(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142786
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】土減容化試験装置及び該土減容化試験装置を利用する電気浸透圧密工法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/11 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
E02D3/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055106
(22)【出願日】2023-03-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 港湾空港技術研究所資料No.1404 2022.6,ISNN1346-7840,(編集兼発行人)国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所 (発行所)港湾空港技術研究所 令和4年(2022年)6月29日発行 〔刊行物等〕https://confit.atlas.jp/guide/event/jgs57/proceedings/list 第57回地盤工学会研究発表会講演集,20-8-3-05,公益社団法人地盤工学会 令和4年(2022年)6月30日掲載 〔刊行物等〕https://www.pari.go.jp/report_search/detail.php?id=20220701113547 https://www.pari.go.jp/search-pdf/TECHNICAL%20NOTE1404.pdf 港湾空港技術研究所資料 No.1404 2022.6,ISNN1346-7840,(編集兼発行人)国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 (発行所)港湾空港技術研究所 令和4年(2022年)7月7日掲載 〔刊行物等〕公益社団法人地盤工学会 第57回地盤工学研究発表会 朱鷺メッセ(新潟コンベンションセンター)第8会場(中会議室201B(2階)) 一般セッション 4.地盤挙動(地震時の地盤挙動を除く)圧密・圧縮▲3▼ 20-8-3-05 令和4年(2022年)7月20日開催
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100082658
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 儀一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉山 友理
(72)【発明者】
【氏名】橋本 永手
(72)【発明者】
【氏名】高野 大樹
(72)【発明者】
【氏名】森川 嘉之
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043CA10
2D043CA13
2D043EB04
2D043EB05
(57)【要約】
【課題】本発明は、地盤中の水を迅速かつ適切に排水・集水するべく、地盤の透水係数に依らない浸透脱水技術でもあり、浚渫土砂の減容化をもたらすだけでなく、防災・減災技術にも貢献しうる電気浸透圧密試験装置並びに該試験装置での試験結果を用いて現場で行う電気浸透圧密工法を提供する。
【解決手段】本発明は、試験容器内に収納された一対の電極10と、該一対の電極10間に収納される試験用土と、前記電極10に通電する通電部材と、前記電極10の上方に載荷され、前記試験用土を圧縮する載荷部材6とを有して構成され、通電及び載荷して前記土の収縮状態を検出する試験を行うことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験容器内に収納された一対の電極と、該一対の電極間に収納される試験用土と、前記電極に通電する通電部材と、前記電極の上方に載荷され、前記試験用土を圧縮する載荷部材とを有して構成され、通電及び載荷して前記土の収縮状態を検出する試験を行う電気浸透圧密試験装置であり、
