(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142696
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】作業車両の制御方法、作業車両用制御プログラム、作業車両用制御システム及び作業システム
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241003BHJP
A01B 69/00 20060101ALI20241003BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20241003BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
B62D6/00
A01B69/00 303M
G05D1/02 R
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054947
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【弁理士】
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【弁理士】
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雅史
(72)【発明者】
【氏名】岩村 圭将
【テーマコード(参考)】
2B043
3D232
5H301
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB06
2B043BA02
2B043BA09
2B043BB01
2B043DA15
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2B043DB21
2B043EA01
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2B043EC02
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2B043ED22
3D232CC20
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3D232EC23
3D232EC34
3D232FF01
3D232GG12
5H301AA03
5H301AA10
5H301BB01
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301DD06
5H301DD17
5H301GG07
5H301MM04
5H301MM09
(57)【要約】
【課題】適切なオーバライド状態の判定を可能とする作業車両の制御方法、作業車両用制御プログラム、作業車両用制御システム及び作業システムを提供する。
【解決手段】作業車両10の制御方法は、モータ421を用いて操舵輪を自動操舵する自動操舵モードを有する作業車両10の制御方法である。この制御方法は、自動操舵モードにおいて、モータ421を制御することと、モータ421に生じるトルクに関する判定条件に基づいてオーバライド状態であるか否かを判定することと、判定条件を変更することと、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを用いて操舵輪を自動操舵する自動操舵モードを有する作業車両の制御方法であって、
前記自動操舵モードにおいて、
前記モータを制御することと、
前記モータに生じるトルクに関する判定条件に基づいてオーバライド状態であるか否かを判定することと、
前記判定条件を変更することと、を有する、
作業車両の制御方法。
【請求項2】
前記判定条件は、前記モータを制御するための指令値に応じて変更される、
請求項1に記載の作業車両の制御方法。
【請求項3】
前記判定条件は、前記作業車両のピッチ角とロール角との少なくとも一方に応じて変更される、
請求項1又は2に記載の作業車両の制御方法。
【請求項4】
前記判定条件は、前記作業車両による作業状況に応じて変更される、
請求項1又は2に記載の作業車両の制御方法。
【請求項5】
前記操舵輪の操舵角の角度範囲を複数の小領域に区分した場合、前記操舵角が前記複数の小領域のいずれにあるかによって、前記判定条件が変更される、
請求項1又は2に記載の作業車両の制御方法。
【請求項6】
前記判定条件は、時間に関する条件を含む、
請求項1又は2に記載の作業車両の制御方法。
【請求項7】
前記判定条件は、それぞれ異なる閾値に対する前記トルクの大小関係に係る複数の個別条件を含み、
前記複数の個別条件のうちの1つでも満たせば前記オーバライド状態であると判定する、
請求項1又は2に記載の作業車両の制御方法。
【請求項8】
前記オーバライド状態であると判定されると、前記作業車両の動作モードを前記自動操舵モードからオペレータが手動で操舵する手動操舵モードに切り替えること、を更に有する、
請求項1又は2に記載の作業車両の制御方法。
【請求項9】
前記オーバライド状態であると判定されると、前記作業車両の走行速度の減速又は停止を行うこと、を更に有する、
請求項1又は2に記載の作業車両の制御方法。
【請求項10】
前記自動操舵モードにおいて、前記操舵輪が最大切れ角まで操舵されているか否かを判定する切れ角判定処理を実行すること、を更に有する、
請求項1又は2に記載の作業車両の制御方法。
【請求項11】
前記判定条件は、前記切れ角判定処理の判定結果に応じて変更される、
請求項10に記載の作業車両の制御方法。
【請求項12】
前記切れ角判定処理により前記操舵輪が最大切れ角まで操舵されていると判定された時点から、遅延時間遅れて前記判定条件を変更する、
請求項11に記載の作業車両の制御方法。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の作業車両の制御方法を、
1以上のプロセッサに実行させるための作業車両用制御プログラム。
【請求項14】
モータを用いて操舵輪を自動操舵する自動操舵モードを有する作業車両に用いられ、
前記自動操舵モードにおいて前記モータを制御する自動操舵処理部と、
前記モータに生じるトルクに関する判定条件に基づいてオーバライド状態であるか否かを判定するオーバライド判定処理部と、
前記判定条件を変更する条件変更処理部と、を備える、
作業車両用制御システム。
【請求項15】
請求項14に記載の作業車両用制御システムと、
前記作業車両の機体と、を備える、
作業システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵輪を自動操舵する自動操舵モードを有する作業車両の制御方法、作業車両用制御プログラム、作業車両用制御システム及び作業システムに関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術として、作業車両(トラクタ)を自律走行させる作業車両用の自律走行システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。関連技術において、自律走行制御には、操舵輪(左右の前輪)を自動操舵する自動操舵制御が含まれている。この作業車両には、例えば(電動)モータを備える電動式のパワーステアリング機構を介した操舵輪の手動操舵を可能にするステアリングホイールが設けられている。
【0003】
自動操舵制御においては、操舵角設定部が、目標経路と測位ユニットの出力とに基づいて操舵輪の目標操舵角を求めて設定し、設定した目標操舵角をパワーステアリング機構に出力する。すると、パワーステアリング機構が、目標操舵角と舵角センサの出力とに基づいて、目標操舵角が操舵輪の操舵角として得られるように操舵輪を自動操舵する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記関連技術の構成では、自動操舵中に、一例として、旋回経路に沿って作業車両を90度旋回させる場合、急操舵のためにパワーステアリング機構のモータに過大なトルクが生じて、オーバライド状態と判定されて自動操舵が解除される可能性がある。オーバライド状態と判定するためのトルクの閾値を大きく設定すれば、このような不具合を回避しやすくなるが、その場合、モータに過大なトルクが生じる状況が長引いてモータにダメージを与える可能性がある。さらに、手動操舵に切り替えるためのステアリングホイールの操作に比較的大きな力が必要となり、オペレータの操作性が低下する可能性もある。
【0006】
本発明の目的は、適切なオーバライド状態の判定を可能とする作業車両の制御方法、作業車両用制御プログラム、作業車両用制御システム及び作業システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の局面に係る作業車両の制御方法は、モータを用いて操舵輪を自動操舵する自動操舵モードを有する作業車両の制御方法であって、前記自動操舵モードにおいて、前記モータを制御することと、前記モータに生じるトルクに関する判定条件に基づいてオーバライド状態であるか否かを判定することと、前記判定条件を変更することと、を有する。
【0008】
本発明の一の局面に係る作業車両用制御プログラムは、前記作業車両の制御方法を、1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムである。
【0009】
本発明の一の局面に係る作業車両用制御システムは、モータを用いて操舵輪を自動操舵する自動操舵モードを有する作業車両に用いられ、自動操舵処理部と、オーバライド判定処理部と、条件変更処理部と、を備える。前記自動操舵処理部は、前記自動操舵モードにおいて前記モータを制御する。前記オーバライド判定処理部は、前記モータに生じるトルクに関する判定条件に基づいてオーバライド状態であるか否かを判定する。前記条件変更処理部は、前記判定条件を変更する。
【0010】
本発明の一の局面に係る作業システムは、前記作業車両用制御システムと、前記作業車両の機体と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、適切なオーバライド状態の判定を可能とする作業車両の制御方法、作業車両用制御プログラム、作業車両用制御システム及び作業システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る作業車両の外観を示す概略側面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る作業システムの概略ブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る作業車両の操舵輪の動作を説明する模式図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係る作業システムにおける操舵装置に関連する構成を示す概略図である。
【
図5】
図5は、実施形態1に係る作業システムにおける自動走行について説明する概略図である。
【
図6】
図6は、実施形態1に係る作業車両の制御方法のうち切れ角判定処理に関連する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、実施形態1に係る作業車両の制御方法によるモータのトルクの変化の一例を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施形態1に係る作業車両の制御方法によるモータのトルクの変化の一例を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施形態1に係る作業車両の制御方法における速度指令値とトルクの閾値との関係の一例を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施形態1に係る作業車両の制御方法によるモータのトルクの変化の一例を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実施形態1に係る作業車両の制御方法における判定条件の割り当ての一例を示す模式図である。
