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特開2024-142641クレーンにおける制御システム及び位置調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142641
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】クレーンにおける制御システム及び位置調整方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/46 20060101AFI20241003BHJP
   B66C 13/22 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B66C13/46 D
B66C13/22 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054873
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598022956
【氏名又は名称】株式会社大同機械
(74)【代理人】
【識別番号】100154357
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】山内 博史
(72)【発明者】
【氏名】市村 元
(72)【発明者】
【氏名】落合 康全
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 金正
(72)【発明者】
【氏名】田淵 義弘
【テーマコード(参考)】
3F204
【Fターム(参考)】
3F204AA04
3F204BA02
3F204CA01
3F204DB03
3F204DC01
3F204DD14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】衛星測位システムを用いて、旋回体とそこから延びる支持部とを備えたクレーンにおけるジブの先端部の位置制御をより正確に行うことを可能にする構成を提供する。
【解決手段】一実施形態に係るクレーンにおける制御システムは、旋回体16から延びる支持部18の先端部18bに設けられている衛星測位システムの測位部32と、支持部18の傾斜角を検出する傾斜角検出部37と、支持部の先端部18bの位置制御の調整を行うキャリブレーション部とを備える。キャリブレーション部は、支持部が所定傾斜角で保持されている旋回体の所定旋回範囲の旋回のときの測位部の出力に基づく先端部の位置情報に基づいて旋回中心を定めることと、測位部の出力に基づいて旋回中心から所定距離離れている位置に先端部を位置付けたときの傾斜角検出部の出力に基づいて傾斜角検出部の出力補正値を導き出すこととを実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンにおける制御システムであって、
基部上の旋回台から延びる支持部の先端部であって、前記先端部から垂れ下がるロープに吊具が連結されている先端部に設けられている衛星測位システムの測位部と、
前記支持部の傾斜角を検出する傾斜角検出部と、
前記支持部の前記先端部の位置制御の調整を行うキャリブレーション部と
を備え、
前記キャリブレーション部は、
前記支持部が所定傾斜角で保持されている前記旋回体の所定旋回範囲の旋回のときの前記測位部の出力に基づく前記先端部の位置情報に基づいて、前記旋回台の旋回中心を定めることと、
前記測位部の出力に基づいて、前記旋回中心から所定距離離れている位置に前記先端部を位置付けたときの前記傾斜角検出部の出力に基づいて、前記傾斜角検出部の出力補正値を導き出すこと
とを実行する
制御システム。
【請求項2】
前記傾斜角検出部の出力補正値を導き出すことは、
前記測位部の出力に基づいて前記旋回中心から第1所定距離離れている位置に前記先端部を位置付けたときの前記傾斜角検出部の出力と、
前記測位部の出力に基づいて前記旋回中心から第2所定距離離れている位置に前記先端部を位置付けたときの前記傾斜角検出部の出力と
に基づいて、前記傾斜角検出部の出力補正値を導き出すこと
を含む
請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記旋回体及び前記支持部を自動制御するように構成されている自動制御部を更に備えている、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項4】
基部上の旋回台と、前記旋回体から延びて先端部から垂れ下がるロープに吊具が連結されている支持部とを備えたクレーンにおける位置調整方法であって、
