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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142588
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレースとその製作方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
E04B1/58 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054790
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】松田 誠樹
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA33
2E125AB12
2E125AE13
(57)【要約】
【課題】芯材の圧縮変形の際に当該芯材の端部領域のみが拘束材と摺動する知見に基づき、アンボンド材が本来的に必要とされる範囲に配設されている、座屈拘束ブレースを提供すること。
【解決手段】座屈拘束ブレース100は、一対の広幅面10aと一対の狭幅面とを備える、鋼製でプレート状の芯材10と、一対の広幅面10aに対向する対向片31と、対向片31の両端部にて屈曲して延びる一対の側片32とを少なくとも備える、鋼製で一対の拘束材30と、狭幅面10bに対向し、一対の拘束材30のそれぞれの側片32に接合する、一対の補剛材50と、芯材10の広幅面10aの少なくとも端部領域10cに対応する範囲に介在する、アンボンド材20とを有し、拘束材30への補剛材50の接合により拘束材30に付与される押圧力Qが、対向片31からアンボンド材20を介して芯材10の端部領域10cを押圧している。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の広幅面と一対の狭幅面とを備える、鋼製でプレート状の芯材と、
前記一対の広幅面に対向する対向片と、該対向片の両端部にて屈曲して延びる一対の側片とを少なくとも備える、鋼製で一対の拘束材と、
前記狭幅面に対向し、前記一対の拘束材のそれぞれの前記側片に接合する、一対の補剛材と、
前記芯材の広幅面と前記拘束材の対向片との間で、かつ、該芯材の広幅面の少なくとも端部領域に対応する範囲に介在する、アンボンド材とを有し、
前記拘束材への前記補剛材の接合により該拘束材に付与される押圧力が、前記対向片から前記アンボンド材を介して前記芯材の前記端部領域を押圧していることを特徴とする、座屈拘束ブレース。
【請求項2】
前記アンボンド材が、前記端部領域に対応する範囲にのみ設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項3】
前記広幅面の全幅をtとした際に、前記端部領域が該広幅面の端辺からt/3以下の範囲であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項4】
前記拘束材は、断面形状がコの字状もしくは略コの字状を呈し、
前記補剛材が、前記一対の拘束材のそれぞれの前記側片の外周面を包囲しながら、該側片に係合されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項5】
前記対向片の中央領域が、前記芯材と反対側へ張り出していることを特徴とする、請求項4に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項6】
前記拘束材は、断面形状が略コの字状を呈し、
前記一対の側片がそれぞれ、対応する前記補剛材と連続しており、
前記補剛材が、前記一対の拘束材のそれぞれの前記側片の外周面を包囲しながら、連続していない該側片に係合されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項7】
前記一対の拘束材のそれぞれの前記側片に対して、前記補剛材が溶接接合されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の座屈拘束ブレース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈拘束ブレースとその製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物架構(柱・梁架構、屋根架構等)を形成するブレースとして、座屈防止措置が講じられた座屈拘束ブレースが適用されている。座屈拘束ブレースとしては、鋼製の芯材の周囲を鋼板のみで補剛した形態、鋼製の芯材の周囲をRC(Reinforced Concrete:鉄筋コンクリート)で補剛した形態、鋼製の芯材の周囲を鋼材とモルタルで被覆した形態など、多様な補剛形態が存在する。
【0003】
ここで、特許文献1には、芯材が一対の角形鋼管により形成される拘束材にて拘束された座屈拘束ブレースに関し、芯材から押圧力を受けた拘束材に局部破壊を生じさせない座屈拘束ブレースが提案されている。具体的には、板状部の両端に他部材との接合のための接合部を有した芯材と、板状部の弱軸方向に直交する各面に対向して配置された拘束材とを備える座屈拘束ブレースである。
