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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142797
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】杭基礎構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/34 20060101AFI20241003BHJP
   E02D 27/16 20060101ALI20241003BHJP
   E02D 27/26 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
E02D27/34 Z
E02D27/16
E02D27/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055128
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓
(72)【発明者】
【氏名】阿形 淳
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046CA08
2D046DA17
(57)【要約】
【課題】地盤改良体の側面の水平抵抗が期待できない液状化地盤において、水平力や曲げモーメントが杭頭に作用する基礎杭の水平抵抗を強化することができる。
【解決手段】液状化地盤G1上に構築される構造物を支持する基礎杭2と、基礎杭2の周囲に形成される地盤改良体3と、を備え、地盤改良体3は、地盤改良体3の下端が前記液状化地盤G1の下に位置する非液状化層G2に根入れされた状態で設けられ、基礎杭2の軸部には、地盤改良体3との間でずれ止めとして機能する凹凸形状のずれ止め部21が設けられ、ずれ止め部21の少なくとも一部は、改良体底部34との間に圧縮トラスTを形成する軸部の領域に配置され、改良体底部34は、凹凸形状に形成されている杭基礎構造を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状化地盤上に構築される構造物を支持する基礎杭と、
前記基礎杭の周囲に形成される地盤改良体と、を備え、
前記地盤改良体は、該地盤改良体の下端が前記液状化地盤の下に位置する非液状化層に根入れされた状態で設けられ、
前記基礎杭の軸部には、前記地盤改良体との間でずれ止めとして機能する凹凸形状のずれ止め部が設けられ、
前記ずれ止め部の少なくとも一部は、前記地盤改良体の改良体底部との間に圧縮トラスを形成する前記軸部の領域に配置され、
前記地盤改良体の底部は、凹凸形状に形成される杭基礎構造。
【請求項2】
前記地盤改良体の底部は、それ以外の部分よりも高強度である、請求項1に記載の杭基礎構造。
【請求項3】
前記基礎杭は、鋼管杭である、請求項1又は2に記載の杭基礎構造。
【請求項4】
前記鋼管杭は、段付鋼管、或いはディンプル鋼管である、請求項3に記載の杭基礎構造。
【請求項5】
前記ずれ止め部は、前記基礎杭の杭外周面に窪みとして成形される、請求項1又は2に記載の杭基礎構造。
【請求項6】
前記ずれ止め部は、前記基礎杭の杭外周面に固着された溶接ビードにより形成される、請求項1又は2に記載の杭基礎構造。
【請求項7】
前記ずれ止め部は、前記基礎杭の杭外周面に圧延にて形成される、請求項1又は2に記載の杭基礎構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭基礎構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤上に構築される構造物を支持する基礎杭を備えた杭基礎構造では、大地震時に基礎杭に大きな水平力が作用することから、杭基礎構造として変位・応力ともに厳しい要求性能が求められている。そのため、基礎杭の水平耐力を向上させることを目的とし、本来は別の工法である基礎杭工法と地盤改良工法とを組み合わせた構造・工法が多く提案されている。
【0003】
例えば、基礎杭の周囲に地盤改良体を形成することで、杭と地盤改良体とから構成される合成杭の径を大きく形成することにより水平耐力を向上させる方法が知られている。このような杭基礎構造は、地盤がもつ水平抵抗特性を利用するものであり、合成杭の杭径を大きくして水平方向の反力面積を増大させることで、杭の水平耐力を高め、変形を抑制するとともに、杭に発生する応力を低減することを可能にしている。
【0004】
例えば特許文献1、2に示されるような、基礎杭とその基礎杭の周囲に形成された地盤改良体を備え、改良体によって基礎構造自体を拡径した構造にすることで水平方向の圧力抵抗をもたせる杭基礎構造が知られている。また、この場合には、改良体の深さ方向の長さを基礎杭の長さよりも短くし、水平抵抗に寄与が大きい上部に集中させることにより地盤改良範囲を限定的としてコストを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-065579号公報
【特許文献2】特開2014-066010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1、2に示されるような従来の杭基礎構造は、基礎杭の周囲に改良体を設けることで水平抵抗性能を向上させるものであり、すなわち改良体の側面抵抗を利用したものである。このような従来技術では、基礎杭や改良体周囲の地盤が一定の強度を有する場合を対象とし、水平抵抗を発揮できることを前提とした技術である。そのため、液状化地盤においては、液状化時に地盤の水平抵抗が喪失する、或いは極めて低下してしまい、水平抵抗が得られずに本技術の目的を達成し得る杭基礎構造として機能しなくなるおそれがある。
このように、従来の杭基礎構造では、水平方向の圧力抵抗に期待して改良体を設置するものであり、液状化地盤においてその機能が十分に確保されているものではないことから、その点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点を鑑みてなされたもので、地盤改良体の側面の水平抵抗が期待できない液状化地盤において、水平力や曲げモーメントが杭頭に作用する基礎杭の水平抵抗を強化することができる杭基礎構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る杭基礎構造の態様1は、液状化地盤上に構築される構造物を支持する基礎杭と、前記基礎杭の周囲に形成される地盤改良体と、を備え、前記地盤改良体は、該地盤改良体の下端が前記液状化地盤の下に位置する非液状化層に根入れされた状態で設けられ、前記基礎杭の軸部には、前記地盤改良体との間でずれ止めとして機能する凹凸形状のずれ止め部が設けられ、前記ずれ止め部の少なくとも一部は、前記地盤改良体の改良体底部との間に圧縮トラスを形成する前記軸部の領域に配置され、前記地盤改良体の底部は、凹凸形状に形成されることを特徴としている。
【0009】
本発明に係る杭基礎構造によれば、基礎杭の軸部に凹凸形状のずれ止め部を設け、このずれ止め部に起因して生じる圧縮トラスが形成される範囲に地盤改良体が存在することで、基礎杭に作用する水平力が、ずれ止め部から基礎杭の周囲に形成される地盤改良体を介して地盤改良体の底部(改良体底部)へ伝達する。そして、改良体底部が凹凸形状に形成されていることで、改良体底部の摩擦抵抗を効率的に得ることができる。これにより、改良体底部に伝達された水平力は、非液状化層に根入れされた改良体底部の支圧抵抗と摩擦抵抗により抵抗することができる。このため、本発明では、非液状化層における支圧抵抗と摩擦抵抗を利用していることから、地震時に液状化地盤が液状化した時においても改良体底部の支圧抵抗と摩擦抵抗による優れた水平抵抗効果が得られる。
