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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142577
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/02 20060101AFI20241003BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20241003BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20241003BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20241003BHJP
   C09D 101/04 20060101ALI20241003BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L1/02
C09D201/00
C09D5/02
C09D7/63
C09D101/04
C08L101/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054766
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】畑谷 友亮
(72)【発明者】
【氏名】砂土居 成実
(72)【発明者】
【氏名】竹内 黎明
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 嘉則
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4J002AA03X
4J002AB01W
4J002AB03Z
4J002AE00Z
4J002BC07Z
4J002BG01Z
4J002CK05Z
4J002CP03Z
4J002CP09Y
4J002CP18Z
4J002EV236
4J002FD316
4J002GH00
4J002HA06
4J002HA07
4J038BA032
4J038DG132
4J038DG262
4J038DL032
4J038DL082
4J038KA08
4J038KA09
4J038KA10
4J038KA12
4J038KA19
4J038MA10
4J038NA05
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】滑液持続性に優れた膜を形成させるための乳化組成物を提供すること。
【解決手段】下記の成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、成分(E)及び水を含有する乳化組成物。(A)アニオン変性セルロース繊維、(B)カチオン性官能基を有する疎水性化合物、(C)25℃1気圧で液体の有機化合物(ただし、前記成分(B)を除く。)、(D)非イオン性増粘剤及び(E)膜補強剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、成分(E)及び水を含有する乳化組成物。
(A)アニオン変性セルロース繊維
(B)カチオン性官能基を有する疎水性化合物
(C)25℃1気圧で液体の有機化合物(ただし、前記成分(B)を除く。)
(D)非イオン性増粘剤
(E)膜補強剤
【請求項2】
更に成分(F)を含有する、請求項1に記載の乳化組成物。
(F)濡れ剤
【請求項3】
更に成分(G)を含有する、請求項1又は2に記載の乳化組成物。
(G)凝集抑制剤
【請求項4】
成分(C)100質量部に対する成分(A)の含有量が0.1質量部以上50質量部以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の乳化組成物を成膜して得られる膜。
【請求項6】
下記の工程を有する乳化組成物の製造方法。
工程1:成分(A)、成分(B)、成分(C)及び水を混合する工程
工程2:工程1で得られた乳化混合物と、成分(D)及び成分(E)とを混合する工程
(A)アニオン変性セルロース繊維
(B)カチオン性官能基を有する疎水性化合物
(C)25℃1気圧で液体の有機化合物(ただし、前記成分(B)を除く。)
(D)非イオン性増粘剤
(E)膜補強剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳化組成物に関する。さらに本発明は乳化組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、汚れ、海洋生物等の固着を防止するする表面膜が開発されてきた。そのような表面膜として、最近では、疎水変性セルロース繊維及び油を含有する滑液性を有する膜が知られている。特許文献1では、アニオン変性セルロース繊維、アミノ変性シリコーン及び25℃1気圧で液体の有機化合物を含有する乳化組成物を固体表面に塗布することにより、滑液性を有する膜が得られることが開示されている。
【0003】
かかる滑液性を有する膜を屋外で使用することも可能であり、屋外の構造物、例えば信号機等に膜を形成させることで、汚れや雪の付着を防止し、メンテナンスコストの低下が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-095557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、屋外使用の際には固有の事情が存在する。具体的には、屋外では膜自体を傷つける外的因子、例えば、紫外線や砂塵、風雨、海に配した際は波や浮遊物等、が存在するので、これらの外的因子に曝された場合でも滑液性を持続できる膜が求められる。
【0006】
従って、本発明は、滑液持続性に優れた膜を形成させるための乳化組成物を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記〔1〕~〔5〕に関する。
〔1〕 下記の成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、成分(E)及び水を含有する乳化組成物。
(A)アニオン変性セルロース繊維
(B)カチオン性官能基を有する疎水性化合物
(C)25℃1気圧で液体の有機化合物(ただし、前記成分(B)を除く。)
(D)非イオン性増粘剤
(E)膜補強剤
〔2〕 更に成分(F)を含有する、前記〔1〕に記載の乳化組成物。
(F)濡れ剤
〔3〕 更に成分(G)を含有する、前記〔1〕又は〔2〕に記載の乳化組成物。
(G)凝集抑制剤
〔4〕 前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の乳化組成物を成膜して得られる膜。
〔5〕 下記の工程を有する乳化組成物の製造方法。
工程1:前記成分(A)、前記成分(B)、前記成分(C)及び水を混合する工程
工程2:工程1で得られた乳化混合物と、前記成分(D)及び前記成分(E)とを混合する工程
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、滑液持続性に優れた膜を形成させるための乳化組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らが検討した結果、アニオン変性セルロース繊維を含有する乳化組成物に特定の成分、即ち成分(D)の非イオン性増粘剤を添加することで、滑液持続性に優れる膜を形成することができる乳化組成物が得られることを見出して、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の効果が達成される推定メカニズムとしては、乳化組成物に非イオン性増粘剤を添加することで乳化組成物の粘度が上がり、その結果形成される膜の膜厚が大きくなったことによるものと考えられる。とりわけ会合型増粘剤を添加することで膜の滑液持続性がより向上するメカニズムとしては、会合型増粘剤は他の非イオン性増粘剤に比べ、分子内の疎水的な部位の割合が大きいことによるものと考えられる。
【0011】
1.乳化組成物
本発明の乳化組成物は、以下の成分(A)~(E)を含有する。
【0012】
<成分(A)>
成分(A)はアニオン変性セルロース繊維である。
アニオン変性セルロース繊維とは、セルロース繊維中にアニオン性基を含むようにアニオン変性されたセルロース繊維である。成分(A)は単独で又は他の成分と共に、水と疎水性成分(例えば成分(B)や成分(C)等)とを乳化させる乳化剤として機能する。
【0013】
アニオン変性セルロース繊維は、原料のセルロース繊維に由来するセルロースI型結晶構造を有するものである。アニオン変性セルロース繊維の結晶化度は、乳化組成物の安定性の観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上である。また、原料入手性の観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、更に好ましくは80%以下、更に好ましくは75%以下である。
