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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014261
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】車両内装用布帛
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/83 20060101AFI20240125BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20240125BHJP
   D06M 13/282 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
D06M11/83
D06M15/564
D06M13/282
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116955
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】白▲崎▼ 達也
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4L031AA18
4L031AB33
4L031BA04
4L031DA12
4L033AA07
4L033AB06
4L033AC05
4L033BA35
4L033CA50
4L033DA00
(57)【要約】
【課題】車両内装材用途に適した難燃性と、抗菌・抗ウイルス性を有する車両内装用布帛を提供する。
【解決手段】実施形態に係る車両内装用布帛は、布帛のオモテ面に、銀を含む抗菌・抗ウイルス剤と第1バインダー樹脂とが付与され、前記布帛のウラ面に、常温で固体のリン系難燃剤が付与されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛のオモテ面に、銀を含む抗菌・抗ウイルス剤と第1バインダー樹脂とが付与され、前記布帛のウラ面に、常温で固体のリン系難燃剤が付与されている、車両内装用布帛。
【請求項2】
前記銀を含む抗菌・抗ウイルス剤の付着量は、0.5~8g/mである、請求項1に記載の車両内装用布帛。
【請求項3】
前記第1バインダー樹脂の付着量は、0.05~8g/mである、請求項1に記載の車両内装用布帛。
【請求項4】
前記銀を含む抗菌・抗ウイルス剤に対する前記第1バインダー樹脂の固形分質量比は、10~100質量%である、請求項1に記載の車両内装用布帛。
【請求項5】
前記リン系難燃剤の付着量は、0.15~9g/mである、請求項1に記載の車両内装用布帛。
【請求項6】
前記リン系難燃剤の融点は、100℃以上である、請求項1に記載の車両内装用布帛。
【請求項7】
前記リン系難燃剤の水への溶解度は、0.5g/100g-HO以下である、請求項1に記載の車両内装用布帛。
【請求項8】
前記布帛のウラ面に、第2バインダー樹脂が付与されている、請求項1に記載の車両内装用布帛。
【請求項9】
前記第1バインダー樹脂および前記第2バインダー樹脂に対する前記リン系難燃剤の固形分質量比は、100~400質量%である、請求項8に記載の車両内装用布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両内装用布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や電車などにおける座席シート材や天井材などの車両内装材として用いられる布帛には、難燃性が求められている。また、近年、環境衛生に対する意識の高まりと関連して、車両内装材として用いられる布帛には、抗菌・抗ウイルス性も求められている。
【0003】
布帛に難燃性と抗菌・抗ウイルス性を付与する方法としては、難燃剤と、抗菌剤や抗ウイルス剤などの機能付与剤を併用することが一般的である。しかしながら、難燃剤と抗菌剤、抗ウイルス剤の組み合わせによっては、難燃性能の阻害や、抗菌剤、抗ウイルス剤の機能性を低下させることが知られており、抗菌剤、抗ウイルス剤の機能を低下させず高い難燃性能が得られる布帛が求められている。
【0004】