このように、本発明では、地盤改良体の側面の水平抵抗が期待できない液状化層においても、改良体底部の支圧抵抗と摩擦抵抗を活用することで、水平力や曲げモーメントが杭頭に作用する基礎杭の水平抵抗を強化することができる。
【0010】
また、本発明に係る杭基礎構造では、改良体底部が凹凸形状をなしていることで、その改良体底部における支圧抵抗と摩擦抵抗を最大化できる。一方で、改良体上部は改良体底部に比べて縮径することが可能となり、地盤改良体のスリム化を行った場合には、液状化時においても基礎杭間の地盤のすり抜け現象を阻害せず、基礎杭に作用する流動力を抑制することが可能となる。加えて、地盤改良体のスリム化は地盤改良体の体積の削減につながるため、コストの低減も図ることができる。
【0011】
(2)本発明の態様2は、態様1の杭基礎構造において、前記地盤改良体の底部は、それ以外の部分よりも高強度であることが好ましい。
【0012】
この場合には、改良体底部を高強度とすることで、改良体底部と非液状化層の地盤との間の付着力を高めることができ、改良体底部の摩擦抵抗を増大できる。
【0013】
(3)本発明の態様3は、態様1又は態様2の杭基礎構造において、前記基礎杭は、鋼管杭であることを特徴としてもよい。
【0014】
この場合には、基礎杭が鋼管杭であるため、ずれ止め部の設置や形成が容易である。
【0015】
(4)本発明の態様4は、態様3の杭基礎構造において、前記鋼管杭は、段付鋼管、或いはディンプル鋼管であることを特徴としてもよい。
【0016】
この場合には、段付鋼管、或いはディンプル鋼管を採用することにより、鋼管杭の軸部に設けられるずれ止め部が凹んだ状態で形成される。そのため、杭外周面と地盤改良体との付着により一体性を確保でき、改良体底部の支圧抵抗と摩擦抵抗による水平抵抗の効果を十分に得ることができる。
また、本発明では、鋼管杭の鋼管内面にコンクリート等の充填材を充填した場合には、鋼管内面と充填材との付着により一体性を確保でき、鋼管杭の水平抵抗をさらに高めることができる。
そして、鋼管にディンプルを設けたディンプル鋼管の場合には、窪み付きであるにも関わらず鋼管内部に充填材を充填しない場合においても鋼管杭直管と同等の圧縮性能と曲げ性能を発揮することができ、優れた効果を享受できる。
【0017】
(5)本発明の態様5は、態様1から態様4のいずれか一つの杭基礎構造において、前記ずれ止め部は、前記基礎杭の杭外周面に窪みとして成形されることを特徴としてもよい。
【0018】
この場合には、基礎杭の軸部に設置されるずれ止め部が窪みであることで,杭外周面と地盤改良体との付着により一体性を確保でき、改良体底部の支圧抵抗と摩擦抵抗による水平抵抗効果が得られる。また、基礎杭の杭内面にコンクリート等の充填材を充填した場合には、杭内面と充填材との付着により一体性を確保でき、基礎杭の水平抵抗をさらに高めることが可能である。
そして、ずれ止め部を窪みとして形成することにより、優れた加工性や杭の施工性が得られる。
【0019】
(6)本発明の態様6は、態様1から態様4のいずれか一つの杭基礎構造において、前記ずれ止め部は、前記基礎杭の杭外周面に固着された溶接ビードにより形成されることを特徴としてもよい。
【0020】
この場合には、杭外周面に溶接ビードを設置することにより容易に凸状部の形成が可能であるので、優れた加工性や杭の施工性をもたせることができる。
【0021】
(7)本発明の態様7は、態様1から態様4のいずれか一つの杭基礎構造において、前記ずれ止め部は、前記基礎杭の杭外周面に圧延にて形成されることを特徴としてもよい。
【0022】
この場合には、基礎杭の軸部に設けられるずれ止め部が製造時に製造ラインにて圧延形成により杭外周面に対して形成されることで、効率よく、かつ安定した形状で加工することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の杭基礎構造によれば、地盤改良体の側面の水平抵抗が期待できない液状化地盤において、水平力や曲げモーメントが杭頭に作用する基礎杭の水平抵抗を強化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態による杭基礎構造を示す縦断面図である。
図2】(a)~(c)は、基礎杭のずれ止め部の一例を示す図である。
図3図1の杭基礎構造の水平力伝達メカニズムを説明するための図である。
図4図3の要部拡大図である。
図5】(a)、(b)は圧縮トラス形成角の範囲を説明するための図である。
図6】(a)、(b)は、杭基礎構造の第1施工方法の施工手順を示す図である。
図7】(a)~(c)は、図6(b)に続く杭基礎構造の第1施工方法の施工手順を示す図である。
図8】(a)、(b)は、杭基礎構造の第2施工方法の施工手順を示す図である。
図9】(a)~(c)は、図8(b)に続く杭基礎構造の第2施工方法の施工手順を示す図である。
図10】第2実施形態による杭基礎構造を示す縦断面図である。
図11】第3実施形態による杭基礎構造を示す縦断面図である。
図12】第4実施形態による杭基礎構造を示す縦断面図である。
図13図12に示す杭基礎構造の基礎杭のずれ止め部の一例を示す図である。
図14】(a)は第1変形例による基礎杭のずれ止め部の一例を示す側面図、(b)は図14(a)に示すA-A線断面図である。
図15】第3変形例によるずれ止め部を有する杭基礎構造を示す縦断面図である。
図16】(a)、(b)は、図15に示す基礎杭のずれ止め部を示す水平断面図である。
図17】第5実施形態による杭基礎構造を示す縦断面図である。
図18】第6実施形態による杭基礎構造を示す縦断面図である。
図19】第7実施形態による杭基礎構造を示す縦断面図である。
図20】実施例による実験装置の構成を示す側面図である。
図21】実施例による試験体の構成を示す側面図であって、(a)は比較例1、(b)は比較例2、(c)は実施例の図である。
図22】実施例の実験結果による水平荷重と水平変位との関係を示す図である。
図23】実施例の実験結果による杭の深度方向の曲げモーメント分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態による杭基礎構造について、図面に基づいて説明する。
【0026】
(第1実施形態)
図1に示す本実施形態による杭基礎構造1は、液状化のおそれがある砂質層などの軟弱層からなる液状化地盤G1に構築されている構造物(図示省略)の基礎構造であり、水平力や曲げモーメントが杭頭に作用する基礎杭2の水平抵抗を効率よく強化することを可能にした構造である。本実施形態では、基礎杭2の上部を飲み込む形で、地表面と同一面に設けたフーチング13が設けられている。
本実施形態では、液状化地盤G1の下層に非液状化層G2を有する。
【0027】
杭基礎構造1は、液状化地盤G1上に構築される構造物を支持する基礎杭2と、基礎杭2の周囲に形成される地盤改良体3と、を備えている。
【0028】
基礎杭2は、図2(a)、(b)に示す段付鋼管2A、2Bや、図2(c)に示すディンプル鋼管2C等の鋼管杭が採用されている。基礎杭2としては、現場打ち杭でも既製杭でもよい。また、基礎杭2の材料は、RC系(コンクリート杭)やスチール系でもよい。ただし、鋼管杭を採用した方が後述するずれ止め部21の凹凸の設置(形成)する加工が容易となる利点がある。
