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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142679
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】塗膜処理方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/10 20060101AFI20241003BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20241003BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20241003BHJP
   C09D 5/20 20060101ALI20241003BHJP
   C09D 9/00 20060101ALI20241003BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B05D3/10 H
B05D7/00 K
B05D5/00 A
C09D5/20
C09D9/00
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054926
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】599071496
【氏名又は名称】ベック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂本 真人
(72)【発明者】
【氏名】新濱 史親
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AC57
4D075AE04
4D075BB01Z
4D075BB16X
4D075BB20Z
4D075BB46Z
4D075BB60Z
4D075BB63Y
4D075CA07
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DA27
4D075DB11
4D075DC01
4D075DC05
4D075EB22
4D075EC01
4D075EC07
4D075EC30
4D075EC31
4D075EC33
4D075EC51
4J038CD021
4J038CD091
4J038CF021
4J038CG001
4J038DB001
4J038DD001
4J038DD231
4J038DG001
4J038DL031
4J038EA011
4J038KA08
4J038PA06
4J038RA01
4J038RA02
4J038RA03
4J038RA16
(57)【要約】
【課題】
旧塗膜に、塗料(I)を塗付、乾燥させて塗膜(I)を形成した後、特定の剥離剤によって、旧塗膜を塗膜(I)とともに剥離する塗膜処理方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、基材上の旧塗膜を処理する方法であって、
上記旧塗膜の表面に、塗料(I)を塗付、乾燥させて塗膜(I)を形成する工程と、
上記塗膜(I)の表面に剥離剤を塗付し、該塗膜(I)を軟化させた後、塗膜(I)及び旧塗膜を剥離する工程と、
を含み、
上記剥離剤は、酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発速度が100以上である有機溶剤を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の旧塗膜を処理する方法であって、
上記旧塗膜の表面に、塗料(I)を塗付、乾燥させて塗膜(I)を形成する工程と、
上記塗膜(I)の表面に剥離剤を塗付し、該塗膜(I)を軟化させた後、塗膜(I)及び旧塗膜を剥離する工程と、
を含み、
上記剥離剤は、酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発速度が100以上である有機溶剤を含むことを特徴とする塗膜処理方法。
【請求項2】
上記剥離剤は、酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発速度が100以上である有機溶剤を50重量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の塗膜処理方法。
【請求項3】
上記塗料(I)は、該塗料(I)の固形分中に樹脂成分及び粉体成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の塗膜処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な塗膜処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物、土木構造物等の表面に形成された塗膜(旧塗膜)の処理方法として、旧塗膜の脆弱部分(欠陥部分)を除去した後に、新しい塗料を塗装したり、建材(例えば、シート、化粧ボード、壁紙等)を貼着する方法等がある。
