(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142684
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】振動子及び聴取装置
(51)【国際特許分類】
H04R 1/00 20060101AFI20241003BHJP
H04R 9/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H04R1/00 317
H04R9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054931
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】514211644
【氏名又は名称】株式会社ファインウェル
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細井 裕司
(72)【発明者】
【氏名】岡部 司
(72)【発明者】
【氏名】河野 猛
【テーマコード(参考)】
5D012
5D017
【Fターム(参考)】
5D012BA08
5D012CA07
5D012GA01
5D017AB11
(57)【要約】
【課題】より有用な振動子及び聴取装置を提供する。
【解決手段】振動子は、内部に空間を有するケースと、前記空間において振動可能に支持されたマグネットと、を備える。前記マグネットは、互いに同じ磁極が対向するように配置された第1のマグネット及び第2のマグネットを含む。前記第1のマグネットの体積は、前記第2のマグネットの体積よりも小さい。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空間を有するケースと、
前記空間において振動可能に支持されたマグネットと、を備え、
前記マグネットは、互いに同じ磁極が対向するように配置された第1のマグネット及び第2のマグネットを含み、
前記第1のマグネットの体積は、前記第2のマグネットの体積よりも小さい、
振動子。
【請求項2】
前記第1のマグネットに対する前記第2のマグネットの体積比は、1を超え、且つ121以下である、
請求項1に記載の振動子。
【請求項3】
前記第1のマグネットに対する前記第2のマグネットの表面磁束比は、1を超え、且つ3以下である、
請求項1に記載の振動子。
【請求項4】
前記第1のマグネットと前記第2のマグネットとは、強磁性体からなるトッププレートの両面に固定されている、
請求項1に記載の振動子。
【請求項5】
上端側が開口し、底面部と周壁部を有するヨークと、
少なくとも一部が前記ヨークの内側に配置されたコイルボビンと、
前記コイルボビンの外側に巻きまわされたコイルと、
前記ヨークを支持するダンパーと、
前記ダンパーを前記ヨークに固定するフレームと、を備え、
前記マグネットの少なくとも一部は、前記コイルボビンの内側に配置され、
前記ケースは、前記ヨーク、前記コイルボビン、前記コイル、前記マグネット、前記ダンパー及び前記フレームが組付けられたアセンブリを収容し、
前記アセンブリは、前記空間において前記マグネットと一体に振動する、
請求項1に記載の振動子。
【請求項6】
前記ケースにおいて前記空間を取り囲む内面は、前記ヨークと近接して対向する対向部を含む、
請求項5に記載の振動子。
【請求項7】
耳軟骨に音信号を伝達するための軟骨伝導振動子として、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の振動子を有する、聴取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、振動子及び聴取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、振動を対象物に伝達して、音を認識できるようにした機器、例えば、骨伝導デバイス、骨伝導スピーカ、又は、骨伝導振動子が様々提案されている(特許文献1から特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-150542号公報
【特許文献2】特許6618230号公報
【特許文献3】特開2015-186102号公報
【特許文献4】特開2016-116177号公報
