(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142848
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】バタフライ弁
(51)【国際特許分類】
F16K 1/22 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
F16K1/22 R
F16K1/22 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055204
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 克哉
(72)【発明者】
【氏名】綿谷 育久
(72)【発明者】
【氏名】河村 祥広
【テーマコード(参考)】
3H052
【Fターム(参考)】
3H052AA02
3H052BA02
3H052CA03
3H052CB02
3H052CB35
3H052EA02
(57)【要約】
【課題】従来よりも流体のシール性能を向上させること。
【解決手段】バタフライ弁は、弁箱(10)の内周面に設けられる弁座であって、全閉状態において弁軸の軸心(O)を通り流路中心線(P)に垂直な仮想面(S)との交差位置から流路中心線の一方側に向かって一定角度で拡径する第1テーパ面(31)と、仮想面との交差位置から流路中心線の他方側に向かって一定角度で拡径する第2テーパ面(32)とを含む、弁箱シート(30)と、軸心(O)を境とする弁体(20)の一方側の半円外周部に設けられ、全閉状態において第1テーパ面と面接触する第1傾斜面(41)と、弁体の他方側の半円外周部に設けられ、全閉状態において第2テーパ面と面接触する第2傾斜面(42)とを含む、弁体シート(40)とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状流路を有する円筒状の弁箱と、
流路中心線と直交する軸心を有する弁軸と、
前記弁箱内において前記軸心周りを回転自在に配置される円盤状部材であって、全閉状態において、前記軸心を通り前記流路中心線に垂直な仮想面に沿って配置される弁体と、
前記弁箱の内周面に設けられる弁座であって、前記仮想面との交差位置から前記流路中心線の一方側に向かって一定角度で拡径する第1テーパ面と、前記仮想面との交差位置から前記流路中心線の他方側に向かって一定角度で拡径する第2テーパ面とを含む、弁箱シートと、
前記軸心を境とする前記弁体の一方側の半円外周部に設けられ、全閉状態において前記第1テーパ面と面接触する第1傾斜面と、前記弁体の他方側の半円外周部に設けられ、全閉状態において前記第2テーパ面と面接触する第2傾斜面とを含む、弁体シートとを備える、バタフライ弁。
【請求項2】
前記第1傾斜面は、前記仮想面の位置よりも前記流路中心線の一方側に設けられ、前記第2傾斜面は、前記仮想面の位置よりも前記流路中心線の他方側に設けられている、請求項1に記載のバタフライ弁。
【請求項3】
前記弁体シートは、前記一方側の半円外周部において前記第1傾斜面に閉鎖回転方向に隣り合うように設けられ、前記第2テーパ面に対面する第1逃げ部と、前記他方側の半円外周部において前記第2傾斜面に閉鎖回転方向に隣り合うように設けられ、前記第1テーパ面に対面する第2逃げ部とをさらに含む、請求項2に記載のバタフライ弁。
【請求項4】
前記第1テーパ面および前記第2テーパ面の勾配角度は、互いに等しい、請求項1に記載のバタフライ弁。
【請求項5】
前記第1テーパ面と前記第1傾斜面との接触幅、および、前記第2テーパ面と前記第2傾斜面との接触幅は、周方向において一定である、請求項1に記載のバタフライ弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バタフライ弁に関し、特に、弁箱弁座および弁体弁座がメタルシートにより構成されたバタフライ弁に関する。
【背景技術】
【0002】
