(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142569
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】金属ペーストの塗布方法、および、接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
H01L21/52 G
H01L21/52 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054754
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】林 志桜里
(72)【発明者】
【氏名】中川 将
【テーマコード(参考)】
5F047
【Fターム(参考)】
5F047AA17
5F047BA00
5F047BA34
5F047BA53
5F047BB16
5F047FA22
(57)【要約】
【課題】吐出ノズルを進行方向に移動させながら金属ペーストを吐出することによって金属ペーストを塗布した場合であっても、ペースト塗布予定領域における前記吐出ノズルの進行方向の終端部における金属ペーストの立ち上がりを抑制でき、安定して金属ペーストを塗布することが可能な金属ペーストの塗布方法を提供する。
【解決手段】吐出ノズル30を進行方向に進行させながら金属ペースト23を吐出して、金属ペースト23を塗布する金属ペースト23の塗布方法であって、ペースト塗布予定領域における吐出ノズル30の進行方向の終端部Eよりも手前で金属ペースト23の吐出を停止するとともに、金属ペースト23の吐出を停止した状態で少なくとも終端部Eまで吐出ノズル30を進行させることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出ノズルを進行方向に進行させながら金属ペーストを吐出して、金属ペーストを塗布する金属ペーストの塗布方法であって、
ペースト塗布予定領域における前記吐出ノズルの進行方向の終端部よりも手前で前記金属ペーストの吐出を停止するとともに、前記金属ペーストの吐出を停止した状態で少なくとも前記終端部まで前記吐出ノズルを進行させることを特徴とする金属ペーストの塗布方法。
【請求項2】
前記金属ペーストの吐出を停止する位置は、前記ペースト塗布予定領域における前記吐出ノズルの進行方向の終端部から0.5mm以上2.0mm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の金属ペーストの塗布方法。
【請求項3】
第一部材と第二部材とが金属ペーストの焼結体を介して接合された接合体の製造方法であって、
前記第一部材の接合面および前記第二部材の接合面の一方又は両方に前記金属ペーストを塗布するペースト塗布工程と、
前記金属ペーストを介して前記第一部材と前記第二部材とを積層する積層工程と、
前記金属ペーストを焼成し、前記第一部材と前記第二部材とを前記金属ペーストの焼結体を介して接合する焼成工程と、
を有し、
前記ペースト塗布工程として、請求項1または請求項2に記載の金属ペーストの塗布方法を行うことを特徴とする接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材同士を接合する際に用いられる金属ペーストの塗布方法、および、部材同士が金属ペーストの焼結体を介して接合された接合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、LEDやパワーモジュールといった電子デバイスにおいては、金属部材からなる回路層の上に半導体素子が接合された構造とされている。
ここで、半導体素子等の電子部品を回路層上に接合する際には、例えば特許文献1に示すように、はんだ材を用いた方法が広く使用されている。最近では、環境保護の観点から、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系等の鉛フリーはんだが主流となっている。
【0003】
ところで、特許文献1に記載されたように、はんだ材を介して半導体素子等の電子部品と回路層とを接合した場合には、高温環境下で使用した際にはんだの一部が溶融し、半導体素子等の電子部品と回路層と接合信頼性が低下するおそれがあった。
特に、最近では、半導体素子自体の耐熱性が向上しており、半導体装置が自動車のエンジンルーム等の高温環境下で使用されることがある。また、半導体素子に対して大電流が負荷され、半導体素子自体の発熱量が大きくなっている。このため、従来のようにはんだ材で接合した構造では対応が困難であった。
