(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142545
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】センサ素子及びセンサ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20241003BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20241003BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G01N27/409 100
G01N27/419
G01N27/416 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054709
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】梶田 悠生
(72)【発明者】
【氏名】田邉 悠馬
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BB04
2G004BD05
2G004BF03
2G004BF08
2G004BF09
2G004BG15
2G004BJ03
2G004ZA04
(57)【要約】
【解決手段】センサ素子10は、ガスを取り込むキャビティ26を先端側に有する本体12と、本体12の先端側の外周面を覆う多孔質保護層14と、を備え、多孔質保護層14は、先端面12aにおいて、少なくともキャビティ26と長手方向に重なる部分を覆う水滴阻止構造と、水滴阻止構造の周囲で先端面12aを覆う肉薄部58と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを取り込むキャビティを先端側に有する本体と、
前記本体の前記先端側の外周面を覆う多孔質保護層と、を備え、
前記多孔質保護層は、
前記本体の先端面において、少なくとも前記キャビティと前記先端面に垂直な長手方向に重なる部分を覆う水滴阻止構造と、
前記水滴阻止構造の周囲で前記先端面を覆う肉薄部と、
を備える、センサ素子。
【請求項2】
請求項1記載のセンサ素子であって、
前記キャビティは、前記長手方向に沿って延びており、
前記水滴阻止構造は、前記肉薄部よりも大きな厚みを有する前記多孔質保護層の凸部である、センサ素子。
【請求項3】
請求項1記載のセンサ素子であって、前記本体は、前記長手方向に長く延びた直方体状に形成され、かつ、前記本体は、前記長手方向に垂直な幅方向の寸法が前記長手方向及び前記幅方向に垂直な厚さ方向の寸法よりも大きな扁平な平板形状を有し、
前記水滴阻止構造は、前記先端面において前記幅方向及び前記厚さ方向の中央に位置する、センサ素子。
【請求項4】
請求項1記載のセンサ素子であって、前記肉薄部は、前記キャビティの前記長手方向の延長線上を避けた位置に形成される、センサ素子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のセンサ素子であって、前記肉薄部の厚みCから前記水滴阻止構造の厚みAとの差分値Bと、前記水滴阻止構造の厚みAと、の比率B/Aは、0.05~0.6の範囲である、センサ素子。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のセンサ素子であって、前記肉薄部の厚みCから前記水滴阻止構造の厚みAとの差分値Bと、前記水滴阻止構造の厚みAと、の比率B/Aは、0.1~0.58の範囲である、センサ素子。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載のセンサ素子であって、前記キャビティは、前記先端面に開口する、センサ素子。
【請求項8】
ガス成分を取り込むキャビティを先端側に有する本体と、前記本体の前記先端側の外周面を覆う多孔質保護層と、を有するセンサ素子の製造方法であって、
前記本体の側面にプラズマ溶射で前記多孔質保護層を成膜する第1溶射工程と、
前記本体の先端面にプラズマ溶射で前記多孔質保護層を成膜する第2溶射工程と、を有し、