バタフライ弁は、水道等の管路に据え付けられる開閉バルブであり、円筒状流路を有する弁箱と、流路中心線と直交する軸心を有する弁軸と、弁箱内において軸心周りを回転自在に配置された円盤状弁体と、弁箱内周に設けられた弁箱弁座と、弁体外周に形成された弁体弁座とを備えている。弁箱弁座および弁体弁座をメタルシート(金属などの剛体)により構成したバタフライ弁の構造例として、以下のような技術が存在する。
【0003】
特公昭55-18297号公報(特許文献1)には、弁箱のシート表面を、流路中心線に対して弁体の閉鎖回転方向に傾斜する軸心を中心とする仮想円筒状周面と一致する形状とし、弁体のシート表面を、弁体が流路中心線に対してほぼ直角となった全閉状態において、弁箱のシート表面に密着する円筒状周面とした弁座構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、弁箱弁座および弁体弁座ともに、シート表面を流路中心線に対して傾斜した仮想円筒状周面と一致する形状とする場合、シート表面の傾斜角度は周方向において一定とはならず、弁軸付近で最小となるため、周方向において均一なシール性能が得られない。
【0006】
また、バタフライ弁の製造時には、弁箱および弁体を水平面に対して同一の角度で傾けた状態で弁座加工する必要があるため、シート表面を高精度に加工することが困難であり、所望のシール性能が得られないおそれがあった。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、従来よりも流体のシール性能を向上させることのできるバタフライ弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のある局面に従うバタフライ弁は、円筒状流路を有する円筒状の弁箱と、流路中心線と直交する軸心を有する弁軸と、弁箱内において軸心周りを回転自在に配置される円盤状部材であって、全閉状態において、軸心を通り流路中心線に直交する仮想面に沿って配置される弁体と、弁箱の内周面に設けられる弁座である弁箱シートと、全閉状態において弁箱シートに面接触する弁体シートとを備える。弁箱シートは、仮想面との交差位置から流路中心線の一方側に向かって一定角度で拡径する第1テーパ面と、仮想面との交差位置から流路中心線の他方側に向かって一定角度で拡径する第2テーパ面とを含む。弁体シートは、軸心を境とする弁体の一方側の半円外周部に設けられ、全閉状態において第1テーパ面と面接触する第1傾斜面と、弁体の他方側の半円外周部に設けられ、全閉状態において第2テーパ面と面接触する第2傾斜面とを含む。
【0009】
好ましくは、第1傾斜面は、仮想面の位置よりも流路中心線の一方側に設けられ、第2傾斜面は、仮想面の位置よりも流路中心線の他方側に設けられている。
【0010】
この場合、弁体シートは、一方側の半円外周部において第1傾斜面に閉鎖回転方向に隣り合うように設けられ、第2テーパ面に対面する第1逃げ部と、他方側の半円外周部において第2傾斜面に閉鎖回転方向に隣り合うように設けられ、第1テーパ面に対面する第2逃げ部とをさらに含む。
【0011】
好ましくは、第1テーパ面および第2テーパ面の勾配角度は、互いに等しい。
【0012】
好ましくは、第1テーパ面と第1傾斜面との接触幅、および、第2テーパ面と第2傾斜面との接触幅は、周方向において一定である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来よりもシール性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係るバタフライ弁の概略構造を示す断面図である。
【
図2】
図1のバタフライ弁における弁箱シートおよび弁体シートを拡大して示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における弁箱の断面図であり、弁箱シートの断面形状を示す。
【
図4】本発明の実施の形態における弁箱を流路中心線方向(
図3に示すIV方向)に見た平面図(正面図)であり、弁箱シートの外観形状を示す。
