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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142552
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】トランスミッション構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20241003BHJP
   F16H 61/66 20060101ALI20241003BHJP
   F16H 61/686 20060101ALI20241003BHJP
   F16H 59/06 20060101ALI20241003BHJP
   F16H 59/38 20060101ALI20241003BHJP
   F16H 61/462 20100101ALI20241003BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H61/66
F16H61/686
F16H59/06
F16H59/38
F16H61/462
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054721
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】弁理士法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 拓海
(72)【発明者】
【氏名】小倉 康平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文彰
(72)【発明者】
【氏名】井上 佑
【テーマコード(参考)】
3J053
3J552
【Fターム(参考)】
3J053AA01
3J053AB34
3J053DA06
3J053DA16
3J053DA23
3J552MA02
3J552MA10
3J552MA21
3J552NA05
3J552NB01
3J552PA20
3J552PA51
3J552QA42A
3J552RA02
3J552SA07
3J552SA31
3J552SA53
3J552SB01
3J552TB03
3J552VA62W
3J552VA74W
3J552VA78W
3J552VB01W
(57)【要約】
【課題】低速段及び高速段伝動機構とHSTとを備え、低速段伝動状態及び高速伝動状態の切替時における車速応答性を向上させ得るトランスミッション構造を提供する。
【解決手段】本発明は、低速段及び高速段伝動状態の切替時においては、駆動源から駆動輪への伝動状態が解除された空走状態を現出させ、切替完了時点での車速を切替完了直前における実車速に一致させるHST変速比を実車速変速比と表した場合に、実車速変速比に、切替完了時点での車速を実車速よりも所定速度だけ過剰に変化させる過剰補正値を加えた過剰車速HST変速比を算出し、過剰車速HST変速比を空走状態の間の制御目標値として用いてHSTアクチュエータを作動させる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に作動連結された駆動軸の回転動力を駆動輪に作動連結された走行出力軸に所定の低速変速比で作動伝達可能な低速段伝動機構と、
前記駆動軸の回転動力を前記走行出力軸に前記低速変速比よりも高速の高速変速比で作動伝達する高速段伝動機構と、
前記低速段及び高速段伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱する低速段クラッチ機構及び高速段クラッチ機構と、
前記低速段クラッチ機構及び前記高速段クラッチ機構の作動状態を切り換えるクラッチアクチュエータと、
前記低速段及び高速段伝動機構によって現出される低速段伝動状態及び高速段伝動状態のそれぞれにおいて回転動力を無段変速可能な油圧式無段変速機構(HST)と、
前記HSTの出力調整部材を作動させるHSTアクチュエータと、
変速操作部材と、
車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、
前記HSTの出力回転速を直接又は間接的に検出するHSTセンサと、
前記変速操作部材の操作位置に応じたHST変速比を得る為のHST制御データであって、低速段伝動状態時に用いられる低速段HST制御データ及び高速段伝動状態時に用いられる高速段HST制御データを含むHST制御データを有する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
車速が所定の低速段範囲に位置する際には低速段伝動状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記変速操作部材の操作位置を低速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
車速が低速段範囲よりも高速の高速段範囲に位置する際には高速段伝動状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記変速操作部材の操作位置を高速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
低速段伝動状態及び高速段伝動状態の間の切替動作開始から切替動作完了までの間においては、前記低速段及び高速段クラッチ機構の双方が解除状態とされた空走状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させ、さらに、切替動作完了時点での車速を切替動作完了直前における実車速に一致させるHST変速比を実車速変速比と表した場合に、実車速変速比に、切替動作完了時点での車速を実車速よりも所定速度だけ過剰に変化させる過剰補正値を加えた過剰車速変速比を算出し、過剰車速変速比を前記空走状態の間の制御目標値として用いて前記HSTアクチュエータを作動させることを特徴とするトランスミッション構造。
【請求項2】
前記制御装置は、前記HSTアクチュエータの制御目標値を算出する際に、基準HST変速比に走行負荷に応じた負荷補正値を加えるように構成され、
さらに、変速段切替動作開始時点における負荷補正値を持ち越し負荷補正値として記憶し、前記持ち越し負荷補正値を前記過剰補正値として用いるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のトランスミッション構造。
【請求項3】
前記制御装置は、変速段切替開始時点における負荷補正値が所定値を超える場合にのみ、前記持ち越し負荷補正値を前記過剰補正値として用いることを特徴とする請求項2に記載のトランスミッション構造。
【請求項4】
前記制御装置は、変速段切替動作完了後においては、変速段切替後伝動状態におけるHSTアクチュエータの制御目標値を算出する際に、基準HST変速比に前記持ち越し負荷補正値を時間経過に従って減少させつつ加えるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載のトランスミッション構造。
【請求項5】
前記制御装置は、前記過剰補正値として、低速段伝動状態から高速段伝動状態へのシフトアップ時に用いるシフトアップ用過剰補正値、及び、高速段伝動状態から低速段伝動状態へのシフトダウン時に用いるシフトダウン用過剰補正値を予め記憶していることを特徴とする請求項1に記載のトランスミッション構造。
【請求項6】
前記制御装置は、低速段伝動状態及び高速段伝動状態の間の変速段切替時には、切替動作開始直前におけるHST加速度と前記空走状態の時間とに基づいて、変速段切替前伝動状態が前記空走状態の間に引き続き継続されていたと仮定した場合における変速段切替動作完了時点での仮想車速を算出し、仮想車速を現出させる仮想車速変速比と変速段切替動作完了直前における実車速を現出させる実車速変速比との差分の絶対値を前記過剰補正値として用いるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のトランスミッション構造。
【請求項7】
前記低速段及び高速段クラッチ機構のうち少なくとも変速段切替後に係合状態となる変速段切替後係合状態クラッチ機構は駆動側摩擦板及び従動側摩擦板を有する摩擦板式とされており、
前記制御装置は、前記変速段切替後係合状態クラッチラッチ機構の解除状態から係合状態への移行時に前記駆動側及び従動側摩擦板が滑りつつ摩擦係合されるように、前記クラッチアクチュエータを作動させることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載のトランスミッション構造。
【請求項8】
駆動源に作動連結された駆動軸の回転動力を駆動輪に作動連結された走行出力軸に所定の低速変速比で作動伝達可能な低速段伝動機構と、
前記駆動軸の回転動力を前記走行出力軸に前記低速変速比よりも高速の高速変速比で作動伝達する高速段伝動機構と、
前記低速段及び高速段伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱する低速段クラッチ機構及び高速段クラッチ機構と、
前記低速段クラッチ機構及び前記高速段クラッチ機構の作動状態を切り換えるクラッチアクチュエータと、
前記低速段及び高速段伝動機構によって現出される低速段伝動状態及び高速段伝動状態のそれぞれにおいて回転動力を無段変速可能な油圧式無段変速機構(HST)と、
前記HSTの出力調整部材を作動させるHSTアクチュエータと、
変速操作部材と、
車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、
前記HSTの出力回転速を直接又は間接的に検出するHSTセンサと、
前記変速操作部材の操作位置に応じた前記HSTの変速比を得る為のHST制御データであって、低速段伝動状態の際に用いられる低速段HST制御データ及び高速段伝動状態の際に用いられる高速段HST制御データを含むHST制御データを有する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
車速が所定の低速段範囲に位置する際には低速段伝動状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記変速操作部材の操作位置を低速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
車速が低速段範囲よりも高速の高速段範囲に位置する際には高速段伝動状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記変速操作部材の操作位置を高速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
低速段伝動状態及び高速段伝動状態の間の切替動作開始から切替動作完了までの間においては、前記低速段及び高速段クラッチ機構の双方が解除状態とされた空走状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させ、前記空走状態の間に、前記HSTが、切替動作完了時点での車速を切替動作完了直前における実車速に一致させる実車速変速比を有するように、前記HSTアクチュエータを作動させ、
さらに、切替動作完了時点から所定時間の間においては、基準HST変速比に所定の過剰係数を乗算した過剰補正変速比を前記HSTアクチュエータの制御目標値とするように構成されていることを特徴とするトランスミッション構造。
【請求項9】
前記制御装置は、低速段伝動状態及び高速段伝動状態において前記走行出力軸に掛かる走行負荷が所定値を越える場合には、前記HSTアクチュエータの制御目標値を算出する際に、前記走行出力軸に掛かる走行負荷に応じた負荷補正値を加えるように構成されていることを特徴とする請求項8に記載のトランスミッション構造。
【請求項10】
駆動源に作動連結された駆動軸の回転動力を駆動輪に作動連結された走行出力軸に所定の低速変速比で作動伝達可能な低速段伝動機構と、
前記駆動軸の回転動力を前記走行出力軸に前記低速変速比よりも高速の高速変速比で作動伝達する高速段伝動機構と、
前記低速段及び高速段伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱する低速段クラッチ機構及び高速段クラッチ機構と、
前記低速段クラッチ機構及び前記高速段クラッチ機構の作動状態を切り換えるクラッチアクチュエータと、
前記低速段及び高速段伝動機構によって現出される低速段伝動状態及び高速段伝動状態のそれぞれにおいて回転動力を無段変速可能な油圧式無段変速機構(HST)と、
前記HSTの出力調整部材を作動させるHSTアクチュエータと、
変速操作部材と、
車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、
前記HSTの出力回転速を直接又は間接的に検出するHSTセンサと、
前記変速操作部材の操作位置に応じた前記HSTの変速比を得る為のHST制御データであって、前記低速段クラッチ機構が係合状態とされた低速段伝動状態の際に用いられる低速段HST制御データ及び前記高速段クラッチ機構が係合状態とされた高速段伝動状態の際に用いられる高速段HST制御データを含むHST制御データを有する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
車速が所定の低速段範囲に位置する際には低速段伝動状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記変速操作部材の操作位置を低速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
車速が低速段範囲よりも高速の高速段範囲に位置する際には高速段伝動状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記変速操作部材の操作位置を高速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
低速段伝動状態及び高速段伝動状態において前記走行出力軸に掛かる走行負荷が所定値を越える場合には、前記HSTアクチュエータの制御目標値を算出する際に、基準HST変速比に、前記走行出力軸に掛かる走行負荷に応じた負荷補正値を加え、
低速段伝動状態及び高速段伝動状態の間の切替動作開始から切替動作完了までの間においては、前記低速段及び高速段クラッチ機構の双方が解除状態とされた空走状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させ、前記空走状態の間に、前記HSTが、切替動作完了時点での車速を切替動作完了直前における実車速に一致させる実車速変速比を有するように、前記HSTアクチュエータを作動させ、
変速段切替動作開始時点において負荷補正値が存在する場合には、切替動作完了時点から所定時間の間においては、基準HST変速比に所定の過剰係数を乗算した過剰補正変速比を前記HSTアクチュエータの制御目標値とするように構成されていることを特徴とするトランスミッション構造。
【請求項11】
前記制御装置は、前記走行出力軸に掛かる走行負荷に応じて過剰係数の値及び/又は過剰補正変速比を用いる所定時間を変更するように構成されていることを特徴とする請求項8から10の何れかに記載のトランスミッション構造。
【請求項12】
前記制御装置は、前記切替動作完了時点からの前記所定時間終了後においては、当該所定時間終了時点での過剰補正変速比と基準HST変速比との差分を予め設定された所定割合で減少させつつ基準HST変速比に加算して得られる変速比を、前記HSTアクチュエータの制御目標値とするように構成されていることを特徴とする請求項8から10の何れかに記載のトランスミッション構造。
【請求項13】
第1~第3要素を有し、前記第3要素が前記HSTからの出力回転動力を入力するHST入力部として作用する遊星歯車機構と、
前記駆動源の回転動力を入力側第1変速比で前記第1要素に作動伝達可能な入力側第1伝動機構と、
前記駆動源の回転動力を入力側第2変速比で前記第2要素に作動伝達可能な入力側第2伝動機構と、
前記入力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる摩擦板式の入力側第1及び第2クラッチ機構と、
変速出力軸と、
前記第2要素の回転動力を出力側第1変速比で前記変速出力軸に作動伝達可能な出力側第1伝動機構と、
前記第1要素の回転動力を出力側第2変速比で前記変速出力軸に作動伝達可能な出力側第2伝動機構と、
前記出力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる摩擦板式の出力側第1及び第2クラッチ機構と、
前記変速出力軸の回転動力を前進方向及び後進方向への駆動回転動力として前記走行出力軸へそれぞれ作動伝達させる前進側伝動機構及び後進側伝動機構と、
前記前進側伝動機構及び前記後進側伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる摩擦板式の前進側クラッチ機構及び後進側クラッチ機構と、
前記第1要素の回転動力を前記走行出力軸に前進方向の駆動回転動力として作動伝達可能な出力側第3伝動機構であって、前記出力側第2伝動機構及び前記前進側伝動機構を介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸に作動伝達される際の当該走行出力軸の回転速よりも、前記出力側第3伝動機構を介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸に作動伝達される際の当該走行出力軸の回転速が高速となるように、変速比が設定された出力側第3伝動機構と、
前記出力側第3伝動機構の動力伝達を係脱させる出力側第3クラッチ機構とを備え、
前記クラッチアクチュエータは、前記入力側第1及び第2クラッチ機構、前記出力側第1~第3クラッチ機構、並びに、前記前進側及び後進側クラッチ機構の作動状態を切り換えるように構成され、
前記HSTは、前記出力調整部材の作動位置に応じて、HST出力を正逆一方側の回転動力とする第1HST変速比及びHST出力を正逆他方側の回転動力とする第2HST変速比の間で無段変速されるように構成されており、
前記HST及び前記遊星歯車機構は、前記入力側第1及び第2クラッチ機構がそれぞれ係合状態及び解除状態とされて前記第1要素が前記駆動源からの基準回転動力を入力する基準動力入力部として作用し且つ前記第2要素が前記変速出力軸へ向けて合成回転動力を出力する合成動力出力部として作用する第1HMT伝動状態においては、前記HSTがゼロ速変速比とされた際に前記第2要素の出力回転動力がゼロ速となり、且つ、前記HSTがゼロ速変速比から第2HST変速比の側へ変速されるに従って前記第2要素の出力回転動力が増速され、さらに、前記入力側第1及び第2クラッチ機構がそれぞれ解除状態及び係合状態とされて前記第2要素が前記基準動力入力部として作用し且つ前記第1要素が前記合成動力出力部として作用する第2HMT伝動状態においては、前記HSTが第2HST変速比の側から第1HST変速比の側へ変速されるに従って前記第1要素の出力回転動力が増速されるように構成され、
