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特開2024-142631燃料電池スタックおよび筐体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142631
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】燃料電池スタックおよび筐体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/2475 20160101AFI20241003BHJP
   H01M 8/2465 20160101ALI20241003BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241003BHJP
【FI】
H01M8/2475
H01M8/2465
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054854
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】大島 悠太
(72)【発明者】
【氏名】坂野 雅章
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA22
5H126AA28
5H126BB06
5H126DD05
5H126EE03
5H126EE06
5H126EE11
5H126FF10
5H126HH01
(57)【要約】
【課題】燃料電池スタックを安価に構成する。
【解決手段】燃料電池スタック100は、膜電極構造体とセパレータとを所定方向に交互に積層して構成された略直方体形状を呈するセル積層体と、所定方向に延在するセル積層体の4つの側面にそれぞれ対向する上壁31、右壁32、下壁33および左壁34を有し、セル積層体10を収容する収容空間SP0を形成するケース30と、を備える。上壁31、右壁32、下壁33および左壁34は、それぞれ略矩形状である略板状部材により構成される。ケース30は、上壁31と右壁32との接続面、右壁32と下壁33との接続面、下壁33と左壁34との接続面、および左壁34と上壁31との接続面に、それぞれ摩擦拡販接合による接合部を有し、さらに収容空間SP0に面する側壁300の内面30aに、機械加工されたガイド支持部35を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と電極とを含む膜電極構造体と、セパレータと、を所定方向に交互に積層して構成された略直方体形状を呈するセル積層体と、
前記所定方向に延在する前記セル積層体の4つの側面にそれぞれ対向する第1側壁、前記第1側壁に連なる第2側壁、前記第2側壁に連なる第3側壁、および前記第3側壁と前記第1側壁とに連なる第4側壁を有し、前記セル積層体を収容する収容空間を形成する筐体と、を備える燃料電池スタックであって、
前記第1側壁、前記第2側壁、前記第3側壁および前記第4側壁は、それぞれ略矩形状である略板状部材により構成され、
前記筐体は、前記第1側壁と前記第2側壁との接続面、前記第2側壁と前記第3側壁との接続面、前記第3側壁と前記第4側壁との接続面、および前記第4側壁と前記第1側壁との接続面に、それぞれ摩擦拡販接合による接合部を有し、
さらに前記収容空間に面する少なくとも前記第1側壁の内側表面に、機械加工された被加工部を有することを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池スタックにおいて、
前記第1側壁と前記第2側壁との接続面は、前記第1側壁の内側表面と前記第2側壁の一端面との接続面であり、
前記第2側壁と前記第3側壁との接続面は、前記第3側壁の内側表面と前記第2側壁の他端面との接続面であり、
前記第3側壁と前記第4側壁との接続面は、前記第3側壁の内側表面と前記第4側壁の一端面との接続面であり、
前記第4側壁と前記第1側壁との接続面は、前記第1側壁の内側表面と前記第4側壁の他端面との接続面であることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池スタックにおいて、
前記第1側壁と前記セル積層体との間、前記第2側壁と前記セル積層体との開、前記第3側壁と前記セル積層体との間、および前記第4側壁と前記セル積層体との間にそれぞれ介装され、前記所定方向に延在するガイド部材をさらに備え、
前記第1側壁、前記第2側壁、前記第3側壁および前記第4側壁は、それぞれ内側表面に前記ガイド部材を支持するガイド支持部を有し、