【
図5】本発明の実施の形態における弁体を軸心方向に見た平面図(上面図)であり、弁体シートの外観形状を示す。
【
図6】本発明の実施の形態における弁体を流路中心線方向(
図5に示すVI方向)に見た平面図(正面図)であり、弁体シートの外観形状を示す。
【
図7】(A),(B)は、本発明の実施の形態における弁体の断面図であり、
図6のVIIA-VIIA線およびVIIB-VIIB線に沿う断面のそれぞれに表われる弁体シートの傾斜面の傾斜角度を示す。
【
図8】公知のバタフライ弁の概略構造を示す断面図である。
【
図9】
図8のIX線で囲む部分の拡大図であり、公知のバタフライ弁における弁箱シートおよび弁体シートを拡大して示す図である。
【
図10】公知のバタフライ弁における弁箱の断面図であり、弁箱シートの断面形状を示す。
【
図11】公知のバタフライ弁における弁箱を流路中心線方向(
図10に示すXI方向)に見た平面図(正面図)であり、弁箱シートの外観形状を示す。
【
図12】公知のバタフライ弁における弁体の断面図であり、弁体シートの断面形状を示す。
【
図13】公知のバタフライ弁における弁体を流路中心線方向(
図12に示すXIII方向)に見た平面図(正面図)であり、弁体シートの外観形状を示す。
【
図14】(A),(B)は、公知のバタフライ弁における弁体の断面図であり、
図13のXIVA-XIVA線およびXIVB-XIVB線に沿う断面のそれぞれに表われる弁体シートの傾斜面の傾斜角度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0016】
本実施の形態に係るバタフライ弁は、円筒状流路を有する円筒状の弁箱と、流路中心線と直交する軸心を有する弁軸と、弁箱内において軸心周りを回転自在に配置される円盤状の弁体とを備えており、弁箱弁座および弁体弁座がメタルシートにより構成されている。メタルシートは、金属材料を含む剛体である。
【0017】
本実施の形態におけるバタフライ弁の説明に先立ち、メタルシートを採用した公知のバタフライ弁の構造について説明する。
【0018】
<公知のバタフライ弁について>
図8は、公知のバタフライ弁100の概略構造を示す断面図である。バタフライ弁100の基本構成について簡単に説明すると、円筒状流路90を有する円筒状の弁箱10と、流路中心線(流路90の中心線)Pと直交する軸心Oを有する弁軸60と、弁箱10内において軸心O周りを回転自在に配置される円盤状の弁体20と、メタルシートで構成された弁箱弁座(以下「弁箱シート」という)130および弁体弁座(以下「弁体シート」という)140とを備えている。流路中心線Pは、弁箱10の内周面11の軸線に一致する。弁箱シート130は弁箱10の内周面11に環状に設けられ、弁体シート140は弁体20の外周部210に環状に設けられている。
【0019】
円盤状の弁体20は、その中心が軸心Oと流路中心線Pとの交差点に一致するように弁箱10内に設けられており、全閉状態において、軸心Oを通り流路中心線Pに垂直な「仮想面S」に沿って配置される。つまり、全閉状態の弁体20は、仮想面Sに完全に重なるように配置され、全開状態の弁体20(
図8において想像線で示す)は、仮想面Sに交差するように配置される。なお、弁箱10は、流路中心線P方向両端に、仮想面Sと平行な一対の環状フランジ部12,13を有している。
図8に示すように、環状フランジ部12,13が水平となるよう弁箱10を平置きした状態において、仮想面Sは水平面上に延在する。
【0020】
図9は、
図8中、丸印IXで囲んだ部分の拡大図であり、密着状態の弁箱シート130および弁体シート140が拡大して示されている。なお、これらの図では、図面が複雑となるのを避けるために、弁箱シート130および弁体シート140にハッチングは付していない。また、以下の説明では、理解を容易にするために、流路中心線Pに沿う方向(流体の流れ方向)を奥行方向(矢印A1で示す)ともいう。また、軸心Oの延在方向を上下方向(
