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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142686
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】神経細胞培養チップ
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20241003BHJP
   C12N 5/0793 20100101ALN20241003BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/0793
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054936
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小柳 博
(72)【発明者】
【氏名】山中 誠
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC02
4B029DF05
4B029DG06
4B029GA03
4B029GB04
4B029GB06
4B065AA90X
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】培養した神経細胞から成長した神経突起がマイクロ流路に導入される確率を高めることのできる、神経細胞培養チップを提供する。
【解決手段】神経細胞培養チップは、底板と、底板の上面に固定的に接触する基体部と、基体部の主面に平行な第一方向に離間した箇所において基体部を貫通して底板を露出するように形成された第一ウェル及び第二ウェルと、基体部の主面に直交する第二方向に基体部と重なる領域において第一ウェル及び第二ウェルを第一方向に連絡するマイクロ流路と、第一ウェルの底部の一部に形成されマイクロ流路の第一方向に係る端部と連絡された第一溝とを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板と、
前記底板の上面に固定的に接触する基体部と、
前記基体部の主面に平行な第一方向に離間した箇所において、前記基体部を貫通して前記底板を露出するように形成された第一ウェル及び第二ウェルと、
前記基体部の前記主面に直交する第二方向に前記基体部と重なる領域において、前記第一ウェル及び前記第二ウェルを前記第一方向に連絡するマイクロ流路と、
前記第一ウェルの底部の一部に形成され、前記マイクロ流路の前記第一方向に係る端部と連絡された第一溝とを備えたことを特徴とする、神経細胞培養チップ。
【請求項2】
前記第一溝は、前記第一方向に延伸することを特徴とする、請求項1に記載の神経細胞培養チップ。
【請求項3】
前記第一ウェルの底部のうちの前記第一溝が形成されていない領域である主底面と、前記第一溝の前記第一方向に係る端部とを、前記第一ウェル内の外縁部の位置において前記主底面から前記第一溝に向けて下り傾斜となるように連絡する第二溝を備えたことを特徴とする、請求項1に記載の神経細胞培養チップ。
【請求項4】
前記第一ウェルの底部は、前記第一溝が形成されていない領域である主底面と、前記主底面の外側において前記主底面よりも高さの高い外縁部とを含み、
前記第一溝は、前記マイクロ流路側から前記第一方向に延伸して前記主底面に達していることを特徴とする、請求項1に記載の神経細胞培養チップ。
【請求項5】
前記外縁部は、前記第二方向に見て前記主底面の外周を取り囲むように配置されていることを特徴とする、請求項4に記載の神経細胞培養チップ。
【請求項6】
前記第一溝は、前記第二方向に見たときに、前記第一ウェルの前記底部のうちの前記マイクロ流路に近い側の外縁部と、前記第一ウェルの前記底部のうちの前記マイクロ流路から遠い側の外縁部とを連絡するように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の神経細胞培養チップ。
【請求項7】
前記マイクロ流路は複数形成され、
前記第一溝は、複数の前記マイクロ流路のそれぞれに対して前記第一方向に連絡するように複数形成され、
複数の前記第一溝は、前記第二方向に見て、前記マイクロ流路から遠い側の端部位置が、前記第一方向に直交する第三方向に関して実質的に揃っていることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の神経細胞培養チップ。
【請求項8】
