(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142642
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/128 20060101AFI20241003BHJP
B22D 11/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B22D11/128 350A
B22D11/04 311J
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054876
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】永井 真二
(72)【発明者】
【氏名】石井 誠
(72)【発明者】
【氏名】石戸 大貴
(72)【発明者】
【氏名】矢野 耀大
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004AA09
4E004MC07
4E004MC23
4E004NA01
4E004NB01
4E004NC01
(57)【要約】
【課題】中心偏析及びポロシティを低減しつつ、鋳片の内部割れを抑制することのできる鋼の連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】連続鋳造方法では、連続鋳造機(1)を用いる。連続鋳造機(1)は、鋳造方向に配列された複数の軽圧下ロール対(6)を備える。軽圧下ロール対(6)のうち少なくとも一方の軽圧下ロールは、幅方向中央部の直径が両端部の直径より大きく、幅方向中央部の幅をWr(mm)、鋳片の幅をWs(mm)、鋳片の厚みをD(mm)としたとき、下記の式(1)を満たす。連続鋳造方法は、圧下工程(#10)を備える。圧下工程(#10)では、鋳片(10)の中心固相率が0.3に達してから中心固相率が1.0に達するまで、複数の軽圧下ロール対(6)を用いて、0.5mm/min以上且つ1.3mm/min以下の圧下速度で鋳片(10)を厚み方向に軽圧下する。
Ws-1.15×D≦Wr≦Ws-1.15×D+250 (1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳片の鋳造方向に配列された複数の軽圧下ロール対を備える連続鋳造機を用いた鋼の連続鋳造方法であって、
前記軽圧下ロール対のうち少なくとも一方の軽圧下ロールは、幅方向中央部の直径が両端部の直径より大きく、前記幅方向中央部の幅をWr(mm)、前記鋳片の幅をWs(mm)、前記鋳片の厚みをD(mm)としたとき、下記の式(1)を満たし、
前記連続鋳造方法は、
前記鋳片の中心固相率が0.3に達してから前記中心固相率が1.0に達するまで、前記複数の軽圧下ロール対を用いて、0.5mm/min以上且つ1.3mm/min以下の圧下速度で前記鋳片を厚み方向に軽圧下する圧下工程を備える、連続鋳造方法。
Ws-1.15×D≦Wr≦Ws-1.15×D+250 (1)
【請求項2】
請求項1に記載の連続鋳造方法であって、
前記連続鋳造機は、電磁ブレーキを含む鋳型を備え、
前記連続鋳造方法は、前記電磁ブレーキにより前記鋳型内の溶鋼に磁束密度が1000Gauss以上の磁場を印加する印加工程をさらに備える、連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、鋳片が凝固収縮することにより、鋳片に中心偏析及びポロシティといった欠陥が発生する。連続鋳造によって得られた鋳片は、圧延されて、製品となる。近年、製品の厚肉化及び高強度化が進み、これに伴い鋳片の内部品質に対する要求が一段と高まっている。このため、鋳片の厚み方向中心部での中心偏析及びポロシティをより低減することが求められる。これらの欠陥による内部品質を改善するため、通常、連続鋳造機内で鋳片を厚み方向に軽圧下することが行われる。軽圧下には、通常、鋳片の鋳造方向に配列された複数の圧下ロールが用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、鋳片両端部のクレータエンド形状が上流側にシフトした場合でも中心偏析及びポロシティの悪化を防ぐため、軽圧下帯の上流側部分に幅方向中央部のロール径が両端部のロール径よりも大きい凸型ロールを配置する技術が開示されている。特許文献1に記載の連続鋳造方法では、鋳片が軽圧下帯に達する前に幅方向の温度分布を測定する。そして、鋳片の幅方向中央部の温度が両端部の温度より所定の温度低い場合には、凸型ロールを用いて鋳片の幅方向中央部を中心とした軽圧下を行う、と特許文献1には記載されている。
