(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142624
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】生体物質抽出用磁性ビーズ
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20241003BHJP
B01J 23/755 20060101ALI20241003BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20241003BHJP
H01F 1/44 20060101ALI20241003BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20241003BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241003BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20241003BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C12N15/10 114Z
B01J23/755 M
H01F1/26
H01F1/44 120
C12Q1/6806 Z
C12M1/00 A
C12M1/26
G01N33/543 541A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054844
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】塚田 健太
(72)【発明者】
【氏名】花村 雅人
(72)【発明者】
【氏名】内田 美紀
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4G169
5E041
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029AA23
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5E041AA01
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5E041HB14
5E041NN06
5E041NN12
5E041NN13
(57)【要約】
【課題】生体物質の抽出効率が良好な生体物質抽出用磁性ビーズを提供すること。
【解決手段】磁性金属粉末と、前記磁性金属粉末の粒子表面を被覆し、無機酸化物を含む無機酸化物層と、前記無機酸化物層の表面を被覆し、金イオンの還元剤または金イオンの還元反応の触媒を含む下地層と、前記下地層の表面を被覆し、金を含む金層と、Au-S結合を介して前記金層の表面に結合されている、リガンドまたはリガンド結合部位を有する化合物を含む固定化層と、を有することを特徴とする生体物質抽出用磁性ビーズ。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性金属粉末と、
前記磁性金属粉末の粒子表面を被覆し、無機酸化物を含む無機酸化物層と、
前記無機酸化物層の表面を被覆し、金イオンの還元剤または金イオンの還元反応の触媒を含む下地層と、
前記下地層の表面を被覆し、金を含む金層と、
Au-S結合を介して前記金層の表面に結合されている、リガンドまたはリガンド結合部位を有する化合物を含む固定化層と、
を有することを特徴とする生体物質抽出用磁性ビーズ。
【請求項2】
前記化合物は、下記式(1)で表されるチオール誘導体またはその塩と前記金層との反応生成物である請求項1に記載の生体物質抽出用磁性ビーズ。
R1-(CH2)x-(C2H5O)y-R2 … (1)
[上記式(1)中、xは2以上18以下の整数であり、yは0以上100以下の整数である。また、上記式(1)中、R1はチオール基またはジスルフィド結合であり、R2は前記リガンドまたは前記リガンド結合部位である。]
【請求項3】
前記無機酸化物は、酸化ケイ素または酸化チタンである請求項1または2に記載の生体物質抽出用磁性ビーズ。
【請求項4】
前記下地層は、ニッケルを含む請求項1または2に記載の生体物質抽出用磁性ビーズ。
【請求項5】
前記無機酸化物層および前記下地層の合計の平均厚さが、10nm以上600nm以下である請求項1または2に記載の生体物質抽出用磁性ビーズ。
【請求項6】
平均粒径が0.5μm以上50μm以下である請求項1または2に記載の生体物質抽出用磁性ビーズ。
【請求項7】
前記磁性金属粉末の飽和磁化は、80emu/g以上であり、
前記磁性金属粉末の保磁力は、100A/m以下である請求項1または2に記載の生体物質抽出用磁性ビーズ。
【請求項8】
前記下地層の平均厚さは、前記無機酸化物層の平均厚さの1.2倍以上4.0倍以下である請求項1または2に記載の生体物質抽出用磁性ビーズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体物質抽出用磁性ビーズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野における診断や生命科学の分野において、生体物質の検査需要が高まっている。生体物質検査手法のうち、PCR(Polymerase chain reaction)法は、DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)等の核酸を抽出し、その核酸を特異的に増幅して検出する方法である。こうした生体物質を検査する過程では、まず、検体から検査対象の物質を抽出することが必要である。この生体物質の抽出には、例えば、生体物質に対する結合能を有する抽出担体が用いられる。
【0003】
特許文献1には、細胞表面受容体やウイルスに対する結合能を有する結合種として、リガンドを例示している。そして、リガンドを保持するコロイドを用いて生体分子を検出することが開示されている。また、金で被覆されている粒子の表面にチオールで構成された自己集合単層が形成されていること、および、自己集合単層がリガンドの結合パートナーを提示すること、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生体物質の抽出においては、抽出担体に対し、様々な物理的および化学的な負荷が加わる。特許文献1に記載のリガンドを保持するコロイドは、このような負荷が加わったとき、抽出担体に結合している生体物質が脱離したり、抽出担体が凝集したりして、生体物質の抽出効率が低下することが懸念される。また、特許文献1に記載のコロイドは、分散媒に対する分散性において改善の余地がある。分散性が低い場合、生体物質の捕捉効率が低下するため、結果として生体物質の抽出効率が低下する。
【0006】
そこで、生体物質の抽出効率が良好な生体物質抽出用磁性ビーズの実現が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の適用例に係る生体物質抽出用磁性ビーズは、
磁性金属粉末と、
前記磁性金属粉末の粒子表面を被覆し、無機酸化物を含む無機酸化物層と、
前記無機酸化物層の表面を被覆し、金イオンの還元剤または金イオンの還元反応の触媒を含む下地層と、
前記下地層の表面を被覆し、金を含む金層と、
Au-S結合を介して前記金層の表面に結合されている、リガンドまたはリガンド結合部位を有する化合物を含む固定化層と、
を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】生体物質抽出方法の一例を説明するための工程図である。
【
図2】
図1に示す生体物質抽出方法を説明するための模式図である。
【
図3】
図1に示す生体物質抽出方法を説明するための模式図である。
【
図4】
図1に示す生体物質抽出方法を説明するための模式図である。
【
図5】実施形態に係る磁性ビーズを示す断面図である。
【
図7】
図5の磁性ビーズの変形例を示す断面図である。
【
図8】機能性部位を有する化合物が、Au-S結合を介して金層に結合している状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の生体物質抽出用磁性ビーズの好適な実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
実施形態に係る生体物質抽出用磁性ビーズは、生体物質を吸着するとともに、その状態で磁気分離に用いられる粒子群である。磁気分離とは、生体物質抽出用磁性ビーズを含む固相と分散媒を含む液相とが入った容器に外部磁場を印加し、固相を磁気吸引することにより、固相と液相とを分離する技術である。なお、以下の説明では、生体物質抽出用磁性ビーズを、単に「磁性ビーズ」という場合がある。