【0014】
本明細書において、各種セルロース繊維の結晶化度は、X線回折法による回折強度値から算出したセルロースI型結晶化度であり、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース繊維全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。セルロースI型結晶構造の有無は、X線回折測定において、2θ=22.6°にピークがあることで判定することができる。
【0015】
アニオン変性セルロース繊維中に含まれるアニオン性基としては、例えばカルボキシ基、スルホン酸基及びリン酸基等が挙げられる。前記アニオン性基は、成分(B)との結合性の観点から、カルボキシ基であることが好ましい。
アニオン変性セルロース繊維としては、調製が容易である観点及び反応条件が穏やかである観点から、アニオン性基がカルボキシ基であるカルボキシ基含有セルロース繊維がより好ましい。
【0016】
アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基の対となるイオン(カウンターイオン)としては、例えば、製造時のアルカリ存在下で生じるナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン及びアルミニウムイオン等の金属イオンや、これらの金属イオンを酸で置換して生じるプロトン等が挙げられる。
【0017】
アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基含有量は、成分(B)との結合性の観点から、好ましくは0.1mmol/g以上であり、より好ましくは0.4mmol/g以上であり、更に好ましくは0.6mmol/g以上であり、更に好ましくは0.8mmol/g以上である。また、取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは3mmol/g以下であり、より好ましくは2mmol/g以下であり、更に好ましくは1.8mmol/g以下である。なお、「アニオン性基含有量」とは、セルロース繊維を構成するセルロース中のアニオン性基の総量を意味し、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0018】
アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径としては、取扱い性の観点から、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは1.0nm以上、更に好ましくは2.0nm以上であり、成膜した時の強度の観点から、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下である。本明細書において、平均繊維径がnmスケールのアニオン変性セルロース繊維を「微細化アニオン変性セルロース繊維」と称することがある。アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径は、後述の実施例に記載の方法によって測定される。
【0019】
〔アニオン変性セルロース繊維の製造方法〕
本発明で用いられるアニオン変性セルロース繊維は、原料のセルロース繊維に酸化処理又はアニオン性基の付加処理を施して、グルコース残基一つあたり1つ又は2つ以上のアニオン性基を導入してアニオン変性させることによって得ることができる。
【0020】
アニオン変性の対象となるセルロース繊維、即ち、アニオン変性セルロース繊維の原料のセルロース繊維としては、環境面から好ましくは天然セルロース繊維であり、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
原料のセルロース繊維の平均繊維径は、取扱い性及びコストの観点から、好ましくは1μm以上であり、一方、好ましくは300μm以下である。
また、原料のセルロース繊維の平均繊維長は、入手性及びコストの観点から、好ましくは100μm以上であり、好ましくは5,000μm以下である。
原料のセルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。分散性の観点から、原料のセルロース繊維を、アルカリ加水分解処理や酸加水分解処理等で短繊維化処理した平均繊維長が1μm以上であり、1,000μm以下であるセルロース繊維を用いることが好ましい。
【0022】
導入されるアニオン性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基又はリン酸基が挙げられる。
【0023】
(i)セルロース繊維にアニオン性基としてカルボキシ基を導入する場合
セルロース繊維にカルボキシ基を導入する方法としては、例えばセルロースのヒドロキシ基を酸化してカルボキシ基に変換する方法や、セルロースのヒドロキシ基にカルボキシ基を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる1種又は2種以上を反応させる方法が挙げられる。
【0024】
前記セルロースのヒドロキシ基を酸化処理する方法としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を触媒として、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤及び臭化ナトリウム等の臭化物を反応させて酸化処理する方法が適用できる。より詳細には、公知の方法、例えば特開2011-140632号公報に記載の方法を参照することができる。
【0025】
TEMPOを触媒としてセルロース繊維の酸化処理を行うことによって、セルロース構成単位のC6位のヒドロキシメチル基(-CHOH)が選択的にカルボキシ基に変換される。特にこの方法は、原料のセルロース繊維表面の酸化対象となるC6位のヒドロキシ基の選択性に優れており、且つ反応条件も穏やかである点で有利である。従って、本発明におけるアニオン変性セルロース繊維の好ましい態様として、セルロース構成単位のC6位がカルボキシ基であるセルロース繊維が挙げられる。
本明細書において、セルロース構成単位中のヒドロキシ基の酸化により得られるセルロース繊維を「酸化セルロース繊維」と、TEMPOを触媒としてセルロース繊維を酸化することで得られた、セルロース構成単位のC6位がカルボキシ基であるセルロース繊維を「TEMPO酸化セルロース繊維」という場合がある。酸化セルロース繊維、特にTEMPO酸化セルロース繊維は、それ以外のアニオン変性セルロース繊維と比べて調製が容易であることから好ましい。
【0026】
酸化セルロース繊維に更に追酸化処理又は還元処理を行うことで、残存するアルデヒド基を除去した酸化セルロース繊維を調製することができる。
【0027】
(ii)セルロース繊維にアニオン性基としてスルホン酸基又はリン酸基を導入する場合
セルロース繊維にアニオン性基としてスルホン酸基を導入する方法としては、セルロース繊維に硫酸を添加し加熱する方法等が挙げられる。
セルロース繊維にアニオン性基としてリン酸基を導入する方法としては、乾燥状態又は湿潤状態のセルロース繊維に、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法や、セルロース繊維の分散液にリン酸又はリン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらの方法を採用した場合、一般的に、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合または添加した後に、脱水処理及び加熱処理等を行う。
【0028】
<成分(B)>
成分(B)はカチオン性官能基を有する疎水性化合物である。成分(B)は1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
成分(B)は、滑液性の観点から、カチオン性官能基を有する高分子化合物及びカチオン性官能基を有する炭化水素系化合物からなる群より選択される1種又は2種以上が好ましい。
【0029】
成分(B)におけるカチオン性官能基としては、アミノ基、アンモニウム基、イミダゾリウム基等が挙げられ、入手容易性の観点から、好ましくはアミノ基である。なお、本明細書においては、アミノ基とは、アンモニア、第1級アミン又は第2級アミンから水素原子を一つ除去した1価の官能基を意味する。
【0030】
(i)カチオン性官能基を有する高分子化合物
カチオン性官能基を有する高分子化合物の重量平均分子量は、成膜時の強度の観点から、好ましくは2,000以上、より好ましくは5,000以上、更に好ましくは8,000以上であり、同様の観点から、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは50,000以下である。
【0031】
