(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142712
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】タイヤの空気圧監視装置
(51)【国際特許分類】
B60C 23/04 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B60C23/04 160A
B60C23/04 160B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055003
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100210251
【弁理士】
【氏名又は名称】大古場 ゆう子
(72)【発明者】
【氏名】松田 拓也
(57)【要約】
【課題】減圧の進行速度が遅い場合であっても、タイヤの減圧を精度よく検出する。
【解決手段】空気圧監視装置は、空気圧取得部と、調圧判定部と、判定部とを備える。空気圧取得部は、車両に装着されるタイヤの空気圧のデータを取得する。調圧判定部は、前記タイヤの空気圧の調整が行われたか否かを判定する。判定部は、前記空気圧のデータの経時的変化に基づいて、前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定する。前記判定部は、前記調圧判定部により、前記タイヤの空気圧の調整が行われたと判定された場合に、最後に取得された前記空気圧のデータを補正し、補正後の前記空気圧のデータに基づいて前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に装着されるタイヤの空気圧のデータを取得する空気圧取得部と、
前記タイヤの空気圧の調整が行われたか否かを判定する調圧判定部と、
前記空気圧のデータの経時的変化に基づいて、前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、前記調圧判定部により、前記タイヤの空気圧の調整が行われたと判定された場合に、最後に取得された前記空気圧のデータを補正し、補正後の前記空気圧のデータに基づいて前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定する、
タイヤの空気圧監視装置。
【請求項2】
前記調圧判定部は、最後に取得された前記空気圧のデータと、それよりも過去に取得された前記空気圧のデータ、または、前記空気圧のデータが最後に取得されたタイミングにおいて、前記タイヤの空気圧の調整が行われていないと仮定した場合に推定される前記空気圧のデータとに基づいて、前記タイヤの空気圧の調整が行われたか否かを判定する、
請求項1に記載のタイヤの空気圧監視装置。
【請求項3】
前記タイヤの内部温度のデータを取得する温度取得部
をさらに備え、
前記空気圧取得部は、前記空気圧のデータを、前記タイヤの内部温度のデータに基づいて補正する、
請求項1または2に記載のタイヤの空気圧監視装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記タイヤの空気圧の減少速度に基づき、前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定する、
請求項1または2に記載のタイヤの空気圧監視装置。
【請求項5】
前記判定部が、前記タイヤがスローパンクしていると判定した場合に、スローパンクが発生していることを報知する報知部
をさらに備える、
請求項1または2に記載のタイヤの空気圧監視装置。
【請求項6】
車両に装着されるタイヤの空気圧のデータを取得することと、
前記タイヤの空気圧の調整が行われたか否かを判定することと、
前記空気圧のデータの経時的変化に基づいて、前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定することと
を1または複数のコンピュータに実行させ、
前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定することは、
前記タイヤの空気圧の調整が行われたと判定された場合に、最後に取得された前記空気圧のデータを補正することと、
補正後の前記空気圧のデータに基づいて前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定することと
を含む、
タイヤの空気圧監視プログラム。
【請求項7】
車両に装着されるタイヤの空気圧のデータを取得することと、
前記タイヤの空気圧の調整が行われたか否かを判定することと、
前記空気圧の経時的変化に基づいて、前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定することと
を含み、