【特許文献5】特開2018-117203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらこれらの機器に関しては、さらに検討すべき課題が多い。
【0005】
本開示の一態様は、より有用な振動子及び聴取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る振動子は、内部に空間を有するケースと、前記空間において振動可能に支持されたマグネットと、を備え、前記マグネットは、互いに同じ磁極が対向するように配置された第1のマグネット及び第2のマグネットを含み、前記第1のマグネットの体積は、前記第2のマグネットの体積よりも小さい。
【0007】
前記第1のマグネットに対する前記第2のマグネットの体積比は、1を超え、且つ121以下である。
【0008】
前記第1のマグネットに対する前記第2のマグネットの表面磁束比は、1を超え、且つ3以下である。
【0009】
前記第1のマグネットと前記第2のマグネットとは、強磁性体からなるトッププレートの両面に固定されている。
【0010】
前記振動子は、上端側が開口し、底面部と周壁部を有するヨークと、少なくとも一部が前記ヨークの内側に配置されたコイルボビンと、前記コイルボビンの外側に巻きまわされたコイルと、前記ヨークを支持するダンパーと、前記ダンパーを前記ヨークに固定するフレームと、を備え、前記マグネットの少なくとも一部は、前記コイルボビンの内側に配置され、前記ケースは、前記ヨーク、前記コイルボビン、前記コイル、前記マグネット、前記ダンパー及び前記フレームが組付けられたアセンブリを収容し、前記アセンブリは、前記空間において前記マグネットと一体に振動する。
【0011】
前記ケースにおいて前記空間を取り囲む内面は、前記ヨークと近接して対向する対向部を含む。
【0012】
本開示の一態様に係る聴取装置は、耳軟骨に音信号を伝達するための軟骨伝導振動子として、前記振動子を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る聴取装置の振動子を示す斜視図である。
【
図2】実施形態に係る聴取装置の振動子を示す側面図である。
【
図3】実施形態に係る聴取装置の振動子を示す底面図である。
【
図4】実施形態に係る聴取装置の振動子を示す背面図である。
【
図5】実施形態に係る聴取装置の振動子の内部構造を示す図である。
【
図6】実施形態に係る聴取装置の振動子の分解斜視図である。
【
図8】実施形態に係る聴取装置の振動子にケーブルが接続された状態を示す側面図である。
【
図9】実施形態に係るアセンブリの縦断面図である。
【
図10A】実施例1に係る聴取装置の振動子に基づく実測データの一例である。
【
図10B】実施例2に係る聴取装置の振動子に基づく実測データの一例である。
【
図10C】実施例3に係る聴取装置の振動子に基づく実測データの一例である。
【
図11】比較例に係る聴取装置の振動子に基づく実測データの一例である。
【
図12】第一変形例に係る聴取装置の振動子を示す斜視図である。
【
図13】第二変形例に係る聴取装置の振動子を示す斜視図である。
【
図14】第三変形例に係る聴取装置の振動子の内部構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[振動子の全体構造]
図1は、実施形態に係る聴取装置の振動子1を示す斜視図である。
図2は、実施形態に係る聴取装置の振動子1を示す側面図である。
図3は、実施形態に係る聴取装置の振動子1を示す底面図である。
図4は、実施形態に係る聴取装置の振動子1を示す背面図である。
【0015】
振動子1のケース2は、上側ケース2aと下側ケース2bで構成されている。上側ケース2aと下側ケース2bは接着剤等で互いに固定される。上側ケース2aには突出部2cが形成されている。ケース2は、内部に空間を有する。ケース2は樹脂(例えばABS樹脂)などで形成されている。本実施形態では、ケース2の外径は12.0~13.00mm程度である。
【0016】
上側ケース2aの突出部2cは、ケーブル12を通すための配線孔2dを有する。
図8は、実施形態に係る聴取装置の振動子1にケーブル12が接続された状態を示す側面図である。
【0017】