旧塗膜を剥離する手法としては、サンダー処理、ブラスト処理、高圧水噴射、タガネハツリ等の物理的手法、薬剤、溶剤を利用した化学的手法等が挙げられる。最近では、下地損傷、粉塵飛散等の問題、環境配慮等の観点から、剥離剤を利用した化学的手法が用いられている。(例えば、特許文献1~2等)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-131651号公報
【特許文献2】特開2018-70725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
剥離剤を利用した塗膜剥離方法は、剥離剤によって旧塗膜を軟化させた後、スクレイパー等により旧塗膜を剥離するものであるが、旧塗膜の脆弱部分を除去するには手間がかかる場合がある。また、旧塗膜の脆弱部分(欠陥部分)を剥離後、基材や旧塗膜の強靭部分(健全部分)に剥離剤が残存し、次工程に支障をきたす場合があり、工期が長期化するおそれがあった。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みなされたものであり、作業性に優れた塗膜処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために本発明者らは、鋭意検討の結果、旧塗膜に、塗料(I)を塗付、乾燥させて塗膜(I)を形成した後、特定の剥離剤によって、旧塗膜を塗膜(I)とともに剥離する塗膜処理方法に想到し、本発明を完成するに到った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.基材上の旧塗膜を処理する方法であって、
上記旧塗膜の表面に、塗料(I)を塗付、乾燥させて塗膜(I)を形成する工程と、
上記塗膜(I)の表面に剥離剤を塗付し、該塗膜(I)を軟化させた後、塗膜(I)及び旧塗膜を剥離する工程と、
を含み、
上記剥離剤は、酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発速度が100以上である有機溶剤を含むことを特徴とする塗膜処理方法。
2.上記剥離剤は、酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発速度が100以上である有機溶剤を50重量%以上含むことを特徴とする1.に記載の塗膜処理方法。
3.上記塗料(I)は、該塗料(I)の固形分中に樹脂成分及び粉体成分を含むことを特徴とする1.に記載の塗膜処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塗膜処理方法によれば、旧塗膜を容易に剥離することができる。特に、旧塗膜の脆弱部分(欠陥部分)を迅速かつ容易に剥離でき、かつ脆弱部分除去処理後の面(基材や旧塗膜の強靭部分)に剥離剤が残存することを抑制できる。これにより、作業性が向上し、工期を長期化させることなく旧塗膜を処理することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
本発明は、基材上の旧塗膜を処理する方法に関するものであり、建築物、土木構造物等の基材表面に形成された塗膜(旧塗膜)を剥離する工程を含むものである。
基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、スレート板、珪酸カルシウム板、ALC板、押出成型板、スレート瓦、セメント瓦、新生瓦、磁器タイル、サイディングボード、金属、ガラス、木材、合板等が挙げられる。
旧塗膜としては、上記基材の上に塗装されている塗膜であり、例えば、JIS K5621「一般用さび止めペイント」、JIS K5651「アミノアルキド樹脂塗料」、JIS K5658「建築用耐候性上塗り塗料」、JIS K5659「鋼構造物用耐候性塗料」、JIS K5660「つや有合成樹脂エマルションペイント」、JIS K5661「建築用防火塗料」、JIS K5663「合成樹脂エマルションペイント」、JIS K5668「合成樹脂エマルション模様塗料」、JIS K5665「路面標示用塗料」、JIS K5667「多彩模様塗料」、JIS K5670「アクリル樹脂系非水分散形塗料」、JIS K5674「鉛・クロムフリーさび止めペイント」、JIS K5675「屋根用高日射反射率塗料」、JIS A6909「建築用仕上塗材」等により形成された塗膜が挙げられる。また、旧塗膜は、単層塗膜であっても複層塗膜であってもよい。さらに、本発明は、剥離剤によって溶解しやすく剥離が困難な旧塗膜や、強度不足、密着不良、膨れ等の欠損部を生じた旧塗膜の剥離に好適である。
【0011】
本発明の塗膜処理方法は、
上記旧塗膜の表面に、塗料(I)を塗付、乾燥させて塗膜(I)を形成する工程(以下「第1工程」ともいう。)と、
上記塗膜(I)の表面に剥離剤を塗付し、該塗膜(I)を軟化させた後、塗膜(I)及び旧塗膜を剥離する工程(以下「第2工程」ともいう。)と、
を含むことを特徴とする。