特許文献1には、分散剤(A成分)100重量部、有機リン化合物(B成分)1~300重量部、および機能材料(C成分)0.0001~900重量部を含む繊維用防炎加工剤と、この繊維用防炎加工剤を繊維製品に対して固形分として3~150重量%付着させることによって得られた防炎繊維製品が開示されている。分散剤(A成分)は、水、有機溶剤または樹脂である。機能材料(C成分)は抗菌剤および/または防菌剤である。そして、これにより、高度な防炎性、および良好な物性(耐光性、耐熱性、風合い)を有する繊維用防炎加工剤と、物性および各種機能材料による機能性を低下させることがない防炎繊維製品を提供されると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-187317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の防炎繊維製品では、A成分、B成分、C成分は全て混合された状態で布帛に付与されている。そのため、機能材料の機能性能の低下や難燃性の低下が抑制されているものの、車両内装用途においてはまだ改善の余地がある。
【0007】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、良好な風合いとともに、車両内装材用途に適した難燃性と、抗菌・抗ウイルス性を有する車両内装用布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 布帛のオモテ面に、銀を含む抗菌・抗ウイルス剤と第1バインダー樹脂とが付与され、前記布帛のウラ面に、常温で固体のリン系難燃剤が付与されている、車両内装用布帛。
[2] 前記銀を含む抗菌・抗ウイルス剤の付着量は、0.5~8g/mである、[1]に記載の車両内装用布帛。
[3] 前記第1バインダー樹脂の付着量は、0.05~8g/mである、[1]に記載の車両内装用布帛。
[4] 前記銀を含む抗菌・抗ウイルス剤に対する前記第1バインダー樹脂の固形分質量比は、10~100質量%である、[1]に記載の車両内装用布帛。
[5] 前記リン系難燃剤の付着量は、0.15~9g/mである、[1]に記載の車両内装用布帛。
[6] 前記リン系難燃剤の融点は、100℃以上である、[1]に記載の車両内装用布帛。
[7] 前記リン系難燃剤の水への溶解度は、0.5g/100g-HO以下である、[1]に記載の車両内装用布帛。
[8] 前記布帛のウラ面に、第2バインダー樹脂が付与されている、[1]に記載の車両内装用布帛。
[9] 前記第1バインダー樹脂および前記第2バインダー樹脂に対する前記リン系難燃剤の固形分質量比は、100~400質量%である、[8]に記載の車両内装用布帛。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、良好な風合いとともに、車両内装材用途に適した難燃性と、抗菌・抗ウイルス性を有する車両内装用布帛を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る車両内装用布帛は、布帛のオモテ面に、銀を含む抗菌・抗ウイルス剤と第1バインダー樹脂とが付与され、前記布帛のウラ面に、常温で固体のリン系難燃剤が付与されている。布帛の「オモテ面」とは、布帛の表裏のうち、使用時に目に見える方の面(意匠面)をいう。布帛の「ウラ面」とは、使用時に目に見える方の面(意匠面)の反対側の面をいい、車両内装材として用いた場合に、車室内空間と接しない方の面である。
【0011】
本実施形態において用いられる布帛としては、特に限定されず、車両内装材として使用されている各種の繊維質布帛を用いることができる。布帛の形態としては、特に限定されるものでなく、例えば、織物、編物、不織布が挙げられる。布帛は、染料又は顔料により着色されたものであってもよく、着色されていないものであってもよい。
【0012】
布帛を構成する繊維素材は特に限定されるものでなく、従来公知の天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維などを用いることができる。これらは1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、耐久性、特には機械的強度、耐熱性、耐光性の観点から、繊維素材は合成繊維が好ましく、ポリエステル繊維がより好ましい。
【0013】
布帛の単位面積当たりの質量は、特に限定されないが、100~600g/mであることが好ましく、より好ましくは150~500g/mである。
【0014】
