(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142851
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】センサ素子およびガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20241003BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20241003BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G01N27/409 100
G01N27/419 327E
G01N27/419 327G
G01N27/419 327K
G01N27/419 327B
G01N27/416 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055208
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長池 航
(72)【発明者】
【氏名】島川 伸太郎
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BB04
2G004BD05
2G004BD17
2G004BE13
2G004BE22
2G004BE26
2G004BJ03
2G004ZA04
(57)【要約】
【課題】電極の固体電解質層からの剥離を抑制する。
【解決手段】センサ素子101は、被測定ガス中の特定ガスの濃度を検出するためのものであり、素子本体102と、底部電極部22bとを備える。素子本体102は、酸素イオン伝導性の第1固体電解質層4を有し、被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられている。底部電極部22bは、素子本体102の第1固体電解質層4に配設されている。底部電極部22bは、貴金属とジルコニアとを含み、ラマン分光法を用いて測定されたラマンスペクトルにおけるジルコニアのT相のピーク高さHtとM相のピーク高さHmとの比Ht/HmであるTM比が1以上10以下であり、気孔率が3%以上65%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中の特定ガスの濃度を検出するためのセンサ素子であって、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を有し、前記被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられた素子本体と、
前記素子本体の前記固体電解質層に配設された耐剥離電極と、
を備え、
前記耐剥離電極は、貴金属とジルコニアとを含み、ラマン分光法を用いて測定されたラマンスペクトルにおけるジルコニアのT相のピーク高さHtとM相のピーク高さHmとの比Ht/HmであるTM比が1以上10以下であり、気孔率が3%以上65%以下である、
センサ素子。
【請求項2】
前記耐剥離電極は、気孔率が50%以下である、
請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
前記耐剥離電極は、気孔率が40%以下である、
請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項4】
前記耐剥離電極は、最大気孔径が5μm以上17μm以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項5】
前記耐剥離電極は、厚さが5μm以上30μm以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項6】
前記耐剥離電極は、厚さ方向に沿って見た面積が5mm2以上20mm2以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ素子であって、
前記被測定ガス流通部に配設された内側ポンプ電極と、前記素子本体の外側の前記被測定ガスに晒される部分に配設された外側ポンプ電極と、を有するポンプセル、
を備え、
前記内側ポンプ電極と前記外側ポンプ電極との少なくともいずれかは、前記耐剥離電極を有する、
センサ素子。
【請求項8】
前記ポンプセルとして、
前記被測定ガス流通部のうちの第1内部空所に配設された前記内側ポンプ電極としての内側主ポンプ電極と、前記外側ポンプ電極としての外側主ポンプ電極と、有する主ポンプセルと、
前記被測定ガス流通部のうちの前記第1内部空所の下流側の第2内部空所に配設された前記内側ポンプ電極としての内側補助ポンプ電極と、前記外側ポンプ電極としての外側補助ポンプ電極と、を有する補助ポンプセルと、
前記被測定ガス流通部のうちの前記第2内部空所の下流側の測定室に配設された前記内側ポンプ電極としての内側測定電極と、前記外側ポンプ電極としての外側測定電極と、を有する測定用ポンプセルと、
を備え、
前記内側主ポンプ電極は、前記耐剥離電極を有する、
請求項7に記載のセンサ素子。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ素子を備えるガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ素子およびガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を検出するガスセンサが知られている。例えば、特許文献1には、素子本体と、主ポンプセルと、補助ポンプセルと、測定用ポンプセルと、を有するセンサ素子を備えたガスセンサが記載されている。素子本体は、酸素イオン伝導性の固体電解質層を含み被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられている。主ポンプセルは、被測定ガス流通部のうちの第1内部空所に配設された内側主ポンプ電極と、素子本体の外側の被測定ガスに晒される部分に配設された外側主ポンプ電極と、を有する。補助ポンプセルは、被測定ガス流通部のうちの第1内部空所よりも下流側の第2内部空所に配設された内側補助ポンプ電極と、素子本体の外側の被測定ガスに晒される部分に配設された外側補助ポンプ電極と、を有する。測定用ポンプセルは、被測定ガス流通部のうちの第2内部空所よりも下流側の測定室に配設された内側測定電極と、素子本体の外側の被測定ガスに晒される部分に配設された外側測定電極と、を有する。このセンサ素子を用いてNOxの濃度を検出する場合、まず、主ポンプセルおよび補助ポンプセルによって第1内部空所および第2内部空所で被測定ガスの酸素濃度が調整される。続いて、酸素濃度が調整された後の被測定ガス中のNOxが測定室で還元される。そして、NOxの還元で生じた酸素を測定用ポンプセルが汲み出すときに流れるポンプ電流に基づいて、被測定ガス中のNOxの濃度が検出される。内側主ポンプ電極などのセンサ素子の各ポンプセルの各電極は、例えばPtとジルコニア(ZrO2)とを含む電極として形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、こうしたジルコニアを含む電極を備えたセンサ素子において、電極が固体電解質層から剥離する場合があった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、電極の固体電解質層からの剥離を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
[1]本発明のセンサ素子は、
被測定ガス中の特定ガスの濃度を検出するためのセンサ素子であって、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を有し、前記被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられた素子本体と、
前記素子本体の前記固体電解質層に配設された耐剥離電極と、
を備え、
前記耐剥離電極は、貴金属とジルコニアとを含み、ラマン分光法を用いて測定されたラマンスペクトルにおけるジルコニアのT相のピーク高さHtとM相のピーク高さHmとの比Ht/HmであるTM比が1以上10以下であり、気孔率が3%以上65%以下である、
ものである。
【0008】
このセンサ素子では、固体電解質層に配設された耐剥離電極が貴金属とジルコニアを含み、耐剥離電極のジルコニアのTM比が1以上10以下であり、耐剥離電極の気孔率が3%以上65%以下である。このような耐剥離電極では、TM比が1以上且つ気孔率が65%以下であることで、応力に起因する耐剥離電極の固体電解質層からの剥離が抑制される。また、耐剥離電極のTM比が10以下且つ気孔率が3%以上であることで、耐剥離電極のジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する耐剥離電極の固体電解質層からの剥離が抑制される。発明者らは、このことを実験や解析により確認した。
【0009】
[2]上述したセンサ素子(前記[1]に記載のセンサ素子)において、前記耐剥離電極は、気孔率が50%以下であってもよい。こうすれば、応力に起因する耐剥離電極の固体電解質層からの剥離をより抑制できる。
【0010】
[3]上述したセンサ素子(前記[1]または[2]に記載のセンサ素子)において、前記耐剥離電極は、気孔率が40%以下であってもよい。こうすれば、応力に起因する耐剥離電極の固体電解質層からの剥離をいっそう抑制できる。
【0011】
[4]上述したセンサ素子(前記[1]~[3]のいずれかに記載のセンサ素子)において、前記耐剥離電極は、最大気孔径が5μm以上17μm以下であってもよい。耐剥離電極の最大気孔径が17μm以下であることで、応力に起因する耐剥離電極の剥離をより抑制できる。耐剥離電極の最大気孔径が5μm以上であることで、耐剥離電極のジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する剥離をより抑制できる。
【0012】
[5]上述したセンサ素子(前記[1]~[4]のいずれかに記載のセンサ素子)において、前記耐剥離電極は、厚さが5μm以上30μm以下であってもよい。耐剥離電極の厚さが30μm以下であることで、耐剥離電極のジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する剥離をより抑制できる。耐剥離電極の厚さが5μm以上であることで、耐剥離電極中の貴金属の酸化に起因する剥離を抑制できる。
【0013】
[6]上述したセンサ素子(前記[1]~[5]のいずれかに記載のセンサ素子)において、前記耐剥離電極は、厚さ方向に沿って見た面積が5mm2以上20mm2以下であってもよい。耐剥離電極の面積が20mm2以下であることで、耐剥離電極のジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する剥離をより抑制できる。耐剥離電極の面積が5mm2以上であることで、耐剥離電極中の貴金属の酸化に起因する剥離を抑制できる。
