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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142803
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】植物育成システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20241003BHJP
   A01G 27/00 20060101ALI20241003BHJP
   G01F 23/263 20220101ALI20241003BHJP
   G01N 27/22 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A01G7/00 603
A01G27/00 504B
G01F23/263
G01N27/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055138
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】508244500
【氏名又は名称】株式会社ランテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100158229
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 恒雄
(72)【発明者】
【氏名】江尻 充宏
(72)【発明者】
【氏名】杉山 博一
【テーマコード(参考)】
2F014
2G060
【Fターム(参考)】
2F014EA00
2G060AA15
2G060AC01
2G060AD07
2G060AF10
2G060AG03
2G060AG11
2G060CA05
(57)【要約】
【課題】本発明は、植物に損傷を与えることなく、植物の体内水分動態を直接的に電気容量として測定し、測定された静電容量を相対茎容量に変換することにより、灌水のタイミングと水分量を連動させて、最適な状態で植物を育成できる植物育成システムを提供することを目的としている。
【解決手段】茎内水分量信号を出力する水分測定装置と、茎内水分量を記録するデータロガーと、植物への給水を行う灌水装置と、茎内水分量に応じて灌水装置で植物へ給水する灌水量の制御を行う監視制御装置とを備え、水分測定装置は、植物の茎部に挟んで周囲にセットし、茎内水分量を電気的に容量で測定し、容量に応じた電気信号を出力すること、監視制御装置は、水分測定装置で測定された電気信号の最大値と最小値から相対茎容量に変換し、相対茎容量から灌水装置を制御して灌水を行う植物育成システムである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
茎内水分量信号を出力する水分測定装置と、
前記茎内水分量を記録するデータロガーと、
植物への給水を行う灌水装置と、
前記茎内水分量に応じて前記灌水装置で植物へ給水する灌水量の制御を行う監視制御装置と、
を備え、
前記水分測定装置は、植物の茎部を挟んで周囲にセットし、茎内水分量を電気的に容量で測定し、容量に応じた電気信号を出力すること、
前記監視制御装置は、前記水分測定装置で測定された電気信号の最大値と最小値から相対茎容量に変換し、前記相対茎容量から前記灌水装置を制御して灌水を行うこと、
を特徴とする植物育成システム。
【請求項2】
前記水分測定装置は、水分センサ部と水分センサ制御部から構成され、
前記水分センサ部は、2枚の絶縁板で挟まれた電極を一定距離隔てて対向して配置し、前記電極の外側に接地されたシールド板が設けられていること、
前記水分センサ制御部は、基板の裏面に容量ディジタルコンバータが設けられていること、
一対の前記電極と前記容量ディジタルコンバータは、前記基板とともにシールド材で覆われていること、
特徴とする請求項1に記載の植物育成システム。
【請求項3】
前記絶縁板で挟まれた前記電極と前記シールド板を一体として形成した電極部を、基板上に対抗して配置し、少なくとも前記電極部の一方が移動可能であること、
を特徴とする請求項2に記載の植物育成システム。
【請求項4】
さらに、太陽の日射量を測定する日射センサと、土壌の電気伝導度、体積水分率と温度を測定する土壌センサと、大気中の温度と湿度を測定する温湿度センサとを備えたこと、
を特徴とする請求項1に記載の植物育成システム。
【請求項5】
前記水分測定装置にデータロガーを備え、前記茎内水分量信号は前記データロガーに記録されていること、
を特徴とする請求項1に記載の植物育成システム。
【請求項6】
前記灌水装置は、
吸液材の一部が内部に配置され、前記吸液材により吸水される灌水用の水を貯留する貯留容器と、
少なくとも一対の電極、前記電極を支持する支持部材、前記電極の周囲を覆うように設けられる絶縁部材、並びに前記支持部材及び前記絶縁部材で覆われた電極を覆うように設けられた防水部材からなり、前記貯留容器と連通しており、前記電極間における静電容量を測定して前記貯留容器の水位を検出する水位センサ部と、
前記貯留容器及び前記水位センサ部へ水を供給する導管を開閉するバルブ部材と、
を備えていること、
を特徴とする請求項1に記載の植物育成システム。
【請求項7】
前記バルブ部材は、前記水分測定装置により検出された植物体内の前記相対茎容量が少なくなる時に開放され、前記水分測定装置により検出された植物体内の前記相対茎容量が少ない状態から多くなった時に閉じられること、