前記支持部が所定傾斜角で保持されている前記旋回台の所定旋回範囲の旋回のときの、前記先端部に設けられている衛星測位システムの測位部の出力に基づく前記先端部の位置情報に基づいて、前記旋回台の旋回中心を定めることと、
前記測位部の出力に基づいて、前記旋回中心から所定距離離れている位置に前記先端部を位置付けたときの、前記支持部の傾斜角を検出する傾斜角検出部の出力に基づいて、前記傾斜角検出部の出力補正値を導き出すこと
を含む、方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回体とそこから延びる支持部とを備えたクレーンにおける制御システム、及び、そのようなクレーンにおける位置調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、クレーンの吊具と、当該吊具の吊部材を介して支持する吊支点と、同位置合わせするクレーンの位置合わせ方法を開示する。この方法では、位置を測位する第1の測位部が吊支点側に設けられ、位置を測位する第2の測位部が吊具側に設けられた状態で、吊具を吊荷に接続する接続工程と、第1の測位部に基づく位置と第2の測位部に基づく位置とを比べることで、吊支点と吊具との間の位置合わせを行う位置合わせ工程と、位置合わせ工程の完了後に、吊具で吊荷を吊り上げる吊り上げ工程とを備える。特許文献1の記載によれば、この方法の位置合わせ工程では、第1の測位部に基づく位置と第2の測位部に基づく位置とを比べることで、吊支点と吊具との間の位置合わせを行い、これにより、吊支点と吊具との間のずれ量を正確に減少させることができ、このように吊支点と吊具との間のずれ量を小さくした状態で、吊り上げ工程において吊具で吊荷を吊り上げるため、吊荷の振れの発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-169087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、作業性向上のため、クレーンの自動制御の実用化が更なる広がりをみせている。クレーンの自動制御では、例えば、吊具が垂れ下がるジブの先端部の位置調整を、角度計により検出されるジブの傾斜角を用いて行うことができる。しかし、角度計の精度には限界があり、クレーンの自動制御における更なるジブの先端部つまり吊具の位置決めの精度向上が望まれる。
【0005】
一方、GPS等の衛星測位システムつまりGlobal Navigation Satellite System(GNSS)を用いた各種装置などの位置制御が近年広く実用化されていて、その精度も向上している。したがって、クレーンの位置制御に衛星測位システムを活用することで、ジブの先端部のより正確な位置決めが期待される。
【0006】
なお、特許文献1の方法は、上記第1の測位部に基づく位置と上記第2の測位部に基づく位置とを比べることで、吊支点と吊具との間の位置合わせを行い、よって吊支点と吊具との間のずれ量を減少させることに向けられているに過ぎない。つまり、特許文献1の方法は、吊具の正確な位置制御に向けられておらず、課題を有する。
【0007】
本発明の目的は、衛星測位システムを用いて、例えば旋回台である旋回体とそこから延びる支持部例えばジブとを備えたクレーンにおけるその支持部の先端部の位置制御をより正確に行うことを可能にする構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1態様は、
クレーンにおける制御システムであって、
基部上の旋回体から延びる支持部の先端部であって、前記先端部から垂れ下がるロープに吊具が連結されている先端部に設けられている衛星測位システムの測位部と、
前記支持部の傾斜角を検出する傾斜角検出部と、
前記支持部の前記先端部の位置制御の調整を行うキャリブレーション部と
を備え、
前記キャリブレーション部は、
前記支持部が所定傾斜角で保持されている前記旋回体の所定旋回範囲の旋回のときの前記測位部の出力に基づく前記先端部の位置情報に基づいて、前記旋回体の旋回中心を定めることと、
前記測位部の出力に基づいて、前記旋回中心から所定距離離れている位置に前記先端部を位置付けたときの前記傾斜角検出部の出力に基づいて、前記傾斜角検出部の出力補正値を導き出すこととを実行する制御システム
を提供する。
【0009】
好ましくは、前記傾斜角検出部の出力補正値を導き出すことは、前記測位部の出力に基づいて前記旋回中心から第1所定距離離れている位置に前記先端部を位置付けたときの前記傾斜角検出部の出力と、前記測位部の出力に基づいて前記旋回中心から第2所定距離離れている位置に前記先端部を位置付けたときの前記傾斜角検出部の出力とに基づいて、前記傾斜角検出部の出力補正値を導き出すことを含む。