【0004】
特許文献2には、軽圧下時の圧下荷重を低減させるために、鋳片をバルジングさせる技術が開示されている。特許文献2に記載の連続鋳造方法では、サポートロールの厚み方向の間隔を徐々に大きくすることにより鋳片を意図的にバルジングさせ、その後、鋳片を複数のガイドロールで圧下する。
【0005】
特許文献3には、スラブのセンターポロシティ(中心偏析)を改善するために、連続した2つ以上の圧下ロール対において、圧下ロール対の圧下ロールの一方又は両方を凸型ロールとする技術が開示されている。特許文献3に記載の連続鋳造方法では、鋳片の中心固相率が0.7以上の範囲において、凸型ロールを含む圧下ロール対を用いて鋳片を圧下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-66302号公報
【特許文献2】国際公開第2019/167855号
【特許文献3】特開2016-78083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、製品の厚肉化要求に伴い鋳片の厚肉化が進んでおり、鋳片の中心偏析やポロシティを十分低減するのに必要な圧下ロールの圧下力が増大している。圧下力を増加させるためには、油圧装置等の設備を大型化するのに加え、増大する圧下力に耐え得るように、圧下ロールの剛性及びセグメントフレームの剛性を大きくする必要がある。圧下ロールの剛性を高めるためには、例えば圧下ロールの直径を大きくすることが考えられる。しかしながら、圧下ロールの直径を大きくすると、鋳造方向において隣接する圧下ロール間の距離が必然的に増加する。すると、隣接する圧下ロール間で鋳片にバルジングが発生しやすくなり、逆に中心偏析が増加する可能性がある。また、圧下ロールの剛性を高めるために、圧下ロールを幅方向に複数に分割し、各圧下ロール間に軸受を設けることも考えられる。しかしながら、この場合、圧下ロール間の軸受部分では鋳片が圧下されないため、中心偏析やポロシティが悪化する可能性がある。
【0008】
特許文献1に記載された技術では、軽圧下帯の上流において凸型ロールで圧下が行われ、凸型ロールよりも下流側ではフラットロールで圧下が行われる。一般に、鋳造方向下流側では、上流側と比較して鋳片の温度が下がるため、必要な圧下ロールの圧下力は増加する。そのため、下流側においてフラットロールで鋳片を圧下したとしても、鋳片の幅方向中央部を十分に圧下できず、中心偏析やポロシティが悪化する場合がある。また、凸型ロールにより鋳片の幅方向中央部にへこみが転写される。フラットロールではこのへこみ部分を圧下できないため、条件によっては中心偏析やポロシティが悪化する恐れがある。さらに、特許文献1には、軽圧下を開始すべき具体的な中心固相率や軽圧下量が明記されていない。
【0009】
特許文献2の技術は、軽圧下前に鋳片を意図的にバルジングさせる。しかしながら、鋳片の鋼種やバルジング量によっては内部割れが発生する場合があり、製品品質に悪影響を与える恐れがある。特許文献3の技術は、鋳片の中心固相率が0.7以上の範囲において、圧下ロール対を用いて鋳片を圧下するが、この範囲よりも前に発生する中心偏析に対しては改善しきれない可能性がある。
【0010】
