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特開2024-142847モータ駆動制御装置、アクチュエータ、およびモータ駆動制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142847
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置、アクチュエータ、およびモータ駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 8/22 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
H02P8/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055202
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】中澤 一瑛
(72)【発明者】
【氏名】宇野 寿一
【テーマコード(参考)】
5H580
【Fターム(参考)】
5H580AA08
5H580CA02
5H580CA16
5H580EE03
5H580FA02
5H580FA14
5H580FA22
5H580FB01
5H580HH22
5H580KK03
(57)【要約】
【課題】モータのコイル電流を適切に制御する。
【解決手段】モータ駆動制御装置10は、PWM周期毎に、コイル21の電流の測定値Siと電流基準値Sisとを比較し、電流の測定値Siが電流基準値Sisに到達していない場合にコイル21の励磁モードとしてチャージモードを指定し、電流の測定値Siが電流基準値Sisに到達した場合にコイル21の励磁モードとして減衰モードを指定する。モータ駆動制御装置10は、低速減衰モードおよび高速減衰モードを組み合わせてコイル電流を回生させる混合減衰モードによってコイル電流を減衰させるとき、コイル電流が電流基準値に到達していることを検出した場合に、PWM周期内の減衰期間における高速減衰モードの期間の割合をその前のPWM周期内の減衰期間における高速減衰モードの期間の割合よりも大きくする増加処理を行う。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの駆動を制御するための駆動制御信号を生成する制御回路と、
前記駆動制御信号に基づいて、前記モータのコイルを励磁する駆動回路と、を備え、
前記制御回路は、
前記コイルに流れる電流であるコイル電流の測定値を取得する電流値取得部と、
前記コイルが指定された励磁モードに応じた状態となるようにPWM信号を生成し、前記駆動制御信号として出力する駆動制御信号生成部と、
前記コイルに流れる電流が正弦波状に変化するように、前記PWM信号のPWM周期毎に、前記コイル電流の基準となる電流基準値を設定する電流基準値設定部と、
前記PWM周期毎に、前記電流値取得部によって測定された前記コイル電流の測定値が前記電流基準値より低い場合に、前記コイル電流を増加させるチャージモードを前記励磁モードとして指定し、前記コイル電流の測定値が前記電流基準値以上である場合に、前記コイル電流を低下させる減衰モードを前記励磁モードとして指定する励磁モード指定部と、を有し、
前記減衰モードは、前記コイル電流を回生させる低速減衰モードと、前記低速減衰モードよりも高速に前記コイル電流を回生させる高速減衰モードと、前記低速減衰モードおよび前記高速減衰モードを組み合わせて前記コイル電流を回生させる混合減衰モードと、を含み、
前記励磁モード指定部は、前記混合減衰モードによって前記コイル電流を減衰させる場合に、一つの前記PWM周期内の前記コイル電流を減衰させる減衰期間において、最初に前記低速減衰モードおよび前記高速減衰モードの一方を指定し、次に前記低速減衰モードおよび前記高速減衰モードの他方を指定し、
前記励磁モード指定部は、前記混合減衰モードにおいて前記コイル電流が前記電流基準値に到達していることを検出した場合に、前記PWM周期内の前記減衰期間における前記高速減衰モードの期間の割合をその前の前記PWM周期内の前記減衰期間における前記高速減衰モードの期間の割合よりも大きくする増加処理を行う
モータ駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置において、
前記PWM周期における前記チャージモードの期間の長さの最小値を指定する最小時間を記憶する記憶部を更に有し、
前記励磁モード指定部は、前記PWM周期における前記チャージモードの期間が前記最小時間であることを検出した場合に、前記増加処理を行う
モータ駆動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ駆動制御装置において、
前記励磁モード指定部は、前記PWM周期毎に前記増加処理を行い、
前記記憶部は、前記高速減衰モードの期間の増加量を指定する単位増加時間を記憶し、
前記励磁モード指定部は、前記増加処理において、前記PWM周期内の前記減衰期間における前記高速減衰モードの期間を前記単位増加時間だけ増加させる
モータ駆動制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のモータ駆動制御装置において、
前記記憶部は、前記高速減衰モードの期間の長さの上限値を示す上限時間を記憶し、
前記励磁モード指定部は、前記コイル電流が前記電流基準値に到達していることを検出する毎に、前記PWM周期内の前記減衰期間における前記高速減衰モードの期間を前記単位増加時間ずつ前記上限時間まで増加させる
モータ駆動制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のモータ駆動制御装置において、
前記励磁モード指定部は、前記電流基準値がゼロに向かって変化する電流減衰期間における最初の期間である第1減衰期間の前記減衰モードとして前記低速減衰モードを指定し、前記電流減衰期間における前記第1減衰期間の後の残りの期間である第2減衰期間の前記減衰モードとして、前記混合減衰モードを指定する
モータ駆動制御装置。
【請求項6】
前記モータと、
請求項1乃至5の何れか一項に記載されたモータ駆動制御装置と、
前記モータの回転力を駆動対象に伝達する動力伝達機構と、を備えるアクチュエータ。
【請求項7】
モータ駆動制御装置によってモータの駆動を制御するためのモータ駆動制御方法であって、
前記モータ駆動制御装置が、前記モータのコイルが指定された励磁モードに応じた励磁状態となるようにPWM信号を生成し、前記PWM信号に基づいて前記モータを駆動する第1ステップと、
前記モータ駆動制御装置が、前記コイルに流れる電流であるコイル電流が正弦波状になるように、前記PWM信号のPWM周期毎に、前記コイル電流の基準となる電流基準値を設定する第2ステップと、
前記モータ駆動制御装置が、前記PWM周期毎に、前記コイル電流の測定値が前記電流基準値より低い場合に、前記コイル電流を増加させるチャージモードを前記励磁モードとして指定し、前記コイル電流の測定値が前記電流基準値以上である場合に、前記コイル電流を低下させる減衰モードを前記励磁モードとして指定する第3ステップと、を含み、
前記減衰モードは、前記コイル電流を回生させる低速減衰モードと、前記低速減衰モードよりも高速に前記コイル電流を回生させる高速減衰モードと、前記低速減衰モードおよび前記高速減衰モードを組み合わせて前記コイル電流を回生させる混合減衰モードと、を含み、
前記第3ステップは、
前記モータ駆動制御装置が、前記混合減衰モードによって前記コイル電流を減衰させる場合に、一つの前記PWM周期内の前記コイル電流を減衰させる減衰期間において、最初に前記低速減衰モードおよび前記高速減衰モードの一方を指定し、次に前記低速減衰モードおよび前記高速減衰モードの他方を指定する第4ステップと、
前記モータ駆動制御装置が、前記混合減衰モードにおいて前記コイル電流が前記電流基準値に到達していることを検出した場合に、前記PWM周期内の前記減衰期間における前記高速減衰モードの期間の割合をその前の前記PWM周期内の前記減衰期間における前記高速減衰モードの期間の割合よりも大きくする増加処理を行う第5ステップと、を含む、
モータ駆動制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動制御装置、アクチュエータ、およびモータ駆動制御方法に関し、例えば、ステッピングモータを駆動するためのモータ駆動制御装置、当該モータ駆動制御装置を搭載したアクチュエータ、およびステッピングモータを駆動するためのモータ駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステッピングモータやブラシレスDCモータ等のモータの駆動制御方法として、モータのコイルに流れる電流であるコイル電流が正弦波状になるようにコイルを駆動する方法が知られている。
