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特開2024-1428スパッタリング方法及びスパッタリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001428
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】スパッタリング方法及びスパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
C23C14/34 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100059
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】520472664
【氏名又は名称】明電ナノプロセス・イノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】三浦 敏徳
(72)【発明者】
【氏名】花倉 満
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA44
4K029BA46
4K029BA48
4K029CA06
4K029DC03
(57)【要約】
【課題】スパッタリングされた金属酸化物の酸素欠損の低減効果を高める。
【解決手段】スパッタリング装置1は、Arイオンをターゲット2に衝突させて弾き出されたターゲット2の構成原子を酸化性ガスと反応させて基板3の表面に当該構成原子の酸化膜を形成する反応炉4を有する。ターゲット2と基板3は対向して円筒状の反応炉4に格納される。ターゲット2は反応炉4内の底部に配置される一方で基板3は反応炉4内の天井部に配置される。反応炉4内のターゲット2と基板3との間の空間には、前記Arイオンを含むArガスと共に前記酸化性ガスとして高純度オゾンガスが供給される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Arイオンをターゲットに衝突させて弾き出された当該ターゲットの構成原子を酸化性ガスと反応させて基板の表面に当該構成原子の酸化膜を形成するスパッタリング方法において、
前記Arイオンを含むArガスと共に前記酸化性ガスとしてオゾン濃度90%以上のオゾンガスを前記ターゲットと前記基板との間の空間に供給することを特徴するスパッタリング方法。
【請求項2】
Arイオンをターゲットに衝突させて弾き出された当該ターゲットの構成原子を酸化性ガスと反応させて基板の表面に当該構成原子の酸化膜を形成するスパッタリング装置において、
前記ターゲットと前記基板とが対向して格納される反応炉を有し、
この反応炉内の前記ターゲットと前記基板との間の空間には、前記Arイオンを含むArガスと共に前記酸化性ガスとしてオゾン濃度90%以上のオゾンガスが供給されることを特徴するスパッタリング装置。
【請求項3】
Arイオンをターゲットに衝突させて弾き出された当該ターゲットの構成原子を酸化性ガスと反応させて基板の表面に当該構成原子の酸化膜を形成するスパッタリング装置において、
前記ターゲットと前記基板とが対向して格納され、当該ターゲットと当該基板との間の空間に前記Arイオンを含むArガスと共に前記酸化性ガスとしてオゾン濃度90%以上のオゾンガスが供給される反応炉と、
この反応炉内の前記ターゲットと前記基板のガス上流空間にて、前記Arガスの導入空間と前記オゾンガスの導入空間とを仕切る仕切り部材と、
前記Arガスの導入空間から当該Arガスを当該ターゲットの表面に沿って供給するArガス供給管と、
前記オゾンガスの導入空間から当該オゾンガスを当該基板の表面に沿って供給するオゾンガス供給管と、
前記ターゲットの表面に沿うガス流を当該ターゲットの下流側に案内すると共に当該基板の表面に沿うガス流を当該基板の下流側に案内する案内部材と、
を備えたことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項4】
Arイオンをターゲットに衝突させて弾き出された当該ターゲットの構成原子を酸化性ガスと反応させて基板の表面に当該構成原子の酸化膜を形成するスパッタリング装置において、
