(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142587
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】遮音構造体
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20241003BHJP
G10K 11/172 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G10K11/16 120
G10K11/172
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054789
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 大地
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061AA06
5D061AA16
5D061BB37
(57)【要約】
【課題】軽量であり、かつ、広域な周波数の範囲(100~5,000Hz)において遮音性能が高く、特に特定の周波数範囲(400~1,000Hz)において遮音性能が高い遮音構造体を提供する。
【解決手段】本発明の遮音構造体1は、内部が空洞な凸構造2Aを一方の面側に有する第1凸状パネル2と、内部が空洞な凸構造3Aを一方の面側に有する第2凸状パネル3とを備え、第1凸状パネル2と第2凸状パネル3の互いの凸構造2A,3Aが設けられた一方の面が外側を向くように、第1凸状パネル2と第2凸状パネル3の互いの凸構造2A,3Aが設けられていない他方の面同士が対向して組み合わされ、第1凸状パネル2と第2凸状パネル3の互いの凸構造2A,3Aによる密閉空間4を形成し、密閉空間4の内部圧力が20~90kPaである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が空洞な凸構造を一方の面側に有する第1凸状パネルと、内部が空洞な凸構造を一方の面側に有する第2凸状パネルとを備え、
前記第1凸状パネルと前記第2凸状パネルの互いの前記凸構造が設けられた前記一方の面が外側を向くように、前記第1凸状パネルと前記第2凸状パネルの互いの前記凸構造が設けられていない他方の面同士が対向して組み合わされ、前記第1凸状パネルと前記第2凸状パネルの互いの前記凸構造による密閉空間を形成し、
前記密閉空間の内部圧力が20~90kPaである、遮音構造体。
【請求項2】
前記第1凸状パネル及び前記第2凸状パネルは、前記凸構造の占める割合が85%以上である、請求項1に記載の遮音構造体。
【請求項3】
前記第1凸状パネル及び前記第2凸状パネルの材料は、有機材料、無機材料及び複合材料の少なくともいずれかである、請求項1に記載の遮音構造体。
【請求項4】
前記凸構造のパネル厚みTが、0.1mm以上20mm以下である、請求項1に記載の遮音構造体。
【請求項5】
前記凸構造を形成する部材がアルミである、請求項1に記載の遮音構造体。
【請求項6】
前記第1凸状パネルと前記第2凸状パネルのそれぞれの前記凸構造が単数である、請求項1に記載の遮音構造体。
【請求項7】
前記第1凸状パネルと前記第2凸状パネルのそれぞれの前記凸構造が複数である、請求項1に記載の遮音構造体。
【請求項8】
前記密閉空間に吸音材が充填された、請求項1に記載の遮音構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物における室内環境及び車両における車内環境を向上させるために外部との仕切り部において騒音を遮る性能の要求が増している。外部との仕切り部において、騒音を遮る遮音性能の指標として、音響透過損失がある。音響透過損失は、仕切り部に配置された遮音構造体への入射音に対する透過音のエネルギーの低減量を表し、値が大きいほど遮音性能が高いことを示す。
音響透過損失は、遮音構造体に採用された材質が均質単板材料の場合、基本的に質量で決定され、特に遮音構造体の1次共振周波数付近で値が低下する特性を示す。また、遮音構造体に採用された材質が均質単板材料の場合、1次共振周波数よりも低周波数域では剛性則領域と呼ばれ、1次共振周波数よりも高周波数域では共振領域と呼ばれ、共振領域よりも高周波数域では質量則領域と呼ばれ、各周波数領域でそれぞれ特性を示す。剛性則領域では、遮音構造体に採用された材質の剛性と、遮音構造体の境界の剛性条件が音響透過損失に影響し、剛性を向上させることで音響透過損失が大きくなる性質がある。共振領域では、透過音のエネルギーによる遮音構造体の振動モードの共振が音響透過損失に影響し、遮音構造体の振動モードにより音響透過損失にピークやディップが生じる。質量則領域では、遮音構造体に採用された材質の質量が大きいほど音響透過損失が大きくなる性質があり、遮音構造体の屈曲振動に起因するコインシデンス効果の影響により特定の周波数付近で音響透過損失が小さくなる性質がある。
【0003】
