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特開2024-142837金属板材料の材料評価方法及び材料評価装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142837
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】金属板材料の材料評価方法及び材料評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/20 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G01N3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055189
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】堺谷 智宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太郎
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA07
2G061AB03
2G061BA03
2G061BA04
2G061CB01
2G061EA02
2G061EB07
2G061EC05
(57)【要約】
【課題】部材適用時の材料拘束を考慮した破断試験における、破断限界ひずみを詳細に評価することが可能な金属板材料の材料評価技術を提供する。
【解決手段】金属板材料の曲げ変形による耐破断特性を評価する材料評価装置である。短冊状の試験片1の長手方向両側部分を拘束する材料拘束治具2と、試験片1の変形部1Bを板厚方向に押圧して曲げ変形させるパンチ3と、を有し、パンチ3の先端部3Aの形状は、試験片1の幅方向に延在し且つ断面が凸状となる円弧形状となっている。変形部1Bの曲げ外側の面の3次元形状データを取得する3次元形状測定装置4と、3次元形状測定装置4が取得した3次元形状データから、曲げ変形に伴う試験片1の形状変化の情報を取得する形状変化情報取得部5と、取得する形状変化の情報に基づき、材料の曲げ変形による耐破断特性を評価する評価部6と、を備える。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板材料の曲げ変形による耐破断特性を評価する材料評価方法であって、
評価する金属板材料から作製した短冊状の試験片を用意し、
上記試験片の長手方向両側部分を材料拘束治具で拘束し、上記試験片における拘束された上記長手方向両側部分の間の領域である変形部を、パンチの先端部で板厚方向に押圧して曲げ変形させる曲げ試験を、上記試験片が完全に破断する状態又は完全に破断する直前の状態で定義される破断状態となるまで実施し、
上記パンチの先端部の形状は、試験片の幅方向に延在し且つ断面が凸状となる円弧形状となっており、
少なくとも上記破断状態における、上記試験片の破断箇所又は上記変形部を含む領域の3次元形状データを測定し、その測定した3次元形状データから得られた上記試験片の形状変化の情報をもとに上記試験片の破断部位を特定して、材料の曲げ変形による耐破断特性を評価する、
ことを特徴とする金属板材料の材料評価方法。
【請求項2】
上記試験片の変形部は、上記パンチの先端部が当接する部分であるネッキング部の板幅が最小板幅となっており、
上記測定した3次元形状データに基づいて上記試験片の破断部位を特定して、上記破断状態における、破断箇所の板厚又は上記ネッキング部での最小板厚で定義される破断時板厚を求め、
上記破断時板厚、上記試験片の元板厚を基準とした板厚の変化量、変化率、及び下記式(1)で計算される対数ひずみ値εtのうちから選択した特性値を、材料の評価に使用し、
上記評価に用いる特性値について、上記試験片の板幅方向の任意の1箇所又は複数箇所で求めた特性値の最大値、最小値、及び平均値から選択した少なくとも1つの値を使用して、材料の評価を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載した金属板材料の材料評価方法。
εt=ln(t/t0) ・・・式(1)
ここで、tは破断時板厚、t0は上記試験片の元板厚、lnは自然対数を表す。
【請求項3】
上記曲げ変形中の、上記パンチに掛かる試験荷重を記録し、
上記試験荷重の変動により上記破断状態の発生を検出する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した金属板材料の材料評価方法。
【請求項4】
上記曲げ試験中及び/又は試験前後の上記変形部の曲げ外側表面をカメラで撮影し、上記撮影した画像から上記3次元形状データとなる表面形状データを取得し、
その取得した上記表面形状データから、上記破断状態における、上記変形部での曲げ外側のひずみ分布とその時間変化の情報、割れの発生及び進展の情報、及び割れの分布の情報の少なくとも一つの情報を取得し、
取得した情報に基づいて、上記破断状態及び破断箇所の少なくとも一方を検出する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した金属板材料の材料評価方法。
【請求項5】
上記曲げ試験中及び/又は試験前後の上記変形部の曲げ外側表面をカメラで撮影し、上記撮影した画像から上記3次元形状データとなる表面形状データを取得し、
