IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クボタの特許一覧

<>
  • 特開-作業車 図1
  • 特開-作業車 図2
  • 特開-作業車 図3
  • 特開-作業車 図4
  • 特開-作業車 図5
  • 特開-作業車 図6
  • 特開-作業車 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142782
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20241003BHJP
   F16H 59/10 20060101ALI20241003BHJP
   F16H 61/431 20100101ALI20241003BHJP
   B60K 20/02 20060101ALI20241003BHJP
   B62D 49/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/10
F16H61/431
B60K20/02 D
B62D49/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055101
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】坂井 達也
(72)【発明者】
【氏名】中野 翔太
(72)【発明者】
【氏名】石田 陽大
(72)【発明者】
【氏名】後野 剛志
(72)【発明者】
【氏名】永▲崎▼ 英章
(72)【発明者】
【氏名】増田 亮
(72)【発明者】
【氏名】木山 和也
(72)【発明者】
【氏名】長井 大顕
【テーマコード(参考)】
3D040
3J053
3J552
【Fターム(参考)】
3D040AA01
3D040AA10
3D040AA22
3D040AA33
3D040AB04
3D040AC50
3D040AC65
3D040AE19
3D040AF26
3J053AA01
3J053AB01
3J053AB32
3J053DA12
3J053DA23
3J053FC02
3J552MA10
3J552NA05
3J552PA32
3J552PA33
3J552QA30C
3J552RA19
3J552RB01
3J552SB02
3J552VA32W
3J552VA37W
3J552VA74W
3J552VB01W
3J552VC01W
(57)【要約】
【課題】車体の前後進の切り換えを容易に行い、減速された後進を可能にする作業車を構成する。
【解決手段】車体と、走行装置と、変速装置Tと、車体を前進させる前進位置F、及び、後進させる後進位置Rの夫々に設定可能な切換操作部15と、切換操作部15が後進位置に設定された際に車体が後進する速度の減速モードを選択可能なモード選択部18と、切換操作部15で設定される操作位置、及び、モード選択部18での選択結果に対応して変速装置Tを制御する変速制御部51と、を備えている。変速制御部51は、モード選択部18で減速モードが選択された状態、且つ、切換操作部15が後進位置Rに設定された状態であるとき、標準後進速度より低速の減速後進速度で車体を後進させるように変速装置Tを制御する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体を走行させる走行装置と、
前記走行装置に駆動力を出力する変速装置と、
前記車体を前進させる前進位置、及び前記車体を後進させる後進位置の夫々の操作位置に設定可能な切換操作部と、
前記切換操作部が前記後進位置に設定された際に前記車体が後進する速度の減速モードを選択可能なモード選択部と、
前記切換操作部で設定される前記操作位置、及び、前記モード選択部での選択結果に対応して前記変速装置を制御する変速制御部と、を備え、
前記変速制御部は、前記モード選択部で前記減速モードが選択された状態、且つ、前記切換操作部が前記後進位置に設定された状態であるとき、標準後進速度より低速の減速後進速度で前記車体を後進させるように前記変速装置を制御する作業車。
【請求項2】
前記変速制御部は、前記減速後進速度で前記車体が後進する状況において、前記減速モードの選択が解除された場合、前記標準後進速度に移行することなく前記減速後進速度での後進を維持する請求項1に記載の作業車。
【請求項3】
前記変速制御部は、前記標準後進速度で前記車体が後進する状況において、前記モード選択部で前記減速モードが選択された場合、前記減速後進速度での後進に移行する請求項1に記載の作業車。
【請求項4】
前記モード選択部は、押圧操作可能なスイッチである請求項1~3の何れか一項に記載の作業車。
【請求項5】