前記第一溝は、前記第一ウェルの底部の一部に加えて、前記第二ウェルの底部の一部にも形成されており、前記第二ウェルの底部側において前記マイクロ流路の前記第一方向に係る端部と連絡されたことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の神経細胞培養チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞を培養するためのマイクロ流体デバイス(神経細胞培養チップ)に関する。
【背景技術】
【0002】
創薬研究においては、薬効効果の確認のフェーズと共に、毒性や安全性を評価するフェーズが存在する。薬剤が投与されることで末梢神経に対する障害が生じると、患者の生活の質(QOL)に対する影響が多大であるため、好ましくない。このため、創薬研究において、末梢神経を初めとする神経に対する影響(神経毒性)を事前に把握しておくことは重要である。
【0003】
神経毒性を評価する従来の方法として、実験動物を利用する方法では反射運動を見る観察試験がある。また、培養細胞を用いた培養試験ではマルチ電極アレイを用いた電気生理計測法がある。
【0004】
しかし、実験動物を利用する方法では、動物は人体との種差があるため、人体向けの検証には信頼性が低い。また、細胞電気生理の方法では、計測と分析に非常に高度な専門知識を要する。また、測定器が高価であり多数の試験に対応できないという問題がある。
【0005】
そこで、近年では、マイクロ流体デバイスで構成された培養チップにて神経細胞を培養し、神経細胞から神経突起を伸長させて神経突起を観察することで、薬剤刺激とその応答を評価する手法が提案されている。このような用途に利用可能なマイクロ流体デバイスとしては、例えば、下記特許文献1及び特許文献2に開示されているものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2021/015213号
【特許文献2】特表2012-504949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した手法で神経突起を観察するためには、マイクロ流体デバイスに設けられたマイクロ流路内に神経突起を位置させる必要がある。しかしながら、マイクロ流体デバイスで神経細胞を培養したとしても、神経細胞が神経突起を成長させる方向はランダムであるため、成長した神経突起がマイクロ流路内に導入されるかどうかは、確率的な事象である。このため、評価に必要な十分なデータを得るためには、多くの神経細胞を培養する必要がある。しかし、神経細胞は一般的に高価であるため、なるべく培養する神経細胞の数を少なくしながらも神経突起を観察できるのが好ましい。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑み、培養した神経細胞から成長した神経突起がマイクロ流路に導入される確率を高めることのできる、神経細胞培養チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る神経細胞培養チップは、
底板と、
前記底板の上面に固定的に接触する基体部と、
前記基体部の主面に平行な第一方向に離間した箇所において、前記基体部を貫通して前記底板を露出するように形成された第一ウェル及び第二ウェルと、
前記基体部の前記主面に直交する第二方向に前記基体部と重なる領域において、前記第一ウェル及び前記第二ウェルを前記第一方向に連絡するマイクロ流路と、
前記第一ウェルの底部の一部に形成され、前記マイクロ流路の前記第一方向に係る端部と連絡された第一溝とを備えたことを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、第一ウェル内に神経細胞を播種して培養すると、神経細胞から成長した神経突起が、第一ウェルの底部に設けられた第一溝に沿って成長しやすくなる。マイクロ流路は、第一ウェルと第二ウェルとを第一方向に連絡する流路であり、第一溝はこのマイクロ流路の第一方向に係る端部と連絡されている。この結果、成長した神経突起が、第一溝に沿ってマイクロ流路内に導入されやすくなる。
【0011】
第一溝は、神経突起が内部で伸長できる程度の大きさであることが好ましい。第一溝の幅は、5μm~150μmであるのが好ましく)10μm~100μmであるのがより好ましく、15μm~50μmであるのが特に好ましい。
【0012】
同様に、第一溝の深さは、3μm~80μmであるのが好ましく、3μm~60μmであるのがより好ましく、3μm~20μmであるのが特に好ましい。
【0013】
前記第一溝は、前記第一方向に延伸するものとしても構わない。
【0014】