その取得した上記表面形状データから、上記破断状態となった上記試験片の表面の破断ひずみを取得し、
その取得した表面の破断ひずみで耐破断特性を評価する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した金属板材料の材料評価方法。
【請求項6】
金属板材料の曲げ変形による耐破断特性を評価する材料評価装置であって、
評価する金属板材料から作製された短冊状の試験片の長手方向両側部分を拘束する材料拘束治具と、上記試験片における、拘束された上記長手方向両側部分の間の領域である変形部に当接し上記変形部を板厚方向に押圧して曲げ変形させるパンチと、を有し、
上記パンチの先端部の形状は、試験片の幅方向に延在し且つ断面が凸状となる円弧形状となっており、
更に、
上記パンチで曲げ変形される上記変形部の曲げ外側の面の3次元形状データを取得する3次元形状測定装置と、
上記3次元形状測定装置が取得した3次元形状データから、曲げ変形に伴う上記試験片の形状変化の情報を取得する形状変化情報取得部と、
上記形状変化情報取得部が取得する形状変化の情報に基づき、材料の曲げ変形による耐破断特性を評価する評価部と、
を備えることを特徴とする金属板材料の材料評価装置。
【請求項7】
上記3次元形状測定装置は、
上記パンチで曲げ変形される上記変形部の曲げ外側の面を撮影するカメラと、
上記カメラが撮影した画像を、コンピュータを用いたデジタル画像相関法によって処理して、上記変形部の曲げ外側の面の3次元形状データを取得する3次元形状データ取得部と、
を備えることを特徴とする請求項6に記載した金属板材料の材料評価装置。
【請求項8】
上記試験片は、上記変形部のうち、上記パンチが当接する部分の板幅が最小となっている、
ことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載した金属板材料の材料評価装置。
【請求項9】
上記材料拘束治具は、上記試験片の板幅よりも大きな直径の断面円形の貫通穴を有し、上記パンチの移動方向で対向する下型と上型とを有し、上面視、その貫通穴の位置に、上記試験片の変形部が配置された状態で、当該試験片を拘束する、
ことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載した金属板材料の材料評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げ変形により金属板材料の耐破断特性を評価する技術に関する。本発明は、自動車車体用の金属板材料の性能評価に有効な技術である。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車は衝突性能を維持しつつ軽量化を行うため、車体材料への高強度鋼板の適用が進んでいる。しかし、高強度鋼板の適用は、材料の高強度化に伴う材料の延性低下により、衝突時の破断発生の危険性が高まる。
【0003】
特に、車体前後に配置するエネルギー吸収部材については、衝突時に部材が塑性変形することで衝突エネルギーを吸収することが求められる。しかし、エネルギー吸収部材の軸方向圧壊においては、曲げ変形に伴い局所的に大きなひずみが発生することで、破断が発生してしまうことが多い。このような破断が大割れに進展して部材が崩壊すると、エネルギー吸収部材の耐衝突荷重性能が大きく低下し、エネルギー吸収性能の不安定化をもたらす可能性がある。このようなエネルギー吸収性能の不安定化は、車体に高強度鋼板を適用する際の大きな課題となっている。
【0004】
上記のような軸方向圧壊変形における破断は、引張試験における均一伸びや局部伸びなどの指標では評価ができないことが分かっている。そして、その破断の有無を判断するため、従来から様々な材料試験方法が提案されている。
【0005】
例えば、ドイツ自動車工業会規格(Verband der Automobilindustreie:VDA)で規格化されている、VDA238-100曲げ試験方法がある。この曲げ試験では、並置した2本のローラ上に評価する金属板からなる板材を掛け渡す。そして、この曲げ試験方法では、その板材を上部から先端が鋭利なパンチで加圧して曲げ成形し、その曲げ変形に伴う板材の限界曲げ半径を評価する。そして、この曲げ試験方法により得られた限界曲げ半径は、衝突時の局所的な変形に対応することが報告されている。
【0006】
また、特許文献1には、上記のVDA規格の曲げ試験方法を改良した試験方法が記載されている。特許文献1には、実験によって得られた荷重ストローク曲線から限界曲げ半径以降の亀裂発生状況を評価することで、部品衝突時の耐破断特性を予測することが提案されている。
【0007】
ここで、非特許文献1では、上記の限界破断ひずみについて、標点間距離を無限小とした際に得られる成形限界ひずみとして、極限変形能を定義している。この値は、ある標点間距離におけるひずみを計測するDIC(デジタル画像相関法)に対し、材料の有する真の破断限界ひずみと言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-080464号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】水沼ら、理化学研究所報告、45-4(1969)、79.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の曲げ試験方法は、試験片について2つのローラ間をパンチで押し込み曲げ変形させる以外に試験片への拘束のない曲げ試験となっている。しかし、評価する金属板材料からなる部材を車体に適用した状態での衝突による破断部の変形では、部材は、周囲の材料からの拘束を受ける。したがって、衝突による破断部(荷重が集中する部分)の変形は、引張変形を含む複雑な変形を受ける破断現象で発生すると考えられる。そのため、上記のように曲げ変形と引張変形の複合変形を考慮した試験方法による材料評価試験が必要である。しかし、特許文献1の方法は、これに対応していない。