本開示の目的は、中心偏析及びポロシティを低減しつつ、鋳片の内部割れを抑制することのできる鋼の連続鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る連続鋳造方法は、連続鋳造機を用いた鋼の連続鋳造方法である。連続鋳造機は、鋳片の鋳造方向に配列された複数の軽圧下ロール対を備える。軽圧下ロール対のうち少なくとも一方の軽圧下ロールは、幅方向中央部の直径が両端部の直径より大きい。軽圧下ロール対のうち少なくとも一方の軽圧下ロールは、幅方向中央部の幅をWr(mm)、鋳片の幅をWs(mm)、鋳片の厚みをD(mm)としたとき、下記の式(1)を満たす。連続鋳造方法は、圧下工程を備える。圧下工程では、鋳片の中心固相率が0.3に達してから中心固相率が1.0に達するまで、複数の軽圧下ロール対を用いて、0.5mm/min以上且つ1.3mm/min以下の圧下速度で鋳片を厚み方向に軽圧下する。
Ws-1.15×D≦Wr≦Ws-1.15×D+250 (1)
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る鋼の連続鋳造方法によれば、中心偏析及びポロシティを低減しつつ、鋳片の内部割れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態に係る連続鋳造方法で用いられる連続鋳造機の模式図である。
【
図2】
図2は、連続鋳造機を鋳造方向に垂直な面で切断したときの断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る鋼の連続鋳造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態に係る連続鋳造方法は、連続鋳造機を用いた鋼の連続鋳造方法である。連続鋳造機は、鋳片の鋳造方向に配列された複数の軽圧下ロール対を備える。軽圧下ロール対のうち少なくとも一方の軽圧下ロールは、幅方向中央部の直径が両端部の直径より大きい。軽圧下ロール対のうち少なくとも一方の軽圧下ロールは、幅方向中央部の幅をWr(mm)、鋳片の幅をWs(mm)、鋳片の厚みをD(mm)としたとき、下記の式(1)を満たす。連続鋳造方法は、圧下工程を備える。圧下工程では、鋳片の中心固相率が0.3に達してから中心固相率が1.0に達するまで、複数の軽圧下ロール対を用いて、0.5mm/min以上且つ1.3mm/min以下の圧下速度で鋳片を厚み方向に軽圧下する(第1の構成)。
Ws-1.15×D≦Wr≦Ws-1.15×D+250 (1)
【0015】
第1の構成の連続鋳造方法において、圧下工程では、複数の軽圧下ロール対を用いて鋳片を厚み方向に軽圧下する。これらの軽圧下ロール対のうち少なくとも一方の軽圧下ロールを、幅方向中央部の直径が両端部の直径より大きい凸型ロールとする。凸型ロールは、鋳片との関係で上記の式(1)を満たす形状を有する。要するに、凸型ロールのうち、直径が両端部よりも大きい部分(幅方向中央部)の幅が適切に設定されている。この凸型ロールを用いた軽圧下では、幅方向において鋳片が圧下される範囲が適正化され、比較的温度の低い鋳片の両端部はそれほど圧下されない。したがって、鋳片の圧下に必要な圧下力が抑えられるため、設備の大型化や軽圧下ロールの剛性の増大化を行うことなく、中心偏析及びポロシティを低減することができる。
【0016】
また、第1の構成の連続鋳造方法では、意図的な鋳片のバルジングは行われない。さらに、軽圧下ロールの剛性を高める必要がないことから、軽圧下ロールの直径を大きくする必要もない。そのため、軽圧下ロール対間でバルジングが発生しにくくなる。以上より、第1の構成の連続鋳造方法によれば、鋳片の内部割れが抑制される。
【0017】
第1の構成に係る連続鋳造方法は、好ましくは、下記の構成を有する。連続鋳造機は、電磁ブレーキを含む鋳型を備える。連続鋳造方法は、印加工程をさらに備える。印加工程では、電磁ブレーキにより鋳型内の溶鋼に磁束密度が1000Gauss以上の磁場を印加する(第2の構成)。
【0018】
第2の構成に係る連続鋳造方法では、印加工程において、電磁ブレーキにより鋳型内の溶鋼に磁束密度が1000Gauss以上の磁場を印加する。これにより、鋳片の凝固シェルの厚みが幅方向において均一になる。この鋳片を、圧下工程で厚み方向に軽圧下することにより、中心偏析及びポロシティを低減することができる。