前記神経細胞培養チップは、前記第一ウェルの底部のうちの前記第一溝が形成されていない領域である主底面と、前記第一溝の前記第一方向に係る端部とを、前記第一ウェル内の外縁部の位置において前記主底面から前記第一溝に向けて下り傾斜となるように連絡する第二溝を備えるものとしても構わない。
【0015】
上記構成によれば、第一溝に沿って伸長した神経突起を、第二溝を介してマイクロ流路内により導入しやすくなる。
【0016】
前記第一ウェルの底部は、前記第一溝が形成されていない領域である主底面と、前記主底面の外側において前記主底面よりも高さの高い外縁部とを含み、
前記第一溝は、前記マイクロ流路側から前記第一方向に延伸して前記主底面に達しているものとしても構わない。
【0017】
上記構成によれば、第一溝とマイクロ流路の高さを実質的に一致させることができる。つまり、第一ウェル内で培養された神経細胞から成長した神経突起は、ほぼ直線的に第一方向に伸長してマイクロ流路内に達することができる。
【0018】
前記第一溝は、前記第二方向に見たときに、前記第一ウェルの前記底部のうちの前記マイクロ流路に近い側の外縁部と、前記第一ウェルの前記底部のうちの前記マイクロ流路から遠い側の外縁部とを連絡するように形成されているものとしても構わない。
【0019】
上記構成によれば、第一溝の開口面積が大きくなるため、神経突起が第一溝に導入される確率を更に上昇できる。この結果、神経突起をマイクロ流路内に導入できる確率が更に高められる。
【0020】
前記マイクロ流路は複数形成され、
前記第一溝は、複数の前記マイクロ流路のそれぞれに対して前記第一方向に連絡するように複数形成され、
複数の前記第一溝は、前記第二方向に見て、前記マイクロ流路から遠い側の端部位置が、前記第一方向に直交する第三方向に関して実質的に揃っているものとしても構わない。
【0021】
上記構成によれば、神経細胞から成長した複数本の神経突起が、マイクロ流路内に達するために伸長する距離を実質的に均一化できる。これにより、各神経突起の成長条件が統一化され、神経突起を観察して評価するに際して、評価の安定化に資する。
【0022】
なお、複数の第一溝の端部位置が第三方向に関して実質的に揃っているとは、端部位置の第一方向に関する変位が、50μm未満であることを指す。
【0023】
前記第一溝は、前記第一ウェルの底部の一部に加えて、前記第二ウェルの底部の一部にも形成されており、前記第二ウェルの底部側において前記マイクロ流路の前記第一方向に係る端部と連絡されるものとしても構わない。
【0024】
上記構成によれば、神経細胞を播種するウェルを選択する際の自由度が高まるため、ユーザビリティが向上する。
【0025】
なお、この場合、第二ウェルについても、第一ウェルと同様の構造を採用することが可能である。詳細には、以下の通りである。
【0026】
前記第二ウェル側に形成された前記第一溝は、前記第一方向に延伸するものとしても構わない。
【0027】
下り傾斜を有する前記第二溝は、前記第二ウェル側にも形成されているものとして構わない。言い換えれば、前記第二ウェル側に形成された前記第二溝は、前記第二ウェルの底部のうちの前記第一溝が形成されていない領域である主底面と、前記第一溝の前記第一方向に係る端部とを、前記第二ウェル内の外縁部の位置において前記主底面から前記第一溝に向けて下り傾斜となるように連絡するものとしても構わない
【0028】
前記第二ウェルの底部は、前記第一溝が形成されていない領域である主底面と、前記主底面の外側において前記主底面よりも高さの高い外縁部とを含み、
前記第一溝は、前記マイクロ流路側から前記第一方向に延伸して前記第二ウェルの前記主底面に達していても構わない。
【0029】
前記外縁部は、前記第二方向に見て前記主底面の外周を取り囲むように配置されているものとしても構わない。
【0030】
前記第二ウェル側に形成された前記第一溝は、前記第二方向に見たときに、前記第二ウェルの前記底部のうちの前記マイクロ流路に近い側の外縁部と、前記第二ウェルの前記底部のうちの前記マイクロ流路から遠い側の外縁部とを連絡するように形成されていても構わない。
【0031】
前記マイクロ流路は複数形成され、
前記第二ウェル側に形成された前記第一溝は、複数の前記マイクロ流路のそれぞれに対して前記第一方向に連絡するように複数形成され、
複数の前記第一溝は、前記第二方向に見て、前記マイクロ流路から遠い側の端部位置が、前記第一方向に直交する第三方向に関して実質的に揃っているものとしても構わない。
【発明の効果】
【0032】
本発明の神経細胞培養チップによれば、培養した神経細胞から成長した神経突起をマイクロ流路に導入しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】第一実施形態の神経細胞培養チップの外観を模式的に示す斜視図である。
