(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142741
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ロボットハンド
(51)【国際特許分類】
B25J 15/08 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B25J15/08 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055045
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金原 悠帆
(72)【発明者】
【氏名】高橋 力
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707BS09
3C707CY13
3C707CY30
3C707DS01
3C707ES03
3C707ET03
3C707EU19
3C707EV12
3C707EV14
3C707MT10
(57)【要約】
【課題】対象物に応じた表面物性を有するフィンガを備えるロボットハンドを提供する。
【解決手段】ロボットハンドは、流体により変形する少なくとも1つのフィンガを備え、フィンガにより対象物に対して作業を行うロボットハンドであって、フィンガは、流体が供給される内部空間を有するフィンガ本体と、フィンガ本体の材料とは異なる材料からなり、フィンガ本体の表面において少なくとも対象物と接触しうる面に設けられたラミネート層と、を有する。
【選択図】
図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体により変形する少なくとも1つのフィンガを備え、前記フィンガにより対象物に対して作業を行うロボットハンドであって、
前記フィンガは、
前記流体が供給される内部空間を有するフィンガ本体と、
前記フィンガ本体の材料とは異なる材料からなり、前記フィンガ本体の表面において少なくとも前記対象物と接触しうる面に設けられたラミネート層と、を有する、
ロボットハンド。
【請求項2】
前記ラミネート層は、オレフィン系フィルムからなる、
請求項1に記載のロボットハンド。
【請求項3】
前記フィンガ本体の内部空間は、複数の部屋と、隣り合う前記部屋同士を連通する複数の通路と、を含む、
請求項1に記載のロボットハンド。
【請求項4】
前記複数の部屋のそれぞれに設けられ、前記内部空間内の前記流体の圧力が変化しても変形しない剛性を有するブロックを、更に備える、
請求項1に記載のロボットハンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロボットハンドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、流体圧によって形状が変化するフィンガを備えるロボットハンドが提案されている。そのようなロボットハンドは、例えば特許文献1および特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2018-512304号公報
【特許文献2】特表2020-518478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のようなロボットハンドは、用途に応じて、把持する対象物が変わる。このため、ロボットハンドは、対象物に応じた表面物性を有していることが望ましい。
【0005】
本開示の目的は、対象物に応じた表面物性を有するフィンガを備えるロボットハンドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るロボットハンドの一態様は、
流体により変形する少なくとも1つのフィンガを備え、フィンガにより対象物に対して作業を行うロボットハンドであって、
フィンガは、
流体が供給される内部空間を有するフィンガ本体と、
フィンガ本体の材料とは異なる材料からなり、フィンガ本体の表面において少なくとも対象物と接触しうる面に設けられたラミネート層と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、対象物に応じた表面物性を有するフィンガを備えるロボットハンドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態1に係るロボットハンドの模式図である。
【
図2】
図2は、対象物を把持している状態におけるロボットハンドの模式図である。
【
図7】
図7は、
図4におけるVII-VII断面矢視図である。
【
図12】
図12は、ロボットハンドの製造工程を示す図である。
【
図13】
図13は、ロボットハンドの製造工程を示す図である。
【
図14】
図14は、ロボットハンドの製造工程を示す図である。
【
図15】
図15は、ロボットハンドの製造工程を示す図である。
【
図16】
図16は、ロボットハンドの製造工程を示す図である。
【
図18】
図18は、本発明の実施形態2に係るロボットハンドのフィンガの断面図である。
【
図19】
図19は、本発明の実施形態2に係るロボットハンドの製造工程を示す図である。
【
図20】
図20は、ロボットハンドの製造工程を示す図である。
【
図21】
図21は、ロボットハンドの製造工程を示す図である。
【
図22】
図22は、ロボットハンドの製造工程を示す図である。
【
図23】
図23は、ロボットハンドの製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態に係るロボットハンドおよびその製造方法について、図面を参照しながら説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎない。本開示は、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除するものではない。
【0010】
なお、実施形態を説明するための全図において、同一要素は原則として同一の符号を付し、その説明を省略することもある。また、各図面の間において縮尺は必ずしも一致しない。
【0011】
[実施形態1]
(ロボットハンドの全体構成)
本開示の一実施形態のロボットハンド1の全体について
図1および
図2を参照して説明する。
図1は、本開示の一実施形態のロボットハンド1の模式図である。
図1には、ロボットハンド1の把持対象である対象物2が載置面3に載置されている状態が示されている。
図2は、対象物2を把持している状態におけるロボットハンド1の模式図である。
【0012】
ロボットハンド1は、基部10および少なくとも1つのフィンガ20を備えている。
図1および
図2に示されるロボットハンド1は、互いに対向するように配置された2つのフィンガ20を備えている。以降、必要に応じて、2つのフィンガ20を第1フィンガ20
1と第2フィンガ20
2に区別して説明することがある。なお、ロボットハンド1が備えるフィンガ20の数は、1でもよいし3以上でもよい。
【0013】