【0004】
この座屈拘束ブレースにおいて、板状部と拘束材との間には拘束材に接触する内挿板が設けられ、角形鋼管からなる拘束材はその各面部の交差箇所に曲面領域を有する角部を備えている。内挿板における拘束材と接触する側の面と拘束材の角部との間には、拘束材と内挿板を固定する溶接部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6445862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の座屈拘束ブレースによれば、既製の角形鋼管などの部材を拘束材として用いることが容易になり、高コスト化を招来することなく、芯材から押圧力を受けた拘束材の局部破壊を抑制することが可能になる。
【0007】
ところで、座屈拘束ブレースは、その両端部が建物架構の隅角部等に設けられているブラケットやガセットプレート等の接続治具に対してボルト接合等されることにより、建物架構に組み込まれることになる。そして、建物架構が地震時に変形した際には、地震時の水平力等の外力がブラケット等を介して座屈拘束ブレースの端部に入り、芯材の端部からその全域に外力が圧縮力等として伝達されることにより、芯材の全域が塑性変形することで地震時のエネルギー吸収性能が発揮されることになる。より具体的には、芯材に圧縮力が作用した際にその全域でその弱軸方向に高次モードの座屈(波状の変形)が生じることにより、芯材の全体を可及的均等に座屈させることで座屈拘束ブレースの全体の塑性変形性能を発揮することができる。
【0008】
特許文献1に記載の座屈拘束ブレースでは、上記する高次モードの座屈を生じさせるべく、ブチルゴム等の変形性能を有するアンボンド材を芯材の広幅面と拘束材の間の全域に介在させ、アンボンド材の厚みをクリアランスとして、芯材が圧縮力を受けた際にこのクリアランス内で高次モードの座屈を生じさせるようにしている。
【0009】
しかしながら、本発明者等による、座屈拘束ブレースを圧縮変形させる実験に基づく検証によれば、芯材の幅方向の端部領域のみが拘束材と摺動し、芯材の幅方向の中央領域は拘束材と摺動していないことが確認されている。この検証結果により、芯材が高次モードで座屈変形(圧縮変形)する際には、その幅方向の全域で座屈変形するといった従来一般の知見ではなく、端部領域のみが座屈変形するという新規の知見が見い出されている。従来の座屈拘束ブレースは、上記する従来一般の知見に基づき各構成部材の寸法や形状が設計されていることから、この新たな知見に基づく座屈拘束ブレースの提案が望まれる。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、芯材の圧縮変形の際に当該芯材の端部領域のみが拘束材と摺動する知見に基づき、アンボンド材が本来的に必要とされる範囲に配設されている、座屈拘束ブレースを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による座屈拘束ブレースの一態様は、
一対の広幅面と一対の狭幅面とを備える、鋼製でプレート状の芯材と、
前記一対の広幅面に対向する対向片と、該対向片の両端部にて屈曲して延びる一対の側片とを少なくとも備える、鋼製で一対の拘束材と、
前記狭幅面に対向し、前記一対の拘束材のそれぞれの前記側片に接合する、一対の補剛材と、
前記芯材の広幅面と前記拘束材の対向片との間で、かつ、該芯材の広幅面の少なくとも端部領域に対応する範囲に介在する、アンボンド材とを有し、
前記拘束材への前記補剛材の接合により該拘束材に付与される押圧力が、前記対向片から前記アンボンド材を介して前記芯材の前記端部領域を押圧していることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、一対の拘束材のそれぞれの側片への補剛材の接合により、該拘束材に付与される押圧力が拘束材の対向片から芯材の広幅面の端部領域を押圧する知見に基づき、当該押圧力が作用する芯材の端部領域に対応する範囲にアンボンド材を設けることにより、芯材の弱軸方向の高次モードの座屈変形を吸収するアンボンド材を、本来的に配置が必要とされる芯材の端部領域に限定することができる。このことにより、座屈拘束ブレースの合理的な構成を実現でき、構成要素の材料数量を低減して製作コストの削減を図ることができる。
【0013】
ここで、「芯材の広幅面の少なくとも端部領域に対応する範囲にアンボンド材が介在する」とは、芯材の端部領域に対応する範囲のみにアンボンド材が設けられている形態の他に、端部領域よりも広い領域に対応する範囲にアンボンド材が設けられている形態、さらには、芯材の全域に対応する範囲にアンボンド材が設けられている形態も含まれる。また、アンボンド材は、ブチルゴム等からなる定型のアンボンド材の他に、潤滑剤と合成樹脂の混合材等が含まれる。例えば、流動性のあるブチルゴム等からなるアンボンド材が適用される場合は、設計上は端部領域に対応する範囲のみにアンボンド材が設けられることで足りるものの、この流動性を勘案してより広範囲にアンボンド材が設けられてよい。