前記Arイオンを含むArガスと共に前記酸化性ガスとしてオゾン濃度90%以上のオゾンガスが供給される円筒状の反応炉と、
この反応炉と同軸に当該反応炉内に備えられる円柱状の回転支持台と、
を備え、
前記反応炉と前記回転支持台との間には、前記オゾンガスの滞留空間と隔離する前記Arガスの滞留空間が確保され、
前記ターゲットは、前記Arガスの滞留空間における前記反応炉の内周面に配置され、
前記基板は、前記ターゲットと対向可能に前記回転支持台の外周面に配置されたこと
を特徴とするスパッタリング装置。
【請求項5】
前記基板は、前記外周面に沿って配置され、
前記ターゲットは、前記内周面に沿って複数配置され、
複数の前記ターゲットは、構成原子が互いに異なること
を特徴とすることを特徴とする請求項4に記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
前記オゾンガスの滞留空間に前記オゾンガスと不飽和炭化水素ガスを個別に散気する散気孔を有するシャワーヘッドをさらに備えたことを特徴とする請求項4または5に記載のスパッタリング装置。
【請求項7】
Arイオンをターゲットに衝突させて弾き出された当該ターゲットの構成原子を酸化性ガスと反応させて基板の表面に当該構成原子の酸化膜を形成するスパッタリング装置において、
前記Arイオンを含むArガスと共に前記酸化性ガスとしてオゾン濃度90%以上のオゾンガスが供給される反応炉と、
前記Arガスを前記ターゲットの近傍位置から当該ターゲットの表面に沿って供給するArガス供給管と、
前記基板の近傍位置にて当該基板の周縁に沿って配置され、前記オゾンガスを軸心に向けて散気する散気管と、
を備えたことを特徴するスパッタリング装置。
【請求項8】
前記散気管は、前記基板の径方向に並列に複数配置され、当該基板の表面に向けて前記オゾンガスを散気する散気孔が複数形成された補助散気管をさらに備えたことを特徴とする請求項7に記載のスパッタリング装置。
【請求項9】
前記補助散気管は、当該補助散気管の散気孔と前記基板との距離d及び前記ターゲットと当該基板との距離Dとの関係が(d/D)<0.3(但し、d<前記反応炉内のガス分子の平均自由行程)であり、
複数の前記補助散気管の散気孔の間隔eは、前記平均自由行程<e<(2×前記平均自由行程)であること
を特徴とする請求項8に記載のスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性スパッタリングによる金属酸化膜の形成に供される酸化性ガスにオゾン濃度90%以上の超高濃度オゾンが適用された成膜技術に関する。
【背景技術】
【0002】
反応性スパッタリングは、グロー放電等で加速したArイオンをターゲットに衝突させて当該ターゲットから弾き出された金属原子を酸素や窒素等の反応性ガスと反応させることで基板上に金属酸化膜や金属窒化膜を形成する。
【0003】
反応性スパッタリングの利点は緻密な成膜が可能であること、真空引きに耐えられる基板なら大抵の材質に成膜可能であること、比較的低温の基板温度でも成膜可能であることが挙げられる。このことから、ガラス基板、金属基板、セラミック基板に加えて、近年はプラスチック基板への成膜も増えている。
【0004】
反応性スパッタリングの欠点、特に、金属酸化膜の場合で大きな欠点は、成膜された酸化膜の酸素欠損が挙げられる。例えば、レンズのコーティングに用いるTiOやAlなどの金属酸化物では酸素欠損により光の吸収が発生する。
【0005】
最も基礎的な反応性スパッタリングは、Arと酸素の混合ガスをスパッタリングが起こる圧力である0.1Pa~数Paの圧力で行われる。Arと酸素の混合比は、酸素が少ないと金属膜の多い膜となる金属モードと、酸素が多いと金属ターゲットが酸化されて成膜速度が極端に遅くなる反応性モードの中間の狭い遷移モードに厳密に制御されている必要がある。これは、金属ターゲットからスパッタリングされた金属粒子が基板に成膜されるまでに酸素と結合する反応が、限られた酸素雰囲気の状態下で行われることを意味する。それで、1金属原子に対してより多くの酸素原子を必要とする金属酸化物ほど酸素欠損を生じやすい。例えば、ZnO<TiO<Ni<WOのように酸素の比率が高くなるほど、酸素欠損が発生しやすい。