前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定することは、
前記タイヤの空気圧の調整が行われたと判定された場合に、前記空気圧のデータを補正することと、
補正後の前記空気圧のデータに基づいて前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定することと
を含む、
タイヤの空気圧監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装着されるタイヤの空気圧監視装置、プログラム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両を快適に走行させるためには、タイヤの空気圧が調整されていることが重要である。空気圧が適正値を下回ると、乗り心地や燃費が悪くなるという問題が生じ得るからである。このため、従来、タイヤの減圧を自動的に検出するシステム(Tire Pressure Monitoring System;TPMS)が研究されている。タイヤが減圧しているという情報は、例えば、運転者への警報に用いることができる。
【0003】
ところで、タイヤの減圧には、通常の発生する減圧と比較して、より緩やかに進行していくものがある。これは、「スローパンク」または「スローパンクチャー」等と称される現象であり、例えばタイヤのゴム部分に小さい傷があったり、ゴム部分に異物が刺さっていたり、エアバルブが完全に閉じられていなかったりすることにより発生する。スローパンクは、減圧進行速度が比較的遅いため、従来のTPMSでは減圧としてこれを検出することが困難な場合がある。しかしながら、スローパンクを放置して走行を続けると、タイヤがバーストする可能性がある。従って、通常のタイヤの減圧とは区別してスローパンクを検出し、早期にドライバーにこれを報知することが好ましい。
【0004】
特許文献1は、タイヤの空気圧低下速度が緩やかな「スローリーク」の場合であっても正確に空気圧低下を検出することができる技術を開示する。特許文献1の技術では、一定の検出周期ごとにタイヤ空気圧データを取得し、取得された最新のタイヤ空気圧データを、1周期以上過去のタイヤ空気圧データと比較して空気圧の減少値を算出する。この減少値の大きさが、予め定められた閾値以上である場合は、タイヤの空気圧が低下していると判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の構成では、前回の空気圧の検出と、今回の空気圧の検出との間にタイヤの空気圧の調整等が行われた場合、過去のタイヤ空気圧データと今回のタイヤ空気圧データとの間に予め定められた閾値以上の差がなくなり、進行速度が緩やかな減圧を検出できないおそれがある。しかし、特許文献1ではこのことが考慮されていない。
【0007】
本発明は、減圧の進行速度が遅い場合であっても、タイヤの減圧を精度よく検出することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1観点に係るタイヤの空気圧監視装置は、空気圧取得部と、調圧判定部と、判定部とを備える。空気圧取得部は、車両に装着されるタイヤの空気圧のデータを取得する。調圧判定部は、前記タイヤの空気圧の調整が行われたか否かを判定する。判定部は、前記空気圧のデータの経時的変化に基づいて、前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定する。前記判定部は、前記調圧判定部により、前記タイヤの空気圧の調整が行われたと判定された場合に、最後に取得された前記空気圧のデータを補正し、補正後の前記空気圧のデータに基づいて前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定する。
【0009】
第2観点に係るタイヤの空気圧監視装置は、第1観点に係るタイヤの空気圧監視装置であって、前記調圧判定部は、最後に取得された前記空気圧のデータ、または、前記空気圧のデータが最後に取得されたタイミングにおいて、前記タイヤの空気圧の調整が行われていないと仮定した場合に推定される前記空気圧のデータと、それよりも過去に取得された前記空気圧のデータとに基づいて、前記タイヤの空気圧の調整が行われたか否かを判定する。
【0010】
第3観点に係るタイヤの空気圧監視装置は、第1観点または第2観点に係るタイヤの空気圧監視装置であって、前記タイヤの内部温度のデータを取得する温度取得部をさらに備える。前記空気圧取得部は、前記空気圧のデータを、前記タイヤの内部温度のデータに基づいて補正する。
【0011】
第4観点に係るタイヤの空気圧監視装置は、第1観点または第3観点のいずれかに係るタイヤの空気圧監視装置であって、前記判定部は、前記タイヤの空気圧の減少速度に基づき、前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定する。