本発明の塗膜処理方法によれば、旧塗膜に剥離剤を直接適用することが困難な場合(例えば、旧塗膜が剥離剤によって溶解しやすい場合等)であっても、旧塗膜と塗膜(I)を一体化することにより容易に剥離することができるため、作業性が向上し剥離残渣を減らすことができる。さらに、旧塗膜の脆弱部分(欠陥部分)を迅速かつ容易に剥離でき、かつ脆弱部分除去処理後の面(基材や旧塗膜の強靭部分)に剥離剤が残存することを抑制できるため、工期を長期化させることなく旧塗膜を処理することができる。
【0012】
上記第1工程における塗料(I)は、特に限定されないが、樹脂成分及び粉体成分を含むことが好ましい。
樹脂成分としては、各種合成樹脂が使用できる。合成樹脂の種類としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合樹脂等の合成樹脂挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。これら樹脂成分は架橋反応性を有するものであってもよい。このような樹脂成分の形態としては、溶剤可溶形樹脂、非水分散形樹脂、水溶性樹脂、水分散性樹脂(合成樹脂エマルション)等が挙げられ、特に水分散性樹脂(以下「合成樹脂エマルション」という。)を含むことが望ましい。
【0013】
合成樹脂エマルションとしては、例えば、酢酸ビニル樹脂エマルション、塩化ビニル樹脂エマルション、エポキシ樹脂エマルション、アクリル樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、アクリルシリコン樹脂エマルション、フッ素樹脂エマルション等、あるいはこれらの複合系等を挙げることができる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0014】
また、合成樹脂エマルションは架橋反応性を有するものが好適である。これにより、形成した塗膜(I)が剥離剤によって溶解しにくくなるため、塗膜を剥離する工程において、塗膜(I)は概ね膜状(シート状)を保ったまま剥離することができる。これにより、本発明の効果をよりいっそう高めることができる。
【0015】
架橋反応性を有する合成樹脂エマルションは、それ自体で架橋反応を生じるもの、あるいは別途混合する架橋剤によって架橋反応を生じるもののいずれであってもよい。このような架橋反応性は、例えば、カルボキシル基と金属イオン、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とアジリジン基、カルボキシル基とオキサゾリン基、水酸基とイソシアネート基、カルボニル基とヒドラジド基、エポキシ基とアミノ基、アルコキシル基どうし等の反応性官能基を組み合わせることによって付与することができる。
【0016】
合成樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が、20℃以下(より好ましくは-50~10℃、さらに好ましくは-45~0℃)であることが好ましい。このような場合、形成された塗膜(I)が柔軟性を有するため、剥離性に有利である。なお、本発明におけるTgは、合成樹脂を構成するモノマーの種類とその構成比率から、Foxの計算式によって求められる値である。
【0017】
塗料(I)では、架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤としては、例えば、多価金属酸化物、多価金属水酸化物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、ヒドラジン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物等の1種又は2種以上が好適に用いられる。これらの中でも、多価金属酸化物が好ましい。
【0018】
上記多価金属酸化物としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化セリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化パラジウム、酸化銅、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化錫、酸化ビスマス等が好ましい。これらは1種または2種以上で使用できる。
【0019】
粉体成分としては、特に限定されないが、少なくとも体質顔料を含むことが好適である。
体質顔料としては、例えば、重質炭酸カルシウム、軽微性炭酸カルシウム、カオリン、クレー、陶土、チャイナクレー、珪藻土、含水微粉珪酸、タルク、マイカ、バライト粉、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、シリカ粉、水酸化アルミニウム等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0020】
体質顔料の粒子径は、好ましくは0.1~50μm(より好ましくは1~30μm)である。また、体質顔料は、吸油量5~150ml/100g(より好ましくは10~100ml/100g)であることが好ましい。なお吸油量は、JIS K 5101-13-1(精製あまに油法)に準じて測定した値である。
【0021】