図2図1に示す神経細胞培養チップ1を-Z方向に見たときの模式的な平面図である。
図3図2に示す神経細胞培養チップ1をA1-A1線で切断し、-Y側から見たときの模式的な断面図である。
図4図2に示す神経細胞培養チップ1をA1-A1線で切断したときの、模式的な断面斜視図である。
図5図4の一部拡大図である。
図6図5の一部拡大図である。
図7図5に示す第一ウェル10及び第二ウェル20の底部及びマイクロ流路7の配置態様を模式的に示す平面図である。
図8図7の一部拡大図である。
図9】第一ウェル10の底部で培養された神経細胞から神経突起が成長する様子を模式的に示す図面である。
図10図7内のA2-A2線で底板3を切断したときの模式的な断面図である。
図11】第二実施形態の神経細胞培養チップ1を図2内のA1-A1線で切断し、-Y側から見たときの模式的な断面図である。
図12】第二実施形態の神経細胞培養チップ1の第一ウェル10及び第二ウェル20の底部及びマイクロ流路7の配置態様を、図7にならって模式的に示す平面図である。
図13】第三実施形態の神経細胞培養チップ1を図2内のA1-A1線で切断し、-Y側から見たときの模式的な断面図である。
図14】第三実施形態の神経細胞培養チップ1の第一ウェル10及び第二ウェル20の底部及びマイクロ流路7の配置態様を、図7にならって模式的に示す平面図である。
図15】第三実施形態の神経細胞培養チップ1を図2内のA1-A1線で切断し、-Y側から見たときの別の模式的な断面図である。
図16】別実施形態の神経細胞培養チップ1の模式的な平面図を、図12にならって図示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明に係る神経細胞培養チップの各実施形態につき、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書に開示された各図面は、あくまで模式的に図示されたものである。すなわち、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しておらず、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。更に、各図面に示された要素の数についても、実際の数と必ずしも一致していない。
【0035】
[第一実施形態]
第一実施形態の神経細胞培養チップについて、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の神経細胞培養チップの外観を模式的に示す斜視図である。図1に示すように、神経細胞培養チップは、底板3と、底板3の上面に固定的に接触して配置された基体部5とを備える。基体部5には、主面(X-Y平面)に平行な方向に関して離間した位置に形成された複数のウェル6,6,…が形成されている。以下では、複数のウェル6,6,…のうちの1つのウェル6を、「第一ウェル10」と称し、第一ウェル10に対してX方向に離間して隣接して配置されたウェル6を、「第二ウェル20」と称する。
【0036】
以下の説明では、図1に付されたX-Y-Z座標系が適宜参照される。この際、方向を表現する際に正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0037】
底板3及び基体部5は、いずれも典型的には矩形状の基板であり、透明な熱可塑性樹脂で構成される。底板3及び基体部5を構成する材料の一例としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、及びポリスチレン(PS)等が挙げられ、この中では、医療用グレード樹脂として指定されているCOPが特に好ましい。COPは、高透明性、低自家蛍光性、及び低薬剤吸着性を示す熱可塑性樹脂である。
【0038】
底板3及び基体部5の寸法は任意であるが、例えば、X方向に係る寸法が10mm~50mmであり、Y方向に係る寸法が50mm~100mmである。底板3の厚み(Z方向に係る寸法)は、例えば0.1mm~2mmである。基体部5の厚みは、例えば2mm~15mmである。
【0039】
本実施形態の一例としては、底板3の寸法は、X×Y×Z=26mm×76mm×1mmであり、基体部5の寸法は、X×Y×Z=26mm×76mm×5mmである。
【0040】
図2は、図1に示す神経細胞培養チップ1を-Z方向に見たときの模式的な平面図である。図3は、図2に示す神経細胞培養チップ1をA1-A1線で切断し、-Y側から見たときの模式的な断面図である。
【0041】
図4は、図2に示す神経細胞培養チップ1をA1-A1線で切断したときの、模式的な断面斜視図である。図5は、図4の一部拡大図である。図6は、図5の一部拡大図である。
