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特開2024-142572自動車内装材用の補強シート、および自動車内装材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142572
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】自動車内装材用の補強シート、および自動車内装材
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/545 20120101AFI20241003BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20241003BHJP
   D21H 13/16 20060101ALI20241003BHJP
   B60R 13/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
D04H1/545
D04H1/4382
D21H13/16
B60R13/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054758
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000176637
【氏名又は名称】日本製紙パピリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】米田 裕和
(72)【発明者】
【氏名】小山 宗央
(72)【発明者】
【氏名】横川 浩二
【テーマコード(参考)】
3D023
4L047
4L055
【Fターム(参考)】
3D023BA01
3D023BB01
3D023BE01
4L047AA07
4L047AA16
4L047AA21
4L047AA28
4L047AB02
4L047AB06
4L047BA09
4L047BA21
4L047BB03
4L047CA19
4L047CB01
4L047CC09
4L055AA02
4L055AC06
4L055AF08
4L055AF21
4L055AF33
4L055AH33
4L055AH35
4L055EA04
4L055EA08
4L055EA20
4L055EA32
4L055FA13
4L055FA30
4L055GA39
4L055GA50
(57)【要約】
【課題】均一な剛性を有する自動車内装材を製造でき、かつ環境に配慮した材料からなる自動車内装材用の補強シートと、この補強シートを有する自動車内装材を提供すること。
【解決手段】天然繊維、高剛性繊維、ビニロンバインダー繊維を含み、
全繊維に対して、前記ビニロンバインダー繊維を9~30質量%含有する自動車内装材用の補強シートと、シート材の少なくとも一面にこの補強シートが接着されている自動車内装材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然繊維、高剛性繊維、ビニロンバインダー繊維を含み、
全繊維に対して、前記ビニロンバインダー繊維を9~30質量%含有する自動車内装材用の補強シート。
【請求項2】
前記高剛性繊維が、ビニロン繊維を含む請求項1に記載の自動車内装材用の補強シート。
【請求項3】
前記高剛性繊維が、溶剤湿式冷却ゲル紡糸法ビニロン繊維を含む請求項1に記載の自動車内装材用の補強シート。
【請求項4】
さらに高融点繊維を含有する請求項1に記載の自動車内装材用の補強シート。
【請求項5】
全繊維に対して、前記天然繊維を10~40質量%、前記高剛性繊維を20~60質量%含有する請求項1に記載の自動車内装材用の補強シート。
【請求項6】
坪量が20g/m~60g/mである請求項1に記載の自動車内装材用の補強シート。
【請求項7】
シート材の少なくとも一面に、請求項1~6のいずれかに記載の補強シートが接着されている自動車内装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車内装材用の補強シートと、自動車内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内装材には、強度、生産性、加工安定性等の様々な性能が要求される。さらに、近年、環境保護に対する関心の高まりから、軽量化による燃費の向上や産業廃棄物の削減による環境負荷の低減が求められている。
従来、自動車内装材として、発泡ポリウレタンシートの両面にガラスチョップドストランドマットを接着させた積層体を有する製品が使用されている。この製品は、強度、生産性等に優れる一方で、ガラス繊維を使用しているため強度を維持したまま軽量化するのが困難であった。また、自動車内装材の製造過程における作業環境が悪化すること、そしてガラス繊維を含むことによりサーマルリサイクルができないため、産業廃棄物として埋め立て処理をせざるを得ない問題が存在していた。
