(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142798
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】デキストリン脂肪酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 37/02 20060101AFI20241003BHJP
A61K 8/73 20060101ALN20241003BHJP
A61Q 1/04 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C08B37/02
A61K8/73
A61Q1/04
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055129
(22)【出願日】2023-03-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000199441
【氏名又は名称】千葉製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】今井 裕美
(72)【発明者】
【氏名】清水 誠
(72)【発明者】
【氏名】月岡 大輔
【テーマコード(参考)】
4C083
4C090
【Fターム(参考)】
4C083AC332
4C083AC422
4C083AD152
4C083AD241
4C083AD242
4C083AD662
4C083BB21
4C083CC13
4C083DD11
4C083FF01
4C090AA05
4C090BA12
4C090BB65
4C090CA38
4C090DA26
(57)【要約】
【課題】デキストリン脂肪酸エステルに含まれる不純物の量を低減可能としたデキストリン脂肪酸エステルの製造方法を提供する。
【解決手段】デキストリン脂肪酸エステルの製造方法は、反応触媒の存在下において、デキストリンと脂肪酸誘導体とを反応させることで、デキストリン脂肪酸エステルを生成する反応工程と、洗浄溶剤を用いてデキストリン脂肪酸エステルを洗浄する溶剤洗浄工程と、を含み、溶剤洗浄工程は、洗浄溶剤にデキストリン脂肪酸エステルを溶解させる加熱工程と、加熱工程後の洗浄溶剤を冷却することでデキストリン脂肪酸エステルを析出させる冷却工程と、冷却後の洗浄溶剤を取り除く工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応触媒の存在下において、デキストリンと脂肪酸誘導体とを反応させることで、デキストリン脂肪酸エステルを生成する反応工程と、
洗浄溶剤を用いて前記デキストリン脂肪酸エステルを洗浄する溶剤洗浄工程と、を含み、
前記溶剤洗浄工程は、
前記洗浄溶剤に前記デキストリン脂肪酸エステルを溶解させる加熱工程と、
前記加熱工程後の前記洗浄溶剤を冷却することで前記デキストリン脂肪酸エステルを析出させる冷却工程と、
冷却後の前記洗浄溶剤を取り除く工程と、を含む
デキストリン脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項2】
前記反応触媒は、ピリジンまたはピリジン誘導体であり、
前記洗浄溶剤は、1-プロパノールを含む
請求項1に記載のデキストリン脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程では、前記洗浄溶剤を50℃以上に加熱する
請求項2に記載のデキストリン脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項4】
前記冷却工程では、前記洗浄溶剤を40℃以下に冷却する
請求項3に記載のデキストリン脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項5】
前記反応工程では、前記デキストリン、前記脂肪酸誘導体、及び前記反応触媒が混合された混合液が反応溶媒によって希釈された状態で前記デキストリン脂肪酸エステルが生成され、
前記反応工程で用いられる前記反応触媒の重量は、前記デキストリンの重量に対して2倍以上6倍以下である
請求項4に記載のデキストリン脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項6】
前記反応溶媒は、酢酸ブチルを含む
請求項5に記載のデキストリン脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項7】
前記溶剤洗浄工程の前または後に、水を用いて前記デキストリン脂肪酸エステルを洗浄する水洗浄工程をさらに含む
請求項1ないし6のうち何れか一項に記載のデキストリン脂肪酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デキストリン脂肪酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料等の原料には、デキストリン脂肪酸エステルが用いられる。デキストリン脂肪酸エステルは、例えば、ピリジンまたはピリジン誘導体等の反応触媒の存在下で、デキストリンと脂肪酸誘導体とを反応させることで生成される。そして、反応生成物をメタノールやエタノール等に分散させた後、不溶画分としてのデキストリン脂肪酸エステルと、可溶画分としての反応触媒とを分離する。これにより、デキストリン脂肪酸エステルが洗浄(精製)される(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
デキストリン脂肪酸エステルでは、その反応時に反応触媒や未反応物が不純物として内部に残存する場合がある。デキストリン脂肪酸エステルの内部に残存した不純物は、デキストリン脂肪酸エステルの外観における透明性の低下や着色を招く。また、反応触媒としてピリジンまたはピリジン誘導体を用いる場合、内部に残存した不純物は、アミン臭等が生じる原因となる。しかし、従来の洗浄方法では、デキストリン脂肪酸エステルの内部に残存した不純物、特に反応触媒やその誘導体を除去することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためのデキストリン脂肪酸エステルの製造方法は、反応触媒の存在下において、デキストリンと脂肪酸誘導体とを反応させることで、デキストリン脂肪酸エステルを生成する反応工程と、洗浄溶剤を用いて前記デキストリン脂肪酸エステルを洗浄する溶剤洗浄工程と、を含み、前記溶剤洗浄工程は、前記洗浄溶剤に前記デキストリン脂肪酸エステルを溶解させる加熱工程と、前記加熱工程後に前記洗浄溶剤を冷却することで前記デキストリン脂肪酸エステルを析出させる冷却工程と、冷却後の前記洗浄溶剤を取り除く工程と、を含む。
【0006】
上記製造方法によれば、加熱によって洗浄溶剤にデキストリン脂肪酸エステルを溶解させることで、反応工程においてデキストリン脂肪酸エステルが生成される際に内部に残存した不純物を取り出すことができる。その後、洗浄溶剤を冷却してデキストリン脂肪酸エステルを析出させた後、洗浄溶剤を取り除くことで、デキストリン脂肪酸エステルに含まれる不純物の量を低減できる。その結果、デキストリン脂肪酸エステルにおいて、不純物に起因する臭い、濁り、着色等を抑制できる。
【0007】
上記デキストリン脂肪酸エステルの製造方法において、前記反応触媒は、ピリジンまたはピリジン誘導体であり、前記洗浄溶剤は、1-プロパノールを含んでもよい。上記製造方法によれば、洗浄溶剤として1-プロパノールを用いることで、加熱工程において、デキストリン脂肪酸エステルを十分に溶解させることができる。また、冷却工程において、反応触媒であるピリジンまたはピリジン誘導体や他の副反応物を析出させずに、デキストリン脂肪酸エステルを十分に析出させることができる。
【0008】
上記デキストリン脂肪酸エステルの製造方法において、前記加熱工程では、前記洗浄溶剤を50℃以上に加熱してもよい。上記製造方法によれば、加熱工程において、デキストリン脂肪酸エステルを好適に溶解させることができる。
【0009】
上記デキストリン脂肪酸エステルの製造方法において、前記冷却工程では、前記洗浄溶剤を40℃以下に冷却してもよい。上記製造方法によれば、冷却工程において、デキストリン脂肪酸エステルを好適に析出させることができる。
【0010】
上記デキストリン脂肪酸エステルの製造方法において、前記反応工程では、前記デキストリン、前記脂肪酸誘導体、及び前記反応触媒が混合された混合液が反応溶媒によって希釈された状態で前記デキストリン脂肪酸エステルが生成され、前記反応工程で用いられる前記反応触媒の重量は、前記デキストリンの重量に対して2倍以上6倍以下であってもよい。上記製造方法によれば、反応工程に反応溶媒を用いることで、混合液の粘度を下げることができる。また、デキストリン脂肪酸エステルを得るための反応を好適に促進させつつ、反応後の洗浄によって十分に反応触媒を除去できる。
【0011】
上記デキストリン脂肪酸エステルの製造方法において、前記反応溶媒は、酢酸ブチルを含んでもよい。上記製造方法によれば、酢酸ブチルを含む反応溶媒を用いることで、他の反応溶媒として用いる場合と比較して、環境への負荷を低減できる。
【0012】
上記デキストリン脂肪酸エステルの製造方法において、前記溶剤洗浄工程の前または後に、水を用いて前記デキストリン脂肪酸エステルを洗浄する水洗浄工程をさらに含んでもよい。上記製造方法によれば、溶剤洗浄工程に加えて水洗浄工程を行うことで、デキストリン脂肪酸エステルに含まれる不純物をより低減できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、デキストリン脂肪酸エステルに含まれる不純物の量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、デキストリン脂肪酸エステルの製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、試験例1における試料A1~A7の作製条件及び評価結果を示す表である。
【
図3】
図3は、試験例2における試料B1~B8の作製条件及び評価結果を示す表である。
【
図4】
図4は、試験例3における試料C1~C7の作製条件及び評価結果を示す表である。
【
図5】
図5は、試験例4における試料D1~D6の作製条件及び評価結果を示す表である。
【
図6】
図6は、試験例4における試料D7~D14の作製条件及び評価結果を示す表である。
【
図7】
図7は、本実施形態の製造方法を用いて作製したデキストリン脂肪酸エステルを用いた処方例1を示す表である。
【
図8】
図8は、本実施形態の製造方法を用いて作製したデキストリン脂肪酸エステルを用いた処方例2を示す表である。
【
図9】
図9は、本実施形態の製造方法を用いて作製したデキストリン脂肪酸エステルを用いた処方例3を示す表である。
【
図10】
図10は、本実施形態の製造方法を用いて作製したデキストリン脂肪酸エステルを用いた処方例4を示す表である。
【
図11】
図11は、本実施形態の製造方法を用いて作製したデキストリン脂肪酸エステルを用いた処方例5を示す表である。
【
図12】