外部との仕切り部に配置される遮音構造体として、例えば、均質単板材料であるアルミ板を採用した場合、アルミ板は、質量を増すことで可聴域の遮音性能を向上させることができる。しかし、質量の大きいものを遮音構造体に採用した場合、可聴域の遮音性能を向上させることができる反面、遮音構造体の取り扱い性及び仕切り部の耐久性が低下するという欠点が生じる。また、質量の大きいものを遮音構造体に採用した場合、遮音性能は、質量則に従い、周波数が低くなるにつれて低下する性質がある。
そこで、質量の小さいものを遮音構造体に採用した場合でも、遮音構造体の遮音性能を向上させるために、遮音構造体の一部に膜部材を設けて、膜の弾性反発力によって屈曲振動を生じさせて音を遮音することで遮音性能を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、弾性反発力を発生させるために膜部材を用いつつ、剛性を高めるために梁を設けて遮音性能を向上させることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/107313号
【特許文献2】特開2007-232906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、弾性反発力によって音を遮音する構造においては、屈曲振動を発生させるために、材料の剛性を低くする必要があり、遮音できる周波数の範囲が狭いという欠点がある。また、屈曲振動を発生させるために膜部材を用いつつ、剛性を高めるために梁を設ける構造においては、重量が大きくなるという欠点がある。
【0006】
上記のような事情に鑑み、本発明は、軽量であり、かつ、広域な周波数の範囲(100~5,000Hz)において遮音性能が高く、特に特定の周波数範囲(400~1,000Hz)において遮音性能が高い遮音構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、凸構造を備える凸状パネルと平板状パネルの2重壁構造にすることにより、広域な周波数の範囲(100~5,000Hz)における遮音性能が向上し、特に特定の周波数範囲(400~1,000Hz)において遮音性能が向上することを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]内部が空洞な凸構造を一方の面側に有する第1凸状パネルと、内部が空洞な凸構造を一方の面側に有する第2凸状パネルとを備え、前記第1凸状パネルと前記第2凸状パネルの互いの前記凸構造が設けられた前記一方の面が外側を向くように、前記第1凸状パネルと前記第2凸状パネルの互いの前記凸構造が設けられていない他方の面同士が対向して組み合わされ、前記第1凸状パネルと前記第2凸状パネルの互いの前記凸構造による密閉空間を形成し、前記密閉空間の内部圧力が20~90kPaである、遮音構造体。
[2]前記第1凸状パネル及び前記第2凸状パネルは、前記凸構造の占める割合が95%以上である、[1]に記載の遮音構造体。
[3]前記第1凸状パネル及び前記第2凸状パネルの材料は、有機材料、無機材料及び複合材料の少なくともいずれかである、[1]又は[2]に記載の遮音構造体。
[4]前記凸構造のパネル厚みTが、0.1mm以上20mm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の遮音構造体。
[5]前記凸構造を形成する部材がアルミである、[1]~[4]のいずれかに記載の遮音構造体。
[6]前記第1凸状パネルと前記第2凸状パネルのそれぞれの前記凸構造が単数である、[1]~[5]のいずれかに記載の遮音構造体。
[7]前記第1凸状パネルと前記第2凸状パネルのそれぞれの前記凸構造が複数である、[1]~[6]のいずれかに記載の遮音構造体。
[8]前記密閉空間に吸音材が充填された、[1]~[7]のいずれかに記載の遮音構造体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軽量であり、かつ、広域な周波数の範囲(100~5,000Hz)において遮音性能が高く、特に特定の周波数範囲(400~1,000Hz)において遮音性能が高い遮音構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1(a)は、本発明の実施形態に係る遮音構造体の模式的平面図であり、
図1(b)は、
図1(a)のA-A線における模式的断面斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る遮音構造体の模式的側面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る第1凸状パネル及び第2凸状パネルの凸構造の様々な形態を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る遮音構造体(吸音材有り)の模式的断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る遮音構造体の実施例の設置環境を示す模式図である。
【
図6】実施例1~3、比較例1に係る遮音パネルの周波数ごとに面密度から計算した質量則を減算した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る遮音構造体1は、