【0012】
第5観点に係るタイヤの空気圧監視装置は、第1観点または第4観点のいずれかに係るタイヤの空気圧監視装置であって、前記判定部が、前記タイヤがスローパンクしていると判定した場合に、スローパンクが発生していることを報知する報知部をさらに備える。
【0013】
第6観点に係るタイヤの空気圧監視プログラムは、以下のことを1または複数のコンピュータに実行させる:
(1)車両に装着されるタイヤの空気圧のデータを取得すること
(2)前記タイヤの空気圧の調整が行われたか否かを判定すること
(3)前記空気圧のデータの経時的変化に基づいて、前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定すること。
(2)前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定することは、前記タイヤの空気圧の調整が行われたと判定された場合に、前記空気圧のデータを補正することと、補正後の前記空気圧のデータに基づいて前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定することとを含む。
【0014】
第7観点に係るタイヤの空気圧監視方法は、以下のことを含む。
(1)車両に装着されるタイヤの空気圧のデータを取得すること
(2)前記タイヤの空気圧の調整が行われたか否かを判定すること
(3)前記空気圧のデータの経時的変化に基づいて、前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定すること。
(2)前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定することは、前記タイヤの空気圧の調整が行われたと判定された場合に、前記空気圧のデータを補正することと、補正後の前記空気圧のデータに基づいて前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定することとを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、減圧の進行速度が遅い場合であっても、タイヤの減圧を精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る空気圧監視装置が車両に搭載された様子を示す模式図。
【
図2】空気圧監視装置の電気的構成を示すブロック図。
【
図3】スローパンク検出処理の流れを示すフローチャート。
【
図5】空気圧の調整が行われた場合の空気圧の時系列変化の例を示すグラフ。
【
図6】調圧補正前後の空気圧のグラフを比較する図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る空気圧監視装置、プログラム及び方法について説明する。
【0018】
<1.空気圧監視装置の構成>
図1は、本実施形態に係る空気圧監視装置2が車両1に搭載された様子を示す模式図である。空気圧監視装置2は、車両1に搭載される制御ユニット(車載コンピュータ)として実現され、走行中の車両1の状態をモニタリングする。車両1は、四輪車両であり、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRを備えている。車輪FL、FR、RL及びRRには、図示しないホイールを介して、空気入りのタイヤT
FL,T
FR,T
RL,及びT
RRがそれぞれ装着される。空気圧監視装置2は、これらのタイヤT
FL,T
FR,T
RL,及びT
RRのうち少なくとも1輪のスローパンクを検出する機能を備えており、スローパンクが検出されると、車両1に搭載されている警報表示器3を介してその旨の警報を行う。このような減圧検出処理の流れの詳細については、後述する。
【0019】
タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの減圧状態は、ホイールを含む各タイヤに取り付けられた圧力センサ6の検出信号に基づいて検出される。圧力センサ6は、自身が取り付けられたタイヤの内部の空気圧を検出し、これを表すセンシングデータを所定のサンプリング周期で出力する。圧力センサ6は、空気圧監視装置2に通信線5を介して接続されており、圧力センサ6から時々刻々出力されるセンシングデータは、リアルタイムに空気圧監視装置2に送信される。こうして空気圧監視装置2により取得される時系列のセンシングデータは、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの空気圧の時系列データとなる。
【0020】
圧力センサ6としては、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの内圧を検出できるものであれば、どのようなものでも用いることができる。圧力センサ6の取り付け位置も特に限定されず、タイヤの内側に取り付けられてもよいし、ホイールのエアバルブと一体的に取り付けられてもよく、タイヤの空気圧の検出が可能である限り、センサの種類に応じて、適宜、選択することができる。
