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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142761
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】スタックの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0587 20100101AFI20241003BHJP
   H01M 50/103 20210101ALI20241003BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20241003BHJP
   H01G 11/12 20130101ALI20241003BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M10/0587
H01M50/103
H01G11/06
H01G11/12
H01G11/84
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055072
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】磯野 基史
【テーマコード(参考)】
5E078
5H011
5H029
【Fターム(参考)】
5E078AA15
5E078AB06
5E078AB12
5E078JA02
5E078LA07
5H011AA01
5H011CC06
5H029AJ11
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM07
5H029BJ14
5H029CJ03
5H029CJ16
5H029HJ04
5H029HJ15
(57)【要約】
【課題】組付け時における蓄電セル毎の厚みばらつきの抑制と、スタック使用時における蓄電セル膨化の抑制とを両立したスタックの製造方法を提供する。
【解決手段】ここに開示される技術は、巻回電極体と、非水電解質と、ケースとを備える蓄電セルを準備する準備工程と、複数の上記蓄電セルを積層する積層工程と、を有し、上記準備工程において準備する上記蓄電セルに対し、該蓄電セルの厚み方向に荷重を0.1mm/minの速度で2.0MPaまで印加し、該印加後に荷重を0.01MPaまで減少する処理を1サイクルとし、該処理を3サイクル行ったとき、1サイクル目における2.0MPa印加時の上記蓄電セルの厚みX1に対する、3サイクル目における2.0MPa印加時の上記蓄電セルの厚みX3の変化量((X1-X3)/X1×100)が0.051~0.055%であることを特徴とする。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の角型の蓄電セルを備えたスタックの製造方法であって、
正極と負極とがセパレータを介して積層され巻回されてなる扁平形状の巻回電極体と、非水電解質と、前記巻回電極体と前記非水電解質とを収容するケースと、を備える前記蓄電セルを準備する準備工程と、
複数の前記蓄電セルを該蓄電セルの厚み方向に沿って積層する積層工程と、を有し、
前記準備工程において準備する前記蓄電セルに対し、該蓄電セルの厚み方向に荷重を0.1mm/minの速度で2.0MPaまで印加し、該印加後に前記荷重を0.01MPaまで減少する処理を1サイクルとし、該処理を3サイクル行ったとき、
1サイクル目における2.0MPa印加時の前記蓄電セルの厚みX1に対する、3サイクル目における2.0MPa印加時の前記蓄電セルの厚みX3の変化量((X1-X3)/X1×100)が0.051~0.055%である、
スタックの製造方法。
【請求項2】
前記負極は、負極芯体と、前記負極芯体上に形成された負極活物質層とを備え、
前記巻回電極体の長手方向に直交する前記負極活物質層の幅方向の長さLnは、20cm以上である、
請求項1に記載のスタックの製造方法。
【請求項3】
前記巻回電極体の巻回軸方向に対し垂直で、且つ前記巻回電極体の厚み方向に対し垂直な方向の長さを、前記巻回電極体の高さTとしたとき、
前記巻回電極体の高さTに対する、前記負極活物質層の幅方向の長さLnの比(Ln/T)が2.8~3.2である、
請求項2に記載のスタックの製造方法。
【請求項4】
前記準備工程は、前記蓄電セルに対し、該蓄電セルの厚み方向に荷重を印加しながら充電を行う活性化工程を含み、
前記活性化工程において、前記蓄電セルに対し印加する荷重が0.5~0.7MPaである、
請求項1または2に記載のスタックの製造方法。
【請求項5】
前記正極の積層数が30層以上である、
請求項1または2に記載のスタックの製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スタックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の蓄電セルを備えたスタックは、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)等の車両に搭載される駆動用電源として好適に用いられている。これに関連する従来技術文献として、特許文献1が挙げられる。特許文献1では、筐体、非水電解液(非水電解質)、および正極、負極、セパレータを備える電極体を有し、該電極体が更に負極のばね定数(第1ばね定数)より低いばね定数(第2ばね定数)を有する低ばね定数膜を備えることによって、電極体の膨張収縮に伴う電極体内部の非水電解液の押し出しを抑制する非水電解液二次電池(蓄電セル)に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-055806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、スタックの製造時、詳述すれば、複数の蓄電セルを該蓄電セルの厚み方向に沿って積層する際、蓄電セル毎に厚みばらつきが大きいと、蓄電セルの積層が困難になる。一方で、非水電解液の押し出しを抑制しすぎた蓄電セルをスタックに採用した場合、スタックを繰り返し充放電することで、スタックに積層された蓄電セルが膨化する(厚みが増加する)。また、本発明者の検討によれば、電極体における非水電解質の押し出し易さは、特許文献1に開示されるような、電極体の構成部材のばね定数だけでは決まらないことが分かった。従って、複数の蓄電セルを備えたスタックの製造では、蓄電セル積層時における蓄電セル毎の厚みばらつきだけでなく、スタック使用時における搭載された蓄電セル膨化の抑制についても考慮する必要がある。
【0005】