【0029】
図2(a)に示す段付鋼管2Aは、管軸Oに直交する周方向に沿って延び、杭外周面2aより窪んだ周溝21aが管軸方向に間隔をあけて配置された形状をなしている。図2(b)に示す段付鋼管2Bは、側面視して管軸Oに交差する方向に沿って傾斜し、杭外周面2aより窪んだ傾斜溝21bが管軸方向に間隔をあけて配置された形状をなしている。図2(c)に示すディンプル鋼管2Cは、杭外周面2aに複数の凹溝21cが周方向及び管軸方向に間隔をあけた形状をなしている。
上記の周溝21a、傾斜溝21b及び凹溝21cは、鋼管製造時に成形された窪みであって、後述するずれ止め部21に相当する。
【0030】
図1に示すように、基礎杭2は、液状化地盤G1及び非液状化層G2に埋設され、非液状化層G2に到達した状態設置されている。基礎杭2は、例えば不図示の杭打機を使用して地表面に対して垂直に設置され、地中に貫入することにより打設される。地震時に基礎杭2が構造物や液状化地盤G1より受ける水平力の一部は、後述するように地盤改良体3の根入れ部3c(改良体底部34)を介して非液状化層G2に伝達されその非液状化層G2で負担される。
【0031】
地盤改良体3は、液状化地盤G1の上下方向でほぼ全域に設けられ、下端(改良体底部34)が液状化地盤G1の下に位置する非液状化層G2に根入れされた状態で設けられている。地盤改良体3は、上方から下方に向けて外径が大きくなる多段柱状体をなしている。本実施形態による地盤改良体3は1段の柱状体である。すなわち、地盤改良体3は、地表面付近の改良体頂部3bの外径が改良体底部34の外径より小さくなっている。そのため、基礎杭2にかかる水平力F1を地盤改良体3の側面の水平抵抗へ過度に期待しない構成となる。このことから、液状化地盤G1に設けられる地盤改良体3の地表面付近の改良体頂部3bの断面積(外径)を小さく抑えることによるスリム化を行うことができ、コスト削減を図ることができる。また、地盤改良体3のスリム化を行うことで、液状化時に基礎杭2が受ける液状化地盤G1の流動力を抑制することが可能である。
【0032】
地盤改良体3は、基礎杭2の周囲に形成され、例えば土砂をセメントミルク等のセメント系固化剤で固化させることにより形成される。地盤改良体3は、高さ方向の略中央部より下側に位置する円柱状の下柱状体31と、下柱状体31より小径で上側に位置する円柱状の上柱状体32と、を有する。上柱状体32の外径は、少なくとも基礎杭2の外径よりも大きく設定されている。下柱状体31は、改良体底部34を含む。
【0033】
改良体底部34は、上述したように所定の厚みで非液状化層G2に根入れされている。改良体底部34は、下方に向かって段になる凹凸形状に形成される。改良体底部34は、径方向中央が下向きに凸となる中央凸底部341と、中央凸底部341の外周部分に位置する外周底部342と、を有する。すなわち、中央凸底部341の下面341aは、外周底部342の下面342aより深い位置である。中央凸底部341の下面341aと外周底部342の下面342aとの間には、径方向外側を向く段差面34aが形成される。
【0034】
改良体底部34には、非液状化層G2の地盤との間で摩擦抵抗F3が生じる。ここで、摩擦抵抗F3は、改良体底部34の中央凸底部341の下面341a、および外周底部342の下面342aに作用する水平摩擦抵抗だけでなく、中央凸底部341と外周底部342との間の側面を形成する段差面34aに作用する水平方向の支圧抵抗を考慮した抵抗とする。なお、摩擦抵抗F3は、段差面34a(後述する34b、34c、34dも同様)の水平方向の支圧抵抗を考慮しない摩擦抵抗であってもよい。
【0035】
中央凸底部341の段の高さ(外周底部342の下面342aから中央凸底部341の下面341aまでの高さ)は、地盤改良体3の径最大部(ここでは下柱状体31の外径)の0.1倍以上の高さがあると、改良体底部34の摩擦抵抗F3を効率的に得ることができ好ましい。
【0036】
本実施形態において、中央凸底部341の外径が上柱状体32の外径と略同径である。なお、中央凸底部341と上柱状体32とが略同径であることに限定されず、例えば中央凸底部341は上柱状体32より大径であっても小径であってもよい。中央凸底部341と外周底部342のうち中央凸底部341の下面341aにおける液状化層G1と非液状化層G2との境界からの深さは、地盤改良体3の非液状化層G2への根入れ深さになる。
【0037】
改良体底部34(根入れ部3c)の強度は、それ以外の部分、すなわち下柱状体31の改良体底部34を除いた部分(根入れ部分より上の領域)、および上柱状体32よりも高強度になっている。改良体底部34は、例えば、その他の部分より一軸圧縮強度で3MPa以上大きい強度であることが望ましい。このように改良体底部34をその他の部分に比べて高強度改良体とすることで、摩擦抵抗F3を増大することができる。
地盤改良体3は、後述するように、非液状化層G2に根入れする深さまで掘削した後、あるいは掘削しながら、掘削ロッド4(図6(a)、(b)参照)の下端部よりセメントミルクを周囲に注出して掘削した土砂と攪拌・混合させながら掘削ロッド4を引き上げることで構築される。そのため、地盤改良体3は、深さに応じて改良体強度を設定でき、上記のように改良体底部34を他の部分より高強度化することができる。そして、改良体底部34とその他の部分とにおいて、それぞれ例えば3箇所のサンプリングした平均値を求めて比較することで、改良体底部34が高強度になっていることを確認できる。ここで、地盤改良体3の強度は、例えば、円柱の試料を側圧を加えない形で圧縮する一般的な一軸圧縮試験により測定できる。
【0038】
地盤改良体3は、改良体底部34を含む下柱状体31が上柱状体32よりも大径であり、改良体底部34に作用する支圧抵抗F2および摩擦抵抗F3を最大化できる構造となっている。具体的に支圧抵抗F2は、中央凸底部341の下面341aと外周底部342の下面342aに作用する。摩擦抵抗F3は、中央凸底部341の下面341aと外周底部342の下面342aに水平摩擦抵抗が作用し、段差面34aに水平方向の支圧抵抗が作用する。また、改良体上部(上柱状体32)は下柱状体31に比べて縮径され、改良体の幅(径)が縮小化している。これにより、地盤改良体3は、液状化時においても基礎杭2同士の間を液状化地盤G1が流動するすり抜け現象を阻害することなく、地盤の流動力を受けにくい構造を実現できる。
【0039】
地盤改良体3は、基礎杭2を地盤に設置する際に基礎杭2の周囲の土砂を掘削ロッド4(図6(b)、図8(b)参照)の掘削用羽根41で掘削し、掘削した土砂にセメントミルクを混合して固化させることにより所定の地盤領域に形成される。
【0040】
このように本実施形態の杭基礎構造1では、基礎杭2の周囲の液状化地盤G1及び非液状化層G2にセメントミルクで固化した地盤改良体3が形成されている。杭基礎構造1は、地盤改良体3が基礎杭2より大きな外径で補強されているため剛性が大きく、かつ基礎杭2に作用する水平力を非液状化層G2に根入れされている地盤改良体3によって十分に対抗することができる。このときの杭基礎構造1に作用する荷重伝達のメカニズム(荷重伝達機構)の詳細については後述する。
【0041】
図3及び図4に示すように、基礎杭2の軸部の杭外周面2aには、地盤改良体3の下部から一定の範囲に、地盤改良体3との間でずれ止め機能を有する凹凸形状のずれ止め部21が設けられている。ずれ止め部21は、少なくとも一部が地盤改良体3の改良体底部34との間に圧縮トラスTが形成される圧縮トラス形成領域Taに配置されている。