図12は、本実施形態の製造方法を用いて作製したデキストリン脂肪酸エステルを用いた処方例6を示す表である。
【
図13】
図13は、本実施形態の製造方法を用いて作製したデキストリン脂肪酸エステルを用いた処方例7を示す表である。
【
図14】
図14は、本実施形態の製造方法を用いて作製したデキストリン脂肪酸エステルを用いた処方例8を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について
図1~
図14を参照して説明する。
[デキストリン脂肪酸エステル]
デキストリン脂肪酸エステルは、デキストリンと脂肪酸とのエステル化物である。デキストリン脂肪酸エステルは、反応触媒の存在下において、デキストリンと脂肪酸誘導体との反応によって生成される反応物である。
【0016】
本実施形態のデキストリン脂肪酸エステルは、ゲル化能を有するものであってもよいし、ゲル化能を有しないものであってもよい。ゲル化能を有するデキストリン脂肪酸エステルは、液状の油をゲル化させるために使用される。ゲル化能を有しないデキストリン脂肪酸エステルは、例えば、化粧料、医薬品、医薬部外品、文具、インキ、塗料等の基材として使用される。
【0017】
ゲル化能を有するデキストリン脂肪酸エステルは、例えば、平均アシル基置換度がグルコース単位当たり1.0以上である。また、ゲル化能を有するデキストリン脂肪酸エステルのアシル基のモル比組成は、例えば、炭素数12以上22以下の直鎖アシル基が50%以上、かつ、分岐、不飽和、炭素数11以下の短鎖アシル基の総量が50%以下である。
【0018】
ゲル化能を有するデキストリン脂肪酸エステルは、例えば、デキストリンパルミチン酸エステル、デキストリンステアリン酸エステル、デキストリンミリスチン酸エステル、デキストリンラウリン酸エステル、デキストリンアラキン酸エステル、デキストリンベヘン酸エステル、デキストリンペンタデカン酸エステル、デキストリンヘプタデカン酸エステル、デキストリン(パルミチン酸/ステアリン酸)エステル、デキストリン(ベヘン酸/ミリスチン酸/ペンタデカン酸)エステル、デキストリン(パルミチン酸/2-エチルヘキサン酸)エステル、デキストリン(パルミチン酸/イソステアリン酸)エステル、デキストリン(ラウリン酸/オレイン酸)エステル、デキストリン(ベヘン酸/酢酸)エステル、デキストリン(パルミチン酸/イソステアリン酸/2-エチルヘキサン酸/オレイン酸/吉草酸/酢酸)エステルからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0019】
ゲル化能を有しないデキストリン脂肪酸エステルは、例えば、以下の条件1~条件4を満たす。
(条件1)デキストリン脂肪酸エステルを構成するデキストリンのグルコースの平均重合度が3以上150以下である。
【0020】
(条件2)デキストリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸として、炭素数が4以上26以下の分岐飽和脂肪酸を1種以上含み、かつ、当該分岐飽和脂肪酸の全脂肪酸に対するモル濃度が50mol%超100mol%以下である。
【0021】
(条件3)デキストリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸として、炭素数が2以上22以下の直鎖飽和脂肪酸、炭素数が6以上30以下の直鎖または分岐の不飽和脂肪酸、及び、炭素数が6以上30以下の環状の飽和または不飽和脂肪酸からなる群から選択される1種以上の脂肪酸を含み、当該脂肪酸の全脂肪酸に対するモル濃度が0mol%以上50mol%未満である。
【0022】
(条件4)デキストリン脂肪酸エステルにおけるグルコース単位当たりの脂肪酸の置換度が1.0以上3.0以下である。
ゲル化能を有しないデキストリン脂肪酸エステルは、デキストリンイソ酪酸エステル、デキストリンイソ吉草酸エステル、デキストリン2-エチル酪酸エステル、デキストリンエチルメチル酢酸デキストリン、デキストリンイソヘプタン酸エステル、デキストリンイソノナン酸エステル、デキストリンイソデカン酸エステル、デキストリンイソトリデカン酸エステル、デキストリンイソアラキン酸エステル、デキストリンイソパルミチン酸エステル、デキストリンイソステアリン酸エステル、デキストリンイソミリスチン酸エステル、デキストリン2-エチルヘキサン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0023】
[原料1:デキストリン]
デキストリンは、直鎖状の糖鎖でもよく、分岐鎖状の糖鎖でもよい。デキストリンは、3以上150以下のグルコースの平均重合度を有することが好ましい。
【0024】
[原料2:脂肪酸誘導体]
脂肪酸誘導体は、例えば、脂肪酸ハロゲン化物や脂肪酸無水物である。脂肪酸誘導体を構成する脂肪酸は、直鎖もしくは分岐の飽和もしくは不飽和脂肪酸から選択される。脂肪酸誘導体は、一例として、以下に示す第1群~第5群の何れかに該当する脂肪酸を含む少なくとも1種である。
【0025】
第1群の脂肪酸は、炭素数が12以上22以下の直鎖飽和脂肪酸である。第1群の脂肪酸は、例えば、ラウリン酸(ドデカン酸)、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、アラキン酸(アラキジン酸/エイコサン酸/イコサン酸)、ベヘン酸(ドコサン酸)、ペンタデカン酸、及び、ヘプタデカン酸(マルガリン酸)等が挙げられる。
【0026】
第2群の脂肪酸は、炭素数が4以上26以下の分岐飽和脂肪酸である。第2群の脂肪酸は、例えば、イソ酪酸(ジメチル酢酸)、イソ吉草酸(3-メチルブタン酸/イソペンタン酸)、2-エチル酪酸(ジエチル酢酸)、エチルメチル酢酸、イソヘプタン酸、2-エチルヘキサン酸(イソオクタン酸)、イソノナン酸(トリメチルヘキサン酸)、イソデカン酸、イソトリデカン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸(ヘキシルデカン酸)、イソステアリン酸、イソアラキン酸、及び、イソヘキサコサン酸等が挙げられる。
【0027】
第3群の脂肪酸は、炭素数が2以上11以下の直鎖短鎖飽和脂肪酸である。第3群の脂肪酸は、例えば、ウンデカン酸、カプリン酸、カプリル酸、カプロン酸、吉草酸、酪酸、プロピオン酸、酢酸等が挙げられる。
【0028】
第4群の脂肪酸は、炭素数が6以上30以下の直鎖または分岐の不飽和脂肪酸である。第4群の脂肪酸は、例えば、シス-4-デセン(オブツシル)酸、9-デセン(カプロレイン)酸、シス-4-ドデセン(リンデル)酸、シス-4-テトラデセン(ツズ)酸、シス-5-テトラデセン(フィデセリン)酸、シス-9-テトラデセン(ミリストレイン)酸、シス-6-ヘキサデセン酸、シス-9-ヘキサデセン(パルミトレイン)酸、シス-9-オクタデセン(オレイン)酸、トランス-9-オクタデセン酸(エライジン酸)、シス-11-オクタデセン(アスクレピン)酸、シス-11-エイコセン(ゴンドレイン)酸、シス-17-ヘキサコセン(キシメン)酸、及び、シス-21-トリアコンテン(ルメクエン)酸等のモノエン不飽和脂肪酸、並びに、ソルビン酸、リノール酸、ヒラゴ酸、プニカ酸、リノレン酸、γ-リノレン酸、モロクチ酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、EPA、イワシ酸、DHA、ニシン酸、ステアロール酸、クレペニン酸、及び、キシメニン酸等のポリエン不飽和脂肪酸等が挙げられる。
【0029】
第5群の脂肪酸は、基本骨格の少なくとも一部に環状構造を有する炭素数が6以上30以下の飽和又は不飽和脂肪酸である。第5群の脂肪酸は、例えば、9,10-メチレン-9-オクタデセン酸;アレプリル酸、アレプリン酸、ゴルリン酸、α-シクロペンチル酸、α-シクロヘキシル酸、α-シクロペンチルエチル酸、α-シクロヘキシルメチル酸、ω-シクロヘキシル酸;5(6)-カルボキシ-4-ヘキシル-2-シクロヘキセン-1-オクタン酸、マルバリン酸、ステルクリン酸、ヒドノカルピン酸、ショールムーグリン酸等が挙げられる。
【0030】
脂肪酸誘導体が脂肪酸ハロゲン化物である場合、脂肪酸誘導体は、脂肪酸クロライドであることが好ましい。脂肪酸クロライドは、例えば、第1群~第5群の何れかに該当する脂肪酸の塩化物である。脂肪酸クロライドは、例えば、パルミチン酸クロライド、ステアリン酸クロライド、ミリスチン酸クロライド、ラウリン酸クロライド、アラキン酸クロライド、ベヘン酸クロライド、ペンタデカン酸クロライド、ヘプタデカン酸クロライド、2-エチルヘキサン酸クロライド、イソステアリン酸クロライド、イソ酪酸クロライド、イソ吉草酸クロライド、2-エチル酪酸クロライド、イソヘプタン酸クロライド、イソノナン酸クロライド、イソデカン酸クロライド、イソトリデカン酸クロライド、イソミリスチン酸クロライド、イソパルミチン酸クロライド、イソアラキン酸クロライド、イソヘキサコサン酸クロライド、オレイン酸クロライド、ウンデカン酸クロライド、カプリン酸クロライド、カプリル酸クロライド、カプロン酸クロライド、吉草酸クロライド、酪酸クロライド、プロピオン酸クロライド、酢酸クロライドから選択される少なくとも1種である。
【0031】
脂肪酸誘導体のうち脂肪酸無水物は、例えば、第1群~第5群の何れかに該当する脂肪酸の無水物である。脂肪酸無水物は、例えば、無水パルミチン酸、無水ステアリン酸、無水ミリスチン酸、無水ラウリン酸、無水アラキン酸、無水ベヘン酸、無水ペンタデカン酸、無水ヘプタデカン酸、無水2-エチルヘキサン酸、無水イソステアリン酸、無水イソ酪酸、無水イソ吉草酸、無水2-エチル酪酸、無水イソヘプタン酸、無水イソノナン酸、無水イソデカン酸、無水イソトリデカン酸、無水イソミリスチン酸、無水イソパルミチン酸、無水イソアラキン酸、無水イソヘキサコサン酸、無水オレイン酸、無水ウンデカン酸、無水カプリン酸、無水カプリル酸、無水カプロン酸、無水吉草酸、無水酪酸、無水プロピオン酸、無水酢酸、無水ミリスチン酸パルミチン酸、無水酢酸パルミチン酸、無水酢酸酪酸から選択される少なくとも1種である。
【0032】
ゲル化能を有するデキストリン脂肪酸エステルの反応には、例えば、第1群に該当する脂肪酸を含む少なくとも1種の脂肪酸誘導体が用いられる。加えて、ゲル化能を有するデキストリン脂肪酸エステルの反応には、第2群~第5群の何れかに該当する脂肪酸を含む1種以上の脂肪酸誘導体をさらに用いてもよい。
【0033】
ゲル化能を有しないデキストリン脂肪酸エステルの反応には、例えば、第2群に該当する脂肪酸を含む少なくとも1種の脂肪酸誘導体が用いられる。加えて、ゲル化能を有しないデキストリン脂肪酸エステルの反応には、第1群、及び、第3群~第5群の何れかに該当する脂肪酸を含む1種以上の脂肪酸誘導体をさらに用いてもよい。
【0034】
[反応触媒]
反応触媒は、デキストリン脂肪酸エステルを得るための反応を促進させるために用いられる。反応触媒は、一例として、複素環アミン類等、窒素原子を含む塩基性物質であって、例えば、ピリジンもしくはピリジン誘導体である。
【0035】