高分子化合物としては、修飾の容易さの観点から、カチオン性官能基を有するシリコーン、ポリオキシアルキレンオキシド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネートなどが挙げられ、更に好ましくはアミノ変性シリコーンである。
【0032】
シリコーンは、シロキサン結合を主鎖とするポリシロキサン構造を有し、更にアルキレン基が伴っていてもよい。ポリシロキサン構造は、後述する置換基を有していてもよい。
【0033】
〔置換基〕
置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基等のアルコキシ基の炭素数が1~6のアルコキシ-カルボニル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;アセチル基、プロピオニル基等の炭素数1~6のアシル基;アラルキル基;アラルキルオキシ基;炭素数1~6のアルキルアミノ基;アルキル基の炭素数が1~6のジアルキルアミノ基が挙げられる。
【0034】
〔アミノ変性シリコーン〕
成分(B)としては、乳化組成物の安定性の観点から、より好ましくはアミノ基を有するシリコーン(本明細書において「アミノ変性シリコーン」と称する。)である。
【0035】
アミノ変性シリコーンとしては、25℃での動粘度が10mm/s以上20,000mm/s以下のものが好ましい。さらに、アミノ当量が400g/mol以上16,000g/mol以下のアミノ変性シリコーンが好ましいものとして挙げられる。
【0036】
25℃での動粘度はオストワルト型粘度計で求めることができ、成膜時の強度の観点から、より好ましくは20mm/s以上、更に好ましくは50mm/s以上であり、ハンドリング性の観点からより好ましくは10,000mm/s以下、更に好ましくは5,000mm/s以下である。
【0037】
また、アミノ当量は、成膜時の強度の観点から、好ましくは400g/mol以上、より好ましくは600g/mol以上、更に好ましくは800g/mol以上であり、アニオン変性セルロース繊維への結合のさせやすさの観点から、好ましくは16,000g/mol以下、より好ましくは14,000g/mol以下、更に好ましくは12,000g/mol以下である。なお、アミノ当量は、窒素原子1個当りの分子量であり、元素分析法によりサンプル中の窒素原子量を定量し、窒素原子1molを含むサンプルの質量を計算することで求められる。
【0038】
アミノ変性シリコーンの具体例として、一般式(a1)で表される化合物が挙げられる。
【0039】
【化1】
【0040】
〔式中、R1aは炭素数1~3のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1~3のアルコキシ基又は水素原子から選ばれる基を示し、滑液性の観点から、好ましくはメチル基又はヒドロキシ基である。R2aは炭素数1~3のアルキル基、ヒドロキシ基又は水素原子から選ばれる基であり、同様の観点から、好ましくはメチル基又はヒドロキシ基である。Bは少なくとも一つのアミノ基を有する側鎖を示し、R3aは炭素数1~3のアルキル基又は水素原子を示す。x及びyはそれぞれ平均重合度を示し、該化合物の25℃の動粘度及びアミノ当量が上記範囲になるように選ばれる。尚、R1a、R2a、R3aはそれぞれ同一でも異なっていても良く、また複数個のR2aは同一でも異なっていても良い。〕
【0041】
一般式(a1)の化合物において、滑液性の観点から、xは好ましくは10以上10,000以下の数、より好ましくは20以上5,000以下の数、更に好ましくは30以上3,000以下の数である。yは好ましくは1以上1,000以下の数、より好ましくは1以上500以下の数、更に好ましくは1以上200以下の数である。一般式(a1)の化合物の重量平均分子量は、成膜時の強度の観点から、好ましくは2,000以上、より好ましくは5,000以上、更に好ましくは8,000以上であり、同様の観点から、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは50,000以下である。
【0042】
一般式(a1)において、アミノ基を有する側鎖Bとしては、下記のものを挙げることができる。
-C-NH
-C-NH-C-NH
-C-NH-[C-NH]-C-NH
-C-NH(CH
-C-NH-C-NH(CH
-C-NH-[C-NH]-C-NH(CH
-C-N(CH
-C-N(CH)-C-N(CH
-C-N(CH)-[C-N(CH)]-C-N(CH
-C-NH-cyclo-C11
(ここで、e、f、gは、それぞれ1~30の数である。)
【0043】
本発明で用いるアミノ変性シリコーンは、例えば、一般式(a2)で表されるオルガノアルコキシシランを過剰の水で加水分解して得られた加水分解物と、ジメチルシクロポリシロキサンとを水酸化ナトリウムのような塩基性触媒を用いて、80~110℃に加熱して平衡反応させ、反応混合物が所望の粘度に達した時点で酸を用いて塩基性触媒を中和することにより製造することができる(特開昭53-98499号参照)。
N(CHNH(CHSi(CH)(OCH (a2)
【0044】
また、アミノ変性シリコーンとしては、成膜時の強度の観点から、好ましくは側鎖Bの1個の中にアミノ基が1個有するモノアミノ変性シリコーン及び側鎖Bの1個の中にアミノ基が2個有するジアミノ変性シリコーンからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはアミノ基を有する側鎖Bが-C-NHで表される化合物〔以下、(a1-1)成分という〕及びアミノ基を有する側鎖Bが-C-NH-C-NHで表される化合物〔以下、(a1-2)成分という〕からなる群から選ばれる1種以上である。
【0045】
本発明におけるアミノ変性シリコーンとしては、性能の点から、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のTSF4703(動粘度:1000、アミノ当量:1600)、TSF4708(動粘度:1000、アミノ当量:2800)、ダウ・東レ社製のSS-3551(動粘度:1000、アミノ当量:1700)、FZ-3710(動粘度:1000、アミノ当量:1700)、SF8457C(動粘度:1200、アミノ当量:1800)、SF8417(動粘度:1200、アミノ当量:1700)、SF8452C(動粘度:600、アミノ当量:6400)、BY16-209(動粘度:500、アミノ当量:1800)、BY16-892(動粘度:1500、アミノ当量:2000)、BY16-898(動粘度:2000、アミノ当量:2900)、FZ-3760(動粘度:220、アミノ当量:1600)、BY16-213(動粘度:55、アミノ当量:2700)、信越化学工業社製のKF-8002(動粘度:1100、アミノ当量:1700)、KF-8004(動粘度:800、アミノ当量:1500)、KF-8005(動粘度:1200、アミノ当量:11000)、KF-867(動粘度:1300、アミノ当量:1700)、KF-864(動粘度:1700、アミノ当量:3800)、KF-859(動粘度:60、アミノ当量:6000)、が好ましい。( )内において、動粘度は25℃での測定値(単位:mm/s)を示し、アミノ当量の単位はg/molである。
【0046】
(a1-1)成分としては、BY16-213(動粘度:55、アミノ当量:2700)、BY16-853U(動粘度:14、アミノ当量:450)がより好ましい。
【0047】
(a1-2)成分としては、SF8417(動粘度:1200、アミノ当量:1700)、BY16-209(動粘度:500、アミノ当量:1800)、FZ-3760(動粘度:220、アミノ当量:1600)、SF8452C(動粘度:600、アミノ当量:6400)、KF-8002(動粘度:1100、アミノ当量:1700)、SS-3551(動粘度:1000、アミノ当量:1700)、FZ-3710(動粘度:1000、アミノ当量:1700)がより好ましい。
【0048】
(ii)カチオン性官能基を有する炭化水素系化合物
カチオン性官能基を有する炭化水素系化合物とは、一つのカチオン性官能基に対して一つ以上の炭化水素基が結合したものである。カチオン性官能基を有する炭化水素系化合物の合計炭素数は、滑液性の観点から、好ましくは16以上、さらに好ましくは18以上であり、ハンドリング性の観点から、好ましくは40以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは26以下である。カチオン性官能基を有する炭化水素系化合物は、カチオン性官能基が1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウムの場合には、炭化水素基は窒素原子に共有結合を介して直接結合した化合物である。カチオン性官能基がイミダゾリウム、ピリジニウム、イミダゾリン等の場合は、環構造のいずれかの位置に少なくとも一つ以上の炭化水素基が共有結合を介して結合した化合物である。
【0049】
〔炭化水素基〕