【0004】
そこで、はんだ材の代替として、例えば、特許文献2,3には、金属粉と溶剤とを含む焼結型の金属ペーストが提案されている。これらの金属ペーストを回路層と半導体素子の間に配設し、金属ペーストを焼成することにより、焼結体からなる接合層を介して回路層と半導体素子とが接合されることになる。金属ペーストの焼結体からなる接合層は、耐熱性に優れており、高温環境下や大電流用途においても安定して使用することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-172378号公報
【特許文献2】特開2008-161907号公報
【特許文献3】特開2011-094223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に示すように、はんだペーストを用いた場合には、接合面にはんだペーストを点塗布しても接合時に液相となることから、接合面全体で接合することが可能となる。
一方、特許文献2,3に示すように、焼結型の金属ペーストを用いた場合には、接合時に液相が生じないことから、点塗布すると、接合界面に空隙が形成されてしまうことになる。このため、焼結型の金属ペーストを用いる場合には、接合面全体に金属ペーストを塗布する必要がある。
そこで、焼結型の金属ペーストを塗布する場合には、吐出ノズルを進行方向に移動させながら金属ペーストを吐出する方法が使用されている。
【0007】
しかしながら、焼結型の金属ペーストを塗布する場合には、吐出ノズルを進行方向に移動させながら金属ペーストを吐出することにより、金属ペーストを塗布した場合には、ペースト塗布予定領域における前記吐出ノズルの進行方向の終端部において、金属ペーストが高さ方向に立ち上がるように塗布されることがある。このため、例えば、回路層と半導体素子とを接合した際に、金属ペーストの焼結体が半導体素子の接合面とは反対側に回り込むように形成され、他の部材と電気的に短絡するおそれがあった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、吐出ノズルを進行方向に移動させながら金属ペーストを吐出することによって金属ペーストを塗布した場合であっても、ペースト塗布予定領域における前記吐出ノズルの進行方向の終端部における金属ペーストの立ち上がりを抑制でき、安定して金属ペーストを塗布することが可能な金属ペーストの塗布方法、および、接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の態様1の金属ペーストの塗布方法は、吐出ノズルを進行方向に進行させながら金属ペーストを吐出して、金属ペーストを塗布する金属ペーストの塗布方法であって、ペースト塗布予定領域における前記吐出ノズルの進行方向の終端部よりも手前で前記金属ペーストの吐出を停止するとともに、前記金属ペーストの吐出を停止した状態で少なくとも前記終端部まで前記吐出ノズルを進行させることを特徴としている。
【0010】
本発明の態様1の金属ペーストの塗布方法によれば、ペースト塗布予定領域における前記吐出ノズルの進行方向の終端部よりも手前で前記金属ペーストの吐出を停止しているので、ペースト塗布予定領域の終端部Eの近傍に余剰な金属ペーストが存在しない。また、前記金属ペーストの吐出を停止した状態で少なくとも前記終端部まで前記吐出ノズルを進行させているので、吐出ノズルとつながった状態の余剰な金属ペーストが終端部E方向へ引っ張られることにより、ペースト塗布予定領域の終端部にまで金属ペーストを塗布することができる。
よって、ペースト塗布予定領域の終端部における金属ペーストの立ち上がりを抑制することが可能となる。
【0011】
本発明の態様2の金属ペーストの塗布方法は、本発明の態様1の金属ペーストの塗布方法において、前記金属ペーストの吐出を停止する位置は、前記ペースト塗布予定領域における前記吐出ノズルの進行方向の終端部から0.5mm以上2.0mm以下の範囲内であることを特徴としている。
本発明の態様2の金属ペーストの塗布方法によれば、前記ペースト塗布予定領域における前記吐出ノズルの進行方向の終端部から0.5mm以上2.0mm以下の範囲内とされているので、ペースト塗布予定領域の終端部における金属ペーストの立ち上がりをさらに抑制することが可能となるとともに、ペースト塗布予定領域の終端部Eまで金属ペーストを塗布することができる。
【0012】