基部10は、ポート11を備えている。ポート11は、パイプおよびチューブ等によって構成される管路に接続されている。管路にはポンプ等の流体圧付与装置が接続されている。
【0014】
基部10には、フィンガ20が取り付けられている。フィンガ20は長尺の部材である。フィンガ20の基端は基部10に取り付けられている。フィンガ20の先端は、対象物2の近くに配置され、対象物2に接触し得る。
【0015】
基部10の内部には、ポート11およびフィンガ20と連通した空間が形成されている。また、フィンガ20の内部には、基部10の内部の空間と連通した空間が形成されている。管路の内部、基部10の内部およびフィンガ20の内部は、流体によって満たされており、流体圧付与装置が管路中の流体に圧力を付与すると、この圧力が基部10の中の流体およびフィンガ20の中の流体に伝わる。つまり、流体圧力付与装置は、フィンガ20の中の流体に圧力を付与することができる。
【0016】
なお、管路、基部10およびフィンガ20の内部を満たす流体は、例えば、空気、水、または油である。
【0017】
また、基部10は、基部10の中の流体の圧力が変化しても形状が変化しない程度の剛性を有する材料(例えば金属または樹脂)で形成されている。
【0018】
フィンガ20は、フィンガ20の中の流体の圧力がフィンガ20の外の圧力(例えば大気圧)と等しい場合、
図1に示されるように、1つの直線に沿って延在する長尺の形状となるように構成されている。また、フィンガ20は、フィンガ20の内部の流体の圧力が高くなると、
図2に示されるように曲がり、流体の圧力が低くなると元の形状に戻るように構成されている。以降、フィンガ20が1つの直線に沿った形状を取っている状態を初期状態と記載し、フィンガ20が曲がった形状を取っている状態を作動状態と記載する。
【0019】
また、フィンガ20が初期状態であるときに、フィンガ20が沿う直線をX軸とし、フィンガ20の基端から先端に向かう方向をX軸方向と定義する。また、X軸と直交する2つの軸をY軸およびZ軸と定義し、Y軸およびZ軸に平行な方向をY軸方向およびZ軸方向と定義する。X軸、Y軸およびZ軸は直交座標系を構成する。フィンガ20は、XZ平面に沿って変形する。また、フィンガ20の一部分(一面)であって、対象物2に接触しうる一部分をフィンガ20の腹(腹面)と定義し、フィンガ20の一部分(一面)であって、腹の裏に位置する一部分をフィンガ20の背(背面)と定義する。Z軸方向は、フィンガ20の腹から背に向かう方向である。
【0020】
なお、フィンガ20の腹(腹面)と背(背面)は、互いに対して明確に区別できる一対の面(例えばフィンガ20が直方体状の形状を有する場合における、平行な一対の平面)によって構成されていてもよい。また、フィンガ20の腹(腹面)と背(背面)は、互いに対して明確に区別できない1つの面(例えばフィンガ20が円柱状の形状を有する場合における円筒面)の一部分と他の一部分によって構成されていてもよい。
【0021】
第1フィンガ201と第2フィンガ202の初期状態における延在方向は互いに等しい。第1フィンガ201と第2フィンガ202の曲がる方向は互いに異なる。よって、第1フィンガ201に関する直交座標系であるX1Y1Z1座標系と、第2フィンガ202に関する直交座標系であるX2Y2Z2座標系との間には、以下の関係が成立する。すなわち、X1軸とX2軸は互いに平行であり、X1軸方向とX2軸方向は同じ方向である。また、Y1軸とY2軸は互いに平行であり、Y1軸方向とY2軸方向は互いに対して逆方向である。また、Z1軸とZ2軸は互いに平行であり、Z1軸方向とZ2軸方向は互いに対して逆方向である。
【0022】
なお、本実施形態においては、
図1に示されるように、初期状態において、第1フィンガ20
1と第2フィンガ20
2の延在方向は互いに等しいが、初期状態における第1フィンガ20
1と第2フィンガ20
2の延在方向は、互いに異なっていてもよい。例えば、第1フィンガ20
1と第2フィンガ20
2は、互いに対して逆方向に(フィンガ20の数が3以上の場合は放射状に)延在するように配置されていてもよい。この場合、第1フィンガ20
1に関する直交座標系であるX
1Y
1Z
1座標系と、第2フィンガ20
2に関する直交座標系であるX
2Y
2Z
2座標系との間には、以下の関係が成立する。すなわち、X
1軸とX
2軸は互いに平行であり、X
1軸方向とX
2軸方向は互いに対して逆方向である。また、Y
1軸とY
2軸は互いに平行であり、Y
1軸方向とY
2軸方向は互いに対して逆方向である。また、Z
1軸とZ
2軸は互いに平行であり、Z
1軸方向とZ
2軸方向は同じ方向である。
【0023】
フィンガ20は、フィンガ20の内部の流体の圧力が高くなると曲がり、流体の圧力が低くなると元の形状に戻るように構成されている。フィンガ20の内部の流体の圧力の高低に応じてフィンガ20の曲がり具合が変化するように、フィンガ20は構成されている。よって、流体圧付与装置が管路中の流体に圧力を付与すると、この圧力が基部10を介してフィンガ20の内部の流体に伝わり、フィンガ20は、例えば
図2に示されるように曲がる。したがって、ロボットハンド1は、対象物2を把持することができる。
【0024】
ロボットハンド1は、ロボットアームに取り付けられていてもよい。対象物2を把持した後、ロボットアームを作動させてロボットハンド1を移動させることによって、ロボットハンド1は、対象物2を持ち上げたり、対象物2を目的地に移動させたりすることができる。
【0025】
(フィンガの構造)
続いて、フィンガ20について詳細に説明する。フィンガ20は、シース30および複数のブロック40によって構成されている(
図10参照)。フィンガ20の外形はシース30によって構成されている。よって、まず、シース30について説明する。
【0026】
(シース)
図3は、シース30の正面図であり、
図4は、シース30の側面図である。
図5は、
図3におけるV-V断面矢視図であり、
図6は、
図4におけるVI-VI断面矢視図であり、
図7は、
図4におけるVII-VII断面矢視図である。
【0027】
シース30は、フィンガ本体の一例に該当し、柔軟性および伸縮性を有する樹脂で形成されている。シース30は、ショアA硬度が10以上90以下の材料で形成されていてもよい。シース30を形成する材料は、例えば、ウレタンゴム、シリコンゴムおよびオレフィン系熱可塑性エラストマーであってもよい。
【0028】
前述の通り、シース30はフィンガ20の外形を構成している。よって、フィンガ20の腹をシース30の一部分が構成しており、フィンガ20の背をシース30の他の一部分が構成している。換言すれば、シース30の腹がフィンガ20の腹を構成し、シース30の背がフィンガ20の背を構成している。すなわち、シース30の腹はフィンガ20の腹であり、シース30の背はフィンガ20の背である。また、シース30の基端はフィンガ20の基端であり、シース30の先端はフィンガ20の先端である。
【0029】
シース30は、
図3に示されるように、正面視する(YZ平面に正対するように見る)場合において、背を縁取る円弧と、腹を縁取る直線を組み合わせた形状(D字形状)を有している。なお、シース30は、正面視において、四角形もしくは三角形等の多角形、または、円形を有していてもよい。