を特徴とする請求項6に記載の植物育成システム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の茎における水分量を測定して最適な灌水を行う植物育成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
植物の生体情報を取得してその育成状況を診断した結果に基づいて栽培環境を最適に制御する技術はSPA(Speaking Plant Approach)技術と呼ばれ、近年の計測機器の発達により、SPA技術の農作物生産現場への導入が急速に進みつつある。
【0003】
SPA技術による植物育成システムでは、植物の生体情報をいかに取得するかが重要な要素であり、従来からいろいろな技術が公開されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、新梢末端や果柄等の植物細部内を流れる水分動態を測定することができる植物水分動態センサが開示されている。温度センサとヒータとが設けられたヒータ付温度プローブと、温度センサが設けられた温度プローブと、電気抵抗測定用電極が設けられた電気抵抗プローブと、各プローブを平行に並べた状態で支持する支持部とを備える。電気抵抗プローブで測定された電気抵抗から導管の位置を検出できるので、温度センサを師管または導管の位置に正確に配置することができる。そのため、植物の水分動態を精度よく測定することができる。
【0005】
特許文献2には、被測定対象物に含有される水分をその被測定対象物の外方から非接触で測定することのできる水分測定装置と、その水分測定装置により、土壌の水分状態を正確に検出し、その検出された水分状態に対応した的確な灌水量で、土壌に対する灌水を制御する土壌潅水システムが開示されている。灌水チューブにて輸送された輸液は、ドロップポイントへと滴下される。ドロップポイントを中心とする測定エリアにおいて、各水分センサは、各測定点の赤外線強度を検出する。検出された赤外線強度から水分センサ装置で土壌の表面温度が算出されると共に、外気温度との温度差が求められる。そして、その温度差から値と水分量とが算出される。メイン制御装置は、算出された値と水分量とに基づいて灌水量を制御する。
【0006】
特許文献3には、人の情報も取り入れながら、楽しく植物育成システムとコミュニケーションを取ることが可能であり、植物の育成にとって必要な要素をできる限り効率よく植物に与えることが可能な植物育成システムが開示されている。
【0007】
人及び植物に関する環境を測定するセンサを備えた植物育成システムであって、植物の育成に必要な光の照度を測定する照度測定センサと、植物の育成に必要な水分を測定する水分量測定センサと、植物が載置される環境の温度を測定する温度測定センサと、人の存在を検知する人検知センサと、全ての各センサの測定データの取得周期を異ならせてデータを取得するコンピュータとを備えている。
【0008】
特許文献4には、育成中の維管束植物の健全性を診断する植物診断方法及び植物診断装置が開示されている。AEセンサの出力信号に基づいて、維管束植物のキャビテーションにより発生するアコースティック・エミッションを検出し、サンプリング時間当たりの検出頻度を示すAEデータを生成するAEデータ生成部と、維管束植物の周期的な活動リズムを示すリズムパターンを予め保持するリズムパターン記憶部と、AEデータ及びリズムパターンに基づいて、維管束植物の活動度を算出する活動度算出部とを備えている。
【0009】
特許文献5には、土壌状態検出センサによる灌水時の制御の適正化を図った灌水システムが開示されている。灌水システムは、通信可能な複数の土壌状態検出センサと、灌水用パイプに取り付けられた複数のバルブと、複数の土壌状態検出センサと通信を行なうと共に複数のバルブを駆動制御する制御装置と、を備える。複数の土壌状態検出センサは、設定された通信間隔で制御装置に通信要請を行なうことにより制御装置と通信を行なう。制御装置は、所定時間内に灌水が行なわれると予測したときには、その後で最初に複数の土壌状態検出センサと通信を行なったときに通信間隔を灌水が行なわれると予測した以前より短く設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015-145810号公報
【特許文献2】特開2006-275615号公報
【特許文献3】特開2022-073419号公報
【特許文献4】特開2019-075995号公報
【特許文献5】特開2020-099217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般に、生物の生命活動は、概日リズムと呼ばれる24時間周期のリズムを有している。ほとんどの維管束植物は昼間に蒸散を行い、24時間周期で変動し、昼間に最大値を示すと考えられる。蒸散と維管束植物の正常な生体リズムとの関係性を利用することにより、維管束植物の健全な成長を促すことができる。
【0012】
植物の育成状態を把握するには、植物の樹液流量を直接測定することが重要である。蒸散は、植物の樹液流量に直接関係するからである。特に、作物や果樹等の生産性および品質を向上させる上では、植物の新梢末端や果柄等、作物や果樹等の近傍に位置する太さが数mm程度の植物細部中の水分の動き(つまり水分動態)を測定することが極めて重要である。また、植物の水分動態を測定する際には、センサの設定で植物にストレスを与えたり傷つけたりしないことも極めて重要である。
【0013】
さらに、植物の蒸散にともなう適正な水分補給、即ち、灌水のタイミングと灌水量の適性化は植物の成長に欠かせない要素である。
【0014】
しかしながら、特許文献1で使用されている植物水分動態センサは、電気抵抗測定用電極および温度センサを植物へ突き刺して測定する。このため、植物に損傷を与えてしまう。
【0015】
特許文献2及び特許文献3における水分動態センサは、土壌の水分量を測定しており、植物細部中の水分動態を測定するものではない。