前記カチオン性官能基を有する炭化水素系化合物における炭化水素基としては、例えば、鎖式飽和炭化水素基、鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、及び芳香族炭化水素基が挙げられる。炭化水素基の炭素数は、入手性の観点から、好ましくは16以上、より好ましくは18以上であり、同様の観点から、好ましくは40以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは24以下である。
【0050】
なお、炭化水素基の炭素数とは、別に規定の無い限り、一つの炭化水素基における炭素数のことを意味する。
鎖式飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基等が挙げられる。
鎖式不飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基が挙げられる。
環式飽和炭化水素基の具体例としては、例えば、シクロヘキサデシル基、シクロオクタデシル基等が挙げられる。
【0051】
〔炭化水素系化合物の例〕
上記カチオン性官能基を有する炭化水素系化合物は、好ましくは1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム等の、アミノ基を有する炭化水素系化合物(本明細書において、「炭化水素系アミン」と称する。)である。かかる炭化水素系アミンの具体例としては、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジドデシルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、テトラブチルアンモニウム塩、テトラヘキシルアンモニウム塩、ジメチルジオクチルアンモニウム塩、ジメチルジデシルアンモニウム塩、トリメチルヘキサデシルアンモニウム塩等が好ましい。
【0052】
上記炭化水素系化合物は、一部の水素原子が更に置換されていてもよい。置換基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、ケトン基、チオール基等が挙げられる。
【0053】
<成分(C)>
本発明における成分(C)は25℃1気圧で液体の有機化合物である。ただし、前記成分(B)に該当するものは除かれる。
【0054】
成分(C)の水への溶解度は、25℃の水100gあたり10g以下が好ましく、1g以下が更に好ましい。
成分(C)の重量平均分子量は、乳化組成物の安定性の観点から、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは10,000以下であり、同上の観点から、好ましくは100以上、より好ましくは200以上である。
【0055】
本発明における成分(C)は、具体的には、油剤、有機溶剤、重合性モノマー、プレポリマー等が挙げられる。本発明における成分(C)は、好ましくは油剤であり、油剤としては、乳化組成物の安定性の観点から、例えば、アルコール、エステル油、炭化水素油、シリコーン油、エーテル油、油脂、フッ素系不活性液体及び脂肪酸からなる群より選択される一種以上が挙げられ、エステル油、シリコーン油、エーテル油、油脂、及びフッ素系不活性液体からなる群より選択される一種以上が好ましく、シリコーン油、エステル油、及びエーテル油からなる群より選択される一種以上がより好ましく、シリコーン油及び/又はエステル油が更に好ましい。
【0056】
エステル油としては、モノエステル油、ジエステル油、トリエステル油が挙げられ、具体例としては、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸2-ヘキシルデシル、パルミチン酸イソプロピル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリン、トリイソステアリン酸グリセリン等の炭素数2~18の脂肪族又は芳香族のモノカルボン酸又はジカルボン酸エステルが挙げられる。
【0057】
シリコーン油としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
【0058】
油脂としては、例えば、大豆油、ヤシ油、アマニ油、綿実油、ナタネ油、ヒマシ油などの植物油や動物油等が挙げられる。
【0059】
成分(C)は、乳化組成物の安定性の観点から、好ましくはSP値が10以下、より好ましくは9.5以下、更に好ましくは9.0以下、より更に好ましくは8.5以下であり、同上の観点から、好ましくは6.0以上、より好ましくは6.5以上である。例えば、後述のSP値が10以下の油剤が好ましいものとして例示できる。
【0060】
本明細書におけるSP値とは、Fedors法で計算される溶解度パラメーター(単位:(cal/cm3)1/2)を示し、例えば、参考文献「SP値基礎・応用と計算方法」(情報機構社、2005年)、Polymer handbook Third edition (A Wiley-Interscience publication, 1989)等に記載されている。
【0061】
本発明で好適に使用されるSP値が10以下の油剤としては、例えば、オレイン酸(SP値:9.2)、D-リモネン(SP値:9.4)、PEG400(SP値:9.4)、コハク酸ジメチル(SP値:9.9)、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール(SP値:8.9)、ラウリン酸ヘキシル(SP値:8.6)、ラウリン酸イソプロピル(SP値8.5)、ミリスチン酸イソプロピル(SP値8.5)、パルミチン酸イソプロピル(SP値8.5)、オレイン酸イソプロピル(SP値:8.6)、ヘキサデカン(SP値:8.0)、オリーブ油(SP値:9.3)、ホホバ油(SP値:8.6)、スクアラン(SP値:7.9)、流動パラフィン(SP値:7.9)、フッ素系不活性液体(例えば、フロリナートFC-40(3M社製、SP値:6.1)、フロリナートFC-43(3M社製、SP値:6.1)、フロリナートFC-72(3M社製、SP値:6.1)、フロリナートFC-770(3M社製、SP値:6.1))、シリコーンオイル(例えば、KF96-1cs(信越化学社製、SP値:7.3)、KF-96-10cs(信越化学社製、SP値:7.3)、KF-96-50cs(信越化学社製、SP値:7.3)、KF-96-100cs(信越化学社製、SP値:7.3)、KF-96-1000cs(信越化学社製、SP値:7.3)、KF-96H-1万cs(信越化学社製、SP値:7.3)等)等が挙げられる。これらの油剤はいずれも25℃1気圧で液体である。
【0062】
<成分(D)>
本発明における成分(D)は非イオン性増粘剤である。
非イオン性増粘剤としては、例えば、非イオン性会合型増粘剤;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系増粘剤;ポリビニルアルコール類等が挙げられ、これらを1種使用したり、2種以上を併用したりすることができる。これらの中では、膜の滑液持続性の観点から会合型増粘剤が好ましい。
【0063】
非イオン性会合型増粘剤としては、分子中にウレタン結合を有するウレタン会合型増粘剤が好ましく、例えば、ウレタン変性ポリエーテル型増粘剤等が挙げられる。これらの中では、膜の滑液持続性の観点から、ウレタン変性ポリエーテル型増粘剤が好ましい。
【0064】
ウレタン変性ポリエーテル型増粘剤としては、分子中にウレタン結合とポリエーテル鎖を有し、かつ末端に疎水基を有するウレタン変性ポリエーテルが挙げられる。
かかるウレタン変性ポリエーテル型増粘剤は市販されており、例えば、サンノプコ社製のSNシックナー660T、SNシックナー621N、SNシックナー623N;ADEKA社製のアデカノールシリーズ、例えばアデカノールUH-814N、UH-752、UH-756VF、UH-420、UH-462等;エレメンティス・ジャパン社製のレオレート244、レオレート278;ARKEMA社製のCOAPUR 2025、COAPUR 2501、COAPUR 3025、COAPUR 520W、COAPUR 830W、COAPUR XS22、COAPUR XS71、COAPUR XS83等が挙げられる。
【0065】
<成分(E)>
本発明における成分(E)は膜補強剤である。膜補強剤は、膜の滑液性の持続性を向上させるのに効果的なので、係る成分を含有又は配合する。本発明において使用することができる膜補強剤としては高分子化合物が挙げられる。ここで、成分(E)が高分子化合物の場合、成分(E)としては、成分(A)、成分(B)、成分(C)又は成分(D)に該当するものは包含されない。
本発明における成分(E)としては、配合の簡便さの観点から、水中でエマルジョンまたはディスパージョンとして存在するものがより好ましい。
【0066】
かかる成分(E)が高分子化合物の場合、下記の高分子化合物(X)及び高分子化合物(Y)からなる群より選択される1種以上が好ましい。
高分子化合物(X):主鎖にエステル基、アミド基、ウレタン基、アミノ基、エーテル基又はカーボネート基を有する高分子化合物