【0030】
また、シース30は、側面視する(XZ平面に正対するように見る)場合によく観察されるように、つまり、
図4に示されるように、複数の凸部31と複数の凹部32とを備えている。複数の凸部31と複数の凹部32は、シース30(つまりフィンガ20)が延在する方向(つまりX軸方向)に沿って交互に並ぶように配置されている。シース30の基端(基部10に接続される部位)を構成する凸部31は近位端部33を構成する。また、シース30の先端(基部10から最も遠い部位)を構成する凸部31は遠位端部34を構成する。
【0031】
凸部31は、シース30の腹から背に向かう方向(つまりZ軸方向)に突出する形状を有している。凹部32は、シース30の背から腹に向かう方向に窪む形状を有している。
【0032】
図5に示されるように、近位端部33および遠位端部34を含む凸部31の内部には、空間である部屋35が形成されている。つまり、シース30は、複数の部屋35を備えている。各部屋35は互いに同じ形状を有している。本実施形態において、部屋35は、
図6に示されるように、正面視において、背側に位置する円弧と、腹側に位置する直線を組み合わせた形状(D字形状)を有している。また、部屋35は、
図5に示されるように、側面視において、長方形の角を丸めた形状を有している。
【0033】
また、シース30は、凹部32とZ軸方向に並び、凹部32よりもシース30の腹に近い位置に、互いに隣り合う凸部31同士を接続する連接部36を備えている。連接部36の中には、X軸方向に延在する通路37が形成されている。通路37は部屋35と別の部屋35を接続する。つまり複数の部屋35のうち互いに隣り合う部屋35同士は通路37によって互いに連通している。本実施形態において、互いに隣り合う部屋35同士は、
図6および
図7に示されるように、Y軸方向に並ぶ一対の通路37によって互いに連通している。なお、互いに隣り合う部屋35同士は、一対の通路37に代えて、1つの通路37によって互いに連通していてもよいし、3つ以上の通路37によって互いに連通していてもよい。
【0034】
近位端部33に形成された部屋35は、近位端通路38を介してシース30の外部と連通している。近位端通路38は、複数の部屋35およびそれらを連通する通路37によって構成されるシース30の内部空間の出入口である。各通路37および近位端通路38は、1つまたは複数(本実施形態においては2つ)の線(本実施形態においては直線)の上に並ぶように配置されている。
【0035】
各凹部32は、複数の部屋35のうち互いに隣り合う部屋35同士の間に挟まれて配置され、かつ、凹部32の底が通路37に近接する程度に、深く窪んでいる。シース30の背は、XZ平面に平行な平面で切断した場合、ジグザグに延在する切断面を呈する。一方、シース30の腹は、XZ平面に平行な平面で切断した場合、直線的に延在する切断面を呈する。つまり、シース30は、背側が蛇腹状になっており、腹側が平板状になっている。換言すれば、シース30の基端から先端までの、シース30の背をたどる道のりは、シース30の腹をたどる道のりよりも長い。
【0036】
又、シース30は、
図5に示すように、表面にラミネート層70を有する。ラミネート層70は、シース30の材料とは異なる材料により構成されている。
【0037】
具体的には、本実施形態の場合、ラミネート層70は、オレフィン系フィルム(例えば、旭化成工業(株)製「サンテックSフィルム」)により構成されている。ラミネート層70は、シース30の表面に隙間なく圧着されている。
【0038】
本実施形態の場合、ラミネート層70は、シース30の表面の全面に設けられている。ただし、ラミネート層70は、少なくともシース30の表面において対象物と接触しうる面に設けられていればよい。シース30の表面において対象物と接触しうる面は、フィンガ20の腹(腹面)である。シース30の表面にラミネート層70を形成する方法については、後述する。
【0039】
(ブロック)
続いて、シース30の中に配置されるブロック40について説明する。
図8は、ブロック40の正面図であり、
図9は、ブロック40の側面図である。
【0040】
ブロック40は、シース30の部屋35の中に配置される部材である。ブロック40は、シース30の中の流体の圧力が変化しても変形せず、フィンガ20に外力が加わったりフィンガ20が対象物2に把持力を加えたりしていても変形しない剛性を有する材料で形成されている。ブロック40は、シース30と接着しない材料、例えばシリコン樹脂で形成されている。
【0041】
ブロック40は、円筒面である周面41、平面である底面42、平面である遠位面43および平面である近位面44を備えている。遠位面43および近位面44は互いに平行である。また、周面41および底面42は、遠位面43および近位面44に直交する。
【0042】
ブロック40は、フィンガ20が初期状態であるときの部屋35と同じ形状を有している。すなわち、本実施形態において、ブロック40は、正面視において、背側に位置する円弧と、腹側に位置する直線を組み合わせた形状を有し、側面視において、長方形の角を丸めた形状を有している。ブロック40は、円柱から円柱の中心軸に平行な平面で円柱の一部を切り取った形状であってもよい。
【0043】
ブロック40は、貫通孔45を備えている。貫通孔45は、遠位面43および近位面44に開口している。
【0044】
本実施形態において、ブロック40は一対の貫通孔45を備えている。ブロック40が備える貫通孔45の数は、互いに隣り合う部屋35同士を接続する通路37の数に等しい。よって、互いに隣り合う部屋35同士が、1つの通路37によって互いに連通している場合、ブロック40は、1つの貫通孔45を備える。また、互いに隣り合う部屋35同士が、3つ以上の通路37によって互いに連通している場合、ブロック40は、3つ以上の貫通孔45を備える。
【0045】
貫通孔45は、ブロック40がシース30の部屋35の中に配置されたときに、正面視で通路37と重なる位置に配置されている。また、正面視における貫通孔45の形状は、正面視における通路37の形状と同じである。尚、ブロック40は省略されてもよい。つまり、シース30の内部空間は空洞であってもよい。
【0046】
(フィンガ)
続いて、フィンガ20について説明する。
図10は、フィンガ20のV-V断面矢視図である。
図10において符号21で示される部分はフィンガ20の背部であり、符号22で示される部分はフィンガ20の腹部である。
【0047】
シース30の複数の部屋35には1つずつブロック40が配置されている。ブロック40が備える貫通孔45は、通路37と繋がるように配置されている。近位端通路38、複数の通路37および複数の貫通孔45は、初期状態において、一端が閉じられた直線的に延びる長尺の穴を構成している。
【0048】
部屋35の内面は、ブロック40の外面(具体的には、周面41、底面42、遠位面43および近位面44)から容易に離間する。部屋35の内面とブロック40の外面の少なくとも一部(例えば周面41、遠位面43および近位面44)との間には薄い隙間が存在していてもよい。