【0010】
好ましくは、前述の制御システムは、前記旋回体及び前記支持部を自動制御するように構成されている自動制御部を更に備えている。
【0011】
本発明の第2態様は、
基部上の旋回体と、前記旋回体から延びて先端部から垂れ下がるロープに吊具が連結されている支持部とを備えたクレーンにおける位置調整方法であって、
前記支持部が所定傾斜角で保持されている前記旋回体の所定旋回範囲の旋回のときの、前記先端部に設けられている衛星測位システムの測位部の出力に基づく前記先端部の位置情報に基づいて、前記旋回体の旋回中心を定めることと、
前記測位部の出力に基づいて、前記旋回中心から所定距離離れている位置に前記先端部を位置付けたときの、前記支持部の傾斜角を検出する傾斜角検出部の出力に基づいて、前記傾斜角検出部の出力補正値を導き出すこと
を含む、方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記第1態様又は上記第2態様によれば、それぞれ上記構成を備えるので、衛星測位システムを用いて、旋回体とそこから延びる支持部とを備えたクレーンにおける支持部の先端部の位置制御をより正確に行うことを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るクレーンの概略構成図である。
図2図1のクレーンにおける制御システムを示すブロック図である。
図3図1のクレーンを上から見た模式的な平面図である。
図4図1のクレーンの制御に関するフローチャートである。
図5図1のクレーンにおける非作業者検知システムを説明するための模式図である。
図6図1のクレーンの制御に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態を添付図に基づいて説明する。同一の部品(又は構成)には同一の符号を付してあり、それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0015】
図1に、一実施形態に係るクレーン10の概略構成図を示す。クレーン10の装置構成としては、ポスト14、旋回台16、ジブ18、ガントリ20及び吊具(フック)22を有している。クレーン10は、例えば地面Gである作業面に置かれた吊荷Wを吊り上げて他の場所へ移動させることができる。なお、ジブ18は支持部である。
【0016】
ポスト14は、基部であり、ここでは地面Gに立設されているが、その他の箇所、例えば建造物の上部に立設されてもよい。ポスト14は、柱状の構造体であり、マスト又は脚部と称されてもよい。ポスト14は、種々の高さを有して構成され得、例えば走行体とされてもよい。
【0017】
旋回台16は、旋回体の一例であり、ポスト14の上端に設けられ、ここではポスト14において鉛直方向に延びるように定められる軸線C回りに旋回可能である。なお、軸線Cはポスト14の軸線であることに限定されず、ポスト14の軸線に平行であるとよい。旋回台16には、その上部に運転室23が設けられている。ジブ18は、旋回台16に結合されている。ジブ18は、旋回台16側を基端部18aとして、そこから延びるように旋回台16に設けられている。
【0018】
ガントリ20は、旋回台16上に立設されている。ガントリ20は、旋回台16の鉛直方向上側に真っすぐ延びる。旋回台16、ガントリ20の上端部であるガントリトップ20a、及び、ジブ18の先端部18bは、ワイヤーロープWR1により互いに支持されている。ウインチ24によりワイヤーロープWR1が巻取り及び巻戻しされることにより、ジブ18は、その基端部18aを支点として起伏動作を行う。なお、ガントリ20は、ここでは1つの部材から構成されているが、複数の部材の組み合わせから構成されてもよく、複数の部材が相対的に動作する機構を有してもよく、リンク機構を有して構成されてもよい。
【0019】
また、ワイヤーロープWR2は、ジブ18の先端部18bから、先端部18bを支点として鉛直方向下方に延び、そのワイヤーロープWR2の垂れ下がる先端部に吊具22が連結されている。ウインチ26によりワイヤーロープWR2が巻き取り及び巻戻しされることにより、吊具22は、上下方向へ移動する。
【0020】
吊具22は、吊荷Wと接続されることにより、当該吊荷Wをクレーン10で吊り上げ可能とするための器具である。吊具22は、ここではフックであり、例えば吊荷Wのワイヤーロープに接続可能である。
【0021】