【0014】
[7]上述したセンサ素子(前記[1]~[6]のいずれかに記載のセンサ素子)は、前記被測定ガス流通部に配設された内側ポンプ電極と、前記素子本体の外側の前記被測定ガスに晒される部分に配設された外側ポンプ電極と、を有するポンプセル、を備え、前記内側ポンプ電極と前記外側ポンプ電極との少なくともいずれかは、前記耐剥離電極を有していてもよい。
【0015】
[8]上述したセンサ素子(前記[7]に記載のセンサ素子)は、前記ポンプセルとして、前記被測定ガス流通部のうちの第1内部空所に配設された前記内側ポンプ電極としての内側主ポンプ電極と、前記外側ポンプ電極としての外側主ポンプ電極と、有する主ポンプセルと、前記被測定ガス流通部のうちの前記第1内部空所の下流側の第2内部空所に配設された前記内側ポンプ電極としての内側補助ポンプ電極と、前記外側ポンプ電極としての外側補助ポンプ電極と、を有する補助ポンプセルと、前記被測定ガス流通部のうちの前記第2内部空所の下流側の測定室に配設された前記内側ポンプ電極としての内側測定電極と、前記外側ポンプ電極としての外側測定電極と、を有する測定用ポンプセルと、を備え、前記内側主ポンプ電極は、前記耐剥離を有していてもよい。
【0016】
[9]本発明のガスセンサは、前記[1]~[8]のいずれかに記載のセンサ素子を備えたものである。そのため、このガスセンサは、上述したセンサ素子と同様の効果、例えば耐剥離電極の固体電解質層からの剥離を抑制する効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示した断面模式図。
【
図2】内側ポンプ電極22の周辺を上から見た部分拡大図。
【
図3】制御装置95と各セル等との電気的な接続関係を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるガスセンサ100の構成の一例を概略的に示した断面模式図である。
図2は、前後左右方向に沿ってセンサ素子101のスペーサ層5を切断した断面のうち内側ポンプ電極22の周辺を上から見た部分拡大図である。なお、
図2では、参考のために、第2拡散律速部13および第3拡散律速部30を点線で示した。
図3は、制御装置95と各セルおよびヒータ72との電気的な接続関係を示すブロック図である。このガスセンサ100は、例えば内燃機関の排ガス管などの配管に取り付けられている。ガスセンサ100は、内燃機関の排ガスを被測定ガスとして、被測定ガス中のNOxやアンモニアなどの特定ガスの濃度である特定ガス濃度を検出する。本実施形態では、ガスセンサ100は特定ガス濃度としてNOx濃度を測定するものとした。ガスセンサ100は、長尺な直方体形状をした素子本体102を有するセンサ素子101と、センサ素子101が備える各セル21,41,50,80~83と、センサ素子101の内部に設けられたヒータ部70と、可変電源24,46,52およびヒータ電源76を有すると共にガスセンサ100全体を制御する制御装置95と、を備えている。なお、センサ素子101の長手方向(
図1の左右方向)を前後方向とし、センサ素子101の厚み方向(
図1の上下方向)を上下方向とし、センサ素子101の幅方向(前後方向および上下方向に垂直な方向)を左右方向とする。
【0019】
素子本体102は、それぞれがジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された積層体である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。素子本体102は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0020】
センサ素子101(素子本体102)の先端部側(
図1の左端部側)であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所(酸素濃度調整室)20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所(酸素濃度調整室)40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所(測定室)61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0021】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40と、第3内部空所61とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
【0022】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。また、第4拡散律速部60は、第2固体電解質層6の下面との隙間として形成された1本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第3内部空所61に至る部位を被測定ガス流通部とも称する。
【0023】
センサ素子101(素子本体102)は、センサ素子101の外部から基準電極42にNOx濃度の測定を行う際の基準ガスを流通させる基準ガス導入部49を備えている。基準ガス導入部49は、基準ガス導入空間43と、基準ガス導入層48とを有する。基準ガス導入空間43は、センサ素子101の後端面から内方向に設けられた空間である。基準ガス導入空間43は、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に設けられている。基準ガス導入空間43は、センサ素子101の後端面に開口しており、この開口が基準ガス導入部49の入口部49aとして機能する。この入口部49aから基準ガス導入空間43内に基準ガスが導入される。基準ガス導入部49は、入口部49aから導入された基準ガスに対して所定の拡散抵抗を付与しつつこれを基準電極42に導入する。基準ガスは、本実施形態では大気とした。
【0024】
基準ガス導入層48は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4の下面との間に設けられている。基準ガス導入層48は、例えばアルミナなどのセラミックスからなる多孔質体である。基準ガス導入層48の上面の一部は、基準ガス導入空間43内に露出している。基準ガス導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。基準ガス導入層48は、基準ガスを基準ガス導入空間43から基準電極42まで流通させる。
【0025】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる基準ガス導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内、第2内部空所40内、および第3内部空所61内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0026】
被測定ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの圧力変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの圧力変動はほとんど無視できる程度のものとなる。第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0027】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域にセンサ素子101の外部に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極の間の電流の経路となる第2固体電解質層6、スペーサ層5、および第1固体電解質層4とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0028】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部22c,22d(
図2参照)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。側部電極部22c,22dは、天井電極部22aと底部電極部22bとを接続して電気的に導通させるリード(導通部)の役割を果たす部材である。
【0029】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
【0030】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42とによって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
【0031】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力(電圧V0)を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、電圧V0が目標値となるように可変電源24の電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0032】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0033】
第2内部空所40は、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整を行うための空間として設けられている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0034】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6、スペーサ層5、および第1固体電解質層4とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0035】
補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。
【0036】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0037】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
【0038】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力(電圧V1)に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0039】
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その電圧V0の上述した目標値が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0040】