【0049】
以上のように構成されたフィンガ20の中の流体に、基部10を介して圧力付与装置から圧力が付与されると、フィンガ20の中の流体の圧力が高くなる。具体的には、部屋35および通路37の中の流体の圧力が高くなる。
【0050】
すると、シース30は膨張する。このとき、シース30の各部は伸びる。シース30を構成する各部の厚さが同じ場合、各部の単位長さあたりの伸び量は等しくなる。また、シース30の基端から先端までの、シース30の背(背部21)をたどる道のりは、シース30の腹(腹部22)をたどる道のりよりも長い。よって、背部21の伸び量の合計は、腹部22の伸び量の合計よりも長くなる。
【0051】
その結果、フィンガ20は、
図11に示されるように、XZ平面に沿って、かつ、背部21が外周に位置し腹部22が内周に位置するように湾曲して変形する。尚、
図11において、ラミネート層70の図示は省略され、ラミネート層70の符号のみが付されている。
【0052】
このとき、フィンガ20は、作動状態となる。フィンガ20の中の流体の圧力を元に戻すと、つまり、低下させると、フィンガ20は
図10に示される状態(つまり、初期状態)に戻る。フィンガ20の中の流体の圧力を調整することで、背部21の伸び量と腹部22の伸び量の差を調整することができ、ひいては、フィンガ20の曲がり具合を調整することができる。すなわち、フィンガ20を所期の形状にすることができる。
【0053】
なお、シース30を構成する各部の厚さが部位によって異なる場合、各部の単位長さあたりの伸び量は部位によって異なる。具体的には、厚い部位は薄い部位よりも伸び量が小さくなる。よって、シース30を構成する各部の厚さを部位によって異なる厚さとすることにより、例えば、背部21よりも腹部22を厚くすることにより、フィンガ20の曲がり具合を調整してもよい。
【0054】
また、シース30が膨張する際、互いに隣り合う凸部31同士が接触してもよい。凸部31同士を接触させて互いに押し合う状態にすることにより、フィンガ20の曲がり具合を大きくしたり、ロボットハンド1の把持力を大きくしたり、形状維持性を向上させたりすることができる。
【0055】
(効果)
以上のように構成されたロボットハンド1は、シース30の表面にラミネート層70を有している。特に、本実施形態の場合、ラミネート層70は、少なくともシース30の表面において対象物と接触しうる面に設けられている。このようなラミネート層70を構成する材料を、ロボットハンド1が把持する対象物に応じて設定することにより、対象物に応じた表面物性を有するフィンガを備えたロボットハンドを実現できる。
【0056】
又、ラミネート層70は、シース30の表面が対象物と直接接触することを防止できる。この結果、シース30を構成する材料に由来する溶出物が対象物に付着することを抑制できる。特に、シース30の表面にラミネート層70を設ける構成は、対象物が食品である場合に、より有効である。
【0057】
ラミネート層70を構成する材料を、シース30を構成する材料に応じて設定することにより、シース30を構成する材料に由来する溶出物が対象物に付着することをより効果的に抑制できる。
【0058】
又、ラミネート層70を構成する材料は、例えば、次亜塩素酸等の薬品に対する耐薬品性に優れた材料であると好ましい。このような材料によりラミネート層70を構成すれば、フィンガ20の耐薬品性の向上を図れる。
【0059】
又、ロボットハンド1は、少なくとも1つのフィンガ20を備えている。フィンガ20は、複数の部屋35と、複数の部屋35のうち互いに隣り合う部屋35同士を連通する通路37と、複数の部屋35のうち互いに隣り合う部屋35同士の間に配置された凹部32と、を備えるシース30を備える。また、フィンガ20は、複数の部屋35の中に配置された複数のブロック40を備える。
【0060】
よって、ロボットハンド1が備えるフィンガ20は、所期の形状を取ることができる。ひいては、ロボットハンド1は、対象物2を確実に把持することができる。
【0061】
また、仮に、部屋35の中にブロック40が配置されていないと、X軸方向に平行であってフィンガ20を押し縮めるような外力がフィンガ20の先端に加わったときに、部屋35は押しつぶされるように変形しかねない。各部屋35が押しつぶされると、フィンガ20の変形量(縮み量)は大きくなる。この状態で、フィンガ20の中の流体の圧力が高まると、フィンガ20は想定外の変形をしかねない。つまり、対象物2を把持できなくなる可能性が高くなる。なお、このような状況は、例えば、容器の中に入った複数の対象物2の中から1つの対象物2を把持するために、フィンガ20を容器の中に挿入し、把持対象ではない対象物2にフィンガ20が接触したときに発生しうる。
【0062】
本実施形態の場合、部屋35の中にはブロック40が配置されている。よって、フィンガ20に外力が加わっても、部屋35は変形せず、フィンガ20に外力が加わる前の形状を維持することができる。よって、フィンガ20は全体として、フィンガ20に外力が加わる前の形状を維持することができる。したがって、ロボットハンド1が対象物2を把持する前または把持しているときに、外力によってフィンガ20が予定外の変形をすることを防止することができる。ひいては、フィンガ20を所期の形状にして、対象物2を確実に把持することができる。
【0063】
又、本実施形態において、複数のブロック40は、それぞれ、自身が収納される複数の部屋35の1つの内面形状と等しい外面形状を有している。つまり、初期状態において、部屋35の内面とブロック40の外面との間には隙間がない、または、部屋35の内面とブロック40の外面との間に存在する隙間は、微小である。よって、部屋35とブロック40との間に存在する隙間の大きさを外力が変化させることによるフィンガ20の変形は無い。よって、ロボットハンド1が対象物2を把持する前に、外力によってフィンガ20が予定外の変形をすることを確実に防止することができる。
【0064】
なお、複数のブロック40の全てが同じ形状(つまり、大きさが同じであり、かつ、相似である形状)では無くてもよい。例えば、フィンガ20の基端から先端に近づくにつれて、ブロック40が小さくなってもよい。この場合、フィンガ20の基端から先端に近づくにつれて、部屋35も小さくなってもよい。
【0065】
また、本実施形態において、複数のブロック40は、それぞれ、通路37が延在する方向に直交する一対の平面(つまり、遠位面43と近位面44)を有している。換言すれば、通路37が延在する方向と遠位面43および近位面44が直交するように、部屋35の中にブロック40は配置されている。このような配置により、1つのブロック40の遠位面43は、他のブロック40の近位面44に、凹部32および連接部36を介して平行に対向している。よって、仮に、X軸方向に平行で、フィンガ20を押し縮めるような外力がフィンガ20の先端に加わっても、フィンガ20は最小限の変形しかしない。具体的には、背部21が内周側となり腹部22が外周側となるようにわずかに湾曲した後、フィンガ20はそれ以上変形しない。つまり、1つのブロック40と他のブロック40が凹部32を介して互いに押し合うようにフィンガ20がわずかに変形すると、フィンガ20はそれ以上変形しない。よって、外力が加わった状態においても、フィンガ20を所期の形状にして、対象物2を確実に把持することができる。