【
図12】
図12は、実施形態1に係る作業車両の制御方法における判定条件の割り当ての一例を示す模式図である。
【
図13】
図13は、実施形態1に係る作業車両の制御方法のうちオーバライド判定処理に関連する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、実施形態1に係る作業車両の制御方法における判定条件の割り当ての一例を示す模式図である。
【
図15】
図15は、実施形態1に係る作業車両の制御方法における判定条件の割り当ての一例を示す模式図である。
【
図16】
図16は、実施形態2に係る作業車両の制御方法におけるピッチ角とトルクの閾値との関係の一例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
【0014】
(実施形態1)
[1]全体構成
まず、本実施形態に係る作業システム100の全体構成について、
図1及び
図2を参照して説明する。本実施形態に係る作業車両用制御システム1(以下、単に「制御システム1」ともいう)は、作業車両10の機体11と共に作業システム100を構成する。機体11には作業機12が装着される。すなわち、作業システム100は、作業車両用制御システム1と、(作業機12が装着される)作業車両10の機体11と、を備えている。
【0015】
本実施形態では、制御システム1は、作業車両10の機体11に搭載されている制御装置2(
図2参照)と、端末装置3と、を含んでいる。作業車両10と端末装置3とは、互いに通信可能である。本開示でいう「通信可能」とは、有線通信又は無線通信(電波又は光を媒体とする通信)の適宜の通信方式により、直接的、又は通信網(ネットワーク)若しくは中継器等を介して間接的に、情報を授受できることを意味する。通信網は、例えば、インターネット、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、公衆電話回線、携帯電話回線網、パケット回線網又は無線LAN等を含む。作業車両10及び端末装置3が互いに通信可能であることは、制御システム1において必須の構成ではない。
【0016】
作業車両10は、対象領域F1(
図1参照)を移動しつつ、作業機12によって対象領域F1内で何らかの作業を行う。本開示でいう「作業」は、作業機12が対象領域F1に対して実施する仕事であって、例えば、耕耘、均平、播種、施肥、農薬散布、植付け(田植え)又は収穫等の各種の農作業、及び建設作業等の種々の作業を含む。本実施形態では一例として、作業車両10が行う作業は、耕耘作業であることとする。
【0017】
作業機12は、作業車両10の機体11が対象領域F1を移動する際に、対象領域F1内で作業を実施する。本実施形態では一例として、作業機12は、耕耘作業を行うロータリ耕耘機又はプラウ等の耕耘機であることとする。
【0018】
この種の作業機12には、三点リンクに直接的に取り付けられる直装式の作業機と、機体11に牽引される牽引式の作業機と、がある。本実施形態では一例として、作業機12は、作業車両10の機体11に対して取り外し可能に取り付けられる、直装式のロータリ耕耘機である。ここで、作業機12は機体11の後方側(機体11の前進方向とは反対側)に取り付けられる。つまり、(直装式)作業機12は、機体11の後方側に連結され、機体11の前進時に機体11と共に前進しつつ、作業を行う。本実施形態では、作業機12は作業車両10の構成要素に含まれることとするが、作業機12は、機体11から取り外し可能であるため、作業車両10の構成要素に含まれなくてもよい。
【0019】
本開示でいう「作業車両」は、例えば圃場等の対象領域F1において各種の作業を行う車両を意味し、一例として、トラクタ、播種機、田植機、散布機、噴霧機、移植機及び収穫機等の農業機械(農機)である。作業車両10は、例えば、建設機械(建機)等であってもよい。本実施形態では、特に断りが無い限り、作業車両10が作業機12としてのロータリ耕耘機を装備したトラクタである場合を例に挙げて説明する。つまり、機体11としてのトラクタに、作業機12としての(直装式)ロータリ耕耘機が連結されることにより、作業車両10が構成される。この作業車両10では、圃場等の対象領域F1を機体11が走行することで、対象領域F1における耕耘作業が可能となる。
【0020】
このように、本実施形態では、機体11は、対象領域F1を走行することによって移動する車両の一種である。ここで、機体11は、
図1及び
図3に示すように、左右一対の前輪からなる操舵輪111、及び左右一対の後輪からなる駆動輪112を備え、これら4つの車輪(一対の操舵輪111及び一対の駆動輪112)にて対象領域F1を走行する。
【0021】
また、本実施形態では一例として、作業車両10は、人(オペレータ)が搭乗可能でありながらも、自動走行(自律走行等)により動作可能な自動機であることとする。ただし、これに限らず、作業車両10は、自動走行する無人機であってもよいし、人(オペレータ)の操作(遠隔操作を含む)により動作してもよい。
【0022】
本開示でいう「対象領域」は、作業車両10が移動しながら、例えば、耕耘、均平、播種、施肥、農薬散布、植付け(田植え)又は収穫等の各種の作業を行う領域であって、水田、畑、果樹園及び牧草地等を含む。例えば、稲、麦、大豆又はそば等の作物(農産物)を生育する水田又は畑が対象領域F1である場合、対象領域F1で育成される作物は農産物である。さらに、植木畑で植木を生育している場合には植木畑が対象領域F1となり、林業のように森林にて木材となる樹木を生育する場合には森林が対象領域F1となる。この場合、対象領域F1で生育される作物は植木又は樹木等である。本実施形態では、特に断りが無い限り、作業車両10は圃場(対象領域F1)の耕耘作業に用いられ、対象領域F1が稲の生育用の水田である場合を例に挙げて説明する。また、対象領域F1は圃場に限らず、例えば作業車両10が建設機械であれば、建設機械が作業を行う現場が対象領域F1となる。
【0023】
また、作業車両10は、対象領域F1(ここでは圃場)だけでなく、例えば、対象領域F1外の圃場外経路等の道路においても自動走行により移動可能である。作業車両10は、測位装置15(
図2参照)により測位される作業車両10の現在位置の位置情報に基づいて、対象領域F1内及び対象領域F1外に予め設定された目標経路(圃場外経路を含む)に沿って自動走行(移動)可能に構成されている。圃場外経路は、例えば、複数の対象領域F1(圃場)間を接続する圃場間接続路である。圃場間接続路は、農道、林道、公道、私道又は自動車道等であって、作業車両10専用の道路であってもよいし、一般車両(乗用車等)が通行可能な道路であってもよい。
【0024】
また、本開示でいう「自動走行」には、オペレータの操作によらずに作業車両10が自律的に走行する「自律走行」と、例えば直進アシストのように操舵のみが自動化される「半自動走行」と、が含まれる。
【0025】
「自律走行」は、例えば、目標経路に沿って作業車両10が走行するように、操舵輪111の自動操舵に加えて、車速等の制御も自動的に行われる走行態様である。「直進アシスト」は、例えば、基準となる直線(基準線)に平行な直線経路に沿って作業車両10が走行するように、操舵輪111の自動操舵のみが行われ、車速等はオペレータの操作によって制御される走行態様である。つまり、「半自動走行」は、オペレータの操作なしでは作業車両10は走行できないものの、オペレータにとっては操舵にかかる負担が軽減され、かつ直線経路等の目標経路に沿って走行できるため作業効率の向上につながる。そして、自律走行と半自動走行とのいずれにおいても、操舵輪111は自動操舵されるので、「自動操舵モード」の一態様であると言える。
【0026】
自動操舵モードにおいては、操舵輪111はモータ421(
図4参照)によって自動操舵される。つまり、オペレータがステアリングハンドル41(
図1参照)を操作する代わりに、モータ421の出力によって操舵輪111の向きを変更することによって自動操舵が実現される。要するに、本実施形態に係る作業車両10は、モータ421を用いて操舵輪を自動操舵する自動操舵モードを有している。
【0027】
[2]作業車両の構成
次に、本実施形態に係る作業車両10の構成について
図1~
図3を参照して詳しく説明する。
【0028】
本実施形態では、説明の便宜上、作業車両10が使用可能な状態での鉛直方向を上下方向D1(
図1参照)と定義する。作業車両10の機体11(の運転部113)に乗っている人(オペレータ)から見た方向を基準として、前後方向D2及び左右方向D3(
図3参照)を定義する。左右方向D3の左側は、機体11を前方に走行(前進)させる場合の左側を指し、左右方向D3の右側は、機体11を前方に走行(前進)させる場合の右側を指す。ただし、これらの方向は、作業車両10の使用方向(使用時の方向)を限定する趣旨ではない。
【0029】
作業車両10は、
図2に示すように、機体11及び作業機12に加えて、制御装置2、走行装置13、操舵装置14、測位装置15、検出装置16、通信装置17、動力源18及び操作装置19等を備えている。制御装置2、走行装置13、操舵装置14、測位装置15、検出装置16、通信装置17、動力源18及び操作装置19は、いずれも機体11に搭載されている。
【0030】
機体11は、人(オペレータ)が搭乗可能な運転部113(
図1参照)を有している。運転部113には、操舵装置14に含まれるステアリングハンドル41(
図3参照)、変速レバー及び操作装置19等が配置されている。ステアリングハンドル41、変速レバー及び操作装置19等は、オペレータによって操作される操作部である。したがって、作業車両10は、自動走行だけでなく、オペレータの手動操作による手動走行も可能に構成されている。また、上述したように、機体11の後方側には作業機12が取り外し可能に連結されている。作業機12とは別の装置を機体11に連結することも可能である。
【0031】
本実施形態では、作業機12は、直装式のロータリ耕耘機であるので、機体11の前進時に、対象領域F1としての圃場に対して耕耘作業を実施可能である。作業機12は、機体11に対する上下方向D1の相対位置(相対高さ)が可変である。これにより、対象領域F1の地表面である圃場面を基準とするときの作業機12の高さが可変となり、例えば、作業機12を対象領域F1の地表面から離れる高さまで上げることによって、作業車両10は、作業機12による作業を行わない非作業状態での走行も可能である。
【0032】
走行装置13は、
図1に示すように、(左右一対の)後輪からなる駆動輪112を駆動することによって、作業車両10を走行させる装置である。走行装置13は、変速装置を含み、動力源18で発生する動力を、変速装置を介して駆動輪112に伝達することによって、機体11を前進又は後進させる。さらに、走行装置13は、ブレーキ装置を含み、機体11を減速又は停止させることも可能である。本実施形態では、駆動輪112は通常の車輪であるが、これに限らず、例えば、駆動輪112にはクローラ(履帯)を採用したハーフクローラ式の機体11であってもよい。
【0033】
操舵装置14は、
図1に示すように、(左右一対の)前輪からなる操舵輪111を操舵する装置である。操舵装置14は、ステアリングハンドル41を含み、ステアリングハンドル41に対するオペレータの操作に応じて操舵輪111を操舵する。一対の操舵輪111は、
図3に示すように、平面視において、前後方向D2を向いた姿勢、つまり回転軸が左右方向D3に沿った姿勢を基準姿勢とし、操舵装置14により、基準姿勢から左方又は右方に傾くように操舵される。つまり、操舵装置14は、一対の操舵輪111の向きを変更することで、操舵輪111の操舵を行う。
