(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142575
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】模擬軟弱地盤、模擬軟弱地盤の造成方法、車両の沈下量の測定方法
(51)【国際特許分類】
E02D 1/02 20060101AFI20241003BHJP
E01C 9/08 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
E02D1/02
E01C9/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054763
(22)【出願日】2023-03-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、ムーンショット型研究開発事業「河道閉塞対応に必要な建設ロボットシステム」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】古川 敦
(72)【発明者】
【氏名】久保田 恭行
(72)【発明者】
【氏名】北原 成郎
(72)【発明者】
【氏名】天下井 哲生
(72)【発明者】
【氏名】畑本 浩伸
【テーマコード(参考)】
2D043
2D051
【Fターム(参考)】
2D043AA03
2D043AB03
2D043AC01
2D051AA09
2D051AC10
(57)【要約】
【課題】地盤条件を変えずに繰り返し実験を実施する。
【解決手段】模擬軟弱地盤(10)は、車両(31)用の実験フィールドに造成可能である。模擬軟弱地盤には、上面を開放した断面視凹状に形成された収容部(15)と、収容部内にランダムに設置された多数の緩衝体(14)と、が設けられている。多数の緩衝体が車両からの接地圧によって弾性限度内で歪み、車両の走行部を収容部内に沈み込ませている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用の実験フィールドに造成可能な模擬軟弱地盤であって、
上面を開放した断面視凹状に形成された収容部と、
前記収容部内にランダムに設置された多数の緩衝体と、を備え、
前記多数の緩衝体が前記車両からの接地圧によって弾性限度内で歪み、前記車両の走行部を前記収容部内に沈み込ませることを特徴とする模擬軟弱地盤。
【請求項2】
前記車両の沈下量が前記車両の最低地上高になることを特徴とする請求項1に記載の模擬軟弱地盤。
【請求項3】
前記走行部が履帯であり、
前記多数の緩衝体が立方体状又は球体状であり、
前記多数の緩衝体の一辺又は直径が履帯幅の半分以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の模擬軟弱地盤。
【請求項4】
前記多数の緩衝体の一辺又は直径が前記履帯に巻き込まれない大きさであることを特徴とする請求項3に記載の模擬軟弱地盤。
【請求項5】
前記収容部が板状の緩衝マットによって形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の模擬軟弱地盤。
【請求項6】
前記収容部への進入部が板状の緩衝マットによって形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の模擬軟弱地盤。
【請求項7】
前記収容部への進入部が、前記収容部に向かって深くなるように傾斜した斜面と、前記斜面にランダムに設置された前記多数の緩衝体と、によって形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の模擬軟弱地盤。
【請求項8】
多数の緩衝体がサイズ及び/又は材質が異なる複数種の緩衝体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の模擬軟弱地盤。
【請求項9】
前記緩衝体がウレタンスポンジによって形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の模擬軟弱地盤。
【請求項10】
車両用の実験フィールドに造成される模擬軟弱地盤の造成方法であって、
地盤を掘削して掘削穴を形成するステップと、
前記掘削穴を内側から養生シートで覆うステップと、