【0066】
また、本実施形態において、ブロック40と同様に、凸部31も通路37が延在する方向に直交する一対の壁面を有している。よって、シース30の中の流体の圧力を高くして、シース30を膨張させることで、互いに隣接して配置された凸部31の壁面同士を容易に接触させることができる。つまり、容易に、凸部31同士を互いに押し合う状態にすることができる。よって、フィンガ20の曲がり具合を大きくしたり、ロボットハンド1の把持力を大きくしたり、形状維持性を向上させたりすることができる。
【0067】
また、本実施形態において、ブロック40は、部屋35の中に配置されており、通路37の中には入り込んでいない。そして、ブロック40同士は互いに直接接触しないように、シース30の中に配置されている。換言すれば、ブロック40が配置される部屋35が形成されている凸部31は、隣の凸部31と、通路37が形成されている連接部36を介して接続されている。よって、フィンガ20が変形するとき、ブロック40同士が接触することによって、フィンガ20の変形が妨げられることを防止することができる。したがって、フィンガ20を所期の形状にして、対象物2を確実に把持することができる。また、ブロック40同士が接触することによって騒音が発生することを防止することができる。
【0068】
また、本実施形態において、複数のブロック40は、それぞれ、通路37に繋がる貫通孔45を備えている。よって、圧力付与装置によって付与される圧力は、フィンガ20の中でスムーズに伝わる。つまり、各部屋35の中の圧力を迅速に同じ圧力にすることができる。よって、フィンガ20を所期の形状にして、対象物2を確実に把持することができる。
【0069】
なお、ブロック40は、貫通孔45を備えていなくてもよい。この場合は、部屋35の内面とブロック40の外面との間の隙間と、通路37とを介して、圧力付与装置によって付与される圧力を、フィンガ20の中で伝えることができる。ひいては、フィンガ20は曲がることができる。
【0070】
また、本実施形態において、ブロック40は、平面である底面42を備えており、部屋35の内面の一部は、この底面42に対向する平面によって構成されている。よって、ブロック40は、部屋35の中において、X軸に平行な軸(例えばフィンガ20の中心軸)回りに回転しない。つまり、複数のブロック40は、それぞれ、複数の部屋35の中で回り止めされた状態で配置されている。よって、すなわち、部屋35の中の圧力が高くなるなどして、部屋35の内面とブロック40の外面との間の隙間が大きくなっても、貫通孔45は、通路37および近位端通路38とともに1つの線上に並んでいる状態を確実に維持することができる。ひいては、フィンガ20の中の流体の圧力およびフィンガ20の曲がり具合に関わらず、各部屋35の中の圧力を迅速に同じ圧力にすることができる。
【0071】
なお、ブロック40を複数の部屋35の中で回り止めする方法が、ブロック40が平面である底面42を備え、部屋35の内面の一部がこの底面42に対向する平面によって構成されることに限られないことは言うまでもない。例えば、ブロック40はキーを備え、部屋35はこのキーが嵌まるキー溝を備えてもよい。
【0072】
また、本実施形態において、複数のブロック40は、シボが形成された外面を有していてもよい。具体的には、周面41、底面42、遠位面43および近位面44の少なくとも1つに、シボが形成されていてもよい。周面41、底面42、遠位面43および近位面44の全てに、シボが形成されていてもよい。ブロック40の外面にシボが形成されていることにより、シース30の中の流体の圧力が高くなってシース30が膨張するとき、ブロック40の外面は、部屋35の内面から速やかに離間することができる。ひいては、フィンガ20はスムーズに変形することができる。よって、フィンガ20を所期の形状にして、対象物2を確実に把持することができる。
【0073】
また、本実施形態において、シース30は、ショアA硬度が10以上90以下の材料で形成されていてもよい。この場合、シース30は、柔軟性および伸縮性を有する。したがって、シース30の中の流体の圧力の変化に追従して、シース30(つまりフィンガ20)はスムーズに変形することができる。ひいては、フィンガ20を所期の形状にして、対象物2を確実に把持することができる。
【0074】
なお、シース30は、ショアA硬度が30以上70以下の材料で形成されていてもよい。この場合、シース30は、変形および対象物2を把持するために要求される柔軟性と伸縮性をより確実に有することができる。
【0075】
また、通路37は、シース30の腹から背に向かう方向(つまりZ軸方向)に沿った部屋35の中央よりもシース30の腹に近い位置に形成されてもよい。この位置に通路37を形成することにより、凹部32を深くすることができる。ひいては、シース30の基端から先端までの、シース30の背をたどる道のりを、シース30の腹をたどる道のりよりも、より確実に長くすることができる。したがって、フィンガ20を、XZ平面に沿って、かつ、背部21が外周に位置し腹部22が内周に位置するように確実に変形させることができる。
【0076】
(製造方法)
続いて、上述の実施形態1に係るロボットハンド1の製造方法を説明する。まず、フィンガ20の製造方法を
図12から
図16を参照しながら説明する。
図12から
図16に示されるXYZ座標系は、製造されるフィンガのXYZ座標系を示している。
【0077】
図12は、フィンガ20の製造を行う際に準備される物の断面図である。
図12中の符号50は型を示している。型50は例えば金型である。型50は、上型51および下型52を備えている。下型52は、複数の凸部53を備えている。
図12中の符号54を付された部材はロッドである。ロッド54は、複数のブロック40を貫通している。つまり、ロッド54は、ブロック40の貫通孔45に挿入されている。なお、
図12には1本のロッド54しか示されていないが、一対のロッド54が、Y軸方向に重なるように配置され、複数のブロック40に挿通されている。ロッド54は、直線的に延在する丸棒である。
【0078】
続いて、
図13に示されるように、ロッド54が挿通された状態の複数のブロック40を、複数の凸部53と交互に並ぶように、上型51と下型52の間に配置し、上型51を下型52に合わせる。換言すれば、複数のブロック40と複数の凸部53が交互に並んだ状態で、複数のブロック40を型50の中に配置する。このとき、上型51と下型52との間にはキャビティ55が形成される。ロッド54の一部および複数のブロック40はキャビティ55の中に位置する。
【0079】
続いて、
図14に示されるように、型50の中(つまりキャビティ55)に、液状の樹脂60を注入し、この樹脂60で複数のブロック40を包み込む。樹脂60が熱硬化性樹脂の場合、樹脂60は加熱される。また、樹脂60が熱可塑性樹脂の場合、樹脂60は冷却される。いずれにしても、樹脂60は、型50の中で硬化し、柔軟性および伸縮性を有するシース30になる。なお、