【0003】
例えば、ステッピングモータの駆動方式の一つであるマイクロステップ方式では、モータ駆動制御装置が、ステッピングモータを構成する各相のコイル電流が正弦波状になるように電流の基準値(指令値)を階段状に変化させるとともに、コイル電流を監視し、コイル電流の検出値が基準値を超えないように、各相のコイルの励磁状態を切り替える。
【0004】
一般に、マイクロステップ方式では、ステッピングモータの電気角θ(ロータの位置)に応じて、コイル電流を正または負の方向に増加させる期間と、コイル電流をゼロに向かって変化させる期間とが交互に繰り返されることにより、コイル電流が正弦波状になるように制御される。
【0005】
一般に、マイクロステップ方式によってステッピングモータの駆動を制御する場合に、電流を減衰させるための制御方式(励磁モード)として、コイル電流を回生させる低速減衰(Slow Decay)モードと、低速減衰モードよりも高速に電流を回生させる高速減衰(Fast Decay)モードとが、知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-254542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のマイクロステップ方式によるステッピングモータの駆動方法では、コイル電流をゼロに向かって変化させる減衰期間における最初の所定の期間において、低速減衰モードによりコイル電流を徐々に低下させ、その後の期間において、高速減衰モードにより、コイル電流を急速に低下させることが一般的である。
【0008】
上述した従来の駆動方法では、減衰期間において低速減衰モードから高速減衰モードに切り替えたとき、コイル電流の減衰量が大きく変化する。このコイル電流の減衰量の変化により、コイル電流の波形に大きな歪み(リプル)が生じ、その歪みによってステッピングモータから大きな異音が発生する場合がある。
【0009】
一方、コイル電流のリプルを低減するために、減衰期間において高速減衰モードよりも低速減衰モードの時間を長くした場合、コイル電流を十分に低下させることができず、コイル電流を正弦波状に変化させることができない場合がある。
【0010】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、モータのコイル電流を適切に制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置は、モータの駆動を制御するための駆動制御信号を生成する制御回路と、前記駆動制御信号に基づいて、前記モータのコイルを励磁する駆動回路と、を備え、前記制御回路は、前記コイルに流れる電流であるコイル電流の測定値を取得する電流値取得部と、前記コイルが指定された励磁モードに応じた状態となるようにPWM信号を生成し、前記駆動制御信号として出力する駆動制御信号生成部と、前記コイルに流れる電流が正弦波状に変化するように、前記PWM信号のPWM周期毎に、前記コイル電流の基準となる電流基準値を設定する電流基準値設定部と、前記PWM周期毎に、前記電流値取得部によって測定された前記コイル電流の測定値が前記電流基準値より低い場合に、前記コイル電流を増加させるチャージモードを前記励磁モードとして指定し、前記コイル電流の測定値が前記電流基準値以上である場合に、前記コイル電流を低下させる減衰モードを前記励磁モードとして指定する励磁モード指定部と、を有し、前記減衰モードは、前記コイル電流を回生させる低速減衰モードと、前記低速減衰モードよりも高速に前記コイル電流を回生させる高速減衰モードと、前記低速減衰モードおよび前記高速減衰モードを組み合わせて前記コイル電流を回生させる混合減衰モードと、を含み、前記励磁モード指定部は、前記混合減衰モードによって前記コイル電流を減衰させる場合に、一つの前記PWM周期内の前記コイル電流を減衰させる減衰期間において、最初に前記低速減衰モードおよび前記高速減衰モードの一方を指定し、次に前記低速減衰モードおよび前記高速減衰モードの他方を指定し、前記励磁モード指定部は、前記混合減衰モードにおいて前記コイル電流が前記電流基準値に到達していることを検出した場合に、前記PWM周期内の前記減衰期間における前記高速減衰モードの期間の割合をその前の前記PWM周期内の前記減衰期間における前記高速減衰モードの期間の割合よりも大きくする増加処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るモータ駆動制御装置によれば、モータのコイル電流を適切に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態に係るモータ駆動制御装置を搭載したアクチュエータの構造の一例を示す分解斜視図である。
図2】モータおよびモータ駆動制御装置の構成を模式的に示す図である。
図3】実施の形態に係るモータ駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
図4A】チャージモードを説明するための図である。
図4B】低速減衰モードを説明するための図である。
図4C】高速減衰モードを説明するための図である。
図5】モータのコイル電流と駆動制御信号の時間的な変化を示すタイミングチャートである。
図6図5における電流減衰期間TDの一部を拡大した図である。
図7】第1減衰期間Td1におけるコイル電流の時間的な変化の一例を示す図である。
図8】第2減衰期間Td2におけるコイル電流の時間的な変化の一例を示す図である。
図9】混合減衰モードにおける高速減衰モードの期間を増加する増加処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図10A】比較例としての本願発明者による先行検討例に係るモータ駆動制御装置によってモータを駆動したときのコイル電流の実測結果を示す図である。
図10B】実施の形態に係るモータ駆動制御装置によってモータを駆動したときのコイル電流の実測結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0015】
図1は、実施の形態に係るモータ駆動制御装置を搭載したアクチュエータの構造の一例を示す分解斜視図である。
【0016】
アクチュエータ(モータユニット)1は、例えば、車載用途の空調ユニットとしてのHVAC(Heating Ventilation and Air-Conditioning)システムにおける空調装置を駆動するための装置である。アクチュエータ1としては、ダンパアクチュエータ、弁アクチュエータ、ファンアクチュエータ、ポンプアクチュエータ等のHVACシステムで使用可能な各種のアクチュエータを例示することができる。
【0017】
HVACシステムにおいて、アクチュエータ1は、例えば、他のアクチュエータとともに、上位装置としてのECU(不図示)とバスを介して互いに接続され、LIN(Local Interconnect Network)通信ネットワークを構成している。
【0018】
図1に示されるように、アクチュエータ1は、ケース51とカバー52とで覆われている。アクチュエータ1の内部には、モータ20と、モータ20の駆動を制御するモータ駆動制御装置10と、モータ20の回転力を駆動対象に伝達する動力伝達機構としての1次ギヤ26、2次ギヤ31、3次ギヤ32、および出力ギヤ33とが収納されている。
【0019】
モータ20は、アクチュエータ1の駆動力を発生させる。モータ20は、例えばステッピングモータである。本実施の形態では、モータ20が、A相のコイルおよびB相のコイルを有する2相ステッピングモータであるとして説明する。モータ20は、後述するように、モータ駆動制御装置10から各相のコイルに駆動電力が供給されて動作する。
【0020】
図2は、モータ20およびモータ駆動制御装置10の構成を模式的に示す図である。
【0021】
上述したように、モータ20は、2相ステッピングモータである。図2に示されるように、モータ20は、A相のコイル21aと、B相のコイル21bと、ロータ22と、2相のステータ(図示せず)とを有している。
【0022】
コイル21a,21bは、それぞれ、ステータ(不図示)を励磁するコイルである。コイル21aは、モータ端子29として、正極端子APと負極端子ANを有する。コイル21bは、モータ端子29として、正極端子BPと負極端子BNとを有する。コイル21aの正極端子APおよび負極端子ANと、コイル21bの正極端子BPおよび負極端子BNとは、駆動回路14を構成するインバータ回路143a,143bに接続されている。インバータ回路143a,143bの詳細については後述する。
【0023】
コイル21a,21bは、インバータ回路143a,143bによって駆動される。これにより、コイル21a,21bには、互いに位相が異なる電流Ia,Ibが流れる。例えば、コイル21a,21bには、互いに位相が90度ずれた電流Ia,Ibが流れる。