図1に示すように、内部が空洞な凸構造2Aを一方の面側に有する第1凸状パネル2と、内部が空洞な凸構造3Aを一方の面側に有する第2凸状パネル3とを備える。遮音構造体1は、
図1及び
図2に示すように、第1凸状パネル2と第2凸状パネル3の互いの凸構造が2A,3A設けられた一方の面が外側を向くように、第1凸状パネル2と第2凸状パネル3の互いの凸構造2A,3Aが設けられていない他方の面同士が対向して組み合わされ、第1凸状パネル2と第2凸状パネル3の互いの凸構造2A,3Aによる密閉空間4を形成する。
第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3は、周知の接着手段及び固定手段により接合して組み合わせることで、機械的剛性を向上させつつ、密閉空間4を形成することができ、密閉空間4により遮音性能を向上させることができる。
【0012】
本発明の実施形態に係る遮音構造体1は、密閉空間4の内部圧力が20~90kPaである。密閉空間4の内部圧力が90kPa超であると、広域な周波数の範囲(100~5,000Hz)において遮音性能を高めることができない。また、密閉空間4の内部圧力が40kPa未満であると、密閉空間4を構成する凸構造2A,3Aが変形して所望の遮音性能を発揮できなくなるおそれがある。
遮音構造体1の密閉空間4の内部圧力は、広域な周波数の範囲(100~5,000Hz)において遮音性能を高めることができるようにする観点から、65~90kPaであることが好ましく、70~88kPaであることがより好ましく、75~85kPaであることがさらに好ましい。遮音構造体1の密閉空間4の内部圧力は、特定の周波数範囲(400~1,000Hz)において遮音性能を高めることができるようにする観点から、85kPa以下であることが好ましく、80kPa以下であることがより好ましく、75kPa以下であることがさらに好ましい。また、遮音構造体1の密閉空間4の内部圧力は、密閉空間4を構成する凸構造2A,3Aの変形を予防する観点から、30kPa以上であることが好ましく、40kPa以上であることがより好ましい。
【0013】
第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3は、接合に利用可能な平構造の接合部2B,3Bを凸構造2A,3Aの周囲に設けてもよく、全体が凸構造2A,3Aであってもよい。第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3は、凸構造2A,3Aの占める割合が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3の凸構造2A,3Aの占める割合が上記下限値以上であることで、密閉空間4を広く配置することが可能となり、遮音構造体1による遮音効率を向上させることができる。
なお、第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3における、凸構造2A,3Aの占める割合とは、第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3を凸構造2A,3Aの高さ方向(Z軸方向)からみた平面視において、凸構造2A,3Aの占める面積の割合をいう。
【0014】
第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3における、凸構造2A,3Aとは、第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3の一方の面側に突出し、内部が空洞の形状をいい、例えば、湾曲面からなる半球形状をいう。凸構造2A,3Aは、全体として凸形状であればよく、完全に曲面である必要はなく多面体で構成されていてもよいし、局所的に凹部、平面部があってもよい。第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3が凸構造2A,3Aを有することで、第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3の剛性を向上させることができ、密閉空間4の内部圧力の減圧環境に耐えることが可能となる。
【0015】
凸構造2A,3Aの凸形状としては、例えば、
図3(a)に示すように、曲率が高い曲面部からなる半球形状の凸構造2A
1(3A
1)であってもよく、
図3(b)に示すように、同じ凸構造2A
2(3A
2)が複数であってもよく、
図3(c)に示すように、異なる凸構造2A
3(3A
3),2A
4(3A
4),2A
5(3A
5)が設けられてもよい。凸構造2A,3Aの凸形状は、凸構造2A,3Aの頂部が単数であって裾部が周囲に配置されるドーム形状が好ましい。
【0016】
凸構造2A,3Aのパネル厚みTは、0.1mm以上20mm以下であることが好ましく、0.2mm以上15mm以下であることがより好ましく、0.5mm以上10mm以下であることがさらに好ましく、1mm以上5mm以下であることがよりさらに好ましい。凸構造2Aの,3Aパネル厚みTが上記範囲内であることで、機械的剛性を有しつつ、軽量化に寄与することを可能とする。
【0017】