第4拡散律速部60は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所61に導く部位である。第4拡散律速部60は、第3内部空所61に流入するNOxの量を制限する役割を担う。
【0041】
第3内部空所61は、あらかじめ第2内部空所40において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第4拡散律速部60を通じて導入された被測定ガスに対して、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、第3内部空所61において、測定用ポンプセル41の動作により行われる。
【0042】
測定用ポンプセル41は、第3内部空所61内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。測定電極44は、第3内部空所61内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0043】
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0044】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力(電圧V2)に基づいて可変電源46が制御される。
【0045】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部60を通じて第3内部空所61内の測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された電圧V2が一定(目標値)となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0046】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42とを組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準ガスに含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
【0047】
さらに、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力(電圧Vref)によりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0048】
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0049】
センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータコネクタ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75とを備えている。
【0050】
ヒータコネクタ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータコネクタ電極71をヒータ電源76(
図3参照)と接続することによって、ヒータ電源76からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
【0051】
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、スルーホール73を介してヒータコネクタ電極71と接続されており、該ヒータコネクタ電極71を通してヒータ電源76から給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0052】
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第3内部空所61の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0053】
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0054】
圧力放散孔75は、第3基板層3および基準ガス導入層48を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0055】
ここで、各電極22,23,42,44,51について説明する。各電極22,23,42,44,51は、それぞれ、貴金属を含んでいる。内側ポンプ電極22、補助ポンプ電極51、および測定電極44は、それぞれ、貴金属として、触媒活性を有する第1種貴金属を含んでいる。第1種貴金属としては、例えばPt、Rh、Ir、Ru、Pdの少なくともいずれかが挙げられる。外側ポンプ電極23および基準電極42も、第1種貴金属を含んでいる。内側ポンプ電極22および補助ポンプ電極51は、貴金属として、第1種貴金属による特定ガス(NOx)に対する触媒活性を抑制させる第2種貴金属も含んでいる。これにより、内側ポンプ電極22および補助ポンプ電極51は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力が弱められている。第2種貴金属としては、例えばAuが挙げられる。測定電極44は、第2種貴金属を含んでいない。これにより、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力が内側ポンプ電極22および補助ポンプ電極51よりも高められている。測定電極44は、第1種貴金属のうちPtとRhとの少なくとも一方を含むことが好ましく、PtとRhとを共に含んでいてもよい。外側ポンプ電極23および基準電極42についても、第2種貴金属を含まないことが好ましい。各電極22,23,42,44,51は、それぞれ、貴金属と酸素イオン導電性を有する酸化物(例えばZrO2)とを含むサーメットであることが好ましい。各電極22,23,42,44,51は、それぞれ、多孔質体であることが好ましい。本実施形態では、内側ポンプ電極22および補助ポンプ電極51は、Auを1%含むPtとZrO2との多孔質サーメット電極とした。また、外側ポンプ電極23、および基準電極42は、いずれも、PtとZrO2との多孔質サーメット電極とした。測定電極44は、PtとRhとZrO2との多孔質サーメット電極とした。
【0056】
各電極22,23,42,44,51がジルコニア(ZrO2)を含む場合には、ジルコニアは安定化剤が添加された部分安定化ジルコニアであることが好ましい。安定化剤としては、イットリア(Y2O3)、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)が挙げられ、部分安定化ジルコニアは安定化剤としてこれらのいずれか1種以上を含んでいてもよい。
【0057】
内側ポンプ電極22は、貴金属(ここではPt)とジルコニアとを含み、ラマン分光法を用いて測定されたラマンスペクトルにおけるジルコニアのT相(正方晶)のピーク高さHtとM相(単斜晶)のピーク高さHmとの比Ht/HmであるTM比が1以上10以下であり、気孔率が3%以上65%以下であるという特徴を有する電極(以下、耐剥離電極と称する)を有している。具体的には、内側ポンプ電極22が有する天井電極部22a及び底部電極部22bが、それぞれ耐剥離電極として構成されている。耐剥離電極の気孔率は、50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。耐剥離電極の気孔率は、5%未満としてもよいし、40%超過としてもよいし、5%未満または40%超過としてもよい。
【0058】
また、耐剥離電極は、最大気孔径が5μm以上17μm以下であることが好ましい。耐剥離電極は、厚さが5μm以上30μm以下であることが好ましい。耐剥離電極は、厚さ方向に沿って見た面積が5mm
2以上20mm
2以下であることが好ましい。なお、耐剥離電極が配設された配設面に垂直な方向を厚さ方向とする。耐剥離電極の面積は、耐剥離電極のうち配設面に接する面とは反対側の面の面積とする。そのため、内側ポンプ電極22が有する2個の耐剥離電極のうち天井電極部22aの厚さ方向は、天井電極部22aが配設された第2固体電解質層6の下面(第1内部空所20の内周面のうちの上面)に垂直な方向すなわち上下方向である。天井電極部22aの面積は、天井電極部22aのうちの下面(第2固体電解質層6の下面に接する面とは反対側の面)を厚さ方向(ここでは上下方向)に沿って見た面積である。内側ポンプ電極22が有する2個の耐剥離電極のうち底部電極部22bの厚さ方向は、底部電極部22bが配設された第1固体電解質層4の上面(第1内部空所20の内周面のうちの下面)に垂直な方向すなわち上下方向である。底部電極部22bの面積は、底部電極部22bのうちの上面(第1固体電解質層4の上面に接する面とは反対側の面)を厚さ方向(ここでは上下方向)に沿って見た面積である。本実施形態では、
図2に示すように底部電極部22bの上面を厚さ方向(ここでは上下方向)に沿って見たときの形状は四角形状であるため、この四角形状の面積(前後の長さと左右の長さとの積)を、底部電極部22bの面積とする。同様に、本実施形態では天井電極部22aの下面を厚さ方向に沿って見たときの形状は四角形状であるため(図示は省略)、天井電極部22aの下面の前後の長さと左右の長さとの積を天井電極部22aの面積とする。
【0059】
本実施形態では、内側ポンプ電極22が2個の耐剥離電極(天井電極部22a及び底部電極部22b)を有しており、天井電極部22aと底部電極部22bとでTM比、気孔率、最大気孔径、厚さ、及び面積のうち1以上が互いに異なっていてもよい。天井電極部22aと底部電極部22bとの各々について、気孔率が50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。天井電極部22aと底部電極部22bとの各々について、上述した最大気孔径、厚さ、面積の数値範囲のうち1以上を満たすことが好ましい。
【0060】
耐剥離電極のジルコニアのTM比は、ラマン分光法を用いて測定されたラマンスペクトルを用いて以下のように導出した値とする。例えば底部電極部22bのTM比を導出する場合、まず、スペーサ層5を前後左右方向に沿って切断するようにセンサ素子101を切断して、センサ素子101の内部の底部電極部22bの表面(ここでは上面)を露出させて観察面とする。続いて、例えばラマン分光測定装置を用いて観察面にレーザー光を照射し、ラマンスペクトルを得る。ラマンスペクトルは70cm-1~800cm-1の間で取得し、この範囲内で強度の最大値、最小値を算出する。さらに全体の強度から最小値を差し引き、最大値-最小値の値でスペクトルを正規化して、スペクトルSPを得る。次に、スペクトルSPをソフトウェア(例えば堀場製作所製の操作ソフトウェアLabSpec)を用いてフィッティング処理することでスペクトルSPからバックグラウンドを除去する。続いて、バックグラウンド除去後のスペクトルSPのうち、ラマンシフトが260cm-1に最も近い位置にあるピークP1をT相由来のピークとして特定し、このピークP1の強度を、T相のピーク高さHtとして算出する。また、バックグラウンド除去後のスペクトルSPに基づいてラマンシフトが176cm-1に最も近い位置にあるピークP2をM相由来のピークとして特定し、このピークP2の強度を、M相のピーク高さHmとして算出する。こうして算出されたT相のピーク高さHtとM相のピーク高さHmとに基づいて、底部電極部22bのTM比=Ht/Hmを算出する。天井電極部22aのTM比についても、上記と同様にして導出した値とする。