【0006】
スパッタリングされた金属粒子が酸素と反応する酸化モードとしては以下の3つのモードが考えられる。
酸化モードI:スパッタリングされた金属粒子が空中で酸素と反応すること。
酸化モードII:基板表面に化学吸着した酸素とスパッタ粒子が基板表面に成膜される際に反応すること。
酸化モードIII:スパッタ粒子が基板表面に成膜された直後に雰囲気中の酸素と反応すること。
【0007】
酸化モードIは、プロセス圧力を1Paとすると、酸素分子の平均自由工程は20℃で約6.5mmであるが、金属ターゲットと基板の距離を10cmとすると、金属粒子と衝突する回数は15回程度となる。実際には、雰囲気ガスの半分以上はArガス分子のため、例えば酸素比率20%とすると3回となる。実際は、金属粒子は運動エネルギーを持っているので、さらに、衝突回数は少なくなる可能性がある。ここで、酸化モードIIや酸化モードIIIに期待したいが、この効果が強いと、ターゲットも同様に酸化する前述の反応性モードとなって成膜速度が極端に遅くなる。
【0008】
この問題を解決するため、特許文献1では、スパッタ領域と酸化領域を分離して配置することで、酸化モードIの効果は期待できないが、ターゲットの酸化を考慮することなく、酸化モードIIと酸化モードIIIの効果を最大化できる。具体的には、酸化部での酸素ガス濃度を最大化することであり、酸化反応は従来よりも促進されるが、酸素欠損の問題が完全に解決できない。
【0009】
理由は、スパッタ部と酸化部は同じ処理チャンバ内に設けられるので、プロセス圧力はスパッタ部が基準になるため、酸化部もスパッタ圧力の0.1Pa~数Paに限定されるため、酸素分子が酸素欠損を完全に防ぐほど潤沢にあるわけでは無いことによる。特許文献1のように、基板を回転部に固定してスパッタ部と酸化部を回転移動させる方法では、スパッタ部と酸化部の圧力を変えることも可能であるが、圧力差はわずかである。なおスパッタ部と酸化部を分離する方法は、同じチャンバ空間でガス吹き出し部を分離する方法も公知である。
【0010】
この反応性スパッタリングの酸素欠損の問題を解決する方法として、酸素ガスに替えてオゾンガスを用いる方法が提案されている。例えば、特許文献2によれば、基本的なスパッタリング装置において、酸素ガスに替えてオゾンガスが用いられる。特許文献3によれば、ターゲットが酸化しないように、基板のみにオゾンが吹き付けられる。さらに、スパッタ部と酸化部を分離する方法にとして、オゾンガスを酸素ガスに替えて用いる方法が特許文献4や特許文献5で提案されている。他にも、類似のスパッタ装置にオゾンガスを適用したものとして、特許文献6、特許文献7等がある。
【0011】
これらの方法は、いずれも従来の酸素ガスを用いた様々な反応性スパッタ装置において、酸素ガスに替えてオゾンガスを用いたものである。これらの発明の主な目的は、反応性スパッタリングで圧力が0.1Pa~数Paに限定される中で、同じ圧力で酸素ガスをオゾンガスに置き換えることで、酸化に寄与する酸素原子の数が1.5倍となるため、酸素欠損の問題が改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平7-18434号公報
【特許文献2】特開昭63-317670号公報
【特許文献3】特開平3-140465号公報
【特許文献4】特開2004-137101号公報
【特許文献5】特開2005-163133号公報
【特許文献6】特開2006-307257号公報
【特許文献7】特開2013-241677号公報
【特許文献8】特許04905253号公報
【特許文献9】特許05217951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上述の酸素欠損の低減効果は以下の理由により限定的となる。
【0014】
一般的にオゾンガスと称するものは、数%~23%のオゾンガスとそれ以外のガス(窒素ガス、または酸素ガス)の混合ガスを示す。上記の特許文献には、オゾンガスの組成に関する記述は無く、前記一般的なオゾンガスが示されていることは明らかである。
【0015】