前記制御装置は、
・車速がゼロ速から所定の第1/第2切替速までの第1速段範囲内においては、第1HMT伝動状態を現出させた上で、前記出力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ係合状態及び解除状態とさせ且つ前記前進側クラッチ機構を係合状態とさせて前記第2要素の回転動力が前記変速出力軸を介して前記走行出力軸に作動伝達される第1速段伝動状態を現出させるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、
・車速が第1/第2切替速から当該第1/第2切替速よりも高速の第2/第3切替速までの第2速段範囲内においては、第2HMT伝動状態を現出させた上で、前記出力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ解除状態及び係合状態とさせ且つ前記前進側クラッチ機構を係合状態とさせて前記第1要素の回転動力が前記変速出力軸を介して前記走行出力軸に作動伝達される第2速段伝動状態を現出させるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、
・車速が第2/第3切替速よりも高速の第3速段範囲内においては、第2HMT伝動状態を現出させた上で、前記出力側第1及び第2クラッチ機構を解除状態とさせ且つ前記出力側第3クラッチ機構を係合状態とさせて前記第1要素の回転動力が前記変速出力軸を介さずに前記走行出力軸に作動伝達される第3速段伝動状態を現出させるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、
・車速が第1速段範囲内においては、前記変速操作部材の最低速位置への操作に応じて前記HSTがゼロ速変速比又は所定のクリープ速変速比とされ、且つ、前記変速操作部材の増速操作に応じて前記HSTが第2HST変速比の側へ変速されるように、前記HSTアクチュエータを作動させ、
・車速が第2速段範囲内においては、前記変速操作部材の増速操作に応じて前記HSTが第1HST変速比の側へ変速されるように、前記HSTアクチュエータを作動させ、
・車速が第3速段範囲内においては、前記変速操作部材の増速操作に応じて前記HSTが第1HST変速比の側へ変速されるように、前記HSTアクチュエータを作動させるように構成され、
前記第2速段伝動状態を現出させる伝動機構が前記低速段伝動機構とされ、
前記第3速段伝動状態を現出させる伝動機構が前記高速段伝動機構とされている請求項1から6及び8から10の何れかに記載のトランスミッション構造。
【請求項14】
前記入力側第1及び第2変速比は、第1HMT伝動状態で前記HSTが第1/第2速段切替変速比とされた際の前記第2要素の回転速と第2HMT伝動状態の際に前記入力側第2伝動機構を介して伝達される回転動力による前記第2要素の回転速とが同一となり、且つ、第2HMT伝動状態でHSTが第1/第2速段切替変速比とされた際の前記第1要素の回転速と第1HMT伝動状態の際に前記入力側第1伝動機構を介して伝達される回転動力による前記第1要素の回転速とが実質的に同一となるように設定され、
前記出力側第1及び第2変速比は、第1HMT伝動状態において前記HST出力が第1/第2速段切替変速比とされた際に前記変速出力軸に現出される回転速と第2HMT伝動状態において前記HSTが第1/第2速段切替変速比とされた際に前記変速出力軸に現出される回転速とが実質的に同一となるように設定されていることを特徴とする請求項13に記載のトランスミッション構造。
【請求項15】
出力調整部材の作動位置に応じて、駆動源から作動的に入力される回転動力を正逆一方側の回転動力として出力する第1HST変速比及び正逆他方側の回転動力として出力する第2HST変速比の間で無段変速される油圧式無段変速機構(HST)と、
前記HSTの出力調整部材を作動させるHSTアクチュエータと、
変速操作部材と、
第1~第3要素を有し、前記第3要素が前記HSTから出力される回転動力を入力するHST入力部として作用する遊星歯車機構と、
前記駆動源の回転動力を入力側第1変速比で前記第1要素に作動伝達可能な入力側第1伝動機構と、
前記駆動源の回転動力を入力側第2変速比で前記第2要素に作動伝達可能な入力側第2伝動機構と、
前記入力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる摩擦板式の入力側第1及び第2クラッチ機構と、
変速出力軸と、
前記第2要素の回転動力を出力側第1変速比で前記変速出力軸に作動伝達可能な出力側第1伝動機構と、
前記第1要素の回転動力を出力側第2変速比で前記変速出力軸に作動伝達可能な出力側第2伝動機構と、
前記出力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる摩擦板式の出力側第1及び第2クラッチ機構と、
前記クラッチ機構の作動状態を切り換えるクラッチアクチュエータと、
車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、
前記HSTの出力回転速を直接又は間接的に検出するHSTセンサと、
前記HSTアクチュエータ及び前記クラッチアクチュエータの作動制御を司る制御装置とを備え、
前記HST及び前記遊星歯車機構は、前記入力側第1及び第2クラッチ機構がそれぞれ係合状態及び解除状態とされて前記第1要素が前記駆動源からの基準回転動力を入力する基準動力入力部として作用し且つ前記第2要素が前記変速出力軸へ向けて合成回転動力を出力する合成動力出力部として作用する第1HMT伝動状態においては、前記HSTがゼロ速変速比とされた際に前記第2要素の出力回転動力がゼロ速となり、且つ、前記HSTがゼロ速変速比から第2HST変速比の側へ変速されるに従って前記第2要素の出力回転動力が増速され、さらに、前記入力側第1及び第2クラッチ機構がそれぞれ解除状態及び係合状態とされて前記第2要素が前記基準動力入力部として作用し且つ前記第1要素が前記合成動力出力部として作用する第2HMT伝動状態においては、前記HSTが第2HST変速比の側から第1HST変速比の側へ変速されるに従って前記第1要素の出力回転動力が増速されるように構成され、
前記入力側第1及び第2変速比は、第1HMT伝動状態で前記HSTが第1/第2速段切替変速比とされた際の前記第2要素の回転速と第2HMT伝動状態の際に前記入力側第2伝動機構を介して伝達される回転動力による前記第2要素の回転速とが同一となり、且つ、第2HMT伝動状態でHSTが第1/第2速段切替変速比とされた際の前記第1要素の回転速と第1HMT伝動状態の際に前記入力側第1伝動機構を介して伝達される回転動力による前記第1要素の回転速とが実質的に同一となるように設定され、
前記出力側第1及び第2変速比は、第1HMT伝動状態において前記HSTが第1/第2速段切替変速比とされた際に前記変速出力軸に現出される回転速と第2HMT伝動状態において前記HSTが第1/第2速段切替変速比とされた際に前記変速出力軸に現出される回転速とが実質的に同一となるように設定され、
前記制御装置には、前記変速操作部材の操作位置に応じた前記HSTの基準HST変速比を得る為のHST制御データであって、第1HMT伝動状態時に用いられる第1速段HST制御データ及び第2HMT伝動状態時に用いられる第2速段HST制御データを含むHST制御データと、前記変速出力軸に掛かる走行負荷に応じて基準HST変速比に加える負荷補正値を得る為の負荷補正データとが記憶されており、
前記制御装置は、
・車速がゼロ速から所定の第1/第2切替速までの第1速段範囲内においては、第1HMT伝動状態を現出させた上で、前記出力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ係合状態及び解除状態とさせて前記第2要素の回転動力が前記変速出力軸に作動伝達される第1速段伝動状態を現出させるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、
・車速が第1/第2切替速よりも高速の第2速段範囲内においては、第2HMT伝動状態を現出させた上で、前記出力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ解除状態及び係合状態とさせて前記第1要素の回転動力が前記変速出力軸に作動伝達される第2速段伝動状態を現出させるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、
・車速が第1速段範囲内においては、前記変速操作部材の最低速位置への操作に応じて前記HSTがゼロ速変速比又は所定のクリープ速変速比とされ、且つ、前記変速操作部材の増速操作に応じて前記HSTが第2HST変速比の側へ変速されるように、前記変速操作部材の操作位置を前記第1速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
・車速が第2速段範囲内においては、前記変速操作部材の増速操作に応じて前記HSTが第1HST変速比の側へ変速されるように、前記変速操作部材の操作位置を前記第2速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
・さらに、前記変速出力軸に掛かる走行負荷が所定値を越える場合には、走行負荷を負荷補正データに適用して得られる負荷補正値を基準HST変速比に加えた負荷補正HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
・第1速段伝動状態及び第2速段伝動状態の切替開始時点において前記HSTアクチュエータの制御目標値が負荷補正値を含む場合には、前記変速操作部材の操作位置をHST制御データに適用して得られる基準HST変速比に当該負荷補正値の絶対値を過剰に車速を変化させる方向へ加えて負荷補正HST変速比を算出し、当該負荷補正HST変速比を切替完了時点での制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させることを特徴とするトランスミッション構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源から駆動輪へ至る伝動経路に介挿されるトランスミッション構造に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源に作動連結された入力軸の回転動力を駆動輪に作動連結された走行出力軸にそれぞれ所定の低速変速比及び高速変速比で作動伝達可能な低速段伝動機構と、前記低速段及び高速段伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱する低速段クラッチ機構及び高速段クラッチ機構と、前記低速段クラッチ機構及び前記高速段クラッチ機構の作動状態を切り換えるクラッチアクチュエータと、前記低速段及び高速段クラッチ機構と共働し、前記低速段及び高速段クラッチ機構によって現出される低速段伝動状態及び高速段伝動状態のそれぞれにおいて回転動力を無段変速可能な油圧式無段変速機構(HST)と、前記HSTの出力調整部材を作動させるHSTアクチュエータと、変速操作部材と、車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、前記HSTの出力回転速を直接又は間接的に検出するHSTセンサと、前記クラッチアクチュエータ及び前記HSTアクチュエータの作動制御を行う制御装置とを備え、前記制御装置が、車速が所定の低速段範囲に位置する際には低速段伝動状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記変速操作部材の操作位置に応じて前記HSTアクチュエータを作動させ、車速が高速段範囲に位置する際には高速段伝動状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記変速操作部材の操作位置に応じて前記HSTアクチュエータを作動させるように構成されたトランスミッション構造が提案されている(下記特許文献1参照)。
【0003】
また、前記特許文献1に記載されているような構成のトランスミッション構造において、前記走行出力軸に掛かる走行負荷を考慮に入れつつ、前記HSTアクチュエータの作動制御を行うことも提案されている。
【0004】
この場合、前記制御装置は、前記変速操作部材の操作位置に応じた基準HST変速比に、前記走行出力軸に掛かる走行負荷に応じた負荷補正値を加えたHST変速比を制御目標値として、HSTアクチュエータの作動制御(以下、HST負荷制御という)を行なうように構成されている。
【0005】
HST負荷制御は、低速段伝動状態又は高速段伝動状態において、大きな走行負荷が生じた場合であっても、前記走行出力軸に現出される回転速度(即ち、車速)を、前記変速操作部材の操作位置に応じた回転速度に一致乃至は近接させることができる点において有用である。
【0006】
しかしながら、HST負荷制御を備えた従来のトランスミッション構造においては、低速段伝動状態又は高速段伝動状態の一方の伝動状態(例えば、低速段伝動状態)においてHST負荷制御が行なわれていても、一方の伝動状態から他方の伝動状態(例えば、高速段伝動状態)への変速段切替が実行されると、HST負荷制御がキャンセルされて、前記変速操作部材の操作位置に応じた基準HST変速比を制御目標値時として前記HSTアクチュエータの作動制御が行われていた。
【0007】
その為、走行負荷が掛かっている状態で低速段伝動状態又は高速段伝動状態の一方の伝動状態(例えば、低速段伝動状態)から他方の伝動状態(例えば、高速段伝動状態)への変速切替が実行されると、操縦者が前記変速操作部材の操作によって意図している車速への応答性が悪化するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第7193838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来技術に鑑みなされたものであり、低速段及び高速段伝動状態を現出する低速段及び高速段伝動機構と、前記伝動機構と共働する油圧式無段変速機構(HST)とを備えたトランスミッション構造であって、低速段伝動状態及び高速伝動状態の切替時における車速応答性を向上させ得るトランスミッション構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成する為に、本発明の第1態様は、駆動源に作動連結された駆動軸の回転動力を駆動輪に作動連結された走行出力軸に所定の低速変速比で作動伝達可能な低速段伝動機構と、前記駆動軸の回転動力を前記走行出力軸に前記低速変速比よりも高速の高速変速比で作動伝達する高速段伝動機構と、前記低速段及び高速段伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱する低速段クラッチ機構及び高速段クラッチ機構と、前記低速段クラッチ機構及び前記高速段クラッチ機構の作動状態を切り換えるクラッチアクチュエータと、前記低速段及び高速段伝動機構によって現出される低速段伝動状態及び高速段伝動状態のそれぞれにおいて回転動力を無段変速可能な油圧式無段変速機構(HST)と、前記HSTの出力調整部材を作動させるHSTアクチュエータと、変速操作部材と、車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、前記HSTの出力回転速を直接又は間接的に検出するHSTセンサと、前記変速操作部材の操作位置に応じたHST変速比を得る為のHST制御データであって、低速段伝動状態時に用いられる低速段HST制御データ及び高速段伝動状態時に用いられる高速段HST制御データを含むHST制御データを有する制御装置とを備え、前記制御装置は、
・車速が所定の低速段範囲に位置する際には低速段伝動状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記変速操作部材の操作位置を低速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
・車速が低速段範囲よりも高速の高速段範囲に位置する際には高速段伝動状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記変速操作部材の操作位置を高速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
・低速段伝動状態及び高速段伝動状態の間の切替動作開始から切替動作完了までの間においては、前記低速段及び高速段クラッチ機構の双方が解除状態とされた空走状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させ、さらに、切替動作完了時点での車速を切替動作完了直前における実車速に一致させるHST変速比を実車速変速比と表した場合に、実車速変速比に、切替動作完了時点での車速を実車速よりも所定速度だけ過剰に変化させる過剰補正値を加えた過剰車速変速比を算出し、過剰車速変速比を前記空走状態の間の制御目標値として用いて前記HSTアクチュエータを作動させるトランスミッション構造を提供する。
【0011】
前記第1態様の第1形態においては、前記制御装置は、前記HSTアクチュエータの制御目標値を算出する際に、基準HST変速比に走行負荷に応じた負荷補正値を加えるように構成され、さらに、変速段切替動作開始時点における負荷補正値を持ち越し負荷補正値として記憶し、前記持ち越し負荷補正値を前記過剰補正値として用いるように構成される。
【0012】
前記第1形態において、好ましくは、前記制御装置は、変速段切替開始時点における負荷補正値が所定値を超える場合にのみ、前記持ち越し負荷補正値を前記過剰補正値として用いるように構成される。
【0013】
前記第1形態において、好ましくは、前記制御装置は、変速段切替動作完了後においては、変速段切替後伝動状態におけるHSTアクチュエータの制御目標値を算出する際に、基準HST変速比に前記持ち越し負荷補正値を時間経過に従って減少させつつ加えるように構成される。
【0014】
前記第1態様の第2形態においては、前記制御装置は、前記過剰補正値として、予め記憶された低速段伝動状態から高速段伝動状態へのシフトアップ時に用いるシフトアップ用過剰補正値、及び、高速段伝動状態から低速段伝動状態へのシフトダウン時に用いるシフトダウン用過剰補正値を用いるように構成される。
【0015】