【0042】
基礎杭2の軸部の杭外周面2aに設置されたずれ止め部21は、基礎杭2に水平力F1や曲げモーメントMが作用した場合において、その荷重を当該ずれ止め部21の凹凸部分から地盤改良体3に伝達する機能を有する。
ずれ止め部21は、改良体底部34となす傾斜角(圧縮トラス形成角θ)が60度以下となる圧縮トラスTと基礎杭2の軸部との交点Pに位置する高さ以下の領域(後述する、ずれ止め機能領域21A)に配置されている。なお、圧縮トラス形成角θは、好ましくは30~60度の範囲であり、より好ましくは45度である(図5(a)参照)。ここで、図5(a)に示す圧縮トラスT1はθが45度であり、圧縮トラスT2はθが60度、圧縮トラスT3はθが30度である。
【0043】
圧縮トラスTが形成する傾斜角である圧縮トラス形成角θを30~60度の範囲に設定することで、地盤改良体3に圧縮トラスTを十分に形成することができ、改良体底部34の支圧抵抗F2と摩擦抵抗F3による水平抵抗効果を確実に得ることができる。そのため、現場条件や施工機器などの条件によって一般的な圧縮トラス形成角θである45度に設定できない場合であっても、地盤改良体3に圧縮トラスTを確実に形成することができる。
とくに圧縮トラス形成角θを45度とすることで、基礎杭2に作用する水平力F1をずれ止め部21から改良体底部34に伝達できる圧縮トラスTを確実に形成することができ、改良体底部34の支圧抵抗F2および摩擦抵抗F3による水平抵抗効果を得ることができる。
【0044】
ずれ止め部21は、基礎杭2の杭外周面2aに上述した図2(a)~(c)に示すような窪みとして成形されている。
【0045】
次に、本実施形態の杭基礎構造1の荷重伝達機構について図3及び図4を用いて具体的に説明する。
地盤改良体3の内部では、基礎杭2の軸部と、その表面(杭外周面2a)に設置されたずれ止め部21から伝達された水平力は、改良体底部34へ伝達され、非液状化層G2の地盤における支圧抵抗F2および摩擦抵抗F3によって抵抗されることになる。このとき基礎杭2と改良体底部34に挟まれる地盤改良体3の内部には圧縮トラスTが形成される。そして、この圧縮トラスTが形成されることによって荷重伝達が効率的に行われる。また、圧縮トラスTに伴う荷重伝達は圧縮応力を基本としているため、引張強度を有しない地盤改良体3であっても確実に荷重が伝達される。
【0046】
ここで、図3に示す符号は、以下の通りである。
:基礎杭2の半径
:改良体底部34の半径
:改良体頂部3bの半径
ΔR:地盤改良体3の非液状化層G2への根入れ部3cの半径(ΔR=R-r
h:地盤改良体3の高さ(ここでは、下柱状体31の高さ)
l:ずれ止め部21が設置(形成)される深さ方向の長さ(=上述した交点Pから改良体底部34までの長さ)
θ:圧縮トラス形成角(tanθ=l/ΔR)
:地盤改良体3の非液状化層G2への根入れ深さ
【0047】
図4に示すように、圧縮トラスTは、形成される改良体底部34との傾斜角(圧縮トラス形成角θ)が45度となることが好ましい。すなわち、圧縮トラスTの圧縮トラス形成角θが45度の場合には、少なくともずれ止め部21が形成される軸部の深さ方向の長さ範囲l(改良体底部34の外縁部3dを通る圧縮トラスTが基礎杭2の軸部と交差する交点Pから改良体底部34(本実施形態の中央凸底部341の下面341a)までの長さ)は、地盤改良体3の非液状化層G2への根入れ部3cの半径方向の長さΔRと同等となる。
【0048】
また、例えば圧縮トラス形成角θが45度から60度で改良体底部34の外縁部3dを通る場合には、基礎杭2の軸部における交点Pが圧縮トラス形成角θが45度の交点Pよりも上側の位置となるので、ずれ止め部21の少なくとも一部が設けられる範囲の上限位置も、圧縮トラス形成角θが45度のときの上限位置より上側になる。すなわち、ずれ止め部21が形成される軸部の深さ方向の長さ範囲lが大きくなる。
【0049】
なお、ずれ止め部21は、圧縮トラスTの圧縮トラス形成角θの角度によって決められる上記設置範囲(ずれ止め機能領域21A)より上側に外れた領域にずれ止め部21が設けられていてもよい。例えば、圧縮トラスTによる基礎杭2に作用する水平力F1を改良体底部34の支圧抵抗F2および摩擦抵抗F3によって抵抗する伝達機能が作用しないまでも、地盤改良体3とのずれ止め機能を発揮させたり、あるいは基礎杭2の内側に充填されるコンクリートとのずれ止めの機能をもたせるといった効果もあるため、ずれ止め機能領域21Aの領域外にずれ止め部21を設けることも可能である。
【0050】
ずれ止め部21によって形成される圧縮トラスTの形成範囲は、確実に地盤改良体3に含まれていることが好ましい。このことから幾何学的には、改良体底部34、基礎杭2の軸部におけるずれ止め機能領域21A、及び改良体底部34の外縁部3dと基礎杭2の軸部とを結ぶ圧縮トラスTの傾斜線によって定義される三角形部分よりも大きい範囲(径方向外側)の地盤改良体3が必要となる。
【0051】
なお、図5(a)、(b)に示すように、圧縮トラス形成角θは一般的には45度であり、これに基づいた形状、大きさの地盤改良体3に設定される。
そして、上述したように、現場条件や施工機器などの条件に基づき、必要に応じて圧縮トラス形成角θを30~60度の範囲に限定する方が良い。この角度以外では圧縮トラスTは十分に形成されず、十分な効果が得られない。
【0052】
図5(b)は、下柱状体31の高さが小さいケースを示した一例である。この場合、圧縮トラスTは、多段柱状体をなす地盤改良体3の段部33の基礎杭2を向く内側角部33aを通り、基礎杭2の軸部との交点Pが位置する高さ以下の領域に配置されている。これにより、多段柱状体からなる地盤改良体3に効率よく圧縮トラスTを形成することができ、改良体底部34の支圧抵抗および摩擦抵抗を確保し、かつ液状化時に基礎杭2が受ける液状化地盤G1の流動力を抑制することができる。
なお、図5(b)では、改良体底部34の外縁部3dと内側角部33aを通る圧縮トラスT1(図5(b)の実線)の圧縮トラス形成角θが45度である。改良体底部34の外縁部3dを通る60度の圧縮トラスT2(図5(b)の二点鎖線)は、線全体が地盤改良体3に含まれていないため、圧縮トラスT2の一部が地盤改良体3の外に位置してしまい、この圧縮トラスT2において基礎杭2が受ける水平力は改良体底部34には伝達されない。
【0053】
次に、上述した杭基礎構造1の施工方法として、2つの施工例(第1施工方法、第2施工方法)について説明する。
第1施工方法について、図6(a)、(b)及び図7(a)~(c)に基づいて説明する。第1施工方法は、杭後施工方式である。
【0054】
先ず、図6(a)に示すように、掘削ロッド4を施工箇所の地上部に設置する。掘削ロッド4は、ロッド40と、ロッド40の下端に配置され拡径可能かつ縮径可能な掘削用羽根41と、掘削用羽根41の上方に配置される攪拌用羽根42と、を備えている。
【0055】