本実施形態において用いられる抗菌・抗ウイルス剤は、銀を含む。銀を含む抗菌・抗ウイルス剤としては、特に限定されず、例えば、銀を含有する酸化物、塩化物、硫化物、ヨウ化物、または銀もしくは銀イオンを担体に担持したものが挙げられる。ここで担体の具体例としては、ゼオライト、粘土鉱物、ケイ酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、リン酸チタニウム、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、シリカゲル、アルミナ、ガラス、活性炭等が挙げられる。
【0015】
抗菌・抗ウイルス剤における銀の含有量は、1質量%以下であることが好ましい。これにより、良好な耐変色性を得やすい。得られた布帛の熱や光による変色を防ぎやすい。
【0016】
上記を満たす銀を含む抗菌・抗ウイルス剤としては、Zeomic WHW10NS(株式会社シナネンゼオミック)、ノバロンIV1000(東亞合成株式会社)などが挙げられる。
【0017】
車両内装用布帛に対する銀を含む抗菌・抗ウイルス剤の付着量は、0.5~8g/mであることが好ましく、より好ましくは0.7~4g/mである。下限値以上であることにより、十分な抗菌・抗ウイルス性能を得やすい。上限値以下であることにより、良好な耐変色性を得やすい。得られた布帛の熱や光による経年劣化による変色を防ぎやすい。また、難燃性能の低下を抑制しやすい。
【0018】
本実施形態において用いられる第1バインダー樹脂としては、抗菌・抗ウイルス剤を布帛に付着させるためのバインダーとして機能する樹脂を用いることができ、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらはいずれか1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。難燃性の観点から、好ましくはウレタン樹脂が用いられる。
【0019】
ウレタン樹脂の具体例としては、エバファノールHA-170(日華化学株式会社)、ハイドランHW920(DIC株式会社)などが挙げられる。
【0020】
上記第1バインダー樹脂には、溶媒、増粘剤などの種々の添加剤を含んでもよい。
【0021】
車両内装用布帛に対する第1バインダー樹脂の付着量は、0.05~8g/mであることが好ましく、より好ましくは0.18~0.7g/mである。下限値以上であることにより、摩耗などにより抗菌・抗ウイルス剤が脱落し、抗菌・抗ウイルス性能の耐久性が損なわれることを抑制できる。上限値以下であることにより、第1バインダー樹脂中に抗菌・抗ウイルス剤が埋没することを抑制できるため、その性能を十分に発揮しやすい。ここで、該第1バインダー樹脂の付着量には、上記添加剤の量は含まれない。また、該第1バインダー樹脂の付着量には、後述する難燃剤を付着させるために用いるバインダー樹脂の量は含まれない。すなわち、布帛の厚み方向において少なくともオモテ面側に付与される上記第1バインダー樹脂は、布帛のウラ面のみに付与される第2バインダー樹脂とは区別して考える。
【0022】
銀を含む抗菌・抗ウイルス剤に対する第1バインダー樹脂の固形分質量比は、10~100質量%であることが好ましく、より好ましくは12~36質量%である。下限値以上であることにより、抗菌・抗ウイルス性能の耐久性の向上効果を高めることができる。摩耗などにより抗菌・抗ウイルス剤が脱落し、抗菌・抗ウイルス性能の耐久性が損なわれることを抑制することができる。上限値以下であることにより、第1バインダー樹脂中に抗菌・抗ウイルス剤が埋没することを抑制できるため、その性能を十分に発揮しやすい。
【0023】
本実施形態において用いられるリン系難燃剤は、リン原子を有する有機化合物である。リン系難燃剤は常温で固体であれば、その種類は限定されず、例えば、リン酸グアニジン系難燃剤、芳香族リン酸エステル系難燃剤、芳香族縮合リン酸エステル系難燃剤、ポリリン酸アンモニウム系難燃剤、リン酸カルバネート系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、リン酸エチルアミド系難燃剤などが挙げられる。これらはいずれか1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。リン系難燃剤を付与することにより、バインダー樹脂による難燃性低下を抑制することができる。リン系難燃剤が常温で固体であることにより、抗菌・抗ウイルス剤がリン系難燃剤に被覆されることを抑制することができるため、抗菌・抗ウイルス性能の低下を抑制することができる。なお、「常温で固体」とは、車両内装用布帛が用いられる一般的な環境温度、具体的には、5~35℃の範囲において、流動性のない状態をいう。