前記掘削穴に緩衝マットで収容部を形成するステップと、
前記収容部に多数の緩衝体をランダムに設置するステップと、を有し、
前記多数の緩衝体が前記車両からの接地圧によって弾性限度内で歪み、前記車両の走行部を前記収容部内に沈み込ませることを特徴とする模擬軟弱地盤の造成方法。
【請求項11】
模擬軟弱地盤上での車両の沈下量の測定方法であって、
前記模擬軟弱地盤には、上面を開放した断面視凹状に形成された収容部と、前記収容部内にランダムに設置された多数の緩衝体と、が設けられ、
前記多数の緩衝体が前記車両からの接地圧によって弾性限度内で歪み、前記車両の走行部を前記収容部内に沈み込ませるように前記模擬軟弱地盤が形成されており、
前記車両に設けられたハイトセンサによって、前記模擬軟弱地盤上での前記車両の沈下量を測定することを特徴とする車両の沈下量の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模擬軟弱地盤、模擬軟弱地盤の造成方法、車両の沈下量の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、柔らかい粘土や緩い砂等から成る軟弱地盤では、建設機械等を走行させるために軟弱地盤上に複数枚の敷板を並べて走行路が確保されている。走行路用の敷板としては、軽量で取り扱いが容易な樹脂製敷板が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような敷板の性能を確認するためには人工的に軟弱地盤を造成して、軟弱地盤上に並べられた敷板上で実際に車両を走行させる必要がある。人工的な軟弱地盤は、土壌に水を注いで土壌の含水比率を上げたり、土壌の砂や粘土の割合を調整したりすること等によって造成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、人工的な軟弱地盤では、実験を繰り返す度に土粒子の隙間が変化するため、同じ地盤条件で実験を繰り返し実施することができない。また、実験フィールドの造成に多大な時間が必要になっている。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、地盤条件を変えずに繰り返し実験を実施できる模擬軟弱地盤及び模擬軟弱地盤の造成方法、車両の沈下量の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の模擬軟弱地盤は、車両用の実験フィールドに造成可能な模擬軟弱地盤であって、上面を開放した断面視凹状に形成された収容部と、前記収容部内にランダムに設置された多数の緩衝体と、を備え、前記多数の緩衝体が前記車両からの接地圧によって弾性限度内で歪み、前記車両の走行部を前記収容部内に沈み込ませる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様の模擬軟弱地盤は、収容部に多数の緩衝体がランダムに収容され、緩衝体の間には適度な隙間が空けられている。車両が収容部内の多数の緩衝体に乗り上げると、緩衝体の歪みや緩衝体の退避によって車両の走行部が収容部内に沈み込むことで軟弱地盤が再現されている。このとき、車両からの接地圧を受けて多数の緩衝体が弾性限度内で歪むため、車両からの接地圧が除かれると多数の緩衝体が元の形状に復帰する。よって、模擬軟弱地盤の地盤条件を変えることなく、模擬軟弱地盤上で実験を繰り返し実施することができる。また、収容部内に多数の緩衝体をランダムに収容すればよいため、短時間で実験フィールドを造成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態の模擬軟弱地盤の断面模式図である。
【
図2】本実施形態の建設機械の走行時の模擬軟弱地盤の断面模式図である。
【
図3】本実施形態の模擬軟弱地盤の造成方法の説明図である。
【
図4】本実施形態の走行路保護マットの上面模式図である。
【
図5】本実施形態の建設機械の沈下量の測定方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態の模擬軟弱地盤について説明する。
図1は、本実施形態の模擬軟弱地盤の断面模式図である。
図2は、本実施形態の建設機械の走行時の模擬軟弱地盤の断面模式図である。
【0010】