【0061】
耐剥離電極の気孔率、最大気孔径、及び厚さは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して得られた画像(SEM画像)を用いて以下のように導出した値とする。例えば底部電極部22bの気孔率、最大気孔径、及び厚さを導出する場合、まず、底部電極部22bの断面を観察面とするように底部電極部22bの厚さ方向に沿ってセンサ素子101を切断し、切断面の樹脂埋めおよび研磨を行って観察用試料とする。続いて、SEMの倍率を3000倍に設定して観察用試料の観察面を撮影することで3視野以上のSEM画像を得る。次に、得た画像を画像解析することにより、画像中の画素の輝度データの輝度分布から判別分析法(大津の2値化)で閾値を決定する。その後、決定した閾値に基づいて画像中の各画素を物体部分と気孔部分とに2値化して、物体部分の面積と気孔部分の面積とを算出する。そして、全面積(物体部分と気孔部分の合計面積)に対する気孔部分の面積の割合を、気孔率(単位:%)として導出する。また、SEM画像中で気孔部分の画素とのみ重なるように(物体部分の画素と重ならないように)作図可能な最も長い線分の長さを、最大気孔径(単位:μm)として導出する。底部電極部22bの厚さ(単位:μm)も、SEM画像中の底部電極部22bの厚さに基づいて導出する。天井電極部22aの気孔率、最大気孔径、及び厚さについても、上記と同様にして導出した値とする。
【0062】
制御装置95は、
図3に示すように、上述した可変電源24,46,52と、上述したヒータ電源76と、制御部96と、を備えている。制御部96は、CPU97および記憶部98などを備えたマイクロプロセッサである。記憶部98は、情報の書き換えが可能な不揮発性メモリであり、例えば各種プログラムや各種データを記憶可能である。制御部96は、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の電圧V0、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81の電圧V1、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82の電圧V2、センサセル83の電圧Vref、主ポンプセル21を流れるポンプ電流Ip0、補助ポンプセル50を流れるポンプ電流Ip1および測定用ポンプセル41を流れるポンプ電流Ip2を入力する。また、制御部96は可変電源24,46,52へ制御信号を出力することで可変電源24,46,52が出力する電圧Vp0,Vp1,Vp2を制御し、これにより、主ポンプセル21、測定用ポンプセル41および補助ポンプセル50を制御する。制御部96は、ヒータ電源76に制御信号を出力することでヒータ電源76がヒータ72に供給する電力を制御する。記憶部98には、後述する目標値V0*,V1*,V2*なども記憶されている。制御部96のCPU97は、これらの目標値V0*,V1*,V2*を参照して、各セル21,41,50の制御を行う。
【0063】
制御部96は、第2内部空所40の酸素濃度が目標濃度となるように補助ポンプセル50を制御する補助ポンプ制御処理を行う。具体的には、制御部96は、電圧V1が一定値(目標値V1*と称する)となるように可変電源52の電圧Vp1をフィードバック制御することで、補助ポンプセル50を制御する。目標値V1*は、第2内部空所40の酸素濃度がNOxの測定に実質的に影響がない所定の低濃度となるような値として定められている。
【0064】
制御部96は、補助ポンプ制御処理によって補助ポンプセル50が第2内部空所40の酸素濃度を調整するときに流れるポンプ電流Ip1が目標電流(目標値Ip1*と称する)になるように主ポンプセル21を制御する主ポンプ制御処理を行う。具体的には、制御部96は、電圧Vp1によって流れるポンプ電流Ip1が一定の目標値Ip1*となるように、ポンプ電流Ip1に基づいて電圧V0の目標値(目標値V0*と称する)を設定(フィードバック制御)する。そして、制御部96は、電圧V0が目標値V0*となるように(つまり第1内部空所20の酸素濃度が目標濃度となるように)可変電源24の電圧Vp0をフィードバック制御する。この主ポンプ制御処理により、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となる。目標値V0*は、第1内部空所20の酸素濃度が0%よりは高く且つ低濃度となるような値に設定される。また、この主ポンプ制御処理中に流れるポンプ電流Ip0は、ガス導入口10から被測定ガス流通部内に流入する被測定ガス(すなわちセンサ素子101の周囲の被測定ガス)の酸素濃度に応じて変化する。そのため、制御部96は、ポンプ電流Ip0に基づいて被測定ガス中の酸素濃度を検出することもできる。
【0065】
上述した主ポンプ制御処理および補助ポンプ制御処理をまとめて調整用ポンプ制御処理とも称する。また、第1内部空所20および第2内部空所40をまとめて酸素濃度調整室とも称する。主ポンプセル21および補助ポンプセル50をまとめて調整用ポンプセルとも称する。制御部96が調整用ポンプ制御処理を行うことで、調整用ポンプセルが酸素濃度調整室の酸素濃度を調整する。
【0066】
さらに、制御部96は、電圧V2が一定値(目標値V2*と称する)となるように(つまり第3内部空所61内の酸素濃度が所定の低濃度になるように)測定用ポンプセル41を制御する測定用ポンプ制御処理を行う。具体的には、制御部96は、電圧V2が目標値V2*となるように可変電源46の電圧Vp2をフィードバック制御することで、測定用ポンプセル41を制御する。この測定用ポンプ制御処理により、第3内部空所61内から酸素が汲み出される。
【0067】
測定用ポンプ制御処理が行われることで、被測定ガス中のNOxが第3内部空所61で還元されることにより発生した酸素が実質的にゼロとなるように、第3内部空所61内から酸素が汲み出される。そして、制御部96は、特定ガス(ここではNOx)に由来して第3内部空所61で発生する酸素に応じた検出値としてポンプ電流Ip2を取得し、このポンプ電流Ip2に基づいて被測定ガス中のNOx濃度を算出する。
【0068】
記憶部98には、ポンプ電流Ip2とNOx濃度との対応関係として、関係式(例えば一次関数または二次関数の式)やマップなどが記憶されている。このような関係式またはマップは、予め実験により求めておくことができる。
【0069】
制御部96は、ヒータ電源76に制御信号を出力してヒータ72の温度が目標温度(例えば800℃)になるように制御するヒータ制御処理を行う。ここで、ヒータ72の温度はヒータ72の抵抗値の一次関数の式で表すことができる。そこで、ヒータ制御処理では、制御部96はヒータ72の温度とみなせる値(温度に換算可能な値)としてヒータ72の抵抗値を算出して、算出した抵抗値が目標抵抗値(目標温度に対応する抵抗値)になるようにヒータ電源76をフィードバック制御する。制御部96は、例えばヒータ72の電圧およびヒータ72を流れる電流を取得して、取得した電圧および電流に基づいてヒータ72の抵抗値を算出することができる。制御部96は、例えば3端子法または4端子法によりヒータ72の抵抗値を算出してもよい。ヒータ電源76は、ヒータ72に通電するにあたり、例えば制御部96からの制御信号に基づいてヒータ72に印加する電圧の値を変化させることで、ヒータ72に供給する電力を調整する。
【0070】
なお、
図3に示した可変電源24,46,52およびヒータ電源76などを含めて、制御装置95は、実際にはセンサ素子101内に形成された図示しないリード線およびセンサ素子101の後端側に形成された図示しないコネクタ電極(ヒータコネクタ電極71のみ
図1に示した)を介して、センサ素子101内部の各電極と接続されている。
【0071】
次に、こうしたガスセンサ100のセンサ素子101の製造方法の一例を以下に説明する。まず、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含む6枚の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意する。このグリーンシートには、印刷時や積層時の位置決めに用いるシート穴や必要なスルーホール等を予め複数形成しておく。また、スペーサ層5となるグリーンシートには被測定ガス流通部となる空間を予め打ち抜き処理などによって設けておく。第1固体電解質層4となるグリーンシートにも、同様に基準ガス導入空間43となる空間を設けておく。そして、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6とのそれぞれに対応して、各セラミックスグリーンシートに種々のパターンを形成するパターン印刷処理・乾燥処理を行う。形成するパターンは、具体的には、例えば上述した各電極や各電極に接続されるリード線、基準ガス導入層48、ヒータ部70などのパターンである。パターン印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してグリーンシート上に塗布することにより行う。内側ポンプ電極22となるパターンは、焼成後に天井電極部22aとなるパターンと、焼成後に底部電極部22bとなるパターンと、焼成後に側部電極部22c及び側部電極部22dとなるパターンと、をそれぞれ分けて形成する。側部電極部22c及び側部電極部22dとなるパターンは、例えば公知のスルーホール印刷によって形成できる。乾燥処理についても、公知の乾燥手段を用いて行う。パターン印刷・乾燥が終わると、各層に対応するグリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う。そして、接着用ペーストを形成したグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ所定の順序に積層して、所定の温度・圧力条件を加えることで圧着させ、一つの積層体とする圧着処理を行う。こうして得られた積層体は、焼成後に素子本体102となる未焼成素子本体を複数個包含したものである。その積層体を切断してセンサ素子101の大きさに切り分けることで複数個の未焼成素子本体を得る。そして、未焼成素子本体を所定の焼成温度で焼成し、センサ素子101を得る。
【0072】