【0034】
図3は、ステアリングハンドル41の操作に応じた操舵輪111の動作を模式的に表している。すなわち、
図3に示すように、一対の操舵輪111が基準姿勢にある状態からステアリングハンドル41が時計回りに操作されると、操舵装置14は一対の操舵輪111(の前端)を右方へ傾けるように操舵し、機体11の前進時においては機体11を右旋回させる。一方、一対の操舵輪111が基準姿勢にある状態からステアリングハンドル41が反時計回りに操作されると、操舵装置14は一対の操舵輪111(の前端)を左方へ傾けるように操舵し、機体11の前進時においては機体11を左旋回させる。本実施形態では、手動操舵時にオペレータが操作するのはステアリングハンドル41であるが、これに限らず、例えば、操作レバー等をオペレータが操作することで手動操舵を行ってもよい。
【0035】
このような走行装置13及び操舵装置14により、機体11は、対象領域F1内を前後方向D2及び左右方向D3に移動するよう走行可能となる。例えば、走行装置13により駆動輪112が駆動されて機体11が前進している状態で、操舵装置14により操舵輪111の角度が変更されると、機体11が左右方向D3に旋回して機体11の進行方向が変更される。
【0036】
測位装置15は、機体11の現在位置(緯度、経度及び高度等)を求める。具体的に、測位装置15は、例えば、運転部113のルーフ上に配置されており、GNSS(Global Navigation Satellite System)等の衛星測位システムを用いて機体11の現在位置(緯度及び経度)を算出する。つまり、測位装置15は、複数の衛星202(
図1参照)からの測位信号を受信する測位用アンテナを有し、測位信号に基づいて現在位置を算出する。さらに、測位装置15は、慣性センサを含み、機体11の現在方位等の姿勢も検出可能である。
【0037】
また、測位装置15は、作業車両10に近い基地局201(基準局)に対応する補正情報を利用して、作業車両10の現在位置を算出する、RTK(Real Time Kinematic)測位のように、比較的高精度な測位方式を採用する。機体11の現在位置は、測位位置(測位用アンテナの位置)と同一位置であってもよいし、平面視における機体11の中心位置等のように測位位置からずれた位置であってもよい。測位装置15として、例えば、携帯電話端末、スマートフォン又はタブレット端末等が代用されてもよい。
【0038】
検出装置16は、検出エリアの障害物を検出する。検出装置16は、障害物センサと、検出処理部と、を含んでいる。障害物センサは、カメラ(イメージセンサ)、ソナーセンサ、人感センサ、レーダ又はLiDAR(Light Detection and Ranging)等の種々のセンサを含み得る。障害物センサは、光又は音が測距点に到達して戻るまでの往復時間に基づいて測距点までの距離を測定するTOF(Time Of Flight)方式により、物体(障害物)までの距離を測定する3次元センサであってもよい。検出処理部は、障害物センサから取得する測定情報に基づいて障害物を検出する。ここで、検出処理部は、障害物の存否のみを検出してもよいし、障害物の位置、形状、数又は属性(種別等を含む)等を検出してもよい。
【0039】
検出装置16の検出結果は、制御装置2に出力されている。制御装置2は、少なくとも作業車両10の自動走行中に検出装置16が障害物を検出した場合、警報(音及び/又は光による報知を含む)の出力、並びに走行装置13及び操舵装置14を制御することによる障害物の回避処理(迂回、減速又は停止等を含む)等を実行する。さらに、制御装置2は、障害物の位置情報、及び回避処理の実行履歴等を端末装置3に出力して端末装置3に表示等させてもよい。
【0040】
通信装置17は、作業車両10(制御装置2及び測位装置15等)を、有線又は無線で外部機器に接続し、外部機器との間で所定の通信プロトコルに従ったデータ通信を実行するための通信インタフェースである。本実施形態では、通信装置17は、少なくとも外部機器である端末装置3との間で、相互に通信可能である。通信装置17として、例えば、携帯電話端末、スマートフォン又はタブレット端末等が代用されてもよい。
【0041】
動力源18は、少なくとも走行装置13に動力を供給する駆動源である。動力源18は、例えばディーゼルエンジン等のエンジンを有する。さらに、動力源18は、油圧ポンプを駆動し、操舵装置14のパワーステアリング機構43(
図4参照)の油圧シリンダ等に油圧ポンプから作動油を供給させる。つまり、動力源18は、パワーステアリング機構43にも動力を供給可能に構成されている。
【0042】
操作装置19は、オペレータの操作を受け付ける装置である。操作装置19は、例えば、操舵輪111を自動操舵する自動操舵モードと、操舵輪111を手動操舵する手動操舵モードと、の切替操作を受け付け可能である。操作装置19は、受け付けた操作に応じた信号を制御装置2に出力する。
【0043】
制御装置2は、CPU(Central Processing Unit)等の1以上のプロセッサと、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の1以上のメモリとを有するコンピュータシステムを主構成とし、種々の処理(情報処理)を実行する。本実施形態では、制御装置2は1以上のプロセッサを有するコンピュータシステムを主構成とするので、1以上のプロセッサが作業車両用制御プログラムを実行することにより、制御装置2が実現される。本実施形態では、制御装置2は、作業車両10全体の制御を行う統合コントローラであって、例えば、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)からなる。ただし、制御装置2は、統合コントローラと別に設けられていてもよい。
【0044】
制御装置2は、機体11の各部に設けられたデバイスと通信可能に構成されている。つまり、制御装置2には、作業機12、走行装置13、操舵装置14、測位装置15、検出装置16、通信装置17、動力源18及び操作装置19等が電気的に接続されている。これにより、制御装置2は、作業機12、走行装置13及び操舵装置14等を制御したり、測位装置15、検出装置16及び操作装置19等の出力を取得したりすることが可能である。ここで、制御装置2は、各種の情報(データ)の授受を、各デバイスと直接的に行ってもよいし、中継器等を介して間接的に行ってもよい。
【0045】
本実施形態では、制御装置2は、
図2に示すように、走行制御部21と、操舵制御部22と、作業制御部23と、記憶部24と、を備えている。
【0046】
走行制御部21は、走行装置13及び動力源18を制御する。走行制御部21は、少なくとも自律走行に際して、オペレータに代えて、車速及びエンジン回転数等を目標値に近づけるように走行装置13及び動力源18を制御する。また、走行制御部21は、走行装置13のブレーキ装置を制御して、機体11を減速又は停止させることも可能である。
【0047】
操舵制御部22は、操舵装置14を制御する。操舵制御部22は、動作モードとして自動操舵モードと手動操舵モードとを有し、自動操舵モードと手動操舵モードとを切り替え可能に構成されている。手動操舵モードは、オペレータがステアリングハンドル41を操作することで操舵を行うモードである。操舵制御部22は、少なくとも自律走行又は半自動走行に際して、自動操舵モードで動作し、オペレータに代えて、操舵輪111の操舵角を目標操舵角に近づけるように操舵装置14を制御する。
【0048】
特に、自律走行に際しては、操舵制御部22は走行制御部21と共に、機体11が目標経路に沿って走行するように、機体11の現在位置に基づいて、作業車両10の制御を実行する。作業車両10を自律走行させるための目標経路は、例えば、端末装置3において生成される。すなわち、作業車両10は、端末装置3から目標経路に対応する経路データを取得し、目標経路に従って自律走行を行う。操舵制御部22についてより詳しくは、「[4]操舵装置関連の構成」の欄で説明する。
【0049】
作業制御部23は、作業機12を制御する。走行制御部21は、少なくとも自律走行に際して、目標経路上での機体11の現在位置に基づいて、作業機12の制御を実行する。具体的に、目標経路のうち、作業機12による作業を実施する作業経路を作業車両10が走行中であれば、作業制御部23は作業機12を作業位置にセットし、作業機12による作業を実施する。一方、目標経路のうち、作業機12による作業を実施しない非作業経路を作業車両10が走行中であれば、作業制御部23は作業機12を上昇させて非作業位置とし、作業機12による作業を中止する。
【0050】
記憶部24は、作業車両用制御プログラム、及び目標経路に関する目標経路情報等の種々のデータを記憶する不揮発性メモリ等である。つまり、走行制御部21及び操舵制御部22は、例えば、記憶部24に記憶されている目標経路情報に基づいて、目標経路に沿った自律走行を実行させること等が可能である。
【0051】
また、作業車両10は、上述した構成に加えて、バッテリ、燃料タンク、表示装置及び各種センサ等を更に備えている。バッテリは、例えば、制御装置2等、作業車両10の各部に動作用の電力を供給する。特に制御装置2、操舵装置14、測位装置15、検出装置16及び通信装置17等の電子機器は、バッテリからの電力供給により動作することで、動力源18の停止中も動作可能である。表示装置は、各種の情報を表示する液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイのような、ユーザ(オペレータ)に情報を提示するためのユーザインタフェースである。
【0052】
[3]端末装置の構成
次に、本実施形態に係る端末装置3の構成について
図1及び
図2を参照して詳しく説明する。
【0053】
本実施形態では、端末装置3は、上述したように作業車両10と通信可能であって、作業車両10の制御装置2と共に制御システム1を構成する。つまり、制御システム1の構成要素は、少なくとも作業車両10と端末装置3とに分散して設けられている。ただし、この構成に限らず、例えば、端末装置3の機能が制御装置2に設けられていてもよく、この場合には、制御システム1の構成要素は、制御装置2のみで実現されることになる。
【0054】
本実施形態では一例として、端末装置3は、タブレット端末、スマートフォン又はラップトップコンピュータ等の汎用端末で構成されている。端末装置3は、
図1に示すように、機体11の運転部113に配置される。汎用端末からなる端末装置3には、専用のアプリケーションソフト(プログラム)がインストールされており、このアプリケーションソフトを起動することにより、端末装置3は、制御システム1の端末装置3として機能する。
【0055】
端末装置3は、表示部31と、操作部32と、を備えている。表示部31は、例えば、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイ等を含む。操作部32は、例えば、タッチパネル、物理スイッチ、マウス又はキーボード等を含む。本実施形態では一例として、液晶ディスプレイからなる表示部31とタッチパネルからなる操作部32とが一体化されて、タッチパネルディスプレイを構成する。そのため、表示部31に表示画面が表示されている状態で操作部32が操作されることにより、端末装置3は、表示画面においてユーザ操作を受け付けることが可能となる。
【0056】
端末装置3は、作業車両10の動作に係る各種設定の入力と、作業車両10の制御に係る制御信号を出力するために用いられる。具体的に、端末装置3は、作業車両10の自動走行のための目標経路等、作業車両10の制御に関する種々の情報を設定(登録)する機能を有している。つまり、オペレータは、表示部31に表示される表示画面において操作部32を操作することで、目標経路等を設定可能である。ここで設定される目標経路等の情報は、作業車両10に対して、直接的に又は間接的に送信され、作業車両10の自動走行に使用される。さらに、端末装置3は、オペレータの操作に応じて、少なくとも作業車両10の自動走行を停止させるための制御信号を作業車両10に出力(送信)することで、作業車両10の操作が可能に構成されている。
