されている。この導体21が露出された絶縁電線2の端末部が、コネクタ端子5のかしめ部52,53によってかしめ固定されて、絶縁電線2とコネクタ端子5が接続されている。具体的には、第一のかしめ部52が、導体21とコネクタ端子5を電気的に接続するとともに、コネクタ端子5に導体21を物理的に固定している。一方、第二のかしめ部53が、第一のかしめ部52よりも後方において、第一のかしめ部52が導体21を固定しているのよりも弱い力で絶縁電線2を固定し、コネクタ端子5への絶縁電線2の物理的な固定を補助している。第二のかしめ部53は、図示したように、絶縁電線2の端末に露出された導体21を後方でかしめ固定していても、さらに後方の絶縁被覆23に導体21が被覆された箇所において、絶縁電線2を絶縁被覆23の外周からかしめ固定していてもよい。
【0025】
コネクタ3において、絶縁電線2の先端に結合されたコネクタ端子5は、コネクタハウジング4に収容されている。コネクタハウジング4は、前後に開口を有する中空の箱状部材として構成されている。コネクタハウジング4の後端の壁面41には、電線収容部として、電線挿入孔42が設けられている。電線挿入孔42は、板状の後端壁面41を貫通する貫通孔の形で設けられている。
図1および
図2Bに示すように、電線挿入孔42は、絶縁電線2の小径部2bの外径Dbよりも大きく、かつ大径部2aの外径Daよりも小さい内径Dhを有している(Db<Dh<Da)。電線挿入孔42は、円形の貫通孔として設けられていることが好ましい。
【0026】
電線挿入孔42が、小径部2bの外径Dbよりも大きく、大径部2aの外径Daよりも小さい内径Dhを有することで、絶縁電線2の小径部2bを、絶縁被覆23の圧縮等によって変形させることなく、電線挿入孔42に挿入(収容)し、通過させることができる。一方、絶縁電線2の大径部2aは、変形させることなく、電線挿入孔42に挿入(収容)し、通過させることはできない。実際に、
図1に示すように、ワイヤーハーネス1において、絶縁電線2は、コネクタ端子5を接続された小径部2bにおいて、コネクタハウジング4の外側から、電線挿入孔42に挿入され、電線挿入孔42を貫通している。一方で、大径部2aは電線挿入孔42に進入することができず、全域がコネクタハウジング4の外側に留まっている。
【0027】
コネクタハウジング4にはさらに、前端部に、相手方のオス型コネクタ(不図示)が進入可能な開口として、嵌合口43が設けられている。嵌合口43から進入したオス型コネクタのオス型端子が、メス型のコネクタ端子5と嵌合接続される。
【0028】
図示した形態においては、軸線方向に直交する絶縁電線2の小径部2bの断面の寸法よりも、コネクタ端子5の断面の寸法が小さくなっている。よって、絶縁電線2の端末にコネクタ端子5を接続したうえで、コネクタ端子5を電線挿入孔42に対して後方から挿入することで、絶縁電線2に接続されたコネクタ端子5がコネクタハウジング4に収容されたワイヤーハーネス1を構成することができる。通常、コネクタハウジング4の内部には、コネクタ端子5を所定の位置に安定して配置するための位置決め部材(図略)が設けられるが、絶縁電線2の小径部2bと大径部2aの間の境界部も、それ以上に絶縁電線2を前方に進入させないための位置決め部材として補助的に機能する。コネクタハウジング4は、図面の上下に分割可能な半割り構造で構成してもよく、この場合には、コネクタ端子5の断面の寸法が絶縁電線2の断面の寸法よりも大きい場合などにも、簡便に、絶縁電線2の先端に接続された状態のコネクタ端子5をコネクタハウジング4に収容し、ワイヤーハーネス1を組み上げることができる。
【0029】
このように、本実施形態にかかるワイヤーハーネス1においては、ワイヤーハーネス1を構成する絶縁電線2が、コネクタハウジング4の電線挿入孔42の内径Dhよりも外径Daの大きい大径部2aを有しているものの、その電線挿入孔42の内径Dhよりも外径Dbの小さい小径部2bを有しているため、小径部2bをコネクタハウジング4の電線挿入孔42に挿入した状態で、絶縁電線2にコネクタハウジング4を取り付けることができる。もし、絶縁電線に小径部2bが設けられず、全域が大きな外径Daを有する大径部2aとして構成されているとすれば、同じコネクタ3を絶縁電線に取り付けることができない。近年、コネクタをはじめとする電気接続部材の小型化が求められているが、コネクタを小型化すると、コネクタハウジングに設けられる電線挿入孔も、それに応じて小径化される。しかし、本実施形態にかかるワイヤーハーネス1においては、絶縁電線2に小径部2bを設けていることにより、小さい電線挿入孔42しか設けられていない小型のコネクタ3であっても、小径部2bを利用して、絶縁電線2に取り付けることができる。通常、絶縁電線の外径の規格寸法に対応して、適合するコネクタが製造されているが、例えば、大径部2aと同じ外径Daの絶縁電線よりも、細径の規格の絶縁電線に対応するコネクタ3を、小径部2bを利用して、無理なく絶縁電線2に取り付けることが可能となる。