【0003】
特許文献1には、ガラス繊維の代替としてビニロン繊維を使用した不織布を補強シートとすることで、軽量化、形態安定性を備えた自動車内装材が提案されている。特許文献1では、原料に長繊維ビニロン繊維及び低融点ポリエステル繊維が用いられているが、形態安定性を得るためにビニロン繊維が集束したストランドの状態を制御すること、また、補強効果を高めるためにビニロン繊維の繊度、繊維長について提言されている。しかし、ビニロン繊維のストランドが存在することにより、ストランドが存在する部分の剛性は高く、存在しない部分の剛性は低くなるため、補強シートの剛性が不均一となる課題があった。
特許文献2には、天然繊維、ポリエステル繊維、及びビニロン繊維を原料とした不織布が補強シートとして提案されている。この補強シートは、そのままでは発泡ポリウレタンシートと積層して熱プレス成形する際に破れる問題があったが、補強シートに直線状等の切込みを入れて伸び率を確保することで解決している。しかし、補強シートに切込みを入れて熱プレス成形した場合、成形時に補強シートが伸びて剛性が低下する部分が生じ、その結果、補強シートの剛性が不均一となる課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-188894号公報
【特許文献2】特開2012-41657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、均一な剛性を有する自動車内装材を製造でき、かつ環境に配慮した材料からなる自動車内装材用の補強シートと、この補強シートを有する自動車内装材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決するための手段は、以下の通りである。
1.天然繊維、高剛性繊維、ビニロンバインダー繊維を含み、
全繊維に対して、前記ビニロンバインダー繊維を9~30質量%含有する自動車内装材用の補強シート。
2.前記高剛性繊維が、ビニロン繊維を含む1.に記載の自動車内装材用の補強シート。
3.前記高剛性繊維が、溶剤湿式冷却ゲル紡糸法ビニロン繊維を含む1.に記載の自動車内装材用の補強シート。
4.さらに高融点繊維を含有する1.~3.のいずれかに記載の自動車内装材用の補強シート。
5.全繊維に対して、前記天然繊維を10~40質量%、前記高剛性繊維を20~60質量%含有する1.~4.のいずれかに記載の自動車内装材用の補強シート。
6.坪量が20g/m~60g/mである1.~5.のいずれかに記載の自動車内装材用の補強シート。
7.シート材の少なくとも一面に、1.~6.のいずれかに記載の補強シートが接着されている自動車内装材。
本明細書において、「A~B(A、Bは数値)」との表記は、その両端を含む数値範囲、すなわち、A以上B以下を意味する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の自動車内装材用の補強シートは、産業廃棄物として焼却処理が可能である。本発明の自動車内装材用の補強シートは、軽量化、環境配慮の点に加えて、剛性、成形性も実用的な性能を有する。
本発明の自動車内装材用の補強シートは、シート全体で剛性が均一であり、自動車内装材を成形するための熱プレス成形時の破損(補強シートの破れ)がなく、加工性、生産性に優れている。また、本発明の自動車内装材用の補強シートを用いた自動車内装材は、剛性が均一である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
・自動車内装材用の補強シート
本発明の自動車内装材用の補強シート(以下、補強シートともいう)は、天然繊維、高剛性繊維、ビニロンバインダー繊維を含み、全繊維に対して、ビニロンバインダー繊維を9~30質量%含有する。
本発明の補強シートは、発泡ポリウレタンシート等からなるシート材の少なくとも一面に接着される自動車内装材用の部材であり、例えば、フィルム・不織布等からなる裏面保護材/補強シート/シート材/補強シート/ウレタン・布・織物・不織布等からなる表皮層等の順で積層され、熱プレス成形されて、天井材やドアトリム等の自動車内装材を構成する。
【0009】
(天然繊維)