【0021】
さらに、本実施形態では、ホイールを含むタイヤTFL,TFR,TRL,TRRに温度センサ7が取り付けられる。温度センサ7は、自身が取り付けられたタイヤの内部の温度を検出し、これを表すセンシングデータを所定のサンプリング周期で出力する。温度センサ7は、空気圧監視装置2に通信線5を介して接続されており、温度センサ7から時々刻々出力されるセンシングデータは、通信線5を介してリアルタイムに空気圧監視装置2に送信される。こうして空気圧監視装置2により取得される時系列のセンシングデータは、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの内部温度の時系列データとなる。後述するように、各タイヤの内部温度のデータは、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRについて検出された空気圧を温度で補正すべく利用される。
【0022】
温度センサ7としては、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの内部温度を検出できるものであれば、どのようなものでも用いることができる。温度センサ7の取り付け位置も特に限定されず、タイヤの内側に取り付けられてもよいし、圧力センサ6と一体的に取り付けられてもよく、タイヤの内部温度の検出が可能である限り、センサの種類に応じて、適宜、選択することができる。
【0023】
図2は、空気圧監視装置2の電気的構成を示すブロック図である。空気圧監視装置2は、ハードウェアとしては、車両1に搭載されている制御ユニットであり、
図2に示されるとおり、I/Oインタフェース11、CPU12、ROM13、RAM14、及び不揮発性で書き換え可能な記憶装置15を備えている。I/Oインタフェース11は、圧力センサ6、温度センサ7及び警報表示器3等の外部装置との通信を実現する通信装置である。ROM13には、車両1の各部の動作を制御するためのプログラム9が格納されている。プログラム9は、CD-ROM等の記憶媒体8からROM13へと書き込まれる。CPU12は、ROM13からプログラム9を読み出して実行することにより、仮想的に空気圧取得部20、温度取得部21、調圧判定部22、判定部23、報知部24として動作する。各部20~24の動作の詳細は、後述する。記憶装置15は、ハードディスクやフラッシュメモリ等で構成される。なお、プログラム9の格納場所は、ROM13ではなく、記憶装置15であってもよい。RAM14及び記憶装置15は、CPU12の演算に適宜使用される。
【0024】
警報表示器3は、スローパンクが起きている旨をユーザに伝えることができる限り特に限定されず、例えば、4輪FL,FR,RL,RRに対応するランプ、液晶表示素子、液晶モニター、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等、任意の態様で実現することができる。警報表示器3の取り付け位置も、適宜選択することができるが、例えば、インストルメントパネル上等、ドライバーに分かりやすい位置に設けることが好ましい。制御ユニット(空気圧監視装置2)がカーナビゲーションシステムに接続される場合には、カーナビゲーション用のモニターを警報表示器3として使用することも可能である。警報表示器3としてモニターが使用される場合、警報はモニター上に表示されるアイコンや文字情報とすることができる。
【0025】
<2.減圧検出処理>
以下、
図3を参照しつつ、タイヤT
FL,T
FR,T
RL,T
RRの少なくとも1つのスローパンクを検出するためのスローパンク検出処理について説明する。
図3に示すスローパンク検出処理は、例えば、車両1のイグニッションスイッチや電気系統のスイッチがONにされたときに開始または再開し、同スイッチがOFFにされたときに停止する。なお、以下では、簡単のため、左前輪タイヤT
FLのスローパンクが検出される様子を説明するが、残りのタイヤT
FR,T
RL,T
RRについても同様の処理が行われるものとする。
【0026】
まず、空気圧取得部20が、タイヤTFLの空気圧のデータとして、タイヤTFLに取り付けられた圧力センサ6から時々刻々送信されてくるセンシングデータを取得する(ステップS1)。ここで取得されるセンシングデータは、I/Oインタフェース11を介して受信され、RAM14または記憶装置15に保存される。
【0027】
次に、温度取得部21が、タイヤTFLの内部温度のデータとして、タイヤTFLに取り付けられた温度センサ7から時々刻々送信されてくるセンシングデータを取得する(ステップS2)。ここで取得されるセンシングデータは、I/Oインタフェース11を介して受信され、同じ時刻または概ね同じ時刻に取得されたタイヤTFLの空気圧のデータと関連付けられて、RAM14または記憶装置15に保存される。