【0011】
一方、非特許文献1では、極限変形能により破断限界ひずみを評価する方法が提案されている。しかし、曲げ変形部のひずみ状態によって、板幅方向の測定箇所で、ひずみの入り方に差が発生する可能性がある。そればかりでなく、板幅方向に同様な変形な場合も、計測上のばらつきが含まれる可能性が考えられる。したがって、より詳細な評価方法が必要である。
【0012】
本発明は、上記のような点に着目し、部材適用時の材料拘束を考慮した引張と曲げの複合変形における破断試験に関するものである。そして、本発明は、その破断限界ひずみを詳細に評価することが可能な金属板材料の材料評価技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
課題解決のために、本発明の一態様は、金属板材料の曲げ変形による耐破断特性を評価する材料評価方法であって、評価する金属板材料から作製した短冊状の試験片を用意し、上記試験片の長手方向両側部分を材料拘束治具で拘束し、上記試験片における拘束された上記長手方向両側部分の間の領域である変形部を、パンチの先端部で板厚方向に押圧して曲げ変形させる曲げ試験を、上記試験片が完全に破断する状態又は完全に破断する直前の状態で定義される破断状態となるまで実施し、上記パンチの先端部の形状は、試験片の幅方向に延在し且つ断面が凸状となる円弧形状となっており、少なくとも上記破断状態における、上記試験片の破断箇所又は上記変形部を含む領域の3次元形状データを測定し、その測定した3次元形状データから得られた上記試験片の形状変化の情報をもとに上記試験片の破断部位を特定して、材料の曲げ変形による耐破断特性を評価する。ここで、破断部位とは、破断箇所を含む、特に変形の大きい領域範囲のことである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の態様によれば、自動車車体用金属板材料など金属板材料の曲げ試験において、部材適用時の材料拘束を考慮した引張変形を伴う曲げ試験によって、破断限界板厚の詳細な評価が可能となる。部材適用時の材料拘束とは、評価する金属板材料からなる部材を、その部材を使用する装置などに組み付けることで発生する拘束状態を指す。
【0015】
特に、本発明の態様によれば、測定した3次元形状データから得られた上記試験片の形状変化の情報をもとに、材料の曲げ変形による耐破断特性を評価する。このため、本発明の態様によれば、従来行っていた、破断した試験材を切断して試験材の断面を観察し、観察した断面のみから限界板厚を算出する方法が必ずしも必要ではない。そして、本発明の態様では、例えば、断面を任意に選びながら限界板厚を算出することも可能になり、より精度の高い評価をより簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に基づく実施形態に係る試験片を示す上面図である。
図2】本発明に基づく実施形態に係る装置構成の模式図である。
図3】本発明に基づく実施形態に係る装置構成を、一部透視的に図示した図で、上方(曲げ外側)からみた模式図である。
図4】曲げ試験による曲げ変形を説明する図である。(a)は試験開始時の状態を、(b)は曲げ変形途中の状態を示す模式的断面図である。
図5】実施例で使用した試験片を示す上面図である。
図6】実施例で使用した曲げ試験装置の構成を説明する断面図である。
図7】実施例における、荷重-ストローク曲線を示す図である。
図8】最大荷重点における、パンチの先端部の曲率に応じた、曲げ外側表面の状態を示す上面図である。
図9】破断状態での、試験片の上面(曲げ外側表面)を測定した3次元形状データを示す図である。(a)は、完全に破断した破断部の形状の一例を、(b)は、破断直前の状態での形状の一例を示す。
図10】断面抽出位置を示す上面図である。(a)は、破断部に対応し、(b)は破断直前の状態に対応する。
図11】限界板厚を示す断面図である。(a)は、破断部に対応し、(b)は破断直前の状態に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態は、部材適用時の材料拘束を考慮した引張変形を伴う曲げ試験によって、金属板の耐破断特性を評価する技術である。
本実施形態では、評価する金属板材料が、自動車車体用の金属板材料からなる場合を例に挙げて説明する。この場合、部材適用時の材料拘束とは、車体に組み付けた場合における材料拘束状態を指す。そして、例えば、後述のようにパンチの先端部の曲率を変更することで、部材適用時の材料拘束を考慮した曲げ試験が可能となる。
【0018】
本実施形態の曲げ試験は、試験片を、パンチと材料拘束治具を用いて曲げ変形させる曲げ試験である。
【0019】
(試験片1)
図1に示すように、試験片1は、評価する金属板から作製された短冊状の板からなる。短冊状の板は、板幅に対して長手方向(延在方向)の寸法が長い板材である。試験片1の作製は、公知の方法で実行すればよい。
【0020】