天然繊維は、補強シートの原料組成物において、原料スラリーの分散性を良化し、安定した生産を可能にする。補強シートを構成する全繊維に対する天然繊維の含有率は特に限定されないが、10質量%以上40質量%以下が好ましい。天然繊維のこの含有率が10質量%に満たない場合、補強シートの抄紙時に湿紙の移行が悪化するなど抄紙性に影響することに加えて、原料スラリーに結束繊維が発生しやすくなるため補強シートの地合いの悪化や強度均一性低下により成形性に影響する場合がある。天然繊維のこの含有率が40質量%より多くなると、合成繊維(天然繊維以外の繊維)の配合率が低くなるため、補強シートの剛性低下や熱プレス成形時の引張応力で補強シートが破損する場合がある。天然繊維のこの含有率は、15質量%以上がより好ましく、また、30質量%以下がより好ましい。
【0010】
天然繊維としては、植物、微生物、動物に由来する繊維を特に制限することなく使用することができる。具体的には、パルプ、酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等の天然セルロース、セルロースを高濃度アルカリ処理して得られるマーセル化パルプ、セルロースを銅アンモニア溶液、モルホリン誘導体等の何らかの溶媒に溶解した後に再沈殿された再生セルロース、アセチル化変性セルロース、カルボキシル化変性セルロース等の各種セルロース誘導体等のセルロース系繊維、絹、羊毛、ヤギ毛等の獣毛などが例示でき、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0011】
本発明で使用する天然繊維としては、セルロース系繊維が好ましく、パルプがより好ましい。パルプとしては、例えば、木材パルプの化学パルプ、木材パルプの機械パルプや、サイザル麻、マニラ麻、ケナフから得られる非木材パルプ等が挙げられる。化学パルプとしては、例えば広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)等が挙げられる。機械パルプとしては、例えばリファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)等が挙げられる。パルプの中でも、入手及び加工が容易であり、比較的高い紙力が得られるため、化学パルプが好ましく、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)がより好ましい。また、パルプのカナダ標準ろ水度は、300ml以上500ml以下が好ましい。
天然繊維全体に対するパルプの割合は60質量%以上が好ましく、天然繊維全体に対する化学パルプの割合は60質量%以上が好ましい。また、天然繊維全体に対するNBKPの割合は60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましく、95質量%以上がよりさらに好ましく、98質量%以上がよりさらに好ましく、99質量%以上がよりさらに好ましい。
【0012】
(高剛性繊維)
本明細書において、高剛性繊維とは、弾性率が200cN/dtex以上の繊維を意味する。高剛性繊維の弾性率は、210cN/dtex以上が好ましく、220cN/dtex以上がより好ましく、230cN/dtex以上がさらに好ましく、250cN/dtex以上がよりさらに好ましく、300cN/dtex以上がよりさらに好ましい。
高剛性繊維は、繊維自体の剛性に優れており、熱プレス成形時に溶融することがない。高剛性繊維は、ガラス繊維の代替として配合され、補強シートとシート材とを熱プレスで接着・成形する際の加熱条件で溶融・軟化せず、補強シートと自動車内装材に剛性を付与する。
【0013】
補強シートを構成する全繊維に対する高剛性繊維の含有率は特に限定されないが、20質量%以上60質量%以下が好ましい。高剛性繊維のこの含有率が20質量%に満たない場合、補強シートとして要望される剛性が確保できない場合がある。この含有率が60質量%より多くなると、原料スラリーに結束繊維が発生しやすくなるため補強シートの地合いの悪化により成形性に影響する場合がある。高剛性繊維のこの含有率は、30質量%以上がより好ましく、また、50質量%以下がより好ましい。
【0014】
高剛性繊維の種類は特に限定されず、例えば、ケブラー(登録商標)などのアラミド繊維や、炭素繊維、ビニロン繊維が挙げられる、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中で、ビニロン繊維を使用することが好ましい。ビニロン繊維は、ポリビニルアルコールをアセタール化して得られる合成繊維であり、湿式紡糸法、乾式紡糸法で製造される。ビニロン繊維は、繊維自体の強度が優れており、また耐熱性に優れ、軟化温度が高いことで熱プレス成形時に溶融することがない。ビニロン繊維としては、公知のものを特に限定することなく使用することができるが、クラレ株式会社が開発した紡糸法「溶剤湿式冷却ゲル紡糸」で製造された溶剤湿式冷却ゲル紡糸法ビニロン繊維が、断面が真円の均一構造でより高強度であるため好ましい。
【0015】