前記ガイド支持部は、前記被加工部であることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項4】
それぞれ略矩形状に延在するとともに略板状に構成された第1側壁、第2側壁、第3側壁および第4側壁のうち、少なくとも前記第1側壁の表面に機械加工する工程と、
互いに略直交して配置された、前記第1側壁と前記第2側壁との接続面、前記第2側壁と前記第3側壁との接続面、前記第3側壁と前記第4側壁との接続面、および前記第4側壁と前記第1側壁との接続面に沿って、それぞれ略円柱状の接合ツールを回転しながら押し当てて、これら接続面をそれぞれ摩擦拡販接合する工程と、を含み、
前記摩擦拡販接合する工程では、前記第1側壁、前記第2側壁、前記第3側壁および前記第4側壁によって包囲された空間に、前記接合ツールの押し当て荷重を受ける治具を配置することを含むことを特徴とする筐体の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の筐体の製造方法において、
前記第1側壁と前記第2側壁との接続面は、
前記第2側壁の一方側の表面の所定位置から前記2側壁の板厚方向に第1長さだけ延在する第1接続面と、
前記第2側壁の他方側の表面の前記所定位置から所定量だけオフセットした位置から前記第2側壁の板厚方向に第2長さだけ延在する第2接続面と、
前記第2側壁の板厚方向と垂直方向に延在し、前記第1接続面と前記第2接続面とを接続する第3接続面と、を含むことを特徴とする筐体の製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の筐体の製造方法において、
前記機械加工する工程は、前記第1側壁、前記第2側壁、前記第3側壁および前記第4側壁の内側表面にそれぞれ、前記接続面と略平行に延在するガイド部材であり、前記空間に収容物を案内しながら収容するためのガイド部材を支持するガイド支持部を加工する工程を含み、
前記摩擦拡販接合する工程は、前記ガイド支持部で前記治具を支持することを含むことを特徴とする筐体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタックおよび燃料電池スタックなどに用いられる筐体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギの効率化に貢献する燃料電池に関する研究開発が行われている。この種の燃料電池に用いられる燃料電池スタックとして、従来より、断面略コ字状である反割れ形状の第1ケースと第2ケースとを、摩擦撹拌接合を用いて接合することで、燃料電池スタックのセル積層体を収容するためのケースを製造するようにした技術が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1では、第1ケースと第2ケースとをそれぞれ鋳造により作製した後、摩擦撹拌接合により両者を接合して、セル積層体を収容するための収容空間を有するケースを製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6388004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のケースには、収容空間に面したケースの内壁に、何らかの機械加工が必要となる場合がある。しかしながら、ケースの内壁を機械加工するためには、専用の工具が必要となり、コストの増加を伴う。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様である燃料電池スタックは、電解質膜と電極とを含む膜電極構造体と、セパレータと、を所定方向に交互に積層して構成された略直方体形状を呈するセル積層体と、所定方向に延在するセル積層体の4つの側面にそれぞれ対向する第1側壁、第1側壁に連なる第2側壁、第2側壁に連なる第3側壁、および第3側壁と第1側壁とに連なる第4側壁を有し、セル積層体を収容する収容空間を形成する筐体と、を備える。第1側壁、第2側壁、第3側壁および第4側壁は、それぞれ略矩形状である略板状部材により構成される。筐体は、第1側壁と第2側壁との接続面、第2側壁と第3側壁との接続面、第3側壁と第4側壁との接続面、および第4側壁と第1側壁との接続面に、それぞれ摩擦拡販接合による接合部を有し、さらに収容空間に面する少なくとも第1側壁の内側表面に、機械加工された被加工部を有する。
【0006】