【0028】
次に、判定部23が、ステップS1で取得された空気圧のデータを予め定められた閾値Th1と比較し、同データがタイヤTFLの減圧を示しているか否かを判定する(ステップS3)。ステップS1で取得された空気圧のデータが閾値Th1を下回っている、または閾値Th1以下であると判定される場合(YES)、タイヤTFLには、スローパンクではなく、通常のパンクや減圧等が発生していると考えられる。このため、以降の処理は行われず、ステップS1及びS2が繰り返される。これに加えてまたはこれに代えて、報知部24がタイヤの減圧や異常を報知する旨の警報を生成し、警報表示器3等を介して警報を出力してもよい。一方、空気圧のデータが閾値Th1以上である、または閾値Th1を超えていると判定される場合(NO)、次のステップS4が実行される。
【0029】
続いて、空気圧取得部20が、タイヤT
FLの空気圧のデータを、同時刻または概ね同時刻に取得されたタイヤT
FLの内部温度のデータに基づいて補正し、内部温度が基準温度であるときの空気圧のデータに換算する(ステップS4)。
図4に示すように、タイヤの空気圧のデータp[kPa]は、タイヤの内部温度t[K]に比例する。従って、内部温度tのときの空気圧のデータpは、p0=t・p/t0の演算により、基準温度t0[K]のときの空気圧のデータp0[kPa]に換算することができる。しかし、空気圧のデータを温度補正する方法はこれに限られず、他の方法を用いてもよい。
【0030】
次に、調圧判定部22が、タイヤT
FLの空気圧の調整が行われたか否かを判定する(ステップS5)。タイヤの空気圧の調整は、タイヤへの空気注入、及びタイヤからの空気排出を含む。この判定は、最後に取得され、ステップS4で温度補正された最新の空気圧のデータと、過去に取得され、温度補正された空気圧のデータとに基づいて行われる。例えば、あるタイミングの空気圧のデータが取得された後、次のタイミングの空気圧のデータが取得される前に、タイヤへの空気注入が行われたとする。この場合、時間経過とタイヤの空気圧との関係は、
図5に示すグラフのようになる。
図5から分かるように、空気圧の調整が行われると、調整前後のデータを連続したデータとして扱うことができなくなり、後述するように、空気圧データの経時的変化を評価することができない。このため、例えタイヤがスローパンクしていても、空気圧のデータに基づいてこれを検出することが困難となり、スローパンクを長期間にわたって放置する事態になりかねない。これを防止すべく、ステップS5の判定が行われる。
【0031】
具体的には、調圧判定部22は、最後に取得され、ステップS4で温度補正された最新の空気圧のデータp0と、それよりも過去に取得されたものであって、最も新しい温度補正された空気圧のデータp1との差Δp(=p0-p1)を算出し、その絶対値を予め定められた閾値Th2と比較する。Δpの絶対値が閾値Th2以上である場合、または閾値Th2を超えている場合、調圧判定部22は、タイヤの空気圧の調整が行われた(YES)と判定する。この場合、次にステップS6が実行される。一方、Δpの絶対値が閾値Th2未満である場合、または閾値Th2以下である場合、調圧判定部22は、タイヤの空気圧の調整が行われていない(NO)と判定する。この場合、次にステップS7が実行される。なお、閾値Th2は、ROM13または記憶装置15に予め保存される。
【0032】
ステップS6では、判定部23が、最後に取得され、ステップS4で温度補正された最新の空気圧のデータp0をさらに調圧補正する。より具体的には、最新の空気圧のデータp0から、ステップS5で算出された差Δpを減算して、(p0-Δp)を調圧補正後の空気圧のデータとする。従って、ステップS6で使用される「温度補正された過去の空気圧のデータp1」は、以前のステップS6で調圧補正された後のデータである場合がある。
【0033】
図6は、ステップS6で行われる調圧補正を説明するグラフである。
図6の上のグラフは、調圧補正前のタイヤの空気圧[kPa]を、経過時間[日]に対してプロットしたグラフである。
図6の上のグラフにおいて、丸で囲まれたプロット点は、空気圧調整後に取得された空気圧のデータを表している。これらのプロット点に対し、それぞれステップS6で実行された調圧補正を施すと、
図6の下のグラフのようになる。
図6の下のグラフでは、調圧補正されたプロット点が、調圧補正されていない他のプロット点が集まっている、下方のエリアにシフトしていることが分かる。
【0034】
再び
図3を参照する。続くステップS7では、判定部23が、タイヤT