近年、地震や台風等の自然災害によって地盤が軟弱になることがあり、このような軟弱地盤上で建設機械を用いた災害対応することが求められている。災害等を想定した疑似的な軟弱地盤上を準備し、建設機械を用いて各種実験が行われるが、水等の注水によって人工的に作られた軟弱地盤では実験を繰り返すうちに土粒子の隙間が変化し、同じ地盤条件で実験を実施することができない。そこで、本実施形態では、弾性変形な多数の緩衝体をランダムに設置して軟弱地盤を再現し、緩衝体が潰れた後に復帰することを利用して、地盤条件を変えることなく繰り返し実験可能にしている。
【0011】
図1に示すように、建設機械(本実施形態ではバックホウ)31用の実験フィールドに掘削穴11が用意されており、掘削穴11に複数の緩衝マット13及び多数の緩衝体14が設置されることで模擬軟弱地盤10が造成されている。掘削穴11の内面には養生シート12が敷設されており、養生シート12上に複数の緩衝マット13が設置されて収容部15が形成されている。収容部15は上面を開放した断面視凹状に形成されており、収容部15には多数の緩衝体14がランダムに設置されている。多数の緩衝体14が雑然としているため、多数の緩衝体14の間に適度な隙間が空けられて、建設機械31に緩衝体14が押し込まれたときの退避空間が形成されている。
【0012】
複数の緩衝マット13は板状のウレタンスポンジによって形成され、複数の緩衝マット13によって収容部15の深さが調整されている。緩衝マット13が設置された分だけ、緩衝体14の設置数を減らして設置作業の労力が軽減されている。多数の緩衝体14は立方体状のウレタンスポンジによって形成され、収容部15内の多数の緩衝体14によって軟弱地盤が再現されている。収容部15への進入部16及び収容部15からの退避部17にも緩衝マット13が敷設されており、進入部16及び退避部17では緩衝マット13によって多少の沈み込みが生じる地盤が再現されている。
【0013】
図2に示すように、建設機械31が多数の緩衝体14に乗り上げたときに、建設機械31からの接地圧によって多数の緩衝体14が弾性限度内で歪み、多数の緩衝体14が隙間に退避して建設機械31の履帯32を収容部15に沈み込ませている。このとき、建設機械31の沈下量が最低地上高になるように多数の緩衝体14によって建設機械31の沈下量が調整されている。このように、建設機械31が地盤上を走行したときに、建設機械31の底部が地盤に乗り上がり、地盤から履帯32が浮いて走行し難くなる、いわゆる亀の子状態になる地盤条件の地盤を軟弱地盤として多数の緩衝体14で再現している。
【0014】
この場合、多数の緩衝体14の一辺が履帯幅の半分以下であることが好ましい。多数の緩衝体14がランダムに設置されているため、多数の緩衝体14の間には適度な隙間ができている。緩衝体14の一辺が履帯幅の半分以下であれば、多数の緩衝体14の隙間を考慮すると車幅方向で3つ以上の緩衝体14に履帯32が乗り上げることになる。車幅方向に並んだ3つ以上の緩衝体14に隙間が空いているため、履帯32からの接地圧によって緩衝体14が歪んだり、緩衝体14が隙間に退避したりすることで、履帯32を適度に沈み込ませることができる。
【0015】
多数の緩衝体14の一辺が小さ過ぎると、多数の緩衝体14が履帯32に巻き込まれる恐れがある。このため、多数の緩衝体14の一辺が履帯32に巻き込まれない大きさに形成されている。例えば、多数の緩衝体14の一辺が履帯幅の1/10以上であることが好ましい。本実施形態では履帯幅が30[cm]であるため、多数の緩衝体14が履帯幅の半分以下でかつ履帯幅の1/10以上の10[cm]角の立方体状に形成されている。多数の緩衝体14が10[cm]角の立方体状に形成されることで、建設機械31の最低地上高である30[cm]の沈み込みが再現され、履帯32への緩衝体14の巻き込みが防止されている。
【0016】
また、多数の緩衝体14は、建設機械31の履帯32からの接地圧を受けて弾性限度内で歪む材質で形成されている。一般的な建設機械31の履帯32の接地圧が30[kPa]であるため、緩衝体14の材質として30[kPa]を受けて弾性限度内で歪むものが選定されている。上記したように、本実施形態では多数の緩衝体14がウレタンスポンジによって形成されている。建設機械31からの接地圧が除かれると、多数の緩衝体14が元の形状に復帰するため、模擬軟弱地盤10の地盤条件を変えることなく、模擬軟弱地盤10上で建設機械31を用いた実験を繰り返し実施することができる。