前記第1態様の第3形態においては、前記制御装置は、低速段伝動状態及び高速段伝動状態の間の変速段切替時には、切替動作開始直前におけるHST加速度と前記空走状態の時間とに基づいて、変速段切替前伝動状態が前記空走状態の間に引き続き継続されていたと仮定した場合における変速段切替動作完了時点での仮想車速を算出し、仮想車速を現出させる仮想車速変速比と変速段切替動作完了直前における実車速を現出させる実車速変速比との差分の絶対値を前記過剰補正値として用いるように構成される。
【0016】
前記第1態様の種々の構成において、前記低速段及び高速段クラッチ機構のうち少なくとも変速段切替後に係合状態となる変速段切替後係合状態クラッチ機構は駆動側摩擦板及び従動側摩擦板を有する摩擦板式とされ、前記制御装置は、前記変速段切替後係合状態クラッチラッチ機構の解除状態から係合状態への移行時に前記駆動側及び従動側摩擦板が滑りつつ摩擦係合されるように、前記クラッチアクチュエータを作動させるように構成される。
【0017】
前記目的を達成する為に、本発明の第2態様は、駆動源に作動連結された駆動軸の回転動力を駆動輪に作動連結された走行出力軸に所定の低速変速比で作動伝達可能な低速段伝動機構と、前記駆動軸の回転動力を前記走行出力軸に前記低速変速比よりも高速の高速変速比で作動伝達する高速段伝動機構と、前記低速段及び高速段伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱する低速段クラッチ機構及び高速段クラッチ機構と、前記低速段クラッチ機構及び前記高速段クラッチ機構の作動状態を切り換えるクラッチアクチュエータと、前記低速段及び高速段伝動機構によって現出される低速段伝動状態及び高速段伝動状態のそれぞれにおいて回転動力を無段変速可能な油圧式無段変速機構(HST)と、前記HSTの出力調整部材を作動させるHSTアクチュエータと、変速操作部材と、車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、前記HSTの出力回転速を直接又は間接的に検出するHSTセンサと、前記変速操作部材の操作位置に応じた前記HSTの変速比を得る為のHST制御データであって、低速段伝動状態の際に用いられる低速段HST制御データ及び高速段伝動状態の際に用いられる高速段HST制御データを含むHST制御データを有する制御装置とを備え、前記制御装置は、
・車速が所定の低速段範囲に位置する際には低速段伝動状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記変速操作部材の操作位置を低速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
・車速が低速段範囲よりも高速の高速段範囲に位置する際には高速段伝動状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記変速操作部材の操作位置を高速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
・低速段伝動状態及び高速段伝動状態の間の切替動作開始から切替動作完了までの間においては、前記低速段及び高速段クラッチ機構の双方が解除状態とされた空走状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させ、前記空走状態の間に、前記HSTが、切替動作完了時点での車速を切替動作完了直前における実車速に一致させる実車速変速比を有するように、前記HSTアクチュエータを作動させ、
・さらに、切替動作完了時点から所定時間の間においては、基準HST変速比に所定の過剰係数を乗算した過剰補正変速比を前記HSTアクチュエータの制御目標値とするように構成されているトランスミッション構造を提供する。
【0018】
前記第2態様において、好ましくは、前記制御装置は、低速段伝動状態及び高速段伝動状態において前記走行出力軸に掛かる走行負荷が所定値を越える場合には、前記HSTアクチュエータの制御目標値を算出する際に、基準HST変速比に前記走行出力軸に掛かる走行負荷に応じた負荷補正値を加えるように構成される。
【0019】
前記目的を達成する為に、本発明の第3態様は、駆動源に作動連結された駆動軸の回転動力を駆動輪に作動連結された走行出力軸に所定の低速変速比で作動伝達可能な低速段伝動機構と、前記駆動軸の回転動力を前記走行出力軸に前記低速変速比よりも高速の高速変速比で作動伝達する高速段伝動機構と、前記低速段及び高速段伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱する低速段クラッチ機構及び高速段クラッチ機構と、前記低速段クラッチ機構及び前記高速段クラッチ機構の作動状態を切り換えるクラッチアクチュエータと、前記低速段及び高速段伝動機構によって現出される低速段伝動状態及び高速段伝動状態のそれぞれにおいて回転動力を無段変速可能な油圧式無段変速機構(HST)と、前記HSTの出力調整部材を作動させるHSTアクチュエータと、変速操作部材と、車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、前記HSTの出力回転速を直接又は間接的に検出するHSTセンサと、前記変速操作部材の操作位置に応じた前記HSTの変速比を得る為のHST制御データであって、前記低速段クラッチ機構が係合状態とされた低速段伝動状態の際に用いられる低速段HST制御データ及び前記高速段クラッチ機構が係合状態とされた高速段伝動状態の際に用いられる高速段HST制御データを含むHST制御データを有する制御装置とを備え、前記制御装置は、
・車速が所定の低速段範囲に位置する際には低速段伝動状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記変速操作部材の操作位置を低速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
・車速が低速段範囲よりも高速の高速段範囲に位置する際には高速段伝動状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記変速操作部材の操作位置を高速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
・低速段伝動状態及び高速段伝動状態において前記走行出力軸に掛かる走行負荷が所定値を越える場合には、前記HSTアクチュエータの制御目標値を算出する際に、基準HST変速比に、前記走行出力軸に掛かる走行負荷に応じた負荷補正値を加え、
・低速段伝動状態及び高速段伝動状態の間の切替動作開始から切替動作完了までの間においては、前記低速段及び高速段クラッチ機構の双方が解除状態とされた空走状態が現出されるように前記クラッチアクチュエータを作動させ、前記空走状態の間に、前記HSTが、切替動作完了時点での車速を切替動作完了直前における実車速に一致させる実車速変速比を有するように、前記HSTアクチュエータを作動させ、
・変速段切替動作開始時点において負荷補正値が存在する場合には、切替動作完了時点から所定時間の間においては、基準HST変速比に所定の過剰係数を乗算した過剰補正変速比を前記HSTアクチュエータの制御目標値とするように構成されているトランスミッション構造を提供する。
【0020】
前記第2及び第3態様において、好ましくは、前記制御装置は、前記走行出力軸に掛かる走行負荷に応じて過剰係数の値及び/又は過剰補正変速比を用いる所定時間を変更するように構成される。
また、前記第2及び第3態様において、好ましくは、前記制御装置は、前記切替動作完了時点からの前記所定時間終了後においては、当該所定時間終了時点での過剰補正変速比と基準HST変速比との差分を予め設定された所定割合で減少させつつ基準HST変速比に加算して得られる変速比を、前記HSTアクチュエータの制御目標値とするように構成される。
【0021】
前記第1~第3態様の種々の構成に係るトランスミッション構造は、第1~第3要素を有し、前記第3要素が前記HSTからの出力回転動力を入力するHST入力部として作用する遊星歯車機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第1変速比で前記第1要素に作動伝達可能な入力側第1伝動機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第2変速比で前記第2要素に作動伝達可能な入力側第2伝動機構と、前記入力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる摩擦板式の入力側第1及び第2クラッチ機構と、変速出力軸と、前記第2要素の回転動力を出力側第1変速比で前記変速出力軸に作動伝達可能な出力側第1伝動機構と、前記第1要素の回転動力を出力側第2変速比で前記変速出力軸に作動伝達可能な出力側第2伝動機構と、前記出力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる摩擦板式の出力側第1及び第2クラッチ機構と、前記変速出力軸の回転動力を前進方向及び後進方向への駆動回転動力として前記走行出力軸へそれぞれ作動伝達させる前進側伝動機構及び後進側伝動機構と、前記前進側伝動機構及び前記後進側伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる摩擦板式の前進側クラッチ機構及び後進側クラッチ機構と、前記第1要素の回転動力を前記走行出力軸に前進方向の駆動回転動力として作動伝達可能な出力側第3伝動機構であって、前記出力側第2伝動機構及び前記前進側伝動機構を介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸に作動伝達される際の当該走行出力軸の回転速よりも、前記出力側第3伝動機構を介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸に作動伝達される際の当該走行出力軸の回転速が高速となるように、変速比が設定された出力側第3伝動機構と、前記出力側第3伝動機構の動力伝達を係脱させる出力側第3クラッチ機構とを備え得る。
【0022】
前記クラッチアクチュエータは、前記入力側第1及び第2クラッチ機構、前記出力側第1~第3クラッチ機構、並びに、前記前進側及び後進側クラッチ機構の作動状態を切り換えるように構成され、前記HSTは、前記出力調整部材の作動位置に応じて、HST出力を正逆一方側の回転動力とする第1HST変速比及びHST出力を正逆他方側の回転動力とする第2HST変速比の間で無段変速されるように構成される。
【0023】
前記HST及び前記遊星歯車機構は、前記入力側第1及び第2クラッチ機構がそれぞれ係合状態及び解除状態とされて前記第1要素が前記駆動源からの基準回転動力を入力する基準動力入力部として作用し且つ前記第2要素が前記変速出力軸へ向けて合成回転動力を出力する合成動力出力部として作用する第1HMT伝動状態においては、前記HSTがゼロ速変速比とされた際に前記第2要素の出力回転動力がゼロ速となり、且つ、前記HSTがゼロ速変速比から第2HST変速比の側へ変速されるに従って前記第2要素の出力回転動力が増速され、さらに、前記入力側第1及び第2クラッチ機構がそれぞれ解除状態及び係合状態とされて前記第2要素が前記基準動力入力部として作用し且つ前記第1要素が前記合成動力出力部として作用する第2HMT伝動状態においては、前記HSTが第2HST変速比の側から第1HST変速比の側へ変速されるに従って前記第1要素の出力回転動力が増速されるように構成される。
【0024】
前記制御装置は、
・車速がゼロ速から所定の第1/第2切替速までの第1速段範囲内においては、第1HMT伝動状態を現出させた上で、前記出力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ係合状態及び解除状態とさせ且つ前記前進側クラッチ機構を係合状態とさせて前記第2要素の回転動力が前記変速出力軸を介して前記走行出力軸に作動伝達される第1速段伝動状態を現出させるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、
・車速が第1/第2切替速から当該第1/第2切替速よりも高速の第2/第3切替速までの第2速段範囲内においては、第2HMT伝動状態を現出させた上で、前記出力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ解除状態及び係合状態とさせ且つ前記前進側クラッチ機構を係合状態とさせて前記第1要素の回転動力が前記変速出力軸を介して前記走行出力軸に作動伝達される第2速段伝動状態を現出させるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、
・車速が第2/第3切替速よりも高速の第3速段範囲内においては、第2HMT伝動状態を現出させた上で、前記出力側第1及び第2クラッチ機構を解除状態とさせ且つ前記出力側第3クラッチ機構を係合状態とさせて前記第1要素の回転動力が前記変速出力軸を介さずに前記走行出力軸に作動伝達される第3速段伝動状態を現出させるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、
・車速が第1速段範囲内においては、前記変速操作部材の最低速位置への操作に応じて前記HSTがゼロ速変速比又は所定のクリープ速変速比とされ、且つ、前記変速操作部材の増速操作に応じて前記HSTが第2HST変速比の側へ変速されるように、前記HSTアクチュエータを作動させ、
・車速が第2速段範囲内においては、前記変速操作部材の増速操作に応じて前記HSTが第1HST変速比の側へ変速されるように、前記HSTアクチュエータを作動させ、
・車速が第3速段範囲内においては、前記変速操作部材の増速操作に応じて前記HSTが第1HST変速比の側へ変速されるように、前記HSTアクチュエータを作動させるように構成される。
【0025】
この場合、前記第2速段伝動状態を現出させる伝動機構が前記低速段伝動機構とされ、前記第3速段伝動状態を現出させる伝動機構が前記高速段伝動機構とされる。
【0026】
好ましくは、前記入力側第1及び第2変速比は、第1HMT伝動状態で前記HSTが第1/第2速段切替変速比とされた際の前記第2要素の回転速と第2HMT伝動状態の際に前記入力側第2伝動機構を介して伝達される回転動力による前記第2要素の回転速とが同一となり、且つ、第2HMT伝動状態でHSTが第1/第2速段切替変速比とされた際の前記第1要素の回転速と第1HMT伝動状態の際に前記入力側第1伝動機構を介して伝達される回転動力による前記第1要素の回転速とが実質的に同一となるように設定され、前記出力側第1及び第2変速比は、第1HMT伝動状態において前記HST出力が第1/第2速段切替変速比とされた際に前記変速出力軸に現出される回転速と第2HMT伝動状態において前記HSTが第1/第2速段切替変速比とされた際に前記変速出力軸に現出される回転速とが実質的に同一となるように設定される。
【0027】
前記目的を達成する為に、本発明の第4態様は、出力調整部材の作動位置に応じて、駆動源から作動的に入力される回転動力を正逆一方側の回転動力として出力する第1HST変速比及び正逆他方側の回転動力として出力する第2HST変速比の間で無段変速される油圧式無段変速機構(HST)と、前記HSTの出力調整部材を作動させるHSTアクチュエータと、変速操作部材と、第1~第3要素を有し、前記第3要素が前記HSTから出力される回転動力を入力するHST入力部として作用する遊星歯車機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第1変速比で前記第1要素に作動伝達可能な入力側第1伝動機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第2変速比で前記第2要素に作動伝達可能な入力側第2伝動機構と、前記入力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる摩擦板式の入力側第1及び第2クラッチ機構と、変速出力軸と、前記第2要素の回転動力を出力側第1変速比で前記変速出力軸に作動伝達可能な出力側第1伝動機構と、前記第1要素の回転動力を出力側第2変速比で前記変速出力軸に作動伝達可能な出力側第2伝動機構と、前記出力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる摩擦板式の出力側第1及び第2クラッチ機構と、前記クラッチ機構の作動状態を切り換えるクラッチアクチュエータと、車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、前記HSTの出力回転速を直接又は間接的に検出するHSTセンサと、前記HSTアクチュエータ及び前記クラッチアクチュエータの作動制御を司る制御装置とを備えたトランスミッション構造を提供する。
【0028】
第4態様において、前記HST及び前記遊星歯車機構は、前記入力側第1及び第2クラッチ機構がそれぞれ係合状態及び解除状態とされて前記第1要素が前記駆動源からの基準回転動力を入力する基準動力入力部として作用し且つ前記第2要素が前記変速出力軸へ向けて合成回転動力を出力する合成動力出力部として作用する第1HMT伝動状態においては、前記HSTがゼロ速変速比とされた際に前記第2要素の出力回転動力がゼロ速となり、且つ、前記HSTがゼロ速変速比から第2HST変速比の側へ変速されるに従って前記第2要素の出力回転動力が増速され、さらに、前記入力側第1及び第2クラッチ機構がそれぞれ解除状態及び係合状態とされて前記第2要素が前記基準動力入力部として作用し且つ前記第1要素が前記合成動力出力部として作用する第2HMT伝動状態においては、前記HSTが第2HST変速比の側から第1HST変速比の側へ変速されるに従って前記第1要素の出力回転動力が増速されるように構成される。
【0029】
前記入力側第1及び第2変速比は、第1HMT伝動状態で前記HSTが第1/第2速段切替変速比とされた際の前記第2要素の回転速と第2HMT伝動状態の際に前記入力側第2伝動機構を介して伝達される回転動力による前記第2要素の回転速とが同一となり、且つ、第2HMT伝動状態でHSTが第1/第2速段切替変速比とされた際の前記第1要素の回転速と第1HMT伝動状態の際に前記入力側第1伝動機構を介して伝達される回転動力による前記第1要素の回転速とが実質的に同一となるように設定され、前記出力側第1及び第2変速比は、第1HMT伝動状態において前記HSTが第1/第2速段切替変速比とされた際に前記変速出力軸に現出される回転速と第2HMT伝動状態において前記HSTが第1/第2速段切替変速比とされた際に前記変速出力軸に現出される回転速とが実質的に同一となるように設定される。
【0030】
前記制御装置には、前記変速操作部材の操作位置に応じた前記HSTの基準HST変速比を得る為のHST制御データであって、第1HMT伝動状態時に用いられる第1速段HST制御データ及び第2HMT伝動状態時に用いられる第2速段HST制御データを含むHST制御データと、前記変速出力軸に掛かる走行負荷に応じて基準HST変速比に加える負荷補正値を得る為の負荷補正データとが予め記憶される。