ピリジン誘導体は、例えば、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン等のピコリン類、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、4-エチルピリジン等のエチルピリジン、2-ジメチルアミノピリジン、3-ジメチルアミノピリジン、4-ジメチルアミノピリジン等のジメチルアミノピリジン類、2,4-ジメチルピリジン、2,6-ジメチルピリジン等のルチジン類、α-ピコリン酸、β-ピコリン酸(ニコチン酸)、γ-ピコリン酸等のピコリン酸類、α-ピコリン酸アミド、β-ピコリン酸アミド(ニコチン酸アミド)、γ-ピコリン酸アミド等のピコリン酸アミド類、α-ピコリン酸メチル、β-ピコリン酸メチル(ニコチン酸メチル)、γ-ピコリン酸メチル等のピコリン酸エステルから選択される少なくとも1種である。なかでもピコリンが好ましく、特に3-メチルピリジンがより好ましい。
【0036】
反応触媒は液体であるため、反応の促進に必要な量よりも多くの反応触媒を添加することによって、デキストリン脂肪酸エステルの生成時におけるデキストリン、脂肪酸誘導体、及び、反応触媒の混合液の粘度を低下させることができる。また、後述する反応溶媒を添加することによっても、当該混合液の粘度を低下させることができる。
【0037】
反応溶媒を用いる場合において、デキストリンと脂肪酸誘導体とを反応させる際に用いられる反応触媒の重量は、一例として、デキストリンの重量に対して1倍以上10倍以下、好ましくは2倍以上6倍以下である。反応触媒の重量を上記範囲とすることで、デキストリン脂肪酸エステルを得るための反応を好適に促進させつつ、反応後の洗浄によって十分に反応触媒を除去できる。なお、反応溶媒を用いない場合、反応触媒の重量は、一例として、デキストリンの重量に対して6倍超、もしくは、10倍超である。
【0038】
[反応溶媒]
デキストリンと脂肪酸誘導体とを反応させる際には、デキストリン、脂肪酸誘導体、及び、反応触媒が混合された混合液の希釈を目的として反応溶媒を用いてもよい。反応溶媒は、例えば、アミド系有機溶剤、非環式炭化水素系有機溶剤、及び、70℃以上200℃以下の沸点を有する低級カルボン酸と低級アルコールとからなるエステル系有機溶剤から選択される少なくとも1種である。なお、反応溶媒は、デキストリン脂肪酸エステルを得るための反応の促進には寄与しない物質である。
【0039】
アミド系有機溶剤は、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)等が挙げられる。非環式炭化水素系有機溶剤は、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等が挙げられる。70℃以上200℃以下の沸点を有する低級カルボン酸と低級アルコールとからなるエステル系有機溶剤は、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、イソプロピオン酸エチル、イソプロピオン酸プロピル、イソプロピオン酸イソプロピル、酪酸エチル、酪酸ブチル、乳酸エチル、1-ブチルピロリドン等が挙げられる。反応溶媒は、一例として、環境負荷が小さい酢酸ブチルであることが好ましい。
【0040】
[デキストリン脂肪酸エステルの製造方法]
図1に示すように、デキストリン脂肪酸エステルの製造方法は、ステップS1~S3の手順を含む。ステップS1は、反応触媒の存在下において、デキストリンと脂肪酸誘導体とを反応させることで、デキストリン脂肪酸エステルを生成する反応工程である。ステップS2及びステップS3は、反応物、未反応の原料、反応触媒、及び、反応溶媒を含む混合物から、反応物としてのデキストリン脂肪酸エステルを取り出すための洗浄工程である。ステップS2は、水を用いてデキストリン脂肪酸エステルを洗浄(精製)する水洗浄工程である。ステップS3は、後述する洗浄溶剤を用いてデキストリン脂肪酸エステルを洗浄する溶剤洗浄工程である。
【0041】
[反応工程]
ステップS1の反応工程は、ステップS1-1~S1-3の工程を含む。ステップS1では、まず、液体の反応触媒に固体(例えば粉末状)のデキストリンを分散させる(ステップS1-1)。次いで、反応触媒に分散した状態のデキストリンに液体の脂肪酸誘導体を滴下する(ステップS1-2)。滴下完了後において、反応触媒、デキストリン、及び、脂肪酸誘導体を含む反応液を0℃以上150℃以下の所定温度とした状態で、1時間から24時間かけてデキストリンと脂肪酸誘導体とを反応させる(ステップS1-3)。これにより、デキストリンと脂肪酸誘導体との反応による反応物としてデキストリン脂肪酸エステルが反応液中に生成される。なお、デキストリン脂肪酸エステルは、反応液に溶解した状態で生成される。
【0042】
ステップS1の反応工程では、任意のタイミングで反応溶媒を添加してもよい。例えば、ステップS1-1において、反応溶媒と反応触媒との混合物にデキストリンを分散させてもよい。また、ステップS1-2において、脂肪酸誘導体の滴下完了後に反応液を反応溶媒で希釈してもよい。
【0043】
また、ステップS1-3の後、デキストリン脂肪酸エステルが生成された反応液に洗浄補助溶剤を添加することで、反応液を希釈してもよい。洗浄補助溶剤は、一例として、環境負荷が小さい酢酸ブチルであることが好ましい。反応液を洗浄補助溶剤で希釈することで、後工程であるステップS2,S3での洗浄効果を高めることができる。
【0044】
[水洗浄工程]
ステップS2の水洗浄工程は、ステップS2-1~S2-3の工程を含む。ステップS2では、ステップS1の反応工程によって生成された反応物を含む反応液に水を添加する(ステップS2-1)。
【0045】
次に、水に対して可溶な可溶画分(親水性成分)と、水に対して不溶な不溶画分(疎水性成分)とを分離させる(ステップS2-2)。水に対する可溶画分は、極性の高い反応溶媒、反応触媒、及び、反応触媒のハロゲン化物塩等の反応触媒の誘導体である。水に対する不溶画分は、極性の低い反応溶媒、洗浄補助溶剤、未反応の脂肪酸誘導体、及び、反応物としてのデキストリン脂肪酸エステルである。なお、極性の高い反応溶媒は、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド等である。極性の低い反応溶媒は、例えば、酢酸ブチルやヘプタン等である。
【0046】
水に対する可溶画分及び不溶画分は、例えば、反応液に水を添加した状態で静置することで、水及び可溶画分を含む親水性成分の層と、不溶画分を含む疎水性成分の層とに分離可能である。また、可溶画分と不溶画分との分離を促進させるために、攪拌や加熱及び冷却等の処理を行ってもよい。例えば、反応液に水を添加した状態で50℃まで加熱及び攪拌した後、40℃以下まで冷却することで、可溶画分と不溶画分とを好適に分離させることができる。
【0047】
なお、水洗浄工程で用いられる水は、一例として純水であるが、これに代えて、例えば、希塩酸、希硫酸、希硝酸等の希酸を用いてもよい。水洗浄工程で希酸を用いることで、塩基性物質である反応触媒をより好適に洗浄できる。
【0048】
最後に、デカンテーション(傾瀉)や濾過、分液等の手段によって、可溶画分とともに水を除去することで、デキストリン脂肪酸エステルを含む不溶画分を取り出す(ステップS2-3)。なお、ステップS2の水洗浄工程では、ステップS2-1~S2-3の工程を1回のみ行ってもよい。また、ステップS2-1~S2-3の工程によって得られた不溶画分を、さらにステップS2-1~S2-3の工程を繰り返すことによって洗浄してもよい。以上の手順により、ステップS2の水洗浄工程が完了する。
【0049】
[溶剤洗浄工程]
ステップS3の溶剤洗浄工程は、ステップS3-1~S3-4の工程を含む。ステップS3では、まず、ステップS2の水洗浄工程によって得られた水に対する不溶画分を洗浄溶剤と混合する(ステップS3-1)。
【0050】
洗浄溶剤は、例えば、以下の条件A~条件Cを満たす低級アルコールを含む。
(条件A)洗浄溶剤中のデキストリン脂肪酸エステルを加熱によって溶解でき、かつ、加熱後に冷却することで溶解したデキストリン脂肪酸エステルが析出する。
【0051】
(条件B)デキストリン脂肪酸エステルの反応に用いられる反応触媒、洗浄補助溶剤、及び、反応溶媒が洗浄溶剤中に含まれる場合、それらが条件Aの冷却後に析出しない。
(条件C)デキストリン脂肪酸エステルの反応及び洗浄に伴って副反応物が生じる場合、副反応物が条件Aの冷却後に析出しない。なお、副反応物は、例えば、反応触媒のハロゲン化物塩、遊離の脂肪酸、脂肪酸誘導体と洗浄溶媒との反応で生じる脂肪酸アルキル等が挙げられる。
【0052】
洗浄溶剤は、例えば、75℃以上の沸点を有する炭素数が3もしくは4の低級アルコールを含むことが好ましい。洗浄溶剤は、例えば、1-プロパノール(1-プロピルアルコール)、2-プロパノール(2-プロピルアルコール)、1-ブタノール(1-ブチルアルコール)、2-ブタノール(2-ブチルアルコール)、t-ブタノール(t-ブチルアルコール)から選択される少なくとも1種を含む。洗浄溶剤は、一例として、1-プロパノールであることが好ましい。1-プロパノールの沸点は、97℃である。
【0053】
反応溶媒や洗浄補助溶剤に溶解した状態のデキストリン脂肪酸エステルと洗浄溶剤とを混合することで、デキストリン脂肪酸エステルが不溶画分として析出する。これにより、デキストリン脂肪酸エステルは、反応溶媒や洗浄補助溶剤等のデキストリン脂肪酸エステル以外の成分と分離される。なお、反応触媒及び副反応物が含まれる場合、これらは洗浄溶剤に対する可溶画分に移行する。
【0054】
次に、洗浄溶剤を加熱することで、加熱された洗浄溶剤にデキストリン脂肪酸エステルを溶解させる加熱工程を行う(ステップS3-2)。これにより、ステップS1の反応工程においてデキストリン脂肪酸エステルの内部に残存した不純物が、デキストリン脂肪酸エステルから洗浄溶剤中に取り出される。なお、ステップS1の反応工程においてデキストリン脂肪酸エステルの内部に残存した不純物は、例えば、反応触媒や未反応の原料である。
【0055】
ステップS3-2の加熱工程では、好ましくは50℃以上95℃以下、より好ましくは80℃以上95℃以下に洗浄溶剤を加熱する。これにより、デキストリン脂肪酸エステルを好適に溶解させることができる。また、加熱工程では、デキストリン脂肪酸エステルを好適に溶解させるために、攪拌を行ってもよい。
【0056】
次に、加熱した洗浄溶剤を冷却することで、洗浄溶剤に溶解したデキストリン脂肪酸エステルを析出させる冷却工程を行う(ステップS3-3)。これにより、デキストリン脂肪酸エステルの内部に残存した不純物が取り出された後、再度デキストリン脂肪酸エステルが析出するため、デキストリン脂肪酸エステルに含まれる不純物量を低減できる。ステップS3-3の冷却工程では、好ましくは0℃以上40℃以下に洗浄溶剤を冷却する。これにより、デキストリン脂肪酸エステルを好適に析出させることができる。
【0057】
最後に、濾過やデカンテーション等の手段によって、洗浄溶剤及びその可溶画分とともに反応溶媒や洗浄補助溶剤といった液体成分を除去することで、不溶画分として析出したデキストリン脂肪酸エステルを取り出す(ステップS3-4)。なお、ステップS3の溶剤洗浄工程では、ステップS3-1~S3-4の工程を1回のみ行ってもよい。また、ステップS3-1~S3-4の工程を複数回繰り返してもよい。以上の手順により、ステップS3の溶剤洗浄工程が完了する。その後、必要に応じて粉砕等の工程を経ることでデキストリン脂肪酸エステルが得られる。