図11等において矢印A3で示す)、軸心Oおよび流路中心線Pの双方に直交する方向を左右方向(矢印A2で示す)ともいう。軸心Oを中心とした全開姿勢から全閉姿勢への弁体20の回転方向(
図8において円弧状の矢印A10で示す)を、閉鎖回転方向という。
【0021】
弁箱シート130は、仮想面Sに交わる位置に配置されている。具体的には、仮想面Sの位置が中央位置となるように、奥行き方向に一定の幅を有している。全閉状態における弁体シート140も同様に、仮想面Sに交差するように配置されている。
図9に示すように、弁箱シート130の幅(奥行き寸法)D11は、弁体シート140の幅D12(奥行き寸法)よりも大きい。弁箱シート130の幅D11および弁体シート140の幅D12はともに、全周において一定である。
【0022】
公知のバタフライ弁100においては、弁箱シート130の内周面(シート表面)が、流路中心線Pに対して傾斜した傾斜面131により構成されている。弁体シート140の外周面(シート表面)は、弁箱シート130の傾斜面131と同じ角度で傾斜した傾斜面141により構成されている。これらの傾斜面131,141はともに、仮想面Sに交差する。
【0023】
図10および
図11は、弁箱シート130の具体形状を示す図である。
図10に示すように、弁箱シート130の傾斜面131は、流路中心線Pに対して、弁体120の閉鎖回転方向(
図8の矢印参照)に所定の角度(約5°~15°)で傾斜する軸線P´を中心とする仮想円筒状周面C10と一致する形状となっている。
【0024】
この場合、
図11に示すように、流路中心線Pの一方側(たとえば下流側)から弁箱10を見た場合、傾斜面131は左右方向の一方側(紙面右側)においてのみ露出する(他方側は見えない)。また、弁箱10を流路中心線P方向にみた場合、弁箱シート130の傾斜面131の輪郭は楕円形状となる。
【0025】
具体的には、弁箱シート130の傾斜面131が仮想面Sに交差する円131c(
図10において想像線で示す)が、上下方向よりも左右方向に長い楕円となる。つまり、傾斜面131の輪郭を表わす仮想円131cは、軸心O方向(上下方向)を短軸とし、軸心Oに直交する方向(左右方向)を長軸とする楕円である。仮想円筒状周面C10の真円直径φを“A”mmと仮定すると、仮想円131cの短軸Laは“A”mmと等しくなるが、長軸Lbは“A”mmよりも大きい値となる。
【0026】
図12および
図13は、弁体シート140の具体形状を示す図である。
図12に示すように、弁体シート140の傾斜面141は、弁箱シート130の傾斜面131と同様に、仮想円筒状周面C10と一致する形状となっている。
【0027】
そのため、弁体20を正面からみた場合(全閉状態において流路中心線P方向にみた場合)、弁体シート140の輪郭もまた楕円形状となる。具体的には、弁体シート140の傾斜面141が全閉状態の姿勢において仮想面Sと交差する円141cは、上下方向よりも左右方向に長い楕円となる。この楕円141cは、弁箱シート130の楕円131cと略同じ短軸Laおよび長軸Lbを有する。これにより、弁体シート140の傾斜面141は、使用状態において弁体120が全閉姿勢をとると、弁箱シート130の傾斜面131と全周にわたり面接触し、密着状態となる。
【0028】
このように、弁箱シート130の傾斜面131および弁体シート140の傾斜面141を仮想円筒状周面C10と一致する円筒面とする場合、これらの傾斜角度は周方向において一定とはならない。この点について、
図13および
図14を参照して具体的に説明する。
【0029】
図13および
図14(A)を参照して、流路中心線Pを通り軸心Oに直交する面Saで切断した断面において(このような位置を「軸直部」という)、弁体シート140の傾斜面141の角度は、仮想円筒状周面C10の傾斜角度と同じθと同じである。一方、
図13および
図14(B)を参照して、流路中心線Pを通り、弁体20の上下端部に位置する弁孔開口20a,20b付近を通る面Sbで切断した断面において(このような位置を「弁軸付近」という)、弁体シート140の傾斜面141の角度は、軸直部における角度θ未満(θ´)である。軸心Oに重なる位置において傾斜面141の角度は0°となる。