図2にクレーン10の制御システム28のブロック図を示す。制御システム28は、運転室23に設けられた制御装置30を備える。制御装置30は、クレーン10全体を制御する装置である。制御装置30は、プロセッサ(例えばCPU)、メモリ(例えばROM、RAM)、通信インターフェースなどを備える。つまり、制御装置30は、コンピュータとしての構成を備えている。制御装置30は、例えば、メモリに記憶されているプログラムをプロセッサで実行することにより各種の機能を実現する。制御装置30は、複数のコンピュータから構成されていてもよい。また、制御装置30は、運転室23以外の箇所に設けられてもよい。
【0022】
制御装置30には、種々のセンサ及び受信機などが接続されたり通信可能にされたりしている。例えば、GPS測位装置32、34からの出力が制御装置30には入力される。GPS測位装置32は、衛星測位システムの測位部つまり第1測位部であり、ジブ18の先端部18bに設けられている。より具体的には、GPS測位装置32は、水平方向の位置に応じた信号を出力する構成を備え、その先端部18bの位置つまり位置情報を取得するために設けられる。GPS測位装置34は、衛星測位システムの測位部つまり第2測位部であり、水平方向の位置に応じた信号を出力する構成を備え、ここでは吊荷Wに設けられる。GPS測位装置34は、鉛直方向位置測定部の一例である気圧計36とともに取付ユニット33に統合されていて、吊荷Wに着脱自在に取り付けられる。例えば吊荷Wは鋼材であり、取付ユニット33の磁石で取付ユニット33は吊荷Wに着脱自在に取り付けられる。なお、GPS測位装置34は、気圧計36から独立した部材とされてもよい。
【0023】
GPS測位装置32、34はここでは同じ構成を備えるが、異なる構成を有してもよい。GPS測位装置32、34はそれぞれ、自らの位置を測位する機器である。GPS測位装置32、34は、衛星からの信号を受信することで、地球上の座標中における位置を測位する全地球測位システム(Global Positioning System(GPS))の受信器つまり衛星信号受信器を備えて構成され、制御装置30と通信可能な通信部も備える。
【0024】
衛星信号受信器としてのGPS測位装置32、34は、地球の周囲を周回する複数の人工衛星であるGPS衛星からの信号を受信する。制御装置30は、GPS測位装置32、34が受信した信号に基づいてそれぞれの位置つまり位置情報を取得する。なお、衛星測位システムつまりGlobal Navigation Satellite System(GNSS)はGPSに限られない。種々の衛星測位システムからの信号に基づいて、位置情報が検出されてもよい。GNSSは、GPSに限定されず、準天頂衛星システム(Quasi-Zenith Satellite System)を含み得、例えば、欧州の“ガリレオ”や、GPSと一体運用される日本国の“みちびき”を含み得る。
【0025】
気圧計36は、気圧に応じた信号を出力するので、換言すると鉛直方向の位置に応じた信号を出力する。気圧計36は、前述のように吊荷Wに設けられるので、吊荷Wの鉛直方向の位置に応じた信号を出力する。気圧計36も、GPS測位装置34と同様に、制御装置30と通信可能な通信部を備える。なお、気圧計36の通信部は、GPS測位装置34の通信部に統合されてもよい。
【0026】
更に、クレーン10のジブ18には、その傾斜角θを検出するための角度計37が設けられている。角度計37は、ここではジブ18の基端部18aに設けられている。具体的には、角度計37は、コリノメーターを備える。また、角度計37も制御装置30と通信可能な通信部を備える。角度計37の出力も、制御装置30に入力される。なお、角度計37は、傾斜角検出部に相当する。
【0027】
制御装置30には、GPS測位装置32、34、気圧計36及び角度計37の他に、操作部38及び表示部40が接続されている。操作部38は、操作レバー、スイッチ、タッチパネルなどであり、表示部40とともに、運転室23に設けられている。
【0028】
更に、制御装置30には端末装置42が接続されている。端末装置42は、プロセッサ(例えばCPU)、メモリ(例えばROM、RAM)、通信インターフェースなどを備え、コンピュータとしての構成を備えていて、ネットワークを介して制御装置30に接続可能である。この端末装置42からはクレーン10の制御情報を入力でき、端末装置42を介して制御装置30にはその制御情報が入力されて取得される。これにより、制御装置30は、クレーン10の遠隔操作及び自動運転を行うことができる。
【0029】
制御装置30は、GPS測位装置32、34、気圧計36、角度計37、操作部38及び端末装置42から入力された情報に基づいて、クレーン10の制御を行う。制御装置30は、メモリに記憶されているプログラムをプロセッサで実行することにより各種の機能を実現し、次の機能モジュールを有する。制御装置30は、機能モジュールとして、情報取得部301、自動制御部3031及びキャリブレーション部3033を有する吊具制御部303、安全支援部305及び非作業者検知部307を有する。この安全支援部305を備えて安全支援システムSは構成される。