前記変速装置は、前記車体の内燃機関の駆動力が伝えられる可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される作動油によって駆動回転し前記走行装置に駆動力を出力する油圧モータと、前記油圧ポンプから吐出される作動油圧を調整する斜板と、を有する無段変速装置で構成されている請求項1~3の何れか一項に記載の作業車。
【請求項6】
前記変速装置による前記車体の走行速度を設定する変速操作部を更に備え、
前記変速制御部は、前記減速モードが選択された状態、且つ、前記切換操作部が前記後進位置に設定された場合に 、前記標準後進速度と前記減速後進速度との比率である減速比と、前記変速操作部で設定される前記走行速度とに基づいて、前記変速装置を制御する請求項1~3の何れか一項に記載の作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前後進が可能に構成されたトラクタや田植機等の作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、トラクタによって周り耕起する際に車体を後進させ、畦とロータリ耕耘装置との位置関係を調整し、耕耘作業の開始位置を決めることが行われている。これと同様に、乗用型の田植機による苗植付作業では、車体を後進させ、畦や既植苗と苗植付装置との位置関係を調整し、植付作業の開始位置を決めることも行われている。
【0003】
このような車体の後進を可能にする構成として特許文献1には、乗用型の田植機において前後進の切換を可能にする単一の変速レバーが記載されている。この変速レバーは、中立位置から前側への操作で車体を前進させ、中立位置から後側への操作で車体を後進させるように無段変速装置と機械的に連係している。また、車体の前進時と、後進時とにおいてエンジンの回転速度を増速するようにエンジンの調速機構と機械的に連係している。
【0004】
また、特許文献2には、トラクタにおいて走行速度を設定する変速レバーと、前後進レバーとを備えた構成が記載されている。この特許文献2のトラクタは、変速レバーの操作位置、及び、前後進レバーの操作位置が入力する制御装置と、制御装置からの信号により変速操作が行われる無段変速装置を備えている。
【0005】
この特許文献2では、変速レバーが、停止位置から最高速位置の範囲で操作可能であり、前後進レバーを前進位置に操作した状態で、変速レバーを操作することにより、この操作位置に対応した走行速度を設定するように無段変速装置が制御される。また、前後進レバーを後進位置に操作することで、変速レバーで設定された速度に対応した後進速度で車体を後進させるように無段変速装置が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-166929号公報
【特許文献2】特開2009-189256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載される主変速レバーは、車体の前進と後進との切換だけでなく後進速度の減速も可能にする。この構成は、主変速レバーの操作により車体の走行速度を設定するため、例えば、後進の後に車体を決まった速度で前進させて耕起作業を行う場合には、耕起作業に適した走行速度に主変速レバーを再設定する必要があるため、操作に手間が掛かることが想像できた。
【0008】
また、特許文献2に記載される前後進レバーは、前進位置Fから後進位置Rに切り換えることにより、変速レバーによって既に設定された速度に対応した速度で車体を後進させることが可能となる。
【0009】
ロータリ耕耘装置を用いた耕起作業では、車体を設定速度で前進させることが必要であり、例えば、走行方向を切り換えるためのスイッチターンを行う場合には、所定の後進速度が必要である。これに対し、例えば、トラクタによって周り耕起する際にロータリ耕耘装置の位置を調整するため車体を低速で後進させることも必要となる。
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載される前後進レバーを用いるものでは、前後進の切り換えを容易に行えるものの、後進速度の低減に手間が掛かり、特許文献1に記載されるように主変速レバーの操作によって後進速度の低減を行うものであっても、後進速度の設定に手間が掛かることが懸念される。
【0011】
このような理由から、車体の前後進の切り換えを容易に行い、減速された後進を可能にする作業車が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る作業車の特徴構成は、車体と、前記車体を走行させる走行装置と、前記走行装置に駆動力を出力する変速装置と、前記車体を前進させる前進位置、及び前記車体を後進させる後進位置の夫々の操作位置に設定可能な切換操作部と、前記切換操作部が前記後進位置に設定された際に前記車体が後進する速度の減速モードを選択可能なモード選択部と、前記切換操作部で設定される前記操作位置、及び、前記モード選択部での選択結果に対応して前記変速装置を制御する変速制御部と、を備え、前記変速制御部は、前記モード選択部で前記減速モードが選択された状態、且つ、前記切換操作部が前記後進位置に設定された状態であるとき、標準後進速度より低速の減速後進速度で前記車体を後進させるように前記変速装置を制御する点にある。