【0030】
上記のことは、弁箱シート130の傾斜面131にも当て嵌まり、傾斜面131の角度は弁軸付近で最小となる。
図14に示されるように、公知のバタフライ弁100では、弁体シート140の傾斜面141の幅、すなわち弁箱シート130との接触幅が、軸直部と弁軸付近とで若干相違する(D11>D12)。
【0031】
そのため、公知の弁箱シート130および弁体シート140では、弁軸付近(上端部分および下端部分)における止水面圧が相対的に小さくなる。つまり、弁箱シート130と弁体シート140とが密着した状態であっても、周方向に均一なシール性能が得られない。従来は、これを補うために、弁体20の締め切りトルクを比較的大きくするという対応がとられていた。
【0032】
これに対し、本実施の形態のバタフライ弁は、周方向において均一なシール性能を得ることのできる弁箱シートおよび弁体シートを備えている。以下に、本実施の形態に係るバタフライ弁について詳細に説明する。
【0033】
<本実施の形態のバタフライ弁について>
図1は、本実施の形態に係るバタフライ弁1の概略構造を示す断面図であり、
図2は、全閉状態におけるバタフライ弁1の弁箱シート30および弁体シート40を拡大して示す図である。
【0034】
バタフライ弁1の基本構成は、公知のバタフライ弁100と同様であり、円筒状の弁箱10と、円盤状の弁体20と、弁体20を貫通して上下方向に延在する弁軸60とを備えている。
図2に拡大して示すように、弁箱10の内周面11に設けられた弁箱シート30、および、弁体20の外周部210に設けられた弁体シート40の形状が、上述した公知の弁箱シート130および弁体シート140の形状と相違している。
【0035】
(弁箱シートの形状)
弁箱シート30の形状について、
図3および
図4を参照して説明する。
図3は、弁箱10の断面図であり、上述の
図10に対応する。
図4は、弁箱10を流路中心線方向に見た平面図(正面図)であり、上述の
図11に対応する。
【0036】
図3に示すように、弁箱シート30は、仮想面Sとの交差位置から流路中心線Pの一方側(たとえば上流側)に向かって一定角度θで拡径する第1テーパ面31と、仮想面Sとの交差位置から流路中心線Pの他方側(たとえば下流側)に向かって一定角度θで拡径する第2テーパ面32とを含む。このように、本実施の形態における弁箱シート30のシート表面は、仮想面Sの位置を中心として第1テーパ面31および第2テーパ面32に振り分けられている。
【0037】
第1テーパ面31および第2テーパ面32は、弁箱10の流路中心線Pと同心の2つの(逆向きの)円錐周面C1,C2のそれぞれに一致する形状である。円錐周面C1,C2のテーパ角度(2θ)は互いに等しい。そのため、第1テーパ面31および第2テーパ面32の軸線はともに流路中心線Pに一致する。また、第1テーパ面31および第2テーパ面32のテーパ角度(2θ)は互いに等しい。
【0038】
第1テーパ面31および第2テーパ面32は、典型的には仮想面Sの位置を境界として互いに隣接するように(背中合わせで)設けられており、弁箱シート30の断面形状は仮想面Sの位置を頂点とする二等辺三角形である。なお、第1テーパ面31および第2テーパ面32の勾配角度(流路中心線Pに対する傾斜角度)θは、公知のバタフライ弁100における軸直部の傾斜角度θと同程度であってよく、たとえば5度~15度の範囲で定められる。
【0039】
本実施の形態においては、
図4に示すように弁箱10を流路中心線P方向にみた場合、第1テーパ面31および第2テーパ面32からなるシート表面の輪郭(具体的には、第1テーパ面31と第2テーパ面32との境界線(円)の形状)が、真円形状となる。流路中心線Pの一方側から弁箱10を見た場合、内周面11の円周方向の全体に亘って(真円形状の)第1テーパ面31が一定幅で露出し、流路中心線Pの他方側から弁箱10を見た場合、内周面11の円周方向の全体に亘って(真円形状の)第2テーパ面32が一定幅で露出する。