このような粉体成分を含むことにより、剥離剤の浸透性が高まり、塗膜(I)下の旧塗膜まで剥離剤を浸透させることができる。また、溶解した旧塗膜の成分を効率的に吸着することができる。さらに、塗膜(I)の厚膜化が可能となり、剥離時の作業効率を高めることができる。
【0022】
粉体成分の含有量は、上記合成樹脂エマルション100重量部(固形分)に対して、好ましくは50~500重量部(より好ましくは80~300重量部)である。このような範囲を満たす場合、上記効果を十分に発揮することができる。
【0023】
塗料(I)では、粉体成分として、公知の着色顔料を含むこともできる。着色顔料を含む場合、塗料(I)の塗付ムラを防止することができる。着色顔料としては、例えば、酸化第二鉄(弁柄)、黄色酸化鉄、群青、コバルトグリーン等の無機有彩色顔料;アゾ系、ナフトール系、ピラゾロン系、アントラキノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジスアゾ系、イソインドリノン系、ベンゾイミダゾール系、フタロシアニン系、キノフタロン系等の有機有彩色顔料;カーボンブラック、鉄‐マンガン複合酸化物、鉄‐銅‐マンガン複合酸化物、鉄‐クロム‐コバルト複合酸化物、銅‐クロム複合酸化物、銅‐マンガン‐クロム複合酸化物、黒色酸化鉄等の黒色顔料;酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の白色顔料;その他パール顔料、アルミニウム顔料、光輝性顔料、蓄光顔料、蛍光顔料等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。着色顔料の平均粒子径は、好ましくは1μm未満、より好ましくは0.01~0.9μmである。なお、本発明において、顔料の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される平均値である(測定温度は25℃)。
【0024】
塗料(I)では、上述の成分の他、本発明の効果に影響しない程度に各種成分を混合することも可能である。このような成分としては、例えば、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、皮張り防止剤、脱水剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、触媒等が挙げられる。塗料(I)は、以上のような各成分を常法により均一に撹拌・混合して製造することができる。
【0025】
また、塗料(I)は、不揮発分が60重量%以上95重量%以下(より好ましくは65~90重量%)であること好ましい。このような不揮発分を有する場合、塗膜(I)の厚膜化が可能となり、剥離剤の浸透性、剥離性をよりいっそう高めることができる。さらには、不揮発分に対する樹脂成分比率が20重量%以上(好ましくは25重量%以上60重量%以下)であることが好適である。このように不揮発分中に樹脂成分を多く含むことにより、旧塗膜の表面に均一な塗膜(I)を形成することができる。一方、形成された塗膜(I)は、剥離剤によって軟化はするが溶解しにくく、塗膜を剥離する工程においては、塗膜(I)の形状(フィルム状)を保ったまま剥離することができる。
なお、不揮発分は、塗装時(塗付時)における不揮発分であり、塗料(I)を希釈後に塗装に供する場合は、希釈後の不揮発分のことを言う。本発明における不揮発分は、JIS K5601-1-2の方法にて測定される加熱残分であり、加熱温度は105℃、加熱時間は60分である。
【0026】
塗料(I)を塗付(塗装)する際には、例えば、スプレー塗装、ローラー塗装、刷毛塗装等、種々の方法を用いることができる。塗装時の塗付け量は、好ましくは10~800g/m(より好ましくは20~500g/m)である。塗料(I)の塗回数は、旧塗膜の表面状態等によって適宜設定すればよいが、好ましくは1~2回である。また、形成された塗膜(I)の厚みは、好ましくは0.1~1.0mm(より好ましくは0.2~0.6mm)である。このような場合、本発明の効果をいっそう高めることができる。
【0027】
塗料(I)の乾燥時間は、好ましくは8時間以上(より好ましくは16時間以上とすることが好適である。また乾燥温度は、好ましくは-5~50℃(より好ましくは0~40℃)である。
【0028】
上記第1工程後、第2工程として、上記塗膜(I)の表面に剥離剤を塗付し、該塗膜(I)を軟化させた後、塗膜(I)及び旧塗膜を剥離する。第2工程においては、特に、旧塗膜の脆弱部分(欠陥部分)を剥離するものであり、旧塗膜の脆弱部分(欠陥部分)は塗膜(I)と共に剥離される。第2工程における、剥離剤は、酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発速度(測定温度20℃)が100以上(好ましくは300以上、より好ましくは500以上)である有機溶剤(S)(以下、単に「有機溶剤(S)」ともいう)を含むことを特徴とする。このような有機溶剤(S)を含むことにより、基材や旧塗膜の強靭部分に剥離剤が残存することを抑制できるため、工期を長期化させることなく旧塗膜を処理することができる。