【0058】
なお、
図1では、ステップS1の反応工程で得られたデキストリン脂肪酸エステルを、ステップS2の水洗浄工程とステップS3の溶剤洗浄工程とによって洗浄する工程を例示した。これに限定されず、例えば、ステップS3の溶剤洗浄工程による洗浄のみで十分な洗浄効果が得られる場合には、ステップS2の水洗浄工程を省略してもよい。この場合、ステップS3-1では、ステップS1の反応工程によって生成された反応物を含む反応液に洗浄溶剤を添加する。
【0059】
[試験例]
以下、
図2~
図6を参照して、デキストリン脂肪酸エステルの製造方法について、試験例1~4を用いて説明する。なお、試験例1~4で採用した試験条件は、本実施形態の効果を説明するための実施例または比較例であって、本発明を限定するものではない。
【0060】
[試験例1:試料の作製]
図2に示すように、試験例1では、試料A1~A7を作製した。試料A1~A7は、それぞれ異なる洗浄方法を用いて作製したデキストリンイソステアリン酸エステルである。デキストリンイソステアリン酸エステルは、ゲル化能を有しないデキストリン脂肪酸エステルの一例であって、不純物を含まない状態で無色透明の物質である。試料A1~A7の作製条件を
図2に示す。なお、試験例1では、試料A1~A7の作製において、洗浄補助溶剤は使用していない。
【0061】
試料A1では、まず、反応工程として、13.56gのデキストリン(平均糖重合度30)を、40.0gの3-メチルピリジン及び11.8gのN,N-ジメチルホルムアミドに分散させた混合液を作製した。次に、50℃に加熱した当該混合液に68.0gのイソステアリン酸クロライドを滴下した。滴下終了後、95℃の反応温度で2時間反応させてデキストリンイソステアリン酸エステルを生成した。なお、試料A1におけるデキストリンとイソステアリン酸クロライドとの反応モル比は、2.73である。
【0062】
反応工程の後、水洗浄工程を行った。水洗浄工程では、デキストリンイソステアリン酸エステルを含む反応液に水を添加し、50℃まで加熱して攪拌した後、40℃以下まで冷却した。そして、水とともに水に対する可溶画分を除去した。水洗浄工程として、以上の工程を2回行った。
【0063】
水洗浄工程の後、溶剤洗浄工程を行った。溶剤洗浄工程では、デキストリンイソステアリン酸エステルを1-プロパノールに沈殿させた。次いで、1-プロパノールを50℃まで加熱して撹拌した後、40℃以下まで冷却した。そして、1-プロパノールとともに1-プロパノールに対する可溶画分を除去した。溶剤洗浄工程として、以上の工程を4回行った。その後、乾燥を経てデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0064】
試料A2では、試料A1と同様の反応工程によってデキストリンイソステアリン酸エステルを生成した。反応工程の後、水洗浄工程として、デキストリンイソステアリン酸エステルを含む反応液に水を添加して温度の調整をせずに静置した後、水とともに水に対する可溶画分を除去した。水洗浄工程の後、試料A1と同様の溶剤洗浄工程、及び、乾燥を経てデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0065】
試料A3では、試料A1と同様の反応工程によってデキストリンイソステアリン酸エステルを生成した後、水洗浄工程を省略して、試料A1と同様の溶剤洗浄工程を行った。その後、乾燥を経てデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0066】
試料A4では、試料A1と同様の反応工程及び水洗浄工程を行った後、溶剤洗浄工程として、比較のために1-プロパノールに代えてメタノール(沸点64℃)にデキストリンイソステアリン酸エステルを沈殿させた。次いで、メタノールを50℃まで加熱して撹拌した後、40℃以下まで冷却した。そして、メタノールとともにメタノールに対する可溶画分を除去した。溶剤洗浄工程として、以上の工程を4回行った。その後、乾燥を経てデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。なお、デキストリンイソステアリン酸エステルは、メタノールが加熱された状態でもメタノールには溶解しない。すなわち、メタノールは、上述した洗浄溶剤の条件Aを満たさない。
【0067】
試料A5では、試料A1と同様の反応工程を行った後、水洗浄工程を省略し、試料A4と同様にメタノールを用いた溶剤洗浄工程を行った。その後、乾燥を経てデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0068】
試料A6では、試料A1と同様の反応工程及び水洗浄工程を行った後、溶剤洗浄工程として、比較のために1-プロパノールに代えてエタノール(沸点74℃)にデキストリンイソステアリン酸エステルを沈殿させた。次いで、エタノールを50℃まで加熱して撹拌した後、40℃以下まで冷却した。そして、エタノールとともにエタノールに対する可溶画分を除去した。溶剤洗浄工程として、以上の工程を4回行った。その後、乾燥を経てデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。なお、デキストリンイソステアリン酸エステルは、エタノールが加熱された状態でもエタノールには溶解しない。すなわち、エタノールは、上述した洗浄溶剤の条件Aを満たさない。
【0069】
試料A7では、試料A1と同様の反応工程を行った後、水洗浄工程を省略し、試料A6と同様にエタノールを用いた溶剤洗浄工程を行った。その後、乾燥を経てデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0070】
試料A1~A7の酸価は、1.3以下であった。試料A1~A7の平均アシル基置換度は、グルコース単位当たり1.9~2.4であった。試料A1~A7の赤外線吸収スペクトルは、1745cm-1付近にエステル由来、2800cm-1~3000cm-1付近にアルキル由来、1000cm-1~1200cm-1付近に糖由来のピークを示した。以上のことから、試料A1~A7がデキストリンイソステアリン酸エステルであることが確認された。なお、赤外線吸収スペクトルの測定には、フーリエ変換赤外分光光度計「FT/IR-4700」(日本分光株式会社製)を用いた。
【0071】
[試験例1:評価]
試料A1~A7に対して、デキストリン脂肪酸エステルにおける不純物除去効果を確認するための官能評価及び定量評価を行った。官能評価は、臭い、色味、及び、透明性の3項目について評価した。定量評価は、反応触媒含有量、600nmの波長を有する光に対する吸光度、及び、400nmの波長を有する光に対する吸光度の3項目について評価した。試料A1~A7の評価結果を
図2に示す。
【0072】
なお、各評価項目において、点数が低いほどデキストリン脂肪酸エステルに含まれる不純物が少なく好ましい状態であることを意味する。官能評価では、8名のパネラーで採点した結果の平均点を四捨五入した値を評価結果として採用した。また、何れの評価項目においても3点以下である試料を合格と判定し、1項目でも4点以上であった試料を不合格と判定した。総合評価の値は、各評価項目の平均点を四捨五入した値を示す。
【0073】
臭いの官能評価では、試料A1~A7を1種類ごとにガラス瓶に入れた状態で、室温でガラス瓶を開封してヘッドスペースの臭いを嗅いだ。無臭であるものを1点、ほとんど臭いを感じないものを2点、わずかに臭いを感じるものを3点、明確に臭いを感じるものを4点、強く臭いを感じるものを5点とした。なお、デキストリン脂肪酸エステルの臭いは、デキストリン脂肪酸エステルに含まれる反応触媒等の不純物の量が多いほど強くなる。
【0074】
色味の官能評価では、ガラス瓶に入れた試料A1~A7の外観の色味を目視で評価した。無色であるものを1点、淡黄色であるものを2点、黄色であるものを3点、黄褐色であるものを4点、褐色であるものを5点とした。なお、デキストリンイソステアリン酸エステルの色味は、デキストリンイソステアリン酸エステルに含まれる反応触媒等の不純物の量が少ないほど無色に近く、不純物の量が多いほど褐色に近づく。
【0075】
透明性の官能評価では、ガラス瓶に入れた試料A1~A7の外観の透明性を目視で評価した。透明であるものを1点、ほとんど濁りが無いものを2点、わずかに濁りがあるものを3点、明確に濁りがあるものを4点、不透明であるものを5点とした。なお、デキストリン脂肪酸エステルの透明性は、デキストリンイソステアリン酸エステルに含まれる反応触媒等の不純物の量が少ないほど透明に近く、不純物の量が多いほど不透明に近づく。
【0076】
反応触媒含有量の定量評価では、試料A1~A7の各々を1gずつ精秤し、各々をクロロホルムにて10mLになるように希釈したものをガスクロマトグラフに供して反応触媒である3-メチルピリジンの量を測定した。なお、3-メチルピリジンは、デキストリン脂肪酸エステルにおける着色及び臭いの原因物質の一例である。3-メチルピリジンが100ppm未満のものを1点、100ppm以上300ppm未満のものを2点、300ppm以上500ppm未満のものを3点、500ppm以上700ppm未満のものを4点、700ppm以上のものを5点とした。なお、ガスクロマトグラフには、キャピラリーガスクロマトグラフ「GC-2010Plus」(株式会社島津製作所製)を用いた。
【0077】
吸光度の定量評価では、試料A1~A7の各々を1gずつ精秤し、5gのミネラルオイルを添加してから100℃に加熱して溶解させた後、常温まで放冷させたものを分光光度計による吸光度測定に供した。そして、試料A1~A7の各々に対して、600nmの波長を有する光に対する吸光度と、400nmの波長を有する光に対する吸光度とを、ランベルトベール(Lambert-Beer)の法則に従って測定した。なお、ミネラルオイルは、「シルコールP-70」(株式会社MORESCO製)を用いた。分光光度計は、紫外可視近赤外分光光度計「V-750」(日本分光株式会社製)を用いた。
【0078】
デキストリンイソステアリン酸エステルにおける不純物に起因する濁り(透明性の低下)を評価するために、600nmの波長を有する光に対する吸光度を測定した。デキストリンイソステアリン酸エステルは、反応触媒等の不純物の量が少ないほど600nmの波長を有する光に対する吸光度が小さく、逆に、不純物の量が多いほど600nmの波長を有する光に対する吸光度が大きくなる。
【0079】
600nmの波長を有する光に対する吸光度が0.10未満のものを1点、0.10以上0.20未満のものを2点、0.20以上0.30未満のものを3点、0.30以上0.40未満のものを4点、0.40以上のものを5点とした。
【0080】
デキストリンイソステアリン酸エステルにおいては、不純物の増加に伴って赤みが増すほど400nmの波長を有する光に対する吸光度が大きくなる。すなわち、400nmの波長を有する光に対するデキストリンイソステアリン酸エステルの吸光度は、不純物に起因する着色(赤みの濃さ)の度合いを表す指標となる。
【0081】