【0011】
生体物質とは、例えば、DNAやRNAのような核酸、タンパク質、糖類、がん細胞のような各種細胞、ペプチド、細菌、ウイルス等の物質を指す。なお、核酸は、例えば、細胞や生体組織等の生体試料、ウイルス、細菌等に含まれた状態で存在していてもよい。生体物質抽出方法では、このような生体物質を、例えば溶解・吸着、洗浄、溶出の各工程を経て抽出する方法であり、その過程で、前述した磁気分離を利用することにより、生体物質を精製し、抽出することができる。
【0012】
1.生体物質抽出方法
以下、磁気分離を利用した生体物質抽出方法の一例について説明する。なお、以下の説明では、生体物質が核酸である場合を例に説明する。
【0013】
図1は、生体物質抽出方法の一例を説明するための工程図である。
図2ないし
図4は、
図1に示す生体物質抽出方法を説明するための模式図である。
【0014】
図1に示す生体物質抽出方法は、溶解・吸着工程S102と、洗浄工程S108と、溶出工程S110と、を有する。以下、各工程について順次説明する。
【0015】
1.1.溶解・吸着工程
溶解・吸着工程S102では、核酸を含む検体試料および溶解吸着液を含む液体3、ならびに、磁性ビーズ2を、
図2に示す容器1に入れる。そして、容器1の収容物を混合する。これにより、磁性ビーズ2は、
図2に示すように、容器1内の液体3中で分散する。核酸は、通常、細胞膜や核に内包されているため、溶解吸着液の溶解作用により、細胞膜や核のいわゆる外殻を溶解除去して核酸が取り出される。その後、溶解吸着液の吸着作用により、磁性ビーズ2に核酸が吸着される。
【0016】
溶解吸着液としては、例えば、カオトロピック物質を含む液体が用いられる。カオトロピック物質は、水溶液中でカオトロピックイオンを生じ、水分子の相互作用を減少させ、それにより構造を不安定化させる作用を有し、核酸の磁性ビーズ2への吸着に寄与する。
【0017】
なお、核酸のうち、特にRNAを抽出する場合には、酸を加える等して、容器1内の液体3を酸性にすることが好ましい。RNAモノマーは、リボースを含むため、DNAに比べて極性溶媒に溶けやすい。この差を利用し、RNAとDNAとを分離する場合には、外殻を溶解除去した後、例えば、酸を加えて液体3を酸性にしてもよい。その後、液体3にフェノールやクロロホルム等の無極性溶媒を加える。これにより、DNAは無極性溶媒に移行する一方、RNAは極性溶媒に留まる。その結果、RNAとDNAとを分離し、RNAを抽出することができる。
【0018】
RNAを抽出する場合、容器1内の液体3のpHは、5.0以下であることが好ましく、2.0以上4.0以下であることがより好ましい。これにより、RNAが含むリン酸基の電離平衡が水酸基に偏るため、RNAが極性溶媒に特に溶けやすくなる。したがって、RNAの抽出効率をより高めることができる。
【0019】
1.1.1.磁気分離操作
溶解・吸着工程S102では、核酸が吸着された磁性ビーズ2に外部磁場を作用させ、磁気吸引する。これにより、磁性ビーズ2を容器1の内壁に移動させ、固定する。その結果、
図3に示すように、固相である磁性ビーズ2と、液相である液体3と、を分離することができる。本明細書では、このような外部磁場を印加して磁性ビーズ2を固定する操作を「磁気分離操作」という。
【0020】
磁気分離操作を行う前、必要に応じて、容器1の収容物を撹拌する。これにより、磁性ビーズ2に核酸が吸着される確率が高くなる。撹拌には、例えば、ボルテックスミキサー、手振り振とう、ピペッティング等が用いられる。
【0021】
外部磁場の印加には、例えば、容器の側方に配置された磁石5が用いられる。磁石5は、電磁石であってもよいし、永久磁石であってもよい。磁性ビーズ2に外部磁場が作用すると、磁性ビーズ2は磁石5に向かって移動する。
【0022】
なお、磁気分離操作を行った後、必要に応じて、容器に加速度を与えるようにしてもよい。これにより、磁性ビーズ2に付着していた液体3を振り落とすことができるので、分離できていなかった液体3を減らすことができる。加速度は、遠心加速度であってもよい。遠心加速度の付与には、遠心分離機を用いればよい。
【0023】
1.1.2.液体排出操作
溶解・吸着工程S102では、磁性ビーズ2を容器1の内壁に固定した状態で、
図4に示すように、容器1の底に溜まった液体3を、例えばピペット6等で吸引して排出する。本明細書では、このような液体3を排出する操作を「液体排出操作」という。液体排出操作により、容器1内には、核酸が吸着された磁性ビーズ2が残る。
【0024】
1.2.洗浄工程
洗浄工程S108では、核酸が吸着された磁性ビーズ2を洗浄する。洗浄とは、磁性ビーズ2に吸着した夾雑物を除去するため、核酸が吸着されている磁性ビーズ2を洗浄液と接触させた後、再び分離することによって、夾雑物を除去する操作のことをいう。
【0025】
具体的には、核酸が吸着された磁性ビーズ2が入った容器1に洗浄液を入れた後、再び、前述した磁気分離操作および液体排出操作を行う。
【0026】
このうち、磁気分離操作では、まず、ピペット等により、容器1内に洗浄液を供給する。そして、磁性ビーズ2および洗浄液を撹拌する。これにより、洗浄液が磁性ビーズ2と接触し、核酸が吸着されている磁性ビーズ2が洗浄される。撹拌には、例えば、ボルテックスミキサー、手振り振とう、ピペッティング等が用いられる。また、このとき、一時的に外部磁場の印加をオフにしてもよい。これにより、磁性ビーズ2が洗浄液に再分散するため、洗浄効率をより高めることができる。
【0027】
次に、液体排出操作として、磁性ビーズ2を容器1の内壁に固定した状態で、容器1の底に溜まった洗浄液を排出する。以上のような洗浄液の供給および排出を少なくとも1回行うことにより、磁性ビーズ2を洗浄する。これにより、夾雑物を精度よく除去することができる。
【0028】
洗浄液は、核酸の溶出を促進せず、かつ、夾雑物の磁性ビーズ2に対する結合を促進しない液体であれば、特に限定されないが、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン等の有機溶媒またはその水溶液、低塩濃度水溶液等が挙げられる。
【0029】
洗浄液は、Triton(登録商標)、Tween(登録商標)、SDS等の界面活性剤を含有していてもよい。また、洗浄液は、グアニジン塩酸塩等のカオトロピック物質を含有していてもよい。
【0030】
また、洗浄工程S108は、必要に応じて行えばよく、洗浄の必要がない場合には、省略されてもよい。
【0031】
1.3.溶出工程
溶出工程S110では、磁性ビーズ2に吸着している核酸を溶出液に溶出させる。溶出とは、核酸が吸着されている磁性ビーズ2を溶出液と接触させた後、再び分離することによって、核酸を溶出液に移行させる操作である。
【0032】
具体的には、核酸が吸着された磁性ビーズ2が入った容器1に溶出液を入れた後、再び、前述した磁気分離操作および液体排出操作を行う。
【0033】
このうち、磁気分離操作では、まず、ピペット等により、容器1内に溶出液を供給する。そして、磁性ビーズ2および溶出液を攪拌する。これにより、溶出液が磁性ビーズ2と接触し、核酸が溶出液に溶出する。撹拌には、例えば、ボルテックスミキサー、手振り振とう、ピペッティング等が用いられる。また、このとき、一時的に外部磁場の印加をオフにしてもよい。これにより、磁性ビーズ2が溶出液に分散するため、溶出効率をより高めることができる。
【0034】
次に、液体排出操作として、磁性ビーズ2を容器1の内壁に固定した状態で、容器1の底に溜まった溶出液を排出する。これにより、核酸を含む溶出液を回収することができる。
【0035】
溶出液は、核酸が吸着されている磁性ビーズ2から核酸の溶出を促進する液体であれば、特に限定されないが、例えば、滅菌水や純水のような水の他、TE緩衝液、すなわち、10mMトリス塩酸緩衝液および1mMのEDTAを含み、pHが8程度の水溶液が好ましく用いられる。
【0036】
溶出液は、Triton(登録商標)、Tween(登録商標)、SDS等の界面活性剤を含有していてもよい。また、防腐剤としてアジ化ナトリウムを含有していてもよい。
【0037】
また、溶出工程S110では、溶出液を加熱するようにしてもよい。これにより、核酸の溶出を促進することができる。溶出液の加熱温度は、特に限定されないが、70℃以上200℃以下であるのが好ましく、80℃以上150℃以下であるのがより好ましく、95℃以上125℃以下であるのがさらに好ましい。
【0038】
2.生体物質抽出用磁性ビーズ
次に、磁性ビーズ2(実施形態に係る生体物質抽出用磁性ビーズ)について説明する。磁性ビーズ2は、磁性を有するとともに、表面に生体物質との結合性を有する粒子である。