ここに開示される技術は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、組付け時における蓄電セル毎の厚みばらつきの抑制と、スタック使用時における蓄電セル膨化の抑制とを両立したスタックの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示される技術は、複数の角型の蓄電セルを備えたスタックの製造方法であって、正極と負極とがセパレータを介して積層され巻回されてなる扁平形状の巻回電極体と、非水電解質と、上記巻回電極体と上記非水電解質とを収容するケースと、を備える上記蓄電セルを準備する準備工程と、複数の上記蓄電セルを該蓄電セルの厚み方向に沿って積層する積層工程と、を有し、上記準備工程において準備する上記蓄電セルに対し、該蓄電セルの厚み方向に荷重を0.1mm/minの速度で2.0MPaまで印加し、該印加後に上記荷重を0.01MPaまで減少する処理を1サイクルとし、該処理を3サイクル行ったとき、1サイクル目における2.0MPa印加時の上記蓄電セルの厚みX1に対する、3サイクル目における2.0MPa印加時の上記蓄電セルの厚みX3の変化量((X1-X3)/X1×100)(以下、「セル厚み変化量」ともいう。)が0.051~0.055%であることを特徴とする。
【0007】
上記準備工程で準備する蓄電セルは、0.051~0.055%である。かかる構成を持つ蓄電セルでは、準備工程の段階で蓄電セル毎の厚みばらつきが抑えられている。そのため、積層工程時において蓄電セルを容易に積層(組付け)することができる。その一方で、セル厚み変化量が上記範囲の蓄電セルは、充放電による蓄電セルの膨化を抑制する。従って、ここに開示される製造方法によれば、スタックの構築時においても、蓄電セルの厚みばらつきを抑え、かつ、スタックの使用時においても蓄電セルの厚みが安定したスタックの提供が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態に係るスタックを模式的に示す斜視図である。
図2図2は、蓄電セルの斜視図である。
図3図3は、図2のIII-III線に沿う模式的な縦断面図である。
図4図4は、封口板に取り付けられた巻回電極体を模式的に示す斜視図である。
図5図5は、巻回電極体を模式的に示す斜視図である。
図6図6は、巻回電極体の構成を示す模式図である。
図7図7は、一実施形態に係るスタックの製造方法を示すフロー図である。
図8図8は、巻回電極体の厚み変化について説明するための模式図である。(A)は、非水電解質が少ない巻回電極体を示す。(B)は、非水電解質が多い巻回電極体を示す。(C)は、非水電解質が多く、更に非水電解質層が存在する巻回電極体を示す。
図9図9は、準備工程におけるセル厚み変化量の測定を説明する模式図である。
図10図10は、一実施形態に係る蓄電セルの製造方法を示すフロー図である。
図11図11は、セル厚み変化量とセル厚みばらつきの関係を示すグラフである。
図12図12は、セル厚み変化量とセル膨化率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、適宜図面を参照しながら、ここに開示されるスタックのいくつかの好適な実施形態を説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本開示の実施に必要な事柄(例えば、本開示を特徴付けない蓄電セルの一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここに開示されるスタックは、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0010】
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、本明細書において範囲を示す「A~B」の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含するものとする。
【0011】
図1は、一実施形態に係るスタック500を模式的に示す斜視図である。スタック500は、ここでは、複数の蓄電セル100と、拘束機構300と、を備えている。また、説明の便宜上ここでは図示しないが、スタック500の複数の蓄電セル100は、バスバーで電気的に接続されている。なお、以下の説明において、図面中の符号L、R、F、Rr、U、Dは、左、右、前、後、上、下を表し、図面中の符号X、Y、Zは、蓄電セル100の短辺方向、短辺方向と直交する長辺方向、上下方向を、それぞれ表すものとする。短辺方向Xは、蓄電セル100の配列方向でもある。ただし、これらは説明の便宜上の方向に過ぎず、スタック500の設置形態を何ら限定するものではない。
【0012】
拘束機構300は、複数の蓄電セル100に対して、厚み方向Xから規定の拘束圧を印加するように構成されている。拘束機構300は、ここでは、一対のエンドプレート310と、一対のサイドプレート320と、複数のビス330とで、構成されている。一対のエンドプレート310は、所定の厚み方向Xに並んでいる。一対のエンドプレート310は、厚み方向Xにおいてスタック500の両端に配置されている。複数の蓄電セル100は、一対のエンドプレート310の間に、厚み方向Xに沿って配置されている。複数の蓄電セル100の間に、絶縁シートやセル間セパレータ等を配置してもよい。
【0013】
一対のサイドプレート320は、一対のエンドプレート310を架橋している。一対のサイドプレート320は、例えば、拘束荷重が概ね5~20kN程度となるように、複数のビス330によってエンドプレート310に固定されている。これにより、複数の蓄電セル100と複数の多孔質弾性部材200とに対して厚み方向Xから拘束荷重が印加され、スタック500が一体的に保持されている。ただし、拘束機構はこれに限定されるものではない。拘束機構300は、例えば、サイドプレート320にかえて、複数の拘束バンドやバインドバー等を備えていてもよい。
【0014】
<蓄電セル100>
本明細書において「蓄電セル」とは、繰り返し充電と放電を行なうことができるデバイスをいう。蓄電セルには、一般にリチウムイオン電池やリチウム二次電池などと称される電池の他、リチウムポリマー電池、リチウムイオンキャパシタなどが包含される。二次電池とは、正負極間の電荷担体の移動に伴って繰り返しの充放電が可能な電池一般をいう。ここでは、蓄電セルの一形態として、リチウムイオン二次電池を例示する。
【0015】
図2は、蓄電セル100の斜視図である。図1図2に示すように、複数の蓄電セル100は、後述する第1側壁12bが相互に対向するように、厚み方向Xに並んでいる。図3は、図2のIII-III線に沿う模式的な縦断面図である。図3に示すように、蓄電セル100は、ケース10と、巻回電極体20と、非水電解質(図示せず)と、更に、正極端子30と、負極端子40と、正極集電部50と、負極集電部60と、を備えている。蓄電セル100は、ここではリチウムイオン二次電池である。
【0016】