400nmの波長を有する光に対する吸光度が0.20未満のものを1点、0.20以上0.30未満のものを2点、0.30以上0.40未満のものを3点、0.40以上0.50未満のものを4点、0.50以上のものを5点とした。
【0082】
[試験例1:評価結果]
図2に示すように、溶剤洗浄工程において1-プロパノールを用いた試料A1~A3では、何れの評価項目においても3点以下の結果であった。すなわち、試料A1~A3は、デキストリンイソステアリン酸エステルにおいて、不純物に起因する臭いや着色の程度が十分に抑えられていた。試料A1~A3では、溶剤洗浄工程において、加熱した1-プロパノールにデキストリンイソステアリン酸エステルが溶解したことが確認された。
【0083】
試料A1~A3の結果から、溶剤洗浄工程において、加熱した1-プロパノールにデキストリンイソステアリン酸エステルを溶解させた後、再度析出させることで、十分な洗浄効果が得られたことが確認された。また、試料A3よりも試料A1、A2の方がより洗浄効果が高かったことから、溶剤洗浄工程と合わせて水洗浄工程を行うことで、よりデキストリン脂肪酸エステルの洗浄効果を高められることが確認された。
【0084】
一方、溶剤洗浄工程においてメタノールまたはエタノールを用いた試料A4~A7では、試料A6の色味及び400nmの光に対する吸光度が3点であったが、それ以外の評価項目では何れも4点以上の結果が確認された。
【0085】
試料A4~A7では、メタノールまたはエタノールを加熱しても、洗浄溶剤中へのデキストリンイソステアリン酸エステルの溶解が確認されなかった。そのため、試料A4~A7では、デキストリンイソステアリン酸エステルの内部に残存した不純物に起因する臭い、透明性の悪化、及び色味の変化が生じたものと考えられる。
【0086】
以上の結果から、溶剤洗浄工程において洗浄溶剤にデキストリン脂肪酸エステルを溶解させた後、再度析出させることで、デキストリン脂肪酸エステルの内部に含まれる不純物の量を低減できることが確認された。そして、デキストリン脂肪酸エステルにおいて、不純物に起因する臭い、濁り、着色等を抑制できることが確認された。
【0087】
[試験例2:試料の作製]
図3に示すように、試験例2では、溶剤洗浄工程における加熱温度が洗浄効果に及ぼす影響を確認するために試料B1~B8を作製した。そして、試料B1~B8を試験例1と同様の評価に供した。試料B1~B8は、ゲル化能を有しないデキストリン脂肪酸エステルの一例であるデキストリンイソステアリン酸エステルである。試料B1~B8の作製条件及び評価結果を
図3に示す。また、
図3には、試料A1,A4,A6の作製条件及び評価結果を合わせて示す。なお、試験例2では、試料B1~B8の作製において、洗浄補助溶剤は使用していない。
【0088】
試料B1では、まず、反応工程として、10.92gのデキストリン(平均糖重合度30)を、36.0gの3-メチルピリジン及び11.8gのN,N-ジメチルホルムアミドに分散させた混合液を作製した。次に、50℃に加熱した当該混合液に60.0gのイソステアリン酸クロライドを滴下した。滴下終了後、95℃の反応温度で2時間反応させてデキストリンイソステアリン酸エステルを生成した。なお、試料B1におけるデキストリンとイソステアリン酸クロライドとの反応モル比は、3.0である。
【0089】
反応工程の後、試験例1の試料A1と同様の水洗浄工程を行った。水洗浄工程の後、1-プロパノールを加熱する際の温度を45℃にした点を除き、試験例1の試料A1と同様の溶剤洗浄工程を行った。その後、乾燥を経て粉末状のデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0090】
試料B2では、溶剤洗浄工程において、1-プロパノールを加熱する際の温度を60℃にした点を除き、試料B1と同様の手順によってデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0091】
試料B3では、溶剤洗浄工程において、1-プロパノールを加熱する際の温度を80℃にした点を除き、試料B1と同様の手順によってデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0092】
試料B4では、溶剤洗浄工程において、1-プロパノールを加熱する際の温度を90℃にした点を除き、試料B1と同様の手順によってデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0093】
試料B5では、試料B1と同様の反応工程及び水洗浄工程を行った後、1-プロパノールに代えてメタノールを用いた溶剤洗浄工程を行った。溶剤洗浄工程の条件は、メタノールを加熱する際の温度を45℃にした点を除き、試験例1の試料A4と同様である。その後、乾燥を経てデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0094】
試料B6では、溶剤洗浄工程において、メタノールを加熱する際の温度を60℃にした点を除き、試料B5と同様の手順によってデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0095】
試料B7では、試料B1と同様の反応工程及び水洗浄工程を行った後、1-プロパノールに代えてエタノールを用いた溶剤洗浄工程を行った。溶剤洗浄工程の条件は、エタノールを加熱する際の温度を45℃にした点を除き、試験例1の試料A6と同様である。その後、乾燥を経てデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0096】
試料B8では、溶剤洗浄工程において、エタノールを加熱する際の温度を60℃にした点を除き、試料B7と同様の手順によってデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0097】
試料B1~B8の酸価は、3.0以下であった。試料B1~B8の平均アシル基置換度は、グルコース単位当たり1.9~2.4であった。試料B1~B8の赤外線吸収スペクトルは、1745cm-1付近にエステル由来、2800cm-1~3000cm-1付近にアルキル由来、1000cm-1~1200cm-1付近に糖由来のピークを示した。以上のことから、試料B1~B8がデキストリンイソステアリン酸エステルであることが確認された。
【0098】
[試験例2:評価結果]
図3に示すように、溶剤洗浄工程における加熱温度が45℃の試料B1では、透明性の官能評価が3点であったが、それ以外の評価が何れも4点であった。また、溶剤洗浄工程における加熱温度が50℃以上の試料B2~B4では、何れの評価項目においても3点以下の結果であった。特に、溶剤洗浄工程における加熱温度が80℃以上の試料B3,B4では、全ての評価項目が1点で、非常に優れた洗浄効果が確認された。
【0099】
試料B1では、溶剤洗浄工程において、加熱した1-プロパノールへのデキストリンイソステアリン酸エステルの溶解が不十分であった。試料B2~B4では、溶剤洗浄工程において、加熱した1-プロパノールにデキストリンイソステアリン酸エステルが十分に溶解したことが確認された。試料A1及び試料B1~B4の結果から、溶剤洗浄工程における加熱温度は、デキストリン脂肪酸エステルが十分に溶解する程度に設定されることが好ましく、例えば、50℃以上であれば、十分な洗浄効果が得られることが確認された。また、溶剤洗浄工程における加熱温度が80℃以上であれば、特に優れた洗浄効果が得られることが確認された。
【0100】
一方、試料B5~B8では、加熱温度が45℃及び60℃の何れの場合でも、洗浄溶剤中へのデキストリンイソステアリン酸エステルの溶解が確認されなかった。また、溶剤洗浄工程においてメタノールまたはエタノールを用いた場合では、複数の評価項目で4点以上の結果が確認された。試料A4,A6及び試料B1~B4の結果から、溶剤洗浄工程においてメタノールまたはエタノールを用いた場合では、加熱温度が45℃~60℃の何れの場合であっても十分な洗浄効果が得られないことが確認された。
【0101】
[試験例3:試料の作製]
図4に示すように、試験例3では、反応触媒や反応溶媒の種類が洗浄効果に及ぼす影響を確認するために試料C1~C7を作製した。そして、試料C1~C7を試験例1と同様の評価に供した。試料C1~C7は、ゲル化能を有しないデキストリン脂肪酸エステルの一例であるデキストリンイソステアリン酸エステルである。試料C1~C7の作製条件及び評価結果を
図4に示す。また、
図4には、試料A1,B3の作製条件及び評価結果を合わせて示す。
【0102】
試料C1では、反応工程として、13.56gのデキストリン(平均糖重合度30)を、40.0gの3-メチルピリジンに分散させた混合液を作製した。次に、50℃に加熱した当該混合液に68.0gのイソステアリン酸クロライドを滴下した。滴下終了後、11.8gのn-へプタンを添加して混合液を希釈した状態で、95℃の反応温度で2時間反応させてデキストリンイソステアリン酸エステルを生成した。なお、試料C1におけるデキストリンとイソステアリン酸クロライドとの反応モル比は、2.73である。
【0103】
反応工程の後、試験例1の試料A1と同様の水洗浄工程及び溶剤洗浄工程(洗浄溶剤:1-プロパノール、加熱温度:50℃)を行った。その後、乾燥を経てデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0104】
試料C2では、溶剤洗浄工程において、1-プロパノールを加熱する際の温度を80℃にした点を除き、試料C1と同様の手順によってデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0105】
試料C3では、反応工程として、10.92gのデキストリン(平均糖重合度30)を、36.0gの3-メチルピリジンに分散させた混合液を作製した。次に、50℃に加熱した当該混合液に60.0gのイソステアリン酸クロライドを滴下した。滴下終了後、12.0gの酢酸ブチルを添加して混合液を希釈した状態で、95℃の反応温度で2時間反応させてデキストリンイソステアリン酸エステルを生成した。なお、試料C3におけるデキストリンとイソステアリン酸クロライドとの反応モル比は、3.0である。
【0106】
反応工程の終了後、洗浄補助溶剤として38.0gの酢酸ブチルを添加した。そして、試験例1の試料A1と同様の水洗浄工程及び溶剤洗浄工程(洗浄溶剤:1-プロパノール、加熱温度:50℃)を行った。その後、乾燥を経てデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0107】
試料C4では、溶剤洗浄工程において、1-プロパノールを加熱する際の温度を80℃にした点を除き、試料C3と同様の手順によってデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0108】
試料C5では、試料C3と同様の手順の反応工程を行った後、洗浄補助溶剤として38.0gの酢酸ブチルを添加した。そして、水洗浄工程として、ステップS2-1~S2-3の工程を3回繰り返した。そのうち2回目の工程において、水に代えて0.01Nの規定濃度を有する希塩酸を用いた。そして、試料C4と同様の洗浄工程(洗浄溶剤:1-プロパノール、加熱温度:80℃)を行った後、乾燥を経てデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0109】