【0030】
情報取得部301は、GPS測位装置32、34の出力に基づく水平方向位置情報、気圧計36の出力に基づく鉛直方向位置情報としての気圧情報、角度計37の出力に基づくジブ18の傾斜角θ、操作部38から入力された情報、及び、端末装置42から入力された情報をそれぞれ取得する。そして、情報取得部301は、取得した情報をメモリに記憶したり、他の機能モジュールに送信したりする。
【0031】
吊具制御部303は、例えば操作部38及び端末装置42から入力された情報に基づいて、クレーン10の駆動部44に指令信号を送信する。駆動部44は、制御装置30からの指令信号を受信することで、クレーン10の各駆動機構を駆動させる。駆動部44は、旋回台16を旋回させるためのモータ、ジブ18を起伏動作させるためのウインチ24、及び、吊具22を上下動させるためのウインチ26などを備えている。ジブ18を起伏動作させるためのウインチ24は、ワイヤーロープWR1を巻取り及び巻戻しするモータを含み、吊具22を上下動させるためのウインチ26は、ワイヤーロープWR2を巻取り及び巻戻しするモータを含む。
【0032】
吊具制御部303は、前述のように、自動制御部3031を備えている。自動制御部3031は、操作部38又は端末装置42からの自動制御の指令により、旋回台16及びジブ18を自動制御するように構成されている。自動制御部3031は、吊荷Wに設けられたGPS測位装置34及び気圧計36からの入力に基づいて、所定の位置に吊荷Wを位置付けるように、吊具22を自動制御することも可能である。自動制御部3031は、旋回台16の旋回モータのパルスカウンタの値、及び、角度計37の出力に基づいて、ジブ18の先端部18bの位置を自動制御するように駆動部44に指令信号を送信する。
【0033】
この自動制御では、ジブ18の先端部18bを目標位置に位置付けるとき、ジブ18を目標位置に向けるように旋回台16を旋回させ、かつ、ジブ18の先端部18bの位置と相関関係があるジブ18の傾斜角θを目標位置に相当する目標角度にするように駆動部44に指令信号が出力される。そして、ここでは、前述のように、ジブ18の基端部18aに、ジブ18の傾斜角θの測定用に角度計37が設けられている。したがって、自動制御において先端部18bの位置制御をより正確に行うためには、旋回台16の旋回中心を設定及び角度計37の出力に基づく検出値の調整つまりキャリブレーションが必要である。このキャリブレーションのために、吊具制御部303は、前述のように、キャリブレーション部3033を備えている。
【0034】
ここで、図1から図3に基づいてキャリブレーション部3033によるキャリブレーションについて説明する。
【0035】
クレーンの自動制御の開始前の所定のタイミングに、制御装置30のキャリブレーション部3033は作動するとよい。例えば、自動制御の指令を受けると、まず、キャリブレーション部3033が作動し、その後、自動制御部3031が作動する。キャリブレーション部3033は、まず、軸線Cの位置を定めることを行う。具体的には、キャリブレーション部3033は、ジブ18が所定傾斜角で保持されている旋回台16の所定旋回範囲の旋回のときのGPS測位装置32の出力に基づく先端部18bの位置情報に基づいて、旋回台16の旋回中心つまり軸線Cの位置を定めることを行う。ジブ18の傾斜角θは所定傾斜角、例えば30°、45°などに設定される(図1参照)。なお、この所定傾斜角は任意であり、毎回同じでも、異なってもよい。このとき、ジブ18は所定旋回位置に保持される。所定旋回位置は、例えば図3に示すように軸線Cを中心にして上側を0°と定めたとき、時計回りに90°の位置と定めることができるが、これに限定されない。このようにジブ18の傾斜角θが所定傾斜角になるとともに、ジブ18の先端部18bが所定旋回位置に向くようにジブ18が保持されているとき、そのジブ18の先端部18bのGPS測位装置32の出力が取得される。そして、ジブ18の傾斜角θをその所定傾斜角に固定したまま、旋回台16が所定旋回範囲δで旋回される(図3の矢印A1参照)。例えば、所定旋回範囲δは、図2において軸線Cを中心にして0°~180°の180°の範囲で有り得、90°の範囲でも、270°の範囲でも、360°の範囲でも、それ以外の範囲であってもよい。この所定旋回範囲δの旋回台16の旋回のときのGPS測位装置32の出力が情報取得部301を介してキャリブレーション部3033で取得される。これにより、所定旋回範囲δのジブ18の先端部18bの軌跡情報が取得され、所定の演算により、その先端部18bの軌跡を円弧とする中心が算出される。これにより、算出された中心が、旋回台16の旋回中心つまり軸線Cの位置として定められる。