【0016】
特許文献4においては、木部内に発生する微少な泡によるキャビテーション(空洞形成)を利用している。維管束植物の蒸散により、木部に圧力変化が生じて微少な泡が発生する現象が、キャビテーションであり、キャビテーションに起因して生じる振動波がアコースティック・エミッションである。このアコースティック・エミッションは、検出が難しくノイズも大きい。さらの、直接植物体内の水分動態を検出したものではなくは、キャビテーション現象を介しての間接的な信号である。
【0017】
特許文献5においては、植物体内の水分状態は検出しておらず、土壌の水分状態を検出しているため、植物の成長とは直接的に関連しない。
【0018】
本発明は、植物に損傷を与えることなく、植物の体内水分動態を直接的に電気容量として測定し、の測定された静電容量を相対茎容量に変換することにより、灌水のタイミングと水分量を連動させて、最適な状態で植物を育成する植物育成システムを提供することを」目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の技術事項を提案している。
【0020】
(1)茎内水分量信号を出力する水分測定装置と、茎内水分量を記録するデータロガーと、植物への給水を行う灌水装置と、茎内水分量に応じて灌水装置で植物へ給水する灌水量の制御を行う監視制御装置とを備え、水分測定装置は、植物の茎部に挟んで周囲にセットし、茎内水分量を電気的に容量で測定し、容量に応じた電気信号を出力すること、監視制御装置は、水分測定装置で測定された電気信号の最大値と最小値から相対茎容量に変換し、相対茎容量から灌水装置を制御して灌水を行う植物育成システムである。
【0021】
(2)水分測定装置は、水分センサ部と水分センサ制御部から構成され、水分センサ部は、2枚の絶縁板で挟まれた電極を一定距離隔てて対向して配置し、電極の外側に接地された静電シールド板が設けられていること、水分センサ制御部は、基板の裏面に容量ディジタルコンバータが設けられていること、一対の前記電極と前記容量ディジタルコンバータは、基板とともにシールド材で覆われていること、が好ましい。
【0022】
(3)絶縁板で挟まれた電極とシールド板を一体として形成した電極部を、基板上に対抗して配置し、少なくとも電極部の一方が移動可能であること、が好ましい。
【0023】
(4)さらに、太陽の日射量を測定する日射センサと、土壌の電気伝導度、体積水分率と温度を測定する土壌センサと、大気中の温度と湿度を測定する温湿度センサとを備えていることが好ましい。
【0024】
(5)水分測定装置にデータロガーを備え、茎内水分量信号はデータロガーに記録されているこが好ましい。
【0025】
(6)灌水装置は、吸液材の一部が内部に配置され、吸液材により吸水される灌水用の水を貯留する貯留容器と、少なくとも一対の電極、電極を支持する支持部材、電極の周囲を覆うように設けられる絶縁部材、並びに支持部材及び絶縁部材で覆われた電極を覆うように設けられた防水部材からなり、貯留容器と連通しており、電極間における静電容量を測定して貯留容器の水位を検出する水位センサ部と、貯留容器及び水位センサ部へ水を供給する導管を開閉するバルブ部材と、を備えていることが好ましい。
【0026】
(7)バブル部材は、水分測定装置により検出された植物体内の相対茎容量が少なくなる時に開放され、水分測定装置により検出された植物体内の相対茎容量が少ない状態から多くなった時に閉じられることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、植物に損傷を与えることなく、植物の体内水分動態を直接的に電気容量として測定し、灌水のタイミングを連動させて、最適な状態で植物を育成できる植物育成システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明による植物育成システムAの説明図である。
図2】本発明による植物育成システムAに、さらに日照センサ5,土壌センサ6と温湿度センサ7を設けた植物育成システムBである。
図3】水分測定装置10の構成を示す図である。
図4】本発明の水分測定装置10を使用して、植物の静電容量を測定する状態を示している。
図5】水分センサモデル70と水分センサ等価回路モデル72を示している。
図6】植物を育成する容器下部からの潅水装置4である。
図7】植物の光合成と水分量の変化30を説明する図である。
図8図7の茎34のX-Y断面を示している。
図9】概日リズムを説明するための概念図である。
図10】1日(24時間)の太陽光の光強度の例を示している。
図11】相対茎容量の値を算出するためのグラフである。
図12】測定された容量値を相対茎容量Crに変換するためのグラフである。
図13】試作した水分測定装置10を示している。
図14】水分測定装置10に被測定植物26をセッティングした状態を示している。
図15】実用化した水分測定装置10の水分センサ部75を、トマトの茎に取り付けた状態を示している。
図16】実用化した植物育成システムBにおいて、実際にトマトの茎82に水分測定装置10を取り付けた状態を示している。
図17】快晴の日に、トマトの茎の相対茎容量Cr(%)を測定した例である。
図18】曇りの日のトマトの茎の相対茎容量Crを測定した例である。
図19】雨の日のトマトの茎の相対茎容量Crを測定した例である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、最適な状態で植物を育成できる植物育成システムである。以下図面を参照しながら、本発明について説明する。なお、本実施形態における構成要素は適宜、既存の構成要素等との置き換えが可能であり、また、他の既存の構成要素との組合せをする様々なバリエーションが可能である。従って、本実施形態の記載をもって、特許請求の範囲に記載された発明の内容を限定するものではない。
