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特開2024-142805個体におけるDNAまたは細胞のキメリズムを決定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142805
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】個体におけるDNAまたは細胞のキメリズムを決定する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6858 20180101AFI20241003BHJP
   C12Q 1/6853 20180101ALI20241003BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C12Q1/6858 Z
C12Q1/6853 Z
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055141
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】仙波 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】野上 順平
(72)【発明者】
【氏名】前田 高宏
(72)【発明者】
【氏名】赤司 浩一
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA17
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR42
4B063QR62
4B063QR66
4B063QR72
4B063QS03
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】個体におけるDNAまたは細胞のキメリズムを決定する方法を提供する。
【解決手段】第一の対象に由来する生体試料において第一の対象に由来する核酸および/または第二の対象に由来する核酸を検出する方法であって、前記生体試料に含まれる各核酸に関して、25種類以上の多型それぞれに関する多型情報を得る工程と、ここで、前記多型は、インデルおよび/またはマイクロハプロタイプを含み、前記多型情報から生体試料に含まれる第一の対象に由来する核酸の存在割合および/または第二の対象に由来する核酸の存在割合を決定する工程とを含む、方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の対象に由来する生体試料において第一の対象に由来する核酸および/または第二の対象に由来する核酸を検出する方法であって、
前記生体試料に含まれる各核酸に関して、25種類以上の多型それぞれに関する多型情報を得る工程と、ここで、前記多型は、インデルおよび/またはマイクロハプロタイプを含み、
前記多型情報から生体試料に含まれる第一の対象に由来する核酸の存在割合および/または第二の対象に由来する核酸の存在割合を決定する工程と
を含み、
前記多型情報を得る工程は、複数種類の増幅断片を得ることを含み、前記複数の増幅断片は、全ての前記多型を含む領域を含み、増幅断片を得ることは、各核酸における各多型を含む領域の一方の末端に、共通するアダプター配列を連結させることと、当該アダプター配列に対するプライマーと前記領域の他端に位置する増幅断片に固有の配列に対するプライマーを用いて前記領域を含む各増幅断片を得ることを含み、
第一の対象と第二の対象は、同種異系の関係を有し、
前記決定する工程は、各核酸における各多型を含む領域の配列が、前記2種類の配列のいずれに類似度が高いかを決定し、これにより、第一の対象に由来する核酸の存在割合および/または第二の対象に由来する核酸の存在割合を決定することを含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記第一の対象が、前記第二の対象に由来する細胞の移植を受けた経験を有する、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、前記第一の対象が、造血器腫瘍の治療において、前記第二の対象に由来する造血幹細胞の移植を受けた経験を有し、前記決定する工程が、第一の対象に由来する核酸の存在割合を決定することを含む、方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法であって、前記第一の対象が、前記第二の対象に由来する間葉系幹細胞の移植を受けた経験を有し、前記決定する工程が、第二の対象に由来する核酸の存在割合を決定することを含む、方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法であって、前記25種類以上の多型が、30種類以上のインデルを含む、方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法であって、核酸が、セルフリーDNAである、方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法であって、核酸が、細胞内DNAまたはRNAである、方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法であって、決定する工程が、多型情報から生体試料に含まれる第一の対象に由来する核酸、第二の対象に由来する核酸、および、第三の対象に由来する核酸からなる群から選択される1つ、2つまたは3つの核酸の存在割合を決定することを含み、第一の対象、第二の対象、および第三の対象はそれぞれ、他の対象と同種異系の関係を有する、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、前記第一の対象が、前記第二の対象に由来する細胞の移植と前記第三の対象に由来する細胞の移植を受けた経験を有する、方法。
【請求項10】
請求項3に記載の方法であって、前記核酸が、セルフリーDNAであり、前記第一の対象に由来するセルフリーDNAの存在、および/または当該セルフリーDNAの濃度の増加が、移植片対宿主病(GVHD)の可能性を示す、方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法であって、前記多型情報を得る工程は、30種類以上の多型それぞれに関する多型情報を得ることを含む、方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法であって、前記多型情報を得る工程は、34種類以上の多型それぞれに関する多型情報を得ることを含む、方法。