図14に示される断面図には表れていないが、上型51と下型52の少なくとも一方には、液状の樹脂60を注入するための供給口と、空気抜き口が形成されている。
【0080】
ブロック40は、部屋35を形成する型として機能し、ロッド54は、通路37および近位端通路38を形成する型として機能する。
【0081】
続いて、型50から、ロッド54とともに、シース30と複数のブロック40を取り出す。
図15には、型50から取り出されたロッド54,シース30および複数のブロック40が示されている。その後、硬化した樹脂60(つまりシース30)の中に複数のブロック40を残しつつ、複数のブロック40からロッド54を抜き取る。つまり、ロッド54のみをシース30から引き抜く。なお、シース30および複数のブロック40が型50の中にある状態で、ロッド54がシース30から引き抜かれてもよい。
【0082】
続いて、ラミネート層形成工程を実施する。ラミネート層形成工程において、シース30の表面に、ラミネート層70が形成される。具体的には、
図16に示すように、シース30の上側に上側フィルム要素70aを配置する。
【0083】
又、
図16に示すように、シース30の下側に下側フィルム要素70bを配置する。そして、所謂スキンパック包装の技術により、上側フィルム要素70aをシース30の表面の上半部に圧着し、下側フィルム要素70bをシース30の表面の下半部に圧着する。
【0084】
その後、上側フィルム要素70aおよび下側フィルム要素70bの余分な部分を除去する。以上により、
図10および
図17に示されるフィンガ20が完成する。尚、ラミネート層形成工程は、ロッド54をシース30から引き抜く前に実施されてもよい。
【0085】
図17は、完成したフィンガ20の平面図である。
図17に示すように、フィンガ20の側面には、全周にわたり、上側フィルム要素70aと下側フィルム要素70bとが接着された部分であるヒートシール部70cが形成される。尚、シース30にラミネート層70を形成する方法は、上述の方法に限定されない。
【0086】
フィンガ20が完成した後、フィンガ20を基部10に取り付けることで、ロボットハンド1が完成する。
【0087】
(効果)
上記製造方法によれば、シース30は、液状の樹脂60を型50の中で硬化させることで形成される。よって、シース30は完全に一体的に形成される。つまり、シース30は、流体が漏れる隙間を有しておらず、また、隙間となり得る接着部分を有していない。したがって、ロボットハンド1が完成した後に、シース30の中の流体の圧力を高くしても、シース30から流体が漏れることを防止することができる。ひいては、フィンガ20を所期の形状にすることができる。
【0088】
なお、熱溶解積層方式の三次元プリンタによって、ロッド54が挿入された状態の複数のブロック40を樹脂の層で包むように、シース30を形成してもよい。ただし、熱溶解積層方式の三次元プリンタでシース30が形成された場合、積み重ねられる層同士の隙間から流体が漏れる可能性がある。しかしながら、上述のように、液状の樹脂60を型50の中で硬化させてシース30を形成することにより、シース30を完全に一体的に形成し、隙間等から流体が漏れることを確実に防止することができる。
【0089】
また、上記製造方法によれば、シース30、特に部屋35を形成する際に型として機能するブロック40を、シース30が完成した後にシース30の中に残すことができる。つまり、シース30の内面を形成するブロック40をシース30から抜き取る必要がない。
【0090】
よって、シース30の中から型を抜き取ることでシース30が破損することを未然に防止し、ロボットハンド1の製造の際の歩留まり率を向上させることができる。
【0091】
また、ブロック40を抜き取る必要がないので、通路37の断面積(YZ平面に平行な面によって切断されたときの断面積)に対して、部屋35の断面積(YZ平面に平行な面によって切断されたときの断面積)を十分に大きくすることができる。その結果、凹部32を深くすることができる。ひいては、シース30の基端から先端までの、シース30の背をたどる道のりを、シース30の腹をたどる道のりよりも、より確実に長くすることができる。したがって、フィンガ20を、XZ平面に沿って、かつ、背部21が外周に位置し腹部22が内周に位置するように確実に変形させることができる。
【0092】
上記製造方法において、型50は、下型52に形成された凸部53が下から上に向かって突出する姿勢となるように配置される。よって、液状の樹脂60をキャビティ55に注入するとき、凸部53同士の間に空気が抜けずに残ることを防止することができる。ひいては、シース30各部の厚さを設計どおりの厚さとすることができる。その結果、シース30の中の流体の圧力を調整することにより、フィンガ20を確実に所期の形状にすることができる。
【0093】
なお、キャビティ55の中を予め真空にしてもよい。また、凸部53同士の間の領域それぞれに空気抜き口を形成してもよい。これらの場合、型50は、下型52に形成された凸部53が下から上に向かって突出する姿勢となるように配置されなくてもよい。例えば、凸部53が上から下に向かって突出する姿勢となるように型50が配置されてもよい。つまり、下型52が上型51の上に位置するように、上型51と下型52が配置されてもよい。また、凸部53が水平方向に突出する姿勢となるように型50が配置されてもよい。つまり、上型51と下型52が同じ高さになるように配置されてもよい。
【0094】
上記製造方法において、ロッド54は、上型51と下型52の間に挟まれている。また、ロッド54は、キャビティ55の中で、片持ち梁状になっている。よって、シース30の中の空間とシース30の外部とが、ロッド54が型となる近位端通路38のみによって連通するようにすることができる。
【0095】
なお、近位端通路38以外の開口がシース30に形成された場合、この開口を塞ぐ工程が必要となる。また、塞いだとしても、塞がれた開口から流体が漏れる可能性は、そのような開口が無い場合と比較すると相対的に高い。しかしながら、上記製造方法で製造されるシース30には、そもそも、近位端通路38以外に開口がない。よって、開口を塞ぐ工程が不要であり、また、シース30の中から流体が漏れることを未然に防止することができる。
【0096】
上記製造方法において、複数のブロック40は、型50の内面に接触しない状態になっている。換言すれば、ブロック40の外面と型50の内面との間には所定の厚さの隙間が形成されている。この隙間の厚さは、シース30の厚さに相当する。つまり、複数のブロック40は、型50の内面に接触しない状態にすることで、シース30の厚さが0である部分が形成されること、つまり、シース30に穴が空くことを防止することができる。
【0097】