【0057】
また、端末装置3は、作業車両10の自動走行中において、作業車両10の現在位置、現在方位及び(散布)作業状況等の、作業車両10の動作に係る種々の情報を表示部31に表示可能である。一例として、端末装置3は、対象領域F1を模したマップ上に、目標経路と共に、作業車両10の現在位置等を表示する監視画面を表示部31に表示することで、オペレータにおいては、視覚的に作業車両10の状況を把握しやすくなる。
【0058】
[4]操舵装置関連の構成
次に、操舵装置14に関連する構成について、
図3及び
図4を参照して詳しく説明する。
図4は、操舵装置14に関連する構成(操舵装置14、操舵制御部22及び記憶部24)によって、操舵輪111が操舵されることを模式的に表している。
【0059】
操舵装置14は、上述したように、左右一対の前輪からなる操舵輪111を操舵する装置であって、少なくともステアリングハンドル41に対するオペレータの操作に応じて操舵輪111の向き、つまり操舵角θ1を変化させる。操舵角θ1は、
図3に示すように、基準姿勢に対する操舵輪111の傾き角度である。つまり、操舵輪111が前後方向D2を沿った基準姿勢にある場合(
図3の中央に示す状態)、操舵角θ1は0度となる。
【0060】
この状態で、ステアリングハンドル41が操作されると、操舵装置14は、ステアリングハンドル41の操作方向に、ステアリングハンドル41の操作量に応じた操舵角θ1だけ操舵輪111を傾ける。要するに、手動操舵モードにおいては、ステアリングハンドル41の操作に従って操舵角θ1が変化することになる。本実施形態では一例として、基準姿勢から操舵輪111が右方に傾くとき(
図3の右側に示す状態)の操舵角θ1を「正」とし、基準姿勢から操舵輪111が左方に傾くとき(
図3の左側に示す状態)の操舵角θ1を「負」とする。さらに、本実施形態では一例として、一対の操舵輪111である左前輪及び右前輪の操舵角θ1は同一であることとする仮定する。
【0061】
本実施形態では、操舵装置14は、
図4に示すように、ステアリングハンドル41に加えて、ステアリング操作ユニット42、パワーステアリング機構43、舵角センサ44及びストッパ機構45を更に有している。
【0062】
パワーステアリング機構43は、少なくとも手動操舵モードにおいて、ステアリングハンドル41の操作に連動して一対の操舵輪111を操舵させる機構である。つまり、オペレータがステアリングハンドル41を操作すると、この操作力をパワーステアリング機構43が増幅することによって、一対の操舵輪111を実際に操舵する。本実施形態では一例として、パワーステアリング機構43は油圧式であって、油圧シリンダ等の油圧アクチュエータによって一対の操舵輪111を駆動する。そのため、パワーステアリング機構43による操作力の増幅率は、動力源18のエンジン回転数に応じて変化する。よって、例えば、エンジン回転数が低下すると、パワーステアリング機構43による操作力の増幅率も低下し、ステアリングハンドル41の操作に必要な力は大きくなって、ステアリングハンドル41(の操作感)が重くなる。
【0063】
ステアリング操作ユニット42は、自動操舵モードにおいて、ステアリングハンドル41の操作に代えて、一対の操舵輪111を操舵するための装置である。ステアリング操作ユニット42は、モータ421及びモータドライバ422を含む。
【0064】
モータ421は、モータドライバ422からの駆動信号(電気信号)を受けて駆動される電動機である。モータ421の出力は、パワーステアリング機構43に与えられる。そのため、ステアリング操作ユニット42は、ステアリングハンドル41の操作に代えて、モータ421によってパワーステアリング機構43を作動させ、一対の操舵輪111を操舵することが可能である。
【0065】
モータドライバ422は、モータ421に駆動信号を出力することでモータ421を駆動する。モータドライバ422は、操舵制御部22(の自動操舵処理部53)から指令値を受けて、当該指令値に従ってモータ421を駆動する。ここで「指令値」としては、例えば、モータ421の回転数(回転速度)に関する速度指令値、モータ421の駆動電流に関する電流指令値、モータ421のトルクに関するトルク指令値、及びモータ421の回転位置に関する位置指令値等がある。モータドライバ422は、例えば、速度指令値を受けて、モータ421の回転数(回転速度)を速度指令値に近づけるようにモータ421を速度制御する。
【0066】
ここで、モータドライバ422は、モータ421を双方向に回転させることが可能であって、かつモータ421を任意の回転数(回転速度)で駆動することが可能である。本実施形態では一例として、モータ421が正回転することで操舵輪111の操舵角θ1は正の向き(つまり右方)に変化し、モータ421が逆回転することで操舵輪111の操舵角θ1は負の向き(つまり左方)に変化する。したがって、ステアリング操作ユニット42は、オペレータによるステアリングハンドル41の操作と同様に、パワーステアリング機構43を介して一対の操舵輪111を任意の操舵角θ1に操舵することが可能である。
【0067】
舵角センサ44は、一対の操舵輪111の現在の操舵角θ1を検出するセンサである。舵角センサ44は、例えば、ポテンショメータ等を用いて構成され、操舵角θ1に応じた舵角信号を、制御装置2の操舵制御部22に、定期的又は不定期に出力する。本実施形態では、上述のように、一対の操舵輪111である左前輪及び右前輪の操舵角θ1は同一であるので、舵角センサ44は、一対の操舵輪111のうちのいずれか一方の操舵角θ1を検出する。
【0068】
ストッパ機構45は、一対の操舵輪111の可動範囲を制限する機構である。つまり、一対の操舵輪111の操舵角θ1は無限に変化させることはできず、一対の操舵輪111は最大切れ角までしか操舵することしかできない。本開示でいう「最大切れ角」は、前後方向D2に対してどれぐらい操舵輪111の角度をつけられるかを意味する。(一対の)操舵輪111が基準姿勢から最大切れ角まで切られる(傾けられる)と、物理的にそれ以上は切る(傾ける)ことができないのであって、最大切れ角は、操舵角θ1の物理的な上限値である。本開示では、操舵輪111が最大切れ角まで操舵された状態を「末切り状態」という。
【0069】
操舵輪111は、基準姿勢から操舵角θ1の正の向き(つまり右方)と、基準姿勢から操舵角θ1の負の向き(つまり左方)との両方に操舵可能であるため、最大切れ角についても、正と負とのそれぞれがある。よって、一対の操舵輪111の操舵角θ1は、左の末切り状態にある左方の最大切れ角(負の操舵角θ1)から、右の末切り状態にある右方の最大切れ角(正の操舵角θ1)までの範囲内で変化し得る。
【0070】
一例として、ストッパ機構45は、操舵輪111の軸付近に装着された調整用ボルトを有し、調整用ボルトの長さによって最大切れ角を調整可能である。このストッパ機構45によれば、人が調整用ボルトを回して調整用ボルトの長さを調整することにより、所望の最大切れ角に調整することができる。ここで、ストッパ機構45は、左方の最大切れ角を調整する調整用ボルトと、右方の最大切れ角を調整する調整用ボルトとを有し、これらの調整用ボルトを個別に調整可能である。そのため、最大切れ角は、左方と右方とで個別に規定可能である。
【0071】
このように、本実施形態では、最大切れ角は、操舵輪111の可動範囲を制限するストッパ機構45により規定される。そのため、操舵輪111が可動範囲を超えて操舵されることを、ストッパ機構45によって物理的に制限でき、操舵装置14にかかる負荷を小さく抑えることができる。特に、本実施形態のように、人がストッパ機構45を操作して最大切れ角を調整可能であることで、作業車両10の用途、対象領域F1等に応じて所望の最大切れ角を設定することができる。
【0072】
また、操舵装置14を制御する操舵制御部22は、本実施形態では、
図4に示すように、取得処理部51と、モード切替処理部52と、自動操舵処理部53と、オーバライド判定処理部54と、条件変更処理部55と、切れ角判定処理部56と、最大角設定処理部57と、を有している。
【0073】
取得処理部51は、各デバイスから電気信号(データを含む)を取得する取得処理を実行する。本実施形態では、取得処理部51は、少なくとも舵角センサ44からの舵角信号を取得する。さらに、取得処理部51は、ステアリング操作ユニット42から、例えば、トルク、回転数(回転速度)及び電流等の、モータ421の駆動状態に係る情報を取得する。
【0074】
モード切替処理部52は、(作業車両10の)動作モードを手動操舵モードと自動操舵モードとで切り替えるモード切替処理を実行する。モード切替処理部52は、基本的に、自動走行(自律走行及び半自動走行を含む)の開始時に、動作モードを手動操舵モードから自動操舵モードに切り替え、自動走行の終了時に、動作モードを自動操舵モードから手動操舵モードに切り替える。
【0075】
さらに、モード切替処理部52は、後述するオーバライド状態であると判定されると、作業車両10の動作モードを自動操舵モードからオペレータが手動で操舵する手動操舵モードに切り替える。オーバライド状態は、自動操舵モードで動作中に、例えば、ステアリングハンドル41が操作されることにより、パワーステアリング機構43に対してステアリング操作ユニット42とステアリングハンドル41との両方から入力が与えられる状態である。このようなオーバライド状態になると、たとえ自動走行が継続中であっても、モード切替処理部52は、自動操舵モードから手動操舵モードに強制的に切り替える。したがって、オペレータにおいては、自動操舵モードで動作中にステアリングハンドル41を操作するだけで、自動操舵モードを強制的に終了させることができ、操作性が向上する。
【0076】
自動操舵処理部53は、自動操舵モードにおいて、モータ421を制御する自動操舵処理を実行する。自動操舵処理部53は、操舵輪111の操舵角θ1を目標操舵角に近づけるように操舵装置14(のモータ421)を制御する。本実施形態では一例として、自動操舵処理部53は、ステアリング操作ユニット42のモータドライバ422に、速度指令値等の指令値を出力し、当該指令値に従って、モータドライバ422にモータ421を駆動させることでモータ421を制御する。ここで、自動操舵処理部53は、自動操舵モードにおいて、目標経路に沿って作業車両10が走行するように、一対の操舵輪111を随時操舵し、操舵角θ1を随時調節する。
【0077】
オーバライド判定処理部54は、自動操舵モードにおいて、オーバライド状態であるか否かを判定するオーバライド判定処理を実行する。ここで、オーバライド判定処理部54は、モータ421に生じるトルクに関する判定条件に基づいて、オーバライド状態であるか否かを判定する。一例として、モータ421で閾値を超えるトルクを一定時間生じている場合には、オペレータによりステアリングハンドル41が操作されていることが推測されるので、このような場合に、オーバライド判定処理部54は、判定条件を満たすと判断し、オーバライド状態であると判定する。
【0078】
条件変更処理部55は、判定条件を変更する条件変更処理を実行する。ここでいう「判定条件」は、オーバライド判定処理部54においてオーバライド状態であるか否かの判定に用いられる条件である。つまり、本実施形態では、オーバライド状態の判定に用いられる「判定条件」は固定的ではなく、条件変更処理部55により変更可能である。
【0079】
