(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142536
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】炭酸カルシウムブロックの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 11/18 20060101AFI20241003BHJP
A61L 27/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C01F11/18 C
A61L27/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054697
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】峯川 麻里
(72)【発明者】
【氏名】松本 淑京
(72)【発明者】
【氏名】北村 和
【テーマコード(参考)】
4C081
4G076
【Fターム(参考)】
4C081AB02
4C081CF21
4C081DA01
4G076AA16
4G076AB06
4G076AC06
4G076BA09
4G076BA38
4G076CA11
4G076DA16
(57)【要約】
【課題】生産性が向上した炭酸カルシウムブロックの製造方法を提供すること。
【解決手段】水酸化カルシウムのブロックを成型する成型工程と、前記ブロックを焼結する焼結工程と、焼結した前記ブロックを二酸化炭素に接触させる接触工程と、を含む、炭酸カルシウムブロックの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化カルシウムのブロックを成型する成型工程と、
前記ブロックを焼結する焼結工程と、
焼結した前記ブロックを二酸化炭素に接触させる接触工程と、を含む、
炭酸カルシウムブロックの製造方法。
【請求項2】
前記成型工程では、水酸化カルシウムのスラリーから前記ブロックを成型する、
請求項1に記載の炭酸カルシウムブロックの製造方法。
【請求項3】
前記炭酸カルシウムブロックが生体適合性材料に用いられる、
請求項1又は2に記載の炭酸カルシウムブロックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウムブロックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医科、歯科等の医療分野において、広範な骨の欠損部又は空隙部を修復する手段として、当該欠損部等への自家骨の移植が第一選択とされている。しかし、自家骨を採取するには、健常部に外科的侵襲を加えなければならず、その採取量にも限度があることから自家骨の代わりとなる骨補填材の移植が広く行われている。
【0003】
骨補填材としては、近年、炭酸カルシウムブロックが開発されている。炭酸カルシウムブロックの製造方法としては、炭酸カルシウム前駆体である水酸化カルシウムのブロックを成型し、この水酸化カルシウムブロックを二酸化炭素に接触させてブロックの表面を部分的に炭酸化した後、炭酸イオンが含有された水溶液に浸漬する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような炭酸カルシウムブロックには、さらなる高い生産性が望まれている。
【0006】
本発明の課題は、生産性が向上した炭酸カルシウムブロックの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、水酸化カルシウムのブロックを成型する成型工程と、前記ブロックを焼結する焼結工程と、焼結した前記ブロックを二酸化炭素に接触させる接触工程と、を含む、炭酸カルシウムブロックの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、生産性が向上した炭酸カルシウムブロックの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態(実施例1)のX線回折チャートを示す図。
【
図2】実施形態(実施例2)のX線回折チャートを示す図。
【
図3】実施形態(実施例3)のX線回折チャートを示す図。
【
図4】実施形態(実施例4)のX線回折チャートを示す図。
【
図5】実施形態(参考例1)のX線回折チャートを示す図。
【
図6】実施形態(参考例2)X線回折チャートを示す図。
【
図7】実施形態(実施例1、2)と従来(比較例1)の炭酸カルシウムブロックの製造方法における工程数及び製造日数を比較する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)について説明する。
【0011】
実施形態に係る炭酸カルシウムブロックの製造方法は、水酸化カルシウムのブロックを成型する成型工程(以下、水酸化カルシウムブロック成型工程又は工程Aという場合がある)を含む。
【0012】
本明細書において、炭酸カルシウムブロックは、炭酸カルシウムがブロック状に成形された炭酸カルシウム(CaCO3)の成形体を示す。
【0013】
水酸化カルシウムブロック成型工程(工程A)では、炭酸カルシウムブロックの原料として粉体の水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を成型した水酸化カルシウムの成型体(水酸化カルシウムブロック)を得る。
【0014】
工程Aでは、成型の際、粉体の水酸化カルシウムのみで成型してもよいし、粉体の水酸化カルシウムに別の物質を添加、混合したものを成型してもよい。