上記製造方法において、一対のロッド54が複数のブロック40を貫通し、かつ、一対のロッド54が上型51と下型52の間に挟まれている。その結果、各ロッド54は、型50に対しても、複数のブロック40に対しても相対回転できない。つまり、複数のブロック40は、型50に対して相対回転できない。よって、ロッド54によって貫通された状態のブロック40を、型50の中に配置するときに、ブロック40と型50が接触しない状態にしておけば、その後、キャビティ55の中でブロック40が回転して、ブロック40と型50が接触することはない。例えば、溶けた樹脂60がキャビティ55に注入されたときに樹脂60に押されても、ブロック40と型50が接触することはない。すなわち、ロッド54を、型50および複数のブロック40に対して回り止めされた状態で、型50の中に配置することによって、ブロック40が型50に接触して穴が空いたシース30が形成されることを確実に防止することができる。
【0098】
また、上記製造方法において、樹脂60を硬化させた後、硬化した樹脂60(つまりシース30)の中に流体を供給して硬化した樹脂60を膨張させ、硬化した樹脂60の内面からブロック40を剥がしてもよい。このような工程を実施しておけば、ロボットハンド1を実際に使用するために、圧力付与装置によってシース30の中の流体に圧力を付与したときに、ブロック40の外面を、部屋35の内面から確実に離間させることができる。ひいては、フィンガ20を確実に変形させることができる。よって、フィンガ20を所期の形状にして、対象物2を確実に把持することができる。
【0099】
(変形例)
本開示に係るロボットハンドおよびロボットハンドの製造方法は、これまでに説明された具体的態様に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更を加えたものも包含する。
【0100】
例えば、ロボットハンド1は、基部10を備えていなくてもよい。つまり、ロボットハンド1は、1つまたは複数のフィンガ20のみから構成されていてもよい。例えば、1つのフィンガ20のみからロボットハンド1が構成されていてもよい。この場合、ロボットハンド1は、フィンガ20を曲げることにより、柔軟かつ長尺の対象物をフィンガ20に引っかけて把持することができる。
【0101】
フィンガ20は、フィンガ20の中の流体の圧力がフィンガ20の外の流体の圧力(例えば大気圧)と等しい場合に、直線状の形状以外の形状、例えば、円弧に沿った形状を有していてもよい。この場合、各通路37および近位端通路38は、円弧状の曲線の上に並ぶように配置される。この場合、フィンガ20の腹は円弧の内周側にあっても外周側にあってもよい。腹が円弧の内周側にあり背が円弧の外周側にある場合、流体の圧力を高めて曲がり具合がさらに大きくなるようにフィンガ20を変形させて、ロボットハンド1に対象物を把持させることができる。また、腹が円弧の外周側にあり背が円弧の内周側にある場合、流体の圧力を高めて曲がり具合が小さくなるようにフィンガを変形させて(例えば直線状にして)、または逆側に曲げて、ロボットハンド1に対象物を把持させることができる。円弧に沿った形状を有するフィンガ20の製造には、ロッド54として円弧に沿って延在する丸棒が用いられてもよい。
【0102】
[実施形態2]
次に、
図18~
図23を参照して、本発明の実施形態2に係るロボットハンド1Aについて説明する。本実施形態に係るロボットハンド1Aの全体構成は、上述の実施形態1に係るロボットハンド1(
図1および
図2参照)の全体構成とほぼ同様である。よって、本実施形態に係るロボットハンド1Aの全体構成については、上述の実施形態1に係るロボットハンド1の全体構成に関する説明を適宜援用してよい。
【0103】
図18は、ロボットハンド1Aのフィンガ20Aの断面図である。尚、
図18に示された直交座標系(X、Y、Z)は、
図10等に示された直交座標系(X、Y、Z)に対応している。
【0104】
フィンガ20Aは、シース30Aおよびラミネート層70Aを有する。本実施形態の場合、フィンガ20Aは、上述の実施形態1におけるブロック40に相当する部材を有していない。よって、フィンガ20A(つまり、シース30A)の内部空間は、空洞状である。
【0105】
先ず、シース30Aの構成について説明する。シース30Aの基本的な構成は、上述の実施形態1におけるシース30の基本的な構成とほぼ同様である。よって、シース30Aの基本的な構成に関する説明は、上述の実施形態1におけるシース30の基本的な構成に関する説明を適宜援用してよい。
【0106】
シース30Aは、フィンガ本体の一例に該当し、柔軟性および伸縮性を有する樹脂で形成されている。シース30Aは、ショアA硬度が10以上90以下の材料で形成されていてもよい。シース30Aを形成する材料は、例えば、ウレタンゴム、シリコンゴムおよびオレフィン系熱可塑性エラストマーであってもよい。
【0107】
シース30Aは、
図18に示されるように、複数の凸部31Aおよび複数の凹部32Aを有する。複数の凸部31Aと複数の凹部32Aとは、シース30A(つまりフィンガ20A)が延在する方向(つまりX軸方向)に沿って交互に並ぶように配置されている。
【0108】
本実施形態の場合、数の凸部31Aおよび複数の凹部32Aの数は、上述の実施形態1におけるシース30における凸部31および凹部32の数よりも少ない。
【0109】
凸部31Aは、シース30Aの腹部22Aから背部21Aに向かう方向(つまりZ軸方向-側)に突出する形状を有している。凹部32Aは、シース30Aの背部21Aから腹部22Aに向かう方向(つまり、Z方向+側)に窪む形状を有している。
【0110】
又、シース30Aは、複数の部屋35A、および、複数の通路37Aを有する。通路37Aは、隣り合う部屋35A同士を連通している。複数の部屋35Aおよび複数の通路37Aにより、シース30Aの内部空間300が構成されている。
【0111】
本実施形態の場合、内部空間300は、他の部材が配置されていない空洞状である。内部空間300の第一端部(X方向-側の端部)は開口している。つまり、シース30Aは、第一端部に、開口部301を有する。内部空間300の第二端部(X方向+側の端部)は閉じている。
【0112】
ここで、シース30Aの寸法関係について説明する。凹部32Aの溝幅L32Aは、例えば、1mm以上15mm以下であると好ましい。溝幅L32Aの下限値は、シース30Aを成形するための金型の寸法との関係で決定されてよい。尚、凹部32Aの溝幅L32Aは、凹部32AのX方向における寸法と捉えてよい。
【0113】
又、シース30Aの開口部301の高さH301は、例えば、0.5mm以上30mm以下であると好ましい。開口部301の高さH301は、開口部301のZ方向における寸法と捉えてよい。
【0114】
又、シース30Aの通路37Aの高さH37Aは、例えば、H301+0.5mm以上H301+50mm以下であると好ましい。開口部301の高さH301と通路37Aの高さH37Aとの比率R(H37A/H301)は、1/100以上1/2以下であると好ましい。比率Rは、小さい方が好ましい。
【0115】
又、ラミネート層70Aは、シース30Aの表面に設けられている。ラミネート層70Aは、シース30Aの材料とは異なる材料により構成されている。
【0116】