【0030】
これまで、通常よりも小さい規格のコネクタを絶縁電線に接続するために、絶縁被覆を薄く形成する方法がとられることがあったが、その場合には、絶縁被覆が薄くなることで、導体に対する保護性能など、絶縁被覆によって発揮されるべき特性が、十分に得られない可能性がある。しかし、本実施形態にかかるワイヤーハーネス1においては、絶縁電線2の大部分の領域は大径部2aとなっており、その大径部2aにおいては、絶縁被覆23による保護性能等、必要とされる特性を得ることができる寸法で絶縁電線2を構成しながら、コネクタ3を取り付ける端末部にのみ小径部2bを設けることで、小径化による特性への影響をその小径部2bのみに抑えながら、小型のコネクタ3を絶縁電線2に取り付けることができる。コネクタ3の取り付けのために、径の大きい絶縁電線の絶縁被覆を無理に圧縮し、圧入するようにして絶縁電線を電線収容部に嵌め込むことも必要ない。後に絶縁電線の製造方法について説明するように、大径部2aと小径部2bが共存する絶縁電線2は、大径部2aに対応する外径Daを全域で有する従来一般の絶縁電線を原料とし、所望の箇所に小径部2bを形成することで、簡便に製造できる。
【0031】
以上で説明したワイヤーハーネス1においては、付加部材として、絶縁電線2の端末部に、電線収容部としての電線挿入孔42を備えたコネクタハウジング4を含むコネクタ3が取り付けられていたが、付加部材は、そのようなコネクタ3に限られない。付加部材が電線収容部を有し、その電線収容部が、絶縁電線2の大径部2aを収容不能である一方、絶縁電線2の小径部2bを収容可能となっていればよい。ここで、電線収容部について、大径部2aを収容不能であるとは、大径部2aを変形させることなく収容することが不可能であることを意味し、小径部2bを収容可能であるとは、小径部2bを変形させることなく収容できることを意味する。なお、小径部2bを電線収容部に収容するに際し、収容するための操作の途中で小径部2bが一時的に変形されることを妨げるものではなく、その操作の完了後に小径部2bを変形なく電線収容部に収容した状態とできるものであればよい。また、電線収容部に実際に収容された小径部2bが変形していないことが好ましいものの、小径部2bと電線収容部との形状および寸法の関係において、小径部2bを変形なく電線収容部に収容した状態とできるものであれば、電線収容部に実際に収容された小径部2bがある程度の変形を有していてもよい。
【0032】
上記のように、絶縁電線2の大径部2aを収容不能である一方、小径部2bを収容可能である電線収容部を有した付加部材は、電線収容部に絶縁電線2の小径部2bを収容した状態で、絶縁電線2に取り付けられ、ワイヤーハーネスを構成するものとなる。これにより、絶縁電線2全体を小径部2bのように小さい外径で形成しなくても、大径部2aと同じ外径を有する絶縁電線には取り付けられない小型の付加部材を、小径部2bを利用して絶縁電線2に取り付けることが可能となる。この場合に、大径部2aは所望の特性を発揮できる大きな外径を有する部位として構成すればよいので、絶縁電線2の特性への影響を小さく抑えながら、小型の電気接続部材を絶縁電線2に取り付けることが可能となる。絶縁電線2に小径部2bを設ける位置も、上記の実施形態にかかるワイヤーハーネス1のように、端末部に限定されず、付加部材の種類やワイハーハーネスの用途に応じて、絶縁電線2の中途部等、任意の箇所に設ければよい。
【0033】