前記第2溶射工程は、前記先端面に向かい合うように、溶射ガンを配置し、かつ前記溶射ガンで成膜効率が最も高くなるノズル中心を前記キャビティの前記先端面に垂直な長手方向の延長線上に位置合わせしてプラズマ溶射を行うことで、前記先端面において、少なくとも前記キャビティと前記長手方向に重なる部分を覆う肉厚の凸部と、前記凸部の周囲の前記先端面を覆う肉薄部とを有する前記多孔質保護層を形成する、センサ素子の製造方法。
【請求項9】
ガス成分を取り込むキャビティを先端側に有する本体と、前記本体の前記先端側の外周面を覆う多孔質保護層とを有するセンサ素子の製造方法であって、
前記本体の側面にスプレー法で前記多孔質保護層を成膜する第1スプレー工程と、
前記本体の先端面にスプレー法で前記多孔質保護層を成膜する第2スプレー工程と、を有し、
前記第2スプレー工程は、前記先端面に向かい合うように、スプレーガンを配置し、かつ前記スプレーガンによる成膜効率が最も高くなるノズル中心を前記キャビティの前記先端面に垂直な長手方向の延長線上に位置合わせしてスプレーすることで、前記先端面において、少なくとも前記キャビティと前記長手方向に重なる部分を覆う肉厚の凸部と、前記凸部の周囲の前記先端面を覆う肉薄部とを有する前記多孔質保護層を形成する、センサ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス成分を検出するセンサ素子及びセンサ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NOx又は酸素等のガス成分の濃度の検出に、セラミックスからなるセンサ素子が使用される。このようなセンサ素子は、高温で使用される。高温のセンサ素子の本体への水滴の付着は、熱衝撃で本体を破損させるおそれがある。
【0003】
特許文献1は、本体の周囲を多孔質保護層で覆うことで、熱衝撃から本体を保護するセンサ素子を開示する。
【0004】
特許文献2も多孔質保護層で本体を覆ったセンサ素子を開示する。この多孔質保護層は、表面に水滴を捉える凹部を有する。凹部は、水滴を素早く乾燥させて多孔質保護層の破損を防止する。
【0005】
特許文献3も多孔質保護層で本体を覆ったセンサ素子を開示する。特許文献3には、水滴による多孔質保護層の損傷を防止するために、水滴に弱い角部の膜厚を厚くした多孔質保護層が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-109685号公報
【特許文献2】特開2009-080111号公報
【特許文献3】特開2019-039693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3のセンサ素子は、最も脆弱な部分である本体の先端部分を効率よく保護できないため、多孔質保護層を全体的に厚くする必要がある。厚い多孔質保護層は、生産に時間を要するとともに、熱容量の増大による起動時の消費電力の増加や、ガス拡散時間の増大に伴うセンサ素子の応答性の悪化といった問題を生ずる。
【0008】
本発明は、上記した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[項目1]
本発明の一観点は、ガスを取り込むキャビティを先端側に有する本体と、前記本体の前記先端側の外周面を覆う多孔質保護層と、を備えるセンサ素子であって、前記多孔質保護層は、前記本体の先端面において、少なくとも前記キャビティと前記先端面に垂直な長手方向に重なる部分を覆う水滴阻止構造と、前記水滴阻止構造の周囲で前記先端面を覆う肉薄部と、を備える。上記のセンサ素子は、本体の中でも応力が集中して最も破損しやすい、先端面において、キャビティの長手方向に重なる部分を水滴阻止構造で保護し、その周囲に肉薄部を設けることで、必要な部分を効率よく多孔質保護層で保護できる。その結果、センサ素子は、先端の熱容量を低減でき、センサ素子の応答性を改善できる。
[項目2]
項目1記載のセンサ素子であって、前記キャビティは、前記長手方向に沿って延びており、前記水滴阻止構造は、前記肉薄部よりも大きな厚みを有する前記多孔質保護層の凸部であってもよい。このセンサ素子は、最も簡単な構造で水滴阻止構造を実現できる。
[項目3]
