(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142759
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】試料の臭気低減方法
(51)【国際特許分類】
C02F 11/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C02F11/00 F ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055070
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(71)【出願人】
【識別番号】505112048
【氏名又は名称】ナルコジャパン合同会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岸野 悠平
(72)【発明者】
【氏名】青木 春彦
(72)【発明者】
【氏名】水盛 隆司
(72)【発明者】
【氏名】岩下 裕治
【テーマコード(参考)】
4D059
【Fターム(参考)】
4D059AA03
4D059AA30
4D059BD01
4D059BE10
4D059BE15
4D059BE16
4D059BE26
4D059BF11
4D059BJ00
4D059BK03
4D059CC01
4D059CC02
4D059DA44
4D059DA45
4D059DA46
(57)【要約】
【課題】排液又は汚泥を乾燥させて回収した試料の含水率を変化させることなく臭気を抑制でき、更に回収した試料は肥料や家畜の飼料として利用できる試料の臭気低減方法を提供する。
【解決手段】排液又は汚泥を撹拌し乾燥させることにより得られる試料の製造設備において、前記排液又は汚泥に重金属を含まない酸化剤を添加することを特徴とする試料の臭気低減方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排液又は汚泥を撹拌し乾燥させることにより得られる試料の製造設備において、前記排液又は汚泥に重金属を含まない酸化剤を添加することを特徴とする試料の臭気低減方法。
【請求項2】
前記排液又は汚泥は、菌体残渣を含む排液又は汚泥である請求項1記載の試料の臭気低減方法。
【請求項3】
前記試料は、肥料又は家畜の飼料である請求項1又は2記載の試料の臭気低減方法。
【請求項4】
前記重金属を含まない酸化剤は、亜塩素酸塩類、次亜塩素酸塩類、臭素酸塩類、亜硝酸塩類、及び、過酸化物からなる群より選択される1種以上を含有する薬剤である請求項1又は2記載の試料の臭気低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排液又は汚泥を乾燥させることで得られる試料の臭気低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品工場や食品工場等からは、菌体残渣を含む排液又は汚泥が発生するが、排液(汚泥)の量が大量であるため、この排液(汚泥)を乾燥させて試料として回収し、肥料や家畜の飼料として利用することが提案されている。
しかしながら、乾燥後得られた試料からは悪臭が発生し、保管する期間が長くなるとさらに強烈な臭いとなる問題があった。
【0003】
このような試料の臭気の問題に対し、例えば、臭気の発生源に対し消臭剤を添加することが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
ここで、乾燥エネルギーの削減、運搬性の改善を図る、試料用途の拡大の可能性を広げる、といった観点から乾燥された試料の含水率の制御が重要であるが、乾燥後の試料に消臭剤を直接噴霧すると、調整した試料の含水率が大きく変化するため望ましくない。また、得られた試料の一部に対してのみ臭気を低減させることができるに留まり、処理回収した試料の全量に対し効果的な臭気低減は困難であった。
【0004】
例えば、特許文献2には、酸化剤群から選択される一種以上を添加・撹拌し、鉄塩あるいはアルミニウム塩を添加・撹拌し、特定の高分子凝集剤を添加し脱水する排水あるいは汚泥用消臭剤の使用方法が開示されている。
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、回収した試料に重金属が含まれると、回収した試料を肥料や家畜の飼料として利用することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-049077号公報