本発明の態様3の接合体の製造方法は、第一部材と第二部材とが金属ペーストの焼結体を介して接合された接合体の製造方法であって、前記第一部材の接合面および前記第二部材の接合面の一方又は両方に前記金属ペーストを塗布するペースト塗布工程と、前記金属ペーストを介して前記第一部材と前記第二部材とを積層する積層工程と、前記金属ペーストを焼成し、前記第一部材と前記第二部材とを前記金属ペーストの焼結体を介して接合する焼成工程と、を有し、前記ペースト塗布工程として、本発明の態様1または態様2の金属ペーストの塗布方法を行うことを特徴としている。
【0013】
本発明の態様3の接合体の製造方法によれば、本発明の態様1または態様2の金属ペーストの塗布方法によって、前記第一部材の接合面および前記第二部材の接合面の一方又は両方に前記金属ペーストを塗布する前記ペースト塗布工程を有しているので、ペースト塗布予定領域の終端部における金属ペーストの立ち上がりを抑制し、第一部材または第二部材の接合面とは反対側にまで金属ペーストが回り込むことを抑制できる。また、ペースト塗布予定領域の終端部にまで金属ペーストを塗布することができる。
よって、第一部材と第二部材とが金属ペーストの焼結体を介して良好に接合された接合体を製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吐出ノズルを進行方向に移動させながら金属ペーストを吐出することによって金属ペーストを塗布した場合であっても、ペースト塗布予定領域における前記吐出ノズルの進行方向の終端部における金属ペーストの立ち上がりを抑制でき、安定して金属ペーストを塗布することが可能な金属ペーストの塗布方法、および、接合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る接合体(半導体装置)の説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る金属ペーストの塗布方法の説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る接合体の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態である金属ペーストの塗布方法、及び、接合体の製造方法について、添付した図を参照して説明する。
本実施形態である接合体の製造方法は、
図1に示すように、第一部材11と第二部材12とが接合層13を介して接合された接合体10を製造するものである。
そして、本実施形態である金属ペーストの塗布方法は、第一部材11の接合面および第二部材12の接合面の一方又は両方に、接合層13を形成する金属ペーストを塗布するものである。
【0017】
本実施形態における接合体10は、
図1に示すように、第一部材11と第二部材12とが、銀の焼結体からなる接合層13を介して接合されたものである。本実施形態では、接合体10は、絶縁回路基板の回路層(第一部材11)と半導体素子(第二部材12)とが接合層13を介して接合された半導体装置とされている。
【0018】
本実施形態における接合体10の製造方法は、
図2のフロー図に示すように、第一部材11の接合面および第二部材12の接合面の一方又は両方に金属ペーストを塗布するペースト塗布工程S01と、塗布した金属ペーストを介して第一部材11と第二部材12を積層する積層工程S02と、金属ペーストを焼成して第一部材11と第二部材12とを金属ペーストの焼結体からなる接合層13を介して接合する焼成工程S03と、を備えている。
【0019】
(ペースト塗布工程S01)
本実施形態においては、上述のペースト塗布工程S01として、本実施形態である金属ペーストの塗布方法を実施することになる。以下に、本実施形態である金属ペーストの塗布方法について説明する。
本実施形態である金属ペーストの塗布方法においては、
図3に示すように、第一部材11の接合面に、吐出ノズル30を進行方向に進行させながら金属ペースト23を吐出して金属ペースト23を塗布する。なお、金属ペースト23の塗布厚さは、20μm以上200μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0020】
そして、
図3(a)に示すように、ペースト塗布予定領域における吐出ノズル30の進行方向の終端部Eよりも手前で金属ペースト23の吐出を停止するとともに、金属ペースト23の吐出を停止した状態で少なくともペースト塗布予定領域の終端部Eまで吐出ノズル30を進行させる構成とされている。