付加部材の電線収容部としては、上記の実施形態におけるコネクタハウジング4の電線挿入孔42のように、貫通孔として設けられる形態の他に、絶縁電線2の軸線方向に沿った断面U字状の溝構造や、相互に対向した1対の板状部材を有するものを例示することができる。電線収容部が溝構造を有する場合には、溝の断面の底部の曲率半径が、絶縁電線2の小径部2bの曲率半径よりも大きく、かつ大径部2aの曲率半径よりも小さくなっていればよい。例えば、コネクタハウジング4において、コネクタ端子5に接続された絶縁電線2の位置決め用に、内部に溝が設けられる場合がある。電線収容部が1対の板状部材より構成される場合には、それら板状部材の面間の距離が、絶縁電線2の小径部2bの外径Dbよりも大きく、大径部2aの外径Daよりも小さくなっていればよい。コネクタ以外の付加部材としては、電線2を所定の経路に固定して配策するための固定部材等を例示することができる。
【0034】
電線収容部の構成材料は特に限定されないが、電線収容部の内壁面を構成する材料が、内壁面の変形を伴って、電線収容部に大径部2aを無理に収容することができない程度に、硬質の材料よりなっていることが好ましい。例えば、電線収容部の壁面を構成する材料のヤング率が、絶縁電線2の絶縁被覆23のヤング率よりも大きくなっているとよい。コネクタハウジングの構成材料として一般的に用いられるポリブチレンフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂や、6-ナイロン(PA6)等のポリアミド樹脂は、多くの場合、絶縁電線の絶縁被覆材料よりも硬質であり、大きなヤング率を有する。本開示のワイヤーハーネスにおいても、コネクタハウジングにそれらの材料を好適に適用することができる。
【0035】
<絶縁電線の構成の詳細>
次に、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスに含まれる絶縁電線2の好適な構成について、詳細に説明する。絶縁電線2は、長尺状の導電性材料よりなる導体21と、絶縁性の材料よりなり、導体21の外周を被覆する絶縁被覆23とを有している。導体21および絶縁被覆23を構成する材料は、特に限定されるものではない。
【0036】
導体21を構成する材料としては、種々の金属材料を用いることができ、銅および銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金等を例示することができる。特に、高い導電性や柔軟性を有する等の点から、銅または銅合金を用いることが好ましい。導体21は、単線として構成されてもよいが、屈曲時の柔軟性を高める等の観点から、複数の素線22よりなることが好ましい。複数の素線22は、束の状態で導体21を構成していても、互いに撚り合わせられて撚線として導体21を構成していてもよい。導体21は、圧縮成形されていてもよいが、大径部2aと小径部2bの間の外径の差は、導体21を圧縮成形しない場合の方が、大きくしやすい。
【0037】
絶縁被覆23は、有機ポリマーを含む材料より構成される。有機ポリマーの種類は、特に限定されるものではなく、ポリオレフィンやオレフィン系共重合体等のオレフィン系ポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン系ポリマー、フッ素系ポリマー、各種エンジニアリングプラスチック、エラストマー、ゴム等を挙げることができる。ただし、コネクタハウジング4の電線挿入孔42等、付加部材の電線収容部への絶縁電線2の収容を、絶縁被覆23の変形ではなく、絶縁電線2への小径部2bの形成によって達成することの意義を高める観点からは、絶縁被覆23を構成する有機ポリマーは、エラストマーやゴムよりは、オレフィン系ポリマーやハロゲン系ポリマー、フッ素系ポリマー等、比較的弾性率が高く、変形しにくい樹脂材料よりなることが好ましい。また、加熱を伴う小径部2bの形成を容易にする観点から、熱可塑性ポリマーを用いることが好ましい。絶縁被覆23には、有機ポリマーに加えて、適宜添加剤が含有されてもよい。
【0038】
絶縁電線2の具体的な寸法は特に限定されるものではないが、大径部2aと小径部2bの間に外径の差を設けやすくする、また大径部2aと小径部2bの外径に差を設けることの効果を大きくする等の観点から、以下の寸法を好適に例示することができる。つまり、導体断面積として、0.13mm2以上、また200mm2以下の範囲を例示することができる。導体21を構成する素線22の外径としては、0.1mm以上、また1mm以下の範囲を例示することができる。絶縁被覆23の厚さ(被覆厚)として、大径部2aにおける厚さで、0.2mm以上、また2mm以下の範囲を例示することができる。絶縁電線2の外径としては、大径部2aの外径Daで、0.9mm以上、また30mm以下の範囲を例示することができる。