【0024】
リン系難燃剤の融点は、100℃以上であることが好ましく、より好ましくは150℃以上であり、さらに好ましくは250℃以上である。下限値以上であることにより、熱処理などの加工工程において、リン系難燃剤が溶融して抗菌・抗ウイルス剤を被覆することを抑制することができるため、抗菌・抗ウイルス性能の低下を抑制することができる。また、同様の理由により、抗菌・抗ウイルス性能の耐久性、特には耐熱老化後の抗菌・抗ウイルス性能の低下を抑制することができる 。
【0025】
リン系難燃剤の融点は、以下の方法で測定することができる。すなわち、試料を熱重量・示差走査熱量同時測定装置計(STA 449 F3 Jupiter、ネッチ・ジャパン株式会社)にセットし、加熱速度1℃/分にて昇温した際の吸熱ピークを測定する。試料は2点準備し、それぞれの吸熱ピークの温度を測定し、これらの平均値を融点とする。
【0026】
リン系難燃剤の水への溶解度は、0.5g/100g-HO以下であることが好ましく、より好ましくは0.1g/100g-HO以下である。上限値以下であることにより、布帛に処理するための混合水溶液を作製した際に、リン系難燃剤が液状化して抗菌・抗ウイルス剤を被覆することを抑制することができるため、抗菌・抗ウイルス性能の低下を抑制することができる。
【0027】
リン系難燃剤の水への溶解度は、以下の方法で測定することができる。すなわち、25℃の100gの水に、リン系難燃剤を加えていき、水に溶解するリン系難燃剤の限界量(Ag)を測定し、限界量(Ag)をリン系難燃剤の水への溶解度とする。
【0028】
上記を満たす、リン系難燃剤の具体例としては、ダイガード850(大八化学工業株式会社)、ファイヤガードFCX-210(帝人化成株式会社)などが挙げられる。
【0029】
車両内装用布帛に対するリン系難燃剤の付着量は、0.15~9g/mであることが好ましく、より好ましくは0.2~4g/mである。下限値以上であることにより、車両内装用途として十分な難燃性を得やすい。上限値以下であることにより、良好な風合いを得やすい。得られた布帛の風合いが粗硬になることを抑制することができる。
【0030】
リン系難燃剤は、第2バインダー樹脂を用いて布帛に付着させてもよい。第2バインダー樹脂を用いることにより、難燃剤の脱落を抑制することができる。第2バインダー樹脂としては、難燃剤を布帛に付着させるためのバインダーとして機能する樹脂を用いることができ、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、塩化ビニル樹脂などが挙げられる。これらはいずれか1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。難燃性の観点から、好ましくはウレタン樹脂が用いられる。
【0031】
車両内装用布帛に対する第2バインダー樹脂の付着量は、8g/m以下であることが好ましく、より好ましくは1g/m以下である。上限値以下であることにより、良好な風合いを得やすい。得られた布帛の風合いが粗硬になることを抑制できる。
【0032】
バインダー樹脂(第1バインダー樹脂および第2バインダー樹脂)に対するリン系難燃剤の固形分質量比は、100~400質量%であることが好ましく、より好ましくは140~290質量%である。下限値以上であることにより、車両内装用途として十分な難燃性を得やすい。上限値以下であることにより、良好な風合いを得やすい。得られた布帛の風合いが粗硬になることを抑制できる。
【0033】
本実施形態に係る車両内装用布帛の製造方法は、特に限定されない。一実施形態に係る製造方法は、(1)銀を含む抗菌・抗ウイルス剤と第1バインダー樹脂を、布帛のオモテ面に付与する工程と、(2)常温で固体のリン系難燃剤を、布帛のウラ面に付与する工程とを、この順で含む。常温で固体のリン系難燃剤は、第2バインダー樹脂を用いて付与されてもよい。このように、抗菌・抗ウイルス剤とリン系難燃剤とが異なる面に付与されるため、車両内装材用途に適した難燃性と、抗菌・抗ウイルス性とを得ることができる。
【0034】