次に、図6(b)に示すように、ロッド40を回転させ、掘削用羽根41と攪拌用羽根42の回転により地盤を掘削する。本第1実施形態では、地盤改良体3が多段柱状体であり、上柱状体32と下柱状体31とから形成される。そのため、上柱状体32の領域において掘削用羽根41及び攪拌用羽根42を所定の長さに縮径させた状態で掘削し、下柱状体31の領域では掘削用羽根41及び攪拌用羽根42を上柱状体32の領域のときよりも大きく拡径した状態で掘削する。そして、掘削ロッド4によって非液状化層G2に根入れする深さまで掘削した後、掘削ロッド4の下端部に設けられる注出口(図示省略)よりセメントミルクを周囲に注出して掘削した土砂と攪拌・混合させながら掘削ロッド4を引き上げる。これにより、図7(a)に示すように、改良体底部34が非液状化層G2に根入れされた根入れ部3cを形成した所定の形状の地盤改良体3が築造される。このとき改良体底部34の中央凸底部341は、掘削用羽根41及び攪拌用羽根42を所定の長さに縮径させた状態で掘削することで段状に形成する。
【0056】
次に、図7(b)に示すように、予め杭外周面2aの所定領域にずれ止め部21が設けられている基礎杭2を、築造した地盤改良体3に打ち込む。具体的には、基礎杭2を地盤改良体3より下方の地盤に貫入させ、基礎杭2の先端を非液状化層G2の所定の深さに到達させる(図7(c)参照)。基礎杭2は、打ち込む長さに応じて継ぎ足して所定長とする。図7(c)に示すように、基礎杭2を所定深度まで打ち込むことで、基礎杭2のずれ止め部21も所定の高さの位置に配置されることになる。これにより施工が完了となる。
このようにして基礎杭2を設けることにより、基礎杭2が鉛直方向の支持力を得ることができ、さらに液状化地盤G1における基礎杭2の周囲が地盤改良体3によって覆われた状態となって基礎杭2に作用する水平力を地盤改良体3の改良体底部34に伝達する杭基礎構造1が構築される。
【0057】
次に、第2施工方法について、図8(a)、(b)及び図9(a)~(c)に基づいて説明する。第2施工方法は、杭同時施工方式である。
【0058】
先ず、図8(a)に示すように、予め杭外周面2aの所定領域にずれ止め部21が設けられている基礎杭2を装備した状態の掘削ロッド4を施工箇所の地上部に設置する。掘削ロッド4の構成は上述した第1施工方法で使用したものと同様のものである。基礎杭2は、杭内にロッド40を挿通させた状態で、攪拌用羽根42より上の位置でセットされる。そして、掘削用羽根41と攪拌用羽根42とは、縮径したときに基礎杭2の内側を通過可能である。
【0059】
次に、図8(b)に示すように、基礎杭2を装備した掘削ロッド4において、ロッド40を回転させ、掘削用羽根41と攪拌用羽根42の回転により地盤を掘削する。本第1実施形態では、地盤改良体3が多段柱状体であり、上柱状体32と下柱状体31とから形成される。そのため、上柱状体32の領域において掘削用羽根41及び攪拌用羽根42を所定の長さに縮径させた状態で掘削し、下柱状体31の領域では掘削用羽根41及び攪拌用羽根42を上柱状体32の領域のときよりも大きく拡径した状態で非液状化層G2に根入れする深さまで掘削する。このとき、掘削ロッド4の地盤への貫入とともに、基礎杭2も掘削した地盤中に貫入される。
【0060】
そして、第2施工方法では、掘削ロッド4による掘削と同時に、掘削ロッド4の下端部に設けられる注出口(図示省略)よりセメントミルクを周囲に注出して掘削した土砂と攪拌・混合させることで、図9(a)に示すような改良体底部34が非液状化層G2に根入れされた根入れ部3cを形成した所定の形状(第1実施形態では多段柱状体)の地盤改良体3が築造される。
続いて、掘削ロッド4とともに地盤に貫入された基礎杭2を残置させた状態で、掘削用羽根41及び攪拌用羽根42を縮径させた掘削ロッド4を基礎杭2の内側を通過させて地上に引き抜く。
【0061】
次に、図9(b)に示すように、予め杭外周面2aの所定領域にずれ止め部21が設けられている基礎杭2を、さらに築造した地盤改良体3とその下方の非液状化層G2に打ち込む。具体的には、基礎杭2を地盤改良体3及び地盤改良体3より下方の地盤に貫入させ、基礎杭2の先端を非液状化層G2の所定深さまで到達させる(図9(c)参照)。基礎杭2は、打ち込む長さに応じて継ぎ足して所定長とする。図9(c)に示すように、基礎杭2を所定深度まで打ち込むことで、基礎杭2のずれ止め部21も所定の高さの位置に配置されることになる。これにより施工が完了となる。
このようにして基礎杭2を設けることにより、基礎杭2が鉛直方向の支持力を得ることができ、さらに液状化地盤G1における基礎杭2の周囲が地盤改良体3によって覆われた状態となって基礎杭2に作用する水平力を地盤改良体3の改良体底部34に伝達する杭基礎構造1が構築される。
【0062】
次に、上述した杭基礎構造1の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
図3及び図4に示すように、本実施形態による杭基礎構造1では、基礎杭2の軸部に凹凸形状のずれ止め部21を設け、このずれ止め部21に起因して生じる圧縮トラスTが形成される範囲に地盤改良体3が存在することで、基礎杭2に作用する水平力が、ずれ止め部21から基礎杭2の周囲に形成される地盤改良体3を介して改良体底部34へ伝達する。そして、改良体底部34が下方に向かって段状に形成されていることで、改良体底部34の摩擦抵抗F3を効率的に得ることができる。これにより、改良体底部34に伝達された水平力は、非液状化層G2に根入れされた改良体底部34の支圧抵抗F2と摩擦抵抗F3により抵抗することができる。このため、本実施形態では、非液状化層G2における支圧抵抗F2と摩擦抵抗F3を利用していることから、地震時に液状化地盤が液状化した時においても改良体底部34の支圧抵抗F2と摩擦抵抗F3による優れた水平抵抗効果が得られる。
このように、本実施形態では、地盤改良体3の側面の水平抵抗が期待できない液状化層においても、改良体底部34の支圧抵抗F2と摩擦抵抗F3を活用することで、水平力や曲げモーメントが杭頭に作用する基礎杭2の水平抵抗を強化することができる。
【0063】
また、本実施形態では、改良体底部34が凹凸形状をなしていることで、その改良体底部34における支圧抵抗F2と摩擦抵抗F3を最大化できる。一方で、改良体上部は改良体底部34に比べて縮径することが可能となり、この場合、地盤改良体3がスリム化した構成となることから、地盤改良体3のスリム化を行った場合には、液状化時において地盤の基礎杭2間のすり抜け現象を阻害せず、基礎杭2に作用する流動力を抑制することが可能となる。加えて、地盤改良体3のスリム化は地盤改良体3の体積の削減につながるため、コストの低減も図ることができる。
【0064】
また、本実施形態では、改良体底部34は、それ以外の部分よりも高強度であるので、改良体底部34と非液状化層G2の地盤との間の付着力を高めることができ、改良体底部34の摩擦抵抗F3を増大できる。
【0065】
また、本実施形態では、基礎杭2が鋼管杭であるため、ずれ止め部21の設置や形成が容易である。
【0066】
また、本実施形態では、段付鋼管2A、2B(図2(a)、(b)参照)、或いはディンプル鋼管2C(図2(c)参照)を採用することにより、基礎杭2の軸部に設けられるずれ止め部21が凹んだ状態で形成される。そのため、杭外周面2aと地盤改良体3との付着により一体性を確保でき、改良体底部34の支圧抵抗F2と摩擦抵抗F3による水平抵抗の効果を十分に得ることができる。
【0067】
また、本実施形態では、基礎杭2の鋼管内面にコンクリート等の充填材を充填した場合には、鋼管内面と充填材との付着により一体性を確保でき、基礎杭2の水平抵抗をさらに高めることができる。
そして、鋼管にディンプルを設けたディンプル鋼管2C(図2(c)参照)の場合には、窪み付きであるにも関わらず鋼管内部に充填材を充填しない場合においても鋼管杭直管と同等の圧縮性能と曲げ性能を発揮することができ、優れた効果を享受できる。