高分子化合物(Y):側鎖にエステル基若しくはアミド基を有するメタクリル系又はアクリル系高分子化合物
【0067】
前記高分子化合物の重量平均分子量としては、膜の滑液性の持続に優れる膜を得る観点から、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、更に好ましくは30,000以上であり、同様の観点から、好ましくは500万以下、より好ましくは100万以下、更に好ましくは50万以下である。
【0068】
〔高分子化合物(X)〕
主鎖にエステル基を有する高分子化合物(X)としては、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、及びアルケニルコハク酸等のジカルボン酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のジオールとの縮合物等、あるいは、グルコール酸、乳酸などの一分子内にヒドロキシ基とカルボキシル基の両方を有する化合物の縮合物が挙げられる。
【0069】
主鎖にアミド基を有する高分子化合物(X)としては、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、及びアルケニルコハク酸等のジカルボン酸と、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族ジアミン等のジアミンとの縮合物等が挙げられる。
【0070】
主鎖にウレタン基を有する高分子化合物(X)としては、トリレジンジイソシアネート、ジフェニルイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートと、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のジオールとの重合物等が挙げられる。
【0071】
主鎖にアミノ基を有する高分子化合物(X)としては、エチレンイミン、プロピレンイミン、ブチレンイミン、ジメチルエチレンイミン、ペンチレンイミン、へキシレンイミン等のアルキルイミンの重合物等が挙げられる。
【0072】
主鎖にエーテル基を有する高分子化合物(X)としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のアルキレンオキシドの重合物、ホルムアルデヒドの重合物等が挙げられる。
【0073】
主鎖にカーボネート基を有する高分子化合物(X)としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のポリオールとホスゲンとの縮合物等が挙げられる。
【0074】
上記の縮合物や重合物の共重合体も高分子化合物(X)に包含される。例えば、ポリカーボネートポリウレタン共重合体、ポリエステルポリウレタン共重合体等が挙げられる。
【0075】
〔高分子化合物(Y)〕
側鎖にエステル基若しくはアミド基を有するメタクリル系又はアクリル系高分子(以下、単に(メタ)アクリル系高分子ともいう)としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等のポリアルキル(メタ)アクリレート、アクリルスチレン、ウレタンアクリル等アクリルとの共重合体、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリN-メチル(メタ)アクリルアミド、ポリN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリN-フェニル(メタ)アクリルアミド等のポリ(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0076】
成分(E)として好ましく用いることができる高分子化合物の具体例としては、ダイセルオルネクス社製のDAOTANシリーズ(例えば、DAOTAN TW 6450/30WA、DAOTAN TW 6460w/35WA、DAOTAN TW 6464/36WA、DAOTAN TW 6493/35WA等)、VIACRYLシリーズ(例えば、VIACRYL VSC 6286w/45WA、VIACRYL SC 6828w/45WA等)、VISCOPOLシリーズ(例えば、VISCOPOL 6191等)、DSM社製のNeoCrylシリーズ(例えば、NeoCryl XK-188、NeoCryl A-1127等)が挙げられる。
【0077】
<水>
本発明における水は溶媒として、及び本発明の乳化組成物の構成成分の一つとしての役割を有する。
【0078】
<成分(F)>
本発明の乳化組成物は濡れ剤をさらに含んでもよい。濡れ剤は、種々の基板に対する濡れ性を上げることで、本発明の乳化組成物が基板にはじかれることなく塗布するのに効果的なので、かかる成分を含有又は配合することが好ましい。
【0079】
本発明において使用することができる濡れ剤としては、水系塗料や水性インク、日用品や化粧品など、水を含有する製品にて使用されている濡れ剤が挙げられ、その好ましい具体例としては、ポリエーテル変性シリコーン;エタノールやイソプロパノールなどの水と混和する有機溶剤、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤が挙げられる。これらの中では、膜の滑液性の持続性を向上させる観点からポリエーテル変性シリコーンが好ましい。
【0080】
ポリエーテル変性シリコーンとしては、メチルシリコーン鎖を主鎖とし、ポリオキシエチレン基からなる側鎖をもつ化合物が挙げられ、具体的には、下記一般式で示される化合物が挙げられる。
【0081】
【化2】
【0082】
式中、Rはメチレン基、エチレン基又はトリメチレン基であり、Rは炭素数1~4のアルキル基であり、mは0~50の整数、nは1~10の整数、pは1~50の整数、及びqは0~50の整数をそれぞれ示す。-R(CO)(CO)で示される基において、(CO)及び(CO)はランダムでもブロックでもよい。
【0083】
ポリエーテル変性シリコーンのHLB値は、乳化組成物の乾燥によって得られる膜の滑液持続性及び乳化組成物の安定性の観点から、特定の範囲内のものが好ましく、具体的には、好ましくは1以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上であって、好ましくは18以下、より好ましくは16以下である。
【0084】
HLB値が異なる2種以上のポリエーテル変性シリコーンを使用する場合は、成分(F)としてのHLB値としては、それらの加重平均で求めた値が上記範囲になればよい。なお、HLB値とは、親水性と親油性のバランスを表す指標であり、本発明においては、以下のグリフィン(Griffin)の式により求められるものを指す。
HLB値=20×親水基部の分子量の総和/分子量
【0085】
ポリエーテル変性シリコーンの25℃における動粘度は、乳化組成物の乾燥によって得られる膜の滑液持続性の観点から、特定の範囲内のものが好ましく、具体的には、好ましくは1mm/s以上、より好ましくは5mm/s以上、更に好ましくは10mm/s以上であり、好ましくは1000mm/s以下、より好ましくは500mm/s以下、更に好ましくは200mm/s以下、更に好ましくは100mm/s以下である。
【0086】
ポリエーテル変性シリコーンの重量平均分子量としては、乳化組成物の乾燥によって得られる膜の滑液持続性を向上させる観点から、好ましくは300以上、より好ましくは500以上であり、同様の観点から、好ましくは9,000以下、より好ましくは5,000以下、更に好ましくは3,000以下である。
【0087】
成分(F)として好ましく使用できるポリエーテル変性シリコーン化合物は市販されており、市販品としては、信越化学工業社製の、KF-615A、KF-640、KF-642、KF-643、KF-644、KF-351A、KF-354L、KF-355A、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6016、KF-6017、KF-6020、KF-6043等が挙げられ、乳化組成物の乾燥によって得られる膜の滑液持続性の観点から、KF-640、KF-642、KF-643、KF-351A、KF-354L、KF-355A等が好適に用いることができる。前記一般式に該当しない構造の市販品(例えば、信越化学工業社製のKF-6028及びKF-6038等)も、成分(F)として使用することができる。
【0088】
<成分(G)>
本発明の乳化組成物は凝集抑制剤をさらに含んでもよい。凝集抑制剤は、工程1において、成分(A)、成分(B)、成分(C)等の疎水的な成分やこれらの混合物が水中で凝集してしまうことを抑制することに効果を示すので、かかる成分を含有又は配合することが好ましい。
【0089】
凝集抑制剤の重量平均分子量としては、成分(A)、成分(B)、成分(C)等の疎水的な成分やこれらの混合物の水中での凝集を抑制する観点から、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、更に好ましくは300以上であり、同様の観点から、好ましくは9,000以下、より好ましくは8,000以下、更に好ましくは7,000以下である。