【0015】
工程Aでは、成型に要する時間は、限定されないが、例えば、1秒以上3時間以下である。
【0016】
工程Aにおいて、成型方法は特に限定されず、例えば、粉体の水酸化カルシウムを加圧成型してペレット化する方法(圧粉成型法)、粉体の水酸化カルシウムに水(蒸留水)を添加、混合したスラリーを加圧成型してペレット化する方法(加圧・スラリー成型法)、粉体の水酸化カルシウムに水を混合したスラリーとした後、乾燥(脱水)し成型する方法(スラリー成型法)等が挙げられる。
【0017】
成型方法としては、これらの中でも、スラリー成型法が好ましい。なお、成型方法としてスラリー成型法を用いる場合、水の水酸化カルシウムに対する質量比は0.01~2.5が好ましく、0.15~2.0がより好ましく、0.3~1.7が更に好ましい。水の水酸化カルシウムに対する質量比が0.01~2.5であると、スラリーの混錬及び乾燥(脱水)を十分に行うことができ、成型不良を防ぐことができる。
【0018】
実施形態に係る炭酸カルシウムブロックの製造方法は、ブロックを焼結する焼結工程(以下、焼結工程又は工程Bという場合がある)を更に含む。
【0019】
焼結工程(工程B)では、工程(A)で得た水酸化カルシウムブロックを焼結する。この焼結により、水酸化カルシウムブロックは酸化カルシウム(CaO)の成形体(酸化カルシウムブロック)に変換される。
【0020】
工程Bにおける焼結の温度は、特に限定されず、例えば、550℃以上であり、好ましくは600℃以上1200℃以下、より好ましくは600℃以上1100℃以下である。
【0021】
焼結温度が550℃以上であると、水酸化カルシウムブロックから酸化カルシウムブロックへの変換が一部で行われ、その後の炭酸カルシウムブロックへの変換も十分に行うことができる。なお、焼結温度の上限は、任意であるが、実施可能な加熱温度(例えば、1500℃)以下である。
【0022】
また、工程Bにおける焼結の雰囲気は、例えば、酸素濃度が10%以上である。
【0023】
また、工程Bにおける焼結の時間は、例えば、10分以上12時間以下である、好ましくは20分以上6時間以下、より好ましくは30分以上3時間以下である。焼結時間が10分以上12時間以下であると、焼結後の酸化カルシウムブロックの結晶が緻密になりやすく、その後に酸化カルシウムブロックから変換された炭酸カルシウムブロックの結晶も緻密になりやすい。
【0024】
なお、炭酸カルシウムブロックの原料となる水酸化カルシウムに有機バインダを添加すると、焼結時に酸化カルシウムへの変換が阻害され水酸化カルシウムが残留しやすくなるため、水酸化カルシウムには有機バインダを添加しないことが好ましい。なお、有機バインダの成分は、例えば、アクリル系樹脂等のポリマー樹脂等である。
【0025】
実施形態に係る炭酸カルシウムブロックの製造方法は、焼結したブロックを二酸化炭素に接触させる接触工程(以下、二酸化炭素接触工程又は工程Cという場合がある)を更に含む。
【0026】
二酸化炭素接触工程(工程C)では、工程(B)で得た酸化カルシウムブロックを二酸化炭素に接触させる。酸化カルシウムブロックが二酸化炭素を接触することにより、酸化カルシウムブロックは炭酸カルシウムの成形体(炭酸カルシウムブロック)に変換される。
【0027】
工程Cにおいて、二酸化炭素の接触は、例えば、恒温槽に二酸化炭素ガスを流入させる装置を用いてもよい。このような装置を用いると、恒温槽により温度を制御し、二酸化炭素ガス流量により二酸化炭素濃度を制御することができる。
【0028】
工程Cにおける二酸化炭素の濃度は、例えば、0.5~45%であり、好ましくは1.5~32%、より好ましくは5~20%である。二酸化炭素の濃度が0.5~45%であると、酸化カルシウムブロックから炭酸カルシウムブロックへの変換が十分に行われ、純度の高い(残留未反応物のない)炭酸カルシウムブロックが得られやすい。
【0029】
また、工程Cにおける温度は、例えば、10~80℃であり、好ましくは17~60℃、より好ましくは23~42℃である。二酸化炭素接触工程における温度が10~80℃であると、適切な二酸化炭素の濃度及び相対湿度の下、酸化カルシウムブロックから炭酸カルシウムブロックへの変換が十分に行われ、純度の高い炭酸カルシウムブロックが得られやすい。
【0030】
また、工程Cにおける相対湿度は、例えば、12%RH以上であり、好ましくは60%RH以上、より好ましくは80%以上である。相対湿度が12%RH以上であると、適切な二酸化炭素の濃度の下、少ない水分量で、酸化カルシウムブロックから炭酸カルシウムブロックへの変換が行われ、純度の高い炭酸カルシウムブロックが得られやすい。なお、相対湿度の上限は、任意であるが、実施可能な相対湿度(例えば、99%)以下である。
【0031】
また、工程Cにおける接触時間は、例えば、12時間以上であり、好ましくは3日以上、より好ましくは6日超である。適切な接触温度及び相対湿度の下、二酸化炭素の接触時間が12時間以上であると、酸化カルシウムブロックから水酸化カルシウムブロックを経由した炭酸カルシウムブロックへの変換が十分に行われ、純度の高い炭酸カルシウムブロックが得られやすい。なお、接触時間の上限は、任意であるが、製造時間の短縮による製造コスト低減の観点から、接触時間は14日以下であればよく、好ましくは10日以下、より好ましくは8日以下である。
【0032】