【0029】
また、剥離剤中に、上記有機溶剤(S)を50重量%以上(より好ましくは60重量%以上95重量%以下)含むことが好ましい。これにより、本発明の効果をよりいっそう高めることができる。
【0030】
このような有機溶剤(S)としては、例えば、アセトン(相対蒸発速度720)、メチルエチルケトン(相対蒸発速度465)、メチルイソブチルケトン(相対蒸発速度145)、塩化メチレン(相対蒸発速度1253)等から選ばれる1種または2種以上を含むものが使用できる。
【0031】
本発明の剥離剤には、上記有機溶剤(S)の他に、構成成分として、例えば、二塩基酸エステル、ベンジルアルコール、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、イソホロン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム等から選ばれる1種または2種以上を含むことができる。
【0032】
本発明の剥離剤には、上記成分に加えて、公知の添加剤(例えば、増粘剤、酸化剤、還元剤、ワックス、揮発防止剤、樹脂、溶剤、乾燥調整剤、界面活性剤、芳香剤、着色剤、染料等)を混合して用いることもできる。
【0033】
剥離剤は、塗膜(I)の表面に、好ましくは0.1~3.0kg/m(より好ましくは0.2~3.0kg/m)で塗付する。塗装器具としては特に限定されず、例えば、ローラー、刷毛、鏝、ヘラ、スプレー、ガン等を用いて塗装すればよい。
【0034】
第2工程では、剥離剤を塗付し、塗膜(I)が軟化した状態(塗膜に縮み等を生じた時点)で剥離を開始すればよいが、好ましくは塗付直後から30分以内(より好ましくは20分以内)で剥離を開始することができる。剥離器具としては特に限定されず、例えば、鏝、ヘラ、スクレーパー等を用いて剥離すればよい。
【0035】
本発明の塗膜処理方法は、上記第1工程、上記第2工程後に、第3工程として補修工程を行うことができる。
補修工程としては、例えば、塗料(例えば、下地調製材、下塗材、中塗材、上塗材等)の塗装や、建材(例えば、シート、壁紙、タイル、化粧ボード等)の貼着等が挙げられる。これらは、所望の機能性、意匠性を有する塗料、建材を選択し、公知の方法で施工することができる。
なお、第3工程の補修工程は、第2工程の後、好ましくは24時間経過(より好ましくは48時間経過)すれば施工できる。これにより、工期を短縮することができる。
【実施例0036】
〔旧塗膜〕
スレート板(300×300×6mm)の片面に、JIS K5670「アクリル樹脂系非水分散形塗料」を塗付け量が0.3kg/mとなるようにローラー塗りし、7日間乾燥させて塗膜を形成した。これを促進耐候性試験機「アイスーパーUVテスター」(岩崎電気株式会社製)にて400時間曝露させたものを旧塗膜とした。
【0037】
〔塗料(I)〕
・塗料1
アクリル樹脂エマルション(固形分:50重量%、Tg:-30℃)100重量部に対し、重質炭酸カルシウム(平均粒子径:5μm、吸油量:15ml/100g)100重量部、添加剤(分散剤、増粘剤、造膜助剤等)を均一に混合し塗料1を製造した。
・塗料2
アクリル樹脂エマルション(固形分:50重量%、Tg:3℃)100重量部に対し、重質炭酸カルシウム(平均粒子径:5μm、吸油量:15ml/100g)100重量部、添加剤(分散剤、増粘剤、造膜助剤等)を均一に混合し塗料2を製造した。
・塗料3
アクリル樹脂エマルション(固形分:50重量%、Tg:3℃)100重量部に対し、重質炭酸カルシウム(平均粒子径:5μm、吸油量:15ml/100g)300重量部、添加剤(分散剤、増粘剤、造膜助剤等)を均一に混合し塗料3を製造した。
【0038】
〔剥離剤〕
・剥離剤1
塩化メチレン82重量%、ジメチルホルムアミド3重量%、添加剤(増粘剤、乾燥調整剤等)15重量%(合計100重量%)となるように均一に混合し剥離剤1を製造した。
・剥離剤2
N-メチルピロリドン30重量%、ジブチルエーテル55重量%、添加剤(増粘剤、乾燥調整剤等)15重量%(合計100重量%)となるように均一に混合し剥離剤2を製造した。
【0039】
<試験1>
旧塗膜面が垂直となるように置き、塗料(I)を塗付け量が0.3kg/mとなるようにローラー塗りした後、24時間乾燥させ、塗膜(I)を形成した。次いで、剥離剤を塗付け量が0.8kg/mとなるようにローラー塗りし、その直後に、ヘラを用いて、塗膜(I)及び旧塗膜を剥離した。この時の剥離性を評価した。なお、全ての工程は、温度23度、相対湿度50%の環境下にて行った。
なお、試験例1~7で使用した塗料(I)と剥離剤は表1に示した。また、試験例6、7では、旧塗膜に対し直接剥離剤をローラー塗りした。
剥離性の評価は、問題無くスムーズに剥離でき、優れた剥離効果を示したものを「A」、剥離が困難であり、スムーズでなかったものを「D」とする4段階で評価した。結果は表1に示す。
さらに、剥離工程後、次工程(補修工程)が実施可能となるまでの時間(乾燥性)を測定した。乾燥性の評価は、23℃条件下にて剥離工程後24時間以内に塗装可能となるものを「○」、24時間以上乾燥に時間を要するものを「×」とした。
【0040】
【表1】