【0024】
なお、以下の説明において、コイル21aとコイル21bとを区別しない場合には、単に、「コイル21」と表記する。
【0025】
ロータ22は、円周方向に沿って、S極22sとN極22nとが交互に反転するように、多極着磁された永久磁石を備えている。なお、図2では、一例として、ロータ22が2極である場合が示されている。
【0026】
ステータ(不図示)は、ロータ22の周囲に、ロータ22の外周部に近接して配置されている。ロータ22は、コイル21a,21bのそれぞれに流れるコイル電流の位相が周期的に切り替えられることにより、回転する。ロータ22には、出力軸25が接続されており、ロータ22の回転力により、出力軸25が駆動される。
【0027】
図1に示すように、モータ20の出力軸25には、1次ギヤ26が取り付けられている。モータ20の1次ギヤ26は、2次ギヤ31と噛み合っている。2次ギヤ31は、3次ギヤ32と噛み合っている。3次ギヤ32は、出力ギヤ33と噛み合っている。ケース51の底面には、出力ギヤ33に設けられている外部出力ギヤ(不図示)が露出し、この外部出力ギヤが駆動対象に連結されている。
【0028】
モータ駆動制御装置10は、モータ20を駆動させるための装置である。モータ駆動制御装置10は、例えば,バスを介して上位装置(ECU)との間で通信を行う。モータ駆動制御装置10は、上位装置から受信した制御フレームである駆動指令Scに基づいて、モータ20の各相のコイル21a,21bの通電状態を制御することにより、モータ20の回転および停止を制御して、アクチュエータ1全体の動作を制御する。モータ駆動制御装置10がモータ20を駆動することにより、モータ20の出力軸25に接続された1次ギヤ26が回転する。1次ギヤ26の回転による駆動力が2次ギヤ31、3次ギヤ32、出力ギヤ33、外部出力ギヤと順に伝達され、外部出力ギヤが駆動対象である空調装置の可動部を駆動する。
【0029】
図1に示すように、モータ駆動制御装置10は、ハードウェア資源として、例えば、プリント基板42と、プリント基板42とモータ20のモータ端子29とを接続するフレキシブルプリント基板43とを有している。プリント基板42には、制御回路12、駆動回路14、および複数の外部接続端子41が設けられている。
【0030】
なお、ケース51およびカバー52の内部に収納される回路は、駆動回路14だけであってもよい。例えば、モータ駆動制御装置10は、ケース51およびカバー52の内部に設けられた駆動回路14と、ケース51およびカバー52の外部に設けられた制御回路12とによって構成されるようにしてもよい。
【0031】
図2に示すように、モータ駆動制御装置10は、制御回路12および駆動回路14を備えている。
【0032】
制御回路12は、モータ20のコイル21に流れる電流であるコイル電流が、当該コイル電流の目標値である電流基準値に一致するように、モータ20の駆動を制御するための駆動制御信号としてのPWM信号を生成する。具体的には、制御回路12は、上位装置(ECU)からの駆動指令Scに基づいて、モータ20のA相のコイル21aを励磁するための駆動制御信号Sdaと、モータ20のB相のコイル21bを励磁するための駆動制御信号Sdbとを生成して駆動回路14に供給することにより、モータ20の回転を制御する。なお、以下の説明において、駆動制御信号Sdaと駆動制御信号Sdbを区別しない場合には、駆動制御信号Sdaおよび駆動制御信号Sdbを「駆動制御信号Sd」と表記する。
【0033】
駆動指令Scは、モータ20の目標とする状態を指示する信号である。駆動指令Scは、例えば、モータ20の回転速度を指定する情報、およびモータ20の目標となる回転角度(目標回転位置)を指定する情報等を含む。
なお、制御回路12の詳細については後述する。
【0034】
駆動回路14は、制御回路12から出力された駆動制御信号Sdに基づいて、モータ20のコイル21を通電する制御を行う。駆動回路14は、モータ20のコイル21を駆動するためのインバータ回路143とモータ20のコイル21に流れる電流を検出するための電流センサ144とを有する。
【0035】
インバータ回路143は、駆動制御信号Sdに基づいて、モータ20に駆動電力を供給する。図2に示すように、インバータ回路143は、例えば、駆動対象のコイル21a,21b毎に対応して設けられている。例えば、図2に示すように、A相のコイル21aを駆動するためのインバータ回路143aとB相のコイル21bを駆動するためのインバータ回路143bが設けられている。インバータ回路143a,143bは、例えば、Hブリッジ回路によって構成されている。
【0036】
なお、以下の説明において、インバータ回路143aとインバータ回路143bとを区別しない場合には、インバータ回路143aおよびインバータ回路143bを「インバータ回路143」と表記する場合がある。
【0037】
図2に示すように、インバータ回路143aは、A相のコイル21aの正極端子APとコイル21aの負極端子ANとに接続されている。インバータ回路143bは、B相のコイル21bの正極端子BPとコイル21bの負極端子BNとに接続されている。
【0038】
インバータ回路143aは、制御回路12から出力された駆動制御信号Sdaに基づいて、正極端子APと負極端子ANとの間に電圧Vaを印加することにより、コイル21aに電流Iaを流す。インバータ回路143bは、制御回路12から出力された駆動制御信号Sdbに基づいて、正極端子BPと負極端子BNとの間に電圧Vbを印加することにより、コイル21bに電流Ibを流す。
【0039】
例えば、A相のコイル21aを正側に励磁する場合、すなわち、コイル21aの正極端子APから負極端子ANに電流Ia(+)を流す場合、負極端子ANに対する正極端子APの電圧Vaを“正”にする。一方、A相のコイル21aを負側に励磁する場合、すなわち、コイル21aの負極端子ANから正極端子APに電流Ia(-)を流す場合、負極端子ANに対する正極端子APの電圧Vaを“負”にする。B相のコイル21bを励磁する場合も同様である。以下の説明において、コイル21aに流れる電流を「コイル電流Ia」、コイル21bに流れる電流を「コイル電流Ib」と称する場合がある。
【0040】
なお、インバータ回路143の具体的な回路構成およびインバータ回路143による具体的なコイル21の励磁方法については後述する。
【0041】
図2に示すように、電流センサ144は、例えば、駆動対象のコイル21a,21b毎に対応して設けられている。例えば、図2に示すように、A相のコイル21aに流れるコイル電流Iaを検出するための電流センサ144aと、B相のコイル21bに流れるコイル電流Ibを検出するための電流センサ144bとが設けられている。
【0042】
電流センサ144a,144bは、例えば、検出対象のコイル21a,21bのコイル電流Ia,Ibを電圧に変換するシャント抵抗をそれぞれ含む。詳細は後述するが、シャント抵抗は、各相のコイル21a,21b毎に設けられ、インバータ回路143a,143bのグラウンド電位GND側または電源電圧VDDにインバータ回路143a,143bと直列に接続されている。電流センサ144aは、シャント抵抗の両端の電圧をA相のコイル電流Iaの測定値を表す電流検出信号Viaとして出力する。電流センサ144bは、シャント抵抗の両端の電圧をB相のコイル電流Ibの測定値を表す電流検出信号Vibとして出力する。
【0043】
制御回路12は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の各種メモリ、タイマ、カウンタ、A/D変換回路、入出力I/F回路、およびクロック生成回路等のハードウェア要素を有し、各構成要素がバスや専用線を介して互いに接続されたプログラム処理装置(例えば、マイクロコントローラ:MCU(Micro Control Unit))である。制御回路12は、メモリとして、例えば、フラッシュメモリやEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の書き換え可能な不揮発性の記憶装置を有している。
【0044】
制御回路12は、主として、モータ20が駆動指令Scによって指定された状態となるように、モータ20の通電を制御する機能を有する。具体的には、制御回路12は、所定の励磁方式に基づく所定のタイミングでA相のコイル21aとB相のコイル21bを励磁するように、駆動制御信号Sda,Sdbを生成してインバータ回路143a,143bを駆動することにより、モータ20を駆動指令Scによって指定された目標回転位置まで移動(回転)させる。
【0045】
ここで、所定の励磁方式とは、例えば、公知の、1相励磁方式、2相励磁方式、1-2相励磁方式、およびマイクロステップ方式の何れかである。本実施の形態では、所定の励磁方式が2相マイクロステップ方式である場合を例にとり、説明する。
【0046】