このようにしてセンサ素子101を得ると、センサ素子101を図示しない素子封止体に組み込んだセンサ組立体を製造し、保護カバーなどを取り付ける。そして、センサ素子101と制御装置95とを電気的に接続することで、ガスセンサ100が得られる。
【0073】
耐剥離電極(ここでは内側ポンプ電極22の天井電極部22aおよび底部電極部22bの各々)のパターン形成用のペーストは、例えば貴金属(ここではPt及びAu)の粉末と、ジルコニアの粉末と、ジルコニアの安定化剤と、溶媒とを混練することによって作製できる。本実施形態では、安定化剤はイットリアとした。耐剥離電極のパターン形成用のペーストには造孔材を含有させてもよい。造孔材としては、例えばアクリル樹脂などの高分子材料が挙げられる。耐剥離電極のジルコニアのTM比は、例えばペースト中の安定化剤の含有割合、混練する前のジルコニアの粉末の粉砕時間、耐剥離電極のパターンの焼成温度(ひいては未焼成素子本体の焼成温度)のうち1以上を調整することにより、調整できる。例えば、安定化剤の含有割合を多くすることで、焼成後の常温においてジルコニアのM相よりもT相の結晶系の割合が多くなり、ひいてはTM比を大きくすることができる。また、焼成温度が高温であるほどM相よりもT相の結晶系の割合が大きくなる傾向があり、TM比を大きくすることができる。ジルコニアの粉末の粉砕時間が長いほど、ジルコニアの粉末の粒径が小さくなり、T相として存在しやすくるなるから、TM比を大きくすることができる。例えば、耐剥離電極のパターン形成用のペーストを作製する前のジルコニアの粉末の粉砕時間を10時間以上100時間以下とし、ペースト中のジルコニアの含有割合A(mol%)に対する安定化剤の含有割合B(mol%)の比B/Aを2以上8以下にし、且つ、焼成温度を1200℃以上1500℃以下にすることで、耐剥離電極のジルコニアのTM比を1以上10以下にすることができる。耐剥離電極の気孔率及び最大気孔径は、例えば耐剥離電極のパターン形成用のペーストに含有させる造孔材の粒径や含有割合を調整することで、調整できる。耐剥離電極の厚さは、例えば耐剥離電極のパターン形成用のペーストの粘度を調整したり、パターン形成時の印刷回数を変更したりすることで、調整できる。耐剥離電極の面積は、例えばパターン形成時のスクリーン印刷のマスクの形状を調整することで、調整できる。
【0074】
次に、ガスセンサ100の使用例について説明する。制御部96のCPU97は、まず、上述したヒータ制御処理を開始して、ヒータ72の温度が目標温度(例えば800℃など)になるようにヒータ電源76を制御する。ヒータ72の温度が目標温度(又は目標温度付近)に到達すると、CPU97は、上述した各ポンプセル21,41,50の制御(調整用ポンプ制御処理及び測定用ポンプ制御処理)や、上述した各センサセル80~83からの各電圧V0,V1,V2,Vrefの取得を開始する。この状態で、被測定ガスがガス導入口10から導入されると、被測定ガスは、第1拡散律速部11,緩衝空間12及び第2拡散律速部13を通過し、第1内部空所20に到達する。次に、第1内部空所20及び第2内部空所40において被測定ガスの酸素濃度が主ポンプセル21及び補助ポンプセル50によって調整され、調整後の被測定ガスが第3内部空所61に到達する。そして、CPU97は、取得したポンプ電流Ip2と記憶部98に記憶された対応関係とに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を検出する。
【0075】
こうして構成されたガスセンサ100のセンサ素子101では、上述したとおり、内側ポンプ電極22の天井電極部22aおよび底部電極部22bが、それぞれ、ジルコニアのTM比が1以上10以下であり、気孔率が3%以上65%以下である耐剥離電極として構成されている。これにより、天井電極部22aおよび底部電極部22bの各々について固体電解質層(ここでは第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)から剥離するのを抑制できる。より具体的には、天井電極部22aのTM比が1以上且つ気孔率が65%以下であることで、応力に起因する天井電極部22aの第2固体電解質層6からの剥離を抑制できる。また、天井電極部22aのTM比が10以下且つ気孔率が3%以上であることで、天井電極部22aのジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する第2固体電解質層6からの剥離を抑制できる。同様に、底部電極部22bのTM比が1以上且つ気孔率が65%以下であることで、応力に起因する底部電極部22bの第1固体電解質層4からの剥離を抑制できる。また、底部電極部22bのTM比が10以下且つ気孔率が3%以上であることで、底部電極部22bのジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する第1固体電解質層4からの剥離を抑制できる。発明者らは、このことを実験や解析により確認した。
【0076】
このような効果が得られる理由は、以下のように考えられる。センサ素子101は、使用時にヒータ72により加熱されるため、素子本体102の固体電解質層(各層1~6)や内側ポンプ電極22の熱膨張が生じて内側ポンプ電極22に応力がかかる。このとき、天井電極部22aのジルコニアのTM比が高いほど天井電極部22aの靱性が高くなる傾向があり、応力による天井電極部22aの剥離が抑制される傾向にある。また、天井電極部22aの気孔率が高いと天井電極部22aの強度が低下するため、気孔率が低いほど応力による天井電極部22aの剥離が抑制される傾向にある。そのため、天井電極部22aのTM比が1以上且つ気孔率が65%以下であることで、天井電極部22aの靱性や強度が高くなり、応力による天井電極部22aの第2固体電解質層6からの剥離が抑制されると考えられる。一方で、天井電極部22aがジルコニアを含む場合、センサ素子101の使用時の熱によってジルコニアのTM変態(T相(正方晶)からM相(単斜晶)への結晶構造の変化)が生じてジルコニアの体積が膨張する場合がある。これにより、センサ素子101の使用期間が長くなるにつれて天井電極部22aの体積が徐々に膨張していく場合がある。そして、天井電極部22aのジルコニアのTM変態によって体積が膨張しすぎることによって、天井電極部22aが第2固体電解質層6から剥離する懸念がある。これに対して、本実施形態では天井電極部22aのジルコニアのTM比が10以下であるため、TM比が10より大きい場合に比して天井電極部22aのジルコニアのうちT相の割合が低くM相の割合が高い。そのため、本実施形態の天井電極部22aのジルコニアはM相に変化する元となるT相の割合が低いから、TM変態によるTM比の減少率が小さくなり、TM変態による天井電極部22aの体積の膨張率が小さくなる。これにより、センサ素子101を長期間使用しても天井電極部22aのTM変態による体積の膨張率が小さいから、TM変態による体積膨張に起因する天井電極部22aの第2固体電解質層6からの剥離が抑制されると考えられる。また、天井電極部22aの気孔率が高いほど天井電極部22aの内部の空間が多いため、天井電極部22aのTM変態による体積膨張が生じても天井電極部22aの外形寸法の変化が生じにくくなり、天井電極部22aの剥離が抑制される傾向がある。そのため、天井電極部22aのTM比が10以下且つ気孔率が3%以上であることで、天井電極部22aのジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する第2固体電解質層6からの剥離が抑制されると考えられる。以上のことから、天井電極部22aのジルコニアのTM比が1以上10以下であり、気孔率が3%以上65%以下であることで、センサ素子101の使用時の応力に起因する天井電極部22aの第2固体電解質層6からの剥離を抑制でき、且つ、センサ素子101を長期間使用した場合の天井電極部22aのジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する天井電極部22aの第2固体電解質層6からの剥離も抑制できる。また、上記の通り気孔率が低いほど応力による天井電極部22aの剥離が抑制される傾向にあるため、この観点から、天井電極部22aの気孔率は50%以下が好ましく、40%以下がより好ましい。同様に、底部電極部22bについても、ジルコニアのTM比が1以上10以下であり、気孔率が3%以上65%以下であることで、センサ素子101の使用時の応力に起因する底部電極部22bの第1固体電解質層4からの剥離を抑制でき、且つ、センサ素子101を長期間使用した場合の底部電極部22bのジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する底部電極部22bの第1固体電解質層4からの剥離も抑制できる。また、底部電極部22bの気孔率は50%以下が好ましく、40%以下がより好ましい。
【0077】
また、天井電極部22aの気孔径が小さいほど、天井電極部22aの強度が高くなる傾向があり、応力による天井電極部22aの第2固体電解質層6からの剥離を抑制する効果が高まる傾向がある。この観点から、天井電極部22aの最大気孔径は17μm以下が好ましい。一方で、天井電極部22aの気孔径が大きいほど、天井電極部22a内部の空間が大きいため、天井電極部22aのTM変態による体積膨張が生じても天井電極部22aの外形寸法の変化が生じにくくなり、天井電極部22aの剥離が抑制される傾向がある。この観点から、天井電極部22aの最大気孔径は5μm以上であることが好ましい。同様に、応力による底部電極部22bの第1固体電解質層4からの剥離を抑制する観点から、底部電極部22bの最大気孔径は17μm以下が好ましい。底部電極部22bのTM変態による剥離を抑制する観点から、底部電極部22bの最大気孔径は5μm以上であることが好ましい。
【0078】
天井電極部22aの厚さが小さいほど、天井電極部22aの体積が小さくなる傾向や天井電極部22aの厚さ方向の体積膨張の大きさ(膨張率ではなく膨張前後の厚さの差)が小さくなる傾向があるから、天井電極部22aのジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する第2固体電解質層6からの剥離が抑制される傾向がある。この観点から、天井電極部22aの厚さは30μm以下であることが好ましい。一方で、天井電極部22aの厚さが小さいほど、天井電極部22aの体積が小さくなる傾向があるから、天井電極部22a中の貴金属の量が少なくなる傾向がある。そして、天井電極部22a中の貴金属はセンサ素子101の使用に伴って酸化し、酸化した貴金属は酸化前と比較して蒸発しやすくなるため、天井電極部22a中の貴金属が減少して天井電極部22aが脆くなる。そのため、天井電極部22aの厚さが小さいほど、こうした天井電極部22aの劣化(貴金属の酸化)によって天井電極部22aが脆くなりやすく、天井電極部22aが第2固体電解質層6から剥離しやすくなる懸念もある。この観点から、天井電極部22aの厚さは5μm以上であることが好ましい。同様に、底部電極部22bのTM変態による第1固体電解質層4からの剥離を抑制する観点から、底部電極部22bの厚さは30μm以下であることが好ましい。底部電極部22b中の貴金属の酸化に起因する剥離を抑制する観点から、底部電極部22bの厚さは5μm以上であることが好ましい。