【0090】
凝集抑制剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤;ポリアクリル酸アンモニウム等の「アニオン性基を有し、対カチオンがアンモニウムイオン及び有機アンモニウムイオンからなる群より選ばれる1種又は2種以上である高分子化合物」が挙げられる。
【0091】
<その他の成分>
本発明の乳化組成物は、前記成分以外に、防汚剤、抗菌性を有する化合物(例えば、有機合成系抗菌剤、天然物系抗菌剤、及び無機物系抗菌剤等)、可塑剤、結晶核剤、充填剤(無機充填剤、有機充填剤)、加水分解抑制剤、難燃剤、酸化防止剤、炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、顔料、発泡剤、界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;香料;流動調整剤;レべリング剤;導電剤;紫外線分散剤;消臭剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。また同様に、本発明の効果を阻害しない範囲内で他の高分子材料や他の組成物を添加することも可能である。
【0092】
<乳化組成物の性質>
本発明の乳化組成物は、前記の成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、成分(E)及び水を必須成分として含む、乳化状態の組成物である。乳化状態の判断は、乳化組成物を目視で観察し、白濁状態であれば乳化状態であるとする。
本発明の乳化組成物は、O/W型エマルション、W/O型エマルションのどちらでもよいが、好ましくはO/W型エマルションである。
【0093】
乳化組成物中又は乳化組成物の調製の際の成分(A)の含有量としては、乳化力の観点から、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.4質量%以上であり、一方、ハンドリング性の観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
【0094】
乳化組成物中又は乳化組成物の調製の際の成分(B)の含有量としては、得られた乳化組成物の乳化安定性の観点から、成分(A)のアニオン性基、好ましくはカルボキシ基に対して、好ましくは0.5当量以上、より好ましくは0.8当量以上、更に好ましくは1当量以上であり、同様の観点から、好ましくは3当量以下、より好ましくは2当量以下、更に好ましくは1.8当量以下である。
【0095】
乳化組成物中又は乳化組成物の調製の際の成分(C)の含有量としては、滑液性発現の観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、成膜性の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0096】
乳化組成物中又は乳化組成物の調製の際の成分(D)の含有量としては、塗装性、滑液持続性の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、一方、耐水性の観点、粘度やハンドリング性の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
【0097】
乳化組成物中又は乳化組成物の調製の際の、成分(C)に対する成分(E)の質量比としては、成膜する膜の強度の観点から、成分(C)100質量部に対して成分(E)が好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは50質量部以上であり、一方、膜の滑液性の観点から、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは500質量部以下、更に好ましくは200質量部以下である。
【0098】
乳化組成物中又は乳化組成物の調製の際の水の含有量としては、乳化状態を維持する観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であり、有効分量の観点から、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは88質量%以下である。
【0099】
本発明において、乳化組成物の成膜時に用いる基板への濡れ性向上の観点から、成分(F)を含有すること又は配合することが好ましい。
乳化組成物中又は乳化組成物の調製の際の成分(F)の含有量又は配合量としては、上記効果を発揮させる観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上であり、一方、膜の耐水性の観点から、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.7質量%以下である。
【0100】
本発明において、工程1において、成分(A)、成分(B)、成分(C)等の疎水的な成分やこれらの混合物が水中で凝集してしまうことを抑制する観点から、成分(G)を含有すること又は配合することが好ましい。従って、成分(G)は工程1において配合することが好ましい。
【0101】
乳化組成物中又は乳化組成物の調製の際の成分(G)の含有量又は配合量としては、上記効果を発揮させる観点から、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.02質量%以上であり、一方、膜の耐水性の観点から、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.25質量%以下である。
【0102】
本発明の乳化組成物の粘度としては、形成される膜の滑液持続性を向上させる観点から、25℃、せん断速度1s-1における粘度が好ましくは1,000mPa・s以上、より好ましくは2,000mPa・s以上、更に好ましくは5,000mPa・s以上、更に好ましくは10,000mPa・s以上である。一方、ハンドリングの観点から、好ましくは100,000mPa・s以下、より好ましくは50,000mPa・s以下、更に好ましくは30,000mPa・s以下である。
本発明における乳化組成物の25℃における粘度は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0103】
かかる本発明の乳化組成物の用途としては、例えば、屋外に配される様々な表面に対するコーティング、例えば、看板、標識、信号機などの道路設備や自動車、飛行機、電車、船舶などの車体やガラス面及びヘッドライト、建造物の屋根、外壁、窓など、及び太陽光パネルなどに対するコーティングなどが挙げられる。
【0104】
2.乳化組成物の製造方法
本発明の乳化組成物の製造方法は、前述の成分(A)、成分(B)、成分(C)及び水を混合する工程(工程1)、並びに、前記工程1で得られた混合物(本明細書において「乳化混合物」と称する。)と、前述の成分(D)及び成分(E)とを混合する工程(工程2)を含む方法である。
【0105】
水は、その全量を工程1で配合する必要はなく、水の一部を工程2で配合してもよい。
成分(F)の濡れ剤は工程2の任意の時点で配合することができ、成分(G)の凝集抑制剤は、工程1の成分(B)、成分(C)を配合するよりも前に配合することが好ましい。
【0106】
各成分を混合することで乳化が生じ、乳化組成物が得られる。工程1又は工程2における混合処理には、マグネチックスターラー、メカニカルスターラー、ホモミキサー、真空乳化装置、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。混合処理は、2種類以上の操作を組み合わせて実施してもよい。
【0107】
工程1又は工程2における各成分の混合時の温度や時間としては、特に限定されるものではなく、例えば、好ましくは5~50℃の温度範囲とし、好ましくは1分間~3時間の範囲とする。
【0108】
各工程におけるそれぞれの成分の含有量や成分間の比率等の好ましい範囲は、前述の本発明の乳化組成物におけるそれらの好ましい範囲と同じである。
【0109】
乳化組成物の製造過程のいずれかの段階、例えば、工程1の前、工程2と同時、工程1の後、工程2と同時、及び/又は工程2の後において、アニオン変性セルロース繊維を含む成分や組成物を微細化処理に供することにより、マイクロメータースケールのセルロース繊維をナノメータースケールに微細化することができる。アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径をナノメータースケールにまで小さくすることによって、乳化組成物の安定性及び成膜時の強度が向上するため、かかる微細化処理工程を実施することが好ましい。
【0110】