【0039】
上記のように、絶縁電線2は、小径部2bと大径部2aを、軸線方向に沿って共存させて有している。導体21を構成する各素線22、および絶縁被覆23が、小径部2bと大径部2aの間で一体に連続している。そして、小径部2bの外径Dbが、大径部2aの外径Daよりも小さくなっている。ここで、小径部2bおよび大径部2aの外径Db,Daとは、それぞれ、小径部2bおよび大径部2aにおいて軸線方向に垂直に絶縁電線2を切断した断面において、重心を通って断面を横切る直線の長さを指す。各断面において、複数の方向に断面を横切る直線の長さを評価し、それら複数の直線の長さの平均値を外径とすればよい。小径部2bおよび大径部2aの断面形状がそれぞれ円形に近似できる断面形状を有していることが好ましく、この場合に、それらの円形の直径が外径Db,Daとなる。図示した形態においては、大径部2aと小径部2bは、絶縁電線2の軸線方向に沿って、間に外径が徐々に変化する遷移部2cを挟んで、相互に隣接している。
【0040】
小径部2bの外径Dbと大径部2aの外径Daの具体的な差は、特に限定されるものではないが、小径部2bの外径Dbが、大径部2aの外径Daに対して、小さくなっている比率を示す外径減少率((Da-Db)/Da×100%)が、3%以上となっているとよい。さらに好ましくは、外径減少率が、5%以上となっているとよい。すると、絶縁電線2に小径部2bを設けることの意義が大きくなる。外径減少率の上限は特に指定されるものではないが、実際に困難なく設定できる外径減少率として、おおむね10%以下の範囲を例示することができる。
【0041】
小径部2bの外径Dbと大径部2aの外径Daの間に差を与える主な要因として、小径部2bと大径部2aの間における導体21の外径の差、および絶縁被覆23の厚さの差を挙げることができる。また、導体21と絶縁被覆23の間に空隙が存在しうる場合には、その空隙の大きさの差も挙げることができる。好ましくは、小径部2bにおいて、導体21の外径および絶縁被覆23の厚さの少なくとも一方が、大径部2aよりも小さくなっているとよい。すると、小径部2bと大径部2aの間に大きな電線外径の差を設けやすくなる。特に、小径部2bにおいて、少なくとも絶縁被覆23の厚さを大径部2aよりも小さくすることで、小径部2bと大径部2aの間の電線外径の差を大きくしやすい。さらに、小径部2bにおいて、導体21の外径および絶縁被覆23の厚さの両方を、大径部2aよりも小さくすると、小径部2bの外径Dbと大径部2aの外径Daの間の差を効果的に大きくすることができる。導体21が複数の素線22より構成される場合に、導体21の外径の縮小は、それら素線22の間の空隙の減少、および各素線22の変形の少なくとも一方によって達成される。それらのうちでは、複数の素線22の間の空隙の減少が、導体21の外径の縮小に高い効果を示す。
【0042】
小径部2bの外径Dbと大径部2aの外径Daの間に大きな差を形成しやすくする観点から、小径部2bにおける絶縁被覆23の厚さ(tb)が、大径部2aにおける絶縁被覆23の厚さ(ta)に対して、小さくなっている比率を示す被覆厚減少率((ta-tb)/ta×100%)が、10%以上、さらには15%以上となっているとよい。被覆厚減少率に特に上限は設けられないが、実際に困難なく設定できる被覆厚減少率として、おおむね30%以下の範囲を例示することができる。同様の観点から、小径部2bにおける導体21の外径(db)が、大径部2aにおける導体21の外径(da)に対して、小さくなっている比率を示す導体外径減少率((da-db)/da×100%)が、1%以上、さらには3%以上となっているとよい。導体外径減少率に特に上限は設けられないが、実際に困難なく設定できる導体外径減少率として、おおむね6%以下の範囲を例示することができる。
【0043】
さらに、小径部2bにおいては、大径部2aよりも、絶縁被覆23の厚さのばらつきが小さくなっていることが好ましい。絶縁被覆23の厚さのばらつきが小さいと、小径部2bにおける絶縁電線2の外径のばらつきも小さくなる。すると、コネクタハウジング4の電線挿入孔42等、付加部材において小径部2bを収容する電線収容部の寸法について、絶縁電線2の外径のばらつきを考慮して設ける余裕を小さくすることができる。つまり、電線収容部および付加部材全体の寸法を小さく設計することが可能となる。