【0039】
図5は、実施形態に係る磁性ビーズ2を示す断面図である。
図5に示す磁性ビーズ2は、磁性金属粉末22と、被覆膜24と、を有する。磁性金属粉末22には、磁性を有する金属粉末が用いられる。被覆膜24は、少なくとも表面が、生体物質との結合性を有する物質または化学構造で構成される。前述した磁気分離操作には、このような磁性ビーズ2の集合体である粒子群が用いられる。なお、本明細書において磁性ビーズ2とは、粒子群またはそれを構成する1つの粒子を指す。
【0040】
磁性ビーズ2の飽和磁化は、50emu/g以上であることが好ましく、80emu/g以上であることがより好ましく、100emu/g以上であることがさらに好ましい。飽和磁化とは、外部から十分大きな磁場を印加した時に磁性材料が示す磁化が磁場に関係なく一定となる場合の磁化の値である。飽和磁化が前記範囲内であれば、磁性材料としての機能を十分に発揮させることができる。具体的には、磁場中における磁性ビーズ2の移動速度を向上させることができるため、磁気分離に要する時間の短縮を図ることができる。また、磁性ビーズ2の飽和磁化は、外部磁場によって固定されたときの吸着力を左右する。飽和磁化が前記範囲内であれば、十分に高い吸着力が得られるため、磁性ビーズ2を固定した状態で液体3を排出するとき、磁性ビーズ2が液体3と一緒に排出されるのを抑制することできる。これにより、磁性ビーズ2の減少に伴う核酸の収率の低下を抑制することができる。
【0041】
なお、磁性ビーズ2の飽和磁化の上限値は、特に限定されないが、性能とコストのバランスに適する材料選択の容易性の観点から、220emu/g以下とするのが好ましい。
【0042】
磁性ビーズ2の飽和磁化は、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)等により測定することができる。振動試料型磁力計としては、例えば、株式会社玉川製作所製のTM-VSM1230-MHHL等が挙げられる。飽和磁化を測定する際の最大印加磁場は、例えば0.5T以上とされる。
【0043】
磁性ビーズ2の平均粒径D50は、好ましくは0.5μm以上50μm以下とされ、より好ましくは1μm以上30μm以下とされ、さらに好ましくは2μm以上20μm以下とされ、特に好ましくは3μm以上15μm以下とされる。磁性ビーズ2の平均粒径D50が前記範囲内であれば、磁性ビーズ2の比表面積を十分に大きくすることができ、かつ、磁気分離に適した吸引力および吸着力を磁性ビーズ2に発生させることができる。また、磁性ビーズ2の凝集を抑え、分散性を高めることができる。なお、磁性ビーズ2の平均粒径D50が前記下限値を下回ると、磁性ビーズ2の磁化の値が小さくなるとともに、凝集しやすくなり、結果として核酸の抽出効率が低下するおそれがある。また、磁性ビーズ2の移動速度が低下し、磁気分離に要する時間が長くなるおそれがある。一方、磁性ビーズ2の平均粒径D50が前記上限値を上回ると、磁性ビーズ2の比表面積が小さくなるため、十分な量の核酸を吸着することができず、核酸の抽出量が減少するおそれがある。また、磁性ビーズ2が沈降しやすくなり、核酸の抽出に寄与できる磁性ビーズ2が減少して、核酸の抽出効率が低下するおそれがある。
【0044】
なお、磁性ビーズ2の平均粒径D50は、レーザー回折・分散法により体積基準の粒度分布を測定し、この粒度分布から得られた積算分布曲線から求めることができる。具体的には、積算分布曲線において、小径側から累積値が50%である粒子径(メディアン径)が、磁性ビーズ2の平均粒径D50である。レーザー回折・分散法により粒度分布を測定する装置としては、例えばマイクロトラック・ベル社製のMT3300シリーズ等が挙げられる。なお、レーザー回折・分散法に限らず、画像解析等の手法を用いてもよい。
【0045】
また、磁性ビーズ2の90%粒径をD90とする。磁性ビーズ2において平均粒径D50に対する90%粒径D90の比D90/D50は、3.00以下であるのが好ましく、2.00以下であるのがより好ましく、1.75以下であるのがさらに好ましい。これにより、粗大な粒子の含有率が低くなるため、粗大な粒子が周囲の比較的小さな粒子を引き寄せて凝集し、凝集体が生じるのを抑制することができる。凝集体が生じると、自重によって沈降し、抽出効率の低下やそれに伴う生体物質の検査時間の長時間化が生じるおそれがある。したがって、比D90/D50が前記範囲内であれば、これらの問題が発生するのを抑制することができる。なお、比D90/D50が前記上限値を上回ると、粗大な粒子の含有率が高くなるため、外部磁場の印加をオフにしても、磁性ビーズ2の分散性が低下し、凝集が発生しやすくなるおそれがある。
【0046】
なお、磁性ビーズ2の90%粒径D90は、レーザー回折・分散法により体積基準の粒度分布を測定し、この粒度分布から得られた積算分布曲線から求めることができる。具体的には、積算分布曲線において、小径側から累積値が90%である粒子径が、磁性ビーズ2の90%粒径D90である。
【0047】
また、被覆膜24の平均厚さをtとし、磁性ビーズ2の平均粒径をD50とするとき、D50に対するtの比t/D50は、0.0001以上0.05以下であることが好ましく、0.001以上0.01以下であることがより好ましい。t/D50が前記下限値を下回ると、磁性金属粉末22の大きさに対して被覆膜24の厚さの比率が小さくなりすぎるため、磁性ビーズ2同士の衝突または磁性ビーズ2と容器1の内壁等との衝突が生じた際に、被覆膜24が破壊または剥離してしまうおそれがある。このため、被覆膜24の表面に吸着して抽出される核酸の量が減少し、抽出効率が低下するおそれがある。また、剥離した被覆膜24や磁性金属粉末22の破片が抽出液中に存在すると、核酸を取り出す際に夾雑物(コンタミネーション)として同時に混入してしまうおそれがある。さらに、被覆膜24が破壊、剥離することで磁性金属粉末22が露出し、酸性溶液と接触した場合等では鉄イオン等の溶出が起きて、結果として核酸の抽出効率の低下を招くおそれがある。一方、t/D50が前記上限値を上回ると、磁性ビーズ2の体積全体に占める被覆膜24の体積比率が大きくなってしまい、磁性ビーズ2が有する体積当たりの磁化が低下するおそれがある。これにより、磁性ビーズ2に外部磁場が作用したときの移動速度が低下し、磁気分離に要する時間が長くなるおそれがある。
【0048】
被覆膜24の厚さは、例えば、透過電子顕微鏡または走査電子顕微鏡等による磁性ビーズ2の断面観察像から測定することができる。また、被覆膜24の平均厚さtは、観察像を複数取得し、画像処理等からの計測値を平均することで算出することができる。例えば、平均厚さtは、1つの磁性ビーズ2について5箇所以上で被覆膜24の厚さを計測し、その平均値を求めた後、10個以上の磁性ビーズ2でその平均値を平均した値である。また、EDX(Energy Dispersive X-ray spectroscopy)等の分析装置により、例えばSi-K特性X線やFe-L特性X線の強度を比較し、その比較結果から被覆膜24の厚さを算出するようにしてもよい。つまり、後述するように、被覆膜24がシリコンを含み、磁性金属粉末22がFe基合金で構成される場合、被覆膜24由来のSi-K特性X線の、磁性金属粉末22由来のFe-L特性X線と被覆膜24由来のSi-K特性X線との和に対する強度比を、被覆膜24の厚さに換算することができる。
【0049】
また、磁性ビーズ2の保磁力Hcは、1500A/m以下であることが好ましく、800A/m以下であることがより好ましく、400A/m以下であることがさらに好ましく、100A/m以下であることが特に好ましい。保磁力Hcとは、磁化された磁性体を、磁化されていない状態に戻すために必要な反対向きの外部磁場の値をいう。つまり、保磁力Hcは、外部磁場に対する抵抗力を意味する。磁性ビーズ2の保磁力Hcが小さいほど、磁場が印加された状態から、印加されていない状態に切り替えても、磁性ビーズ2同士が凝集しにくく、分散液中において磁性ビーズ2を均一に分散させることができる。さらに、磁場印加の切り替えを繰り返す場合でも、保磁力Hcが小さいほど磁性ビーズ2の再分散性は優れるため、磁性ビーズ2同士の凝集をより抑制することができる。なお、磁性ビーズ2の保磁力Hcの下限値は、特に限定されないが、性能とコストのバランスに適する材料選択の容易性の観点から、5A/m以上であることが好ましい。
【0050】
磁性ビーズの保磁力Hcは、前述した飽和磁化と同様、振動試料型磁力計等により測定することができる。保磁力Hcを測定する際の最大印加磁場は、例えば15kOeとされる。
【0051】