【0036】
そして、キャリブレーション部3033は、旋回台16の旋回中心つまり軸線Cの位置から所定距離離れた位置の位置情報を算出し、その位置情報の位置に、先端部18bのGPS測位装置32の出力に基づく位置が一致するようにジブ18を動かす。このとき、旋回台16も動かされてもよい。そして、軸線Cの位置から所定距離離れた位置に先端部18bのGPS測位装置32の出力に基づく位置が一致したときの角度計37の出力を取得する。角度計37の出力に基づく傾斜角θと軸線CからGPS測位装置32までの長さの関係などの情報を制御装置30は予め有している。そこで、軸線Cの位置から所定距離離れた位置に先端部18bのGPS測位装置32の出力に基づく位置が一致したときの角度計37の出力に基づく傾斜角を、角度計37の出力に基づく傾斜角θと軸線CからGPS測位装置32までの長さの関係と組み合わせて所定の演算を行うことで、角度計37の出力補正値を導き出すことができる。例えば、所定距離が傾斜角30°に対応する距離であるときに、角度計37の出力に基づいて傾斜角31°が検出されたとき、それらの間に傾斜角1°分ずれがあることになるので、その傾斜角1°分を補正する補正値が導き出される。
【0037】
なお、旋回台16の旋回中心つまり軸線Cの位置を定めた後の、角度計37の出力に基づくその出力補正値の導出は、複数の所定距離に関する角度計37の出力に基づいて行われるとよい。例えば、GPS測位装置32の出力に基づいて旋回中心つまり軸線Cから第1所定距離離れている位置に先端部18bを位置付けたときの角度計37の出力と、GPS測位装置32の出力に基づいて軸線Cから第2所定距離離れている位置に先端部18bを位置付けたときの角度計37の出力とに基づいて、角度計37の出力補正値の導出が行われるとよい。第1所定距離は第2所定距離とは異なる値である。例えば、第1所定距離は傾斜角30°のときの距離に相当し、第2所定距離は傾斜角45°のときの距離に相当するとよい。
【0038】
こうして、GPS測位装置32の出力に基づいて旋回中心を定め、そして、GPS測位装置32の出力に基づいて旋回中心から所定距離離れている位置にジブ18の先端部18bを位置付けたときの角度計37の出力に基づいて角度計37の出力補正値を導き出すことができる。よって、自動制御のときに、GPS測位が十分でないときにも、旋回台16を旋回させるためのモータ(旋回モータ)のパルスカウンタ、及び、角度計37の出力に基づいて、ジブ18の先端部18bの位置制御をより正確に行うことが可能になる。
【0039】
吊具制御部303の自動制御部3031は、ここでは、操作部38又は端末装置42からの自動制御の指令により、旋回台16及びジブ18に加えて、吊具22の上下方向位置つまり鉛直方向位置をも自動制御することができるように構成されている。吊具22に吊荷Wが接続されているとき、気圧計36の出力に基づく吊荷Wの鉛直方向位置に対して定まる所定の鉛直方向位置に吊荷Wを位置付けるように、自動制御部3031は、ワイヤーロープWR2を巻取り及び巻戻しするウインチ26を制御することができる。
【0040】
上記説明したジブ18の先端部18bの位置制御の調整、つまり、キャリブレーション部3033によるキャリブレーション方法について図4のフローチャートに基づいて説明する。
【0041】
吊具制御部303により自動制御の指令が取得されると(ステップS401で肯定判定)、キャリブレーション部3033により、前述のように、旋回台16の旋回中心の設定が実行される(ステップS403)。そして、旋回中心つまり軸線Cの位置が定められると、キャリブレーション部3033により角度計37の出力補正値の導出が実行される(ステップS405)。こうして、ジブ18の先端部18bの位置制御の調整、つまり、キャリブレーション部3033によるキャリブレーションが行われた後、自動制御部3031により自動制御が実行される(ステップS407)。なお、キャリブレーション部の作動(ステップS403及びS405)は、前述のように、自動制御の指令を受けて自動制御の実行前に行われることに限定されず、種々の所定のタイミングで実行されてもよい。
【0042】
さて、制御装置30の更なる機能モジュールについて更に説明する。
【0043】
制御装置30の安全支援部305は、GPS測位装置34の出力、鉛直方向位置測定部である気圧計36の出力とに基づく吊荷Wの位置に応じて作動される。吊荷Wの位置は、GPS測位装置34の出力に基づく水平方向位置と、気圧計36の出力に基づく鉛直方向位置とを用いて定められる。