【請求項13】
請求項4に記載の方法であって、異なる2以上の組織に由来する第一の対象に由来する生体試料それぞれについて実施され、前記異なる2以上の組織それぞれについて、第二の対象に由来する核酸の存在割合を決定する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、個体におけるDNAまたは細胞のキメリズムを決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
造血幹細胞移植は造血器腫瘍に対する有効な治療方法である(非特許文献1)。微小残存病変(MRD)は、患者の予後に大きく影響する(非特許文献2)。キメリズムの解析方法としては、短いタンデムリピート(STR)の分析(非特許文献3)およびXY-FISH(非特許文献4)が知られる。これらの方法の感度は1~5%程度であり、106個以上の細胞を必要とする。STRは、キメリズムの決定に用い得ない場合がある。XY-FISHは、男女間でしかキメリズムを決定することができない。
【0003】
特許文献1では、異なるクローンまたは個体に由来する核酸または細胞の混合物から核酸のドナー源を検出し、または定量する方法が開示されている。特許文献1の方法では、エラー修正配列リードを用いて、エラー修正をすることが求められる。
【0004】
特許文献2では、一塩基多型とコピー数変異多型を検出することが開示されている。
【0005】
非特許文献5は、アンプリコンパネルの作成を開示する。
【0006】
特許文献3では、結腸直腸がんの発症リスクを評価するための方法が開示されている。特許文献3では、少なくとも28個の一塩基多型の存在を検出する。
【0007】
特許文献4では、72以上の乳がん関連の一塩基多型を検出することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2019/222560
【特許文献2】WO2020/168239
【特許文献3】WO2017/127893
【特許文献4】WO2016/049694
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Heidrich et al., Ann. Oncl., 2017, 28(11):2793~2798
【非特許文献2】Kim et al., Blood, 2018, 132, 1604~1613
【非特許文献3】Tiede et al., Bone Marrow Transplant., 1999, 23(10)、1055~1060
【非特許文献4】Wedi et al., Reprod. Fertil. Dev. 2016, 29(5), 913~920
【非特許文献5】Lee et al., J. Clin. Med., 2019, 8, 2077
【発明の概要】
【0010】
本開示は、個体におけるDNAまたは細胞のキメリズムを決定する方法を提供する。
【0011】
本開示によれば、例えば、以下の発明が提供される。
(1)第一の対象に由来する生体試料において第一の対象に由来する核酸および/または第二の対象に由来する核酸を検出する方法であって、
前記生体試料に含まれる各核酸に関して、25種類以上の多型それぞれに関する多型情報を得る工程と、ここで、前記多型は、インデルおよび/またはマイクロハプロタイプを含み、
前記多型情報から生体試料に含まれる第一の対象に由来する核酸の存在割合および/または第二の対象に由来する核酸の存在割合を決定する工程と
を含み、
前記多型情報を得る工程は、複数種類の増幅断片を得ることを含み、前記複数の増幅断片は、全ての前記多型を含む領域を含み、増幅断片を得ることは、各核酸における各多型を含む領域の一方の末端に、共通するアダプター配列を連結させることと、当該アダプター配列に対するプライマーと前記領域の他端に位置する増幅断片に固有の配列に対するプライマーを用いて前記領域を含む各増幅断片を得ることを含み、
第一の対象と第二の対象は、同種異系の関係を有し、
前記決定する工程は、各核酸における各多型を含む領域の配列が、前記2種類の配列のいずれに類似度が高いかを決定し、これにより、第一の対象に由来する核酸の存在割合および/または第二の対象に由来する核酸の存在割合を決定することを含む、方法。
(2)上記(1)に記載の方法であって、前記第一の対象が、前記第二の対象に由来する細胞の移植を受けた経験を有する、方法。
(3)上記(2)に記載の方法であって、前記第一の対象が、造血器腫瘍の治療において、前記第二の対象に由来する造血幹細胞の移植を受けた経験を有し、前記決定する工程が、第一の対象に由来する核酸の存在割合を決定することを含む、方法。
(4)上記(2)に記載の方法であって、前記第一の対象が、前記第二の対象に由来する間葉系幹細胞の移植を受けた経験を有し、前記決定する工程が、第二の対象に由来する核酸の存在割合を決定することを含む、方法。
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載の方法であって、前記25種類以上の多型が、30種類以上のインデルを含む、方法。
(6)上記(1)~(5)のいずれかに記載の方法であって、核酸が、セルフリーDNAである、方法。
(7)上記(1)~(5)のいずれかに記載の方法であって、核酸が、細胞内DNAまたはRNAである、方法。
(8)上記(1)~(7)のいずれかに記載の方法であって、決定する工程が、多型情報から生体試料に含まれる第一の対象に由来する核酸、第二の対象に由来する核酸、および、第三の対象に由来する核酸からなる群から選択される1つ、2つまたは3つの核酸の存在割合を決定することを含み、第一の対象、第二の対象、および第三の対象はそれぞれ、他の対象と同種異系の関係を有する、方法。
(9)上記(8)に記載の方法であって、前記第一の対象が、前記第二の対象に由来する細胞の移植と前記第三の対象に由来する細胞の移植を受けた経験を有する、方法。
(10)上記(3)に記載の方法であって、前記核酸が、セルフリーDNAであり、前記第一の対象に由来するセルフリーDNAの存在、および/または当該セルフリーDNAの濃度の増加が、移植片対宿主病(GVHD)の可能性を示す、方法。
(11)上記(1)~(10)のいずれかに記載の方法であって、前記多型情報を得る工程は、30種類以上の多型それぞれに関する多型情報を得ることを含む、方法。
(12)上記(1)~(11)のいずれかに記載の方法であって、前記多型情報を得る工程は、34種類以上の多型それぞれに関する多型情報を得ることを含む、方法。