ケース2の突出部2cを除いた部分の表面は曲面である。図示に即して述べると、ケース2の突出部2cを除いいた部分は、球形又は球形に近い形状を有する。「球形」とは、完全な球形だけでなく、一定の誤差範囲内の実質的な球形も含む。振動子1が使用者の耳に装着されるとき、ケース2の下端から突出部2cまでの間隔W1の部分が耳に引っ掛けられる。振動子1を耳に安定的に装着するため、間隔W1が大きいことが好ましい。例えば、突出部2cの上下方向の間隔W2は、上側ケース2aの下端から上端までの間隔W3の1/2以下とすることが考えられる。また、突出部2cは、例えば、上側ケース2aの接線方向に延びているとの好ましい。
【0018】
図5は、実施形態に係る聴取装置の振動子1の内部構造を示す図(振動子1の一部を切り欠いた部分断面図)である。
図6は、実施形態に係る聴取装置の振動子1の分解斜視図である。
【0019】
コイルボビン4、コイル5、マグネット20(第1のマグネット6及び第2のマグネット8)、トッププレート7、フレーム9、ダンパー10、ヨーク11、基板3が、ケース2内の空間に収容されている。本実施形態では、ケース2は、後述のようにコイルボビン4、コイル5、マグネット20、フレーム9、ダンパー10、及びヨーク11が組付けられたアセンブリ30を収容する。
【0020】
コイルボビン4の外側にはコイル5が巻きまわされている。コイルボビン4は上下方向に長く、コイルボビン4の上端は、ケース2(上側ケース2a)の内面に当接している。コイル5には電気信号(音信号等)が入力される。コイルボビン4はクラフト紙などで形成され、コイル5は銅などで形成されている。
【0021】
また、基板3が、ケース2(上側ケース2a)の内面に取り付けられている。基板3には、ケーブル12(
図8参照)が接続するとともに、コイル5の末端側(不図示)、あるいはコイル5に接続した配線(不図示)が接続される。
【0022】
基板3は配線孔2dに近いので、ケーブル12を基板3に容易に接続することができる。また、コイルボビン4は、その上端が基板3とケース2(上側ケース2a)の内面に当接するように縦長に形成されているので、コイル5の末端側(不図示)、あるいはコイル5に接続した配線(不図示)を基板3に容易に接続できる。本実施形態では、コイルボビン4の表面に銅箔が付けられており、基板3に接続する配線をコイルボビン4の表面にはんだ付け(ブリッジ接続)している。
【0023】
マグネット20は、ケース2内の空間において振動可能に支持される。マグネット20の少なくとも一部は、コイルボビン4の内側に配置されている。マグネット20は、互いに同じ磁極が対向するように配置された第1のマグネット6及び第2のマグネット8を含む。第1のマグネット6と第2のマグネット8には、例えばネオジウム磁石が使用される。本実施形態では、第1のマグネット6と第2のマグネット8とは、互いに同じ品質及び材質で構成され、中心軸が上下に延びる円柱状に構成されている。第1のマグネット6と第2のマグネット8とは、互いに同軸となるように上下に並んでいる。マグネット20の詳細構造は、別途後述する。
【0024】
トッププレート7は、コイルボビン4の内側に配置されている。第1のマグネット6と第2のマグネット8とは、強磁性体からなるトッププレート7の両面に固定されている。本実施形態では、第1のマグネット6の下端面が、トッププレート7の上面に接着剤で固定されている。第2のマグネット8の上端面が、トッププレート7の下面に接着剤で固定されている。トッププレート7は、強磁性体として例えば鉄(SPCCなど)で形成されている。なお、第1のマグネット6と第2のマグネット8とは、トッププレート7を介さずに、互いに直接接触するように接着剤等で固定されてもよい。
【0025】
ヨーク11は、上端側が開口し、底面部と周壁部を有する。第2のマグネット8の下端側をヨーク11の内側で固定するように、ヨーク11の内側の下部の形状は、第2のマグネット8の下端側の形状に対応している。よって、第2のマグネット8の位置決めが容易になる。ヨーク11は、軟磁性材料(SPCCなど)により形成されている。
【0026】
コイルボビン4の少なくとも一部は、ヨーク11の内側に配置されている。本実施形態では、コイルボビン4の下部がヨーク11の内側に配置されている。
【0027】