【0044】
例えば、小径部2bおよび大径部2aのそれぞれにおける絶縁被覆23の厚さのばらつき(δ)は、軸線方向に直交する断面において、周方向に沿った複数の箇所(例えば4箇所以上)で絶縁被覆23の厚さを計測し、それら複数の箇所で得られた厚さの最大値(tmax)と最小値(tmin)の差が、厚さの平均値(tavr)に対して占める割合として評価することができる(δ=(tmax-tmin)/tavr×100%)。そして、小径部2bにおける厚さのばらつき(δb)の、大径部2aにおける厚さのばらつき(δa)に対する比率を被覆厚ばらつき比率(Rδ)として(Rδ=δb/δa)、その被覆厚ばらつき比率(Rδ)が0.8以下となればよい。さらに好ましくは、被覆厚ばらつき比率(Rδ)が、0.6以下であるとよい。また、小径部2bにおける被覆厚のばらつき(δb)が、40%以下、さらには30%以下であるとよい。それらの値に特に下限は設けられないが、実際に困難なく達成できる範囲として、おおむね、被覆厚ばらつき比率(Rδ)で0.2以上、小径部2bにおける被覆厚のばらつき(δb)で10%以上の範囲を例示することができる。さらに、絶縁被覆23の表面の平滑性が、小径部2bにおいて、大径部2aよりも高くなっていることが好ましい。
【0045】
絶縁電線2において、軸線方向に沿って、小径部2bおよび大径部2aのそれぞれを設ける位置、および数は特に限定されない。また、各小径部2bおよび大径部2aが占める領域の長さも特に限定されない。小径部2bが複数形成される場合に、それら小径部2bの外径は、相互に異なっていても、同じであってもよい。小径部2bを形成する位置については、
図2A,2Bに示したように、絶縁電線2の端末部に、大径部2aよりも長さの短い小径部2bを形成する形態を採用すれば、小径部2bを利用して、端末部にコネクタ3等の付加部材を取り付けるのに、絶縁電線2を好適に用いることができる。小径部2bと大径部2aは、絶縁電線2の軸線方向に沿って、直接連続して設けられていても、間に遷移部2cを挟んで隣接していてもよい。また、小径部2bの中心軸(断面の重心を通り、軸線方向に沿った直線)と、大径部2aの中心軸は、一致していても、ずれていてもよいが、図示した形態のように、一致していることが好ましい。
【0046】
<絶縁電線の製造方法>
小径部2bと大径部2aが共存した上記の絶縁電線2の製造方法は特に限定されるものではない。例えば、複数の素線22を撚り合わせて導体21を形成する際に、素線22の充填密度が異なる領域を軸線方法に沿って設ける方法や、導体21の外周に押出成形によって絶縁被覆23を形成する際に、押し出す被覆材料の量を途中で変更することで、絶縁被覆23の厚さに分布を形成する方法等を挙げることができる。しかし、軸線方向に沿って均一な構造を有する原料絶縁電線に対して、プレス成形法を用いて小径部2bを形成する方法を、特に好適に用いることができる。以下、その製造方法について簡単に説明する。
【0047】
原料絶縁電線として、製造すべき絶縁電線2の大径部2aと同じ外径Da(および導体外径、被覆厚)を有する絶縁電線を準備する。原料絶縁電線は、素線22を撚り合わせた導体21の外周に、被覆材料を押出成形することで、製造できる。この際、導体外径および絶縁被覆23の厚さは、制御できる範囲で、軸線方向に沿って一様としておく。原料撚線としては、従来一般の一様な断面を有する絶縁電線をそのまま適用することもできる。
【0048】
上記で得た原料絶縁電線に対して、小径部2bを形成する。小径部2bの形成は、プレス成形法にて行うことができる。所望の小径部2bの外径Dbおよび長さに対応する形状のキャビティを備えた成形型を、小径部2bを形成すべき位置にて、原料絶縁電線の外周に配置したうえで、成形型によって、原料絶縁電線に対して、外周側から内側へと圧縮する力を印加すればよい。この際、力の印加によって、好ましくは、導体外径の縮小および/または被覆厚の減少を伴って、原料絶縁電線の外径が縮小され、小径部2bが形成される。
【0049】