また、磁性ビーズ2の比透磁率は、5以上であることが好ましい。磁性ビーズ2の比透磁率が前記下限値を下回ると、磁性ビーズ2の移動速度が低下し、磁気分離に要する時間が長くなるおそれがある。なお、磁性ビーズ2の比透磁率の上限値は、特に限定されないが、磁性ビーズ2は粉末形態であることから、反磁界の影響により比透磁率は実質的には100以下の値をとることが多い。
【0052】
2.1.磁性金属粉末
磁性金属粉末22は、磁性を有する粒子であり、構成元素としてFe、CoおよびNiのうち少なくとも1種を含むことが好ましい。特に、高い飽和磁化を得る観点から、磁性金属粉末22の組成は、Feを主成分とする合金(Fe系合金)であるのが好ましい。具体的には、Feを原子数比で50%以上とすることがより好ましく、70%以上とすることがさらに好ましい。Fe系合金としては、Fe-Co系合金、Fe-Ni系合金、Fe-Co-Ni系合金、または、Fe、Co、Niを含む化合物等が例示できる。また、高磁化を得る観点から、磁性金属粉末22としては、実質100質量%のFeからなるカルボニル鉄粉やFe-Si系合金粉、Fe-Si-Cr系合金粉等が好ましく用いられる。このようなFe系合金によれば、粒径が小さくても、飽和磁化が高く、かつ高透磁率を示す磁性金属粉末22を実現することができる。これにより、外部磁場の作用による移動速度が高く、外部磁場に捕捉されたときの吸引力が大きい磁性ビーズ2を実現することができる。その結果、磁気分離に要する時間を短縮することができ、かつ、磁性ビーズ2自体が溶出液に混入して夾雑物になることを抑制することができる。
【0053】
Fe系合金は、前述のような、Feという単独で強磁性を示す元素の他に、目標とする特性に応じて、Cr、Nb、Cu、Al、Mn、Mo、Si、Sn、B、C、P、TiおよびZrからなる群から選ばれる1種または2種以上を含むことができる。Siは、合金粉では主要な構成元素であるが、アモルファス化を促進させる元素でもある。
【0054】
なお、Fe系合金中には、磁性金属粉末22の効果を損なわない範囲で、不純物が含まれていてもよい。本実施形態における不純物とは、磁性金属粉末22の原料や磁性ビーズ2の製造時に意図せずに混入する元素である。不純物としては、特に限定されないが、例えば、О、N、S、Na、Mg、K等が挙げられる。
【0055】
Fe系合金の一例として、Siの含有率が好ましくは1.0原子%以上30.0原子%以下、より好ましくは1.5原子%以上13.0原子%以下、さらに好ましくは2.0原子%以上7.0原子%以下である合金が挙げられる。このような合金は、透磁率が高いため、飽和磁化が高くなる傾向がある。
【0056】
また、Fe系合金は、含有率が5.0原子%以上16.0原子%以下のB(ホウ素)、および、含有率が0.5原子%以上5.0原子%以下のC(炭素)のうちの少なくとも1種を含有していてもよい。これらは、アモルファス化を促進させる元素であり、磁性金属粉末22に安定したアモルファス組織またはナノ結晶組織を形成することに寄与する。
【0057】
さらに、Fe系合金は、含有率が1.0原子%以上8.0原子%以下のCr(クロム)を含有することが好ましい。これにより、磁性金属粉末22の耐食性を高めることができる。
【0058】
なお、不純物の含有率は、合計で1.0原子%以下であることが好ましい。この程度であれば、不純物が含有していても、磁性金属粉末22の効果が損なわれない。
【0059】
特に好ましいFe系合金の一例として、Feを主成分とし、Siの含有率が2.0質量%以上9.0質量%以下であり、Bの含有率が1.0質量%以上5.0質量%以下であり、Crの含有率が1.0質量%以上3.0質量%以下である合金が挙げられる。このようなFe系合金は、安定したアモルファス組織を含み得るため、保磁力が低い。また、Fe含有率が高いため、飽和磁化が高い。さらに、Crを含むため、耐食性が高くなり、鉄イオン等の溶出を抑制することができる。鉄イオンは、生体物質の検査に悪影響を及ぼすことがあるため、溶出が抑制されることが好ましい。
【0060】
磁性金属粉末22の構成元素および組成は、JIS G 1258:2014に規定されたICP発光分析法、JIS G 1253:2002に規定されたスパーク発光分析法などにより特定することができる。また、磁性金属粉末22が被覆膜24で被覆されている場合には、化学的または物理的手法で被覆膜24を除去した後、上記手法により測定することができる。また、被覆膜24を除去するのが難しい場合は、例えば磁性ビーズ2を切断した上で、コアである磁性金属粉末22の部分をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)、EDX(Energy Dispersive X-ray spectroscopy)等の分析装置にて分析することが可能である。
【0061】
磁性金属粉末22のビッカース硬度は、100以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、800以上であることがさらに好ましい。磁性金属粉末22の硬さの測定方法は、例えば以下の通りである。磁性金属粉末22の粒子を複数個取り出して、これを樹脂に包埋して樹脂埋めサンプルを作製した後、研削および研磨によって磁性金属粉末22の断面を樹脂埋めサンプル表面に出現させる。これをマイクロビッカース試験機、または、ナノインデンター等によって圧痕を付け、そのサイズから硬さを測定する。
【0062】
なお、磁性金属粉末22のビッカース硬度が前記下限値未満である場合、磁性ビーズ2が衝突した場合の衝撃により、磁性金属粉末22が塑性変形してしまうおそれがある。塑性変形が生じた場合、被覆膜24の剥離や脱落が生じるおそれがある。なお、ビッカース硬度の上限は、特に限定されないが、性能やコストのバランスに適する材料選択の容易性の観点から3000以下であることが好ましい。
【0063】
磁性金属粉末22を構成する主要な金属組織は、結晶組織、アモルファス組織、ナノ結晶組織等の種々の形態をとることができる。アモルファス組織とは、結晶が存在しない非晶質組織であり、ナノ結晶とは、結晶粒径が100nm以下である微細結晶を主とする組織を指す。アモルファス組織およびナノ結晶組織は、磁性金属粉末22に高い硬さを与える。また、アモルファス組織またはナノ結晶組織とすることで、磁性ビーズ2の保磁力Hcが特に低い値となり、磁性ビーズ2の再分散性の向上に寄与する。なお、アモルファス組織またはナノ結晶組織の磁性金属粉末22における体積分率は、40%以上であるのが好ましく、60%以上であるのがより好ましい。この体積分率は、X線回折による結晶構造解析の結果から求められる。また、結晶組織、アモルファス組織およびナノ結晶組織は、それぞれが単独で存在していてもよいし、これらのうちの2つ以上が混在していてもよい。
【0064】
磁性金属粉末22の金属組織は、磁性金属粉末22に対してX線回折法による結晶構造解析を行うことで同定することができる。さらには、切り出したサンプルを透過電子顕微鏡(TEM)により組織観察像または回折パターンを解析することにより特定できる。例えば、アモルファス組織の場合、X線回折法におけるピーク解析において、α-Fe相等の金属結晶に由来する回折ピークは見られない。また、アモルファス組織の場合、TEMでの電子線回折パターンにおいていわゆるハローパターンを形成し、結晶によるスポットの形成は見られない。ナノ結晶組織は、粒径が例えば100nm以下の結晶組織からなり、TEM観察像から確認可能である。より正確には、複数の結晶が存在する複数のTEM組織観察画像から画像処理等により平均粒径を算出することができる。また、X線回折法による対象となる結晶相の回折ピークからSherer法により結晶粒径を推測することができる。さらに、粒径の大きな結晶組織については、光学顕微鏡や走査電子顕微鏡(SEM)により断面を観察する等の手法により、結晶粒径を測定することができる。
【0065】
アモルファス組織およびナノ結晶組織を得るには、磁性金属粉末22を製造するとき、溶融した原料を微粉化した後、冷却するときの冷却速度を高くすることが有効である。また、アモルファス組織およびナノ結晶組織の形成のしやすさは、合金組成にも依存する。アモルファス組織およびナノ結晶組織を形成するために適した具体的な合金系としては、Feに、Cr、Si、B、C、P、NbおよびCuからなる群から選ばれる1種または2種以上を添加した組成が好ましい。
【0066】
磁性金属粉末22は、一般的な金属粉末の製造方法に準ずる方法で製造される。製造方法としては、例えば、金属を溶解・凝固して粉末化する溶解プロセス、還元法やカルボニル法等により粉末を製造する化学プロセス、インゴット等のより大きな形状のものを機械的に粉砕して粉末を得る機械プロセスが挙げられる。このうち、磁性金属粉末22の製造に適しているのは溶解プロセスによるものである。
【0067】
