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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142743
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】電着液、および、電着膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 179/08 20060101AFI20241003BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20241003BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20241003BHJP
   C09D 127/18 20060101ALI20241003BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20241003BHJP
   C25D 13/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C09D179/08
C09D5/44
C09D7/63
C09D179/08 B
C09D127/18
C09D127/12
C09D5/44 B
C25D13/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055048
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】藤田 将人
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CD121
4J038DJ051
4J038JA27
4J038JB12
4J038JB27
4J038JB32
4J038JC11
4J038KA06
4J038KA09
4J038MA07
4J038MA08
4J038NA01
4J038PA04
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】ポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂とを含む電着液を用いて電着膜を形成した場合であっても、電着膜の外観不良の発生を抑制することが可能な電着液、および、電着膜の製造方法を提供する。
【解決手段】導電性の基材の表面に電着膜を形成する際に用いられる電着液であって、水と、分散媒と、固形成分と、界面活性剤と、を含み、前記固形成分は、ポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂とを含み、前記界面活性剤の含有量が0.1mass%以上5.0mass%以下の範囲内であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基材の表面に電着膜を形成する際に用いられる電着液であって、
水と、分散媒と、固形成分と、界面活性剤と、を含み、
前記固形成分は、ポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂とを含み、
前記界面活性剤の含有量が0.1mass%以上5.0mass%以下の範囲内であることを特徴とする電着液。
【請求項2】
前記界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルであることを特徴とする請求項1に記載の電着液。
【請求項3】
前記ポリイミド系樹脂は、ポリアミドイミドであることを特徴とする請求項1に記載の電着液。
【請求項4】
前記フッ素系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項1に記載の電着液。
【請求項5】
導電性の基材の表面に電着膜を形成する電着膜の製造方法であって、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電着液に前記基材と対向電極とを浸漬し、前記基材を陽極、前記対向電極を陰極として、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加し、前記基材の表面に前記電着膜を形成することを特徴とする電着膜の製造方法。
【請求項6】
導電性の基材の表面に電着膜を形成する電着膜の製造方法であって、
水と、分散媒と、ポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂を含む固形成分と、を含む電着液本体と、界面活性剤とを保管し、電着膜を形成する際に、前記電着液本体に前記界面活性剤を添加して、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電着液を形成し、
この電着液に前記基材と対向電極とを浸漬し、前記基材を陽極、前記対向電極を陰極として、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加し、前記基材の表面に前記電着膜を形成することを特徴とする電着膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性の基材に電着膜を電着させる電着液、および、電着膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性の基材を絶縁性の樹脂からなる絶縁皮膜で被覆した絶縁導体は、絶縁が必要な各種電気機器の導電材料や放熱板材料として広く用いられている。絶縁皮膜の構成材料として、複数種の樹脂が混合されたものが知られている。例えば、ポリアミドイミド樹脂やポリイミド樹脂などのポリイミド系樹脂と、フッ素系樹脂との混合物からなる絶縁皮膜が知られている。複数種の樹脂を混合することにより、絶縁皮膜の絶縁特性を向上させることができる。