好ましくは、力の印加に先立ち、原料絶縁電線および/または成形型を加熱しておくとよい。また、その代わりに、あるいはそれ加えて、成形型を加熱しながら、力の印加を行うとよい。これらの方法による加熱を伴って小径部2bを形成することで、絶縁被覆23の被覆厚の減少を伴って、電線外径の低減を、効果的に進めることができる。絶縁被覆23が熱可塑性樹脂である場合に、絶縁被覆23が軟化温度以上となるように、加熱を行えばよい。ただし、加熱温度は、絶縁被覆23の融点以下に抑えておく必要がある。なお、プレス成形により、絶縁被覆23の厚さが小さくなるのに伴って、絶縁被覆23が絶縁電線2の長手方向に伸ばされ、絶縁被覆23の長さに余剰が生じる可能性があるが、余剰となった絶縁被覆23は、端部での切断等によって、適宜除去しておけばよい。
【0050】
プレス成形法によって小径部2bを形成する場合に、小径部2bの外周面の形状および寸法は、成形型のキャビティの形状および寸法によって定まる。よって、プレス成形前の原料絶縁電線において、位置によって寸法や形状にある程度のばらつきがあったとしても、プレス成形を経て得られる小径部2bにおいて、寸法や形状のばらつきを小さくすることができる。押出成形によって形成されるポリマー材料の層の厚さには、ばらつきが生じやすいが、プレス成形により、その厚さのばらつきを低減することができる。よって、原料絶縁電線の製造時に押出成形によって形成された絶縁被覆23の状態を引き継いでいる大径部2aに比べて、プレス成形を経た小径部2bの方が、絶縁電線2の周方向に沿って、また軸線方向に沿って、絶縁被覆23の厚さのばらつきが小さくなりやすい。さらに、上記のように加熱を伴うプレス成形によって小径部2bを形成すれば、絶縁被覆23の軟化を利用して、小径部2bにおいて絶縁被覆23の表面の平滑性を高めやすい。
【実施例0051】
以下に実施例を示す。本発明は、実施例により限定されるものではない。ここでは、小径部と大径部を有する絶縁電線を実際に作製できることを確認するとともに、小径部を利用して、作製した絶縁電線をコネクタに取り付けられることを、モデル試料を用いて確認した。特記しないかぎり、試料の作製および評価は、室温、大気中にて行った。
【0052】
<試料の作製>
原料絶縁電線として、導体の外周に、均一な厚さで絶縁被覆を押出成形した絶縁電線を作製した。導体としては、銅合金よりなる外径0.3mmの素線を1924本束にしたものを用い、絶縁被覆の構成材料としては、架橋ポリエチレンを用いた。
【0053】
上記原料絶縁電線を長さ200mmに切り出し、端末の100mmの領域に、小径部を形成することで、試料となる絶縁電線を得た。残りの領域はそのまま大径部とした。小径部の形成は、円筒状のキャビティを有する金型を用いたプレス成形によって行った。金型の温度は150℃とした。
【0054】
<試料の評価>
得られた絶縁電線を、大径部および小径部のそれぞれにおいて、軸線方向に直交する断面にて切断し、横断面試料を得た。それぞれの横断面試料において、絶縁電線全体としての外径(電線外径)、導体の外径(導体外径)、絶縁被覆の厚さ(被覆厚)を計測した。それぞれの長さの計測は、得られた横断面に、重心を中心に45°間隔で設定した4方向の直線に沿って行い、それら4方向で測定された値の平均値として求めた。また、値のばらつきとして、計測値の最大値と最小値の間の差を平均値で除したものを算出した。
【0055】
コネクタハウジングのモデルとして、ポリブチレンテレフタレート製の平板に、内径17.2mmの円形の貫通孔を設けたものを準備した。この板材の貫通孔に、上記で作製した絶縁電線を小径部側から挿入したものをモデル試料とした。このモデル試料を絶縁電線の軸線方向に沿って切断したものを縦断面試料として、その断面の状態を観察した。
【0056】
<評価結果>
下の表1に、小径部および大径部における電線外径、導体外径、被覆厚の測定結果をまとめる。表では、4方向の測定で得られた測定値(電線外径および導体外径について#1~#4、絶縁厚について#1~#8)と、それらの平均値、ばらつきの値を記載している。合わせて、平均値について、大径部の値に対する小径部の値の減少量および減少率も示している。また、
図3に、モデル試料を切断した縦断面試料に対して撮影した写真を示す。
【0057】
【0058】
表1によると、電線外径が、小径部において、大径部よりも、平均値で1.2mm小さくなっている。