本実施形態の試験片1は、図1に示すように、長手方向において、左右両側の拘束部1Aと、その二つの拘束部1A間に位置する変形部1Bとの2種類の領域を有している。変形部1Bは、試験片1の長手方向中心部にあることが好ましいが、中心部位置である必要はない。
【0021】
一例として図1に示す変形部1Bは、幅方向両側の各長辺にそれぞれ円弧形状の切欠き部1aが形成されている。これによって、変形部1Bは、長手方向中心部に向けて、当該中心部に向かうほど板幅が小さくなる板形状となっていて、長手方向中央部が最小の板幅となっている。
なお、本発明の態様では、その最小板幅となる長手方向中央部の下面を、板幅方向に延びるパンチ3の先端部3Aが当接する当接位置とする。
【0022】
ここで、本実施形態では、上記の円弧形状の切欠き部1aは、切欠きの左右の開始位置が拘束部1Aに位置している。そして、本実施形態では、左右の拘束部1Aによる拘束の変形部1B側の端部位置(変形部1Bとの境界線位置1b)が、試験片1の板幅方向に沿って延在している。また、境界線位置1bの端部が、左右の切欠き部1aの途中位置に接続する。これによって、曲げ試験で曲げ成形される領域に、切欠きの開始位置が含まれないようにしている。なお、切欠きの開始位置には、角が形成されて、急峻形状となっている。
【0023】
試験片1は、変形部1Bに上記の切欠き部1aを有しない短冊形状であっても良いが、切欠き部1aを有する方が好ましい。
また、図1に示すように、変形部1Bの上面における少なくとも長手方向中央部側の領域に、ドット等からなるDIC解析用のパターンが転写されている。図1では、パターンが転写されている領域を網掛けで示した。本実施形態では、この解析用のパターンは、曲げ変形中の曲げ外側のひずみ状態をDIC(デジタル画像相関法)により解析するために設けた。パターンは、例えば、デジタル画像相関法で処理するための等間隔に整列したドットパターン又はランダムパターンを塗布によって付与する。試験片1の表面(上面)へのランダムパターンの付与は、公知の方法を用いれば良い。
【0024】
(装置構成)
本実施形態の金属板材料の材料評価装置は、上記の曲げ試験に基づき材料評価を実施する装置である。本実施形態の材料評価装置は、図2及び図3に示すように、材料拘束治具2、パンチ3、3次元形状測定装置4、形状変化情報取得部5、及び評価部6を備える。
【0025】
<材料拘束治具2>
材料拘束治具2は、試験片1の長手方向中央部(変形部1Bの領域)を開けて、試験片1の長手方向両側部分を拘束する治具である。すなわち、材料拘束治具2は、試験片1の長手方向両側の拘束部1Aを拘束する治具である。
【0026】
本実施形態の材料拘束治具2は、上型を構成するダイ2Aと、下型を構成するしわ押さえ2Bで構成される。本実施形態の材料拘束治具2は、パンチ移動方向で対向するダイ2Aとしわ押さえ2Bで、試験片1の左右の拘束部1Aを板厚方向から挟み込んで拘束する。これによって、曲げ試験における曲げ変形中の、拘束部1A位置での材料の移動を拘束する。
【0027】
本実施形態のダイ2Aとしわ押さえ2Bはそれぞれ、中心部に対し軸を上下に向けた円筒形状の貫通穴2Aa、2Baが開口した金型からなる。そして、ダイ2Aとしわ押さえ2Bの各貫通穴2Aa、2Baの中心軸を一致させた状態で、ダイ2Aとしわ押さえ2Bにより、試験片1の長手方向両側の拘束部1Aを同時に挟み込む。このとき、材料拘束治具2に対して、平面視で、試験片1の変形部1Bがダイ2Aやしわ押さえの貫通穴2Aa、2Ba内に位置するように調整して、試験片1を配置する。
ここで、図2では、分かり易くするために、ダイ2Aとしわ押さえ2Bを透過表示させている。
【0028】
なお、本実施形態では、ダイ2Aの貫通穴2Aaの半径が、しわ押さえ2Bの貫通穴2Baの半径よりも若干大きく設計され、曲げ試験の際に、試験片1は、上側に配置されたダイ2Aの貫通穴2Aaの上面視円弧形状の肩部位置で曲げられる。このため、しわ押さえ2Bの貫通穴2Baの形状は、断面円形である必要はない。
【0029】
<パンチ3>
パンチ3は、試験片1の変形部1Bの中央部位置に下側から当接する。そして、パンチ3は、上方にストロークすることで、試験片1に荷重を付加して、試験片1の変形部1Bの中心部を上側に向けて押圧して曲げ変形させる金型である。ここで、試験片1は、パンチ3が当接する変形部1B位置の板幅が最小板幅となっている。このため、試験片1は、パンチ3が当接する位置で、曲げ変形と共に引張変形が最も大きくなる。
【0030】
パンチ3の先端部3Aは、上面視で、ダイ2Aの貫通穴2Aaの中心と一致するように配置されている。そのパンチ3の先端部3Aの形状は、試験片1の板幅方向に延在し且つ断面が上側に凸の円弧形状となっている。
【0031】
<3次元形状測定装置4>
3次元形状測定装置4は、曲げ試験での曲げ変形による、少なくとも破断状態における、試験片1の破断箇所又は上記変形部1Bを含む領域の3次元形状データ(表面形状データ)を測定(取得)する装置である。3次元形状測定装置4は、破断状態となるまでの3次元形状データを連続的に取得してもよい。また、曲げ試験中の3次元形状データに加え、又はそれ代えて、試験前後の3次元形状データを取得しても良い。
本実施形態では、破断状態とは、曲げ変形により、試験片1が完全に破断する状態又は完全に破断する直前の状態を指す。
【0032】
本実施形態の3次元形状測定装置4は、図2に示すように、カメラ4A(撮像部)と、3次元形状データ取得部4Bとを備える。