本発明の他の態様である筐体の製造方法は、それぞれ略矩形状に延在するとともに略板状に構成された第1側壁、第2側壁、第3側壁および第4側壁のうち、少なくとも第1側壁の表面に機械加工する工程と、互いに略直交して配置された、第1側壁と第2側壁との接続面、第2側壁と第3側壁との接続面、第3側壁と第4側壁との接続面、および第4側壁と第1側壁との接続面に沿って、それぞれ略円柱状の接合ツールを回転しながら押し当てて、これら接続面をそれぞれ摩擦拡販接合する工程と、を含む。摩擦拡販接合する工程では、第1側壁、第2側壁、第3側壁および第4側壁によって包囲された空間に、接合ツールの押し当て荷重を受ける治具を配置することを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、燃料電池スタックの筐体の内部に安価に機械加工を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る燃料電池スタックの全体構成を概略的に示す斜視図。
図2図1のII-II線に沿った断面図。
図3図1の燃料電池スタックに含まれるケースの接合工程の一例を示す図。
図4】互いに接合される側壁の接続面の一例を示す図。
図5A】本発明の実施形態に係る筐体の製造方法における側壁製造工程の一例を示す図。
図5B図5Aに続く前加工工程の一例を示す図。
図5C図5Bに続く接合工程の一例であり、図3とは異なる例を示す図。
図5D図5Cに続く後加工工程の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1図5Dを参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る燃料電池スタックは、燃料電池の主たる要素を構成する。燃料電池は、例えば車両に搭載され、車両駆動用の電力を発生することができる。燃料電池は、航空機や船舶等の車両以外の移動体、ロボットの他、各種産業機械に搭載することもできる。
【0010】
まず、燃料電池スタックの全体構成を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池スタック100の全体構成を概略的に示す斜視図である。以下では、便宜上、図示のように互いに直交する三軸方向を、前後方向、左右方向および上下方向と定義し、この定義に従い各部の構成を説明する。これらの方向は、車両の前後方向、左右方向および上下方向と同一であるとは限らない。例えば図1の前後方向は、車両の前後方向であってもよく、左右方向であってもよく、上下方向であってもよい。
【0011】
図1に示すように、燃料電池スタック100は、セル積層体10と、セル積層体10の前後両端部に配置されたエンドユニット20と、セル積層体10を包囲するケース30と、を有し、全体が略直方体形状を呈する。
【0012】
ケース30は、セル積層体10の上面、右面、下面および左面にそれぞれ対向した略矩形状の4つの側壁300を有する。これら4つの側壁300により、前面および後面が開放された略ボックス状の収容空間SP0が形成される。ケース30は、アルミニウムや鉄などの金属によって構成される。エンドユニット20は、金属製のエンドプレート21を含み、ケース30の前面および後面は、エンドユニット20で覆われる。
【0013】
セル積層体10とケース30の各側壁300との間には、ガイド部材50(図2)が介装される。ガイド部材50は、前後方向に延在する棒状ないし板状部材であり、予め側壁300の内面にそれぞれ取り付けられる。
【0014】
図1のA部には、ケース30の側壁300の一部を破断して示す。図1のA部に示すように、セル積層体10は、複数の発電セル1(便宜上、単一のセル1のみ示す)を、ガイド部材50によって案内されながら、前後方向に積層して構成される。
【0015】
発電セル1は、電解質膜と電極とを含む接合体を有する電極アッセンブリ2と、電極アッセンブリ2の前後両側に配置され、電極アッセンブリ2を挟持するセパレータ3と、を有する。電極アッセンブリ2とセパレータ3とは、前後方向に交互に配置される。
【0016】
セパレータ3は、断面が波板状の前後一対の金属製の薄板を有し、これら一対の薄板の外周部同士を接合して一体に構成される。セパレータ3には耐腐食性に優れた導電性の材料が用いられ、例えばチタン、チタン合金、ステンレス等を用いることができる。一対の薄板は、セパレータ3の内部に冷却媒体(例えば水)が流れる冷却流路を形成するようにプレス成形などによって凹凸状に形成され、冷却媒体の流れにより発電セル1の発電面が冷却される。
【0017】