図3の縦断面写真を見ても、符号2aで表示した大径部と比較して、符号2bで表示した小径部において、外径(上下方向の外寸)が小さくなっているのが分かる。このことから、プレス成形を経て、当初より外径の小さくなった小径部を形成できていることが確認される。
【0059】
そして、
図3の写真に示されるように、小径部は、符号Pで示される板材(白色に撮影されている箇所)の貫通孔を変形せずに通過できているが、大径部は、貫通孔に進入できていない。貫通孔の内径は17.2mmであり、17.8mmとの大径部よりは小さいが、16.6mmとの小径部の外径よりは大きくなっている(いずれも平均値)。この貫通孔の内径と電線外径との関係から、絶縁電線は、小径部のみ貫通孔を通過できるものとなっている。つまり、貫通孔の形態をとる電線挿入孔等、付加部材の電線収容部を、絶縁電線の大径部を収容不能であるが、小径部を収容可能な寸法に設計しておくことで、小径部を電線収容部に収容した状態で、付加部材を絶縁電線に取り付けられることが、示される。
【0060】
さらに、表1によると、小径部において、大径部と比較して、いずれも平均値で、導体外径が0.6mm小さくなり、被覆厚が0.3mm小さくなっている。つまり、上記1.2mmの電線外径の減少の内訳は、0.6mmの導体外径の減少と、径の片側あたり0.3mm、両側で0.6mmの被覆厚の減少の合計であることが、確認される。導体外径の減少率が4%であるのに対し、被覆厚の減少率は16%となっており、特に絶縁被覆の厚さの減少が、小径部における電線外径の減少に大きく寄与していることが分かる。
図3の縦断面写真でも、小径部において、大径部と比較して、電線導体の外径の減少と、絶縁被覆の厚さの減少が、ともに起こっていることが見てとれる。さらに、電線導体の内部で、暗く撮影されている素線間の空隙の面積が、小径部において大径部よりも小さくなっており、電線導体の外径の縮小が、素線間の空隙の減少を伴って起こっていることが示される。
【0061】
表1において、被覆厚のばらつき(上記δ)に注目すると、大径部で50%となっているのに対し、小径部では24%となっており、ばらつきが半分以下に減少している(上記Rδが0.50以下)。つまり、プレス成形によって小径部を形成した際に、被覆厚のばらつきが低減されていることが確認される。この被覆厚のばらつきの低減に伴い、電線外径についても、ばらつきが、大径部の9%から小径部の2%へと、1/4以下に小さくなっている。
【0062】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0063】
上記で説明した本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスを構成している絶縁電線は、絶縁電線の特性への影響を小さく抑えながら、外径の小さくなった部位を有する絶縁電線として、種々のワイヤーハーネスを構成する用途に加え、ワイヤーハーネスを構成する以外の用途にも用いることができる。つまり、絶縁電線の特性への影響を小さく抑えながら、外径の小さくなった部位を有する絶縁電線を提供することを課題とした場合に、以下の構成を有する絶縁電線を好適に提示することができる。
【0064】
[1]絶縁電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、軸線方向に沿って、大径部と、前記大径部よりも外径が小さくなった小径部とを有している。
[2]上記[1]の態様において、前記絶縁電線は、軸線方向の端末部に前記小径部を備えているとよい。
[3]上記[1]または[2]の態様において、前記小径部においては、前記導体の外径および前記絶縁被覆の厚さの少なくとも一方が、前記大径部よりも小さくなっているとよい。
[4]上記[3]の態様において、前記小径部においては、前記導体の外径および前記絶縁被覆の厚さの両方が、前記大径部よりも小さくなっているとよい。
[5]上記[1]から[4]のいずれか1つの態様において、前記小径部の外径が、前記大径部の外径に対して、3%以上小さくなっているとよい。
[6]上記[1]から[5]のいずれか1つの態様において、前記小径部における前記絶縁被覆の厚さが、前記大径部における前記絶縁被覆の厚さに対して、10%以上小さくなっているとよい。
[7]上記[1]から[6]のいずれか1つの態様において、前記絶縁被覆の厚さのばらつきが、前記小径部において、前記大径部よりも小さくなっているとよい。