カメラ4Aは、試験片1の変形部1Bの上面(曲げ外側表面)を撮影する。カメラ4Aは、DICによる画像解析を実施する場合は2台以上使用する。また、試験片1の曲げ外側の状態をより高解像度で撮影できるように、カメラ4Aから試験片1表面までの距離、カメラ4Aの設置位置、使用するレンズの倍率などを決定する。
【0033】
本実施形態の3次元形状データ取得部4Bは、カメラ4Aが撮影した画像データに基づき、デジタル画像相関法によるコンピュータ処理を実行して、曲げ変形に伴う、試験片1の破断部又は変形部1Bを含む箇所の3次元形状データを取得する。
【0034】
本実施形態では、曲げ試験実施後の試験片1のうち、曲げ試験により完全に破断分離した試験片1の場合は、その破断箇所を含めて破断部位の形状を測定して、3次元形状データの生成を行う。また、破断直前の完全に分離していない場合は、試験片1の曲げ変形部1B(ネッキング部)を含む領域を形状測定し、3次元形状データの生成を行う。ネッキング部とは、平面視で、変形部1Bにおける、パンチ3の当接位置を指す。なお、曲げ試験途中の3次元形状データも取得して用いても良い。
【0035】
[3次元形状測定装置4の他の例]
3次元形状測定装置4は、光投影方式の形状測定機から構成しても良い。光投影方式の形状測定機は、光照射により物体の形状を認識する。この場合、上記の曲げ変形に伴う3次元形状の測定は、光照射により物体(試験片)の形状を認識することで実行される。
【0036】
ここで、光投影方式は、測定対象物にパターン光を照射して得られた形状情報を回転させながら複数回測定することで、360度の形状情報を認識する方式である。これにより、少なくとも破断箇所又は上記変形部を含む領域における、試験片1の表裏両面を含む全周の形状情報を取得可能となる。3次元形状測定の測定方式や線源は、上記に限定されず、レーザー光やX線CTによる方式でもよい。
【0037】
<形状変化情報取得部5>
形状変化情報取得部5は、3次元形状測定装置4が取得した3次元形状データに基づき、曲げ変形に伴う、試験片1の形状変化の情報を取得する。
【0038】
形状変化の情報としては、破断箇所表面の破断ひずみ、破断部位表面のひずみ分布が例示できる。
また、形状変化の情報として、3次元形状データを参照しないで取得する情報がある。例えば、破断状態(破断若しくは破断直前)となった際のパンチ3による荷重である破断荷重(応力)や、破断若しくは破断直前のパンチ3のストローク量である破断ストローク量がある。なお、これらは、パンチ3のストローク量を測定したり、ロードセルなどの荷重センサで荷重を測定したりするなどの、公知の方法で測定可能である。
【0039】
[破断限界ひずみの取得の例]
ここで、限界板厚による破断限界ひずみの取得について説明する。この処理は、例えばコンピュータ処理で実行する。
【0040】
まず、破断限界板厚を計測するため、3次元形状データから2次元断面プロファイルの抽出を行う破断部位を決定する。
ここで、断面プロファイルの抽出箇所は、ひずみ状態により板幅方向のひずみの偏りがある場合がある。このため、板幅方向全域の表面ひずみの分布傾向を求める。そして、破断箇所で最も表面ひずみが大きく板厚減少の大きくなる箇所を含むように、断面プロファイルの抽出を行う。また、抽出箇所を複数箇所選ぶことで、板幅方向全域の傾向を捉えられるようにすることが好ましい。なお、計測によるばらつきが影響すると考えられるため、板幅方向にひずみの偏りが小さい場合でも、抽出箇所として複数箇所を選び計測することが好ましい。
【0041】
<評価部6>
評価部6は、形状変化情報取得部5が取得した形状変化情報によって、曲げ変形に伴う材料の耐破断特性を評価する。評価部6による耐破断特性の評価指標としては、表面の破断ひずみが挙げられる。
また、評価部6によらない別の評価指標として、破断状態(破断若しくは破断直前)となった際の最小板厚である破断時板厚からなる特性値がある。この破断時板厚は、(後述する、板厚分布測定装置による)2次元断面プロファイルから測定することができる。
ここで、形状変化情報として、試験片1の元板厚を基準とした板厚の変化量や変化率、又は、下記式(1)で計算される対数ひずみ値εtのうちのいずれかの特性値が例示できる。そして、これらの特性値から、曲げ変形に伴う材料の耐破断特性を評価する。本実施形態では、破断時板厚は、曲げ試験による曲げ破断時の板厚、又は上記曲げ試験によるネッキング部での最小板厚として定義する。ネッキング部とは、パンチ3の先端部3Aが当接する部分で、一番板幅が狭い部分である。本実施形態では、このネッキング部で最も変形が大きくなる条件に設定されている。
【0042】
εt=ln(t/t0) ・・・(1)
ここで、tは破断時板厚、t0は上記試験片1の元板厚、lnは自然対数を表す。
また、評価に使用する特性値として、試験片1の変形部1Bにおける、板幅方向の任意の1箇所又は複数箇所で求めた特性値における、最大値、最小値又は平均値を使用することが好ましい。
【0043】
(動作その他)
試験片1を、材料拘束治具2の貫通穴2Aaの部分に変形部1Bが位置するようにして、当該材料拘束治具2で左右の拘束部1Aを同時に拘束する。このとき、パンチ3は、材料拘束治具2の貫通穴2Ba部分に配置しておく。
曲げ試験においては、パンチ3を材料拘束治具2の貫通穴2Aa、2Baの部分の軸方向に沿って試験片1に向けてストロークするように移動させる。これによって、パンチ3の先端部3Aが試験片1の変形部1Bに接触し、パンチ3が接触した変形部1Bは、板厚方向にパンチ3の先端部3Aで押圧されて曲げ変形を受ける。