高剛性繊維全体に対するビニロン繊維の割合は60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましく、95質量%以上がよりさらに好ましく、98質量%以上がよりさらに好ましく、99質量%以上がよりさらに好ましい。また、高剛性繊維全体に対する溶剤湿式冷却ゲル紡糸法ビニロン繊維の割合は60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましく、95質量%以上がよりさらに好ましく、98質量%以上がよりさらに好ましく、99質量%以上がよりさらに好ましい。
【0016】
ビニロン繊維(溶剤湿式冷却ゲル紡糸法ビニロン繊維)の繊維径は、10dtex以上30dtex以下が好ましい。繊維径が10dtexに満たないと繊維としての剛性を確保することが困難となる場合があり、繊維径が30dtexを超えると全体の繊維本数が少なくなるため補強シートとしての剛性が低下してしまう場合がある。この繊維径は、15dtex以上がより好ましく、また、25dtex以下がより好ましい。
ビニロン繊維(溶剤湿式冷却ゲル紡糸法ビニロン繊維)の繊維長は、5mm以上20mm以下が好ましい。繊維長が5mmに満たないと補強シートの剛性を高めることが困難となる場合があり、また20mmを超えると繊維同士が絡まり補強シートの均一性が低下する場合がある。この繊維長は、7mm以上がより好ましく、また、18mm以下がより好ましい。
【0017】
(ビニロンバインダー繊維)
本発明は、バインダー繊維としてビニロンバインダー繊維を少なくとも含む。ビニロンバインダー繊維は、ポリビニルアルコールの水溶液を硫酸ナトリウムの飽和溶液中に注入し、脱水凝固して製造することができる。
ビニロンバインダー繊維は、補強シートを抄造する際、ドライヤーパートの湿熱により溶解して、他の繊維との間に結合点を形成する。また、熱プレス成形する際に、ビニロンバインダー繊維が軟化して伸びることにより補強シートの変形をサポートすることができるため、成形体の立ち上がり部(引張応力の大きい部分)が透けたり破れたりすることを防止することができ、その結果、剛性が均一な自動車内装材を得ることができる。
【0018】
補強シートを構成する全繊維に対するビニロンバインダー繊維の含有率は、9質量%以上30質量%以下である。ビニロンバインダー繊維の含有率が9質量%未満では、天然繊維や高剛性繊維との結合点が少なくなり引張強度が低下する。また、プレス成形時に成形体の立ち上がり部で補強シートが十分に伸びずに「透け」や「破れ」が発生しやすくなる。ビニロンバインダー繊維の含有率が30質量%より多くなると、補強シートの抄紙時にビニロンバインダー繊維が抄造マシンのドライヤー面に貼りついてしまい、補強シートの抄造が困難となる。ビニロンバインダー繊維のこの含有率は、13質量%以上がより好ましく、また、25質量%以下がより好ましい。
【0019】
本発明において、ビニロンバインダー繊維以外のバインダー繊維を含むこともできる。他のバインダー繊維としては、PVA系バインダー繊維、ポリエステル系バインダー繊維等、公知のものを特に制限することなく使用することができる。ただし、バインダー繊維全体に対するビニロンバインダー繊維の割合は60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましく、95質量%以上がよりさらに好ましく、98質量%以上がよりさらに好ましく、99質量%以上がよりさらに好ましい。
【0020】
ビニロンバインダー繊維の繊維径は、分散性、抄紙性等の点から、0.3dtex以上5dtex以下が好ましく、0.44dtex以上がより好ましく、また、3dtex以下がより好ましい。
ビニロンバインダー繊維の繊維長は、分散性、抄紙性等の点から、1mm以上8mm以下が好ましく、2mm以上がより好ましく、また、4mm以下がより好ましい。
【0021】
(高融点繊維)
本発明において、天然繊維と高剛性繊維とビニロンバインダー繊維の他に、さらに高融点繊維を配合することができる。高融点繊維としては、補強シートとシート材との熱プレス加工時の加熱・加圧処理条件で溶融せずに、補強シートの厚さ(嵩)を低下させないものを使用することができ、例えば、主体ポリエステル繊維(PET繊維)、主体ポリプロピレン繊維(PP繊維)、ポリフェニレンサルファイド繊維(PPS繊維)、レーヨン繊維等の1種または2種以上を用いることができる。高融点繊維の融点は、160℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、230℃以上がさらに好ましい。高融点繊維としては、繊維径1~5dtex、繊維長4~10mm程度のものを使用することができる。また、高融点繊維は、補強シートの剛性を低下させない範囲内で配合することができる。