【0068】
上述した本実施形態による杭基礎構造1では、地盤改良体3の側面の水平抵抗が期待できない液状化地盤G1において、水平力や曲げモーメントが杭頭に作用する基礎杭2の水平抵抗を強化することができる。
【0069】
(第2実施形態)
次に、図10に示すように、第2実施形態による杭基礎構造1Aは、地盤改良体3Aのうち非液状化層G2に根入れされる改良体底部34Aにおいて、径方向中央が下向きに順次凸となる複数段(ここでは2段)の中央凸底部343、344を設けた構成である。すなわち、基礎杭2から径方向外側に向けて、第1中央凸底部343、第2中央凸底部344、外周底部345の順で配置されている。
【0070】
第1中央凸底部343の下面343aは、第2中央凸底部344の下面344aより深い位置となる。そして、改良体底部34Aには、二箇所の段差面34b、34cが形成されている。2段からなる中央凸底部343、344の高さ(外周底部345の下面345aから第1中央凸底部343の下面343aまでの高さ)は、地盤改良体3Aの径最大部(ここでは下柱状体31の外径)の0.1倍以上の高さに設定されることが望ましい。このような高さに設定することで、改良体底部34Aの摩擦抵抗F3を効率的に得ることができる。
【0071】
第2実施形態において、第1中央凸底部343の外径が上柱状体32の外径と略同径であり、第2中央凸底部344の外径が上柱状体32の外径より大きく下柱状体31の外径より小さい。なお、中央凸底部343、344の外径は適宜変更可能である。
【0072】
改良体底部34Aの強度は、それ以外の部分、すなわち下柱状体31の改良体底部34Aを除いた部分(根入れ部分より上の領域、)および上柱状体32よりも高強度になっている。このように改良体底部34Aをその他の部分に比べて高強度改良体とすることで、摩擦抵抗F3を増大することができる。
【0073】
第2実施形態の地盤改良体3Aは、改良体底部34Aを含む下柱状体31が上柱状体32よりも大径であり、改良体底部34Aに作用する支圧抵抗F2と摩擦抵抗F3を最大化できる構造となっている。具体的に支圧抵抗F2は、第1中央凸底部343の下面343a、第2中央凸底部344の下面344aおよび外周底部345の下面345aに作用する。摩擦抵抗F3は、第1中央凸底部343の下面343a、第2中央凸底部344の下面344aおよび外周底部345の下面345aに水平摩擦抵抗が作用し、段差面34b、34cに水平方向の支圧抵抗が作用する。
基礎杭2のずれ止め部21の構成、ずれ止め部21によって形成される圧縮トラスTの形成範囲、杭基礎構造1Aにおける荷重伝達機構については上述した第1実施形態と同様である。
【0074】
(第3実施形態)
次に、図11に示すように、第3実施形態による杭基礎構造1Bは、地盤改良体3Bのうち非液状化層G2に根入れされる改良体底部34Bにおいて、径方向外側が下向きに凸となる外周凸底部346を設けた構成である。すなわち、外周凸底部346の中央側が上側に凹む凹部の天面をなす中央底部347が配置されている。
【0075】
外周凸底部346の下面346aは、中央底部347の下面347aより深い位置となる。そして、改良体底部34Bには、外周凸底部346の下面346aと中央底部347の下面347aとの間に段差面34dが形成されている。外周凸底部346の高さ(中央底部347の下面347aから外周凸底部346の下面346aまでの高さ)は、地盤改良体3Bの径最大部(ここでは下柱状体31の外径)の0.1倍以上の高さに設定されることが望ましい。このような高さに設定することで、改良体底部34Bの摩擦抵抗F3を効率的に得ることができる。
【0076】
第3実施形態において、中央底部347の外径が上柱状体32の外径と略同径であるが、中央底部347の外径は適宜変更可能である。
改良体底部34Bの強度は、それ以外の部分、すなわち下柱状体31の改良体底部34Bを除いた部分(根入れ部分より上の領域、)および上柱状体32よりも高強度になっていることが望ましい。このように改良体底部34Bをその他の部分に比べて高強度改良体とすることで、摩擦抵抗F3を増大することができる。
【0077】
第3実施形態の地盤改良体3Bは、改良体底部34Bを含む下柱状体31が上柱状体32よりも大径であり、改良体底部34Bに作用する支圧抵抗F2と摩擦抵抗F3を最大化できる構造となっている。具体的に支圧抵抗F2は、外周凸底部346の下面346a、および中央底部347の下面347aに作用する。摩擦抵抗F3は、中央底部347の下面347aと外周凸底部346の下面346aに水平摩擦抵抗が作用し、段差面34dに水平方向の支圧抵抗が作用する。
基礎杭2のずれ止め部21の構成、ずれ止め部21によって形成される圧縮トラスTの形成範囲、杭基礎構造1Bにおける荷重伝達機構については上述した第1実施形態と同様である。
【0078】
(第4実施形態)
次に、図12に示すように、第4実施形態による杭基礎構造1Cは、上述した第1実施形態において基礎杭2の軸部に設けられる凹凸形状のずれ止め部22が杭外周面2aから外側に突出する構成としたものである。地盤改良体3Cの形状は、第1実施形態と同様に多段柱状体をなしている。すなわち、地盤改良体3Cは、下端(改良体底部34)が非液状化層G2に根入れされた状態で設けられている。
基礎杭2は、ずれ止め部22以外の構成は第1実施形態と同様であり、非液状化層G2に到達している。
【0079】
図12に示す点線の圧縮トラスTの線は、地盤改良体3Cの改良体底部34における外縁部3dにおける圧縮トラス形成角θが45度の線である。ずれ止め部22は、基礎杭2の杭外周面2aにおいて、圧縮トラスT1が基礎杭2の軸部との交点Pから改良体底部34までの領域(ずれ止め機能領域22A)に設けられている。なお、ずれ止め部22は、基礎杭2における上記ずれ止め機能領域22Aの少なくとも一部に設けられていればよく、ずれ止め機能領域22Aの全体にわたって設けられることに限定されることはなく、上下方向に断続的に配置されていてもよい。また、上述したようにずれ止め機能領域22A以外の領域(ここでは、ずれ止め機能領域22Aより上側の領域)にもずれ止め部22が設けられていてもよい。
【0080】
突起状のずれ止め部22としては、例えば、図13に示すような基礎杭2の杭外周面2aに固着された溶接ビード22aを形成したものを採用できる。この場合には、杭外周面2aに溶接ビード22aを設置することにより容易に凸状部を形成することが可能であるので、優れた加工性や杭の施工性をもたせることができる。
【0081】
(第1変形例)
また、図14(a)、(b)に示すように、第1変形例のずれ止め部22は、基礎杭2の杭外周面2aに対して圧延にて形成された突起22bであってもよい。このような圧延の製造ラインによって突起状のずれ止め部22を形成する場合には、基礎杭2の軸部のずれ止め部を効率よく、かつ安定した形状で設けることができる。なお、図14(a)、(b)における符号22c(軸方向中央に位置する突起22b同士の間の線)は、圧延にて形成された突起22bを有する鋼板を用いて基礎杭2を造管する際の溶接線を示している。
【0082】
(第2変形例)
さらに、第2変形例における突起状となる他のずれ止め部22として、鉄筋や丸鋼、平鋼等をリング状に曲げ加工した部材を基礎杭2の杭外周面2aに設置して溶接等で固着して形成したものであってもよい。
【0083】
(第3変形例)