通電試験に際し、電極表面全体が電極面として構成され、一対の電極間に収納された試験用土の脱水方向が対向する電極に向かって進む様構成された通常電極、電極間に収納された試験用土の初期電位を調整することで、電極間中央部の試験用土の電位勾配が大きくなるように試験用土の抵抗を変化させることができるRS電極、あるいは電極で発生する水素イオン及び水酸化物イオンを電極表面で中和し、電極間に存する試験用土のpHを中性付近に保つ構成とした滴定電極のうちいずれかの電極あるいはいずれかの電極を組み合わせた電極が使用でき、前記いずれの電極が前記試験用土の脱水効果が大きく、かつ脱水時間が短時間であるかが確認できる、
ことを特徴とした電気浸透圧密試験装置。
【請求項2】
前記いずれの電極にも電極表面から電極裏面に貫通する孔が複数設けられた、
ことを特徴とする請求項1記載の電気浸透圧密試験装置。
【請求項3】
前記試験用土の脱水効果の検出は、前記試験用土内の脱水による試験用土の収縮状態の検出で行える、
ことを特徴とする請求項1記載の電気浸透圧密試験装置。
【請求項4】
前記試験容器は内部に縦方向中空部を有し、前記一対の電極は前記縦方向中空部内で横方向に配置され、配置された電極間に試験用土が収納されてなり、
収納された試験用土と前記試験容器の側壁との間には、試験用土の側方収縮を検出する変形検出材が設けられ、該変形検出材の変形により試験用土内の脱水による試験用土の収縮状態の検出が行える、
ことを特徴とする請求項1記載の電気浸透圧密試験装置。
【請求項5】
現場の対象地盤から採取した土を試験用土にし、電極表面全体が電極面として構成され、一対の電極間に収納された試験用土の脱水方向が対向する電極に向かって進む様構成された通常電極、電極間に収納された試験用土の初期電位を調整することで、電極間中央部の試験用土の電位勾配が大きくなるように試験用土の抵抗を変化させることができるRS電極、あるいは電極で発生する水素イオン及び水酸化物イオンを電極表面で中和し、電極間に存する試験用土のpHを中性付近に保つ構成とした滴定電極のうちいずれかの電極あるいはいずれかの電極を組み合わせた電極が使用でき、前記いずれかの電極あるいはいずれかの電極を組み合わせた電極が前記試験用土の脱水効果が大きく、かつ脱水時間が短時間であるかが確認できる電気浸透圧密試験装置で試験を行い、
前記試験の結果で得られた試験用土の脱水効果が大きく、かつ脱水時間が短時間である電極を選択して現場対象地盤の電気浸透圧密を行う、
ことを特徴とする現場対象地盤の電気浸透圧密工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土、例えば粘性土の減容化試験装置及び該試験装置を利用する電気浸透圧密工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航路や泊地、護岸前面の水深確保、増深等を目的とした浚渫によって、毎年多くの浚渫土砂が発生している。浚渫土砂は固化処理土として岸壁や護岸の背後の埋立に活用されるほか、沿岸の処分場へ投入される。
【0003】
処分場の効率的活用のためには、脱水による浚渫土の減容化を促進することが必要である。また、永続的に発生する浚渫土砂の処分は日本各地で問題になっており、処分場の効率的活用のため浚渫土の減容化手法を提案することは必要性、重要性、緊急性が極めて高い。
【0004】
しかるに、本発明は、電気浸透による例えば浚渫土砂の減容化を対象とし、電気浸透脱水メカニズムの土質力学的評価および効率的な減容化のための電気浸透の仕様、換言すれば電気浸透圧密工法に使用される電気浸透圧密試験装置、さらには該試験装置に使用される電極及びこれら試験装置を使用して試験を行った後、その結果を用いて現場で実際に適用する電気浸透圧密工法を創案するものである。
【0005】
ところで、気候変動の影響により気象災害は激甚化・頻発化し、南海トラフ地震や首都直下型地震など大規模地震の発生も切迫している中で、生命と生活環境の両方を守る革新的な防災・減災技術の開発は急務である。より効率的かつ効果的な防災・減災を実現するためには、発災メカニズムに注目し、発災のトリガーとなる要因にダイレクトに影響を及ぼす対策技術が不可欠である。
【0006】
多くの地盤災害のトリガーとなるのは”水”の挙動である。例えば、長雨による地盤の緩みにより土砂災害が発生するため、地盤に水を停滞させず、常に排水させることが重要となる。また、汚染地盤の早急な浄化修復を実現するためには、地盤中に存在する重金属イオンや水を自在に操り、所定の場所に集積させることが必要であることから、汚染地盤の浄化修復においても地盤中の水をコントロールすることが求められる。これらの例から、いかに地盤中の水をコントロールするかが革新的な防災・減災技術の鍵を握るといえる。