なお、吐出ノズル30からの金属ペースト23の吐出を停止した後の吐出ノズル30の移動方向は、吐出ノズル30の進行方向の終端部Eまで達するように移動すれば特に制限はなく、塗布面(接合面)に対して平行に移動させてもよいし、塗布面(接合面)に近接させてもよいし、塗布面(接合面)から離間させてもよい。
【0021】
ペースト塗布予定領域において吐出ノズル30の進行方向の終端部Eよりも手前で金属ペースト23の吐出を停止する位置Pは、ペースト塗布予定領域における吐出ノズル30の進行方向の終端部Eから0.5mm以上2.0mm以下の範囲内であることが好ましい。
なお、金属ペースト23の吐出を停止する位置Pは、ペースト塗布予定領域における吐出ノズル30の進行方向の終端部Eから0.8mm以上であることがより好ましく、1.0mm以上であることがより好ましい。
【0022】
本実施形態で対象となる金属ペースト23は、金属粉とバインダーとを含むものである。ここで、バインダーは、溶剤、分散剤、可塑剤、樹脂のいずれか一種または二種以上を含むものである。
なお、本実施形態における金属ペースト23は、粘度が30Pa・s以上250Pa・s以下の範囲内であることが好ましい。粘度を30Pa・s以上とすることにより、ペーストの形状保持性が確保されるとともに、ペーストが分離することを抑制することが可能となる。一方、粘度を250Pa・s以下とすることにより、吐出ノズルから良好に吐出することが可能となる。
また、本実施形態における金属ペースト23は、TI値が0.4以上0.9以下の範囲内であることが好ましい。
【0023】
金属ペースト23に含まれる金属粉としては、例えば、導電性および焼結性に優れた銀粉、銅粉等が挙げられる。なお、銀粉は、純銀または銀合金で構成されていてもよい。また、銅粉は、純銅または銅合金で構成されていてもよい。
金属粉においては、その平均粒径(D50)が10nm以上500nm以下の範囲内であることが好ましい。
なお、金属粉の粒径は、例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、金属粉の投影面積を測定し、得られた投影面積から円相当径を算出し、算出した粒径を体積基準の粒径に換算することで得ることができる。
【0024】
溶媒としては、アルコール系溶媒、グリコール系溶媒、アセテート系溶媒、炭化水素系溶媒、およびこれらの混合物等が挙げられる。
アルコール系溶媒としては、α-テルピネオール、イソプロピルアルコール、エチルヘキサンジオール、およびこれらの混合物等があり、グリコール系溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、およびこれらの混合物等があり、アセテート系溶媒としては、ブチルカルビトールアセテート等があり、炭化水素系溶媒としては、デカン、ドデカン、テトラデカン、およびこれらの混合物等がある。
【0025】
溶媒の含有量は、金属ペースト全体を100質量%とするときに0質量%以上30質量%以下の範囲内にあることが好ましい。
前記溶媒の含有量が0質量%であっても、バインダーの一部として分散剤等を含む場合には、これら分散剤等が溶媒としての機能を果たすことから問題ない。前記溶媒の含有量が30質量%を超えると粘度が低くなり過ぎ、塗布時の形状保持性が悪化し易くなるおそれがある。
なお、溶媒の更に好ましい含有量は、0質量%以上10質量%以下の範囲内である。
【0026】
金属ペースト23に含まれる樹脂としては、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、及びそれらの混合物等が挙げられる。
エポキシ系樹脂には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、及びそれらの混合物等があり、シリコーン系樹脂には、メチルシリコーン樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、ポリエステル変性シリコーン樹脂、及びそれらの混合物等があり、アクリル系樹脂には、アクリレート系モノマー樹脂等がある。
【0027】
前記樹脂の含有量は、金属ペースト全体を100質量%とするときに0質量%以上3質量%以下の範囲内にあることが好ましい。
前記樹脂の含有量が3質量%を超えると銀粉の焼結が妨げられ接合層の機械的強度が低下するおそれがある。
前記樹脂の更に好ましい含有量は、0質量%以上2.5質量%以下の範囲内であり、より一層好ましい含有量は、0質量%以上2.0質量%以下の範囲内である。