【0042】
図3図5に示すように、第一ウェル10及び第二ウェル20は、基体部5の+Z側の主面(上面)から、Z方向に基体部5を貫通するように形成されている。これにより、第一ウェル10及び第二ウェル20は、いずれも+Z側から-Z方向に見て、底板3の一部を露出させている。
【0043】
第一ウェル10と第二ウェル20との間の位置において、基体部5が形成されている領域の-Z側には、マイクロ流路7が形成されている。このマイクロ流路7は、第一ウェル10の底部と第二ウェル20の底部とを連絡するように複数本が形成されている。それぞれのマイクロ流路7は極めて微細な構造である。詳細には、それぞれのマイクロ流路7の流路深さ(Z方向に係る長さ)は、3μm~80μmであるのが好ましく、3μm~60μmであるのがより好ましく、3μm~20μmであるのが特に好ましい。また、マイクロ流路7の流路幅(Y方向に係る長さ)は、5μm~150μmであるのが好ましく、10μm~100μmであるのがより好ましく、15μm~50μmであるのが特に好ましい。
【0044】
例えば、第一ウェル10に神経細胞を含む培養液が注入されることで、第一ウェル10の底部(主底面13)で神経細胞41(図9参照)が播種される。その後、所定期間(例えば数日間)にわたって第一ウェル10内で神経細胞41が培養されることで、神経細胞41から神経突起42が伸長する。その後、神経突起42がマイクロ流路7内に導入されると、マイクロ流路7内で神経突起42が培養され、神経突起42が観察される。このとき、神経突起42の薬剤に対する評価を行う観点から、第一ウェル10又は第二ウェル20から薬剤を含む溶液が導入される。本試験例では、第二ウェル20から成長を促進する薬剤や障害を起こす薬剤などを入れることができる。
【0045】
本実施形態の神経細胞培養チップ1が備えるマイクロ流路7は、神経細胞41から伸長した複数の神経突起42が、各神経突起42単位でマイクロ流路7内に導入されることを予定して形成されている。神経突起42は、神経細胞41の種類によっては、直径が0.5μm~20μmとされている。かかる観点から、マイクロ流路7は、神経細胞41から成長する神経突起42の寸法に応じて、前述した寸法範囲の下で設計される。
【0046】
なお、初期段階において培養液を第一ウェル10から導入したり、薬剤を含む溶液を第一ウェル10から導入する際、余剰分の液体は第二ウェル20側から排出させるものとしても構わない。この場合、第一ウェル10は神経細胞培養チップ1に液体を注入する目的で利用され、第二ウェル20は神経細胞培養チップ1から液体を排出する目的で利用される。
【0047】
このように、液体を導入する観点から、神経細胞培養チップ1は、基体部5が底板3よりも鉛直上方の位置になるように設置して利用されるのが典型的である。つまり、マイクロ流路7内に神経突起42(図9参照)が位置した状態で、底板3側から顕微鏡等を用いて神経突起42が観察される。かかる観点から、特に底板3については、前述したように透明材料で構成されるのが好ましい。また、基体部5が色味を帯びていると、底板3よりも-Z側から+Z方向の向きにマイクロ流路7を顕微鏡で観察した際、マイクロ流路7内に存在する神経突起42と、当該マイクロ流路7の+Z側に位置する基体部5とが重なって、神経突起42の観察の妨げになる可能性もある。かかる観点から、基体部5についても透明材料で構成されるのが好ましい。
【0048】
本実施形態の神経細胞培養チップ1は、図6図8に示すように、マイクロ流路7の第一ウェル10側の端部に、第一ウェル10の主底面13とマイクロ流路7とを連絡する溝(以下、「第一溝15」と称する。)を有する。図7は、第一ウェル10及び第二ウェル20の底部及びマイクロ流路7の配置態様を模式的に示す平面図である。図8は、図7の一部拡大図である。
【0049】
なお、本実施形態では、第一ウェル10と第二ウェル20とがX方向に隣接しており、このX方向が「第一方向」に対応する。なお、Z方向が「第二方向」に対応し、Y方向が「第三方向」に対応する。
【0050】
マイクロ流路7は、第一ウェル10と第二ウェル20との間において、基体部5の-Z側の位置に形成されている。このため、第一ウェル10内で培養された神経細胞41から神経突起42が成長しても、この成長した神経突起42が正しくマイクロ流路7内に導入されるのは確率的な事象である。
【0051】
これに対し、本実施形態の神経細胞培養チップ1は、第一ウェル10の底部の一部に第一溝15が形成されている。この第一溝15は、マイクロ流路7のX方向に係る端部(より詳細には-X側の端部)と連絡されている。第一溝15が形成されることで、神経突起42をマイクロ流路7内に導入しやすくなる点について、図9を参照して説明する。図9は、第一ウェル10の底部で培養された神経細胞から神経突起が成長する様子を模式的に示す図面である。なお、説明の都合上、図9では、第一溝15及びマイクロ流路7が誇張して図示されている。