【0017】
緩衝体14の材質は、複数種類のウレタンスポンジに一軸圧縮試験を実施することで選定されている。各ウレタンスポンジに履帯32の接地圧である30[kPa]の圧縮力が作用したときのスポンジの歪みが測定され、建設機械31の最低地上高である30[cm]沈み込むのに必要なスポンジの厚さが測定されている。そして、30[kPa]の圧縮力が作用しても塑性変形せずに、30[cm]沈み込むのに必要なスポンジの厚さが少ない、アキレス製の品番LH(25%圧縮硬さ9.24±1.59[kPa])、LF(25%圧縮硬さ4.46±1.59[kPa])のウレタンスポンジを緩衝体14の材質として選定されている。
【0018】
進入部16及び退避部17にも、緩衝体14と同じウレタンスポンジ製の緩衝マット13が採用されている。進入部16及び退避部17が履帯32の30[kPa]の接地圧によって歪むように形成され、実験フィールド上の地盤から模擬軟弱地盤10に向けて地盤の強さ(建設機械31の沈下量)を段階的に変化させている。なお、模擬軟弱地盤10で再現される軟弱地盤のN値は4未満であり、進入部16及び退避部17で再現される地盤のN値は4以上かつ10未満である。N値とは、標準貫入試験によって求められる地盤の強度等を求める試験結果(数値)である。
【0019】
次に、
図3を参照して、模擬軟弱地盤の造成方法について説明する。
図3は、本実施形態の模擬軟弱地盤の造成方法の説明図である。
【0020】
図3(A)に示すように、実験フィールドの地盤が掘削されて掘削穴11が掘削される。この場合、収容部15(
図1参照)となる掘削穴11aは建設機械31(
図1参照)の最低地上高よりも深く、建設機械31の亀の子状態を再現できる深さに形成されている(例えば、0.6[m])。掘削穴11aの長さは走行予定長に合わせて形成され(例えば、2.5[m])、掘削穴11aの幅は建設機械31の車幅や試験体の走行路保護マット40(
図4参照)よりも左右に約1[m]以上大きくに形成されている(例えば、4.1[m])。掘削穴11aの幅が広く形成されることで、建設機械31の走行時に多数の緩衝体14を左右に逃がし易くなっている。
【0021】
進入部16及び退避部17となる掘削穴11b、11cは掘削穴11aの半分の深さに形成されている(例えば、0.3[m])。掘削穴11b、11cの長さは建設機械31の履帯長に合わせて形成され(例えば、2.1[m])、掘削穴11b、11cの幅は建設機械31の車幅に合わせて形成されている(例えば、約2.0[m])。このように、実験フィールドの地盤には走行路の延在方向に沿って掘削穴11b、11a、11cが並び、断面視にて掘削穴11b、11cよりも掘削穴11aが深く形成されており、平面視にて掘削穴11b、11cよりも掘削穴11aが広く形成されている。
【0022】
次に、
図3(B)に示すように、掘削穴11a-11cが内側から養生シート12で覆われる。また、掘削穴11aに緩衝マット13が設置されて収容部15が形成され、掘削穴11bに緩衝マット13が設置されて進入部16が形成され、掘削穴11cに緩衝マット13が設置されて退避部17が形成される。掘削穴11a-11cに養生シート12が敷設されることで、緩衝マット13が土壌に触れて汚れることが防止されている。掘削穴11aに緩衝マット13が設置された分だけ緩衝体14の使用量が節約される。進入部16及び退避部17では緩衝マット13によって軟弱地盤よりも沈下量が小さな地盤が再現される。
【0023】
次に、
図3(C)に示すように、収容部15に多数の緩衝体14がランダムに設置される。収容部15には多数の緩衝体14が実験フィールドの地表と同じ高さまで収容されている。多数の緩衝体14の間には隙間が空けられており、多数の緩衝体14と隙間によって軟弱地盤が再現されている。上記したように、多数の緩衝体14上に建設機械31(
図1参照)の乗り上げたときに、多数の緩衝体14に建設機械31の履帯32が沈み込むような地盤条件に設定されている。このとき、多数の緩衝体14が弾性変形するため、建設機械31の走行を繰り返しても地盤条件が変わることがない。
【0024】
次に、
図4及び