ケース10は、巻回電極体20および非水電解質を収容する筐体である。図2に示すように、ケース10は、扁平かつ有底の直方体形状(角形)の外形を有する。ケース10の材質は、従来から使用されているものと同じでよく、特に制限はない。ケース10は、金属製であることが好ましく、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金等からなることがより好ましい。図2に示すように、ケース10は、開口12hを有する外装体12と、開口12hを封口する封口板(蓋体)14と、を備えている。ケース10は、本実施形態のように、開口12hを有する外装体12と、開口12hを封口する封口板14とを備えることが好ましい。
【0017】
外装体12は、図2に示すように、底部12aと、底部12aから延び相互に対向する一対の第1側壁12bと、底部12aから延び相互に対向する一対の第2側壁12cと、を備えている。底部12aは、略矩形状である。底部12aは、開口12hと対向している。第1側壁12bは平坦である。第1側壁12bは底部12aのうち、長辺側から延びる。第2側壁12cは底部12aのうち、短辺側から延びる。平面視において、第1側壁12bの面積は、第2側壁12cの面積よりも大きい。
【0018】
封口板14は、外装体12の開口12hを塞ぐように外装体12に取り付けられている。封口板14は、外装体12の底部12aと対向している。封口板14は、平面視において略矩形状である。ケース10は、外装体12の開口12hの周縁に封口板14が接合(好ましくは溶接接合)されることによって、一体化されている。ケース10は、気密に封止(密閉)されている。
【0019】
図3に示すように、封口板14には、注液孔15と、排出弁17と、2つの端子引出孔18、19と、が設けられている。注液孔15は、外装体12に封口板14を組み付けた後、非水電解質を注液するためのものである。注液孔15は、封止部材16により封止されている。排出弁17は、ケース10内の圧力が所定値以上になったときに破断して、ケース10内のガスを外部に排出するように構成されている。端子引出孔18、19は、封口板14を上下方向Zに貫通している。端子引出孔18、19は、それぞれ、封口板14に取り付けられる前の(かしめ加工前の)の正極端子30および負極端子40を挿通可能な大きさの内径を有する。
【0020】
非水電解質は従来と同様でよく、特に制限はない。非水電解質は、非水溶媒と支持塩(電解質塩)とを含有する。非水電解質は、必要に応じてさらに添加剤を含んでもよい。非水溶媒は、例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類を含む。非水溶媒は、カーボネート類を含むことが好ましい。特に、環状カーボネートおよび鎖状カーボネートを含むことが好ましい。支持塩は、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等のフッ素含有リチウム塩である。非水電解質に含みうる添加剤としては、例えば、被膜形成剤、ガス発生剤、分散剤、増粘剤等が採用し得る。被膜形成剤としては、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、クロロエチレンカーボネート、メチルフェニルカーボネートなどのカーボネート化合物;リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiFOB)、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート(LPFO)などのオキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩;等が挙げられる。
【0021】
正極端子30は、封口板14の長辺方向Yの一方側の端部(図2図3の左端部)に配置されている。負極端子40は、封口板14の長辺方向Yの他方側の端部(図2図3の右端部)に配置されている。図3に示すように、正極端子30および負極端子40は、端子引出孔18、19を挿通して封口板14の内部から外部へと延びている。正極端子30および負極端子40は、封口板14に固定されている。正極端子30および負極端子40は、ここでは、かしめ加工により、封口板14の端子引出孔18、19を囲む周縁部分に、かしめられている。正極端子30および負極端子40の外装体12の側の端部(図3の下端部)には、かしめ部30c、40cが形成されている。
【0022】
図3に示すように、正極端子30は、外装体12の内部で、正極集電部50を介して巻回電極体20の正極22(図6参照)と電気的に接続されている。負極端子40は、外装体12の内部で、負極集電部60を介して巻回電極体20の負極24(図6参照)と電気的に接続されている。正極端子30は、内部絶縁部材80およびガスケット90によって封口板14と絶縁されている。負極端子40は、内部絶縁部材80およびガスケット90によって封口板14と絶縁されている。
【0023】
封口板14の外側の面には、板状の正極外部導電部材32および負極外部導電部材42が取り付けられている。正極外部導電部材32は、正極端子30と電気的に接続されている。負極外部導電部材42は、負極端子40と電気的に接続されている。正極外部導電部材32および負極外部導電部材42は、複数の蓄電セル100を相互に電気的に接続するバスバー等が付設される部材である。正極外部導電部材32および負極外部導電部材42は、外部絶縁部材92によって封口板14と絶縁されている。なお、図1では図示が省略されているが、スタック500の使用時には、隣り合う蓄電セル100同士が電気的に接続される。例えば、隣り合う蓄電セル100のうち、一方の蓄電セル100の正極外部導電部材32と、他方の蓄電セル100の負極外部導電部材42とが、バスバー等で電気的に接続される。これにより、スタック500は電気的に接続される。スタック500の接続は、直列接続でもよく、並列接続でもよく、また、直列と並列を組み合わせたいわゆる多直多並接続でもよい。
【0024】
図4は、封口板14に取り付けられた巻回電極体20を模式的に示す斜視図である。巻回電極体20は、ここでは3つの巻回電極体20を有する。ただし、1つの外装体12の内部に配置される電極体の数は特に限定されず、1つであってもよいし、複数個(2つ以上)であってもよい。巻回電極体20は、ここでは並列に電気的に接続されている。巻回電極体20は、巻回軸WL(図6参照)が長辺方向Yと略平行になる向きで、外装体12の内部に配置されている。巻回電極体20は、ここでは、蓄電セル100の厚み方向(換言すれば、ケース10の第1側壁12bに対して略垂直な方向。)と巻回電極体20の厚み方向が一致する方向(短辺方向X)に並んで配置されている。巻回電極体20は、外形が扁平形状であることが好ましい。巻回電極体20の巻回軸WLと直交する端面(言い換えれば、正極22と負極24とが積層された積層面)は、第2側壁12cと対向している。また、図示は省略するが、巻回電極体20と外装体12との間には、絶縁シートが配置されている。
【0025】