【0031】
前記制御装置は、
・車速がゼロ速から所定の第1/第2切替速までの第1速段範囲内においては、第1HMT伝動状態を現出させた上で、前記出力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ係合状態及び解除状態とさせて前記第2要素の回転動力が前記変速出力軸に作動伝達される第1速段伝動状態を現出させるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、
・車速が第1/第2切替速よりも高速の第2速段範囲内においては、第2HMT伝動状態を現出させた上で、前記出力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ解除状態及び係合状態とさせて前記第1要素の回転動力が前記変速出力軸に作動伝達される第2速段伝動状態を現出させるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、
・車速が第1速段範囲内においては、前記変速操作部材の最低速位置への操作に応じて前記HSTがゼロ速変速比又は所定のクリープ速変速比とされ、且つ、前記変速操作部材の増速操作に応じて前記HSTが第2HST変速比の側へ変速されるように、前記変速操作部材の操作位置を前記第1速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
・車速が第2速段範囲内においては、前記変速操作部材の増速操作に応じて前記HSTが第1HST変速比の側へ変速されるように、前記変速操作部材の操作位置を前記第2速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
・さらに、前記変速出力軸に掛かる走行負荷が所定値を越える場合には、走行負荷を負荷補正データに適用して得られる負荷補正値を基準HST変速比に加えた負荷補正HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させ、
・第1速段伝動状態及び第2速段伝動状態の切替開始時点において前記HSTアクチュエータの制御目標値が負荷補正値を含む場合には、前記変速操作部材の操作位置をHST制御データに適用して得られる基準HST変速比に当該負荷補正値の絶対値を過剰に車速を変化させる方向へ加えて負荷補正HST変速比を算出し、当該負荷補正HST変速比を切替完了時点での制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させるように構成される。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係るトランスミッション構造によれば、低速段伝送機構によって現出される低速段伝動状態及び高速段伝動機構によって現出される高速伝動状態の切替時における車速応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本発明の実施の形態1に係るトランスミッション構造が適用された作業車輌の伝動模式図である。
図2図2は、前記実施の形態1に係るトランスミッション構造の一部の油圧回路図である。
図3図3は、前記実施の形態1に係るトランスミッション構造の一部であるHSTの油圧回路図である。
図4図4は、前記実施の形態1に係るトランスミッション構造における制御装置のブロック図である。
図5図5は、前記実施の形態1に係るトランスミッション構造において、前後進切替操作部材を前進位置に位置させた状態で車速設定部材を最低速位置から増速操作させた場合における、時間経過と当該トランスミッション構造の駆動回転動力の回転速、HST出力の回転速及びクラッチ機構の油圧との関係を示すグラフである。
図6図6は、前記実施の形態1の変形例に係るトランスミッション構造において、前記前後進切替操作部材を前進位置に位置させた状態で前記車速設定部材を最低速位置から増速操作させた場合における、時間経過と当該トランスミッション構造の駆動回転動力の回転速、HST出力の回転速及び前記クラッチ機構の油圧との関係を示すグラフである。
図7図7は、前記実施の形態1に係るトランスミッション構造において、前記前後進切替操作部材を前進位置に位置させた状態で、車速が第3速段範囲内に入っている状態から前記車速設定部材を減速操作させた場合における、時間経過と当該トランスミッション構造の駆動回転動力の回転速、HST出力の回転速及び前記クラッチ機構の油圧との関係を示すグラフである。
図8図8は、本発明の実施の形態2に係るトランスミッション構造において、前記前後進切替操作部材を前進位置に位置させた状態で前記車速設定部材を最低速位置から増速操作させた場合における、時間経過と当該トランスミッション構造の駆動回転動力の回転速、HST出力の回転速及び前記クラッチ機構の油圧との関係を示すグラフである。
図9図9は、本発明の実施の形態3に係るトランスミッション構造において、前記前後進切替操作部材を前進位置に位置させた状態で前記車速設定部材を最低速位置から増速操作させた場合における、時間経過と当該トランスミッション構造の駆動回転動力の回転速、HST出力の回転速及び前記クラッチ機構の油圧との関係を示すグラフである。
図10図10は、前記実施の形態3の変形例に係るトランスミッション構造において、前記前後進切替操作部材を前進位置に位置させた状態で前記車速設定部材を最低速位置から増速操作させた場合における、時間経過と当該トランスミッション構造の駆動回転動力の回転速、HST出力の回転速及び前記クラッチ機構の油圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
実施の形態1
以下、本発明に係るトランスミッション構造の一実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施の形態に係るトランスミッション構造1が適用された作業車輌200の伝動模式図を示す。
また、図2に、前記トランスミッション構造1の一部の油圧回路図を示す。
【0035】
図1に示すように、前記作業車輌200は、駆動源210と、駆動輪220と、前記駆動源210から前記駆動輪220へ至る走行系伝動経路に介挿された前記トランスミッション構造1とを備えている。なお、図1及び図2中の符号210aは前記駆動源210に含まれるフライホイールである。
【0036】
図1に示すように、前記トランスミッション構造1は、静油圧式無段変速機構(HST)10と、前記HST10と共働してHMT(静油圧・機械式無段変速構造)を形成する遊星歯車機構30と、変速出力軸45と、変速レバー等の車速設定部材90を含む変速操作部材と、制御装置100とを備えている。
【0037】
図3に、前記HST10の油圧回路図を示す。
なお、図2中のIN1及びIN2が図3中のIN1及びIN2に、それぞれ、流体接続されている。
【0038】
図1及び図3に示すように、前記HST10は、前記駆動源210によって作動的に回転駆動されるポンプ軸12と、前記ポンプ軸12に相対回転不能に支持されたHSTポンプ14と、前記HSTポンプ14に一対の第1及び第2HSTライン15a、15bを介して流体接続されて前記HSTポンプ14によって油圧的に回転駆動されるHSTモータ18と、前記HSTモータ18を相対回転不能に支持するモータ軸16と、前記HSTポンプ14及び前記HSTモータ18の少なくとも一方の容積を変更させる出力調整部材20とを有している。
【0039】
前記HST10は、前記出力調整部材20の作動位置に応じて、前記ポンプ軸12に入力される動力の回転速度に対する、前記モータ軸16から出力されるHST出力の回転速度の割合(即ち、HST10の変速比)を無段変化させ得るようになっている。
【0040】
即ち、前記HSTは、前記出力調整部材20の作動位置に応じて、第1HST変速比及び第2HST変速比の間で無段階の変速比を有するように構成されており、前記モータ軸から出力されるHST出力は、第1HST変速比に設定された際の第1HST速と第2HST変速比に設定された際の第2HST速との間で無段階に変速される。
【0041】
なお、本実施の形態においては、図1及び図3に示すように、前記ポンプ軸12は、前記駆動源210に作動連結された主駆動軸212にHST入力ギヤ列214を介して連結されている。
【0042】
本実施の形態においては、前記HST10は、HST出力の回転方向を正逆切替可能とされている。
即ち、前記HST10は、前記出力調整部材20が中立位置に位置されると前記ポンプ軸12への回転動力の入力の有無に拘わらず前記モータ軸16からの出力を中立速(ゼロ速)とする中立変速比Nを取るように構成されている。
【0043】
さらに、前記HST10は、前記出力調整部材20が中立位置から一方側へ作動されるに従って中立変速比Nから第1HST変速比の側へ変速され、前記モータ軸16からの出力を中立速から前記ポンプ軸12への入力の回転方向に対して正逆方向一方側(例えば逆転方向)へ増速させ、且つ、前記出力調整部材20が中立位置から他方側へ作動されるに従って中立変速比Nから第2HST変速比の側へ変速され、前記モータ軸16からの出力を中立速から前記ポンプ軸12への入力の回転方向に対して正逆方向他方側(例えば正転方向)へ増速させるように、構成されている。
【0044】
本実施の形態においては、前記HST10は、前記出力調整部材20として、アキシャルピストンポンプとして通例な、揺動軸回りに揺動されることで前記HSTポンプ14の容積を変更する可動斜板であって、前記HSTポンプ14から吐出される吐出量をゼロとする中立位置を挟んで揺動軸回り一方側及び他方側へ揺動可能とされた可動斜板を有している。
【0045】
前記可動斜板が中立位置に位置されると、前記HSTポンプ14からの圧油の吐出が無くなり、前記HST10は、前記HSTモータ18の出力がゼロの中立状態となる。
そして、前記可動斜板が中立位置から揺動軸回り正転側へ揺動されると、前記HSTポンプ14から一対のHSTライン15の一方(例えば第1HSTライン15a)に圧油が供給され、当該一方の第1HSTライン15aが高圧側となり、他方の第2HSTライン15bが低圧側となる。
これにより、前記HSTモータ18が正転側へ回転駆動されて、前記HST10は正転出力状態となる。
【0046】
逆に、前記可動斜板が中立位置から揺動軸回り逆転側へ揺動されると、前記HSTポンプ14から前記一対のHSTライン15の他方(例えば第2HSTライン15b)に圧油が供給され、当該他方の第2HSTライン15bが高圧側となり、一方の第1HSTライン15aが低圧側となる。
これにより、前記HSTモータ18が逆転側へ回転駆動されて、前記HST10は逆転出力状態となる。
なお、前記HST10においては、前記HSTモータ18は固定斜板によって容積が固定されている。
【0047】
図3に示すように、前記HST10には、前記一対の第1及び第2HSTライン15a、15bへ圧油を供給するチャージライン130が備えられている。
【0048】
詳しくは、図2に示すように、前記トランスミッション構造1は、前記駆動源210によって作動的に駆動される第1油圧ポンプ110と、前記第1油圧ポンプ110からの吐出油が供給される作動油ライン120とを有している。
【0049】
本実施の形態においては、前記第1油圧ポンプ110は、ポンプ駆動ギヤ列205(図1参照)を介して前記主駆動軸212に作動連結されている。
前記作動油ライン120は、リリーフ弁122(図3参照)によって油圧が設定されている。
【0050】
図3に示すように、前記チャージライン130は、基端側が前記作動油ライン120に流体接続された共通部分132と、基端側が前記共通部分132に流体接続され且つ先端側が前記第1HSTライン15aに流体接続された第1分岐部分134aと、基端側が前記共通部分132に流体接続され且つ先端側が前記第2HSTライン15bに流体接続された第2分岐部分134bとを含んでいる。
【0051】
前記第1及び第2分岐部分134a、134bには、前記共通部分132から対応するHSTライン15a、15bへの圧油の流れを許容しつつ逆向きの流れを防止するチェック弁136が介挿されている。
【0052】
なお、図3に示すように、前記HST10は、さらに、前記一対の第1及び第2HSTライン15a、15bの間を連通する連通ライン140と、前記連通ライン140に介挿された双方向リリーフ弁142とを有している。
前記連通ライン140及び前記双方向リリーフ弁142は、前記一対のHSTライン15a、15bの一方が異常高圧となった場合に、当該一方のHSTラインの圧油を他方のHSTラインに流出させる。
【0053】
図1に示すように、前記出力調整部材20は、前記車速設定部材90の操作に応じて前記制御装置100によって作動制御される。
【0054】
即ち、本実施の形態に係る前記トランスミッション構造1は、前記出力調整部材20を作動させるHSTアクチュエータ150を有しており、前記制御装置100は、基準HST制御として、前記出力調整部材20が前記車速設定部材90の操作に応じた基準HST変速比を画する作動位置を取るように前記HSTアクチュエータ150の作動制御を行う。なお、前記制御装置によるHST制御の詳細については後述する。
【0055】
前記HSTアクチュエータ150は、前記制御装置100によって作動制御可能な限り、電動モータや油圧機構等、種々の構成を取ることができる。
【0056】
図3に示すように、本実施の形態に係るトランスミッション構造1は、前記HSTアクチュエータ150として、油圧サーボ機構152を有している。
【0057】
前記油圧サーボ機構152は、軸線方向一方側及び他方側にそれぞれ第1及び第2油室を画した状態で軸線方向往復動可能とされたサーボピストン155と、基端側が前記作動油ライン120に流体接続されたサーボ圧油ライン157と、ドレンライン159と、前記第1及び第2油室にそれぞれ流体接続された第1及び第2サーボ給排ライン160a、160bと、前記サーボ圧油ライン157、前記ドレンライン159、前記第1サーボ給排ライン160a及び前記第2サーボ給排ライン160bの接続状態を切替えるサーボ切替弁162と、前記サーボ切替弁162に作動連結された操作ピストン164とを有している。
【0058】
前記サーボピストン155は、軸線方向移動に応じて前記出力調整部材20として作用する前記可動斜板を揺動軸線回りに揺動させるように前記可動斜板に作動連結されている。
【0059】
前記サーボ切替弁162は、前記第1及び第2サーボ給排ライン160a、160bを閉塞する閉塞位置と、前記1サーボ給排ライン160aを前記サーボ圧油ライン157に流体接続させ且つ前記第2サーボ給排ライン160bを前記ドレンライン159に流体接続させる第1作動位置と、前記1サーボ給排ライン160aを前記ドレンライン159に流体接続させ且つ前記第2サーボ給排ライン160bを前記サーボ圧油ライン157に流体接続させる第2作動位置とを選択的に取り得るようになっている。
【0060】
前記操作ピストン164は、前記サーボ切替弁162を第1作動位置、閉塞位置及び第2作動位置にそれぞれ位置させる第1操作位置、保持位置及び第2操作位置を取り得るように構成されている。
【0061】
本実施の形態においては、前記操作ピストン164は、軸線方向一方側及び他方側にそれぞれ油室及びバネ室を画した状態で軸線方向往復動可能とされており、前記バネ室内に配設された付勢ばねによってに前記油室を縮小させる方向へ押圧されている。
【0062】
前記油圧サーボ機構152は、さらに、基端側が前記作動油ライン120に流体接続され且つ先端側が前記油室に流体接続されたサーボ操作ライン167と、前記サーボ操作ライン167の圧油量を調整可能な出力調整弁165とを備えている。
【0063】
前記出力調整弁165は前記制御装置100によって作動制御されるようになっている。
即ち、前記制御装置100は、基準HST制御を行う場合には、前記出力調整部材20が前記車速設定部材90の操作位置に応じた作動位置に位置するように、前記出力調整弁165を作動させる。
なお、前記車速設定部材90の操作位置は、例えば、ポテンショメータ等の車速設定センサ91によって検出される。
【0064】
前記遊星歯車機構30は、図1に示すように、サンギヤ32と、前記サンギヤ32と噛合する遊星ギヤ34と、前記遊星ギヤ34と噛合するインターナルギヤ36と、前記遊星ギヤ34を軸線回り回転自在に支持し且つ前記遊星ギヤ34の前記サンギヤ32回りの公転に連動して前記サンギヤ32の軸線回りに回転するキャリヤ38とを有しており、前記サンギヤ32、前記キャリヤ38及び前記インターナルギヤ36が遊星3要素を形成している。
【0065】
前記遊星3要素のうちの一つである第3要素が前記モータ軸16に作動連結されており、前記第3要素がHST出力を入力する可変動力入力部として作用している。
図1に示すように、本実施の形態においては、前記サンギヤ32が前記第3要素とされている。
なお、本実施の形態においては、前記サンギヤ32はHST出力ギヤ列216を介して前記モータ軸16に作動連結されている。
【0066】
本実施の形態に係る前記トランスミッション構造1は、第1要素を前記駆動源210からの基準回転動力を入力する基準動力入力部として作用させ且つ第2要素を合成回転動力を出力する合成動力出力部として作用させる第1HMT伝動状態と、第1要素を前記合成動力出力部として作用させ且つ前記第2要素を前記基準動力入力部として作用させる第2HMT伝動状態とを切替可能とされている。
【0067】
具体的には、図1及び図2に示すように、前記トランスミッション構造1は、さらに、前記駆動源210の回転動力を第1要素及び第2要素にそれぞれ作動伝達可能な入力側第1伝動機構50a及び入力側第2伝動機構50bと、前記入力側第1伝動機構50a及び前記入力側第2伝動機構50bの動力伝達をそれぞれ係脱させる入力側第1クラッチ機構60a及び入力側第2クラッチ機構60bを含む入力側クラッチ機構対と、前記第2要素及び前記第1要素の回転動力を前記変速出力軸45にそれぞれ作動伝達可能な出力側第1伝動機構70a及び出力側第2伝動機構70bと、前記出力側第1伝動機構70a及び前記出力側第2伝動機構70bの動力伝達をそれぞれ係脱させる出力側第1クラッチ機構80a及び出力側第2クラッチ機構80bを含む出力側クラッチ機構対とを有している。
【0068】
本実施の形態においては、前記インターナルギヤ36及び前記キャリヤ38がそれぞれ第1及び第2要素として作用している。
【0069】
前記入力側第1伝動機構50aは、前記駆動源210の回転動力を第1要素(本実施の形態においては前記インターナルギヤ36)に伝達可能に構成されている。
【0070】
詳しくは、図1に示すように、前記入力側第1伝動機構50aは、前記主駆動軸212に相対回転自在に連結された入力側第1駆動ギヤ52aと、前記入力側第1駆動ギヤ52aに噛合され且つ第1要素に作動連結された入力側第1従動ギヤ54aとを有している。