【0030】
図1は、本発明による植物育成システムA1の説明図である。茎内水分量信号を出力する水分測定装置10と、茎内水分量を記録するデータロガー3と、植物への給水を行う灌水装置4と、茎内水分量に応じて灌水装置4で植物へ給水する灌水量の制御を行う監視制御装置2とを備え、水分測定装置10は、水分センサ部75と水分センサ制御部76とから構成され、水分センサ部75は植物の茎部を挟んで周囲にセットし、茎内水分量を電気的に容量で測定し、容量に応じた電気信号を出力する植物育成システムである。
【0031】
植物の水分測定装置10は、植物の導管を通って流れる水分の変化を、静電容量として電気信号に変換する。植物へのセッティングは、水分測定装置10に備えられている水分センサ部75の2個の電極で茎を挟めばよく、植物にストレスを与えたり損傷させたりすることが全くない。これが、本システムの特徴の一つである。水分の変化を表す静電容量は微小であり、フェムトファラッド(10-15)レベルの静電容量である。このため、ノイズの発生は最小限に抑える必要がある。
【0032】
植物の水分測定装置10は、データロガー3を備えている。データロガー3は、水分測定装置10で測定した茎内水分量を電気信号として記憶する記録装置である。茎内水分量の測定は、一定周期でのサンプリングで行うが、連続的な信号を記録しておくこともできる。なお、水分測定装置10の詳細については、後述する。
【0033】
灌水装置4は、水分測定装置10の出力信号に応じて、灌水装置4に備えられている給水バルブを開閉して灌水を行う。水分測定装置10の出力信号は、茎内水分量の時間変化であり、茎内水分量が下降している場合には灌水装置4の給水バルブを開放し,茎内水分量が上昇している場合には灌水装置4の給水バルブが閉じられる。
【0034】
監視制御装置2は、水分測定装置10から出力されるデータを基に、茎内水分量を、後述する相対茎容量として算出する。相対茎容量は、含水率ともいえる。この相対茎容量の変化に対して、潅水装置4を制御する。即ち、相対茎容量が下降している場合には灌水装置4の給水バルブを開放し、相対茎容量が上昇している場合には灌水装置4の給水バルブを閉じる。
【0035】
図2は、本発明による植物育成システムAに、さらに日照センサ5,土壌センサ6と温湿度センサ7を設けた植物育成システムBである。日照センサ5,土壌センサ6と温湿度センサ7により、環境条件を加えて、育成している植物に合わせた適正な潅水を行わせることができる。例えば、トマトの栽培で、果実が成長するときに、日照センサ5,土壌センサ6と温湿度センサ7の情報を基に、潅水量を下げて、甘みを増す等の育成方法をとることもできる。
【0036】
さらには、育成植物の情報を基本データとして使用し、水分測定装置10,日照センサ5,土壌センサ6と温湿度センサ7のデータを併せてAIを活用して最適な潅水を行い、育成植物の最適な育成を可能とすることができる。これらの制御は、監視制御装置2により行われる。
【0037】
次に、水分測定装置10について説明する。
【0038】
図3は、水分測定装置10の構成を示す図である。水分測定装置10は、水分センサ部75と水分センサ制御部76から構成されている。水分センサ部75の電極16-1と電極16-2に挟まれた領域はキャパシタを形成するが、この静電容量に電圧を印加して蓄えられる電荷から静電容量を求めるのが測定原理である。
【0039】
しかしながら、植物の水分量は少なく、微小な静電容量を測定するためには、電極に発生するノイズを最小限に抑えなければならない。このため、本発明では、導電性の平板形状の電極16-1を絶縁板A14-1と絶縁版B18-1で挟んでいる。一定距離を隔てて対向した位置に配置する電極16-2も同様に、絶縁板A14-2と絶縁版B18-2で挟んでいる。この構造により、電極16-1と電極16-2におけるノイズの発生を防止している。絶縁版B18-1と絶縁版B18-2は、対向した向きに配置している。
【0040】
絶縁板A14-2と絶縁版A14-2の外側には、シールド板12-1とシールド板12-2を設けている。シールド板12-1は、絶縁版14-1と一定の空間を置いて配置されている。シールド板12-2の同様に、絶縁版14-2と一定の空間を置いて配置されている。さらに、シールド板12-1とシールド板12-2を接地している。シールド板12-1とシールド板12-2は、導電性の金属板であり、外部からのノイズを遮断している。
【0041】
シールド板12-1、絶縁板A14-1と絶縁板B18-1(アクリル板)に挟まれた電極16-1は、基板20に固定されている。シールド板12-2、絶縁板A14-2と絶縁板B18-22に挟まれた電極16-2も同様に、基板20に固定されている。これらを固定することにより、微小な振動によるノイズの発生を防止する。
【0042】
絶縁板B18-1と絶縁板B18-2は、アクリル板の絶縁体を使用する。電極16-1と電極16-2は金属板で形成される。
【0043】
基板20の裏面には、容量ディジタルコンバータ24を設けている。容量ディジタルコンバータ24は、電極16-1と電極16-2の間の静電容量をディジタル信号に変換する機能を備えている。電極16-1と電極16-2を、容量ディジタルコンバータ24に接続するのは、基板20を介して設けられたビア22である。ビア22は、基板20にホールを設けて導電性材料で埋め、電極16-1と電極16-2、を最短距離で容量ディジタルコンバータ24に接続している。勿論、基板20に設けたホールを介してリード線で接続してもよい。
【0044】