上記(1)の工程では、銀を含む抗菌・抗ウイルス剤と第1バインダー樹脂を、布帛のオモテ面に付与する。銀を含む抗菌・抗ウイルス剤と第1バインダー樹脂には、必要に応じて、高極性溶媒などの溶媒を含有させることができる。溶媒としては、環境負荷の観点から、好ましくは水が用いられる。また、本発明の効果を損なわない範囲内で、柔軟剤、帯電防止剤、糸切れ防止剤などの他の機能性成分を添加してもよい。
【0035】
銀を含む抗菌・抗ウイルス剤と第1バインダー樹脂を布帛のオモテ面に付与する方法としては、従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、ディッピング法、コーティング法、スプレー法、捺染などが挙げられる。なかでも、布帛に抗菌・抗ウイルス剤を均一に付与することが可能であるという点で、ディッピング法による付与が好ましい。
【0036】
銀を含む抗菌・抗ウイルス剤と第1バインダー樹脂を布帛のオモテ面に付与する方法としてディッピング法を用いる場合、ピックアップ率は特に限定されず、30~110質量%であることが好ましい。ピックアップ率がこの範囲であることにより、所望の量をムラなく付与することができる。
【0037】
銀を含む抗菌・抗ウイルス剤と第1バインダー樹脂を布帛のオモテ面に付与した後、必要に応じて熱処理を行う。熱処理は、溶媒を用いる場合にあっては、溶媒を蒸発させ、樹脂を乾燥させるために行われる。また、熱処理によって架橋反応を起こす触媒や架橋剤を用いる場合や、二液硬化型の樹脂を用いる場合にあっては、反応を促進し、十分な強度を有する皮膜を形成するために行われる。熱処理温度は、例えば100~190℃でもよく、130~170℃でもよい。熱処理時間は1~3分間でもよく、2~3分間でもよい。
【0038】
上記(2)の工程では、常温で固体のリン系難燃剤を、布帛のウラ面に付与する。リン系難燃剤を布帛のウラ面にのみ付与することにより、オモテ面は布帛本来の触感や外観が維持されているため、使用感に優れたものとなる。また、仮に白化やチョークマークが発生したとしても、裏面での発生にとどまるため、実用上、大きな問題となることがない。
【0039】
常温で固体のリン系難燃剤を、布帛のウラ面に付与する方法としては、従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、コーティング法、スプレー法などが挙げられる。なかでも、難燃剤を所望の位置に付与し、抗菌・抗ウイルス性能を阻害しにくいという観点から、スプレー法が好ましく、難燃剤を所望の量付与でき、且つ、工程負荷(乾燥時間が短い)が少ないという観点から、コーティング法が好ましく、グラビアコーティング法がより好ましい。
【0040】
常温で固体のリン系難燃剤は、単独で付与されてもよく、第2バインダー樹脂を用いて付与されてもよい。後述の熱処理温度より、リン系難燃剤の融点が低い場合は、熱処理において、リン系難燃剤が溶融し、布帛に固着される。後述の熱処理温度より、リン系難燃剤の融点が高い場合は、第2バインダー樹脂を用いることが好ましい。第2バインダー樹脂を用いることにより、難燃剤の脱落を防止することができる。第2バインダー樹脂を用いる場合、更に必要に応じて、高極性溶媒などの溶媒を含有させることができる。溶媒としては、環境負荷の観点から、好ましくは水が用いられる。また、本発明の効果を損なわない範囲内で、柔軟剤、導電材、撥水剤、消臭剤などの他の機能性成分を添加してもよい。
【0041】
常温で固体のリン系難燃剤を布帛のウラ面に付与した後、必要に応じて熱処理を行う。熱処理は、溶媒を用いる場合にあっては、溶媒を蒸発させ、樹脂を乾燥させるために行われる。また、熱処理によって架橋反応を起こす触媒や架橋剤を用いる場合や、二液硬化型の樹脂を用いる場合にあっては、反応を促進し、十分な強度を有する皮膜を形成するために行われる。熱処理温度は、例えば100~190℃でもよく、130~170℃でもよい。熱処理時間は1~3分間でもよく、2~3分間でもよい。
【0042】
本実施形態に係る車両内装用布帛であると、布帛のオモテ面に銀を含む抗菌・抗ウイルス剤が付与され、布帛のウラ面に常温で固体のリン系難燃剤が付与されている。これにより、車両内装材用途に適した難燃性と、抗菌・抗ウイルス性が得られる。
【0043】
本実施形態に係る車両内装用布帛の用途は、特に限定されない。用途の具体例としては、自動車用シート、天井材、ダッシュボード、ドア内張材又はハンドルなどの自動車内装材をはじめとする各種車両のための内装材用途が挙げられる。