本発明の補強シートは、上記した各繊維以外の他の繊維を含むこともできるが、補強シートを構成する全繊維に対するガラス繊維の割合が1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、含まないことが最も好ましい。
【0022】
(任意成分)
本発明の補強シートは、天然繊維、高剛性繊維、ビニロンバインダー繊維、任意である高融点繊維などの繊維の他に、本発明の目的効果を損なわない範囲で任意成分を含むことができる。任意成分としては、例えば、ポリアクリルアミド等の乾燥紙力増強剤、ポリアミドエピクロロヒドリン、メラミン樹脂等の湿潤紙力増強剤、ポリエチレンオキサイド等の歩留り向上剤、硫酸バンド等の定着剤、分散剤、消泡剤、剥離剤、難燃剤、防腐剤、防黴剤、消臭剤などが挙げられる。
【0023】
(坪量)
補強シートの坪量は、要望される内装材の性能に応じて適宜調整することができるが、例えば、20g/m以上60g/m以下が好ましい。自動車内装材の軽量化のためには低坪量が好ましいが、20g/mよりも低坪量になると強度低下によりプレス成形時に補強シートが破れる場合がある。また60g/mよりも高坪量になると自動車内装材の軽量化の点から不利となる。補強シートの坪量は、25g/m以上がより好ましく、また、55g/m以下がより好ましい。
(厚さ)
補強シートの厚さは、要望される内装材の性能に応じて適宜調整することができるが、例えば、100μm以上300μm以下が好ましい。自動車内装材の薄肉化のためには薄いことが好ましいが、100μmよりも薄くなると強度低下によりプレス成形時に補強シートが破れる場合がある。また300μmよりも厚くなると、接着剤を用いて張り合わせる場合に、必要な接着剤量が増加して高コストとなる。補強シートの厚さは、120μm以上がより好ましく、また、250μm以下がより好ましい。
【0024】
(引張強度)
補強シートのJIS-P8113(2006)「紙及び板紙―引張特性の試験方法 第2部:定速伸長法」に準拠して測定した引張強度は、20N/50mm以上が好ましい。この引張強度が20N/50mmに満たないと、熱プレス成形時の引張応力により成形体の立ち上がり部で補強シートに「透け」や「破れ」が発生しやすくなる場合がある。
(引張破断伸び)
補強シートのJIS-P8113(2006)「紙及び板紙の引張強さ試験方法」に準拠して測定した引張破断伸びは、2.0%以上が好ましい。この引張破断伸びが2.0%に満たないと、熱プレス成形時の引張応力により成形体の立ち上がり部で補強シートに「透け」や「破れ」が発生しやすくなる場合がある。
(クラークこわさ)
補強シートのJIS-P8143(2009)「紙―こわさ試験方法―クラークこわさ試験機法」に準拠して測定したクラークこわさは、30cm/100以上が好ましい。このクラークこわさが30cm/100に満たないと、熱プレス成形した後の自動車内装材の剛性が確保できず、その形態安定性が悪くなる場合がある。
【0025】
・補強シートの製造方法
補強シートの製造方法は特に限定されるものではなく、公知の製紙用途で使用される方法を用いることができる。具体的には、長網式抄紙機、円網式抄紙機、短網式抄紙機、ツインワイヤー式抄紙機、オントップハイブリッド式抄紙機、ギャップフォーマーマシン等を用いて製造することができる。なお、乾燥工程での加熱処理によりバインダー繊維が溶融して繊維間が結合することにより、またビニロンバインダー繊維の場合、湿熱による溶解で他の繊維との間に結合点を形成することにより、補強シートは強度を発揮する。
【0026】
「自動車内装材」
本発明の補強シートは、自動車内装材に用いられる。
自動車内装材は、シート材の両面に補強シートが貼り合わせられるが、本発明の補強シートは、シート材の少なくとも一面に接着されていればよく、両面に接着されることがより好ましい。接着は、接着剤を用いることもでき、また、ビニロンバインダー繊維が熱プレス時の熱量と構成材料の水分によりヒートシールすることもでき、さらに、ホットメルトフィルム、ホットメルト不織布をシート材と補強シートの間に挟み熱融着してもよい。
【0027】
・シート材
シート材は、自動車内装材用途に用いられているものを特に制限することなく使用することができ、例えば、発泡ポリウレタンシート、発泡ポリエチレンシート、発泡ポリプロピレンシート、発泡ポリスチレンシート、ゴムスポンジ等が挙げられる。
・接着剤
接着剤を用いる場合、接着剤としては自動車内装材用途において用いられているものを特に制限することなく使用することができ、例えば、イソシアネート接着剤、フェノール接着剤、メラミン接着剤、合成ゴム系溶剤型接着剤、アクリルエマルジョン接着剤、合成ゴム系ホットメルト接着剤、ウレタンエマルジョン接着剤、エチレン酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル又はその共重合体、ポリオレフィン系共重合体、ポリエステル系共重合体等の熱可塑性樹脂を含むヒートシール性接着剤などを使用することができる。