また、図15及び図16(a)、(b)に示すように、第3変形例による杭基礎構造1Dでは、他の突起状のずれ止め部22として、基礎杭2の杭外周面2aにおいて軸方向に沿って延在する孔あき鋼板23を周方向に間隔をあけて複数設けたものを採用することも可能である。
孔あき鋼板23は、帯状の鋼板に複数(例えば、図16(a)では4枚、図16(b)では8枚)の貫通穴23aが延在方向に配列した構成である。孔あき鋼板23は、貫通穴23aの中心軸が基礎杭2の軸方向に直交する方向に向けるとともに、孔あき鋼板23の板面が基礎杭2に対して放射方向となるように配置されている。
【0084】
(第5実施形態)
図17に示すように、第5実施形態による杭基礎構造1Eは、地盤改良体3Eの形状として深さ方向の全体にわたって一定した外径の柱状体をなす構造である。すなわち、地盤改良体3Eは、改良体頂部3bの外径と改良体底部34の外径が略同一である。この場合も、地盤改良体3Eは、非液状化層G2に根入れした根入れ部3cが形成されている。改良体底部34は、第1実施形態と同様の中央凸底部341を有する。
【0085】
基礎杭2は、上述した第1実施形態の構成と同様である。すなわち、基礎杭2の軸部の杭外周面2aには、地盤改良体3Aの下部から一定の範囲に、地盤改良体3Aとの間でずれ止め機能を有する凹凸形状のずれ止め部21が設けられている。ずれ止め部21は、少なくとも一部が地盤改良体3Eの改良体底部34との間に圧縮トラスTが形成される圧縮トラス形成領域Taに配置されている。
【0086】
図17に示す点線の圧縮トラスTの線は、地盤改良体3Aの改良体底部34における外縁部3dにおける圧縮トラス形成角θが45度の線である。第5実施形態では、基礎杭2の杭外周面2aにおいて、圧縮トラスTが基礎杭2の軸部との交点Pから改良体底部34までの領域(ずれ止め機能領域21A)にずれ止め部21が設けられている。なお、ずれ止め部21は、基礎杭2における上記ずれ止め機能領域21Aの少なくとも一部に設けられていればよく、ずれ止め機能領域21Aの全体にわたって設けられることに限定されることはなく、上下方向に断続的に配置されていてもよい。また、上述したようにずれ止め機能領域21A以外の領域(ここでは、ずれ止め機能領域21Aより上側の領域)にもずれ止め部21が設けられていてもよい。
【0087】
第5実施形態による杭基礎構造1Eでは、地盤改良体3Eに段状の改良体底部34が設けられ、かつ基礎杭2にずれ止め部21が設けられているので、圧縮トラスTによる改良体底部34による支圧抵抗F2と摩擦抵抗F3が得られ基礎杭2に作用する水平力F1を非液状化層G2で負担することが可能である。
【0088】
なお、第5実施形態による杭基礎構造1Eでは、上述した第1実施形態の杭基礎構造1のように地盤改良体3の上部断面が縮径されて小さくなっていない。つまり、液状化地盤G1の上部に大きな円柱状の地盤改良体3Eが存在していることから、上記第1実施形態のように上部断面(図1に示す上柱状体32の断面)が小さい場合に比べて液状化時における基礎杭2間の地盤がすり抜け現象を阻害する可能性があり、地盤の流動力を受けやすい構成となる。
【0089】
(第6実施形態)
図18に示すように、第6実施形態による杭基礎構造1Fは、液状化地盤G1の深さ方向の下部のみに柱状体からなる地盤改良体3Fを設けた構成である。
すなわち、地盤改良体3Fは、上述した第1実施形態の上柱状体32(図1参照)が省略されて下柱状体31のみを設けた構成と同等であり、改良体底部34を含み、改良体頂部3bの外径と改良体底部34の外径は略同一である。この場合も、地盤改良体3Fは、非液状化層G2に根入れした根入れ部3cが形成されている。改良体底部34は、第1実施形態と同様の中央凸底部341を有する。
【0090】
基礎杭2は、上述した第1実施形態の構成と同様である。すなわち、基礎杭2の軸部の杭外周面2aには、地盤改良体3Bの下部から一定の範囲に、地盤改良体3Bとの間でずれ止め機能を有する凹凸形状のずれ止め部21が設けられている。ずれ止め部21は、少なくとも一部が地盤改良体3Fの改良体底部34との間に圧縮トラスTが形成される圧縮トラス形成領域Taに配置されている。図18では、ずれ止め部21が基礎杭2の軸部における地盤改良体3Bに接するほぼ全域に設けられている。
【0091】
図18に示す点線の圧縮トラスT1の線は、地盤改良体3Bの改良体底部34における外縁部3dにおける圧縮トラス形成角θが45度の線である。第3実施形態では、基礎杭2の杭外周面2aにおいて、圧縮トラスTが基礎杭2の軸部との交点Pから改良体底部34までの領域(ずれ止め機能領域21A)にずれ止め部21が設けられている。なお、ずれ止め部21は、基礎杭2における上記ずれ止め機能領域21Aの少なくとも一部に設けられていればよく、ずれ止め機能領域21Aの全体にわたって設けられることに限定されることはなく、上下方向に断続的に配置されていてもよい。また、上述したようにずれ止め機能領域21A以外の領域にもずれ止め部21が設けられていてもよい。
【0092】
第6実施形態による杭基礎構造1Fでは、地盤改良体3Fに非液状化層G2に根入れした根入れ部3cが形成され、かつ基礎杭2にずれ止め部21が設けられているので、圧縮トラスTによる改良体底部34による支圧抵抗F2と摩擦抵抗F3が得られ基礎杭2に作用する水平力F1を非液状化層G2で負担することが可能である。
【0093】
このように第6実施形態の杭基礎構造1Fでは、上述した第1実施形態の杭基礎構造1のような上柱状体32(図1参照)が存在しないため、抵抗機構を発揮する改良体底部34は大きく確保されている一方、上部の改良を省略することで杭基礎構造1Fとして大幅なスリム化が実現され、コストの低減を図ることができる。また、液状化地盤G1の液状化時における基礎杭2間の地盤のすり抜け現象を阻害しないため、基礎杭2に作用する地盤の流動力を抑制できるメリットもある。
【0094】
(第7実施形態)
図19に示す第7実施形態による杭基礎構造1Gは、上方から下方に向けて漸次、外径が大きくなるコーン柱状体をなす地盤改良体3Gを設けた構成である。
地盤改良体3Gは、上述した第1実施形態と同様に液状化地盤G1の上下方向でほぼ全域に設けられ、下端(改良体底部34)が非液状化層G2に根入れされた状態で設けられている。すなわち、地盤改良体3Gは、地表面付近の改良体頂部3bの外径が改良体底部34の外径より小さくなっている。
【0095】
基礎杭2は、上述した実施形態の構成と同様である。すなわち、基礎杭2の軸部の杭外周面2aには、地盤改良体3Gの下部から一定の範囲に、地盤改良体3Gとの間でずれ止め機能を有する凹凸形状のずれ止め部21が設けられている。ずれ止め部21は、少なくとも一部が地盤改良体3Gの改良体底部34との間に圧縮トラスTが形成される圧縮トラス形成領域Taに配置されている。
【0096】
図19に示す点線の圧縮トラスTの線は、地盤改良体3Cの改良体底部34における外縁部3dにおける圧縮トラス形成角θが45度の線である。第7実施形態では、基礎杭2の杭外周面2aにおいて、圧縮トラスTが基礎杭2の軸部との交点Pから改良体底部34までの領域(ずれ止め機能領域21A)にずれ止め部21が設けられている。なお、ずれ止め部21は、基礎杭2における上記ずれ止め機能領域21Aの少なくとも一部に設けられていればよく、ずれ止め機能領域21Aの全体にわたって設けられることに限定されることはなく、上下方向に断続的に配置されていてもよい。また、上述したようにずれ止め機能領域21A以外の領域(ここでは、ずれ止め機能領域21Aより上側の領域)にもずれ止め部21が設けられていてもよい。
【0097】