【特許文献2】特開2007-245036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、排液又は汚泥を乾燥させて回収した試料の含水率を変化させることなく臭気を抑制でき、更に回収した試料は肥料や家畜の飼料として利用できる試料の臭気低減方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、乾燥前の排液又は汚泥に着目し、乾燥する前の排液(汚泥)に対して薬剤を添加することにより、乾燥後に得られた試料の悪臭を低減させ、また保管時における悪臭を極力抑え、更に、上記薬剤として重金属を含まない酸化剤を使用することで試料の含水率を低下させるとともに肥料や家畜の飼料として安全に利用できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
(1)本発明は、排液又は汚泥を撹拌し乾燥させることにより得られる試料の製造設備において、前記排液又は汚泥に重金属を含まない酸化剤を添加することを特徴とする試料の臭気低減方法である。
(2)また、本発明は、前記排液又は汚泥は、菌体残渣を含む排液又は汚泥である(1)記載の試料の臭気低減方法である。
(3)また、本発明は、前記試料は、肥料又は家畜の飼料である(1)又は(2)記載の試料の臭気低減方法である。
(4)また、本発明は、前記重金属を含まない酸化剤は、亜塩素酸塩類、次亜塩素酸塩類、臭素酸塩類、亜硝酸塩類、及び、過酸化物からなる群より選択される1種以上を含有する薬剤である(1)、(2)又は(3)記載の試料の臭気低減方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、乾燥後の試料の含水率を変化させることなく試料の臭気の低減を図ることができ、回収した試料の含水率を低減させることができるため、排液又は汚泥の乾燥時に使用するドラムドライヤー等の乾燥設備におけるトラブルを防止でき、更に、重金属を含まない酸化剤を使用するため、回収した試料に薬剤に由来した重金属が含まれず、安全に肥料又は家畜の飼料として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1~4、比較例1、2で得られた試料に対する臭気強度の評価結果を示すグラフである。
【
図2】実施例1~4、比較例1、2で得られた試料に対する快不快度の評価の評価結果を示すグラフである。
【
図3】実施例1~4、比較例1、2で得られた試料に対する臭いセンサーによる評価の評価結果を示すグラフである。
【
図4】実施例1、3、4、比較例1、2で得られた試料に対する含水率の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0012】
本発明に係る試料の臭気低減方法は、排液又は汚泥を撹拌し乾燥させることにより得られる試料の製造設備において利用される。
上記試料の製造設備としては、例えば、ドラムドライヤー、汚泥乾燥機、フィルタープレス、スクリュープレス、ベルトプレス等が挙げられる。なかでも、ドラムドライヤー、汚泥乾燥機が好適に挙げられる。
【0013】
本発明に係る試料の臭気低減方法は、上記試料の製造設備において、上記排液又は汚泥に重金属を含まない酸化剤を添加する。
上記排液又は汚泥に重金属を含まない酸化剤を添加することで、乾燥を経て得られた試料の臭気を低減させることができる。
また、排液又は汚泥に予め上記重金属を含まない酸化剤を添加するので乾燥を経て調整された試料の含水率が変化することもない。
更に、上記酸化剤は重金属を含まないため、回収された試料に酸化剤由来の重金属が含まれず、肥料や家畜の飼料として安全に回収した試料を利用することができる。
【0014】
上記重金属を含まない酸化剤としては、例えば、亜塩素酸塩類、次亜塩素酸塩類、臭素酸塩類、亜硝酸塩類、及び、過酸化物からなる群より選択される1種以上を含有する薬剤が好適に用いられる。
【0015】
上記亜塩素酸塩類としては、例えば、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等が挙げられ、上記亜塩素酸塩類を含有する薬剤の市販品としては、例えば、片山化学工業研究所製のサルミノン(登録商標)C-25等が挙げられる。
また、上記次亜塩素酸塩類としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられ、上記臭素酸塩類としては、例えば、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム等が挙げられ、上記亜硝酸塩類としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等が挙げられ、上記過酸化物としては、例えば、過酢酸、過酸化水素及びその誘導体、オゾン等が挙げられる。
【0016】