微細化処理で使用する装置としては公知の分散機が好適に使用される。例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。また、微細化処理における対象物中の固形分含有量は50質量%以下が好ましい。微細化処理の際の装置の運転条件としては、公知の運転条件や各装置の取扱い説明書に記載された運転条件に基づいて、当業者が適宜設定すればよい。
【0111】
3.膜
上記の本発明の乳化組成物を成膜することにより、本発明の膜を製造することができる。例えば、本発明の乳化組成物を硬質表面(例えば、金属表面、樹脂表面、ガラス表面、陶磁器表面、セラミック表面)等に塗布し、常温常圧下、又は必要に応じて加温又は減圧して乳化組成物を乾燥させることにより、膜を形成させることができる。
膜においては、成分(A)のアニオン変性セルロース繊維と成分(B)のカチオン性官能基を有する疎水性化合物とが塩を形成する。
【0112】
膜は、文献(超撥水・超撥油・滑液性表面の技術/発行者:元木浩/発行所:サイエンス&テクノロジー株式会社/2016年1月28日発行)に示される滑液表面性を示す。本明細書において、かかる滑液表面性(あるいは、単に「滑液性」とも言う。)を発揮する膜を「滑液表面膜」とも称する。
【実施例0113】
以下、実施例等を示して本発明を具体的に説明する。なお、下記の実施例は、単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「常温」とは25℃を示す。
【0114】
〔アニオン変性セルロース繊維及び疎水変性セルロース繊維のアニオン性基含有量〕
乾燥質量0.5gの測定対象のセルロース繊維を100mLビーカーにとり、脱イオン水又はメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、ここに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製する。測定対象のセルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、AUT-701)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を、待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定する。pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、測定対象のセルロース繊維のアニオン性基含有量を算出する。
アニオン性基含有量(mmol/g)=[水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)]/[測定対象のセルロース繊維の質量(0.5g)]
【0115】
〔分散液中の固形分含有量〕
赤外線水分計(島津製作所社製、MOC-120H)を用いて測定する。サンプル1gに対して150℃恒温で30秒ごとの測定を行い、質量減少がサンプルの初期量の0.1%以下となった値を固形分含有量とする。
【0116】
〔各種のセルロース繊維における結晶構造の確認〕
各種のセルロース繊維の結晶構造は、X線回折計(リガク社製、MiniFlexII)を用いて以下の条件で測定することにより確認する。
測定条件は、X線源:Cu/Kα-radiation、管電圧:30kv、管電流:15mA、測定範囲:回折角2θ=5~45°、X線のスキャンスピード:10°/minとする。測定用サンプルは面積320mm×厚さ1mmのペレットに圧縮して作製する。また、セルロースI型結晶構造の結晶化度は得られたX線回折強度を、以下の式Aに基づいて算出する。
【0117】
<式A>
セルロースI型結晶化度(%)=[(I22.6-I18.5)/I22.6]×100
〔式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
【0118】
一方、上記式Aで得られる結晶化度が35%以下の場合には、算出精度の向上の観点から、「木質科学実験マニュアル」(日本木材学会編;2000年4月発行)のP199-200の記載に則り、以下の式Bに基づいて算出することが好ましい。
したがって、上記式Aで得られる結晶化度が35%以下の場合には、以下の式Bに基づいて算出した値を結晶化度として用いることができる。
【0119】
<式B>
セルロースI型結晶化度(%)=[A/(A+A)]×100
〔式中、Aは、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)、(011面)(回折角2θ=15.1°)および(0-11面)(回折角2θ=16.2°)のピーク面積の総和、Aは,アモルファス部(回折角2θ=18.5°)のピーク面積を示し、各ピーク面積は得られたX線回折チャートをガウス関数でフィッティングすることで求める〕
【0120】
〔乳化組成物の粘度の測定〕
E型粘度計(Anton Paar社製、MCR300)、測定治具:CP50-1を使用し、測定温度:25℃にて次のように測定した。せん断速度0.1s-1から7000s-1まで段階的にせん断速度を上昇させながら乳化組成物の粘度を測定した後、逆に7000s-1から0.1s-1まで段階的にせん断速度を減少させながら粘度を測定した。その後もう一度せん断速度0.1s-1から7000s-1まで段階的にせん断速度を上昇させながら粘度を測定し、最後のサイクルにおける、せん断速度1s-1での粘度を乳化組成物の粘度とした。
【0121】
〔レーザー回折法による乳化滴の粒径測定〕
レーザー回折法による乳化滴の粒径測定は、堀場製作所製LA-960を用いて行う。
測定条件:測定用セルに水を加え、吸光度が適正範囲になる濃度で体積粒度分布及び体積中位粒径(D50)を測定する。なお、相対屈折率1.20、温度25℃、循環ポンプON、循環速度5、撹拌速度5とする。
【0122】
〔アニオン変性セルロース繊維におけるグルコース部分〕
アニオン変性セルロース繊維及び微細化アニオン変性セルロース繊維におけるグルコース部分の質量に関しては、グルコース単位に結合したアニオン性基を含めたグルコース単位の全体、即ちヒドロキシメチル基がカルボキシ基に変換されたグルコース単位も含めて「グルコース部分の質量」とした。
【0123】
〔アニオン変性セルロース繊維〕
アニオン変性セルロース繊維として、表1に記載の物性値を有する二種類のもの、即ち、アニオン変性セルロース繊維1又はアニオン変性セルロース繊維2を用いた。
【0124】
【表1】
【0125】
かかるアニオン変性セルロース繊維は、例えば下記のTEMPO酸化処理に記載された方法のようにして調製することができる。
【0126】
[TEMPO酸化処理]
メカニカルスターラー、撹拌翼を備えた2LのPP製ビーカーに、原料の天然セルロース繊維としての針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維10g、脱イオン水990gをはかり取り、25℃、100rpmで30分撹拌する。次いで、該パルプ繊維10gに対し、TEMPOを0.13g、臭化ナトリウム1.3g、10.5質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液35.5gをこの順で添加する。次いで、自動滴定装置を用いてpHスタット滴定を行い、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保持する。撹拌速度100rpmにて反応25℃で120分行う。
【0127】
次いで、撹拌しながら、それに1Mの塩酸を加えて、懸濁液のpHを2とする。次いで、吸引ろ過で、固形分をろ別する。固形分を脱イオン水中に分散させ、吸引ろ過で固形分をろ別する操作を、ろ液の伝導度が200μs/cm以下になるまで繰り返す。得られる固形分に対して脱水処理を行って、アニオン変性セルロース繊維を得ることができる。
【0128】
調製例1〔微細化アニオン変性セルロース繊維の調製〕
[微細化アニオン変性セルロース繊維1の分散液の調製]
上記アニオン変性セルロース繊維1に脱イオン水を添加して懸濁液(固形分含有量2.0質量%)100gを調製した。これに0.5M水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH=8に調整後、脱イオン水を加えて合計200gとした。この懸濁液に、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、ナノヴェイタL-ES)を用いて150MPaで微細化処理を3回行い、分散液(固形分含有量1.0質量%)を得た。
得られた分散液182gをはかり取り、脱イオン水を加えて合計400gとした。そこに0.1M水酸化ナトリウム水溶液1.2mL、水素化ホウ素ナトリウム120mgを加え、25℃で4時間撹拌した。次に、1M塩酸9mLを加えて撹拌し、プロトン化を行った。撹拌終了後、吸引濾過で分散液中の固形分を濾別した。次いで、固形分を脱イオン水中に分散させ、吸引濾過で固形分をろ別する操作を、ろ液の伝導度が50μS/cm以下になるまで繰り返し、微細化アニオン変性セルロース繊維1の分散液(固形分含有量0.9質量%)を得た。得られたセルロース繊維のカルボキシ基含有量は1.41mmol/gであった。