【0013】
本構成によると、モード選択部で減速モードが選択されない状態で、切換操作部が後進位置に設定された場合には、車体を標準後進速度で後進させる。これに対し、モード選択部で減速モードが選択された状態で、切換操作部が後進位置に設定された場合には、車体を減速後進速度で後進させることが可能となる。この作業車では、標準後進速度より、減速後進速度が低速に設定されているため、例えば、車体をスイッチターンさせる場合には標準後進速度で車体を後進させ、例えば、トラクタによって周り耕起する際に車体を低速で後進させ、ロータリ耕耘装置の圃場面に対する位置の微調整も可能となる。従って、車体の前後進の切り換えを容易に行い、減速された後進を可能にする作業車が構成された。
【0014】
他の構成として、前記変速制御部は、前記減速後進速度で前記車体が後進する状況において、前記減速モードの選択が解除された場合、前記標準後進速度に移行することなく前記減速後進速度での後進を維持しても良い。
【0015】
これによると、減速後進速度で車体が後進する状況で減速モードの選択が解除された場合にも減速後進速度での移動が継続されるため、後進速度の増大が抑制され、例えば、圃場面に対する車体の位置の微調整を継続的に行える。
【0016】
他の構成として、前記変速制御部は、前記標準後進速度で前記車体が後進する状況において、前記モード選択部で前記減速モードが選択された場合、前記減速後進速度での後進に移行しても良い。
【0017】
これによると、標準後進速度で車体が後進する状況で減速モードが選択された場合に減速後進速度での後進に移行することで後進速度が減じられる。このように後進速度が減じられるため、例えば、標準後進速度で車体の後進を開始した後に、微妙なステアリング操作を必要とする場合に、後進速度を低下させることで対応が可能となる。
【0018】
他の構成として、前記モード選択部は、押圧操作可能なスイッチであっても良い。
【0019】
これによると、操作が簡単な押圧操作により減速モードへの移行が可能となる。
【0020】
他の構成として、前記変速装置は、前記車体の内燃機関の駆動力が伝えられる可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される作動油によって駆動回転し前記走行装置に駆動力を出力する油圧モータと、前記油圧ポンプから吐出される作動油圧を調整する斜板と、を有する無段変速装置で構成されても良い。
【0021】
これによると、切換操作具の設定位置の設定に対応して斜板を制御することにより、油圧ポンプから吐出される作動油圧が調整され、作動油によって油圧モータの回転速度を無段階に設定し、車体を前後方向の何れにも走行させることが可能となる。また、走行速度を標準後進速度と減速後進速度との何れにも設定できる。
【0022】
他の構成として、前記変速装置による前記車体の走行速度を設定する変速操作部を更に備え、前記変速制御部は、前記減速モードが選択された状態、且つ、前記切換操作部が前記後進位置に設定された場合に、前記標準後進速度と前記減速後進速度との比率である減速比と、前記変速操作部で設定される前記走行速度とに基づいて、前記変速装置を制御しても良い。
【0023】
これによると、変速操作部の操作によって車体の走行速度の設定が可能となり、減速モードが選択された状態で切換操作部が後進位置に設定された場合に、変速操作部で設定される走行速度と、減速比とから、設定された走行速度に対応する減速後進速度にて後進することが可能となる。また、標準後進速度と減速後進速度とを決まった比率で維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】耕起作業状態のトラクタの側面図である。
図2】トラクタの平面図である。
図3】無段変速装置と開放状態の制御ケースを示す側面図である。
図4】制御ケースの断面図である。
図5】切換レバーと強制昇降レバーとステアリングホイールとの平面図である。
図6】制御構成のブロック回路図である。
図7】変速制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1図2に示すように、車体1の前部左右に前車輪2(走行装置の一例)を備え、車体1の後部左右に後車輪3(走行装置の一例)を備え、車体1の後部で左右の後輪フェンダー4の中間に運転座席5を備えてトラクタA(作業車の一例)が構成されている。