項目1又は2記載のセンサ素子であって、前記本体は、前記長手方向に長く延びた直方体状に形成され、かつ、前記本体は、前記長手方向に垂直な幅方向の寸法が前記長手方向及び前記幅方向に垂直な厚さ方向の寸法よりも大きな扁平な平板形状を有し、前記水滴阻止構造は、前記先端面において前記幅方向及び前記厚さ方向の中央に位置してもよい。
[項目4]
項目1~3のいずれか1項に記載のセンサ素子であって、前記肉薄部は、前記キャビティの前記長手方向の延長線上を避けた位置に形成されてもよい。このセンサ素子は、水滴の付着による本体の破損を防止できる。
[項目5]
項目1~4のいずれか1項に記載のセンサ素子であって、前記肉薄部の厚みCから前記水滴阻止構造の厚みAとの差分値Bと、前記水滴阻止構造の厚みAと、の比率B/Aは、0.05~0.6の範囲であってもよい。このセンサ素子は、多孔質保護層の生産性と、水滴の付着に対する本体の破損しにくさとを両立できる。
[項目6]
項目1~4のいずれか1項に記載のセンサ素子であって、前記肉薄部の厚みCから前記水滴阻止構造の厚みAとの差分値Bと、前記水滴阻止構造の厚みAと、の比率B/Aは、0.1~0.58の範囲でもよい。このセンサ素子は、生産性と、水滴付着に対する本体の破損しにくさと、においてより好適である。
[項目7]
項目1~6のいずれか1項に記載のセンサ素子であって、前記キャビティは、前記先端面に開口してもよい。
[項目8]
本発明の別の一観点は、ガス成分を取り込むキャビティを先端側に有する本体と、前記本体の前記先端側の外周面を覆う多孔質保護層と、を有するセンサ素子の製造方法であって、前記本体の側面にプラズマ溶射で前記多孔質保護層を成膜する第1溶射工程と、前記本体の先端面にプラズマ溶射で前記多孔質保護層を成膜する第2溶射工程と、を有し、前記第2溶射工程は、前記先端面に向かい合うように、溶射ガンを配置し、かつ前記溶射ガンで成膜効率が最も高くなるノズル中心を前記キャビティの前記先端面に垂直な長手方向の延長線上に位置合わせしてプラズマ溶射を行うことで、前記先端面において、少なくとも前記キャビティと前記長手方向に重なる部分を覆う肉厚の凸部と、前記凸部の周囲の前記先端面を覆う肉薄部とを有する前記多孔質保護層を形成する。上記のセンサ素子の製造方法は、第2溶射工程において、溶射ガンのノズル中心を大きく移動させる必要がないため、多孔質保護層をより効率良く製造できる。
[項目9]
本発明の別の一観点は、ガス成分を取り込むキャビティを先端側に有する本体と、前記本体の前記先端側の外周面を覆う多孔質保護層と、を有するセンサ素子の製造方法であって、前記本体の側面にスプレー法で前記多孔質保護層を成膜する第1スプレー工程と、前記本体の先端面にスプレー法で前記多孔質保護層を成膜する第2スプレー工程と、を有し、前記第2スプレー工程は、前記先端面に向かい合うように、スプレーガンを配置し、かつ前記スプレーガンによる成膜効率が最も高くなるノズル中心を前記キャビティの前記先端面に垂直な長手方向の延長線上に位置合わせしてスプレーすることで、前記先端面において、少なくとも前記キャビティと前記長手方向に重なる部分を覆う肉厚の凸部と、前記凸部の周囲の前記先端面を覆う肉薄部とを有する前記多孔質保護層を形成する。上記のセンサ素子の製造方法は、第2スプレー工程において、スプレーガンのノズル中心を大きく移動させる必要がないため、多孔質保護層をより効率良く製造できる。
【発明の効果】
【0010】
上記のセンサ素子及びセンサ素子の製造方法は、熱衝撃から本体を保護しつつ、多孔質保護層を薄くできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係るセンサ素子の縦断面図である。
【
図3】
図3Aは、第1溶射工程の説明図であり、
図3Bは第2溶射工程の説明図である。
【
図4】
図4は、比較例1のセンサ素子の断面の模式図である。
【
図5】
図5Aは、比較例2、3のセンサ素子の断面の模式図であり、
図5Bは比較例2、3の第2溶射工程の説明図である。
【
図6】
図6Aは、実施例1のセンサ素子の断面の模式図であり、
図6Bは実施例2のセンサ素子の断面の模式図である。
【
図7】
図7は、実施例3のセンサ素子の断面の模式図である。
【
図8】