制御回路12は、2相マイクロステップ方式によって駆動制御信号Sdを生成する。例えば、制御回路12は、モータ20を構成する各相のコイル21a,21bのコイル電流Ia,Ibが正弦波状になるように、コイル電流の目標値である電流基準値(目標電流値)Sisa,Sisbを階段状に変化させるとともに、コイル電流Ia,Ibを監視し、コイル電流Ia,Ibの測定値Sia,Sibが電流基準値Sisa,Sisbを超えないように、各相のコイル21a,21bの励磁状態を切り替える。より具体的には、制御回路12は、モータ20のコイル電流Ia,Ibの測定値Sia,Sibと電流基準値Sisa,Sisbとの大小関係に応じてパルス幅が変化するPWM信号(駆動制御信号Sda,Sdb)を相毎に生成し、駆動回路14を介してモータ20の駆動を制御するPWM制御を行う。
【0047】
図3は、実施の形態に係るモータ駆動制御装置における制御回路12の機能ブロック構成を示す図である。
【0048】
図3に示すように、制御回路12は、上述した機能を実現するための機能ブロックとして、例えば、電流値取得部120、比較部121、電流基準値設定部122、記憶部123、励磁モード指定部124、および駆動制御信号生成部126を有している。これらの機能ブロックは、上述したMCU内のプロセッサが、メモリに記憶されているプログラムに従って各種演算を実行するとともに、タイマおよびカウンタ、A/D変換回路および入出力I/F回路等の周辺回路を制御することによって、実現される。
【0049】
なお、制御回路12は、上記機能に加えて、例えば、モータ20の逆起電圧に基づいてモータ20の脱調の発生の有無を判定する機能を有していてもよい。
【0050】
駆動制御信号生成部126は、駆動制御信号Sda,SdbとしてのPWM信号を生成する機能部である。以下、PWM信号の1周期、すなわち、一つのPWM信号が生成される周期を「PWM周期」と称する。駆動制御信号生成部126の詳細については、後述する。
【0051】
電流値取得部120は、モータ20の各相のコイル電流Ia,Ibの測定値Sia,Sibを取得する機能部である。電流値取得部120は、例えば、A/D変換回路を含んで構成されている。
【0052】
電流値取得部120は、電流センサ144a,144b(シャント抵抗)から出力される、各相のコイル電流Ia,Ibに応じた電圧である電流検出信号Via,Vibを受け付ける。電流値取得部120は、入力された電流検出信号Via,Vibの大きさ(電圧)に基づいて、各相のコイル電流Ia,Ibの測定値Sia,Sibを算出する。
【0053】
例えば、電流値取得部120は、電流検出信号Viaの電圧をデジタル値に変換し、A相のコイル電流Iaの測定値Siaとして出力する。また、電流値取得部120は、電流検出信号Vibの電圧をデジタル値に変換し、B相のコイル電流Ibの測定値Sibとして出力する。電流値取得部120は、例えば、PWM周期毎に、A相のコイル電流Iaの測定値SiaとB相のコイル電流Ibの測定値Sibをそれぞれ出力する。以下、コイル電流Iaの測定値Siaとコイル電流Ibの測定値Sibとを区別しない場合には、コイル電流Iaの測定値Siaおよびコイル電流Ibの測定値Sibを「コイル電流の測定値Si」と表記する。
【0054】
電流基準値設定部122は、各相のコイル電流Ia,Ibの基準となる電流基準値Sisa,Sisbを設定する機能部である。電流基準値設定部122は、コイル21に流れる電流Ia,Ibが正弦波状に変化するように、PWM周期毎に、電流基準値Sisa,Sisbをそれぞれ設定する。例えば、電流基準値設定部122は、後述する駆動指令取得部131からの指示に応じて、A相のコイル電流IaおよびB相のコイル電流Ibが正弦波状となり、且つコイル電流Iaの位相とコイル電流Ibの位相とが互いに90度相違するように、電流基準値Sisa,Sisbを階段状にそれぞれ変化させる。以下、電流基準値Sisaと電流基準値Sisbとを区別しない場合には、電流基準値Sisaおよび電流基準値Sisbを「電流基準値Sis」と表記する。
【0055】
例えば、記憶部123には、電気角θと電流基準値Sisとの対応関係を示す電流基準値情報が記憶されている。ここで、電流基準値情報は、例えば、電気角θ=0~360°の範囲において電流基準値Sisが正弦波状になるように、電気角θ毎に電流基準値Sisが対応付けられた情報(例えば、関数またはテーブル)である。
【0056】
電流基準値設定部122は、PWM周期毎に、そのときの電気角θに応じた電流基準値Sisa,Sisbを記憶部123に記憶された電流基準値情報から読み出して逐次出力する。
【0057】
記憶部123は、モータ20の駆動制御に必要な各種データを記憶するための機能部である。記憶部123の少なくとも一部は、例えば、制御回路12の電源供給が停止してもデータを保持する不揮発性の記憶装置の記憶領域を利用して実現されている。
【0058】
記憶部123には、例えば、上述した電流基準値情報の他に、最小時間Tmin、単位増加時間ΔT、指定時間Tf1,Tf2、および上限時間Tlmtが記憶されている。これらの情報の詳細については後述する。
【0059】
比較部(例えばCLDAC)121は、PWM周期毎に、電流値取得部120によって取得したコイル電流の測定値Siと電流基準値Sisとを比較する。例えば、比較部121は、A相の1つのPWM周期が開始されたタイミングにおいて、コイル電流Iaの測定値Siaと電流基準値Sisaとの比較を開始し、比較結果Scmaを出力する。また、B相の1つのPWM周期が開始されたタイミングにおいて、コイル電流Ibの測定値Sibと電流基準値Sisbとの比較を開始し、比較結果Scmbを出力する。
【0060】
なお、比較結果Scmaと比較結果Scmbをそれぞれ区別しない場合には、比較結果Scmaおよび比較結果Scmbを「比較結果Scm」と表記する。
【0061】
例えば、比較部121は、1つのPWM周期が開始されたとき、コイル電流の測定値Siと電流基準値Sisとの比較処理を開始する。具体的には、コイル電流の測定値Siが電流基準値Sisより低い場合に(Si<Sis)、比較部121は、比較結果Scmとして第1論理レベル(例えば、ハイレベル)の信号を出力する。一方、コイル電流の測定値Siが電流基準値Sis以上となった場合に(Si≧Sis)、比較部121は、比較結果Scmbとして第1論理レベルの反対の第2論理レベル(例えば、ローレベル)の信号を出力し、そのPWM周期が終了するまで、コイル電流の測定値Siと電流基準値Sisの大小関係に関わらず比較結果Scmb(ローレベル)の出力を維持する。そして、一つのPWM周期が終了し、次のPWM周期が開始されたとき、比較部121は、再びコイル電流の測定値Siと電流基準値Sisの比較処理を開始する。
【0062】
このように、比較部121は、各相のコイル電流Ia,Ibに係る比較処理を、各相のPWM周期毎に繰り返し行う。これにより、比較部121による比較結果Scmbを参照することにより、モータ20のコイル電流が電流基準値に到達しているか否かを判定することができる。
【0063】
駆動制御信号生成部126は、駆動指令取得部127とPWM信号生成部128を含む。
【0064】
駆動指令取得部127は、例えば、上位装置(ECU)から入力された駆動指令Scを取得する。上述したように、駆動指令Scは、例えば、モータ20の目標となる回転位置(目標回転位置)を指定する情報を含む。駆動指令取得部127は、駆動指令Scを解析することにより、モータ20の目標回転位置の情報を取得して出力するとともに、モータ20を駆動するための処理の開始を他の機能部(例えば、電流基準値設定部122、励磁モード指定部124、およびPWM信号生成部128等)に指示する。
【0065】
PWM信号生成部128は、モータ20のコイル21が指定された励磁モードに応じた励磁状態となるようにPWM信号を生成し、駆動制御信号Sda,Sdbとして出力する。
【0066】
例えば、PWM信号生成部128は、駆動指令取得部127から出力された目標回転位置の情報を取得する。PWM信号生成部128は、モータ20が目標回転位置まで移動するように、相毎に、励磁モード指定部124によって指定された励磁モードにしたがってPWM信号を生成し、駆動制御信号Sda,Sdbとして出力する。
【0067】
励磁モード指定部124は、励磁モードを指定して、駆動制御信号生成部126に駆動制御信号Sdの生成を指示する機能部である。励磁モード指定部124は、比較部121による比較結果Scma,Scmbに基づいて相毎に励磁モードを決定する。
【0068】
ここで、励磁モードについて説明する。
励磁モードとは、コイル21の励磁状態を指定する動作モードである。実施の形態に係るモータ駆動制御装置10は、励磁モードとして、チャージモードと減衰モードとを有している。
【0069】
先ず、チャージモードについて説明する。
チャージモードは、コイル電流を増加させる動作モードである。
【0070】
図4Aは、チャージモードを説明するための図である。