溶解プロセスによる製造方法のうち、代表的な製法としてアトマイズ法が挙げられる。これは溶解によって形成された所望の組成からなる金属溶湯を噴霧して粉末とするものである。
【0068】
アトマイズ法は、金属溶湯を高速で噴射された流体(液体または気体)に衝突させることによって急冷凝固させて粉末化するものであり、冷却媒の種類や装置構成の違いによって、水アトマイズ法、高圧水アトマイズ法、回転水流アトマイズ法、ガスアトマイズ法等に分けられる。アトマイズ法によれば、磁性金属粉末22を効率よく製造することができる。さらに、高圧水アトマイズ法や回転水流水アトマイズ法、ガスアトマイズ法では、金属粉末の粒子形状が表面張力の作用により球形状に近くなる。
【0069】
2.2.被覆膜
被覆膜24は、
図5に示すように磁性金属粉末22の粒子表面を被覆している。被覆膜24は、磁性金属粉末22の粒子表面の少なくとも一部に形成されていればよいが、粒子表面の全体を被覆していることが好ましい。
【0070】
図6は、
図5に示す被覆膜24の部分拡大図である。
被覆膜24は、
図6に示すように、無機酸化物層242、下地層244、金層246および固定化層248を有する。つまり、被覆膜24は、これらの層を有する多層構造になっている。なお、各層は、その下地全体を被覆していることが好ましいが、途切れている部分があってもよい。
【0071】
2.2.1.無機酸化物層
無機酸化物層242は、磁性金属粉末22の粒子表面を被覆し、無機酸化物を含む。無機酸化物としては、例えば、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ホウ素、酸化イットリウム等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。このような無機酸化物を含む無機酸化物層242は、多孔質状になるため、下地層244との接触面積を大きく確保できる。これにより、無機酸化物層242に対する下地層244の密着性を高めることができる。
【0072】
このうち、無機酸化物は、酸化ケイ素または酸化チタンであるのが好ましい。これらは、化学的に安定であるため、磁性金属粉末22の酸化や腐食を特に抑制することができ、磁性ビーズ2の耐食性を特に高めることができる。
【0073】
酸化ケイ素は、組成式でSiOx(0<x≦2)と表されるが、好ましくはSiO2である。また、酸化ケイ素は、Al、Ti、V、Nb、Cr、Mn、SnおよびZrからなる群から選ばれた1種または2種以上と複合酸化物または複合物を形成していてもよい。
【0074】
酸化チタンは、組成式でTiOx(0<x≦2)と表されるが、好ましくはTiO2である。また、酸化チタンは、Si、Al、V、Nb、Cr、Mn、SnおよびZrからなる群から選ばれた1種または2種以上と複合酸化物または複合物を形成していてもよい。
【0075】
無機酸化物は、その効果を損なわない範囲内、例えば、前述した無機酸化物の50質量%以下となる割合で、無機酸化物以外の物質(不純物)を含んでもよい。例えば、無気酸化物として酸化ケイ素が用いられる場合、不純物としては、C、N、P等が挙げられる。
無機酸化物の組成は、例えば、EDX分析、オージェ電子分光測定等にて確認できる。
【0076】
なお、無機酸化物層242は、磁性金属粉末22の1粒子の表面を被覆していてもよいが、複数の粒子をまとめて被覆していてもよい。
【0077】
図7は、
図5の磁性ビーズ2の変形例を示す断面図である。
図7に示す磁性ビーズ2Aは、磁性金属粉末22の複数の粒子を包含している。そして、複数の粒子にまたがって被覆するように無機酸化物層242が設けられている。また、下地層244、金層246および固定化層248も、その無機酸化物層242に積層されている。このようにして、
図7に示す被覆膜24が構成されている。このような磁性ビーズ2Aでも、
図5に示す磁性ビーズ2と同様の効果が得られる。なお、無機酸化物層242は各粒子を被覆していてもよい。そして、下地層244、金層246および固定化層248が、複数の粒子にまたがって設けられていてもよい。また、下地層244も各粒子を被覆し、金層246および固定化層248が、複数の粒子にまたがって設けられていてもよい。
【0078】
磁性ビーズ2Aが有する磁性金属粉末22の粒子の数は、特に限定されないが、2個以上100個以下とされる。
【0079】
無機酸化物層242の平均厚さは、10nm以上200nm以下であることが好ましく、20nm以上150nm以下であることがより好ましく、30nm以上100nm以下であることがさらに好ましい。これにより、磁性ビーズ2同士の衝突または容器の内壁等との衝突が生じたとしても、無機酸化物層242が破壊または剥離してしまうのを抑制することができる。その結果、磁性金属粉末22が露出することに伴う鉄イオン等の溶出を抑制することができる。また、磁性ビーズ2が有する体積当たりの磁化が低下するのを抑制し、磁性ビーズ2の移動速度が低下するのを抑制することができる。
【0080】
無機酸化物層242の平均厚さは、前述した被覆膜24の平均厚さの測定方法と同様にして測定される。
【0081】
無機酸化物層242の形成方法としては、例えば、ゾルゲル法のような湿式での形成方法、気相成膜法のような乾式での形成方法が挙げられる。このうち、ゾルゲル法の一種であるストーバー法や、ALD(Atomic Layer Deposition)法を、好ましく用いることができる。ストーバー法は、金属アルコキシドの加水分解により、単分散粒子を形成する手法である。例えば、無機酸化物層242を酸化ケイ素で形成する場合は、シリコンアルコキシドの加水分解反応により、酸化ケイ素を生成することができる。なお、無機酸化物層242の形成前には、その下地、例えば磁性金属粉末22の粒子の表面に対し、水や有機溶剤を用いた洗浄処理を施すようにしてもよい。
【0082】
2.2.2.下地層
下地層244は、後述する金層246の下地となり得る層である。金層246の下地とは、金層246を無電解金めっき法で成膜するとき、金を良好に析出させ得る面のことをいう。具体的には、下地層244は、金イオンを金に還元する還元剤、または、金イオンを金に還元する還元反応の触媒を含む。このような下地層244は、金層246の密着性を高める。その結果、金層246に成膜される固定化層248の密着性を高めることができる。
【0083】
還元剤は、無電解金めっき液に溶出し、イオン化するとともに電子を放出することにより、金イオンを金に還元する。したがって、還元剤を含む下地層244は、置換めっき法による金層246の形成を可能にする。還元剤としては、例えば、金よりもイオン化傾向が大きいニッケル、パラジウム、銅等の金属単体またはこれらを含む合金等が挙げられる。
【0084】
触媒は、無電解金めっき液に含まれる還元剤が金イオンの還元反応を生じさせるとき、その反応を触媒する触媒活性を有する。したがって、触媒を含む下地層244は、自己触媒型の還元めっき法による金層246の形成を可能にする。触媒としては、例えば、ニッケル、パラジウム、銅等の金属単体またはこれらを含む合金等が挙げられる。下地層244におけるこれらの金属の含有率は、50質量%超であるのが好ましく、70質量%以上であるのがより好ましい。
【0085】
このうち、下地層244は、ニッケルを含むことが好ましい。下地層244がニッケルの単体またはニッケル合金を含むことにより、置換めっき法や自己触媒型の還元めっき法のような無電解金めっき法により、金層246を良好に成膜することができる。
【0086】
これらの還元剤や触媒は、いかなる形態で存在していてもよい。例えば、下地層244は、めっき皮膜であってもよいし、気相成膜法で成膜された皮膜であってもよいし、液相成膜法で成膜された皮膜であってもよい。めっき皮膜としては、例えば、無電解めっき皮膜が挙げられる。なお、下地層244の形成前には、その下地、例えば無機酸化物層242の表面に対し、脱脂処理、酸浸漬処理等の表面処理、水や有機溶剤を用いた洗浄処理を施すようにしてもよい。
【0087】
下地層244の平均厚さは、特に限定されないが、10nm以上500nm以下であることが好ましく、30nm以上300nm以下であることがより好ましく、50nm以上200nm以下であることがさらに好ましい。これにより、下地層244が下地として十分に機能するための厚さを確保することができる。
【0088】
下地層244の平均厚さは、前述した被覆膜24の平均厚さの測定方法と同様にして測定される。
【0089】
また、無機酸化物層242と下地層244の合計の平均厚さは、10nm以上600nm以下であることが好ましく、50nm以上450nm以下であることがより好ましく、100nm以上300nm以下であることがさらに好ましい。これにより、磁性ビーズ2の耐食性を十分に確保することができる。また、磁性ビーズ2の体積全体に占める被覆膜24の体積比率を最適化することができ、磁性ビーズ2が有する体積当たりの磁化が低下することを抑制できる。