【0007】
しかし、特に粘土地盤は透水性が悪く、従来の水頭差や荷重載荷による浸透脱水では迅速な排水を促すことはできない。地盤中の水を迅速かつ適切に排水・集水するためには、地盤の透水係数に依らない浸透脱水技術が求められる。
【0008】
その技術がまさに電気浸透による圧密脱水技術であり、本発明の電気浸透圧密試験装置による試験、並びに前記試験結果を用いた現場での電気浸透圧密工法は前述した浚渫土砂の減容化だけでなく、防災・減災技術に役立つものであると思料されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記従来の課題や提案に基づいて創案されたものであり、地盤中の水を迅速かつ適切に排水・集水するべく、地盤の透水係数に依らない浸透脱水技術でもあり、浚渫土砂の減容化をもたらすだけでなく、防災・減災技術にも貢献しうる電気浸透圧密試験装置並びに該試験装置での試験結果を用いて現場で行う電気浸透圧密工法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
試験容器内に収納された一対の電極と、該一対の電極間に収納される試験用土と、前記電極に通電する通電部材と、前記電極の上方に載荷され、前記試験用土を圧縮する載荷部材とを有して構成され、通電及び載荷して前記土の収縮状態を検出する試験を行う電気浸透圧密試験装置であり、
通電試験に際し、電極表面全体が電極面として構成され、一対の電極間に収納された試験用土の脱水方向が対向する電極に向かって直線方向に進む様構成された通常電極、電極間に収納された試験用土の初期電位を調整することで、電極間中央部の試験用土の電位勾配が大きくなるように試験用土の抵抗を変化させることができるRS電極、あるいは電極で発生する水素イオン及び水酸化物イオンを電極表面で中和し、電極間に存する試験用土のpHを中性付近に保つ構成とした滴定電極のうちいずれかの電極あるいはいずれかの電極を組み合わせた電極が使用でき、前記いずれの電極が前記試験用土の脱水効果が大きく、かつ脱水時間が短時間であるかが確認できる、
ことを特徴とし、
または、
前記いずれの電極にも電極表面から電極裏面に貫通する孔が複数設けられた、
ことを特徴とし、
または、
前記試験用土の脱水効果の検出は、前記試験用土内の脱水による試験用土の収縮状態の検出で行える、
ことを特徴とし、
または、
前記試験容器は内部に縦方向中空部を有し、前記一対の電極は前記縦方向中空部内で横方向に配置され、配置された電極間に試験用土が収納されてなり、
収納された試験用土と前記試験容器の側壁との間には、試験用土の側方収縮を検出する変形検出材が設けられ、該変形検出材の変形により試験用土内の脱水による試験用土の収縮状態の検出が行える、
ことを特徴とし、
または、
現場の対象地盤から採取した土を試験用土にし、電極表面全体が電極面として構成され、一対の電極間に収納された試験用土の脱水方向が対向する電極に向かって直線方向に進む様構成された通常電極、電極間に収納された試験用土の初期電位を調整することで、電極間中央部の試験用土の電位勾配が大きくなるように試験用土の抵抗を変化させることができるRS電極、あるいは電極で発生する水素イオン及び水酸化物イオンを電極表面で中和し、電極間に存する試験用土のpHを中性付近に保つ構成とした滴定電極のうちいずれかの電極あるいはいずれかの電極を組み合わせた電極が使用でき、前記いずれかの電極あるいはいずれかの電極を組み合わせた電極が前記試験用土の脱水効果が大きく、かつ脱水時間が短時間であるかが確認できる電気浸透圧密試験装置で試験を行い、
前記試験の結果で得られた試験用土の脱水効果が大きく、かつ脱水時間が短時間である電極を選択して現場対象地盤の電気浸透圧密を行う、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、地盤中の水を迅速かつ適切に排水・集水するべく、地盤の透水係数に依らない浸透脱水技術を提供でき、かつ浚渫土砂の減容化をもたらすだけでなく、防災・減災技術にも貢献しうる電気浸透圧密試験装置並びに該試験装置での試験結果を用いて現場で行う電気浸透圧密工法を提供出来るとの優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による電気浸透圧密試験装置の構成を説明する説明図である。
【
図2】RS電極の概略構成を説明する説明図である。
【
図3】通常の電極の電位の流れを説明する説明図である。