図8は、比較例1~3及び実施例1~5のセンサ素子の肉薄部の位置と、凸部の厚みAと、肉薄部と凸部との厚みの差分値Bと、差分値と凸部の厚みとの比率B/Aと、耐被水性の評価結果と、生産性の評価結果と、を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示される、本実施形態に係るセンサ素子10は、例えば、自動車の排気ガス中のNOxといったガス成分の濃度を検出するガスセンサに使用される。センサ素子10は、本体12と、多孔質保護層14とを有する。本体12は、長尺な直方体形状を有しており、図の左右方向である長手方向に長く延びる。本体12は、図の上下方向が厚さ方向であり、図の紙面に垂直な方向が幅方向である。本体12は、厚さ方向の寸法が、幅方向の寸法よりも小さい、扁平な平板形状を有する。多孔質保護層14は、本体12の先端付近の外表面を覆うことで、本体12を熱衝撃から保護する。
【0013】
本体12は、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性を有するセラミックス層を複数積層した構造を有する。具体的には、本体12は、図の下から順に第1層16と、第2層18と、第3層20と、第4層22と、第5層24と、を有する。各層は互いに接合されて一体化されている。各層の間の所定箇所に配線パターンが設けられている。なお、本体12の第1層16と第2層18はアルミナ等の絶縁物質で構成されてもよい。
【0014】
第4層22には、キャビティ26が設けられている。キャビティ26は、被測定ガス成分を取り込んで測定を行うために、本体12の内部に形成された空洞部である。キャビティ26は、本体12の先端付近(図の左側)に形成されている。キャビティ26は、長手方向に延びている。キャビティ26は、開口部26aから本体12の内部に被測定ガスを導入する。図示の例では、開口部26aは、本体12の先端面12aに位置する。なお、キャビティ26の開口部26aの位置は、必ずしも本体12の先端面12aに限定されず、本体12の幅方向の側面12bのように先端面12a以外の部分に形成されてもよい。また、キャビティ26の開口部26aは空洞部に限定されず、多孔質等のガス導入口としてもよい。
【0015】
キャビティ26は、複数の拡散律速部30によって仕切られている。拡散律速部30に仕切られたキャビティ26は、複数の空室32を構成する。最も先端側の空室32は、ガス導入部32aであり、先端側から2番目の空室32は緩衝空間32bである。先端側から3番目の空室32は、第1空室32cであり、先端側から4番目の空室32は第2空室32dであり、先端側から5番目の空室32は、第3空室32eである。第1空室32cは、流入するガス成分の酸素濃度の調整が行われる空室32である。第2空室32dは、被測定ガス成分をさらに低酸素化する空室32である。第3空室32eは、被測定ガス成分の測定を行う空室32である。
【0016】
本体12の配線パターンの一部は、ヒータ34と、基準電極36と、主ポンプ電極38と、補助ポンプ電極40と、測定電極42と、外側電極44と、を構成する。ヒータ34は、第1層16と第2層18との間に位置する。ヒータ34は、供給された電流により発熱し、センサ素子10を所定の動作温度に加熱する。
【0017】
基準電極36は、第2層18と第3層20との間に位置する。基準電極36は、第3層20に接触するとともに、基準ガス導入部46を通じて基準ガス(例えば大気)と接する。
【0018】
主ポンプ電極38は、第1空室32cの内周面の上に設けられている。補助ポンプ電極40は、第2空室32dの内周面の上に設けられている。測定電極42は、第3空室32eに位置し、第3層20の上に設けられている。外側電極44は、第5層24の外表面の上に設けられている。本体12のその他の電極及び配線の説明は省略される。
【0019】
第1空室32cの酸素分圧は、第1酸素検出セル50により検出される。第1酸素検出セル50は、主ポンプ電極38と、第3層20と、基準電極36とで構成される電気化学セルである。第1酸素検出セル50は、主ポンプ電極38と基準電極36との間に、第1空室32cの酸素分圧に応じた電位差を発生させる。第1空室32cの酸素は、主ポンプセル48によって調整される。主ポンプセル48は、主ポンプ電極38と、第5層24と、外側電極44とで構成される電気化学セルである。主ポンプセル48は、第5層24を通じて、第1空室32cの内部に酸素の導入又は第1空室32cの内部の酸素の排出を行う。主ポンプセル48は、第1空室32cの内部の酸素分圧を所定値に調整する。