第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3の凸構造2A,3Aを形成する部材の引張弾性率は、0.1GPa以上であることが好ましく、1GPa以上であることがより好ましく、5GPa以上であることがさらに好ましく、10GPa以上であることがよりさらに好ましい。第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3の凸構造2A,3Aを形成する部材の引張弾性率が上記下限値以上であることで、凸構造2A,3Aの剛性を向上させ、弾性伸縮変形を抑制することができる。凸構造2A,3Aの引張弾性率の上限は特に限定されないが、500GPaが実質的な上限である。
なお、第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3の凸構造2A,3Aの引張弾性率は、JIS K 7161-1:2014に準ずる方法により測定することができる。
【0018】
凸構造2A,3Aの高さH(
図1及び
図2におけるZ軸方向)は、凸構造2A,3Aの剛性を維持しつつ、密閉空間4の体積を確保するする観点から、10mm以上200mm以下であることが好ましく、20mm以上170mm以下であることがより好ましく、30mm以上150mm以下であることがさらに好ましい。
なお、凸構造2A,3Aの高さHとは、凸構造2A,3Aの最も低い部分から最も高い部分の高さをいい、具体的には、凸構造2A,3Aの一番低い箇所(例えば、凹部底部)から凸構造2A,3Aの一番高い箇所(例えば、凸部頂部)の高さをいう。凸構造2A,3Aが複数である場合は、最も大きい値となる高さHを採用する。
【0019】
第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3の面密度は、0.1kg/m2以上50kg/m2以下であることが好ましく、0.5kg/m2以上20kg/m2以下であることがより好ましく、1kg/m2以上10kg/m2以下であることがさらに好ましい。第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3の面密度が上記範囲内であることで、機械的剛性を有しつつ、軽量化に寄与することができる。
なお、第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3の面密度は、JIS Z 8807:2012に準ずる方法により測定することができる。
【0020】
第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3としては、機械的剛性を有しつつ、遮音性能を向上させるために空気を通さない材料であれば特に限定はなく、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂及びエポキシ樹脂等の少なくともいずれか1種を含む樹脂板などの有機材料が挙げられる。また、第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3としては、例えば、アルミ板、鋼板、ステンレス板及び鉄板等の金属板、並びに、ガラス板などの無機材料が挙げられる。また、第1凸状パネル2及び第2凸状パネル3としては、セラミック板、石膏板及びFRP板等の複合材料を採用することができる。
【0021】
遮音構造体1は、
図4に示すように、第1凸状パネル2と第2凸状パネル3の互いの凸構造2A,3Aによって形成される密閉空間4の内部の少なくとも一部に吸音材5を充填する構成とすることができる。吸音材5が第1凸状パネル2と第2凸状パネル3の互いの凸構造2A,3Aによって形成される密閉空間4の内部の少なくとも一部を充填することによって、吸音構造体1の密閉空間4を透過する音が吸音材の中を通過することで減衰量が大きくなり、吸音効果が増大する。つまり、吸音材によって、吸音構造体1を透過する音を取り除く(吸音する)ことが可能となり、さらに吸音効果を向上させることができる。
【0022】
吸音材5の材質は、特に限定されるものではないが、例えばグラスウール、ロックウール、合成繊維及び金属繊維等の乾式工法により充填される乾式材料、並びに、ウレタンフォーム及びパテ等の湿式工法により充填される湿式材料が挙げられる。吸音材5の材質は、乾式材料又は湿式材料を単体で用いてもよい。
【0023】
吸音材5の乾式材料の密度は、16kg/m3以上64kg/m3以下であることが好ましく、20kg/m3以上48kg/m3以下であることがより好ましく、24kg/m3以上32kg/m3以下であることがさらに好ましい。吸音材5の乾式材料の密度が上記範囲内であることで、吸音効果と製造コスト低減とを両立させることができる。
【0024】
吸音材5の湿式材料の密度は、20kg/m3以上100kg/m3以下であることが好ましく、25kg/m3以上80kg/m3以下であることがより好ましく、30kg/m3以上60kg/m3以下であることがさらに好ましい。吸音材5の湿式材料の密度が上記範囲内であることで、吸音効果と吸音構造体1の軽量化とを両立させることができる。
【0025】
本発明の実施形態に係る遮音構造体1の製造方法は、以下の工程(A)~(C)を含む。