【0129】
[微細化アニオン変性セルロース繊維2の分散液の調製]
上記アニオン変性セルロース繊維2に脱イオン水を添加し、さらに0.1M水酸化ナトリウム水溶液をアニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基に対して0.2当量添加した後、グルコース部分の濃度が0.67質量%になるように脱イオン水を加えた。得られた懸濁液に、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、ナノヴェイタL-ES)を用いて150MPaで微細化処理を1回行い、微細化アニオン変性セルロース繊維2の分散液(グルコース部分の濃度0.67質量%)を得た。
【0130】
[微細化アニオン変性セルロース繊維3の分散液の調製]
上記アニオン変性セルロース繊維2に脱イオン水を添加し、さらに1Mアンモニア水溶液をアニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基に対して1.5当量添加した後、グルコース部分の濃度が0.67質量%になるように脱イオン水を加えた。得られた懸濁液に、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、ナノヴェイタL-ES)を用いて150MPaで微細化処理を1回行い、微細化アニオン変性セルロース繊維3の分散液(グルコース部分の濃度0.67質量%)を得た。
【0131】
調製例2〔乳化混合物の調製〕
[乳化混合物1の調製]
ビーカーに、上記微細化アニオン変性セルロース繊維1の分散液66.7g(固形分含有量0.9質量%)、シリコーンオイル 6.0g、修飾用化合物としてアミノ変性シリコーン 1.91g(アミノ変性シリコーンに含まれるアミノ基の物質量を1とした時に、アニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基に対して1.75当量に相当)を混合し、そこに脱イオン水を加えて合計100gとした。この分散液をメカニカルスターラーで常温で5分間撹拌した後、高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、ナノヴェイタL-ES)にて150MPaで10パス処理させることで、乳化混合物1を得た。得られた混合物1は白濁液であって、光学顕微鏡によって水中に油滴が分散している様子が観察されたため、乳化系であると判断した。レーザー回折法による平均乳化粒径は300nmであった。該混合物の25℃での粘度は10mPa・sであった。
【0132】
[乳化混合物2の調製]
上記微細化アニオン変性セルロース繊維2の分散液に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(有効分濃度:25質量%)、アミノ変性シリコーン/シリコーンオイル(質量比:43/100)の混合物を表2に記載の組成になるように混合した。
得られた混合物を高圧ホモジナイザー(吉田機械社製、ナノヴェイタL-ES、150MPa)にて6パス処理し、乳化混合物2を得た。なお、アミノ変性シリコーンの添加量は、アミノ変性シリコーンに含まれるアミノ基の物質量を1とした時に、アニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基に対して1.75当量に相当する量であった。
【0133】
[乳化混合物3の調製]
上記微細化アニオン変性セルロース繊維3の分散液に、ポリアクリル酸アンモニウム(有効分濃度:40質量%)、アミノ変性シリコーン/シリコーンオイル(質量比:43/100)の混合物を表2に記載の組成になるように混合した以外は、乳化混合物2の場合と同様の操作により、乳化混合物3を得た。なお、アミノ変性シリコーンの添加量は、アミノ変性シリコーンに含まれるアミノ基の物質量を1とした時に、アニオン変性セルロース繊維のカルボキシ基に対して1.75当量に相当する量であった。
【0134】
実施例1~6及び比較例1〔乳化組成物の調製〕
表2に記載の組成になるように、各乳化混合物に、成分(E)、成分(F)(実施例3は除く)、成分(D)の順に添加して混合した。得られた各混合物を自転公転ミキサー(シンキー社製、あわとり練太郎 ARE‐310)を用いて20分間撹拌した。次いで、2分間脱泡を行って、それぞれの乳化組成物を調製した。比較例1の乳化組成物は成分(D)を欠くものであった。
【0135】
各例の組成及び評価結果を表2に示す。なお、表2中の各成分の配合量は商品の量ではなく有効成分の量である。
【0136】
【表2】
【0137】
* 乳化組成物中のアニオン変性セルロース繊維中のカルボキシ基のモル数に対するアミノ変性シリコーン中のアミノのモル数である。
** 25℃、せん断速度1s-1における粘度である。
【0138】
調製例、実施例等で使用した代表的な成分の詳細を以下にまとめた。
[成分(B)]
アミノ変性シリコーン1:ダウ・東レ社製、DOWSILTMSS-3551、25℃での動粘度:1,000、アミノ当量:1,700
[成分(C)]
シリコーンオイル:信越化学工業社製、KF-96-100cs、SP値:7.3
この成分(C)は25℃1気圧で液体であった。
[成分(D)]
ウレタン変性ポリエーテル:サンノプコ社製、SNシックナー660T(固形分濃度:20質量%)
ヒドロキシプロピルメチルセルロース:信越化学工業社製、メトローズ90SH 4000
[成分(E)]
ポリカーボネートポリウレタン共重合体のポリマーエマルジョン:ダイセルオルネクス社製、DAOTAN TW 6450/30WA(固形分29.5%、粘度(100 1/s、23℃):50mPa・s)
アクリルスチレン共重合体:DSM社製、Neocryl XK-188(固形分44.5%、粘度:400mPa・s(GAP0020))
[成分(F)]
ポリエーテル変性シリコーン:信越化学工業社製、KF-642、HLB:12、動粘度(25℃):50mm/s
[成分(G)]
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:花王社製、ネオペレックスG-25、有効分濃度:25質量%
ポリアクリル酸アンモニウム:東亜合成社製、アロンA-30SL、固形分濃度:40質量%、重量平均分子量:6,000
【0139】
〔乾燥膜の作製〕
鉛直方向に立てかけたスライドガラス(26mm×76mm)に向けて、液だれが発生するまで、小型スプレーガン(アネスト岩田社製、WIDER1-10E1G)を用いて乳化組成物を水平方向に吹き付けた(吹付空気圧力:0.3MPa)。
その後、スライドガラスを鉛直方向に立てかけたまま、23℃、40%RHの条件で24時間静置し、スライドガラス上に乾燥膜を得た。
【0140】
〔乾燥膜の厚みの測定〕
上記のようにして作製された乾燥膜の一部を金属製のスパーテルで削り取り、スライドガラスの表面を露出させた。乾燥膜の表面及びスライドガラス表面が視野に入る画像をレーザー顕微鏡(レーザーテック社製、OPTELICS HYBRID+、光源:キセノンランプ、対物レンズ:Nikon TU Plan Fluor 10×,NA:0.30)にて撮影し、内蔵の画像ソフトを用いて、スライドガラスの表面及び乾燥膜の表面の高さを算出し、それらの差分を乾燥膜の厚みとした。測定結果を表2に示す。
【0141】
試験例1〔屋外暴露試験〕
和歌山県和歌山市の花王株式会社和歌山事業場の建屋屋上にて、表面が南向き、鉛直方向に対して45度に傾斜した架台に、基板であるスライドガラスと一緒に、乾燥膜が上方になるように固定し、1か月間静置した。
【0142】
作製された直後の乾燥膜及び屋外暴露1か月後の乾燥膜を水平の状態に設置し、各膜に対して、全自動接触角計(協和界面科学社製、DropMaster DM-701)を用い、23℃にて、20μLの水滴(23℃)を滴下し、1秒静置した。次いで、1°/sの速さで膜表面を85°まで傾け、液滴が滑り始める角度を測定した。ただし、85°まで傾けても液滴が滑り落ちなかった場合には、水滴滑落角を「85超」と記した。水滴滑落角の値が小さいほど、その膜の滑液性が高いことを示す。測定結果を表2に示す。
【0143】
表2から、実施例1~6の膜(本発明の膜)の暴露前の滑落角は11~40°であり、比較例1の膜の暴露前の滑落角は14°であった。このことから、いずれの膜も滑液性を有する膜であった。
一方、暴露から1ヶ月後の膜の滑落角に着目すると、実施例1~6の膜における滑落角は18~50°であり、いずれの膜も滑液性を持続していたことが分かった。これに対して比較例1の膜における滑落角は85超であったことから、比較例1の膜は暴露によって滑液性を喪失したことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の乳化組成物は、特に屋外使用の際の滑液持続性に優れた滑液膜を形成することができるため、屋外の構造物用の塗料やコーティング剤として使用することができる。