仮に、一般的なオゾンガスで最も酸素原子数が多い場合で、20%オゾン+80%酸素ガスの混合ガスを想定すると、100%酸素ガスに比べて酸素原子の数は、1.1倍にしかならない。つまり、従来の酸素ガスを用いた様々な反応性スパッタ装置において、酸素ガスに替えてオゾンガスを用いても、酸素原子の数は最大でも1.1倍にしかならず、効果が限定的となる。
【0016】
本発明は、以上の事情に鑑み、スパッタリングされた金属酸化物の酸素欠損の低減効果を高めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、本発明の一態様は、Arイオンをターゲットに衝突させて弾き出された当該ターゲットの構成原子を酸化性ガスと反応させて基板の表面に当該構成原子の酸化膜を形成するスパッタリング方法において、前記Arイオンを含むArガスと共に前記酸化性ガスとしてオゾン濃度90%以上のオゾンガスを前記ターゲットと前記基板との間の空間に供給する。
【0018】
本発明の一態様は、Arイオンをターゲットに衝突させて弾き出された当該ターゲットの構成原子を酸化性ガスと反応させて基板の表面に当該構成原子の酸化膜を形成するスパッタリング装置において、前記ターゲットと前記基板とが対向して格納される反応炉を有し、この反応炉内の前記ターゲットと前記基板との間の空間には、前記Arイオンを含むArガスと共に前記酸化性ガスとしてオゾン濃度90%以上のオゾンガスが供給される。
【0019】
本発明の一態様は、Arイオンをターゲットに衝突させて弾き出された当該ターゲットの構成原子を酸化性ガスと反応させて基板の表面に当該構成原子の酸化膜を形成するスパッタリング装置において、前記ターゲットと前記基板とが対向して格納され、当該ターゲットと当該基板との間の空間に前記Arイオンを含むArガスと共に前記酸化性ガスとしてオゾン濃度90%以上のオゾンガスが供給される反応炉と、この反応炉内の前記ターゲットと前記基板のガス上流空間にて、前記Arガスの導入空間と前記オゾンガスの導入空間とを仕切る仕切り部材と、前記Arガスの導入空間から当該Arガスを当該ターゲットの表面に沿って供給するArガス供給管と、前記オゾンガスの導入空間から当該オゾンガスを当該基板の表面に沿って供給するオゾンガス供給管と、前記ターゲットの表面に沿うガス流を当該ターゲットの下流側に案内すると共に当該基板の表面に沿うガス流を当該基板の下流側に案内する案内部材と、を備える。
【0020】
本発明の一態様は、Arイオンをターゲットに衝突させて弾き出された当該ターゲットの構成原子を酸化性ガスと反応させて基板の表面に当該構成原子の酸化膜を形成するスパッタリング装置において、前記Arイオンを含むArガスと共に前記酸化性ガスとしてオゾン濃度90%以上のオゾンガスが供給される円筒状の反応炉と、この反応炉と同軸に当該反応炉内に備えられる円柱状の回転支持台と、を備え、前記反応炉と前記回転支持台との間には、前記オゾンガスの滞留空間と隔離する前記Arガスの滞留空間が確保され、前記ターゲットは、前記Arガスの滞留空間における前記反応炉の内周面に配置され、前記基板は、前記ターゲットと対向可能に前記回転支持台の外周面に配置される。
【0021】
本発明の一態様は、前記スパッタリング装置において、前記基板は、前記外周面に沿って配置され、前記ターゲットは、前記内周面に沿って複数配置され、複数の前記ターゲットは、構成原子が互いに異なる。
【0022】
本発明の一態様は、前記スパッタリング装置において、前記オゾンガスの滞留空間に前記オゾンガスと不飽和炭化水素ガスを個別に散気する散気孔を有するシャワーヘッドをさらに備える。
【0023】
本発明の一態様は、Arイオンをターゲットに衝突させて弾き出された当該ターゲットの構成原子を酸化性ガスと反応させて基板の表面に当該構成原子の酸化膜を形成するスパッタリング装置において、前記Arイオンを含むArガスと共に前記酸化性ガスとしてオゾン濃度90%以上のオゾンガスが供給される反応炉と、前記Arガスを前記ターゲットの近傍位置から当該ターゲットの表面に沿って供給するArガス供給管と、前記基板の近傍位置にて当該基板の周縁に沿って配置され、前記オゾンガスを軸心に向けて散気する散気管と、を備える。
【0024】