【
図4】RS電極の電位の流れを説明する説明図である。
【
図5】通常の電極とRS電極の脱水量と脱水時間の比較を説明する説明図である。
【
図6】滴定電極の概略構成を説明する説明図である。
【
図9】他の工法との比較実験を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による土減容化を目的とする電気浸透圧密試験装置を用い、その土減容の試験結果を基に電気浸透圧密工法を現場に適用するために、以下の手順により様々な仕様を決める必要がある。
【0015】
すなわち、その仕様とは、現場での対象地盤(供試体1)を用いた電気浸透圧密試験装置での土減容の試験結果に基づき、現場で電気浸透圧圧密工法を適用するに際し、最適な電極材料を選択すること、最適な印可方法及び印可電流値を選択すること、最適な電極間隔を選択すること、現場での電気浸透圧密工法適用前後の地盤力学性状を把握することなどが挙げられる。
【0016】
(1)電気浸透圧密試験装置を使用して対象地盤(供試体1)を用いた土減容試験を行うことによって最適な電極材料・印可方法及び印可電流値を選択することについて
【0017】
(1)においては、電気浸透圧密試験を実施できる試験装置が必要となる。本件発明者らは上記要請に鑑み、新たな電極を発明し、該新たに発明した電極を用いた電気浸透圧密試験装置を発明したものである。
【0018】
ここで、電気浸透圧密試験装置を用いての試験とは、例えば、直径60mm、高さ20mmの例えば飽和粘土で形成された供試体1を用い、その側方変位を拘束し、上下面の排水を許した状態で飽和粘土地盤の沈下量や沈下時間の推定に利用される圧縮性と圧密速度などを求めるものである。なお、圧密とは、飽和粘土が静的荷重を受け、時間遅れを伴って密度を増加する現象をいう。
【0019】
前述した本発明による電気浸透圧密試験装置は、従来の試験装置とほぼ同様の構成のものでもよく、従来の装置のように圧密容器2の円柱状をなす縦中空部の直径が60mmで、鉛直荷重を載荷できて、鉛直変位量(沈下量)を計測できる機構のもので構わない。
【0020】
本発明の電気浸透圧密試験装置にあっても、通電をせずに載荷重を与えることで粘土である供試体1を圧密させた場合、従来用いられている土の段階載荷による圧密試験(JGS-0411-2009)も行える。
そのため、本発明による電気浸透圧密試験装置を用いれば従来法で得られる圧密曲線等の試験結果と通電した状態で得られる試験結果との比較検討も可能となっている。
【0021】
まず、本発明による電気浸透圧密試験装置の構成につき
図1に基づいて説明する。
図1において、符号1は飽和粘土により形成された供試体を示す。該供試体1は、例えば、縦方向に立てられた略円筒状をなす圧密容器2の縦中空部内に投入される。しかし、圧密容器2の縦中空部の内部形状については略円筒状の形状に限定されるものではない。
【0022】
図1から理解されるように、圧密容器2に投入された供試体1の上端面及び他端面には、電極10が各々密設される。
【0023】
符号3は直流電源装置を示す。 直流電源装置3は、圧密容器2の外部に設置されており、この直流電源装置3と前記電極10とは接続線12により接続され、さらに、例えば、通電用の電極棒4を介して直流電源装置3から前記電極10へ通電できるものとされている。
【0024】
符号5は、ベロフラムシリンダーなどで構成された載荷装置を示し、例えば載荷装置5の構成部材である逆T字状をなす載荷部材6が供試体1の上面に載置し、該供試体1に対して荷重変動可能にして鉛直荷重が与えられるよう構成されている。
【0025】
本件発明にかかる電気浸透圧密試験装置を使用した圧密試験の実施過程につき説明すると、試料台となる圧密容器2の縦中空部内に下側の電極10を設置し、該電極10の上部には粘土で形成された供試体1の流出を防ぐべく、ろ紙8を敷設し、その上に供試体1を投入するものとしている。
【0026】
尚、その際、圧密容器2の縦中空部側方内周面にメンブレンなどで構成された変形検出材7を当接させ、前記圧密容器2の縦中空部側方内周面と変形検出材7を密着させている。
【0027】
通電して電気浸透を行うと供試体1が脱水して収縮するため、前記変形検出材7を取り付け、供試体1の側方変形量を計測可能な機構としたものである。