実施形態に係る炭酸カルシウムブロックの製造方法では、従来の炭酸カルシウムブロックの製造方法のような製造上の時間を要する炭酸イオン含有水溶液浸漬工程を含まなくても、緻密で純度の高い(残留未反応物のない)炭酸カルシウムブロックが得られる。これにより、炭酸カルシウムブロックを製造する際の、製造工程が簡略化され、また製造時間が短縮化されるため、炭酸カルシウムブロックの生産性を向上させることができる。
【0033】
また、このような製造方法で得られた炭酸カルシウムブロックの用途は、特に限定されないが、緻密で純度の高い(残留未反応物のない)炭酸カルシウムブロックが得られ点で、生体適合性材料に適用可能であり、中でも骨補填材に好適に用いられる。
【0034】
また、実施形態に係る炭酸カルシウムブロックの製造方法では、水酸化カルシウムブロック成型工程における成型方法として、上述のようにスラリー成型法を用いることで、スラリー成型法は加圧工程を含まないため、水酸化カルシウムブロックの成型が容易であり、製造コストを抑制することができる。
【実施例0035】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0036】
<炭酸カルシウムブロック(試験体)の作製>
試験体として、以下に示す実施例1~4、参考例1、2、及び比較例1の各条件で炭酸カルシウムブロックを作製した。
【0037】
[実施例1]
粉体の水酸化カルシウムを圧粉成型し、水酸化カルシウムの成型体(水酸化カルシウムブロック)を作製した(成型工程)。この水酸化カルシウムブロックを、焼結炉に入れ、焼結温度600℃(昇温速度400℃/時間)で5時間係留し、自然放冷し、酸化カルシウムの成形体(酸化カルシウムブロック)を得た(焼結工程)。この酸化カルシウムブロックを、焼結炉から取り出し、恒温槽に入れ、CO2濃度10%、温度28℃、湿度95%RHの環境下で、7日間静置し、炭酸カルシウムブロック(試験体)を得た(二酸化炭素接触工程又は消化・炭酸化工程)。
【0038】
[実施例2]
焼結工程で焼結温度を800℃にした以外は、実施例1と同様に、試験体を得た。
【0039】
[実施例3]
焼結工程で焼結温度を1000℃にした以外は、実施例1と同様に、試験体を得た。
【0040】
[実施例4]
成型工程で、圧粉成型に代えて、水80質量部に水酸化カルシウム74質量部を加え、1分混合し、水酸化カルシウムのスラリーを作製し、このスラリーをバット(型)に流し込み、水分を蒸発させ、水酸化カルシウムの成型体(水酸化カルシウムブロック)を作製し、焼結工程で昇温速度を367℃/時間にし、焼結温度を1100℃にした以外は、実施例1と同様に、試験体を得た。
【0041】
[参考例1]
焼結工程で焼結温度を400℃にした以外は、実施例1と同様に、試験体を得た。
【0042】
[参考例2]
二酸化炭素接触工程で反応時間を3時間にした以外は、実施例4と同様に、試験体を得た。
【0043】
[比較例1]
粉体の水酸化カルシウムを圧粉成型し、水酸化カルシウムの成型体(水酸化カルシウムブロック)を作製した(成型工程)。この水酸化カルシウムブロックを、CO2濃度10%、温度28℃、湿度95%RHの環境下で、7日間静置し(消化・仮炭酸化工程)、その後、0.5Nの炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)水溶液に、液温80℃で、7日間浸漬した(完全炭酸化工程)。その後、水洗し(水洗工程)、乾燥し(乾燥工程)、試験体を得た。
【0044】
[X線回折測定]
実施例1~4及び参考例1、2で得られた各試験体について、測定器(Empyrean社製、オールインワンXRD装置)にて粉末X線回折法より結晶層の有無を確認した。測定条件は、Tension:45kV、Current:40mA、測定範囲:2θ=10.0°~60.0°とした。結晶層の有無は、各試験体における下記物質の主要ピークの有無により判断した。実施例1~4及び参考例1、2の測定結果を、
図1~6にそれぞれ示す。なお、
図1~6における記号(●、◆、▼)は以下の物質およびピーク角度を示す。
●:水酸化カルシウムの主要ピーク
◆:炭酸カルシウムの主要ピーク
▼:酸化カルシウムの主要ピーク
【0045】
図1~
図4(実施例1~4)では、いずれも炭酸カルシウムの主要ピークを確認した。この結果から、実施例1~4で得られた試験体は、いずれも炭酸カルシウムであると判断した。
【0046】
一方、
図5(参考例1)では、水酸化カルシウムと炭酸カルシウムの主要ピークを確認した。この結果から、参考例1で得られた試験体は、水酸化カルシウムと炭酸カルシウムの複合体であると判断した。
【0047】
また、
図6(参考例2)では、水酸化カルシウムと酸化カルシウムの主要ピークを確認した。この結果から、参考例2で得られた試験体は、水酸化カルシウムと酸化カルシウムの複合体であると判断した。
【0048】
[作製時間]
実施例1、2及び比較例1について、試験体が作製されるまでの日数(作製時間)を比較した。比較した結果を
図7に示す。
【0049】
比較例1では、作製時間(合計日数)が18日であった(
図7(C))。これに対して、実施例1では、作製時間(合計日数)が9日であり、実施例2では作製時間(合計日数)が10日であった(
図7(A)、(B))。
【0050】
以上より、水酸化カルシウムブロック成型工程、焼結工程、及び二酸化炭素接触工程を含む炭酸カルシウムブロックの製造方法により、製造工程が簡略化され、また製造時間が短縮化されるため、炭酸カルシウムブロックの生産性が向上することが判った(実施例1~4)。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。