本発明の一態様は、前記スパッタリング装置において、前記散気管は、前記基板の径方向に並列に複数配置され、当該基板の表面に向けて前記オゾンガスを散気する散気孔が複数形成された補助散気管をさらに備える。
【0025】
本発明の一態様は、前記スパッタリング装置において、前記補助散気管は、当該補助散気管の散気孔と前記基板との距離d及び前記ターゲットと当該基板との距離Dとの関係が(d/D)<0.3(但し、d<前記反応炉内のガス分子の平均自由行程)であり、複数の前記補助散気管の散気孔の間隔eは、前記平均自由行程<e<(2×前記平均自由行程)である。
【発明の効果】
【0026】
以上の本発明によれば、スパッタリングされた金属酸化物の酸素欠損の低減効果が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態1としてのスパッタリング装置の概略構成図。
図2】(a)本発明の実施形態2としてのスパッタリング装置の概略構成図、(b)当該スパッタリング装置のA-A’矢視図。
図3】本発明の実施形態3としてのスパッタリング装置の概略横断面図。
図4】本発明の実施形態4としてのスパッタリング装置の概略横断面図。
図5】本発明の実施形態5としてのスパッタリング装置の概略横断面図。
図6】オゾン濃度とOHラジカル発生効率との関係を示す特性図。
図7】本発明の実施形態6としてのスパッタリング装置の概略横断面図。
図8】(a)本発明の実施形態7としてのスパッタリング装置の概略構成図、(b)当該スパッタリング装置のA-A’矢視図。
図9】実施形態7の散気管の一態様を示す図8(a)のA-A’矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0029】
本発明のスパッタリング方法とその装置は、従来の反応性ガスである酸素ガスに替えてオゾン濃度90%以上のオゾンガス(以下、高純度オゾンガスと称する)が適用される。この高純度オゾンガスを供給できる装置としては、例えば特許文献8,9に開示のオゾン発生装置が挙げられる。
【0030】
一般的なオゾンガスが約23%以下のオゾン濃度に限定されているのは、工業的に(量産手段として)生成できるオゾン濃度に限界があるからである。研究室レベルでは液体窒素やシリカゲルを用いてオゾンの高濃度化を図ることができるが、安全性や生産量の観点から工業的に利用できるレベルではない。
【0031】
これに対し、前記オゾン発生装置は、理想的には100%濃度(保証値は90%以上の濃度)の高純度オゾンガスを安全に連続的に大流量で供給できる。
【0032】
反応性スパッタリングに高純度のオゾンが適用された例はない。これは、一般的なオゾンガスも高純度オゾンガスも同じ概念であると誤解され、一般的なオゾンガスで大きな効果が得られなかったので、高純度オゾンガスが適用されなかったことによる。特許文献1~7にはオゾンガスの記載があるが、このオゾンガスは従来のオゾン濃度23%以下のオゾン混合ガスを意味し、本発明の高純度オゾンを意味するものではない。
【0033】
以上の高純度オゾンガスが適用された本発明によれば、酸素原子数がほぼ理想の1.5倍に近い増加し、高濃度化で反応速度の増大化を図ることができる。さらに、スパッタ金属粒子の運動エネルギーまたは熱エネルギーにより、オゾン分子が分解するので、酸化力の極めて強い酸素ラジカルが発生する。一方、一般的なオゾンガスでは、オゾン分解を阻害する他のガス分子により、その効果は低くなる。
【0034】
以下、本発明の具体的な態様例について説明する。
【0035】
[実施形態1]
図1に示された実施形態1のスパッタリング装置1は、基礎的な反応性スパッタリングに供される酸化性ガスに高純度オゾンガスが適用される。
【0036】
スパッタリング装置1は、Arイオンをターゲット2に衝突させて弾き出されたターゲット2の構成原子を酸化性ガスと反応させて基板3の表面に当該構成原子の酸化膜を形成する反応炉4を有する。
【0037】
ターゲット2と基板3は対向して円筒状の反応炉4に格納される。具体的にはターゲット2は反応炉4内の底部に配置される一方で基板3は反応炉4内の天井部に配置される。そして、反応炉4内のターゲット2と基板3との間の空間には、前記Arイオンを含むArガスと共に前記酸化性ガスとして高純度オゾンガスが供給される。尚、ターゲット2にはマグネトロンスパッタ電源6が適宜具備されることで、ターゲット2の構成原子の放出が促される。