【0026】
このトラクタAは、車体1の前方向をAFとし、後方向をABとし、上方向をAUとし、下方向をADとして図中に示している。また、車体1の左方向をALとし、右方向をARとして図中に示している。
【0027】
トラクタAは、車体1の前部のボンネット6の内部にエンジンE(内燃機関の一例)を収容している。このエンジンEの後端に連結するミッションケース7は、静油圧式の無段変速装置T(変速装置の一例)を備えている。無段変速装置Tの構成は後述する。
【0028】
トラクタAは、ミッションケース7の後端の上部位置に左右一対のリフトアーム8を備えている。左右のリフトアーム8は、基端が横向き(AR-ALの方向)の軸体を介してミッションケース7に揺動自在に支持されている。トラクタAは、ミッションケース7の後部に左右のリフトアーム8を駆動昇降するリフトシリンダ9を備えている。
【0029】
トラクタAは、運転座席5の前側にステアリングホイール11とメータパネル12とが配置されている。
【0030】
図2に示すように、トラクタAは、運転座席5の右側(ARの方向)に走行速度を設定する主変速レバー13(変速操作部の一例)と、図1に示すロータリ耕耘装置Bを昇降制御する昇降レバー14とを備えている。
【0031】
トラクタAは、図5に示すように、ステアリングホイール11の左側(ALの方向)に車体1の前後への走行方向を切り換える切換レバー15(切換操作部の一例)を備えている。また、ステアリングホイール11の右側(ARの方向)にリフトアーム8を昇降させる強制昇降レバー16を備えている。
【0032】
このトラクタAは、図1図2に示すように、メータパネル12の近傍にモメンタリ型のモードスイッチ18(モード選択部の一例)を備えている。
【0033】
モードスイッチ18は、図6に示すように、発光ダイオードで成るランプ18aを内蔵する。図6に示す制御処理部50は、押圧操作により減速モードを選択状態(ON)にしてランプ18aを点灯させ、再度の押圧操作により減速モードを非選択状態(OFF)にしてランプ18aを消灯させる。減速モードについては後述する。
【0034】
〔無段変速装置〕
図3図4に示すように、無段変速装置Tは、可変容量型の油圧ポンプTpと、この油圧ポンプTpから作動油が供給される油圧モータTmとを備えている。油圧ポンプTpは、エンジンEの駆動力が入力軸28で伝えられることで回転する複数のプランジャ(図示せず)を有し、斜板21の角度(以下、斜板角と称することもある)の設定により複数のプランジャが吐出する作動油の流動方向と吐出圧との調節を行う。
【0035】
油圧ポンプTpは、図3に示す方向視において斜板角が、入力軸28の軸芯Xと直交する値(ニュートラル)にある場合に、エンジンEの駆動力で回転しても複数のプランジャは伸縮することはなく、作動油は吐出されない。尚、斜板21は、入力軸28が挿通する空間を中央に形成したリング状に形成されている。
【0036】
この油圧ポンプTpは、斜板角が軸芯Xに対して一方に傾斜することにより車体1を前進させる方向に作動油を吐出し、斜板角が増大するほど作動油の吐出量を増大させる。これとは逆に、斜板21が軸芯Xに対して他方に傾斜することにより車体1を後進させる方向に作動油を吐出し、斜板角が他方に増大するほど作動油の吐出量を増大させる。
【0037】
油圧モータTmは、油圧ポンプTpから供給される作動油によって伸縮する複数のプランジャ(図示せず)を有している。この油圧モータTmは、作動油が供給された場合に、複数のプランジャの伸縮作動によって回転し、回転駆動力を出力軸(図示せず)に伝える。これに対し、油圧モータTmは、作動油が逆向きに供給された場合に逆転し、作動油が供給されない状態で停止する。
【0038】
斜板21は、斜板角を変更するトラニオン軸22が連結する。図4に示すように、トラニオン軸22の一方の端部がミッションケース7の側壁を貫通している。ミッションケース7の外面に備えた制御ケース23は、トラニオン軸22に連結する制御アーム24と、制御アーム24の揺動端の歯部24aに咬合するピニオンギヤ25と、中立復帰アーム20とを収容する。
【0039】
図3図4に示すように、制御ケース23の外壁23aに、トラニオン軸22の回転量から斜板角を検知するポテンショメータ型の斜板角センサ26と、ピニオンギヤ25を駆動回転する電動モータ27(電動アクチュエータの一例)とを備えている。
【0040】
更に、中立復帰アーム20は、制御ケース23に揺動自在に支持され、揺動端にローラ20aを備え、トーションスプリング20bの付勢力が作用している。制御アーム24は、ローラ20aが当接するV溝状のカム面を有している。
【0041】