【0003】
絶縁性の樹脂からなる絶縁皮膜を導電性の基材の表面に形成する方法として、電着法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
電着法は、絶縁皮膜の材料を分散させた電着液に、絶縁皮膜を形成する基材と対向電極とを浸漬し、基材と対向電極との間に電圧を印加することによって、絶縁皮膜の材料を基材の表面に析出させた電着膜を形成する方法である。そして、形成した電着膜を加熱して、電着膜を基材に焼付けることによって絶縁皮膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-108653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂とを含む電着液においては、保存安定性が低く、経時変化で液が劣化し、劣化した電着液を用いて電着膜を形成した際に、電着膜に無数のスジが発生し、外観不良となるおそれがあった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、ポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂とを含む電着液を用いて電着膜を形成した場合であっても、電着膜の外観不良の発生を抑制することが可能な電着液、および、電着膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者ら鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
ポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂とを含む電着液においては、形成された電着膜には、2種類の樹脂の混合膜となる。ここで、電着液が経時劣化した場合には、ポリイミド系樹脂またはフッ素系樹脂の分散性が低下し、成膜した際に樹脂組成が不均一となり、外観不良となる。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の態様1の電着液は、導電性の基材の表面に電着膜を形成する際に用いられる電着液であって、水と、分散媒と、固形成分と、界面活性剤と、を含み、前記固形成分は、ポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂とを含み、前記界面活性剤の含有量が0.1mass%以上5.0mass%以下の範囲内であることを特徴としている。
【0010】
本発明の態様1の電着液によれば、固形成分としてポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂とを含んでいるので、絶縁性に優れた絶縁皮膜を形成することが可能となる。
そして、界面活性剤を0.1mass%以上5.0mass%以下の範囲内で含有していることから、ポリイミド系樹脂またはフッ素系樹脂の分散性が十分に高くなり、樹脂組成が均一な電着膜を形成でき、電着膜の外観不良の発生を抑制することができる。
【0011】
本発明の態様2の電着液は、本発明の態様1の電着液において、前記界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルであることを特徴としている。
【0012】
本発明の態様2の電着液によれば、前記界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有しているので、固形成分として含有されるポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂の2種類の樹脂の分散性をさらに向上させることができ、成膜した際に樹脂組成がさらに均一となり、外観不良の発生をさらに抑制することができる。
【0013】
本発明の態様3の電着液は、本発明の態様1または態様2の電着液において、前記ポリイミド系樹脂は、ポリアミドイミドであることを特徴としている。
【0014】
本発明の態様3の電着液によれば、前記ポリイミド系樹脂としてポリアミドイミドを含有しているので、前記フッ素系樹脂とともに、絶縁性に優れた絶縁皮膜を成膜することができる。
【0015】
本発明の態様4の電着液は、本発明の態様1から態様3のいずれか一つの電着液において、前記フッ素系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴としている。
【0016】
本発明の態様4の電着液によれば、前記フッ素系樹脂としてポリテトラフルオロエチレンを含有しているので、前記ポリイミド系樹脂とともに、絶縁性に優れた絶縁皮膜を成膜することができる。
【0017】
本発明の態様5の電着膜の製造方法は、導電性の基材の表面に電着膜を形成する電着膜の製造方法であって、本発明の態様1から態様4のいずれか一つの電着液に前記基材と対向電極とを浸漬し、前記基材を陽極、前記対向電極を陰極として、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加し、前記基材の表面に前記電着膜を形成することを特徴としている。
【0018】
本発明の態様5の電着液の製造方法によれば、本発明の態様1から態様4のいずれか一つの電着液を用いているので、スジが無く外観品質が良好な電着膜を製造することが可能となる。
【0019】
本発明の態様6の電着膜の製造方法は、導電性の基材の表面に電着膜を形成する電着膜の製造方法であって、水と、分散媒と、ポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂を含む固形成分と、を含む電着液本体と、界面活性剤とを保管し、電着膜を形成する際に、前記電着液本体に前記界面活性剤を添加して、本発明の態様1から態様4のいずれか一つの電着液を形成し、この電着液に前記基材と対向電極とを浸漬し、前記基材を陽極、前記対向電極を陰極として、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加し、前記基材の表面に前記電着膜を形成することを特徴としている。