【0019】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0020】
[連続鋳造機]
図1は、本実施形態に係る連続鋳造方法で用いられる連続鋳造機1の模式図である。連続鋳造機1では、鋳片10を製造する。本実施形態の例では、鋳片10はスラブである。本明細書において、スラブとは、厚みに対する幅の比が3以上の鋳片を意味する。連続鋳造機1は、タンディッシュ2と、鋳型4と、複数のサポートロール5と、複数の軽圧下ロール対6と、を備える。本実施形態の例では、連続鋳造機1は垂直曲げ型である。要するに、連続鋳造機1は、垂直帯と、湾曲部と、水平帯と、を含む。しかしながら、連続鋳造機1は、例えば垂直帯のみからなる垂直型であってもよいし、湾曲部及び水平帯からなる湾曲型であってもよい。
【0021】
タンディッシュ2には、図示しない取鍋から溶鋼Mが供給される。タンディッシュ2内の溶鋼Mは、浸漬ノズル3を介して鋳型4に供給される。鋳型4内の溶鋼Mは、鋳型4により冷却される。鋳型4は、電磁ブレーキ4aを含む。電磁ブレーキ4aは、例えば電磁石である。例えば、鋳片10の厚み方向において鋳型4の両外側に電磁ブレーキ4aが配置される。
【0022】
鋳型4の鋳造方向下流側には、複数の二次冷却ノズル(図示略)と、複数のサポートロール5とが配置されている。溶鋼Mは、鋳型4内で冷却された後、二次冷却ノズルから二次冷却水を噴射されてさらに冷却される。これにより、凝固シェルSが形成される。ここでの凝固途中の鋳片10は、凝固シェルS(固相率が1.0)及び未凝固状態の溶鋼M(固相率が1.0未満)を含む。未凝固状態の溶鋼Mを含む凝固途中の鋳片10は、複数のサポートロール5によって鋳造方向下流に案内される。その過程で、未凝固状態の溶鋼Mが次第に減り、完全凝固状態の鋳片10が形成される。二次冷却ノズルは、例えば、鋳造方向において複数のサポートロール5と交互に配置される。
【0023】
未凝固状態の溶鋼Mを含む鋳片10は、複数のサポートロール5によって鋳造方向下流に案内される。その過程で、未凝固状態の溶鋼Mが次第に減り、完全凝固状態の鋳片10となる。このような連続鋳造において、鋳片10は、図示しないピンチロールにより鋳造方向に送られる。つまり、鋳片10の鋳造速度はピンチロールによって制御される。
【0024】
複数のサポートロール5の鋳造方向下流側には、複数の軽圧下ロール対6が配列されている。軽圧下ロール対6の各々は、2つの軽圧下ロール61,62を含み、鋳片10を軽圧下する。一連の軽圧下ロール対6によって軽圧下帯7が構成される。複数の軽圧下ロール対6は、軽圧下帯7の入口7iから出口7oまでの間に、概ね等間隔に配置される。ここで、軽圧下帯7において、入口7iの位置は、鋳造方向の最上流に配置された軽圧下ロール対6の位置と一致し、出口7oの位置は、鋳造方向の最下流に配置された軽圧下ロール対6の位置と一致する。
【0025】
軽圧下帯7は、複数のセグメントに分かれており、セグメント毎に図示しない圧下装置及び複数の軽圧下ロール対6が設けられる。各セグメントにおいて、圧下装置は、例えば油圧により鋳片10を圧下する。軽圧下ロール対6の圧下量は、セグメント(圧下装置)毎に制御される。ただし、圧下装置が鋳片10を圧下することのできる力の上限は装置毎に決まっている。鋳片10から受ける反力が圧下装置の圧下力の上限以上の場合、実績圧下速度は設定圧下速度よりも小さくなる。これは、鋳片10から受ける反力が圧下装置の圧下力の上限に達すると、その時点で鋳片10の圧下が進まなくなり、実際に圧下されたときの圧下勾配が設定された圧下勾配未満となるからである。ここで、設定圧下速度とは、連続鋳造機1において設定された鋳造速度(m/min)と設定された圧下勾配(mm/m)とを掛け合わせたものを意味する。また、実績圧下速度とは、実際に連続鋳造機1の圧下装置を用いて鋳片10を圧下したときの圧下速度(mm/min)を意味する。
【0026】
図2は、連続鋳造機1を鋳造方向に垂直な面で切断したときの断面図である。
図2には、軽圧下ロール対6に圧下された鋳片10の様子が示される。