【0071】
本実施の形態において、A相のコイル21aを駆動するためのインバータ回路143aの構成とB相のコイル21bを駆動するためのインバータ回路143bの構成は同一であることから、A相のコイル21aを駆動するためのインバータ回路143aを例にとり、励磁モードについて説明する。
【0072】
図4Aに示すように、モータ20の各相のコイル21は、インバータ回路143(Hブリッジ回路)に接続されている。例えば、インバータ回路143aは、スイッチとしてのトランジスタQ1~Q4と、ダイオードD1~D4とを有している。
【0073】
トランジスタQ1とトランジスタQ2とは電源電圧VDDとグラウンド電位との間に、電流センサ144aとしてのシャント抵抗を介して直列に接続されている。同様に、トランジスタQ3とトランジスタQ4とは電源電圧VDDとグラウンド電位との間に、電流センサ144aとしてのシャント抵抗を介して直列に接続されている。トランジスタQ1とトランジスタQ2とが共通に接続されるノードには、コイル21aの負極端子AN(またはコイル21bのBN)が接続され、トランジスタQ3とトランジスタQ4とが共通に接続されるノードには、コイル21aの正極端子AP(またはコイル21bのBP)が接続されている。
【0074】
ダイオードD1のアノードは、トランジスタQ1とトランジスタQ2とが共通に接続されるノードに接続され、ダイオードD1のカソードは、電源電圧VDDに接続されている。ダイオードD2のアノードは、グラウンド電位GNDに接続され、ダイオードD2のカソードは、トランジスタQ1とトランジスタQ2とが共通に接続されるノードに接続されている。
【0075】
ダイオードD3のアノードは、トランジスタQ3とトランジスタQ4とが共通に接続されるノードに接続され、ダイオードD3のカソードは、電源電圧VDDに接続されている。ダイオードD4のアノードは、グラウンド電位GNDに接続され、ダイオードD4のカソードは、トランジスタQ3とトランジスタQ4とが共通に接続されるノードに接続されている。
【0076】
ダイオードD1~D4は、例えば、トランジスタQ1~Q4の寄生ダイオードであってもよいし、トランジスタQ1~Q4とは別個に設けた電子部品によって実現してもよい。
【0077】
チャージモードにおいて、コイル21は、電源電圧VDDとグラウンド電位GNDとの間に接続され、正または負の方向に励磁される。例えば、図4Aに示すように、トランジスタQ1,Q4をオフし、トランジスタQ2,Q3をオンすることにより、コイル21aの正極端子AP側からコイル21aの負極端子AN側に電流が流れ、コイル21aが正の方向に励磁される。一方、トランジスタQ2,Q3をオフし、トランジスタQ1,Q4をオンすることにより、コイル21aの負極端子AN側からコイル21aの正極端子AP側に電流が流れ、コイル21aが負の方向に励磁される。
【0078】
次に、減衰モードについて説明する。
減衰モードは、コイル21のコイル電流を減衰させる動作モードである。実施の形態において、減衰モードは、コイル電流を回生させる低速減衰モードと、低速減衰モードよりも高速にコイル電流を回生させる高速減衰モードと、低速減衰モードおよび高速減衰モードを組み合わせてコイル電流を回生させる混合減衰モードと、を含む。
【0079】
図4Bは、低速減衰モードを説明するための図である。
例えば、チャージモードによって正の方向に励磁されていたコイル21aの電流を減衰させる場合、低速減衰モードによって、インバータ回路143aにおけるトランジスタQ1,Q3をオフし、トランジスタQ2,Q4をオンする。これにより、図4Bに示すように、コイル21aの電流をグラウンド電位GND側に回生させて減衰させることができる。負の方向に励磁されていたコイル21aの電流を減衰させる場合も同様に、減衰モードによってトランジスタQ1,Q3をオフし、トランジスタQ2,Q4をオンすることにより、コイル21aの電流をグラウンド電位GND側に回生させて減衰させることができる。
【0080】
図4Cは、高速減衰モードを説明するための図である。
例えば、チャージモードによって正の方向に励磁されていたコイル21aの電流を減衰させる場合、高速減衰モードによって、インバータ回路143aにおけるトランジスタQ2,Q3をオフし、トランジスタQ1,Q4をオンする。これにより、図4Cに示すように、コイル21aの電流を電源電圧VDD側に回生させることができる。このとき、コイル21aは直前の励磁方向(正)と逆方向(負)に励磁されるため、低速減衰モードよりも高速に、コイル21aの電流を減衰させることができる。
【0081】
負の方向に励磁されていたコイル21aの電流を減衰させる場合には、高速減衰モードによって、インバータ回路143aにおけるトランジスタQ1,Q4をオフし、トランジスタQ2,Q3をオンする。これにより、コイル21aの電流を電源電圧VDD側に回生させることができる。このとき、コイル21aは直前の励磁方向(負)と逆方向(正)に励磁されるため、低速減衰モードよりも高速にコイル21aの電流を減衰させることができる。
【0082】
PWM信号生成部128は、励磁モード指定部124によって指定された励磁モードに基づいて、駆動制御信号Sdを生成する。
【0083】
例えば、コイル21を正方向に励磁するチャージモードが指定された場合には、PWM信号生成部128は、図4Aに示すように、トランジスタQ2,Q3をオンし、トランジスタQ1,Q4をオフさせる駆動制御信号Sdを生成する。
【0084】
一方、コイル21を正方向に励磁した後に低速減衰モードが指定された場合には、PWM信号生成部128は、図4Bに示すように、トランジスタQ2,Q4をオンし、トランジスタQ1,Q3をオフさせる駆動制御信号Sdを生成する。また、コイル21を正方向に励磁した後に高速減衰モードが指定された場合には、PWM信号生成部128は、図4Cに示すように、トランジスタQ1,Q4をオンし、トランジスタQ2,Q3をオフさせる駆動制御信号Sdを生成する。
【0085】
なお、コイル21を負方向に励磁する場合には、PWM信号生成部128は、上述した負方向に励磁する場合とは逆方向に電流が流れるように、指定された励磁モードにしたがって駆動制御信号Sda,Sdbを生成する。
【0086】
励磁モードは、励磁モード指定部124によって指定される。
具体的には、励磁モード指定部124は、PWM周期毎に、比較部121による比較結果Scmに基づいて励磁モードを決定する。例えば、励磁モード指定部124は、A相の1つのPWM周期が開始されたタイミングにおいて、比較部121によるコイル電流Iaの測定値Siaと電流基準値Sisaとの比較結果に基づいて、A相のコイル21aの励磁モードを指定する励磁モード指定情報Smaを出力する。また、励磁モード指定部124は、B相の1つのPWM周期が開始されたタイミングにおいて、比較部121によるコイル電流Ibの測定値Sibと電流基準値Sisbとの比較結果に基づいて、B相のコイル21bの励磁モードを指定する励磁モード指定情報Smbを出力する。
【0087】
なお、励磁モード指定情報Smaと励磁モード指定情報Smbをそれぞれ区別しない場合には、励磁モード指定情報Smaおよび励磁モード指定情報Smbを「励磁モード指定情報Sm」と表記する。
【0088】
比較部121の比較結果が第1論理レベル(ハイレベル)である場合、すなわちコイル電流の測定値Siが電流基準値Sisより低い場合、励磁モード指定部124は、励磁モードとして、チャージモードを指定する励磁モード指定情報Smを出力する。
【0089】
一方、比較部121の比較結果が第2論理レベル(ローレベル)である場合、すなわちコイル電流の測定値Siが電流基準値Sis以上である場合、励磁モード指定部124は、励磁モードとして減衰モードを指定する励磁モード指定情報Smを出力する。
【0090】
例えば、1つのPWM周期が開始されたタイミングにおいて、電流の測定値Siと電流基準値Sisとを比較し、電流の測定値Siが電流基準値Sisに到達してない場合(Si<Sis)、励磁モード指定部124は、励磁モードとしてチャージモードを指定する。そして、そのPWM周期内に、電流の測定値Siが電流基準値Sisに到達した場合、励磁モード指定部124は、励磁モードをチャージモードから減衰モードに切り替えて、そのPWM周期が終了するまで減衰モードを維持する。
【0091】
ここで、モータ駆動制御装置10は、各PWM周期において少なくも1回は励磁モードがチャージモードとなる機能を有していてもよい。例えば、モータ駆動制御装置10に、各PWM周期におけるチャージモードの期間の長さの最小値を指定する最小時間Tminが設定されていてもよい。最小時間Tminの情報は、例えば、予め記憶部123に設定されている。
【0092】
例えば、1つのPWM周期が開始されたタイミングにおいて、既に電流の測定値Siが電流基準値Sisに到達していた場合(Si≧Sis)であっても、励磁モード指定部124は、比較部121の比較結果によらず、少なくとも最小時間Tminに相当する期間は、励磁モードとしてチャージモードを指定する励磁モード指定情報Smを出力する。