FLがスローパンクしているか否かを判定する。この判定は、ステップS4またはステップS6で得られた空気圧のデータの経時的変化に基づいて行われる。より具体的には、判定部23は、経過時間と空気圧とのデータセットに基づき、空気圧の減少速度を導出し、これを予め定められた閾値Th3と比較する。空気圧の減少速度は、経過時間と空気圧とのデータセットから特定される、空気圧の回帰直線の傾きa(負の値)と言い換えることができる。閾値Th3は、傾きaと同様に負の値であり、ROM13または記憶装置15に予め保存される。
【0035】
本実施形態では、カルマンフィルタを用いた逐次計算により、上記回帰直線の最新の傾きaが導出される。逐次計算では、最新の回帰直線の傾きa、切片b及び推定値の分散を表す共分散行列(2×2行列)の4つの成分がRAM14又は記憶装置15に保存される。逐次計算のための初期値は予め設定され、ROM13又は記憶装置15に保存されている。このようにして、逐次計算により傾きaが導出される場合には、過去の多数のデータセットに基づいて精度よく傾きaを導出することができる一方、記憶しておくべきデータは最新の6変数の値のみで足りる。従って、必要となるメモリの容量が少なくて済み、さらに演算負荷も低減される。
【0036】
判定部23は、導出された傾きaと閾値Th3とを比較した結果、傾きaが閾値Th3以下である、または傾きaが閾値Th3未満である場合、タイヤTFLがスローパンクしている(YES)と判定する。この場合、次のステップS8が実行される。一方、判定部23は、傾きaが閾値Th3を超えている、または傾きaが閾値Th3以上である場合、タイヤTFLがスローパンクしていない(NO)と判定する。この場合、ステップS1~ステップS7が再度実行されるが、ステップS1~ステップS7は、1日につき1回実行されることとしてもよい。このため、上記逐次計算により算出された傾きa及び切片bは、記憶装置15に保存される。
【0037】
ステップS8では、報知部24が、タイヤTFLがスローパンクしていることをドライバーに報知する警報を生成し、警報表示器3等を介してこれを出力する。警報は、タイヤTFLのスローパンクを示す文字であってもよいし、予め定められたアイコンやグラフィックであってもよい。また、報知部24は、タイヤTFLに対応する警報表示器3のランプを点灯させる等して、スローパンクを警報してもよい。これに加えてまたは代えて、報知部24は、上記警報を音声やブザー音等の態様で生成し、車両1のスピーカー等から出力してもよい。
【0038】
<3.特徴>
上記実施形態に係る空気圧監視装置2によれば、最新の空気圧のデータの取得前にタイヤの空気圧調整が行われたか否かが判定され、空気圧調整による空気圧の増減分が最新の空気圧のデータからオフセットされる。これにより、空気圧のデータから空気圧の一時的な増減の影響がキャンセルされて、通常のアルゴリズムでは検出し難いスローパンクを精度よく検出することが可能となる。
【0039】
上記実施形態に係る空気圧監視装置2によれば、空気圧のデータに対して温度補正が行われ、温度差による影響がキャンセルされる。これにより、空気圧の経時的変化をより精度よく捉えることができ、スローパンクをより精度よく検出することが可能となる。
【0040】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0041】
(1)上記実施形態のステップS5では、最新の空気圧のデータと、その1つ前のタイミングで取得され、温度補正された空気圧のデータとに基づいて空気圧の調整が行われたか否かが判定された。しかしながら、判定に用いる過去の空気圧のデータは、過去の複数の空気圧データの平均値、加重平均値、及び移動平均値等であってもよい。また、空気圧の調整が行われたか否かの判定は、最新の空気圧のデータと、空気圧の調整が行われていないと仮定した場合に推定される空気圧のデータとに基づいて行われてもよい。空気圧の調整が行われていないと仮定した場合に推定される空気圧のデータは、例えば、空気圧のデータが最後に取得されたタイミング(実質的に同じタイミングを含む)における、ARモデルに基づく空気圧の推定値等であってもよい。
【0042】
(2)ステップS1及びS2は、いずれが先に行われてもよい。また、ステップS3の判定は、ステップS4の後、温度補正された空気圧のデータに基づいて行われてもよい。さらに、ステップS4の温度補正を省略することもできる。この場合、車両1には温度センサ7が取り付けられていなくてもよい。
【0043】
(3)上記実施形態の調圧判定部22は、最新の空気圧のデータと、過去の空気圧のデータとに基づいて空気圧の調整が行われた否かを判定した。しかしながら、調圧判定部22は、タイヤの調圧、ローテーション及び交換等を行った場合に実行される、ユーザからの初期化操作を検知した場合に、空気圧の調整が行われたと判定してもよい。また、調圧判定部22は、ホイールのエアバルブのバルブコアの開閉を検知することにより、空気圧の調整が行われた否かを判定してもよい。
【0044】