容量ディジタルコンバータ24は、測定対象となる電極16-1と電極16-2間に蓄積された電荷を測定するが、励起信号として矩形波を用いた励起用ソースと、ΣΔモジュレータの入力を、電極16-1と電極16-2に接続する。矩形波の印加により蓄積された電荷を、ΣΔモジュレータでサンプリングして、静電容量を求め、ディジタル化する。印加電圧V、蓄積電荷Qと静電容量Cは、Q=C・Vの関係があるから。静電容量Cは、C=Q/Vで求められる。得られた静電容量Cをディジタル化した信号で制御部に送り、制御部ではデータ処理が行われる。
【0045】
以上説明したように、本発明の水分測定装置は、電極でのノイズの発生を防止し、外部からのノイズを遮断するとともに、測定された静電容量をディジタル化して、水分測定装置から送信するので、ノイズの影響を最小限に抑えることができる。このため、高精度に静電容量が測定できるので、植物の水分による静電容量が微小であっても測定可能となる。
【0046】
図4は、本発明の水分測定装置10を使用して、植物の静電容量を測定する状態を示している。図4(A)は側面を模式的に示した断面図であり、図4(B)は平面を模式的に示した図である。被測定植物26は、絶縁板B18-1と絶縁板B18-2の間の空間に置かれる。本発明の水分測定装置10は、植物の茎に設置して、茎の水分量の変化を測定することを想定しているから、水分測定装置10の絶縁板B18-1と絶縁板B18-2の間の空間に植物の茎を挟むように、茎の横からセットする。図4(B)に示した様に、茎の一部に、本発明の水分測定装置がセッティングされる。水分測定装置10は、植物の茎の導管、師管を流れる水分量の変化を、静電容量として測定する装置であるが、導管、師管に流れる水分量は、植物の光合成や呼吸等に依存して変化する。
【0047】
電極間距離は、被測定植物26に対応して任意に設定できるようにしてもよい。一方の電極を移動可能として、任意の位置に固定するようにしてもよい。電極を移動する場合、例えば、電極16-2を移動する場合は、絶縁板B18-2と絶縁板A14-2及びシールド板12-2を一体として移動させる。ノイズの影響を少なくするためである。
【0048】
図5は、水分センサモデル70と水分センサ等価回路モデル72を示している。測定装置10での測定は、電極16-1と電極16-2の間の静電容量の測定であり、この静電容量に直接関係する部分は、電極16-1、絶縁板B18-1、絶縁板B18-2と電極16-2であり、この部分を水分センサと呼ぶことにする。図5は、水分センサに被測定植物26を置いた状態のモデルである。絶縁板B18-1の厚さをdi1、絶縁板B18-1と被測定植物26の距離をda1、被測定植物26と絶縁板B18-2との距離をda2、絶縁板B18-1の厚さをdi2とした。
【0049】
この場合の水分センサ等価回路モデル72は、電極16-1と電極16-2は、等価抵抗Re1と等価抵抗Re2である。絶縁板B18-1と絶縁板B18-2の対抗する面の面積をSとし、真空の誘電率をε、絶縁板B18-1と絶縁板B18-2の被誘電率をεとすれば、絶縁板B18-1の等価キャパシタンスCi1は、Ci1=εεS/di1、絶縁板B18-2の等価キャパシタンスCi2は、Ci2=εεS/di2となる。絶縁板B18-1と被測定植物26との距離をda1とすれば、等価キャパシタンスCa1は、Ca1=εS/da1となる。
【0050】
また、絶縁板B18-2と被測定植物26との距離をda2とすれば、等価キャパシタンスCa2は、Ca2=εS/da2となる。被測定植物26は、維管束56を通過する水分によるキャパシタンスをC、水分以外の基本組織や表皮によるキャパシタンスをCとした。被測定植物26がカバーしていない電極間空間は、被測定植物26のキャパシタンスとの並列接続となるが、ここでは考慮していない。
【0051】
これより、水分センサ等価回路モデル72は、図5に示したように、各等価抵抗と各等価キャパシタンスが直列接続された等価回路モデル72となる。電極16-1と電極16-2は導電性の金属を使用するため、等価抵抗Re1と等価抵抗Re2は非常に小さく、無視できる程度である。このため、実質的に電極間の静電容量の測定が可能である。
【0052】
植物の水分によるキャパシタンスC以外は一定の値に固定されたキャパシタンスである。このため、測定された静電容量の変化は、即ち水分量の変化である。水の比誘電率は約80であり、植物の比誘電率は5~10程度と言われている。トマトの葉では比誘電率が2~4という報告もある。水の比誘電率が植物の比誘電率よりも極めて大きいため、水分量が少なくても静電容量の測定が可能となっている。
【0053】
上記潅水装置4は、植物が育成されている土壌の上からの潅水であるが、容器で育成している場合は、容器の下部から吸液材介しての潅水が可能である。以下、容器下部からの潅水装置4ついて説明する。
【0054】
図6は、植物を育成する容器下部からの潅水装置4である。灌水装置4は、吸液材112の一部が内部に配置され、吸液材112により吸水される灌水用の水を貯留する貯留容器110と、一対の電極122,124、及び、一対の電極122,124を支持する支持部材120を備えた水位センサ部130から構成されている。貯留容器110の上部には、土壌114を入れて植物を育成する栽培領域が設けられている。貯留容器110及び水位センサ部130へ水を供給する導管は、開閉するバルブ部材126を備えている。
【0055】
栽培領域は、植物が栽培可能であれば、形状、深さ、大きさなどを特に限定されるものではなく、貯留容器110を用いる場合、陶器製や樹脂製の鉢や箱などを適宜用いてよい。
【0056】
土壌114としては、植物の育成が可能なものであれば適宜採用することができる。例えば、木材の皮を粉砕した人工土、自然土などのほか、プランター用の土などの市販のものや、これらに任意に肥料などを調合したものであってもよい。