【0071】
図1に示すように、本実施の形態に係る前記トランスミッション構造1は、前記遊星歯車機構30と同軸上に配置され、第2要素に軸線回り相対回転不能に連結された変速中間軸43を有しており、前記入力側第1従動ギヤ54aは、前記変速中間軸43に相対回転自在に支持された状態で、前記入力側第1駆動ギヤ52a及び前記第1要素(本実施の形態においては前記インターナルギヤ36)に作動連結されている。
【0072】
前記入力側第2伝動機構50bは、前記駆動源210の回転動力を第2要素(本実施の形態においては前記キャリヤ38)に伝達可能に構成されている。
【0073】
詳しくは、図1に示すように、前記入力側第2伝動機構50bは、前記主駆動軸212に相対回転自在に支持された入力側第2駆動ギヤ52bと、前記入力側第2駆動ギヤ52bに噛合され且つ第2要素に作動連結された入力側第2従動ギヤ54bとを有している。
【0074】
本実施の形態においては、前記入力側第2従動ギヤ54bは、第2要素に相対回転不能に連結された前記変速中間軸43に相対回転不能に支持された状態で、前記入力側第2駆動ギヤ52bに噛合されている。
【0075】
本実施の形態においては、前記入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bは、摩擦板式クラッチ機構とされている。
【0076】
前記入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bは、それぞれ、前記入力側第1及び第2駆動ギヤ52a、52bを前記主駆動軸212に係脱させるように前記主駆動軸212に支持される。
【0077】
詳しくは、前記入力側第1クラッチ機構60aは、前記主駆動軸212に相対回転不能に支持された入力側クラッチハウジング62と、前記入力側クラッチハウジング62に相対回転不能に支持された第1駆動側摩擦板及び前記第1駆動側摩擦板に対向された状態で前記入力側第1駆動ギヤ52aに相対回転不能に支持された第1従動側摩擦板を含む入力側第1摩擦板群64aと、前記入力側第1摩擦板群64aを摩擦係合させる入力側第1ピストン(図示せず)とを有している。
【0078】
前記入力側第2クラッチ機構60bは、前記入力側クラッチハウジング62と、前記入力側クラッチハウジング62に相対回転不能に支持された第2駆動側摩擦板及び前記第2駆動側摩擦板に対向された状態で前記入力側第2駆動ギヤ52bに相対回転不能に支持された第2従動側摩擦板を含む入力側第2摩擦板群64bと、前記入力側第2摩擦板群64bを摩擦係合させる入力側第2ピストン(図示せず)とを有している。
【0079】
前記出力側第1伝動機構70aは、第2要素の回転動力を前記変速出力軸45に伝達可能に構成されている。
【0080】
本実施の形態においては、前記出力側第1伝動機構70aは、前記入力側第2伝動機構50bにおける前記入力側第2従動ギヤ54bを利用して、前記第2要素の回転動力を前記変速出力軸45に作動伝達し得るように構成されている。
【0081】
詳しくは、図1に示すように、前記出力側第1伝動機構70aは、前記入力側第2従動ギヤ54bと、前記変速出力軸45に相対回転自在に支持された状態で前記入力側第2従動ギヤ54bに作動連結された出力側第1従動ギヤ74aとを有している。
【0082】
前記出力側第2伝動機構70bは、第1要素の回転動力を前記変速出力軸45に伝達可能に構成されている。
【0083】
本実施の形態においては、前記出力側第2伝動機構70bは、前記入力側第1伝動機構50aにおける前記入力側第1従動ギヤ54aを利用して、前記第1要素の回転動力を前記変速出力軸45に作動伝達し得るように構成されている。
【0084】
詳しくは、図1に示すように、前記出力側第2伝動機構70bは、前記入力側第1従動ギヤ54aと、前記変速出力軸45に相対回転自在に支持された状態で前記入力側第1従動ギヤ54aに作動連結された出力側第2従動ギヤ74bとを有している。
【0085】
前記出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bは、摩擦板式クラッチ機構とされている。
【0086】
本実施の形態においては、前記出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bは、それぞれ、前記出力側第1及び第2従動ギヤ74a、74bを前記変速出力軸45に係脱させるように前記変速出力軸45に支持される。
【0087】
詳しくは、前記出力側第1クラッチ機構80aは、前記変速出力軸45に相対回転不能に支持された出力側クラッチハウジング82と、前記出力側第1従動ギヤ74aに相対回転不能に支持された第1駆動側摩擦板及び前記第1駆動側摩擦板に対向された状態で前記出力側クラッチハウジング82に相対回転不能に支持された第1従動側摩擦板を含む出力側第1摩擦板群84aと、前記出力側第1摩擦板群を摩擦係合させる出力側第1ピストン(図示せず)とを有している。
【0088】
前記出力側第2クラッチ機構80bは、前記出力側クラッチハウジング82と、前記出力側第2従動ギヤ74bに相対回転不能に支持された第2駆動側摩擦板及び前記第2駆動側摩擦板に対向された状態で前記出力側クラッチハウジング82に相対回転不能に支持された第2従動側摩擦板を含む出力側第2摩擦板群84bと、前記出力側第2摩擦板群を摩擦係合させる出力側第2ピストン(図示せず)とを有している。
【0089】
前記トランスミッション構造1は、さらに、前記入力側第1クラッチ機構60a、前記入力側第2クラッチ機構60b、前記出力側第1クラッチ機構80a及び前記出力側第2クラッチ機構80bの係脱を切替えるクラッチアクチュエータ300を有している。
【0090】
前記クラッチアクチュエータ300は、前記制御装置によって作動制御可能な限り、電動モータや油圧機構等、種々の構成を取り得る。
【0091】
図2に示すように、本実施の形態に係るトランスミッション構造1は、前記クラッチアクチュエータ300として、クラッチ切替油圧機構302を有している。
【0092】
前記クラッチ切替油圧機構302は、前記HST10のチャージライン130及び前記油圧サーボ機構152と共通の油源(前記第1油圧ポンプ110)を利用するように構成されている。
【0093】
詳しくは、前記クラッチ切替油圧機構302は、基端側が前記作動油ライン120に流体接続されたクラッチライン310と、先端側が前記入力側第1クラッチ機構60a、前記入力側第2クラッチ機構60b、前記出力側第1クラッチ機構80a及び前記出力側第2クラッチ機構80bにそれぞれ流体接続された入力側第1給排ライン320a、入力側第2給排ライン320b、出力側第1給排ライン330a及び出力側第2給排ライン330bと、ドレンライン340と、前記クラッチライン310及び前記ドレンライン340と前記入力側第1給排ライン320a、前記入力側第2給排ライン320b、前記出力側第1給排ライン330a及び前記出力側第2給排ライン330bのそれぞれとの間に介挿された入力側第1電磁弁325a、入力側第2電磁弁325b、出力側第1電磁弁335a及び出力側第2電磁弁335bとを備えている。
【0094】
前記入力側第1電磁弁325a、前記入力側第2電磁弁325b、前記出力側第1電磁弁335a及び前記出力側第2電磁弁335bは、前記制御装置100によって作動制御され、対応する給排ライン320a、320b、330a、330bを前記クラッチライン310に流体接続する供給位置と、対応する給排ライン320a、320b、330a、330bを前記ドレンライン340に流体接続する排出位置とを取り得るようになっている。
【0095】
図2に示すように、本実施の形態においては、前記入力側第1電磁弁325a及び前記入力側第2電磁弁325bは、対応する前記入力側第1給排ライン320a及び前記入力側第2給排ライン320bの油圧増減を瞬時に行う電磁切換弁とされている。
【0096】
一方、前記出力側第1電磁弁335a及び前記出力側第2電磁弁335bは、対応する前記出力側第1給排ライン330a及び前記出力側第2給排ライン330bの油圧増減速度を調整可能な電磁比例弁とされている。
【0097】
図1等に示すように、本実施の形態に係る前記トランスミッション構造1は、さらに、前記駆動輪220へ向けて駆動回転動力を出力する走行出力軸47と、前記変速出力軸45の回転動力を前進方向及び後進方向への駆動回転動力として前記走行出力軸47へそれぞれ作動伝達させる前進側伝動機構400F及び後進側伝動機構400Rと、前記前進側伝動機構400F及び前記後進側伝動機構400Rの動力伝達をそれぞれ係脱させる摩擦板式の前進側クラッチ機構410F及び後進側クラッチ機構410Rとを備えている。
【0098】
図1に示すように、前記前進側伝動機構400Fは、前記変速出力軸45に支持された前進側駆動ギヤ402F及び前記走行出力軸47に支持された状態で、前記前進側駆動ギヤ402Fに噛合された前進側従動ギヤ404Fを含む前進側ギヤ列を有している。
【0099】
本実施の形態においては、前記前進側駆動ギヤ402Fは前記変速出力軸45に相対回転不能に支持されており、前記前進側従動ギヤ404Fは前記走行出力軸47に相対回転自在に支持されている。
【0100】
前記後進側伝動機構400Rは、前記変速出力軸45に支持された後進側駆動ギヤ402R及び前記走行伝動軸47に支持された状態で、アイドルギヤ403(図1参照)を介して前記後進側駆動ギヤ402Rに噛合された後進側従動ギヤ404Rを含む後進側ギヤ列を有している。
【0101】
本実施の形態においては、前記後進側駆動ギヤ402Rは前記変速出力軸45に相対回転不能に支持されており、前記後進側従動ギヤ404Rは前記走行出力軸47に相対回転自在に支持されている。
【0102】
本実施の形態においては、前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rは、それぞれ、前記前進側従動ギヤ404F及び前記後進側従動ギヤ404Rを前記走行出力軸47に係脱させるように前記走行出力軸47に支持されている。
【0103】
詳しくは、前記前進側クラッチ機構410Fは、前記走行出力軸47に相対回転不能に支持された前後進クラッチハウジング412と、前記前後進クラッチハウジング412に相対回転不能に支持された前進従動側摩擦板及び前記前進従動側摩擦板に対向された状態で前記前進側従動ギヤ404Fに相対回転不能に支持された前進駆動側摩擦板を含む前進側摩擦板群414Fと、前記前進側摩擦板群414Fを摩擦係合させる前進側ピストン(図示せず)とを有している。
【0104】
前記後進側クラッチ機構410Rは、前記前後進クラッチハウジング412と、前記前後進クラッチハウジング412に相対回転不能に支持された後進従動側摩擦板及び前記後進従動側摩擦板に対向された状態で前記後進側従動ギヤ404Rに相対回転不能に支持された後進駆動側摩擦板を含む後進側摩擦板群414Rと、前記後進側摩擦板群414Rを摩擦係合させる後進側ピストン(図示せず)とを有している。
【0105】
前記クラッチアクチュエータ300は、さらに、前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rbの係脱を切替える前後進切替アクチュエータ350を有している。
前記前後進切替アクチュエータ350は、前記変速操作部材の操作に応じて前記制御装置によって作動制御されて、前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rの係脱を行うように構成されている。
【0106】
図4に、前記制御装置100のブロック図を示す。
図1及び図4に示すように、本実施の形態においては、前記変速操作部材は、前記車速設定部材90に加えて、前記トランスミッション構造1の出力状態を、前進駆動状態、後進駆動状態及びニュートラル状態に切り替え操作する為の前後進切替操作部材92を有している。
【0107】
前記前後進切替操作部材92は、ニュートラル位置N、前進位置F及び後進位置Rを取り得る。
前記前後進切替操作部材92の操作位置は、前後進切替センサ93によって検出される。
【0108】
なお、本実施の形態においては、前記変速操作部材は、別体とされた前記車速設定部材90及び前記前後進切替操作部材92を有しているが、これに代えて、単一操作部材によっても形成され得る。
前記変速操作部材が単一操作部材とされる場合には、前記変速操作部材は、最低速位置を挟んで前進側及び後進側へ揺動操作可能とされる。
【0109】
前記制御装置100は、前記前後進切替操作部材92が前進位置Fへ操作されたことを認識すると、前記前進側クラッチ機構410Fが係合状態となり且つ前記後進側クラッチ機構410Rが解除状態となるように前記前後進切替アクチュエータ350を作動させ、前記前後進切替操作部材92が後進位置Rへ操作されたことを認識すると、前記前進側クラッチ機構410Fが解除状態となり且つ前記後進側クラッチ機構410Rが係合状態となるように前記前後進切替アクチュエータ350を作動させ、前記前後進切替操作部材92がニュートラル位置Nに位置されると、前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rの双方が解除状態となるように前記前後進切替アクチュエータ350を作動させる。
【0110】
図2に示すように、本実施の形態に係るトランスミッション構造1は、前記前後進切替アクチュエータ350として、前後進切替油圧機構352を有している。
【0111】
前記前後進切替油圧機構352は、前記HST10のチャージライン130、前記油圧サーボ機構152及び前記クラッチ切替油圧機構302と共通の油源(前記第1油圧ポンプ110)を利用するように構成されている。
【0112】
詳しくは、図2に示すように、前記前後進切替油圧機構302は、前記クラッチライン310と、先端側が前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rにそれぞれ流体接続された前進側給排ライン360F及び後進側給排ライン360Rと、前記クラッチライン310及び前記ドレンライン340と前記前進側給排ライン360F及び前記後進側給排ライン360Rのそれぞれとの間に介挿された前進側電磁弁365F及び後進側電磁弁365Rとを備えている。
【0113】
前記前進側電磁弁365F及び前記後進側電磁弁365Rは前記制御装置100によって作動制御され、対応する給排ライン360F、360Rを前記クラッチライン310に流体接続する供給位置と、対応する給排ライン360F、360Rを前記ドレンライン340に流体接続する排出位置とを取り得るようになっている。
【0114】
即ち、前記制御装置100は、前記前後進切替操作部材92が前進位置Fに位置されたことを認識すると、前記前進側電磁弁365Fを供給位置に位置させ且つ前記後進側電磁弁365Rを排出位置に位置させて、前記前進側クラッチ機構410Fが係合状態で且つ前記後進側クラッチ機構410Rが解除状態となる前進駆動状態を現出させ、前記前後進切替操作部材92が後進位置Rに位置されたことを認識すると、前記前進側電磁弁365Fを排出位置に位置させ且つ前記後進側電磁弁365Rを供給位置に位置させて、前記前進側クラッチ機構410Fが解除状態で且つ前記後進側クラッチ機構410Rが係合状態となる後進駆動状態を現出させ、前記前後進切替操作部材92がニュートラル位置Nに位置されたことを認識すると、前記前進側電磁弁365F及び前記後進側電磁弁365Rの双方を排出位置に位置させて、前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rの双方が解除状態とされたニュートラル状態を現出させる。
【0115】
図2に示すように、本実施の形態においては、前記前進側電磁弁365F及び前記後進側電磁弁365Rは、対応する前記前進側給排ライン360F及び前記後進側給排ライン360Rの油圧増減を瞬時に行う電磁切換弁とされている。
【0116】
図1及び図2に示すように、本実施の形態に係る前記トランスミッション構造1は、さらに、前記第1要素の回転動力を前記走行出力軸47に前進方向の駆動回転動力として作動伝達可能な出力側第3伝動機構70cと、前記出力側第3伝動機構70cの動力伝達を係脱させる出力側第3クラッチ機構80cとを備えている。
【0117】
前記出力側第3伝動機構70cは、前記出力側第2伝動機構70b及び前記前進側伝動機構400Fを介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸47に作動伝達される際の当該走行出力軸47の回転速よりも、前記出力側第3伝動機構70cを介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸47に作動伝達される際の当該走行出力軸47の回転速が高速となるように、変速比が設定されている。
【0118】
本実施の形態においては、前記出力側第3伝動機構70cは、前記出力側第2伝動機構70bにおける前記出力側第2従動ギヤ74bを利用して、前記第1要素の回転動力を前記走行出力軸47に作動伝達し得るように構成されている。
【0119】
詳しくは、図1に示すように、前記出力側第3伝動機構70cは、前記出力側第2従動ギヤ74bと、前記走行出力軸47に相対回転自在に支持された状態で前記出力側第2従動ギヤ74bに作動連結された出力側第3従動ギヤ74cとを有している。
【0120】
前記出力側第3クラッチ機構80cは、前記出力側第3従動ギヤ74cを前記走行出力軸47に係脱させるように前記走行伝動軸47に支持されている。
【0121】
詳しくは、前記出力側第3クラッチ機構80cは、前記走行出力軸47に相対回転不能に支持された出力側クラッチハウジング83と、前記出力側第3従動ギヤ74cに相対回転不能に支持された第3駆動側摩擦板及び前記第3駆動側摩擦板に対向された状態で前記出力側クラッチハウジング83に相対回転不能に支持された第3従動側摩擦板を含む出力側第3摩擦板群84cと、前記出力側第3摩擦板群84cを摩擦係合させる出力側第3ピストン(図示せず)とを有している。
【0122】
前記出力側第3クラッチ機構80cは前記クラッチアクチュエータ300によって係脱の切替えが行われるようになっている。
【0123】
前述の通り、前記トランスミッション構造1は、前記クラッチアクチュエータ300として、前記クラッチ切替油圧機構302を有している。
【0124】
図2に示すように、前記クラッチ切替油圧機構302は、さらに、先端側が前記出力側第3クラッチ機構80cに流体接続された出力側第3給排ライン330cと、前記クラッチライン310及び前記ドレンライン340と前記出力側第3給排ライン330cとの間に介挿された出力側第3電磁弁335cとを備えている。
【0125】
前記出力側第3電磁弁335cは前記制御装置100によって作動制御され、対応する給排ライン330cを前記クラッチライン310に流体接続する供給位置と、対応する給排ライン330cを前記ドレンライン340に流体接続する排出位置とを取り得るようになっている。