【0038】
Arガスと高純度オゾンガスは所定の比率で混合器5にて混合された後、混合ガスとして反応炉4内に供給される。反応炉4の真空度(圧力)は前記混合ガスの供給量(流量)と真空ポンプPの排気量の制御により、所定値に維持される。
【0039】
以上のスパッタリング装置1によれば、スパッタリングガス(Arガス)と混合する酸化性ガスを高純度オゾンガスとすることで、反応炉4の真空度を保持しながら、酸素ガスに比べて50%多い酸素原子を供給できる。一方、オゾン濃度が数%である従来のオゾンガスでは増加分が最大でも10%に留まる。
【0040】
また、オゾン分子(気中または基板に付着した分子)にスパッタした金属粒子が衝突すると、より酸化性の高い酸素ラジカルを発生させることができる。この効果は前記従来のオゾンガスでは低くなるが、高純度オゾンガスでは高い効果が期待できる。
【0041】
したがって、スパッタリングされた金属酸化物の酸素欠損が著しく低減する。例えば、酸素の比率が高いため酸素欠損が発生しやすいWOの成膜を基礎的な反応性スパッタリングにより成膜したデータは可視光透過率が82.7%となる。これに対し、本実施形態のスパッタリング方法とその装置によれば、同じ条件(温度、時間、ガス比率、真空度)の下で88.2%まで改善された。
【0042】
可視光透過率は酸素欠損と密接な関係があるので、上記の両者の可視光透過率の比較から明らかなように、本実施形態によれば酸素欠損が低減することが示された。特に、可視光透過率は反射防止膜が形成されていない状態では92%が最大値となるが、本発明の他の実施例により、最大値に近づけることが可能である。
【0043】
尚、実施形態1は、スパッタリング方式として代表的なマグネトロンスパッタリングが適用されているが、これ以外のスパッタリング方式を適用できる(以下の実施形態2~6も同様である)。
【0044】
[実施形態2]
図2に示された実施形態2のスパッタリング装置1は、反応炉4において、仕切り部材41、Arガス供給管42、オゾンガス供給管43及び案内部材44を備える。
【0045】
仕切り部材41は、反応炉4内のターゲット2及び基板3のガス上流空間10において、Arガスの導入空間11と高純度オゾンガスの導入空間12とを仕切る。
【0046】
Arガス供給管42は、Arガスの導入空間からArガスをターゲット2の表面に沿って供給する。
【0047】
オゾンガス供給管43は、高純度オゾンガスの導入空間12から当該高純度オゾンガスを基板3の表面に沿って供給する。
【0048】
案内部材44は、反応炉4内のターゲット2及び基板3のガス下流空間13において、ターゲット2の表面に沿うガス流をターゲット2の下流側に案内すると共に基板3の表面に沿うガス流を基板3の下流側に案内する。
【0049】
以上のスパッタリング装置1によれば、真空ポンプPによりArガスがArガス供給管42を介して反応炉4内のターゲット2のガス上流空間10に導入される。高純度オゾンガスも同様に真空ポンプPによりオゾンガス供給管43を介してArガスと混合することなくガス上流空間10に導入される。ガス上流空間10は仕切り部材41によりArガスの導入空間11と高純度オゾンガスの導入空間12とに仕切られる。反応炉4内ではArガスと高純度オゾンガスの完全な分離が困難であるが、ターゲット2付近の導入空間11はArガスが比較的多い状態、基板3付近の導入空間12は高純度オゾンガスが比較的多い状態に保たれる。そして、導入空間11からはArガスがターゲット2の表面に沿って供給される一方で導入空間12からは高純度オゾンガスが基板3の表面に沿って供給される。さらに、ターゲット2の表面に沿うArガスは案内部材44によりターゲット2の下流側に案内されてガス下流空間13に移行する。そして、基板3の表面に沿う高純度オゾンガスは案内部材44により基板3の下流側に案内されてガス下流空間13に移行する。反応炉4内は真空度が高い(圧力が低い)ので層流による前記分離が困難となるが、案内部材44により当該分離が有効に促される。以上のように本実施形態によれば、実施形態1の効果に加えて、酸化モードIIと酸化モードIIIの効果の最大化が図られる。