(4)空気圧監視装置2は、空気圧取得部20、温度取得部21、調圧判定部22、判定部23及び報知部24の機能を実現する1または複数のコンピュータを備えていてもよく、ステップS1~S8の少なくとも一部のステップは、それぞれ異なるコンピュータで実行されてもよい。空気圧監視装置2が備える1または複数のコンピュータは、車載コンピュータ及び車両1の外部のコンピュータのいずれであってもよく、この両者であってもよい。すなわち、空気圧監視装置2は、必ずしも車両1に搭載されていなくてもよい。車両1の外部のコンピュータとしては、例えば、圧力センサ6や温度センサ7等に付属しているコンピュータや、圧力センサ6や温度センサ7と通信可能に接続されるサーバーコンピュータ等が挙げられる。
【0045】
(5)上記実施形態では、傾きaの導出の際にカルマンフィルタを用いた逐次計算が行われた。しかしながら、傾きaの導出方法はこれに限られず、適宜変更することができる。例えば、過去の所定の日数分の経過時間と空気圧とのデータセットに最小二乗法を適用して、傾きaを導出することもできる。
【符号の説明】
【0046】
1 車両
2 空気圧監視装置
20 空気圧取得部
21 内部温度取得部
22 調圧判定部
23 判定部
【手続補正書】
【提出日】2024-05-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
第2観点に係るタイヤの空気圧監視装置は、第1観点に係るタイヤの空気圧監視装置であって、前記調圧判定部は、最後に取得された前記空気圧のデータと、それよりも過去に取得された前記空気圧のデータ、または、前記空気圧のデータが最後に取得されたタイミングにおいて、前記タイヤの空気圧の調整が行われていないと仮定した場合に推定される前記空気圧のデータとに基づいて、前記タイヤの空気圧の調整が行われたか否かを判定する。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
第6観点に係るタイヤの空気圧監視プログラムは、以下のことを1または複数のコンピュータに実行させる:
(1)車両に装着されるタイヤの空気圧のデータを取得すること
(2)前記タイヤの空気圧の調整が行われたか否かを判定すること
(3)前記空気圧のデータの経時的変化に基づいて、前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定すること。
(3)前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定することは、前記タイヤの空気圧の調整が行われたと判定された場合に、前記空気圧のデータを補正することと、補正後の前記空気圧のデータに基づいて前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定することとを含む。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
第7観点に係るタイヤの空気圧監視方法は、以下のことを含む。
(1)車両に装着されるタイヤの空気圧のデータを取得すること
(2)前記タイヤの空気圧の調整が行われたか否かを判定すること
(3)前記空気圧のデータの経時的変化に基づいて、前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定すること。
(3)前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定することは、前記タイヤの空気圧の調整が行われたと判定された場合に、前記空気圧のデータを補正することと、補正後の前記空気圧のデータに基づいて前記タイヤがスローパンクしているか否かを判定することとを含む。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
続いて、空気圧取得部20が、タイヤT
FLの空気圧のデータを、同時刻または概ね同時刻に取得されたタイヤT
FLの内部温度のデータに基づいて補正し、内部温度が基準温度であるときの空気圧のデータに換算する(ステップS4)。
図4に示すように、タイヤの空気圧のデータp[kPa]は、タイヤの内部温度t[K]に比例する。従って、内部温度tのときの空気圧のデータpは、p0=
t0・p/
tの演算により、基準温度t0[K]のときの空気圧のデータp0[kPa]に換算することができる。しかし、空気圧のデータを温度補正する方法はこれに限られず、他の方法を用いてもよい。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
ステップS6では、判定部23が、最後に取得され、ステップS4で温度補正された最新の空気圧のデータp0をさらに調圧補正する。より具体的には、最新の空気圧のデータp0から、ステップS5で算出された差Δpを減算して、(p0-Δp)を調圧補正後の空気圧のデータとする。従って、ステップS5で使用される「温度補正された過去の空気圧のデータp1」は、以前のステップS6で調圧補正された後のデータである場合がある。