【実施例0028】
(実施例1)
繊維として、天然繊維である針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、濾水度370mlCSF)を18質量%、高剛性繊維として溶剤湿式冷却ゲル紡糸によるビニロン繊維(クラレ株式会社製 VPKW1702、17dtex、12mm)32質量%、ビニロンバインダー繊維(クラレ株式会社製 VPB107―1H×3、1.2dtex、3mm)15質量%、高融点繊維として主体PET繊維(帝人株式会社製、3.3dtex、5mm)35質量%を配合した。さらに分散剤を対合成繊維(天然繊維以外の繊維)3%、消泡剤を対合成繊維4%添加して原料スラリーを調整した。
この原料スラリーから、乾燥後の目標坪量が30g/mになるように手抄きで湿紙を作製し、プレス後に105℃の円筒ドライヤーで乾燥させて補強シートを製造した。
【0029】
(実施例2)
ビニロンバインダー繊維の配合量を20質量%、高融点繊維の配合量を30質量%とした以外は実施例1と同様にして補強シートを製造した。
【0030】
(比較例1)
ビニロンバインダー繊維の配合量を5質量%、高融点繊維の配合量を45質量%とした以外は実施例1と同様にして補強シートを製造した。
(比較例2)
ビニロンバインダー繊維の配合量を8質量%、高融点繊維の配合量を42質量%とした以外は実施例1と同様にして補強シートを製造した。
【0031】
(比較例3)
ビニロンバインダー繊維の代わりに芯鞘ポリエステルバインダー繊維(ユニチカ株式会社製 メルティ4080、2.2dtex、5mm)を40質量%配合し、ポリエステル繊維の配合量を10質量%とした以外は実施例1と同様にして補強シートを製造した。
(比較例4)
芯鞘ポリエステルバインダー繊維(メルティ4080)を25質量%配合し、高融点繊維の代わりにポリエチレン/ポリプロピレン系複合繊維(宇部エクシモ株式会社製 RCE、1.7dtex、5mm;)25質量%とした以外は比較例3と同様にして補強シートを製造した。なお、この補強シートはさらに160℃の円筒ドライヤーで熱処理した。
【0032】
<物性評価>
実施例及び比較例で得られた補強シートの各物性を以下の方法にて測定した。これらの結果を表1に示す。
・坪量
JIS-P8124(2011)「紙及び板紙―坪量の測定方法」に準拠して測定した。
・厚さ
JIS-P8118(2014)「紙及び板紙―厚さ、密度及び比容積の試験方法」に準拠して測定した。
・密度
JIS-P8124(2011)「紙及び板紙―坪量の測定方法」及びJIS-P8118(2014)「紙及び板紙―厚さ、密度及び比容積の試験方法」に準拠して測定した。
【0033】
・引張強度
JIS-P8113(2006)「紙及び板紙―引張特性の試験方法 第2部:定速伸長法」に準拠して測定した。測定条件:試験速度20mm/min、初期スパン180mm、試験片の幅50mm
・引張破断伸び
JIS-P8113(2006)「紙及び板紙の引張強さ試験方法」に準拠して測定した。測定条件:試験速度20mm/min、初期スパン180mm、試験片の幅50mm
・クラークこわさ
JIS-P8143(2009)「紙―こわさ試験方法―クラークこわさ試験機法」に準拠して測定した。測定条件:試験片の幅15mm
【0034】
・加工適性(成形性)
実施例、比較例で得た各補強シートと、シート材(発泡ポリウレタンシート、厚さ5mm)から直径60mmの円形サンプルを切り出した。これを、補強シート/シート材/補強シートの順で積層し、直径47mmの円形のダイス穴を有する金属製ホルダーに挟み、130℃、あるいは160℃の熱風乾燥器内で15分間加熱処理した。この際、補強シート中のバインダー繊維により、補強シートとシート材は熱融着する。加熱処理後、直ちに直径45mmのパンチをダイス穴に深さ7mmとなるよう押し込みプレス成形した。
得られた成形体について、成形体の立ち上がり部における破損による裂けや引き延ばされて発生した透けを目視で観察し、以下の基準で評価した。
〇:成形体に裂けや透けがない。
×:成形体に裂けや透けがある。
【0035】
【表1】
【0036】
本発明の補強シートは、低坪量で軽量でありながらも、熱圧成形における成形性が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の補強シートを用いた自動車内装材は、熱プレス成形時に破れもなく、均一な剛度を有する成形体を提供することができる。また、本発明の補強シートは、ガラス繊維を使用しないことから、軽量で環境に配慮した自動車内装材等の用途へ好適に用いることができる。