【0050】
反応炉4内の圧力を1Paとするとオゾン分子の平均自由工程が6.8mm程度となる。ここで、前記平均自由工程の長さの数倍以内でオゾン分子が基板3に直線的に照射される工夫、例えば後述(実施形態7)の基板3の周縁に沿って配置される散気管50,補助散気管51等も適用しても有効となる。
【0051】
[実施形態3]
図3に示された本発明の実施形態3のスパッタリング装置1は、Arガスと共に高純度オゾンガスが供給される円筒状の反応炉7と、この反応炉7の同軸に反応炉7内に備えられる円柱状の回転支持台8と、を有する。
【0052】
反応炉7の内周面には、Arガスの滞留空間71、高純度オゾンガスの滞留空間72及び排気空間73を確保する仕切り部材74が備えられる。
【0053】
滞留空間71は回転支持台8を介して滞留空間72と隔離する。そして、滞留空間71にはArガス供給管42を介して外部からArガスが供給される。一方、滞留空間72にはオゾンガス供給管43を介して外部から高純度オゾンガスが供給される。
【0054】
排気空間73は、滞留空間71,72の間で回転支持台8を介して確保される。排気空間73からは真空ポンプPにより滞留空間71,72のガスが外部に排出される。
【0055】
ターゲット2は、滞留空間71の反応炉7の内周面に配置される。一方、基板3は、ターゲット2と対向可能に回転支持台8の外周面に単数または当該外周面に沿って複数配置される。尚、ターゲット2には実施形態1と同様にマグネトロンスパッタ電源6が具備される。
【0056】
以上のスパッタリング装置1によれば、反応炉7内でターゲット2のスパッタ領域と基板3の酸化領域とが隔離し、これらの領域の境界部分が排気領域とを成すので、Arガスと高純度オゾンガスとが混合することがない。そして、基板3が配置された回転支持台8の回転により、基板3を前記スパッタ領域と前記酸化領域に供することができる。したがって、ターゲット2の酸化を考慮することなく、酸化モードIIと酸化モードIIIの効果の最大化が可能となる。これらの酸化モードにより、従来の酸素ガスと比較して約1.5倍の酸素原子が供給され、また、従来のオゾンガスと比較して約1.46倍以上の酸素原子が供給される。さらに、スパッタ金属粒子の運動エネルギーまたは熱エネルギーによりオゾン分子が分解して、酸化力の極めて強い酸素ラジカルが他のガス分子に阻害されることなく発生する。以上のように、スパッタリングされたターゲット2の金属酸化物の酸素欠損の低減効果が高まる。
【0057】
[実施形態4]
図4に示された実施形態4のスパッタリング装置1は、反応炉7の内周面に沿って配置された複数のターゲット2の構成原子が互いに異なること以外は、実施形態3と同様の態様である。本態様においては、三つのターゲット2が配置される。例えば、ターゲット2a,2b,3cの各々の構成原子はSi,Ti,Alである。
【0058】
以上のスパッタリング装置1によれば、異なる金属酸化膜を多層に形成することができる。例えばレンズのコーティングに用いる反射防止膜では屈折率の異なるTiOやSiOの透明金属酸化膜を多層に形成する必要がある。透明膜なので、本態様により酸素欠損が低減できれば、光の透過度を損なうことなく形成できる。
【0059】
[実施形態5]
高純度オゾンガスを用いた新しい酸化方法として、高濃度オゾンと不飽和炭化水素を反応させて、OHラジカルを発生させる方法が特許文献8,9に開示されている。
【0060】
上記の反応によるOHラジカルを大量に発生させる効果は図6に示されている。これはSi基板上のフォトレジストのアッシング効果を指標に、オゾン濃度約100%の時のアッシングレートを1として規格化したものである。
【0061】
同図のように、オゾン濃度が50%以下では、この効果はほとんど発生しない。この効果は、オゾンが特別な熱エネルギー(加熱)やUV照射無しで不飽和炭化水素の炭素の2重結合と反応しやすいことを利用したものであり、初期の反応で炭素の2重結合をオゾン分子が開裂し、これに伴って発生する不安定なメチレン過酸化物を中間体として、さらに、分裂反応を起こし炭酸ガスや水とともにOHラジカルやギ酸等を発生する。ここでオゾン濃度が低い場合、OH等のラジカルは中間反応で消費される。しかし、オゾン濃度が高い場合、OHラジカルが高濃度で発生し、さらに多段反応の過程でも多量のラジカルが発生することを示唆している。