切れ角判定処理部56は、自動操舵モードにおいて、末切り状態にあるか否かを判定する切れ角判定処理を実行する。ここで、切れ角判定処理部56は、切れ角判定条件に基づいて、操舵輪111が最大切れ角まで操舵された末切り状態にあるか否かを判定する。一例として、操舵角θ1が所定角度(ストッパ機構45が作用し得る角度)以上で、操舵角θ1が殆ど変化せず、モータ421に所定値以上のトルクが生じ、かつトルクの向きが指令値と一致している状態が、一定時間継続している場合には、操舵輪111が最大切れ角まで操舵されていることが推測されるので、このような場合に、切れ角判定処理部56は、切れ角判定条件を満たすと判断し、末切り状態にあると判定する。「切れ角判定条件」は、オーバライド状態であるか否かの判定に用いられる「判定条件」とは別の条件であって、本実施形態では、予め固定的に規定された条件である。
【0080】
最大角設定処理部57は、自動操舵における最大操舵角を設定する最大角設定処理を実行する。ここで、最大角設定処理部57は、切れ角判定処理により末切り状態にあると判定されたときの操舵輪111の操舵角θ1に基づいて、最大操舵角を設定する。本開示でいう「最大操舵角」は、自動操舵モードにおいて、自動操舵処理部53が操舵装置14(のモータ421)を制御する自動操舵処理に際し、目標操舵角の最大値となる角度である。つまり、自動操舵に際しては、最大操舵角以下の範囲内で操舵角θ1が制御されることになる。
【0081】
最大角設定処理部57は、制御装置2の記憶部24に最大操舵角の値を記憶する(書き込む)ことをもって、最大操舵角を設定する。記憶部24は、最大角設定処理部57にて設定される最大操舵角を記憶する左最大角記憶領域241及び右最大角記憶領域242を有している。左最大角記憶領域241には、最大角設定処理部57にて設定される負の向き、つまり左方の最大操舵角が記憶される。右最大角記憶領域242には、最大角設定処理部57にて設定される正の向き、つまり右方の最大操舵角が記憶される。
【0082】
このように、本実施形態では、最大操舵角は操舵輪111の操舵方向(左方及び右方)ごとに個別に設定される。これにより、操舵方向によらずに一括りで最大操舵角が設定される場合に比べて、末切り状態にあるときの操舵角θ1に基づく適切な最大操舵角が設定される。
【0083】
[5]作業車両の制御方法
図5~
図15を参照しつつ、主として制御システム1によって実行される作業車両10の制御方法(以下、単に「制御方法」という)の一例について説明する。
【0084】
本実施形態に係る制御方法は、コンピュータシステムを主構成とする制御システム1にて実行されるので、言い換えれば、作業車両用制御プログラム(以下、単に「制御プログラム」という)にて具現化される。つまり、本実施形態に係る制御プログラムは、制御方法に係る各処理を1以上のプロセッサに実行させるためのコンピュータプログラムである。
【0085】
ここで、制御システム1は、制御プログラムを実行させるための予め設定された特定の開始操作が行われた場合に、制御方法に係る下記の各種処理を実行する。開始操作は、例えば、エンジン(動力源18)を始動するキースイッチのオン操作、及び/又は、端末装置3でのアプリケーションプログラム(作業車両用制御プログラム)の起動操作等である。一方、制御システム1は、予め設定された特定の終了操作が行われた場合に、制御方法に係る下記の各種処理を終了する。終了操作は、例えば、キースイッチのオフ操作、及び/又は、端末装置3でのアプリケーションプログラム(作業車両用制御プログラム)の終了操作等である。
【0086】
[5.1]自動走行方法
まず、本実施形態に係る制御システム1にて、作業車両10を自動走行(自律走行及び半自動走行を含む)させる方法について、
図5を参照して説明する。
図5は、平面視において対象領域F1について生成される目標経路R1及び作業車両10を模式的に表している。
図5において、作業車両10が作業を行う経路(作業経路r11)を実線で示し、作業車両10が作業を行わない経路(非作業経路r12)を点線で示す。
【0087】
図5の左側には、オペレータの操作によらずに作業車両10が自律的に走行する自律走行の例を示す。自律走行においては、制御システム1は、圃場からなる対象領域F1に対して生成される目標経路R1に沿って、作業車両10を自動的に走行させる。
図5の例では、目標経路R1は、直線状の複数の作業経路r11と、隣接する作業経路r11同士を接続する旋回経路からなる非作業経路r12と、を含む。この場合、制御システム1は、走行制御部21及び操舵制御部22にて、走行装置13、操舵装置14及び動力源18を制御し、目標経路R1に沿って作業車両10を走行させる。さらに、制御システム1は、作業制御部23にて作業機12を制御し、目標経路R1のうち作業経路r11でのみ作業機12による作業を行う。
【0088】
この例では、少なくとも旋回経路からなる非作業経路r12を作業車両10が走行する際には、非作業経路r12に沿って作業車両10を旋回走行させるべく、操舵制御部22は、操舵装置14を制御して操舵輪111の操舵角θ1を変化させる。
【0089】
図5の右側には、操舵のみが自動化される直進アシスト(半自動走行)の例を示す。直進アシストにおいては、制御システム1は、圃場からなる対象領域F1において、基準線に平行な直線経路r13からなる目標経路R1に沿って、作業車両10を走行させる。この場合、制御システム1は、操舵制御部22にて操舵装置14を制御し、直線経路r13上を維持させる。
【0090】
この例では、少なくとも作業車両10が直線経路r13から逸脱した場合には作業車両10を直線経路r13上に復帰させるべく、操舵制御部22は、操舵装置14を制御して操舵輪111の操舵角θ1を変化させる。
【0091】
[5.2]切れ角判定処理
次に、本実施形態に係る制御方法のうち、切れ角判定処理に関連する処理について、
図6及び
図7を参照して説明する。
【0092】
上述したように、切れ角判定処理部56は、自動操舵モードにおいて、切れ角判定条件に基づいて、末切り状態にあるか否かを判定する切れ角判定処理を実行する。本実施形態では、ストッパ機構45によって左方の最大切れ角と右方の最大切れ角とが個別に調整されており、切れ角判定処理では、左方の末切り状態(「左末切り状態」という)と、右方の末切り状態(「右末切り状態」という)と、をそれぞれ判定する。
【0093】
本実施形態では一例として、切れ角判定条件は、第1要件、第2要件、第3要件、第4要件及び第5要件を含み、切れ角判定処理部56は、これら第1要件~第5要件を全て満たす場合にのみ末切り状態にあると判定する。つまり、第1要件~第5要件のうちの1つでも満たさない場合には、切れ角判定処理部56は末切り状態にないと判定する。
【0094】
第1要件は、舵角センサ44で検出される操舵角θ1の絶対値が閾値角度以上であることである。具体的に、第1要件における閾値角度は、ストッパ機構45が作用し得る角度であって、一例として「25度」である。第2要件は、操舵角θ1が所定時間殆ど変化していないことである。具体的に、第2要件は、取得処理部51で取得される舵角センサ44の出力の変化量が、所定回数のサンプリングタイミング(舵角信号の取得タイミング)において、一定角度(一例として0.5度)以下であることである。
【0095】
第3要件は、モータ421に所定値以上のトルクが生じていることである。具体的に、第3要件における所定値は、一般的な自動操舵においては生じないトルク値であって、一例として「8Nm」である。第4要件は、モータ421に生じているトルクの向きが指令値と一致していることである。具体的に、第4要件は、モータ421に生じているトルクの符号(+/-)と、指令値(速度指令値等)におけるモータ421の正回転/逆回転と、が一致していることである。
【0096】
第5要件は、第1要件、第2要件、第3要件及び第4要件が、一定時間継続していることである。第5要件における一定角度は、一例として「0.1sec」である。要するに、切れ角判定処理部56は、上記第1要件~第4要件を全て満たす状態が、一定時間継続すること(第5要件)をもって、末切り状態にあると判定する。
【0097】
図6は、切れ角判定処理に関連する処理の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係る制御方法は、自動操舵モードが開始するごとに、
図6に示す処理を行う。
【0098】
すなわち、自動走行(自律走行及び半自動走行を含む)の開始時に、モード切替処理部52が、動作モードを手動操舵モードから自動操舵モードに切り替える。自動操舵モードが開始すると、自動操舵処理部53は、自動操舵処理を開始する(S1)。そして、最大角設定処理部57は、設定済み(記憶部24に記憶済み)の最大操舵角をリセットする(S2)。
【0099】
次のステップS3では、切れ角判定処理部56は、左方の最大操舵角(「左最大操舵角」という)が設定済みであるか否かを判断する。このとき、左最大角記憶領域241に左最大操舵角が記憶されていれば、切れ角判定処理部56は、左最大操舵角が設定済みと判断し(S3:Yes)、左末切り状態の判定に係る処理(S4~S6)をスキップして、処理をステップS7に移行させる。一方、左最大角記憶領域241に左最大操舵角が記憶されていなければ、切れ角判定処理部56は、左最大操舵角が設定済みでないと判断し(S3:No)、処理をステップS4に移行させる。
【0100】
ステップS4では、切れ角判定処理部56は、切れ角判定条件に基づいて、左末切り状態にあるか否かを判定する。ここで、左末切り状態の判定に際しては、切れ角判定条件のうちの例えば第1要件において、負の操舵角θ1に限定して判定される。つまり、第1要件における所定角度を「-25度」とし、操舵角θ1が「-25度」以下である場合に、第1要件を満たすこととする。このとき、切れ角判定条件を満たしていれば、切れ角判定処理部56は、左末切り状態にあると判定し(S4:Yes)、処理をステップS5に移行させる。切れ角判定条件を満たさなければ、切れ角判定処理部56は、左末切り状態にないと判定し(S4:No)、処理をステップS7に移行させる。
【0101】
ステップS5では、自動操舵処理部53が、制限期間にかけてモータ421のトルクを制限する処理を実行する。具体的に、自動操舵処理部53は、基本的には速度指令値によってモータ421を速度制御しているところ、制限期間にかけては電流指令値を「0A」とする電流制御によりモータ421を駆動させる。制限期間は、末切り状態にあると判定された直後の一定時間長さ(一例として0.006sec)の期間である。これにより、左末切り状態にあると判定された直後の一定時間においては、電流指令値を「0A」とする電流制御によってモータ421が駆動されるので、モータ421に生じるトルクが制限される。
【0102】
次のステップS6では、最大角設定処理部57が、ステップS4の時点で舵角センサ44にて検出される操舵角θ1に基づいて、左最大操舵角を設定する。つまり、最大角設定処理部57は、左末切り状態にあると判定されたときの操舵輪111の操舵角θ1に基づいて、左最大操舵角を求め、記憶部24の左最大角記憶領域241に記憶することをもって左最大操舵角を設定する。
【0103】
次のステップS7では、切れ角判定処理部56は、右方の最大操舵角(「右最大操舵角」という)が設定済みであるか否かを判断する。このとき、右最大角記憶領域242に右最大操舵角が記憶されていれば、切れ角判定処理部56は、右最大操舵角が設定済みと判断し(S7:Yes)、右末切り状態の判定に係る処理(S8~S10)をスキップして、処理をステップS11に移行させる。一方、右最大角記憶領域242に右最大操舵角が記憶されていなければ、切れ角判定処理部56は、右最大操舵角が設定済みでないと判断し(S7:No)、処理をステップS8に移行させる。
【0104】
ステップS8~S10では、ステップS4~S6で「左末切り状態」及び「左最大操舵角」について行ったのと同様の処理を、「右末切り状態」及び「右最大操舵角」について行う。すなわち、例えばステップS8では、第1要件における所定角度を「25度」とし、操舵角θ1が「25度」以上である場合に、第1要件を満たすこととする。このとき、切れ角判定条件を満たしていれば、切れ角判定処理部56は、右末切り状態にあると判定し(S8:Yes)、処理をステップS9に移行させる。切れ角判定条件を満たさなければ、切れ角判定処理部56は、右末切り状態にないと判定し(S8:No)、処理をステップS11に移行させる。