【0020】
本発明の態様6の電着液の製造方法によれば、水と、分散媒と、ポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂を含む固形成分と、を含む電着液本体に、界面活性剤を添加しているので、電着液本体が経時劣化してポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂の分散性が低下した場合であっても、界面活性剤を添加することで、ポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂の分散性を向上させることができ、スジが無く外観品質が良好な電着膜を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂とを含む電着液を用いて電着膜を形成した場合であっても、電着膜の外観不良の発生を抑制することが可能な電着液、および、電着膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る電着液の製造方法の一例を示すフロー図である。
図2】本発明の一実施形態に係る電着液を用いた電着膜の製造方法および絶縁皮膜の製造方法を示すフロー図である。
図3】実施例における電着膜の外観観察結果の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の一実施形態である電着液、および、電着膜の製造方法について説明する。
本実施形態である電着液は、導電性の基材の表面に絶縁皮膜の前駆体となる電着膜を成膜する際に使用されるものである。
【0024】
本実施形態である電着液においては、水と、分散媒と、固形成分と、界面活性剤と、を含むものである。
固形成分としては、ポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂の2種類の樹脂を含むものとされている。
そして、界面活性剤の含有量が、電着液全体に対して0.1mass%以上5.0mass%以下の範囲内とされている。
なお、界面活性剤の含有量は0.1mass%以上1.0mass%以下であることがより好ましい。
【0025】
界面活性剤は、固形成分であるポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂の分散性を向上させるものである。
ここで、本実施形態においては、界面活性剤は、以下に示す構造のポリオキシアルキレンアルキルエーテルであることが好ましい。
R-(OCH2CH2)n-OH
R:炭素数が1~20のアルキル基、n:1~20の整数
【0026】
また、本実施形態においては、固形成分としてポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂の2種類の樹脂を含有しているので、形成される電着膜、および、この電着液を焼成した絶縁皮膜は、ポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂の混合樹脂で構成されることになり、絶縁性に優れている。
ここで、本実施形態においては、ポリイミド系樹脂としては、ポリアミドイミドであることが好ましい。また、フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレンであることが好ましい。
【0027】
また、水および分散媒に分散された固形成分の平均粒径は、50nm以上、500nm以下、より好ましくは50nm以上、450nm以下、さらに好ましくは50nm以上、300nm以下であればよい。また、固形成分の粒径の標準偏差は250nm以下、より好ましくは150nm以下、さらに好ましくは100nm以下であればよい。
【0028】
水および分散媒は、固形成分であるポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂が分散されるものである。
ここで、分散媒としては、極性溶剤及び塩基を含むことが好ましい。また、極性溶剤は水より高い沸点を有することが好ましい。極性溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、N,Nジメチルアセトアミド等の有機溶剤が挙げられる。
【0029】
さらに、分散媒中の塩基としては、2-アミノエタノール、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、3-エトキシプロピルアミン、6-アミノ-1-ヘキサノール、トリ-n-プロピルアミン、ジブチルアミン、ピペリジン、トリエチルアミン等が挙げられる。電着液中の水の含有割合は、10~50質量%であることが好ましく、20~40質量%であることが更に好ましい。また、電着液中の極性溶剤の含有割合は50~90質量%であることが好ましく、塩基の含有割合は0.01~0.30質量%であることが好ましい。
【0030】
次に、本実施形態である電着液の製造方法の一例を、図1を参照して説明する。
【0031】
(ポリイミド系樹脂分散液製造工程S01)
まず、撹拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えたフラスコ内に、極性溶剤と、イソシアネート成分と酸成分とを混合し、例えば、80~130℃の温度に昇温させて2~8時間保持して反応させることにより、ポリアミドイミドを得る。
【0032】