【0126】
図2に示すように、本実施の形態においては、前記出力側第3電磁弁335cは、対応する前記出力側第3給排ライン330cの油圧増減速度を調整可能な電磁比例弁とされている。
【0127】
前記作業車輌200は、前記駆動輪220として、左右一対の主駆動輪を有している。
従って、前記作業車輌200は、図1に示すように、さらに、前記一対の主駆動輪をそれぞれ駆動する一対の主駆動車軸250と、前記走行出力軸の回転動力を前記一対の主駆動車軸250に差動伝達するディファレンシャル機構260とを有している。
【0128】
図1に示すように、前記作業車輌200は、さらに、前記主駆動車軸250に選択的に制動力を付加する走行ブレーキ機構255と、前記走行出力軸からの回転動力によって前記一対の主駆動車軸250を強制的に同期駆動するデフロック機構265と、前記走行出力軸から取り出した回転動力を副駆動輪へ向けて選択的に出力可能な副駆動輪用駆動力取出機構270とを有している。
【0129】
前記走行ブレーキ機構255は、ブレーキ操作部材96(図1及び図4参照)のブレーキON操作に応じてブレーキ係合状態を現出させる。
即ち、前記ブレーキ操作部材96がブレーキON操作されたことを認識すると、前記制御装置100は、前記走行ブレーキ機構255がブレーキ係合状態となるようにブレーキアクチュエータ(図示せず)を作動させる。
【0130】
また、前記作業車輌200は、外部へ回転動力を出力するPTO軸280と、前記駆動源210からPTO軸280へ至るPTO伝動経路に介挿されたPTOクラッチ機構285及びPTO多段変速機構290とを有している。
【0131】
ここで、前記制御装置100による変速制御について説明する。
まず、前記変速操作部材を最低速位置から車速前進側へ増速操作させた場合(本実施の形態においては、前記前後進切替操作部材92を前進位置Fに位置させた状態で、前記車速設定部材90を最低速位置から増速操作させた場合)における前記制御装置100の変速制御について説明する。
【0132】
図5に、前記前後進切替操作部材92を前進位置Fに位置させた状態で、前記車速設定部材90を最低速位置から増速操作させた場合における、時間経過と前記トランスミッション構造1の駆動回転動力のTM速比(車速)、前記HST10の出力回転速及び前記クラッチ機構60a~60b、80a~80c、410Fの油圧との関係を表すグラフを示す。
【0133】
前記制御装置100は、前記前後進切替操作部材92の前進位置Fへの操作に応じて、前記前進側クラッチ機構410Fが係合状態で且つ前記後進側クラッチ機構410Rが解除状態となる前進駆動状態が現出されるように前記前後進切替アクチュエータ350を作動させる。
【0134】
同時に、前記制御装置100は、車速(又はTM速比)がゼロ速(又はゼロ速比)から所定の第1/第2切替速(図5において第1/第2速段シフトアップ開始速)までの第1速段範囲内においては、前記入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bがそれぞれ係合状態及び解除状態となるように前記クラッチアクチュエータ300を作動させ、これにより、前記第1要素が前記基準動力入力部として作用し且つ前記第2要素が前記変速出力軸45へ向けて遊星歯車機構30の合成回転動力を出力する前記合成動力出力部として作用する第1HMT伝動状態を現出させる。
【0135】
具体的には、図5に示すように、車速が第1速段範囲内においては、前記制御装置100は、前記入力側第1電磁弁325aを供給位置に位置させて前記入力側第1クラッチ機構60aの油圧を係合油圧以上(本実施の形態においては、前記リリーフ弁142による設定油圧(クラッチ油圧ON))とし、且つ、前記入力側第2電磁弁325bを排出位置に位置させて前記入力側第2クラッチ機構60bの油圧を係合油圧未満(本実施の形態においてはドレン油圧(クラッチ油圧OFF))とさせることで、第1HMT伝動状態を現出させる。
【0136】
その上で、前記制御装置100は、前記出力側第1及び第2クラッチ機構70a、70bがそれぞれ係合状態及び解除状態となるように前記クラッチアクチュエータ300を作動させ、これにより、前記第2要素の回転動力を前記変速出力軸45に作動伝達させる第2要素出力状態を現出させる。
【0137】
具体的には、図5に示すように、車速が第1速段範囲内においては、前記制御装置100は、前記出力側第1電磁弁335aを供給位置に位置させて前記出力側第1クラッチ機構80aの油圧を係合油圧以上(本実施の形態においては設定油圧(クラッチ油圧ON))とし、且つ、前記出力側第2電磁弁335bを排出位置に位置させて前記出力側第2クラッチ機構80bの油圧を係合油圧未満(本実施の形態においてはドレン油圧(クラッチ油圧OFF))とさせることで、第2要素出力状態を現出させる。
【0138】
即ち、第1HMT伝動状態及び第2要素出力状態が現出され、且つ、前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rの一方(図5においては前記前進側クラッチ機構410F)が係合状態とされることで、前記入力側第1伝動機構50a、前記遊星歯車機構30、前記出力側第1伝動機構70a並びに前記前進側伝動機構400F及び前記後進側伝動機構400Rの一方によって形成される第1速段伝動機構を介して、前記主駆動軸212から前記走行出力軸47へ所定の低速変速比で回転動力が作動伝達される第1速段伝動状態が現出される。
【0139】
一方、車速が第1/第2切替速から当該第1/第2切替速よりも高速の第2/第3切替速(図5において第2/第3速段シフトアップ開始速)までの第2速段範囲内においては、前記制御装置100は、前記入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bがそれぞれ解除状態及び係合状態となるように前記クラッチアクチュエータ300を作動させ、これにより、前記第2要素が前記基準動力入力部として作用し且つ前記第1要素が前記合成動力出力部として作用する第2HMT伝動状態を現出させる。
【0140】
具体的には、図5に示すように、車速が第2速段範囲内においては、前記制御装置100は、前記入力側第1電磁弁325aを排出位置に位置させて前記入力側第1クラッチ機構60aの油圧を係合油圧未満(本実施の形態においてはドレン油圧(クラッチ油圧OFF))とし、且つ、前記入力側第2電磁弁325bを供給位置に位置させて前記入力側第2クラッチ機構60bの油圧を係合油圧以上(本実施の形態において設定油圧(クラッチ油圧ON))とさせることで、第2HMT伝動状態を現出させる。
【0141】
その上で、前記制御装置100は、前記出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bがそれぞれ解除状態及び係合状態となるように前記クラッチアクチュエータ300を作動させ、これにより、前記第1要素の回転動力を前記変速出力軸に作動伝達させる第1要素出力状態を現出させる。
【0142】
具体的には、図5に示すように、車速が第2速段範囲内においては、前記制御装置100は、前記出力側第1電磁弁335aを排出位置に位置させて前記出力側第1クラッチ機構80aの油圧を係合油圧未満(本実施の形態においてはドレン油圧(クラッチ油圧OFF))とし、且つ、前記出力側第2電磁弁335bを供給位置に位置させて前記出力側第2クラッチ機構80bの油圧を係合油圧以上(本実施の形態においては設定油圧(クラッチ油圧ON))とさせることで、第1要素出力状態を現出させる。
【0143】
即ち、第2HMT伝動状態及び第1要素出力状態が現出され、且つ、前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rの一方が係合状態とされることで、前記入力側第2伝動機構50b、前記遊星歯車機構30、前記出力側第2伝動機構70b並びに前記前進側伝動機構400F及び前記後進側伝動機構400Rの一方(図5においては前記前進側クラッチ機構410F)によって形成される第2速段伝動機構を介して、前記主駆動軸212から前記走行出力軸47へ第1速段伝動機構よりも高い変速比で回転動力が伝達される第2速段伝動状態が現出される。
【0144】
図5に示すように、前記遊星歯車機構30は、第1HMT伝動状態下においては、HSTが所定のゼロ速変速比とされた際に前記第2要素の出力回転動力がゼロ速となり且つHSTがゼロ速変速比から第2HST変速比の側へ変速されるに従って前記第2要素から出力される合成回転動力が増速される一方で、第2HMT伝動状態下においては、HSTが第2HST変速比の側から第1HST変速比の側へ変速されるに従って前記第1要素から出力される合成回転動力が増速されるように構成されている。
なお、本実施の形態においては、図5に示すように、ゼロ速変速比は、中立変速比Nより第1HST変速比の側(HST出力を逆転させる変速比の側)に位置されている。
【0145】
また、前記入力側第1伝動機構50aの変速比(入力側第1変速比)及び前記入力側第2伝動機構50bの変速比(入力側第2変速比)は、第1HMT伝動状態下においてHST変速比が所定の第1/第2変速段切替変速比とされた際の前記第2要素の回転速と第2HMT伝動状態下において前記入力側第2伝動機構50bを介して伝達される回転動力による前記第2要素の回転速とが同一となり、且つ、第2HMT伝動状態下においてHST出力が第1/第2変速段切替変速比とされた際の前記第1要素の回転速と第1HMT伝動状態下において前記入力側第1伝動機構50aを介して伝達される回転動力による前記第1要素の回転速とが同一となるように設定されている。
なお、本実施の形態においては、図5に示すように、第1/第2変速段切替変速比は、中立変速比Nより第2HST変速比の側(HST出力を正転させる変速比の側)に位置されている。
【0146】
前記制御装置100には、予め、前記変速操作部材の操作位置に応じたHST変速比を得る為のHST制御データが記憶されている。
前記HST制御データは、第1速段~第3速段伝動状態の際にそれぞれ用いられる第1速段~第3速段HST制御データを含んでいる。
なお、前記HST制御データは、前記変速操作部材の操作位置に応じたHST変速比が規定された数値データ、及び、前記変速操作位置に基づいてHST変速比を算出する計算式データを含む概念である。
【0147】
車速が第1速段範囲内(第1速段伝動状態)の場合には、前記制御装置100は、前記第1速段HST制御データを用いて、前記車速設定部材90の最低速位置への操作に応じてHSTがゼロ速変速比又は所定のクリープ速変速比となるように前記HSTアクチュエータ150(本実施の形態においては前記油圧サーボ機構152)を作動させて、駆動回転動力のゼロ速(即ち、車速ゼロ速)を現出させ、且つ、車速が第1速段範囲内に入っている限りにおいては、前記車速設定部材90の最低速位置からの増速操作に応じて、HST10がゼロ速変速比又は所定のクリープ速変速比から第1/第2速段切替変速比へ向けて変速するように前記HSTアクチュエータ150(本実施の形態においては前記油圧サーボ機構152)を作動させて、第1変速段範囲内での前記車速設定部材90の増速操作に応じて前記第2要素から出力される駆動回転動力を増速させる。
【0148】
なお、前記制御装置100は、HSTセンサからの検出信号に基づいてHST変速比を検知する。前記HSTセンサは、その時点でのHST変速比を検出し得る限り、前記出力調整部材20の作動位置を検出するセンサ又はHST出力の回転速度等、種々の構成を取り得る。本実施の形態においては、前記HSTセンサは、HST出力の回転速度を検出する回転速センサ19とされている(図3参照)。
【0149】
前記車速設定部材90の増速操作に応じて車速が第1速段範囲から第2速段範囲へ移行するシフトアップ時には、前記制御装置100は、車速が所定速(第1/第2速段シフトアップ開始速)に到達した第1/第2速段シフトアップ開始時点で、前記入力側クラッチ機構対及び前記出力側クラッチ機構対のうちの一方のクラッチ機構対における第1HMT伝動状態の際に解除状態とされているクラッチ機構(即ち、第2クラッチ機構)を解除状態から瞬時に係合状態へ移行させ、且つ、第1/第2速段シフトアップ開始時点から所定時間経過後の第1/第2速段シフトアップ終了時点で、前記一方のクラッチ機構対における第1HMT伝動状態の際に係合状態とされているクラッチ機構(即ち、第1クラッチ機構)を係合状態から瞬時に解除状態へ移行させ、これにより、第1/第2速段シフトアップ開始時点から第1/第2速段シフトアップ終了時点までの間においては前記一方のクラッチ機構対における第1及び第2クラッチ機構の双方が係合されているシフトアップ二重伝動状態を現出させつつ、シフトアップ二重伝動状態の間に、前記入力側クラッチ機構対及び前記出力側クラッチ機構対のうちの他方のクラッチ機構対における第1HMT伝動状態の際に係合状態とされている第1クラッチ機構を係合状態から解除状態まで摩擦板を滑らせながら移行させ且つ前記他方のクラッチ機構対における第1HMT伝動状態において解除状態とされている第2クラッチ機構を解除状態から係合状態まで摩擦板を滑らせながら移行させて、前記他方のクラッチ機構対における第1クラッチ機構の係合状態から第2クラッチ機構の係合状態への切替を行うように、構成されている。
【0150】
斯かる構成によれば、第1HMT伝動状態から第2HMT伝動状態へのシフトアップを、動力伝達遮断状態を招くことなく円滑に行うことができる。
【0151】
さらに、本実施の形態においては、前記出力側第1伝動機構70aの変速比(出力側第1変速比)及び前記出力側第2伝動機構70bの変速比(出力側第2変速比)は、第1HMT伝動状態において前記HST10が第1/第2速段切替変速比とされた際に前記変速出力軸45に現出される回転速と第2HMT伝動状態において前記HST10が第1/第2速段切替変速比とされた際に前記変速出力軸45に現出される回転速とが略同一となるように設定されている。
【0152】
本実施の形態においては、図5に示すように、第1/第2速段シフトアップ開始速は、第1HMT伝動状態において前記HST10が出力が第1/第2速段切替変速比とされた際に現出される車速(又はTM速比)とされている。
斯かる構成によれば、第1及び第2HMT伝動状態の切替時に、車速変化が生じることを有効に防止乃至は低減できる。
【0153】
なお、前述の通り、本実施の形態においては、前記出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bは摩擦板式とされており、従って、伝動状態の切替時に前記変速出力軸45に若干の速度差が生じたとしても、この速度差は摩擦板の滑りによって有効に吸収できる。
【0154】
前記制御装置100は、車速を、例えば、前記走行出力軸47又は前記変速出力軸45の回転速を検出する車速センサ49からの信号によって認識することができる。
本実施の形態においては、図1に示すように、前記車速センサ49は、前記走行出力軸47の回転速を検出する出力センサ49bと、前記トランスミッション構造1に入力される駆動力(本実施の形態においては、前記第記入力側第1伝動機構50a及び前記入力側第2伝動機構50bに入力される駆動力)の回転速(回転方向を含む)を検出する入力センサ49aとを有している。
【0155】
本実施の形態においては、前記入力側クラッチ機構対を形成する入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bに対する圧油給排を切替える入力側第1及び第2電磁弁325a、325bは電磁切換弁とされており、前記入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bの油圧の増減は瞬時に行われる。
【0156】
一方、前記出力側クラッチ機構対を形成する出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bに対する圧油給排を切替える出力側第1及び第2電磁弁335a、335bは電磁比例弁とされており、前記出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bの油圧の増減は速度調整可能とされている。
【0157】
この場合、前記入力側クラッチ機構対が前記一方のクラッチ機構対とされ、前記出力側クラッチ機構対が前記他方のクラッチ機構対とされる。
【0158】
即ち、図5に示すように、前記制御装置100は、第1/第2速段シフトアップ開始時点で、前記入力側第2電磁弁325bを排出位置から供給位置に移動させて、前記入力側クラッチ機構対のうち、第1HMT伝動状態において解除状態とされている前記入力側第2クラッチ機構60bを解除状態から瞬時に係合状態へ移行させ、且つ、第1/第2速段シフトアップ終了時点で、前記入力側第1電磁弁325aを供給位置から排出位置に移動させて、前記入力側クラッチ機構対のうち、第1HMT伝動状態において係合状態とされている前記入力側第1クラッチ機構60aを係合状態から瞬時に解除状態へ移行させることで、第1/第2速段シフトアップ開始時点から第1/第2速段シフトアップ終了時点までの間においては前記入力側クラッチ機構対の前記入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bの双方が係合されているシフトアップ二重伝動状態を現出させている。
【0159】
さらに、前記制御装置100は、電磁比例弁とされている出力側第1電磁弁335aを供給位置から排出位置へ移動させて前記出力側第1クラッチ機構80aの油圧を設定油圧(クラッチ油圧ON)から係合油圧を介してドレン油圧(クラッチ油圧OFF)まで漸減させて、前記出力側第1クラッチ機構80aを係合状態から解除状態まで摩擦板を滑らせながら移行させ、且つ、電磁比例弁とされている出力側第2電磁弁335bを排出位置から供給位置へ移動させて前記出力側第2クラッチ機構80bの油圧をドレン油圧(クラッチ油圧OFF)から係合油圧を介して設定油圧(クラッチ油圧ON)まで漸増させて、前記出力側第2クラッチ機構80bを解除状態から係合状態まで摩擦板を滑らせながら移動させており、この前記出力側第1クラッチ機構80aの係合状態から前記出力側第2クラッチ機構80bの係合状態への切替を、シフトアップ二重伝動状態の間に行っている。
【0160】
本実施の形態においては、図5に示されるように、前記出力側第1電磁弁335aの供給位置から排出位置への移動、及び、前記出力側第2電磁弁335bの排出位置から供給位置への移動を、第1/第2速段シフトアップ開始時点より前に行っている。
【0161】
詳しくは、前記制御装置100は、車速が第1/第2速段シフトアップ開始速より所定速度だけ低速の第1/第2速段シフトアップ準備速度に到達した時点において、前記出力側第1電磁弁335aの供給位置から排出位置への移動、及び、前記出力側第2電磁弁335bの排出位置から供給位置への移動を行っている。