このような構成から、斜板21の斜板角がニュートラルの近傍に達した場合には、中立復帰アーム20のローラ20aが制御アーム24のカム面に当接し、制御アーム24を図3に示す姿勢に移行させ、斜板角をニュートラルに保持する結果、車体1の走行は停止する。
【0042】
〔レバー類の構成〕
主変速レバー13は、図6に示すように、前後方向(AF-ABの方向)に沿う操作領域の後端の停止位置Snから前側の前進領域Sfの間で揺動操作自在に備えられている。この主変速レバー13の設定位置は、基端に備えたポテンショメータ型の主変速レバーセンサ13Sによって検知される。
【0043】
昇降レバー14は、前後方向(AF-ABの方向)に沿って揺動操作自在に支持されている。この昇降レバー14の設定位置は、基端のポテンショメータ型の昇降レバーセンサ14Sによって検知される。
【0044】
トラクタAは、昇降レバー14を所定のポジション制御領域に設定することにより、昇降レバー14の設定位置に対応してリフトアーム8を揺動させるポジション制御を行う。尚、リフトアーム8は、ポテンショメータ型のリフトアームセンサ8Sによって揺動姿勢が検知される。
【0045】
トラクタAは、図1に示すようにリフトアーム8の揺動によってロータリ耕耘装置Bの高さを設定する。ロータリ耕耘装置Bの自動耕耘制御は、昇降レバー14をポジション制御領域より低い領域に設定することで実現する。
【0046】
切換レバー15は、平面視でステアリングホイール11と重複して配置されている。この切換レバー15は、左横に延出しており、図5図6に示すように、車体1の前後方向に沿う直線的な操作経路Mに沿って操作自在に支持されている。
【0047】
切換レバー15は、操作端部がハンドルコラムの内部に支持され、基端に備えたポテンショメータ型の切換レバーセンサ15S(センサの一例)によって設定位置が検知される。
【0048】
切換レバー15は、図5図6に示すように、操作経路Mの中間の中立位置Nと、中立位置Nより前側の前進位置Fと、中立位置Nより後側の後進位置Rとに設定自在に構成されている。
【0049】
切換レバー15の下側にロッド材で形成されたプロテクタ36が配置されている。プロテクタ36は、基端部が車体側に固定され、運転者が運転座席5に着座する際に、膝や足の接触による切換レバー15の誤操作を防止する。
【0050】
トラクタAは、切換レバー15の操作によって前進と後進との切り換えを可能にする。また、ロータリ耕耘装置Bの自動耕深制御によって耕起作業が行われる状況で、切換レバー15を後進位置Rに設定した場合には、ロータリ耕耘装置Bを設定高さまで上昇させる制御が行われる。この後、車体1を前進させる状態で強制昇降レバー16を下降位置Ldに操作することによりロータリ耕耘装置Bを下降させ、自動耕深制御による耕起作業の再開を可能にしている。
【0051】
〔レバー類の構成:強制昇降レバー〕
強制昇降レバー16は、平面視でステアリングホイール11と重複して配置されている。この強制昇降レバー16は、ハンドルポスト17から右側に延出しており、上下方向に操作自在に支持されている。
【0052】
この強制昇降レバー16は、図5図6に示すように、非操作状態で昇降中立位置Lnに保持される。更に、強制昇降レバー16は、昇降中立位置Lnより上側となる上昇位置Luと、昇降中立位置Lnより下側となる下降位置Ldとに操作自在に支持されている。
【0053】
強制昇降レバー16の基端には、強制昇降レバー16が、昇降中立位置Lnと、上昇位置Luと、下降位置Ldとの何れに操作されたかを検出する強制昇降レバーセンサ16Sを備えている。
【0054】
トラクタAは、図1に示すように、ロータリ耕耘装置Bが自動耕深制御によって下降する状況において強制昇降レバー16を上昇位置Luに操作することで、ロータリ耕耘装置Bを設定高さまで上昇させる。
【0055】
また、トラクタAは、ロータリ耕耘装置Bが設定高さまで上昇している状況において、強制昇降レバー16を、下降位置Ldに操作することによりロータリ耕耘装置Bを自動耕深制御させる作業高さまで下降させる。また、トラクタAは、昇降レバー14、強制昇降レバー16、切換レバー15の何れの操作であっても、ロータリ耕耘装置Bを設定高さまで上昇させる際には、上昇に連動して伝動系のクラッチが切り操作され車体1からロータリ耕耘装置Bに伝えられる駆動力が遮断される。
【0056】
このようなロータリ耕耘装置Bの昇降制御は、図6に示す制御装置Cがリフトシリンダ9を制御することによって実現する。
【0057】
〔ロータリ耕耘装置〕
図1図2に示すように、トラクタAは、3点リンク機構を介して車体1の後端にロータリ耕耘装置Bが連結される。3点リンク機構は、後端位置に左右のロアーリンク41と、この上側位置の単一のトップリンク42とを有している。
【0058】