【0052】
上述したように、マイクロ流路7は、第一ウェル10内で培養された神経細胞41(図9参照)から成長した神経突起42を導入する目的で設けられている。本実施形態の構成によれば、神経細胞41が位置している第一ウェル10の底部の一部に、第一溝15が形成されている。よって、神経細胞41から成長した神経突起42の先端が、第一ウェル10の底部に位置している間に、第一溝15に沿って成長を促すことができる。第一溝15は、マイクロ流路7のX方向に係る端部(-X側の端部)と連絡されているため、第一溝15に沿って伸長した神経突起42は、そのままマイクロ流路7内に導入されやすくなる。
【0053】
上記の観点から、第一溝15の凹凸幅及び深さは、マイクロ流路7の流路幅及び流路深さと同程度の寸法で設計されるのが好適である。すなわち、第一溝15の深さ(Z方向に係る長さ)は、3μm~80μmであるのが好ましく、3μm~60μmであるのがより好ましく、3μm~20μmであるのが特に好ましい。また、第一溝15の凹凸幅(Y方向に係る長さ)は、5μm~150μmであるのが好ましく、10μm~100μmであるのがより好ましく、15μm~50μmであるのが特に好ましい。
【0054】
本実施形態の神経細胞培養チップ1が備える第一溝15を形成するに際しては、リソグラフィの技術を利用することができる。神経細胞培養チップ1の製造方法の一例について、以下で説明する。
【0055】
(板状部材の準備)
神経細胞培養チップ1を構成する、底板3及び基体部5を準備する。この時点では、例えば両者はいずれも矩形平板状の部材である。
【0056】
(基体部5の形状加工)
基体部5に対して、複数のウェル6の形成予定箇所に、切削加工、射出成形等の方法で貫通孔を形成する。
【0057】
(底板3の形状加工)
リソグラフィ技術を利用し、第一溝15の形成予定領域、及びマイクロ流路7の形成予定領域に対して、微細な深さでエッチングを行う。このエッチング深さは、上述した、第一溝15の深さ、及びマイクロ流路7の流路深さに応じて設定される。両者が同一寸法である場合、この加工によって、第一溝15が実質的にマイクロ流路7の形成予定領域側に延長されてなる凹凸溝が形成されることになる。その後、底板3の上面に基体部5が接合されることで、凹凸溝の一部上面が基体部5で覆われる結果、マイクロ流路7が形成される。
【0058】
このエッチングの際、第一溝15の形成予定領域以外の領域であって、ウェル6の底部に対応する箇所のうちの外縁部に囲まれた領域についても、同時にエッチングが行われる。この結果、例えば、第一ウェル10の底部を構成する箇所には、主底面13と、主底面13の周囲において高さ位置が高い外縁部17とが形成される(図7参照)。
【0059】
図10は、図7内のA2-A2線で底板3を切断したときの模式的な断面図である。図10に示すように、第一溝15の形成予定領域以外の箇所においては、主底面13よりも高さの高い外縁部17が形成される。
【0060】
(接合工程)
このように形状加工された底板3及び基体部5が接合され、図1図3を参照して上述した、神経細胞培養チップ1が得られる。接合方法としては、光やプラズマを使った表面改質を利用した接合、熱接合、接着剤を使った接着、溶剤を使った接合などを利用することができる。接合方法の一例は、以下の通りである。
【0061】
まず、底板3及び基体部5のそれぞれの接合面に対して、表面を活性化する処理を行う。表面活性化処理の方法としては、紫外線を照射する方法が利用できる。具体例としては、紫外線光源から波長200nm以下の真空紫外線(VUV)を照射することで実行される。紫外線光源としては、ピーク波長が172nm近傍を示すXeエキシマランプ、185nmに輝線を有する低圧水銀ランプ、波長120~200nmの範囲に輝線を有する重水素ランプ等を好適に用いることができる。真空紫外線の照度は、例えば10~500mW/cm2であり、照射時間は底板3及び基体部5の形成材料に応じて適宜設定されるが、例えば0.1~60秒間である。
【0062】
次に、表面活性化処理が施された底板3及び基体部5のそれぞれの接合面を接触させ、プレス機等を利用して押圧し、両者を接合する。この工程は、接合を強固にするために、必要に応じて加熱された環境において行われる。接合工程において、加熱温度や押圧力等の接合条件は、底板3及び基体部5の構成材料に応じて設定される。具体的な条件を挙げると、押圧する際の温度は例えば40~150℃であり、接合するための押圧力は例えば、0.1~10MPaである。この接合工程は、底板3及び基体部5のそれぞれの接合面の表面活性化状態が維持された状態で行うのが好ましく、かかる観点から、紫外線照射完了後、例えば10分以内に行うとよい。