【0040】
(弁体シートの形状)
弁体シート40の形状について、
図5および
図6を参照して説明する。
図5は、弁体20を上方から軸心O方向に見た平面図(上面図)であり、上述の
図12に対応する。
図6は、弁体20を流路中心線P方向に見た平面図(正面図)であり、上述の
図13に対応する。
【0041】
弁体シート40は、弁軸60の軸心Oを境とする弁体20の一方側(たとえば紙面左側)の半円外周部21に設けられた第1傾斜面41と、弁体20の他方側(たとえば紙面右側)の半円外周部22に設けられた第2傾斜面42とを含む。第1傾斜面41の角度θは、半円外周部21の周方向一端から他端まで一定の角度であり、上述のテーパ面31,32の勾配角度θと同じである。第2傾斜面42の角度θもまた、半円外周部22の周方向一端から他端まで一定の角度であり、上述のテーパ面31,32の勾配角度θと同じである。
【0042】
図6に示すように弁体20を流路中心線P方向にみた場合、第1傾斜面41および第2傾斜面42の輪郭は、ともに、真円の円弧形状である。全閉状態において、第1傾斜面41と第1テーパ面31の周方向の一部(軸心Oよりも左右方向一方側の半円部分)とが面接触し、第2傾斜面42と第2テーパ面32の周方向の一部(軸心Oよりも左右方向他方側の半円部分)とが面接触する。
【0043】
第1および第2の傾斜面41,42の形状を詳細に説明すると、第1および第2の傾斜面41,42は、流路中心線Pと同心の円錐を流路中心線Pと軸心Oを含む平面で分割して一方を流路中心線Pの反対側へ反転させた左右の半円錐周面C3,C4のそれぞれに一致する形状である。半円錐周面C3,C4の勾配角度θは、上述の円錐周面C1,C2の勾配角度と同一である。
【0044】
図6および
図7(A)を参照して、軸直部(
図6の面Saの位置)における傾斜面41(42)の角度、および、弁軸付近(
図6の面Sbの位置)における傾斜面41(42)の角度はともに、半円錐周面C3,C4の勾配角度θと等しい。そのため、弁体シート40の各傾斜面41,42の奥行き方向の幅、すなわち弁箱シート30のテーパ面31,32との接触幅は、周方向において一定である(
図2の寸法D1)。第1傾斜面41および第2傾斜面42は、軸心Oを中心とした回転対称に設けられている。
【0045】
ここで、第1傾斜面41は、仮想面Sの位置よりも流路中心線Pの一方側(弁体20の厚み方向一方側)にのみ設けられており、第2傾斜面42は、仮想面Sの位置よりも流路中心線Pの他方側(弁体20の厚み方向他方側)にのみ設けられている。このように、第1傾斜面41および第2傾斜面42の配置位置は、弁体20の厚み方向(奥行き方向)において重ならない。
【0046】
本実施の形態における弁体シート40は、弁体20の一方側の半円外周部21から径方向外側に突出させたシート本体部40a(
図2、
図7参照)を含み、第1傾斜面41は、このシート本体部40aの厚み方向中心線(仮想面Sに重なる線)よりも閉鎖回転方向後方側に形成されている。同様に、弁体シート40は、弁体20の他方側の半円外周部22から径方向外側に突出させたシート本体部40b(
図2参照)を含み、第2傾斜面42は、このシート本体部40bの厚み方向中心線(仮想面Sに重なる線)よりも閉鎖回転方向後方側に形成されている。
【0047】
一方側のシート本体部40aの閉鎖回転方向前方側には、第1傾斜面41の傾斜角度θを超える角度で削られた第1逃げ部43が設けられている。他方側のシート本体部40aの閉鎖回転方向前方側にも、第2傾斜面42の傾斜角度θを超える角度で削られた第2逃げ部44が設けられている。すなわち、弁体シート40は、一方側の半円外周部21において第1傾斜面41に閉鎖回転方向に隣り合うように設けられた第1逃げ部43と、他方側の半円外周部22において第2傾斜面42に閉鎖回転方向に隣り合うように設けられた第2逃げ部44とをさらに含む。これにより、弁体20の開閉をスムーズに行うことができる。なお、第1逃げ部43は、全閉状態において、第1逃げ部43は第2テーパ面32に接することなく対面し、第2逃げ部44は第1テーパ面31に接することなく対面する。