【0044】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【実施例0045】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
各評価項目は、以下の方法に従った。
【0047】
[難燃性]
FMVSS302(自動車内装材用燃焼性試験)に準拠して測定した。燃焼速度が100mm/分以下を合格とした。
【0048】
[抗菌性]
JIS L1902 8.1(菌液吸収法)に準拠して測定した。抗菌活性値が2.2以上を合格とした。
【0049】
[抗ウイルス性]
菌種をインフルエンザウイルス(H3N2)のみ用いたこと以外は、JIS L1922 13.1(プラーク測定法)に準拠して測定した。抗ウイルス活性値が2.0以上を合格とした。
【0050】
[耐変色性]
幅100mm、長さ100mmの大きさの試験片を車両内装用布帛から2枚採取した。広口試薬瓶(共栓付250mL瓶、硬質ガラス製)の中に採取した試験片の一枚を試薬瓶の側面に沿わせて入れ、110℃に調整された乾燥機内に400時間静置して熱処理した。熱処理後、試薬瓶を乾燥機から取り出し室温まで冷却した後、試験片を試薬瓶から取り出した。熱処理前(熱処理していない方の試験片)及び熱処理後の試験片について、色彩色差計(CR-400、コニカミノルタジャパン株式会社)を用いて、観察光源D65にて測色し、色差(ΔE)を求めた。ΔE3.0以下を合格とした。
【0051】
[性能の耐久性(耐熱後)]
幅100mm、長さ100mmの大きさの試験片を車両内装用布帛から2枚採取した。広口試薬瓶(共栓付250mL瓶、硬質ガラス製)の中に採取した試験片の一枚を試薬瓶の側面に沿わせて入れ、110℃に調整された乾燥機内に400時間静置して熱処理した。熱処理後、試薬瓶を乾燥機から取り出し室温まで冷却した後、試験片を試薬瓶から取り出した。得られた熱処理後の試験片について、抗菌性・抗ウイルス性の試験を行った。抗菌活性値2.2以上、抗ウイルス活性値2.0以上を合格とした。
【0052】
[風合い]
幅20mm、長さ150mmの大きさの試験片を、未加工布(トリコット編地(ポリエステル繊維、単位面積当たりの質量300g/m、グレー色(L値55)))および車両内装用布帛の経方向および緯方向からそれぞれ1枚採取した。JIS L1096 8.21 A法(45°カンチレバー法)に準拠し、試験片のオモテ面を上方に向けて測定した。車両内装用布帛の剛軟度が経方向緯方向ともに、未加工布の剛軟度(経方向42mm、緯方向43mm)に対して±20mmの範囲の数値であれば、合格とした。表2には、未加工布の剛軟度との差を記載した。
【0053】
[実施例1]
布帛として、トリコット編地(ポリエステル繊維、単位面積当たりの質量300g/m、グレー色(L値55))を準備した。
【0054】
上記布帛に、表1に示す処方1の処理液Aを、マングルを用いて、ピックアップ率70%にてディッピング処理した。次いで、ヒートセッターを用いて、130℃で2分間熱処理した。
【0055】
次いで、布帛のウラ面に、表2に示す処方20の処理液Bを、スプレーを用いて、Wet塗布量30g/mとなるように塗布した。次いで、ヒートセッターを用いて、130℃で2分間熱処理して、実施例1の車両内装用布帛を得た。得られた車両内装用布帛は、布帛のオモテ面に銀を含む抗菌・抗ウイルス剤と第1バインダー樹脂が付与され、布帛のウラ面に常温で固体のリン系難燃剤と第2バインダー樹脂が付与されていた。燃焼速度は100mm/分以下であり、不燃であった。抗菌活性は、初期4.2、耐熱試験後3.9であり、抗ウイルス性は、初期3.9、耐熱試験後3.3であった。
【0056】
[実施例2~18、比較例1]
布帛に付与する処理液A、Bとして、表1~2に示す処方2~19、表3~4に示す処方21~39をそれぞれ表5~6に示すとおり用いて、それ以外は、実施例1と同様にして実施例2~18、比較例1の車両内装用布帛を得た。
【0057】
[比較例2]
布帛のウラ面に、下記の処理液Cを、ナイフコーターを用いてWet塗布量120g/mとなるよう付与した。次いで、ヒートセッターを用いて、130℃で2分間熱処理し、比較例2の車両内装用布帛を得た。
【0058】
[比較例3]
布帛のオモテ面に、処理液Cを塗布した以外は、比較例2と同様にして、比較例3の車両内装用布帛を得た。
【0059】
[処理液C]
・銀を含む抗菌・抗ウイルス剤 0.8質量部
(ノバロンIV1000、東亜合成株式会社、銀含有量0.4質量%)