【0162】
この場合、電磁比例弁とされている前記出力側第1及び第2電磁弁335a、335bは、第1/第2速段シフトアップ開始時点から第1/第2速段シフトアップ終了時点までの期間の間に、前記出力側第1クラッチ機構80aの油圧が設定油圧(クラッチ油圧ON)から係合油圧未満となり且つ前記出力側第2クラッチ機構80bの油圧がドレン油圧(クラッチ油圧OFF)から係合油圧以上となり、その後に、前記出力側第1クラッチ機構80aの油圧がドレン油圧(クラッチ油圧OFF)に到達し且つ前記出力側第2クラッチ機構80bの油圧が設定油圧(クラッチ油圧ON)に到達するように、油圧増減速度が設定されている。
【0163】
なお、前述の通り、本実施の形態においては、第1/第2速段シフトアップ準備速度に到達した時点において、前記出力側第1電磁弁335aの供給位置から排出位置への移動、及び、前記出力側第2電磁弁335bの排出位置から供給位置への移動を行っているが、当然ながら、本発明は斯かる構成に限定されるものではない。
即ち、前記出力側第1電磁弁335aの供給位置から排出位置への移動のタイミング、及び、前記出力側第2電磁弁335bの排出位置から供給位置への移動のタイミングは、それぞれが対応するクラッチ機構80a、80bの応答性に応じて適宜設定されるものである。
【0164】
図5に示すように、車速が第2速段範囲(第2速段伝動状態)内の場合には、前記制御装置100は、前記第2速段HST制御データを用いて、前記車速設定部材90の増速操作に従って前記HST10が第2HST変速比の側から第1HST変速比の側へ変速するように前記HSTアクチュエータ150を作動させて、駆動回転動力(車速)を増速させる。
【0165】
前記車速設定部材90の増速操作に応じて車速が第2速段範囲から当該第2速段範囲よりも高速の第3速段範囲へ移行するシフトアップ時には、前記制御装置100は、
・車速が所定の第2/第3速段シフトアップ準備速に到達した第2/第3速段シフトアップ準備時点で前記出力側第2クラッチ機構80b及び前記前進側クラッチ機構410Fの一方(図5においては前記出力側第2クラッチ機構80b)の係合状態から解除状態への滑らせながらの移行を開始させて、第2/第3速段シフトアップ準備時点から所定時間経過後の第2/第3速段シフトアップ開始時点で前記出力側第2クラッチ機構80b及び前記前進側クラッチ機構410Fの一方を解除状態とさせ、
・第2/第3速段シフト開始時点から所定時間経過後の第2/第3速段シフトアップ中間時点で、前記出力側第2クラッチ機構80b及び前記前進側クラッチ機構410Fの他方(図5においては前記前進側クラッチ機構410F)を係合状態から解除状態へ移行させ、
・第2/第3速段シフトアップ中間時点から所定時間経過後の第2/第3速段シフトアップ終了時点で、前記出力側第3クラッチ機構80cを解除状態から係合状態へ移行させることで、
第2/第3速段シフトアップ開始時点から第2/第3速段シフトアップ終了時点までの間においては前記走行出力軸47への動力伝達経路が遮断されたシフトアップ空走状態を現出させている。
【0166】
本実施の形態においては、前記制御装置100は、シフトアップ空走状態の間に、下記HST制御を行うように構成されている。
【0167】
即ち、第2/第3速段シフトアップ終了時点(第3速段への切替動作完了時点)において前記出力側第3伝動機構70cを介して現出される車速をシフトアップ終了直前における実車速に一致させるHST変速比を実車速変速比と表した場合に、図5に示すように、前記制御装置100は、実車速変速比に、切替動作完了時点での車速を実車速よりも所定速度だけ過剰に変化させる過剰補正値を加えた過剰車速変速比を算出し、過剰車速変速比をシフトアップ空走状態の間の制御目標値として用いて前記HSTアクチュエータ150を作動させるように構成されている。
【0168】
なお、「実車速よりも所定速度だけ過剰に変化させる」とは、低速段(この例においては第2速段)から高速段(この例においては第3速段)へのシフトアップ時には、「実車速よりも所定速度だけ高速に変化させること」を意味し、高速段(第3速段)から低速段(第2速段)へのシフトダウン時には、「実車速よりも所定速度だけ低速に変化させること」を意味する。
【0169】
図5に、シフトアップ空走状態の間の前記HSTアクチュエータ150の制御目標値を実車速変速比とした参考例における、駆動回転速(車速)及びHST変速比の変化の様子を二点鎖線で示す。
【0170】
図5のX部に示すように、過剰車速変速比をシフトアップ空走状態の間の制御目標値として用いる本実施の形態は、前記参考例に比して、第2/第3速段シフトアップ終了直後(第3速段への切替動作完了直後)の加速応答性を良くし、走行フィーリングを向上させることができる。
【0171】
なお、過剰車速変速比と実車速変速比との相違に起因する変速ショックは、変速段切替後に係合状態となるクラッチ機構(本実施の形態においては出力側第3クラッチ機構80c)を滑らせながら徐々に係合状態へ移行させることによって、有効に緩和させることができる。
【0172】
本実施の形態においては、前記過剰補正値は、予め前記制御装置100に記憶されている。
即ち、前記制御装置100は、第2/第3速段シフトアップ終了時点(第3速段への切替動作完了時点)において前記出力側第3伝動機構70cを介して現出される車速をシフトアップ終了直前における実車速に一致させる実車速変速比を算出し、実車速変速比に、予め記憶されている前記過剰補正値を加えて過剰車速変速比を算出する。
【0173】
図6に、前記過剰車速変速比を他の方法で算出するように構成された本実施の形態の変形例におけるグラフを示す。
【0174】
図6に示す変形例においては、前記制御装置100は、第2速段(低速段伝動状態)から第3速段(高速段伝動状態)への第2/第3速段シフトアップ開始時点直前におけるHST加速度(即ち、HST変速比の変化割合)と前記空走状態の時間とに基づいて、シフトアップ前の伝動状態(即ち、第2速段)が前記空走状態の間に引き続き継続されていたと仮定した場合におけるシフトアップ完了時点での仮想車速αを算出し、仮想車速αを得る為に必要な仮想車速変速比をシフトアップ空走状態時における前記HSTアクチュエータ150の制御目標値として用いている。
【0175】
即ち、図5に示す本実施の形態においては、前記制御装置100は、予め記憶されている所定値を前記過剰補正値として用いるのに対し、図6の変形例においては、前記制御装置100は、仮想車速αを現出させる仮想車速変速比と実車速変速比との差分の絶対値を前記過剰補正値として用いるように構成されている。
なお、前記変形例における、HST加速度(即ち、HST変速比の変化割合)を算出する為のサンプリング時間は、前記制御装置100に予め設定される。
【0176】
また、第2/第3速段シフトアップ開始時点を画する第2/第3速段シフトアップ開始速とは、前記HST10が第2/第3速段切替変速比とされた際に前記第1要素から前記出力側第2伝動機構70b及び前記前進側伝動機構400Fを介して作動伝達される回転動力によって現出される車速とされている。
【0177】
本実施の形態においては、前述の通り、前記出力側第3クラッチ機構80cに対する圧油給排を切替える出力側第3電磁弁335cは電磁比例弁とされている。
【0178】
前記出力側第3電磁弁335cは、第2/第3速段シフトアップ開始時点から第2/第3速段シフトアップ終了時点までの所定時間で、前記出力側第3クラッチ機構80cの油圧をドレン油圧(クラッチ油圧OFF)から係合油圧まで漸増させるように、油圧増加速度が設定されている。
【0179】
この場合、前記制御装置100は、第2/第3速段シフトアップ開始時点で、前記出力側第3電磁弁335cを排出位置から供給位置へ移動させることにより、第2/第3速段シフトアップ開始時点から第2/第3速段シフトアップ終了時点までの間にシフトアップ空走状態を確実に現出することができる。
【0180】
車速が第3速段範囲内においては、前記制御装置100は、第2HMT伝動状態を現出させ、前記出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bを解除状態とさせ、且つ、前記出力側第3クラッチ機構80cを係合状態とさせることで、前記入力側第2伝動機構50b、前記遊星歯車機構30及び前記出力側第3伝動機構70cによって形成される第3速段伝動機構を介して、前記主駆動軸212から前記走行出力軸47へ第2速段伝動機構よりも高い変速比で回転動力が伝達される第3速段伝動状態を現出させる。
【0181】
車速が第3速段範囲内(第3速段伝動状態)の場合においては、前記制御装置100は、前記車速設定部材90の操作に応じた車速が現出されるように、前記第3速段HST制御データを用いて前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0182】
具体的には、図5に示すように、車速が第3速段範囲内(第3速段伝動状態)の場合においては、前記制御装置100は、前記車速設定部材90の増速操作に応じて、前記HST10が第2HST変速比の側から第1HST変速比の側へ変速するように前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0183】
なお、車速が第3速段範囲内においては、前記変速出力軸45から前記走行出力軸47へは動力を伝達する必要が無いため、前記制御装置100は、図5に示すように、前記前進側クラッチ機構410Fを解除状態とさせる。
【0184】
次に、前記変速操作部材を減速操作させた場合における前記制御装置100の変速制御について説明する。
【0185】
図7に、前記前後進切替操作部材92が前進位置Fに位置された状態で、車速が第3速段範囲内に入っている状態から前記車速設定部材90を減速操作させた場合における、時間経過と前記トランスミッション構造1の駆動回転動力の回転速、前記HST10の出力回転速及び前記クラッチ機構60a~60b、80a~80c、410Fの油圧との関係を示す。
【0186】
図7に示すように、車速が第3速段範囲内の際には、前記制御装置100は、第3速段伝動状態を現出させた上で、前記車速設定部材92の減速操作に応じて前記HST10の変速比が第1HST変速比の側から第2HST変速比の側へ変化するように、第3速段HST制御データを用いて前記HSTアクチュエータ150を作動させ、これにより、前記車速設定部材90の減速操作に応じて駆動回転動力の回転速度(車速)を減速させる。
【0187】
前記車速設定部材90の減速操作に応じて車速が第3速段範囲から第2速段範囲へ移行するシフトダウン時には、前記制御装置100は、
・車速が所定の第3/第2速段シフトダウン準備速に到達した第3/第2速段シフトダウン準備時点で前記出力側第3クラッチ機構80cの係合状態から解除状態への滑らせながらの移行を開始させて、第3/第2速段シフトダウン準備時点から所定時間経過後の第3/第2速段シフトダウン開始時点で前記出力側第3クラッチ機構80cを解除状態とさせ、
・第3/第2速段シフトダウン開始時点から所定時間経過後の第3/第2速段シフトダウン中間時点で前記前進側クラッチ機構410Fを解除状態から係合状態へ移行させ、
・第3/第2速段シフトダウン中間時点から所定時間経過後の第3/第2速段シフトダウン終了時点で前記出力側第2クラッチ機構80bを解除状態から係合状態へ移行させることで、
第3/第2速段シフトダウン開始時点から第3/第2速段シフトダウン終了時点までの間においては前記走行出力軸47への動力伝達経路が遮断されたシフトダウン空走状態を現出させている。
【0188】
その上で、前記制御装置100は、図7に示すように、第3/第2速段シフトダウン終了時点(第2速段への切替動作完了時点)において前記出力側第2伝動機構70b及び前記前進側伝動機構400Fを介して現出される車速をシフトダウン終了直前における実車速に一致させるHST変速比を実車速変速比と表した場合に、実車速変速比に、切替動作完了時点での車速を実車速よりも所定速度だけ過剰に変化させる(即ち、実車速よりも所定速度だけ低速に変化させる)過剰補正値を加えた過剰車速変速比を算出し、過剰車速変速比をシフトダウン空走状態の間の制御目標値として用いて前記HSTアクチュエータ150を作動させるように構成されている。
【0189】
図7に、シフトダウン空走状態の間の前記HSTアクチュエータ150の制御目標値を実車速変速比とした参考例における、駆動回転速(車速)及びHST変速比の変化の様子を二点鎖線で示す。
【0190】
前記過剰補正値は予め前記制御装置100に記憶させることも可能であるし、図6に示す変形例と同様に、前記制御装置100が仮想車速に基づいて算出するように構成することも可能である。即ち、前記制御装置100に、前記過剰補正値が規定された数値データを予め記憶させることも可能であるし、仮想車速に基づいて前記過剰補正値を算出する計算式データを予め記憶させることも可能である。
【0191】
なお、第3/第2速段シフトダウン開始速とは、前記第1要素から前記出力側第2伝動機構70b及び前記前進側伝動機構400Fを介して前記走行出力軸47に回転動力が作動伝達される状態下(即ち、第2速段伝動状態下)において前記HST10の可変出力範囲内で現出可能な車速に設定される。
【0192】
図7に示すように、車速が第2速度範囲内の際には、前記制御装置100は、第2速段伝動状態を現出させた上で、前記車速設定部材90の減速操作に応じて前記HST10の変速比が第1HST変速比の側から第2HST変速比の側へ変化するように、前記第2速段HST制御データを用いて前記HSTアクチュエータ150を作動させ、これにより、前記車速設定部材90の減速操作に応じて車速を減速させている。
【0193】
前記車速設定部材90の減速操作に応じて車速が第2速度範囲から第1速度範囲へ移行するシフトダウン時には、前記制御装置100は、車速が所定速(第2/第1速段シフトダウン開始速)に到達した第2/第1速段シフトダウン開始時点で、前記入力側クラッチ機構対及び前記出力側クラッチ機構対のうちの一方のクラッチ機構対(例えば入力側クラッチ機構対)における第1クラッチ機構(入力側第1クラッチ機構60a)を解除状態から瞬時に係合状態へ移行させ、且つ、第2/第1速段シフトダウン開始時点から所定時間経過後の第2/第1速段シフトダウン終了時点で、前記一方のクラッチ機構対(入力側クラッチ機構対)における第2クラッチ機構(入力側第2クラッチ機構60b)を係合状態から瞬時に解除状態へ移行させて、第2/第1速段シフトダウン開始時点からシフトダウン終了時点までの間においては前記一方のクラッチ機構対(入力側クラッチ機構対)における第1及び第2クラッチ機構の双方が係合されているシフトダウン二重伝動状態を現出させつつ、シフトダウン二重伝動状態の間に、前記入力側クラッチ機構対及び前記出力側クラッチ機構対のうちの他方のクラッチ機構対(出力側クラッチ機構対)における第1クラッチ機構(出力側第1クラッチ機構80a)を解除状態から係合状態まで摩擦板を滑らせながら移行させ且つ前記他方のクラッチ機構対における第2クラッチ機構(出力側第2クラッチ機構80b)を係合状態から解除状態まで摩擦板を滑らせながら移行させて、前記他方のクラッチ機構対(出力側クラッチ機構対)における第2クラッチ機構の係合状態から第1クラッチ機構の係合状態への切替を行うように、構成されている。
【0194】
斯かる構成によれば、第2HMT伝動状態から第1HMT伝動状態へのシフトダウンを、動力伝達遮断状態を招くことなく円滑に行うことができる。
【0195】
本実施の形態においては、図7に示すように、第2/第1速段シフトダウン開始速は、第2HMT伝動状態において前記HST10が第2/第1速段切替変速比とされた際に現出される車速とされている。
【0196】
前述の通り、本実施の形態においては、前記出力側クラッチ機構対を形成する出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bに対する圧油給排を切替える出力側第1及び第2電磁弁335a、335bは電磁比例弁とされており、前記出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bの油圧の増減速度は調整可能とされている。
【0197】
この場合、前記入力側クラッチ機構対が前記一方のクラッチ機構対とされ、前記出力側クラッチ機構対が前記他方のクラッチ機構対とされる。
【0198】
本実施の形態においては、図7に示すように、前記制御装置100は、第2/第1速段シフトダウン開始時点で、前記入力側第1電磁弁325aを排出位置から供給位置に移動させて、前記入力側クラッチ機構対のうち、第2HMT伝動状態において解除状態とされている前記入力側第1クラッチ機構60aを解除状態から瞬時に係合状態へ移行させ、且つ、第2/第1速段シフトダウン終了時点で、前記入力側第2電磁弁325bを供給位置から排出位置に移動させて、前記入力側クラッチ機構対のうち、第2HMT伝動状態において係合状態とされている前記入力側第2クラッチ機構60bを係合状態から瞬時に解除状態へ移行させることで、第1/第2速段シフトダウン開始時点からシフトダウン終了時点までの間においては前記入力側クラッチ機構対における前記入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bの双方が係合されているシフトダウン二重伝動状態を現出させている。
【0199】
さらに、前記制御装置100は、電磁比例弁とされている出力側第2電磁弁335bを供給位置から排出位置へ移動させて前記出力側第2クラッチ機構80bの油圧を設定油圧(クラッチ油圧ON)から係合油圧未満(詳しくはドレン油圧(クラッチ油圧OFF))まで漸減させて、前記出力側第2クラッチ機構335bを係合状態から解除状態まで摩擦板を滑らせながら移行させ、且つ、電磁比例弁とされている出力側第1電磁弁335aを排出位置から供給位置へ移動させて前記出力側第1クラッチ機構80aの油圧をドレン油圧(クラッチ油圧OFF)から係合油圧以上の油圧(詳しくは設定油圧(クラッチ油圧ON))まで漸増させて、前記出力側第1クラッチ機構80aを解除状態から係合状態まで摩擦板を滑らせながら移動させており、この前記出力側第2クラッチ機構80bの係合状態から前記出力側第1クラッチ機構80aの係合状態への切替をシフトダウン二重伝動状態の間に行っている。
【0200】
本実施の形態においては、図7に示されるように、前記出力側第2電磁弁335bの供給位置から排出位置への移動、及び、前記出力側第1電磁弁335aの排出位置から供給位置への移動を、第2/第1速段シフトダウン開始時点より前に行っている。
【0201】
詳しくは、前記制御装置100は、車速が第2/第1速段シフトダウン開始速より所定速度だけ高速の第2速/第1速段シフトダウン準備速度に到達した時点において、前記出力側第2電磁弁335bの供給位置から排出位置への移動、及び、前記出力側第1電磁弁335aの排出位置から供給位置への移動を行うように構成されている。