(13)上記(4)に記載の方法であって、異なる2以上の組織に由来する第一の対象に由来する生体試料それぞれについて実施され、前記異なる2以上の組織それぞれについて、第二の対象に由来する核酸の存在割合を決定する、方法。
(31)エラー修正工程を含まない、上記(1)~(13)のいずれかに記載の方法。
(32)エラー修正工程が、核酸分子に固有のアダプター(エラー修正配列リード)を各核酸分子に連結させることを含む、上記(31)に記載の方法。
(51)取得された生体試料の多型情報を得る工程の開始から存在割合の決定まで、2週間以内で実施する、上記いずれかに記載の方法。
(52)取得された生体試料の多型情報を得る工程の開始から存在割合の決定まで、2日以内で実施する、上記いずれかに記載の方法。
(53)取得された生体試料の多型情報を得る工程の開始から存在割合の決定まで、1日以内で実施する、上記いずれかに記載の方法。
(71)対象がヒトであり、第一の対象と第二の対象は、HLA適合である、上記いずれかに記載の方法。
(72)対象がヒトであり、第一の対象と第二の対象は、HLA半適合である、上記いずれかに記載の方法。
(73)対象がヒトであり、第一の対象と第二の対象は、HLA1抗原不適合である、上記いずれかに記載の方法。
(74)対象がヒトであり、第一の対象と第二の対象は、HLA2抗原不適合である、上記いずれかに記載の方法。
(75)対象がヒトであり、第一の対象と第三の対象は、HLA適合である、上記いずれかに記載の方法。
(76)対象がヒトであり、第一の対象と第三の対象は、HLA半適合である、上記いずれかに記載の方法。
(77)対象がヒトであり、第一の対象と第三の対象は、HLA1抗原不適合である、上記いずれかに記載の方法。
(78)対象がヒトであり、第一の対象と第三の対象は、HLA2抗原不適合である、上記いずれかに記載の方法。
(79)対象がヒトであり、第一の対象と第三の対象は、HLA適合である、上記(71)~(74)のいずれかに記載の方法。
(80)対象がヒトであり、第一の対象と第三の対象は、HLA半適合である、上記(71)~(74)のいずれかに記載の方法。
(81)対象がヒトであり、第一の対象と第三の対象は、HLA1抗原不適合である、上記(71)~(74)のいずれかに記載の方法。
(82)対象がヒトであり、第一の対象と第三の対象は、HLA2抗原不適合である、上記(71)~(74)のいずれかに記載の方法。
(91)上記インデルおよび/またはマイクロハプロタイプが、多型は、その周囲(例えば、多型を含む上流および下流20bp程度)がヒトゲノムにおいてユニークな配列であること、ヒトゲノム上において相同性が90%以上、80%以上、70%以上、60%以上、または50%以上である配列が存在しないこと、多型の周囲(例えば、多型を含む上流および下流20bp程度)がミスマッチを含まないか、1~3個しか含まないか、2以下しか含まないか、1以下しか含まないこと、Wootton-Federhen値の高いものの上記500個、上位400個、上位300個、上位200個、上位150個、または上位100個から選択されること、繰り返し配列中には存在しないこと、および、特定の配列パターンを他の配列と共有しないことからなる群から選択されるいずれか1以上、または全てを満たすように選択される、上記いずれかに記載の方法。
(92)上記インデルおよび/またはマイクロハプロタイプが、多型は、その周囲(例えば、多型を含む上流および下流20bp程度)がヒトゲノムにおいてユニークな配列であること、ヒトゲノム上において相同性が90%以上、80%以上、70%以上、60%以上、または50%以上である配列が存在しないこと、多型の周囲(例えば、多型を含む上流および下流20bp程度)がミスマッチを含まないか、1以下しか含まないこと、Wootton-Federhen値の高いものの上位200個、上位150個、または上位100個から選択されること、繰り返し配列中には存在しないこと、および、特定の配列パターンを他の配列と共有しないことからなる群から選択されるいずれか1以上、または全てを満たすように選択される、上記いずれかに記載の方法。
(93)上記インデルおよび/またはマイクロハプロタイプが、多型は、その周囲(例えば、多型を含む上流および下流20bp程度)がヒトゲノムにおいてユニークな配列であること、ヒトゲノム上において相同性が50%以上である配列が存在しないこと、多型の周囲(例えば、多型を含む上流および下流20bp程度)がミスマッチを含まないか、1以下しか含まないこと、Wootton-Federhen値の高いものの上位100個から選択されること、繰り返し配列中には存在しないこと、および、特定の配列パターンを他の配列と共有しないことからなる群から選択されるいずれか1以上、または全てを満たすように選択される、上記いずれかに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】シークエンスリードからの多型決定スキームを示す。
図2】175例について75のインデル多型の結果を示す。
図3】図示された希釈濃度の多型の検出精度を示す。
図4】症例1のキメリズムの測定結果を示す。
図5A】症例2のキメリズム解析スキームを示す。
図5B】症例2のPBMNC中のB細胞、NK細胞、およびT細胞それぞれのキメリスムの測定結果を示す。
図5C】症例2のキメリズムの測定結果についてのSTAT3変異割合による検証結果を示す。
図6A】症例3における異なる対象からの2回の細胞移植スキームを示す。
図6B】症例3における血中セルフリーDNA(cfDNA)量と全血におけるキメリズムの測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書では、「対象」とは、哺乳動物であり得、特に、ラットおよびマウスなどの齧歯類動物、ウマ、ヤギ、ウシ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコなどの非齧歯類哺乳動物、ヒトなどの霊長類が挙げられる・対象は、個体とも呼ばれる。ヒトとしては、特に限定されないが例えば、ネグロイド(黒色人種群)、コーカソイド(白色人種群)、モンゴロイド(黄色人種群)、およびオーストラロイド(黒褐色人種群)が挙げられる。第一の対象、第二の対象、および第三の対象は、それぞれの対象は互いに異なる個体であり、かつ、互いに同種異系または異種であり、特に同種異系である。
【0014】
本明細書では、「核酸」とは、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)を意味する。DNAは、ゲノムDNAであり得、細胞内のDNAまたはセルフリーDNAであり得る。セルフリーDNAは、体液(例えば、血液中)中の細胞外DNAである。