電極アッセンブリ2の前側のセパレータ3は、例えばアノード側のセパレータ(アノードセパレータ)であり、アノードセパレータ3と電極アッセンブリ2との間に、水素を含む燃料ガスが流れるアノード流路が形成される。電極アッセンブリ2の後側のセパレータ3は、例えばカソード側のセパレータ(カソードセパレータ)であり、カソードセパレータ3と電極アッセンブリ2との間に、酸素を含む酸化剤ガスが流れるカソード流路が形成される。
【0018】
電極アッセンブリ2は、膜電極接合体(MEA;Membrane Electrode Assembly)と、膜電極接合体の周囲を支持する樹脂製のフレームと、を有する。膜電極接合体は、電解質膜と、電解質膜の前面に設けられたアノード電極と、電解質膜の後面に設けられたカソード電極とを有する。膜電極接合体を、膜電極構造体と呼ぶこともある。電解質膜は、例えば固体高分子電解質膜である。アノード電極は、電解質膜の前面に形成され、電極反応の反応場となる電極触媒層であり、電極触媒層の前面には、燃料ガスを拡散して供給するガス拡散層が設けられる。カソード電極は、電解質膜の後面に形成され、電極反応の反応場となる電極触媒層であり、電極触媒層の後面には、酸化剤ガスを拡散して供給するガス拡散層が設けられる。
【0019】
アノード電極では、アノード流路およびガス拡散層を介して供給された燃料ガス(水素)が、触媒の作用によってイオン化され、電解質膜を通過してカソード電極側へ移動する。このとき生じた電子は、外部回路を通過し、電気エネルギとして取り出される。カソード電極では、カソード流路およびガス拡散層を介して供給された酸化剤ガス(酸素)と、アノード電極から導かれた水素イオンおよびアノード電極から移動した電子とが反応し、水が生成される。生成された水は、電解質膜に適度な湿度を与え、余剰な水は電極アッセンブリ2の外部へ排出される。
【0020】
前側のエンドプレート21には、貫通孔211~216が開口される。貫通孔211は、セル積層体10の内部に燃料ガスを供給するための貫通孔である。貫通孔212は、セル積層体10から外部に冷却媒体を排出するための貫通孔である。貫通孔213は、セル積層体10から外部に酸化剤ガスを排出するための貫通孔である。貫通孔214は、セル積層体10の内部に酸化剤ガスを供給するための貫通孔である。貫通孔215は、セル積層体10の内部に冷却媒体を供給するための貫通孔である。貫通孔216は、セル積層体10から外部に燃料ガスを排出するための貫通孔である。
【0021】
セル積層体10の左右方向両端部には、貫通孔211~216に連通するように前後方向に延在する複数の流路(マニホールド)が形成される。セル積層体10の内部のアノード流路には、貫通孔211を介して供給された燃料ガスが導かれ、カソード流路には貫通孔214を介して供給された酸化剤ガスが導かれる。これにより発電セル1で発電が行われる。供給後の燃料ガスおよび酸化剤ガスは、それぞれ貫通孔216,213を介してセル積層体10から排出される。セル積層体10には貫通孔215を介して供給された冷却媒体が導かれ、これにより発電面が冷却される。セル積層体10を通過した冷却媒体は、貫通孔212を介して排出される。
【0022】
本実施形態に係る燃料電池スタック100は、特にケース30の構成に特徴がある。図2は、図1のII-II線に沿った断面図である。図2に示すように、ケース30の側壁300は、セル積層体10の上面、右面、下面および左面にそれぞれ対向した上壁31、右壁32、下壁33および左壁34を含む。以下では、ケース内の収容空間SP0の中心側をケース内側と呼ぶ。
【0023】
収容空間SP0に面する側壁300の内面30a、すなわち、上壁31の下面、右壁32の左面、下壁33の上面および左壁34の右面には、それぞれガイド部材50を支持するガイド支持部35が設けられる。ガイド支持部35は、側壁300の内面30aからケース内側に突設されるとともに、側壁300の長手方向(前後方向)に延設される。ガイド支持部35は、例えば収容空間SP0に面する部位に凹部35aを有する。凹部35aにガイド部材50が嵌合する。
【0024】
ガイド支持部35は、側壁300の内面30aを例えば機械加工することにより、側壁300自体に設けることができる。ガイド支持部35を側壁300とは別体に設けるとともに、ガイド支持部35をボルトなどで側壁300に固定することもできる。ガイド支持部35が別体である場合にも、側壁300の内面30aに、ガイド支持部35を取り付けるための座面やボルト孔などの加工が必要である。
【0025】