【0020】
第2空室32dの酸素分圧は、第2酸素検出セル52により検出される。第2酸素検出セル52は、補助ポンプ電極40と、第3層20と、基準電極36とで構成される。第2酸素検出セル52の検出値は、補助ポンプセル54の制御に利用される。補助ポンプセル54は、補助ポンプ電極40と、第5層24と、外側電極44とで構成される。補助ポンプセル54は、第2空室32dの内部の酸素を排出して、内部のガスを低酸素濃度とする。
【0021】
第3空室32eの測定対象ガス(例えば、NO)の濃度は、測定ポンプセル56により検出される。測定ポンプセル56は、測定電極42と、第3層20と、基準電極36とによって構成される。
【0022】
多孔質保護層14は、本体12の先端側の外周面を覆う。具体的には、多孔質保護層14は本体12の先端に位置する先端面12aと、先端面12aに隣接する4つの側面12bとを覆う。多孔質保護層14は、多孔質体によって形成される。多孔質保護層14は、セラミックス粒子が気孔を形成しつつ結合した構造を有する。多孔質保護層14の材料としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、スピネル、コージェライト、チタニア、及びマグネシア等が挙げられる。多孔質保護層14の気孔率は、例えば5体積%~40体積%である。多孔質保護層14は、気孔率の異なる内層66(
図7)と外層68(
図7)とを有する多層構造としてもよい。多層構造の多孔質保護層14において、内層66はより大きな気孔率とすることが好ましい。
【0023】
本実施形態の多孔質保護層14は、先端面12aを覆う先端部14aに肉薄部58と、凸部60(水滴阻止構造)とを有している。肉薄部58は、先端面12aを覆う多孔質保護層14の先端部14aにおいて、相対的に厚さが薄い部分である。肉薄部58は、多孔質保護層14の量を減少させることで、多孔質保護層14の熱容量を減少させる。また、肉薄部58は、被測定ガスがキャビティ26の開口部26aに到るまでに要する多孔質保護層14の拡散経路を短くする。そのため、肉薄部58は、より素早く被測定ガスをキャビティ26に到達させることができ、センサ素子10の応答速度を高める。
【0024】
肉薄部58は、水滴から本体12を保護する性能が、凸部60よりも低い。そのため、肉薄部58は、本体12の中で、比較的クラックが発生しにくい部分であるキャビティ26の長手方向の延長線上を避けた位置に形成される。すなわち、肉薄部58は、キャビティ26を長手方向に延長した線で囲んだ範囲から外れた位置に形成される。
図1及び
図2に示されるように、肉薄部58は先端面12aの周縁部の近くに形成されている。
【0025】
凸部60は、先端部14aの中で相対的に肉厚に形成された部分であり、肉薄部58から先端に向けて凸状に突出する。
図1及び
図2に示されるように、凸部60は、本体12の厚さ方向の中央部、かつ、幅方向の中央部に位置する。凸部60は、肉薄部58よりも厚いため、表面に付着した水滴が本体12に到達するのを防ぐ。すなわち、凸部60は本実施形態の水滴阻止構造を構成する。
【0026】
本体12の中でも、先端面12aのキャビティ26を長手方向に延長した部分は、応力が集中しやすく、熱衝撃によって破損しやすい。キャビティ26の開口部26aが本体12の側面12bに形成されている場合でも同様に、先端面12aのキャビティ26の長手方向の延長線上は、応力の集中により、クラックが入りやすい。そこで、本実施形態では、熱衝撃で破損しやすい先端面12aのキャビティ26を長手方向に延長した部分を覆うように、凸部60が設けられている。
図1及び
図2に示されるように、本実施形態においては、凸部60はキャビティ26の長手方向の延長線上の先端面12aを覆うべく、幅方向及び厚さ方向の略中央に位置する。
【0027】