【0057】
吸液材112は、植物に対して底面給水により灌水するためのものであり、水116を吸収可能な材料からなるものであれば特に限定されずに使用することが可能であり、織布、不織布などの吸液布などを適宜使用することができ、市販のものを適宜使用可能である。織布、不織布としては、綿、絹、麻などの各種天然繊維や、ポリエステルなどの各種の合成繊維からなるものを用いることができる。そのほかにも、吸液材112は、ウレタン、紙、セラミックスなどを適宜使用してもよい。
【0058】
貯留容器110には、栽培領域内に、植物の根が吸液材112に達することを抑制する防根透液シートが吸液材112の上に敷設されてもよい。防根透液シートが敷設されていることで、植物の根が吸液材112よりも下方に伸長しないようにすることが可能となりつつ、吸液材112から土壌114への水116の拡散を維持することができる。防根透液シートには、市販の防根透液布などを適宜用いることができる。また、例えば、防根透液シートとしては、スパンボンド不織布などを使用することができる。
【0059】
水116は、水を含む水溶液であってもよい。水116は、液肥などのミネラル成分を含む養液であることが好ましい。水116は、水道水、雨水、井戸水など、植物の育成に使用可能であれば、特に限定されるものではない。
【0060】
水位センサ部130は、さらに水位制御部128を備えている。貯留容器110は、灌水用の水116を一時的に貯留するためのもので、吸液材112の一部が内部に配置され、少なくとも一部が貯留された水116に浸った状態を維持することができるように構成されている。貯留容器110としては、水116が一時的に貯留することができるとともに、吸液材112の一部が水116に浸った状態を維持することができればよく、その構成は限定されない。例えば、本実施の形態の貯留容器110は、上面が全面的に開口した容器を用いているが、上面が部分的に開口したものでもよいし、又は吸液材112の一部が容器内に配置可能であれば、蓋等をしてもよい。
【0061】
水位センサ部130は、貯留容器110に貯留されている水116の水位を測定するためのもので、貯留容器110よりも上側であって、水116の水位Lの下側に位置するように設置されており、導管ばから水116がバルブ126の開放時に、水位センサ部130及び貯留容器110内に流入するように構成されている
【0062】
水位センサ部130は、一対の電極122,124を備え、電極間における静電容量を測定して水位検出信号(アナログ信号)をA/D変換部を有する水位制御部128に出力する。水位制御部128は、監視制御部2(図示せず。)に接続されている。図6に示すように、一対の電極122,124は、導電性を有する棒状の部材からなり、例えば銅、鉄などのような金属、ステンレス(SUS)などのような合金から形成されているが、これらの材料に限定されるものではなく、従来から公知の導電性を有するものを任意に選択して、適宜使用することができる
【0063】
図7は、植物の光合成と水分量の変化30を説明する図である。植物の光合成は、葉32に存在する葉緑素が、光によるエネルギーで空気中の二酸化炭素COと根36から吸い上げた水分を使って、酸素Oと糖分(炭水化物)をつくる働きである。この糖分が植物の生長のエネルギーとなる。一方、植物は呼吸をしており、空気中の酸素を取り込んで二酸化炭素を排出しながら糖を利用して燃焼させ、生長のエネルギーを得ている。光合成に使われる水分は、根36から植物の茎34にある木部52の導管を通して葉に運ばれる。光合成でできた糖分を含む水溶液は、篩部54を通して移動する。
【0064】
さらに葉32では、根36からの水分が葉から水蒸気となって出ていく蒸散作用が働いており、吸収した水の90%は蒸散により放出されると考えられている。蒸散の目的は、根36からの水分を吸収促進、水分量の調節、葉32の温度の調節、水に溶けた養分を葉に届け、不要な水を捨てる役目がある。
【0065】
図8は、図7の茎34のX-Y断面を示している。植物の組織は、維管束56、基本組織60と表皮62から成っている。表皮62は、植物の表面を覆う組織であり、植物の保護と物質の出入りを調節している。維管束56は、円形上の維管束形成層58にあり、木部52と篩部54から成っている。木部52は、導管と仮導管からなり、導管は土壌から吸収した水分が上昇する円柱形の官で、細胞を仕切る細胞壁が死んでしまうことで形成される。仮導管は、細胞を仕切る細胞壁が残り、水分は、細胞壁を透過して移動する。
【0066】
篩部54は、光合成でできた糖分を含む水溶液が移動する通路である。列を作っている細胞が空洞化して篩官が形成される。細胞が完全になくなるわけではなく、細胞質が残って小孔が多数存在している状態である。篩官の集まった部分が篩部54である。
【0067】
このように、茎34で測定される水分量は、木部52と篩部54を通過する水分量である。この水分量は、光合成と呼吸に依存し、太陽光の影響を受けることになる。このため、植物は、24時間を単位とする概日リズムにより生長している。
【0068】
図9は、概日リズムを説明するための概念図である。時間に対する植物活性の強さを表しており、体内時計の存在に依存している。植物は、開花だけでなく、気孔の開閉や葉茎の伸長、光合成の活性といった現象も体内時計の制御を受けている。植物は、太陽が出ている時間帯に合わせて光合成を活発に行えば、効率的に生長ができるので、日の出前からその準備をしている。また、夜間の冷え込みに備えて、自ら低温ストレス耐性を高める植物もある。
【0069】