【0079】
厚さと同様に、天井電極部22aの厚さ方向に沿って見た面積についても、面積が小さいほど天井電極部22aの体積が小さくなる傾向や天井電極部22aの配設面に沿った方向の体積膨張の大きさ(膨張率ではなく膨張前後の長さの差)が小さくなる傾向があるから、天井電極部22aのジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する第2固体電解質層6からの剥離が抑制される傾向がある。この観点から、天井電極部22aの面積は20mm2以下であることが好ましい。また、天井電極部22aの面積が小さいほど、天井電極部22aの体積が小さくなる傾向があるから、天井電極部22aの劣化(貴金属の酸化)によって天井電極部22aが脆くなりやすく、天井電極部22aが第2固体電解質層6から剥離しやすくなる懸念もある。この観点から、天井電極部22aの面積は5mm2以上であることが好ましい。同様に、底部電極部22bのTM変態による第1固体電解質層4からの剥離を抑制する観点から、底部電極部22bの面積は20mm2以下であることが好ましい。底部電極部22b中の貴金属の酸化に起因する剥離を抑制する観点から、底部電極部22bの面積は5mm2以上であることが好ましい。
【0080】
なお、天井電極部22aにおいてジルコニアのT相からM相への変化が生じるとTM比の値が減少するから、センサ素子101の使用によるジルコニアのTM変態が生じることで天井電極部22aのTM比が1以上10以下の値から1未満の値に変化する場合もある。また、センサ素子101の使用時の温度によっては、天井電極部22aにおいてジルコニアのM相からT相への変化が生じてTM比の値が増大する場合もあり、それにより天井電極部22aのTM比が1以上10以下の値から10超過の値に変化する場合もある。ただし、本実施形態のセンサ素子101は、センサ素子101の未使用状態、すなわちセンサ素子101の使用によるジルコニアのTM変態が生じていない状態において、天井電極部22aのジルコニアのTM比が1以上10以下であればよい。底部電極部22bについても同様である。
【0081】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の第1基板層1、第2基板層2、第3基板層3、第1固体電解質層4、スペーサ層5および第2固体電解質層6の各々が本発明の固体電解質層に相当し、素子本体102が素子本体に相当し、第2固体電解質層6に配設された天井電極部22aおよび第1固体電解質層4に配設された底部電極部22bがそれぞれ耐剥離電極に相当する。また、内側ポンプ電極22が内側ポンプ電極,および内側主ポンプ電極に相当する。また、外側ポンプ電極23が外側ポンプ電極,外側主ポンプ電極,外側補助ポンプ電極,および外側測定電極に相当し、主ポンプセル21がポンプセルおよび主ポンプセルに相当し、補助ポンプ電極51が内側ポンプ電極および内側補助ポンプ電極に相当し、補助ポンプセル50が補助ポンプセルに相当し、第3内部空所61が測定室に相当し、測定電極44が内側ポンプ電極および内側測定電極に相当し、測定用ポンプセル41が測定用ポンプセルに相当する。
【0082】
以上詳述した本実施形態のガスセンサ100が備えるセンサ素子101は、貴金属とジルコニアとを含み、TM比が1以上10以下であり、気孔率が3%以上65%以下である天井電極部22aおよび底部電極部22b(2個の耐剥離電極)を有している。天井電極部22aおよび底部電極部22bのTM比が1以上且つ気孔率が65%以下であることで、応力に起因する天井電極部22aおよび底部電極部22bの第2固体電解質層6および第1固体電解質層4からの剥離を抑制できる。また、天井電極部22aおよび底部電極部22bのTM比が10以下且つ気孔率が3%以上であることで、天井電極部22aおよび底部電極部22bのジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する第2固体電解質層6および第1固体電解質層4からの剥離を抑制できる。さらに、天井電極部22aおよび底部電極部22bの気孔率が50%以下であることで、応力に起因する天井電極部22aおよび底部電極部22bの第2固体電解質層6および第1固体電解質層4からの剥離をより抑制できる。天井電極部22aおよび底部電極部22bの気孔率が40%以下であることで、応力に起因する天井電極部22aおよび底部電極部22bの第2固体電解質層6および第1固体電解質層4からの剥離をいっそう抑制できる。
【0083】
また、天井電極部22aおよび底部電極部22bの最大気孔径が17μm以下であることで、応力に起因する天井電極部22aおよび底部電極部22bの剥離をより抑制できる。天井電極部22aおよび底部電極部22bの最大気孔径が5μm以上であることで、天井電極部22aおよび底部電極部22bのジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する剥離をより抑制できる。
【0084】
さらに、天井電極部22aおよび底部電極部22bの厚さが5μm以上であることで、天井電極部22aおよび底部電極部22b中の貴金属の酸化に起因する第2固体電解質層6および第1固体電解質層4からの剥離を抑制できる。天井電極部22aおよび底部電極部22bの厚さが30μm以下であることで、天井電極部22aおよび底部電極部22bのジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する第2固体電解質層6および第1固体電解質層4からの剥離をより抑制できる。
【0085】
そして、天井電極部22aおよび底部電極部22bの厚さ方向に沿って見た面積が5mm2以上であることで、天井電極部22aおよび底部電極部22b中の貴金属の酸化に起因する第2固体電解質層6および第1固体電解質層4からの剥離を抑制できる。天井電極部22aおよび底部電極部22bの面積が20mm2以下であることで、天井電極部22aおよび底部電極部22bのジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する第2固体電解質層6および第1固体電解質層4からの剥離をより抑制できる。
【0086】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0087】
例えば、上述した実施形態では、内側ポンプ電極22は耐剥離電極として天井電極部22aと底部電極部22bとを有していたが、これに限られない。例えば、天井電極部22aと底部電極部22bとのいずれかのみが耐剥離電極であってもよい。この場合でも、天井電極部22aと底部電極部22bとのうち耐剥離電極として構成された電極部については、上述した実施形態と同様に固体電解質層からの剥離が抑制される効果が得られる。また、側部電極部22cと側部電極部22dとのうち1以上についても耐剥離電極と同じ特徴を有していてもよい。すなわち、内側ポンプ電極22(天井電極部22a,底部電極部22b,側部電極部22cおよび側部電極部22d)が全体として耐剥離電極の特徴を有していてもよい。ただし、上述した実施形態で天井電極部22aと底部電極部22bとを互いに別の耐剥離電極とみなしたのと同様に、互いに異なる配設面に配設されている耐剥離電極や互いに離間して配設されている耐剥離電極は、それぞれ別の耐剥離電極とみなす。例えば、天井電極部22a,底部電極部22b,側部電極部22cおよび側部電極部22dがいずれも耐剥離電極の特徴を有している場合でも、耐剥離電極の面積はこれらの電極部22a~22dの合計とはせず、天井電極部22a,底部電極部22b,側部電極部22cおよび側部電極部22dの各々で面積の値が定義される。また、内側ポンプ電極22が天井電極部22aと底部電極部22bとの一方のみを備えており、その一方の電極が耐剥離電極であってもよい。このように内側ポンプ電極22自体が1つの耐剥離電極である場合も、「耐剥離電極を有する」場合に含まれる。
【0088】
上述した実施形態では、内側ポンプ電極22の天井電極部22aおよび底部電極部22bはそれぞれ略直方体形状としたが、特にこの形状に限られない。例えば、天井電極部22aおよび底部電極部22bは円柱状などとしてもよい。
【0089】
上述した実施形態では、センサ素子101が備える各電極22,23,42,44,51のうち内側ポンプ電極22が、耐剥離電極を有していたが、これに限られない。センサ素子101が固体電解質層に配設された耐剥離電極を有していればよく、例えば各電極22,23,42,44,51のうち1以上が耐剥離電極を有していればよい。各電極22,23,42,44,51のうち1以上が耐剥離電極を有していれば、その耐剥離電極について、上述した実施形態と同様に、固体電解質層からの剥離を抑制する効果が得られる。例えば主ポンプセル21の一部を構成する電極である内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との少なくともいずれかが耐剥離電極を有していてもよい。各電極22,23,42,44,51のうち特にポンプセル(主ポンプセル21,補助ポンプセル50,測定電極44)の少なくともいずれかの一部を構成する電極である内側ポンプ電極22,外側ポンプ電極23,測定電極44,補助ポンプ電極51の少なくともいずれかが耐剥離電極を有していてもよいし、これらのいずれもが耐剥離電極を有していてもよい。各電極22,23,42,44,51のいずれもが耐剥離電極を有していてもよい。天井電極部22aおよび底部電極部22b以外の耐剥離電極についても、上述した実施形態の天井電極部22aおよび底部電極部22bと同様に、各々の耐剥離電極について、気孔率が50%以下であることが好ましく、気孔率が40%以下であることがより好ましく、最大気孔径が5μm以上17μm以下であることが好ましく、厚さが5μm以上30μm以下であることが好ましく、厚さ方向に沿って見た面積が5mm2以上20mm2以下であることが好ましい。なお、電極中の貴金属の酸化は、特にポンプ電流が流れる電極で生じやすい。そのため、各電極22,23,42,44,51のうち特に各ポンプセル21,50,41の少なくともいずれかの一部を構成する電極である内側ポンプ電極22,外側ポンプ電極23,測定電極44,補助ポンプ電極51については、耐剥離電極を有する場合にその耐剥離電極の厚さを5μm以上としたり面積を5mm2以上としたりする意義が高い。また、各ポンプセル21,50,41のうち被測定ガス流通部の最も上流側に位置する主ポンプセル21では、補助ポンプセル50及び測定用ポンプセル41のポンプ電流Ip1,Ip2よりも大きなポンプ電流Ip0が流れる傾向にあるため、特に内側ポンプ電極22は貴金属の酸化が生じやすい。この観点から、各電極22,23,42,44,51のうち少なくとも内側ポンプ電極22については耐剥離電極を有することが好ましく、さらにその耐剥離電極の厚さを5μm以上としたり面積を5mm2以上としたりすることがより好ましい。なお、各電極22,23,42,44,51のうち1以上が耐剥離電極を有する場合も、上述した通り、互いに異なる配設面に配設されている耐剥離電極や互いに離間して配設されている耐剥離電極は、それぞれ別の耐剥離電極とみなす。例えば、補助ポンプ電極51の天井電極部51aと底部電極部51bとを共に耐剥離電極とする場合でも、耐剥離電極の面積は天井電極部51aと底部電極部51bとの合計とはせず、天井電極部51aと底部電極部51bとで別々に面積の値が定義される。同様に、天井電極部22aと天井電極部51aとが共に耐剥離電極である場合も、天井電極部22aと天井電極部51aとは互いに離間しているため、互いに別の耐剥離電極とみなす。また、各電極22,23,42,44,51のうち1以上について、その電極が1つの耐剥離電極である場合も、「耐剥離電極を有する」場合に含まれる。例えば上述した実施形態では、測定電極44は1つの配設面に配設された1つの電極であるが、この測定電極44を耐剥離電極とする場合も、「測定電極44が耐剥離電極を有する」場合に含まれる。上述した実施形態の外側ポンプ電極23及び基準電極42も同様である。