【0090】
なお、下地層244の平均厚さは、無機酸化物層242の平均厚さより薄くてもよいが、好ましくは厚くなるように設定される。そして、より好ましくは下地層244の平均厚さを、無機酸化物層242の平均厚さの1.2倍以上4.0倍以下に設定され、さらに好ましくは1.5倍以上3.0倍以下に設定される。これにより、金層246を安定して成膜するという下地層244の下地としての機能を高めるとともに、磁性ビーズ2の耐食性の向上を図ることができる。その結果、固定化層248の安定化を図るとともに、磁性金属粉末22の酸化や腐食を抑制することができ、核酸の抽出効率が特に良好な磁性ビーズ2を実現することができる。
【0091】
また、下地層244は、多層構造になっていてもよい。例えば、第一層をニッケル含有層とし、第二層をパラジウム含有層としてもよい。このような多層構造にすることで、下地層244の酸化や腐食をより確実に抑制することができる。その結果、磁性ビーズ2の耐食性をさらに高めることができる。
【0092】
2.2.3.金層
金層246は、固定化層248の下地となり得る層である。固定化層248の下地とは、固定化層248が含む化合物を良好に結合させ得る面のことをいう。具体的には、金層246の構成材料としては、金の単体または金を含む合金等が挙げられる。金層246は、耐食性が高いため、磁性金属粉末22の酸化や腐食を抑制する機能が高い。これにより、磁性金属粉末22の磁化の減少を抑制するとともに、鉄イオン等の溶出に伴う核酸の抽出効率の低下を抑制できる。
【0093】
磁性ビーズ2における金の含有率は、1質量%以上30質量%以下であるのが好ましく、3質量%以上25質量%以下であるのがより好ましく、5質量%以上20質量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、金層246による被覆率を十分に確保して、固定化層248をムラなく形成することができる。
【0094】
また、金層246の平均厚さは、0.5nm以上50nm以下であることが好ましく、1nm以上30nm以下であることがより好ましく、2nm以上20nm以下であることがさらに好ましい。これにより、磁性ビーズ2の耐食性を特に良好に確保することができる。
【0095】
金層246の成膜方法としては、前述したように、置換めっき法や自己触媒型の還元めっき法のような無電解金めっき法が挙げられる。なお、金層246の形成前には、その下地、例えば下地層244の表面に対し、脱脂処理、酸浸漬処理等の表面処理、水や有機溶剤を用いた洗浄処理を施すようにしてもよい。
【0096】
2.2.4.固定化層
固定化層248は、リガンドまたはリガンド結合部位を有する化合物を含む。リガンドとは、標的とする生体物質と特異的に結合する機能を持つ部位である。また、リガンド結合部位とは、このようなリガンドを結合可能な部位(リガンド反応性基)である。このような固定化層248を有することにより、磁性ビーズ2は、標的とする生体物質を効率よく吸着できる。
【0097】
リガンドの具体例としては、例えば、ニトリロ三酢酸(NTA)、イミノジ酢酸(IDA)、フェナンスロリン、テルピリジン、ビピリジン、トリエチレンテトラアミン、トリス(カルボキシメチル)エチレンジアミン、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、ポリピラゾリルホウ酸、1,4,7-トリアゾシクロノナン、ジメチルグリオキシム、ジフェニルグリオキシム、またはそれらの誘導体等の多座配位子等が挙げられる。
【0098】
このうち、リガンドには、ニトリロ三酢酸(NTA)またはイミノジ酢酸(IDA)が好ましく用いられる。
【0099】
リガンド結合部位の具体例としては、例えば、アルデヒド基、カルボキシ基、アミド基、N-ヒドロキシコハク酸スクシンイミド(NHS)、アミノ基、ヒドロキシ基、-CH=CH-、-(C=O)-CH=CH-等が挙げられる。
【0100】
このうち、リガンド結合部位には、アルデヒド基、カルボキシ基、アミド基、または、N-ヒドロキシコハク酸スクシンイミド(NHS)が好ましく用いられる。
【0101】
これらのリガンドまたはリガンド結合部位は、必要に応じて設けられるスペーサー、および、Au-S結合を介して金層246に結合されている。Au-S結合は、強固な結合であるため、金層246に対するリガンドやリガンド結合部位の強固な固定に寄与する。これにより、核酸が吸着された磁性ビーズ2に様々な物理的、化学的な負荷が加わった場合でも、リガンドが脱離するのを抑制することができる。その結果、核酸の捕捉効率の低下を抑制することができるので、核酸の抽出効率が良好な磁性ビーズ2を実現できる。
【0102】
また、磁性ビーズ2では、金層246の下地として下地層244が設けられている。下地層244は、金層246の密着性を高める。これにより、金層246の剥離を抑制することができるので、その観点でも、リガンドの脱離を抑制することができる。さらに、磁性ビーズ2では、下地層244の下地として無機酸化物層242が設けられている。無機酸化物層242は、下地層244の密着性を高める。これにより、下地層244の剥離を抑制することができるので、その観点でも、リガンドの脱離を抑制することができる。したがって、上記のような多層構造を持つ被覆膜24は、リガンドの脱離を抑制し、核酸の抽出効率が良好な磁性ビーズ2を実現できる。
【0103】
リガンドまたはリガンド結合部位を有する化合物とは、Au-S結合を形成可能なチオール基またはジスルフィド基を有する化合物であって、後述するチオール誘導体またはその塩と金層246との反応による反応生成物である。
【0104】
図8は、機能性部位Xを有する化合物10が、Au-S結合を介して金層246に結合している状態を示す模式図である。なお、
図8では、リガンドまたはリガンド結合部位を「機能性部位X」としている。
【0105】
図8に示す化合物10は、Au-S結合、スペーサーLおよび機能性部位Xで構成されている。
【0106】
スペーサーLは、-S-結合と、機能性部位Xと、を連結する部位である。スペーサーLを構成する単位構造としては、例えば、PEG(ポリエチレングリコール)、PPG(ポリプロピレングリコール)、PBG(ポリブチレングリコール)、カーボネート結合とPEGの複合構造、アミド結合とPEGとの複合構造、メチレン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上が混在した構造が挙げられる。
【0107】
また、
図8に示すように、隣り合う化合物10同士の間では、スペーサーL間に生じる相互作用によって自己組織化が図られ、化合物10が配向しやすくなる。これにより、機能性部位Xが高密度に配置された固定化層248を実現することができる。このような固定化層248では、磁性ビーズ2の単位量当たりの生体物質吸着量を増やすことができる。なお、
図8に示す化合物10の構造には、図示しない分子鎖の分岐構造が含まれていてもよい。
下記式(1)は、化合物10を生成するチオール誘導体が有する構造の一例である。
【0108】
R1-(CH2)x-(C2H5O)y-R2 … (1)
[上記式(1)中、xは2以上18以下の整数であり、yは0以上100以下の整数である。また、上記式(1)中、R1はチオール基またはジスルフィド結合であり、R2はリガンドまたはリガンド結合部位である。]
【0109】
上記式(1)で表される構造を有するチオール誘導体またはその塩は、金層246と反応することにより、リガンドまたはリガンド結合部位を高密度に配置可能な化合物10を生成できる。これにより、核酸の抽出効率が特に良好な磁性ビーズ2が得られる。
【0110】
上記式(1)で表される構造は、チオール誘導体の分子構造の全部または一部である。したがって、チオール誘導体の分子構造は、上記式(1)で表される構造と、別の構造と、を含んでいてもよい。
【0111】
また、チオール誘導体の塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩のようなアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0112】
チオール基は、-SHで表される反応性官能基である。ジスルフィド結合は、-S-S-で表される官能基であって、還元によってチオール基に変換される。したがって、上記式(1)のR1がジスルフィド結合である場合、チオール誘導体は、上記式(1)からR1を除いた部位を2つ有していてもよい。チオール基は、金と反応し、強固なAu-S結合を生成する。この反応による生成物が上記化合物10である。