ダンパー10はヨーク11を支持する。フレーム9は、ダンパー10をヨーク11に固定する。本実施形態では、ダンパー10の外縁部が上側ケース2aと下側ケース2bとで上下に挟まれることで、ダンパー10がケース2に固定されている。すなわち、ダンパー10の外縁部は、上側ケース2aと下側ケース2bとの間に挟持されている。ダンパー10の内縁部の下面は、ヨーク11の周壁部の上端に当接している。ダンパー10は、例えばステンレスで形成されている。
【0028】
フレーム9は、ダンパー10の内縁部の上面と、ヨーク11の周壁部の内面にそれぞれ当接するように、ダンパー10とヨーク11とに固定されている。本実施形態では、フレーム9はダンパー10とヨーク11とに接着剤で固定されているが、かしめ固定等の手法で固定されてもよい。フレーム9は、軟磁性材料(SPCC[steel plate cold commercial]など)により形成されている。このようにフレーム9を用いてダンパー10をヨーク11に固定することで、ダンパー10とヨーク11とを固定しやすくなり、振動子1の量産に適している。
【0029】
このように、フレーム9がダンパー10をヨーク11に固定することによって、ダンパー10はヨーク11を支持する。ヨーク11は、ダンパー10とフレーム9により、ケース2の内部で宙吊りになっている。すなわち、ヨーク11はケース2の内面から離れている。
【0030】
上記の構成により、コイルボビン4、コイル5、マグネット20、フレーム9、ダンパー10、及びヨーク11が組付けられたアセンブリ30が、ケース2内の空間に配置される。アセンブリ30(
図9参照)は、ケース2とヨーク11とを連結する弾性のダンパー10によって、ケース2内の空間で上下に変位可能に支持される。アセンブリ30は、以下の原理により、ケース2内の空間においてマグネット20と一体に振動する。
【0031】
コイル5は電気信号(音信号等)が入力されると、コイル5が発生する磁界によって、コイルボビン4内に配置されたマグネット20が振動する。マグネット20の振動に連動して、マグネット20が固定されたヨーク11も振動する。ヨーク11の振動に連動して、ヨーク11を支持するダンパー10が振動することで、ケース2が振動する。ケース2が使用者に当接すると、使用者にケース2の振動が伝わり、使用者が音を認識するようになる。
【0032】
ヨークをケースの内面に接着剤等で固定すると、振動が全帯域で感じられず、高域(例えば5kHz以降)しか聞こえない問題が発生する可能性がある。本実施形態では、ヨーク11がケース2の内面から離れているため、そのような問題が発生する可能性を低減できる。
【0033】
また、フレーム9及びヨーク11の周壁部は、少なくとも一部がコイル5に対向する。この構成では、コイル5に磁束を集めやすい。特に、フレーム9及びヨーク11が、軟磁性材料(SPCCなど)で形成されることにより、コイル5に磁束を集めやすくなる。磁束が集まる(磁束密度が高くなる)と、振動の駆動力が大きくなり、振動を発生させやすくなる。
【0034】
なお、ケースに孔が設けられている場合、振動子が振動するときにケースの孔から音が漏れる。音漏れを防止することが好ましい場合には、ケースを密閉することが考えられる。そこで、ケース2は密閉されてもよい。ケース2が密閉される場合には、配線孔2dを塞ぐ閉塞部材(不図示)が使用されてもよい。
【0035】
しかし、ケースが密閉され、ケース内の振動板(ダンパー等)が孔の無い形状に形成されていると、振動を発生させにくい。特にケースが小さい場合、振動板は、ケース内の空気圧により、動きにくくなる。また、ケース内の空間は、振動板により、上の空間と、下の空間に分けられる。例えば、振動板が下に移動しようとしても、下の空間内の空気は上の空間に移動できない。それゆえ、振動板は振動することができないか、振動板の振動幅が小さくなる。
【0036】
図7は、実施形態に係るダンパー10の平面図である。ダンパー10は、上下方向に貫通する貫通孔10aが形成されている。ダンパー10の上側にある空気は、貫通孔10aを通って、ダンパー10の下側に移動することができる。また、ダンパー10の下側にある空気は、貫通孔10aを通って、ダンパー10の上側に移動することができる。ケース2内の空気の移動は制限されていない。ケース2が密閉されていない場合だけでなく、ケース2内が密閉空間の場合でも、ダンパー10は大きく振動することができる。よって、ケース2が小さく、且つ、密閉された場合でも、ダンパー10は大きく振動することができる。