左右のロアーリンク41は、左右のリフトアーム8に対しリフトロッド43によって吊り上げる形態で支持される。これにより、リフトシリンダ9を伸長または収縮作動により左右のリフトアーム8を昇降させ、3点リンク機構を介してロータリ耕耘装置Bの昇降を実現している。
【0059】
ロータリ耕耘装置Bは、ミッションケース7から伝えられる駆動力により横向きの駆動軸とともに回転する複数の耕起爪44を有し、この耕起爪44を覆う上部カバー45と、後部カバー46を備えている。
【0060】
後部カバー46は、上部カバー45の後端に対し、横向きの軸芯を中心に揺動自在に支持されている。ロータリ耕耘装置Bは、後部カバー46の揺動姿勢を検知するカバーセンサ46S(図6を参照)を備えている。
【0061】
ロータリ耕耘装置Bによる自動耕深制御では、耕起爪44で耕起する深さ(耕深)の増大に連係して後部カバー46の揺動角が増大する。従って、設定される耕深に対応した揺動角を目標角に設定し、カバーセンサ46Sで検知される後部カバー46揺動角を目標角に維持するようにリフトシリンダ9が制御される。
【0062】
〔制御装置〕
図6に示すように、制御装置Cは、マイクロプロセッサやDSP(digital signal processor)等の制御処理部50を備えている。
【0063】
制御処理部50は、ソフトウエアで構成される変速制御部51と、昇降制御部52と、耕耘制御部53とを備えている。尚、変速制御部51と、昇降制御部52と、耕耘制御部53とは、ソフトウエアで構成されるものに限らず、一部にロジック回路等のハードウエアを備えるものでも良い。
【0064】
制御処理部50は、主変速レバーセンサ13S、昇降レバーセンサ14S、切換レバーセンサ15S、強制昇降レバーセンサ16S、リフトアームセンサ8S、カバーセンサ46S、モードスイッチ18の夫々からの信号が入力する。
【0065】
制御処理部50は、無段変速装置Tを変速する電動モータ27に制御信号を出力し、斜板角センサ26の検知信号が入力する。
【0066】
制御処理部50は、リフトシリンダ9に対する作動油を給排する昇降制御弁55に制御信号を出力する。
【0067】
〔制御装置:変速制御の概要〕
変速制御部51は、主変速レバー13が停止位置Snに設定されることで車体1の走行を停止させる。また、変速制御部51は、主変速レバー13が前進領域Sfに設定されることで設定位置に対応した速度で車体1を前進させる。
【0068】
このような変速制御は、変速制御部51が、無段変速装置Tを変速することによって実現する。具体的には、主変速レバーセンサ13Sの検知信号に基づいて斜板21の目標斜板角を設定し、この目標斜板角と斜板角センサ26で検知信号される斜板角との偏差を小さくする方向に電動モータ27が制御される。
【0069】
変速制御部51は、主変速レバー13が前進領域Sfに設定されている状況で、切換レバー15が後進位置Rに設定された場合に標準後進速度で車体1を後進させる。特に、モードスイッチ18で減速モードが選択された状態(ON状態)で切換レバー15が後進位置Rに設定された場合には、標準後進速度より低速の減速後進速度で車体1を後進させる。この変速形態については後述する。
【0070】
〔制御装置:昇降制御/耕耘制御〕
昇降制御部52は、昇降レバーセンサ14Sの検知信号から取得した昇降レバー14の設定位置、強制昇降レバーセンサ16Sの検知信号から取得した強制昇降レバー16の設定位置に基づきリフトアーム8の昇降作動を行う。
【0071】
昇降制御部52は、昇降レバー14が所定のポジション制御領域に設定された場合に、設定位置に対応した高さまでロータリ耕耘装置Bを昇降させるポジション制御を行う。このポジション制御では昇降レバー14の設定位置に対応して目標高さが設定され、リフトアームセンサ8Sの検出信号をフィードバックさせる形態でリフトシリンダ9が制御される。
【0072】
更に、昇降制御部52は、昇降レバー14によってロータリ耕耘装置Bをポジション制御領域より低い領域に下降させることでポジション制御から自動耕深制御に制御形態を切り換える。
【0073】
自動耕耘制御は、作業者が目標とする耕深をダイヤル等(図示せず)で予め設定することで、耕耘制御部53が、後部カバー46が揺動した際の目標揺動角を設定する。このように目標揺動角が設定された状態でロータリ耕耘装置Bで耕耘を行い、カバーセンサ46Sで検出される後部カバー46の揺動角と、目標揺動角との偏差を小さくする方向にロータリ耕耘装置Bを昇降するようにリフトシリンダ9が制御される。
【0074】
自動耕耘制御において、強制昇降レバーセンサ16Sの検知信号から強制昇降レバー16の上昇位置Luへの設定が検知された場合には、ロータリ耕耘装置Bを、予め設定された上昇高さまで上昇させる。
【0075】
このようにロータリ耕耘装置Bが上昇位置にある状態で、強制昇降レバー16の下降位置Ldへの設定が検知された場合には、ロータリ耕耘装置Bを下降させ、自動耕耘制御に復帰させる。