【0015】
本明細書では、「生物学的試料」とは、生物に由来する試料である。生物学的試料は、生体から取得され得る。生物学的試料は、体液または組織であり得る。体液としては、例えば、唾液、涙液、汗、血液、リンパ液、組織液、体腔液(例えば、胸水、腹水、心嚢液)、脳脊髄液、関節液、眼房水、消化液(膵液、胃液、胆汁、腸液)、尿、鼻水、精液、膣液、羊水、および乳汁が挙げられる。体液は、核酸を含む。組織としては、例えば、上皮組織(例えば、保護上皮、分泌上皮、感覚上皮、および吸収上皮)、結合組織(固有結合組織、特殊結合組織、および胚性結合組織)、筋組織、および神経組織が挙げられる。固有結合組織は、疎性結合組織(器官や上皮を保持する組織)、密性結合組織(例えば、靭帯および腱)、脂肪組織、および細網組織(例えば、リンパ器官を指示する軟骨格)が挙げられる。特殊結合組織としては、骨、および軟骨が挙げられる。胚性結合組織としては、間葉組織および膠様組織が挙げられる。筋組織としては、骨格筋、および内臓筋(例えば、横紋筋、平滑筋、および心筋)が挙げられる。
【0016】
本明細書では、「多型」は、対象が有するゲノムDNA上の核酸配列における個体差である。典型的には、集団におけるある核酸配列に1%以上の割合で相違が認められる場合にその相違を多型という。多型は、典型的には、表現型に対して致命的な影響を与えない。多型は、ゲノムDNA上に点在している。そのため、多型には、遺伝学的に連鎖する多型と、遺伝学的に連鎖しない多型とに大別される。多型のうち、最大の割合を占めるものは参照配列(Reference sequence)といわれ、その他は変種(variant)といわれることがある。
【0017】
本明細書では、「同種異系」とは、生物種が同一であるが、異なる個体に由来することを意味する。同種異系には、主要組織適合遺伝子複合体(MHC;ヒトではヒト白血球抗原(HLA)という)が完全に一致する場合と、完全には一致しない場合とに大別される。ヒトでは、それぞれ2アレルを有するHLA-A、B、およびDRの全てが一致する場合にHLA適合といい、父方由来および母方由来のHLA-A、B、およびDRのいずれかが完全に一致する場合をHLA半合致という。HLAの1座が不適合であり、残りが適合する場合はHLA1抗原不適合といい、HLAの2座が不適合であり、残りが適合する場合はHLA2抗原不適合という。HLAの1座以上が不適合であるドナーの造血幹細胞をレシピエントに移植すると、当該レシピエントは移植片対宿主病(GVHD)を発症しうる。造血幹細胞は、骨髄、および臍帯に存在する。造血幹細胞は、自己複製能とあらゆる血球細胞への分化能を有する。造血幹細胞は、主に骨髄に存在する。造血幹細胞は、個体への顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)投与により前記個体の血液中で検出可能となる。
【0018】
本明細書では、「ドナー」は、幹細胞を提供する個体を意味し、「レシピエント」は、移植をうける個体を意味する。レシピエントは、ホストとも呼ばれる。
【0019】
本明細書では、「造血幹細胞移植」とは、造血幹細胞を移植することを意味する。造血幹細胞移植は、血液がんまたは免疫不全症の対象を治療するために実施されうる。造血幹細胞移植は、移植前処置を受けた対象に対して実施される。移植前処置は、腫瘍細胞を減少させ、かつ、対象自身の免疫細胞を抑制するために行われ得る。移植前処置は、骨髄破壊的処置と骨髄非破壊的処置に大別される。骨髄破壊的処置は、抗腫瘍効果が高いが、副作用が強く、年齢や全身症状において一定の基準を満たした場合に制限される。移植前処置では、例えば、大量の抗がん剤投与または全身放射線処置が実施される。移植前処置を受けた患者に、造血幹細胞が投与される。投与は、通常は、静脈からの点滴(輸注)により実施される。典型的には、発熱およびアレルギー反応を予防するために抗ヒスタミン薬またはステロイドが投与される。造血幹細胞移植を受けた対象は、G-CSF処置を受けることができる。好中球数が500個/μL以上となり、その状態が3日以上続くことを生着という。造血幹細胞移植後に血液がんが再発する場合がある。再発した患者は、化学療法または放射線療法を受けることができる。再発した患者は、再度の造血幹細胞移植を受けることができる。再発した患者は、ドナーリンパ球輸注(DLI)を受けることができる。DLIの適応は、造血幹細胞移植を受けた患者が生着不全の場合、再発した場合、重症のウイルス感染症をきたした場合に考慮される。ドナーリンパ球は、ドナーから全血採血または成分採血で取得される。
【0020】
本明細書では、「末梢血幹細胞移植」は、G-CSF投与を受けた対象の血液から取得した造血幹細胞を移植することを意味する。移植前処置を受けた対象に対して、末梢血幹細胞移植が行われる。G-CSF投与を受けた対象の血中の造血幹細胞は、典型的には、前記対象の血中から血球成分分離装置を用いて採取される。
【0021】
本明細書では、「間葉系幹細胞」は、成体に存在する幹細胞であり、中胚葉由来の組織(例えば、骨、軟骨、血管、および心筋細胞)、外胚葉由来の組織(例えば、神経細胞およびグリア細胞)、および内胚葉系の組織(例えば、肝細胞)のいずれかへの分化能を有する。間葉系幹細胞(MSC)は、骨髄、脂肪、および臍帯から単離され得る。間葉系幹細胞は、血管再生のため、または心筋再生のために投与され得る。
【0022】
本明細書では、「インデル」とは、ゲノムDNAへの核酸配列の挿入およびゲノムDNAからの核酸配列の欠失のいずれかまたは両方を意味する。インデルは、典型的には1万塩基対までの小規模な遺伝子変異であり、50塩基対までの小規模なインデルは、マイクロインデルと呼ばれることがある。ヒトには、約190~280箇所程度のフレームシフト型インデルが存在するとされている。ショートインデルは、8塩基対以下、好ましくは6塩基対以下、特に4塩基対以下のインデルである。インデルは、遺伝子のコード領域、非コード領域内、および遺伝子感領域に存在しうる。
【0023】
本明細書では、「マイクロハプロタイプ」とは、200塩基対以下(例えば、100塩基対以下、特に70塩基対以下、好ましくは50塩基対以下)の領域内の複数の一塩基多型(SNP)、例えば、2つ、好ましくは3つ、より好ましくは4つ以上SNPの組合せをいう。
【0024】
本明細書では、「一塩基多型」とは、個体間におけるDNA配列中に見出される1塩基の相違をいう。典型的には、相違が集団中で1%以上または5%以上の頻度で認められるときに一塩基多型という。一塩基多型は、遺伝子のコード領域、非コード領域内、および遺伝子感領域に存在しうる。