試料C6では、反応工程として、13.56gのデキストリン(平均糖重合度30)を、40.0gのピリジンに分散させた混合液を作製した。次に、50℃に加熱した当該混合液に68.0gのイソステアリン酸クロライドを滴下した。滴下終了後、12.0gの酢酸ブチルを添加して混合液を希釈した状態で、95℃の反応温度で2時間反応させてデキストリンイソステアリン酸エステルを生成した。なお、試料C6におけるデキストリンとイソステアリン酸クロライドとの反応モル比は、2.73である。
【0110】
反応工程の終了後、洗浄補助溶剤として38.0gの酢酸ブチルを添加した。そして、試験例1の試料A1と同様の水洗浄工程及び溶剤洗浄工程(洗浄溶剤:1-プロパノール、加熱温度:50℃)を行った。その後、乾燥を経てデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0111】
試料C7では、溶剤洗浄工程において、1-プロパノールを加熱する際の温度を80℃にした点を除き、試料C6と同様の手順によってデキストリンイソステアリン酸エステルを得た。
【0112】
なお、反応触媒として3-メチルピリジンに代えてピリジンを用いた試料C6及びC7では、反応触媒含有量の定量評価としてピリジンの量を測定した。ピリジンは、デキストリン脂肪酸エステルにおける着色及び臭いの原因物質の一例である。測定条件は、3-メチルピリジンに対して採用された条件と同様である。
【0113】
試料C1~C7の酸価は、3.0以下であった。試料C1~C7の平均アシル基置換度は、グルコース単位当たり1.9~2.4であった。試料C1~C7の赤外線吸収スペクトルは、1745cm-1付近にエステル由来、2800cm-1~3000cm-1付近にアルキル由来、1000cm-1~1200cm-1付近に糖由来のピークを示した。以上のことから、試料C1~C7がデキストリンイソステアリン酸エステルであることが確認された。
【0114】
[試験例3:評価結果]
図4に示すように、試料C1~C6では、何れの評価項目においても2点以下の結果であった。特に、溶剤洗浄工程における加熱温度が80℃以上の試料C2,C4,C6では、全ての評価項目が1点で、非常に優れた洗浄効果が確認された。なお、試料C1~C6では、溶剤洗浄工程において、加熱した1-プロパノールにデキストリンイソステアリン酸エステルが溶解したことが確認された。
【0115】
試料A1,C1,C3,C6の結果から、溶剤洗浄工程における加熱温度が50℃以上であれば、反応溶媒や反応触媒の種類によらず、十分な洗浄効果が得られることが確認された。また、試料B3,C2,C4,C5,C7の結果から、溶剤洗浄工程における加熱温度が80℃以上であれば、反応溶媒や反応触媒の種類によらず、特に優れた洗浄効果が得られることが確認された。試料C3~C7の結果から、反応溶媒として環境負荷が小さい酢酸ブチルを用いた場合でも、不純物の量が少ないデキストリン脂肪酸エステルを製造できることが確認された。
【0116】
[試験例4:試料の作製]
図5及び
図6に示すように、試験例4では、試料D1~D14を作製した。試料D1~D10は、デキストリンパルチミン酸エステルである。試料D11,D12は、デキストリン(パルミチン酸/エチルヘキサン酸)エステルである。試料D13,D14は、デキストリンミスチリン酸エステルである。これらのデキストリン脂肪酸エステルは、それぞれゲル化能を有するデキストリン脂肪酸エステルの一例であって、不純物を含まない状態で白色不透明の物質である。試料D1~D6の作製条件を
図5に示すとともに、試料D7~D14の作製条件を
図6に示す。
【0117】
図5に示すように、試料D1では、反応工程として、11.99gのデキストリン(平均糖重合度30)を、60.0gの3-メチルピリジンに分散させた混合液を作製した。次に、50℃に加熱した当該混合液に68.0gのパルチミン酸クロライドを滴下した。滴下終了後、12.0gの酢酸ブチルを添加して混合液を希釈した状態で、95℃の反応温度で2時間反応させてデキストリンパルチミン酸エステルを生成した。なお、試料D1におけるデキストリンとパルチミン酸クロライドとの反応モル比は、3.0である。
【0118】
反応工程の終了後、洗浄補助溶剤として38.0gの酢酸ブチルを添加した。そして、試験例1の試料A1と同様の水洗浄工程を行った。水洗浄工程の後、1-プロパノールを加熱する際の温度を45℃にした点を除き、試験例1の試料A1と同様の溶剤洗浄工程を行った。その後、乾燥を経て粉末状のデキストリンパルチミン酸エステルを得た。
【0119】
試料D2では、溶剤洗浄工程において、1-プロパノールを加熱する際の温度を50℃にした点を除き、試料D1と同様の手順によって粉末状のデキストリンパルチミン酸エステルを得た。
【0120】
試料D3では、反応工程として、18.70gのデキストリン(平均糖重合度30)を、64.0gの3-メチルピリジンに分散させた混合液を作製した。次に、50℃に加熱した当該混合液に60.0gのパルチミン酸クロライドを滴下した。滴下終了後、12.0gの酢酸ブチルを添加して混合液を希釈した状態で、95℃の反応温度で2時間反応させてデキストリンパルチミン酸エステルを生成した。なお、試料D1におけるデキストリンとパルチミン酸クロライドとの反応モル比は、1.95である。
【0121】
反応工程の終了後、洗浄補助溶剤として38.0gの酢酸ブチルを添加した。そして、試験例1の試料A1と同様の水洗浄工程を行った。水洗浄工程の後、1-プロパノールを加熱する際の温度を80℃にした点を除き、試験例1の試料A1と同様の溶剤洗浄工程を行った。その後、乾燥を経て粉末状のデキストリンパルチミン酸エステルを得た。
【0122】
試料D4では、溶剤洗浄工程において、1-プロパノールを加熱する際の温度を90℃にした点を除き、試料D1と同様の手順によって粉末状のデキストリンパルチミン酸エステルを得た。
【0123】
試料D5では、試料D1と同様の反応工程及び水洗浄工程を行った後、1-プロパノールに代えてメタノールを用いた溶剤洗浄工程を行った。溶剤洗浄工程の条件は、試験例1の試料A4と同様(加熱温度:50℃)である。その後、乾燥を経て粉末状のデキストリンパルチミン酸エステルを得た。
【0124】
試料D6では、試料D3と同様の反応工程及び水洗浄工程を行った後、1-プロパノールに代えてメタノールを用いた溶剤洗浄工程を行った。溶剤洗浄工程の条件は、試験例1の試料A4と同様(加熱温度:50℃)である。その後、乾燥を経て粉末状のデキストリンパルチミン酸エステルを得た。
【0125】
試料D1,D2,D4,D5の乾燥減量は、0.4%であった。試料D3,D6の乾燥減量は、0.5%であった。試料D1,D2,D4,D5の酸価は、1.3~1.5であった。試料D3,D6の酸価は、2.3であった。試料D1,D2,D4,D5の平均アシル基置換度は、グルコース単位当たり2.3であった。試料D3,D6の平均アシル基置換度は、グルコース単位当たり1.4であった。試料D1~D6の赤外線吸収スペクトルは、1745cm-1付近にエステル由来、2800cm-1~3000cm-1付近にアルキル由来、1000cm-1~1200cm-1付近に糖由来のピークを示した。以上のことから、試料D1~D6がデキストリンパルチミン酸エステルであることが確認された。なお、乾燥減量は、各試料を2gずつ精秤して105℃で1時間乾燥させたときの、乾燥前後の重量差を乾燥前の重量で割った値である。
【0126】
図6に示すように、試料D7では、反応工程として、12.84gのデキストリン(平均糖重合度30)を、38.0gの3-メチルピリジン及び50.0gのN,N-ジメチルホルムアミドに分散させた混合液を作製した。次に、50℃に加熱した当該混合液に60.0gのパルチミン酸クロライドを滴下した。滴下終了後、95℃の反応温度で2時間反応させてデキストリンパルチミン酸エステルを生成した。なお、試料D7におけるデキストリンとパルチミン酸クロライドとの反応モル比は、3.0である。
【0127】
反応工程の後、試験例1の試料A1と同様の水洗浄工程を行った。水洗浄工程の後、1-プロパノールを加熱する際の温度を60℃にした点を除き、試験例1の試料A1と同様の溶剤洗浄工程を行った。その後、乾燥を経て粉末状のデキストリンパルチミン酸エステルを得た。
【0128】
試料D8では、反応工程において、反応触媒として3-メチルピリジンに代えて38.0gのピリジンを用いた点を除き、試料D7と同様の手順によって粉末状のデキストリンパルチミン酸エステルを得た。
【0129】
試料D9では、試料D7と同様の反応工程及び水洗浄工程を行った後、1-プロパノールに代えてメタノールを用いた溶剤洗浄工程を行った。溶剤洗浄工程の条件は、メタノールを加熱する際の温度を60℃にした点を除き、試験例1の試料A4と同様である。その後、乾燥を経て粉末状のデキストリンパルチミン酸エステルを得た。
【0130】
試料D10では、試料D8と同様の反応工程及び水洗浄工程を行った後、1-プロパノールに代えてメタノールを用いた溶剤洗浄工程を行った。溶剤洗浄工程の条件は、メタノールを加熱する際の温度を60℃にした点を除き、試験例1の試料A4と同様である。その後、乾燥を経て粉末状のデキストリンパルチミン酸エステルを得た。
【0131】
試料D7~D10の乾燥減量は、0.5%であった。試料D7~D10の酸価は、2.0~2.2であった。試料D7~D10の平均アシル基置換度は、グルコース単位当たり2.2であった。試料D7~D10の赤外線吸収スペクトルは、1745cm-1付近にエステル由来、2800cm-1~3000cm-1付近にアルキル由来、1000cm-1~1200cm-1付近に糖由来のピークを示した。以上のことから、試料D7~D10がデキストリンパルチミン酸エステルであることが確認された。
【0132】
試料D11では、反応工程として、21.60gのデキストリン(平均糖重合度30)を、38.0gの3-メチルピリジンに分散させた混合液を作製した。次に、50℃に加熱した当該混合液に計60.0gのパルチミン酸クロライドと2-エチルヘキサン酸クロライドとを滴下した。滴下終了後、12.0gの酢酸ブチルを添加して混合液を希釈した状態で、95℃の反応温度で2時間反応させてデキストリン(パルチミン酸/エチルヘキサン酸)エステルを生成した。なお、試料D11におけるデキストリンとパルチミン酸クロライド及び2-エチルヘキサン酸クロライドとの反応モル比は、2.1である。
【0133】
反応工程の終了後、洗浄補助溶剤として38.0gの酢酸ブチルを添加した。そして、試験例1の試料A1と同様の水洗浄工程を行った。水洗浄工程の後、1-プロパノールを加熱する際の温度を60℃にした点を除き、試験例1の試料A1と同様の溶剤洗浄工程を行った。その後、乾燥を経て粉末状のデキストリン(パルチミン酸/エチルヘキサン酸)エステルを得た。
【0134】
試料D12では、試料D11と同様の反応工程及び水洗浄工程を行った後、1-プロパノールに代えてメタノールを用いた溶剤洗浄工程を行った。溶剤洗浄工程の条件は、試験例1の試料A4と同様(加熱温度:50℃)である。その後、乾燥を経て粉末状のデキストリン(パルチミン酸/エチルヘキサン酸)エステルを得た。