図2を参照して、軽圧下ロール61は、軽圧下ロール62と上下方向に間隔を空けて配置される。上下方向とは、鋳片10の厚み方向に対応する。軽圧下ロール61は鋳片10の上方に配置され、軽圧下ロール62は鋳片10の下方に配置される。
【0027】
軽圧下ロール対6(軽圧下ロール61,62)のうち少なくとも一方の軽圧下ロールは、凸型ロールである。本実施形態の例では、軽圧下ロール61は凸型ロールであり、軽圧下ロール62はフラットロールである。ただし、軽圧下ロール対6の構成はこれに限定されない。軽圧下ロール61がフラットロールであり、軽圧下ロール62が凸型ロールであってもよい。また、軽圧下ロール61,62の両方が凸型ロールであってもよい。軽圧下ロール61,62の両方を凸型ロールとした場合、中心偏析及びポロシティの低減効果が顕著に発揮される。
【0028】
軽圧下ロール61は、幅方向中央に位置する大径部611と、幅方向両端に位置する2つの小径部612,612と、大径部611と小径部612,612の各々とを接続する2つのテーパ部613,613と、を含む。軽圧下ロール61は、典型的には大径部611の幅方向中心が鋳片10の幅方向中心と一致するように配置される。大径部611の直径は、小径部612,612の直径よりも大きい。軽圧下ロール対6を用いて鋳片10を圧下する際、大径部611は鋳片10と接触し、小径部612,612及びテーパ部613,613はそれぞれ鋳片10と接触しない。小径部612,612の各々は、幅方向外側に配置された軸受614,614によって回転可能に支持される。
【0029】
軽圧下ロール61は、大径部611の幅をWr(mm)、鋳片10の幅をWs(mm)、鋳片10の厚みをD(mm)としたとき、上記の式(1)を満たす。要するに、大径部611の幅Wrは、(Ws-1.15×D)以上且つ(Ws-1.15×D+250)以下である。大径部611の幅Wrが(Ws-1.15×D)より小さいと、軽圧下時に鋳片10の両端部近傍での圧下が不足し、その当該部分において中心偏析及びポロシティを低減することができない。また、大径部611の幅Wrが(Ws-1.15×D+250)より大きいと、比較的温度の低い鋳片10の両端部を軽圧下ロール61でより広く圧下することになる。そのため、鋳片10から受ける反力が大きくなり、圧下装置の圧下力の上限を超える恐れがある。上述した通り、鋳片10から受ける反力が圧下力の上限を超えると、実績圧下速度が設定圧下速度よりも小さくなる。したがって、この場合、鋳片10の凝固収縮に対して軽圧下ロール対6での圧下量が不足し、中心偏析及びポロシティを低減することができない。以上より、本実施形態に係る連続鋳造方法で用いられる軽圧下ロール61の大径部611の幅Wrは、上記の式(1)を満たす。
【0030】
軽圧下ロール61(凸型ロール)の形状は、大径部611の幅Wrが上記の式(1)を満たす限り、特に限定されない。例えば、大径部611と小径部612,612の各々がテーパ部613,613を介さずに直接接続されてもよい。あるいは、大径部611が幅方向に複数に分割され、各大径部611間に軸受を設けてもよい。
【0031】
軽圧下ロール61(凸型ロール)において、大径部611の直径と小径部612,612の直径との差は、好ましくは5mm以上且つ30mm以下である。大径部611の直径と小径部612,612の直径との差が5mm以上であれば、軽圧下ロール61が寿命末期であっても、中心偏析及びポロシティの低減効果が十分に発揮される。また、大径部611の直径と小径部612,612の直径との差が30mm以下であれば、小径部612,612の直径が極端に小さくなるのが抑制され、軽圧下ロール61の折損等のリスクを低減することができる。小径部612,612の直径に対する大径部611の直径の比は、好ましくは1.017以上且つ1.150以下である。
【0032】
軽圧下ロール62は、幅方向において直径が一定の本体部621を含む。軽圧下ロール対6を用いて鋳片10を圧下する際、本体部621は鋳片10と接触する。本体部621は、幅方向外側に配置された軸受622,622によって回転可能に支持される。