【0044】
一方、試験片1は左右の拘束部1Aで移動が拘束されているため、この変形の際、パンチ3が接触した変形部1Bの曲げ変形とともに、変形部1Bは引張変形を受ける。
このとき、パンチ3の先端部3Aの断面円弧形状部分の曲率半径を変更することで、上記の曲げ変形と引張変形のバランスを調整できる。したがって、異なる曲率半径を有する複数種類のパンチ3を用いて曲げ試験を行う方が好ましい。
【0045】
曲げ試験中にパンチ3に掛かる荷重とパンチ3のストローク量を計測する。そして、時間-荷重又はストローク-荷重曲線を確認しながら試験を行う。これによって、曲げ破断発生によって荷重が低下するタイミングで直ちにパンチ3の移動(ストローク)を停止し試験終了する。曲げ破断発生によって荷重が低下する状態が、破断状態である。これによって、曲げ試験において、試験片1の変形や破断を系統的な条件で与えることができる。なお、パンチ荷重(試験荷重)が低下に移行した破断状態には、試験片1が完全に破断している状態と、破断直前の状態(破断とみなせる状態:この場合も破断と呼ぶ)とがある。
【0046】
試験終了のタイミングを決めるその他の方法として、曲げ変形部1Bの変形や亀裂の状態をその場観察して破断発生を確認する方法や、音により破断を確認するなどの方法でもよい。
そして、破断が発生した際の、試験片1の変形部1Bの状態から、金属板材料の耐破断特性を評価する。
【0047】
このあと、曲げ変形に伴う2次元断面プロファイルを測定する方法を採用した場合、コンピュータ処理で、その2次元断面プロファイルから破断限界ひずみなどの形状変化の情報を取得して、耐破断特性を評価することもできる。
【0048】
また、評価する金属板材料の部材適用時の材料拘束条件に基づき、コンピュータ処理によるCAE解析を行って、評価する金属板材料に掛かる曲げ変形と引張変形のバランスを求める。そして、そのバランスに対応する曲率半径の断面円弧形状の先端部を有するパンチ3で曲げ試験を行うようにしてもよい。また、断面円弧形状部分の曲率半径が異なるパンチ3でそれぞれ曲げ試験を行い、その評価結果と、上記CAEで解析して求めた曲げ変形と引張変形のバランスとから、金属板材料の耐破断特性を評価するようにしても良い。
【0049】
(その他)
本開示は、次の構成も取り得る。
(1)金属板材料の曲げ変形による耐破断特性を評価する材料評価方法であって、
評価する金属板材料から作製した短冊状の試験片を用意し、
上記試験片の長手方向両側部分を材料拘束治具で拘束し、上記試験片における拘束された上記長手方向両側部分の間の領域である変形部を、パンチの先端部で板厚方向に押圧して曲げ変形させる曲げ試験を、上記試験片が完全に破断する状態又は完全に破断する直前の状態で定義される破断状態となるまで実施し、
上記パンチの先端部の形状は、試験片の幅方向に延在し且つ断面が凸状となる円弧形状となっており、
少なくとも上記破断状態における、上記試験片の破断箇所又は上記変形部を含む領域の3次元形状データを測定し、その測定した3次元形状データから得られた上記試験片の形状変化の情報をもとに上記試験片の破断部位を特定して、材料の曲げ変形による耐破断特性を評価する、
金属板材料の材料評価方法。
(2)上記試験片の変形部は、上記パンチの先端部が当接する部分であるネッキング部の板幅が最小板幅となっており、
上記測定した3次元形状データに基づいて上記試験片の破断部位を特定して、上記破断状態における、破断箇所の板厚又は上記ネッキング部での最小板厚で定義される破断時板厚を求め、
上記破断時板厚、上記試験片の元板厚を基準とした板厚の変化量、変化率、及び下記式(1)で計算される対数ひずみ値εtのうちから選択した特性値を、材料の評価に使用し、
上記評価に用いる特性値について、上記試験片の板幅方向の任意の1箇所又は複数箇所で求めた特性値の最大値、最小値、及び平均値から選択した少なくとも1つの値を使用して、材料の評価を行う。
εt=ln(t/t0) ・・・式(1)
ここで、tは破断時板厚、t0は上記試験片の元板厚、lnは自然対数を表す。
(3)上記曲げ変形中の、上記パンチに掛かる試験荷重を記録し、
上記試験荷重の変動により上記破断状態の発生を検出する。
(4)上記曲げ試験中又は試験前後の上記変形部の曲げ外側表面をカメラで撮影し、上記撮影した画像から上記3次元形状データとなる表面形状データを取得し、
その取得した上記表面形状データから、上記破断状態における、上記変形部での曲げ外側のひずみ分布とその時間変化の情報、割れの発生及び進展の情報、及び割れの分布の情報の少なくとも一つの情報を取得し、
取得した情報に基づいて、上記破断状態や破断箇所を検出する。
(5)上記曲げ試験中又は試験前後の上記変形部の曲げ外側表面をカメラで撮影し、上記撮影した画像から上記3次元形状データとなる表面形状データを取得し、
その取得した上記表面形状データから、上記破断状態となった上記試験片の表面の破断ひずみを取得し、
その取得した表面の破断ひずみで耐破断特性を評価する。
(6)金属板材料の曲げ変形による耐破断特性を評価する材料評価装置であって、
評価する金属板材料から作製された短冊状の試験片の長手方向両側部分を拘束する材料拘束治具と、上記試験片における、拘束された上記長手方向両側部分の間の領域である変形部に当接し上記変形部を板厚方向に押圧して曲げ変形させるパンチと、を有し、
上記パンチの先端部の形状は、試験片の幅方向に延在し且つ断面が凸状となる円弧形状となっており、
更に、
上記パンチで曲げ変形される上記変形部の曲げ外側の面の3次元形状データを取得する3次元形状測定装置と、