【0090】
上述した実施形態では、外側ポンプ電極23は、主ポンプセル21における内側ポンプ電極22と対になる電極(外側主ポンプ電極とも言う)としての役割と、補助ポンプセル50の補助ポンプ電極51と対になる電極(外側補助ポンプ電極とも言う)としての役割と、測定用ポンプセル41の測定電極44と対になる電極(外側測定電極とも言う)としての役割とを兼ねていたが、これに限られない。外側主ポンプ電極、外側補助ポンプ電極、および外側測定電極のうちのいずれか1以上を、外側ポンプ電極23とは別に素子本体の外側に被測定ガスと接触するように設けてもよい。
【0091】
上述した実施形態では、外側ポンプ電極23はセンサ素子101の外部に露出しているが、これに限らず外側ポンプ電極23は被測定ガスと接触するように素子本体(層1~6)の外側に設けられていればよい。例えば、センサ素子101が素子本体(層1~6)を被覆する多孔質保護層を備えており、外側ポンプ電極23も多孔質保護層に被覆されていてもよい。
【0092】
上述した実施形態では、ガスセンサ100のセンサ素子101は第1内部空所20,第2内部空所40,第3内部空所61を備えるものとしたが、これに限られない。例えば、
図4に示すセンサ素子201のように、第3内部空所61を備えないものとしてもよい。
図4に示した変形例のセンサ素子201では、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。また、測定電極44は、第2内部空所40内の第1固体電解質層4の上面に配設されている。測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。第4拡散律速部45は、アルミナ(Al
2O
3)などのセラミックス多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、上述した実施形態の第4拡散律速部60と同様に、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担う。また、第4拡散律速部45は、測定電極44の保護膜としても機能する。補助ポンプ電極51の天井電極部51aは、測定電極44の直上まで形成されている。このような構成のセンサ素子201であっても、上述した実施形態と同様に例えばポンプ電流Ip2に基づいてNOx濃度を検出できる。この場合、測定電極44の周囲が測定室として機能することになる。
【0093】
上述した実施形態では、センサ素子101は被測定ガス中のNOx濃度を検出するものとしたが、被測定ガス中の特定ガスの濃度を検出するものであれば、これに限られない。例えば、NOxに限らず他の酸化物濃度を特定ガス濃度としてもよい。特定ガスが酸化物の場合には、上述した実施形態と同様に特定ガスそのものを第3内部空所61で還元したときに酸素が発生するから、測定用ポンプセル41はこの酸素に応じた検出値(例えばポンプ電流Ip2)を取得して特定ガス濃度を検出できる。また、特定ガスがアンモニアなどの非酸化物であってもよい。特定ガスが非酸化物の場合には、特定ガスを酸化物に変換(例えばアンモニアであればNOに変換)することで、変換後のガスが第3内部空所61で還元したときに酸素が発生するから、測定用ポンプセル41はこの酸素に応じた検出値(例えばポンプ電流Ip2)を取得して特定ガス濃度を検出できる。例えば、第1内部空所20の内側ポンプ電極22が触媒として機能することにより、第1内部空所20においてアンモニアをNOに変換できる。
【0094】
上述した実施形態では、センサ素子101の素子本体102は、複数の固体電解質層(層1~6)を有する積層体としたが、これに限られない。センサ素子101の素子本体102は、酸素イオン伝導性の固体電解質層を少なくとも1つ含んでいればよい。例えば、
図1において第2固体電解質層6以外の層1~5は固体電解質層以外の材質からなる層(例えばアルミナからなる層)としてもよい。この場合、センサ素子101が有する各電極は第2固体電解質層6に配設されるようにすればよい。例えば、
図1の測定電極44は第2固体電解質層6の下面に配設すればよい。また、基準ガス導入空間43を第1固体電解質層4に設ける代わりにスペーサ層5に設け、基準ガス導入層48を第1固体電解質層4と第3基板層3との間に設ける代わりに第2固体電解質層6とスペーサ層5との間に設け、基準電極42を第3内部空所61よりも後方且つ第2固体電解質層6の下面に設ければよい。
【0095】
上述した実施形態では、制御部96は、ポンプ電流Ip1が目標値Ip1*となるように、ポンプ電流Ip1に基づいて電圧V0の目標値V0*を設定(フィードバック制御)し、電圧V0が目標値V0*となるようにポンプ電圧Vp0をフィードバック制御したが、他の制御を行ってもよい。例えば、制御部96は、ポンプ電流Ip1が目標値Ip1*となるように、ポンプ電流Ip1に基づいてポンプ電圧Vp0をフィードバック制御してもよい。すなわち、制御部96は、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80からの電圧V0の取得や目標値V0*の設定を省略して、ポンプ電流Ip1に基づいて直接的にポンプ電圧Vp0を制御(ひいてはポンプ電流Ip0を制御)してもよい。
【実施例0096】
以下に、センサ素子を具体的に作製した例を実施例として説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
[実施例1~20,比較例1~4]
上述した実施形態の
図1および
図2のガスセンサ100と同様の製造方法によりセンサ素子101をそれぞれ作製して、実施例1~20,比較例1~4とした。実施例1~20,比較例1~4のいずれにおいても、内側ポンプ電極22は、PtとZrO
2と安定化剤とを含む多孔質サーメット電極とした。実施例1~20,比較例1~4のセンサ素子101は、内側ポンプ電極22の底部電極部22bの各々に関して、使用した安定化剤の種類,ジルコニアのTM比,気孔率,最大気孔径,厚さ,および面積をそれぞれ上述した方法で表1に示すように種々変更した。内側ポンプ電極22の天井電極部22aは、底部電極部22bと同じペーストを用いて形成した。実施例1~20,比較例1~4のセンサ素子101は、それぞれ複数個を作製した。
【0098】
[TM比の測定]
表1に示したTM比は、実施例1~20,比較例1~4の各々について、上述した複数個のセンサ素子101の1個を用いて、上述した方法で測定した。なお、ラマンスペクトルは、堀場製作所製レーザーラマン分光測定装置LabRAM ARAMISを用い、操作ソフトウェアLabSpecを用いて測定した。光学系はツェルニターナ型分光系、後方散乱方式であり、光源として半導体励起固体レーザー(DPSS、532nm)を用いた。サンプルの測定前にはSiウェハを用い、校正を行った。ラマンスペクトルの測定はHole(コンフォーカルホール径)を400μm、分光器の中心波数を520cm-1、Slitを100μm、グレーティングを1800gr/mm、対物レンズを100倍とした。測定はDuoscanモードを使用した。測定範囲は内側ポンプ電極22の底部電極部22bの上面のうち50μm×50μmの範囲とし、その範囲内で取得した平均強度からTM比を算出し、底部電極部22bのTM比とした。
【0099】
【0100】
[耐久試験前最大応力の測定]
実施例1~20,比較例1~4の各々について、上述した複数個のセンサ素子101の1個を用いて、後述する耐久試験(オートクレーブ試験および大気連続試験)を行う前の状態での内側ポンプ電極22の底部電極部22bの最大応力をセバスチャン試験により測定した。測定機としては島津製作所製のAG-X(100kN)を用いた。試験時には、まず、スペーサ層5を前後左右方向に沿って切断するようにセンサ素子101を切断して、センサ素子101の内部の内側ポンプ電極22の底部電極部22bの上面を露出させた。続いて、速度0.5mm/minで底部電極部22bを上方に引っ張り、底部電極部22bが第1固体電解質層4から剥離したときの荷重に基づいて底部電極部22bの最大応力を測定した。この最大応力が高いほど、上述したセンサ素子101の使用時の熱膨張に起因する応力による底部電極部22bの剥離が抑制されている(剥離耐性が高い)ことを意味する。実施例1~20,比較例1~4の各々についての耐久試験前最大応力[MPa]を表1に示す。
【0101】
[オートクレーブ試験]
実施例1~20,比較例1~4の各々について、上述した複数個のセンサ素子101の1個を用いてオートクレーブ試験を実施し、内側ポンプ電極22の底部電極部22bの剥離耐性を評価した。具体的には、実施例1~20,比較例1~4の各々について、センサ素子101と、3g程度の水を入れた内容積100ミリリットルの容器とをオートクレーブに入れ、TM変態が生じやすいとされる温度250℃で10時間経過させた。その後、センサ素子101をオートクレーブから取り出し、センサ素子101を切断して底部電極部22bを露出させ、底部電極部22bの剥離の有無や程度を確認した。そして、底部電極部22bが第1固体電解質層4から剥離していなかった場合に剥離耐性を優(A)と判定し、底部電極部22bの一部が第1固体電解質層4から剥離していた場合に剥離耐性を良(B)と判定し、底部電極部22bが完全に第1固体電解質層4から剥離していた場合に剥離耐性を不良(F)と判定した。このオートクレーブ試験後の剥離耐性の評価が高いほど、上述した底部電極部22bのジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する第1固体電解質層4からの剥離が抑制されていることを意味する。実施例1~20,比較例1~4の各々についてのオートクレーブ試験での剥離耐性の評価結果を表1に示す。