ガイド部材50は、前後方向に延在する樹脂製の細長部材であり、例えば押出成形により形成される。ガイド部材50の断面形状は、長手方向(前後方向)にわたって均一である。ガイド部材50は、例えばケース内側に向けて凹部51を有する。凹部51に、セル積層体10の前後左右の縁部が嵌合される。
【0026】
具体的には、セル積層体10のセパレータ3の前後左右の縁部に、ガイド部材50に対応して凸部11が設けられ、凸部11が凹部51に嵌合しながらセパレータ3が積層される。この場合、予め単一のセパレータ3に単一の電極アッセンブリ2を溶着または接着等により接合して一組の単位セルを形成しておくことで、セパレータ3の積層時に電極アッセンブリ2を同時に積層できる。また、ガイド部材50を介してセパレータ3を積層することで、ケース30に対しセパレータ3を精度よく位置決めしながらセル積層体10を構成できる。
【0027】
ケース30は、側壁300のガイド支持部35などの加工が完了した後、側壁300の端部同士が接合されて形成される。具体的には、右壁32の上端面および左壁34の上端面が、それぞれ上壁31の内面30aの右端部および左端部に接合される。右壁32の下端面および左壁34の下端面が、それぞれ下壁33の内面30aの右端部および左端部に接合される。これらの接合には、摩擦攪拌接合が用いられる。
【0028】
図3は、右壁32と上壁31、および右壁32と下壁33の接合工程の一例を示す図である。図3の接合工程においては、まず、基台200上に左壁34を載置する。さらに、左壁34の両端面に上壁31と下壁33とを当接させた状態で、基台200上に上壁31と下壁33とを立設する。このとき、上壁31および下壁33が外側に倒れないように上壁31および下壁33の両側をブロック201で抑える。次いで、左壁34の上面に所定長さの治具202を設置し、治具202の上面に右壁32を搭載する。すなわち、上壁31、右壁32、下壁33および左壁34によって囲まれた空間SP1に、治具202を設置する。
【0029】
このとき、右壁32の両端面が上壁31の端部および下壁33の端部に位置するように治具202の高さが設定される。これにより、右壁32の両端面に上壁31と下壁33とを当接させた状態で、上方からの押し下げ荷重に対抗するように治具202により右壁32を保持することができる。なお、側壁300の接合前の状態をワークと呼ぶこともある。したがって、図3は、ワークの接合工程を示す。
【0030】
この状態で、先端に略円筒形状のプローブ210aを有するツール210を回転させながら、右壁32の端面と上壁31との接続面SF1および右壁32の端面と下壁33との接続面SF2に、上方からツール210を押し当てる。これにより、接続面SF1と接続面SF2とを摩擦攪拌接合する。次いで、ワーク全体を上下方向に反転し、左壁34の端面と上壁31との接続面SF4および左壁34の端面と下壁33との接続面SF3を、同様に摩擦攪拌接合する。これによりケース30が製造される。
【0031】
なお、摩擦撹拌接合後には、接続面SF1~SF4は存在せず、接続面SF1~SF4はそれぞれ接合部SW1~SW4となる。接合部SW1~SW4の大きさは、ツール先端部の直径によって定まり、接合部SW1~SW4は接続面SF1~SF4を中心とした所定領域に存在する。
【0032】
このように摩擦攪拌接合により側壁300同士を接合するので、接合強度が高く、接合による変形や歪も少ない。したがって、予めケース30の内面30aに設けられたガイド支持部35に、ガイド部材50を容易に嵌合することができる。また、図3の例では、右壁32の両端面に接続面SF1,SF2がある。このため、ワークの姿勢を変更することなく同一方向からツール210を近づけて、2つの接続面SF1,SF2の接合を行える。これにより、ワークの姿勢変更の回数が減少し、効率的な接合が可能である。
【0033】
図2に示すように、ケース30(上壁31)の上面には、燃料電池スタック100の発電を制御するための電圧制御ユニット(VCU)205が搭載される。上壁31の上面には、側壁300同士の接合部は設けられず、上面は凹凸なく平坦に形成される。このため、上壁31の上面に、電圧制御ユニット205を、がたつくことなく良好に搭載することができる。
【0034】
図3では、側壁300の接続面SF1~SF4を、それぞれ単一の平面によって構成したが、互いに垂直な複数の平面によって構成してもよい。図4はその一例を示す図であり、上壁31と右壁32との接続面SF1の他の例を示す。
【0035】