上記3次元形状測定装置が取得した3次元形状データから、曲げ変形に伴う上記試験片の形状変化の情報を取得する形状変化情報取得部と、
上記形状変化情報取得部が取得する形状変化の情報に基づき、材料の曲げ変形による耐破断特性を評価する評価部と、
を備える金属板材料の材料評価装置。
(7)上記3次元形状測定装置は、
上記パンチで曲げ変形される上記変形部の曲げ外側の面を撮影するカメラと、
上記カメラが撮影した画像を、コンピュータを用いたデジタル画像相関法によって処理して、上記変形部の曲げ外側の面の3次元形状データを取得する3次元形状データ取得部と、
を備える。
(8)上記試験片は、上記変形部のうち、上記パンチが当接する部分の板幅が最小となっている。
(9)上記材料拘束治具は、上記試験片の板幅よりも大きな直径の断面円形の貫通穴を有し、上記パンチの移動方向で対向する下型と上型とを有し、上面視、その貫通穴の位置に、上記試験片の変形部が配置された状態で、当該試験片を拘束する。
【実施例0050】
次に、本実施形態の曲げ試験及び耐破断特性の評価方法(曲げ性能評価)に基づく実施例を示す。
【0051】
(試験片1について)
本実施例に示す曲げ試験では、特性の異なる3鋼種の引張強度980MPa級の材料A、B、Cを評価する金属板材料とした。
表1に、3つの材料の材料特性を示す。
【表1】
【0052】
各材料A,B,Cについて、それぞれの試験片1を作製した。試験片1の加工は、せん断加工と端面の研削加工により作製した。また、図5に、本実施例における試験片1の加工寸法を示す。各寸法の単位は、[mm]である。他の図も同様である。
【0053】
また、変形部1Bに対し、DIC解析を行うための解析用パターンを電解エッチングにより転写した。パターンは、φ0.5mmの円形のドットを1mm間隔で格子状に整列させたグリッドパターンとした。パターンは、図1における網掛け部分に転写した。
【0054】
(装置について)
図6に、本実施例で用いたパンチ3、材料拘束治具2であるダイ2A及びしわ押さえ治具の寸法を示す。
パンチ3として、パンチ3の先端部3Aが有する断面円弧形状の曲率半径が、R=1、2.5、5、20、40mmである、5種類のパンチ3を用いた。この曲率半径をパンチ3Rとも呼ぶ。
また、ダイ2A及びしわ押さえの貫通穴2Aa、2Ba部分の穴直径はそれぞれ59mm、50.5mmとし、ダイ2Aの肩R=5mmとした。
【0055】
(曲げ試験)
本実施例の曲げ試験では、図6のように、パンチ3の移動方向の軸と、ダイ2Aとしわ押さえ治具の貫通穴2Aa、2Baの中心軸を全て一致させた状態で、パンチ3、ダイ2A及びしわ押さえ2Bを、深絞り試験機に設置した。
【0056】
そして、ダイ2Aとしわ押さえ治具との間に、試験片1を変形部1Bがダイ2Aの貫通穴2Aaの中心に配置されるよう設置した。続いて、しわ押さえ荷重を20tonかけて試験体の左右拘束部1Aを拘束した。その後、パンチ3の円弧形状部を試験片1の変形部1Bの中央に接触させ、試験片1の曲げ変形部1Bを変形させた。
この過程におけるパンチ3に掛かる荷重とストローク(変位量)を測定し、荷重-ストローク曲線を出力した。なお、パンチ3速度は2mm/minとした。
【0057】
(測定)
求めた荷重-ストローク曲線の例を図7に示す。図7は、材料Aの場合の例である。
上記の荷重-ストローク曲線から次のことが分かる。すなわち、曲げ変形の開始とともに荷重が立ち上がり、ある変形ストロークにおいて曲げ変形部1Bで破断が起こるとともに最大荷重を示す。ここで、パンチ3の荷重が減少したタイミングで、直ちにパンチ3の移動を停止し試験を終了した。上記の最大荷重を示した変形ストロークを破断ストロークと定義する。
【0058】
また、試験片1の曲げ外側(上面)の変形状態を撮影した。その画像の3次元DIC解析を行うため、2台の一眼レフ型カメラ4Aを、ダイ2Aの貫通穴2Aaから試験片1の曲げ外側を撮影できる位置に調整し固定した。曲げ試験を開始し、曲げ変形が始まり、荷重が立ち上るとともにカメラ4Aでの連続撮影を開始し、撮影速度は1枚/秒とした。上述のように、曲げ試験は、試験片1の破断により荷重が減少した後の適当なタイミングで終了した。
【0059】
その後、撮影した連続写真に3次元DIC解析を適用して、試験前の平板状態でのひずみを0としたときの試験片1の曲げ外側のひずみ量を解析した。そして、上記破断ストローク時の試験片1の曲げ外側のひずみ量を求めた。上記ひずみ量を破断ひずみと定義する。
【0060】
(評価)
図7に、材料Aにおける各パンチ3Rでの荷重-ストローク曲線を示す。図7中に示した×印は、破断により最大荷重点をむかえ荷重低下が発生するタイミングを示している。この最大荷重点のストロークが破断ストロークである。
【0061】
また、図8に、材料Aにおける、各パンチ3Rでの最大荷重点における曲げ外表面の変形部1Bを撮影した画像を示す。
【0062】
図8から分かるように、パンチ3Rが小さい場合にはパンチ3接触部分のみに微小Rの曲げ変形が発生する。一方で、パンチ3Rが大きくなるにつれて曲げ変形領域が広がるとともに、引張変形のモードが複合していることがわかる。このように、金属板材料の使用時に発生する変形モードに応じてパンチ3Rを選択することで、より適切に耐破断特性を評価できることが分かる。
【0063】
表2に、各材料とパンチ3Rの条件における破断ストロークと表面の破断ひずみの値を示す。
【表2】
【0064】