【0025】
本明細書では、「キメリズム」とは、異なる2以上の個体由来の細胞の混合割合を意味する。特に、造血幹細胞移植または末梢血幹細胞移植においては、血液細胞中のドナー由来細胞とレシピエント由来細胞の混合割合を意味する。2回以上の細胞移植を受けた個体におけるキメリズムは、2回の移植のそれぞれのドナー由来の細胞とレシピエント由来の細胞との混合割合を意味する。特に、2回の細胞移植を実施すると、第1のドナー由来の細胞と第2のドナー由来の細胞とレシピエント由来の細胞とが混合し得る。キメリズムは、レシピエントの組織毎または細胞種毎に異なり得る。例えば、間葉系幹細胞(MSC)移植を受けたレシピエントのキメリズムは、MSCの生着割合が組織毎に異なると考えられ、組織毎に異なるキメリズムを示し得る。キメリズムは細胞の混合割合であるが、細胞群から抽出したゲノムDNA等の核酸中のドナー由来の核酸とレシピエント由来の核酸の存在比率として求めることもできる。細胞の混合比率に着目したキメリズムを本明細書では細胞のキメリズムとよぶ。キメリズムは、幹細胞移植後の白血病等の腫瘍の再発の予測に活用されうる。具体的には、造血幹細胞移植後に血中においてレシピエント由来の細胞が検出されると腫瘍の再発が疑われる。キメリズムはまた、セルフリーDNAのキメリズムであり得る。セルフリーDNAは、細胞外のDNAである。セルフリーDNA(cfDNA)は、主には、破壊された細胞から漏出したものであると考えられる。破壊は免疫細胞によるもの、およびアポトーシスなどの細胞死によるものが挙げられる。セルフリーDNAの解析は、がん、自己免疫疾患、移植片拒絶反応、移植片対宿主病、および妊婦における胎児の早期の異常の発見などに用いられ得る。健常者における血中cfDNAレベルは50ng/mL以下であり得る。cfDNAは、個体の体液中から回収されうるが、好ましくは、血液から回収されうる。
【0026】
本開示によれば、第一の対象に由来する生体試料において第一の対象に由来する核酸および/または第二の対象に由来する核酸を検出する方法が提供される。この方法は、キメリズムの決定に用いることができる。第一の対象および第二の対象はそれぞれ、レシピエントおよびドナーであり得る。例えば、造血幹細胞移植および末梢血幹細胞移植では、第一の対象はレシピエントであり、第二の対象はドナーであり得る。また例えば、間葉系幹細胞移植などの細胞移植、組織移植、または臓器移植でも、第一の対象はレシピエントであり、第二の対象はドナーであり得る。
【0027】
生体試料に含まれる1以上の細胞種について、第一の対象に由来する核酸および/または第二の対象に由来する核酸を検出してもよい。そのため、本開示の方法は、第一の対象に由来する生体試料から、前記1以上の細胞種を単離、濃縮、富化、または精製することをさらに含んでいてもよい。
【0028】
本開示によれば、
第一の対象に由来する生体試料において第二の対象に由来する核酸を検出する方法であって、
前記生体試料に含まれる各核酸に関して、1以上の多型(例えば、5種類以上、10種類以上、15種類以上、20種類以上、25種類以上、30種類以上、35種類以上、40種類以上、45種類以上、50種類以上、55種類以上、60種類以上、65種類以上、70種類以上、または75種類以上の多型、例えば、34種類以上75種類以下の多型)それぞれに関する多型情報を得る工程と、
前記多型情報から生体試料に含まれる第一の対象に由来する核酸の存在割合および/または第二の対象に由来する核酸の存在割合を決定する工程と
を含む、方法が提供される。第一の対象と第二の対象とは異なる対象であり、例えば、同種異系の関係を有する。
【0029】
ある好ましい態様では、多型は、アレル頻度が、1:9~1:1の頻度あるもの、1:8~1:1の頻度あるもの、1:7~1:1の頻度あるもの、1:6~1:1の頻度あるもの、1:5~1:1の頻度あるもの、1:4~1:1の頻度あるもの、1:3~1:1の頻度あるもの、1:2~1:1の頻度あるもの、1:1.5~1:1の頻度あるものから選択され得る。参照配列と変種の割合が1:1に近いほど好ましい。ある好ましい態様では、多型は、配列の複雑さが十分であるものから選択され得る。例えば、多型は、その周囲の20 bp間隔がヒトゲノム上でユニークであること、およびミスマッチが3つ以下であることを指標として選択され得る。さらに、ある好ましい態様では、多型は、ヒト個体が属する人種に対して有効と考えられるものから選択され得る。当該人種におけるメジャーアレルとマイナーアレルとの比が、少なくとも50:50~90:10である場合には、当該多型は有効であると考えられる。
【0030】
ある好ましい態様では、前記多型は、インデルおよび/またはマイクロハプロタイプを含むか、またはインデルおよび/またはマイクロハプロタイプからなる。
【0031】
ある好ましい態様では、多型は、その周囲(例えば、多型を含む上流および下流20bp程度)がヒトゲノムにおいてユニークな配列であることを基準に選別されている。ユニークな配列とは、ヒトゲノム上において相同性が90%以上、80%以上、70%以上、60%以上、または50%以上である配列が存在しないことでありうる。また、ある好ましい態様では、多型の周囲(例えば、多型を含む上流および下流20bp程度)がミスマッチを含まないか、1~3個しか含まないか、2以下しか含まないか、1以下しか含まない。ある好ましい態様では、Wootton & Federhen (Computers and Chemistry, 1993)のSEGプログラムによって決定されるWootton-Federhen値の高いものから順に多型を選択することができる。例えば、Wootton-Federhen値の高いものの上記500個、上位400個、上位300個、上位200個、上位150個、または上位100個から選択することができる。ある好ましい態様では、多型は、繰り返し配列中には存在しない。ある好ましい態様では、多型は、特定の配列パターンを他の配列と共有しない。ある好ましい態様では、多型は、本段落に記載の複数または全ての特性を有するものから選択されうる。例えば、ある好ましい態様では、多型は、その周囲(例えば、多型を含む上流および下流20bp程度)がヒトゲノムにおいてユニークな配列であること、ヒトゲノム上において相同性が90%以上、80%以上、70%以上、60%以上、または50%以上である配列が存在しないこと、多型の周囲(例えば、多型を含む上流および下流20bp程度)がミスマッチを含まないか、1~3個しか含まないか、2以下しか含まないか、1以下しか含まないこと、Wootton-Federhen値の高いものの上記500個、上位400個、上位300個、上位200個、上位150個、または上位100個から選択されること、繰り返し配列中には存在しないこと、および、特定の配列パターンを他の配列と共有しないことからなる群から選択されるいずれか1以上、または全てを満たすように選択され得る。多型は、ある集団においてマイナーな多型が集団の5%以上、10%以上、15%以上、20%~50%である場合に、有効な多型であり得る。