具体的には、圧密容器2の縦中空部側方内周面に変形検出材7を取り付け、一定の側圧を作用させることで供試体1の収縮に伴う体積変化量(側方変形量)を計測出来るものとなっている。尚、供試体1の投入時に圧密容器2の縦中空部側方内周面と変形検出材7が密着している必要があるため、圧密容器2の側方の例えば2か所程に穴をあけ、圧密容器2の縦中空部内から真空を引けるような仕様にしてある。
【0028】
圧密容器2内の縦中空部で構成された収納部に上方開口から供試体1を例えば高さ20mmのラインまで投入する。投入後、前記供試体1の上部に該供試体1の流出を防ぐため、ろ紙8を敷設する。
【0029】
次いで、上部電極10を取り付けた例えばポーラスストーンなどで構成された取付板9をろ紙8が敷設された供試体1の上面に載置する。次いで、圧密容器2の前記収納部内において所定の位置まで水を満たす。
【0030】
尚、電気浸透により電極10近傍からからはガスが発生するため、電極10及び取付板9には例えばパンチング処理を施して、上下に貫通する穴を設けておく。そして、電極10の上面から前記取付板9を通過し、その上に載荷されている載荷部材6との間から発生ガス及び脱水した水が通過出来るよう構成してある。よって、取付板9に当接する載荷部材6の当接面は隙間が出来るようテーパ面として構成するのが好ましい。すると、前記の発生ガス及び脱水した水がスムーズに通過出来る。
【0031】
そして、例えばその上方には気液セパレータなどから構成された気液分離装置11が設置されており、前記通過した発生ガス及び脱水した水を回収して分離収集出来るように構成してある。
【0032】
さらに、側方拘束圧とほぼ等しい鉛直荷重を載荷するべく、載荷装置5を作動させ、変形検出材7につき真空にすべく真空を引いていたコックを閉じて側方拘束圧を作用させる。
【0033】
図1に示す様に鉛直変位計14を設置しておくと共に、取付板9の上部方向に設置された電極棒4及び試料台である圧密容器2の下部方向に設置された電極棒4にリード線などで構成される接続線12を用いて電極10と直流電源装置3を接続する。
【0034】
直流電源装置3の電源を入れ、所定の電流を印可する。その後、例えばデータロガーなどで構成された計測装置13で鉛直変位、側方変位、鉛直荷重、水圧、電流電圧値などを計測する。さらに、気液分離装置11から排水した水を電子天秤上で採水してその排水量を計測する。
【0035】
以上の手順により、本発明による電気浸透圧密試験装置を用いて対象地盤の圧密試験を実施し、その試験結果である電気浸透圧密による脱水効果、すなわち対象地盤の減容状態について把握、検討する。
【0036】
すなわち、前記試験結果での最適な脱水効果、対象地盤の減容状態が得られた電極は何であるか、適切な印可電流値及び通電条件(定電流もしくは定電圧)の値は何であるかなどのデータを考慮し、現場での電気浸透圧密工法の適用における、適切な電極、適切な印可電流値及び通電条件(定電流もしくは定電圧)などを決定するのである。
【0037】
ところで、従来試験装置での土の段階載荷による圧密試験では、載荷段階が10、 20、 40、 80、 160、 320、 640、 1280kN/m2の8段階で行うものであり、荷重載荷時間は1段階あたり24時間かかるため圧密試験には長時間を要するものとなっていた。
【0038】
しかしながら、前記本発明の電気浸透圧密試験装置を使用して行った電気浸透圧密試験では、3~5時間程度で80kN/m2の載荷段階で得られる含水状態まで含水比が低下することが確認できるのである。従来試験装置では、80kN/m2の載荷段階までの時間はほぼ94時間かかっていた。
【0039】
このことから、本発明による電気浸透圧密試験装置を使用し、電気的に強制排水させ、減容化を図ることで、圧密時間を飛躍的に短縮できる効果も得られるのである。
【0040】
(2)本発明による電気浸透圧密試験装置による試験での最適な電極10及び電極10の間隔の選択設定について
【0041】
実際の現場での電気浸透圧密工法適用する対象地盤の面積や体積を考慮した上で、本発明の電気浸透圧密試験装置による電気浸透圧密試験を行うに際し、適切な電極10を選択すること及び適切な電極10の間隔を選択設定することは、その後、該試験結果に基づき実際の現場での電気浸透圧密工法を適用するため重要な設定事項である。
【0042】
従来、電気浸透圧密試験装置による圧密試験や現場での電気浸透圧密工法で使用する電極10には、通常の電極が用いられていた。ここで、通常の電極とは、陰極全面(あるいは陽極全面)に陰極電位(あるいは陽極電位)を配置した電極10をいう。