【0135】
試料D11,D12の乾燥減量は、0.4%であった。試料D11,D12の酸価は、2.5であった。試料D11,D12の平均アシル基置換度は、グルコース単位当たり1.2~1.8であった。試料D11,D12の赤外線吸収スペクトルは、1745cm-1付近にエステル由来、2800cm-1~3000cm-1付近にアルキル由来、1000cm-1~1200cm-1付近に糖由来のピークを示した。以上のことから、試料D11,D12がデキストリンパルチミン酸エステルであることが確認された。
【0136】
試料D13では、反応工程として、14.07gのデキストリン(平均糖重合度30)を、33.0gの3-メチルピリジンに分散させた混合液を作製した。次に、50℃に加熱した当該混合液に60.0gのミスチリン酸クロライドを滴下した。滴下終了後、12.0gの酢酸ブチルを添加して混合液を希釈した状態で、95℃の反応温度で2時間反応させてデキストリンミスチリン酸エステルを生成した。なお、試料D13におけるデキストリンとミスチリン酸クロライドとの反応モル比は、2.85である。
【0137】
反応工程の終了後、洗浄補助溶剤として38.0gの酢酸ブチルを添加した。そして、試験例1の試料A1と同様の水洗浄工程を行った。水洗浄工程の後、1-プロパノールを加熱する際の温度を95℃にした点を除き、試験例1の試料A1と同様の溶剤洗浄工程を行った。その後、乾燥を経て粉末状のデキストリンミスチリン酸エステルを得た。
【0138】
試料D14では、試料D13と同様の反応工程及び水洗浄工程を行った後、1-プロパノールに代えてエタノールを用いた溶剤洗浄工程を行った。溶剤洗浄工程の条件は、エタノールを加熱する際の温度を60℃にした点を除き、試験例1の試料A6と同様である。その後、乾燥を経て粉末状のデキストリンミスチリン酸エステルを得た。
【0139】
試料D13,D14の乾燥減量は、0.3%であった。試料D13,D14の酸価は、2.2であった。試料D13,D14の平均アシル基置換度は、グルコース単位当たり2.0~2.2であった。試料D13,D14の赤外線吸収スペクトルは、1745cm-1付近にエステル由来、2800cm-1~3000cm-1付近にアルキル由来、1000cm-1~1200cm-1付近に糖由来のピークを示した。以上のことから、試料D13,D14がデキストリンミスチリン酸エステルであることが確認された。
【0140】
[試験例4:評価]
図5及び
図6に示すように、作製した試料D1~D14に対して、デキストリン脂肪酸エステルにおける不純物除去効果を確認するための官能評価及び定量評価を行った。官能評価は、臭い及び色味の2項目について評価した。定量評価は、反応触媒含有量及び色度(b値)の2項目について評価した。試料D1~D6の評価結果を
図5に示すとともに、試料D7~D14の評価結果を
図6に示す。
【0141】
なお、各評価項目において、点数が低いほどデキストリン脂肪酸エステルに含まれる不純物が少なく好ましい状態であることを意味する。官能評価では、8名のパネラーで採点した結果の平均点を四捨五入した値を評価結果として採用した。また、何れの評価項目においても3点以下である試料を合格と判定し、1項目でも4点以上であった試料を不合格と判定した。総合評価の値は、各評価項目の平均点を四捨五入した値を示す。
【0142】
臭いの官能評価は、試験例1~3と同様の試験条件及び評価基準で行った。色味の官能評価では、ガラス瓶に入れた試料D1~D14の外観の色味を目視で評価した。白色であるものを1点、淡黄色であるものを2点、黄色であるものを3点、黄褐色であるものを4点、褐色であるものを5点とした。なお、試験例4で作製したデキストリン脂肪酸エステルの色味は、デキストリン脂肪酸エステルに含まれる反応触媒等の不純物の量が少ないほど白色に近く、不純物の量が多いほど褐色に近づく。
【0143】
反応触媒含有量(3-メチルピリジンまたはピリジン)の定量評価は、試験例1~3と同様の試験条件及び評価基準で行った。色度の定量評価では、試料D1~D14の各々を2gずつ精秤し、各試料を2gのミネラルオイルに溶解させたものを色差計による色度測定に供した。そして、各試料に対してJIS-Z-8781-4に準拠するCIE1976(L*a*b*)表色系において特定される色度b*(以下b値とする)を測定した。b値の測定には、色差計「ZE 6000」(日本電色工業株式会社製)を用いた。
【0144】
b値が2.0未満のものを1点、2.0以上3.0未満のものを2点、3.0以上4.0未満のものを3点、4.0以上5.0未満のものを4点、5.0以上のものを5点とした。なお、b値が大きいほど黄色味が強いことを意味し、b値が0に近いほど黄色味が弱いことを意味する。
【0145】
[試験例4:評価結果]
図5に示すように、溶剤洗浄工程における加熱温度が45℃の試料D1では、臭いの官能評価が3点であったが、それ以外の評価が何れも4点であった。溶剤洗浄工程における加熱温度が50℃以上の試料D2~D4では、何れの評価項目においても3点以下の結果であった。特に、溶剤洗浄工程における加熱温度が80℃以上の試料D3,D4では、全ての評価項目が1点で、非常に優れた洗浄効果が確認された。
【0146】
試料D1では、溶剤洗浄工程において、加熱した1-プロパノールへのデキストリンパルチミン酸エステルの溶解が不十分であった。試料D2~D4では、溶剤洗浄工程において、加熱した1-プロパノールにデキストリンパルチミン酸エステルが十分に溶解したことが確認された。試料D1~D4の結果から、ゲル化能を有するデキストリン脂肪酸エステルにおいても、ゲル化能を有しないデキストリン脂肪酸エステルと同様に、溶剤洗浄工程における加熱温度が50℃以上であれば、十分な洗浄効果が得られることが確認された。また、溶剤洗浄工程における加熱温度が80℃以上であれば、特に優れた洗浄が得られることが確認された。そして、試料D2~D4の結果から、ゲル化能を有するデキストリン脂肪酸エステルにおいて、反応溶媒として環境負荷が小さい酢酸ブチルを用いた場合でも、不純物の量が少ないデキストリン脂肪酸エステルを製造できることが確認された。
【0147】
一方、溶剤洗浄工程においてメタノールを用いた試料D5,D6では、洗浄溶剤中へのデキストリンパルチミン酸エステルの溶解が確認されなかった。また、試料D5,D6では、全ての評価項目で4点以上の結果が確認された。試料D5,D6の結果から、ゲル化能を有するデキストリン脂肪酸エステルであっても、溶剤洗浄工程においてメタノールを用いた場合では、洗浄溶剤を加熱しても十分な洗浄効果が得られないことが確認された。
【0148】
図6に示すように、溶剤洗浄工程において1-プロパノールを用いた試料D7,D8,D11,D13では、何れの評価項目においても3点以下の結果であった。特に、溶剤洗浄工程における加熱温度が95℃の試料D13では、全ての評価項目が1点で、非常に優れた洗浄効果が確認された。
【0149】
試料D7,D8,D11,D13では、溶剤洗浄工程において、加熱した1-プロパノールに各デキストリン脂肪酸エステルが溶解したことが確認された。試料D7,D8,D11,D13の結果から、ゲル化能を有するデキストリン脂肪酸エステルにおいても、溶剤洗浄工程における加熱温度が50℃以上であれば、反応溶媒や反応触媒の種類によらず、十分な洗浄効果が得られることが確認された。
【0150】
一方、溶剤洗浄工程においてメタノールまたはエタノールを用いた試料D9,D10,D13,D14では、洗浄溶剤中への各デキストリン脂肪酸エステルの溶解が確認されなかった。また、試料D9,D10,D13,D14では、何れかの評価項目で4点以上の結果が確認された。試料D9,D10,D13,D14の結果から、ゲル化能を有するデキストリン脂肪酸エステルであっても、溶剤洗浄工程においてメタノールまたはエタノールを用いた場合では、洗浄溶剤を加熱しても十分な洗浄効果が得られないことが確認された。
【0151】
[処方例]
以下、
図7~
図14を参照して、本実施形態の製造方法を用いて作製したデキストリン脂肪酸エステルの処方例1~8を説明する。
【0152】
[処方例1:リップグロス]
図7に示すように、処方例1では、
図7中の表に示すグループ1,2の成分を用いて透明なリップグロスを作製した。処方例1では、グループ1の各成分を混合した状態で90℃に加熱して均一になるまで溶解させた。さらに、グループ1の各成分が溶解した混合物にグループ2の成分を添加した後、容器に充填して室温まで冷却することで透明なリップグロスを得た。処方例1のリップグロスは、透明であり、硬い未溶解物がなく滑らかな塗り心地で、アミン異臭も感じられず、唇へのなじみやツヤが良く、しっとりと保湿感のあるものであった。なお、
図7中の表に示すデキストリンイソステアリン酸エステルは、試料C7と同様の工程で作製された。デキストリンパルミチン酸エステルは、試料D4と同様の工程で作製された。デキストリンミリスチン酸エステルは、試料D13と同様の工程で作製された。
【0153】
[処方例2:日焼け止めクリーム]
図8に示すように、処方例2では、
図8中の表に示すグループ1~3の成分を用いて日焼け止めクリームを作製した。処方例2では、まず、グループ1の各成分を混合した状態で加熱して溶解させた。そして、グループ2の各成分を混合した状態で加熱した後、グループ1の各成分が溶解した混合物にグループ2の成分を攪拌しながら加えることで乳化させた。さらに、乳化後にグループ3の各成分を添加して均一になるように分散させることで日焼け止めクリームを得た。処方例2の日焼け止めクリームは、透明感があり、硬い未溶解物がなく滑らかな塗り心地で、アミン異臭も感じられず、肌への延びや持続性が良好の白浮きしないものであった。なお、
図8中の表に示すデキストリンイソステアリン酸エステルは、試料C4と同様の工程で作製された。デキストリンパルミチン酸エステルは、試料D4と同様の工程で作製された。
【0154】
[処方例3:クレンジングオイル]
図9に示すように、処方例3では、
図9中の表に示すグループ1の成分を用いてクレンジングオイルを作製した。処方例3では、まず、グループ1の各成分を混合した状態で90℃に加熱して均一になるまで溶解させた。その後、容器に充填して室温まで冷却することでクレンジングオイルを得た。処方例3のクレンジングオイルは、透明感があり、硬い未溶解物がなく滑らかな塗り心地で、アミン異臭も感じられず、肌への延びや持続性が良好の白浮きしないものであった。なお、
図9中の表に示すデキストリンイソステアリン酸エステルは、試料C3と同様の工程で作製された。デキストリンミリスチン酸エステルは、試料D13と同様の工程で作製された。デキストリン(パルミチン酸/エチルヘキサン酸)エステルは、試料D11と同様の工程で作製された。
【0155】
[処方例4:リキッドファンデーション]
図10に示すように、処方例4では、
図10中の表に示すグループ1~3の成分を用いて水中油(O/W)型のリキッドファンデーションを作製した。処方例4では、まず、グループ1の各成分を混合した状態で加熱して溶解させた。そして、グループ2の各成分を混合した状態で加熱した後、グループ1の各成分が溶解した混合物にグループ2の成分を攪拌しながら加えることで乳化させた。さらに、乳化後にグループ3の各成分を混合した混合物を添加して均一になるように分散させることでリキッドファンデーションを得た。処方例4のリキッドファンデーションは、透明感があり、硬い未溶解物がなく滑らかな塗り心地で、アミン異臭も感じられず、肌への延びや持続性が良好なものであった。なお、