【0113】
また、-(CH2)x-(C2H5O)y-は、前述したスペーサーLに相当する。上記式(1)で表されるチオール誘導体は、スペーサーLとしてメチレンやPEGを含んでいるため、金層246に結合したとき、化合物10の自己組織化が図られやすい。これにより、化合物10が配向し、機能性部位Xの高密度配置が可能になる。
【0114】
上記式(1)においてメチレンの個数を表すxは、2以上18以下とされるが、好ましくは3以上10以下とされ、より好ましくは4以上6以下とされる。これにより、化合物10の安定化が図られ、磁気分離操作や液体排出操作に伴う固定化層248の劣化等を抑制することができる。なお、xが前記下限値を下回ると、スペーサーLの長さが短くなるため、機能性部位Xの機能性が低下、すなわち、リガンドまたはリガンド結合部位が機能しにくくなるおそれがある。また、スペーサーLの長さが短くなることで、化合物10の自己組織化を図りにくくなるおそれがある。一方、xが前記上限値を上回ると、化合物10の分子鎖が長くなりすぎる場合があり、化合物10が配向しにくくなって機能性部位Xの密度を十分に高められないおそれがある。
【0115】
上記式(1)においてPEGの個数を表すyは、0以上100以下とされるが、好ましくは1以上30以下とされ、より好ましくは2以上10以下とされる。これにより、化合物10の安定化が図られる。なお、yが前記下限値を下回ると、スペーサーLの長さが短くなるため、機能性部位Xの機能性が低下するおそれがある。また、スペーサーLの長さが短くなることで、化合物10の自己組織化を図りにくくなるおそれがある。一方、yが前記上限値を上回ると、化合物10の分子鎖が長くなりすぎる場合があり、化合物10が配向しにくくなって機能性部位Xの密度を十分に高められないおそれがある。
【0116】
リガンドを有するチオール誘導体の具体例としては、下記式(A-1)~(A-7)で表される化合物が挙げられる。
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
リガンド結合部位を有するチオール誘導体の具体例としては、下記式(B-1)~(B-4)で表される化合物が挙げられる。
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
このような化合物は、例えば、PEG鎖やアルキル鎖に各種官能基を付与したリンカー化合物を用い、PEG鎖やアルキル鎖を介してそれらを結合する等の方法で合成される。
【0130】
3.前記実施形態が奏する効果
以上のように、実施形態に係る生体物質抽出用磁性ビーズである磁性ビーズ2は、磁性金属粉末22と、無機酸化物層242と、下地層244と、金層246と、固定化層248と、を有する。無機酸化物層242は、磁性金属粉末22の粒子表面を被覆し、無機酸化物を含む。下地層244は、無機酸化物層242の表面を被覆し、金イオンの還元剤または金イオンの還元反応の触媒を含む。金層246は、下地層244の表面を被覆し、金を含む。固定化層248は、Au-S結合を介して金層246の表面に結合されている、リガンドまたはリガンド結合部位を有する化合物10を含む。
【0131】
このような構成によれば、負荷が加わった場合でも、リガンドの脱離を抑制でき、かつ、磁性金属粉末22の酸化や腐食を抑制できる。これにより、生体物質の抽出効率が良好な磁性ビーズ2が得られる。
【0132】
また、上記の化合物10は、下記式(1)で表されるチオール誘導体またはその塩と金層246との反応生成物であることが好ましい。
【0133】
R1-(CH2)x-(C2H5O)y-R2 … (1)
[上記式(1)中、xは2以上18以下の整数であり、yは0以上100以下の整数である。また、上記式(1)中、R1はチオール基またはジスルフィド結合であり、R2は前記リガンドまたは前記リガンド結合部位である。]
上記式(1)で表される構造を有するチオール誘導体またはその塩は、金層246と反応することにより、リガンドまたはリガンド結合部位が高密度に配置可能な化合物10を生成できる。これにより、生体物質の抽出効率が特に良好な磁性ビーズ2が得られる。
【0134】
また、無機酸化物は、酸化ケイ素または酸化チタンであることが好ましい。
これらは、化学的に安定であるため、磁性金属粉末22の酸化や腐食を特に抑制することができ、磁性ビーズ2の耐食性を特に高めることができる。
【0135】
また、下地層244は、ニッケルを含むことが好ましい。
下地層244がニッケルの単体またはニッケル合金を含むことにより、置換めっき法や自己触媒型の還元めっき法のような無電解金めっき法により、金層246を良好に成膜することができる。
【0136】
また、無機酸化物層242および下地層244の合計の平均厚さが、10nm以上600nm以下であることが好ましい。
【0137】
これにより、磁性ビーズ2の耐食性を十分に確保することができる。また、磁性ビーズ2の体積全体に占める被覆膜24の体積比率を最適化することができ、磁性ビーズ2が有する体積当たりの磁化が低下することを抑制できる。
【0138】
また、磁性ビーズ2の平均粒径D50は、0.5μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0139】
これにより、磁性ビーズ2の比表面積を十分に大きくすることができ、かつ、磁気分離に適した吸引力および吸着力を磁性ビーズ2に発生させることができる。また、磁性ビーズ2の凝集を抑え、分散性を高めることができる。
【0140】
また、磁性金属粉末22の飽和磁化は、80emu/g以上であり、磁性金属粉末22の保磁力は、100A/m以下であることが好ましい。
【0141】
これにより、磁場中における磁性ビーズ2の移動速度を向上させることができるため、磁気分離に要する時間の短縮を図ることができる。また、十分に高い吸着力が得られるため、磁性ビーズ2を固定した状態で液体3を排出するとき、磁性ビーズ2が液体3と一緒に排出されるのを抑制することできる。これにより、磁性ビーズ2の減少に伴う生体物質の収率の低下を抑制することができる。さらに、磁場印加の切り替えを繰り返す場合でも、磁性ビーズ2同士の凝集を抑制することができる。
【0142】
また、下地層244の平均厚さは、無機酸化物層242の平均厚さの1.2倍以上4.0倍以下であることが好ましい。
【0143】
これにより、金層246を安定して成膜するという下地層244の下地としての機能を高めるとともに、磁性ビーズ2の耐食性の向上を図ることができる。その結果、固定化層248の安定化を図るとともに、磁性金属粉末22の酸化や腐食を抑制することができ、生体物質の抽出効率が特に良好な磁性ビーズ2を実現することができる。
【0144】
以上、本発明の生体物質抽出用磁性ビーズを図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本発明の生体物質抽出用磁性ビーズは、前記実施形態に任意の成分が付加されたものであってもよい。
【実施例0145】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
4.磁性ビーズの作製
4.1.実施例1
まず、磁性金属粉末として、水アトマイズ法により製造した、アモルファス組織を主要な組織とする金属粉末を用意した。用意した金属粉末を、超純水およびエタノールで洗浄した。
【0146】
次に、ストーバー法により、磁性金属粉末の粒子表面に酸化ケイ素(SiO2)を成膜し、無機酸化物層を得た。シリコンアルコキシドには、テトラエトキシシラン(TEOS)を用いた。無機酸化物層を成膜した磁性金属粉末に対し、脱脂処理および酸浸漬処理を施した。
【0147】
次に、無電解ニッケルめっき法により、無機酸化物層の表面にニッケルを成膜し、下地層を得た。下地層を成膜した磁性金属粉末に対し、脱脂処理を施した。
【0148】
次に、置換型無電解金めっき法により、下地層の表面に金を成膜し、金層を得た。金層を成膜した磁性金属粉末を、超純水およびエタノールで洗浄した。
【0149】
次に、表1に示す記号で表される構造を有するチオール誘導体をエタノールに溶解させ、エタノール溶液を調製した。続いて、金層を成膜した磁性金属粉末を、エタノール溶液に浸漬させ、撹拌処理を施した。これにより、チオール誘導体を金層に反応させ、固定化層を得た。
【0150】
なお、磁性金属粉末の平均粒径、飽和磁化および保磁力、ならびに、被覆膜の形成条件は、表1に示す通りである。また、表1に示すチオール誘導体を表す記号は、前述した式(A-1)に対応している。
【0151】
4.2.実施例2~11
磁性金属粉末の構成および被覆膜の形成条件を表1に示すようにした以外は、実施例1と同様にして磁性ビーズを得た。なお、表1に示すチオール誘導体を表す記号は、前述した式(A-2)~(A-7)および式(B-1)~(B-4)で表されるチオール誘導体に対応している。