図4では、接続面SF1は、複数の面SF11,SF12,SF13により構成される。すなわち、接続面SF1は、右壁32の端面に設けられ、側壁300(右壁32)の外面30bから内面30aにかけて所定長さt1だけ外面30bに対し垂直に延在する外側接続面SF11と、内面30aから外面30bにかけて所定長さt2だけ内面30aに対し垂直に延在する内側接続面SF12と、外側接続面SF11と内側接続面SF12とに直交して外側接続面SF11と内側接続面SF12とを接続する中間接続面SF13とを有する。
【0036】
換言すると、接続面SF1は、ツール210の回転中心である軸線CL1に対して垂直な方向に互いにオフセットした一対の接続面(外側接続面SF11、内側接続面SF12)と、各接続面SF11,SF12にL字状に接続される接続面(中間接続面SF13)とを有する。したがって、互いに対向する上壁31の端面および右壁32の端面はそれぞれ段付き状に構成される。
【0037】
一対の接続面SF11,SF12のオフセット量W(接続面SF13の長さ)はツール先端部のプローブ210aの直径Dよりも小さい値に設定される。接続面SF11,SF12は、軸線CL1を挟んで等距離に設けられる。外側接続面SF11の長さt1は、プローブ210aの長さL1以下に設定される。なお、側壁300の板厚t0から長さt1を減算した値が、内側接続面SF12の長さt2である。図示は省略するが、他の接続面SF2~SF4も図4と同様に構成される。
【0038】
ツール210は、軸線CL1を接続面SF11,SF12の中心に一致させた状態で、外面30bに対し垂直に押し当てられ、プローブ210aの先端部が内面30aに到達するまで移動される。このとき、中間接続面SF13がツール210の押し付け荷重を受けるため、上壁31に対し右壁32の位置が図4のA1方向にずれることを防止することができ、精度よく摩擦攪拌接合を行うことができる。治具202を不要とすることもできる。
【0039】
筐体としてのケース30の製造方法をまとめると以下のようになる。まず、図5Aに示すように、略板状の金属製の4つの側壁300、すなわち上壁31と右壁32と下壁33と左壁34とを製造する。例えば鍛造加工や鋳造加工、押出成形によってこれら側壁300を製造する(側壁製造工程)。なお、側壁製造工程では、側壁300の端面に、エンドプレート21(図1)を取り付けるためのフランジ部301が設けられる。
【0040】
次いで、図5Bに示すように、側壁300を不図示の加工台の上にセットして、側壁300に必要な機械加工を施す(前加工工程)。例えば、センサに接続されたケーブルが通過するための貫通孔302を加工する。機械加工工程では、側壁300の内面30aにガイド支持部35を設ける加工も行う。この段階では、内面30aが露出しているため、側壁300に対する種々の加工を容易に行うことができる。なお、側壁製造工程で、側壁300にガイド支持部35を設けた上で、機械加工工程で、ガイド支持部35に対し加工(切削加工や孔開け加工など)を行うようにしてもよい。
【0041】
次いで、図3に示すように、治具202を用いて側壁300の接続面SF1~SF4を接合する(接合工程)。すなわち、ツール210を回転させながら接続面SF1~SF4の上方からツール210を押し付けて、接続面SF1~SF4を摩擦撹拌接合する。図3に代えて、図5Cに示すように接合工程を行うようにしてもよい。図5Cでは、側壁300によって囲まれた空間SP1に、略十字型の治具206が設置される。治具206の上端部、下端部、右端部および左端部は、それぞれ側壁300の内面30aのガイド支持部35に嵌合される。これにより、ガイド部材50を支持するためのガイド支持部35を流用して、治具206を容易に保持できる。
【0042】
次いで、図5Dに示すように、ケース30のフランジ部301に、ボルト孔301aを加工する(後加工工程)。フランジ部301はケース30の端部に設けられるため、ケース30が組み立てられた状態であっても、フランジ部301の加工を容易に行うことができる。以上で、ケース30の製造が完了する。
【0043】
その後、燃料電池スタック100を組み立てる場合には、図2に示すようにケース30のガイド支持部35(凹部35a)にガイド部材50を嵌合する。そして、ガイド部材50に沿って電極アッセンブリ2とともにセパレータ3を所定枚数だけ積層し、セル積層体10を構成する。さらに、加圧機により、エンドユニット20を介してセル積層体101の両端部に押し付け力を付与してセル積層体101を所定長さに圧縮する。そして、その状態で、ボルトを用いてケース30のフランジ部301をエンドプレート21に締結する。