さらに、植物の体内時計は一日の時間の流れだけでなく、季節の認識も関与し、春や秋に咲く花のなかには、日照時間の変化を感知しているものがある。外部から受ける光刺激の時間的な変化を認識するためには、植物自身が物差しとしての時計を持っていなければならず、植物は体内時計が刻む概日リズムと、外部環境の変化とを照らし合わせることで、季節の変化を感知し生長している。
【0070】
図10は、1日(24時間)の太陽光の光強度の例を示している。晴れた日の太陽光(晴れ)66の光強度と、雨の日の太陽光(雨天)68の光強度である。晴れた日中の光強度は強く、雨の日は日中でも光強度が弱い。このような光強度の違いは光合成に影響し、茎での水分量も光強度に伴って変化すると考えられる。
【0071】
次に、水分測定装置10で測定された容量値を含水率に対応する相対茎容量値を算出する方法ついて説明する。
【0072】
図11は、相対茎容量の値を算出するためのグラフである。縦軸は水分測定装置10で測定された容量値(fF)、横軸は1日分の時間(h)である。ここで、
Cmax :測定された0時から24時までの最大容量値
(測定時は、常に最大容量値を更新する。)
Cmin :測定装置がオープン時(植物の茎を挟まない状態)の容量値
Cx :測定時刻における容量値
Cr(%):相対茎容量
として、相対茎容量Cr(%)は、
Cr={(Cx-Cmin)/(Cmax-Cmin)}×100(%)
で算出する。
【0073】
図12は、測定された容量値を相対茎容量Crに変換するためのグラフである。図12においては、測定された0時から24時までの最大容量値Cmaxは、809fFであり、測定装置4がオープン時(植物の茎を挟まない状態)の容量値Cminは、426fFである。このため、測定時刻における相対茎容量Cr(%)は、測定時刻における容量値Cxを用いて以下のように算出できる。
Cr(%)={(Cx-Cmin)/(Cmax-Cmin)}×100
={(Cx-426×10-12)/383×10-12}×100
(実施例)
【0074】
実施例として、水分測定装置と、この水分測定装置を用いた植物育成システムについて説明する。
【0075】
図13は、試作した水分測定装置10を示している。水分測定装置10は、水分センサ部76と水分センサ制御部76とから構成されている。水分センサ部76は、銅メッキされたエポキシ樹脂のプリント板を使用し、銅メッキ部を電極とし、基板となるエポキシ樹脂部は、絶縁板Bとした。エポキシ樹脂の比誘電率は、2.5~6である。この銅メッキ面に、絶縁板Aとしてアクリル板を貼付して絶縁板に挟まれた電極を形成した。シールド板は、アルミ板を使用した。電極平面は約20mm×30mmで、絶縁板Aと絶縁版Bの厚さは2~3mmである。測定空間(絶縁板B18-1と絶縁板B18-2の間の距離)は15mmの幅とした。シールド板は、絶縁板Aの後方に、約7mmの空間を設けて設置した。水分測定装置10を囲むシールドシート74は、アルミコーティングシートを利用した。
【0076】
水分測定装置10に設けられている容量ディジタルコンバータからの出力は、4芯ケーブルを介して水分センサ制御部76に送られる。水分センサ制御部76では、容量ディジタルコンバータからの出力をリアルタイムで静電容量に変換して表示部に表示する。さらに、静電容量を測定ずるサンプリング周期は任意に設定でき、一定時間ごとの静電容量を測定することもできる。測定した静電容量は、RS232Cケーブルでパソコンに送られ、データの保存や解析が行われる。
【0077】
図14は、水分測定装置10に被測定植物26をセッティングした状態を示している。植物の茎を、水分測定装置10の水分センサ部75に固定用の紐78で縛って固定する。水分測定装置10と被測定植物26は、シールドシート74で囲まれ、外部からのノイズの影響を抑止している。
【0078】
図15は、実用化した水分測定装置10の水分センサ部75を、トマトの茎に取り付けた状態を示している。トマトは鉢植えで栽培されている。この鉢植えトマトをプランタンに置き、根に一定の水分補給するようにしている。水分センサ部75は、実用化レベルで改良し、トマトの茎に取り付けている。
【0079】
図16は、実用化した植物育成システムB8において、実際にトマトの茎82に水分測定装置10を取り付けた状態を示している。トマトは温室栽培のトマト栽培施設で栽培されている。このトマトの茎に水分センサ部75を取り付け、測定するトマトの手前に水分センサ制御部76を設置している。水分センサ制御部76は、防水ケースにセットされており、図16には防水ケースのカバーを開いた状態も図示している。その他、図16の外観写真からは見えないが、日射センサ5、土壌センサ6、温度センサ7及び灌水装置4がセットされている。水分測定装置10からのデータは、水分センサ制御部76を通してデータロガー3と監視制御装置2に送信され、データをデータロガー3に保存し、監視制御装置2によりデータ処理や解析が行われる。
【0080】
図17は、晴れた日の日中に、トマトの茎の相対茎容量Cr(%)を測定した例である。温室栽培のトマトで、4月上旬に測定した。温度は20℃前後である。時間帯は、0時~24時の24時間である。サンプリング周期は300mSとした。
【0081】
晴れた日の相対茎容量Crは、図17において夜間の時間領域である(1)の時間領域では、約80%から少しずつ徐々に上昇し、AM8時3分に100%となる高い相対茎容量Crであった。朝の日の出とともに太陽光がトマトに照射され(2)の時間領域では相対茎容量Crが低くなっていく。低下する相対茎容量Crは、10時31分頃に飽和して最小値の45%を記録した。その後、(3)の時間領域ではほとんど相対茎容量Crが変わらず、PM4時49分ごろから再度上昇する。この(4)の時間領域では日の入りが影響し、PM6時33分ごろまで相対茎容量Crが増加し、約75%となった。その後、ゆっくりとした増加傾向となった。