【0028】
金属ペーストに含まれる分散剤としては、脂肪族アミンを用いることができる。脂肪族アミンは、銀との親和性が高いアミン基を有するので、銀粒子凝集体の表面に付着しやすく、脂肪族基が銀粒子凝集体同士のさらなる凝集を抑制することによって、銀ペースト中の銀粉の分散性を向上させる。脂肪族アミンの例としては、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラドデシルアミンが挙げられる。
【0029】
(積層工程S02)
次に、塗布した金属ペースト23を介して第一部材11と第二部材12とを積層して積層体を構成する。なお、第一部材11と第二部材12を積層する前に塗布した金属ペースト23を乾燥させてもよい。
【0030】
(焼成工程S03)
この積層体を加熱処理して金属ペースト13を焼成することにより、金属の焼結体からなる接合層13を介して、第一部材11と第二部材12とを接合する。
加熱処理時の加熱温度は、使用する金属ペーストによって適宜設定されるが、例えば、150℃以上300℃以下の範囲内とすることが好ましい。
また、加熱温度での保持時間は、1分以上180分以下の範囲内とすることが好ましい。
さらに、加熱処理時には、積層体に対して30MPa以下の圧力で積層方向に加圧してもよい。
また、加熱処理時の雰囲気としては、窒素雰囲気とするとよい。好ましくは酸素濃度が500ppm(体積基準)以下の窒素雰囲気とするとよい。より好ましくは酸素濃度100ppm(体積基準)以下の窒素雰囲気とするとよい。
【0031】
以上のような構成とされた本実施形態である金属ペーストの塗布方法によれば、ペースト塗布予定領域における吐出ノズル30の進行方向の終端部Eよりも手前で金属ペースト23の吐出を停止しているので、ペースト塗布予定領域の終端部Eの近傍に余剰な金属ペースト23が存在することが抑制される。また、金属ペースト23の吐出を停止した状態で少なくともペースト塗布予定領域の終端部Eまで吐出ノズル30行させているので、ペースト塗布予定領域の終端部Eまで金属ペーストを塗布することができる。
よって、ペースト塗布予定領域の終端部Eにおける金属ペースト23の立ち上がりを抑制することでき、積層時および接合時に、第一部材11の接合面とは反対側の面あるいは第一部材11の接合面とは反対側の面に、金属ペースト23が回り込むことを抑制できる。
【0032】
本実施形態の金属ペーストの塗布方法において、金属ペースト23の吐出を停止する位置を、ペースト塗布予定領域における吐出ノズル30の進行方向の終端部Eから0.5mm以上2.0mm以下の範囲内とした場合には、ペースト塗布予定領域の終端部における金属ペーストの立ち上がりをさらに抑制することが可能となるとともに、ペースト塗布予定領域の終端部Eまで金属ペーストを塗布することができる。
【0033】
本実施形態の接合体の製造方法によれば、本実施形態の金属ペーストの塗布方法によって、第一部材11の接合面および第二部材12の接合面の一方又は両方に金属ペースト23を塗布するペースト塗布工程S01を有しているので、ペースト塗布予定領域の終端部Eにおける金属ペースト23の立ち上がりを抑制し、第一部材11または第二部材12の接合面とは反対側にまで金属ペーストが回り込むことを抑制できる。また、ペースト塗布予定領域の終端部Eにまで金属ペーストを塗布することができる。
よって、第一部材11と第二部材12とが金属の焼結体からなる接合層13を介して良好に接合された接合体を製造することができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、第一部材を回路層とし、第二部材を半導体素子とし、接合体を電子デバイス(半導体装置)として説明したがこれに限定されることはなく、第一部材と第二部材とが、本発明の銀ペーストの焼結体からなる接合層を介して接合された接合体であればよい。
【実施例0035】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0036】
まず、表1に示す金属ペーストを準備した。ペーストA-1は、特許第6930578号公報の本発明例7である。ペーストA-2,A-3は、ペーストA-1の溶剤比率を変更して粘度を調整したものである。ペーストBは、ペーストA-1の銀粉を銅粉に変更したものである。
【0037】
【0038】