【0152】
4.3.比較例1
磁性金属粉末に代えて金コロイド粒子を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして磁性ビーズを得た。なお、金コロイド粒子は、金のみで構成された粒子であり、無機酸化物層および下地層を含まない。
【0153】
4.4.比較例2、3
チオール誘導体に代えてシランカップリング剤を用いて固定化層を形成するようにした以外は、実施例1と同様にして磁性ビーズを得た。なお、表1に示すシランカップリング剤を表す記号は、下記式(C-1)、(D-1)で表されるシランカップリング剤に対応している。
【0154】
【0155】
【0156】
4.5.実施例12~25
磁性金属粉末の構成および被覆膜の形成条件を表2に示すようにした以外は、実施例1と同様にして磁性ビーズを得た。なお、表2に示すチオール誘導体を表す記号は、前述した式(A-1)に対応している。
【0157】
4.6.比較例4
無機酸化物層を省略するとともに、被覆層の形成条件を表2に示すようにした以外は、実施例1と同様にして磁性ビーズを得た。
【0158】
4.7.比較例5
下地層を省略するとともに、被覆層の形成条件を表2に示すようにした以外は、実施例1と同様にして磁性ビーズを得た。
【0159】
4.8.比較例6
磁性金属粉末に代えてフェライト含有粒子を用いるとともに、被覆層の形成条件を表2に示すようにした以外は、実施例1と同様にして磁性ビーズを得た。なお、フェライト含有粒子は、フェライト粒子がシリカ中に分散してなる粒子である。
【0160】
5.磁性ビーズの評価
5.1.生体物質の精製量
まず、標的生体物質としてのプロテインAを純水に分散させ、マイクロチューブ内に検体水溶液を調製した。プロテインAの濃度は、50μg/mLとした。
【0161】
次に、検体水溶液に対し、濃度が30質量%となるように、各実施例および各比較例の磁性ビーズを分散させた。
【0162】
次に、マイクロチューブの側面に磁石を近づけ、磁場を印加した後、上澄み液を除去した。そして、マイクロチューブ内に残った磁性ビーズを回収した。これにより、標的生体物質を磁性ビーズに吸着させた。続いて、回収した磁性ビーズをPBSバッファー水溶液中に分散させ、分散液を調製した。PBSバッファー水溶液は、濃度137mmol/LのNaCl、濃度8.1mmol/LのNa2HPO4、濃度2.7mmol/LのKCl、および、濃度1.5mmol/LのKH2PO4を含むリン酸緩衝液である。
【0163】
次に、調製した分散液を転倒撹拌により30分間撹拌した後、上澄み液を回収し、BCAアッセイ検査液を添加した。その後、検査液を添加した分散液について、UV-vis測定器(U-3900H型分光高度計)により吸光度を測定した。そして、イミダゾール溶液単体のabs.-562nmの値を基準値とし、各実施例および各比較例の磁性ビーズを用いて得られた上澄み液のabs.-562nmの値の比を算出した。この比が1.0に近いほど、磁性ビーズによる生体物質の精製量が多いといえる。続いて、算出した比を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0164】
A:上澄み液のabs.-562nmの値/基準値の比が0.8以上である
B:上澄み液のabs.-562nmの値/基準値の比が0.7以上0.8未満である
C:上澄み液のabs.-562nmの値/基準値の比が0.6以上0.7未満である
D:上澄み液のabs.-562nmの値/基準値の比が0.3以上0.6未満である
E:上澄み液のabs.-562nmの値/基準値の比が0.3未満である
【0165】
5.2.再分散性
まず、各実施例および各比較例の磁性ビーズを、濃度が30質量%となるように、PBSバッファー水溶液に分散させ、分散液を調製した。PBSバッファー水溶液は、5.1.で用いたものと同じである。
【0166】
次に、調製した分散液を、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置にセットし、体積基準での平均粒径D50を測定した。得られた平均粒径D50の測定値を、標的生体物質の分離作業前の値とし、これを基準値とする。
【0167】
次に、5.1.と同様にして調製した検体水溶液に、5.1.と同様にして磁性ビーズを分散させ、磁気分離を行い、生体物質を吸着させた磁性ビーズを回収した。その後、5.1.と同様にして、回収した磁性ビーズをPBSバッファー水溶液中に分散させ、分散液を調製した。そして、上記と同様にして、体積基準での平均粒径D50を測定し、その測定値を、標的生体物質の分離作業後の値とした。
【0168】
次に、基準値に対する分離作業後の値の比を算出した。この比が1.0に近いほど、磁性ビーズの再分散性が良好であるといえる。続いて、算出した比を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表1および表2に示す。
A:分離作業後の値/基準値の比が1.1未満である
B:分離作業後の値/基準値の比が1.1以上1.3未満である
C:分離作業後の値/基準値の比が1.3以上1.5未満である
D:分離作業後の値/基準値の比が1.5以上2.0未満である
E:分離作業後の値/基準値の比が2.0以上である
【0169】
5.3.耐食性
まず、各実施例および各比較例の磁性ビーズを、濃度が30質量%となるように、PBSバッファー水溶液に分散させ、分散液を調製した。PBSバッファー水溶液は、5.1.で用いたものと同じである。
【0170】
次に、調製した分散液を、気圧1013hPa、温度70℃の条件下に10日間静置した後に、アジレント・テクノロジー社製、ICP分析装置、5100 ICP-OESを用いて上澄み液の元素濃度測定を行った。
【0171】
そして、PBSバッファー水溶液単体の元素濃度の値を基準値として、上澄み液の元素濃度との差分を計算した。上澄み液のイオン濃度と基準値のイオン濃度の差分が小さいほど、磁気成分溶出量が少ないといえる。評価結果を表1および表2に示す。
【0172】
A:イオン濃度の差分が10ppm未満である
B:イオン濃度の差分が10ppm以上20ppm未満である
C:イオン濃度の差分が20ppm以上35ppm未満である
D:イオン濃度の差分が35ppm以上100ppm未満である
E:イオン濃度の差分が100ppm以上である
【0173】
5.4.磁気分離速度
まず、各実施例および各比較例の磁性ビーズを、濃度が0.1質量%となるように、25℃の純水に分散させて分散液を調製した。次に、分散液を分光セルに入れ、超音波照射による撹拌またはボルテックスミキサーによる撹拌を行った。撹拌時間は、1分とした。次に、撹拌処理を行った分光セルを速やかに分光光度計のセルホルダーにセットした。なお、セルホルダーには、あらかじめ分光セルが配置される位置に合わせて、磁石を取り付けておいた。また、セルホルダーにセットされた分光セルの外壁と磁石との最短距離を2.0mmとし、磁石には、表面磁束密度が180mTの磁石を用いた。
【0174】
次に、分光セルの静置を開始するのと同時に、分光セルについて、波長550nmにおける吸光度の測定を開始した。そして、測定された吸光度が、初期吸光度の10%に減衰するまでの時間を計測し、その計測結果を、磁気分離速度を評価するための評価指標とした。そして、求めた評価指標を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0175】
A:磁気分離速度の評価指標が20秒未満である
B:磁気分離速度の評価指標が20秒以上30秒未満である
C:磁気分離速度の評価指標が30秒以上45秒未満である
D:磁気分離速度の評価指標が45秒以上60秒未満である
E:磁気分離速度の評価指標が60秒以上である
【0176】
【0177】
【0178】
表1および表2に示すように、各実施例の磁性ビーズでは、磁気分離操作を経た後でも、生体物質の精製量が多く、かつ、再分散性も良好であった。また、各実施例の磁性ビーズは、酸を含有するPBSバッファー水溶液に10日間浸漬した状態でも、良好な耐食性を有していた。さらに、各実施例の磁性ビーズは、磁気分離速度が十分に大きいことも認められた。
【0179】
以上の結果から、本発明によれば、生体物質の抽出効率が良好な磁性ビーズを提供できると認められる。
1…容器、2…磁性ビーズ、2A…磁性ビーズ、3…液体、5…磁石、6…ピペット、10…化合物、22…磁性金属粉末、24…被覆膜、242…無機酸化物層、244…下地層、246…金層、248…固定化層、S102…溶解・吸着工程、S108…洗浄工程、S110…溶出工程、L…スペーサー、X…機能性部位