【0093】
例えば、励磁モード指定部124は、1つのPWM周期の開始後に、先ず、励磁モードとしてチャージモードを指定する。励磁モード指定部124は、チャージモードを指定後にチャージモードの期間Tonを測定し、その期間Tonが最小時間Tminに到達したとき、励磁モードをチャージモードから減衰モードに切り替える。その後、励磁モード指定部124は、PWM周期が終了するまで減衰モードを維持する。
【0094】
なお、励磁モードとしてチャージモードが指定されている場合において、チャージモードの期間が最小時間Tminに到達する前に、電流の測定値Siが電流基準値Sisに到達した場合(比較結果Scmが第2論理レベル(ローレベル)となった場合)であっても、励磁モード指定部124は、チャージモードの期間Tonが最小時間Tminに到達するまで、チャージモードを継続する。
【0095】
このように、各PWM周期内において少なくとも最小時間Tminに相当する期間は、励磁モードがチャージモードとなる。
【0096】
ここで、PWM周期におけるチャージモードの期間の長さの最小時間Tminは、例えば、PWM周期の10%以下に相当する時間であり、好ましくは、PWM周期の7.5%に相当する時間である。
【0097】
PWM信号生成部128は、励磁モード指定部124によって指定された励磁モードに応じて、各相のコイル21a,21bが指定された励磁モードに対応する励磁状態になるように、上述したトランジスタQ1~Q4のオン/オフのパターンを指示する駆動制御信号Sdを出力する。
【0098】
図5は、モータのコイル電流と駆動制御信号の時間的な変化を示すタイミングチャートである。
【0099】
図5の紙面上側から下側に向かって、A相のコイル21aのコイル電流Ia、コイル21aの電圧(コイル電圧)の各波形が示されている。
【0100】
実施の形態に係るモータ駆動制御装置10では、電流基準値設定部122が、駆動対象のコイル21a,21b毎(相毎)に、電流基準値Sisが正または負の方向に増加する電流増加期間TIと、電流基準値Sisがゼロに向かって変化する電流減衰期間TDとを交互に繰り返す。そして、励磁モード指定部124が、上述したように、電流の測定値Siが電流基準値Sisを超えないように励磁モードを指定し、PWM信号生成部128が指定された励磁モードに対応する駆動制御信号Sda,Sdbを生成する。これにより、図5に示すように、各相のコイル電流Ia,Ibが正弦波状になるように制御される。
【0101】
なお、図5には、一例として、A相のコイル21aの電流Iaの位相が示されている。モータ20がA相のコイルおよびB相のコイルを有する2相ステッピングモータである場合、A相のコイル21aの電流Iaの位相から90度ずれてB相のコイル21bの電流Ibの位相(不図示)が検出される。
【0102】
励磁モード指定部124は、上述したように、電流増加期間TIおよび電流減衰期間TDにおいてPWM周期毎に、上述した手法により、コイル電流の測定値Siと電流基準値Sisとの比較結果に基づいて励磁モードを切り替える。
【0103】
その一方で、励磁モード指定部124は、電流増加期間TIにおける減衰モードと電流減衰期間TDにおける減衰モードとを相違させてもよい。例えば、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10において、励磁モード指定部124は、電流増加期間TIの減衰モードとして低速減衰モードを選択する。すなわち、電流増加期間TIでは、励磁モードとして、チャージモードまたは低速減衰モードが選択される。また、励磁モード指定部124は、電流減衰期間TDの減衰モードとして混合減衰モードを選択する。すなわち、電流減衰期間TDでは、励磁モードとして、チャージモードまたは混合減衰モードが選択される。以下、電流減衰期間TDにおける減衰モードについて、詳細に説明する。
【0104】
図6は、図5における電流減衰期間TDの一部を拡大した図である。
【0105】
図6に示すように、コイル21の電流(電流基準値Sis)がゼロに向かって変化する電流減衰期間TDは、第1減衰期間Td1と第2減衰期間Td2を含む。第1減衰期間Td1は、電流減衰期間TDにおける最初の所定の期間である。第2減衰期間Td2は、電流減衰期間TDにおける第1減衰期間Td1の後の残りの所定の期間(Td2=TD-Td1)である。
【0106】
第1減衰期間Td1および第2減衰期間Td2の長さは、例えば、予め設定されている。例えば、電気角θが90°から120°(270°から300°)までの期間が第1減衰期間Td1に設定され、電気角θが120°から180°(300°から360°)までの期間が第2減衰期間Td2に設定されている。
【0107】
励磁モード指定部124は、第1減衰期間Td1の減衰モードとして低速減衰モードを選択し、第2減衰期間Td2の減衰モードとして混合減衰モードを選択する。
【0108】
図7は、第1減衰期間Td1におけるコイル電流の時間的な変化の一例を示す図である。
【0109】
同図において、横軸は時間tを表し、縦軸は電流を表している。参照符号500は、コイル21の電流(コイル21の電流の測定値Si)の時間的な変化を表している。また、図7には、時刻t0から時刻t2までの最初のPWM周期において、電流基準値Sisが“Ith2”に設定され、時刻t2以降のPWM周期において、電流基準値Sisが“Ith1(<Ith2)”に設定された場合が示される。
【0110】
図7に示すように、一つのPWM周期が開始された時刻t0において、励磁モード指定部124は、電流の測定値Siと電流基準値Sis(=Ith2)との比較を行う。このとき、コイル21の電流の測定値Siが電流基準値Sis(=Ith2)に到達していないので、励磁モード指定部124は、励磁モードをチャージモードに設定する(図4A参照)。これにより、コイル21の電流が増加する。
【0111】
その後、時刻t1において電流の測定値Siが電流基準値Sis(=Ith2)に到達したとき、励磁モード指定部124は、励磁モードをチャージモードから低速減衰モード(減衰モード)に切り替え、次のPWM周期が開始される時刻t2まで低速減衰モードを維持する。
【0112】
そして、新たなPWM周期が開始された時刻t2において、励磁モード指定部124は、電流の測定値Siと電流基準値Sis(=Ith1)との比較を行う。図7に示すように、時刻t2において、電流の測定値Siが電流基準値Sis(=Ith1)より高いため、励磁モード指定部124は、引き続き、励磁モードを低速減衰モードに設定し、次のPWM周期が開始される時刻t3まで低速減衰モードを維持する。
【0113】
このように、電流減衰期間TDにおける第1減衰期間Td1では、減衰モードとして低速減衰モードが選択される。
【0114】
図8は、第2減衰期間Td2におけるコイル電流の時間的な変化の一例を示す図である。
【0115】
図8において、横軸は時間tを表し、縦軸は電流を表している。参照符号501は、コイル21の電流(コイル21の電流の測定値Si)の時間的な変化を表している。また、図8には、時刻t0から時刻t2までの最初のPWM周期において、電流基準値Sisが“Ith2”に設定され、時刻t2以降のPWM周期において、電流基準値Sisが“Ith1(<Ith2)”と“Ith0(<Ith1)”に設定された場合が示されている。
【0116】
図8に示すように、励磁モード指定部124は、電流減衰期間TDの残りの第2減衰期間Td2における減衰モードとして混合減衰モードを選択する。
【0117】
具体的に、励磁モード指定部124は、混合減衰モードによってコイル電流を減衰させる場合に、一つのPWM周期内のコイル電流を減衰させる減衰期間Tddにおいて、最初に低速減衰モードおよび高速減衰モータの一方を指定し、次に低速減衰モードおよび高速減衰モータの他方を指定する。例えば、図8には、各PWM周期の減衰期間Tddにおいて、最初に低速減衰モードが指定され、次に高速減衰モードが指定される場合が例示されている。また、図8には、減衰期間Tddにおいて低速減衰モードと高速減衰モードとが一回ずつ指定される場合が示されている。
【0118】
励磁モード指定部124は、一つのPWM周期が開始されたとき、励磁モードとしてチャージモードを指定するとともにチャージモードの期間Tonの長さの測定を開始する。そして、励磁モード指定部124は、コイル21の電流の測定値Siが電流基準値Sisに到達したことおよびチャージモードの期間Tonの測定時間が最小時間Tmin以上であることを検出した場合に、励磁モードをチャージモードから減衰モードに切り替える。
【0119】
例えば、図8に示すように、PWM周期が開始された時刻t0において、励磁モード指定部124は、先ず、励磁モードをチャージモードに設定するとともに、時間の測定を開始してチャージモードの期間Tonの長さを測定する。これにより、コイル21の電流が増加する(図4A参照)。