凸部60の厚みAは、例えば、300μm以上とすることができる。肉薄部58と凸部60との厚みの差分値Bは、例えば、凸部60の厚みAの5~60%、より好ましくは、10~58%とすることができる。すなわち、差分値Bと厚みAとの比率B/Aは、0.05~0.6の範囲、より好ましくは、0.1~0.58の範囲とすることが好ましい。なお、肉薄部58の厚みCは、凸部60の厚みAの40~95%とすることができる。
【0028】
本実施形態のセンサ素子10は以上のように構成される。センサ素子10は、以下の方法で作製される。
【0029】
まず、本体12が作製される。本体12は、複数のグリーンシートを積層して焼成することで作製される。このような本体12の製造方法は、例えば特開2008-164411号公報又は特開2009-175099号公報等に記載されている。
【0030】
次に、本体12の表面の上に多孔質保護層14が形成される。多孔質保護層14は、プラズマ溶射により多孔質保護層14が形成される。多孔質保護層14を形成する工程は、
図3Aに示される第1溶射工程と、
図3Bに示される第2溶射工程とを有する。
図3Aに示されるように、第1溶射工程は、本体12の4つの側面12bに多孔質保護層14を形成する工程である。
【0031】
第1溶射工程は、本体12の側面12bに向かい合うように配置されたプラズマ溶射ガン62から、アルミナ粉末等の原料粉末が溶射される。プラズマ溶射ガン62は、そのノズル中心線63が側面12bに対して垂直となるように配置される。ノズル中心線63は、プラズマ溶射ガン62の噴流の中心軸であり、大部分の原料粉末が中心線に沿って吹き付けられる。第1溶射工程では、4つの側面12bに均一な厚さの多孔質保護層14を形成するために、本体12が長手方向の軸周りに回転される。また、第1溶射工程では、本体12は、プラズマ溶射ガン62の前を、複数回往復移動する。
【0032】
次に、
図3Bに示されるように、第2溶射工程が行われる。第2溶射工程は、本体12の先端面12aに向かい合うように配置されたプラズマ溶射ガン64から、アルミナ粉末等の原料粉末が溶射される。プラズマ溶射ガン64は、そのノズル中心線65が本体12の長手方向を向くように配置される。さらに、プラズマ溶射ガン64は、ノズル中心線65がキャビティ26の長手方向の延長線と一致するように位置決めされる。
【0033】
ノズル中心線65は、プラズマ溶射ガン64の噴流の中心位置であり、原料粉末の密度が最も高い。ノズル中心線65は、最も早い速度で多孔質保護層14が堆積し、成膜効率が最も高くなる部分となっている。ノズル中心線65から離れるに従って、原料粉末の密度が低下し、多孔質保護層14の堆積速度(成膜効率)が低下する。従って、ノズル中心線65をキャビティ26の長手方向の延長線上(本実施形態では開口部26a)に位置合わせして溶射すると、キャビティ26と長手方向に重なる部分を覆うように凸部60が形成される。本実施形態では、キャビティ26が本体12の幅方向及び厚さ方向の略中心に位置するため、ノズル中心線65は、本体12の幅方向及び厚さ方向の略中心に位置決めされる。また、凸部60の周縁部には、肉薄部58が形成される。なお、プラズマ溶射ガン64は、ノズル中心線65がキャビティ26の開口部26aから大きく外れない範囲で、本体12に対して相対的に移動してもよい。
【0034】
従来、多孔質保護層14を均一な厚さとするためには、プラズマ溶射ガン64又は本体12を動かすことで成膜効率の高い箇所を均一化する必要があり、生産性が低下していた。これに対し、第2溶射工程では、プラズマ溶射ガン64を動かす必要がなく、膜厚が不均一でよいので、より効率良く多孔質保護層14を形成でき、より短い時間でこのプラズマ溶射が完了するため、生産性も向上する。
【0035】
以上の工程により、本実施形態のセンサ素子10が完成する。
【0036】
なお、本実施形態のセンサ素子10の製造方法は、プラズマ溶射の代わりにスプレー法で行うこともできる。この場合において、プラズマ溶射ガン62、64の代わりに、スプレーガンが用いられる。この場合には、本体12の側面12bに多孔質保護層14を形成する第1スプレー工程と、本体12の先端面12aに多孔質保護層14を形成する第2スプレー工程とを有してもよい。第2スプレー工程では、スプレーガンの中心線がキャビティ26の開口部26aに位置決めされる。これにより、キャビティ26の長手方向の延長線上に凸部60を有する多孔質保護層14が形成される。