【0105】
ステップS11では、切れ角判定処理部56は、左最大操舵角及び右最大操舵角の両方が設定済みであるか否かを判断する。つまり、左最大角記憶領域241に左最大操舵角が記憶され(S3:Yes)、かつ右最大角記憶領域242に右最大操舵角が記憶されていれば(S7:Yes)、切れ角判定処理部56は、最大操舵角は設定済みと判断し(S11:Yes)、切れ角判定処理に関連する一連の処理を終了する。一方、左最大操舵角及び右最大操舵角のいずれか一方でも未設定であれば(S11:No)、切れ角判定処理部56は、処理をステップS3に戻す。
【0106】
制御システム1は、自動操舵モードが開始するごとに、上記ステップS1~S11の処理を実行する。ただし、
図6に示すフローチャートは一例に過ぎず、処理が適宜追加又は省略されてもよいし、処理の順番が適宜入れ替わってもよい。
【0107】
以上説明したように、本実施形態に係る制御方法は、自動操舵モードにおいて、切れ角判定条件に基づいて、操舵輪111が最大切れ角まで操舵された末切り状態にあるか否かを判定する切れ角判定処理を実行することを有する。したがって、例えば、末切り状態にあると判定される場合に、それ以上に操舵角θ1を大きくするような自動操舵を行わないようにすれば、操舵輪111が末切り状態を超えて自動操舵されることを抑制できる。よって、操舵輪が末切り状態を超えて自動操舵されることにより、モータ421に過大なトルクが生じて、オーバライド状態と判定されて自動操舵が解除される等の不具合が生じにくい。さらに、当該不具合を回避するためにオーバライド状態と判定するためのトルクの閾値を大きく設定する必要もないので、モータ421に過大なトルクが生じる状況が長引いてモータ421にダメージを与えたり、手動操舵に切り替えるためのステアリングハンドル41の操作に比較的大きな力が必要となったりする問題も解消できる。
【0108】
ここで、切れ角判定条件は、モータ421のトルクに関するトルク条件(第3要件及び第4要件)を含む。したがって、例えば、操舵角θ1に関する第1要件及び第2要件のみで操舵輪111が末切り状態にあるか否かを判定する場合に比べて、操舵輪111が末切り状態にあるとの誤判定が生じにくくなる。
【0109】
また、切れ角判定条件は、操舵輪111の操舵角θ1の変化率に関する変化率条件(第2要件)を含む。したがって、例えば、モータ421のトルクに関する第3要件及び第4要件のみで操舵輪111が末切り状態にあるか否かを判定する場合に比べて、操舵輪111が末切り状態にあるとの誤判定が生じにくくなる。
【0110】
また、切れ角判定条件は、操舵輪111の操舵角θ1の絶対値が閾値角度以上であること(第1要件)を含む。したがって、例えば、操舵角θ1の変化率に関する第2要件のみで操舵輪111が末切り状態にあるか否かを判定する場合に比べて、操舵輪111が末切り状態にあるとの誤判定が生じにくくなる。
【0111】
また、切れ角判定処理は、最大操舵角が設定されることをもって終了する(ステップS11)。特に、本実施形態では、最大操舵角は操舵輪111の操舵方向(左方及び右方)ごとに個別に設定されるので、両方の最大操舵角(左最大操舵角及び右最大操舵角)が設定されることで、切れ角判定条件が終了する。これにより、最大操舵角の設定後においては、切れ角判定処理が行われないので、切れ角判定処理に係る処理負荷が軽減されることになる。
【0112】
さらに、切れ角判定処理は、自動操舵モードが開始するごとに実行される。したがって、例えば、最大操舵角が設定されて切れ角判定処理が終了しても、自動操舵モードが一旦終了して、再度、自動操舵モードが開始すると、切れ角判定処理も改めて実行されることになる。そのため、自動走行の終了後に、人がストッパ機構45を調整し直すことがあっても、次の自動走行に際しては、切れ角判定処理が改めて行われる。
【0113】
また、本実施形態に係る制御方法では、ステップS5,S9のように、末切り状態にあると判定された場合に、切れ角判定処理により末切り状態にあると判定された場合、制限期間においてモータ421のトルクを制限する。すなわち、
図7に例示するように、時点t1において、切れ角判定処理により末切り状態にあると判定されると、その直後の制限期間T1に、モータ421のトルクが制限されることになる。
図7は、横軸を時間軸とし、モータ421のトルクの変化を表すグラフである。
図7において、二点鎖線は、制限期間T1を設けず末切り状態との判定後も速度制御を継続した場合の比較例を示す。
【0114】
要するに、比較例においては、末切り状態と判定された後、最大操舵角まで操舵輪111を戻すようにモータ421が制御されるところ、速度制御のため、モータ421の回転数(速度)の実測値と指令値との乖離が大きく、モータ421のトルクが低下するのに時間がかかる。そのため、末切り状態と判定された後も比較的長い時間、モータ421に大きなトルクがかかる状態が継続し、これにより誤ってオーバライド状態と判定されたり、モータ421等に負荷がかかったりする問題が生じ得る。
【0115】
これに対して、本実施形態では、自動操舵処理部53は、基本的には速度指令値によってモータ421を速度制御しているところ、時点t1の直後の時点t2から時点t3にかけての制限期間T1には、電流指令値を「0A」とする電流制御に切り替える。その結果、制限期間T1の起点となる時点t2からモータ421のトルクが急峻に低下する。したがって、モータ421のトルクがある値X1を下回るまでに要する時間を、比較例に比べて短縮可能である。結果的に、末切り状態と判定された後、モータ421に大きなトルクがかかる時間が短縮され、これにより誤ってオーバライド状態と判定されたり、モータ421等に負荷がかかったりする問題を解決し得る。
【0116】
ところで、本実施形態では、自動操舵における最大操舵角は、切れ角判定処理により末切り状態にあると判定されたときの操舵輪111の操舵角θ1からマージンを差し引いた値に設定される。つまり、左最大操舵角を設定するステップS6においては、最大角設定処理部57は、ステップS4の時点で舵角センサ44にて検出される操舵角θ1から、所定のマージンを差し引いた値を、左最大操舵角として求める。一例として、マージンは「0.5度」である。例えば、左末切り状態にあると判定されたときの操舵輪111の操舵角θ1が「-51度」であるとすれば、そこからマージンを差し引いた「-50.5度」が左最大操舵角となる。
【0117】
同様に、右最大操舵角を設定するステップS10においては、最大角設定処理部57は、ステップS8の時点で舵角センサ44にて検出される操舵角θ1から、所定のマージンを差し引いた値を、右最大操舵角として求める。例えば、右末切り状態にあると判定されたときの操舵輪111の操舵角θ1が「55度」であるとすれば、そこからマージンを差し引いた「54.5度」が右最大操舵角となる。
【0118】
このように、マージンを差し引いた値が最大操舵角として設定されることで、自動操舵によって末切り状態まで操舵輪111が操舵されることを回避できる。これにより、自動操舵モードにおいて、ストッパ機構45が作用してモータ421に過大なトルクが生じることを回避でき、ストッパ機構45によって誤ってオーバライド状態と判定されることを回避でき、かつモータ421等にかかる負荷を小さく抑えることができる。
【0119】
ただし、このようなマージンをとることは必須ではなく、例えば、切れ角判定処理により末切り状態にあると判定されたときの操舵輪111の操舵角θ1を、最大操舵角としてもよい。この場合においては、自動操舵処理により最大操舵角の付近(一例として5度以内)に操舵角θ1を制御する際、モータ421の駆動トルクを制限することが好ましい。これにより、自動操舵モードにおいて、ストッパ機構45が作用してモータ421に過大なトルクが生じることを回避でき、ストッパ機構45によって誤ってオーバライド状態と判定されることを回避でき、かつモータ421等にかかる負荷を小さく抑えることができる。
【0120】
[5.3]オーバライド判定処理
次に、本実施形態に係る制御方法のうち、オーバライド判定処理に関連する処理について、
図8~
図15を参照して説明する。
【0121】
上述したように、オーバライド判定処理部54は、自動操舵モードにおいて、判定条件に基づいて、オーバライド状態であるか否かを判定するオーバライド判定処理を実行する。ここで、判定条件としては、モータ421に生じるトルクに関する条件が設定される。
【0122】
本実施形態では、判定条件は、第1個別条件及び第2個別条件等、それぞれ異なる閾値に対するトルクの大小関係に係る複数の個別条件を含む。オーバライド判定処理部54は、これら複数の個別条件のうちの1つでも満たせばオーバライド状態であると判定する。つまり、オーバライド判定処理部54は、少なくとも1つの個別条件を満たす場合に、オーバライド状態であると判定し、複数の個別条件の全てを満たさない場合にのみ、オーバライド状態でないと判定する。
【0123】
図8に例示するように、判定条件が、モータ421のトルクが第1閾値Th1以上であることを条件とする第1個別条件と、モータ421のトルクが第2閾値Th2(>Th1)以上であることを条件とする第2個別条件と、モータ421のトルクが第3閾値Th3(>Th2)以上であることを条件とする第3個別条件と、を含む場合を想定する。ここで、第1個別条件は、トルクが第1閾値Th1以上の状態が第1時間継続することであって、第2個別条件は、トルクが第2閾値Th2以上の状態が第2時間(<第1時間)継続することである。第3個別条件は、トルクが第3閾値Th3以上の状態が第3時間(<第2時間)継続することである。
図8は、横軸を時間軸とし、モータ421のトルクの変化を表すグラフである。
【0124】
図8の例では、モータ421のトルクが第1閾値Th1以上である期間T11は、第1時間未満であるのに対し、モータ421のトルクが第2閾値Th2以上である期間T12は、第2時間以上である。つまり、第1個別条件及び第3個別条件は満たさないものの、第2個別条件を満たすため、オーバライド判定処理部54は、判定条件を満たすと判断し、オーバライド状態であると判定する。
【0125】
このように、オーバライド判定処理部54は、複数の個別条件のうちの1つでも満たせばオーバライド状態と判定することで、多様なオーバライド状態の判定が可能となる。結果的に、オーバライド状態の判定精度の向上につながる。
【0126】
さらに、判定条件は、時間に関する条件を含む。要するに、例えば、モータ421のトルクの大きさだけでなく、モータ421のトルクが閾値以上の状態が一定時間継続することを条件とするように、判定条件には時間に関する条件が含まれている。したがって、例えば、操舵輪111が段差を乗り越える際等、操舵輪111に一瞬だけ外力が加わるような状況で、モータ421のトルクが一瞬だけ増加することがあっても、誤ってオーバライド状態であると判定されにくくなる。結果的に、オーバライド状態の判定精度の向上につながる。
【0127】
ところで、本実施形態においては、上述したように、オーバライド状態の判定に用いられる「判定条件」は固定的ではなく、条件変更処理部55により変更可能である。本実施形態では、判定条件が複数の個別条件を含むので、条件変更処理部55は、これら複数の個別条件の少なくとも一つについて変更することとする。
【0128】
具体的に、判定条件は、モータ421を制御するための指令値に応じて変更される。ここでいう指令値には、速度指令値、電流指令値、トルク指令値及び位置指令値等があるところ、本実施形態では一例として、モータ421の回転数(回転速度)に関する速度指令値に応じて、判定条件が変更されることとする。
【0129】
例えば、