【0120】
その後、電流の測定値Siが電流基準値Sis(=Ith2)に到達し、且つチャージモードの期間Tonの測定時間が記憶部123に設定されている最小時間Tmin以上であることが検出された時刻t1において、励磁モード指定部124は、励磁モードをチャージモードから低速減衰モードに切り替える。これにより、図8に示すように、コイル21の電流が一定の傾きで低下する(図4B参照)。
【0121】
ここで、低速減衰モードの期間T1は、記憶部123に記憶されている低速減衰モードの期間T1の長さを指定する指定時間Tf1によって決定される。例えば、PWM周期をT、チャージモードの期間をTon、減衰期間をTdd、高速減衰モードの期間T2の長さを指定する指定時間をTf2としたとき、低速減衰モードの期間T1の長さを指定する指定時間Tf1は、下記式(1)で表される。
【0122】
【数1】
【0123】
例えば、励磁モード指定部124は、チャージモードが終了したタイミングにおいて、上記式(1)に基づいて指定時間Tf1を更新するとともに励磁モードを低速減衰モードに設定する。そして、励磁モード指定部124は、励磁モードを低速減衰モードに設定してから低速減衰モードの期間T1の長さの測定を開始する。
【0124】
その後、低速減衰モードの期間T1の測定時間が指定時間Tf1に到達した時刻tc1において、励磁モード指定部124は、励磁モードを低速減衰モードから高速減衰モードに切り替え、次のPWM周期が開始される時刻t2まで高速減衰モードを維持する。これにより、高速減衰モードが指定時間Tf2に相当する期間だけ継続され、コイル21の電流が、低速減衰モード時よりも大きな傾きで低下する(図4C参照)。
【0125】
図8の時刻t2以降においても同様に、PWM周期毎に励磁モードがチャージモードと混合減衰モードとの間で切り替えられる。
【0126】
ここで、混合減衰モードによってコイル電流を減衰させる場合において、一つのPWM周期内の減衰期間Tddにおける高速減衰モードの期間T2の割合は動的に変更される。
【0127】
具体的には、励磁モード指定部124は、混合減衰モードにおいてコイル電流の測定値Siが電流基準値Sisに到達していることを検出した場合に、PWM周期内の減衰期間Tddにおける高速減衰モードの期間T2の割合(T2/Tdd)をその前のPWM周期内の減衰期間Tddにおける高速減衰モードの期間T2の割合よりも大きくする増加処理を行う。
【0128】
例えば、励磁モード指定部124は、PWM周期におけるチャージモードの期間Tonが最小時間Tminに一致していること(Ton=Tmin)を検出した場合に、増加処理を行う。
【0129】
PWM周期におけるチャージモードの期間Tonが最小時間Tminに一致していることは、最小時間Tminが経過する前に既にコイル電流(コイル電流の測定値Si)が電流基準値Sisに到達していることを示している。換言すれば、この場合には、モータに必要なトルクを発生させるために十分なコイル電流が供給されているので、コイル電流を正弦波状に変化させるための電流減衰期間TDにおいて、コイル電流を速やかに減衰させる必要がある。そのため、混合減衰モードにおいて高速減衰モードの期間を長くすることが好ましい。
【0130】
そこで、励磁モード指定部124は、チャージモードの期間が最小時間Tminであることを検出した場合に、コイル電流が電流基準値Sisに既に到達していると判定し、PWM周期内の減衰期間Tddにおける高速減衰モードの期間T2の割合をその前のPWM周期内の減衰期間Tddにおける高速減衰モードの期間T2の割合よりも大きくする増加処理を行う。
【0131】
より具体的には、励磁モード指定部124は、コイル電流の測定値Siが電流基準値Sisに到達していることを検出する毎に、PWM周期内の減衰期間Tddにおける高速減衰モードの期間T2を単位増加時間ΔTだけ増加させる。
【0132】
単位増加時間ΔTは、高速減衰モードの期間の増加量を指定する情報であり、例えば、記憶部123に記憶されている。単位増加時間ΔTは、アクチュエータ1が適用されるアプリケーションに応じて適宜設定可能である。例えば、単位増加時間ΔTは、PWM周期の10%以下に相当する時間であることが好ましい。
【0133】
ここで、高速減衰モードの期間T2の長さの上限値を指定する上限時間Tlmtが設定されていてもよい。例えば、励磁モード指定部124は、コイル電流の測定値Siが電流基準値Sisに到達していることを検出する毎に、PWM周期内の減衰期間Tddにおける高速減衰モードの期間を単位増加時間ΔTずつ上限時間Tlmtまで増加させる。
【0134】
上限時間Tlmtの情報は、例えば、記憶部123に記憶されている。上限時間Tlmtは、アクチュエータ1が適用されるアプリケーションに応じて適宜設定可能である。例えば、PWM周期をT、最小時間をTminとしたとき、Tlmt≦(T-Tmin)である。
【0135】
ここで、混合減衰モードにおける高速減衰モードの期間を増加する増加処理の流れについて説明する。
【0136】
図9は、混合減衰モードにおける高速減衰モードの期間を増加する増加処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0137】
例えば、新たなPWM周期が開始されたタイミングにおいて、励磁モード指定部124は、直前のPWM周期におけるチャージモードの期間Tonが最小時間Tminと一致しているか否かを判定する(ステップS1)。
【0138】
チャージモードの期間Tonが最小時間Tminと一致していない場合(ステップS1:NO)、励磁モード指定部124は、増加処理を実行せずに、上述した手法により、コイル電流と電流基準値との比較結果に基づく励磁モードの切り替えを行う。
【0139】
一方、チャージモードの期間Tonが最小時間Tminと一致している場合(ステップS1:YES)、励磁モード指定部124は、増加処理を開始する。先ず、励磁モード指定部124は、高速減衰モードの期間T2の長さを指定する指定時間Tf2を取得する(ステップS2)。例えば、高速減衰モードの指定時間Tf2は、記憶部123に記憶されている。励磁モード指定部124は、記憶部123から指定時間Tf2を読み出す。
【0140】
次に、励磁モード指定部124は、ステップS2で読み出した高速減衰モードの指定時間Tf2に記憶部123から読み出した単位増加時間ΔT(例えば、PWM周期の10%に相当する時間)を加算する(ステップS3)。これにより、励磁モード指定部124は、Tf2にΔTを加算した加算値(Tf2+ΔT)を得る。
【0141】
次に、励磁モード指定部124は、加算値(Tf2+ΔT)が記憶部123に記憶されている上限時間Tlmt以上であるか否かを判定する(ステップS4)。加算値(Tf2+ΔT)が上限時間Tlmtより小さい場合(ステップS4:NO)、励磁モード指定部124は、記憶部123に記憶されている高速減衰モードの指定時間Tf2を上記加算値(Tf2+ΔT)に更新する(ステップS5)。これにより、高速減衰モードの指定時間Tf2が(Tf2+ΔT)となり、増加処理が終了する。
【0142】
一方、加算値(Tf2+ΔT)が上限時間Tlmt以上である場合(ステップS4:YES)、励磁モード指定部124は、記憶部123に記憶されている高速減衰モードの指定時間Tf2を上限時間Tlmtに更新する(ステップS6)。これにより、高速減衰モードの指定時間Tf2がTlmtとなり、増加処理が終了する。
【0143】
以上の手順により、高速減衰モードの期間を増加する処理が行われる。
【0144】
次に、図8を用いて高速減衰モードの期間を増加する処理について説明する。
例えば、図8の時刻t2において新たなPWM周期(時刻t2から時刻t4までのPWM周期)が開始されるとき、励磁モード指定部124は、一つ前のPWM周期におけるチャージモードの期間Tonと最小時間Tminとを比較する。図8に示すように、一つ前のPWM周期、すなわち時刻t0から時刻t2までのPWM周期におけるチャージモードの期間Tonは最小時間Tminより長い。そのため、励磁モード指定部124は、上記増加処理を行わない。そして、励磁モード指定部124は、時刻t2から時刻t4までのPWM周期において、上述した手法により比較結果Scmに基づく励磁モードの切り替えを行う。
【0145】
その後、時刻t4において新たなPWM周期(時刻t4から時刻t6までのPWM周期)が開始されるとき、励磁モード指定部124は、一つ前のPWM周期におけるチャージモードの期間Tonと最小時間Tminとを比較する。図8に示すように、一つ前のPWM周期、すなわち時刻t2から時刻t4までのPWM周期におけるチャージモードの期間Tonは最小時間Tminと一致している。そのため、励磁モード指定部124は、増加処理を行う。すなわち、励磁モード指定部124は、記憶部123に記憶されている高速減衰モードの指定時間Tf2に単位増加時間ΔTを加算した加算値(Tf2+ΔT)を、新たな高速減衰モードの指定時間(<Tlmt)として記憶部123に設定する。これにより、図8に示すように、時刻t4から時刻t6までのPWM周期における高速減衰モードの期間T2が、その前の時刻t2から時刻t4までのPWM周期における高速減衰モードの期間T2よりもΔTだけ長くなる。