【0063】
なお、底板3及び基体部5を加圧した後、必要に応じて更に所定時間加熱してもよい。詳細な一例として、底板3及び基体部5の加圧状態を所定時間にわたって維持した後、その加圧状態を解除して所定温度まで上昇させ、その温度を所期の接合状態が得られるまで維持するようにしてもよい。ここで、所定温度とは、底板3及び基体部5に加熱による変形が生じることのない温度である。
【0064】
その後、冷却工程を経て、底板3の上面に基体部5が固定的に接触してなる神経細胞培養チップ1が得られる。
【0065】
なお、図3図7を参照して上述した本実施形態の神経細胞培養チップ1では、第二ウェル20側においても、第一ウェル10と同様の構造が採用されている。つまり、本実施形態の神経細胞培養チップ1では、マイクロ流路7の第二ウェル20側の端部と、第二ウェル20の主底面23とを連絡する溝(第一溝25)が形成されている。これにより、第二ウェル20側に神経細胞41を播種してもマイクロ流路7内に神経突起42を導入しやすいため、神経細胞を播種する対象となるウェルの選択自由度が高まる。
【0066】
ただし、本発明において、第一ウェル10側から神経細胞41を含む培養液を注入して、第一ウェル10の底部に神経細胞41を播種する場合においては、神経細胞培養チップ1に第二ウェル20側に第一溝25を形成するか否かは任意である。以下の実施形態においても同様である。
【0067】
なお、図7図9に示すように、各第一溝15のマイクロ流路7とは反対側(-X側)の端部は、Y方向に実質的に揃っているのが好ましい。このように形成することで、神経細胞41から成長した複数本の神経突起42が、マイクロ流路7内に達するために伸長する距離が実質的に均一化できるため、各神経突起42の成長条件を統一できる。
【0068】
なお、本実施形態では、第一ウェル10の底部を構成する主底面13の外周に、外縁部17が形成されている(図7図9参照)。外縁部17を設けることで、外縁部17上に位置する神経突起42についても第一溝15内に導きやすくなるため、神経突起4がマイクロ流路7内に誘導される確率が上昇する。外縁部17の幅は、マイクロ流路7の幅以上であるのが好ましく、マイクロ流路7の幅の2倍以上であるのがより好ましい。第二ウェル20の主底面23の外周に設けられた外縁部27についても同様である。
【0069】
[第二実施形態]
神経細胞培養チップ1の第二実施形態につき、第一実施形態と異なる箇所を説明する。なお、第一実施形態と同一の構成要素については、同一の符号が参照され、説明が適宜省略される。
【0070】
本実施形態の神経細胞培養チップ1の模式的な斜視図は、図1と同じであり、-Z方向に見たときの模式的な平面図は、図2と同じである。
【0071】
図11は、本実施形態の神経細胞培養チップ1を、図2内のA1-A1線で切断し、-Y側から見たときの模式的な断面図であり、図3にならって図示されている。また、図12は、本実施形態の神経細胞培養チップ1の第一ウェル10及び第二ウェル20の底部及びマイクロ流路7の配置態様を、図7にならって模式的に示した平面図である。
【0072】
本実施形態の神経細胞培養チップ1は、第一実施形態と比較して、第一溝15が第一ウェル10の底部全域にわたって形成されている点が異なる。なお、同様に、第一溝25についても、第二ウェル20の底部全域にわたって形成されている。ただし、第一溝25の形成が任意である点は、上述した通りである。この構成によれば、神経突起42が任意の方向に成長した場合であっても、第一溝15に近づく方向に成長した神経突起42を第一溝15内に嵌め込んで、マイクロ流路7側に導くことができる。
【0073】
[第三実施形態]
神経細胞培養チップ1の第三実施形態につき、第一実施形態と異なる箇所を説明する。なお、第一実施形態と同一の構成要素については、同一の符号が参照され、説明が適宜省略される。
【0074】
本実施形態の神経細胞培養チップ1の模式的な斜視図は、図1と同じであり、-Z方向に見たときの模式的な平面図は、図2と同じである。
【0075】
図13は、本実施形態の神経細胞培養チップ1を、図2内のA1-A1線で切断し、-Y側から見たときの模式的な断面図であり、図3にならって図示されている。また、図14は、本実施形態の神経細胞培養チップ1の第一ウェル10及び第二ウェル20の底部及びマイクロ流路7の配置態様を、図7にならって模式的に示した平面図である。
【0076】