図9に例示するように、判定条件における閾値(ここでは第1閾値Th1)が、一定ではなく速度指令値に応じて変化する。
図9は、横軸を速度指令値、縦軸をトルクとし、(速度)指令値と閾値との関係を表すグラフである。すなわち、
図9の例では、判定条件に含まれる第1個別条件、第2個別条件及び第3個別条件のうち、第1個別条件で使用される第1閾値Th1が、モータ421の回転数(回転速度)を規定する速度指令値に比例する。つまり、(速度)指令値が大きくなるほど、トルクについての閾値(第1閾値Th1)が大きくなって、判定条件(第1個別条件)はきつくなる。さらに、
図9の例では、速度指令値の中間領域でのみ、速度指令値に比例する第4閾値Th4も設定されている。つまり、判定条件は、トルクが第4閾値Th4以上の状態が第4時間継続することを第4個別条件として含んでいる。第4閾値Th4は、速度指令値の中間領域の上下の領域では、一定値である。
【0130】
図9に示す閾値を使用した場合、
図10に例示するように、速度指令値が変化すれば第1閾値Th1も変化する。
図10は、横軸を時間軸とし、上段にモータ421のトルクの変化を示し、下段に速度指令値の変化を示すグラフである。
【0131】
図10の例では、モータ421のトルクが第1閾値Th1以上である期間T11は、第1時間以上である。つまり、第1個別条件を満たすので、オーバライド判定処理部54は、判定条件を満たすと判断し、オーバライド状態であると判定する。
【0132】
このように、判定条件が、モータ421を制御するための指令値に応じて変更されることで、例えば、速度指令値が大きくなるほど判定条件をきつくすることができる。したがって、一例として、自動操舵中に、旋回経路に沿って作業車両を90度旋回させる場合、急操舵のためにモータ421に過大なトルクが生じることがあっても、オーバライド状態と判定されにくくなる。反対に、直進アシスト時のように、操舵輪111の急操舵が生じにくい状態では、オーバライド状態と判定されやすいため、オペレータが手動操舵に切り替えるためのステアリングハンドル41の操作に必要な力が比較的小さくなり、操作性が向上する。
【0133】
ところで、本実施形態では、判定条件は、操舵輪111の操舵角θ1によっても変更される。ただし、操舵角θ1に関しては、判定条件を連続的に変更するのではなく、例えば、
図11に示すように、操舵角θ1の角度範囲を複数の小領域A1,A2,A3に区分し、小領域A1,A2,A3ごとに適用する判定条件を決定する。
【0134】
図11では一例として、操舵角θ1について、「-25度」より大きく「25度」未満の範囲を小領域A1、「-60度」以上「-25度」以上の範囲を小領域A2、「25度」以上「60度」以下の範囲を小領域A3とする。そして、小領域A1には判定条件として「第1判定条件」が割り当てられ、小領域A2,A3には判定条件として「第2判定条件」が割り当てられている。つまり、操舵輪111の現在の操舵角θ1が小領域A1にあれば(-25°<θ1<25°)、オーバライド判定処理部54は、第1判定条件を用いて、オーバライド状態か否かを判定する。一方、操舵輪111の現在の操舵角θ1が小領域A2又は小領域A3にあれば(-60°≦θ1≦-25°、又は、25°≦θ1≦60°)、オーバライド判定処理部54は、第2判定条件を用いて、オーバライド状態か否かを判定する。
【0135】
ここで、第1判定条件は、第2判定条件に比較すると、緩めの条件、つまりオーバライド状態と判定しやすい条件である。具体的に、第1判定条件は、
図11に示すように、
図10と同様の第1閾値Th1~第4閾値Th4を用いた第1個別条件~第4個別条件を含んでいる。一方、第2判定条件は、第5閾値Th5を用いた第5個別条件、及び第6閾値Th6を用いた第6個別条件を含んでいる。第5個別条件は、トルクが第5閾値Th5以上の状態が第5時間継続することであって、第6個別条件は、トルクが第6閾値Th6以上の状態が第6時間(<第5時間)継続することである。第5閾値Th5及び第6閾値Th6は、速度指令値によらずに一定である。
【0136】
そして、第1判定条件は第2判定条件に比べて相対的に、トルクについての閾値が小さい、及び/又は、判定時間が短く設定されている。つまり、第1判定条件の閾値(第1閾値Th1~第4閾値Th4)は、第2判定条件の閾値(第5閾値Th5及び第6閾値Th6)よりも小さく設定されている。あるいは、第1判定条件の判定時間(第1時間~第4時間)は、第2判定条件の閾値(第5時間及び第6時間)よりも短く設定されている。
【0137】
したがって、操舵角θ1が小領域A1にあるときには、操舵角θ1が小領域A2又は小領域A3にあるときに比べて、判定条件が緩くなり、オーバライド判定処理部54は、オーバライド状態と判定しやすくなる。
【0138】
以上説明したように、本実施形態では、操舵輪111の操舵角θ1の角度範囲を複数の小領域A1,A2,A3に区分した場合、操舵角θ1が複数の小領域A1,A2,A3のいずれにあるかによって、判定条件が変更される。したがって、操舵角θ1に応じて、適切な判定条件を適用することができ、オーバライド状態の判定制度の向上を図ることが可能である。
【0139】
本実施形態では特に、最大切れ角が含まれる小領域A2,A3について、相対的にきつめの判定条件(第2判定条件)が割り当てられるので、末切り状態によるオーバライド状態との誤判定が生じにくくなる。一方で、小領域A1については、相対的に緩めの判定条件(第1判定条件)が割り当てられるので、オペレータが手動操舵に切り替えるためのステアリングハンドル41の操作に必要な力が比較的小さくなり、操作性が向上する。
【0140】
さらに、上述したような各小領域A1,A2,A3に対する判定条件の割り当ては、固定的でなく、例えば、切れ角判定処理の判定結果に応じて変更される。本実施形態では特に、左末切り状態と右末切り状態とが個別に判定されるので、左末切り状態にあると判定された場合、及び右末切り状態にあると判定された場合のそれぞれにおいて、各小領域A1,A2,A3に対する判定条件の割り当てが変更される。
【0141】
一例として、右末切り状態にあると判定された場合、各小領域A1,A2,A3に対する判定条件の割り当ては、
図11に示す状態から
図12に示す状態へと変更される。すなわち、右末切り状態にあると判定された以降は、右最大操舵角が設定されることにより、自動操舵モードにおいて右末切り状態まで操舵されることがない。そこで、
図12に示すように、右方の最大切れ角を含む小領域A3に割り当てられる判定条件が、「第2判定条件」から、小領域A1と同じ「第1判定条件」に切り替えられる。同様に、左末切り状態にあると判定された場合、左方の最大切れ角を含む小領域A2に割り当てられる判定条件が、「第2判定条件」から、小領域A1と同じ「第1判定条件」に切り替えられる。
【0142】
このように、本実施形態では、判定条件は、切れ角判定処理の判定結果に応じて変更される。したがって、例えば、末切り状態にあると判定された以降、自動操舵モードにおいて末切り状態まで操舵されることがない場合には、最大切れ角を含む小領域A2,A3の判定条件を緩く変更することで、オーバライド状態と判定されやすくなる。そのため、オペレータが手動操舵に切り替えるためのステアリングハンドル41の操作に必要な力が比較的小さくなり、操作性が向上する。
【0143】
本実施形態に係る制御方法は、切れ角判定処理とオーバライド判定処理とを並行して実行する。そのため、基本的には、切れ角判定処理とオーバライド判定処理とは互いに干渉しておらず、末切り状態とオーバライド状態とは個別に判定されることになる。ただし、上述の通り、切れ角判定処理の判定結果だけは、オーバライド判定処理の判定条件の変更に使用される。
【0144】
また、本実施形態では、切れ角判定処理により操舵輪111が最大切れ角まで操舵されていると判定された時点から、遅延時間遅れて判定条件を変更する。すなわち、上述したような末切り状態にあると判定された結果、小領域A1,A2,A3に対する判定条件の割り当てを変更する処理は、末切り状態との判定自転から、遅延時間だけ遅れて実行される。遅延時間は、一例として「0.1sec」である。
【0145】
この構成によれば、末切り状態にあると判定されてから判定条件が変更されるまでに、遅延時間分の猶予が設けられる。したがって、例えば、モータ421に過大なトルクが生じる末切り状態から、トルクが落ちきる前に判定条件が緩和され、誤ってオーバライド状態と判定されることを回避しやすい。
【0146】
図13は、オーバライド判定処理に関連する処理の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係る制御方法は、自動操舵モードが開始するごとに、
図13に示す処理を行う。
【0147】
すなわち、自動走行(自律走行及び半自動走行を含む)の開始時に、モード切替処理部52が、動作モードを手動操舵モードから自動操舵モードに切り替える。自動操舵モードが開始すると、自動操舵処理部53は、自動操舵処理を開始する(S21)。そして、条件変更処理部55は、オーバライド判定処理に用いられる判定条件を変更する(S22)。このとき、条件変更処理部55は、モータ421を制御するための指令値(速度指令値)、操舵輪111の操舵角θ1、及び切れ角判定処理の判定結果に基づいて、判定条件を変更する。
【0148】
次のステップS23では、オーバライド判定処理部54は、オーバライド状態にあるか否かを判定する。このとき、オーバライド判定処理部54は、判定条件に含まれる複数の個別条件のうちの1つでも満たしていれば、オーバライド状態にあると判定し(S23:Yes)、処理をステップS24に移行させる。一方、いずれの個別条件も満たさなければ、オーバライド判定処理部54は、オーバライド状態にないと判定し(S23:No)、処理をステップS22に戻す。
【0149】
ステップS24では、走行制御部21が、作業車両10を減速又は停止させる。作業車両10を減速させるだけであれば、作業車両10は走行し続けることになる。次のステップS25では、モード切替処理部52が、動作モードを自動操舵モードから手動操舵モードに切り替える。これにより、自動操舵処理部53は自動操舵処理を終了し(S26)、一連の処理が終了する。
【0150】
制御システム1は、自動操舵モードが開始するごとに、上記ステップS21~S26の処理を実行する。ただし、
図13に示すフローチャートは一例に過ぎず、処理が適宜追加又は省略されてもよいし、処理の順番が適宜入れ替わってもよい。
【0151】
以上説明したように、本実施形態に係る制御方法は、自動操舵モードにおいて、モータ421に生じるトルクに関する判定条件に基づいて、オーバライド状態であるか否かを判定するオーバライド判定処理を実行することを有する。ここで、制御方法は、判定条件を変更することを更に有する。したがって、その時々で適切な判定条件を用いてオーバライド状態の判定を行うことができ、適切なオーバライド状態の判定を可能とする。これにより、一例として、自動操舵中に、旋回経路に沿って作業車両を90度旋回させる場合、急操舵のためにパワーステアリング機構のモータに過大なトルクが生じて、オーバライド状態と判定されて自動操舵が解除されるような不具合を回避しやすい。さらに、当該不具合を回避するためにオーバライド状態と判定するためのトルクの閾値を常時大きく設定する必要もないので、モータ421に過大なトルクが生じる状況が長引いてモータ421にダメージを与えたり、手動操舵に切り替えるためのステアリングハンドル41の操作に比較的大きな力が必要となったりする問題も解消できる。
【0152】
また、本実施形態に係る制御方法は、オーバライド状態であると判定されると、作業車両10の動作モードを自動操舵モードからオペレータが手動で操舵する手動操舵モードに切り替えること(S25)、を更に有する。したがって、オーバライド状態と判定されれば、操舵輪111の操舵を自動的にオペレータに引き継ぐことができ、オペレータにとっての操作性が向上する。