【0146】
このように、モータ駆動制御装置10は、PWM周期毎に、混合減衰モードにおける高速減衰モードの期間T2を動的に変化させる。
【0147】
なお、上記例では、一つのPWM周期が開始されるタイミングにおいて増加処理が行われる場合を示したが、1つのPWM周期毎または複数のPWM周期毎に増加処理が行われればよく、増加処理が開始されるタイミングは特に限定されない。
【0148】
次に、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10による効果について説明する。
【0149】
図10Aは、比較例としての本願発明者による先行検討例に係るモータ駆動制御装置によってモータを駆動したときのコイル電流の実測結果を示す図である。
【0150】
図10Bは、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10によってモータを駆動したときのコイル電流の実測結果を示す図である。
【0151】
図10Aおよび図10Bには、モータのA相のコイル電流Iaの波形がそれぞれ示されている。
【0152】
先行検討例に係るモータ駆動制御装置は、混合減衰モードにおける高速減衰モードの期間を固定している点において実施の形態に係るモータ駆動制御装置10と相違し、その他の点においては実施の形態に係るモータ駆動制御装置10と同様である。
【0153】
図10Aに示すように、先行検討例に係るモータ駆動制御装置によれば、電流減衰期間(図5の電流減衰期間TD(+)に相当)において、コイル電流を十分に減衰させることができず、コイル電流を正弦波状に変化させることができない場合がある。
【0154】
これに対し、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10は、コイル電流と電流基準値との大小関係に応じて混合減衰モードにおける高速減衰モードの期間を動的に変化させる。すなわち、モータ駆動制御装置10は、混合減衰モードにおいてコイル電流が電流基準値に到達していることを検出した場合に、PWM周期内の減衰期間Tddにおける高速減衰モードの期間T2の割合をその前のPWM周期内の減衰期間Tddにおける高速減衰モードの期間T2の割合よりも大きくする増加処理を行う。
【0155】
これによれば、図10Bに示すように、コイル電流を正弦波状に変化させるための電流減衰期間においてコイル電流を十分に減衰させることができるので、コイル電流の波形をより正弦波に近づけることが可能となる。
【0156】
また、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10によれば、混合減衰モードによって、コイル電流の緩やかな減衰と急峻な減衰を発生させることができる。これにより、電流減衰期間TDにおける減衰モードの切り替わりに起因する電流の変化を小さくすることができるので、正弦波状のコイル電流の歪を小さくすることができ、モータの駆動時の異音の発生を抑えることが可能となる。
【0157】
このように、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10によれば、モータのコイル電流を適切に制御しつつ、モータの駆動時の異音の発生を抑えることが可能となる。
【0158】
また、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10は、上述したように、PWM周期におけるチャージモードの期間Tonがチャージモードの期間Tonの長さの最小値を指定する最小時間Tminと一致したことを検出した場合に増加処理を行う。
これによれば、コイル電流が電流基準値に到達しているか否かを容易に検出することが可能となる。
【0159】
また、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10には、高速減衰モードの期間の増加量を指定する単位増加時間ΔTが設定される。モータ駆動制御装置10は、増加処理をPWM周期毎に行うとともに、増加処理において、PWM周期内の減衰期間Tddにおける高速減衰モードの期間を単位増加時間ΔTだけ増加させる。
これによれば、PWM周期毎に、PWM周期内の減衰期間Tddにおける高速減衰モードの期間T2の割合を徐々に増加させることができるので、安定したモータ駆動制御を実現することができる。また、アクチュエータ1が適用されるアプリケーションに応じて単位増加時間ΔTを適切な値に設定することにより、アプリケーション毎に安定したモータ駆動制御を実現することができる。
【0160】
また、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10には、高速減衰モードの期間の長さの上限値を示す上限時間Tlmtが設定される。モータ駆動制御装置10は、コイル電流が電流基準値に到達していることを検出する毎に増加処理を行うことにより、PWM周期内の減衰期間Tddにおける高速減衰モードの期間T2を単位増加時間ΔTずつ上限時間Tlmtまで増加させる。
これによれば、アクチュエータ1が適用されるアプリケーションに応じて高速減衰モードの期間T2の適切な上限値を設定することにより、アプリケーション毎に安定したモータ駆動制御を実現することが可能となる。
【0161】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0162】
例えば、上記実施の形態において、混合減衰モードによってコイル電流を減衰させる場合に、各PWM周期の減衰期間Tddの最初に低速減衰モードが指定され、次に高速減衰モードが指定される例を図8に示したが、混合減衰モードにおいて指定される減衰モードの順番は特に限定されない。例えば、減衰期間Tddにおいて、最初に高速減衰モードが指定され、次に低速減衰モードが指定されてもよい。
【0163】
また、図8では、一つのPWM周期内の減衰期間Tddにおいて低速減衰モードと高速減衰モードとが一回ずつ指定される場合を例示したが、減衰期間Tddにおいて低速減衰モードおよび高速減衰モードが指定される回数は特に限定されない。例えば、減衰期間Tddにおいて低速減衰モードと高速減衰モードが交互に複数回繰り返されてもよい。
【0164】
また、上記実施の形態において、モータ20相数は2相に限定されない。また、上記実施の形態におけるモータ20はステッピングモータに限られない。例えば、モータ20はブラシレスDCモータであってもよい。
【0165】
また、上述のフローチャートは、動作を説明するための一例を示すものであって、これに限定されない。すなわち、フローチャートの各図に示したステップは具体例であって、このフローに限定されるものではない。例えば、一部の処理の順番が変更されてもよいし、各処理間に他の処理が挿入されてもよいし、一部の処理が並列に行われてもよい。
【符号の説明】
【0166】
1…アクチュエータ、10…モータ駆動制御装置、12…制御回路、14…駆動回路、20…モータ(ステッピングモータ)、21,21a,21b…コイル、22…ロータ、22n…N極、22s…S極、25…出力軸、26…1次ギヤ、29…モータ端子、31…2次ギヤ(動力伝達機構)、32…3次ギヤ(動力伝達機構)、33…出力ギヤ(動力伝達機構)、42…プリント基板、43…フレキシブルプリント基板、51…ケース、52…カバー、120…電流値取得部、121…比較部、122…電流基準値設定部、123…記憶部、124…励磁モード指定部、126…駆動制御信号生成部、127…駆動指令取得部、128…PWM信号生成部、143,143a,143b…インバータ回路(Hブリッジ回路)、144a,144b…電流センサ、AP,BP…コイル21の正極端子、AN,BN…コイル21の負極端子、Q1~Q4…トランジスタ、D1~D4…ダイオード、Ia,Ib…コイル電流、Scm,Scma,Scmb…比較結果、Sd,Sda,Sdb…駆動制御信号、Si,Sia,Sib…コイル電流の測定値、Sis,Sis1,Sis2…電流基準値、T1…低速減衰モードの期間、T2…高速減衰モードの期間、Tdd…PWM周期内の減衰期間、Tf1…低速減衰モードの期間の指定時間、Tf2…高速減衰モードの期間の指定時間、ΔT…単位増加時間、Tlmt…上限時間、Tmin…最小時間、Ton…チャージモードの期間、Via,Vib…電流検出信号。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B