しかし本件発明者らは通常の電極とは異なるレールスプリッター電極(以下RS電極)と滴定電極を新たに発明したのである。
【0043】
(RS電極)
従来の電極10は、前述したように陰極全面(あるいは陽極全面)に陰極電位(あるいは陽極電位)を配置した電極10である。これに対し、RS電極15とは陰極電位(あるいは陽極電位)を有する電極ブロックと任意電位の電極ブロックとを交互縞状に配置して構成した陰極(あるいは陽極)を指標するものである(
図2参照)。
【0044】
すなわち、RS電極15の構造につきさらに説明すると、RS電極15は、例えば縦方向に任意間隔で各ブロック毎に分割された電極ブロックを有しており、分割された各電極ブロックは絶縁された状態でつなげられて構成される。
【0045】
このとき、前記電極ブロックには、陰極電位(あるいは陽極電位)の電極ブロックと陰極電位(あるいは陽極電位)よりも小さい任意電位の電極ブロックが前述したように、縦方向に交互に任意間隔で配置される。そして前記の2種類の電位が各電極ブロック毎に交互にかかるようになっている。
【0046】
ここで、RS電極は、RS電極近傍の初期電位を所定の傾斜勾配になるよう調整できる電極といえる。そして、生じた電位勾配により脱水が生じ、脱水した領域から土の抵抗が大きくなる。すなわち、土の抵抗は土の硬さと比例し、脱水するほど土は硬くなり抵抗が大きくなるのである。
【0047】
また、試験用土内の電位分布は土の抵抗によっても変化する。すなわち、抵抗が大きいところに大きな電位がかかる。よって、RS電極を用いることで、通電初期に電極近傍で大きな電位勾配が作用して電極近傍で脱水が進行し、電極近傍の土の抵抗が大きくなる。
【0048】
一方、電極間中央部は陽・陰電極からの距離が最も遠いため、脱水の進行が遅く、土の抵抗が小さい領域となっている。
【0049】
抵抗が大きいと電位がかかりやすくなるため、電極近傍で電位が大きく、電極間中央部で電位が小さくなり、その結果、電極近傍と電極間中央部の間で大きな電位勾配が生じるものとなる。この電位勾配によって電極間中央部の脱水が進行する。そして、最終的に試験用土全体が均一に脱水されるのである。
【0050】
このような上記構成により、一方の電極から対向する他の電極方向へ行われる脱水は、通常の電極10のように進むのではなく、所定の勾配を有して傾いて行われる。
【0051】
さらに、前記した各電極ブロックの電位が交互に異なるため、各電極ブロック間においても陰極電位(あるいは陽極電位)とそれよりも小さい任意電位の差によって、各電極ブロック毎に交互にかかる様脱水される。
【0052】
よって、陰極電位(あるいは陽極電位)とそれよりも小さい任意電位の差を調節できる様構成すれば、電極近傍での脱水促進により試験用土の抵抗変化をいかようにも調節できるものとなる。その結果、試験用土の抵抗変化を調節して脱水が進む方向についても調節できるものとなる。
【0053】
しかるに、本発明では、RS電極15を用いることで、陽極―陰極間の電位勾配によって生じる電気浸透脱水と、RS電極表面で縦方向に各電極ブロック間で生じる電位勾配によって生じる電気浸透脱水の両方が同時に生じ、供試体1の脱水速度を高めるだけでなく、脱水範囲をも広げることができるものとなっている。
【0054】
従来、電気浸透圧密工法においては、陰極全面(あるいは陽極全面)に陰極電位(陽極電位)を配置した電極を用いることが通常であるが、上記RS電極15や後述する滴定電極を用いることで、供試体1の脱水範囲、脱水速度、最終脱水量が大幅に増大するとの効果が得られたのである。
【0055】
実際に通常の電極10とRS電極15の脱水過程、すなわち減容化過程を比較すると、
図3に示すように、通常の電極10では既に脱水された粘土に電圧がかかりやすく、未脱水部への電圧印可が難しい。よって、陰極付近が充分に脱水されない傾向を示している。
【0056】
一方RS電極15では、
図4に示すように、電極の電位勾配をコントロールすることによって粘土内の未脱水部においても電圧を印可可能となり、全体的に脱水される結果を得た。最終脱水量を比較すると、通常の電極10よりもRS電極15の方が多いとの結果を得たのである(
図5)。
【0057】
この試験において、RS電極15を用いることで脱水範囲、換言すれば集水範囲が広くなることから鑑みると、電極間隔が広がるほど脱水速度に及ぼす影響が大きくなると考えられ、もってRS電極15を用いることで脱水速度が格段に速くなることが推測できる。
【0058】
(滴定電極)