表2に示すように、材料により異なる破断ストロークや表面の破断ひずみを測定することができた。特に、表面の破断ひずみは、他の材料と比較して伸びElと穴広げ率λがともに低い材料Cにおいて低いことがわかる。これは曲げ変形中に許容できるひずみ量が材料ごとに異なることを意味している。以上のように破断ストロークや表面の破断ひずみにより曲げ性評価を行えることが確認できた。
【0065】
以上、図示例に基づき説明したが、本発明は上述の例に限定されるものでなく、例えば上記実施例では試験対象の金属板を高強度鋼板としたが、これに代えて通常の鋼板や他の板材、例えばアルミ板等とすることもできる。
【0066】
(3次元形状データに基づく限界板厚の取得)
図9に、曲げ試験で破断が発生した時の3次元形状データの例を示す。この例は、上述の3次元形状測定装置4とは別の、光投影方式の形状測定機で測定した3次元形状データである。図9(a)の例は、試験片1が完全に分離した例である。図9(b)の例は、完全に分離していないものの一部破断し分離する直前でネッキング部(パンチ3が当接した部分)に変形が発生している場合の例である。なお、この曲げ試験後の試験片1の3次元形状は、3次元形状測定装置4でも計測が可能である。
【0067】
そして、破断限界板厚を計測するため、2次元断面プロファイルを抽出する。図10及び図11に抽出した2次元断面プロファイルと限界板厚の計測例を示す。断面の抽出箇所については、初めに板幅全体の表面のひずみ分布の傾向を確認し、板幅端部付近を除く領域から、最も板厚減少した箇所を含む5箇所を選んで抽出した。断面の抽出箇所の選び方は他に、曲げ試験による曲げ外表面のひずみをDIC解析した結果から表面のひずみの値が最大となった箇所を含む複数箇所を選ぶ方法が考えられる。また、曲げ外側の変形を連続撮影した画像から変形の程度が大きい箇所や亀裂の発生起点となった箇所を含む複数箇所を選ぶ方法などが考えられる。
【0068】
限界板厚の計測方法について説明する。
本実施例では、板厚分布測定装置は、試験片1の試験後の破断部や板表裏面を含む、試験片全体の形状データを光投影方式の形状測定機で測定する装置である。そして、本実施例の板厚分布測定装置は、形状測定により得られた形状データから2次元断面プロファイルの解析を行うことで、試験片1の板厚分布を測定できる装置である。この本実施例の板厚分布測定装置は、3次元形状測定装置4とは別の装置である。
なお、試験片1の試験後の形状測定は、試験片1の材料拘束治具2から外して実行しても良い。また、試験片1の形状測定は、光投影方式以外に、レーザーを用いた3Dスキャナー方式の装置や有接触プローブ測定方式の装置やX線CT測定装置で測定した形状データから板厚を解析する方法だけでなく、超音波板厚測定装置その他の板厚測定装置で実行してもよい。
【0069】
図9(a)のように、試験後に完全に分離した試験片1については、図11(a)のように、断面プロファイルの曲線の曲率が最も大きく変化する位置を板表面と破断面の境界の点とする。そして、図11(a)のように、破断面の上面側の境界の点と、下面側の境界の点との板厚方向の距離を、限界板厚とした。
【0070】
また、図9(b)のように、試験後に完全に破断しなかった試験片1については、変形部1Bを含む領域内での板上下面の最小距離を、限界板厚とした。この場合、図10(b)に示すように、上面視で幅方向に向かう線状の凹部10が発生しており、図11(b)のように、その凹部10の位置での板上下面の最小距離を、限界板厚とした。
【0071】
(限界ひずみ)
表3に、計測した限界板厚と元板厚から計算した破断限界ひずみを示す。表3に示す各値は、5箇所の計測値の平均値、最大値及び最小値である。
【表3】
【0072】
材料A,B,Cの全ての材料について、パンチ3Rが5mmの条件では、破断限界ひずみの最大値、最小値、及び平均値の差が小さく、特にパンチ3Rが40mmと大きい条件では、破断限界ひずみの最大値、最小値、及び平均値の差が大きいことがわかる。これは、パンチ3Rの条件によって曲げ変形中の板幅方向のひずみの偏りがある場合があることを意味している。また、限界板厚の値を詳細に解析するには本実施例のように板幅方向全域の板厚減少の傾向を確認しておく必要があることが分かる。
このように、耐破断特性を最小、及び平均の値から選択した値で評価すると良いことが分かる。
【0073】
また、材料Cは、パンチ3Rによらず他材料と比較し限界ひずみの値が小さい。また材料Aの限界ひずみの値は、パンチ3Rの大きい条件では材料Bとほぼ同じである。一方、材料Aの限界ひずみの値は、パンチ3Rの小さい条件では材料Bに対し高い値であることが分かる。これは、材料Cが曲げ性に劣位である一方、材料Aの特にパンチ3Rの小さい条件では曲げ性に優位であることを示している。この結果、材料Aが衝突時の耐破断特性に優れていることを意味している。
【0074】
以上のように、本実施形態に示す曲げ試験方法と3次元形状データをもとにした限界板厚の評価方法により、材料の衝突時の耐破断特性を定量的に評価することができることが分かった。
【符号の説明】
【0075】
1 試験片
1A 拘束部
1B 変形部
1a 切欠き部
1b 境界線位置
2 材料拘束治具
2A ダイ
2Aa 貫通穴
2B しわ押さえ
2Ba 貫通穴
3 パンチ
3A 先端部
4 3次元形状測定装置
4A カメラ
4B 3次元形状データ取得部
5 形状変化情報取得部
6 評価部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11