【0037】
ケース2が密閉されていない場合だけでなく、ケース2が密閉された場合でも、ダンパー10が大きく振動できるので、ケース2は十分に振動することができる。よって、振動子1の使用者に十分な振動を伝えることができる。
【0038】
ところで、上記のようにケースが振動すると、ケースの周囲の空気を振動させ、気導音が生じる可能性がある。本実施形態では、ケース2の表面積が小さいため、気導音を抑制することができる。よって、使用者に振動を伝えつつ、使用者の周囲に気導音が漏れることを抑制することができる。
【0039】
ケース2が密閉されている場合、水又は汗がケース2に入らない。密閉されたケースの使用は、防水の振動子に応用することができる。
【0040】
ダンパー10はリキッドメタルで形成されてもよい。ダンパー10は、振動の繰り返しによって破損する可能性がある。リキッドメタルは、金属ではあるものの、弾力を有し、疲労破損がしにくい。ダンパー10がリキッドメタルで形成されると、ダンパー10は長期間使用できる。
【0041】
本実施形態では、ダンパー10がケース2の上下方向の中央に配置される。ケース2のサイズを大きくしないで、ケース2を球形または球形に近い形にできる。なお、「中央」は、完全な中央だけでなく、一定の誤差範囲内の実質的な中央も含む。
【0042】
振動子1は軟骨伝導振動子として使用されてもよい。よって、本発明の聴取装置は、耳軟骨に音信号を伝達するための軟骨伝導振動子として、上記の振動子1を有するのが好ましい。
【0043】
[マグネットの詳細構造]
図9は、実施形態に係るアセンブリ30の縦断面図である。先述のように、コイル5の磁束密度が大きいほど、マグネット20を振動させる駆動力が大きくなる。本実施形態の振動子1では、コイル5に磁束を集中させるために、トッププレート7の外径をマグネット20の外径よりも大きくして、コイル5に磁束が集中しやすい磁界の流れを形成している。更に、コイル5の磁束をより強くするために、互いに同極が向き合う二つのマグネット(第1のマグネット6及び第2のマグネット8)によって、マグネット20を構成している。
【0044】
仮に二つのマグネットを互いに同極が向き合わないように配置した場合は、互いに異なる磁極同士が向かい合うため、コイル5での磁界が互いに打ち消し合う方向に作用し、コイル5の磁束が弱くなる場合がある。更に、互いに同極が向き合わない二つのマグネットでは、二つのマグネットのうち一つだけを用いた場合よりも、コイル5の磁束が弱くなりやすい。これに対して本実施形態では、互いに同極が向き合う二つのマグネットによってマグネット20が構成されているため、コイル5の磁束密度を効率的に向上できる。
【0045】
一方、互いに同極が向き合う二つのマグネットを用いた場合、二つのマグネットの少なくとも一つが、互いの反発力によってトッププレートから外れる可能性がある。詳細には、二つのマグネットのうち、第1のマグネットはヨークに固定されておらず、且つコイルボビン内にあるので固定することが難しい。従って、第1のマグネットが上記の反発力によってトッププレートから外れる可能性がある。
【0046】
第1のマグネット6及び第2のマグネット8の表面磁束密度が大きいほど、第1のマグネット6と第2のマグネット8との反発力が大きくなる。第1のマグネット6と第2のマグネット8とが互いに同じ品質及び材質である場合、第1のマグネット6及び第2のマグネット8の体積が大きいほど、第1のマグネット6及び第2のマグネット8の表面磁束密度が大きくなる。
【0047】
本実施形態では、第1のマグネット6の体積は、第2のマグネット8の体積よりも小さい。これにより、第1のマグネット6の表面磁束密度が第2のマグネット8の表面磁束密度よりも小さくなるため、第1のマグネット6と第2のマグネット8との反発力も小さくなる。従ってマグネット20では、第1のマグネット6が上記の反発力によってトッププレート7から外れることが抑制される。
【0048】