図5は、巻回電極体20を模式的に示す斜視図である。なお、ここでは、ケース10内に収容された巻回電極体20はいずれも同様の構成とすることができる。巻回電極体20は、一対の湾曲部(R部)20rと、一対の湾曲部20rを連結する平坦部20fと、を有している。一方(図5の上側)の湾曲部20rは、封口板14と対向し、他方(図5の下側)の湾曲部20rは、外装体12の底部12aと対向している。平坦部20fは、外装体12の第1側壁12bと対向している。ここでは、短辺方向Xに隣り合う複数の巻回電極体20は、それぞれ平坦部20f同士が対向している。
【0026】
図6は、巻回電極体20の構成を示す模式図である。巻回電極体20は、正極22と、負極24と、セパレータ26と、を有する。巻回電極体20は、ここでは、帯状の正極22と、帯状の負極24とが、帯状のセパレータ26を介して積層され、巻回軸WLを中心として長手方向に巻回されて構成されている。なお、巻回軸WL方向は、長辺方向Yと略平行の向きである。
【0027】
正極22は、図6に示すように、ここでは、正極芯体22cと、正極芯体22cの少なくとも一方の表面上に固着された正極活物質層22aおよび正極保護層22pと、を有する。ただし、正極保護層22pは必須ではなく、他の実施形態において省略することもできる。正極芯体22cは、帯状である。正極芯体22cは、金属箔であることが好ましく、アルミニウム箔あるいはアルミニウム合金箔からなることがより好ましい。正極芯体22cは、ここではアルミニウム箔である。正極22の積層数は、30層以上であることが好ましい。
【0028】
正極芯体22cの長辺方向Yの一方の端部(図6の左端部)には、複数の正極タブ22tが設けられている。複数の正極タブ22tは、長辺方向Yの一方側(図6の左側)に向かって突出している。複数の正極タブ22tは、セパレータ26よりも長辺方向Yに突出している。正極タブ22tは、ここでは正極芯体22cの一部であり、金属箔(アルミニウム箔)からなっている。正極芯体22cの厚みは、特に限定されないが、5~30μmが好ましく、10~25μmがより好ましい。図3図6に示すように、複数の正極タブ22tは長辺方向Yの一方の端部(図3図6の左端部)で積層され、正極タブ群23を構成している。正極タブ群23は、正極集電部50を介して正極端子30と電気的に接続されている。
【0029】
正極活物質層22aは、図6に示すように、正極芯体22cの長手方向に沿って、帯状に設けられている。正極活物質層22aは、電荷担体を可逆的に吸蔵および放出可能な正極活物質を含んでいる。正極活物質としては、例えばリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。正極活物質層22aは、正極活物質以外の任意成分、例えば、バインダー、導電材、等の各種添加成分を含んでいてもよく、添加成分として導電材及びバインダーを含むことが好ましい。正極活物質層22aに用いられるバインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等が挙げられる。正極活物質層22aに用いられる導電材としては、特に限定されないが、炭素材料が好適に用いられる。正極活物質層22aの密度は、3.0g/cc以上が好ましく、3.5g/cc以上がより好ましい。一方で、正極活物質層22aの密度は、好ましくは3.7g/cc以下が好ましい。
【0030】
正極保護層22pは、図6に示すように、ここでは、長辺方向Yにおいて正極芯体22cと正極活物質層22aとの境界部分に設けられている。正極保護層22pは、正極活物質層22aに沿って、帯状に設けられている。正極保護層22pは、無機フィラー(例えば、アルミナ)を含んでいる。正極保護層22pは、無機フィラー以外の任意成分、例えば、導電材、バインダー、各種添加成分等を含んでいてもよい。
【0031】
負極24は、図6に示すように、ここでは、負極芯体24cと、負極芯体24cの少なくとも一方の表面上に固着された負極活物質層24aと、を有する。負極芯体24cは、帯状である。負極芯体24cは、金属箔であることが好ましく、銅箔あるいは銅合金箔からなることがより好ましい。負極芯体24cは、ここでは銅箔である。
【0032】
負極芯体24cの長辺方向Yの一方の端部(図6の右端部)には、複数の負極タブ24tが設けられている。複数の負極タブ24tは、長辺方向Yの一方側(図6の右側)に向かって突出している。複数の負極タブ24tは、セパレータ26よりも長辺方向Yに突出している。負極タブ24tは、ここでは負極芯体24cの一部であり、金属箔(銅箔)からなっている。負極芯体24cの厚みは、特に限定されないが、5~30μmが好ましく、5~15μmがより好ましい。図3図6に示すように、複数の負極タブ24tは長辺方向Yの一方の端部(図3図6の右端部)で積層され、負極タブ群25を構成している。負極タブ群25は、長辺方向Yにおいて正極タブ群23と対称的な位置に設けられている。負極タブ群25は、負極集電部60を介して負極端子40と電気的に接続されている。
【0033】
負極活物質層24aは、図6に示すように、負極芯体24cの長手方向に沿って、帯状に設けられている。負極活物質層24aは、電荷担体を可逆的に吸蔵および放出可能な負極活物質を含んでいる。負極活物質としては、例えば、黒鉛、シリコン系材料(シリコン含有物質)およびそれらの混合酸化物などが好適に用いられる。負極活物質層24aは、負極活物質以外の任意成分、例えば、バインダー、増粘剤、分散剤、等の各種添加成分を含んでいてもよい。負極活物質層24aに用いられるバインダーとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。負極活物質層24aに用いられる導電材としては、特に限定されないが、炭素材料が好適に用いられる。負極活物質層24aの密度は、1.3g/cc以上が好ましく、1.4g/cc以上がより好ましい。一方で、負極活物質層24aの密度は、好ましくは1.7g/cc以下が好ましい。
【0034】
負極活物質層24aの幅方向Yの長さLnは、正極活物質層22aの幅方向Yの長さLaと同じかそれよりも長い。ここで、負極活物質層24aの幅方向Yの長さLnは、20cm以上であることが好ましい。詳しくは後述するが、かかる構成によれば、巻回電極体20内の非水電解質を巻回電極体20の外部への押し出しを好適にコントロールすることができる。また、巻回電極体20の巻回軸WL方向に対し垂直で、且つ巻回電極体20の厚み方向Xに対し垂直な方向(ここではZ方向)の長さを、巻回電極体20の高さTとしたとき、巻回電極体20の高さTに対する負極活物質層24aの幅方向の長さLnの比(Ln/T)(以下、「電極体アスペクト比」ともいう。)が2.8~3.2であることが好ましい。かかる構成によれば、巻回電極体20内の非水電解質を巻回電極体20の外部への押し出しを好適にコントロールすることができる。なお、明細書中において、「巻回電極体20の高さT」とは、Z方向において、巻回電極体20の一方(図5のU側)の湾曲部20rの最上端から他方(図5のD側)の湾曲部20rの最下端までの距離を指す。