図5を参照して、模擬軟弱地盤上での建設機械の沈下量の測定方法について説明する。本実施形態では、模擬軟弱地盤上に走行路保護マットを敷設したときの建設機械の沈下量の測定方向について説明するが、模擬軟弱地盤上に敷板を敷設した場合や、模擬軟弱地盤上に何も敷設しない場合の建設機械の沈下量の測定方法も同様である。
図4は、本実施形態の走行路保護マットの上面模式図である。
図5は、本実施形態の建設機械の沈下量の測定方法の説明図である。
【0025】
図4に示すように、走行路保護マット40には、軟弱地盤上に敷設されるマット41と、マット41に設けられた複数の芯材43と、が設けられている。マット41は、ポリエステル等の合成繊維織布から成る上面視矩形状の表布42と裏布(不図示)を接着して形成されている。表布42と裏布の走行路の延在方向と平行な一辺を除いた三辺が接着され、走行路の幅方向と平行な複数の直線箇所44で表布42と裏布が接着されている。表布42と裏布の接着によってマット41には並列に並んだ複数の筒状袋部45が形成されている。複数の筒状袋部45の一端は未接着で複数の芯材43を出し入れ可能に開放されている。
【0026】
表布42及び裏布の一辺には等間隔に複数のハトメ金具46が取り付けられている。複数のハトメ金具46には通し紐47が通されており、通し紐47を締めることによって複数の筒状袋部45の一端が閉じられる。複数の筒状袋部45に複数の芯材43が挿入されることで、複数の芯材43が走行路の幅方向と平行に並べられている。複数の芯材43は、ポリ塩化ビニル等の樹脂製の円形パイプによって形成されている。複数の芯材43によって建設機械31が受け止められ、複数の芯材43とマット41によって建設機械31の荷重が模擬軟弱地盤10上で広範囲に分散されて建設機械31の沈み込みが抑えられている。
【0027】
図5(A)に示すように、建設機械31の沈下量の測定時には、実験フィールドに模擬軟弱地盤10が造成される。模擬軟弱地盤10上に走行路保護マット40が敷設されて、模擬軟弱地盤10上に建設機械31の走行路が形成される。複数の芯材43が走行路の幅方向と平行で、複数の芯材43が走行路の延在方向に並べられている。建設機械31のコックピットにはハイトセンサとしてGNSS(Global Navigation Satellite System)受信器33が取り付けられており、GNSS受信器33が衛星システムからの信号を受信することで建設機械31の高さの変位が測定される。
【0028】
図5(B)に示すように、走行路保護マット40上に建設機械31が乗り上げると、複数の芯材43によって建設機械31の履帯32が受け止められる。建設機械31の荷重が複数の芯材43及びマット41によって模擬軟弱地盤10上で広範囲に分散されて建設機械31の沈み込みが抑えられている。このとき、GNSS受信器33によって模擬軟弱地盤10上での建設機械31の沈下量が測定されている。模擬軟弱地盤10上に走行路保護マット40を敷設した場合と、模擬軟弱地盤10上に走行路保護マット40を敷設しない場合で、建設機械31の沈下量が比較されることによって走行路保護マット40の性能が確認される。
【0029】
以上のように、本実施形態の模擬軟弱地盤10によれば、収容部15には多数の緩衝体14がランダムに収容され、緩衝体14の間には適度な隙間が空けられている。建設機械31が収容部15内の多数の緩衝体14に乗り上げると、緩衝体14の歪みや緩衝体14の退避によって建設機械31の履帯32が収容部15内に沈み込むことで軟弱地盤が再現されている。このとき、建設機械31からの接地圧を受けて多数の緩衝体14が弾性限度内で歪むため、建設機械31からの接地圧が除かれると多数の緩衝体14が元の形状に復帰する。よって、模擬軟弱地盤10の地盤条件を変えることなく、模擬軟弱地盤10上で実験を繰り返し実施することができる。
【0030】
また、収容部15内に多数の緩衝体14をランダムに収容すればよいため、短時間で実験フィールドに模擬軟弱地盤10を造成することができる。模擬軟弱地盤10の地盤条件を変えることなく、模擬軟弱地盤10上で建設機械31の沈下量を繰り返し測定することができる。
【0031】
なお、本実施形態では、進入部16及び退避部17が緩衝マット13によって形成されているが、進入部16及び退避部17が斜面と多数の緩衝体によって形成されていてもよい。例えば、