本願の発明者は、上記の構成が振動子1の音響特性に与える影響を検証するテストを行った。このテストでは、可聴領域の周波数帯(数十Hz~2万Hz)のスイープ音を振動子1に出力させ、その音圧レベルを1/2インチコンデンサマイクロフォンで計測した。第1のマグネット6の外径の大きさのみを変えて、その他の計測条件は同じにして、複数回のテストを行った。なお、第1のマグネット6及び第2のマグネット8の高さ(上下方向長さ)は互いに等しく、例えば2.0mmである。スイープ音の電気信号の印加電圧は2.0Vとし、ダンパー10の厚み(上下方向長さ)は0.2mmとする。
【0049】
図10Aは、実施例1に係る聴取装置の振動子1に基づく実測データの一例である。この実測データのグラフにおいて、縦軸は音圧(dBSPL)を示し、横軸は対数目盛の周波数(Hz)を示す。実施例1の振動子1では、第1のマグネット6の外径が4.0mmであり、第2のマグネット8の外径が5.2mmである。この場合、第1のマグネット6と第2のマグネット8との体積比は、1:1.69となる。
【0050】
図10Aに示すように、実施例1の振動子1では、音声の主要な周波数帯域(500Hz~2300Hz)において、概ね45dB以上の良好な音圧が実現されている。例えば振動子1を外耳道入口部周辺の耳軟骨の少なくとも一部に接触させた場合に、振動子1の振動を耳軟骨に伝達するのに必要な音圧が確実に得られる。つまり、実施例1の振動子1は、軟骨伝導振動子として十分に機能できることが確認された。これにより、本願の発明者が発見した軟骨伝導のメカニズムによって、人間は外耳道を塞ぐことなく振動子1からの音を聞くと同時に、外界の音を聞くことができる。
【0051】
図11は、比較例に係る聴取装置の振動子に基づく実測データの一例である。比較例の振動子では、従来の振動子と同様に、第1のマグネット及び第2のマグネットの外径が等しく、何れも外径が5.2mmである。従って、第1のマグネットと第2のマグネットとの体積比は等しく、1:1である。
【0052】
図11に示すように、比較例の振動子では、実施例1の振動子1(
図10A参照)と同様に、音声の主要な周波数帯域(500Hz~2300Hz)において、概ね45dB以上の良好な音圧が実現されている。但し、比較例の振動子では、第1のマグネット及び第2のマグネットの容積が等しいため、先述のように第1のマグネットがトッププレートから反発力で外れる可能性がある。これに対し、実施例1の振動子1は、第1のマグネット6がトッププレート7から外れることを抑制しつつ、比較例の振動子と同等の音質で音声出力できる。
【0053】
図10Bは、実施例2に係る聴取装置の振動子1に基づく実測データの一例である。実施例2の振動子1は、実施例1の振動子1と同様に、第1のマグネット6の外径が第2のマグネット8の外径よりも小さい。実施例2の振動子1では、第1のマグネット6の外径が1.0mmであり、第2のマグネット8の外径が5.2mmである。この場合、第1のマグネット6と第2のマグネット8の体積比は、1:27である。つまり、実施例2は実施例1と比較して、振動子1の体積が小さい。
【0054】
図10Bに示すように、実施例2の振動子1では、音声の主要な周波数帯域のうち、音声の主要な周波数帯域(500Hz~2300Hz)において、概ね35~45dBの音質となる。従って、実施例2の振動子1は、実施例1の振動子1よりも音質が劣化するものの、軟骨伝導振動子として有効に機能できることが確認された。
【0055】
上記の実施例1、2に用いられた複数の振動子1は、互いに異なる外径を有することで、互いの体積が異なっている。しかし複数の振動子1は、互いに異なる外径及び高さの組合せを有することで、互いの体積が異なってもよい。本願の発明者は、互いに外径及び高さの組合せが異なる複数の振動子1について、上記と同様のテストを行った。これにより、振動子1を構成する各部品の寸法及び特性が以下であるときに、振動子1が軟骨伝導振動子として有効に機能できることが確認された。
【0056】
第1のマグネット6は、その外径が1.0~5.5mmであり、その高さが1.0~4.0mmである。この条件を満たす最小サイズ(外径が1.0mm、高さが1.0mm)であるとき、第1のマグネット6の体積は0.78mm3であり、このときの表面磁束密度は150mTである。この条件を満たす最大サイズ(外径が5.5mm、高さが4.0mm)であるとき、第1のマグネット6の体積は95mm3であり、このときの表面磁束密度は450mTである。
【0057】