【0202】
この場合、電磁比例弁とされている前記出力側第1及び第2電磁弁335a、335bは、第2/第1側速段シフトダウン開始点から第2/第1速段シフトダウン終了時点までのシフトダウン二重伝動状態の間に、前記出力側第1クラッチ機構60aの油圧がドレン油圧(クラッチ油圧OFF)から係合油圧以上となり且つ前記出力側第2クラッチ機構60bの油圧が設定油圧(クラッチ油圧ON)から係合油圧未満となり、第2/第1速段シフトダウン終了時点から所定時間経過後に、前記出力側第1クラッチ機構60aの油圧が設定油圧(クラッチ油圧ON)に到達し且つ前記出力側第2クラッチ機構60bの油圧がドレン油圧(クラッチ油圧OFF)に到達するように、油圧増減速度が設定されている。
【0203】
なお、前述の通り、本実施の形態においては、前記出力側第2電磁弁335bの供給位置から排出位置への移動、及び、前記出力側第1電磁弁335aの排出位置から供給位置への移動を、第2/第1速段シフトダウン開始時点より前に行っているが、当然ながら、本発明は斯かる構成に限定されるものではない。
即ち、前記出力側第2電磁弁335bの供給位置から排出位置への移動のタイミング、及び、前記出力側第1電磁弁335aの排出位置から供給位置への移動のタイミングは、それぞれが対応するクラッチ機構80b、80aの応答性に応じて適宜設定されるものである。
【0204】
また、本実施の形態においては、前述の通り、前記出力側第1及び第2電磁弁335a、335bが電磁比例弁とされて、前記出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bの油圧が漸増及び漸減される一方で、前記入力側第1及び第2電磁弁325a、325bが電磁切換弁とされて、前記入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bの油圧の増減が瞬時に行われるように構成されているが、当然ながら、本発明は斯かる形態に限定されるものではない。
【0205】
例えば、前記出力側第1及び第2電磁弁335a、335bを電磁切換弁とし、且つ、前記入力側第1及び第2電磁弁325a、325bを電磁比例弁とするように、変形することも可能である。
【0206】
車速が第1速段範囲の際には、前記制御装置100は、第1速段伝動状態を現出させた上で、前記車速設定部材92の減速操作に応じて前記HST10の変速比が第2HST変速比の側から第1HST変速比の側へ変化するように、第1速段HST制御データを用いて前記HSTアクチュエータ150を作動させ、これにより、前記車速設定部材90の減速操作に応じて車速を減速させる。
【0207】
好ましくは、前記過剰補正値を用いた変速段の変更完了時点から所定時間においては、前記変速操作部材の操作位置をHST制御データに適用して得られる基準HST変速比に、前記過剰補正値を所定割合で減少させつつ加えて得られる変速比を、前記HSTアクチュエータ150の制御目標値とすることができる。
【0208】
実施の形態2
以下、本発明の他の実施の形態に係るトランスミッション構造について、添付図面を参照しつつ説明する。
図8に、本実施の形態において、前記前後進切替操作部材92を前進位置Fに位置させた状態で、前記車速設定部材90を最低速位置から増速操作させた場合における、時間経過と本実施の形態に係るトランスミッション構造の駆動回転動力の回転速(車速)、前記HST10の出力回転速及び前記クラッチ機構60a~60b、80a~80c、410Fの油圧との関係を表すグラフを示す。
なお、図中、前記実施の形態1におけると同一部材には同一符号を付している。
【0209】
本実施の形態に係るトランスミッション構造は、前記制御装置による前記HST10の変速制御に関し、前記実施の形態1に係るトランスミッション構造1と相違している。
【0210】
図8において、HST変速比及び駆動回転速(車速)の実線が本実施の形態におけるHST変速制御を示し、二点鎖線が参考例におけるHST変速制御を示している。
【0211】
まず、参考例について説明する。
図8の二点鎖線で示される参考例においては、車速が第1速段範囲内の際には、前記制御装置100は、第1速段伝動状態を現出させた上で、前記変速操作部材の操作位置を第1速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータ150を作動させ、これにより、前記変速操作部材の最低速位置からの増速操作に応じて前記HST10をゼロ速変速比又は所定のクリープ速変速比から第1/第2速段切替変速比まで変速させる。
【0212】
第1速段から第2速段へのシフトアップ時には、前記制御装置100は、前記HST10を第1/第2速段切替変速比に維持した状態で、第1速段伝動状態から第2速段伝動状態への移行されるように、前記クラッチアクチュエータ300を作動させる。
【0213】
車速が第2速段範囲内の際には、前記制御装置100は、第2速段伝動状態を現出させた上で、前記変速操作部材の操作位置を第2速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータ150を作動させ、これにより、前記変速操作部材の増速操作に応じて前記HST10を第1/第2速段切替変速比から第2/第3速段切替変速比まで変速させる。
【0214】
第2速段から第3速段へのシフトアップ時には、前記制御装置100は、空走状態を現出させた上で、空走状態の間に、シフトアップ動作完了時点での車速をシフトアップ完了直前における実車速に一致させる実車速HST変速比を制御目標値として、前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0215】
車速が第3速段範囲内の際には、前記制御装置100は、第3速段伝動状態を現出させた上で、前記変速操作部材の操作位置を第3速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータ150を作動させ、これにより、前記変速操作部材の増速操作に応じて前記HST10を実車速変速比から第1HST変速比の側へ変速させる。
【0216】
これに対し、本実施の形態においては、前記制御装置100が、前記走行出力軸47に掛かる走行負荷を考慮して前記HST10の変速制御を行うように構成されている。
【0217】
詳しくは、前記制御装置100には、予め、走行負荷に応じた負荷補正値を得る為の負荷補正データが記憶されている。前記制御装置100は、前記HSTアクチュエータ150の制御目標値を算出する際に、前記基準HST変速比に負荷補正データに基づく負荷補正値を加えるように構成されている。即ち、前記過剰補正値として負荷補正値を用いるように構成されている。
なお、前記負荷補正データは、走行負荷に応じた負荷補正値が規定された数値データ、及び、走行負荷に基づいて負荷補正値を算出する計算式データを含む概念である。
【0218】
なお、前記制御装置100は、例えば、前記変速操作部材(前記車速設定部材90)の操作位置に基づいて得られる目標車速と前記車速センサ49による実車速との差異の大きさに基づいて前記走行出力軸47に掛かる走行負荷を検知することができる。
【0219】
以下、第1速段伝動状態の全ての時間において一定の第1走行負荷が掛かり、第2速段伝動状態においては図8中のY2時点までは実質的に走行負荷が無しで且つY2時点から第2/第3速段シフトアップ開始時点までの間においては第1走行負荷よりも大きな第2走行負荷が掛かり、第3速段伝動状態においては第2/第3速段シフトアップ終了時点からY4時点までは実質的に走行負荷が無しで且つY4時点から最高車速Vmaxに至るまでの間においては徐々に大きくなる第3走行負荷が掛かっている場合を例に、本実施の形態におけるHST変速制御を説明する。
【0220】
第1速段伝動状態においては、第1走行負荷が掛かっている為、前記制御装置100は、前記変速操作部材の操作位置を対応する前記第1速段HST制御データに適用して算出される基準HST変速比(図8の二点鎖線)に、第1走行負荷を負荷補正データに適用して算出される負荷補正値を加えて負荷補正HST変速比(図8の実線)を算出し、負荷補正HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させる。
【0221】
即ち、負荷補正HST変速比(図8の第1速段伝動状態において実線で示されたHST変速比)は、基準HST変速比に比して負荷補正値の分だけ過剰に(この場合には増速側に)車速変化を生じさせる変速比となる。
【0222】
第1速段伝動状態から第2速段伝動状態へのシフトアップ時には、前記制御装置100は、変速段切替動作開始時点(この場合には第1/第2速段シフトアップ開始時点)における負荷補正値A1(図8参照)を持ち越し負荷補正値として記憶し、シフトアップ完了時点(この場合には第1/第2シフトアップ終了時点)における基準HST変速比に、持ち越し負荷補正値の絶対値量を過剰に車速変化を生じさせる方向(この場合には車速を増速させる方向)へ加算して第1/第2シフトアップ時負荷補正HST変速比(図8参照)を算出し、第1/第2シフトアップ時負荷補正HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させる。
【0223】
変速段切替完了後(この場合には第1速段伝動状態から第2速段伝動状態へのシフトアップ完了後)においては、前記持ち越し負荷補正値は予め設定された減少割合で徐々に減少されて、最終的にはゼロとされる。
【0224】
即ち、第2速段伝動状態においては、前記制御装置100は、前記変速操作部材の操作位置を対応する前記第2速段HST制御データに適用して算出される基準HST変速比に、前記持ち越し負荷補正値を加えたHST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータを作動させるように構成されており、加えられる前記持ち越し負荷補正値は時間経過に従って減少され、図8の例においてはY1時点でゼロとされる。なお、本走行例においては、前述の通り、第2速段伝動状態においては図8中のY2時点までは実質的に走行負荷無しと仮定している為、変速段切替完了後(この場合には第1速段伝動状態から第2速段伝動状態へのシフトアップ完了後)には、基準HST変速比に前記持ち越し負荷補正値を加えたHST変速比が制御目標値とされているが、走行負荷が掛かっている場合には、基準HST変速比に、前記持ち越し負荷補正値と走行負荷を負荷補正データに適用して算出される負荷補正値とを加えたHST変速比が制御目標値とされる。
【0225】
前述の通り、前記例においては、第2速段伝動状態のY2時点(図8参照)までは実質的に走行負荷が無しとされている為、前記制御装置100は、Y1時点からY2時点までは、前記変速操作部材の操作位置を対応する前記第2速段HST制御データに適用して算出される基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0226】
Y2時点から第2/第3速段シフトアップ開始時点までの間においては第2走行負荷が掛かっている為、前記制御装置100は、前記変速操作部材の操作位置を対応する前記第2速段HST制御データに適用して算出される基準HST変速比に、第2走行負荷を負荷補正データに適用して算出される負荷補正値を加えて負荷補正HST変速比を算出し、負荷補正HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0227】
第2速段伝動状態から第3速段伝動状態へのシフトアップ時には、前記制御装置100は、変速段切替動作開始時点(この場合には第2/第3速段シフトアップ開始時点)における負荷補正値A2(図8参照)を持ち越し負荷補正値として記憶し、シフトアップ完了時点(この場合には第2/第3シフトアップ終了時点)の直前における実車速を現出させる実車速変速比に、持ち越し負荷補正値の絶対値量を、過剰に車速変化を生じさせる方向(この場合には車速を増速させる方向)へ加算して第2/第3シフトアップ時負荷補正HST変速比(図8参照)を算出し、前記空走状態の間の制御目標値として第2/第2シフトアップ時負荷補正HST変速比を用いて前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0228】
第2/第3シフトアップ時の持ち越し負荷補正値も予め設定された減少割合で時間経過に従って減少され、最終的に(図8の例ではY3時点で)ゼロとされる。
【0229】
即ち、第3速段伝動状態においては、前記制御装置100は、前記変速操作部材の操作位置を対応する前記第3速段HST制御データに適用して算出される基準HST変速比に、前記持ち越し負荷補正値を加えたHST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータ150を作動させるように構成されており、加えられる前記持ち越し負荷補正値は時間経過に従って減少されてY3時点でゼロとされる。
【0230】
前述の通り、前記例においては、第3速段伝動状態のY4時点(図8参照)までは実質的に走行負荷が無しとされている為、前記制御装置100は、Y3時点からY4時点までは、前記変速操作部材の操作位置を対応する前記第3速段HST制御データに適用して算出される基準HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0231】
Y4時点からは徐々に大きくなる第3走行負荷が掛かっている為、前記制御装置100は、前記変速操作部材の操作位置を対応する前記第3速段HST制御データに適用して算出される基準HST変速比に、第3走行負荷を負荷補正データに適用して算出される負荷補正値を加えて負荷補正HST変速比を算出し、負荷補正HST変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0232】
本実施の形態においても、前記実施の形態1におけると同様に、変速段切替直後の加速応答性を良くし、走行フィーリングを向上させることができる。
なお、当然ながら、本実施の形態のHST制御はシフトダウンの際にも適用され得る。
【0233】
実施の形態3
以下、本発明のさらに他の実施の形態に係るトランスミッション構造について、添付図面を参照しつつ説明する。
図9に、本実施の形態において、前記前後進切替操作部材92を前進位置Fに位置させた状態で、前記車速設定部材90を最低速位置から増速操作させた場合における、時間経過と本実施の形態に係るトランスミッション構造の駆動回転動力の回転速(車速)、前記HST10の出力回転速及び前記クラッチ機構60a~60b、80a~80c、410Fの油圧との関係を表すグラフを示す。
なお、図中、前記実施の形態1及び2におけると同一部材には同一符号を付している。
【0234】
本実施の形態に係るトランスミッション構造は、前記制御装置100による、第2速段伝動状態及び第3速変速段伝動状態の間の切替時、並びに、第2速段伝動状態及び第3速変速段伝動状態の間の切替後の伝動状態におけるHST制御に関し、前記実施の形態1に係るトランスミッション構造と相違している。
【0235】
図9に示すように、本実施の形態においては、前記制御装置100は、第2速段伝動状態から第3速段伝動状態への切替時の空走状態において、切替動作完了時点(本実施の形態においては第2/第3速段シフトアップ終了時点)での車速を切替動作完了直前における実車速に一致させる実車速変速比を制御目標値として前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0236】
さらに、前記制御装置100は、切替動作完了時点から所定時間においては、前記変速操作部材の操作位置を対応する第3速段HST制御データに適用して得られる基準HST変速比に所定の過剰係数を乗算した過剰補正変速比を制御目標値として、前記HSTアクチュエータ150を作動させるように構成されている。
【0237】
過剰係数は、過剰に車速変化を生じさせる方向(図9の構成においては車速を増速させる方向)の補正値であり、前記制御装置100に予め設定される。
【0238】
本実施の形態においては、過剰係数を乗算する所定時間(図9においては、第2/第3速段シフトアップ終了時点からZ1時点までの間の時間)は、前記制御装置100に予め設定される。
【0239】
これに代えて、前記制御装置100が、過剰係数の値及び/又は過剰係数を乗算する所定時間を前記走行出力軸47に掛かる走行負荷に応じて変更するように構成することも可能である。
【0240】
さらに、好ましくは、図10に示すように、前記所定時間終了後においては、前記所定時間終了時点(Z1時点)での過剰補正変速比と基準HST変速比との差分Bを予め設定された所定割合で減少させつつ、基準HST変速比に加算して得られる変速比を、前記HSTアクチュエータ150の制御目標値とすることができる。
【0241】
本実施の形態においても、前記実施の形態1及び2におけると同様に、変速段切替直後の加速応答性を良くし、走行フィーリングを向上させることができる。
なお、当然ながら、本実施の形態のHST制御をシフトダウンの際に適用することができる。
【0242】
また、実施の形態2における走行負荷に応じた負荷補正値の付加を、前記実施の形態1及び3に適用することも可能である。
この場合において、例えば、変速段切替動作開始時点において所定閾値以上の負荷補正値が存在する場合にのみ前記過剰補正値を加えるように構成することも可能である。
【0243】
なお、本実施の形態においては、変速段切替完了時点におけるHST変速比は実車速変速比とされており、前記実施の形態1及び2においては生じ得る変速ショックは有効に防止される。
従って、本実施の形態においては、図9に示すように、変速段切替後に係合状態となるクラッチ機構(本実施の形態においては出力側第3クラッチ機構80c)を瞬時に係合状態へ移行させることができる。
【符号の説明】
【0244】
1 トランスミッション構造
10 油圧式無段変速機構(HST)
19 回転速センサ(HSTセンサ)
20 出力調整部材
30 遊星歯車機構
45 変速出力軸
47 走行出力軸
49a 入力センサ(車速センサ)
49b 出力センサ(車速センサ)
50a、50b 入力側第1及び第2伝動機構
60a、60b 入力側第1及び第2クラッチ機構
70a~70c 出力側第1~第3伝動機構
80a~80c 出力側第1~第3クラッチ機構
90 車速設定部材(変速操作部材)
91 車速設定センサ(変速センサ)
92 前後進切替操作部材(変速操作部材)
93 前後進切替センサ(変速センサ)
100 制御装置
150 HSTアクチュエータ
210 駆動源
212 主駆動軸
220 駆動輪
300 クラッチアクチュエータ
400F、400R 前進側及び後進側伝動機構
410F、410R 前進側及び後進側クラッチ機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10