【0044】
安全支援部305は、ここでは、クレーン10の吊具22に吊荷Wが吊り下げられているとき、特に、作業面から所定距離、鉛直方向上方に離れた位置に吊荷Wが位置するとき、作動する。所定距離は、任意に設定され得、例えば1mである。なお、ここでは作業面は地面Gであるが、吊荷Wがクレーン10の吊具22を介して力を受けて宙に浮いていない場所であり、構造物の上部の箇所のときもある。ここでは、安全支援部305は、クレーン10の作業領域において吊荷Wの位置に応じて危険領域DZを定め、その危険領域DZに向けて音を発するように構成されている。
【0045】
具体的には、図5に示すように、安全支援部305は、GPS測位装置34からの出力に基づいて中心を定め、それを中心として所定半径以内の円柱状の領域、特に地面G付近の領域を危険領域DZと定める。そして、安全支援部305は、その危険領域DZに向けて音を発するスピーカ46に作動信号を送信する。ここでは、スピーカ46は、危険領域DZに向けて音を発するように作動される指向性スピーカであり、ここでは、旋回台16に設けられて、安全支援部305からの指示に従い吊荷Wに設けられたGPS測位装置34からの出力に基づいて向きが制御されるように構成されている。
【0046】
非作業者検知部307は、カメラ48とともに、非作業者検知システムDSを構成する。クレーン10の作業現場では、各作業員等が身に着けるヘルメットHに固有の信号を発する固有信号発信装置HDが設けられている。ここでは、固有信号発信装置HDは所定周期で光を点滅させる。玉掛作業などの危険領域DZにて作業を行うことが期待される作業員の所定周期と、それ以外の人つまり所定の非作業者の所定周期とは異なる。そして、クレーン10の旋回台16には、非作業者検知部307により作動が制御されるカメラ48が設けられ、カメラ48はGPS測位装置34からの出力に基づいて危険領域DZを向くように制御される。したがって、非作業者検知部307は、危険領域DZに向けられたカメラ48からの画像の解析により、危険領域DZに所定の非作業員が存在するか否かを判別することができる。よって、図5に示すように、非作業者検知システムDSの非作業者検知部307が、危険領域DZに向けられたカメラ48からの画像の解析により、危険領域DZに所定の非作業者Pが存在することを検知したとき、安全支援部305は検知した所定の非作業者Pに向けて警報音を発するようにスピーカ46に作動信号を送信することができる。なお、ここでは、例えば危険領域DZに所定の非作業員がいないときにスピーカ46から発せられる音(以下、作業音)と、危険領域DZにおける所定の非作業員の存在が検知されたときの警報音とをわけているが、同じであってもよい。
【0047】
上記説明した安全支援システムSによる安全支援方法について図6のフローチャートに基づいて説明する。
【0048】
制御装置30は、クレーン10の作業時、吊荷Wの位置などの位置情報の取得を行う(ステップS601)。特に、これは上記自動制御が行われているときに行われるとよい。ただし、その自動制御が行われていないときにも同様に位置情報の取得が行われるとよい。位置情報の取得(ステップS601)は、第2測位部であるGPS測位装置34の出力を取得すること、及び、鉛直方向位置測定部である気圧計36の出力を取得すること、を含む。そして、位置情報の取得に伴い、制御装置30は、吊荷Wの位置を検出する(ステップS603)。吊荷Wの位置は、GPS測位装置34の出力に基づく吊荷Wの水平方向位置と、気圧計36の出力に基づく吊荷Wの鉛直方向位置とに基づいて検出される。
【0049】
そして、安全支援部305の作動条件を満たすか否かの判定が行われる(ステップS605)。安全支援部305の作動条件は、ここでは、吊荷Wが吊り下げ中であることであるが、これ以外の条件であっても、又は、これに加えて他の条件を含んでもよい。例えば、安全支援部305の作動条件は、吊荷Wが吊り下げ中であることに加えて、上記自動運転中であることを含んでもよい。なお、吊荷Wが吊り下げ中であるとは、例えば、作業面から所定距離、鉛直方向上方に離れた位置に吊荷Wが位置することを指す。
【0050】
そして、作業面に吊荷Wが位置するとき、つまり吊荷Wが宙に浮いていないとき(ステップS605で否定判定)、安全支援部305は作動されない、つまり、スピーカ46は作動されない(ステップS607)。
【0051】
吊荷Wが吊り下げ中であるとき、つまり吊荷Wが宙に浮いているとき(ステップS605で肯定判定)、危険領域DZに所定の非作業者が存在するか否かの判定が行われる(ステップS609)。危険領域DZに向けられたカメラ48からの画像の解析により、危険領域DZに所定の非作業者Pが存在することが検知できないとき(ステップS609で否定判定)、危険領域DZに向けて上記作業音をスピーカ46から発するように、安全支援部305は作動する(ステップS611)。