【0032】
ある態様では、第一の対象は、第二の対象に由来する細胞(例えば、幹細胞、特に造血幹細胞、末梢血幹細胞などの血球系の幹細胞など)の移植を受けた経験を有する。また、ある態様では、第一の対象は、第二の対象に由来する細胞(例えば、幹細胞、特に間葉系幹細胞などの組織幹細胞など)の移植を受けた経験を有する。また、ある態様では、前記第一の対象が、造血器腫瘍の治療において、前記第二の対象に由来する造血幹細胞の移植を受けた経験を有し、前記決定する工程が、第一の対象に由来する核酸の存在割合を決定することを含む。ある態様では、前記第一の対象が、前記第二の対象に由来する間葉系幹細胞の移植を受けた経験を有し、前記決定する工程が、第二の対象に由来する核酸の存在割合を決定することを含む。
【0033】
ある態様では、核酸は、DNAまたはRNAであり得る。ある態様では、核酸は、細胞内DNAまたは細胞内RNAであり得る。ある態様では、核酸は、セルフリー核酸(具体的にはセルフリーDNAまたは細胞外小胞に含まれるDNAもしくはRNA)であり得る。ある態様では、核酸は、細胞外小胞(例えば、アポトーシス小胞、エクソソーム、または微小小胞体(MV)内に含まれている。
【0034】
本開示の方法では、前記多型情報を得る工程は、複数種類の増幅断片を得ることを含み、(好ましくは前記複数の増幅断片は、全ての前記多型を含む領域を含み、)増幅断片を得ることは、各核酸(特に核酸の断片)における各多型を含む領域の一方の末端に、核酸間で共通するアダプター配列を連結させることと、当該アダプター配列に対するプライマーと前記領域の他端に位置する増幅断片に固有の配列に対するプライマーを用いて前記領域を含む各増幅断片を得ること
をさらに含んでいてもよい。この態様では、核酸として核酸の断片を用い得る。核酸の断片は、特に限定されないが例えば核酸を切断する酵素で核酸を処理することにより得られ得る。また、切断された核酸断片の一方の末端にはユニバーサルプライマーにより増幅するためのアダプターを連結し、増幅断片に固有の配列に対するプライマーとユニバーサルプライマーとで増幅断片を得ることができる。このようにすることでエラー発生を低下させうる。前記多型を、インデルおよび/またはマイクロハプロタイプとし、上記工程で増幅することで、多型解析を高速化し、かつ、解析中のエラー発生率を低減することができる。
【0035】
本開示の方法では、前記多型情報を得る工程は、多型を含む核酸断片(すなわち、増幅前断片)または増幅断片の濃縮工程を含まないことができる。濃縮工程に起因する断片の濃縮バイアスを防ぐためである。濃縮は、例えば、多型を含む核酸断片または増幅断片に相補的な配列を有する核酸を固相化した表面(プレート、ビーズその他)を用いて行うことができる。本開示の方法では、前記多型情報を得る工程は、増幅断片における増幅エラーを除去する工程(エラー除去工程)を含まなくてもよい。エラー除去工程の例は、例えば、WO2013/142389に開示されている。例えば、このエラー除去工程は、核酸分子に固有のアダプター(エラー修正配列リード)を各核酸分子に連結させることを含む。このエラー除去工程はまた、同一アダプター配列を有する増幅核酸断片の配列を比較してエラー(同一アダプターにおいて相違する塩基のうちリード数の少ないもの(マイナーなもの))を除去することを含みうる。この場合、多型は、例えば、インデルおよび/またはマイクロハプロタイプを含むか、好ましくは、インデルおよび/またはマイクロハプロタイプからなるか、より好ましくは、ショートインデルおよび/またはマイクロハプロタイプからなるように選択され得る。
【0036】
ある態様では、増幅断片は、100bp以上、200bp以上、300bp以上、400bp以上、500bp以上、600bp以上、700bp以上、800bp以上、900bp以上、1000bp以上、15000bp以上、2000bp以上、25000bp以上、3000bp以上の長さを有する。ある態様では、増幅断片は、3000bp以下、2500bp以下、2000bp以下、1500bp以下、1000bp以下、900bp以下、800bp以下、700bp以下、600bp以下、500bp以下、400bp以下、300bp以下、または200bp以下の長さを有する。ある態様では、増幅断片は、200bp~3000bp、500bp~2000bp、または1000bp~1500bp長を有し得る。
【0037】
本開示の方法は、
前記決定する工程は、各核酸における各多型を含む領域の配列が、前記2種類の配列のいずれに類似度が高いかを決定し、これにより、第一の対象に由来する核酸の存在割合および/または第二の対象に由来する核酸の存在割合を決定すること
をさらに含んでいてもよい。これにより、血液系幹細胞の移植後のレシピエント由来の細胞の増殖(例えば、腫瘍の再発)を検出することができる。また、幹細胞移植後のレシピエントにおけるドナー由来細胞の生着率を検出することができる。
【0038】
ある態様では、組織における細胞の生着は、例えば、1つの組織に由来する第一の対象に由来する生体試料それぞれについて実施され、前記組織について、第二の対象に由来する核酸の存在割合を決定することにより決定される。組織における細胞の生着は、例えば、異なる2以上の組織に由来する第一の対象に由来する生体試料それぞれについて実施され、前記異なる2以上の組織それぞれについて、第二の対象に由来する核酸の存在割合を決定することにより決定される。
【0039】
本開示の方法では、10分子に1分子の割合で、20分子に1分子の割合で、30分子に1分子の割合で、40分子に1分子の割合で、50分子に1分子の割合で、60分子に1分子の割合で、70分子に1分子の割合で、80分子に1分子の割合で、90分子に1分子の割合で、100分子に1分子の割合で、200分子に1分子の割合で、300分子に1分子の割合で、400分子に1分子の割合で、500分子に1分子の割合で、600分子に1分子の割合で、700分子に1分子の割合で、800分子に1分子の割合で、900分子に1分子の割合で、1000分子に1分子の割合で、2000分子に1分子の割合で3000分子に1分子の割合で4000分子に1分子の割合で5000分子に1分子の割合で6000分子に1分子の割合で7000分子に1分子の割合で8000分子に1分子の割合で9000分子に1分子の割合で、または10000分子に1分子の割合で存在する第一の対象に由来する核酸の存在割合または第二の対象に由来する核酸の存在割合の検出が可能であり得る。