ここで、イソシアネート成分としては、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタン-3,3’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-3,4’-ジイソシアネート、ジフェニルエーテル-4,4’-ジイソシアネート、ベンゾフェノン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルスルホン-4,4’-ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート等が挙げられる。
【0033】
また、酸成分としてはトリメリット酸無水物(TMA)、1,2,5-トリメリット酸(1,2,5-ETM)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物(OPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、4,4’-(2,2’-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等が挙げられる。
その後、合成したポリアミドイミドを、極性溶剤により希釈してポリアミドイミドワニスを調製する。
【0034】
そして、このポリアミドイミドワニスを、極性溶剤、例えばN-メチル-2-ピロリドンで更に希釈し、塩基性化合物であるトリnプロピルアミン(TPA)を加えた後、更に水を添加して、ポリアミドイミド分散液(ポリイミド系樹脂分散液)を形成する。
【0035】
(フッ素系樹脂分散液製造工程S02)
一方、ポリテトラフルオロエチレン(フッ素系樹脂)を、乳化剤で水中に分散させることで、ポリテトラフルオロエチレン分散液(フッ素系樹脂分散液)を得る。
【0036】
(分散液混合工程S03)
そして、ポリテトラフルオロエチレン分散液(フッ素系樹脂分散液)を水で希釈した後、ポリアミドイミド分散液(ポリイミド系樹脂分散液)を混合し、さらにN-メチル-2-ピロリドンで希釈し、電着液本体(混合樹脂分散液)を得る。
【0037】
(界面活性剤添加工程S04)
上述のようにして得られた電着液本体に、界面活性剤であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルを所定量添加し、スターラー等で攪拌する。
なお、界面活性剤の添加および撹拌は室温で実施し、攪拌時間は10分以上2時間以下の範囲内とすることが好ましい。
【0038】
以上のようにして、本実施形態である電着液が製造される。
なお、界面活性剤を添加した電着液の状態で保管してもよいし、電着液本体と界面活性剤とを保管しておき、電着を実施する直前に、電着液本体に界面活性剤を添加して電着液を形成してもよい。
【0039】
次に、本実施形態である電着液を用いた電着膜の製造方法および絶縁皮膜の製造方法について、図2を参照して説明する。
【0040】
図2に示すように、本実施形態における絶縁皮膜の製造方法は、表面前処理工程S101と、電着工程S102と、焼付工程S1030、とを有している。
【0041】
(表面前処理工程S101)
まず、電着膜(絶縁皮膜)を形成する基材を準備する。この基材は、導電性を有しており、例えば、銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金等の金属材料で構成されている。
そして、有機溶剤や界面活性剤等の表面処理液を用いて、上述の基材の表面を付着している油脂や酸化皮膜を取り除く。
【0042】
(電着工程S102)
次に、本実施形態である電着液に、基材と対向電極とを浸漬し、基材を陽極、対向電極を陰極として、陽極(基材)と陰極(対向電極)との間に電圧を印加し、基材の表面にポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂との混合物からなる電着膜を形成する。
【0043】
電着工程S102における電着液の温度(液温)は、5℃以上35℃以下の範囲内に調整することが好ましい。
液温を5℃以上とすることで、結露によって電着液に水が混入することを抑制できる。一方、液温を35℃以下とすることで、電着液の保存安定性が向上し、安定して電着膜を成膜することができる。
【0044】
電着工程S102における基材(陽極)と対向電極(陰極)との間の印加電圧は、10V以上600V以下の範囲内とすることが好ましい。
印加電圧を10V以上とすることで、電着速度を確保でき、生産性を向上させることができる。一方、印加電圧を600V以下とすることで、基材の表面に気泡が多く発生することを抑制でき、後工程の焼付工程S103において、気泡が弾けて、絶縁皮膜に多数の凹凸が生じることを抑制できる。
【0045】
(焼付工程S103)
焼付工程S103では、電着工程S102で得られた固形成分であるポリアミドイミドとポリテトラフルオロエチレンを含む電着膜が形成された基材を、例えば、200℃以上、かつ固形成分の融点以下の温度範囲内で乾燥させて残留電着液を除去した後、ポリアミドイミドとポリテトラフルオロエチレンを含む電着膜を基材に焼き付けて絶縁皮膜を形成する。
【0046】
焼付工程S103における焼付温度は、ポリアミドイミド、およびポリテトラフルオロエチレンの電着膜が硬化して、基材に絶縁皮膜が形成される温度範囲であればよく、例えば、200℃以上450℃以下の範囲内にすればよい。また、焼付時間は、例えば、1分間以上60分間以下の範囲内であればよい。
【0047】
以上のような工程を経て、導電性の基材に、ポリイミド系樹脂であるポリアミドイミドと、フッ素系樹脂であるポリテトラフルオロエチレンとの混合樹脂を含む絶縁皮膜を形成することができる。これにより、絶縁性が良好(例えば、比誘電率が3.0未満)であり、クラックの無い平滑性に優れた絶縁皮膜が得られる。
【0048】
以上のような構成とされた本実施形態である電着液によれば、固形成分としてポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂とを含んでいるので、絶縁性に優れた絶縁皮膜を形成することが可能となる。