【0033】
[連続鋳造方法]
図3は、本実施形態に係る鋼の連続鋳造方法を示すフロー図である。
図3に示すように、本実施形態に係る鋼の連続鋳造方法は、印加工程(#5)と、圧下工程(#10)と、を備える。この連続鋳造方法で得られた鋳片10は、鋼板等の製品の素材となる。以下、
図3に示す各工程を具体的に説明する。
【0034】
[印加工程(#5)]
印加工程(#5)では、電磁ブレーキ4aにより鋳型4内の溶鋼Mに磁場を印加する。これにより、鋳型4内で浸漬ノズル3の吐出孔から吐出された溶鋼Mは、磁場の作用により流動方向とは反対方向に制動力を受ける。そのため、吐出孔から凝固シェルSの幅方向端部に向かって吐出された溶鋼Mの流動が弱まる。また、電磁ブレーキ4aは、溶鋼M中の介在物等の浮上を促すことができ、溶鋼Mから介在物等を分離する役割も担う。
【0035】
印加工程(#5)で印加する磁場の磁束密度の大きさは、1000Gauss以上であることが好ましい。磁束密度が1000Gauss以上であれば、十分な制動力が溶鋼Mに作用する。換言すれば、溶鋼Mに1000Gaussより小さい磁場を印加した場合、溶鋼Mにはたらく制動力が不十分である。この場合、鋳片10の幅方向端部近傍が高温になり、凝固の完了が遅れやすいため、鋳片10の内部品質が悪化する。印加工程(#5)において1000Gauss以上の磁場を印加することにより、鋳片10の凝固シェルSの厚みが幅方向において均一になる。この鋳片10を、後述する圧下工程(#10)で厚み方向に軽圧下することにより、中心偏析及びポロシティを低減することができる。
【0036】
磁場の磁束密度の大きさは、1000Gauss以上であれば、特に限定されない。ただし、磁束密度は3000Gauss以下であることが好ましい。溶鋼Mに3000Gaussより大きい磁場を印加すると、浸漬ノズル3近傍での溶鋼Mの温度が上昇し、鋳型4内での溶鋼Mの初期凝固が不均一となるからである。溶鋼Mの初期凝固が不均一になると、表面割れが発生しやすい鋼(例えば、亜包晶鋼)を連続鋳造する場合、鋳片10の表面に縦割れが発生する恐れがある。
【0037】
[圧下工程(#10)]
圧下工程(#10)では、軽圧下帯7の複数の軽圧下ロール対6を用いて、鋳片10を厚み方向に軽圧下する。軽圧下は、鋳片10の中心固相率が0.3に達してから中心固相率が1.0に達するまで行われる。つまり、軽圧下帯7の入口7iにおいて、鋳片10の中心固相率が0.3であり、軽圧下帯7の出口7oにおいて、鋳片10の中心固相率が1.0である。鋳片10の中心固相率が0.3に達した以降で軽圧下を開始すると、中心偏析及びポロシティを十分に低減することができない。同様に、鋳片10の中心固相率が1.0に達する以前に軽圧下を終了すると、中心偏析及びポロシティを十分に低減することができない。また、鋳片10の中心固相率が1.0の領域、すなわち鋳片10の厚み中心が完全に凝固した領域に対して軽圧下をしても中心偏析及びポロシティを低減するのにほとんど影響を及ぼさないため、この領域を軽圧下する必要はない。
【0038】
鋳片10の中心固相率が0.3より小さい領域を軽圧下しても、凝固末期に形成される中心偏析及びポロシティを低減するのに影響を及ぼさないため、必ずしもこの領域を軽圧下する必要はない。しかしながら、鋳片10の中心固相率が0.3より小さい領域に対して軽圧下を行ってもよい。
【0039】
圧下工程(#10)において、軽圧下帯7での実績圧下速度が0.5mm/minより小さいと、鋳片10の凝固収縮に対して圧下量が不足するため、中心偏析及びポロシティを低減することができない。また、圧下速度が1.3mm/minより大きいと鋳片10の凝固収縮に対して圧下量が過大となり、溶鋼Mが鋳造方向下流から上流に逆流し、これに伴う濃化溶鋼の流動により中心偏析が悪化する。そのため、圧下工程(#10)での鋳片10の実績圧下速度は、0.5mm/min以上且つ1.3mm/min以下である。
【0040】