・リン系難燃剤 39.2質量部
(ダイガード850、大八化学工業株式会社、常温で固体、融点260℃、水への溶解度0.01g/100g-HO)
・バインダー樹脂 25質量部
(ポリカーボネート系ウレタン樹脂、エバファノールHA-170、日華化学株式会社)
・アンモニア水 1質量部
・水 34質量部
・増粘剤(ボンコートHV-E、DIC株式会社) 適量
調製法:得られた混合液を、増粘剤を用いて、粘度(B型粘度計、ローターNo.4、12rpm)20,000±5,000mPa・sに調整し、処理液Cとした。
【0060】
得られた車両内装用布帛の詳細及び評価を表5~6に示す。







































【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
表1~4中の各成分の詳細は以下のとおりである。
・銀担持リン酸ジルコニウム:ノバロンIV1000(東亜合成株式会社製、固形分100質量%、銀含有量0.4質量%)
・銀、亜鉛イオン担持ゼオライト:Zeomic WHW10NS(株式会社シナネンゼオミック製、固形分20質量%、銀含有量0.5質量%、亜鉛含有量12質量%)
・銀、銅イオン担持ゼオライト:Zeomic WAC10HS(株式会社シナネンゼオミック製、固形分20質量%、銀含有量3質量%、銅含有量2質量%)
・ポリエステル系ポリウレタン樹脂:ハイドランHW920(DIC株式会社製、固形分50質量%)
・ポリカーボネート系ウレタン樹脂:エバファノールHA-170(日華化学株式会社製、固形分40質量%)
・ポリエステル樹脂:プラスコートZ446(互応化学工業株式会社製、固形分25質量%)
・芳香族縮合リン酸エステル系難燃剤:ダイガード850(大八化学工業株式会社製、固形分100質量%、常温で固体、融点260℃、水への溶解度0.01g/100g-HO)
・リン酸エステル系難燃剤:フランDH-60(大和化学工業株式会社製、固形分40質量%、常温で固体、融点100℃、水への溶解度0.1g/100g-HO)
・芳香族縮合リン酸エステル系難燃剤:PX200(大八化学工業株式会社製、固形分100質量%、常温で固体、融点92℃、水への溶解度0.5g/100g-HO)
・ポリリン酸アンモニウム系難燃剤:Exolit AP423(クラリアントケミカルズ株式会社製、固形分100質量%、常温で固体、融点275℃、水への溶解度1g/100g-HO)
・芳香族リン酸エステル系難燃剤:ニッカファインHF-2200(日華化学株式会社製、固形分36質量%、常温で固体、融点80℃、水への溶解度0.5g/100g-HO)
・リン酸グアニジン系難燃剤:AF00E(丸菱油化工業株式会社製、固形分60質量%、常温で液体、融点-10℃)。




















【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
結果は、表5~6に示すとおりである。液体のリン系難燃剤が付与された比較例1は、難燃剤が常温で液状のため、抗菌・抗ウイルス剤が難燃剤で被覆されるために、抗菌・抗ウイルス性の点で劣っていた。常温で固体のリン系難燃剤と、銀を含む抗菌・抗ウイルス剤とバインダー樹脂とが、布帛のウラ面に付与された比較例2は、難燃性に優れるものの、抗菌・抗ウイルス剤が付与された布帛裏面は車室内空間に接しない(人体と接触しない)ため、抗菌・抗ウイルス性はやや劣り、風合いも粗硬であった。常温で固体のリン系難燃剤と、銀を含む抗菌・抗ウイルス剤とバインダー樹脂とが、布帛のオモテ面に付与された比較例3は、風合いが粗硬で、生地の外観が白化しており、さらにチョークマークが発生するものであった。
【0069】
これに対し、実施例1~18の車両内装用布帛であると、良好な風合いが得られるとともに、抗菌・抗ウイルス性および難燃性に優れていた。実施例16の車両内装用布帛は、抗菌・抗ウイルス剤の付着量が好ましい数値範囲より多く付着していたため、難燃剤の効果を少し阻害したため、実施例1~15、17~18と比較すると難燃性能がやや劣るものの、車両内装用布帛に求められる難燃性、抗菌・抗ウイルス性を有するとともに、風合いに優れるものであった。実施例13の車両内装用布帛は、銀を1質量%以上含む抗菌・抗ウイルス剤を用いることにより、担持体であるゼオライトから銀イオンが早く溶出されたため、耐変色性に劣るものの、抗菌・抗ウイルス性、難燃性、および風合いに優れるものであった。