【0014】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
前記アンボンド材が、前記端部領域に対応する範囲にのみ設けられていることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、アンボンド材が端部領域に対応する範囲にのみ設けられていることにより、座屈拘束ブレースの合理的な構成を実現でき、構成要素の材料数量を低減して製作コストの削減を図ることができる。
【0016】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
前記広幅面の全幅をtとした際に、前記端部領域が該広幅面の端辺からt/3以下の範囲であることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、広幅面の全幅tに対して、端部領域が広幅面の端辺からt/3以下の範囲であることにより、芯材が弱軸方向に座屈変形する際に拘束材と摺動する可能性のある範囲に対してアンボンド材を設けることができる。この端部領域に対応する範囲は、本発明者等による検証結果に基づくものであり、より詳細には、広幅面の端辺からt/4程度かそれ以下の範囲を端部領域に対応する範囲としてよい。
【0018】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、
前記拘束材は、断面形状がコの字状もしくは略コの字状を呈し、
前記補剛材が、前記一対の拘束材のそれぞれの前記側片の外周面を包囲しながら、該側片に係合されていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、補剛材が、断面形状がコの字状もしくは略コの字状の拘束材の側片の外周面を包囲しながら当該側片に係合されていることにより、この係合により補剛材から拘束材に付与される押圧力が、拘束材の対向片から芯材の広幅面の端部領域を効果的に押圧することができる。また、例えば補剛材の端部を曲げ加工により拘束材に接合することから、拘束材に対して補剛材を溶接接合する場合と比較して、製作性の向上と製作コストの削減を図ることができる。
【0020】
ここで、「略コの字状」とは、コの字状を形成する一対の側片の端部が屈曲して、内側へ延びている形状等を意味する。断面形状がコの字状の補剛材は、例えば溝形鋼等により形成され、略コの字状の補剛材は、リップ付き溝形鋼等により形成される。
【0021】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、
前記対向片の中央領域が、前記芯材と反対側へ張り出していることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、補剛材が、断面形状がコの字状もしくは略コの字状の拘束材の側片の外周面を包囲しながら当該側片に係合されていることに加えて、さらに、対向片の中央領域が芯材と反対側へ張り出していることにより、補剛材から拘束材に付与される押圧力が、拘束材の対向片から芯材の広幅面の端部領域を効果的に押圧できることに加えて、断面形状がコの字状等の拘束材の断面剛性を高めることができる。すなわち、拘束材の対向片のうち、芯材の拘束に寄与していない中央領域を拘束材の断面剛性の向上に寄与させることができて好ましい。
【0023】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、
前記拘束材は、断面形状が略コの字状を呈し、
前記一対の側片がそれぞれ、対応する前記補剛材と連続しており、
前記補剛材が、前記一対の拘束材のそれぞれの前記側片の外周面を包囲しながら、連続していない該側片に係合されていることを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、一対の側片が対応する補剛材と連続して、補剛材が一対の拘束材のそれぞれの側片の外周面を包囲しながら連続していない側片に係合されていることにより、実質的に2つの部材により一対の拘束材と一対の補剛材を形成しながら、補剛材の他方の拘束材の側片への係合により当該拘束材に付与される押圧力にて、対向片から芯材の広幅面の端部領域を効果的に押圧することができる。
【0025】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
前記一対の拘束材のそれぞれの前記側片に対して、前記補剛材が溶接接合されていることを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、一対の拘束材のそれぞれの側片に対して補剛材が溶接接合されていることにより、この溶接接合により補剛材から拘束材に付与される押圧力が、拘束材の対向片から芯材の広幅面の端部領域を効果的に押圧することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上の説明から理解できるように、本発明の座屈拘束ブレースとその製作方法によれば、芯材の圧縮変形の際に当該芯材の端部領域のみが拘束材と摺動する知見に基づき、アンボンド材が本来的に必要とされる範囲に配設されている座屈拘束ブレースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第1実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の分解斜視図である。