本実施形態の連続鋳造方法では、圧下工程(#10)において、複数の軽圧下ロール対6が用いられる。この場合、1つの軽圧下ロール対6のみを用いて鋳片10を圧下する場合と比較して、鋳片10にテーパ状の勾配を付けることができるため、凝固収縮に対して鋳片10を徐々に絞り込むことができる。
【0041】
[効果]
本実施形態の連続鋳造方法において、圧下工程(#10)では、複数の軽圧下ロール対6を用いて鋳片10を厚み方向に軽圧下する。本実施形態の例では、軽圧下ロール対6のうち軽圧下ロール61は幅方向中央部の直径が両端部の直径より大きい凸型ロールである。軽圧下ロール61は、鋳片10との関係で上記の式(1)を満たす形状を有する。要するに、軽圧下ロール61の大径部611の幅が適切に設定されている。この軽圧下ロール61(凸型ロール)を用いた軽圧下では、幅方向において鋳片10が圧下される範囲が適正化され、比較的温度の低い鋳片10の両端部はそれほど圧下されない。したがって、鋳片10の圧下に必要な圧下力が抑えられるため、設備の大型化や軽圧下ロールの剛性の増大化を行うことなく、中心偏析及びポロシティを低減することができる。
【0042】
また、本実施形態の連続鋳造方法では、意図的な鋳片10のバルジングは行われない。さらに、軽圧下ロール61,62の剛性を高める必要がないことから、軽圧下ロール61,62の直径を大きくする必要もない。そのため、軽圧下ロール対6間でバルジングが発生しにくくなる。以上より、本実施形態の連続鋳造方法によれば、鋳片10の内部割れが抑制される。
【実施例0043】
実施形態に係る連続鋳造方法の効果を確認するため、以下に示す試験を実施して、その結果を評価した。具体的には、連続鋳造により得られた鋳片のMn偏析度及びポロシティ体積を評価した。Mn偏析度及びポロシティ体積に関する説明は後述する。
【0044】
本試験では、
図1に示す連続鋳造機を用いて鋳片を製造した。鋳型は銅製水冷式の鋳型であった。鋳型の長さは800mmであった。鋳型の断面は矩形であった。軽圧下帯は、メニスカス(鋳型内の湯面)から16mの位置以降に設けた。鋳片の中心固相率が0.3に達してから中心固相率が1.0に達するまで、軽圧下ロール対により鋳片を0.8mm/minの設定圧下速度で厚み方向に軽圧下した。鋳片の中心固相率が1.0に達した以降の領域では、軽圧下を行わなかった。
【0045】
軽圧下帯における軽圧下ロール対は、上側の軽圧下ロールのみが凸型ロールであった。凸型ロールの大径部の直径は、小径部の直径よりも15mm大きかった。二次冷却用のノズルから噴射される冷却水の比水量は、鋳片の厚みや鋳造速度に応じて0.7~1.5L/kg-steelとした。
【0046】
本試験で用いた鋳片の主な化学組成は、C:0.15%、Si:0.19%、Mn:0.90%、P:0.011%、及びS:0.003%であった。
【0047】
鋳片の中心温度及び固相率は、鋳片の厚み方向及び幅方向の二次元の凝固解析により算出した。ただし、軽圧下時の実績圧下速度は、圧下装置の能力と鋳片から受ける反力に応じて変化する可能性がある。そのため、圧下装置の鋳片の厚み方向における位置を記録し、これに基づき実績圧下速度を算出した。なお、圧下装置の圧下力の上限は、セグメント及びロールの剛性を勘案して600トンであった。
【0048】
鋳片のMn偏析度は、以下の手順で調査した。鋳造された鋳片を幅方向中央部で切断し、切断面の厚み方向中央部から鋳造方向に40mm及び厚み方向に40mmの領域を含むようにサンプルを採取した。このサンプルに対し、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)によりMn濃度の面分析を行った。最もMn濃度が高い位置を中心に鋳造方向に沿って2mm幅のMn濃度を積算し、平均した値を最大Mn濃度(Cmax)とした。最大Mn濃度(Cmax)を鋳片のバルク組成のMn濃度(C0)で除した値(Cmax/C0)をMn偏析度とした。バルク組成のMn濃度(C0)は、鋳片から分析用サンプルを採取し、化学分析により求めた。
【0049】