【0044】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)燃料電池スタック100は、電解質膜と電極とを含む電極アッセンブリ2と、セパレータ3と、を前後方向に交互に積層して構成された略直方体形状を呈するセル積層体10と、前後方向に延在するセル積層体10の4つの側面にそれぞれ対向する4つの側壁300、すなわち上壁31、上壁31に連なる右壁32、右壁32に連なる下壁33、および下壁33と上壁31とに連なる左壁34を有し、セル積層体10を収容する収容空間SP0を形成するケース30と、を備える(図1図2)。上壁31,右壁32,下壁33および左壁34は、それぞれ略矩形状である略板状部材により構成される(図1)。ケース30は、上壁31と右壁32との接続面SF1、右壁32と下壁33との接続面SF2、下壁33と左壁34との接続面SF3、および左壁34と上壁31との接続面SF4に、それぞれ摩擦拡販接合により接合された接合部SW1~SW4を有する(図3)。さらにケース30は、収容空間SP0に面する少なくとも上壁31の内面30aに、機械加工が施されたガイド支持部35を有する(図2)。
【0045】
このように接合時の歪が少ない摩擦撹拌接合により、4つの側壁300を接合してケース30を構成するので、側壁300の接合前に、つまり側壁300が単体の段階で、側壁300の内面30aや外面30bに各種の機械加工を施すことができる。このため、例えば上壁31の内面30aに、ガイド支持部35を設けるための機械加工が必要な場合に、当該機械加工を容易に行うことができる。すなわち、ケース30が組み立てられた状態でケース30の内面30aを加工する場合、専用の工具等が必要となるが、本実施形態によれば専用の工具等が不要であり、燃料電池スタック100のケース30を容易かつ安価に構成することができる。
【0046】
(2)上壁31と右壁32との接続面SF1は、上壁31の内面30aと右壁32の上端面との接続面であり、右壁32と下壁33との接続面SF2は、下壁33の内面30aと右壁32の下端面との接続面であり、下壁33と左壁34との接続面SF3は、下壁33の内面30aと左壁34の下端面との接続面であり、左壁34と上壁31との接続面SF4は、上壁31の内面30aと左壁34の上端面との接続面である(図2図3)。これにより、上壁31の上面に接合部は露出せず、上面を、凹凸がない平坦面とすることができる。したがって、上壁31の上面に、電圧制御ユニット205などの機器を安定して搭載することができる。また、下壁33の下面に接合部は露出せず、下面を、凹凸がない平坦面とすることができる。したがって、燃料電池スタック100を車体に安定して搭載できる。さらに、右壁32の両端面および左壁34の両端面にそれぞれ接続面SF1,SF2およびSF3,SF4が設けられので、複数の接続面SF1,SF2およびSF3,SF4に同一方向からツール210を押し当てることができる。このため、ワークの姿勢変更の回数が少なく、側壁300の効率的な接合が可能である。
【0047】
(3)燃料電池スタック100は、上壁31とセル積層体10との間、右壁32とセル積層体10との開、下壁33とセル積層体10との間、および左壁34とセル積層体10との間にそれぞれ介装され、前後方向に延在するガイド部材50をさらに備える(図2)。上壁31、右壁32、下壁33および左壁34は、それぞれ内面30aにガイド部材50を支持するガイド支持部35を有する(図2)。ガイド支持部35は、機械加工が施されて形成される。これにより、ガイド部材50を、側壁300の内面30aに容易かつ精度よく取り付けることができ、ガイド部材50に沿って複数の発電セル1を良好に積層することができる。
【0048】
(4)燃料電池スタック100に用いられる筐体(ケース30)の製造方法は、それぞれ略矩形状に延在するとともに略板状に構成された上壁31、右壁32、下壁33および左壁34の表面に機械加工する工程(前加工工程)と、互いに略直交して配置された、上壁31と右壁32との接続面SF1、右壁32と下壁33との接続面SF2、下壁33と左壁34との接続面SF3、および左壁34と上壁31との接続面SF4に沿って、それぞれ略円柱状のツール(接合ツール)210を回転しながら押し当てて、これら接続面SF1~SF4をそれぞれ摩擦拡販接合する工程(接合工程)と、を含む(図3図5B図5C)。接合工程では、上壁31、右壁32、下壁33および左壁34によって包囲された空間SP1に、ツール210の押し当て荷重を受ける治具202、206を配置することを含む(図3図5C)。この構成により、ケース30の内部に機械加工が必要な場合であっても、専用の工具を用いることなく、ケース30を容易かつ安価に製造することができる。