図2】第1実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図である。
図3図2のIII-III矢視図であって、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の軸直交方向の縦断面図であり、補剛材から拘束材に付与された押圧力が、芯材の端部領域を押圧している状態をともに示す図である。
図4】第2実施形態に係る座屈拘束ブレースの軸直交方向の縦断面図である。
図5】第3実施形態に係る座屈拘束ブレースの軸直交方向の縦断面図である。
図6】第4実施形態に係る座屈拘束ブレースの軸直交方向の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、各実施形態に係る座屈拘束ブレースについて添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0030】
[第1実施形態に係る座屈拘束ブレース]
はじめに、図1乃至図3を参照して、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例について説明する。ここで、図1は、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の分解斜視図であり、図2は、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図である。また、図3は、図2のIII-III矢視図であって、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の軸直交方向の縦断面図であり、補剛材から拘束材に付与された押圧力が、芯材の端部領域を押圧している状態をともに示す図である。
【0031】
座屈拘束ブレース100は、芯材10と、芯材10の有する二つの広幅面10aに対向するように配設されている一対の拘束材30と、芯材10と拘束材30の間に介在するアンボンド材20とを有する。ここで、図示例の他に、アンボンド材20と拘束材30の間に内挿板が介在する形態であってもよい。
【0032】
芯材10は、SN材(建築構造用圧延鋼材)や、LYP材(極低降伏点鋼材)等の降伏点の低い鋼材にて形成されているのが好ましく、これらの材料からなる芯材10を適用することにより、芯材10の降伏による地震エネルギー吸収性が良好になる。
【0033】
座屈拘束ブレース100は、その両端部が建物架構の隅角部等に設けられている接続治具に対してボルト接合等されることにより、建物架構に組み込まれる。そして、建物架構が地震時に変形した際には、地震時の水平力等の外力が接続治具を介して座屈拘束ブレース100の端部に入り、芯材10の端部からその全域に外力が圧縮力として伝達されることにより、芯材10の全域が塑性変形することで地震時のエネルギー吸収性能が発揮されることになる。言い換えると、芯材10に圧縮力が作用した際に芯材10の全域でその弱軸方向に高次モードの座屈(波状の変形)が生じることにより、芯材10の全体を可及的均等に座屈させることで座屈拘束ブレース100の全体の塑性変形性能を発揮することができる。
【0034】
芯材10は、細長の鋼板により形成され、その長手方向の中央側において広幅面10aの幅が相対的に狭い狭幅部11を有し、その長手方向の端部側において広幅面10aの幅が相対的に広い広幅部12を有している。
【0035】
芯材10がその長手方向の中央側に狭幅部11を有し、長手方向の端部側に広幅部12を有することにより、中央側の狭幅部11を塑性化し易い領域とすることができ、さらに、塑性化領域を中央側の狭幅部11に限定させることができる。
【0036】
芯材10の狭幅部11の中央位置において、狭幅部11の二つの広幅面10aには、鋼製で円柱状の突起15が張り出している。突起15は、狭幅部11の広幅面10aに対して溶接等により接合されている。
【0037】
また、芯材10の狭幅部11の突起15の両側には、細長のスリット14が設けられており、スリット14には、鋼製のスペーサー17がX1方向に挿通されるようになっている。
【0038】
スリット14は、芯材10の耐力調整用の細孔であり、スペーサー17は、芯材10がスリット14を設けたことにより内部へ変形すること(強軸方向への変形)を防止する内部変形防止材として機能する。スリット14に挿通されたスペーサー17は、一対の拘束材30により位置規制される。
【0039】
芯材の両端にある広幅部12には、その広幅面10aに直交して他部材に接合される、一対の鋼板からなる接合板13が溶接等により接合されている。