図6の変形例に示すように、実験フィールドには収容部25となる掘削穴21a、進入部26となる掘削穴21b、退避部27となる掘削穴21cが掘削される。掘削穴21aの底面は水平面になっており、掘削穴21b、21cの底面は掘削穴21a(収容部25)に向かって深くなる斜面になっている。掘削穴21a-21cには養生シート22が敷設されており、掘削穴21a-21cの表面が養生シート22に覆われている。
【0032】
掘削穴21b、21cよりも掘削穴21aが深く形成されている。掘削穴21aの底面には緩衝マット23が設置されて、掘削穴21aの緩衝マット23の上面が掘削穴21b、21cの底面(斜面)に連なっている。掘削穴21a-21cに多数の緩衝体24がランダムに設置されて模擬軟弱地盤20が形成されている。このように、進入部26及び退避部27が掘削穴21b、21cの斜面と多数の緩衝体24によって形成されており、斜面によって緩衝体24の積み重ね量が変化している。これにより、収容部25に向かって徐々に沈み込み量が大きくなるような地盤が再現されている。
【0033】
また、本実施形態では、多数の緩衝体が立方体状に形成されているが、多数の緩衝体の形状は特に限定されない。例えば、多数の緩衝体が球体状に形成されていてもよい。この場合、多数の緩衝体の直径が履帯幅の半分以下であり、多数の緩衝体の直径が履帯に巻き込まれない大きさであることが好ましい。
【0034】
また、本実施形態では、多数の緩衝体がウレタンスポンジで形成されているが、多数の緩衝体は建設機械からの接地圧によって弾性限度内で歪み、建設機械の走行部を収容部内に沈み込ませることができれば、多数の緩衝体の材質は特に限定されない。例えば、多数の緩衝体は高弾性のゴムボールで形成されていてもよい。
【0035】
また、本実施形態では、多数の緩衝体が同一の材料で同一のサイズに形成されているが、多数の緩衝体にサイズや材質が異なる複数種の緩衝体を混在させて、模擬軟弱地盤の空隙率や緩衝体の歪み量を変えて建設機械の沈下量を調整することができる。
【0036】
また、本実施形態では、車両として建設機械を例示しているが、建設機械以外の車両でもよい。車両の種類や大きさに応じて、多数の緩衝体の大きさ、材質等が適宜変更される。
【0037】
また、本実施形態では、建設機械の沈下量が建設機械の最低地上高になるように、多数の緩衝体が建設機械の履帯を収容部内に沈み込ませているが、建設機械の沈下量は実験内容に応じて適宜変更が可能である。
【0038】
また、本実施形態では、ハイトセンサとしてGNSS受信器を例示したが、ハイトセンサは建設機械の沈下量が測定可能なものであればよい。
【0039】
また、本実施形態では、模擬軟弱地盤を用いて建設機械の沈下量を測定しているが、模擬軟弱地盤を用いて建設機械の旋回試験等の他の試験が実施されてもよい。
【0040】
以上の通り、第1態様は、車両(建設機械31)用の実験フィールドに造成可能な模擬軟弱地盤(10、20)であって、上面を開放した断面視凹状に形成された収容部(15、25)と、収容部内にランダムに設置された多数の緩衝体(14、24)と、を備え、多数の緩衝体が車両からの接地圧によって弾性限度内で歪み、車両の走行部(履帯32)を収容部内に沈み込ませる。この構成によれば、収容部には多数の緩衝体がランダムに収容され、緩衝体の間には適度な隙間が空けられている。車両が収容部内の多数の緩衝体に乗り上げると、緩衝体の歪みや緩衝体の退避によって車両の走行部が収容部内に沈み込むことで軟弱地盤が再現されている。このとき、車両からの接地圧を受けて多数の緩衝体が弾性限度内で歪むため、車両からの接地圧が除かれると多数の緩衝体が元の形状に復帰する。よって、模擬軟弱地盤の地盤条件を変えることなく、模擬軟弱地盤上で実験を繰り返し実施することができる。また、収容部内に多数の緩衝体をランダムに収容すればよいため、短時間で実験フィールドを造成することができる。
【0041】
第2態様は、第1態様において、車両の沈下量が車両の最低地上高になる。この構成によれば、車両が軟弱地盤を走行したときに、地盤から走行部が浮いて走行し難くなる亀の子状態を再現することができる。
【0042】
第3態様は、第1態様又は第2態様において、走行部が履帯であり、多数の緩衝体が立方体状又は球体状であり、多数の緩衝体の一辺又は直径が履帯幅の半分以下である。この構成によれば、多数の緩衝体の間に隙間があるため、車幅方向で車両の履帯が3つ以上の緩衝体に乗り上げる。履帯からの接地圧によって緩衝体が歪んだり、緩衝体が隙間に退避したりすることで、車両の履帯を適度に沈み込ませることができる。