鋳片のポロシティ体積は、以下の手順で調査した。鋳片の厚み方向中央部から鋳造方向に50mm、幅方向に100mm及び厚み方向に7mmのサンプルを採取した。サンプルは、鋳片の幅方向に沿って16か所から採取した。各サンプルについて、JIS Z 8807に規定される固体の密度及び比重測定法により密度ρを測定した。また、鋳片の1/4厚み部分から上記と同様にサンプルを採取し、密度ρと同様の方法で密度ρ0を測定した。そして、下記の式(2)にて単位重量当たりのポロシティ体積V(cm3/g)を求めた。各サンプルに対してポロシティ体積Vを測定した中で最大のポロシティ体積Vの値を、その鋳片のポロシティ体積Vとした。
【0050】
【0051】
本実施例の試験条件及び試験結果が表1に示される。表1において、試験条件には、連続鋳造でできた鋳片の厚み、鋳片の幅、軽圧下ロールの大径部の幅、電磁ブレーキの磁場の磁束密度、実績圧下速度、及び軽圧下帯入口の中心固相率に関する条件が示される。磁束密度は、電磁ブレーキで鋳型内の溶鋼に印加する磁場の磁束密度である。表1では、下記の条件1を満たす試験条件で製造された鋳片は発明例と表され、条件1を満たさない試験条件で製造された鋳片は比較例と表される。表1に示す比較例1~4において、条件1を満たしていない試験条件には印「*」が付されている。また、表1に示す発明例1~7及び比較例1~4の中で下記の条件2を満たしていないものについて、表面温度に印「#」が付されている。
条件1:軽圧下ロール(凸型ロール)の大径部の幅が上記の式(1)を満たし、且つ、実績圧下速度が0.5mm/min以上且つ1.3mm/min以下であり、且つ、軽圧下帯入口の鋳片の中心固相率が0.3以下である。
条件2:磁束密度が1000Gauss以上である。
【0052】
【0053】
得られた鋳片のMn偏析度が1.4以下であれば鋳片を圧延した後の製品(鋼板)において靭性が確保できることが分かっている。そのため、表1において、試験結果には、Mn偏析度が1.4以下であれば「優」、そうでなければ「不可」を示した。また、ポロシティ体積が4.0cm3/g以下であれば、鋳片を圧延した後の製品(鋼板)において欠陥が無害化されることが分かっているため、ポロシティ体積が4.0cm3/g以下であれば「優」、そうでなければ「不可」を示した。
【0054】
表1に示すように、発明例1~6は、いずれも条件1及び条件2を満たしていた。このため、発明例1~6では、Mn偏析度及びポロシティ体積が良好なスラブ鋳片を得られた。つまり、中心偏析及びポロシティを低減できた。
【0055】
発明例7は、条件1を満たしているものの、磁束密度が1000Gauss未満であり条件2を満たしていなかった。発明例7では、磁束密度以外の試験条件が同じ発明例1と比較して、Mn偏析度及びポロシティ体積が多少高いものの閾値未満であり、良好な鋳片が得られた。つまり、発明例7でも、中心偏析及びポロシティを低減することができた。
【0056】
比較例1では、大径部の幅が上記の式(1)を満たしていなかった。そのため、比較例1は条件1を満たしていなかった。この場合、Mn偏析度が閾値より大きく、評価は「不可」であった。
【0057】
比較例2では、大径部の幅が上記の式(1)を満たしておらず、実績圧下速度が0.5mm/min未満であった。そのため、比較例2は条件1を満たしていなかった。この場合、Mn偏析度及びポロシティ体積がいずれも閾値より大きく、評価は「不可」であった。
【0058】
比較例3では、比較例2と同様に大径部の幅が上記の式(1)を満たしておらず、実績圧下速度が0.5mm/min未満であった。そのため、比較例3は条件1を満たしていなかった。比較例3では、さらに、鋳型内の溶鋼に磁場を印加しなかった。そのため、比較例3は条件2も満たしていなかった。この場合、比較例2の結果と比較して、Mn偏析度及びポロシティ体積がいずれも悪化し、評価は「不可」であった。
【0059】
比較例4では、軽圧下帯入口の鋳片の中心固相率が0.3より大きく、条件1を満たしていなかった。この場合、比較例4では、Mn偏析度が閾値より大きく、評価は「不可」であった。
【0060】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。