【0076】
〔制御装置:変速制御(減速後進)〕
図7に示すように、変速制御部51は、主変速レバー13が前進領域Sfにない場合(#101ステップのNo:停止位置Snに設定されている場合)に、車体1の走行を停止させる(#101、#102ステップ)。
【0077】
この走行停止では、主変速レバーセンサ13Sの検知信号から主変速レバー13が前進領域Sfにないことが判定される。この判定に基づき、斜板角センサ26の検知信号から斜板21の角度が軸芯Xに直交する値に達するまで変速制御部51が、電動モータ27を制御し、走行が停止する。
【0078】
また、主変速レバー13が前進領域Sfに設定されていることを判定し(#101ステップのYes)で、かつ、切換レバー15が後進位置Rにない場合(#103ステップのNo:前進位置Fに設定されている場合)に、変速制御部51は、前進領域Sfの設定位置に対応する速度で車体1を前進させる(#103、#104ステップ)。なお、切換レバー15が中立位置Nに設定されている場合は、変速制御部51は車体1の走行を停止させる。
【0079】
この車体1を前進させる制御では、主変速レバーセンサ13Sの検知信号から前進領域Sfにおける主変速レバー13の設定位置が取得される。また、切換レバーセンサ15Sの検知信号から、切換レバー15が前進位置Fに設定されていることが判定される。
【0080】
このような判定の後に、斜板角センサ26の検知信号から斜板角が、前進領域Sfの設定位置に対応する目標傾斜角に達するまで変速制御部51が、電動モータ27を制御し、設定速度での走行が可能となる。
【0081】
次に、切換レバー15が後進位置Rに設定された場合(#103ステップのYes)において、モードスイッチ18で減速モードが選択されない(OFF状態にある)場合(#105ステップのNo)には、ロータリ耕耘装置Bを設定高さまで上昇させ、車体1を標準後進速度で後進させる(#105~#107ステップ)。
【0082】
車体1を後進させる場合には、#105ステップに示すようにロータリ耕耘装置Bを設定高さまで上昇させる制御が行われる。また、車体1を標準後進速度で後進させる場合には、主変速レバーセンサ13Sの検知信号から前進領域Sfにおける主変速レバー13の設定位置が取得される。変速制御部51は、主変速レバー13の設定位置に対応した前進速度の絶対値より低速の値に対応する減速側の目標傾斜角を設定する。そして、目標傾斜角に達するまで変速制御部51が、電動モータ27を制御し、標準後進速度での後進が可能となる。
【0083】
このように標準後進速度は、主変速レバー13の設定位置によって決まる。この標準後進速度の絶対値は、主変速レバー13の設定位置によって決まる前進速度の絶対値より小さい値(または前進速度の絶対値と同じ値)となる。
【0084】
これに対し、切換レバー15が後進位置Rに設定され(#103ステップのYes)、モードスイッチ18で減速モードが選択された(ON状態にある)場合(#106ステップのYes)には、車体1を減速後進速度で後進させる(#108ステップ)。
【0085】
車体1を減速後進速度で後進させる場合には、主変速レバーセンサ13Sの検知信号から前進領域Sfにおける主変速レバー13の設定位置が取得される。また、予めメモリに記憶されている、標準後進速度に対する減速後進速度の減速比が取得される。
【0086】
変速制御部51は、主変速レバー13の設定位置に対応した前進速度の絶対値より低速となる標準後進速度と、減速比と基づき、減速側の目標傾斜角を設定する。そして、目標傾斜角に達するまで変速制御部51が、電動モータ27を制御し、減速後進速度での後進が可能となる。
【0087】
このように減速後進速度は、主変速レバー13の設定位置と、予め設定された減速比とによって決まる。すなわち、減速後進速度は、標準後進速度に減速比を乗じたものとなる。減速比は、例えば0.5である。この減速後進速度の絶対値は、標準後進速度より低速となる。
【0088】
また、変速制御部51は、#107ステップの標準後進速度での後進時にモードスイッチ18で減速モードが選択された(ON操作された)場合には、ランプ18aを点灯させ減速後進速度への移行を許容する。
【0089】
また、変速制御部51は、#108ステップの減速後進速度での後進時にモードスイッチ18で減速モードが解除された(OFF操作された)場合でも、ランプ18aを消灯しないで減速後進速度での後進を維持する。
【0090】
〔実施形態の作用効果〕
このように、減速モードを選択するモードスイッチ18を備えることにより、切換レバー15を後進位置Rに設定した場合の車体1の後進速度を、標準後進速度と減速後進速度とに切り換えることが可能となる。
【0091】