そして、界面活性剤を0.1mass%以上5.0mass%以下の範囲内で含有していることから、液中におけるポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂の分散性が十分に高くなり、成膜した電着膜における樹脂組成が均一となり、電着膜の外観不良の発生を抑制することができる。
【0049】
本実施形態の電着液において、界面活性剤がポリオキシアルキレンアルキルエーテルである場合には、固形成分として含有されるポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂の2種類の樹脂の分散性をさらに向上させることができ、成膜した際に樹脂組成がさらに均一となり、外観不良の発生をさらに抑制することができる。
【0050】
本実施形態の電着液において、固形成分として含まれるポリイミド系樹脂がポリアミドイミドである場合には、フッ素系樹脂とともに、絶縁性に優れた絶縁皮膜を成膜することができる。
本実施形態の電着液において、固形成分として含まれるフッ素系樹脂がポリテトラフルオロエチレンである場合には、ポリイミド系樹脂とともに、絶縁性に優れた絶縁皮膜を成膜することができる。
【0051】
本実施形態である電着膜の製造方法によれは、本実施形態である電着液に基材と対向電極とを浸漬し、基材を陽極、対向電極を陰極として、陽極(基材)と陰極(対向電極)との間に電圧を印加することで、基材の表面に、ポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂を含むとともに樹脂組成が安定した電着膜を形成することができ、電着膜の外観不良の発生を抑制することができる。
【0052】
本実施形態において、電着膜を形成する直前に、水と、分散媒と、ポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂を含む固形成分と、を含む電着液本体に界面活性剤を添加して電着液を形成する場合には、電着液本体が経時劣化してポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂の分散性が低下した場合であっても、界面活性剤を添加することで、ポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂の分散性を向上させることができ、スジが無く外観品質が良好な電着膜を製造することが可能となる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0054】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0055】
固形成分として表1に示すポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂を準備し、これらを表1に示す比率(質量比)となるように混合した混合樹脂分散液(電着液本体)を得た。そして、表1に示すように、電着液本体に界面活性剤を添加した。
なお、比較例1,2においては、界面活性剤の添加を行わなかった。
【0056】
そして、導電性の基材として無酸素銅の平角棒材(1、5mm×2、9mm×長さ30cm)を準備するとともに、対向電極として銅板を準備した。
上述の電着液に基材と対向電極を浸漬し、電着液の液温を20℃、印加電圧を300Vとして、電着膜を形成した。
ここで、本発明例1~7においては、電着液に界面活性剤を添加して電着液を形成し、室温で7日間保管した電着膜を用いて、電着膜を形成した。
本発明例8~12においては、電着液本体を室温で7日間保管し、着膜を形成する直前に界面活性剤を添加した。
比較例1,2においては、ポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂を混合して得られた電着液を室温で7日間保管した後、電着膜を形成した。
【0057】
成膜した電着膜の外観を観察し、外観不良(スジ)の有無を確認した。図3に外観観察した電着膜の模式図を示す。図3(a)はスジがなく、外観良好な電着膜である。図3(b)はスジが発生し、外観不良となった電着膜である。
【0058】
【表1】
【0059】
比較例1、2においては、電着膜の全面にスジが発生し、外観不良となった。電着液に界面活性剤を添加していないため、室温で7日間保管したことで、電着液においてポリイミド系樹脂又はフッ素系樹脂の分散性が低下し、組成が均一な電着膜を形成することができなかったためと推測される。
比較例3においては、電着膜に部分的にスジが発生し、外観不良となった。電着液に添加した界面活性剤が少なく、室温で7日間保管したことで、電着液においてポリイミド系樹脂又はフッ素系樹脂の分散性が低下し、組成が均一な電着膜を形成することができなかったためと推測される。
【0060】
これに対して、本発明例1~7,13,14においては、電着膜にスジが発生せず、外観良好となった。界面活性剤を含有していることから、室温で7日間保管した後でも電着液においてポリイミド系樹脂又はフッ素系樹脂の分散性が低下せず、組成が均一な電着膜を形成することができたと推測される。
また、本発明例8~12,15においては、電着膜にスジが発生せず、外観良好となった。室温で7日間保管した電着液本体に界面活性剤を添加することで、電着液においてポリイミド系樹脂又はフッ素系樹脂の分散性が確保され、組成が均一な電着膜を形成することができたと推測される。
【0061】
以上の確認実験の結果から、本発明例によれば、ポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂とを含む電着液を用いて電着膜を形成した場合であっても、電着膜の外観不良の発生を抑制することが可能な電着液、および、電着膜の製造方法を提供可能であることが確認された。
図1
図2
図3