上述の金属ペーストをシリンジに充填し、塗布試験を実施した。ディスペンス装置として、武蔵エンジニアリング社のPC制御画像認識機能付卓上型ロボット350PCsmartSMΩXを使用した。また、使用したスリットノズルの吐出口の開口サイズは0.3mm×10mmとした。
塗布対象として、35mm×35mm×厚さ2mmの銅基板を準備した。
【0039】
ペースト塗布予定領域の吐出ノズルの進行方向の長さを10mmとし、塗布面からの吐出ノズルの高さ、金属ペーストを吐出した状態での吐出ノズルの進行方向の移動距離(吐出距離)、金属ペーストの吐出を停止した後の吐出ノズルの進行方向の移動距離(空引き距離)、空引き時の高さ方向の移動距離、を表2~5に示す条件で、金属ペーストを塗布した。
なお、吐出ノズルの進行方向の移動速度を20mm/s、吐出ノズルの高さ方向の移動速度を10mm/sとした。
【0040】
塗布した金属ペーストについて、ペースト塗布予定領域の進行方向中央部の塗布厚さ、および、ペースト塗布予定領域の進行方向終端部の塗布厚さを測定し、終端部と中央部の塗布厚さの差を評価した。評価結果を表2~5に示す。
なお、金属ペーストの塗布厚さは、3D形状測定器(キーエンス社製VR5200)を用いて、銅基板の塗布面で基準設定を実施した後、「体積面積計測」モードで計測される最大高さとした。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
表2に示すように、金属ペーストとしてペーストA-1を使用してノズル高さを0.15mmとした本発明例1~7および比較例1を比較すると、ペースト塗布予定領域の終端部の手前で金属ペーストの吐出を停止するとともに吐出ノズルをペースト塗布予定領域の終端部にまで進行させた本発明例1~7においては、ペースト塗布予定領域の終端部まで金属ペーストの吐出した比較例1に比べて、進行方向終端部と中央部との塗布厚さの差が小さく、金属ペーストの立ち上がりを抑制することができた。なお、本発明例6,7では、金属ペーストの吐出を停止した後吐出ノズルの高さ方向にも移動させたが、金属ペーストの立ち上がりを抑制することができた。
【0046】
また、表2に示すように、金属ペーストとしてペーストA-1を使用してノズル高さを0.10mmとした本発明例8および比較例2を比較すると、ペースト塗布予定領域の終端部の手前で金属ペーストの吐出を停止するとともに吐出ノズルをペースト塗布予定領域の終端部にまで進行させた本発明例8においては、ペースト塗布予定領域の終端部まで金属ペーストの吐出した比較例2に比べて、進行方向終端部と中央部との塗布厚さの差が小さく、金属ペーストの立ち上がりを抑制することができた。
【0047】
表3に示すように、金属ペーストとしてペーストA-2を使用した本発明例11~14および比較例11を比較すると、ペースト塗布予定領域の終端部の手前で金属ペーストの吐出を停止するとともに吐出ノズルをペースト塗布予定領域の終端部にまで進行させた本発明例11~14においては、ペースト塗布予定領域の終端部まで金属ペーストの吐出した比較例11に比べて、進行方向終端部と中央部との塗布厚さの差が小さく、金属ペーストの立ち上がりを抑制することができた。
【0048】
表4に示すように、金属ペーストとしてペーストA-3を使用した本発明例21~24および比較例21を比較すると、ペースト塗布予定領域の終端部の手前で金属ペーストの吐出を停止するとともに吐出ノズルをペースト塗布予定領域の終端部にまで進行させた本発明例21~24においては、ペースト塗布予定領域の終端部まで金属ペーストの吐出した比較例21に比べて、進行方向終端部と中央部との塗布厚さの差が小さく、金属ペーストの立ち上がりを抑制することができた。
【0049】
表5に示すように、金属ペーストとしてペーストBを使用した本発明例31~34および比較例31を比較すると、ペースト塗布予定領域の終端部の手前で金属ペーストの吐出を停止するとともに吐出ノズルをペースト塗布予定領域の終端部にまで進行させた本発明例31~34においては、ペースト塗布予定領域の終端部まで金属ペーストの吐出した比較例31に比べて、進行方向終端部と中央部との塗布厚さの差が小さく、金属ペーストの立ち上がりを抑制することができた。
【0050】
以上のことから、本発明例によれば、吐出ノズルを進行方向に移動させながら金属ペーストを吐出することによって金属ペーストを塗布した場合であっても、ペースト塗布予定領域における前記吐出ノズルの進行方向の終端部における金属ペーストの立ち上がりを抑制でき、安定して金属ペーストを塗布することが可能な金属ペーストの塗布可能であることが確認された。