第2のマグネット8は、その外径が3.0~5.5mmであり、その高さが1.0~4.0mmである。この条件を満たす最小サイズ(外径が3.0mm、高さが1.0mm)であるとき、第2のマグネット8の体積は7.06mm3であり、このときの表面磁束密度は230mTである。この条件を満たす最大サイズ(外径が5.5mm、高さが4.0mm)であるとき、第2のマグネット8の体積は95mm3であり、このときの表面磁束密度は450mTである。
【0058】
従って、第1のマグネット6は、その体積が0.78~95mm3であり、その表面磁束密度は150~450mTである。第2のマグネット8は、その体積が7.06~95mm3であり、その表面磁束密度は230~450mTである。但し、先述のように第1のマグネット6の体積は、第2のマグネット8の体積よりも小さい。従って、第1のマグネット6の体積は95mm3未満であり、第1のマグネット6の表面磁束密度は450mT未満である。
【0059】
上述した第1のマグネット6及び第2のマグネット8の体積によれば、第1のマグネット6に対する第2のマグネット8の体積比は、1を超え、且つ121以下である。また、上述した第1のマグネット6及び第2のマグネット8の表面磁束密度によれば、第1のマグネット6に対する第2のマグネット8の表面磁束比は、1を超え、且つ3以下である。
【0060】
先述のように、第1のマグネット6の体積を第2のマグネット8の体積よりも小さくするために、第1のマグネット6の外径のみを小さくする態様と、第1のマグネット6の外径及び高さの両方を小さくする態様とが考えられる。前者の態様では、第1のマグネット6の表面磁束密度を相対的に高くできるため、コイル5において相対的に高い磁束密度が得られる。後者の態様では、第1のマグネット6の体積を効率的に小さくできるため、第1のマグネット6がトッププレート7から外れることをより確実に抑制できる。
【0061】
更に、第1のマグネット6と第2のマグネット8とを同軸に並ぶように配置し、且つ第1のマグネット6の外径を第2のマグネット8の外径よりも小さくすることで、以下の作用が得られる。
図9に示すように、第1のマグネット6は、コイル5の周方向と中心として回転する磁界M1を発生する。第2のマグネット8は、コイル5の周方向と中心として回転する磁界M2を発生する。磁界M1と磁界M2とは、互いに反対方向に回転する。
【0062】
この場合、トッププレート7では、平面視で磁界M1が磁界M2よりも内側で発生しているため、磁界M1と磁界M2とが互いに干渉しにくい。トッププレート7の中心付近は磁界M2の影響が弱いため、第1のマグネット6が磁界M1の作用でトッププレート7に自己吸着しやすい(矢印M3を参照)。第1のマグネット6の自己吸着によって、第1のマグネット6がトッププレート7から外れることを更に抑制できる。
【0063】
自己吸着は、第1のマグネット6と第2のマグネット8とが互いに反発する方向に作用していても、第1のマグネット6が接着よりも弱い力でトッププレート7に付着する現象をいう。本願の発明者は、実施例1の振動子1(即ち、第1のマグネット6の外径4.0mm及び高さ2.0mm)において、第1のマグネット6の自己吸着が好適に発生することを確認した。
【0064】
[その他部品の寸法及び特性]
本願の発明者は、各種の実験に基づいて、振動子1の音響特性に与える影響が大きい主な要素が、マグネット20の表面磁束密度、ダンパー10の厚み、及びヨーク11の重さであることを特定した。
【0065】
例えばダンパー10が薄すぎる場合、音信号の周波数があるレベルに達すると、ダンパー10において音信号が単なる振動に変わってしまい、ケース2に音信号を適切に伝達できない可能性がある。一方、ダンパー10が厚すぎる場合、ダンパー10が振動し難くなり、ケース2に音信号を適切に伝達できない可能性がある。これらを考慮して、ダンパー10の厚みを適切な範囲に設計する必要がある。また、ダンパー10の厚みは、ヨーク11及びマグネット20の重みに応じて設計する必要がある。
【0066】
図10Cは、実施例3に係る聴取装置の振動子1に基づく実測データの一例である。実施例3の振動子1では、ダンパー10の厚みが0.15mmである。つまり、実施例3は実施例1と比較して、ダンパー10の厚みが小さい。ダンパー10の厚み以外の条件は、実施例1と同じである。
【0067】