第7実施形態による杭基礎構造1Gでは、地盤改良体3Gに非液状化層G2に根入れした根入れ部3cが形成され、かつ基礎杭2にずれ止め部21が設けられているので、圧縮トラスTによる改良体底部34による支圧抵抗F2と摩擦抵抗F3が得られ、基礎杭2に作用する水平力F1を非液状化層G2で負担することが可能である。
【0098】
また、第7実施形態の杭基礎構造1Gは、上述した第1実施形態の杭基礎構造1と同様に地盤改良体3Gの上部の断面積が小さく、縮径されているので、液状化地盤G1の上部の地盤改良を低減することができ、コストの低減を図ることができる。
【0099】
さらに、第7実施形態による杭基礎構造1Gでは、地盤改良体3Gがコーン形状であるので、施工時に順次、一定量で拡径を行いながら効率よく施工を行うことができる。
しかも、本実施形態では、コーン柱状体からなる地盤改良体3Gの形状が、圧縮トラスTが形成される地盤改良体3Cの三角形部分と類似するため、圧縮トラス形成角θに合わせて地盤改良範囲を縮小することができ、コストの低減を図ることができる。
【0100】
次に、上述した実施形態による杭基礎構造1~1Gの効果を裏付けるために行った実施例について以下説明する。
【0101】
(実施例)
実施例では、上述した実施形態の杭基礎構造を模擬した試験体を使用した模型実験を行い、改良体底面の支圧と摩擦の効果を確認した。
図20及び図21に示すように、試験体10(10A、10B、10C)は、実大で杭径800mm,板厚12mm,杭長26mの鋼管杭を模擬したものを使用した。実験は、鋼管杭11のみを設けた第1試験体10Aを使用した比較例1と、鋼管杭11と地盤改良体12とを備え、改良体底部12aに支圧抵抗F2のみを作用させた比較例2と、鋼管杭11と地盤改良体12とを備え、改良体底部12aに支圧抵抗F2と摩擦抵抗F3を作用させた実施例と、の3ケースを行った。鋼管杭11と地盤改良体12は接着により一体化することで、鋼管杭11と地盤改良体12がずれ止め部により定着されている状態を表現した。
【0102】
図20に示すように、実験装置100は、平面視矩形の土槽101に模擬地盤102である東北珪砂6号(乾燥砂、相対密度90%)を入れ、平面視中央に各ケース(比較例1、2、実施例)の試験体10A、10B、10Cを設置する。このとき、比較例2と実施例では、改良体底部12aを模擬地盤102に埋設する。比較例2では、地盤面にテフロン(登録商標)シートを敷設し、改良体底部12aにもテフロン(登録商標)シートを貼付することで、テフロン(登録商標)シート間で滑るようにして底面摩擦(摩擦抵抗F3)を除去することで支圧抵抗F2のみが作用する形態とした。模擬地盤102は、非液状化層を模擬したものである。非液状化層の上層に位置する液状化層に相当する地盤は、液状化時には水平抵抗に寄与しないため、地盤剛性をゼロと見なし、実験上は省略している。
実験方法は、各ケースの試験体10A、10B、10Cにおける鋼管杭11の上端に支持部103を設け、この支持部103を錘105を取り付けたワイヤー104によって水平方向両側から載荷する。具体的な加力方法として、1G場で、正負交番載荷(各ステップで荷重を2回ずつ載荷)とし、全7ステップ行った。杭頭は回転自由条件としている。載荷荷重(N)は、ステップ毎に大きくしていく。
【0103】
図22は、実験結果による水平荷重と水平変位との関係を示している。図22において、横軸は基準化水平変位、縦軸は基準化水平荷重であり、それぞれ正負交番載荷の各載荷ステップにおける第1サイクルの正側最大荷重時の結果を示している。ここで、基準化水平変位と基準化水平荷重は、鋼管杭11のみを設けた比較例1の最大変位、最大荷重をそれぞれ1として基準化し、この基準値との相対値を示している。
図22に示す実験結果から、鋼管杭11のみを設けた比較例1に対して、比較例2の改良体底面に支圧抵抗のみを作用させた比較例2では1.9倍程度の水平抵抗が発揮され、改良体底面に支圧抵抗と摩擦抵抗を作用させた実施例では4.7倍程度の水平抵抗が発揮されることが確認できた。
【0104】
図23は、実験結果による鋼管杭の深度方向の曲げモーメント分布を示している。図23において、横軸は基準化曲げモーメント、縦軸は深度(m)であり、正負交番載荷のある載荷ステップにおける第1サイクルの正側最大荷重時の結果を示している。ここで、基準化曲げモーメントは、鋼管杭11のみを設けた比較例1の最大曲げモーメントを1として基準化し、この基準値との相対値を示している。また、深度は実大換算の値で示している。
図23に示す実験結果から、鋼管杭11のみを設けた比較例1に対して、比較例2の改良体底面に支圧抵抗のみを作用させた比較例2では0.8倍程度に鋼管杭に生じる曲げモーメントが低減され、改良体底面に支圧抵抗と摩擦抵抗を作用させた実施例では0.3倍程度に鋼管杭に生じる曲げモーメントが低減されることが確認できた。
【0105】
図22及び図23の結果より、改良体底面の支圧抵抗と摩擦抵抗による鋼管杭の耐震性能の向上が確認できた。
【0106】
以上、本発明による杭基礎構造の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0107】
例えば、改良体底部34として、上述した実施形態の構成の凹凸形状に限定されることはなく、下方に向かって段状に形成される凹凸の高さ、段数、設置範囲、設置数等の構成は変更可能である。例えば、段状の凹凸形状として、多数の突起や凹部が配置された形状、あるいは突条や溝形状等であってもよい。また、凹凸は、凸部だけでも凹部だけの形状であってもよいし、段数も1段でもよく、さらに局所的に凹凸形状が設けられていてもよい。
【0108】
また、基礎杭2の外径、長さ、材質は、地盤条件や支持する構造物の荷重等の条件に合わせて適宜設定することができる。
【0109】
また、上述した実施形態では、地盤改良体の形状として多段柱状体、1断面の柱状体、コーン柱状体等を例示し、基礎杭の軸部に形成される凹凸形状のずれ止め部として窪み、溶接ビードや圧延形成による突起、孔あき鋼板を例示したが、種々の形状からなる地盤改良体と、種々の構成からなる基礎杭のずれ止め部との組み合わせは適宜設定することが可能である。
【0110】
また、地盤改良体の形状についても、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば上記の第1実施形態の多段柱状体からなる地盤改良体3では、下柱状体31と上柱状体32からなる1段の段部33が形成された形状であるが、2段、あるいは3段以上の段部が形成されていてもよい。
【0111】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0112】
1、1A~1G 杭基礎構造
2 基礎杭
2a 杭外周面
2A、2B 段付鋼管
2C ディンプル鋼管
21、22 ずれ止め部
21A、22A ずれ止め機能領域
21a 周溝
21b 傾斜溝
21c 凹溝
22a 溶接ビード
22b 突起
23 孔あき鋼板
3、3A~3G 地盤改良体
34、34A、34B 改良体底部
34a、34b、34c、34d 段差面
341、343、344 中央凸底部
342、345 外周底部
346 外周凸底部
347 中央底部
3b 改良体頂部
3c 根入れ部
31 下柱状体
32 上柱状体
G1 液状化地盤
G2 非液状化層
T 圧縮トラス
Ta 圧縮トラス形成領域
図1
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