【0040】
広幅部12と接合板13にはそれぞれボルト孔12a,13aが設けられており、不図示の建物架構の隅角部等から構面内に張り出すブラケットやガセットプレート等の接続治具(他部材)のボルト孔と位置合わせされ、ボルト接合されるようになっている。
【0041】
一対の接合板13に対して鋼板からなる補強板18が溶接等により接合され、芯材10の広幅部12と一対の接合板13と補強板18とにより形成される空間に、拘束材30の端部が収容されるようになっている。
【0042】
アンボンド材20は、ブチルゴム等からなる定型の市販品を切断加工等することにより形成される。また、その他、潤滑剤と合成樹脂の混合材を塗工することより形成されてもよい。
【0043】
例えば、混合材を適用する場合において、潤滑剤としては、固体潤滑剤と液体潤滑剤があり、固体潤滑剤には、二硫化モリブデン(MoS2)やグラファイト(黒鉛)、フッ素樹脂(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)などが挙げられ、摩擦面に固体潤滑膜が形成されることにより、摩擦面材料の直接接触を抑制してかじりの発生を抑制できる。一方、液体潤滑剤としては、潤滑油が挙げられる。また、合成樹脂(塗料)には、エポキシ樹脂やシリコン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、塩化ゴム樹脂、ケイ素樹脂、フェノール樹脂、フタル酸樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。尚、潤滑剤と合成樹脂の混合材により形成されるアンボンド材20は、摩擦係数:μ=0.04と低摩擦を実現でき、300℃程度の耐熱温度を実現できる。
【0044】
図1は、拘束材30の対向片31に対して、アンボンド材20をX2方向に模式的に取り付ける態様で図示している。尚、アンボンド材20が混合材の塗工により形成される場合は、対向片31に混合材が塗布等されることによりアンボンド材20が形成されることになる。尚、アンボンド材20は、芯材10の広幅面10aに取り付けられてもよいし、さらに芯材10の左右の狭幅面10bに取り付けられてもよい。
【0045】
拘束材30の対向片31に対して、対向片31よりも幅の狭い2本のアンボンド材20が取り付けられる。具体的には、以下で詳説するように、拘束材30の対向片31と同程度の幅を有する芯材10の全幅の1/3以下の幅を有するアンボンド材20が、対向片31の左右の端部領域に取り付けられることになる。
【0046】
座屈拘束ブレース100を形成する拘束材30は、断面視矩形の角形鋼管により形成されている。拘束材30のうち、アンボンド材20が形成される側面には、芯材10の突起15が嵌まり込む突起孔30aが設けられている。
【0047】
芯材10の狭幅面10bの側方において、一対の拘束材30のそれぞれの側片32同士は、一対の鋼板からなる補剛材50が溶接接合されることにより、補剛材50を介して相互に繋がれる。
【0048】
より詳細には、図3に示すように、一対の拘束材30の対応する側片32に跨がる補剛材50の端部を、例えばそれぞれの側片32に対して隅肉溶接することにより、溶接部52を介して補剛材50と側片32が接合される。
【0049】
対向片31のうち、芯材10の全幅をtとした際に、中央領域10dの左右にある、端部領域10cの幅(端辺(狭幅面10b)からの幅)はt/3以下に設定されており、拘束材30の対向片31における端部領域10cに対応する範囲に、アンボンド材20が取り付けられている。
【0050】
そして、拘束材30の側片32に対して補剛材50を溶接接合した際に、側片32に付与される押圧力Qが対向片31の端部に伝達され、対向片31の端部から分布荷重qとしてアンボンド材20を芯材10側へ押圧する。
【0051】
本発明者等による、座屈拘束ブレースを圧縮変形させる実験に基づく検証によれば、芯材10の幅方向の端部領域10cのみが拘束材30の対向片31と摺動し、芯材10の幅方向の中央領域10dは対向片31と摺動していないことが確認されている。より具体的には、芯材10の全幅が38mmである場合に、左右端から5mm乃至10mmの範囲内に拘束材30との摺動が集中している結果が得られている。
【0052】
例えば、芯材10に引張力と圧縮力が作用する場合の金属粒子の流れは次のように考察することができる。すなわち、芯材に圧縮力が作用する場合は、芯材を構成する金属粒子が順番に引っ張り合いながら周囲の金属粒子を引き連れていき、芯材の幅方向や厚み方向に関係なく、滑りながら金属配列が不規則に流れ、芯材が変形する。これに対して、芯材10に圧縮力が作用する場合は、既に靱性が失われ、金属粒子の配列がばらばらになっている金属粒子を逆流させることができず、芯材が曲がることで逃げようとする。しかしながら、芯材の側方端部には金属粒子が残っていることから十分に曲がることができず、金属粒子は逆方向への移動を余儀なくされる。そして、僅かな変位で圧縮力が芯材の端部に伝達されると同時に金属粒子が端部に到達し、新たな曲げが誘発され、これが繰り返されることで圧縮力が吸収されることになる。