【0043】
第4態様は、第3態様において、多数の緩衝体の一辺又は直径が履帯に巻き込まれない大きさである。この構成によれば、緩衝体が履帯に巻き込まれて破損することが防止される。
【0044】
第5態様は、第1態様から第4態様のいずれか1態様において、収容部が板状の緩衝マット(13、23)によって形成されている。この構成によれば、収容部に収容される緩衝体の設置数を減らして設置作業の労力を減らすことができる。
【0045】
第6態様は、第1態様から第5態様のいずれか1態様において、収容部への進入部(16)が板状の緩衝マットによって形成されている。この構成によれば、緩衝マットによって多少の沈み込みが生じる地盤が再現され、実験フィールド上の地盤から模擬軟弱地盤に向けて地盤の強さを段階的に変化させることができる。
【0046】
第7態様は、第1態様から第5態様のいずれか1態様において、収容部への進入部(26)が、収容部に向かって深くなるように傾斜した斜面と、斜面にランダムに設置された多数の緩衝体と、によって形成されている。この構成によれば、斜面によって緩衝体の積み重ね量が変化して、収容部に向かって徐々に沈み込み量が大きくなるような地盤が再現されている。
【0047】
第8態様は、第1態様から第7態様のいずれか1態様において、多数の緩衝体がサイズ及び/又は材質が異なる複数種の緩衝体である。この構成によれば、模擬軟弱地盤の空隙率や緩衝体の歪み量を変えて建設機械の沈下量を調整することができる。
【0048】
第9態様は、第1態様から第7態様のいずれか1態様において、緩衝体がウレタンスポンジによって形成されている。この構成によれば、ウレタンスポンジによって軟弱地盤を容易に再現することができる。
【0049】
第10態様は、車両用の実験フィールドに造成される模擬軟弱地盤の造成方法であって、地盤を掘削して掘削穴を形成するステップと、掘削穴を内側から養生シート(12、22)で覆うステップと、掘削穴に緩衝マットで収容部を形成するステップと、収容部に多数の緩衝体をランダムに設置するステップと、を有し、多数の緩衝体が車両からの接地圧によって弾性限度内で歪み、車両の走行部を収容部内に沈み込ませる。この構成によれば、緩衝体の歪みや緩衝体の退避によって車両の走行部が収容部内に沈み込むことで軟弱地盤が再現され、車両からの接地圧が除かれると多数の緩衝体が元の形状に復帰する。よって、模擬軟弱地盤の地盤条件を変えることなく、模擬軟弱地盤上で実験を繰り返し実施することができる。また、収容部内に多数の緩衝体をランダムに収容すればよいため、短時間で実験フィールドに模擬軟弱地盤を造成することができる。
【0050】
第11態様は、模擬軟弱地盤上での車両の沈下量の測定方法であって、模擬軟弱地盤には、上面を開放した断面視凹状に形成された収容部と、収容部内にランダムに設置された多数の緩衝体と、が設けられ、多数の緩衝体が車両からの接地圧によって弾性限度内で歪み、車両の走行部を収容部内に沈み込ませるように模擬軟弱地盤が形成されており、車両に設けられたハイトセンサ(GNSS受信器33)によって、模擬軟弱地盤上での車両の沈下量を測定する。この構成によれば、緩衝体の歪みや緩衝体の退避によって車両の走行部が収容部内に沈み込むことで軟弱地盤が再現され、車両からの接地圧が除かれると多数の緩衝体が元の形状に復帰する。よって、模擬軟弱地盤の地盤条件を変えることなく、模擬軟弱地盤上で車両の沈下量を繰り返し測定することができる。
【0051】
なお、本実施形態及び変形例を説明したが、他の実施形態として、上記実施形態及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0052】
また、本発明の技術は上記の実施形態に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【符号の説明】
【0053】
10、20:模擬軟弱地盤
12、22:養生シート
13、23:緩衝マット
14、24:緩衝体
15、25:収容部
16、26:進入部
31 :建設機械(車両)
32 :履帯(走行部)
33 :GNSS受信器(ハイトセンサ)