標準後進速度は、主変速レバー13で設定された前進速度の絶対値より低速であるため、車体1の姿勢や走行方向の調整やスイッチターンを容易に行える。また、減速後進速度は、標準後進速度より更に低速であるため周り耕起する際にロータリ耕耘装置Bの位置の調整を容易にする。
【0092】
このトラクタAでは、無段変速装置Tによって標準後進速度と減速後進速度との切り換え可能にする。この構成は、例えば、エンジンEの回転速度を低減することによって減速状態で車体1を後進させる構成と比較して、確実な減速を行わせ、減速時のトルクの低下を招くこともない。
【0093】
変速制御部51は、標準後進速度での後進時にモードスイッチ18がONされた場合に、減速後進速度への移行を許容する。このため、標準後進速度で後進を開始した際に後進速度の低減を必要とする場合に、モードスイッチ18をON操作することで減速が可能となる。また、減速後進速度での後進に移行する際にはランプ18aの点灯により移行の確認も可能となる。
【0094】
変速制御部51は、減速後進速度での後進時にモードスイッチ18がOFFされた場合でも、ランプ18aの点灯を維持し、減速後進速度での後進を維持する。このため、誤ってモードスイッチ18がOFF操作された場合でも、後進速度が高速化することがなく対応を必要とすることもない。
【0095】
モードスイッチ18のランプ18aの点灯により減速モードがON状態であることを確認できる。このため、切換レバー15を後進位置Rに設定する以前にランプ18aの状態に基づき、車体1が後進する際の速度を予め認識することも可能となる。
【0096】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0097】
(a)モードスイッチ18を、切換レバー15の延出端に備える。このようにモードスイッチ18を備えることにより、減速モードの選択と切換レバー15の操作とを同時に操作する場合でも操作に要する時間の短縮を可能にする。
【0098】
(b)モードスイッチ18は、メータパネル12の近傍に備えずに、例えば、後輪フェンダー4の上面や、ステアリングホイール11の近傍に備えることも可能である。
【0099】
このように、切換レバー15の延出端にモードスイッチ18を備える構成でも、スイッチの内部にランプ18aを備えることにより、減速モードの認識を容易にできる。
【0100】
別実施形態(a)(b)のように配置されるモードスイッチ18であっても、スイッチの内部にランプ18aを備えることにより、減速モードの認識を容易にできる。
【0101】
(c)モードスイッチ18は、トグルスイッチとして構成されるものでも良い。また、モードスイッチ18は、機械的に接触する接点を有する構成に限らず、例えば、タッチパネルに表示されるアイコンで構成することも可能である。
【0102】
(d)切換レバー15に代えて、例えば、直線的に移動可能なノブと、リニアポテンショメータとを組み合わせて切換操作部を構成する。
【0103】
(e)減速後進速度(または減速比、以下同様。)を任意の値に設定可能に変速制御部51の制御形態を設定する。このように減速後進速度を任意の値に設定するためにダイヤルを用いることや、タッチパネルを用いることが考えられる。更に、減速後進速度として固定値を用いるように制御形態を設定することも可能である。
【0104】
(f)無段変速装置Tとして、ベルトCVTを用いる。このようにベルトCVTを用いることによっても走行速度を無段階に変更することが可能となる。
【0105】
(g)作業車が、トラクタAの他に乗用型の田植機や、乗用型の芝刈り機等であっても良い。
【0106】
(h)上記の実施形態の#102ステップでは、変速制御部51は、主変速レバー13が前進領域Sfにない場合(#101ステップのNo:停止位置Snに設定されている場合)に、車体1の走行を停止させることを説明したがこれに限定されない。主変速レバーによる停止操作を行わない車体1については、走行の停止および発進は別途備えられる車体1の前後進と停止とを切り替える切換レバー15により行われるとしてもよい。その場合、切換レバー15に、車体1の停止を指令させる停止位置が設定されることとなる。
【0107】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、前後進が可能に構成された田植機やトラクタ等の作業車に利用することができる。
【符号の説明】
【0109】
1 車体
2、3 走行装置
15 切換レバー(切換操作部)
18 モードスイッチ(モード選択部:スイッチ)
51 変速制御部
E エンジン(内燃機関)
F 前進位置
R 後進位置
T 無段変速装置(変速装置)
Tp 油圧ポンプ
Tm 油圧モータ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7