【0053】
このように、芯材10が圧縮変形する際には、芯材10の端部領域10cにおける金属粒子の流動が顕著となり、主として端部領域10cに高次モードの座屈変形が生じることになると考えられる。
【0054】
この検証結果により、芯材10が高次モードで座屈変形(図3の紙面奥行き方向に生じる高次の変形)する際には、その幅方向の全域で座屈変形するといった従来一般の知見ではなく、端部領域10cのみが座屈変形するという新規の知見が見い出されている。
【0055】
この知見に基づき、芯材10の端部領域10cに相当する範囲にアンボンド材20を限定的に配設し、かつ、拘束材30と補剛材50を接合する際に拘束材30に付与される押圧力Qを、拘束材30から分布荷重qとしてアンボンド材20を介して芯材10の端部領域10cに作用させる構成としている。
【0056】
この構成により、芯材10の圧縮変形の際に生じる高次モードの座屈変形がアンボンド材にて吸収されることとなり、必要最小限のアンボンド材20を備えた合理的な構造の座屈拘束ブレース100を形成することが可能になる。
【0057】
尚、アンボンド材20は、t/3以下の範囲の例えばt/4程度やさらにそれよりも短い範囲に設定されてもよいし、必要に応じて、t/3よりも広幅に設定されてもよく、従来構造のように全幅tのアンボンド材が適用されてもよい。
【0058】
[第2乃至第4実施形態に係る座屈拘束ブレース]
次に、図4乃至図6を参照して、第2乃至第4実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例について説明する。ここで、図4乃至図6はそれぞれ、第2実施形態、第3実施形態、及び第4実施形態に係る座屈拘束ブレースの軸直交方向の縦断面図である。
【0059】
まず、図4に示す座屈拘束ブレース100Aは、断面形状が略コの字状の拘束材30Aを備え、同様に断面形状が略コの字状の補剛材50Aが、一対の拘束材30Aのそれぞれの側片32の外周面を包囲しながら、側片32の端部にあるリップ部33に対して補剛材50Aの曲げ加工部54が係合することにより、拘束材30Aと補剛材50Aが接合されている。
【0060】
拘束材30Aは、例えばリップ付き溝形鋼により形成される。この拘束材30Aのリップ部33に対して、コの字状の補剛材50Aが嵌め込まれた後、その端部が曲げ加工されて曲げ加工部54が形成されることにより、図示例の係合構造が形成される。
【0061】
そして、リップ部33と曲げ加工部54の接合により、拘束材30Aの側片32には押圧力Qが付与され、押圧力Qが対向片31に伝達された後、アンボンド材20を芯材10の端部領域10cを分布荷重qにて押し込むこととなる。
【0062】
座屈拘束ブレース100Aによれば、補剛材50Aの端部を曲げ加工により拘束材30Aに接合することから、拘束材に対して補剛材を溶接接合する場合と比較して、製作性の向上と製作コストの削減を図ることができる。
【0063】
一方、図5に示す座屈拘束ブレース100Bは、拘束材30Bを構成する対向片31における芯材10の中央領域10dに対応する領域が、芯材10と反対側へ張り出している張り出し部34を備えている点において、座屈拘束ブレース100Aと相違する。
【0064】
座屈拘束ブレース100Bによれば、座屈拘束ブレース100Aと同様の効果が奏されることに加えて、座屈拘束ブレース100Aにおける断面形状が略コの字状の拘束材30Aの断面剛性をさらに高めることができる。そして、拘束材30Bの対向片31のうち、芯材10の拘束に寄与していない中央領域34を拘束材30Bの断面剛性の向上に寄与させることができる。
【0065】
また、図6に示す座屈拘束ブレース100Cは、断面形状が略コの字状を呈する拘束材30Cが一方の側片32,35を備え、一方の側片35が折れ曲がり部36を介して対応する補剛材50Bと連続しており、この補剛材50Bが、拘束材30Cの側片35の外周面を包囲しながら、その端部にある曲げ加工部54が、連続していない他方の拘束材30Cの側片32に係合している。すなわち、実質的に2つの部材により一対の拘束材30Cと一対の補剛材50Bを形成しながら、補剛材50Bの他方の拘束材30Cの側片32への係合によって当該拘束材30Cに付与される押圧力Qにて、対向片31からアンボンド材20が押圧される。
【0066】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0067】
10:芯材
10a:広幅面
10b:狭幅面
10c:端部領域
10d:中央領域
11:狭幅部
12:広幅部
12a:ボルト孔
13:接合板
13a:ボルト孔
14:スリット
15:突起
17:スペーサー
18:補強板
20:アンボンド材
30,30A,30B,30C:拘束材
30a:突起孔
31:対向片
32,35:側片
33:リップ部
34:張り出し部 (中央領域)
36:折れ曲がり部
50,50A,50B:補剛材
52:溶接部
54:曲げ加工部
100,100A,100B,100C:座屈拘束ブレース
Q,q:押圧力
図1
図2
図3
図4
図5
図6