図10Cに示すように、実施例3の振動子1では、音声の主要な周波数帯域のうち、音声の主要な周波数帯域(500Hz~2300Hz)における音圧が、実施例1(
図10A参照)と比較して5dB程度低いものの、概ね40dB以上の音圧が実現されている。従って、実施例3の振動子1は、実施例1の振動子1よりも音質が劣化するものの、軟骨伝導振動子として有効に機能できることが確認された。
【0068】
上記のようにダンパー10の厚みを変更した複数回のテストによれば、振動子1を軟骨伝導振動子として有効に機能させるダンパー10の厚みは、0.1~0.35mmである。ダンパー10の直径は、8.0~12.0mmとする。
【0069】
また、ヨーク11の重さを変更した複数回のテストによれば、振動子1を軟骨伝導振動子として有効に機能させるヨーク11の重さ(質量)は、0.30~1.00gである。
【0070】
第1のマグネット6及び第2のマグネット8を一体に支持するトッププレート7も、振動子1の音響特性に影響を与える部材である。トッププレート7の重さ(質量)は、0.05~0.20gである。トッププレート7の厚みは、0.3~1.0mmとする。
【0071】
上述した各部品の寸法及び特性を全て満たす振動子1では、コイル5の磁束密度が300~1000mTとなる。これにより、マグネット20を強く振動させる駆動力が得られるため、振動子1を軟骨伝導振動子として有効に機能させることができる。
【0072】
<備考>
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態に夫々開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。更に、各実施形態に夫々開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【0073】
上記実施形態のケース2は、球形または球形に近い形状であるが、他の形状のケースを用いてもよい。
図12は、第一変形例に係る聴取装置の振動子1を示す斜視図である。
図13は、第二変形例に係る聴取装置の振動子1を示す斜視図である。
図12に示す第一変形例の振動子1のように、上記実施形態のケース2に代えて、箱状のケース13が使用されてもよい。
図13に示す第二変形例の振動子1のように、上記実施形態のケース2に代えて、円筒状のケース14が使用されてもよい。上記実施形態のケース2の代わりに、他の形状のケースが使用される場合、ダンパー又はヨーク等の各種部品の形状は、ケースの形状に対応するように適宜に変更されればよい。
【0074】
例えば振動子1が側面から衝撃を受けたとき、ヨーク11を含むアセンブリ30は側面方向に振動する。ヨーク11が側面方向に大きく振動すると、ヨーク11を支持するダンパー10の変形や損傷を生じる可能性がある。これを抑制するために、
図14に示すように、ケース2において空間を取り囲む内面は、ヨーク11と近接して対向する対向部21を含んでもよい。
図14は、第三変形例に係る聴取装置の振動子1の内部構造を示す図である。
【0075】
第三変形例の振動子1では、ケース2の内面のうち、下側ケース2bの上部において周方向に延びる面部が、ヨーク11の外周面と間隔を空けて対向する対向部21である。下側ケース2bの上部の厚みが大きくなるように、対向部21はケース2内の空間側に膨らんでいる。これにより、ケース2とヨーク11との間に形成される隙間が、対向部21が設けられない場合よりも狭くなる。例えば、ヨーク11と対向部21との間に形成される隙間は、0.3mm程度である。
【0076】
第三変形例では、上記のように対向部21がケース2とヨーク11との隙間を狭めているため、ヨーク11の側面方向への可動範囲が制限される。振動子1が側面から衝撃を受けたときでも、ヨーク11の側面方向への振動幅が抑制されるため、ダンパー10の変形や損傷を生じ難い。なお、対向部21は、ケース2の内面からヨーク11に向かって突出する一又は複数の突起でもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 振動子、2 ケース、4 コイルボビン、5 コイル、6 第1のマグネット、7 トッププレート、8 第2のマグネット、9 フレーム、10 ダンパー、11 ヨーク、20 マグネット、30 アセンブリ