実際の現場における対象地盤が海成粘土の場合、間隙水が海水であるため粘土の抵抗が小さく、通電初期に粘土にかかる電圧が小さくなるため、迅速な排水を促すために定電流条件で印可電流値を大きくする必要がある。
【0059】
しかし、大きな電流を印可すると、陰極側で大量のOH-が、陽極側では大量のH+発生し、供試体1の内部で酸化物層が生成されることで電気浸透を妨げたり、供試体1のpHが変化することで電気浸透が生じにくくなることがある。
【0060】
このような状況で使用を推奨されるのが滴定電極である。滴定電極は、電極で発生する水素イオン及び水酸化物イオンを電極表面で中和し、粘土のpHを中性付近に保つ電極である(
図6)。水酸化物イオン及び水素イオンが発生する際の化学式はそれぞれ次の反応である。
【0061】
・水酸化物イオンの発生(陰極)
O2+H2O+4e-→4OH-、2H2O+4e-→4OH-+H2
・水素イオンの発生(陽極)
Al3++3H2O→Al(OH)3+3H++3e-、2H2O→O2+4H++4e-
【0062】
ここで、両反応は電子の係数と水酸化物イオンの係数が同じであることから、いずれの反応が生じている場合でも電子の消費物質量と水酸化物イオンの生成物質量は同じである。
【0063】
また、電子の消費物質量と印可電流は比例関係にあることから、印可電流を測定することで水酸化物イオンの生成物質量を計算することが可能である。計算された水酸化物イオン生成物質量を中和するだけの、酸水溶液をポンプで圧送し、電極に注入する。ポンプの制御は、電流計測部から得られる電圧を電圧調整部で調整し、ポンプの外部入力端子で行う。
【0064】
このように、実際の現場においても電気浸透圧密工法を適用する対象地盤に対し、最適な電極を用い、最適な電極間隔を設定することで、従来の電気浸透圧密工法では達成できなかった迅速な粘土地盤の圧密脱水が可能になるのである。
【0065】
尚、滴定電極については、通常の電極に滴定機能を追加した滴定電極と、RS電極に滴定機能を追加したRS滴定電極の2種類が考えられる。
【0066】
(電極の選択及び電極間の間隔の設定について)
前記本発明による電気浸透圧密試験装置を使用しての試験結果から、通電初期に供試体1にかかる電圧が10V程度であり、さらに通電後1時間が経過しても電圧変化がほとんど生じない場合、現場で行う電気浸透圧密工法で用いる電極10は、通常の電極ではなくRS電極15、または通常電極10に滴定機能を追加した滴定電極もしくはRS電極15に滴定機能を追加したRS滴定電極が使用されるものとなる。
【0067】
また、現場で行う電気浸透圧密工法において、圧密対象地盤の深度が最深で1m、電極間の間隔が1m未満となるような場合には、RS電極と通常電極で脱水量及び脱水速度にほとんど差が生じない。その場合には、通常電極を用いることとなる。通常電極を用いる場合、電気回路がRS電極を用いる場合よりも簡素であるため容易に取り扱うことができるからである。
【0068】
次に、電気浸透圧密試験装置の試験結果を用いた電極間隔の設定は以下の流れになる。
(1) 本発明による試験装置を用いて電気浸透圧密試験を実施し、電気浸透圧密脱水に対する供試体1の地盤材料特性を把握する。例えば脱水が早い地盤材料であるか否かなどの把握である。
(2) 本発明による試験装置を用いての電気浸透圧密試験で脱水に要する時間や必要となる電力を計測した結果から、電極間隔を従来のドレーン打設間隔である1~2mとできるかどうかの判定を行う。
(3) (1)で調べた地盤材料特性などから、使用する電極材料(従来電極・RS電極・滴定電極)を選定する。
(4) 施工対象となる現地の地盤領域面積(地盤領域体積)において必要となる電力を、本発明試験装置での電気浸透圧密試験で計測した電流電圧値を参考に推定し、具体的な電極間隔を設定することとなる。
【0069】
従来の真空圧密工法のドレーン打設間隔と同様、電気浸透圧密工法の電極間隔は地盤材料特性により異なり、電気浸透脱水効果が高い地盤材料であれば電極間隔は、例えば2mとし、電気浸透脱水効果が小さい場合には、RS電極15を用いるなど電極に工夫をして例えば1~2mなどの短い間隔にして電極を打設することが考えられる。
【0070】
尚、電気浸透脱水効果が高い地盤材料についても、RS電極15を用いることで電極間隔を例えば2m以上にできる可能性があれば、電極間隔を広げて設定することも可能である。
【0071】
(3次元模型土槽を用いての電気浸透圧密工法の適用可能性)