【0035】
セパレータ26は、正極22の正極活物質層22aと、負極24の負極活物質層24aと、を絶縁する部材である。セパレータ26は、巻回電極体20の外表面を構成している。セパレータ26の長辺方向Yの長さLsは、負極活物質層24aの長辺方向Yの長さLnと同じかそれよりも長い。セパレータ26は、少なくとも一方の表面上に形成され、例えばセラミック粒子とバインダーを含む耐熱層が形成されてもよい。また、セパレータ26は、少なくとも一方の表面上にバインダーを含む接着層が形成されていてもよい。接着層は、平面視で、ドット状、ストライプ状、波状、帯状(筋状)、破線状、またはこれらの組み合わせ等の形状を有して形成されてもよい。
【0036】
セパレータ26は、微多孔膜のシート状部材であることが好ましい。セパレータ26は、ポリオレフィン樹脂からなることが好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)またはこれらの混合物が用いられ得る。
【0037】
セパレータ26の厚みは、特に限定されない。非水電解質がセパレータ26に存在しない場合のセパレータ26の厚みは10~30μm程度が好ましい。なお、本明細書における「セパレータ26の厚み」は、セパレータ26が接着層や耐熱層を有する場合、接着層や耐熱層を含む厚みを示し、特に言及しない限りにおいて、プレス成形処理前の厚みを示すものとする。
【0038】
正極集電部50は、図3に示すように、複数の正極タブ22tからなる正極タブ群23と正極端子30とを電気的に接続する導通経路を構成している。正極集電部50は、正極第1集電部51と正極第2集電部52とを備えている。正極第1集電部51は、封口板14の内側の面に取り付けられている。正極第2集電部52は、外装体12の第2側壁12cに沿って延びている。図3図5に示すように、正極第2集電部52は、巻回電極体20に付設されている。
【0039】
負極集電部60は、図3に示すように、複数の負極タブ24tからなる負極タブ群25と負極端子40とを電気的に接続する導通経路を構成している。負極集電部60は、負極第1集電部61と負極第2集電部62とを備えている。負極第1集電部61および負極第2集電部62の構成は、正極集電部50の正極第1集電部51および正極第2集電部52と同等であってよい。
【0040】
<スタック500の製造方法>
図7は、一実施形態に係るスタック500の製造方法を示すフロー図である。ここに開示されるスタック500は、準備工程S10と、積層工程S20と、を含む製造方法によって製造することができ、準備工程S10を行うことで特徴づけられる。また、ここに開示されるスタック500の製造方法では、上記の工程に加え、任意の段階でさらに他の工程を含んでもよく、それ以外の製造プロセスは従来と同様であってよい。
【0041】
(準備工程S10)
準備工程S10では、上記したような巻回電極体20と、非水電解質と、ケース10と、を備える蓄電セル100を準備する。準備工程S10では、蓄電セル100を購入して準備してもよく、蓄電セル100を製造して準備してもよい。
【0042】
ここで、準備工程S10で準備する蓄電セル100は、蓄電セル100の厚み方向(図1のX方向)に荷重を0.1mm/minの速度で2.0MPaまで印加し、該印加後に前記荷重を0.01MPaまで減少する処理を1サイクルとし、該処理を3サイクル行ったとき、1サイクル目における2.0MPa印加時の蓄電セル100の厚みX1に対する、3サイクル目における2.0MPa印加時の蓄電セル100の厚みX3の変化量((X1-X3)/X1×100)(以下、「セル厚み変化量」ともいう。)が0.051~0.055%であることを特徴とする。なお、本明細書において「セル厚み変化量」は、オートグラフによる測定によって求める。
【0043】
例えば、蓄電セル100毎に巻回電極体20内の非水電解質の押し出されやすさにばらつきがある場合(即ち、セル厚み変化量が大きい場合。)、言い換えれば蓄電セル100の厚み(X方向の厚さ)にばらつきがある場合、後の積層工程S20において、蓄電セル100の積層(組付け)が困難となる。蓄電セル100の厚みは、例えば、巻回電極体20の厚みによって変化する。詳述すれば、巻回電極体20の厚みは、巻回電極体20が巻回電極体厚み方向Xに押圧された際に、巻回電極体20内に存在する非水電解質が巻回電極体20の外部に出ていく際の、非水電解質の押し出され易さによって決まる。換言すれば、上記押圧後の、巻回電極体20内の非水電解質の量によって決まる。
【0044】
図8は、巻回電極体20の厚み変化について説明するための模式図である。図8では、巻回電極体20の一部について部分的に拡大している。図8の(A)は、非水電解質が少ない巻回電極体20を示す。図8の(B)は、非水電解質が多い巻回電極体20を示す。図8の(C)は、非水電解質が多く、更に非水電解質層28が存在する巻回電極体20を示す。巻回電極体20内の非水電解質は、例えば、セパレータ26内部に存在し得る。非水電解質がセパレータ26の内部に存在する場合、存在する非水電解質の分セパレータ26の厚みが厚くなり、巻回電極体20の厚みが変化する。図8に示すように、非水電解質が多い場合と少ない場合では、セパレータ26の厚みが異なる分、巻回電極体20の厚みが異なる。また、非水電解質は更に、図8の(C)に示すようにセパレータ26と正極活物質層22aの間、あるいはセパレータ26と負極活物質層24aの間にも非水電解質層28として存在し得る場合がある。図8の(C)に示すように、巻回電極体20に非水電解質層28が存在する場合、巻回電極体20の厚みは更に厚くなる。
【0045】
一方、蓄電セル100の厚みを一定にする(ばらつきを抑える)ためには、巻回電極体20から非水電解質を押し出されにくくする(即ち、セル厚み変化量を小さくする。)ことが考えられる。換言すれば、巻回電極体20内部に非水電解質が多く残るようにすることによって、蓄電セル100の厚みを一定にすることが考えられる。しかしながら、巻回電極体20内部に非水電解質が過剰に多く残る場合、スタック500の使用時において、充放電によるスタック500に積層された蓄電セル100の膨化が大きくなる。
【0046】
そこで、ここに開示される技術においては、セル厚み変化量が0.051~0.055%となる蓄電セル100を準備することを特徴とする。かかる構成をもつ蓄電セル100においては、準備工程S10の段階で蓄電セル100毎の厚みばらつきが抑えられているため、積層工程S20時において蓄電セル100を容易に積層(組付け)することができる。その一方で、セル厚み変化量が上記範囲の蓄電セル100は、充放電による蓄電セル100の膨化を抑制する。従って、スタック500の構築時においても、蓄電セル100の厚みばらつきを抑え、かつ、スタック500の使用時においても蓄電セル100の厚みが安定したスタック500の提供が実現される。
【0047】