上記排液又は汚泥に対する重金属を含まない酸化剤の添加量としては、処理対象の排液又は汚泥の状態及び使用時の外部環境に応じて適宜調整すればよいが、例えば、2000ppm以上であることが好ましい。2000ppm未満であると乾燥後回収した試料に十分な消臭効果が得られないことがある。上記重金属を含まない酸化剤の添加量の上限は特に限定されず、設備の腐食が発生しない程度で効果的な消臭効果を発揮できる範囲で適宜調整される。
【0017】
上記重金属を含まない酸化剤を添加する方法としては、拡散や乾燥物の含水率に影響しない点で液体の状態で滴下あるいは散布することが好適に挙げられる。
【0018】
また、本発明において、上記重金属を含まない酸化剤を添加する前の排液又は汚泥のpHを公知の方法で調整していてもよい。具体的にはpHが7以上となるよう上記重金属を含まない酸化剤を添加する前の排液又は汚泥のpHを調整することが好ましい。排液又は汚泥は酸性(pH4~5程度)であることが多いため、上記範囲にpHを予め調整しておくことで、上述した重金属を含まない酸化剤による消臭効果を効果的に発揮させることができる。
【0019】
本発明において、上記排液又は汚泥は、菌体残渣を含む排液又は汚泥であることが好ましい。上記菌体残渣を含む排液又は汚泥は、特に乾燥後の試料の臭気が問題となっていたたが、本発明に係る試料の臭気低減方法によると菌体残渣を含む排液又は汚泥であっても効果的に臭気の低減を図ることができ、回収した試料の含水率を低減させることができるため、排液又は汚泥の乾燥時に使用するドラムドライヤー等の乾燥設備におけるトラブルを防止でき、更に、重金属を含まない酸化剤を使用するため、回収した試料に酸化剤に由来した重金属が含まれず、安全に肥料又は家畜の飼料として利用することができる。
【0020】
本発明において、上記試料は、肥料又は家畜の飼料であることが好ましい。
上述の通り、本発明では上記酸化剤として重金属を含まない酸化剤を使用するため、乾燥を経て得られた試料には酸化剤に由来した重金属が含まれていない。そのため上記重金属を含まない酸化剤により消臭された試料を肥料又は家畜の飼料として安全に使用することができる。
【実施例0021】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
国内の某化学工場において、排液を溜めた原水槽(pH4~5)から900L/hで一次貯留槽に排液を3m3貯留させた。
次いで、一次貯留槽出口より重金属を含まない酸化剤としてサルミノン(登録商標)C-25(片山化学工業研究所製)5000ppmを2時間かけて圧入し一次貯留槽で排液に添加させた。
重金属を含まない酸化剤の圧入後10分間排液を一次貯留槽内で循環させて重金属を含まない酸化剤と排液中の菌体残渣とを反応させた。
その後、排液の受け入れ液面をキープして設定濃度薬剤(サルミノン(登録商標)C-25)を2000ppmで添加し、その後ドラムドライヤーへ最大900L/hで排液を送り高圧蒸気で乾燥させて試料を回収した。
【0023】
(実施例2)
国内の某化学工場において、実施例1の処理の1時間30分後に処理を行った以外は実施例1と同様にして試料を回収した。
【0024】
(実施例3)
国内の某化学工場において、実施例1の処理の翌日に処理を行い、重金属を含まない酸化剤の添加量を5000ppmとした以外は実施例1と同様にして試料を回収した。
【0025】
(実施例4)
国内の某化学工場において、実施例3の処理の1時間50分後に処理を行った以外は実施例3と同様にして試料を回収した。
【0026】
(比較例1)
国内の某化学工場において、実施例1の処理の前日に処理を行い、重金属を含まない酸化剤を添加しなかった以外は実施例1と同様にして試料を回収した。
【0027】
(比較例2)
国内の某化学工場において、実施例3の処理と同日に処理を行い、重金属を含まない酸化剤を添加しなかった以外は実施例1と同様にして試料を回収した。
【0028】
(臭気強度の評価)
実施例1~4、比較例1、2で得られた試料に対し6人の試験官による6段階臭気強度表示法に従い評価を行い上下の評価をカットした4人の結果を表1及び
図1に示した。
【0029】
(快不快度の評価)
実施例1~4、比較例1、2で得られた試料に対し6人の試験官による9段階・不快度表示法に従い評価を行い上下の評価をカットした4人の結果を表2及び
図2に示した。
【0030】
(臭いセンサーによる評価)
実施例1~4、比較例1、2で得られた試料に対し臭いセンサー(新コスモス電機社製、ポータブルニオイセンサXP-329IIIR)による評価を行った。結果を表3及び
図3に示した。
【0031】
(含水率の測定)
実施例1、3、4、比較例1、2で得られた試料に対しデジタル含水率計を用いて含水率を測定した。結果を表4及び
図4に示した。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
表1~4及び
図1~4の結果から乾燥前に重金属を含まない酸化剤を添加することで重金属を含まない酸化剤未添加の比較例と比較して臭気強度の改善が見られた。