本実施形態の神経細胞培養チップ1は、第一実施形態と比較して、第一ウェル10の底部に外縁部17が形成されていない点が異なる。なお、図13に示す構造において、第一溝15のX方向に係る長さは、第二実施形態(図11参照)よりも短い。この構造を形成するに際しても、第一実施形態の場合と同様、底板3の形状加工時に、リソグラフィ技術を用いて、第一溝15の形成予定領域、及びマイクロ流路7の形成予定領域に対して、微細な深さでエッチングを行うことで実現される。本実施形態において、第一溝15のX方向に係る長さは、第二実施形態(図11)の場合と同等であっても構わない。
【0077】
この構成によれば、神経突起42が任意の方向に成長した場合であっても、第一溝15に近づく方向に成長した神経突起42を第一溝15内に嵌め込んで、マイクロ流路7側に導くことができる。
【0078】
図13に示すように、本実施形態の神経細胞培養チップ1において、主底面13と第一溝15の底部との間には、段差が存在する。かかる観点から、第一ウェル10の主底面13上に播種されて培養された神経細胞41(図9参照)から神経突起42が第一溝15側に伸長する際に、第一溝15内に神経突起42を導入しやすくする観点で、図15に示すように、第一ウェル10の主底面13と第一溝15の高さを連絡する下り傾斜の第二溝51を形成するものとしても構わない。第一溝15の-X側の端部位置が、第一ウェル10の外縁よりも大きく内側に位置していることで、第二溝51を形成する領域を確保することができる。この第二溝51については、底板3に対して、射出成型、切削加工、インプリント等の技術を適用して形成することができる。
【0079】
なお、図15では、第二ウェル20側においても、第二ウェル20の主底面23と第一溝25の高さを連絡する下り傾斜の第二溝52が形成されている状態が図示されている。ただし、上述したように、第一溝25を形成するか否かは任意であり、当然に第二溝52を形成するか否かについても任意である。
【0080】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0081】
〈1〉図1図2に示す神経細胞培養チップ1では、主面が矩形状の底板3及び基体部5の辺に沿って、マトリクス状に各ウェル6,6,…が配置されている場合が示されていたが、この態様はあくまで一例である。つまり、神経細胞培養チップ1が備える各ウェル6,6,…の配置態様は任意である。
【0082】
例えば、底板3及び基体部5の主面は円形状や正方形状であっても構わない。また、各ウェル6,6,…が千鳥格子状に配置されていても構わない。別の例として、神経細胞培養チップ1には、一対のウェル6,6のみ(第一ウェル10及び第二ウェル20のみ)が形成されているものとしても構わない。
【0083】
〈2〉上記実施形態では、マイクロ流路7が、隣接する第一ウェル10と第二ウェル20とを連絡するように設けられていた。しかし、例えば、図16に示すように、第二ウェル20が、第一ウェル10と第三ウェル30との双方に隣接しており、第二ウェル20と第三ウェル30との間にもマイクロ流路7が形成されていても構わない。この場合、第三ウェル30の底部には、第二ウェル20と第三ウェル30との間に形成されたマイクロ流路7の第三ウェル30側の端部と連絡するように、第一溝35が形成されているものとしても構わない。なお、図16において、符号33は、第三ウェル30の底部を構成する主底面を指し、第一ウェル10の主底面13と同様である。
【0084】
なお、図16では、第一溝(15,25,35)が、図12を参照して上述した第二実施形態の神経細胞培養チップ1が備える第一溝(15,25)と同様の形状を示す場合が例に挙げられている。しかし、この別実施形態において、第一実施形態又は第三実施形態において上述した第一溝(15,25)の形状を採用することも可能である。
【0085】
〈3〉本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明のより良い理解のために詳細に説明したものであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されるものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0086】
1 :神経細胞培養チップ
3 :底板
5 :基体部
6 :ウェル
7 :マイクロ流路
10 :第一ウェル
13,23,33 :ウェルの主底面
15,25,35 :第一溝
17,27 :外縁部
20 :第二ウェル
30 :第三ウェル
41 :神経細胞
42 :神経突起
51,52 :第二溝
図1
図2
図3
図4
図5
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