【0062】
つまり、50%以下の濃度のオゾンでは、OHラジカルの発生が増幅される多段反応パスが少ないことが推測できる。通常の一般的な放電方式のオゾン発生器(オゾナイザ)で発生できる最大オゾン濃度は高くても23%程度なので、大きな効果は期待できない。工業的(量産的)に、高純度オゾンガスで初めて実現できる効果である。
【0063】
図5に示された実施形態5のスパッタリング装置1は、反応炉7の酸化領域の滞留空間72に高純度オゾンガスと不飽和炭化水素ガスを個別に散気する散気孔を有するシャワーヘッド9を備えたこと以外は、実施形態3と同様の態様である。
【0064】
特に、高純度オゾンガスとエチレンガスは、2重構造のシャワーヘッド9を介して、高純度オゾンガスとエチレンガスがシャワーヘッドに交互に設けられた複数の吹き出し口から、基板3に吹き付けられる。基板3の表面に吹き付けられた高純度オゾンガスとエチレンガスは、基板3の表面付近で反応し、大量のOHラジカルを発生させる。OHラジカルはオゾン分解で発生するOラジカルより強力な酸化種であるため、実施形態3よりもさらに酸化が進み、成膜された金属酸化膜の酸素欠損低減が促進される。
【0065】
[実施形態6]
図7に示された実施形態6のスパッタリング装置1は、反応炉7の内周面に沿って配置された複数のターゲット2の構成原子が互いに異なること以外は、実施形態5と同様の態様である。本態様も例えば実施形態4と同様にSi,Ti,Alを各々構成元素とするターゲット2a,2b,3cが配置される。
【0066】
以上のスパッタリング装置1によれば、反応スパッタリングガス(Ar)に添加する酸化性ガスを濃度90%以上の高純度オゾンガスにすることで、酸化能力を上げて、成膜された金属酸化膜の酸素欠損を抑制できる。特に、実施形態4と同様に、光の透過度を損なうことなく、異なる金属酸化膜を多層に形成することができる。
【0067】
[実施形態7]
図8に示された実施形態7のスパッタリング装置1は、実施形態2の態様において、仕切り部材41及び案内部材44に代えて、散気管50を備える。
【0068】
散気管50は、オゾンガス供給管43に連結される円形配管を成し、基板3の近傍位置にて基板3の周縁に沿って配置され、前記オゾンガスを散気管50の軸心に向けて散気する散気孔501が形成されている。
【0069】
また、図9に示したようにこの散気管50には、補助散気管51がさらに備えられる。補助散気管51は、基板3の径方向に並列に複数配置され、基板3の表面に向けて前記オゾンガスを散気する散気孔511が複数形成されている。補助散気管51の散気孔511と基板3との距離d及びターゲット2と基板3との距離Dとの関係は(d/D)<0.3(但し、d<反応炉4内のガス分子の平均自由行程MFP)である。また、複数の補助散気管51の散気孔511の間隔eは、平均自由行程MFP<e<(2×平均自由行程MFP)に設定される。
【0070】
以上のd<平均自由行程により、実施形態2の効果に加えて、他の分子と衝突(反応)せずにオゾン分子を基板3の表面に到達させることができる。また、(d/D)<0.3により、オゾン分子がターゲット2の表面に到達するので、ターゲット2の表面の酸化を防止できる。さらに、平均自由行程MFP<e<(2×平均自由行程MFP)により、基板3の表面へ到達するオゾン分子量の均一化が図られる。
【符号の説明】
【0071】
1…スパッタリング装置
2,2a,2b,2c…ターゲット
3…基板
4…反応炉
6…マグネトロンスパッタ電源
10…ガス上流空間、11,12…導入空間、13…ガス下流空間
41…仕切り部材、42…Arガス供給管、43…オゾンガス供給管、44…案内部材
7、71,72…滞留空間、73…排気空間、仕切り部材74
8…回転支持台
9…シャワーヘッド
50…散気管、501…散気孔
51…補助散気管、511…散気孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9