図10中の表に示すグループ1のデキストリンイソステアリン酸エステルは、試料C7と同様の工程で作製された。デキストリンパルミチン酸エステルは、試料D2と同様の工程で作製された。グループ3の酸化チタンの表面処理に用いたデキストリンイソステアリン酸エステルは、試料D16と同様の工程で作製された。
【0156】
[処方例5:ホットクレンジングゲル]
図11に示すように、処方例5では、
図11中の表に示すグループ1,2の成分を用いてホットクレンジングゲルを作製した。処方例5では、まず、グループ1の各成分を混合した状態で加熱して溶解させた。そして、グループ2の各成分を混合した状態で加熱して溶解させた後、グループ1の各成分が溶解した混合物にグループ2の各成分が溶解した混合物を攪拌しながら加えることで乳化させた。これにより、ホットクレンジングゲルを得た。処方例5のホットクレンジングゲルは、透明感があり、硬い未溶解物がなく滑らかな塗り心地で、アミン異臭も感じられず、肌への延びやメイクの洗浄効果が良好なものであった。なお、
図11中の表に示すデキストリンイソステアリン酸エステルは、試料C2と同様の工程で作製された。デキストリン(パルミチン酸/エチルヘキサン酸)エステルは、試料D11と同様の工程で作製された。
【0157】
[処方例6:口紅]
図12に示すように、処方例6では、
図12中の表に示すグループ1,2の成分を用いて口紅を作製した。処方例6では、まず、グループ1の各成分を混合した状態で加熱して溶解させた。次に、グループ1の各成分が溶解した混合物にグループ2の各成分を添加した後、攪拌して均一に分散させた。そして、脱泡した後、容器に充填することで口紅を得た。処方例6の口紅は、透明感があり、硬い未溶解物がなく滑らかな塗り心地で、アミン異臭も感じられず、唇への延びや発色、ツヤが良好なものであった。なお、
図12中の表に示すデキストリンイソステアリン酸エステルは、試料C1と同様の工程で作製された。
【0158】
[処方例7:マスカラ]
図13に示すように、処方例7では、
図13中の表に示すグループ1,2の成分を用いてウォータープルーフマスカラを作製した。処方例7では、まず、グループ1の各成分を混合した状態で加熱して溶解させた。次に、グループ1の各成分が溶解した混合物にグループ2の各成分を添加した後、攪拌して均一に分散させることで、ウォータープルーフマスカラを得た。処方例7のマスカラは、透明感があり、硬い未溶解物がなく滑らかで、アミン異臭も感じられず、まつ毛への塗布性や持続性、ツヤが良好なものであった。なお、
図13中の表に示すデキストリンイソステアリン酸エステルは、試料C4と同様の工程で作製された。また、処方例7では、グループ1の成分として、試料D2と同様の工程で作製されたデキストリンパルチミン酸エステルと、試料D3と同様の工程で作製されたデキストリンパルチミン酸エステルとを用いた。
【0159】
[処方例8:化粧下地]
図14に示すように、処方例8では、
図14中の表に示すグループ1~3の成分を用いて油中水(W/O)型の化粧下地を作製した。処方例8では、まず、グループ1の各成分を混合した状態で加熱して溶解させた。そして、グループ2の各成分を混合した状態で加熱した後、グループ1の各成分が溶解した混合物にグループ2の成分を攪拌しながら加えることで乳化させた。さらに、乳化後にグループ3の各成分を混合した混合物を添加して均一になるように分散させることで化粧下地を得た。処方例8の化粧下地は、透明感があり、硬い未溶解物がなく滑らかで、アミン異臭も感じられず、肌への塗布性やツヤが良く、化粧ノリが良好なものであった。なお、
図14中の表に示すグループ1のデキストリンイソステアリン酸エステルは、試料C3と同様の工程で作製された。グループ3の酸化チタンの表面処理に用いたデキストリンイソステアリン酸エステルは、試料C7と同様の工程で作製された。デキストリンパルチミン酸エステルは、試料D7と同様の工程で作製された。デキストリン(パルミチン酸/エチルヘキサン酸)エステルは、試料D11と同様の工程で作製された。
【0160】
[実施形態の効果]
上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)溶剤洗浄工程において、加熱された洗浄溶剤にデキストリン脂肪酸エステルを溶解させた後、洗浄溶剤を冷却してデキストリン脂肪酸エステルを析出させることで、デキストリン脂肪酸エステルに含まれる不純物の量を低減できる。その結果、デキストリン脂肪酸エステルにおいて、不純物に起因する臭い、濁り、着色等を抑制できる。
【0161】
(2)洗浄溶剤として1-プロパノールを用いることで、加熱工程において、デキストリン脂肪酸エステルを十分に溶解させることができる。また、冷却工程において、反応触媒であるピリジンまたはピリジン誘導体や他の副反応物を析出させずに、デキストリン脂肪酸エステルを十分に析出させることができる。
【0162】
(3)反応溶媒を用いる場合、反応触媒の重量が、デキストリンの重量に対して1倍以上10倍以下、好ましくは2倍以上6倍以下であることで、反応を好適に促進させつつ、反応後の洗浄によって十分に反応触媒を除去できる。
【0163】
(4)加熱工程において、洗浄溶剤を50℃以上に加熱することで、デキストリン脂肪酸エステルを好適に溶解させることができる。また、加熱工程において、洗浄溶剤を80℃以上に加熱することで、デキストリン脂肪酸エステルをより好適に溶解させることができる。これにより、反応工程においてデキストリン脂肪酸エステルが生成される際に、内部に残存した不純物を好適に取り出すことができる。
【0164】
(5)冷却工程において、洗浄溶剤を40℃以下に冷却することで、加熱工程で洗浄溶剤に溶解したデキストリン脂肪酸エステルを好適に析出させることができる。
(6)溶剤洗浄工程に加えて水洗浄工程を行うことで、デキストリン脂肪酸エステルに含まれる不純物をより低減できる。
【0165】
(7)反応工程において、反応溶媒によって原料や反応触媒を含む混合液を希釈することで、反応触媒の使用量を増加させずとも混合液の粘度を下げることができる。また、酢酸ブチルを含む反応溶媒を用いることで、他の反応溶媒として用いる場合と比較して、環境への負荷を低減できる。
【0166】
[変更例]
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。また、以下に示す変更例は、技術的に矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0167】
・反応溶媒は、酢酸ブチルに限定されず、N,N-ジメチルホルムアミドやn-へプタンであってもよい。また、反応溶媒は、試験例1~4で用いたものに限定されず、デキストリン脂肪酸エステルの製造に使用可能であって、溶剤洗浄工程の冷却工程において他の物質との副反応物が析出しないものであればよい。
【0168】
・反応工程で用いられる反応触媒の重量は、デキストリンの重量に対して2倍以上6倍以下に限定されず、デキストリン脂肪酸エステルを生成するための反応を好適に促進でき、かつ、溶剤洗浄工程によって十分に除去できる程度であればよい。例えば、デキストリン、脂肪酸誘導体、及び、反応触媒が混合された混合液の粘度を下げるために、反応触媒の重量を6倍超としてもよい。この場合、反応触媒とは別に反応溶媒を加えなくてもよい。また、反応触媒は、デキストリン脂肪酸エステルを生成するための反応を好適に促進できるのであれば、ピリジンまたはピリジン誘導体以外のものであってもよい。
【0169】
・溶剤洗浄工程のみで十分な洗浄効果が得られるのであれば、水洗浄工程を省略してもよい。また、溶剤洗浄工程を行った後に水洗浄工程を行ってもよい。水洗浄工程を行う場合、水に対する可溶画分と不溶画分とを分離する際には、加熱及び攪拌後に冷却する手順を踏んでもよいし、温度調整をせずに静置のみで分離を行ってもよい。
【0170】
・溶剤洗浄工程の冷却工程において、加熱工程で洗浄溶剤に溶解したデキストリン脂肪酸エステルを好適に析出させることができるのであれば、洗浄溶剤を冷却する温度が40℃よりも高くてもよい。この場合、例えば、冷却工程において、洗浄溶剤を40℃超50℃未満に冷却してもよい。
【0171】
・溶剤洗浄工程の加熱工程において、洗浄溶剤に対してデキストリン脂肪酸エステルを好適に溶解させることができるのであれば、洗浄溶剤を加熱する温度が50℃よりも低くてもよい。例えば、洗浄溶剤を加熱する温度の下限値は、デキストリン脂肪酸エステルの種類と洗浄溶剤の種類との組み合わせに応じて設定されてもよい。
【0172】
・洗浄溶剤は、1-プロパノールに限定されず、例えば、上述した条件A~条件Cを満たす任意の物質を用いてもよい。また、洗浄溶剤工程において、洗浄溶剤と水とを混合した混合洗浄液を用いてデキストリン脂肪酸エステルを洗浄してもよい。この場合、混合洗浄液に含まれる洗浄溶剤に対してデキストリン脂肪酸エステルが溶解すればよい。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応触媒の存在下において、デキストリンと脂肪酸誘導体とを反応させることで、デキストリン脂肪酸エステルを生成する反応工程と、
洗浄溶剤を用いて前記デキストリン脂肪酸エステルを洗浄する溶剤洗浄工程と、を含み、
前記溶剤洗浄工程は、
前記洗浄溶剤に前記デキストリン脂肪酸エステルを溶解させる加熱工程と、
前記加熱工程後の前記洗浄溶剤を冷却することで前記デキストリン脂肪酸エステルを析出させる冷却工程と、
冷却後の前記洗浄溶剤を取り除く工程と、を含み、
前記反応触媒は、ピリジンまたはピリジン誘導体であり、
前記洗浄溶剤は、1-プロパノールを含み、
前記加熱工程では、前記洗浄溶剤を50℃以上に加熱する
デキストリン脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項2】
前記冷却工程では、前記洗浄溶剤を40℃以下に冷却する
請求項1に記載のデキストリン脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項3】
前記反応工程では、前記デキストリン、前記脂肪酸誘導体、及び前記反応触媒が混合された混合液が反応溶媒によって希釈された状態で前記デキストリン脂肪酸エステルが生成され、
前記反応工程で用いられる前記反応触媒の重量は、前記デキストリンの重量に対して2倍以上6倍以下である
請求項2に記載のデキストリン脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項4】
前記反応溶媒は、酢酸ブチルを含む
請求項3に記載のデキストリン脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項5】
前記溶剤洗浄工程の前または後に、水を用いて前記デキストリン脂肪酸エステルを洗浄する水洗浄工程をさらに含む
請求項1ないし4のうち何れか一項に記載のデキストリン脂肪酸エステルの製造方法。