図9は、準備工程S10における、セル厚み変化量の測定を説明する模式図である。図9では、オートグラフ600が蓄電セル100の厚み方向に荷重をかける向きについて、白矢印で図示する。図9に示すように、まず蓄電セル100を厚み方向(白抜き矢印方向)に荷重がかかるようにオートグラフ600にセットする。図9に示すように、蓄電セル100の一対の第1側壁12bとオートグラフ600とが当接するようにセットする。蓄電セル100を水平方向に見た時、巻回電極体20の平坦部20fにオートグラフ600による荷重がかかるようにセットする。ここでは、図3の仮想線で示す箇所に荷重がかかるようにオートグラフ600に蓄電セル100をセットする。そして蓄電セル100を蓄電セル100の厚み方向(白抜き矢印で図示)に0.1mm/minの速度で荷重をかける。荷重が2MPaに達したとき、蓄電セル100の厚みを変位計により(図示せず)測定し、かかる厚みをX1とする。その後、蓄電セル100への荷重を0.01MPaまで減少する。上記のサイクルを1サイクルとし、該処理を3サイクル行う。そして、3サイクル目の、荷重が2MPaに達したとき、蓄電セル100の厚みをX3とする。そして、次式(i)によって、セル厚み変化量(%)を算出する。
セル厚み変化量(%)=(X1-X3)/X1×100・・・式(i)
【0048】
蓄電セル100の厚み変位を測定する手段は特に限定されず、例えば、レーザ変位計(例えば、株式会社キーエンス製、製品名IL-S025)等を用いることができる。また、蓄電セル100の厚みの測定箇所は1か所でも複数箇所(2か所以上)でもよい。複数箇所より蓄電セル100の厚み変位を測定する場合、複数箇所の測定値から平均値を算出することによりX1およびX3とすることができる。
【0049】
準備工程S10においては、セル厚み変化量の数値範囲が0.051~0.055%の範囲である蓄電セル100を準備してよいし、準備工程S10にて上記した方法でセル厚み変化量を測定することにより、蓄電セル100のセル厚み変化量の数値範囲が0.051~0.055%の範囲であることを確認してもよい。
【0050】
(積層工程S20)
積層工程S20では、複数の蓄電セル100を蓄電セル100の厚み方向Xに沿って積層する。積層工程S20は、従来公知のスタック製造方法と同様であってよい。ここでは、複数の蓄電セル100を一対のエンドプレート310で配列方向Xに挟み込み、サイドプレート320と複数のビス330によって拘束される。このようにして、本実施例に係るスタック500が製造される。
【0051】
<蓄電セル100の製造方法>
特に限定するものではないが、準備工程S10の蓄電セル100は、例えば、以下に示す製造方法によって準備することができる。なお、以下に示す蓄電セル100の製造方法は、本明細書における準備工程S10の一例である。図10は、一実施形態に係る蓄電セル100の製造方法を示すフロー図である。図10に示すように、特に限定されるものではないが、蓄電セル100は、例えば、組立工程S101と、乾燥工程S102と、注液工程S103と、ガス抜き充電工程S104と、減圧工程S105と、注液孔封止工程S106と、活性化工程S107と、エージング工程S108とを、典型的にはこの順序で含む製造方法によって製造することができる。また、ここに開示される蓄電セル100の製造方法では、上記の工程に加え、任意の段階でさらに他の工程を含んでもよく、それ以外の製造プロセスは従来と同様であってよい。
【0052】
(組立工程S101)
組立工程S101では、ケース10(外装体12)内に巻回電極体20を配置し、組立体を用意する。なお、本明細書において「組立体」とは、後述する注液孔封止工程を行う前の形態にまで組み立てられた蓄電セルのことを示す。
【0053】
組立工程S101では、巻回電極体20の正極タブ群23に正極第2集電部52を取り付け、さらに負極タブ群25に負極集電部60負極第2集電部62を取り付ける。次いで、封口板14に正極端子30と負極端子40とを取り付ける。次いで、正極端子30と正極第1集電部51とを、及び、負極端子40と負極第1集電部61とを、それぞれ従来公知の方法(例えば、超音波接合、抵抗溶接、レーザ溶接等)で接合する。次いで、絶縁シートに巻回電極体20を収容する。絶縁シートは、例えば、ポリエチレン(PE)等の樹脂材料からなる絶縁性の樹脂シートを、袋状または箱状に折り曲げることにより用意することができる。そして、絶縁シートで覆われた巻回電極体20を外装体12の内部空間に収容(挿入)することが好ましい。そして、ケース10の外装体12と封口板14とを接合することによって、組立体を作製する。かかる接合は、例えばレーザ溶接等の溶接によって行うことができる。組立工程S101では、注液孔15は封止されない。
【0054】
組立工程S101では、巻回電極体20は、蓄電セル100の厚み方向(換言すれば、ケース10の第1側壁12bに対して略垂直な方向。)と巻回電極体20の厚み方向が一致する方向(短辺方向X)に並んで配置することが好ましい。換言すれば、巻回電極体20は巻回軸WLが外装体12の底部12aに平行になるようにして外装体12の内部に配置されることが好ましい。
【0055】
(乾燥工程S102)
乾燥工程S102では、組立体を乾燥することで、組立体(例えば、巻回電極体20の内部等)に含まれる水分を除去する。かかる乾燥方法は、公知の方法で行うことができる。例えば、乾燥工程S102は、組立体(巻回電極体20が収容されたケース10)を乾燥炉(図示せず)に搬送し、加熱することで行うことができる。
【0056】
乾燥工程S102における乾燥温度および乾燥時間は、巻回電極体20に含まれる水分量等に合わせて適宜調整することができる。乾燥温度は、水分を除去できる範囲であれば特に限定されないが、巻回電極体20のセパレータ26が損傷しない温度で乾燥することが望ましい。また、乾燥工程S102は、好ましくは減圧雰囲気で実施されるとよい。これにより、乾燥工程S102における乾燥時間を短縮することができる。ただし、これに限定されず、乾燥工程S102は大気圧雰囲気で実施されてもよいし。なお、ここに開示される技術において、乾燥工程S102は必須工程ではない。いくつかの好適な実施形態において、乾燥工程S102を省略することもできる。
【0057】
(注液工程S103)
注液工程S103では、封口板14に設けられた注液孔15から、巻回電極体20が収容されたケース10内に非水電解質を注液する。注液工程S103は、大気圧雰囲気で実施されてもよいし、減圧雰囲気で実施されてもよいが、好ましくは、減圧雰囲気で実施されるとよい。これにより、巻回電極体20内への非水電解質の含侵性が向上し、注液工程S103をより短時間で行うことができる。注液工程S103では、非水電解質が巻回電極体20の全体にいきわたる分量となるよう非水電解質を注液する。注液工程S103は、従来公知の非水電解質注液装置を適宜利用することができる。なお、このとき、非水電解質を圧送するために用いられ得る圧送ガスとしては、従来と同様、窒素(N)等の不活性ガス、乾燥空気等が挙げられる。注液工程S103の終了後、ケース10内の加圧、減圧を適宜行うことが好ましい。