また、本件発明者らは、本発明の電気浸透圧密試験装置による試験のみならず、いわゆる立体的な3次元模型土槽を作製し、それを用いて電気浸透圧密工法の適用可能性についても検討した。
【0072】
その場合、図に示すように、中央の陰極に対し、周辺に6本の陽極を設置したケース(
図7参照)と、周辺に3本の陽極を設置したケースについて試験を実施した。
【0073】
このとき、両ケースで陽極表面積が同じになるよう、陽極3本設置のケースは陽極の直径は6本設置ケースの2倍とした。すると、試験の結果,両ケースとも脱水量と脱水時間にほとんど差が生じないことが分かった。このことから、現場施工時において、電極配置を
図7のような六角形配置にするのではではなく、電極の配置を
図8のような方形状をなす対面配置にして、陽極表面積をほぼ同じにすれば充分に電気浸透圧密脱水効果が得られることが確認できたのである。
【0074】
従って、実際の現場においても
図8のように方形状の対面的に電極を配置することで、略方形状をなす外部エリア内全体を、すなわち隅角部も余すことなく脱水することが出来、圧密脱水対象領域が広範囲の方形状をなす場合でもその隅々まで電気浸透脱水が可能であることが確認できたのである。
【0075】
その結果、陽極と陰極間だけでなく、陽極と壁面間の粘土においても脱水が進行しており、初期含水比100%の粘土地盤が最終的に平均含水比47%低度まで低下することも確認できた。
【0076】
すなわち、
図8のように電極を対面的な配列にして方形状の立体的な領域を3次元的に電気浸透圧密工法を適用することで極めて効率的な地盤の圧密脱水が可能であることが確認できたのである。
【0077】
このことの意味は、現場での本発明の電気浸透圧密工法施工時において、電極の表面積を増減調整することで、設置電極数を削減することも出来、さらに前記したように
図8のように電極を対面的な配列とすることで方形状をなす3次元的施工領域の施工効率をおおきく向上させることも出来ることにある。
尚、
図7,
図8において、正方形からなる電極は陰極を示し、円形からなる電極は陽極を示す。
【0078】
(電気浸透圧密前後の地盤力学性状の把握)
電気浸透圧密工法適用後の地盤の力学特性についての把握の必要性につき説明する。前記把握のため電気浸透圧密された供試体1を対象に一軸試験や三軸試験のような力学試験を実施する必要がある。これについて、前述した本発明の電気浸透圧密試験装置の圧密容器2よりも大きいサイズの圧密容器2を用いることで、電気浸透圧密後の供試体1から力学試験用の供試体の作製が可能となる。
【0079】
また、粘土地盤の圧密脱水工法には、盛土載荷による圧密や真空圧密が従来使用されており、他工法との比較試験も必要である。前述した本発明の電気浸透圧密試験装置は、鉛直荷重の載荷が可能であるため、載荷による圧密試験も実施できる。
【0080】
また、両面排水可能な機構となっているため、排水経路に真空ポンプを接続することで真空圧密試験も実施できる。載荷による圧密試験、真空圧密試験及び電気浸透圧密試験を同じ条件のもと、本発明の電気浸透圧密試験装置で実施可能であるため、他工法との脱水効果に関する比較検討も可能となっているのである(
図9)。
【0081】
(実施可能性)
現在主流で用いられる盛土載荷による圧密工法や真空圧密工法は土の透水係数に依存した脱水方法であり、粘土の透水係数が非常に小さい故に脱水に長時間要するなどの課題があること前述した通りである。
【0082】
本発明は電気化学的に粘土地盤の間隙水を強制脱水させる際の脱水速度を飛躍的に高めるものであり、前記従来の課題に対して透水性に依存しない脱水手法であるため極めて優れている。
【0083】
また、電気浸透圧密工法では、盛土載荷による圧密や真空圧密と比較しても設置コストに大きな差はなく、実施の可能性が高い。さらに、今後の電気浸透圧密工法の普及にあたり、最適な印可電流値や電極材料、通電時間等を地盤材料特性から設定可能とすることが出来る。
【0084】
また、電気浸透圧密による地盤改良時及び改良後の地盤変形に関する数値解析を実施するにあたり必要となる地盤パラメータを取得するため、本発明の電気浸透圧密試験装置による圧密試験及び圧密後の力学試験の実施が迅速かつ容易に実施できる利点がある。
【符号の説明】
【0085】
1 供試体
2 圧密容器
3 直流電源装置
4 電極棒
5 載荷装置
6 載荷部材
7 変形検出材
8 ろ紙
9 取付板
10 電極
11 気液分離装置
12 接続線
13 計測装置
14 鉛直変位計
15 RS電極