【0049】
(5)上壁31と右壁32との接続面SF1は、右壁32の外面30bの所定位置から右壁32の板厚方向に所定長さt1だけ延在する外側接続面SF11と、右壁32の内面30aの所定位置から所定量Wだけオフセットした位置から右壁32の板厚方向に所定長さt2だけ延在する内側接続面SF12と、右壁32の板厚方向と垂直方向に延在し、外側接続面SF11と内側接続面SF12とを接続する中間接続面SF13と、を含むようにしてもよい(図4)。これにより、接合工程でツール210から押し付け荷重が作用した場合に、接続面SF1での上壁31に対する右壁32の位置ずれを防ぐことができ、接続面SF1での接合を容易かつ精度よく行うことができる。
【0050】
(6)前加工工程は、上壁31、右壁32、下壁33および左壁34の内面30a(空間SP1に面する側)にそれぞれ、接続面SF1~SF4と略平行に延在するガイド部材50、すなわち、空間SP1にセパレータ3を案内しながら収容するためのガイド部材50を支持するガイド支持部35を加工する工程を含む。接合工程は、ガイド支持部35で治具206を支持することを含む(図5C)。このようにガイド支持部35を介して治具206を支持するので、ツール210の押し付け荷重に対抗するための治具206を、ケース内で安定的に保持することができる。
【0051】
上記実施形態は種々の形態に変形することができる。上記実施形態では、4つの側壁300にそれぞれ、機械加工された被加工部としてガイド支持部35を設けるようにしたが、被加工部の構成はこれに限らない。ガイド部材50とガイド支持部35はなくてもよい。少なくとも第1側壁の内側表面に被加工部を設けるのであれば、第2側壁、第3側壁、第4側壁に機械加工部を設けなくてもよい。ここで、第1側壁とは、上壁31、右壁32、下壁33および左壁34のいずれかであり、第2側壁は第1側壁に連なる側壁であり、第3側壁は第2側壁に連なる側壁であり、第4側壁は第3側壁および第1側壁に連なる側壁である。
【0052】
上記実施形態では、電解質膜と電極とを含む膜電極接合体としての電極アッセンブリ2とセパレータ3とを前後方向(所定方向)に交互に積層して積層体(セル積層体10)を構成したが、積層方向は前後方向に限らず上下方向であってもよい。上記実施形態では、側壁300が端部に屈曲部を含まないように4つの側壁300をそれぞれ略板状に構成したが、4つの側壁300のいずれが、90°屈曲した屈曲部を端部に含んでもよい。上記実施形態では、一対の接続面SF1,SF2および一対の接続面SF3,SF4が、それぞれ同一方向(図3の上下方向)に延在するようにしたが、これらが異なる方向に延在してもよい。
【0053】
上記実施形態(図4)では、上壁31を第1側壁、右壁32を第2側壁として、右壁32の一方側の表面である外面30bの所定位置から右壁32の板厚方向に所定長さt1(第1長さ)だけ延在する外側接続面SF11(第1接続面)と、右壁32の他方側の表面である内面30aの所定位置から所定量Wだけオフセットした位置から右壁32の板厚方向に所定長さt2(第2長さ)だけ延在する内側接続面SF12(第2接続面)と、右壁32の板厚方向と垂直方向に延在し、外側接続面SF11と内側接続面SF12とを接続する中間接続面SF13(第3接続面)と、を含むように接続面SF1を構成したが、第1側壁と第2側壁の構成はこれに限らない。第1側壁は上壁31以外、すなわち、右壁32、下壁33および左壁34のいずれであってもよく、第2側壁は右壁32以外、すなわち、上壁31、下壁33および左壁34のいずれであってもよい。
【0054】
以上では、燃料電池スタック100のケース30内にセル積層体10を収容する例を示したが、本発明の筐体は燃料電池スタック以外の筐体として用いることもできる。したがって、筐体内に収容される収容物は、セル積層体に限らない。
【0055】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【0056】
2 電極アッセンブリ、3 セパレータ、10 セル積層体、30 ケース、31 上壁、32 右壁、33 下壁、34 左壁、35 ガイド支持部、50 ガイド部材、100 燃料電池スタック、202,206 治具、210 ツール、SF1~SF4 接続面、SF11 外側接続面、SF12 内側接続面、SF13 中間接続面、SW1~SW4 接合部
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D