【0048】
図5に示されるように、第1傾斜面41と第2逃げ部44とが周方向に連続して設けられ、第2傾斜面42と第1逃げ部43とが周方向に連続して設けられている。周方向に隣り合う傾斜面41(42)と逃げ部44(43)との境界位置に弁孔開口20a,20bがあるため、傾斜面41(42)と逃げ部44(43)との間の段差の影響は少ない。また、逃げ部43,44の加工精度は傾斜面41,42よりも低くてもよいため、仮想面Sに交差する2つの逆向きの傾斜面を周方向に連続させる形態に比べて、弁体シート40の加工を容易に行うことができる。
【0049】
以上説明したように、本実施の形態のバタフライ弁1によれば、弁箱シート30と弁体シート40とを周方向のどの位置においても同じ角度θかつ同じ幅D1で密着させることができるので、周方向に均一なシール性能を得ることができる。つまり、弁箱シート30および弁体シート40による止水面圧を全周において一定にすることができる。そのため、従来のように弁体20の締め切りトルクを必要以上に大きくする必要がなく、最適なトルクを設定することができる。その結果、弁箱シート30および弁体シート40の摩耗を抑制することができる。
【0050】
また、バタフライ弁1の製造時においては、
図3および
図5に示すように弁箱10および弁体20を水平に置いた状態で(仮想面Sが水平となる状態で)、弁箱シート30および弁体シート40を加工することができるので、加工機の勾配精度を必要としない。したがって、本実施の形態によれば、弁箱シート30のテーパ面31,32および弁体シート40の傾斜面41,42を精度良く加工することができる。その結果、バタフライ弁1のシール性能を従来よりも向上させることができる。
【0051】
バタフライ弁1の製造方法は、主に、弁箱10および弁体20を成形する工程と、弁箱10を水平に(流路中心線Pが鉛直となるように)配置して、弁箱10の内周面11に弁箱シート30を加工する工程と、弁体20を水平に(弁体20の中心を通り厚み方向に真っすぐ延びる基準線が鉛直となるように)配置して、弁体20の半円外周部21,22に弁体シート40を加工する工程とを含む。なお、弁箱シート30の加工は、たとえば旋盤によるテーパ加工により実現可能である。弁体シート40の加工は、たとえば5軸加工機によるテーパ加工により実現可能である。
【0052】
(変形例)
本実施の形態では、弁箱シート30の第1テーパ面31と第2テーパ面32とが仮想面Sの位置を境界として互いに隣接するように設けられている例を示したが、このような例に限定されず、第1テーパ面31と第2テーパ面32との間に、流路中心線Pと同心の円筒面が介在していてもよい。つまり、第1テーパ面31および第2テーパ面32が、仮想面Sの位置から(若干)離れた位置に設けられていてもよい。同様に、弁体シート40の第1傾斜面41および第2傾斜面42が、仮想面Sの位置から(若干)離れた位置に設けられていてもよい。
【0053】
上述のように、第1テーパ面31および第2テーパ面32の勾配角度は、互いに等しいことが望ましいものの、多少の差があってもよい。また、第1傾斜面41および第2傾斜面42の傾斜角度はそれぞれ、第1テーパ面31および第2テーパ面32の勾配角度と同一であればよく、これらに多少の差があってもよい。
【0054】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0055】
1,100 バタフライ弁、10 弁箱、11 内周面、20,120 弁体、20a,20b 弁孔開口、21,22 半円外周部、30,130 弁箱シート、31 第1テーパ面、32 第2テーパ面、40,140 弁体シート、41 第1傾斜面、42 第2傾斜面、43 第1逃げ部、44 第2逃げ部、60 弁軸、90 円筒状流路、O 軸心、P 流路中心線、S 仮想面。