具体的には、本実施形態の場合も、ラミネート層70Aは、オレフィン系フィルム(例えば、旭化成工業(株)製「サンテックSフィルム」)により構成されている。ラミネート層70Aは、シース30Aの表面に隙間なく圧着されている。
【0117】
本実施形態の場合も、ラミネート層70Aは、シース30Aの表面の全面に設けられている。ただし、ラミネート層70Aは、少なくともシース30Aの表面において対象物と接触しうる面に設けられていればよい。シース30Aの表面において対象物と接触しうる面は、例えば、フィンガ20Aの腹部22Aである。
【0118】
次に、
図19~
図23を参照して、本実施形態に係るロボットハンド1Aのフィンガ20Aの製造方法について説明する。
図19~
図23に示されるXYZ座標系は、製造されるフィンガ20AのXYZ座標系を示している。
図19~
図23に示されるXYZ座標系は、
図12~
図16に示されたXYZ座標系に対応する。
【0119】
図19は、フィンガ20Aの製造を行う際に準備される物の断面図である。
図19中の符号50Aは型を示している。型50Aは例えば金型である。型50Aは、上型51Aおよび下型52Aを有する。下型52Aは、複数の凸部53Aを備えている。
【0120】
又、
図19中の符号56を付された部材は第一入れ子56である。又、
図19中の符号57を付された部材は第二入れ子57である。第一入れ子56と第二入れ子57とは、
図19に示される状態に組み合わされて、型50Aのキャビティ55A(
図20参照)に配置される。このような第一入れ子56および第二入れ子57は、内型として機能する。
【0121】
第一入れ子56は、ロッド状であって、第二入れ子57に挿入されている。第一入れ子56は、比較的固い材料により構成されている。例えば、第一入れ子56は、ポリウレタン樹脂製の硬質プラスチック等により構成されてよい。又、第一入れ子56は、金属製であってもよい。
【0122】
本実施形態の場合、第一入れ子56の断面形状は、略矩形状である。ただし、第一入れ子56の断面形状は特に限定されない。
【0123】
第二入れ子57は、弾性を有し、第一入れ子56よりも柔らかい材料により構成される。例えば、第二入れ子57は、シリコンゴム製であってよい。第二入れ子57は、シース30Aの内周面に対応する外面を有する。
【0124】
又、第二入れ子57は、軸方向(X方向)に延在する支持穴570を有する。支持穴570の第一端部(X方向におけるマイナス側の端部)は、第二入れ子57の第一端面(X方向におけるマイナス側の端面)に開口している。支持穴570には、第一入れ子56の一部が、挿入されている。このようにして、第一入れ子56と第二入れ子57とが組み合わされている。
【0125】
続いて、
図20に示されるように、組み合わされた第一入れ子56および第二入れ子57を、上型51Aと下型52Aとの間に配置し、上型51Aを下型52Aに合わせる。
【0126】
換言すれば、組み合わされた第一入れ子56および第二入れ子57を、型50Aの中に配置する。このとき、上型51Aと下型52Aとの間にはキャビティ55Aが形成される。第一入れ子56の一部および第二入れ子57はキャビティ55Aの中に位置する。
【0127】
型50A(つまり、上型51Aおよび下型52A)の内面と、第二入れ子57の外面との間には、シース30Aの形状に対応する成形空間が形成される。
【0128】
続いて、
図21に示されるように、型50Aの中(つまりキャビティ55A)に、液状の樹脂60Aを注入し、この樹脂60Aで第二入れ子57を包み込む。樹脂60Aが熱硬化性樹脂の場合、樹脂60Aは加熱される。
【0129】
また、樹脂60Aが熱可塑性樹脂の場合、樹脂60Aは冷却される。いずれにしても、樹脂60Aは、型50Aの中で硬化し、柔軟性および伸縮性を有するシース30Aになる。
【0130】
なお、
図21に示される断面図には表れていないが、上型51Aと下型52Aの少なくとも一方には、液状の樹脂60Aを注入するための供給口と、空気抜き口が形成されている。
【0131】
第二入れ子57は、シース30Aの内部空間(つまり、複数の部屋35Aおよび複数の通路37A)を形成する型として機能する。
【0132】
本実施形態の場合、第二入れ子57が比較的固い材料により構成されているため、キャビティ55A内における第一入れ子56の位置決めを図り易い。この結果、シース30Aの寸法安定性を確保できる。
【0133】
続いて、型50Aから、第一入れ子56および第二入れ子57とともに、シース30Aを取り出す。
図22には、型50Aから取り出された第一入れ子56、第二入れ子57、およびシース30Aが示されている。
【0134】
続いて、ラミネート層形成工程を実施する。ラミネート層形成工程において、シース30Aの表面に、ラミネート層70Aが形成される。具体的には、
図23に示すように、シース30Aの上側に上側フィルム要素70aを配置する。
【0135】
又、
図23に示すように、シース30Aの下側に下側フィルム要素70bを配置する。そして、所謂スキンパック包装の技術により、上側フィルム要素70aをシース30Aの表面の上半部に圧着し、下側フィルム要素70bをシース30Aの表面の下半部に圧着する。
【0136】
その後、上側フィルム要素70aおよび下側フィルム要素70bの余分な部分を除去する。
【0137】
そして、硬化した樹脂60A(つまりシース30A)から、第一入れ子56を取り出す。つまり、第一入れ子56のみをシース30Aから引き抜く。この状態で、第二入れ子57の支持穴570が空洞状になるため、第二入れ子57が変形し易くなる。そして、第二入れ子57を変形させつつ、第二入れ子57を型50Aから取り出す。このように、本実施形態の場合、第二入れ子57を型50Aから容易に取り出すことができる。以上により、
図18に示されるフィンガ20Aが完成する。
【0138】
その他、本実施形態に係るロボットハンド1Aおよびロボットハンド1Aの製造方法の構成および作用・効果は、上述の実施形態1に係るロボットハンド1およびロボットハンド1の製造方法の構成および作用・効果と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本開示は、様々な対象物を把持するロボットハンドおよびその製造方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0140】
1、1A ロボットハンド
2 対象物
3 載置面
10 基部
11 ポート
20、20A フィンガ
201 第1フィンガ
202 第2フィンガ
21、21A 背部
22、22A 腹部
30、30A シース
300 内部空間
301 開口部
31、31A 凸部
32、32A 凹部
33 近位端部
34 遠位端部
35、35A 部屋
36 連接部
37、37A 通路
38 近位端通路
40 ブロック
41 周面
42 底面
43 遠位面
44 近位面
45 貫通孔
50、50A 型
51、51A 上型
52、52A 下型
53、53A 凸部
54 ロッド
55、55A キャビティ
56 第一入れ子
57 第二入れ子
570 支持穴
60、60A 樹脂
70、70A ラミネート層
70a 上側フィルム要素
70b 下側フィルム要素
70c ヒートシール部