【0052】
危険領域DZに向けられたカメラ48からの画像の解析により、危険領域DZに所定の非作業者Pが存在することを検知したとき(ステップS609で肯定判定)、危険領域DZのその所定の非作業者Pに向けて警報音をスピーカ46から発するように、安全支援部305は作動する(ステップS613)。
【0053】
以上説明したように、クレーン10における制御システム28は、GPS測位装置32、角度計37、及び、キャリブレーション部3033を備える。キャリブレーション部3033は、ジブ18が所定傾斜角で保持されている旋回台16の所定旋回範囲の旋回のときのGPS測位装置32の出力に基づく先端部18bの位置情報に基づいて、旋回台16の旋回中心を定めることと、GPS測位装置32の出力に基づいて、旋回中心から所定距離離れている位置に先端部18bを位置付けたときの角度計37の出力に基づいて、角度計37の出力補正値を導き出すこととを実行する。したがって、角度計37などを用いた自動制御時、ジブ18の先端部18bの位置制御をより正確に行うことが可能になる。
【0054】
そして、角度計37の出力補正値を、ジブ18の先端部18bを複数の所定距離(例えば上記第1所定距離、第2所定距離)離れた位置に位置付けたときの角度計37の出力に基づいて導き出すことで、その角度計37の出力補正の精度をより高めることできる。よって、このとき、角度計37などを用いた自動制御時、ジブ18の先端部18bの位置制御をより正確に行うことが可能になる。
【0055】
更に、上記クレーン10は安全支援システムSを備える、この安全支援システムSでは、GPS測位装置34の出力に基づく吊荷Wの水平方向位置と、気圧計36の出力に基づく吊荷Wの鉛直方向位置とに基づいて、吊荷位置検出部305により吊荷Wの位置が検出される。そして、検出された吊荷Wの位置に応じて安全支援部305が作動される。これにより、クレーン10の作業において、作業員等に安全を促すことができ、よって作業員等の安全確保を支援することができる。
【0056】
そして、安全支援部305は、吊荷Wの位置に応じて定められる危険領域WZに向けて音を発するようにスピーカ46に作動信号を送信する。したがって、危険領域DZにいる作業員などに対して安全確保をより促すことができる。そして、スピーカ46は、危険領域DZに向けて音を発するように作動される指向性スピーカであるので、危険領域DZにいる作業員などに対して安全確保をより確実に促すことができる。
【0057】
また、危険領域DZにおける所定の非作業者Pの存在を検知する非作業者検知システムDSを更に備えていて、安全支援部305は、検知した所定の非作業者Pに警報音を発するようにスピーカ46に作動信号を送信する。したがって、危険領域DZの所定の非作業者の安全確保をより支援することができる。
【0058】
更に、クレーン10の制御装置30は、旋回台16及び支持部であるジブ18を自動制御するように構成されている自動制御部3031を備える。したがって、その自動制御が行われているときの作業員等の安全確保を、安全支援部305の作動により、より支援することができる。
【0059】
更に、鉛直方向位置測定部として気圧計36が用いられる。電波障害などがあるときGPS測位装置32、34の作動には限界があるが、気圧計36は電波の影響を受け難い。そして、気圧計36の出力に基づいて吊荷Wの吊り下げ中に安全支援部305が作動されるので、安全支援システムSの安全支援度を更に向上させることができる。なお、鉛直方向位置測定部は、気圧計36に限定されず、レーザー測定器など作業面からの吊荷Wの鉛直方向位置に応じた信号を出力する種々のセンサなどを用いることができる。
【0060】
以上、本発明に係る実施形態及びその変形例について説明したが、本発明はそれらに限定されない。本願の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、種々の置換、変更が可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 クレーン
14 ポスト
16 旋回台(旋回体)
18 ジブ(支持部)
18b 先端部
20 ガントリ
22 吊具(フック)
28 制御システム
30 制御装置
32、34 GPS測位装置(測位部)
36 気圧計
48 カメラ
46 スピーカ
S 安全支援システム
DS 非作業者検知システム
DZ 危険領域
W 吊荷



図1
図2
図3
図4
図5
図6