【0040】
本開示の方法では、取得された生体試料の多型情報を得る工程の開始から存在割合の決定まで、例えば、2週間以内、10日以内、9日以内、8日以内、7日以内、6日以内、5日以内、4日以内、3日以内、2日以内、42時間以内、36時間以内、30間以内、または1日以内でなされ得る。工程を単純化することが可能であり、この時間枠に収めてもよいのである。
【0041】
第一の対象の細胞(ゲノム)を検出するか、第二の対象の細胞(ゲノム)を検出するかは、目的に応じて決定すればよい。
【0042】
ある態様では、第一の対象が、造血器腫瘍の治療において、第二の対象に由来する造血幹細胞の移植を受けた経験を有し、前記決定する工程が、第一の対象に由来する核酸の存在割合を決定する。この態様において、第一の対象に由来する核酸または細胞の検出またはその割合の増加は、微小残存病変を示し得る。
【0043】
ある態様では、第一の対象が、第二の対象に由来する細胞(例えば、間葉系幹細胞)の移植を受けた経験を有し、前記決定する工程が、第二の対象に由来する核酸の存在割合を決定する。この態様において、第二の対象に由来する核酸または細胞の検出またはその割合の増加は、それが由来する組織試料における細胞(例えば、間葉系幹細胞)の生着を示す。
【0044】
第一の対象由来のcfDNAを検出するか、第二の対象由来のcfDNAを検出するかは、目的に応じて決定すればよい。
【0045】
ある態様では、第一の対象が、造血器腫瘍の治療において、第二の対象に由来する造血幹細胞の移植を受けた経験を有し、前記決定する行程が、第一の対象に由来するcfDNAの存在割合を決定する。そして、cfDNAの存在、またはcfDNAの割合の増大は、移植片対宿主病(GVHD)の発症を示し得る。移植された造血幹細胞に由来する免疫細胞が一の対象の細胞を攻撃し、攻撃された細胞が破壊され、破壊された細胞からcfDNAが体液中に流出するためである。
【0046】
ある態様では、核酸は、細胞内の核酸(例えば、DNAおよびRNAである。ある態様では、核酸は、細胞外に遊離している。ある態様では、核酸(例えば、DNAまたはRNA)は、細胞外小胞(例えば、エクソソーム、アポトーシス小胞、またはMV)中に存在している。
【0047】
本開示のある態様では、上記発明において、決定する工程が、多型情報から生体試料に含まれる第一の対象に由来する核酸、第二の対象に由来する核酸、および、第三の対象に由来する核酸からなる群から選択される1つ、2つまたは3つの核酸の存在割合を決定することを含む。この態様では、好ましくは、第一の対象、第二の対象、および第三の対象はそれぞれ、他の対象と同種異系の関係を有する。ある好ましい態様では、前記第一の対象が、前記第二の対象に由来する細胞の移植と前記第三の対象に由来する細胞の移植を受けた経験を有する。この態様では、方法は、好ましくは、第一の対象に由来する核酸、第二の対象に由来する核酸、および、第三の対象に由来する核酸の3つの核酸それぞれの存在割合を決定することを含む。このようにして、3以上の対象に由来する細胞または核酸の混合物において各対象に由来する細胞または核酸の割合を決定することができる。ある態様では、対象の数は、4以上であり得、本開示の方法は、当該4以上の対象それぞれに由来する細胞または核酸の混合物において各対象に由来する細胞または核酸の割合を決定することができる。
【実施例0048】
1.ターゲット選定
SNPターゲット遺伝子座の有効性を確保するため、東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)データベースによる日本人集団のアレル頻度が0.5に近い1~4bpの挿入または欠失(indel;インデル)を有する遺伝子座を検討した。これらの候補遺伝子座を、その周囲の20 bp間隔がヒトゲノム上でユニークであること、およびミスマッチが3つ以下であることで絞り込んだ。Wootton & Federhen (Computers and Chemistry, 1993) のSEGプログラムによって決定されるWootton-Federhen値が最も高い遺伝子座を手動で検査し、繰り返しやパターンがないものをインデルのターゲットとして選択した。さらに、Allelic Frequency Database (Yale University)から、マイクロハプロタイプ一式をターゲットリストに追加した。最終的に85のSNP座位がターゲットとして選定された。
【0049】
2.試料調製
一塩基多型(SNP)の検出の検証のために、健常者の末梢静脈血(10ml)からFicoll密度勾配遠心法により末梢血単核細胞(PBMNCs)を分離し、DNA抽出まで深部凍結保存した。また、コントロールとしてNA12878(Coriell Institute for Medical Research)ゲノムDNAを使用した。移植後の患者のキメの定量化のために、移植前後の末梢静脈血からPBMNCと血漿試料を順次分離した。ゲノムDNAはQIAmp DNA Micro Kit(Qiagen)を用いて単離し、解析まで4℃で保存した。
【0050】
QIAseq Targeted DNA Panel (Qiagen)を用いて、SNPs遺伝子座を標的としたシーケンスライブラリーを製造者の説明書に従って調製した。ゲノムDNA(10-40ng)を断片化し、末端修復とpolyA-tailingを行った。調製したDNA断片の5'末端に、12塩基のランダム配列(すなわちユニーク分子識別子;UMI)およびサンプルインデックスを含むアダプターオリゴをライゲーションした。各SNP遺伝子座の領域特異的プライマーとアダプターに相補的なユニバーサルプライマーを用いて、8サイクルのPCR反応を行い、標的の濃縮を行った。濃縮された断片は、さらに20サイクルのユニバーサルPCR反応を行い、アダプター配列を追加して最終的なライブラリー構造を完成させた。
【0051】
調製したライブラリーを定量し、Read 1用のカスタムシーケンスプライマー(QIAseq A Read1 Primer I)を用いてIlluminaプラットフォーム(MiSeq, NextSeq 500, NextSeq 2000)で150 bpペアエンドシーケンスに供した。
【0052】
3. バリアント検出