【0082】
トマトの茎の水分量は、蒸散により茎の水分量の吸収速度が速くなり、茎径が縮小し静電容量が少なくなると考えられ、図5で示した水分センサ等価回路モデル72から、静電容量の変化で測定できる。このため、太陽光の照射によりトマトの葉からの水分の蒸散と共に、葉における光合成が活発となり、水分を多く消費するので、根から吸収され、維管束の導管を通して送られる水分量は茎径が縮小し、茎の水分量も少なくなるため、測定される静電容量が低下しているものと考えられる。午後になるとむしろ茎の静電容量が大きくなる傾向であり、水分量が多くなっているのは、光合成は午前中に活発に行われ、午後になると光合成でつくられた糖分を、篩官を通して植物全体に送る作用が活発になり、茎径が膨張し水分量が多くなっていくものと考えられる。
【0083】
この相対茎容量Crに連動して、監視制御装置2により、灌水装置4を制御して灌水を行う。灌水装置4からの灌水量は、(1)の時間領域ではトマトの葉からの水分の蒸散はなく、茎内に水分が保持されている時間帯であり、この状態では灌水の必要はない。(2)の時間領域ではB日の出により太陽光が照射され、日射との関係でトマトの葉において光合成が始まり、葉からの蒸散も開始される。この(2)の時間領域では、灌水量を徐々に増やしていく。
【0084】
(3)の時間領域では、トマトの葉全体に日射が当たり、光合成は最大に達し、同時に葉からの蒸散も最大に達する。このため、灌水はしっかりと行わなければならず、灌水量は最大となる。(4)の時間領域では、日の入りを迎え、太陽光からの日射も弱くなり、太陽は日没する。このため、灌水量を徐々に減らしていき、PM6時33分ごろに灌水を止める。
【0085】
監視制御装置2による、灌水量の制御は、日射センサ6,土壌センサ6及び温湿度センサ7のデータを総合的に利用して制御される。さらにトマトの基本情報をとりいれたAIを適用して灌水量を制御することもできる。
【0086】
図18は、曇りの日のトマトの茎の相対茎容量Crを測定した例である。曇りの日の相対茎容量Crは、図18において夜間の時間領域である(1)の時間領域では、相対茎容量Crは、約77%から少しずつ徐々に上昇し、AM8時ごろに100%近くなる高い相対茎容量Crであった。朝の日の出とともに太陽光がトマトに照射され(2)の時間領域では相対茎容量Crが低くなっていく。しかしながら曇りの日であるため、低下する割合は小さく、相対茎容量Crは、12時1分頃に約77%で一度飽和して、PM2時20分ごろ最小値の70%で再度飽和した。その後、(4)の時間領域では、PM4時4分からPM5時33分ごろまでは相対茎容量Cr急激に増加し、92%となった。その後、相対茎容量Crゆっくりとした増加傾向となり、PM11時29分頃に100%となった。
【0087】
この相対茎容量Crに連動して、監視制御装置2により、灌水装置4を制御して灌水を行う。灌水装置4からの灌水量は、(1)の時間領域ではトマトの葉からの水分の蒸散はなく、茎内に水分が保持されている時間帯であり、この状態では灌水の必要はない。(2)の時間領域では日の出により太陽光が照射され、日射との関係でトマトの葉において光合成が始まり、葉からの蒸散も開始される。この(2)の時間領域では、灌水量を徐々に増やしていくが、相対茎容量Crの低下傾向は緩やかであり、灌水量は少ない。
【0088】
続く(3)の時間領域でも日射が少なく、相対茎容量Crも70~80%と高く、灌水量は少なくてよい。(4)の時間領域では太陽は日没するが、(3)の時間領域における相対茎容量Crが70~80%と高いため、灌水量はPM4時4分ごろに灌水を止めてもよい。
【0089】
図19は、雨の日のトマトの茎の相対茎容量Crを測定した例である。雨の日の相対茎容量Crは、図19において夜間の時間領域である(1)の時間領域、朝の日の出を迎える(2)及び(3)の時間領域、さらには日没となる(4)の時間領域ともに、相対茎容量Crは90%以上である。このため、灌水は必要ない。
【0090】
本発明による植物育成システムをトマトの栽培を例にして説明したが、水分測定装置で、トマトの茎内の微少な水分量の変化を静電容量として測定できた。この測定された静電容量を相対茎容量に変換することにより、灌水のタイミングと量が定量的に把握でき、最適な植物育成システムとして機能した。本発明の植物育成システムは、トマトに限らず、他の植物でも適用可能である。
【0091】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【符号の説明】
【0092】
1 植物育成システムA
2 監視制御装置
3 データロガー
4 灌水装置
5 日照センサ
6 土壌センサ
7 温湿度センサ
8 植物育成システムB
10 水分測定装置
12-1、12-2 シールド板
14-1、14-2 絶縁版A
16-1、16-2 電極
18-1、18-2 絶縁板B
20 基板
22 ビア
24 容量ディジタルコンバータ
26 被測定植物
30 植物の光合成と水分量の変化
32 葉
34 茎
36 根
50 植物の茎断面
52 木部
54 篩部
56 維管束
58 維管束形成層
60 基本組織
62 表皮
64 概日リズム
66 太陽光(晴れ)
68 太陽光(雨天)
70 水分センサモデル
72 水分センサ等価回路モデル
74 シールドシート
75 水分センサ部
76 水分センサ制御部
78 紐
80 測定系
82 トマトの茎
110 貯留容器
112 吸液材
114 土壌
116 水
120 支持部材
122,124 一対の電極
126 バルブ
128 水位制御部
130 水位センサ部



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19