【0037】
以下、センサ素子10を作製した例が実施例及び比較例として説明される。
【0038】
(比較例1)
図4に示されるように、比較例1のセンサ素子10Aは、従来の方法(特許文献1)により形成された多孔質保護層14を有している。比較例1の多孔質保護層14は、先端部14aにおいて、均一な厚さに形成されており、肉薄部58や凸部60に相当する部分を備えない。比較例1の多孔質保護層14の先端部14aでの厚みAは、500μmであった。
【0039】
(比較例2、3)
図5Aに示されるように、比較例2のセンサ素子10Bは、多孔質保護層14の先端部14aに、肉薄部58と凸部60とを有している。ただし、比較例2、3の多孔質保護層14では、キャビティ26の長手方向の延長線上(開口部26a)は、凸部60で覆われておらず、肉薄部58で覆われている。このような多孔質保護層14は、
図5Bに示される第2溶射工程において、プラズマ溶射ガン64のノズル中心線65を、キャビティ26の延長線上と異なる位置に位置決めすることで作製された。
【0040】
比較例2の多孔質保護層14において、凸部60の厚みAは530μmであった。また、比較例2において、肉薄部58と凸部60との厚みの差分値Bは、130μmであった。
【0041】
比較例3のセンサ素子10Bは、
図5Aと同様の構造を有する。比較例3のセンサ素子10Bは、凸部60の厚みAが500μmであり、肉薄部58と凸部60との厚みの差分値Bが320μmであった。
【0042】
(実施例1、2)
図6Aに示されるように、実施例1のセンサ素子10は、多孔質保護層14の先端部14aに、肉薄部58と凸部60とを有している。凸部60は、キャビティ26の長手方向の延長線上(開口部26a)を覆い、肉薄部58はキャビティ26の長手方向の延長線上を避けた位置に設けられる。実施例1では、凸部60の厚みAは500μmであり、肉薄部58と凸部60との厚みの差分値Bは50μmであった。
【0043】
図6Bに示されるように、実施例2のセンサ素子10は、多孔質保護層14の先端部14aに、肉薄部58と凸部60とを有している。凸部60は、キャビティ26の長手方向の延長線上(開口部26a)を覆い、肉薄部58はキャビティ26の長手方向の延長線上を避けた位置に設けられる。実施例2では、凸部60の厚みAは480μmであり、肉薄部58と凸部60との厚みの差分値Bは280μmであった。
【0044】
(実施例3)
図7に示されるように、実施例3のセンサ素子10Cは、2層構造の多孔質保護層14Cを有する。多孔質保護層14Cは、本体12と接する気孔率の大きい内層66と、内層66の上に形成され内層66よりも気孔率が小さな外層68とを有する。内層66は、例えば、プラズマ溶射又はディップ法により均一な厚さに形成される。外層68は、第1溶射工程(
図3A)と第2溶射工程(
図3B)で形成された。外層68は、キャビティ26の長手方向の延長線上に位置する凸部60と、キャビティ26の長手方向の延長線上を避けた部位を覆う肉薄部58と、を有する。実施例3のセンサ素子10Cの凸部60の厚みAは900μmであり、肉薄部58と凸部60との厚みの差分値Bは300μmであった。
【0045】
(実施例4)
実施例4のセンサ素子10は、
図6Bの断面形状と概ね同様の形状の多孔質保護層14を有している。実施例4では、凸部60の厚みAが500μmであり、肉薄部58と凸部60との厚みの差分値Bは300μmであった。
【0046】
(実施例5)
実施例5のセンサ素子10は、
図6Aの断面形状と概ね同様の形状の多孔質保護層14を有している。実施例5では、凸部60の厚みAが600μmであり、肉薄部58と凸部60との厚みの差分値Bは30μmであった。
【0047】
(耐被水性の評価方法)
比較例1~3及び実施例1~5のセンサ素子10~10Cについて、多孔質保護層14、14Cの耐被水性の評価と、生産性の評価と、が行われた。耐被水性の評価は、以下のようにして行われた。
【0048】