【0058】
(ガス抜き充電工程S104)
ガス抜き充電工程S104では、組立体を充電する。これにより、負極活物質層24aの表面に被膜を形成させることができる。さらに、充放電にて発生するガスをケース10外へ排出することで、注液孔15を封止した後にケース10内部にて発生するガス量を低減し、注液孔15の封止後に巻回電極体20内にガスが滞留することを抑制できる。本工程における充電条件は特に限定されず、従来の製造方法と同様であってよい。とくに限定されないが、例えば、ガス抜き充電工程S104は、常温環境(例えば25℃)において、SOC(State of Charge)が5%~20%程度となるまで0.05C~1C程度の電流で充電することで実施できる。
【0059】
(減圧工程S105)
減圧工程S105では、ケース10内部を減圧することで、ケース10内部に存在する気体(例えば、空気やガス抜き充電工程S104で発生したガス等)を更にケース10の外部へ排出する。減圧工程S105は、従来のこの種の製造方法における減圧工程に用いる手段と同様でよく、特にここに開示される技術を特徴付けるものではないため、これ以上の詳細な説明は省略する。なお、ここに開示される技術において、減圧工程S105は必須工程ではない。いくつかの好適な実施形態において、減圧工程S105を省略することもできる。
【0060】
(注液孔封止工程S106)
注液孔封止工程S106では、組立体の注液孔15を封止する。注液孔封止工程S106は、従来公知の蓄電セル100の製造方法と同様であってよく、特に限定されるものではない。ここでは、金属製の封止部材16によって注液孔15を封止し、封止部材16の金属部分と封口板14(注液孔15の周縁部)を溶接することによって封止している。但し、注液孔15の封止方法はこれに限定されない。図示は省略するが、例えばブラインドリベット等のリベットによって注液孔15を封止してもよい。
【0061】
(活性化工程S107)
活性化工程S107では、注液孔封止工程S106を経て注液孔15が封止された蓄電セル100に対し、蓄電セル100の厚み方向に荷重を印加しながら充電を行う。これにより、負極活物質層24aの表面に被膜を形成させる。なお、活性化工程S107は、本明細における「準備工程S10」の一例として包含される。
【0062】
活性化工程S107における充電条件は特に限定されず、従来の製造方法と同様であってよい。とくに限定されないが、例えば、活性化工程S107は、常温環境(例えば25℃)において、SOC(State of Charge)が20%~100%程度となるまで0.05C~10C程度の電流で充電することで実施できる。
【0063】
活性化工程S107において、蓄電セル100に対し印加する荷重は、0.5~0.7MPaであることが好ましい。かかる構成によれば、よりセル厚み変化量が好適な範囲内(0.051~0.055%)とすることができる。蓄電セル100に荷重を印加する方法は特に限定されず、従来の蓄電セルの製造方法に採用されうる一般的な手段を採用し得る。例えば、蓄電セル100の一対の第1側壁12bを拘束板で挟み込み、当該拘束板を架橋部材で接続することによって蓄電セル100に荷重を印加することができる。
【0064】
(エージング工程S108)
エージング工程S108では、活性化工程S107を経た蓄電セル100に対し、充電状態を維持したまま、所定の温度環境下で、所定の時間、蓄電セル100を保管する。これにより、より好適に負極活物質層24aの表面に被膜を形成させることができる。なお、ここに開示される技術において、エージング工程S108は必須工程ではない。いくつかの好適な実施形態において、エージング工程S108を省略することもできる。
【0065】
なお、エージング工程S108の条件は、要求される被膜形成の態様に応じて適宜調節することができ、特に限定されない。例えば、エージング工程S108におけるセル温度(エージング温度)は、30℃以上、好ましくは40℃以上、例えば50℃以上、さらには60℃以上とすることができる。エージング温度の上限は特に制限されないが、例えば、80℃以下程度を目安とすることができる。エージング工程S108における温度管理は、例えば、恒温槽などを用いることができる。エージング工程S108の実施時間(エージング時間)は、例えば、エージング温度に応じて適宜変更することができ、特に限定されない。例えば、エージング温度を45~70℃程度とする場合は、エージング時間を5~20時間程度にすることが好ましい。また、エージング温度を70~75℃程度とする場合には、エージング時間を5~15時間程度にすることが好ましい。
【0066】
また、エージング工程S108では、蓄電セル100の厚み方向Xに荷重を印加しながらエージングを行うことが好ましい。エージング工程S108における蓄電セルに印加する荷重量は、特に限定されないが、0.5~0.7MPaであることがこのましい。また、活性化工程S107で印加する荷重を維持したままエージング工程S108に移行することもできる。
【0067】
スタック500は各種用途に利用可能であるが、例えば、乗用車、トラック等の車両に搭載されるモータ用の動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、例えば、プラグインハイブリッド自動車(PHEV;Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV;Hybrid Electric Vehicle)、電気自動車(BEV;Battery Electric Vehicle)等が挙げられる。
【0068】
以下、ここに開示される技術に係る実施例を説明するが、かかる実施例はここに開示される技術を限定することを意図するものではない。
【0069】
<蓄電セルの準備>
まず、実施例に係るスタックを構築するための蓄電セルを100個準備した。なお、実施例に係る蓄電セルに収容された巻回電極体は、図5に示すような1対の湾曲部を有し、帯状の正極と、帯状の負極とが、帯状のセパレータを介して積層され長手方向に巻回されたものを用いた。また、実施例に係る蓄電セルの負極活物質層形成領域の幅(Ln)は28cmとし、電極体アスペクト比(巻回電極体の高さTに対する負極活物質層の幅方向の長さLnの比(Ln/T))が3.0となるようにした。また、巻回電極体に係る正極の積層数は100層とした。
【0070】
また、比較例1として、略矩形状の正極と、略矩形状の負極とが、略矩形状のセパレータを介して、蓄電セルの厚み方向Xに積層されたいわゆる積層構造である電極体(即ち、巻回電極体ではない電極体)を用いた点、また、上記電極体のアスペクト比が1.6であり、ケースの形状を電極体アスペクト比に併せて変更した点、活性化工程において蓄電セルの厚み方向に0.2MPaの荷重を印加しながら充放電を行った点以外は実施例1に係る蓄電セルと同じである、比較例1に係る蓄電セルを100個準備した。同様に、比較例2として、活性化工程において蓄電セルの厚み方向に0.4MPaの荷重を印加しながら充放電を行った点、の1点以外は実施例1に係る蓄電セルと同じである、比較例2に係る蓄電セルを100個準備した。