【0102】
[大気連続試験]
実施例1~20,比較例1~4の各々について、上述した複数個のセンサ素子101の1個を用いて大気連続試験を実施し、内側ポンプ電極22の底部電極部22bの剥離耐性を評価した。具体的には、まず、実施例1~20,比較例1~4の各々について、センサ素子101に制御部96を接続し、センサ素子101を大気雰囲気に晒した状態とした。この状態で、制御部96により上述したガスセンサ100の使用例と同じようにヒータ制御処理,調整用ポンプ制御処理および測定用ポンプ制御処理などを継続して行うことで、センサ素子101を1000時間駆動させた。その後、センサ素子101を切断して底部電極部22bを露出させ、底部電極部22bの剥離の有無や程度を確認した。そして、底部電極部22bが第1固体電解質層4から剥離していなかった場合に剥離耐性を優(A)と判定し、底部電極部22bの一部が第1固体電解質層4から剥離していた場合に剥離耐性を良(B)と判定し、底部電極部22bが完全に第1固体電解質層4から剥離していた場合に剥離耐性を不良(F)と判定した。大気連続試験では、底部電極部22bの周囲の酸素濃度が高いため、底部電極部22bの劣化(貴金属の酸化)が促進される。そのため、大気連続試験後の剥離耐性の評価が高いほど、底部電極部22b中の貴金属の酸化に起因する第1固体電解質層4からの剥離が抑制されていることを意味する。実施例1~20,比較例1~4の各々についての大気連続試験での剥離耐性の評価結果を表1に示す。
【0103】
表1から分かるように、底部電極部22bのジルコニアのTM比が1以上10以下且つ気孔率が3%以上65%以下である実施例1~20は、いずれも耐久試験前最大応力が50Mpa以上であり、オートクレーブ試験後の剥離耐性の評価が優(A)または良(B)であった。これに対して、底部電極部22bのTM比が1未満である比較例1および気孔率が65%超過である比較例3は、いずれも、耐久試験前最大応力が30Mpaという低い値であった。また、底部電極部22bのTM比が10超過である比較例2および気孔率が3%未満である比較例4は、いずれも、オートクレーブ試験後の剥離耐性の評価が不良(F)であった。これらの結果から、底部電極部22bのジルコニアのTM比が1以上且つ気孔率が65%以下であることで、応力に起因する底部電極部22bの第1固体電解質層4からの剥離を抑制できることが確認された。また、底部電極部22bのジルコニアのTM比が10以下且つ気孔率が3%以上であることで、底部電極部22bのジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する剥離を抑制できることが確認された。
【0104】
底部電極部22bのジルコニアのTM比が1以上10以下、気孔率が3%以上65%以下、且つ最大気孔径が5μm以上17μm以下である実施例1~18を比較すると、TM比が高いほど、および/または気孔率が低いほど、耐久試験前最大応力の値が高くなり応力に起因する剥離を抑制する効果が高くなる傾向があることが確認された。また、TM比が比較的高いことで耐久試験前最大応力の値が高くなっていると考えられる実施例11,12を除いて実施例1~10,13~18を比較すると、気孔率が50%以下であれば、TM比に関わらず(TM比が1~10のうち下限値1に近い値であっても)、耐久試験前最大応力の値が60MPa以上の比較的高い値になると考えられる。また、気孔率が40%以下であれば、TM比に関わらず(TM比が1~10のうち下限値1に近い値であっても)、耐久試験前最大応力の値が80MPa以上の比較的高い値になると考えられる。
【0105】
底部電極部22bのジルコニアのTM比が1以上10以下、気孔率が3%以上65%以下、厚さが5μm以上30μm以下、且つ面積が5mm2以上20mm2以下である実施例1~14,19,20のうち、底部電極部22bの最大気孔径が17μmを超えている実施例19は耐久試験前最大応力が50MPaであった。これに対し、最大気孔径が17μm以下である実施例1~14,20はいずれも耐久試験前最大応力が60MPa以上と比較的高かった。これらの結果から、底部電極部22bの最大気孔径が17μm以下であることで、応力に起因する底部電極部22bの剥離をより抑制できると考えられる。
【0106】
底部電極部22bのジルコニアのTM比が1以上10以下、気孔率が3%以上65%以下、厚さが5μm以上30μm以下、且つ面積が5mm2以上20mm2以下である実施例1~14,19,20のうち、底部電極部22bの最大気孔径が5μm未満である実施例20は、オートクレーブ試験後の剥離耐性の評価が良(B)であった。これに対し、最大気孔径が5μm以上である実施例1~14は、いずれもオートクレーブ試験後の剥離耐性の評価が優(A)であった。これらの結果から、底部電極部22bの最大気孔径が5μm以上であることで、底部電極部22bのジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する剥離をより抑制できると考えられる。なお、実施例19については、最大気孔径が5μm以上であるが、オートクレーブ試験後の剥離耐性の評価は良(B)であった。これは、実施例19は最大気孔径が17μmを超えており底部電極部22b自体の強度が実施例1~14よりも低いことが原因と考えられる。すなわち、底部電極部22bのTM変態による体積膨張によっても底部電極部22bには応力がかかるため、実施例19は底部電極部22b自体の強度が実施例1~14よりも低いことで、オートクレーブ試験後の剥離耐性の評価が良(B)となっていると考えられる。
【0107】
底部電極部22bのジルコニアのTM比が1以上10以下、気孔率が3%以上65%以下、最大気孔径が5μm以上17μm以下、且つ面積が5mm2以上20mm2以下である実施例1~16のうち、底部電極部22bの厚さが30μmを超えている実施例15は、オートクレーブ試験後の剥離耐性の評価が良(B)であった。これに対し、厚さが30μm以下である実施例1~14,16は、いずれもオートクレーブ試験後の剥離耐性の評価が優(A)であった。これらの結果から、底部電極部22bの厚さが30μm以下であることで、底部電極部22bのジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する剥離をより抑制できると考えられる。
【0108】
底部電極部22bのジルコニアのTM比が1以上10以下、気孔率が3%以上65%以下、最大気孔径が5μm以上17μm以下、且つ面積が5mm2以上20mm2以下である実施例1~16のうち、底部電極部22bの厚さが5μm未満である実施例16は、大気連続試験後の剥離耐性の評価が良(B)であった。これに対し、厚さが5μm以上である実施例1~15は、いずれも大気連続試験後の剥離耐性の評価が優(A)であった。これらの結果から、底部電極部22bの厚さが5μm以上であることで、底部電極部22b中の貴金属の酸化に起因する第1固体電解質層4からの剥離を抑制できると考えられる。
【0109】
底部電極部22bのジルコニアのTM比が1以上10以下、気孔率が3%以上65%以下、最大気孔径が5μm以上17μm以下、且つ厚さが5μm以上30μm以下である実施例1~14,17,18のうち、底部電極部22bの面積が20mm2を超えている実施例17は、オートクレーブ試験後の剥離耐性の評価が良(B)であった。これに対し、面積が20mm2以下である実施例1~14,18は、いずれもオートクレーブ試験後の剥離耐性の評価が優(A)であった。これらの結果から、底部電極部22bの面積が20mm2以下であることで、底部電極部22bのジルコニアのTM変態による体積膨張に起因する剥離をより抑制できると考えられる。
【0110】
底部電極部22bのジルコニアのTM比が1以上10以下、気孔率が3%以上65%以下、最大気孔径が5μm以上17μm以下、且つ厚さが5μm以上30μm以下である実施例1~14,17,18のうち、底部電極部22bの面積が5mm2未満である実施例18は、大気連続試験後の剥離耐性の評価が良(B)であった。これに対し、面積が5mm2以上である実施例1~14,17は、いずれも大気連続試験後の剥離耐性の評価が優(A)であった。これらの結果から、底部電極部22bの面積が5mm2以上であることで、底部電極部22b中の貴金属の酸化に起因する第1固体電解質層4からの剥離を抑制できると考えられる。
【0111】
なお、実施例19は実施例1~14と同じく底部電極部22bの厚さが5μm以上30μm以下且つ面積が5mm2以上20mm2以下であるが、大気連続試験後の剥離耐性の評価は良(B)となっている。これは、上述したとおり実施例19の底部電極部22bは最大気孔径が17μmを超えており底部電極部22b自体の強度が実施例1~14よりも低いことから、底部電極部22b中の貴金属の酸化によって内側ポンプ電極22が脆くなった場合に実施例1~14よりも実施例19では底部電極部22bが剥離しやすいためと考えられる。
【0112】
安定化剤としてイットリアを用いた実施例1~8,11~20と、安定化剤としてカルシアを用いた実施例9と、安定化剤としてマグネシアを用いた実施例10とのいずれにおいても、底部電極部22bのジルコニアのTM比が1以上10以下且つ気孔率が3%以上65%以下であることで、同様の剥離耐性が得られることが確認された。
【0113】
底部電極部22bと同じペーストを用いて形成した天井電極部22aについても、表1と同様の結果が得られた。
1 第1基板層、2 第2基板層、3 第3基板層、4 第1固体電解質層、5 スペーサ層、6 第2固体電解質層、10 ガス導入口、11 第1拡散律速部、12 緩衝空間、13 第2拡散律速部、20 第1内部空所、21 主ポンプセル、22 内側ポンプ電極、22a 天井電極部、22b 底部電極部、22c,22d 側部電極部、23 外側ポンプ電極、24 可変電源、30 第3拡散律速部、40 第2内部空所、41 測定用ポンプセル、42 基準電極、43 基準ガス導入空間、44 測定電極、46 可変電源、48 基準ガス導入層、49 基準ガス導入部、49a 入口部、50 補助ポンプセル、51 補助ポンプ電極、51a 天井電極部、51b 底部電極部、52 可変電源、60 第4拡散律速部、61 第3内部空所、70 ヒータ部、71 ヒータコネクタ電極、72 ヒータ、73 スルーホール、74 ヒータ絶縁層、75 圧力放散孔、76 ヒータ電源、80 主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、81 補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、82 測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、83 センサセル、95 制御装置、96 制御部、97 CPU、98 記憶部、100 ガスセンサ、101,201 センサ素子、102 素子本体