まずヒータ34の通電により本体12が温度800℃に加熱された。この状態で、大気雰囲気中で主ポンプセル48、補助ポンプセル54、第1酸素検出セル50、第2酸素検出セル52等が作動された。主ポンプセル48は、第1空室32cの酸素濃度が所定の一定値を維持するように制御された。酸素濃度を一定値に保つために主ポンプセル48に供給される電流は、ポンプ電流Ip0として検出された。主ポンプセル48のポンプ電流Ip0が安定するのを待った後、多孔質保護層14、14Cに水滴を垂らす操作が行われた。
【0049】
その後、ポンプ電流Ip0が所定の閾値を超えた値に変化したか否かに基づいて、本体12のクラックの有無の判定が行われた。なお、水滴による熱衝撃で本体12にクラックが生じると、クラック部分を通過して第1空室32cに酸素が流入しやすくなるため、ポンプ電流Ip0の値が大きくなる。そのため、ポンプ電流Ip0が所定の閾値を超えている場合に、水滴で本体12にクラックが生じたと判定される。本体12にクラックが発生する水滴の供給量が7μL未満の場合は、不良(×)と判定された。クラックが発生する水滴の量が7μL以上では可(△)と判定された。クラックが発生する水滴の量が10μL以上では良好(○)と判定された。クラックが発生する水滴の量が20μL以上は優良(◎)と判定された。
【0050】
(生産性の評価方法)
生産性の評価は、多孔質保護層14の先端部14aの成膜速度(第2溶射工程)で評価が行われた。比較例1の成膜速度が基準に選ばれた。プラズマ溶射による成膜速度が、比較例1の成膜速度と同等以下の場合には劣(×)と判定された。また、成膜速度が、比較例1の成膜速度よりも5%以上速い場合には、可(△)と判定された。また、成膜速度が、比較例1の成膜速度よりも20%以上速い場合には、良(○)と判定された。さらに、成膜速度が、比較例1の成膜速度よりも30%以上速い場合には、優良(◎)と判定された。
【0051】
(評価結果)
比較例1~3及び実施例1~5について、肉薄部58の位置がキャビティ26の長手方向の延長線上に位置するか否かと、凸部60の厚みAと肉薄部58と凸部60との厚みの差分値Bとの比率B/Aと、耐被水性の評価結果と、生産性の評価結果と、が
図8にまとめて示される。
【0052】
図8に示されるように、比較例1~3及び実施例1~5の結果から、プラズマ溶射を行う場合には、多孔質保護層14に肉薄部58と凸部60とを設けることで成膜速度(生産性)が向上することが確認できた。生産性の観点から、センサ素子10~10Cにおいて、比率B/Aの値は、0.05以上であることが好ましい。比率B/Aの値が0.1以上であると、比較例1よりも成膜速度が20%以上速くなり、より高い生産性が得られる。
【0053】
また、比較例2、3に示されるように、肉薄部58がキャビティ26の長手方向の延長線上に配置されると、十分な耐被水性が得られなかった。耐被水性を確保するためには、実施例1~5に示されるように、肉薄部58は、キャビティ26の長手方向の延長線上を避けた位置に設ける必要があることが確認できた。
【0054】
実施例1~5の結果から、比率B/Aの値が0.05~0.6の範囲であると、耐被水性に関し、可(△)以上の結果が得られた。また、比率B/Aの値が、0.58以下であると、耐被水性が良好(○)又は優良(◎)となり、より高い耐被水性が得られる。
【0055】
以上の実施例1~5の結果から、肉薄部58と凸部60との厚みの差分値Bと、凸部60の厚みAとの比率B/Aが、少なくとも0.05~0.6の範囲で耐被水性と生産性を両立できることが確認できた。さらに、比率B/Aが0.1~0.58の範囲では、より好適な耐被水性と生産性とが得られる結果となった。
【0056】
なお、本発明は、上記した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。すなわち、水滴阻止構造は、凸部60に限定されず、水滴の浸入を難しくする緻密部(気孔率が肉薄部58よりも低い部分又は気孔率が略0%の部分)でもよい。この場合には、水滴阻止構造の厚みAは、肉薄部58の厚みCと同一、又は肉薄部58の厚みよりも薄くてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10、10A、10B、10C…センサ素子 12…本体
12a…先端面 12b…側面
14、14C…多孔質保護層 26…キャビティ
26a…開口部 58…肉薄部
60…凸部