【0071】
<セル厚み変化量の評価>
実施例1、比較例1および比較例2について、各例につき3個ずつ(即ち、n=3)蓄電セルを無作為抽出した。これらの蓄電セルに対し、上記した方法により、セル厚み変化量の評価を行った。なお、オートグラフは、AG-X Plus(株式会社島津製作所)を使用し、オートグラフには、蓄電セルの厚みを測定するための変位計を2か所設置した。まず、図9に示すように、蓄電セルをオートグラフにセットした。そして、蓄電セルの厚み方向(白抜き矢印で図示)に0.1mm/minの速度で荷重をかけた。荷重が2MPaに達したときの蓄電セルの厚みを2点測定した。かかる測定値より、平均値を算出し、X1とした。その後、荷重を0.01MPaまで減少した。1サイクルとし、該処理を3サイクル行った。そして、得られたX1およびX3を用いて、式(i)によりセル厚み変化量(%)を算出した。結果を表1に示す。
セル厚み変化量(%)=(X1-X3)/X1×100・・・式(i)
【0072】
【表1】
【0073】
<セル厚みばらつきの評価>
オートグラフを用いて、実施例1、比較例1および比較例2に係る蓄電セルに対し、該蓄電セルの厚み方向に0.2MPa荷重をかけた際の蓄電セルの厚みを測定した。かかる測定は、各例で用意した蓄電セル100個ずつに対してそれぞれ行われた。なお、測定に用いた装置は上記したセル厚み変化量の評価時と同様とした。得られた蓄電セル厚みを用いて、式(ii)によって蓄電セルの厚みのばらつきの評価を行った。結果を表1に示す。また、セル厚み変化量とセル厚みばらつきの関係を示すグラフを図11に表す。なお、図11の各例に係るセル厚み変化量は、蓄電セル毎のセル厚み変化量の平均値をプロットした。
セル厚みばらつきδ(%)=標準偏差/平均厚み×100・・・式(ii)
【0074】
<充放電によるセル膨化率の評価>
ここでは、実施例1および比較例1~2に係る蓄電セルに対し、充放電によるセル膨化率の評価を行った。具体的には、まず、実施例1および比較例1~2に係る蓄電セルのうち、セル厚み変化量の評価に供した3個の蓄電セルに対し、該蓄電セルの厚み方向に0.2MPa荷重をかけた際の蓄電セルの厚みを測定し、試験前セル厚みとした。実施例1および比較例1~2に係る蓄電セルについて、40℃の温度環境に配置し、1/5Cの電流レートで、SOCが0~100%の範囲で充放電を行う操作を1サイクルとして、かかる操作を1000サイクル繰り返した。そして、1000サイクル充放電を行った後の蓄電セルに対し、該蓄電セルの厚み方向に0.2MPa荷重をかけた際の試験後の蓄電セルの厚みを測定し、試験後セル厚みとした。そして以下の式(iii)を用いて、充放電によるセル膨化率を評価した。結果を表1に示す。また、セル厚み変化量とセル膨化率の関係を示すグラフを図12に表す。なお、図12の各例に係るセル厚み変化量は、蓄電セル毎のセル厚み変化量の平均値をプロットした。
充放電によるセル膨化率(%)=(試験後セル厚み-試験前セル厚み)/試験前セル厚み×100・・・式(iii)
【0075】
<結果>
表1から分かるように、実施例1のようにセル厚み変化量を0.051~0.055%の範囲内とした蓄電セルでは、比較例1,2と比較して蓄電セル厚みばらつきの抑制と1000サイクル充放電後のセル膨化率の抑制がいずれもみられた。従って、実施例1の蓄電セルを積層したスタックでは、蓄電セル厚みばらつきが小さいため、積層工程を容易に行うことができ、スタック構築後においても充放電による厚み変化(膨化)を抑制することができる。
【0076】
以上、本開示の好適な実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本開示は、他にも種々の形態にて実施することができる。本開示は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を他の変形例に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形例を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【0077】
以上の通り、ここで開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
項1:複数の角型の蓄電セルを備えたスタックの製造方法であって、正極と負極とがセパレータを介して積層され巻回されてなる扁平形状の巻回電極体と、非水電解質と、上記巻回電極体と上記非水電解質とを収容するケースと、を備える上記蓄電セルを準備する準備工程と、複数の上記蓄電セルを該蓄電セルの厚み方向に沿って積層する積層工程と、を有し、上記準備工程において準備する上記蓄電セルに対し、該蓄電セルの厚み方向に荷重を0.1mm/minの速度で2.0MPaまで印加し、該印加後に上記荷重を0.01MPaまで減少する処理を1サイクルとし、該処理を3サイクル行ったとき、1サイクル目における2.0MPa印加時の上記蓄電セルの厚みX1に対する、3サイクル目における2.0MPa印加時の上記蓄電セルの厚みX3の変化量((X1-X3)/X1×100)が0.051~0.055%である、スタックの製造方法。
項2:上記負極は、負極芯体と、上記負極芯体上に形成された負極活物質層とを備え、上記巻回電極体の長手方向に直交する上記負極活物質層の幅方向の長さLnは、20cm以上である、項1に記載のスタックの製造方法。
項3:上記巻回電極体の巻回軸方向に対し垂直で、且つ上記巻回電極体の厚み方向に対し垂直な方向の長さを、上記巻回電極体の高さTとしたとき、上記巻回電極体の高さTに対する、上記負極活物質層の幅方向の長さLnの比(Ln/T)が2.8~3.2である、項2に記載のスタックの製造方法。
項4:上記準備工程は、上記蓄電セルに対し、該蓄電セルの厚み方向に荷重を印加しながら充電を行う活性化工程を含み、上記活性化工程において、上記蓄電セルに対し印加する荷重が0.5~0.7MPaである、項1~3のいずれか1項に記載のスタックの製造方法。
項5:上記正極の積層数が30層以上である、項1~4のいずれか1項に記載のスタックの製造方法。
【符号の説明】
【0078】
10 ケース
12 外装体
14 封口板
20 巻回電極体
22 正極
24 負極
26 セパレータ
100 蓄電セル
300 拘束機構
500 スタック
600 オートグラフ
S10 準備工程
S20 積層工程
S101 組立工程
S102 乾燥工程
S103 注液工程
S104 ガス抜き充電工程
S105 減圧工程
S106 注液孔封止工程
S107 活性化工程
S108 エージング工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12