【0153】
また、本実施形態に係る制御方法は、オーバライド状態であると判定されると、作業車両10の走行速度の減速又は停止を行うこと(S24)、を更に有する。したがって、オーバライド状態と判定された後に、例えば、オペレータが作業車両10の周囲の状況を確認した上で、作業車両10の加速又は発信を行うことが可能となる。
【0154】
ところで、上述した判定条件の変更態様は一例に過ぎず、その他の多様な変更態様を適用し得る。例えば、
図14に示すように、操舵角θ1の角度範囲をより多くの小領域A11~A17に区分し、小領域A11~A17ごとに適用する判定条件が決定されてもよい。これにより、例えば、作業車両10の特性等に応じて、より適切な判定条件を適用することが可能である。
【0155】
また、切れ角判定処理において末切り状態にあると判定された場合、
図15に示すように、小領域A1,A2,A3に対する判定条件の割り当てだけでなく、例えば、小領域の区分から変更してもよい。
図15の例では、末切り状態にあると判定される前には、操舵角θ1の角度範囲が3つの小領域A1,A2,A3に区分されているのに対し、末切り状態にあると判定される前は、6つの小領域A21~A26に区分される。さらに、各小領域に割り当てられる判定条件を全く異なる判定条件に変更してもよい。これにより、例えば、作業車両10の特性等に応じて、より適切な判定条件を適用することが可能である。
【0156】
ここで、判定条件が、指令値(速度指令値)、操舵角θ1及び切れ角判定処理の判定結果に基づいて変更されることは必須ではなく、その他のパラメータに基づいて判定条件が変更されてもよい。例えば、本実施形態では、パワーステアリング機構43は油圧式であって、パワーステアリング機構43による操作力の増幅率は、動力源18のエンジン回転数に応じて変化する。そこで、判定条件は、エンジン回転数に応じて変更されてもよい。この場合、エンジン回転数が低くなるほど、トルクについての閾値が小さくなる等、判定条件が緩和されることが好ましい。
【0157】
判定条件は、上述したような複数のパラメータ(指令値、操舵角θ1、切れ角判定処理の判定結果、及びエンジン回転数等)のうちの少なくとも1つに基づいて変更されればよい。
【0158】
[6]変形例
以下、実施形態1の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0159】
本開示における制御システム1は、コンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしての1以上のプロセッサ及び1以上のメモリを主構成とする。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラム(作業車両用制御プログラム)をプロセッサが実行することによって、本開示における制御システム1としての機能が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。また、制御システム1に含まれる一部又は全部の機能部は電子回路で構成されていてもよい。
【0160】
また、制御システム1の少なくとも一部の機能が、1つの筐体内に集約されていることは制御システム1に必須の構成ではなく、制御システム1の構成要素は、複数の装置(例えば制御装置2及び端末装置3)に分散して設けられていてもよい。反対に、実施形態1において、複数の装置に分散されている機能が、1つの筐体内に集約されていてもよい。さらに、制御システム1の少なくとも一部の機能がクラウド(クラウドコンピューティング)等によって実現されてもよい。
【0161】
また、端末装置3は、タブレット端末、スマートフォン又はラップトップコンピュータ等の汎用端末に限らず、専用端末で構成されていてもよい。さらに、1台の作業車両10に対して複数台の端末装置3が対応付けられていてもよい、この場合、複数台の端末装置3にて1台の作業車両10を制御可能である。反対に、複数台の作業車両10に対して1台の端末装置3が対応付けられていてもよく、この場合、1台の端末装置3にて複数台の作業車両10を制御可能である。
【0162】
また、実施形態1では、操舵輪111は、左右一対の前輪であるが、これに限らない。例えば、左右一対の前輪に加えて又は代えて、左右一対の後輪が操舵輪を構成してもよい。この場合、操舵輪としての後輪についても、操舵装置14にて操舵されることになる。また、駆動輪112は、左右一対の後輪に限らず、例えば、左右一対の後輪に加えて又は代えて、左右一対の前輪が駆動輪を構成してもよい。さらに、操舵輪111は、1輪だけであってもよいし、3輪以上であってもよい。同様に、駆動輪112は、1輪だけであってもよいし、3輪以上であってもよい。同一の車輪が操舵輪111及び駆動輪112として兼用されてもよい。
【0163】
また、実施形態1では、一対の操舵輪111である左前輪及び右前輪の操舵角θ1は同一であるが、この例に限らず、左前輪と右前輪とで操舵角が異なってもよい。この場合、例えば、左前輪の操舵角と右前輪の操舵角との平均値が、一対の操舵輪111の操舵角θ1となる。
【0164】
また、パワーステアリング機構43は、油圧式に限らず、例えば、電動式であってもよい。電動式のパワーステアリング機構43においては、ステアリング操作ユニット42のモータ421が兼用され、モータ421の出力によって直接的に操舵輪111を操舵させてもよい。この場合、判定条件は、エンジン回転数によっては変更されないことが好ましい。
【0165】
また、自動操舵モードが開始するごとに最大操舵角がリセットされることは必須ではなく、一度設定された最大操舵角は、次回の自動操舵モードにおいて継続して使用されてもよい。
【0166】
(実施形態2)
本実施形態に係る作業車両10の制御方法は、オーバライド判定処理に用いる判定条件を変更するためのパラメータが、実施形態1と相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
【0167】
本実施形態では、判定条件は、作業車両10のピッチ角α1とロール角との少なくとも一方に応じて変更される。すなわち、
図16に示すように、作業車両10の機体11の中心を通り左右方向D3に延びる第1軸Ax1周りの機体11の回転(傾き)であるピッチ角α1、及び機体11の中心を通り前後方向D2に延びる第2軸Ax2周りの機体11の回転(傾き)であるロール角の少なくとも一方に応じて、判定条件が変更される。
【0168】
ここでは一例として、ピッチ角α1及びロール角のうちの、ピッチ角α1のみに応じて、判定条件が変更されることとする。具体的に、
図16に例示するように、機体11が前傾姿勢となってピッチ角α1が大きくなるほど、トルクについての閾値(第1閾値Th1)が大きくなって、判定条件(第1個別条件)はきつくなる。すなわち、前輪が操舵輪111である場合、機体11の前部に荷重が偏ると、ステアリングハンドル41の操作に必要な力は大きくなって、ステアリングハンドル41(の操作感)が重くなる。そのため、機体11の前傾姿勢においてピッチ角α1が大きくなるほど、自動操舵に際しては、操舵装置14のモータ421に生じるトルクも大きくなる。
【0169】
ピッチ角α1が大きくなるほど判定条件がきつくなるように、ピッチ角α1に応じて判定条件が変更されることで、このような荷重の偏りによりモータ421に生じるトルクが増大しても、誤ってオーバライド状態と判定されにくくなる。同様に、ロール角に応じて判定条件が変更される場合には、ロール角が大きくなるほど判定条件がきつくなるように、判定条件が変更されることが好ましい。
【0170】
また、判定条件は、作業車両10による作業状況に応じて変更されてもよい。例えば、作業車両10が作業機12による作業を行う作業状態で走行中には、作業機12による作業を行わない非作業状態での走行中に比べて、操舵輪111の操舵にかかる負荷は大きくなる。そのため、例えば、自動操舵に際して、作業車両10が非作業状態にある場合には、作業車両10が作業状態にある場合に比べて判定条件が緩くなるように、作業状態/非作業状態のいずれかによって判定条件が変更されることが好ましい。これにより、作業車両10の作業状況の変化によりモータ421に生じるトルクが増大しても、誤ってオーバライド状態と判定されにくくなる。
【0171】
実施形態2の変形例として、作業車両10のピッチ角α1とロール角と作業状況とのうちの任意の1つ以上のパラメータに基づいて、判定条件が変更されてもよい。実施形態2の構成(変形例を含む)は、実施形態1で説明した種々の構成(変形例を含む)と適宜組み合わせて採用可能である。
【0172】
〔発明の付記〕
以下、上述の実施形態から抽出される発明の概要について付記する。なお、以下の付記で説明する各構成及び各処理機能は取捨選択して任意に組み合わせることが可能である。
【0173】
<付記1>
モータを用いて操舵輪を自動操舵する自動操舵モードを有する作業車両の制御方法であって、
前記自動操舵モードにおいて、
前記モータを制御することと、
前記モータに生じるトルクに関する判定条件に基づいてオーバライド状態であるか否かを判定することと、
前記判定条件を変更することと、を有する、
作業車両の制御方法。
【0174】
<付記2>
前記判定条件は、前記モータを制御するための指令値に応じて変更される、
付記1に記載の作業車両の制御方法。
【0175】
<付記3>
前記判定条件は、前記作業車両のピッチ角とロール角との少なくとも一方に応じて変更される、
付記1又は2に記載の作業車両の制御方法。
【0176】
<付記4>
前記判定条件は、前記作業車両による作業状況に応じて変更される、
付記1~3のいずれかに記載の作業車両の制御方法。
【0177】
<付記5>
前記操舵輪の操舵角の角度範囲を複数の小領域に区分した場合、前記操舵角が前記複数の小領域のいずれにあるかによって、前記判定条件が変更される、
付記1~4のいずれかに記載の作業車両の制御方法。
【0178】
<付記6>
前記判定条件は、時間に関する条件を含む、
付記1~5のいずれかに記載の作業車両の制御方法。
【0179】
<付記7>
前記判定条件は、それぞれ異なる閾値に対する前記トルクの大小関係に係る複数の個別条件を含み、
前記複数の個別条件のうちの1つでも満たせば前記オーバライド状態であると判定する、
付記1~6のいずれかに記載の作業車両の制御方法。
【0180】
<付記8>
前記オーバライド状態であると判定されると、前記作業車両の動作モードを前記自動操舵モードからオペレータが手動で操舵する手動操舵モードに切り替えること、を更に有する、
付記1~7のいずれかに記載の作業車両の制御方法。
【0181】
<付記9>
前記オーバライド状態であると判定されると、前記作業車両の走行速度の減速又は停止を行うこと、を更に有する、
付記1~8のいずれかに記載の作業車両の制御方法。
【0182】
<付記10>
前記自動操舵モードにおいて、前記操舵輪が最大切れ角まで操舵されているか否かを判定する切れ角判定処理を実行すること、を更に有する、
付記1~9のいずれかに記載の作業車両の制御方法。
【0183】
<付記11>
前記判定条件は、前記切れ角判定処理の判定結果に応じて変更される、
付記10のいずれかに記載の作業車両の制御方法。
【0184】
<付記12>
前記切れ角判定処理により前記操舵輪が最大切れ角まで操舵されていると判定された時点から、遅延時間遅れて前記判定条件を変更する、
付記11に記載の作業車両の制御方法。
【0185】
<付記13>
付記1~12のいずれかに記載の作業車両の制御方法を、
1以上のプロセッサに実行させるための作業車両用制御プログラム。
【符号の説明】
【0186】
1 作業車両用制御システム
10 作業車両
11 機体
53 自動操舵処理部
54 オーバライド判定処理部
55 条件変更処理部
100 作業システム
111 操舵輪
421 モータ
A1~A3,A11~A17,A21~A26 小領域
α1 ピッチ角
θ1 操舵角