(A)内部が空洞な凸構造2Aを一方の面側に有する第1凸状パネル2と、内部が空洞な凸構造3Bを一方の面側に有する第2凸状パネル3とを用意する工程
(B)第1凸状パネル2と第2凸状パネル3の互いの凸構造2A,3Aが設けられた一方の面が外側を向くように、第1凸状パネル2と第2凸状パネル3の互いの凸構造2A,3Aが設けられていない他方の面同士を対向して組み合わせ、第1凸状パネル2と第2凸状パネル3の互いの凸構造2A,3Aによる密閉空間4を形成する工程
(C)密閉空間4の内部圧力を20~90kPaとなるように減圧する工程
【0026】
工程(B)においては、第1凸状パネル2と第2凸状パネル3の互いの凸構造2A,3Aによる密閉空間4を形成する際に、周知の接着手段及び固定手段により接合して組み合わせることできる。このとき、第1凸状パネル2と第2凸状パネル3の接合精度を向上させるために、第1凸状パネル2と第2凸状パネル3との間に、密閉空間4を形成する箇所を中抜きとした緩衝材(図示せず)を配置する構成としてもよい。
緩衝材としては、ゴム部材、発泡体等を用いることができる。
【0027】
工程(C)においては、凸構造2A,3Aの少なくともいずれかの頂部に設けられた穴に、空気弁を設置した後に真空ポンプと接続し、密閉空間4の内部圧力を所望の圧力となるまで減圧する。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0029】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0030】
(音響透過損失の測定)
JIS A 1441-1:2007に準拠して、実施例及び比較例に係る遮音構造体の音響透過損失を算出した。具体的には、
図5に示すように、残響室R
1と無響室R
2の間に設けられた開口部11を実施例及び比較例に係る遮音構造体のサンプルで間仕切りする構成とした。実施例及び比較例に係る遮音構造体のサンプルは、ワッシャー等の治具32を介在させ、ボルト30及びナット31により開口部11に取り付けた。そして、残響室R
1においてスピーカーから100dBのノイズを発生させ、残響室R
1における平均音圧レベルおよび無響室R
2の実施例及び比較例に係る遮音構造体から10cm離れた地点での音響インテンシティをそれぞれ測定し、1/3オクターブバンドごとの音響透過損失を算出した。
【0031】
[実施例1]
曲面部からなる単数の半球形状の凸構造2Aを有する第1凸状パネル2及び曲面部からなる単数の半球形状の凸構造3Aを有する第2凸状パネル3としてアルミドーム(商品名「A5052」、志摩鋼業社製、縦420mm×横420mm×高さ50mm×厚み2mm、面密度5.4kg/m
2、凸構造の占める割合91%)を用意した。そして、第1凸状パネル2と第2凸状パネル3の互いの凸構造2A,3Aが設けられた一方の面が外側を向くように、第1凸状パネル2と第2凸状パネル3の互いの凸構造2A,3Aが設けられていない他方の面同士を対向して組み合わせた。このとき、第1凸状パネル2と第2凸状パネル3との間には、密閉空間4を形成する箇所を中抜き(縦360mm×横360mm)とした緩衝材(クロロプレンゴム、縦420mm×横420mm×厚み10mm)を配置し、密閉空間4を形成した。そして、凸構造2Aの頂部に穴を設けて、設けた穴に空気弁を設置した後に真空ポンプと接続し、密閉空間4の内部圧力を80kPaとなるまで減圧した遮音構造体1のサンプルを得た。得られたサンプルを用いて算出した1/3オクターブバンドごとの音響透過損失から、周波数ごとに面密度から計算した質量則を減算した結果を
図6のグラフに示す。
【0032】
[実施例2]
密閉空間4の内部圧力を60kPaとなるまで減圧した以外は、実施例1と同様にして遮音構造体1のサンプルを得た。得られたサンプルを用いて算出した1/3オクターブバンドごとの音響透過損失から、周波数ごとに面密度から計算した質量則を減算した結果を
図6のグラフに示す。
【0033】
[実施例3]
密閉空間4の内部圧力を40kPaとなるまで減圧した以外は、実施例1と同様にして遮音構造体1のサンプルを得た。得られたサンプルを用いて算出した1/3オクターブバンドごとの音響透過損失から、周波数ごとに面密度から計算した質量則を減算した結果を
図6のグラフに示す。
【0034】
[比較例1]
密閉空間4の内部圧力を減圧しなかった以外は、実施例1と同様にして遮音構造体1のサンプルを得た。得られたサンプルを用いて算出した1/3オクターブバンドごとの音響透過損失から、周波数ごとに面密度から計算した質量則を減算した結果を
図6のグラフに示す。
【0035】
図6に示したグラフより、第1凸状パネル2と第2凸状パネル3の互いの凸構造2A,3Aによって形成される密閉空間4の内部圧力を所望値となるように減圧した構成とした実施例1~3に係る遮音構造体1は、広域な周波数の範囲(100~5,000Hz)において遮音性能が高く、特に特定の周波数範囲(400~1,000Hz)において遮音性能が高いものであることがわかった。なお、密閉空間4の内部圧力を80kPaとした実施例1に係る遮音構造体1は、広域な周波数の範囲(100~5,000Hz)の全域にわたって高い遮音性能を発揮することがわかった。