塩基置換によるエラー訂正とUMIによるグルーピングを行った後、得られたDNA配列(リード)を、ターゲット遺伝子座がインデルを持つ標準的なヒトゲノムにアライメントした。偶発的なインデルのエラーはリードの末端で発生しやすかったため、ターゲットインデル部位に近いリードを持つフラグメントは、さらなる解析から除外された。さらに、インデルのアラインメントは、ターゲットSNPs周辺のDNA配列の影響で一意でない可能性があったため、近傍に複数のインデルを持つアラインメントは、意図するSNPsに照らして再提示のために再キャリブレーションした。また、ある部位の対立遺伝子比率は、適合したリード断片の数と、変異を持つリード断片の数から推定した(図1参照)。
【0053】
4. 混合比の推定
移植標本におけるレシピエント/ドナーの混合比率を事前に推定するために、一群のSNPを選択した。ここで、部分的にでも利用可能であれば、対立遺伝子やコピー数情報が考慮された。この初期推定は、階層的モデルを設定し、選択された遺伝子座における対立遺伝子状態を推定することによって改良された。この一般的なモデルは、非バイナリーのケースに対応し、複数の寄与を持つサンプルに適用された。
【0054】
実施例1
上記方法によって75のインデルの多型を決定し、当該インデルの多型に基づいて175例のヒト対象を検討した。その結果、2個体間でのインデルの相違は平均4~5個見出された(図2参照)。また、175例それぞれが、異なるインデルのセットを有し、個体の鑑別が可能であった(図2参照)。
【0055】
実施例2
2個体からそれぞれ抽出したDNAを1:1~1:10-4の比率で混合し、混合比率(キメリズム)を推定した(図3参照)。その結果、1:1~1:10-4のレンジで混合比率(キメリズム)を良好に予測することができた(図3参照)。
【0056】
実施例3(症例1)
ヒト症例(32歳、女性)は、急性骨髄性白血病(ALL (IgH-EPOR))と診断され、その後、ブリナツモマブによる投薬と同種異系の骨髄移植(unrelate, DR1miss)を受けていた。骨髄移植では、レシピエント由来の造血幹細胞が破壊され、ドナー由来の骨髄が移植されることにより、レシピエントの体内ではドナー由来の血球系が構築される。レシピエントゲノムの多型と、ドナーゲノムの多型とを上記方法により決定し、上記女性レシピエントから末梢血単核細胞を回収して、ゲノムの混合比率(キメリズム)を決定した。その結果、移植前は、女性レシピエントのゲノムが100%であったのに対して、移植30日後に回収された末梢血単核細胞は1.98%のレシピエントゲノムを含み、移植70日後に回収された末梢血単核細胞は5.58%のレシピエントゲノムを含み、移植196日後に回収された末梢血単核細胞は15.4%のレシピエントゲノムを含んだ(図4参照)。このことから、上記女性レシピエントの体内では、骨髄移植後にも関わらず、自身の白血球が増加していたことが示唆された。なお、本実施例の手法により求められたキメリズムは、XY-FISHの方法により求められたキメリズムと近い値を示した。
【0057】
実施例4(症例2)
ヒト症例(35歳、女性)は、STAT3に変異を有する高IgE症候群(HIES)に罹患した患者であった。上記女性レシピエントは、同種異系の末梢血幹細胞移植(relate, full match)を受けていた。レシピエントの多型とドナーの多型を決定し、移植2,512日後の女性レシピエントから回収された末梢血単核細胞におけるT細胞、NK細胞、およびB細胞それぞれのキメリズムを決定した(図5A参照)。結果は、B細胞は5.13%のレシピエントゲノムを含み、NK細胞は1.01%のレシピエントゲノムを含み、T細胞は29.8%のレシピエントゲノムを含んだ(図5B参照)。移植した末梢血幹細胞のSTAT3とレシピエントゲノムのSTAT3はその変異のため異なる配列を有した。回収されたT細胞、NK細胞、およびB細胞それぞれにおけるSTAT3の変異割合を決定し、上記多型に基づくキメリズムと比較したところ、図5Cに示されるように、結果は互いに高い整合性を示した。
【0058】
実施例5(症例3)
ヒト症例(22歳、弾性)は、U2AF1に変異を有する急性骨髄性白血病(AML)に罹患した患者であった。上記男性レシピエントは、同種異系の末梢血幹細胞移植(relate, full match)を受け、その後、さらに同種異系の間葉系幹細胞移植(relate, haplo)を受けた(図6A参照)。その後、上記レシピエントは、グレードIII(S2L3G4)の移植片対宿主病(GVHD)を発症した。末梢血サンプルは、MSC移植の前後(PreおよびPost)それぞれにおいて上記男性レシピエントから取得し、キメリズムを分析した。レシピエント由来のゲノムの多型、移植された末梢血幹細胞(MSC)由来のゲノムの多型、および間葉系幹細胞由来のゲノムの多型をそれぞれ決定し、得られたサンプルにおけるセルフリーDNA(cfDNA)と全血それぞれのキメリズムを決定した。その結果、MSC移植前(Pre)においては、cfDNA中のレシピエント由来のゲノムのキメリズムが2.63%であった。MSC移植後(Post)においては、cfDNA中のレシピエント由来のゲノムが1.18%であり、cfDNA中のMSC由来のゲノムが0.30%であった(図6B参照)。これに対して、全血(WBC)中のMSC由来のゲノムが0.15%であった(図6B参照)。cfDNAの存在は、細胞が破壊されていることを示唆する。上記男性レシピエントはGVHDを発症しており、末梢血幹細胞移植によりレシピエント由来の細胞が傷害され、そのためにcfDNAが検出されたと考えられる。MSC移植後にレシピエントゲノム由来のcfDNAのキメリズムが低下したことから、MSC移植は、GVHDの症状を軽減したことが示唆された。このように、本実施例の方法では、1個体における2、または3以上の個体由来の細胞のキメリズムを決定することができる。また、cfDNAに着目することにより、細胞の傷害の度合い(例えば、GVHDの重症度)を検出することができる。また、MSC移植後に、MSCの各種組織における生着の有無および程度を決定することにも本実施例の方法は有用であり得る。本発明の方法は、1~2日で解析を完了することができ、迅速な解析において有利であると考えられる。
【0059】
34箇所以上の多型箇所を分析することによって、理論的には地球上の全人口の多様性をカバーすることができる。実用上は、3000万の多様性をカバーする25箇所以上、1万3千の多様性をカバーする27箇所の多型を調べることで、キメリズム解析を実施することができると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B